(チュニジア南東部ザジルスの港で、「レイシスト反対!」と大書した横断幕を掲げる漁師ら(2017年8月6日撮影)。【8月7日 AFP】)
【依然高水準の難民流入】
紛争や貧困から逃れて欧州へ流れ込む難民は、依然として高水準にとどまっています。
****難民申請、小幅減の164万人=16年、シリア内戦で高水準―OECD****
経済協力開発機構(OECD、本部パリ)が29日発表した移民や難民に関する報告書「国際移民アウトルック2017」によると、日米欧などOECD加盟35カ国に提出された新規難民申請の合計は前年から1.3%減の164万人となり、過去最高水準を維持した。
中東やアフリカから紛争や貧困を逃れて大量の難民が欧州に向かう現状を反映し、全体の7割超となる約120万人を欧州が占めた。難民申請が最も多かったのはドイツで、前年比6割増の72万人だった。このうち出身国の内訳は、内戦が続くシリアが約27万人と3割超に達している。【6月29日 時事】
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難民全体でみると、こうした日米欧で難民申請する者は、全体のごく一部にすぎません。
****難民ら世界で6560万人=最多更新、シリア深刻―国連****
国連難民高等弁務官事務所は19日、紛争や迫害により家を追われた人の数が2016年末時点で世界で6560万人に上り、過去最多になったと発表した。1年前と比べ30万人増加。近年は毎年、最多を更新している。
国外に逃れた難民数も2250万人で過去最多。長引くシリア内戦が最大の要因になっており、550万人の難民を生んでいる。戦闘が続く南スーダンからの難民数は140万人に達し、情勢悪化により急増している。
このほか、世界全体で280万人が難民申請中。また、自国内で避難する「国内避難民」は4030万人に上り、シリアやイラク、コロンビアが特に深刻になっている。
同事務所は、世界で避難を余儀なくされている6560万人は英国の全人口より多いと指摘。グランディ国連難民高等弁務官は「あってはならない数だ。危機の解決に向けた結束の必要性がこれまで以上に強まっている」と訴えた。【6月19日 時事】
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シリア・イラクでの対ISの戦闘がモスル・ラッカなどで山場を超えつつありますので、この地での戦闘が落ち着けば、難民の数も低水準に落ち着くのでは・・・との期待もあります。
ただ、もともと、欧州を目指す人々の大半は戦闘など政治的理由ではなく、よりよい就業機会を求める経済的理由だとも言われていますので、現在の経済格差、アフリカ諸国での貧困が続く限り、欧州における人の移動の圧力はなくならないとも思われます。
【頻発する地中海ルートの悲劇】
北アフリカから欧州を目指す人々が利用しているのが地中海を渡るルートですが、国際移住機関(IOM)によると、今年1月〜6月29日に地中海経由で欧州に渡った移民や難民は9万5千人余り。途中で死亡したのは2169人に上るそうです。
欧州への移民や難民は、密航業者の手配した船で出港しますが、船は老朽化しているうえに定員超過で、転覆が相次いでいます。【7月1日 朝日より】
地中海で移民船沈没、126人死亡 「密航業者がエンジン盗んだ」【6月20日 AFP】
難民乗せたゴムボート転覆、60人不明 リビア沖【7月1日 朝日】
出航地のリビアに達するまでに、サハラ砂漠横断で犠牲になる人々も多数います。
****サハラ砂漠に水・食糧なしで放置、移民67人を救助 ニジェール****
西アフリカ・ニジェール北部のサハラ砂漠に、密航業者によって水や食糧を与えられずに放置された西アフリカ出身の移民67人が当局によって救助された。人道支援の関係筋が7日、AFPに明らかにした。うち1人は後に死亡したという。
関係筋の話によると、サハラ砂漠の中に位置するセグエディーネ付近で今月5日、「瀕死(ひんし)の移民67人が防衛・治安部隊によって救出された」という。
移民らはサハラ砂漠の端に位置するアガデスを3台の車に分乗して出発した後、密航業者から何も与えられずに砂漠に放置されたという。
アガデスはアフリカにおける密航や人身売買の中心地となっており、欧州を目指す移民希望者らを密航業者が勧誘しているという。移民らが救助されたセグエディーネはアガデスの北西635キロに位置している。【7月10日 AFP】
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【イタリア リビア領海での難民船対策 救助団体の活動も制限】
無理な地中海横断による難民・移民の犠牲者を防ぎ、欧州への圧力を緩和すべく、難民らの玄関口ともなっているイタリアは、出航地であるリビア領海で密航業者を封じ込む対策に乗り出しています。
そのためには当然に主権国リビアとの協力が必要になりますが、いつも言うように、リビア情勢の混乱が対応を難しくもしています。
また、NGOの難民救助活動への制限も視野に入っているとも。
****伊、海軍船艇をリビア領海に派遣 密航船対策、移民流入抑制急ぐ****
イタリア政府は2日、北アフリカから地中海を渡って欧州を目指す移民や難民の密航船対策のため、海軍船艇をリビア領海内に派遣した。
非政府組織(NGO)による救助活動への制限も検討しており、とどまらない移民流入の抑制に躍起になっている。
海軍投入はリビア側の要請を受けた措置で、現地で密航船対策にあたる同国沿岸警備隊の支援が目的。伊政府の計画を上下両院が2日承認し、海軍の哨戒船1隻が同日、リビア領海に入った。さらに今後、船艇1隻が派遣される見通し。
政治が不安定なリビアは移民船の出港拠点となり、イタリアへの流入が近年増加。今年もすでに昨年並みの約9万5千人に上る。
欧州連合(EU)は公海上で取り締まり作戦を展開するが、効果が限定的なため、沿岸部の対策強化を流入抑制に向けた「転換点」(ジェンティローニ伊首相)としたい考えだ。
ただ、艦艇6隻の派遣を検討したとされる伊側の当初計画も、リビア側で主権侵害への懸念が上がり、規模が縮小された。
伊側は沿岸部で密航船を送り戻すことが抑止効果となると期待するが、人権団体は劣悪な環境に移民らを戻すことになると批判している。
伊政府はNGO約10団体が独自の船舶を使って実施する移民の救助活動への対応も模索する。密航を促しかねないとの懸念があるためで、海上での灯火禁止や警官の乗船などに関する「行動規範」をまとめ、受け入れない場合は同国の港の使用を認めない姿勢も示す。
伊当局は2日、密航業者の船から移民を直接受け入れた疑いでNGOの船1隻も捜査した。一方、多くのNGOは人命救助に支障があるとして規範を拒否しており、十分な協力が得られるか不透明な状況だ。【8月3日 産経】
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“密航業者の船から移民を直接受け入れた疑いでNGOの船1隻も捜査”という件については、以下のように報じられています。
****難民救助の船を密航ほう助容疑で拿捕 イタリア****
アフリカからヨーロッパを目指して地中海を渡る難民や移民を送り出している密航業者と連絡を取り合い、密航を助けたとして、イタリアの検察は難民や移民の救助を行うNGOの船を拿捕(だほ)したことを明らかにしました。
地中海ではアフリカからヨーロッパを目指す難民や移民を乗せたボートが沈むなどして死亡したり行方不明になったりする人が相次ぎ、複数のNGOが船で救助活動を行っています。
こうした中、イタリア・シチリア島にある都市、トラパニの検察は2日、密航を助けたとして、救助活動にあたってきたドイツのNGOの船を拿捕し、船内を捜索して乗組員に事情を聴いたことを明らかにしました。
検察官は会見で、この船の乗組員が難民や移民を送り出している密航業者と去年、3回にわたって連絡を取った証拠があるとして「不法移民を助ける犯罪行為だ」と非難しました。その一方で、検察官個人としてはNGOが連絡をとった理由は難民や移民の命を救うための人道的なものだと確信しているとしています。
拿捕された船を所有するドイツのNGOは、インターネット上に出した声明で船が捜索を受けていることを認め「命を救うことが最優先であり、現在活動ができないことをとても残念に感じている」とコメントしています。【8月4日 NHK】
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「不法移民を助ける犯罪行為だ」と非難する一方で、検察官個人としては人道的なものだと確信している・・・・この問題の難しさを反映した“葛藤”です。
【救助団体の船を追い回し、救助活動を妨害する右翼団体】
そうした“葛藤”を感じない極右団体は、NGOの船を追い回して、移民・難民の救助活動を妨害しています。
****極右の船が人道支援船を追跡、移民・難民救助の妨害が狙いか 地中海****
地中海で、極右団体「ディフェンド・ヨーロッパ」がチャーターした船がNGOの人道支援船「アクエリアス号」を追跡している。
移民・難民の救助活動の妨害が狙いとみられる。(後略)8月6日 AFP】
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こうした極右団体の行動に対し、チュニジア漁民からの反発が起きているとも。
****チュニジア漁師、反移民活動家の船を入港させず 「レイシストは来るな」****
チュニジアの沿岸都市ザジルスの港で6日、北アフリカから欧州へ向かう移民船を妨害しようとする極右の反移民活動家の船の入港を、地元の漁民らが阻止した。港の関係者は「人種差別主義者を寄港させるなどあり得ない」と語っている。
漁民らが入港を阻んだのは、欧州の過激派グループ「ジェネレーション・アイデンティティー」がチャーターした船「C-Star」。
移民船の沈没が相次ぎ、多数の犠牲者が出ている地中海の海域で調査・救出活動をしているフランスのNGO「SOSメディテラネ」の船「アクエリアス号」を一時的に追跡するなどしていた。
全長40メートルのC-Starは今月1日にキプロスを出港。5日にはリビア沖を航行し、ザジルスに向かっていた。
物資や燃料を調達するためチュニジアに寄港する必要があるが、ザジルスで漁師や人権活動家らの予期せぬ強い抗議に遭い、港に入れなかったもようだ。
そのためチュニジア沖を北上して、7日にチュニジアのスファックスもしくはガベスに寄港しようとしている。
地元漁民団体の幹部はAFPの取材に「やつらが来たら燃料の給油口を閉める。地中海で起こっていることに関して、自分たちができる最低限のことだ」と説明。「イスラム教徒やアフリカ人が死んでいるんだ」と語気を強めた。
2014年以降に密航業者が手配した船から救助され、イタリアへ移送されたアフリカや中東、南アジア出身の移民らは60万人余りに達し、欧州へ渡る途上に船の沈没などで死亡した人も1万人を超える。
こうした状況を受けて、個人や慈善団体の支援を受ける船も加わり、イタリア沿岸警備隊主導の国際的な捜索・救助活動が続けられている。【8月7日 AFP】
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【フランス 渡航前のリビアでの難民申請手続を検討】
イタリアが進めるリビア領海での密航船取締りのほか、フランス・マクロン大統領は、リビアで難民審査を行うことで、難民申請が認められないような人々の“無駄”な渡航を阻止する対策を表明しています。
****マクロン仏大統領、リビアに難民手続き施設を設置する意向表明****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は27日、欧州への渡航を試みる難民申請者のために手続きを行う施設をリビアに設置する考えを明らかにした。
リビアは、密航業者の粗悪なボートで地中海を渡って欧州に向かうアフリカ人移民たちの主要な出航地となっている。
マクロン氏は、「このアイデアは、難民資格がないにもかかわらず、人びとが常軌を逸した危険を冒すのを回避するための拠点づくりを意図している」と説明。今夏中にも設置したい意向を明らかにした。
マクロン氏は今週、リビアの二大対立勢力がパリで行った協議を仲介し、停戦と選挙実施に向けた取り組みを進める合意にこぎ着けた。
同氏は今回の合意により、5年におよぶ内戦がもたらしたリビアの混乱に終止符を打ち、移民の流出を食い止めるようになることを望むと語った。
国連(UN)傘下の国際移住機関(IOM)によると、今年に入って10万人以上がリビアから船で地中海を渡ろうと試み、2300人以上が水死したという。【7月27日 AFP】
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イタリアの対策にしても、フランスの対策にしても、リビアの政治混乱が収まることが前提条件となりますし、混乱が収まればリビア自身による密航業者対策も進みます。
更に言えば、シリア・イラクなど紛争地の安定だけでなく、サハラ周辺諸国の経済的改善の必要もあります。
難民・移民に対する対応については意見が分かれる問題ですが、私個人としては、国境線を盾にして「ここは我々の国だ。お前たちの来るところではない」という対応は、自分自身の品格を損なうものだと考えており、許容できる範囲で受け入れる最大限の努力を行うべきだと考えています。
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