孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  “女人禁制”のヒンズー教聖地  女性参拝を認める最高裁判断に保守派反発で大混乱

2019-01-03 23:20:28 | 南アジア(インド)

(【2018年10月19日 AFP】 上半身裸・裸足で、衣服と靴は頭の上に・・・というのが、一般的な信者のサバリマラ寺院巡礼スタイルのようです。ただ、おカネを出せば、屈強な男性4人が担ぐ「かご」もあるようです。
2016年にアジャンタを観光したときは、貧乏人の私は徒歩で、背中が痛いというインド人ガイドはかごで・・・という経験もあります。)

IT産業では世界でもトップグループにあるインドは、一方では絶対的貧困が未だ多く存在する社会でもあります。

その経済格差にカースト制、名誉殺人・性暴力に象徴されるような女性差別、宗教対立なども絡んで、日本人にはなかなか理解しがたい部分も多々あります。

また、地域的に北と南ではだいぶ雰囲気が異なります。

個人的には、デリーなどの北インド、アジャンタ・エローラの中部を各1回、南部のケララやカニャークマリなど海外沿いと内陸のハンピを各1回と、合計でも4回観光しただけですが、北部の乾燥した風土や生き馬の目を抜くような厳しさに対し、南部は自然豊かで人間ものんびりしているような印象を受けました。

インドの宗教と言えば、ヒンズー教がメインになりますが、北部地域の観光で訪れる歴史的建造物はイスラム時代のものが多く、伝統的なヒンズー寺院は南部が中心になります。

そのヒンズー寺院も地域によって風習が異なるようで、南部海岸沿いの伝統的寺院では、入るときに男性は上半身裸になる習わし場所が多く、脱いだり着たりも面倒ですし、たるんだ生白い肌がいささか恥ずかしいように思えた記憶もあります。

そんな南部ケララ州にヒンズー教聖地「サバリマラ寺院」というところがあるそうです。

****サバリマラ寺院*****
インドケーララ州に存在するヒンドゥー教寺院。
シヴァの3番目の息子であるアイヤッパが主神の寺院。このためサバリマラ・アイヤッパ寺院とも言う。

一般には、4月および11月から1月にかけ例祭の期間のみ公開され、この期間は300万人から400万人といった規模の巡礼者が詰めかける。

入場者のカースト制限は無いが、10歳から50歳の女性は入場が制限を受ける。なお2018年9月に最高裁判所は入場禁止を覆す判決が出されている。【ウィキペディア】
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上記説明にもある女人規制を覆す最高裁判断に伝統を重視する信者が激しく反発、女性の立ち入りを実力を阻止する形で大きな混乱となっているようです。

****インドのヒンズー教寺院に女性立ち入り、暴動発生で1人死亡****
インド南部ケララ州で2日未明、ヒンズー教の聖地サバリマラ寺院に警察の護衛を受けた女性2人が立ち入ったことから、州内各地で暴動が発生した。警察によると3日までに1人が死亡、少なくとも15人が負傷した。
 
サバリマラ寺院では「月経年齢」とされる10〜50歳の女性の寺院内への立ち入りが禁じられてきたが、インド最高裁は昨年9月、「女性が礼拝する権利を侵害している」として禁止を覆す判決を下した。

ケララ州では以後、参拝しようとする女性活動家らと女性の参拝を阻止しようとする伝統主義者らの対立が激化している。
 
女性活動家らが何度か寺院内に立ち入ろうとしたものの、反対する信者の男女の猛烈な抵抗に遭い、目的を果たせずにいた。だが2日未明、女性2人が警察官に付き添われ、ついに寺院内に足を踏み入れた。
 
これを受けケララ州では2日、対立する賛成派と反対派の衝突が相次ぎ、警察が催涙ガスや閃光発音筒、放水などで応酬する騒ぎとなった。州内では3日も緊張した状況が続いている。
 
最高裁は今月22日、女性立ち入り禁止撤廃の判決への異議申し立てについて審理を始める予定。 【1月3日 AFP】
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インドの最近の政治状況は、ヒンズー至上主義政党の与党・人民党が直近の州議会選挙に全敗し、モディ首相・人民党はヒンズー重視の宗教色を前面に打ち出す形で態勢立て直しを図っています。
(2018年12月14日ブログ“インド  総選挙前哨戦の州議会選挙で与党敗北 宗教を前面に押し出して態勢立て直し”)

そうしたヒンズー重視の人民党は、伝統を覆す最高裁判断に反対し、女性の立ち入りを阻止する側にあります。
一方、南部は共産党が強く、ケララ州も共産党政府ですが、州政府は最高裁判断を支持して女性の立ち入りを容認する側にあり、立ち入りを求める女性を後押ししています。(州警察も女性を擁護する側にあるようです)

最高裁判断が示されて以降も、伝統重視の保守派は実力で女性の立ち入りを阻止してきました。

****女性の参拝解禁、信者ら数千人が妨害 警察と衝突 インド****
インド南部のケララ州にあるサバリマラ寺院で、女性の立ち入りが解禁されたことに信者らが反発し、数千人が立ちふさがって警察などと衝突した。結局、女性は1人も参拝できなかった。

サバリマラ寺院は17日から、数百年に及ぶ伝統としてきた女人禁制を解除した。しかしこれに抗議する信者らが寺院周辺の道路に集まり、寺院への入り口を集団でふさいで、10~50歳の女性の立ち入りを妨害した。

同寺院を巡っては、同国の最高裁が先月、月経期の女性の参拝を禁じていた伝統を覆す判決を言い渡した。これに対し、女性が立ち入れば神聖な寺がけがされると信じる信者らが反発を強め、16日には寺から5キロの場所にある拠点に集結。検問を築いてバスの乗客をチェックし、女性を阻止した。

州警察は17日午前、参拝しようとする女性の身の安全を守るため、警官1300人を配備した。ところがその日午後までにはさらに数千人が抗議に詰めかけ、警官や警察車両を襲撃するなどして、警官隊と衝突した。

この様子を中継しようとしたインドの放送局の女性記者は嫌がらせや暴行を受け、女性記者を乗せたCNN系列局ニュース18の車も襲撃されて退避した。

うした混乱の中で参拝しようとした女性は1人だけだった。はるばる1000キロを旅して参拝に訪れた女性は、警官に守られながら、子ども2人を連れて検問の通過を試みた。

しかし警察によると、女性は信者らから罵倒されたり暴言を浴びせられたりして、結局は引き返すことを決めたという。

信者らの抗議については、最高裁判決に反発する同州の与党インド人民党も支持を表明している。【2018年10月19日 CNN】
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一方、立ち入りを求める女性の側の運動も大きくなっていました。

****全長620キロ、インドで女性たちが人間の鎖 寺院参拝問題めぐり抗議****
インド南部ケララ州で1日、月経年齢の女性によるヒンズー教のサバリマラ寺院への立ち入り禁止を無効とした最高裁判決を支持する女性たちのデモが行われた。報道や支持者らの話によると、大勢の女性が全長620キロに及ぶ人間の鎖をつくった。

「女性の壁(Women's Wall)」と名づけられたデモは、ケララ州の共産党政府の支持も受けて実施された。
 
ヒンズー教の聖地であるサバリマラ寺院では、月経年齢とされる10~50歳の女性の立ち入りが伝統的に禁止されてきたが、最高裁が昨年9月、禁止を覆す判決を下した。以後、禁止の反対派、支持派の双方がデモを繰り返している。
 
インドのPTI通信によると、デモには政府職員らが参加したほか、学校が半休となり、大学も試験開始時間を遅らせたため、生徒や学生も参加できたという。
 
政府はデモ開始に先立ち、500万人規模の女性が参加するとの見通しを示していた。
 
最高裁の判決を受けて、これまでに複数の女性が丘の上にあるサバリマラ寺院に参拝しようとしたが、判決に反対する活動家によって力ずくで阻まれている。警察と女性参拝禁止の支持派の衝突も起きており、これまでに2000人以上の逮捕者が出ている。【1月2日 AFP】
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“全長620キロに及ぶ人間の鎖”・・・・本当でしょうか?
1mに一人が立つとして、620㎞の鎖のためには62万人が手をつなぐ必要がありますが・・・・
“500万人規模の女性が参加する”ということであれば、それも可能ではあります。

“全長620キロに及ぶ人間の鎖”もすごいですが、“500万人規模の女性が参加する”というのも、日本的常識を超えています。

そんなこんなの混乱のなかでの、冒頭【1月3日 AFP】記事の展開となっています。
混乱はしばらく続きそうです。

日本でも“女人禁制”的な伝統・因習は多々あり、大相撲でも問題になりました。もっと重要な案件として、皇位の問題もあります。

個人的には非常に単純に考えています。インドのサバリマラ寺院のケースもそうですが、生理のある女性を“穢れ”とみなすところから始まっているような“女人禁制”的な伝統・因習は、現代的価値観に沿って改めるべきでしょう。

伝統とはいっても、時代に即した形で守っていくべきです。

話をサバリマラ寺院に戻すと、そんな聖地なら私も一度行ってみたい・・・とも思ったのですが(ケララ州はヤシと水路にあふれた風光明媚な土地で、伝統舞踊などの見どころ・文化的資産も多々ある地域です)、外国人・異教徒は入れるのでしょうか?

多くの記事・情報で“10~50歳の女性の立ち入り禁止”とはありますが、異教徒・外国人には触れられていませんので、入れないことはないのかも。

ただ、寺院に入れるのは300万人から400万人といった規模の巡礼者が詰めかける例祭のときのみで、上半身裸で裸足の信者たちが何時間もかけて、聖歌を詠唱しながら狭い山道をのぼっていくということで、やはり観光というより修行・苦行に近いものがあります。

そんな中に日本人の白い肌が混じったら、目立つことこの上なく、さすがにちょっと・・・いうところでしょうか。

ほぼ全世界をカバーしている旅行記サイトを検索しても、サバリマラ寺院に関する旅行記は見つかりません。
(スピリチュアル専門のインド雑貨店のスタッフブログ【http://blog.sitarama.jp/?p=3123】にサバリマラ寺院に関する記述・写真があります。ただ、巡礼者の写真はありますが、ご本人が寺院まで入られたのかは定かではありません)

なお、例祭時には大変な混雑となり、2011年1月には帰り道で信者らが将棋倒しになり102人が死亡する事故も起きています。

やっぱり、ちょっと無理そうですね。まあ、事態が落ち着いたら、現地旅行社に一応聞くだけ聞いてみましょう。


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