孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフリカ  ガバナンス向上、一様ではない事情、シサノ元モザンビーク大統領のこと

2008-10-11 19:00:43 | 世相

(壁に書かれたシサノ元大統領を称える言葉の前を行くバナナ売り モザンビーク
“flickr”より By Pesterussa
http://www.flickr.com/photos/pesterussa/82615866/)

【1位モーリシャス 最下位ソマリア】
サハラ以南のアフリカ48か国中、約3分の2にあたる31か国でガバナンス(国の統治)が向上したそうです。
いささか「へえー、そうなの?」と言いたくもなりますが、認識不足なのでしょう。
アフリカのガバナンス向上とアフリカへの投資の呼び込みを目指すモ・イブラヒム基金というところが発表したものです。
スーダン人のモ・イブラヒム氏から提供されている基金で、イブラヒム社は携帯電話で富を築いた企業だそうです。

****サハラ以南のアフリカ諸国の大半でガバナンス向上*****
指標は、2005-06年のデータをもとにしたもの。エチオピアの首都アディスアベバで記者会見した同基金創設者のモ・イブラヒム氏は、アフリカでは人権の尊重と政治参加の2点で大きな改善が見られたと語った。
指標の上位は、島国が独占した。1位はモーリシャスで、100点満点中85.1点、2位はセーシェル、3位はカボベルデ。以下、ボツワナ、南アフリカと続く。
また、改善率が最も高かったのは、38位にランクしたリベリアだった。
最下位はソマリアで、指標は前年からさらに下げて18.9点だった。
アフリカの角(ソマリア、エチオピア、ジブチ)は、サハラ以南では唯一、指標を下げており、中でも人権侵害が横行するエチオピアの下げ幅が大きい。【10月7日 AFP】
******************

“カボベルデ”・・・初めて名前を聞く国ですが、西アフリカのセネガルの沖合いにある諸島からなる国です。
小さな島国以外では、ボツワナ、南アフリカということですが、南アフリカでは隣国ジンバブエの政治・経済混乱から流入した大量の難民・移民労働者をめぐって、大勢の死傷者をだす外国人排斥運動がおきています。
そのことだけ見ても、いささか「どうかな・・・」という感じがします。
ソマリアの最下位、アフリカの角の国々での悪化は、うなずけるところです。

【固定観念】
ただ、アフリカというと紛争・内乱・混乱などをイメージしてしまうのは、やはりステレオタイプな固定観念なのでしょう。
多くの国々で改善の取組みがなされているのでしょう。

固定観念についていえば、政治・経済あるいは人権侵害といった話だけではありません。
例えば、
“スワジランド国王ムスワティ3世に捧げられる毎年恒例のダンスの儀式「リードダンス」が、首都ムババーネ郊外の宮殿で開催され、過去最高の7万人の少女たちが参加した。
若い処女のみの参加が許されるこの儀式の最終日には、カラフルな伝統衣装をまとった少女たちが各地から集合し、自分たちの文化と美徳への誇りをダンスに込めた。最年少の参加者は6歳だ。
ムスワティ3世には13人の妻がいるが、ダンサーの中から気に入った女性を14人目の妻にめとる可能性もある。「王様に選ばれることは、至上の幸せ。わたしもいつか(妻になって)宮殿の1つをあてがわれたいものだわ」と、(参加者のひとり)Hlongwaさんははにかみながら話した。【9月2日 AFP】”
といった記事を目にすると、つい“鼻に骨をさした現地の人がドラムを叩いている”そんな大昔の漫画のイメージを思い浮かべてしまうのですが、それは現地の風俗・文化を理解していない偏見というものなのでしょう。

しかし、アフリカで今も紛争・混乱が絶えないのも事実です。
なぜか?
その問題についてコンパクトにまとめた記事を、たまたま今日目にしました。

****飢餓と紛争は減ったのか? ひとくくりに語れないアフリカ大陸事情****
過去に比べ、アフリカの紛争は減少傾向にある。しかし、依然として国連平和維持活動(PKO)の半数がアフリカに集中し、難民の数も膨大だ。
紛争の原因はさまざまだが、第二次世界大戦後まで列強、つまり欧米諸国がアフリカを支配していたことに主因がある。
約900もの民族がひしめくアフリカ大陸だが、列強は彼らの生活を無視し自らの都合で、国境を線引きした。また、効率的に支配するために、一部の少数民族を支配者側に取り込み、優遇したケースもあった。それが今でも尾を引いているのだ。
映画にもなったルワンダでの虐殺はその典型例だろう。ドイツやベルギーが少数民族のツチを優遇したために、後にフツの恨みを買い80万もの人びとが殺されたのだ。

一方、近年では原油や食料などの資源価格が高騰していることも紛争の原因となっている。
ナイジェリアでは欧米の石油メジャーがナイジェリア人の権益を不当に奪っているとして資源ナショナリズムともいえる民族運動が頻発。暴動のニュースが流れるたびに原油の国際価格が乱高下している。
また、アフリカ諸国は食料の多くを輸入に頼るため、食料価格の値上がりを理由に暴動が多発し、死者も出ている。最近だけでも、エジプト、エチオピア、モロッコ、カメルーンなどなどの名前が挙がる。

反対に資源価格の高騰で政情が安定するケースもある。
たとえば、アルジェリアでは反政府組織によるテロが頻発していたが、資源価格高騰により力をつけた政府が鎮圧に成功した。

このようにアフリカには、安全な地域とそうでない地域がまだら模様になっているのだ。
地理的に遠く離れていること、情報が少ないことなどから、日本ではアフリカ大陸というと即、飢餓や紛争、難民のイメージを結び付けてしまう傾向がある。

しかし、アフリカでのビジネスに長くかかわってきた加藤裕・伊藤忠商事執行役員機械カンパニー産機ソリューション部門長は「そもそも、アフリカ大陸全体をひとくくりに見てはいけない」と説く。
たとえば、北部のチュニジア、アルジェリア、モロッコなど「マグレブ」と呼ばれる地域の街並みはヨーロッパに近く、比較的安全だ。紛争は、サハラ砂漠より南の「サブサハラ」地域に集中しているのだ。

また、アフリカ大陸随一の大国、南アフリカ共和国内部には先進国並みに治安のよい地域もあれば、非常に危険な地域もある。特に、最近では政情が不安定なジンバブエから流入した難民への排斥運動が起こり、40人以上が死亡している。アフリカといってもいろいろなのである。【10月11日 DIAMOND online】
*************************

“欧米諸国のアフリカ支配”がアフリカの現状に大きな影響を与えていることは間違いないところです。
どの程度その影響をみるか、現状の主因がその点なのか・・・ということについては、いろんな考え方もあるところでしょうが。

【シサノ元モザンビーク大統領の「モ・イブラヒム賞」】
なお、冒頭のモ・イブラヒム基金では、グッド・ガバナンス(良い統治)で功績を残した人物に贈られる「モ・イブラヒム賞」も創設しています。
第1回の前年は、モザンビーク(マダガスカルの対岸の国)のシサノ元大統領が受賞したそうです。

シサノ氏は1986年から2005までモザンビークを導いた大統領で、それまでの社会主義的な政策をあらため自由主義的な政策と石油・天然ガスなどのエネルギー開発で、内戦によって疲弊した国を建て直し政治的安定と経済成長(年率8~10%)をもたらしたとして国際的に評価されている人物です。
先日来日して講演会があったようです。

その講演を紹介した「日々雑記いろいろあらーなカルスタクラブ」というブログ
http://page.cafe.ocn.ne.jp/profile/haruniwa/diary/200808A)を読むと、
「内戦、civil warとは、国内の市民同士が戦うことをいう。しかし、モザンビークでの戦いは、モザンビーク市民と、モザンビークの独立を阻止しようとする外国勢力の戦いでした」
(“開発”ということについて)「ことば云々でなく、開発後の富が国民に還元されることが大事」
「平等と自由こそ平和への道」
といったようなことを語っているようです。

その施策や功績についてはまったく知りませんが、シサノ元大統領について特筆すべきは、国の運営が軌道にのったあと自発的に大統領の座を明け渡していることです。
多くのアフリカの指導者のようにいつまでも権力にしがみついたり、一族で富を独占したり・・・そういうことはやっていないそうで、退任後は「シサノ財団」を設立し、国民の教育や福祉のために働いているとか。
額面どおり受け取ってよければ、たしかに“アフリカのノーベル賞”を目指す「モ・イブラヒム賞」にふさわしい人物かも。

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コソボ独立と分割案で問われる“領土的一体性” 

2008-10-10 18:25:54 | 国際情勢

(コソボ独立に抗議するセリビア女性 抗議運動もこのような穏やかなもので収まれば問題もないのですが・・・ “flickr”より By peregrinari
http://www.flickr.com/photos/peregrinari/2290059269/)

今日も東京証券市場は暴落を続けており、円は一時97円台まで上昇。
更に、大和生命は経営破たん・・・ということで、世間の関心は今後の経済動向に集まっています。

【領土的一体性】そんなやや騒然とした雰囲気のなか、最近目にすることが少なくなったコソボ・セルビアの話題。
ゲーツ米国防長官が今月7日、コソボを訪問しサチ首相と会談しましたが、2月にコソボが一方的に独立を宣言して以来、コソボを訪れた初の米閣僚だそうです。
これまで米閣僚の訪問がなかったのも意外な感じがしますが、セルビアやロシアを刺激しないようにとの
配慮でしょうか。

コソボには現在、NATO主体の平和履行部隊(KFOR)の一部として約1500人の米兵が駐留していますが、ゲーツ米国防長官は今後も駐留を続けること、また、コソボ治安部隊のために装備や訓練面の支援を行うことを表明しています。

また、ゲーツ米国防長官は、アメリカがコソボの分割に反対であることを強調しました。
コソボの人口200万人のうち大部分はアルバニア人ですが、少数派のセルビア人のほとんどは北部に住んでいます。コソボ独立を容認していないセルビアのタディッチ大統領は、ほかのすべての選択肢が失敗した場合という前提ですが、セルビア人の多い北部をコソボから分割するという方策に言及しています。

ゲーツ長官は「現在だけでなく将来にわたっても、分割は解決策ではない。米国はコソボの領土的一体性を支持する」と述べてこの分割案を否定したそうです。
現実的と言えば言えなくもない方策にも思えますが、仮に分割した場合、今度はその北部に居住する少数アルバニア人はどうするのか・・・という問題も出てきそうです。

それにしても、コソボ独立で無視されたセルビアにとっての“領土的一体性”を思うと、アメリカもよく平気で“領土的一体性”なんて口にできるものだと感心します。
皮肉でもなく、そうした豹変ぶり、ご都合主義は外交に限らず世の中の常であり、特段どうこう言うべきものではないのでしょう。

【国際司法裁判所判断を仰ぐ】
一方、セルビアは、コソボの一方的分離独立が「国際法に従っている」かどうかについて、国際司法裁判所に判断を要請する決議案を国連総会に提出しました。
セルビアのイェレミッチ外相は、セルビアにとって「外交と国際法を通じて主権と領土的一体性を守る」ための取り組みだと説明しています。

また、決議案提出が検討されていた9月初旬の段階で、同外相は「コソボ分離を受け入れることはできないが、セルビアは問題を平和的に外交手段で解決する」と表明したうえで、決議案について、セルビアがコソボ独立の承認国を被告として国際司法裁判所に訴えるのではなく、コソボ独立が国際法上違法なものでないか、同裁判所の見解をただす手続きになると強調しています。

この決議案は8日、賛成77票、棄権74票、反対6票で採択されました。
投票に際しては、セルビアが加盟を強く希望しているEUの加盟27か国の大半は、投票を棄権しています。

****外相は勧告を受け入れる姿勢も示している。セルビアの欧州連合(EU)加盟を前進させるため、コソボ問題で欧米に歩み寄ったものと見られる。
セルビアは現時点でコソボ独立を認めない立場を変えていない。だが、7月に発足したツベトコビッチ政権は、欧州連合(EU)への加盟方針を掲げ、独立承認国から引き揚げた外交官を再派遣するなど欧州との亀裂修復へ動いている。【9月5日 毎日】******

上記の記事によれば、今回決議案は対立を煽るものではなく、国際司法裁判所の勧告受入れという形で、国際社会復帰への道筋をつくるもの・・・ということのようです。
もし、独立を否定するような勧告が出たら?
よくわかりません。

なお、旧ユーゴスラビアのモンテネグロとマケドニアは昨日9日、コソボを承認しました。
06年にセルビアから分離したモンテネグロ、アルバニア人を国内に抱えるマケドニア・・・いろいろ複雑な事情も抱えながらの承認でしょう。
モンテネグロ、マケドニア両国は「コソボ承認は反セルビアを意味しない」と訴えています。
しかし、セルビアのイエレミッチ外相はモンテネグロの駐セルビア大使の追放という厳しい対抗措置を発表しています。

セルビアが今後どのような道筋を描くか難しいところですが、コソボも世界の関心が引いた後、どのように国を運営していくか、これまた大変だと思います。
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太陽がいっぱい  アフリカでの太陽光利用

2008-10-09 17:03:08 | 環境

(スペイン・アンダルシア地方のセビリア郊外にあるタワー式太陽熱発電所「PS10」。地上に配置された624枚の鏡が反射光をタワー上部に集め、その熱で蒸気をつくり発電する仕組みです。“flickr”より By afloresm
http://www.flickr.com/photos/afloresm/2115197141/in/photostream/

【太陽熱発電と太陽光発電】
太陽光の活用の場合、化石燃料のように資源枯渇の問題もなく、今日的課題であるCO2排出の面でも優れていることは素人でも容易に想像できます。
一方で、導入コストや効率の問題がありそうなことも想像できます。
立地条件は?

太陽光発電と太陽熱発電の違いもよく知らなかったのですが、太陽光発電の場合は太陽電池を利用して直接電力に変える、いわゆるソーラー発電であり、一方、太陽熱発電というのは太陽の光を熱エネルギーとして活用する、つまり光を集めて熱を高め、その熱で水蒸気を発生させ発電タービンを回す・・・簡単に言うとそういった仕組みのようです。

太陽光発電の太陽電池は小さなものなら腕時計から、住宅・建物の屋根や壁など、大きさ・場所の制約はあまりないようですが、太陽熱発電の場合はかなり広い場所と大掛かりな設備が必要になります。
その立地も、乾燥・砂漠地帯など、日照時間が長い場所が適地となります。
その点で、日本の場合、太陽熱発電はあまり可能性は高くないようです。
ただ、太陽熱発電の場合、熱としてエネルギーを蓄えることができるので、夜間を含めた24時間発電が可能になります。

太陽熱発電で、多くの鏡で一点に光を集中させるのがタワー式、これに対し、分散配置された鏡の前に設置されたパイプに太陽光を集中させ、パイプ内を流れる液体(オイルなど)を加熱し、その熱で発電するのがトラフだそうです。

【欧州のフライパン、アンダルシア】
写真の施設があるスペイン南部・アンダルシア地方は、「欧州のフライパン」と称されるほど日差しが強く、太陽熱発電には都合がいい土地柄です。
この施設では、タワー式だけでなく、トラフ式などいろんなタイプも建設し、12年には8平方キロの敷地に計30万キロワットの総合発電所をつくる計画です。
これは、黒部第四発電所級の大型水力発電所の出力に相当し、太陽電池のパネルを10万軒の住宅につけた量にあたるそうです。

****太陽光、次代照らす〈環境元年 太陽ウオーズ1〉****
太陽熱発電は太陽利用の幅を広げる先端技術だ。スペインは、光を電気に換える太陽電池による発電でも急伸し、世界を驚かせている。
太陽電池の累積導入量は、05年には6万キロワットだったのが07年には68万キロワットと増え、今年末には180万キロワット、全発電量の0.5%ほどになる見通し。05年にドイツに抜かれて導入量世界2位となった日本では今年、20万キロワットほどの増加にとどまるとみられ、スペインでの増え方は日本の約5倍に達する。
もともとスペインは風力発電が約10%を占める風力大国だった。
欧州では、風力が拡大して一般的な電源の一つとなる一方、立地の制約も出てきたため、支援の力点は太陽光に移りつつある。日差しに恵まれたスペインは、その流れの最前線にある。

発電での二酸化炭素(CO2)排出量は、太陽電池の場合、製造過程で出る分を含めても石炭火力の18分の1ほどでしかない。地球温暖化対策として有効なのに加え、原油の高騰もあり、最近の世界の太陽電池市場は年40%の伸びを示している。07年の生産量は370万キロワットで、03年の5倍に膨らんだ。
「石油が枯渇する時代に、欧州の人は太陽光発電を『現代の油田』と考えている」。日本のトップメーカーであるシャープの浜野稔重(とししげ)副社長は、そう話す。
 
欧州には、日差しの強い北アフリカ諸国で発電して南欧に電気を送る「スーパー送電網」計画もある。次に狙うのは「サハラ砂漠の太陽」だ。
石油にどっぷりつかってきた米国でさえ、エネルギー省が太陽電池の技術開発支援などに乗り出した。エネルギー資源の中東依存からの脱却という意味もある。州レベルでも「100万戸ソーラー・ルーフ計画」(カリフォルニア州)といった強力な支援策を設ける動きが続く。
欧州の業界団体などの推計では、世界の発電量のうち太陽光は30年には最大14%を占め、関連産業の市場規模は、デジタルカメラや携帯電話などデジタル家電全体に匹敵する約70兆円にのぼる。 【10月6日】
**************

記事にも「サハラ砂漠の太陽」とありますが、サハラ砂漠地帯が太陽光の活用にうってつけなのは、これまた素人にも想像できます。
しかし、電力が不足しているアフリカでは、太陽光は殆ど活用されていません。

【太陽エネルギーが手つかずのアフリカ】
******太陽光にあふれたアフリカ、ソーラー発電にはほど遠く****
家庭のソーラーパネルから大規模な発電機に至るまで、太陽光発電は世界中で爆発的な成長を遂げている。だが太陽光の宝庫であるはずのアフリカは、こうしたブームから取り残されている。
1平方メートルあたり平均して1時間5-7キロワットの太陽光を受けているアフリカ大陸は、オーストラリア北部とアラビア半島に並ぶ世界最大の太陽エネルギー生産地となる可能性を秘めている。しかしアフリカ大陸における生産量は微々たるもので、しかも太陽光発電が行われているのは南アフリカ1国のみというのが現状だ。

国連環境計画の専門家は、「アフリカでは従来の送電システムが不安定なこともあり、太陽光発電の潜在的な利点に注目が集まりつつある」と指摘する。
実際、エネルギーの整備は急を要する問題だ。現在、電気を利用できる人は、サハラ以南では4人に1人、サハラ以南の農村部に限ると10人に1人という割合だ。

アフリカで太陽エネルギーが手つかずとなっている原因は、「コスト」だ。太陽電池を使用するソーラーパネルも太陽熱発電システムも、裕福な国々の産物であり、関税優遇や値下げをもってしても最貧国には手が届かない。
また、アフリカでは、太陽光発電には「小規模、限定的」というイメージがあるほか、「太陽光発電を導入すると村に電気を引いてもらえなくなるのでは」との懸念から、導入に反対する村落もある。
だが、電話線を引くよりも費用効率が高い「携帯電話」が、爆発的に普及したという先例がある。

一部の国は、村落レベルでの太陽エネルギーの活用を推進するための政策を打ち出している。
たとえば西アフリカのブルキナファソは、ソーラーパネルを購入するためのマイクロクレジットを政府が提供している。返済は2-3年以内に行えばいいというシステムだ。ガーナも、太陽エネルギーに関する奨励金制度の導入を検討している。
また、大陸レベルでは、地中海周辺諸国とEUが参加する地中海連合が、サハラ砂漠に巨大太陽光発電機を設置する計画を発表している。2050年までに100ギガワットを生産する予定で、北アフリカ一帯と欧州の一部に供給されるという。
一方、サハラ以南の地域は、インフラの不備や一部の国々における慢性的な政情不安により、こうした投資を呼び込むことは難しいだろうと、専門家は口をそろえる。【9月29日 AFP】
******************

【こんなときこそビジョンを】
記事にある携帯電話の例は非常に参考になります。
個人的に観光旅行で訪れる多くの国々で携帯電話は驚くほどの普及を見せています。
設備投資が必要な固定電話を飛び越えて、一気に携帯電話の時代へ突入しています。

電気が普及していない多くの地域で、分散的・小規模な太陽電池の活用はメリットも大きく、実現可能性において現実的でもあります。
問題はメンテナンスの仕組みをどのように構築するか・・・ということでしょうか。

サハラから南欧への「スーパー送電網」もいいですが、電力消費国のヨーロッパだけでなく、現地住民にとってどのようなメリットがあり、どのような問題が生じるのかという点をきちんと整理して進めてもらいたいところです。

日本も金融不安の波に呑み込まれ、景気の先行きに暗雲が垂れ込めています。
こうした従来型のシステムが揺らいでいるときこそ、将来に向けた明確なビジョンが政治に求められます。
太陽光発電などの分野は、技術的にも実績があり、今後日本が力を入れていくことが期待されるところでしょう。
日本国内における自然エネルギー活用という観点だけでなく、上記のような電力不足地域への利用可能な安価で堅固な技術の提供が出来れば、大きな国際貢献になります。



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タイ  漂流するタイ民主主義 警官隊と衝突で“流血の事態”へ

2008-10-08 18:22:04 | 世相

(タイ・バンコク PADが占拠する首相府近辺で売られているスリッパ 描かれているのはタクシン元首相夫妻の顔のようです。
“flickr”より By euke_1974
http://www.flickr.com/photos/8560588@N04/2910363960/)

【料理番組で首相失職、元首相の義弟が組閣】
タイ・バンコクでの反政府団体・民主主義市民連合(PAD)による首相府の占拠は、しばらく下火となっていました。
しかし、PAD最高幹部のチャムロン元バンコク知事が逮捕された(運動の再活性化を狙って敢えて出頭した・・・とも見られています。)のを契機に、警官隊との衝突、催涙弾使用、死者の発生、400人超の負傷者など、緊迫した状況に転じています。

これまでも3回(8月29日、9月2日、9月11日)ほどPADの活動を取り上げてきました。
その最初の8月29日に「タイ 長引きそうな首相府占拠 再び対峙するチャムロン氏とサマック首相」というタイトルを付けたのですが、正直ここまで長引くとは思いませんでした。

この間、一方の当事者であるサマック氏は趣味の料理番組出演がもとで失職し、ソムチャイ首相に交代しました。
ソムチャイ首相は下院議員に初当選して政治家経験はわずか9カ月の“新人”。
“06年9月のクーデターで政権を追われたタクシン元首相の義弟ではあるが、周囲の評は「清廉で穏やかな紳士」。強権・腐敗体質が批判を浴びたタクシン氏とは対照的な人物像”【9月17日 毎日】だそうです。
ただ、サマック氏と同じ与党“国民の力党”で、かつ、タクシン元首相の義弟の“新人”とあっては、反政府団体による「タクシン氏の操り人形」との批判が止むとは思えませんでした。

ベテラン大物政治家でタクシン元首相とは一定の距離を置くサマック元首相のほうが、はるかに独自性があったと思われます。
国家汚職防止法違反罪に問われ英国に逃亡中のタクシン氏(すでに亡命申請したそうです。)が首相候補者の選定で、ソムチャイ氏支持の意向を伝えたとされる・・・とあっては、“操り人形”批判も止むをえないところです。

PADの首相府占拠という事態の背景については、わかりやすい下記の記事がありました。

****From:バンコク・藤田悟 「タイ式民主主義」に限界*****
反政府団体による首相府占拠という異常事態の背景には、01年から5年半続いたタクシン政治以来の権力闘争がある。
自ら築いた新興財閥を基盤に政界に進出したタクシン元首相は、政府のCEO(最高経営責任者)を自称し、政治の世界にも企業的合理主義を導入した。その政治手法は、グローバリズムに乗った経済成長や官僚制度の効率化など前進をもたらした一方、旧貴族層による経済支配を突き崩し、利権構造の大変化をもたらした。市場原理を最大原則とした政治・経済改革は、王室を頂点とする伝統的社会構造への挑戦でもあったのだ。

「権力独占・腐敗」の汚名を着せられたタクシン政権は06年9月のクーデターで崩壊し、タクシン派は政治の表舞台から退いた。しかし、昨年12月の総選挙では、「タクシン元首相の代理人」を称するサマック氏が率いた「国民の力党」が勝利し、タクシン派が政権に返り咲いた。主に地方の有権者たちがタクシン時代の「ばらまき型政治」に期待を託した結果だ。

これに対し、「民主市民連合」は、首相府占拠という過激な手段で政権攻撃を始めた。市民団体の体裁を取るが、水面下ではタクシン時代に利権を失った企業家らが資金提供しているといわれる。選挙では勝てない旧支配層が権力奪還を企てた「タクシン派つぶし」だといえる。

対決構図を複雑化させているのが司法の介在だ。最高司法機関の憲法裁判所は「料理番組出演」というささいな事由でサマック首相を失職させた。最大与党の解党につながる選挙違反事件も審理される見通しで、「タクシン派つぶし」に加担しているように見える。
 
タイの安定は従来、国王という「安全装置」に支えられてきた。政治危機の際には国王が助言して対立を収めてくれるという意識が国民に浸透し、王室の権威と民主主義が共存する「タイ式民主主義」という考え方につながった。だがこの発想は逆に、国民自らの手で危機を克服するという政治意識の成熟を妨げたことも否定できない。
プミポン国王が80歳という高齢の今、「タイ式」は限界を露呈し始めたようだ。06年の政治混乱時に「民主主義による解決」を促した国王は今回、表立って介入する気配はない。06年のクーデターが国際社会の不評を浴びた軍もかたくなに中立姿勢を保っている。
 
新たな構図の中での政治危機は国民に選択を迫っている。「タイ式」に名を借りた権威主義に寄りかかるのか。それとも民主的手段で対立を克服し、より普遍的な民主主義へと脱皮するのか。タイ社会は歴史的に重要な節目を迎えているように見える。【9月22日 毎日】
***************************

【司法の介在、政府は機能麻痺】
特に付け加えることもありませんが、司法の介在について言えば、記事にもある与党の解党につながる選挙違反事件の審理のほか、タイ選挙管理委員会は9月29日、ソムチャイ首相の株保有が憲法に違反する疑いがあるとして調査を始めるとの報道もありました。
憲法裁が選管から提訴を受け違憲判決を下した場合、ソムチャイ首相は議員資格と首相の職を失うことになります。

また、ニューヨークでの国連総会に出席していたタイのソムポン外相が、「憲法違反に問われる恐れがある」ことを理由に予定されていた総会での演説を取りやめるという事態も起きています。
タイの憲法は「新内閣はまず国会で基本政策指針を示さなければならない」と定めていますが、発足したばかりのソムチャイ新政権はまだこの手続きを終えていないため、外相は「国会より前に外交演説をするのはまずい」と判断したということです。

司法判断の行方を慮って戦々恐々としている・・・といった感があり、政治が機能を麻痺しているようにも見えます。
こうした事態に、国境紛争で最近タイと揉めることが多いカンボジアのフン・セン首相が「タイは(12月にバンコクで予定されている)ASEAN首脳会議を無事、開けるのか?」と発言をし、開催国の変更の可能性に言及したそうです。
当然ながらタイは「政治の混乱は国内問題であり、他国は干渉すべきでない」(政府報道官)と不快感をあらわにしたそうですが・・・。

【選挙に勝てないPAD 民意は?】
一方、反タクシン派のPADは「民主主義の機能不全」を理由に、下院議員の相当数を任命制にする構想を打ち出し、「多大な犠牲を払ったこれまでの民主化闘争を否定するものだ」と強い批判を浴びました。
現在のタクシン派は、そのバラマキ政策のせいかどうかは別として、北部、東北部の農民など貧困層の強い支持を受けており、仮に再選挙をやっても反タクシン派に勝ち目はないところから、“任命制”の考えが出てきたようです。
しかし、これはPADの活動が反タクシンの権力闘争以外の何物でもなく、“民主化運動”などではありえないことを公言していているかのようなものです。
“選挙では勝てないから、力ずくで・・・”と言うのであれば、それは“民間クーデター”です。

ソムチャイ内閣には、かつて首相を務めたこともあるチャワリット元陸軍司令官が格下の治安担当副首相として入閣しました。その理由を「タイはかつて域内で並ぶものがなかった。それが今ではカンボジアやミャンマー並みだ。先祖にどう顔向けすればいいのか」と語っていました。
そのチャワリット副首相はPADとのパイプ役も期待されていましたが、今回の混乱の責任をとって辞任したようです。

【金の切れ目が縁の切れ目】
なお、タクシン元首相の影響力低下も伝えられています。
ソムチャイ首相選定時にもタクシン元首相の意向に対し与党内に異論が出たそうですが、党員の一部は先月21日、新党「プアタイ」を設立。
東北部の議員らの派閥は別の党の設立を検討中とも。
亡命、資産没収という事態で“元首相から十分な資金が期待出来ないと”という観測が広まっているためとも言われています。
金の切れ目が縁の切れ目で、次期総選挙で「タクシン王国」の分裂は避けられないとの見方が強まっている【9月24日 朝日】・・・と言うのも、あまりにもわかりやすい話です。

軍は先のクーデターに懲りて“火中のクリ”を拾いたがらず、プミポン国王も介入されず、タクシン元首相の影響力も薄れ、失職・解党を命じる司法判断を気にしつつ・・・権力闘争に明け暮れるタイの民主主義はどこへ漂流するのか?
首相府敷地内にはPADメンバーが植えた稲が育ち、ソムチャイ政権は閣議を北約20キロの旧空港施設で開いています。

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世界金融不安で再認識する相互依存関係 ワンワールド・ワンナイトメア

2008-10-07 19:27:26 | 国際情勢

(タイトルは“Mortgage Meltdown” 滝つぼに押し流される家々 黒い影は雄牛でウォール街を表したものとか “flickr”より By ocean.flynn
http://www.flickr.com/photos/oceanflynn/2345447723/)

【米:台湾への武器輸出承認】
アメリカ・ブッシュ米政権は今月3日、弾道ミサイルを撃ち落とす地対空誘導弾パトリオット・ミサイル3(PAC3)330発や攻撃ヘリAH64D「アパッチ・ロングボー」30機などの兵器総額60億ドル(6420億円)相当を台湾に輸出すると米議会に通告しました。
潜水艦発射型対艦ミサイル「ハープーン」32発と歩兵携行式多目的誘導ミサイル「ジャベリン」182発、台湾空軍が保有する米国製F5、F16戦闘機の部品なども供与されます。

“今回の措置は、中台の軍事的均衡の安定化を図る狙いがある。しかし、台湾が米国に供与を求めていたディーゼル潜水艦や多用途ヘリUH60「ブラックホーク」は今回の輸出計画に含まれておらず、中国にも一定の配慮を示した形だ。”【10月4日 読売】とのこと。

もちろん、中国は「中国政府と国民はこの措置に断固反対する。同措置は中国の利益や中米関係に重大な影響を及ぼす」と非難しています。
“劉外務相報道局長は武器売却計画について、「中国と米国間の3つの共同コミュニケに盛り込まれた原則に違反する」とし、「これは中国の国内問題に著しく干渉し、国家の安全を危うくし、中台関係の平和的な発展を妨げるものだ」と指摘した。さらに「われわれは米国に対し、世界に中国は一つしかなく、台湾は中国の一部であると厳重に警告する」と述べた。そのうえで劉局長は米国に対し、武器売却計画を取りやめ、台湾との軍事関係を打ち切るよう求めた。”【10月5日 時事】
今日のニュースによると、中国は米国による台湾への武器売却計画に抗議し、米国との軍事交流の中止や延期を伝えてきたそうです。

【中国:最後の貸し手】
中国を意識したアメリカの戦略、中国の予想された反発・・・というところですが、一方で、金融不安への対応で巨額の資金を必要とするアメリカと中国の間では、中国が大量の米国債を引き受ける形で、アメリカ経済崩壊、世界恐慌発生を食い止める“最後の貸し手”として浮上しているという話もあります。

****中国:2000億ドル規模の米国債、新たに引き受けか****
米国が先週末に金融安定化法を可決したことを受け、中国が最大2000億ドル(約21兆円)規模の米国債を新たに引き受ける案が浮上している。金融不安の拡大で米国債への不安が高まる中、日本と並ぶ対米国債を保有する中国が資金を供給することでドル不安の再燃を回避する狙いがあると見られる。中国の複数のメディアが6日、香港紙「明報」を引用して報じた。
(中略) 胡錦濤国家主席は先月22日、米ブッシュ大統領との電話会談で米国の金融情勢を巡って協議しており、市場筋は「この際、ブッシュ大統領から米国の資金調達への協力を求められた可能性が高い」と指摘している。

米財務省の統計によると、中国の米国債保有額は7月末で5187億ドルと、日本の5934億ドルに次ぎ世界で2番目。最近数年間では、最大の引き受け手になっているとみられる。9日から始まる共産党の重要会議で議論されるのは必至だ。
 米国債を大量に保有するアジア諸国では、米国債価格の下落(金利は上昇)により、金融不安に拍車がかかることに懸念が広がっている。韓国の李明博大統領は6日、24~25日に北京で開かれるアジア欧州会議(ASEM)首脳会合で、日中韓3カ国の首脳会談開催を提案する考えを表明したほか、中国人民銀行元政策委員の余永定氏も先月、一部メディアの取材に「米国債を大量に保有する国が、パニック売りで米国債の価格を急落させないよう、東アジア諸国間の話し合いが必要」と指摘するなど、協調態勢構築を模索する動きも出始めている。 【10月6日 毎日】
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【中国からの警告】
アメリカ経済を支える役回りが中国というのも面白い展開です。
なお、8月末から9月にアメリカ住宅債券市場の動揺が始まったのも中国からの“警告”によるものだそうです。

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中国政府はこの6月末時点で約6500億ドルの両住宅金融2社関連を中心とする米政府機関債を保有し、第2位の日本2600億ドルを大きく上回っている。豊富な石油収入を持つ中東産油国でも240億ドルに過ぎない。
中国はブッシュ大統領が北京五輪出席を正式表明する6月までは政府機関債を買い増ししてきた。ところが、北京五輪が終了した後の8月28日、大手国有商銀の中国銀行は米住宅金融2社の発行債券を約40億ドル減らしたと発表した。このニュースが号砲となって、住宅債券市場の動揺が始まった。中国銀行の発表は、党中央の警告と市場は受け取った。

ワシントンでは、ポールソン財務長官が急ぎ住宅金融2社への公的資金注入の具体策の検討に着手し、2社を米政府の直接管理下に置いて債券を買い支えると、9月7日の日曜に緊急発表した。発表前に、マコーマック財務次官(国際担当)は真っ先に北京の周小川人民銀行総裁に電話し、「安心してほしい」と説明。これに対し、中国人民銀行はただちに声明を発表して「この政策は前向きで市場を安定させる」と歓迎する意向を表明した。【9月30日 産経】
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このあたりの話を聞くと、今更ながらに米中が一蓮托生と言うか、運命共同体というか、もはや“相手を蹴落として自分だけが・・・”ということはありえない関係にあることが窺えます。

【馬政権の期待、今のところ不発】
中国と台湾の関係も微妙とところがあります。
冒頭のような最新兵器で侵攻に備えるという側面もありますし、微妙な感情もあります。
北京オリンピックのとき、野球1次リーグで台湾が中国に延長戦の末、サヨナラ負けしたことに台湾全体が衝撃を受けたとの記事もありました。
野球は台湾人が最も熱くなる種目で、野球では中国に優越感を持っていたためとか。

一方、今年3月に総統選挙に勝利した馬英九氏は中台融和による景気浮揚を1枚看板にしていました。
“雪解け”を演出するような政治家の交流はありましたが、実際のところは、中国からの台湾への観光客は期待したようには伸びていないとか。

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中国大陸の市民の台湾観光が解禁され3カ月が経過した。だが、台湾の馬英九政権が目標とした「1日当たり3000人」を大幅に下回り、解禁後初の大型連休となった中国の国慶節(建国記念日)の休暇(9月29日~10月5日)中も伸び悩む。中台間の経済交流の活性化を軸に、景気浮揚を公約に掲げた馬総統に対し失望感が広がっている。【10月4日 毎日】
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解禁から9月18日までの統計では1日平均226人。当初目標の3000人の10分の1に満たない状況で、期待された国慶節の大型連休も不発だったようです。
結局のところ、台湾を訪れる日本人観光客は減少しているものの、1日平均3000人を超え、国・地域別の観光客数では断然トップ。台湾観光業界の「日本人頼み」に変わりはない・・・ということです。

【金融不安が教えてくれるもの】
米中にしても、中台にしても、表面的な対立関係とは別に、実態としては一連托生的な関係にあることは、世界中の他の国々についても同様です。
今回の金融不安になにがしかの“功”があるとすれば、欧州への飛び火、世界同時株などによって、世界がひとつの舟(ドロ舟かどうかはともかく・・・)に乗っていることを改めて確認させてくれたことでしょう。
ロシアでは、主要株式指数で前週末終値比19.1%の暴落だそうです。
お互いに協調していかざるを得ない状況にあり、“新冷戦”なんて、ロシアにとっても“とんでもない話”です。

日本も同じでしょう。
今は日本企業による海外企業買収など、欧米企業より比較的体力が温存されているような活動が目立っていますが、世界経済の失速は当然に日本経済にも及びます。

そんな折、韓国の李明博大統領は6日、混乱する国際金融市場の沈静化策を協議する日本、中国、韓国3か国の首脳会合を行いたいという考えを示しています。
どれだけ実効ある対策が打てるかは別として、東アジアで隣接する、経済的にも一定の存在感を持つ3国(中国との関係で、台湾は入れる訳にはいかないでしょうから)が協調関係に向けて、大東亜共栄圏だかなんだかを話合うというのは、いろんな面での交流のきっかけになってくれれば・・・いいんじゃないでしょうか?
これも“功”のひとつでしょうか。

近い関係にあればあるほど、国境紛争や歴史問題でギクシャクするのは世の常ですが、そうは言っても文化・歴史を共有する数少ない国ですから、ごくごく単純に“仲良くありたいものだ”と思います。

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イラク  アメリカ撤兵後に向けて

2008-10-06 21:23:17 | 国際情勢

(イラクの明日を担うイラク軍新兵さん達のようです。“flickr”より By James Gordon
http://www.flickr.com/photos/jamesdale10/1943195498/)

【まだ散発するテロ】
テロとの戦いの主戦場がアフガニスタン、パキスタン部族支配地域に移り、また、グルジア・南オセチア紛争で米ロの対立が先鋭化し、一方で経済的には金融不安に世界は揺れ動き・・・という訳で、イラクの記事を目にすることが最近少なくなりました。

「それだけ情勢が落ち着いているのだろう・・・」とは言うものの、散発的にはテロの被害もやはり続いてはいるようです。
先月28日、バグダッドでは爆弾事件が相次ぎ、少なくとも33人が死亡しています。
特に、断食月「ラマダン」の日中の断食が終了したあとの夕食の賑わいを狙った事件がおきています。
バクダッド近郊Shurtaでは、シーア派のモスク近くに駐車してあったミニバスが爆発し、12人が死亡、35人が負傷。
Hai al-Amilでも2件目の自動車爆弾攻撃が発生し、1人が死亡、1人が負傷。
バクダッド中心部のカラダ地区では、自動車爆弾と路上に仕掛けられた爆弾が爆発し、19人が死亡、72人が負傷。

ラマダン明けの今月2日には、バグダッドのシーア派モスク(礼拝所)2カ所で2日、自爆テロがあり、19人が死亡、50人以上が負傷しています。
しかし、バグダッドはこれでも“落ち着いている”ほうで、北部モスルでは依然としてアルカイダ系武装組織の活動が活発に行われています。

****米軍と銃撃戦、男が自爆 子ども含む11人死亡 イラク******
イラク北部モスルで5日、駐留米軍がテロ容疑者の男が隠れている建物を捜索しようとして銃撃戦となったうえ男が自爆し、この建物にいた男性5人、女性3人、子ども3人の計11人が死亡した。AP通信はイラク警察の話として、11人は全員が家族で、1人は7歳の男の子だと伝えた。
 駐留米軍は、男は国際テロ組織アルカイダ系武装組織のメンバーだと説明。その後の捜索で、建物の中から多量の小火器や爆発物を隠している貯蔵庫が見つかったという。同軍報道官は「アルカイダが無実のイラク人の陰に隠れていることによる悲劇的な例だ」と述べた。 【10月6日 朝日】
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アルカイダ系武装勢力の有力指導者で「アブ・ラミ」の名前でも知られているマーヒル・アルズバイディ容疑者を、3日、イラク駐留多国籍軍が殺害したとの発表もありました。

【アメリカ撤兵後に向けて 地方選挙法案承認】
一方、最も治安の悪かった中西部アンバル州の治安維持権限もすでに9月1日に、駐留米軍からイラク軍へ移譲されており、アフガニスタンに主軸を移したいアメリカの意向もあって、イラクからの撤退は加速する情勢です。(大きなトラブルが発生しなければ・・・の話ですが)
アルカイダ系武装組織との戦いを引きずりながらも、大筋としてはアメリカ撤兵後をにらんだ動きも出てきています。

国内的な動きとしては、イラク大統領評議会(正副大統領3人で構成)が3日、日本の国会にあたるイラク国民議会が9月に再可決した地方選挙法案を承認しました。

*****イラク地方選挙法案、大統領評議会が承認*****
地方選挙法は、クルド地域政府が統治する北部3州と、クルド、アラブ両勢力が帰属問題などをめぐり対立しているキルクーク州を除いた14州で来年1月末までに地方選を実施することを定めている。
05年の地方選挙では、イスラム教スンニ派の多くが人口の多いシーア派の台頭を見込んでボイコット。スンニ派は地方議会の場でスンニ派の利益が代弁されていない、と不満を募らせている。
今回の地方選にはスンニ派も参加する予定で、米国は民族・宗派間対立を解消するための重要課題と位置づけ、早期実施を強く求めている。 【10月3日 朝日】
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地方選挙の実施は宗派対立の緩和に向けての第一歩です。
ただ、選挙となると日本国内でさえ政党間の対立が過熱することもありますが、長年のシーア派、スンニ派の対立を背景として、またここ数年のシーア主導の政治構造を踏まえて、とてもすんなり行くようには思えません。
多少のトラブルは仕方ないにせよ、大枠で互いが合意する結果が得られれば大成功でしょう。

手続きが停滞していたスンニ派“覚せい評議会”(イラクの息子たち)の治安部隊編入も9月当初よりは進展しているようです。
多数派であるシーア派がどこまで国をまとめる意思を強く持つかに今後はかかっているように思われます。

問題は“クルド、アラブ両勢力が帰属問題などをめぐり対立しているキルクーク州”の扱いです。
憲法で定められたキルクーク州の帰属をめぐる住民投票実施の問題もあります。
石油地帯であるだけに、アラブ側も簡単にクルド自治州編入を認めがたいこと、クルド独立の気運が高まると周辺のトルコ、イランを刺激すること・・・などはこれまでも何回か触れてきました。
今後イラクが大きく乱れるとすれば、このクルド問題の扱いではないでしょうか。

【エジプト外相訪問】
対外的な動きとしては、エジプトのアブルゲイト外相が5日、バグダッドを予告なしに訪問しました。
エジプト外相のイラク訪問は、イラク軍のクウェート侵攻で両国関係が悪化した1990年以来初めてだそうです。
この背景には“アラブ諸国は、治安悪化や、イランがイラクへの影響力を強めていることへの反発からイラクと外交面で距離を置いてきた。だが、最近の治安改善とイラン孤立化を図る米国の意向を受け、関係修復が進んでいる。”【10月5日 毎日】といった事情があるとか。

国内的に宗派間対立が緩和され、また、クルド問題が火を噴かずに、対外的に周辺アラブ諸国との関係も改善すれば、イラクの今後も期待できます。
しかし、どこかでつまずくと・・・という危うさがまだぬぐえません。

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金融不安  EU統合の理念が直面する“国の復権” 新自由主義的経済の破綻

2008-10-05 13:12:06 | 国際情勢

(昨年9月、イングランド銀行に支援を要請したことから取り付け騒ぎを起こしたイギリスのノーザン・ロック。同社は住宅抵当証券による資金集めにより住宅金融で急成長をとげたが、サブプライムローン問題で新繰りが悪化。特別融資を受けた後、今年2月イギリス政府は一時的に国有化することを発表。“flickr”より By Dominic's pics
http://www.flickr.com/photos/dominicspics/1381505612/)

先行きが見えない金融不安が世界を覆っていますが、事態の推移を伝える多くの記事のなかでも、下記の毎日の記事がEUへの影響と、レッセフェールの経済運営の帰結を指摘して目を引きました。

****グローバル・アイ:金融危機と「国の復権」 新自由主義、曲がり角に=西川恵*****
この金融・経済危機で注目される視点を二つ紹介したい。一つは、この危機が欧州統合に打撃を与えるとの見方だ。
金融機関の救済方法をめぐって仏独が鋭く対立している。欧州レベルで米国のような救済基金を設立し、不良債権を分離しようとのフランスに対し、ドイツは「危機は各国それぞれが解決する問題。他国の救済に税金を使うわけにはいかない」と全面拒否だ。
欧州連合(EU)の諸規則を緩める動きも出ている。EUは正当な競争維持のため国の財政支援を禁じているが、欧州委員会のバローゾ委員長は「賢く運用されるべきだ」と、この規則の一時棚上げを示唆した。財政赤字を国内総生産(GDP)比で3%以下に抑えるユーロ参加国の義務も、柔軟適用される方向だ。
EU各国の対立、欧州中央銀行の弱体化、EU諸規則の事実上の棚上げ……。2日の仏ルモンド紙は「危機にあるのは金融機関という以上に、欧州統合そのものである」と指摘した。

第二の視点は、今回の危機のよって来るところはサブプライム問題ではなく、80年代初頭のレーガン、サッチャーの新自由主義的な経済政策、つまり市場至上主義にあるとの議論だ。底の見えない危機に「ここ数十年のレッセフェール(自由放任)という過度の自由主義が危機の元凶」との見方が広がっている。
興味深いのは、これが市場への国の介入に論拠を与えていることだ。サルコジ仏大統領は先月25日の演説で、国による金融システムの堅持、投資企業に対する規制などを明らかにしたが、ルモンド紙は「マーケットの失敗と国の復権」とトップ見出しで打った。
「国の復権」はフランスだけでなく、欧米各国で見られる。レッセフェールの元締めだった米国では、国有化という考えられない動きが進行中だ。欧州統合の危機も「国の復権」と裏腹の関係にあると言えるだろう。
80年代からの新自由主義が転機にあることは間違いない。日本も無縁でなく、特に小泉改革路線を継承する市場経済派にとっては難しい時期である。(専門編集委員)【10月4日 毎日】
*****************************

【各国が自分の責任で・・・】
先月29日にはベネルクス3国がベルギー最大の金融グループ、フォルティスの一部国有化を決定。
アイスランド政府はグリトニル銀行を事実上国有化し、ドイツ政府も不動産金融大手ハイポ・リアル・エステート救済を発表。
30日にはフランスのサルコジ大統領もフランスとベルギーの金融グループ、デクシアへの64億ユーロ(9600億円)公的資金投入を決定。
アイルランド政府も4000億ユーロ(60兆円)分の銀行預金を保証する方針を発表。
「この危機の終点は見えない」(英金融監督当局者)というヨーロッパ金融市場への不安が広がり、各国政府はその対応に追われています。【10月1日 産経】

ブラウン英首相は3日、世界的な金融・経済危機に対応するため、経済関係閣僚や閣外相らで構成する「国家経済会議」を政府内に設置し、最新情勢に応じた経済対策の策定や省庁間の調整に当たることを発表しました。
アメリカ同様、イギリスの住宅市場も崩壊しつつあります。
ブラウン英首相は従来の市場重視の立場から、市場介入に舵を切ったと見られています。

なお、ハイポ・リアル・エステート(HRE)については、4日、救済策が撤回されました。
HREはドイツの金融機関が資金調達の手段として利用する抵当証券の有力発行体。
HRE関連抵当証券はドイツの抵当証券市場の5分の1を占めており、その破綻はドイツおよび欧州市場の混乱を招きかねない懸念が指摘されています。

こうした状況を打開すべく、4日パリで、英、仏、独、伊の欧州4カ国による緊急首脳会議が開催されました。
この会議で、EUに欧州の金融機関の監督と国際協力を担う機関を創設すること、貸し渋り対策のため、EU加盟国に長期資金を貸し出す欧州投資銀行(EIB)を活用して300億ユーロ(約4兆3000億円)の中小企業支援も行うことなどが決められました。

サルコジ仏大統領は、各国の共同出資による銀行救済基金の設立を提案する意向を示していました。
国家予算の数十倍の資産を持つ銀行があり、銀行破綻時の預金者保護などを一国の財政負担では賄いきれない恐れもあるためと言われています。
しかし、これに独、英が強く反対。
メルケル独首相は「各国が自分の責任で、国家レベルで対応しなければならない」と指摘し、欧州全体としての救済策には改めて難色を示していました。
結局、基金設置は首脳会議で議題に上らなかったようです。

預金保険についても、保護額が2万ユーロ(約290万円)までの国がある一方、アイルランドやギリシャが独自に全額保護を決定するなど、EU各国の金融政策の足並みの乱れが目立っているなかで、また、冒頭記事にもあるように「マーケットの失敗と国の復権」が言われるなかで、国家の立場の違いを超えてEU域内の政策を調整できるのか、EUにどこまでの機能を持たせるのか・・・EU統合の理念は厳しい試練に直面しています。

【レッセフェールのもとでのマネーの暴走】
80年代初頭のレーガン、サッチャーに始まる規制緩和・市場重視の新自由主義的な経済政策の帰結として今回の危機がある・・・確かにそのように思えます。
かつてのレッセフェールの時代が世界恐慌を経験し、ケインズ的な財政・金融政策による経済誘導が世界経済の常識になったと思われたのですが、いつのまにか新自由主義とかサプライサイド経済学とかが主張され、またレッセフェールがよみがえっていました。

アメリカ経済は80年代から軍事費拡大などで財政赤字が膨張する一方、結局民間投資は低迷を続けて実体経済の空洞化が進み、マネーは企業買収、株式、更には様々な金融商品に向かいました。
今年問題になった食糧・原油価格の上昇、そして今回の金融危機は、利益を求めて規制のなくなった世界で暴走するマネーの結果のように思えます。

“マネー”と言えば無機的ですが、その背後にあるのは人間の欲望です。
今回の危機は、そんな人間の欲望が従うべき“秩序”“ルール”の確立を求めているように思えます。


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テロの国産化に揺れるインド 宗教対立を克服できるのか?

2008-10-04 15:16:08 | 国際情勢

(コーランを焼くヒンズー教徒 “flickr”より By saraab™
http://www.flickr.com/photos/saraab/783886367/)

【米印原子力協定 米議会承認】
核拡散防止条約(NPT)に加盟せず独自に核兵器開発を進めてきたインドを、核燃料や原子力技術の提供対象国として「例外扱い」にする米印原子力協定が発効するための最後のハードルとなっていた国内法の改正案がアメリカ議会で承認されました。

インドは発電の53%を石炭、25%を水力が占め、石油消費の70%、天然ガス消費の50%を輸入に頼っている現状で、現在発電の3%にすぎない原子力を拡大していくことが、今後の経済成長を安定的に実現するうえで重要にと考えられています。
ここに至るまでシン政権は、アメリカとの接近を嫌う左翼連立政権を切り捨て、インド独自の核開発に制約が課されることに反対する野党を抑え、突き進んできました。

一方、アメリカはインドとの関係を強化することで、台頭する中国を牽制することが目的と言われています。
また、経済的にも、インドは今後15年間で18~20基の原発を増設し、総投資額は270億ドル(2兆8000億円)に上る見込みで、大きなビジネス市場がもたらされます。

このため、8月の「国際原子力機関(IAEA)」理事会におけるインド・IAEA保障措置協定の承認(軍事関連施設やプルトニウム生産炉、高速増殖炉などの査察は対象外)、8月に承認を見送った原子力供給国グループ(NSG)の総会を9月に再開しての承認取り付けと、アメリカは強力に国際社会にインドとの協定を認めるように迫っていました。

NSGの承認については、インドが外相声明の形で「核実験モラトリアム(凍結)継続」とNSGの指針に沿って核不拡散に取り組むことを約束したことで、慎重派の国々も譲歩したこともありますが、最終局面では、ブッシュ米大統領が承認に慎重な国々の首脳に直接電話して説得するなど、「政治決着」の色合いが濃い承認でした。【9月6日 毎日】
(シン首相は国内的には、「合意は、インドが将来必要に迫られれば核実験を実施する権利に何ら影響を及ぼすものではない」と述べ、核実験の権利を保留していることを明言しています。)

そして、最後のハードルであったアメリカ国内の手続きが冒頭記載のように完了しました。

この問題がはらむ、核拡散防止条約(NPT)体制の形骸化、インドだけを例外とするアメリカのダブル・スタンダードの問題については、8月24日の「原子力供給国グループ(NSG) インド例外扱い認めぬまま一旦閉会」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080824)でも取り上げたところです。

そうした内容の是非はともかく、シン首相にしても、ブッシュ大統領にしても、国内・国外の反対を押しのけて突き進む執念というか、不退転の姿勢というか・・・その政治姿勢については、“地位に恋々としない”いさぎよさを美徳として相次いで首相・閣僚が辞任する日本からすると、驚くべきものがあります。

【相次ぐテロ その国産化】
さて、そのインドは、中国と並んで新興国のトップランナーとして爆走しており、その膨大な人口もあって、将来に向けてますます政治的・経済的プレゼンスを大きくしていくことが予想されています。

もちろん、両国ともに大きな問題も抱えています。
中国の場合、アキレス腱と思われるのはその政治体制です。
共産党による実質的一党独裁の政治体制で、豊かな社会における多様な国民の声に対応できるのか、人権・民族問題・経済格差・地方官僚の腐敗等々の問題に対処できるのか・・・という課題があります。

インドは政治的には“世界最大の民主主義国”とも言われるところですが、格差・貧富の差という点では、おそらく中国以上でしょう。
現代的な人権の価値観とは相容れないような伝統的価値観・慣習も根強く残っています。
そして、何より国内にヒンズー対イスラムという深刻な宗教対立を内在しており、この問題が火を噴くと社会は一気に不安定化します。

最近、インドでは爆弾テロが相次いでいます。
5月13日 北部ジャイプールでヒンズー教の寺院前など7カ所に置かれた爆弾が爆発。20人死亡
7月25日 南部バンガロールの路上で爆弾7個が爆発。2人死亡
7月26日 西部グジャラート州アーメダバードの病院などで爆弾16個が爆発。16人死亡
9月13日 ニューデリーの市場など3カ所で爆弾計5個が爆発。15人死亡
  19日 警察がニューデリー東部の民家を急襲。イスラム教徒の男性2人を射殺
  27日 ニューデリー南部の市場で爆弾1個が爆発。2人死亡
  29日 グジャラート州東部のサバルカタ地区の市場で爆弾1個が爆発。2人死亡
  29日 西部マハラシュトラ州マレガオンのモスク近くで爆発。3人死亡
10月1日 トリプラ州アガルタラの市場付近で連続爆発。2人が死亡
【10月2日 毎日】

特に9月以降、連日のようにテロのニュースが入ります。
問題は、回数だけでなく、テロが国産化されてきていることです。
従来、インドではこの種の事件は背後にパキスタンの影響力がある、国外から持ち込まれたものとの認識がありました。
インドとパキスタンはカシミール地方の領有権を巡って対立していますが、軍事力で劣るパキスタンが情報機関を使って過激派を養成、インド国内を混乱させるためにテロを起こしているとの見方です。

しかし、最近の事件で逮捕された容疑者はインド国外からのテロリストではなく、国内の、しかも比較的裕福なイスラム教徒の学生が多いことがわかってきました。
爆発物も国内で調達される傾向にあります。

【ヒンズー・イスラム間の格差】
インドではヒンズー教が人口約11億人の8割を占めていますが、イスラム教も14%、約1億4000万人存在しています。
“昨年11月以降、都市部で続く爆弾テロと同じ手口だ。うち▽ウッタルプラデシュ州▽ジャイプール州▽バンガロール▽グジャラート州▽ニューデリーで起きた計5事件は、被害者のほとんどがヒンズー教徒で、バングラデシュなどを拠点とするイスラム過激派組織の連絡団体「インディアン・ムジャヒディン」(IM)が犯行声明を出した。
 しかし、9月以降、今度はイスラム教徒を狙ったとみられる爆破テロ事件が増加。これらはいずれも犯行声明が出ていない。治安当局には、これらについても、多数派ヒンズー教徒と少数派イスラム教徒の対立をあおるためIMが起こしたとの見方が一部にある。ただ、IMは組織の実態が不明で、捜査は難航している。”【10月2日 毎日】

かつてのインド・パキスタン分離独立時の血で血を洗う惨劇から60年。
インド国内でのヒンズー・イスラムの対立・軋轢はしばしば耳にしますが、背景にはイスラム教徒の経済的・社会的に劣後下状況、それに対する不満があると思われます。
“(イスラム教徒は)カーストの身分階層が低い職人層などが改宗し、貧しい家業を受け継いだ経緯があり、ヒンドゥー教徒との社会・経済格差が残る。47年のインドとパキスタンの分離独立時、イスラム教徒の中上流階層の多くがパキスタンへ移住。有力な政治指導者が現れず、ヒンドゥー教徒の最下層への公務員就職や大学入学の優遇枠といった格差是正策はイスラム教徒には適用されていない。” 【9月24日 朝日】

イスラム教徒の活動が過激化すれば、それに呼応してヒンズー至上主義も台頭し、社会の不安定化が悪循環的に加速します。
「テロの国産化」がこのまま進めば、海外からの投資が減少して経済成長にブレーキがかかる事態も懸念されています。

「中央政府や州警察の情報組織の人員を充実させ、捜査能力を高めることが先決」といった意見や、対テロ組織の新設を含め治安強化を求める声があがるのに対し、現在のシン政権は今一つ及び腰だとも言われています。
対応を誤ると、国内に約1億4000万人いるイスラム教徒の反発を招き、状況が一気に悪化する恐れがあるためです。

【政教分離の基本原則は?】
敢えてヒンズー国家を名乗らず、各宗教を平等に扱う政教分離を基本原則としてきたインド。
一方で、基本原則であった社会主義的な“平等”を重視する姿勢、非同盟の外交政策は、次第に市場重視、アメリカとの協調の方向に舵を切りつつあります。
ヒンズー至上主義が強まる社会の傾向にあって、政教分離、ヒンズー・イスラムの共存が今後どのようになるのか、宗教対立からの社会混乱が更に深刻化するのか・・・インドの抱える問題は非常に難しいものがあります。

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アフガニスタン  5億円かけて庭園復活 “木もまた育つさ”

2008-10-03 13:30:45 | 国際情勢

(アフガニスタン・カブールに復活した“バブールの庭” “flickr”より By
munir
http://www.flickr.com/photos/munir/766263064/)

アフガニスタンではタリバン側の攻勢が続いており、1日、ISAFのマキャナン司令官がホワイトハウスでブッシュ大統領と会談して、「一刻も早い増派が必要」と訴えたことが報じられています。
そんなアフガンに関する気になる記事がいくつか。

****タリバンが女性警察幹部を殺害、アフガニスタン*****
アフガニスタンのカンダハルで28日、同市の警察で女性として最高位の幹部マラライ・カカール氏が、出勤のため市内の自宅を出たところをイスラム原理主義組織タリバンの戦闘員に銃撃され死亡した。
アフガニスタンで最も保守的といわれる州の1つで任務に就いていたカカール氏は海外メディアに取り上げられることも多かったが、これまでに幾度となく殺害予告を受けていたという。カカール氏には6人の子どもがいる。
【9月28日 AFP】
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女性の社会進出を認めないタリバンにとっては、女性で、かつ、治安組織のトップという彼女は許すべからざる存在だったのでしょう。
しかし、それだけに彼女の死が惜しまれます。

*****アフガニスタン:警官が米兵に発砲、射殺 東部の警察署******
AP通信によると、アフガニスタンに駐留する国際治安支援部隊(ISAF)を率いる北大西洋条約機構(NATO)当局者は29日、同国東部パクティア州の警察署で米兵がアフガン警察の警官に射殺されたことを明らかにした。
当局者によると、米軍とアフガン警察が28日、反政府武装勢力に属するとみられる容疑者を警察署に連行した際、警察署にいた警官が米兵に対して発砲した。米兵を射殺した警官は別の米兵らに射殺された。
発砲の理由は不明だが、アフガンでは米軍の誤爆による民間人犠牲が頻発しており、警察や軍内部にも反政府武装勢力タリバンなどに共鳴する人々が一部いるとされる。【9月30日 毎日】
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“タリバンなどに共鳴する人々が一部いる”という“一部”がどのくらいなのかが問題ですが、誤爆による民心の離反は戦闘の遂行自体を困難にしつつあります。
米兵の容疑者への対応に、アフガン人の心情を不用意に刺激するような問題はなかったのでしょうか。
アフガンの民心は離反し、パキスタンとは対立し・・・では、いくら世界最強のアメリカ軍といえど立ち往生しかねません。金融恐慌にでもなれば、アフガンどころではなくなるかもしれませんが。

*****タリバンとの和平対話、サウジに仲介要請=アフガン大統領******
アフガニスタンのカルザイ大統領は30日の記者会見で、イスラム原理主義勢力タリバンとの和平対話で、サウジアラビアに仲介を要請していることを明らかにした。ただ、タリバンとの対話はまだ始まっていないという。
カルザイ大統領は2007年9月、タリバンの指導者オマル師との対話の用意があると表明。この日の会見でもオマル師との交渉に改めて意欲を示した。大統領は「同胞や自らの国に対して銃を取った兄弟が国に戻り、平和に向かうことができるよう努力している」と語った。【10月1日 時事】
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アメリカ主導の戦闘に出口が見えず、国民の不満も高まるなかにあって、カルザイ大統領としては和平に活路を求めたいところでしょう。
ただ、オマル師が和平に応じるか・・・どうでしょうか。
かりに交渉ができたとしても、オマル師とカルザイ大統領が共同で統治というのは想像できません。
むしろ、タリバン内にも急進派から穏健派まで温度差があるでしょうから、手を組める勢力と交渉を進めるという方向が現実的のようにも思えます。

*****カブールに16世紀の庭園が復活、5億円かけ修復*****
暑さとほこりに支配されたアフガニスタンの首都カブールに、緑の島が出現した。干ばつと戦争で荒れ果てていたペルシア様式の庭園「バブールの庭」に、数年ぶりに花が咲き始めたのだ。
イスラム教イスマイル派指導者で富豪のアガ・カーン氏の財団「アガ・カーン・トラスト・フォー・カルチャー」が2002年から修復を手掛けてきた。敷地総面積は11ヘクタール以上で、市内最大の公園だ。
芝生や木影では、家族連れや若者たちがピクニックを楽しむ。休日に当たる金曜日には多くの市民が訪れる。ただし、入園料は必要だ。夏季には毎月5-6万人が訪れるという。

この庭園は16世紀初頭、ムガール王朝の創始者バブールが建設した。バブールは1530年にインドで死去したが、遺体はこの庭園にある小さなモスクの後ろに埋葬された。モスクも修復されたが、内戦当時の弾痕が残っている。

財団のアフガニスタン支部責任者のジョリオン・レスリー氏は、悲劇と戦争にほんろうされたこの国で、庭の修復に多額の予算をつぎ込むことに理解を得るのは難しかったと言う。そのため財団は、この事業が雇用を創出することを強調した。
アガ・カーン氏とドイツ政府が出資した総工費約500万ドル(約5億円)のうち、100万ドルは、地元民を中心とした労働者の人件費に充てられた。

守衛の1人は「樹齢300年の木が並んでいた昔とはもちろん違うが、また育つさ」と話した。【10月1日 AFP】
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“悲劇と戦争にほんろうされたこの国で、庭の修復に多額の予算をつぎ込むことに理解を得るのは難しかった”とありますが、私も最初この記事のタイトルを見て、「アフガンで庭園?一体何考えているんだか?」と思ったひとりです。
しかし、人間はストレスに曝され続けてはまともな精神も保てません。
悲劇と戦争が絶えないこの国だからこそ、記事の庭園のような空間も必要なのでしょう。

最後の守衛の言葉が泣かせます。
アフガニスタンという木が、また元気に育ってくれることを祈ります。
祈るだけではなく、日本としてできることを考えなければいけないのでしょう。

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日本・中国・韓国・北朝鮮  うごめく東アジア

2008-10-02 15:01:19 | 世相

(雨に煙る盧溝橋 日中戦争勃発の地ですが、観月の名所でもあり、また、マルコポーロが絶賛した美しい橋でもあります。)

先月20日過ぎに北京に数日観光にでかけました。
大韓航空を使用して北京からソウル乗換えで福岡に帰国し、鹿児島に向かう新幹線のなかで中国語と韓国語のアナウンスを聞いていると、旅行中のことが思い出されると同時に、中国・韓国・日本という国の距離的な近さ、ひとつのエリアに包含される国々であることが感じられました。

北京の街角で、あるいはソウルの空港で目にする人々が中国人なのか、韓国人なのか、日本人なのか・・・見ただけで明らかな場合もありますが、まったく見分けがつかない場合ももちろんあります。
自分自身が北京を歩いていると、中国のひとから先ず最初は中国語で話しかけられ外国人としては扱われません。
「日本人なので中国語は分からない・・・」と言って初めて「ああ、日本人か・・・」ということになります。

あるいは中国の古い住宅“四合院”の白壁に墨跡鮮やかに書かれた杜甫の詩を見たりすると、文化を共有する関係にあることが改めて思い起こされます。(詩の中身まではその場では理解できませんでしたが)

一方で、独自性の強い主張も見られます。
大韓航空機内での飛行経路を示す地図は、福岡・ソウル・釜山など大都市が記入されただけのごく大まかなものにもかかわらず、“独島”の表示だけはしっかり記載されています。
仁川の空港では、通路に“五千年の文化が・・・”の表示。
“中国4千年というのはよく聞くけど、韓国は5千年か・・・”

国際関係としては、かなり緊張関係をはらみながら多様な動きをみせています。
最近、目にしたこの地域に関する記事のなかからいくつかピックアップします。

若干古い記事になりますが、

***「日本嫌い」が大幅増=竹島問題影響か-韓国調査****
22日付の韓国紙・中央日報に掲載された世論調査結果によると、「最も嫌いな国」として日本を挙げた回答が昨年の38%から57%に大幅に増加した。日本の中学校社会科の新学習指導要領解説書に日韓が領有権を主張する竹島(韓国名・独島)が明記されたことなどが背景にあるとみられる。
一方で、日本を「最も見習うべき国」とした回答は24%で1位。このほか、「最も好きな国」は米国(18%)、オーストラリア(14%)、スイス(9%)の順。「嫌いな国」の2、3位は中国(13%)、北朝鮮(10%)だった。 【9月22日 時事】
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「嫌いな国」でもあり、「見習うべき国」でもあり・・・・。

中国は「嫌いな国」ランクで2位になっていますが、中国・韓国の関係も相当にもつれたものがあります。
特に先の四川大地震では、中国国内で日本の評価が上がったのに比べ、地震を揶揄したとして韓国に対してはきつい評価が目立ったようです。

もともと、“歴史認識”で大きな対立がある両国です。
古代、朝鮮半島北部から中国大陸にかけ広大な地域を支配した高句麗(紀元前後~7世紀)については、韓国では昔から韓民族の国家とされています。
しかし近年、中国では「中国の地方政権」として中国史に組み込む作業が進められ、韓国との間で“歴史紛争”になっているそうです。

*****“中国化”加速 「広開土王碑」観光ガイド、韓国語厳禁****
韓国と中国の歴史紛争の現場になっている中朝国境の鴨緑江流域では、韓国色排除で“中国化”が着々と進められている。とくに紛争の焦点になっている高句麗の歴史に関して、有名な「広開土王(好太王)碑」では韓国語(朝鮮語)のガイドが禁止され、不満の韓国人観光客をよそに中国人観光客でにぎわっていた。また中朝国境にまたがる白頭山(中国名・長白山)観光でも、朝鮮族自治州を経由しない西ルートが開発され、あらゆる施設でハングルが消えつつある。【9月29日 産経】
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韓国TVドラマ「太王四神記」は私も観ていましたが、そのモデルと言われる広開土王の業績を記した「広開土王碑」については、その解釈をめぐって日韓でもいろいろ論争もありました。
なお、ドラマの方は、日本での放映に配慮して倭寇に関しては殆ど描いていないとの批評も目にしました。

一方、中国と北朝鮮の関係は、朝鮮戦争を経て「血で固められた同盟」とも表現されますが、実際のところは中国も北朝鮮を厄介視しているとか、金正日は中国首脳を嫌っているとか、いろんな話があります。
偶発事故でしょうが、こんな記事も最近ありました。

****中国漁船:北朝鮮警備艇の銃撃受け船長が負傷…韓国発表****
韓国海洋警察庁は29日、白※島北西の黄海で操業中だった中国漁船が27日、北朝鮮の警備艇とみられる船に銃撃され、船長(44)が負傷したと発表した。船長は仁川に搬送され治療中。漁船が北朝鮮領海を侵犯したのかどうかは不明で、海洋警察庁が漁船の位置特定を急いでいる。
韓国周辺では中国漁船の操業が目立っており、25日には違法操業を取り締まろうとした海洋警察官が、抵抗する中国船員の振り回したシャベルに当たり海に転落、死亡する事件も起きている。(※は令へんに羽) 【9月29日 毎日】
**********************

韓国・北朝鮮関係について最近目にした記事では

*****韓露パイプライン計画:韓国、極東利権に布石 実現難航も*****
9月29日の韓露首脳会談で合意した、韓露の天然ガス連結構想は、資源外交を重視する韓国の李明博(イミョンバク)大統領が東シベリア地域の資源開発に布石を打ったものだ。韓国側は「韓露と北朝鮮による3国エネルギー協力体制も可能になる」と意義を強調するが、実際には北朝鮮抜きで韓露が進めた利権構想の色彩が強い。北朝鮮を経由するパイプライン建設は難航が予想される。
(中略)北朝鮮にとってもメリットがあるので協力するとの前提に立っているが、頭越しの構想に北朝鮮が反発する可能性も排除できない。
また、李政権は北朝鮮への大規模経済協力は「核廃棄段階で実施する」という原則を掲げており、2月の政権発足時に提起した北朝鮮住民1人当たりの年間所得を3000ドルに引き上げる大規模支援構想も具体化がストップしている。2年後も北朝鮮核問題の手詰まり状態が続いていれば、北朝鮮に巨額の現金収入を提供する同構想は国内外から批判を浴びるのは必至だ。
(中略)実現性よりも、韓露共同の資源開発構想を先に打ち出すことにより、同地域の利権を狙う日本や中国をけん制することが実際の狙いとみられる。 【9月29日 毎日】
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近い関係にあれば、領土問題などで摩擦も生じますし、長い歴史のなかでいろんな対立も生じます。
そうでなくても、“ライバル心”みたいなものもあります。
隣接国家間の近親憎悪的な感情は世界共通のもので、むしろお隣同士仲がいいというのが珍しいくらいでしょう。

ただ、そうは言ってもせっかく近くに暮らし、歴史も文化も共有し、現在も将来も経済的に重要な関係にある国々ですから、できるものなら理解しあって仲良く暮らしたいものです。

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