孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ・マドゥロ政権への原油取引制裁を避けるアメリカ 北朝鮮を支える中国と同じでは?

2017-08-08 21:54:17 | ラテンアメリカ

(ベネズエラ産原油に依存しているシェブロンのフロリダ州にあるガソリンスタンド【8月5日 SankeiBiz】)

憲法改正で野党勢力を無力化し、時間を稼ぐマドゥロ政権
混迷する南米の石油大国ベネズエラ・マドゥロ政権の情勢については、ひと月前の7月10日ブログ“ベネズエラ 末期症状的混乱のなかで拘禁野党指導者が自宅へ 増大するデフォルトの危機”でも取りあげました。

経済破綻・強権的政治で国内外から強い批判を浴び、政権への抗議活動が継続、120人超とも言われる犠牲者を出す事態になっていますが、攻める野党・反政府勢力側も決め手を欠くなかで、制憲議会選挙強行・野党主導の国会の無効化、反大統領派の急先鋒のオルテガ検事総解任など、マドゥロ大統領ペースの強引な政治が続いています。

****<ベネズエラ>制憲議会を招集 野党が大勢の国会廃止決定へ****
ベネズエラで憲法改正の草案作りを担う制憲議会が4日、招集された。三権を超越する最高権力機関となる制憲議会は5日から審議を開始し、野党連合が大勢を占める国会を廃止する決定を下すとみられる。与党派だけで構成される議会の発足に伴い、マドゥロ大統領が権限を掌握する独裁体制が確立した。
 
(中略)制憲議会選には野党連合が選挙の正当性を認めず、立候補者を擁立しなかった。
 
国会の野党議員は当初、議事堂を制憲議会には明け渡さないと宣言していたが、実際には全く抵抗せず、混乱は起きなかった。議事堂周辺は、バスで動員された政権支持派の労働組合員ら1万人以上で埋め尽くされ、祝福の歓声に包まれた。
 
またカラカス市内の5カ所で反政府デモがあったが、いずれも参加者は数百人程度にとどまった。デモ隊は議事堂へ向かって行進を試みたが、即座に治安部隊に催涙ガスで制圧され、散会した。
 
制憲議会選の正当性を巡っては、選管発表の投票総数が水増しされた疑惑が浮上。オルテガ検事総長が3日、議会発足の差し止めを裁判所に請求したが、裁判所はこの訴えを無視している。
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****制憲議会、検事総長を解任=反大統領派の急先鋒―ベネズエラ****
反米左派のマドゥロ大統領派で占められている南米ベネズエラの最高機関、制憲議会は5日、反大統領派の急先鋒(せんぽう)のオルテガ検事総長を「深刻な職権乱用があった」などとして解任した。同氏は最高裁の求めで裁判にかけられる。
 
AFP通信によると、オルテガ氏は「憲法と法に反している。私はあきらめない。ベネズエラは野蛮、違法、飢餓、闇と死を恐れない」と反発。野党が多数を占める国会のボルヘス議長は「(国の機関が)完全に人質に取られた」と指摘した。
 
一方、制憲議会のカベジョ議員は「個人攻撃や政治的リンチではなく、法を執行しただけ」などとしている。【8月6日 時事】
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国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)は、ベネズエラの実質経済成長率を2015年はマイナス7.1%、2016年はマイナス7%と予測しています。

マドゥロ政権は、食糧不足で餓死者も出ており、周辺国に難民が流出するという事態にあっても、食料配給など国民向け予算を切り詰め、国債や国営石油会社の社債償還に原油収入を充てることで決定的なデフォルト(債務不履行)を避けて時間を稼ぎ、憲法改正で野党勢力を無力化し、外貨準備を切り崩しながら原油価格の上昇にかけるというシナリオを描いていると見られています。【8月4日 「アセットアライブ投資レポート」より】

既得権益を政権と共有する軍部
動向が注目されている軍部については、一部軍人によると見られる小規模な反乱はありましたが、基本的には既得権益を政権と共有しており、(少なくとも軍上層部は)政権支持の立場にあると思われます。

****ベネズエラ、軍の小規模な反乱鎮圧 制憲議会は検事総長解任****
ベネズエラ当局は6日、同国バレンシア市近郊にある軍の基地で発生した小規模な反乱を鎮圧し、マドゥロ政権への「テロ攻撃」を企てたとして7人を拘束した。

ソーシャルメディアには、4日の制憲議会発足に反対して「決起」した旨を軍服の集団が説明する動画が6日に投稿されている。

国防省の発表では反乱グループの一部は武器を携帯して基地から逃走し、治安部隊が徹底的に捜索しているという。

バレンシアの住民の話によると、反乱を支持する数百人の人々が街頭に繰り出した。そのほとんどは催涙ガスで追い払われたが、マドゥロ大統領の強権的な政治に対する国民の反発が広がっている様子が浮き彫りになった。

5日には、マドゥロ氏への批判を続けてきたルイサ・オルテガ検事総長を制憲議会が解任し、オルテガ氏に出廷を命令。制憲議会の権限が反政権勢力の締め出しに使われるのではないかとの懸念が現実化しつつある。

今後の政治情勢で鍵を握るのは軍部の動向とみられており、野党は軍首脳部に対してマドゥロ政権とたもとを分かつよう再三呼び掛けている。

しかし、軍首脳部は政府への忠誠を維持。多くの軍関係者が政府との旨味のある契約や汚職、密輸などに関わっており、野党政権になって糾弾される事態を懸念し、マドゥロ氏が大統領の座にとどまることを望んていると指摘されている。

ただ、デモ鎮圧に実際に駆り出され、薄給に甘んじている軍の下級将校の間では、現状への不満が高まりつつある。【8月7日 ロイター】
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批判を強める中南米諸国 アメリカも金融制裁実施
中南米諸国の大勢はマドゥロ政権を強く批判する流れにありますが、決定打とはなっていません。

****ベネズエラを資格停止=メルコスル****
ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ベネズエラで構成する南米南部共同市場(メルコスル)は5日、サンパウロで開いた外相会議で、マドゥロ大統領が独裁体制を強化しているベネズエラの無期限の加盟資格停止を決めた。
 
ブラジルのヌネス外相は記者団に対し「われわれは、死や抑圧はもうたくさんだ、今すぐやめろと言っている。国民を苦しめてはならない」と強調した。【8月6日 時事】 
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中南米ではキューバ、ニカラグア、ボリビアはマドゥロ大統領を支持しています。中南米以外ではロシアが支持を続けています。

7月30日の制憲議会選挙強行を受けて、アメリカ・トランプ政権は7月31日、マドゥロ大統領を制裁対象に指定したと発表しています。

****米、ベネズエラ大統領に金融制裁「民意軽視する独裁者****
南米ベネズエラのマドゥロ大統領が新憲法制定のための制憲議会選挙を強行したのを受け、トランプ米政権は7月31日、マドゥロ氏に対する金融制裁を発表した。

米財務省は、マドゥロ氏が幅広い人権侵害に関わったとしたうえで、30日の選挙について「ベネズエラの憲法と民主的な秩序の決裂を示している」と非難した。(中略)

米政府は「ベネズエラは世界有数の原油の埋蔵量があるにもかかわらず、政府が広範な汚職に関わり、数千万人の国民が飢えている」とも指摘。米メディアによると、米政府はベネズエラとの原油取引の禁止などの追加制裁も検討しているという。(中略)
 
ロイター通信によると、米国の制裁を受けてマドゥロ氏は「帝国の命令は受け入れない。ドナルド・トランプよ、制裁を続けるがいい」と反論。「米国では、対立候補より300万票少なくても大統領になることができる。何と素晴らしい民主主義だ」として、昨年の米大統領選でトランプ氏がクリントン元国務長官より得票総数が少なかったことを引き合いに出して皮肉った。【8月1日 朝日】
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原油取引制裁で返り血を浴びることを避けるアメリカ
更に、追加制裁の検討も報じられています。ただし、依然、石油は制裁対象からはずれるようです。

****トランプ政権、ベネズエラ当局者への追加制裁準備=米政府筋****
複数の米政府関係者によると、制憲議会選を強行したベネズエラのマドゥロ大統領に近い同国当局者に対して、トランプ米政権は追加制裁を準備している。トランプ政権は既にベネズエラの当局者13人とマドゥロ大統領に制裁を科しているが、制裁対象をさらに広げることになる。

新たな制裁は、米国に保有する資産の凍結や米国への渡航禁止のほか、米国人が制裁対象の人物とのビジネス上の取引をすることを禁じる内容。米政府筋は、ロイターに、早ければ今週中に発動すると述べた。

米政府筋によると、新たな制裁の対象についてはまだ最終決定しておらず、発表の日程も未定。かなりの数が対象になる見通しだという。

米政府筋によると、新たな制裁でも、ベネズエラの基幹産業である石油セクターは依然、対象外となる見込み。米政府当局者は先月末、ベネズエラの石油セクターを対象とした制裁を検討していると話していた。

関係者の1人は、石油セクターをまだ制裁対象にしない理由として「マドゥロ大統領の行動が続いた場合に新たな措置を講じる余地を残しておきたい。一度にすべての措置をとるのは賢明ではない」と語った。【8月8日 ロイター】
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周知のように、ベネズエラの死命を制するのは輸出収入のほとんど(96%)を占める石油です。
そして最大の石油輸出先が、チャベス前大統領以来“犬猿の仲”でもあるアメリカです。

アメリカが原油取引を制裁対象にすれば、ベネズエラの命運は尽きます。
そのため、石油を対象にした制裁が以前から“検討のテーブル”にはあがっていますが、いまだ実施には至らないようです。

“一度にすべての措置をとるのは賢明ではない”とのことですが、いささか“詭弁”の感も。
石油制裁を行わないのは、製油所の生産落ち込みやガソリン価格急騰など、アメリカにとっても“不都合”な面があるからにほかなりません。

****米石油大手、影響100億ドルも ベネズエラへの制裁で原油輸入禁止が浮上 ****
トランプ米政権による南米ベネズエラに対する経済制裁が、米石油産業に影響を及ぼし始めている。米政権が主要な原油調達先であるベネズエラからの原油輸入を禁止する可能性が浮上しているからだ。
製油所の生産落ち込みやガソリン価格急騰など、米経済全体への影響が懸念されている。
 
米政府は7月31日、ベネズエラのマドゥロ大統領が米国内に所有する全ての資産を凍結した。同大統領が新憲法制定のための制憲議会選挙を強行したことを受けた措置だ。
 
トランプ政権は追加制裁を検討しているとされるが、関係者によれば原油輸入制限の是非については意見が分かれているという。

というのも、ベネズエラは米国にとって第3位の重要な原油調達先だからだ。米国は昨年だけでも2億7000万バレルを超える100億ドル(約1兆1009億円)相当の原油をベネズエラから輸入した。これは約50億ガロン(約1892万キロリットル)のガソリンが製造できる量にあたる。
 
ベネズエラ産原油に依存しているシェブロンなどの米石油大手にとって禁輸措置は死活問題だ。ブルームバーグが集計した米国税関のデータによれば、米ミシシッピ州パスカグーラにあるシェブロンの製油所では、原油の43%がベネズエラからの輸入だという。
 
打撃を受けるのは、製油所だけではない。ガソリン価格も少なくとも一時的に高騰するとみられている。かつてガソリン価格の上昇に関してオバマ前米大統領を執拗(しつよう)に攻撃していたトランプ氏にとって、これは慎重な対応を迫られる問題だ。
 
一方、ベネズエラのビジェガス通信情報相は2日のインタビューで「原油輸入制裁は、わが国にとって恩恵をもたらすだろう。石油価格が米国や欧州で高騰すれば、マドゥロ政権も安泰だ」と強気の姿勢を崩さない。
 
シェブロンなどの企業は、トランプ政権に対してロビー活動を始めた。米燃料石油化学製造者協会(AFPM)も7月6日付の書簡で「(石油制裁は)米国の製油所、消費者、そして米国の経済に重大な悪影響を及ぼす可能性がある」との主張を展開した。

米国が禁輸措置に踏み切った場合、戦略石油備蓄(SPR)から備蓄石油を放出することで、石油価格の急激な上昇を抑制する可能性はある。だが、あくまで短期的な解決策にすぎないなど懐疑的な見方が広がっている。【8月5日 SankeiBiz】
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****原油市場に現れた2つの地政学リスク****
・・・・ベネズエラにとって最大の輸出先である米国市場(全輸出に占めるシェアは40%弱)を失うことは致命的な打撃となるが、米国もベネズエラ産原油の輸入を停止すれば、「返り血」を浴びることになるからだ。
 
ベネズエラ国営石油会社(PDVSA)の子会社であるシトゴは、米国内に3つの製油所と約6000軒のガソリンスタンドを有している。

つまり、ベネズエラ産原油がガソリン供給に与える影響はきわめて大きく、米国のガソリン価格が急騰するリスクがある。

米国政府としては、ベネズエラが原油を輸出する際に品質を向上させるために充当している米国産原油の輸出(日量2万バレル弱)を停止するのが関の山ではないだろうか。【8月4日 藤和彦氏 JB Press】
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核・ミサイル開発を続ける北朝鮮の死命を制する石油輸出を中国が続けていることについては、とかくの議論があります。結局は、自国の都合を優先させているということでしょう。

その意味では、“民意を無視する独裁者”(7月31日、ムニューシン米財務長官)を結果的に延命させているアメリカの対応も、中国と同じものに思われます。

デフォルトの可能性については、“4月に政府や国営石油会社の30億ドルにのぼる債券の償還をどうにか乗り切りましたが、次のヤマ場は10月です。国債や国営石油会社の社債を日本やアメリカの大手証券が購入する動きがみられるものの、予断を許さない状況に変わりはなく、デフォルトは時間の問題と市場ではみられています。”【8月6日 ロイター】とも

国営石油会社がデフォルトを起こすと、ロシア・中国の支援も期待できなくなります。

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ベネズエラ全体の外貨準備が100億ドルを割り込んでしまったことから、PDVSA(ベネズエラ国営石油会社)が外貨不足により今後の資金返済に窮し、デフォルトを起こしかねない状況である。

PDVSAは多額の融資の見返りに原油を無償で供給する契約(Loan for Oil)をロシアと中国との間で結んでいる。PDVSAがデフォルトを起こせば両国に大きな損失が生じてしまうことは必至である。【8月4日 藤和彦氏 JB Press】
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こうした事態で、最大の資金的支援国ともなっている中国がどこまで“沈む”マドゥロ政権を支えるのかも注目されます。

日本を含めた世界経済の視点では、アメリカによる原油取引制裁やベネズエラのデフォルトは原油市場における価格上昇(1バレルあたり7ドルの上昇とも)という影響を受けます。

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