孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  土地の請負経営権の取引を認める・・・行き着く先は? GDP四半期成長率1ケタ台へ

2008-10-21 21:06:46 | 国際情勢

(中国・深セン 路上にチョークで身の上話を書いて物乞いする老人 いかにも中国的と感心すべきか 中国・社会主義の厳しい現実を嘆くべきか “flickr”より
By trey.menefee
http://www.flickr.com/photos/trey333/293027916/)

【農民の土地請負経営権(使用権)の自由取引を促進】
「2020年までに農民の1人当たりの収入を08年の2倍にする」ことを目標に掲げた中国共産党第17期中央委員会第3回総会(3中総会)については、胡錦濤政権が農業規模の拡大・農業所得水準の底上げを狙って農地使用権の流動化を認める方向で検討していたこと、そうしたことが会議で決定されたようではあるが、12日に発表されたコミュニケには具体的には記されていなかったこと・・・などは13日のブログ「中国 3中総会で実質的な土地「私有化」、農村の市場経済化に踏み出すか?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20081013
で取り上げたところです。

土地の請負経営権(使用権)の譲渡を認める流動化策についてコミュニケへの明言がされていないこともあって、“市場経済化に踏み出すか?”と疑問符つきにしたのですが、公表された全文によると、やはり土地の請負経営権の取引が認められたようです。

*****中国、農民の土地使用権取引を促進 3中全会で決定*****
新華社通信は19日、北京で12日まで開かれていた中国共産党の第17期中央委員会第3回全体会議(3中全会)で採択された「農村改革を推進するための若干の重大な問題に関する決定」の全容を公表した。農民の土地請負経営権(使用権)の自由取引を促進することを柱にしており、農村の土地制度は大きな節目を迎える。

決定は、土地の請負経営権の取引について「農民が貸し出し、譲渡などの形で移転させることを認め、さまざまな形式での適度な規模化経営を発展させる」と明記し、党中央として正面から認めた。
もともと03年に施行された「農村土地請負法」などで農村での請負経営権の取引が認められていたが、実際には農地の集約化が進んでいなかった実態をふまえ、「移転のための市場を確立する」とも明記し、取引を促していく方針を明確に示した。

一方で決定は、食糧確保のための耕地保全の重要性も強調。「請負経営権が移転しても、土地の用途は変更してはならない」「建設用地の総規模は厳しく抑制する」などと述べ、農地をむやみに建設用地に転換することは禁じた。
3中全会の最終日だった12日にも新華社通信はコミュニケを発表したが農民の土地請負経営権については直接言及していなかった。 【10月19日 朝日】
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農地の流動化は実質的な土地私有制の方向にあるとも解釈でき、「土地はすべて国家のもの」という社会主義の原則との関係が問題になります。
運用次第では“大地主”的な存在や多数の離農者・失地農民が出現します。
そのため党内部に抵抗があるようで、上記の記事では“今回の決定が採択から1週間後に公表されたことについて、「さまざまな意見が共産党内にあったことを示している。まず胡錦濤指導部が中央突破を図り、その後に全員を納得させる時間を取ったのだろう」(北京外交筋)との見方が出ている。”と報じられています。

【今回農地改革の行き着くところは?】
大規模農場など多様な経営方式を可能にするための農地流通化策の一方で、記事にあるように建設用地への転用の制限、また、「土地の集団所有という性質は変えてはならない」と社会主義の原則を維持することも併記されています。
この「土地の集団所有という性質は変えてはならない」という意味がわかりません。

こうした農地流動化策の結果、農村を離れる者が多数出現することが予想されますので、中小都市で安定した職に就いている出稼ぎ農民に都市住民としての戸籍を付与するかたちで、現在の都市と農村の二元管理となっている戸籍を一元化し、社会保障などの受け皿をつくっていくことも決定されています。
更に、出稼ぎ農民の報酬や子供の教育なども都市住民と同等の条件にしながら統一的な労働市場を整備し、都市・農村の格差是正、都市と農村の一体化を進めていく方針です。

中国政府の狙いは、これまでは30年だった土地請負経営権(使用権)を70年に延長して農民の権利を保護し、更に、農民所得を倍増さることで農民の不満を和らげていこうとするものでしょうが、どうでしょうか?
地方政府による強制収用などで5000万人を超える失地農民を生み出しているように、地方政府の権力乱用・腐敗という土壌があります。
また、ややもするとモラルを欠いた拝金主義的な行動も中国社会には見られます。
地方政府の権力と拝金主義が結びついたところでは、やむなく土地請負経営権を手放し都市に流入するような農民を大量に生み出すことが危惧されます。

現在問題になっている乳製品のメラミン混入問題では、モラルなき拝金主義、監督機関の無責任な管理体制、地方政府の隠蔽体質が明らかになっています。
こうした問題を抱えた風土での今回の農地改革が、どういう結果をもたらすのか・・・。

【相次ぐ幹部更迭】
中央政府もこうした体質の是正に無頓着な訳ではなく、深セン市長時代の不正疑惑が取りざたされ于幼軍・中央委員の解任、山西省で9月上旬に発生した土石流災害では、鉱山会社の違法採掘を摘発できなかったとして孟学農省長らの解任、メラミン入り粉ミルク事件でも、発端となった「三鹿集団」本社がある河北省石家荘市の党委書記や市長が解任、閣僚級の幹部も食品検査態勢の不備を指摘されて事実上更迭・・・と、綱紀粛正のための中央や地方政府の幹部更迭が北京五輪以降相次いでいます。

劉志華北京市元副市長も、北京五輪施設周辺などの土地開発問題に絡み、不動産業者から多額のわいろを受け取ったとして、執行猶予2年付き死刑判決(2年後に無期懲役に減刑される可能性のある死刑)という、これまでに比べ非常に厳しい処罰を受けています。
こうした中央の方針がどこまで地方末端まで浸透していくのか・・・。

【中国実体経済にも翳り】ところで、17日ブログでは世界を覆う金融危機のなかで自信を深める中国金融当局の発言などを取り上げましたが、中国の実体経済も世界の景気減速の影響を受け初めているようです。

*****金融危機、「世界の工場」にも影 突然解雇7千人怒る***
おもちゃや靴、パソコン周辺機器などの工場が集積する中国広東省東莞市。「世界の工場」の中核を米国発の金融危機が襲う。市の東部にある政府前に17日午前、おもちゃ工場の従業員約500人が集結していた。2日前に工場が突然閉鎖になり、失業した人たちだ。目の前には、ヘルメットと盾、警棒で武装した約300人の治安部隊が壁をつくって立ちはだかる。 (中略)
中国最大級のおもちゃ工場を抱える「合俊」(本社・香港)。香港株式市場に上場し、米大手玩具メーカー「マテル」など世界の有名ブランドに、OEM(相手先ブランドによる生産)で供給する。米国経済の減速で注文が急減し、資金繰りがつかなくなった。二つの工場を閉鎖、約7千人の従業員が路頭に迷う。内陸部からの出稼ぎが多く、老後も教育も工場の給料頼み。騒動は3日間にわたり、一時は2千~3千人の「失業者」が、工場前の門から大通りまでを埋め尽くした。(中略)
中国全体の今年1~7月のおもちゃ輸出は、前年同期と比べてわずか2.1%増にとどまる。25%近い伸びを示した昨年から暗転した。高成長が覆い隠してきた社会の矛盾が顔を出し始めた。「米国が風邪を引けば、中国もくしゃみしてしまう。世界的に経済がおかしくなっていることの表れだ」。従業員のデモや記者の取材の様子をビデオ撮影していたベテラン警官は、ため息をついた【10月21日 朝日】
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中国国家統計局は20日、2008年第3四半期(7-9月期)の国内総生産(GDP)実質成長率(速報値)が、前年同期比9.0%だったと発表しました。
GDPの四半期成長率1ケタ台は05年末以来初めてで、世界的な金融危機の影響が実態経済に及び始めたことを示しています。
これを受けて、中国政府は投資、輸出、国内消費を全面的に底上げする景気対策を実施する方針を鮮明にしています。
先進国経済を支えてきた中国にも企業の倒産や不動産市場の冷え込みなどの影響が広がり、北京五輪後の景気減速が想定を超えかねないとの危機感が政府・共産党幹部に浸透し始めたためだと報じられています。

日本の感覚すれば9%という数字も驚異的に感じられますが、政府・共産党内では「成長率が7~8%を下回ると、毎年900万人以上といわれる新規雇用を吸収できず、政権への批判が高まる」との懸念があるそうです。【10月20日 毎日】
中国経済は、膨大な人口圧力が存在するため全力疾走しないといけないようです。
走り続けることを義務づけられた経済・・・これも大変な話です。


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アメリカ  有権者登録制度にみる日米社会の差

2008-10-20 16:33:02 | 国際情勢

(10月19日行われたFayettevilleでのオバマ候補の集会の参加者 熱い視線が羨ましくも思えます。 “flickr”より By Barack Obama
http://www.flickr.com/photos/barackobamadotcom/2956494813/

【変革の風が全米に吹いている】
昨年の早い頃から争われている“異常に長い”選挙戦、アメリカ大統領選挙。
この長い選挙戦を制するということは、単に有権者をひき付けるというだけではなく、多くのバッシングにも耐え、失言・ミスが許されない戦いを続け、巨額の資金を調達し・・・そういう心身ともにタフなリーダーである証なのでしょう。
(常識人の神経では、選挙が終わる頃には燃え尽きてしまいますが。やはり長すぎます。)
そのアメリカ大統領選挙は11月4日の最終決着を控え、民主党オバマ候補の上げ潮ぶりが伝えられています。

18日は、前回、前々回の大統領選で共和党のブッシュ候補を選んでいるミズーリ州に乗り込み、米国内遊説で最高の10万人以上が集まる集会を行いました。
“共和党が優勢な同州で、オバマ氏は、セントルイスやカンザスシティーなど都市部を遊説し、「変革の風が全米に吹いている」と訴えた。オバマ氏は、「風は、カンザス州でも、ミズーリ州でも、そしてノースカロライナ州、バージニア州、オハイオ州でも吹いている」と、2000年と04年の大統領選でブッシュ氏を選択した州の名前を呼び上げた。”【10月19日 AFP】

また、オバマ陣営は19日、9月の献金額が1億5千万ドル(約152億円)を超えたと発表。
オバマ氏自身が今年8月につくった約6600万ドル(67億円)の記録を2倍以上も上回り、大統領選史上で過去最高となりました。
この巨額の選挙資金を使い、投票日直前に集中的な全国規模の広告キャンペーンを行うことが可能になったとのことです。

更に、マケイン陣営に痛手となりそうなのが、パウエル前国務長官がケイン候補を批判し、オバマ支持を明確にしたことです。
ジャマイカ移民の両親を持ち、総合参謀本部議長として湾岸戦争を率いたパウエル前国務長官は、共和党穏健派を中心に国民的信頼・人気が高く、92年大統領選挙ではパパ・ブッシュが副大統領に起用しようとし、更に、1996年の大統領選挙に向けての世論調査では幅広い層からの圧倒的な支持を示し、もし出馬したなら当選は確実とも言われていました。
出馬しなかったのは、「黒人が大統領になったら暗殺される」とする妻の反対があったとも言われています。

本人にその気があれば、初の非白人大統領にオバマ候補より近い位置にいたとも思われるパウエル氏ですが、“米統合参謀本議長としてイラク侵攻を推進する立場にあったパウエル氏が、オバマ氏を支持したことは、マケイン氏への辛らつな批判になるとともに、態度を決めかねている有権者や退役軍人などに大きな影響を与えるものとみられている。”【10月20日AFP】と言われています。

【ブラッドレー効果】
パウエル氏が断念し、オバマ候補が今突き進んでいるのは、本人の思い以外に、アメリカ社会を取り巻くものの変化もあったのでしょうか、それとも、オバマ候補の強固な意志によるものでしょうか。
そのあたりはわかりませんが、オバマ候補の“非白人大統領”の可能性に関連して、「ブラッドレー効果」という言葉が囁かれます。

1982年のカリフォルニア州知事選で、最有力だった黒人のトム・ブラッドレー候補は、選挙前の世論調査でライバルだった白人のジョージ・デュークメディアン候補に大きな差をつけていました。
しかし、結果はブラッドレー候補敗北と、世論調査と逆の結果に終わりました。
“人種差別”ととられることを恐れ、表向きは黒人候補を支持すると言っていた白人有権者が、投票所では白人候補に一票を投じたためです。
白人有権者の本音と建前が選挙に表れた歴史的な事例とされています。

世論調査でマケイン候補をリードするオバマ候補ですが、実際には白人票はマケイン候補に流れるのでは・・・というのが「ブラッドレー効果」ですが、先述のようなオバマ候補の“上げ潮”ぶりを見ると、このままなだれをうってオバマ候補が圧勝するのでは・・・という雰囲気も感じます。
82年のブラッドレー氏からパウエル氏を経て、アメリカ社会が変わったのか、変わらないのか・・・興味が持たれるところです。

【有権者登録制度】
人種がらみの「ブラッドレー効果」、女性に言われる「ガラスの天井」(田中真紀子流に言えば“スカートのすそを踏みつけるもの”でしょうか)・・・差別の心理は興味深いのですが、今日取り上げたいのは次の記事です。

****米大統領選:市民団体の虚偽登録問題で波紋 FBI捜査*****
米大統領選への投票のため、事前に必要な有権者登録などを支援する全米最大規模の市民団体「エイコーン」の虚偽登録問題が波紋を広げている。米連邦捜査局(FBI)は詐欺などの疑いで捜査を開始し、人権団体は共和党に配慮した「政治的な捜査だ」と反発。エイコーンのスタッフの8割は黒人や中南米系で、事務所には人種差別的な脅迫電話やメールが殺到している。
エイコーンは貧困、低所得層の生活向上を目指し70年に設立された。40州に支部があり、選挙では未登録の有権者に登録を勧め、本人が記入した用紙を役所に提出している。
国勢調査によると、白人の有権者登録率は7割、黒人は6割、中南米系は5割強にとどまる。米国では「個人の問題」とされ、行政機関は積極的には登録を呼びかけていない。(後略)【10月19日 毎日】
**********************

「そうなんだ・・・・」と思ったのは、市民団体「エイコーン」の虚偽登録問題ではなく、アメリカの選挙制度、有権者登録制度の話です。
日本では当たり前のように投票の通知がきますが、アメリカでは「住民登録」制度がないため、法律上選挙権があっても、本人が選挙人登録をしなければ選挙をすることができない仕組みだそうです。
その結果、“白人の有権者登録率は7割、黒人は6割、中南米系は5割強にとどまる。米国では「個人の問題」とされ、行政機関は積極的には登録を呼びかけていない。”とのこと。
知りませんでした。何回かTV等で聞いたのかもしれませんが、全く認識がありませんでした。

【“寝ててくれたらいい”社会と“国家に対して何ができるかを自問”する社会】
このことは、日本社会とアメリカ社会の差を感じさせます。
日本では戸籍制度があって、更に住民登録制度があり、多くの場合、個人は意思とは無関係に日本国民、日本社会という組織のメンバーになります。
多くの日本人にとって、国とか社会というものはすでにそこに成立しているもので、自動的に自分が組みこれている存在です。

そのためややもすると、国民は国の政治や社会の運営について、他人任せの無責任・無関心になってしまうこともあります。
為政者のほうも、国民はうるさいことを言わずに決まったことに従ってくれればいい、「無党派層が『関心ない』と言って寝ててくれたらいいが・・・ 」といった発想にもなります。

これに対し、アメリカでは自ら手をあげないかぎり選挙にも参加できません。
逆に言えば、選挙に参加する人々には、自らの意思で社会を作っていこうという意思が存在します。
そのような有権者の社会参加意識が前提となっていますので、為政者の側からも「わが同胞、アメリカ国民よ。国家があなたに何をしてくれるかを問うのではなく、あなたが国家に対して何ができるかを自問してほしい。」という呼びかけが出てきます。
日本のように、国家が個人の意思とかかわりなく存在し、個人とはかかわりないところで政治が行われ、国民に対する国による一律的な最低保障が当然のものと前提されている・・・そういう社会ではピンとこない言葉です。

しかし、“白人の有権者登録率は7割、黒人は6割、中南米系は5割強にとどまる。”ということは、その他の人々にとって、“アメリカ”というのはどのような存在でしょうか?
参加もしない、期待もしない、ただの生活の場・・・これも、日本に生まれた者には想像しづらい世界です。

アメリカというのが、そういう人々の存在を前提とした国家・社会だからこそ、統合のために国家への忠誠というものがいろんな場で強調されもするのでしょう。
しかし、非白人移民の増加にともなって、そうした統合も困難になってきています。
その意味でも、今回非白人大統領が誕生すれば、そのような社会統合に向けての新たな対応・・・ということにもなるのでしょう。

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原子力ルネサンスの今、日本は何を主張するのか

2008-10-19 13:18:45 | 国際情勢

(独自の原子力開発を進めるイランの核施設Natanz 二重のコンクリート壁に保護された地下8mに作られているとか “flickr”より By Hamed Saber
http://www.flickr.com/photos/hamed/237790717/)

【中パ 原発建設援助で合意】
パキスタンのクレシ外相は18日の記者会見で、ザルダリ大統領訪中の成果として、国内で計画中の原子力発電所2基の建設に中国政府が協力することで合意したことを明らかにしました。
先にインドがアメリカと結んだ原子力協力協定に対抗する動きと見られています。

*****パキスタン、中国の援助で原発2基新設へ 米印に対抗*****
パキスタン政府は18日、中国の援助で原発2基を新設するなどとした、両国間で合意した経済協力の内容を明らかにした。米国とインドが今月初め、原子力協力協定を結んだことに対抗する動きだが、パキスタンはインド同様、核不拡散条約(NPT)に加わっておらず、条約の枠外で核協力が進む懸念が、また広がった形だ。
パキスタンのザルダリ大統領が17日までの4日間、原子力分野での協力を求めて初訪中し、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席らと関係強化を確認した。
クレシ外相は会見で、中国の援助で新たに2基の原発を建設し、680メガワットの発電能力を得ると説明。パキスタンはすでに、パンジャブ州北部に中国の支援で原発1基を稼働させ、もう1基を建設中で、新たな2基は既存施設に増設される見込みだ。

ただ中国は04年に、NPT加盟国以外への核技術や資材の供給を規制する原子力供給国グループ(NSG)に参加しており、パキスタンへの核協力はNSGの承認が必要。だが、両国とも具体的な方策は示していない。【10月18日 朝日】
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長年対立関係にあるインドがアメリカと原子力協力協定を締結したことで、パキスタン側は“インドが軍事用核施設で核兵器を増産させるのではないか”との懸念を抱いており、ギラニ首相は「わが国も同等の権利がある」と主張しています。
しかし、アメリカは、パキスタンの科学者カーン博士による「核の闇市場」を通じ、北朝鮮やイランに核技術が流出した経緯を踏まえ、パキスタンに対する核協力を拒否しています。

こうした背景で、訪中したザルダリ大統領が原子力技術の協力を中国に求めていたことは周知のところでした。
ただ、共同声明には原子力協力に関する明確な言及はなく、「エネルギーの開発強化」とあるだけで、中国が“印パ間の核軍拡競争につながり地域が不安定化する”との判断で、原発の核燃料や技術供与などに消極的対応をとったのではないか・・・とも一部報じられていました。
今回のクレシ外相の発表は一応中国側がパキスタンの要請に応じたことを明らかにしたものですが、共同声明に入れなかったことに何らかの意味合いがあるのかも。

記事にもあるように、NPT非加盟のパキスタンへの原子力援助は、原子力供給国グループ(NSG)に参加している中国にとっては相当のハードルがあります。(実際、06年の中パ首脳会議では原子力援助は見送っています。)
アメリカが“世界最大の民主主義国”インドへの協力で随分苦労したことはつい先日のことですが、“核の闇市場”疑惑のパキスタンに関して中国がこのハードルを越えるのは、あまり現実的ではないような感じもします。
(もちろん、そうなった場合、“なぜアメリカ・インドが許されて、中国・パキスタンがだめなのか?”という、アメリカのダブル・スタンダード批判を行うのでしょうが。)
今のところ現実性はあまりないが、パキスタンの顔をたてて、パキスタン側が一方的に発表することについては中国側も了承した・・・、アメリカへの牽制にもなるし・・・といったところでしょうか。

【原子力ルネサンス時代の核国際管理】
一方、世界は今、「原子力ルネサンス」の時代。
エネルギー需要の拡大、温暖化対策などを受けて各国が原子力開発に乗り出しています。
国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ議長は16日、発展途上国など50を越える国が原子力発電導入を検討していることをIAEAに通告してきているとOECDで報告しています。
そのうえで、核不拡散に向けてウラン濃縮・再処理などの核燃料サイクルを国際管理下に置く構想を検討するようにあらためて国際社会に求めた・・・と報じられています。

アメリカ・インドの原子力協力協定によって、現在のNPT、NSGによる管理体制は大きくほころびを見せています。
現行体制の一層の形骸化を踏まえて、新たな構想が必要なことは十分に理解できるところですが、一部の核保有国がその“特権”を認められたままという不合理な現実世界にあっては、あまり期待できません。
今回の中国・パキスタンの動きも、こうした形骸化を加速させるものですが、“どうせ有効な管理体制などはありえない”との見通しが背景にあるのでしょうか。

【IAEAの次期事務局長に日本立候補】
ところで、核・原子力国際管理の要となるIAEAの次期事務局長に、日本の天野氏が立候補するという話があります。
しかし、米追従外交の日本出身事務局長選出に懸念の声もあがっているとか。

****天野大使、次期IAEA事務局長選に出馬表明****
ニューヨークの国連総会の基調演説の中で麻生太郎首相が25日、「日本はウィーン駐国連機関担当日本代表部の天野之弥大使(61)を国際原子力機関(IAEA)の次期事務局長選に立候補させる」と表明したことを受け、ウィーンで天野大使が同日、正式に出馬を表明した。
天野大使は2005年8月に大使就任以来、IAEA年次総会議長、理事会議長などIAEA内の要職にも選出されてきた。日本では外務省軍縮不拡散・科学部長など、軍縮畑を歩んできた。

3期目のエルバラダイ現事務局長の任期は来年11月で終わるが、それに先駆け、今年の年次総会後に開催される理事会で次期事務局長選の立候補届けがスタートし、来年6月の理事会までに候補者の一本化を進め、同年9月の年次総会で正式に後任事務局長を決める運びとなる。これまでのところ、天野大使のほか、南アフリカIAEA担当のミンティ大使が候補の意思を明らかにしている。

天野大使は次期事務局長選レースでは一歩先行してきたが、ここにきて加盟国内で米追従外交の日本出身事務局長の選出に懸念の声が強まってきた。欧州理事国の関係者は「米印原子力協力協定の承認問題で明らかになったが、原子力供給国グループ(NSG)臨時総会で唯一の被爆国の日本が最終的には米国の意向を支持したのには、失望させられた」と指摘、日本出身のIAEA事務局長選出に懸念を明らかにした。 【9月26日 世界日報】
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【日本は何を目指すのか?】
イランを抑えて安保理非常任理事国に選出された日本ですが、国際社会での応分の活躍・貢献をしたい・・・というところでしょう。
それはいいですが、問題は何をしようというのか・・・という点です。
安保理非常任理事国選挙でも、イランは日本のポスト独占とあわせて“日本は米国の傀儡”との批判を行っていました。
先の常任理事国拡大の議論でも、アメリカから“アメリカに楯突くドイツはダメだが、素直に言うことを聞く日本ならいい”との“評価”を頂戴している日本が、国際社会の中でどういう働きをしたいとしているのか、私を含め日本国民全体も充分に整理できているようには思えません。

IAEA事務局長ともなれば、北朝鮮の核開発問題についても重要な位置をしめますが、それだけでなく世界の原子力・核開発についての見識が求められます。
日本国内では核武装の議論は“表”で語られることは殆どありませんが、アメリカなどでは“常任理事国の条件は核武装しないことだ”とか“北朝鮮問題で日本を置き去りすると核武装の方向へ追いやる”といった、日本の核保有願望にかかわる議論もあるようです。

唯一の被爆国としてこれまで“非核”を一枚看板にしてきた日本、現実にはアメリカの“核の傘”の下で生きている日本が米印原子力協力協定を容認し、今後世界の「原子力ルネサンス」・核拡散にどのように向き合うのか・・・そういう議論も国内的にもう少しあってよいのでは。
国内での議論もないまま、アメリカと同じことを代弁するだけなら、別に日本が手を上げることもないように思えます。それは世界にとっても不幸なことです。



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金融危機のもたらすもの(2)  NGO支援が困難に、蠢く人種差別、温暖化対策は?

2008-10-18 15:49:29 | 世相

(イタリアの街角で偽造のブランドバッグを売るアフリカ系移民 その多くは不法移民であるとも言われています。 “flickr”より By John Rohan
http://www.flickr.com/photos/johnrohan/2209783982/

【収入の半分がミルク代】
金融危機に関するニュースは欧米や新興国からのものが殆どですが、金融危機によって加速される実体経済の悪化が最も大きな打撃を与えるのは途上国であり、生活に困窮する貧しい階層です。

****金融危機、小国カメルーンにも波及=NGO資金に不透明感*****
世界的な金融危機の余波が、アフリカ中部の小国カメルーンにまで及んでいる。同国で草の根活動を続ける非政府組織(NGO)の多くは、運動資金のほぼすべてを先進国の政府や民間企業の寄付に頼っており、景気減速に伴いその先行きには不透明感が漂い始めた。食料やエネルギー高の影響も深刻だ。
カメルーンの首都ヤウンデに事務所を置き、エイズウイルス(HIV)の感染者や母子の健康支援などを行っている同国の民間組織カムナファウのンガペ事務局長は、欧米を中心とした金融混乱のため、「(各国政府や民間からの)資金援助への中長期的な影響は避けられない」と顔を曇らせる。
また、同国ではこの1年でガソリン価格が4割値上がりし、ミルクの値段は2倍となった。同国最大都市ドゥアラ北部のダイドーで4カ月の息子を抱えるNGO職員のベスさん(30)は「収入の半分がミルク代になってしまう」と嘆く。
ヤウンデの診療所の医師らによると、交通費が払えず治療が受けられない患者が増えている上、ミルクが高価で買えず、授乳によるHIVの母子感染が広がる可能性もあるなど、NGOの支援活動も困難さを増している。【10月18日 時事】
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こうしたことがカメルーンだけでなく、今後世界中で、飢餓といったようなもっと深刻なかたちで、見られるようになることが懸念されます。
これまでリスキーなマネーゲームに明け暮れてきた資産家がその富を失うのは自業自得ですし、先進国などの体力のある国ではそこそこの対応も可能でしょうが。

おりしも、2000年に国連で採択された世界の貧困を15年間で半減する「ミレニアム宣言」の達成を、各国首脳に訴える目的で06年から始まった、一斉に立ち上がることで貧困をなくす意志をしめす世界的な運動「スタンドアップ・テイクアクション」が17日から始まりました。

昨年も同じような記事を目にしましたが、この1年事態が改善されたようには思えません。
確かに途上国の中でも一部の国々、主に資源に恵まれた国々は相当の発展を遂げてはいるようです。
しかし、その発展から取り残された人々の生活は、食糧・燃料価格高騰で更に悪化したようにも見えます。
今後その全容を次第に見せるかもしれない、世界的な実体経済の悪化はそうした人々に更に厳しい試練を与えるのでは・・・。

【外国人と融和する包容力を持たない弱い文化】
日本や欧米先進国においても、不況は社会の余裕を失わせ、摩擦を激しくします。
いやなニュースがイタリアから。

****イタリア:外国人襲撃相次ぐ 噴出する「人種差別」論****
イタリアで9月以降、アフリカ人や中国人が被害に遭う殺人、傷害事件が連続して発生している。激しやすい加害者による衝動的な暴力という面もあるが、経済悪化も重なり「ラチズモ(人種差別)」という言葉がマスコミで多用され、人種差別に反対するデモが各地で起きている。

事件はまず9月14日未明、北部ミラノの雑貨店で起きた。イタリア人店主の父子(51歳と31歳)が、店に来たアフリカ系の男性(19)の万引きを疑い、口論の末、鉄パイプで頭部をめった打ちにし殺害した。父子は男性を殴る際「汚い黒人泥棒」などと叫んでいたとの目撃証言がある。
4日後の18日、今度はナポリ北方のカステル・ボルトゥルノで、路上にいたガーナ、トーゴ、リベリア出身の男性7人がバイクで近づいた男たちに銃撃され死亡した。
地元警察は犯罪組織カモッラによる麻薬密売の縄張り争いと発表したが、地元住民が「アフリカ人差別だ」と怒り、暴動になった。
今月2日には、ローマ郊外で、中国人男性(37)が10代前半の少年7人に殴られた。

加害者がイタリア人、被害者が外見の違う外国系という構図から、国内メディアは一斉に「人種差別」と結論づけた。しかし、事件には、商売上のトラブルや縄張り争い、少年の非行という側面もあり、憎悪や恐怖が絡む「人種差別」と結論づけるのはそう簡単ではない。(後略)【10月17日 毎日】
***************

記事の中で、カルロ・モンガルディーニ・ローマ大サピエンツァ校教授(政治科学)はこうした現象について、
“イタリアでは人種絡みの事件の裏で、ファシズムを見直す声が聞かれる。アレマノ・ローマ市長が「ファシズムには良い面もあった」と発言するなど、ムッソリーニ政権を再評価する言動が目立つ。
これは、現状をまともに語れない政治家がファシズムを持ち出し、大衆の関心を引いているだけだ。ファシズムや人種差別についての軽はずみな議論が、国民に将来への不安や脅威をもたらし、差別的な事件を起こさせている。
イタリア人は内向的な性格で、すぐによそ者を恐れる。統率力のあるドイツ的な強い文化ではなく、外国人と融和する包容力を持たない弱い文化だ。”と述べています。

不況のなかで自分に襲い掛かる不幸・不運に対するやり場のない怒りの発散、次第に小さくなるパイの奪い合い・・・経済の悪化はそれまで覆い隠されていた私たちの社会の醜悪な部分をさらけ出す事にもなります。
“外国人と融和する包容力を持たない弱い文化”・・・日本はどうでしょうか?

【コスト負担増 緩和から規制へ】
金融危機、経済悪化のその他の重要課題への影響、たとえば温暖化対策などはどうでしょうか。
伝えられるニュースのなかで、ふたつの流れが目につきます。
ひとつは“温暖化対策どころではない”といった反応。
EU首脳会議において“温室効果ガスの削減に関するEU全域での協定を12月に締結することについては、各国の対応が分かれた。強い抵抗はなかったものの、多くのEU諸国は、金融危機の深刻化で世界経済が景気後退に直面するなか、関連するコスト負担や産業への影響に尻込みし始めている。”【10月17日 AFP】

もうひとつは昨日もとりあげた“緩和から規制への動き”。
“加えて、規制強化を容認する機運が「他の分野にも広がる可能性がある」(ニューヨーク・タイムズ)。中国からの有害製品輸入で問題化した食品安全管理制度や、ブッシュ政権が消極的だった温室効果ガスの排出規制などで、政府の関与や責任強化の動きに弾みをつける可能性があるという”【10月17日 産経】

どちらの流れが強まるのでしょうか。
景気後退の程度が深刻になればなるほど、最初の“温暖化対策どころではない”という動きが加速されるのでは。
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金融危機のもたらすもの  緩和から規制へ 存在感を強める中国

2008-10-17 18:50:27 | 国際情勢

(10月15日にブリュッセルで開幕したEU首脳会議でのブラウン英首相 右はバローゾ欧州委員会委員長 会議前にブラウン首相は英銀行への資本注入を即決で発表 一躍「欧州の救世主」となりました。 会議では「IMFなど従来の国際金融システムの改革が急務」と米国主導のシステムの再構築の必要性を訴えました。
“flickr”より By Downing Street
http://www.flickr.com/photos/downingstreet/2944278726/)

【“米国はいつの日か社会主義に向かう。”】
金融不安については、世界はまだその只中にあって、今後の推移(うまく切り抜けられるのか、長期の不況に呑み込まれるのか、恐慌といったパニックに発展するのか・・・)はまだ分かりませんが、いろんな影響をすでにもたらしつつあります。

全体的には、これまでの規制緩和を進め、市場に委ねる政策から、市場の動きを規制・監視する政策への転換が見られます。

****金融危機 米「緩和」一転「規制」へ 「レーガノミクス」曲がり角*****
米政府が大手金融9社などに対する2500億ドル(約25兆円)の公的資金注入に踏み切ったことで、レーガン政権以来脈々と続いた規制緩和時代が曲がり角を迎えたという見方が出ている。金融自由化で発展した高リスクの取引が、結果的に金融システムを崩壊寸前に追い込み、空前の政府介入という“揺り戻し”を招いたからだ。食品安全や温暖化対策など他の分野へ規制強化の波が広がるとの指摘もある。 【10月17日 産経】
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ブッシュ大統領自身は「私は本来、市場介入反対論者だが、今の市場はそれを許すような正常な状態ではない」と、今回の措置が緊急避難であり、本来の規制緩和という原則に変更はない考えを示しているとか。

レッセフェールの自由主義的市場重視経済の“本家”アメリカの変節については、笑えるような反応も。
その1。南米ベネズエラの反米左派の急先鋒、チャベス大統領は、公的資金投入で金融機関を救済しようとしているアメリカの「国家介入」について「(ソ連の)レーニン政権と同じ方策だ」と皮肉ったうえで、「これは人民を救済するものではなく、金持ちと沈没しそうな銀行を救済するためのものだ」「米国はいつの日か社会主義に向かう。」と米政府を批判したそうです。【10月6日 毎日】
チャベス大統領なら言いそうな話です。

その2。アメリカにも共産党があるそうで、最近の情勢に“追い風”を感じているとか。
地区議長の発言。「電話での問い合わせが増えている。わが党に興味を持つ人が増えている。わが党にも出番が回ってきた」「マルクス・レーニン主義の時代がとうとう到来した」「われわれは非常に興奮している。転換点にいると感じるよ」【10月16日 AFP】
“マルクス・レーニン主義の時代”なんて、今どき代々木の方々も口にしないフレーズです。
ある意味、アメリカに時代感覚を持った現実的な左翼思想が育っていないという現実の一面でもあるようです。
なお、大統領選挙には候補者は出していませんが、党事務所の多くのスタッフがオバマ氏の顔写真入りバッジを着けているそうです。

【「ゴードン・ブラウンは欧州の救世主」】
話を本筋に戻すと、今回の各国対応で評価を上げたのがイギリスのブラウン首相だそうです。
金融危機以前は超不人気・低支持率でボロクソ・サンドバッグ状態でしたが、「ゴードン・ブラウンは欧州の救世主」(仏紙ルモンド)と、国内支持率回復はもちろん、国際的な指導力を発揮しているそうです。

****金融危機 英、ブラウン株は急上昇 救済策を即断、人気回復****
(「優柔不断」のレッテルが貼られていた)ブラウン首相は先月、米大手証券リーマン・ブラザーズが破綻すると、英大手銀行の合併に積極的に介入し、中堅銀行の一部国有化に踏み切った。今月8日には最大500億ポンド(約8兆6700億円)の公的資金による銀行への資本注入を柱とする銀行救済策を発表。同首相の呼びかけに対し、13日にはフランスとドイツが同調、14日には米国も2500億ドル(約25兆円)の公的資金注入策を明らかにした。 公的資金注入は「銀行の一部国有化」との批判を招きかねないため、ブッシュ米政権は当初、注入をためらっていた。ブッシュ批判で知られる(今年のノーベル経済学賞を受賞した)クルーグマン教授は米紙で「ゴードンはよくやった」と称賛。不良債権処理を優先させた米国に比べて、公的資金の資本注入を真っ先に行った英国は「金融危機対策を方向付けた」と評価した。 【10月17日 産経】
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「即断即決」型に豹変したブラウン首相(従前は市場を重視した規制緩和推進の立場だったようですが・・・)の与党・労働党は、政党支持率で一時は保守党に26ポイントもリードされていましたが、その差を10ポイント前後に縮めているそうです。
望ましい指導者に関する世論調査でも、41歳の若さと歯切れのいい弁舌で、労働党ブレア前首相の「後継者」とも言われる保守党キャメロンを逆転しました。

なお、ブラウン首相は労働党大会でキャメロン氏を「未熟者の出る幕はない」と批判、これに対しキャメロン氏は保守党大会で、「難題に立ち向かう時、『経験』以上に大切なのは個性と判断力だ」「『経験』とは、年老いた現職の言い訳だ。変化を止めたい時に使う言葉だ」と応戦したそうです。

【誰が明日アンクルサムを助けるのか】
一方、“大国”としての存在感を増す中国は、チャベス大統領のようにはしたないことは言いませんが、自信を深めているようです。

****中国、世界の信用危機を受けても金融改革を減速させない=金融当局者*****
中国の金融当局者は15日、世界的な金融危機を受けても、中国は金融改革・革新の速度を落とさない、との見通しを示した。
上海金融工作委員会副書記のWu Jianrong氏は銀行関係者の会合で「今回の危機は、将来の成長への明確なビジョンをわれわれに与え、これによりわれわれの銀行システムへの自信が深まった」と述べた。
同氏はさらに、オフショアの人民元取引センターを創設し、今後12年間で上海をアジアの金融中心地に発展させるという政府計画を強調した。
「中国は米国の危機から学び、強固な金融システムを築くべきだ」と述べた。
主に政府による厳格な資本規制のため、中国の銀行は、多くの欧米銀行が損害を受けた世界的な金融危機の影響をほぼ免れた。
中国人民銀行上海支店長のHu Xiping氏はこの会合で、世界の危機によって中国の金融改革は抑制されない、との見通しを示した。【10月16日 ロイター】
*****************

もちろん、中国首脳は今回危機を軽視している訳でもなく、他国のことと浮かれている訳でもありません。
アメリカが金融安定化法案の下院採決でもたついていた頃、天津で開催された世界経済フォーラム(WEF)主催の「ニューチャンピオン年次総会」(9月27日~28日)での講演に先立ち、温家宝首相は中国有力企業の一部首脳らと非公式の会合で「米国の金融危機が実態経済に波及し、世界経済の鈍化を招いていることに対して、多大な注意を払う必要がある」と危機感を示していたそうです。
中国の首相が自国の成長企業のトップの面前で、経済の見通しについて語るのは珍しいことだとか。

また、この時期には、アメリカの公的資金による資本注入はなかなか進まないのでは・・・という世間の雰囲気でしたので、「ニューチャンピオン年次総会」への他の参加者同様に中国の参加者も不安を感じており、朱民・中国銀行副行長(副頭取に相当)は「米政府が投入する公的資金は最終的に1兆8000億ドルを超える可能性がある」と指摘したうえで、「アンクルサムはウォール街を助けるだろうが、誰が明日アンクルサムを助けるのか」と懸念を表明したそうです。【10月10日 DIAMOND online】

アメリカは金融機関救済に必要とする資金を国債発行で調達、その国債の購入先は結局中国・・・という構図で、実際、アンクルサムを助けるのは中国しかないと見られています。
また、中国は15日開かれた経済産業省との日中高級事務レベル会合(次官級)で、「今の状況でドルの保有比率を下げるという考えはない」と述べ、米国発の金融危機によるドル安傾向が続いても米国債などの残高を維持していく方針を示しています。

この高級事務レベル会合で中国側は09年の経済成長率については、9%台を目標に経済政策運営を進める方針を示しています。
先進各国が不況に脅えるなかでの9%成長。
乳製品のメラミンの問題、先日の冷凍インゲンの問題・・・問題は山積してはいますが、その経済の力強さは圧倒的なものがあります。

中国と並ぶ新興国代表のインドでは、外為市場でインドルピーが2002年9月以来の安値に下落。
インド株の急落を受け、海外資金の流出加速に対する懸念が強まっています。
インド国営銀行は16日、ルピーが下落を受け、ドル売りを実施したもようと報じられています。
こちらは、中国と比較して、大波による揺れが激しいようです。
“製造業”という経済の基盤の強さの違いでしょうか。

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アフガニスタン  ハリリ副大統領「戦闘だけでは永遠に勝てない」

2008-10-16 18:20:00 | 国際情勢

(アフガニスタンでの交渉風景・・・とは言っても、和平交渉ではなく、なにかの備品調達の交渉のようです。“flickr”より By rybolov
http://www.flickr.com/photos/rybolov/2895031829/)

【負けることはない】
アフガニスタンの情勢はアメリカ・ISAFにとっては厳しい状況が続いています。

****「タリバンには勝てぬ」 駐英軍司令官、交渉訴え*****
駐アフガニスタン英軍最高司令官がイスラム原理主義勢力タリバンとの戦闘について「我々はこの戦いには勝てない」と悲観的な見方を示したと報じた。
カールトンスミス司令官はインタビューで「英国民は決定的な勝利を期待すべきでない。その期待値を下げることが必要だ」と主張。「我々の戦いは、アフガン軍が対応できるレベルまで(タリバン勢力を)弱めるのが目的。タリバンが交渉の席に着く用意があるなら、それこそが戦闘終結に向けた前進だ。国民も不愉快には思わないだろう」と述べた。【10月6日 毎日】
**********

さすがに、NATO主導部隊約7万人を指揮するISAFのマキャナン司令官(米陸軍大将)は“勝てない”とは言いませんが、“負けることはない・・・”と苦しさが滲む表現です。

****アフガン戦争に負けることはない=ISAF司令官****
ISAFのマキャナン司令官(米陸軍大将)は12日、カブールで記者会見し、米欧がイスラム武装勢力との戦いに負けることはないが、武装勢力に対処するには一層多くの部隊や軍用機器が必要だと語った。
マキャナン司令官は「われわれはアフガンで負けてはいない。武装勢力はこの国では勝てない。国民の大半はタリバン(旧政権残存勢力)を望んでいない」と強調した。同司令官はISAFの軍事作戦が失敗しているのではないかとの最近のメディア報道については、「そうした見方を断固拒否する」と述べた。
同司令官はその一方で、「武装勢力との戦いを迅速化するため、部隊やヘリコプターなどの軍用機器がもっと必要だ」とし、「アフガン国民の安全に適切に備えるには、治安部隊が不十分だ」と付け加えた。そのうえで、同盟諸国に対し、必要な部隊と装備を提供するよう求めた。 【10月13日 時事】
**********************

【1兆7300億円】
米国はこれまでもNATO加盟国に部隊増派を要求してきましたが、独自の立場をとる仏独などの抵抗もあって部隊派遣は頭打ち状態にあり、今後は資金面で協力するよう圧力をかけていくとみられています。
モレル米国防総省報道官は“アフガニスタンに戦闘部隊を派遣していないNATO加盟国や日本に対し、米国がアフガン軍の増強目的に約170億ドル(約1兆7300億円)の拠出を求めている”ことを明らかにしています。
この件に関して、河村建夫官房長官は7日、「政府として確認していない。正式に要請があれば検討するが、今の時点では情報がなく、コメントできる段階ではない」と語っています。

同趣旨の考えは9日、ブダペストで行われたNATOの国防相非公式会合でも主張されました。
アフガン撤退の道筋をつけるにはアフガン国軍の強化が不可欠との認識で一致、部隊を派遣していないNATO加盟国のほか日本にも費用負担を求める検討が行われたようです。

****アフガン支援、日本に費用負担要請 NATO検討****
NATOによると、国際治安支援部隊にはNATO非加盟国を含む38カ国5万700人が参加しているが、治安状況は改善していない。兵士の犠牲者も増え、フランスやオランダなどで撤収を求める世論が強まっている。
こうした状況を改善するため、会合開催地のハンガリーが国際治安支援部隊の活動を支える基金の創設を提案。これまで部隊の費用は派遣国が負担するルールだったが、兵士を出さずに資金を拠出する協力形態も認めるもので、イムレ国防相は会合に先立ち9日、「公平で効果的な解決策だ」と強調した。派遣の長期化で負担を感じている国の支持が得られそうだ。 【10月10日 朝日】
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【治安悪化の責任は】
このブダペストでの会議で米国は、アフガン増派とあわせて、麻薬密輸対策の強化を各国に呼びかけています。
アフガンにおける麻薬密輸が旧支配勢力タリバンの活動資金源になっていると指摘し、NATOの任務を拡大して密輸ルートなどを攻撃対象に含めるよう要請しています。

一方、5日付のニューヨーク・タイムズ紙はアフガニスタンのカルザイ大統領の弟、ワリ・カルザイ氏が麻薬取引に関与していることを示す記録を入手したと報じています。
“2004年にアフガン第2の都市、カンダハル郊外で大量のヘロインをコンクリートブロックの下に隠して積んでいたトラックが治安部隊に取り押さえられた。しかし、まもなくワリ氏から同部隊司令官のところへ電話があり、ヘロインとトラックを解放するよう要求された。同司令官はその後、カルザイ大統領の側近からもトラックを解放するよう電話を受け、従ったという。”【10月7日 産経】

こうした事例を含めて、アメリカはアフガニスタン・カルザイ政権の統治能力に強い不信感を抱いています。
9日には、米国家情報評価(NIE)が急速な治安悪化が進むアフガニスタンに関し、旧政権タリバンの反政府活動を抑え切れていないとして、現在のカルザイ政権の統治能力に強い疑問を投げ掛ける報告書案をまとめたことが報じられています。
治安悪化の責任をアフガン側に転嫁する姿勢・・・ともとれます。

しかし、アフガンの治安悪化の最大要因はやはり米軍などの攻撃による民間人犠牲者の増加、それに伴うアフガン国民の民心の離反でしょう。

****アフガン民間人の犠牲、3200人にも=05年以降、米軍などの攻撃で****
米国のニューハンプシャー大学のマーク・ヘロルド教授は7日、アフガニスタンで2005年以降、米軍やNATO軍の攻撃の巻き添えで、これまでに最大で3273人が死亡したとの調査結果を明らかにした。
同教授は、空軍力に依存することによって米軍やNATO軍兵士の犠牲は減るものの、多数の民間人が犠牲になっていると指摘。地上軍の攻撃に比べ、空爆による民間人の巻き添えによる犠牲は4倍から10倍に上っていると語った。【10月7日 時事】
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【戦え戦えと言う国があるが、受け入れられない】
国連のカイ・エイデ事務総長特別代表(アフガニスタン担当)は14日、国連安保理で同国情勢について、今年は例年と異なり、冬の時期になってもタリバンやアルカイダによる攻撃が衰えることはないだろうとの見方を報告しています。
攻撃が発生している地域もこれまでのアフガン南部や東部から他の地域に拡大。対象も国連や非政府機関を含む人道援助団体にまで広がりを見せていると述べています。

こうした情勢下で、冒頭の駐英軍司令官発言のように、タリバン勢力との和解交渉に期待する向きも多くなっています。
サウジアラビア仲介のタリバンとの交渉については、10月3日のブログでも取り上げたところです。

****アフガン政府:タリバンと和解交渉 ハリリ副大統領会見****
アフガニスタンのカリム・ハリリ副大統領は7日、カブールで毎日新聞と単独会見し、敵対する旧支配勢力タリバンの最高指導者オマル師に対し、アフガン政府が手紙などを通じた和解交渉を開始したと語った。オマル師側には武装解除や同国憲法を認めることなどを求めており、副大統領はオマル師側が条件をのめば、政治勢力として受け入れるとの考えを示した。
オマル師が受け入れるかどうかは不明だが、タリバンの勢力回復でアフガンでの対テロ戦争が泥沼化する中で、米国や国連などもアフガン政府の対話努力を受け入れるとみられる。
一方で副大統領は、アフガンや隣接するパキスタンで活動する国際テロ組織アルカイダ系の外国人武装勢力については「交渉しない」方針を示した。自国民のタリバンと、外国人主体のアルカイダを明確に分けて対応するもので、外国人勢力に対する米軍などの軍事作戦は「有益」との認識を示し、米軍のアフガンへの増派も否定しなかった。【10月8日 毎日】
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副大統領は「支援国の中には、戦え戦えと言う国があるが、受け入れられない」と暗に米国の姿勢を批判、「戦闘だけでは永遠に勝てない。交渉は国造りに不可欠だ」と、和解交渉について国際社会に理解を求めています。

そのアメリカも“タリバンをアフガン社会に復帰させ、テロ組織アルカイダを孤立化することがアフガンでのテロとの戦いに不可欠”との判断に傾いており、アフガン政府とタリバンとの和解交渉を注視しているようです。
“米政府がアフガン安定化策のモデルとして検討しているのが、アルカイダと共闘していたイラクのスンニ派武装組織を治安要員として雇用し、「反アルカイダ」に転換させ治安改善に寄与した手法だ。”【10月8日 毎日】

米中東軍司令官に10月末に就任するペトレアス前イラク駐留米軍司令も「アフガン政府との和解を望む者たちがいるのであれば、交渉は前向きのステップとなるだろう」と述べ、アフガンの治安悪化を食い止める方策として強い期待を示しています。

タリバン側の事情が全くわかりませんが、少なくとも当事者の片方であるアフガニスタン政府側で、和平への動きが高まっていること、これを関係者が支持していることは、今後の展開に期待を感じさせます。
ただ、オマル師相手では、なかなか事は難しいとは思いますが。
タリバン側が急進派・穏健派で割れてくれれば、交渉の余地も広がるのでしょうが。

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今年もCOP14の季節になりました 求められる国際協調

2008-10-15 16:15:29 | 環境

(COP14が12月に開催されるポーランドの古都ポズナニの街角 “flickr”より By soylentgreen23
http://www.flickr.com/photos/soylentgreen23/2895970804/)

【温暖化対策と金融危機】
最近、12月の国連気候変動枠組み条約第14回締約国会議(COP14)に関する記事を目にするようになりました。
COP13での議論が注目されていた時期から1年近くになる訳で、月日のたつのは早いものだと感じます。
COP13から環境サミットと位置づけられた洞爺湖サミットにかけては、環境問題や温暖化の議論を見聞きすることも多かったのですが、サミット直前に問題化した食糧・燃料価格高騰、更に最近では金融不安の問題によって、温暖化の議論はひところほどではないようにも感じられます。
それでも、メディアで報じられる新たに発売される商品のコンセプトやいろんな社会活動などを見ていると、“エコ”ということが時代のキーワードであることには違いはないようです。

*****「温暖化対策は、金融危機に役立つ」COP14準備会合*****
12月にポーランド・ポズナニで開かれる国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP14)に向けた閣僚級準備会合が13日、ワルシャワで始まった。世界的な金融危機に関連し、各国はそれぞれの温暖化対策を緩めないことを確認。「温暖化対策を進めることは金融危機への取り組みにも役立つ」とする緊急声明の採択に向けて調整に入った。

約40カ国が参加する準備会合は14日までの日程で開かれ、COP14で話し合う論点の整理が主な議題。ただ、金融危機で、温暖化対策に必要な途上国などへの資金供給が細る懸念が強まったことから、温暖化問題の重要性を訴える声明が発案された。
声明案では「金融危機は、差し迫った気候変動危機に対する努力を弱める理由にはならない」として、温暖化対策が遅れれば、より大きな損失を招くと指摘。むしろ低炭素型の持続可能な経済に転換することが必要で、このことは金融危機への対処と方向性は同じだとしている。
また、今回の金融危機で「世界的な危機に対処するために国際社会は協調できることを示した」として、温暖化問題でも同じような国際連携を求める。

準備会合の初日は、京都議定書に続く13年以降の温室効果ガス排出削減の枠組みについて意見を交わした。焦点の一つとなる2050年までの長期的な削減目標については、議長国のポーランドが、COP14の際に非公式な閣僚級円卓会合を設けて話し合うことを提案した。
会合では、先進国と途上国との間の溝が改めて浮かび上がっている。日本政府代表団によると、先進国からは、京都議定書で削減義務が課されていない途上国にも応分の責任を求める意見が目立ったのに対し、途上国からは温暖化対策に必要な資金を先進国が提供する仕組みづくりの提案が相次いだという。 【10月14日 朝日】
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“温暖化対策は、金融危機に役立つ”かどうかはともかく、食糧・燃料価格高騰、金融危機という一連の危機はこれまでの自由放任的・市場経済主義的なグローバリズムを基本にした世界のほころびであり、今後に向けては、これまでとは違う新たな世界観の提示が求められていると思われます。
その新しい世界観においては、環境問題・温暖化という概念が機軸のひとつになりうるものであり、そういう意味で、環境を重視した世界観の確立は現在の危機的な状況を超えて新たなステージに進む標ともなろうかと思われます。

“今回の金融危機で「世界的な危機に対処するために国際社会は協調できることを示した」”というのはいささか皮肉っぽいところもありますが、また、今回の各国の対策で危機が終息した訳でもありませんが、確かにここ数日の各国政府の協調的対応は「なんだ・・・やればできるじゃん・・・」といった感もありました。

【国の復権】
また、各国政府はせっぱつまった状況に追い込まれていた訳ではありますが、はたから眺めていると、どこか“生き生きとしている”ように見えなくもありませんでした。
市場を席巻してきたマネーに翻弄されてきた“国家”が、久しぶりのその役割を期待されて表舞台に登場した・・・そんな感じもありました。
あるいはヨーロッパにおいては、EUという枠組みに対し、“やっぱり最後は国家なんだよ!”と言う“国の復権”的な思惑もありました。

各国が同じ方向に向かって真剣な対応をとれば、そこそこのことは出来るようです。
問題は、方向と真剣さです。
“先進国と途上国との間の溝”というのは、聞き飽きたフレーズです。

まだその渦中にある金融危機ですが、世界がひとつの舟(ドロ舟だかタイタニック号だかはともかく)に乗っており、自分の国だけは安泰ということはもはやありえないということを示唆しています。
また、中国がアメリカの国債を引き受けるかたちで“最後の貸し手”としての役割を果たすことになっているように、新興国を除外した仕組みもありえないことがわかります。

先月26日には、中国が米国を抜いて世界最大のCO2排出国になったことが明らかにされました。

****CO2排出量、中国が米国抜いて第1位*****
地球温暖化対策に関する国際研究計画「グローバル・カーボン・プロジェクトが26日発表した二酸化炭素(CO2)排出に関する報告書で、中国が米国を抜いて世界最大のCO2排出国になったことが明らかになり、また世界の温室効果ガスのレベルが過去最高となっていると警鐘が鳴らされた。

報告書「カーボン・バジェット2007」によると、2005年までは、世界の人為的なCO2の大半は先進国から排出されていたが、現在は総排出量の半分以上となる53%が開発途上国から排出されている。
特に中国とインドで排出量が大きく増加しており、中国は2006年に米国を抜いて世界第1位となり、インドも間もなくロシアを抜き第3位となる。一方、先進国の増加量は緩やかになっている。

2007年のCO2排出量は炭素約100億トン相当。うち85億トンを化石燃料が、残りは土地利用法の変化、主に森林破壊によるという。
また、以下の点についても指摘されている。
-- CO2排出量は2000年以降、際立って増加している。2000-07年の平均年間上昇率は2.0ppm。これに対し、70年代は1.3ppm、80年代は1.6ppm、90年代は1.5ppmだった。
-- この10年の化石燃料からのCO2排出量は90年代の4倍に上る見通し。
-- 熱帯雨林の森林破壊による07年のCO2排出量は15億トン。【9月27日 AFP】
************************

環境問題は、その原因においても、その影響においても、新興国や途上国自身の問題であり、各国が危機意識を共有してのぞむべきところなのですが・・・。



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ジンバブエ  与野党の連立合意、スタートから危機 独裁の前でもどかしい民主主義

2008-10-14 21:25:09 | 国際情勢

(今月10日 ジンバブエの首都ハラレで行われた人権活動家のデモ 2年以内に新政府に向けた選挙実施を求めています。 こうしたデモはPublic Order and Security Act によって非合法となっています。
11日の閣僚名簿公表後は、更に緊迫した事態になっているのでは.
写真左後方に見える紫の花、ジャカランダが綺麗に咲いています。
“flickr”より By Sokwanele - Zimbabwe
http://www.flickr.com/photos/sokwanele/2934460570/)


【「昨日は敵でも、今日は同じ愛国的な任務と目的地で結ばれている」】
3月の大統領選挙と6月の決選投票以来の政治混乱、ムガベ大統領(84)の横暴が続いているジンバブエでは、新たに首相ポストを設け、3月の大統領選挙でムガベ大統領を上回った最大野党「民主変革運動」(MDC)のツァンギライ議長(56)をこれにあて、与野党の大連立を・・・といういわゆる“ケニア方式”の協議が行われてきましたが、交渉は難航を極めていました。

その後、交渉中断をはさんで9月8日に南アフリカのムベキ大統領の仲介の下、交渉が再開され、9月11日についに合意。
詳細は9月15日に発表される運びになりました。
11日の協議後、ツァンギライ議長は「協議はうまくいった」と述べていました。
また、南アフリカの各紙は、与党を率いるムガベ大統領と最大野党MDCのツァンギライ議長が50対50の等しい権限を得るだろうと報じていました。

ムガベ大統領と野党MDCのツァンギライ議長は15日、与野党による連立政権樹立に関する合意書に署名しました。
合意文書によると、新連立内閣は“ムガベ氏が大統領に留任。軍の指揮権限を維持し内閣を管轄する。一方、ツァンギライ議長は、新設の首相職に就任。警察指揮権限を含む行政をまとめ、内閣を監督する「閣僚会議」の議長も務める。閣僚はMDC分派3人を含む16人が野党から選ばれ、与党「ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線」からは15人となる。”というものでした。
これにより権力が二分され、1980年の独立以来続いたムガベ独裁政権に終止符が打たれることになりました。

******ジンバブエ、ムガベ独裁に終止符 与野党が連立合意に署名******
ハラレで開かれた調印式典には、仲介役を務めたムベキ南アフリカ共和国大統領らアフリカ諸国の首脳が出席。調印後、ムガベ氏とツァンギライ議長は壇上で握手を交わし、会場から大きな拍手がわいた。新首相となったツァンギライ氏は演説で、「(合意は)平和で民主的なジンバブエを築くための最善の機会だ」と強調した。
調印後、ムガベ氏は「我々は同じ道を同じ方向に歩まなくてはならない」と語り、ツァンギライ氏も「昨日は敵でも、今日は同じ愛国的な任務と目的地で結ばれている」と、協調路線を強調した。【9月15日】
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1120万%とも、4000万%とも言われる、想像を絶する記録的なハイパーインフレーション・経済崩壊をよそに3月から続いた政治混乱についに終止符が打たれた・・・と私も非常に喜んだものです。
ただ、与党より野党への閣僚配分が多いというのは「よくこんな案をムガベ大統領がのんだものだ・・・何があったのだろうか?」と不思議な感じがすると同時に、野党に含まれるMDC分派と与党が繋がっているとか何か“裏”があるんじゃないか・・・という懸念も感じました。

【閣僚名簿発表で連立合意撤回の危機】
そして合意翌日の9月16日には、早くも与党とMDCの支持者の衝突が伝えられました。
国内のしこりはなお残っており、合意実施を危ぶむ声も出ているとも。
また、これまでムガベ大統領は欧米の制裁を批判してきましたが、連立合意後もその強硬姿勢を崩していないことも報じられました。

今月10月に入ると、連立内閣の不協和音は決定的になりました。
ムガベ大統領は11日、閣僚名簿を発表。
これによると、警察権を持つ内相、国防相、財務相、さらに外相、司法相、情報広報相など、いわゆる有力ポストを与党が独占し、野党MDCには保健相や公共サービス相など力の弱い閣僚ポストしか与えられないことが明らかになりました。
国民サービスのうえでポストによる軽重はない・・・とは言っても、ムガベ大統領が軍や警察など国の安全保障機関への実質的支配権を維持し、内政・外交の主要部分をも支配することを意味し、これではいかにもバランスを欠いたものです。
MDCは当然これに激しく反発。ツァンギライ議長は「ムガベ大統領が発表した閣僚名簿に固執するならば、連立合意そのものを交渉し直す用意がある」と述べ、連立合意撤回を警告しました。【10月13日 AFP】

10日には、首都ハラレ市内でデモ行進中MDC幹部が警察当局に拘束される事態もおきています。
“連立政権樹立合意を仲介した南アフリカのムベキ前大統領が、与党内の権力闘争に敗れる形で先月、大統領を辞任。有力な調停者がいなくなったことで、混乱に拍車がかかっている。”【10月11日 毎日】とも報じられています。
ムガベ大統領の独裁に対して制裁を続けてきた欧米は、連立政権樹立合意を歓迎していましたが、EUは10月6日、与野党の権力分担の最終合意までは制裁を継続する方針を決めています。

【結果が出せない民主主義、それでも・・・】
どうにも、ムガベ大統領の専横は止まらないようです。
ムガベ大統領に再考の余地があるのか、不合理な配分でもこれをのんで、少しでも漸進することを期するべきか、それとも対決を鮮明にすべきか(対決といっても全ての権力を握るムガベ大統領のもとでは、投獄されるか国外に蹴散らされるかのどっちかですが・・・。)
社会ルールが確立していない場での民主主義というのは、なかなか結果がだせない・・・そんなもどかしさを感じます。

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中国  3中総会で実質的な土地「私有化」、農村の市場経済化に踏み出すか?

2008-10-13 13:08:39 | 国際情勢

(観光地桂林近郊の陽朔の風景 “flickr”より By ninjawil
http://www.flickr.com/photos/ninjawil/200832274/)

(当内容については、一旦アップした後、3中総会決定事項について不確実な部分もあるように思われたため、一部修正・追加しました。10月13日 15時)

*****農民の所得倍増 3中総会閉幕 「調和社会」へてこ入れ*****
中国共産党第17期中央委員会第3回総会(3中総会)は、農村の土地改革などの方針を盛り込んだ「農村改革推進の若干の重大問題に関する決定」を採択し閉幕した。農村の経済発展を政策面で促進する一連の方針が示され、「2020年までに農民の1人当たりの収入を08年の2倍にする」ことを目標に掲げた。都市と農村の格差を是正するため、農村経済へのてこ入れを強化し、胡錦濤総書記(国家主席)が推し進める「調和のとれた社会」の実現を目指す。 【10月13日 産経】
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【拡大する農村問題】
今回の3中総会の主要議題は「農村改革」でした。
中国では農民と都市住民の収入格差は「1対3.33」の割合で、改革・開放政策の開始以来最大に広がっています。
また、土地使用権が十分に保障されない中で、開発による強制収用で土地を失った農民は5000万人ともいわれています。
こうした「失地農民」は不満を募らせており、各地で治安当局と衝突する事件も相次いでいます。
「失地農民」の間では、農民が集団で「土地私有化」を宣言する動きも表面化しています。
このため、社会安定のためには全人口の約6割が暮らす「農村改革」が急務となっていました。

市場経済が浸透した中国ですが、“土地はすべて国のもの”という社会主義の大原則がなお存在します。
しかし、農家あたりの耕地面積が小さいため、効率が悪く農業収入が伸びない問題があり、最近では農地使用権(土地請負経営権)が「公開入札」される動きも出てきているそうです。
“9月中旬、河南省沁陽市で65人の農民らが参加した農地使用権の公開競争入札が全国に先駆けて実施され、“土地改革の新模索”といわれている。”【10月8日 産経】

【土地請負経営権の移転】
胡錦濤総書記は9月30日、「農民が多様な方式で土地請負経営権を流通させ、適度な範囲で経営規模を拡大することを認める」と踏み込んだ発言をしています。
これは、指導部が土地の使用権のさらに自由な流通を可能とする改革を進めようとしている表れとみられていました。

今回の3中総会では、「2020年までに農民の1人当たりの収入を08年の2倍にする」との目標を掲げ、農村経済を活性化させるための具体策としては、農村経営制度の安定化、農地管理ルールの厳格化、農村金融制度の整備などを打ち出しています。

焦点の農地の請負経営権の流動化策は12日に発表されたコミュニケには具体的に盛り込まれていませんが、決定事項には、農民に請負経営権の事実上の転売を認め、使用権を抵当とした資金の借り入れを可能にする方針も含まれているとみられています。【10月12日 毎日】
(請負経営権の売買は、「土地の私有化につながりかねない」という批判も依然根強く、胡錦濤総書記も「売買」とは呼ばずに「移転」と表現しています。【10月9日 朝日】)

【10月13日 産経】も“中国メディアの報道などによると、採択された「決定」の方針に従って整備される新たな土地制度では、農民の土地請負経営権(使用権)が現行の30年から70年に延長され、土地の自由流通も条件付きで認められるという。”と報じています。

ただ、コミュニケに明示されなかったのには、それなりの背景もあるものと思われ、数日中に発表される全文、および、今後の具体的な立法作業が注目されます。

なお、【10月13日 毎日】は“胡錦濤指導部は農地の使用権の転売を認め、経営規模を拡大させて農村の競争力を強化させる方針だ。だが、コミュニケには「農地管理ルールの厳格化」との表現があるだけで、注目された使用権の流動化策は明示されなかった。使用権の転売は、社会主義を掲げる中国で大地主の台頭を招くことにつながるとの懸念が根強い。さらに、農地使用権の保障は、これまで強制収用で開発のうまみを分け合ってきた地方政府や開発業者などにとって不利益につながる可能性も指摘されている。農村改革は、こうした既得権益層からの反発にさらされる可能性もあり、実効性を確保するためには難しいかじ取りを迫られる。”と、今後の不透明さを指摘しています。

【社会保障制度による受け皿づくり】
使用権の流動化策は一方で、農地の請負経営権を手放した農民たちの都市流入が予想されるため、社会保障などの受け皿づくりが必要になりますので、それに向けた、都市と農村の二元管理となっている戸籍などの制度改革に踏み出すことも決定されました。【10月12日 毎日】
現在は、経営権をなくした農民が都市に出稼ぎに行っても、都市・農村の二重戸籍制度によって住宅や教育、福祉面で「二級国民」扱いされる状況が存在します。
今後、社会保障制度を整備して都市・農村の一体化を達成するとしています。

【農村の市場経済化】
今回の改革は、1949年の建国直後に行った土地改革と78年の改革開放に伴う農地の生産請負制(自作農の復活)と並び、「第3次土地革命」と位置づけてられています。
この抜本的な農村改革は、都市と農村の格差を是正することを狙ったものですが、農地の請負経営権の流動化策が明示されれば、実質的な「私有化」へ向けて一歩を踏み出しすことになり、人口の6割が暮らす農村地域も市場経済社会に本格的に組み込まれていくことにもなります。

請負経営権の事実上の転売容認によって、一部では大規模経営が進展し、農家収入も増加するかもしれませんが、一方で、大量の「失地農民」が都市へ流入する事態が想定されます。
市場経済化は必然的に貧富の差を拡大します。
中国当局は、社会保障制度を整備することによってこれを安定化させようとしていますが、どうでしょうか・・・。
はたして「調和のとれた社会」が実現できるのか?

経済活動が多様化に伴い、生活水準も、人々の意識も多様化する社会で、共産党による一元的な政治システムがどこまで対応できるのでしょうか?
政治の面でも多様性を認める方向がやはり必要なのではないでしょうか?

中国当局としては、都市部を中心に急拡大する市場経済社会と農村の間で広がる矛盾を解消するためには、今回のような市場経済化の方向で都市・農村を一本化する措置が不可避なのでしょう。
いずれにしても、“社会主義国”中国が、都市部だけでなく、農村部を巻きこんで一段と市場経済へ向けて大きく舵を切ろうとしているようです。

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アイスランド  金融不安で国家経済破綻の危機

2008-10-12 13:05:32 | 国際情勢

(国有化されたアイスランド第2位の銀行ランズバンキのカード アイスランドではクレジットカードやインターネットバンキングなどによりキャッシュレス決済が進み、現金決済が著しく少ない(GDP比1%以下)ため、金融危機は国民生活をダイレクトに混乱させるのでは。
“flickr”より By Oropel
http://www.flickr.com/photos/pabl_o_matic/2927977101/)

【アイスランドはテロリスト?】
世界を揺るがしてしる金融危機は、震源地アメリカ以上にヨーロッパ金融に大きな動揺をもたらしています。
そのなかでもアイスランドは、相次ぐ銀行国有化やロシアからの借款など、国家経済破綻の危機にあることが報じられています。
また、アイスランドの銀行の預金保護の問題で隣国イギリスとは冷戦状態に陥っており、イギリスは反テロ法により、つまりアイルランドの銀行をテロリスト扱いするような方策で、イギリス国内にあるアイスランドの銀行の資産を凍結に踏み切る対抗手段に訴えています。

****金融危機で冷戦状態に 英がアイスランド銀行の資産凍結******
米国発の金融危機で苦しむ英国とアイスランドの関係が急速に冷え込んでいる。アイスランド政府が、経営破綻した同国の銀行に預けていた英国人や団体の預金を補償できないと表明したことに、英国側が反発。反テロ法を持ち出して、英国内にあるアイスランドの銀行の資産を凍結に踏み切る対抗手段に訴えた。
問題の発端は、アイスランド政府が7日、同国2位の大手ランズバンキ銀行を政府管理下に置いたことだった。
英国で営業しているネット銀行「アイスセーブ」など同行の子会社には、高い金利をあてこんで、アイスランドの人口に匹敵する約30万の英国人・団体が口座を設けていたが、アイスランド政府が口座を凍結。英国人も預金を引き出せなくなってしまった。

英政府は自国民の預金保護をアイスランド側に要請したが、らちがあかず、ダーリング英財務相が「アイスランド政府は補償する気がない」と公言。英政府として「英国民の個人口座は全額補償する」と発表し、預金者の不安の火消しに追われた。
ところがその後、口座を凍結されたアイスランド系の銀行には、英国の地方自治体やロンドン交通局など100以上の団体も約10億万ポンド(約1700億円)を預けていたことが発覚。野党などから、個人に限らず、すべての口座の保護を迫られている。

腹の虫が治まらないブラウン英首相は「アイスランド政府はアイスランド国民だけでなく、英国までも裏切った」と激しい怒りをぶつけた。8日には、9・11テロ後に成立した、国家に危機が迫っていると判断した時にテロリストらの銀行口座を緊急に凍結できる規定を盛り込んだ反テロ法を適用し、アイスランドの銀行が英国内に持つ資産を凍結させてしまった。
これに対してアイスランドのホルデ首相は「英国が我々をテロリスト扱いすることは不愉快だ」と反発している。
財政が悪化したアイスランドは7日、ロシアに対して40億ユーロ(約5400億円)の支援を要請した。ロシアの元情報将校リトビネンコ氏殺害をめぐって外交官を追放し合うなど、ロシアとの関係が悪化している英国には、ロシアに急接近するアイスランドへの感情的な思いもくすぶっているようだ。【10月12日 朝日】
********************

【世界で住むのに最も望ましい国】
アイルランドと混同しやすいアイスランドについては、“氷と火の島”ぐらいのイメージしかありませんが、改めて確認すると、北海道と四国をあわせたぐらいの島に人口はわずか31万人。
ヨーロッパ諸国は小さな国が多いのですが、とりわけ小さな国です。
(いつも思うのですが、日本も自国を米ロや中国などと比較して“小さな島国”と形容しますが、世界標準的には人口大国ですし、面積もそんなに小さな方ではありません。)

かつてはタラ漁業が主な産業だったアイスランドは、200海里の排他的経済水域問題の先駆け的に、イギリスとの間で“タラ戦争”を引き起こし、両国の海軍、沿岸警備隊が互いに発砲や体当たり攻撃するなど、一触即発の事態もかつてはありました。
日本と北朝鮮の間で同様の事態があれば大変な話です。

80年代まで細々とタラで生計を立てていたような小国が、どうやって現在の金融立国に変身したのか、その経緯はよくわかりませんが、金融自由化によって海外からの資金を集め(金融、不動産がGDPにしめる割合は、26%に達しているとか)、めざましい経済拡大をとげました。
アイスランドの全銀行の総資産はGDPのほぼ10倍に達しているそうです。
国民一人当たり所得では世界でもトップレベル(2006年時点で世界5位)、国際競争力は世界4位、ヨーロッパ1位と変身し、国連開発計画(UNDP)が昨年11月発表した年次の人間開発指数によると、世界で最も住むのに望ましいとされる国は、過去6年間首位だったノルウェーに代わりアイスランドが世界第1位となっています。

【金融バブルの崩壊】
しかし、こうした海外からの資金流入による経済活況は急激な物価上昇を伴う“バブル”状態に陥り、昨年からのサブプライムローン問題に端を発する世界的な信用収縮のなかで、一気にはじけてしまいました。
アイスランド当局は、通貨価値防衛、インフレ抑制のため15%を超える高金利政策をとっていましたが、すでに今年5月には北欧諸国からの緊急融資を受け入れるなど“通貨危機”が表面化していました。

別に、アイスランドの銀行が直接アメリカの住宅ローンにかかわっていた訳ではありませんが、世界的信用不安のなかで国家経済の要である金融業が麻痺すると、自国人口以上の海外預金者数をかかえるような状況はもはやコントロールできないところにきたようです。

【欧州は21世紀の日本】
****恐怖、パニック、アイスランドの教訓****
大半の人にとって、危機がとりわけショック――あるいは完全に理解不能――なのは、アイスランドは一見、米国のサブプライム問題とは何ら関係がなさそうに見えることだ。国自体がアイオワ州やカリフォルニア州から8000km離れており、グリトニルなどの銀行も米国の住宅ローンにはほとんど直接投資していなかった。
それでもアイスランドは混乱を逃れることができなかった。ほかの多くの欧州諸国も同様である。信用危機が悪化する中、欧州では政治家が対応策をまとめようと奔走しているだけでなく、大勢の有権者がショックに陥り、「一体なぜだ」と問うている。

1つの要素は、腐ったサブプライムローンが地理的に広がったことだ。1980年代の米国の貯蓄貸付組合(S&L)危機の際は、地元の銀行が損失を負うことになった。不良化した債権を帳簿上に抱えていたのが地元銀行だったからだ。だが2000年以降、ウォール街は証券化――住宅ローンなどの債権を組み換え、パッケージ化して債券にすること――の喜びを見いだし、以来、米国の金融機関は膨大な量の証券化商品を欧州に売ってきた。
2006年になって商売が活況を呈してくると、一部の米国人銀行家は「欧州は21世紀の日本になりつつある」というジョークを飛ばした。誰も欲しがらない資産を大量に買ってくれる投資家という意味である。
あまり騒がれていないが、おかげで欧州の銀行は米国の銀行よりも多額の評価損を計上する羽目に陥った。調査会社クレジットフラックスの試算では、米銀の1500億ドルに対し、欧州の銀行は1800億ドルの損失を計上している。言い換えれば、ウォール街は不良債権の半分以上を輸出したわけで、「メード・イン・アメリカ」という言葉が新たな意味合いを持つことになった。

ある意味では、このパターンは米国にとってプラスに働いた。米銀が奈落の底に落ちるのを防げたからだ。だが、欧州にとっては悲惨な結果をもたらしかねない。欧州の銀行システムは不透明で、サブプライムのリスクがどこに存在しているのか分からないのだ。
そこで、1つの問題が欧州を襲う。投資家の不信感と流動性の危機である。サブプライム絡みの損失などでパニックが広がると、投資家は期間が1~2日を超えての資金融通をやめてしまった。おかげで銀行システムはまるでその日限りの存在と化し、銀行ばかりか企業までが、日々借り換えを余儀なくされる事態に陥った。
これは特にレバレッジを効かせ、資金調達を資本市場に依存する金融機関にとって、脆さと恐怖のレシピとなる。悲しいかな、アイスランドの銀行はほかの多くの欧州の銀行とともに、この範疇に分類される。【2008年10月4/5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
***********************

【パニック】
ロシアからの借款をめぐっても、欧州諸国に融資を拒否されて金策に窮しロシアにすがったものですが、アイスランド中央銀行がロシア政府の承諾を得たと発表したその日に、ロシアの副財務相がこれを否定するなど、一時“パニック”の様相を呈していました。
また、アイスランド通貨であるクローナが急落したため、ユーロに固定する計画を発表しましたが、その翌週には、これを断念するといった混乱も見られました。
ハーデ首相は9日、国際通貨基金(IMF)による支援について、選択肢ではあるが必要になるとは考えていないとの見解を表明しています。

いくら小国とは言え、一国の経済がヨーロッパで決定的に破綻すると、その影響は更にヨーロッパ全土に、更には日本を含めた世界全体に波及することも考えられます。
数ヶ月前の食糧・燃料価格高騰、更に今回の金融不安・・・マネーの暴走を止められなかった“ツケ”を払うかたちになっています。



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