孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

世界難民の日  10億人突破する飢餓人口

2009-06-20 13:44:52 | 国際情勢

(UNHCRが難民に支給するstarter pack “flickr”より By bbcworldservice
http://www.flickr.com/photos/bbcworldservice/3255473370/ )

【コンゴ 紛争の傷跡】
今日6月20日は“世界難民の日”だそうです。
「世界難民の日」は2000年、「OAU(アフリカ統一機構)難民条約」発効を記念した「アフリカ難民の日」を改め、国連総会で制定されたものです。

****世界難民の日:紛争の傷跡、今も コンゴ民主共和国****
「落ち着いて暮らせる住まいがほしい」。カクル・ファイダさん(40)はアパート建設現場で、子ども7人と暮らす。20日は「世界難民の日」。
隣国ルワンダの大虐殺(94年)を機に起きた地域紛争の死者は第二次大戦以降の紛争の中で最多で、コンゴ民主共和国(旧ザイール)の国内避難民も東部2州だけで143万人という。
ファイダさんも約1年前、自宅を武装グループに襲われ、故郷を離れた。間もなく娘のネイマちゃん(1)が生まれたが、夫(35)とは生き別れた。
建設現場には5家族が身を寄せるが、アパートは来年6月には完成予定。ファイダさんは「ここにいられるのもあとわずか。どこへ行ったらいいのか」と首を振った。【6月20日 毎日】
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“コンゴでは隣国ルワンダから逃れてきた反政府勢力が難民キャンプを拠点にルワンダへ出撃したことなどを契機に、96年、周辺国が侵攻を開始。ダイヤモンドなどの豊富な鉱物資源の利権争いもあって、一時は周辺8カ国の軍隊が同国領内で抗争を繰り広げ、第二次世界大戦後の国際紛争としては最大の死者を出すに至った。戦闘によって兵士、民間人約40万人が死亡したほか、戦闘による国土荒廃に伴い、約500万人が餓死、病死したという。”【4月11日 毎日】

この“アフリカ大戦”とも呼ばれるコンゴ内戦は02年に一応の和平協定調印にこぎつけましたが、その後も、94年のルワンダ虐殺への関与が疑われるフツ族系武装集団「ルワンダ解放民主軍(FDLR)」、FDLRに対抗するローラン・ヌクンダ司令官(09年1月拘束)率いるツチ族系反政府勢力「人民防衛国民会議(CNDP)」、国際判事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているジョゼフ・コニー率いるウガンダの反政府勢力「神の抵抗軍(LRA)」など多くの武装組織、これら反政府勢力討伐を目的とするコンゴ政府軍、隣国ルワンダ軍・・・など多くの組織が入り乱れ戦闘を行ってきており、それに伴い東部を中心に紛争や略奪、レイプが横行し、膨大な難民が発生しています。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、コンゴの国内難民は約146万人。
更に、隣国からの難民が約15万人生活しています。
戦乱に明け暮れるコンゴにも難民が流入するということは、周辺国の状況もコンゴ同様であるということでしょう。
隣国からの難民のなかでは、アンゴラからの難民が約11万人で最も多くなっています。

【ソマリア、パキスタン・・・】
アフリカで戦闘が激化しているのが実質的無政府状態が続くソマリア。
****支援活動拠点で大規模な略奪、活動に支障 ソマリア****
ソマリア南部・中部への人道支援活動の拠点である首都モガディシオから北に90キロのジョワルで、支援用の物資・資産・機器が大規模に略奪・破壊され、支援活動に大きな支障が出ている。
国連によると、今年9月までの継続的な人道支援を必要としている国民は全人口の43%、320万人以上にのぼると推定されているが、イスラム武装勢力が中部、南部の主要都市に勢力を拡大するにつれ、支援活動は急速の困難になっている。【6月16日 AFP】
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難民が最近急増しているパキスタン。
“わずか1カ月で、180万人を超える人々が家を追われ、酷暑の中、避難生活を余儀なくされています。
パキスタン北西部では、戦闘の激化により、人々は命の安全を脅かされ、手荷物ひとつで逃げる人の数は日に日に膨れ上がっています。パキスタン政府がUNHCRの支援のもとで5月初めから登録した避難民の数は、すでに180万人を超えました。2008年8月以降、避難民となった人の総数は、230万人に上ります。この人道危機における国連の共同支援の一環として、UNHCRはパキスタンのMardanやSwabi地域に、新たに3カ所の避難民キャンプを設置しました。”【UNHCRホームページより】

【「空腹な世界は危険な世界だ」】
紛争・難民問題がその大きな要因のひとつである飢餓の状況。
****飢餓人口10億人突破も、過去最悪に FAO発表****
国連食糧農業機関(FAO)は19日、栄養不足の状態にある飢餓人口が昨年より1億500万人増え、09年中に10億2千万人になると予測する報告書を発表した。世界的な経済危機や食糧価格の高止まりの影響を受けたもので、世界のおよそ6人に1人が飢えに苦しんでいるという過去最悪の数字となった。
FAOによると、経済危機によって途上国への投資が08年比で32%減少するほか、途上国援助(ODA)も約25%減少するという。また新興国の需要急増や、穀物市場への投機的資金の流入、バイオ燃料への転用拡大などを背景に急騰した食糧価格は、08年前半のピーク時と比べ下がったものの、06年に比べまだ24%も高い。
地域別では、アジア・太平洋地域が6億4200万人、サハラ以南アフリカが2億6500万人、中南米5300万人となっている。
FAOのディウフ事務局長は「飢餓人口の急増は世界平和や安全保障に対する脅威となる」と指摘。途上国への農業投資や支援の早期実施を訴えた。【6月20日 朝日】
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世界食糧計画(WFP)のジョゼット・シーラン事務局長は、食糧不足が原因でいくつかの途上国で発生した発生した暴動を指摘し、「空腹な世界は危険な世界だ」と警鐘を鳴らしています。

飢餓人口が最も多いのがアジア。
その南アジアでは、飢餓に苦しむ人が過去2年で1億人増えたとの報告も。

****南アジアの飢餓人口、過去2年で1億人増加=ユニセフ****
国連児童基金(ユニセフ)は2日、南アジアで飢餓に苦しむ人が過去2年で1億人増えたとの報告書を発表した。食料品と燃料の価格高騰に加え、世界的な景気後退などが理由だとしている。
同報告書によると、南アジアでは現在、4億人以上が慢性的な飢えに苦しんでおり、40年間で最悪の水準となっている。さらに、1人当たりの所得が増加しているにもかかわらず、摂取カロリーは多くの国で停滞もしくは減少傾向にある。
また、同地域の人口の4分の3に相当する11億8000万人以上が、1日2ドル(約190円)以下での生活を強いられており、5歳以下の子どもの半数近くが栄養失調で、サハラ以南のアフリカを含む世界で最悪の水準だという。【6月3日 ロイター】
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【何もしないよりは・・・】
私たちの住む世界はいっこうに改善しないのが現実。
その状況から目をそむけて暮らしているのも現実。
とりあえず個人に出来ることと言えば募金。
UNHCRホームページから、クレジットカードを使って簡便に難民支援募金ができます。
http://www.japanforunhcr.org/act/index.html

年に1回の気まぐれでも、自己欺瞞・偽善・免罪符・・・であっても、それで助かる人々が大勢存在している今、何もしないよりはましでしょう。
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タイ深南部  イスラム教徒による反政府活動が激化

2009-06-19 21:23:59 | 国際情勢

(パッターニ県での結婚式で披露されるSilat という武術のパフォーマンス。
Silat はマレーシアで発達した護身術で、そうした文化的側面においても、タイというより、マレーシアとのつながりが深いように見えます。
人々のイスラム的な服装も、タイとはイメージが随分違います。
“flickr”より By sazli
http://www.flickr.com/photos/sazli/3499577528/)

【礼拝中のモスク襲撃】
これまでもタイ深南部のテロについては取り上げたことがありますが、相変わらず事態は改善しないと言うか、むしろ事態は悪化しているようです。
国民の95%が仏教徒という仏教国タイですが、細長く南に延びるマレー半島に位置するヤラー、ナラティワート、パタニの南部3県(“深南部”)はイスラム教徒が多数派で、以前から反政府活動が盛んでテロも頻発しています。

仏教対イスラムという宗教的な対立だけでなく、辺境にあたるこの地域の経済開発が遅れ大きな経済格差が存在すること、日常的にマレー語を使用するという文化的な違い、かつてこの地域に存在したパタニ王国の栄光への郷愁といった歴史的な側面、中東などのイスラム原理主義の影響・・・そういったいろんな要素が絡んだ問題でもあり、タイ政府が強権的な鎮圧を試みると、それに反発する形でテロ行為が激化するといったことを繰り返してきています。

****モスク襲撃10人死亡 タイ南部、治安が急速悪化*****
イスラム教徒が多く住むタイ南部のナラティワート県で8日夜、約50人が礼拝中のモスクに武装集団が侵入して銃を乱射し、警察によると少なくとも10人が死亡、12人が重軽傷を負った。
マレーシア国境に近いタイ南部では、6月に入ってからだけでもテロ事件が31件起きるなど治安が急激に悪化しており、政府は11日に緊急の治安当局者会議を開いて対策を話し合う。
04年以降、タイ南部では反政府テロが活発化し、ここ数年は一般人を狙った無差別テロも頻発。これまでに3400人以上が死亡し、6千人以上が負傷している。【6月9日 朝日】
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以前から仏教徒が首を切られるという事件が多発していますが、今回はイスラムモスクでの礼拝中の事件とのこと。
なぜ同じイスラム教徒がテロの対象になるのか、襲われた人々が政府側と融和的なグループだったのか・・・そのあたりはよくわかりません。
わかりませんが、“6月に入ってからだけでもテロ事件が31件起きる”“これまでに3400人以上が死亡”というのは尋常でない数字です。

【狙われる学校・教師】
特に学校・教師が標的になることが多いようです。
****タイ:「仏教文化押し付け」 学校、テロの標的--南部*****
イスラム教武装勢力によるテロ事件が続くタイ南部ヤラー県で、出勤途中の女性教師が16日朝、銃撃を受け死亡した。武装勢力は教師や学校をテロの標的にしており、AFP通信によると04年以降ヤラー、ナラティワート、パタニの南部3県で殺害された教師は117人に上る。
女性教師(56)はこの日、バイクで小学校に向かう途中、銃撃を受けた。また同日、パタニ県の警察署前でバイクに仕掛けられた爆弾が爆発し、警官2人が死亡、2人が負傷した。

タイは国民の95%が仏教徒だが、南部3県はイスラム教徒が多数派で、一部イスラム勢力が04年からタイからの分離を求めるテロ活動を本格化させた。武装勢力は学校を「政府による仏教文化の押し付け」と非難して攻撃を繰り返し、軍が学校に常駐。教師の通勤を警備する事態になっている。04年以降、3県ではテロで約3500人が死亡。8日にはナラティワート県でモスク(イスラム教礼拝所)が武装グループに襲撃され11人が死亡するなど、この半月で死者は40人近くに達した。【6月17日 毎日】
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“04年以降、南部3県で殺害された教師は117人に上る”ということは、年間20人以上になります。
タイの教員採用・異動のシステムがどうなっているのか知りませんが、深南部三県で教員を務めるということは命がけの仕事になります。
よくそういった状況で教員になる人がいるものだと感心します。

事態改善の方策としては、以前のブログでも書いたように、経済格差是正を根気強く続けていくことが基本でしょう。

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イラン  改革派抗議行動と連動する指導層内部の権力闘争

2009-06-18 23:17:44 | 国際情勢

(05年大統領選挙当時のラフサンジャニ師 本命と見られていたラフサンジャニ師は貧困層の支持を得たアフマディネジャドに敗北しました。
今回選挙でも、アフマディネジャド大統領はTV討論で、ムサビ元首相の背後にいるラフサンジャニ師の“金権腐敗”を激しく攻撃 両勢力の権力闘争が激しくなっています。 “flickr”より By siavush
http://www.flickr.com/photos/siavush/28862869/

【権益をめぐる権力闘争】
混乱が続くイランですが、今回の対立は、不正選挙を糾弾し政治的自由を求める改革派ムサビ元首相を支持する人々と保守強硬派のアフマディネジャド大統領率いる現体制の衝突というだけでなく、アフマディネジャド大統領によって既得権益を奪われつつある従来型の保守層とアフマディネジャド大統領を中心とする革命防衛隊グループのイラン指導部内部における権力闘争の側面もあるように見受けられます。

改革派候補ムサビ元首相、改革派の重鎮ハタミ師、保守穏健派の実力者ラフサンジャニ師等を含め、イラン指導部の多くは宗教指導者であったり、79年のホメイニ師によるイスラム革命当時からホメイニ師の周囲にいた人物であったりするのですが、アフマディネジャド大統領は「革命防衛隊」からのたたき上げという異色の存在です。

アフマディネジャド大統領は有力聖職者との縁戚関係もなく、最高指導者ハメネイ師への忠節を誓いその後ろ盾を得ることと、ポピュリズムとも“バラマキ政策”とも批判される貧困層への施策による大衆の支持を基盤に現在の地位を維持しています。
そして、自らの出身母体たる革命防衛隊関係者を重用することで、従来からの既得権益層との対立が激しくなっているようです。

****混乱続くイラン 武力弾圧か 再投票か 問われる最高指導者の威信*****
大統領選結果をめぐり深刻化するイランの政治危機では、強硬保守派のアフマディネジャド大統領を支持する最高指導者ハメネイ師を頂点とする現体制と、「革命体制の変質」を危惧(きぐ)して手を結んだ穏健保守派と改革派の対立という構図が鮮明になっている。体制側は「票の一部再集計」で時間を稼ぎ、改革派の抗議行動の勢いをそぐ狙いだが、危機がどこまで拡大するかは予断を許さない。体制側は徹底的な武力弾圧か再投票かの選択を迫られかねず、最高指導者の威信にも影響を及ぼす可能性がある。

「選挙不正」があったと主張する改革派のムサビ元首相とカルビ元国会議長、保守派のレザイ元革命防衛隊司令官は、革命体制の本流を歩んできたエリートだ。ムサビ氏は革命指導者ホメイニ師存命中の1980年代のイラン・イラク戦争下で首相を務めた経歴があり、今回の選挙では、改革派のハタミ前大統領や、穏健保守派の実力者ラフサンジャニ師が支持した。
さらに、核開発問題で米欧との交渉責任者を務めたことがある保守派のラリジャニ現国会議長は、抗議行動が本格化した15日夜、改革派支持の学生が多いテヘラン大学の寮を強硬派民兵組織バシジ(人民動員軍)が襲撃した事件について、内務省の責任を厳しく追及。今回の危機では、かつては改革派と対立してきた保守派の有力者が、アフマディネジャド政権を批判するケースが目立っている。
革命後30年の間には、保守派(右派)と改革派(左派)が革命ビジョンや利権も絡んで権力闘争を展開してきたが、アフマディネジャド氏の登場は、「2項対立」に新たな要素を持ち込んだ。

革命初期から表舞台で活躍してきたムサビ、ハタミ氏らといった世代とは異なり、大統領は指導部の親衛隊的な性格をもつ「革命防衛隊」のたたき上げであり、1期目の4年間に革命防衛隊出身者を政府や政府関連企業の要職に大量に登用。革命防衛隊は、石油輸出など経済利権と保守的なイデオロギーが結びついた体制支配の要としての影響力をさらに増した。
最高指導者を頂点としたベラヤティファギ(イスラム法学者による統治)体制下で厳格な社会規範などを重視してきた従来の保守派は、革命防衛隊がアフマディネジャド政権下で力を持ち過ぎ、体制内のバランスを狂わせ始めたことに強い危機感を抱き、改革派の立場に近づいてきた。
イスラム体制を指導する最高指導者ハメネイ師は、体制への忠誠を最も強固に誓うアフマディネジャド大統領ら強硬派に軸足を移す中で、今回の政治危機に直面した。
イスラム体制の最高権力者で団結の象徴でもあるハメネイ師が、デモの撤退鎮圧を命じ、国民に多数の犠牲者を出したり、開票終了前に大統領再選を祝福してしまった選挙の再投票を受け入れたりすれば、その威光は大きく損なわれる。【6月18日 産経】
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【ラフサンジャニ師への金権批判】
既得権益エリート層の代表人物として、アフマディネジャド大統領が攻撃の照準を合わせたのが、イスラム革命指導者の故ホメイニ師の側近で、元大統領でもある保守穏健派の実力者ラフサンジャニ師です。
両者は05年大統領選挙で決選投票を争い、本命と予想されたラフサンジャニ師をダークホース的なアフマディネジャド大統領が破り政権を獲得した経緯があります。

ラフサンジャニ師は05年大統領選挙で敗北した後、07年9月には最高指導者の任免権を持つ専門家会議議長に選出されるという形で巻き返し、その発言力を増しています。
また、改革派のハタミ前大統領らとも連携した動きを見せています。

ラフサンジャニ師はイスラム革命以来、石油を中心とした利権を握ってきたとされており、一方、アフマディネジャド大統領は出身母体の革命防衛隊の系列企業に巨額の利益誘導をしており、両者の権益をめぐる暗闘が続いていると言われています。
なお、革命防衛隊は最高指導者ハメネイ師直属の親衛隊で、総兵力13万人。
最大100万人の動員が可能とされる民兵組織バシジを傘下に置いており、この民兵組織バシジが今回の抗議行動鎮圧の前面に出ています。

アフマディネジャド大統領は選挙戦でのTV討論において、ムサビ元首相を背後で支持しているとされるラフサンジャニ師を名指しして、その「金権腐敗」を激しく非難しました。

“アフマディネジャド大統領が貧困層に支持されるのは、金持ち批判や、受け取った陳情の返書に現金を同封したり、食糧難の地区にジャガイモを配給したりという、実に即物的な大衆迎合主義にある。
大統領は選挙戦の終盤で、その最後の切り札を出した。改革派の重鎮で、最高指導者の任免権を持つ「専門家会議」の議長を務めるラフサンジャニ元大統領を「分を越えた分け前を取った者は、罰せられなければならない」と糾弾したのだ。
それは、富裕層批判にとどまらず、体制の中心にいる人物に矢を放ったことになり、大衆の拍手喝采を浴びた。「あの糾弾で得票を積み上げたのは間違いない」と地元記者は分析する。
だが、大統領の選挙戦略は一歩間違えば、自身の命取りになりかねない。貧富の格差が厳然と存在する事実を突きつけることは、30年に及ぶ革命体制が今も「社会的公正」を実現できないと告白しているにほかならない。ラフサンジャニ師糾弾と合わせ、体制批判の「レッドラインを越えた」との見方もあるからだ。
歯に衣着せぬ言動で国際的孤立を招いたアフマディネジャド大統領の2期目は、内政でも危ない綱渡りが続くことになろう。”【6月13日 読売】

【公開書簡で反撃】
これに対し、ラフサンジャニ師は投票日の3日前に、最高指導者ハメネイ師にあてて公開書簡を出しています。

****深まる亀裂:イラン大統領選余波/下 権力闘争、白日の下に****
公開書簡の末尾に、有名なペルシャ詩人サディーの詩が引用されていた。「小さな水の流れならシャベルでも止まるが、流れが大きくなると、象でも止まらなくなる」(中略)
アフマディネジャド大統領を革命混乱期の「反革命分子」に例え、手遅れにならないよう大統領の「根拠なき無責任発言」を封じてほしいと求めた。放置すれば、体制の根幹を揺るがす事態を招くとも警告していた。
(中略)
書簡公表の翌10日、政教一致体制の「奥の院」である宗教都市コムの聖職者50人が大統領批判の声明を出し、「テレビ討論での(ラフサンジャニ氏への)欠席裁判は宗教違反だ」と非難した。大統領は当選後の13日、テレビ演説で断固とした姿勢を示す。「私は不正と戦うという点で誰にも配慮はしない。革命に貢献したから何でもできると信じている強欲な人物に対してもだ」

両者の対立を改革派の弁護士ニクバクト氏はこう解説する。「ラフサンジャニ氏は最高指導者の罷免権を持つ専門家会議の議長を務め、最高指導者の決断を左右するコムの聖職者の間で人気が高い。この勝負、ラフサンジャニ氏の勝ちだ」
一方、聖職者アルジョマンド師はこう反論する。「ラフサンジャニ氏のいる所、腐敗がある。大統領による一連のラフサンジャニ批判は、体制の大掃除を目指し、大統領の後ろ盾でもある最高指導者が指示した。庶民の圧倒的支持もある大統領の勝ちだ」
テレビ討論を機に、体制の深部で進行する激烈な権力闘争が白日の下にさらされた。体制の亀裂から生じた水流は、一歩間違えば「決壊(体制崩壊)」の危険をはらみつつ、政敵のどちらかを押し流すことによってしか、決着はつかないのかもしれない。【6月17日 毎日】
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専門家会議の持つ最高指導者罷免権がイランの実際政治においてどれほど機能するものかはわかりませんが、ラフサンジャニ師に代表される指導層内部の反アフマディネジャド勢力と大統領の権力闘争が、路上を埋める改革派の抗議行動と連動して進んでいるようです。

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上海協力機構(SCO)首脳会議と初のBRICs公式首脳会議

2009-06-17 21:28:49 | 国際情勢

(インド・ムンバイ同時テロで関係が悪化して以降、初の首脳会談を行ったインド・シン首相とパキスタン・ザルダリ大統領 “flickr”より By Current News Stories
http://www.flickr.com/photos/currentnews/3633462842/)

【米のアフガニスタン安定化策支援】
ロシア、中国と中央アジア(ウズベキスタン、キルギス、カザフスタン、タジキスタン)の計6カ国でつくる上海協力機構(SCO)の首脳会議が15日、ロシアのエカテリンブルクで開催されました。
16日には新興4カ国「BRICs」(ブラジル、ロシア、インド、中国)の初の首脳会議も行われ、国際金融改革などが協議されました。
一連の首脳会議は欧米を除く枠組みとしては最大規模でもあり、欧米への対抗軸を強く意識した会合として注目されました。

上海協力機構(SCO)の首脳会議には、SCOのオブザーバー国として、再選を決めたばかりのイランのアフマディネジャド大統領や、パキスタンのザルダリ大統領、インドのシン首相、アフガニスタンのカルザイ大統領も首席しています。

協議された主な事項は、アフガン情勢や世界の「多極化」支持でした。
アフガン情勢に関しては、ロシア・メドベージェフ大統領が「アフガニスタンの安定化は隣国パキスタンなしには進まない」として、アフガニスタン・パキスタン両国とロシアの3カ国での会談の枠を設定。
アメリカ・オバマ政権が優先課題に掲げるアフガニスタン安定化で、アメリカへの協力を強化する意向を示しています。
ロシアはアフガニスタンへの物資輸送のルート提供を含め、アメリカにアフガニスタン支援の姿勢を示すことによって、核軍縮や米ミサイル防衛(MD)の東欧配備問題などで譲歩を引き出したい思惑もあるとも報じられています。

米軍のアフガニスタンへの補給拠点であるキルギスのマナス米空軍基地が8月に閉鎖される問題では、当事国のキルギスと存続を求めるアフガニスタン、中央アジアにおけるアメリカのプレゼンスを弱めたいロシア・中国などの間で協議されたものと思われますが、その内容についてはまだ目にしていません。

【多極化クラブ】
「多極化」については、世界の多極化や国連中心の外交を推進すべきだとする「エカテリンブルク宣言」を採択しています。
もともと、中ロを中心とするSCOは創設当初から、アメリカへの対抗軸となる狙いが込められていた枠組みです。
今回は、選挙後の混乱で1日遅れの到着となったイラン・アフマディネジャド大統領が「イラクの占領が続き、アフガニスタンの混乱は拡大している。パレスチナ問題も未解決だ。アメリカは経済危機に陥り、解決の希望はない」「アメリカと同盟国は危機に対処できない」と主張するなど、“会議はアメリカの一極支配に揺さぶりをかける「多極化クラブ」の思惑を色濃く反映する場となった。”【6月17日 産経】とか。

【ムンバイテロ後、初の印パ首脳会談】
こうした会議のメインテーマ以外にも、注目される首脳会談等も行われています。
まず、インドのシン首相とパキスタンのザルダリ大統領が16日、昨年11月のインド・ムンバイ同時テロで関係が悪化して以降、初の首脳会談を行っています。

****上海協力機構:印パ首脳が会談、和平協議再開で条件提示*****
会談は、07年秋から中断している和平協議の再開に向けて双方が条件を提示する形で進み、7月16日にエジプトで開かれる非同盟諸国会議で両首脳が再び会談することで一致。協議再開の結論は持ち越した。
会談前、両首脳は握手し、友好的な雰囲気を演出。ただ約1時間の会談後は会見せず、双方の歩み寄りにはまだ課題が残っているとの印象を与えた。(中略)
アフガニスタンでの対テロ戦争推進には両国の関係改善が不可欠と見る米政府も注視していた。
***********************

また、国境問題を抱える中国の胡錦濤・国家主席とインドのシン首相が15日夜に会談し、中印首脳間のホットラインを開設することで合意し、国境画定作業を急ぐ方針で一致したとのことです。
首脳会議終了後の17日には、中国の胡錦濤・国家首席とロシア・プーチン首相がモスクワで会談し、胡錦濤・国家主席は、プーチン首相を10月に中国に招待しています。

【中国の存在感】
中ロが主導する会議ですが、やはり経済力に勝る中国の存在感が大きかったようです。
胡錦濤・国家主席は16日、SCO加盟国の経済危機対策を支援するため、100億ドルの信用支援を実施すると表明しています。

****上海協力機構 存在感増す中国 首脳会議 資源確保へ融資攻勢*****
SCOは中露が牽引(けんいん)役を果たしてきたが、金融危機の中でも“融資攻勢”をかけてエネルギー確保に動く中国と、経済復調の遅れが指摘されるロシアの体力差が浮き彫りになりつつある。(中略)
SCOは2001年の創設後、中国とロシアが主導してきたが、金融危機を境に両国の経済環境の違いを示す出来事が続いている。

1つは屈指の天然ガス産出国、トルクメニスタンをめぐる綱引きだ。インタファクス通信などによると、ロシアは今年4月、欧州向け天然ガスの需要減を受け、トルクメンと売買契約を結んだガスの供給量を一方的に削減した。
「契約違反だ」と反発を強めるトルクメンは今月、世界4位の埋蔵量ともされる南ヨロタニ・ガス田の開発で中国から30億ドルの融資を受けることで合意。トルクメンは今後30年にわたり中国にガスを安定供給する契約を交わすなど、中国と親密な関係を築きつつある。
中露間の懸案も金融危機を背景に動き始めた。ロシア・東シベリアからの石油パイプライン建設計画で、中国はロシアの石油関連企業2社に総額250億ドルを融資し、その見返りに中露共同で建設を進めることで合意。今月には融資第一弾となる計6億5000万ドルが2社に送金された。
価格決定権を中国に握られるのを嫌うロシアはパイプラインの建設を渋ってきたが、ロシア国内のエネルギー関連企業は対外債務返済に追われており、台所事情につけ込む形でエネルギー獲得に動く中国のしたたかさがうかがえる。
エカテリンブルクでは16日、中露とインド、ブラジルの新興4カ国(BRICs)による初の首脳会談も行われる。が、回復の兆しが出てきた中国やインドに対し、ロシアは今年の国内総生産(GDP)が昨年比マイナス8%と大きく落ち込む見込みで、世界経済の原動力と目されてきたBRICsの中でも、復調に差が現れつつあるのが実情だ。【6月16日 産経】
**********************

【実情が異なるBRICs】
16日にはSOC首脳会議に引き続き、ルラ・ブラジル大統領、メドベージェフ・ロシア大統領、シン・インド首相、胡錦濤・中国国家主席が参加して新興4カ国(BRICs)の初めての公式首脳会議が行われました。
BRICsは世界人口の42%、その経済規模は世界全体の60兆7000億ドルのうち約15%を占めていますが、ゴールドマン・サックスでは、今後20年で主要7カ国(G7)の経済規模を上回り、中国経済は米国を追い抜くとの予測を示しています。
今回首脳会議は、米国発の世界的な金融危機を受け、欧米日の先進国主導で進められてきた国際経済体制の改革を求め、新興国の発言力向上を狙ったものです。

会議では国際金融機関および国連での発言権拡大を求めていくことで一致しましたが、声明には、ドル基軸通貨体制を公然と批判する文言は盛り込まれませんでした。
共同声明は「世界経済の変化を反映し、国際金融機関の改革促進に取り組む。新興国および発展途上国は、国際金融機関において発言権と存在を高めなければならない」と強調しています。

BRICsと言っても、経済的に突出しており2兆ドル相当の外貨準備を保有する中国と、ロシアやブラジルでは相当に認識の違いがあるようです。
世界最大の米国債保有国でもある中国は、ドルが今後も世界経済において支配的な役割を維持してくれないと困る実情があります。

****BRICs初の首脳会議 「国際金融で発言権」*****
4カ国の経済構造・規模は大きく異なる上にBRICsやドル基軸体制をめぐる温度差も色濃く、この枠組みの将来像はいまだ不透明でもある。 (中略)
会合に先立つロシア大統領側近の説明によれば、4カ国は計3兆ドル(290兆円)にのぼる外貨準備を各国通貨で持ち合うことも議論したとみられる。
しかし、BRICsと呼ばれる枠内でも中国の国内総生産(GDP)が他の3カ国分に匹敵するなど突出しており、金融危機後の成長ペースでも生産・サービス業型の中国とインドが資源輸出や農業に依存するロシアとブラジルに差をつけると予測されている。
ロシアとブラジルがBRICsの枠組みづくりに熱心で米ドル基軸への対抗心をあらわにしてきたのに対し、中国とインドにはドル崩壊への警戒も強い。ロシアは今回の首脳会議で、「超国家通貨の創設」といった従来の主張を収めざるを得なかった。
各国間には経済摩擦や政治体制の違いもあり、BRICsが近い将来、一つの集合体として実質的機能を持ち得るかには否定的な見方も少なくない。 【6月17日 産経】
*******************

BRICsは経済成長という共通点以外には、政治的立場や優先課題などで一致する部分は多くないと指摘もあり、BRICsが今後強固な団結を実現できるかは難しいところのようです。

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イラン  拡大する抗議行動 監督者評議会は再集計決定

2009-06-16 22:38:17 | 国際情勢

(大統領選挙の不正を訴える抗議行動でAzadi (Freedom) squareを埋め尽くす人々 6月15日テヘラン “flickr”より By moonstarsilverwolf
http://www.flickr.com/photos/moonstarsilverwolf/3631263458/)

【広がる「静かな抗議」】
イラン大統領選挙後の情勢は混沌としています。

選挙戦後半に自由を求める若者や女性の支持を集めたムサビ元首相が保守強硬派アフマディネジャド大統領を激しく追い上げ、接戦が予想された選挙でしたが、12日投票の開票の結果、アフマディネジャド大統領の得票約2450万票(得票率63%)に対し、ムサビ氏約1320万票(同34%)と大差がつきました。

この“予想外”の結果に、選挙に“不正”があったとして、選挙無効・再選挙訴えるムサビ元首相とその支持者の抗議行動が大きなうねりとなっています。
ムサビ氏は、ウェブサイトに掲載した声明で「イラン国民に対し、平和的かつ合法的に全土で抗議活動を続けるよう求める」として「静かな抗議」を呼びかけています。

14日までは、「独裁者を倒せ」などと叫び選挙結果への不信と不満を口にした若者達が一部暴徒化し、警察に投石、警官隊は警棒や催涙弾で鎮圧を試み、激しい衝突が起きました。
15日の大規模デモは当局の禁止命令を無視し、ムサビ氏自身も参加したイランでは異例のデモとなりましたが、ムサビ元首相の「静かな抗議」の呼びかけもあって、“参加者の大半はペルシャ語で「沈黙」と書いた紙を掲げ、もう一方の手でVサインを示しながら歩いており、14日までの「独裁者に死を」などといった過激なスローガンは控えていた。これまでのところ、警官隊も各所で見守っている程度だという。”【6月16日 毎日】とのことです。

しかし、一部は暴徒化し治安部隊との衝突も起きたようで、イランの国営FM放送ラジオ・パヤンが16日、ムサビ元首相を支持する勢力が15日にテヘランで開いた大規模抗議集会が開かれた現場近くで争いが起き、7人が死亡したと報じています。
抗議行動は首都テヘランだけでなく、南部シラーズ、北東部マシャド、北西部タブリーズ、中西部ケルマンシャー、中部イスファハンに飛び火しています。

【再集計で収拾をはかる】
アフマディネジャド大統領は「有権者の84%を超える高い投票率(の結果の自らの勝利)は、世界を支配している抑圧的な制度に対する打撃だ」と勝利を誇り、不正があったとの訴えについては、「その差は大きく(結果に)疑問の余地はない」「選挙は2チームが争うサッカーの試合と同じ。敗者は去るのみだ」と主張。
暴動についても、「サッカーの試合後に起きる理性を失った騒ぎのようなもの、大したことではない」と一蹴し、ロシア・エカテリンブルクで開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議に出席しています。
また、最高指導者ハメネイ師も選挙後、国民に「選ばれた者も選ばれなかった者も挑発的な態度と言葉を避けてほしい」と述べ、選挙結果を受け入れるよう求めています。

しかし、数万とも数十万とも言われる人々が通りを埋め尽くす、イスラム革命(79年)以来最大の反政府運動に発展した事態に、イラン指導部も少なからず衝撃を受けているようです。
選挙の最終的管理権を持つ監督者評議会(護憲評議会)は15日、大統領選で敗退した改革派のムサビ元首相と保守派のレザイ元革命防衛隊司令官の両者から出された選挙結果に対する異議申し立てを受理。
最高指導者ハメネイ師も、監督者評議会にムサビ氏の主張について調査を命じ、14日にはムサビ氏と会談し、評議会に調査を促した旨を告げたとされています。【6月15日 AFP】

最高指導者ハメネイ師が選挙結果受け入れを表明している以上、大きな動きはないと見られていましたが、事態の広がりと早期収拾をめざす指導層の思惑があってか、以外に早く“再集計”の結果が出されました。
****大統領選再集計の方針示す=イラン護憲評議会****
12日投票のイラン大統領選で、選挙結果承認権限を持つ護憲評議会は、票の再集計をする方針を示した。国営テレビが16日報じた。【6月16日 時事】
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【「不正も正当化できる」】
ただ、“再集計”でどの程度の修正がなされるのかは疑問です。
不正を訴える抗議活動に対する“ガス抜き”程度のものに終わるようにも思えます。
ムサビ元首相側は、そもそも投票自体が公正になされていないとの主張で、再選挙を求めています。

****イラン大統領選:開票所責任者が不正の可能性を示唆*****
イラン大統領選での保守強硬派アフマディネジャド大統領の圧勝を巡り、テヘラン東部の開票所責任者は15日、「投票用紙が足りず、内務省に追加発注したが届かなかった」と不正の可能性を示唆した。毎日新聞の取材に答えた。護憲評議会は15日、選挙に敗れた改革派ムサビ元首相の異議申し立てを受理したが、再集計などが行われる可能性はほとんどなく、混乱が長引く可能性もある。
証言によると、投票日(12日)の昼過ぎには投票用紙がほとんど底をつき、夕方には長い列を作った有権者が投票をあきらめたという。この地域はムサビ氏支持者が圧倒的多数とみられている。

投票開始前には、内務官僚5人が匿名で「過去の例に則し、幅広い不正を強く懸念する」との告発文を流していた。秘密会合で大統領の後ろ盾とされる高位聖職者から、コーラン(イスラム教聖典)の一節を引用し「イスラムの価値観の維持が危ぶまれる者を排除するためには不正も正当化できる」との解釈が伝えられたという。
告発文は「有権者数をはるかに超える投票用紙が用意された」と指摘するが、改革派弁護士は取材に「ムサビ氏の支持者が多い地域に限り、用紙は不足した」と指摘した。ムサビ氏は少数民族アゼリ人(全人口の25%)。用紙が不足したのは主に、アゼリ人が多く住むイラン北西部や、改革派を支える富裕層の多いテヘラン北部だったという。
弁護士によると、開票は投票所ごとに行われ、内務省の選管本部にメールで数値が報告される。本部でのコンピューター入力作業は第三者によって監視されていない。【6月15日 毎日】
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「イスラムの価値観の維持が危ぶまれる者を排除するためには不正も正当化できる」といったあたりが、イスラム原理主義に対する日本を含めた外の世界の違和感・不信につながります。

一方、当局による改革派幹部の拘束も行われています。
警察は14日の抗議活動で、改革派100人以上を拘束。拘束者にはハタミ元大統領の兄弟も含まれていると言われています。
改革派有力指導者のアブタヒ師(元副大統領)も16日朝、テヘラン市内の自宅で逮捕されています。
アブタヒ師は、改革派で最も影響力を持つ指導者ハタミ前大統領の側近中の側近とされています。

【今日にも再び抗議行動】
今後の抗議活動の展開、イラン指導層の対応はよくわかりません。
改革派ハタミ前大統領時代の99年夏、民主化を求める数万人規模の学生中心のデモが起きたことがありますが、今回は一般市民が原動力になった点で決定的に異なっているとも言われます。

****イラン:ムサビ氏核に動員力 反政府運動に発展
99年7月のデモは、改革派系新聞の発行停止が契機だった。学生中心のデモはテヘランで1万人規模に達し、地方都市にも波及。治安部隊との衝突で死者も出た。
当時のハタミ大統領は暴動6日目、混乱拡大を恐れてデモ参加者を「烏合(うごう)の衆」と非難。改革派運動が挫折する転機になった。革命防衛隊がテヘランを包囲しハタミ政権に圧力をかけたと言われる。
今回はムサビ氏という運動の「核」が存在し、反大統領感情と、選挙での「不正」を確信する正当性が同氏の支持者を駆り立てている。通信手段の発達で、いつでもデモに大動員できる点も99年当時とは大きく異なり、当局への圧力は強い。
ムサビ氏は反政府運動を優位に主導できる立場にあるが、今のところ支持者に「冷静な抗議」を求めている。
治安当局は従来「国民の側に立つ」と強調しており、武力行使は困難だ。むしろデモ参加者を死傷させることで未曽有の武力衝突を招くことになりかねず、当面は民兵組織バシジが警官隊に代わって矢面に立つ状況が増えそうだ。【6月16日 毎日】
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今日にもムサビ元首相側とアフマディネジャド大統領支持者側、双方の集会・デモが予定されており、衝突など不測の事態も懸念されています。
今後の展開はよくわかりませんが、イラン指導部が自らの権威失墜につながるような決定をするとは考えにくいですし、保守強硬派アフマディネジャド大統領の勝利は最高指導者ハメネイ師を含め、イラン指導層の望んだ結果ですので、勝利した側が再選挙に応じるケースというのは、イランに限らずどこの国でもあまり聞かない話です。

【対応に苦慮するアメリカ】
イランとの対話路線を打ち出しているアメリカ・オバマ政権も対応に苦慮しています。
アメリカとしては改革派勝利を期待したところもあるでしょうが、今へたに支援を表明して改革派弾圧の口実とされることへの懸念もあります。
また、アフマディネジャド大統領側との敵対は、大統領勝利が確定した場合の今後の交渉をやりにくくします。

バイデン米副大統領は14日放映の米NBCテレビで「言論や群衆が抑圧されている様子からすると、(選挙の公正さには)深刻な疑問がある」と指摘していますが、オバマ米大統領は15日、「深く憂慮している」と述べるに留めています。
オバマ大統領は「米国がイラン国内の政争の種になるのは避けたい」とした上で、選挙結果の公正な調査は「流血や人々の意見表明の鎮圧を招かないことが重要」と指摘。抗議活動参加者には「世界が注視しており、彼らの政治参加には心を動かされた」とエールを送ったとか。【6月16日 毎日】

オバマ政権の慎重な対応は“ホワイトハウスはどう転んでもプラスにならない状況に置かれているが、イランの内政に干渉するよりも、距離を置くのが最善の選択肢だとの見方”【6月16日 ロイター】に基づいています。
“ブルッキングス研究所のイラン問題専門家、スザンヌ・マロニー氏は、民主化を求める抗議者を公に支持することは彼らの立場を弱めることになる可能性もあり、米国の国益に不利に作用するリスクもあると指摘。「唯一の選択肢は、傍観者でいることだ。懸念が表明されるのは完全に妥当なことだが、ワシントンが高飛車に出るのは望ましくない」と述べた。”【6月16日 ロイター】

オバマ政権は核問題を中心としたイランとの直接対話の機会を引き続き求めていく考えですが、仮にこのままアフマディネジャド大統領勝利で終結したとしても、正当性に疑念の残る相手との交渉は、国内に反対意見も多いなかでは一層困難なものになりそうです。

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イスラエル・ネタニヤフ首相、始めてパレスチナ国家樹立へ言及 オバマ大統領、和平交渉への第一歩

2009-06-15 21:36:36 | 国際情勢

(オバマ大統領とイスラエル・ネタニヤフ首相・・・と言っても、1年ほど前の写真で、当時はまだ二人とも政権の座にはありませんでしたが  “flickr”より By Barack Obama
http://www.flickr.com/photos/barackobamadotcom/2697058088/)

【「ネタニヤフ氏は大統領が和平作業に取り組めるような発言をした」】
中東和平に関係するニュースがいくつか報じられています。
一番扱いが大きいのは、イスラエルのネタニヤフ首相が始めてパレスチナ国家樹立に言及したというものです。

****イスラエル:首相、パレスチナ国家樹立に言及*****
イスラエルのネタニヤフ首相は14日夜、外交演説を行い、中東和平交渉を巡り拒み続けてきた将来のパレスチナ国家樹立に初めて言及した。首相はただ、この国家が非武装化され、イスラエルを「ユダヤ人国家」と認めることが樹立合意の必要条件だと主張。さらに、パレスチナが求める聖都エルサレムの分割や、難民のイスラエル領内への帰還には応じないと言明するなど、事実上、パレスチナが受け入れられない高いハードルを突きつけた。【6月15日 毎日】
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確かに“パレスチナ国家”に言及していますが、“非武装化”と“イスラエルをユダヤ人国家として認めること”という、二つの厳しい条件がついています。
“イスラエルをユダヤ人国家として認めること”は、イスラエル内に現在暮らしている多くのパレスチナ人の存在を無視することになり、また、パレスチナ難民の帰還を否定することにもなり、パレスチナ側が承認できるものではありません。

それ以外にも、エルサレムについても「永久不可分のイスラエルの首都」と断定し、東エルサレムを将来の首都に描くパレスチナの要求を拒否しています。
また、占領地ヨルダン川西岸での入植活動の完全凍結を拒否し、人口増に伴う既存入植地の拡張は不可欠との従来方針を繰り返しています。

“パレスチナ国家”への言及は、恐らく、先のオバマ大統領との会談で強く迫られたことによるものでしょう。
これ以上“パレスチナ国家”を無視すると、オバマ大統領のカイロ演説の流れで、イスラエルだけが孤立しかねない・・・との判断もあったと思われます。
ただ、内容的には、これまでの主張から一歩も出ないゼロ回答のようにも思えます。

しかし、“ゼロ回答”であったにしても、とにもかくにも“パレスチナ国家”に言及したことは、今後の交渉への門戸を開いたという意味で、大きな変化であるとも考えられています。
“「2国共存を推進したいオバマ大統領の懸念という観点からすれば、ネタニヤフ氏は大統領が和平作業に取り組めるような発言をした」
非武装化されたパレスチナ国家という考えは、クリントン元米大統領が政権後期の和平交渉で推し進めた非軍事国家に非常に近く、「非武装化国家を最初の条件とすることで、米国も全く話が始まらないということにはならない」”【6月15日 ロイターより】・・・とのことです。

パレスチナ解放機構(PLO)のエラカト交渉局長は「(エルサレムの帰属問題など)最終地位交渉の課題の大半を退けられ、交渉の余地もない」と演説内容に憤っているそうですが、ギブス米大統領報道官は「重要な一歩であり、オバマ大統領は歓迎している」との声明を発表しています。

【シリア・ムアレム外相「米国との関係正常化のロードマップで合意した」】
一方、シリアのムアレム外相は、アメリカの目指す包括的中東和平実現に協力していくこと、及び、中断しているイスラエルとの和平交渉を進める用意があることを表明しています。

****シリア:米国との関係、正常化へ 外相が国務長官と協議*****
シリアのムアレム外相は米外交専門誌「フォーリン・ポリシー」(電子版)に掲載されたインタビュー(4日実施)で、クリントン米国務長官と5月末に電話協議し、「政治、安全保障、文化など全分野での米国との関係正常化のロードマップ(行程表)で合意した」と語った。また、イラクの治安安定化と包括的中東和平の実現、テロ対策の3点でも「展望を共有しているとの点で一致を見た」と述べた。
ムアレム外相は対イスラエル和平の展望にも言及し、「パレスチナ側が(和平に)合意する前でも、イスラエルとの和平合意に調印する用意がある」と語った。また、イスラエル軍のパレスチナ自治区ガザ地区攻撃で中断した、トルコの仲介による間接交渉の再開が望ましいと発言。最終的には、イスラエルの同盟国で、和平合意の順守を検証できる米国の仲介による決着を求めたい意向を示した。

オバマ米政権は包括的な中東和平実現に向け、ガザを実効支配するイスラム教原理主義組織ハマスに強い影響力を持つシリアとの関係改善交渉を推進。13日にはミッチェル中東和平特使がダマスカスでアサド大統領と会談。ミッチェル氏は「シリアには(中東の)包括的和平に欠かせない役割がある」と述べた。
米国は、一部武装勢力がシリア国境からイラクに出入りしているとしてシリアに対処を要求。テロ対策では、ハマスや、レバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラの支援を止めるよう求めてきた。シリアが受け入れれば、オバマ政権が5月に延長したテロ支援国家指定の最終的解除に向けた環境が整うことになる。【6月15日】
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【EU・ソラナ代表「ヒズボラはレバノン政治の一部だ」】
そのシリアが強い影響力を持つレバノンの武装組織ヒズボラは、EUとの初の公式会談に応じています。

****EU:ヒズボラと対話へ 高官レベル、初の公式会談*****
欧州連合(EU、加盟27カ国)のソラナ共通外交・安全保障上級代表は13日、ベイルートでイスラム教シーア派組織ヒズボラの高官と会談した。EUとヒズボラの高官レベルの公式会談は初めて。米国はイランが影響力を持つヒズボラを「テロ組織」に指定しているが、オバマ政権の誕生でイスラム世界との融和機運が高まる中、欧州がヒズボラとの対話に踏み出した格好だ。

ソラナ代表が会談したのはヒズボラ政治部門のフセイン・ハジ・ハッサン国民議会議員。7日投開票の国民議会選挙でヒズボラを中心とする反米親シリア派連合は与党の親米反シリア派連合に敗れたが、与党はヒズボラが参加する挙国一致内閣の樹立を目指しており、ヒズボラ軍事部門の武装解除が連立交渉の焦点だ。
ソラナ代表は会談後の記者会見で「ヒズボラはレバノン政治の一部だ」と述べ、レバノンの各政治勢力が次期内閣の樹立で早期に合意するよう促した。フセイン・ハジ・ハッサン議員は会談について「ヒズボラをもっと知ろうというEUの善意の表れだ」と評価した。
ソラナ代表はオバマ米大統領のミッチェル中東特使ともベイルートで意見交換し、中東和平交渉の進展を目指し欧米間の協力と連携を強化する方針を確認した。ヒズボラとの接触も事前にEUから米側に連絡されていたとみられる。
欧州では今春、英国がヒズボラの政治部門と実務レベルで接触を始めるなど、対話への地ならしが進んでいた。【6月15日 毎日】
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“ヒズボラ軍事部門の武装解除”は、今のところヒズボラ側が応じるとは思えません。
先の総選挙で勝利したレバノンのシニオラ首相は、ヒズボラが中核の野党連合が現内閣で保持している事実上の拒否権について「続かない。実験はうまくいかなかった」と述べ、今後組閣される新内閣では認めるべきでないとの見解を明示しています。
昨年7月に発足した現内閣では、30ある閣僚ポストのうち、3分の1超の11が野党側に配分されています。
憲法が重要政策の閣議決定に3分の2以上の賛成が必要と定めているため、野党側は事実上の拒否権を持つことになっています。
ヒズボラ側は拒否権が維持されなければ新内閣には参加しない姿勢と言われ、今後の組閣における混乱の種になる可能性があります。【6月15日 毎日より】

【オバマ大統領 厳しい前途】
全体的には、イスラエル・ネタニヤフ首相による始めてパレスチナ国家樹立への言及、シリアのアメリカ中東政策への協調、アメリカの意を受けたEUとヒズボラの会談・・・と、オバマ大統領の今後の包括的中東和平に向けた取組みの土台づくりは、なんとか前進しているようです。
もちろん、中身の話になると、楽観的になれる要素はあまりありませんが。

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イラン・アフマディネジャド大統領 圧勝で再選 荒れるテヘラン

2009-06-14 18:57:43 | 国際情勢

(ムサビ元首相支持の若者が掲げる紙片には“We write Mousavi, they read Ahmadinejad ”
“flickr”より By ☞ John McNab
http://www.flickr.com/photos/johnmcnab/3622878330/)

【地滑り的な大差】
イラン大統領選挙は、周知のとおり保守強硬派のアフマディネジャド大統領が圧勝しました。

****イラン大統領選:現職圧勝、得票率62% 最終開票結果*****
イラン内務省は13日、大統領選の最終開票結果を発表した。保守強硬派のアフマディネジャド大統領(得票率62.6%)が、最有力対抗馬の改革派、ムサビ元首相(同33.8%)に2倍近くの大差をつけて圧勝した。レザイ元革命防衛隊最高司令官は1.7%、カルビ元国会議長は0.9%にとどまった。投票率は前回(63%)を大幅に上回る84.7%。

開票結果についてムサビ氏は声明で「敗北」は受け入れないと主張。「手品を見ているようだ。(開票作業に伴う)多くの明らかな不正は(イスラム)体制と国民を対立させ、体制を揺るがしかねない」と選管当局を厳しく非難しており、今後、混乱につながる恐れもある。
一方、最高指導者ハメネイ師も声明を発表し「選ばれた者も選ばれなかった者も挑発的な態度と言葉を避けてほしい」と述べ、ムサビ氏に暗に選挙結果を受け入れるよう求めた。【6月13日 毎日】
***********************

もとより現職アフマディネジャド大統領が優勢と見られていた選挙ですが、選挙戦終盤にかけて対抗馬の改革派ムサビ元首相が追い上げており、接戦になるのでは・・・との予測もあっただけに、意外な大差にも思えました。
“接戦との予想もあった選挙戦だが、内務省の集計では、アハマディネジャド大統領の地滑り的勝利。ムサビ氏は、言論や表現の自由を望んだ若者や知識層以外に支持を広げられなかったもようだ。一方、同大統領は現職という圧倒的に有利な立場で選挙戦を進め、庶民重視の清廉な政治姿勢が評価されたとみられる。”【6月13日 時事】

首都テヘランは全国の人口の15%を占めますが、“接戦との予想”は残り85%の動向を見失っていたのでしょうか。
テヘランでも貧困層はアフマディネジャド大統領を支持しています。
“選挙戦では大統領の外交政策や「ばらまき」と批判される経済運営が争点となり、ムサビ候補は国際的孤立の脱却や自由化を求める都市住民や若者に支持を広げた。しかし、「貧者の味方」を標榜(ひょうぼう)する大統領への地方や低所得層の根強い支持や、動員力で勝る保守派組織票の壁に阻まれた。”【6月14日 産経】

同じようにバラマキ政策や金権政治や強引な政治手法を批判されながらも、地方農民や都市貧困層の強い支持で選挙では強みを発揮するタイのタクシン元首相にも似た感じがあります。
日本で言えば、かつての田中角栄でしょうか。

【アメリカの対話路線への影響】
今回結果はイランとの対話を模索するアメリカにとっては打撃になるのでは・・・と見られています。
“改革派のムサビ元首相当選も視野に入れ、イランとの直接対話の道を探ってきたオバマ米政権には打撃であり、イランがウラン濃縮を加速させれば、国際社会との緊張がさらに高まるのは必至だ。国内的には、大統領の強硬発言がイランを孤立させているとのムサビ氏の訴えが説得力を持たなかったことも浮き彫りになっている。”【6月14日 産経】

一方、イランを敵視するイスラエルにとっては、国際的に受け入れられやすい改革派より強硬派アフマディネジャド大統領再選が好都合のようです。
****イラン大統領の再選「脅威示す結果」とイスラエル*****
イスラエルのアヤロン副外相は13日、イランでアフマディネジャド大統領が再選されたことを受けて声明を出し、「増大するイランの脅威を何よりも示す結果だ」として、国際社会に対し、イラン核開発阻止の必要性を改めて強調した。
イスラエルはイランの核を最大の脅威と見なしており、大統領が強硬路線を維持すれば、イランの核施設攻撃を求める国内論議が再燃しそうだ。
右派主導政権を率いるネタニヤフ首相は、パレスチナ国家樹立を目指す和平案受け入れを迫るオバマ米政権に対し、イランの脅威を強調することで圧力をかわそうとしてきた。
イスラエルでは、オバマ政権がウラン濃縮の容認など対イラン政策転換を検討していることへの危機感が強く、むしろ、改革派勝利を警戒する声が強かった。
イラン問題アナリストのメナシェ・アミール氏は、「(保守、改革の両派とも)核開発の野心は同じ。怖いのは、ハタミ大統領時代のように『改革派』を標榜することで国際圧力を弱め、その陰で核開発を進めること。アフマディネジャド大統領の方が対応しやすい」と説明する。【6月13日 読売】
********************
対立している強硬派同士は、自己の存在意義を明らかにするためともに対立状態維持を望み、その点で利害が一致する・・・という、よくあるパターンです。

個人的には、イラン国内で政治的自由がひろがる方向での改革を期待していましたので、今回のアフマディネジャド大統領の地すべり的圧勝はちょっと残念な感もあります。

ただ、冷静に考えると、核開発問題などの基本姿勢は最高指導者ハメネイ師の決定事項ですし、また、厚い保守層の壁を考えても、仮にムサビ元首相が当選しても身動きがとれない状況になったのでは・・・とも思われます。
その結果、早急な改革を求める若者支持者の失望・離反を招く・・・といった、ハタミ元大統領時代の再現です。
イランの基本政策を動かしていくためには、最高指導者ハメネイ師や保守層と協調できるアフマディネジャド大統領のほうが現実性があるとも言えます。(保守層も経済政策などで必ずしも大統領を全面的に支持している訳でもないようですが。)

最高指導者ハメネイ師は3月21日、イランの新年に当たるノールーズに際して北東部の都市マシャドで演説し、オバマ米大統領が20日行った対話呼び掛けについて、「(オバマ大統領は)変革を口にしてはいるが、実際には何らの変化も見受けられない」と述べ、直接対話に即座には応じられないとの考えを示唆しました。
しかし、最後に「あなたが変わるなら、われわれの行動も変わる」と語り、今後の対話には含みも持たせています。
今までの「自分たちに非はない」というイラン側の立場からは大きな変化であり、イラン側にもアメリカとの対話に応じる意図がある・・・とも見られています。【6月17日号 Newsweek日本語版より】
再選後のアフマディネジャド大統領も、そうした流れで、対米強硬一辺倒からの軌道修正を行うのではとも思われますが、その微妙な軌道修正には改革派より、最高指導者ハメネイ師や保守層の協力が得られるアフマディネジャド大統領のほうが動きやすいとも言えます。

【荒れるテヘラン 改革派への締め付け】
選挙後、テヘランでは選挙に不正があったとする若者達の暴動が起きています。
“野党の対立候補の支持者ら数千人が選挙に不正があったとして首都テヘランで抗議行動を行った。
支持者らはテヘラン中心部で「独裁者を倒せ」などと叫び選挙結果への不信と不満を口にした。群衆の一部は警察に投石し、警官隊は警棒や催涙弾で対応して両者は衝突した。警察は同日夜にはムサビ氏の事務所がある地域を中心に主要な道路と広場の警戒を強化し、数十人の男性が手錠をされて内務省の建物に連行される姿も見られた。”

ムサビ元首相は冒頭記事にもあるように選挙に不正があったと指摘していましたが、その後ウェブサイトに「深刻な選挙違反があったので怒るのはもっともだが、平静と抑制を失わず暴力とは一線を画するよう求める」との声明を掲載して支持者に平静を呼び掛けています。

確かに、今回の“地すべり的”な圧勝はムサビ陣営にとっては納得いかないところでしょうし、前回の大統領選で約500万票を得たもう1人の改革派候補キャルビ師(元国会議長)も今回は33万票余に激減しており、「到底あり得ない選挙結果に驚いている」との声明を出しています。

選挙に不正があったのかどうか・・・イランの核開発が平和利用に留まるのか軍事目的なのか同様、なんとも証拠がないところです。
ただ、最高指導者ハメネイ師が「選ばれた者も選ばれなかった者も挑発的な態度と言葉を避けてほしい」と選挙結果を是認している以上、動きようのないところでしょう。

この暴動を機に、改革派全体に対する締め付け強化も懸念されます。
すでにムサビ元首相を支持した改革派グループの幹部が逮捕される事態となっています。

****イラン改革派グループの幹部、約10人逮捕か****
イラン大統領選挙で敗れた穏健派穏健派、ミルホセイン・ムサビ元首相を支持した改革派グループの幹部少なくとも10人が逮捕された。
幹部が逮捕されたのは、イスラム・イラン参加党とイスラム革命ムジャヒディン機構。逮捕者には、1997年から2005年まで大統領を務めた改革派のモハマド・ハタミ前大統領時代に議会の外交委員長を務めたモホセン・ミルダマディIIPF党首など、ハタミ政権で要職についた人物もいるという。【6月14日 AFP】
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以下の写真は選挙後のテヘランの様子。
“flickr”より By .faramarz
http://www.flickr.com/photos/fhashemi/ に百数十枚の写真がアップされています。



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インドネシアとマレーシア 領海問題で対立 “近い”両国の微妙な感情

2009-06-13 14:18:12 | 世相

(マレーシア・ペナンで手首を切って自殺しようとするインドネシア人メイドを病院に運ぼうとするレスキュー隊(07年11月11日) 自殺の原因が雇用主の虐待なのか個人的恋愛問題なのかは知りません。 “flickr”より By Rescue Dog
http://www.flickr.com/photos/rescuedog/2019986943/)

【アンバラット海域の領海問題】
マレーシアとインドネシア、地理的にもお隣同士の国で、人種的にも近く、同じイスラムを中心とし、言語的にもお互いにある程度意思疎通できるほど近似している・・・そんな非常に近い関係にある両国ですが、その“近さ”が必ずしも“親しさ”にならず、対応意識、ときに“近親憎悪”みたいな感情になりがちなのは世の常でもあります。
日本と韓国や中国の歴史的・文化的近さと屈折した感情もその1例でしょうし、アジアの国ではタイとカンボジアも、やはり同じような言語を持ちながら国境で小競り合いを繰り返しています。
最近では、こうした“近親憎悪”に“資源問題”が絡んで対立が煽れるケースも多いようです。

****アンバラット海域:インドネシアとマレーシア「領海」主張****
インドネシア、マレーシア双方が自国の領海と主張する「アンバラット海域」をめぐり、両国間で緊張が高まっている。マレーシア軍の艦船が同海域近くのインドネシア領海を侵犯したことが直接のきっかけだが、来月8日投票のインドネシア大統領選のキャンペーンで、再選を目指すユドヨノ大統領の対立候補が政府への攻撃材料として取り上げ、国民の反マレーシア感情をあおった側面もある。

アンバラットは、両国が国境を接するボルネオ(カリマンタン)島東方沖の約1万5000平方キロの海域。石油、天然ガスなどの資源にめぐまれているとされ、80年代以降、両国がともに領有権を主張してきた。
インドネシア軍などによると、今月初め、複数のマレーシア艦船が同海域周辺のインドネシア領海を侵犯した。これについて、ユドヨノ大統領は「アンバラットはインドネシアのもの」と述べたうえで、「外交的手段で解決する」と従来通りの立場を示した。
これに対し、大統領選でユドヨノ氏に挑むカラ副大統領は「マレーシアの挑発的行為に直ちに行動を起こすべきだ」と反応。もう一人の対立候補、メガワティ前大統領も「もっと強いメッセージを示すべきだ」と政府の対応を批判した。
こうした動きを受け、ジャカルタのマレーシア大使館前で抗議集会が開かれたほか、地元紙によると、アンバラットに近い東カリマンタンでは「義勇兵」を募る団体まで現れたという。両国は言語、文化的な共通点が多いが、生活、所得水準などで劣るインドネシア国民の間には潜在的にマレーシアへの対抗意識がある。
最近では、マレーシア・クランタン州のスルタン(イスラム王侯)家に嫁いだインドネシアの元モデル(17)が、王子から性的虐待や暴力を受けたとして帰国。レイプ、監禁などの容疑でインドネシア国家警察に告訴し、地元メディアで話題となっている。 【6月12日 毎日】
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今年GWに旅行したボルネオ(カリマンタン)島は、島の北側3分の1ぐらいがマレーシア領のボルネオ、南側3分の2ほどがインドネシア領のカリマンタン。
アンバラット海域は、マレーシア・ボルネオ東部のサバ州とインドネシア・カリマンタンが接する付近の沖合いになります。

この海域にあるシバタン・リギタン両島の領有問題については、2002年に国際司法裁判所の判決でマレーシア領と認められた経緯があります。
しかし、その後も、アンバラット海域に存在する以前から石油・ガス鉱区をめぐって、採掘権を主張する両国の対立が続いています。

05年3月には、マレーシア国営石油会社が海底調査権を国際石油資本系企業に譲渡したことをきっかけに両国の対立が激化、マレーシアの行為を「主権侵害」「領海侵犯」と非難するインドネシアは、艦艇五隻と戦闘機四機を近海に派遣。一方のマレーシアも海軍による同海域の警備を強化し「一触即発」の状態になったこともあります。

【経済格差とプライド】
こうした対立の根底には、両国の経済格差と、劣後するインドネシア側の地域大国としてのプライドがあります。
07年の世銀資料で一人当たりGDPをみると、マレーシアの6807ドルに対し、インドネシアは1918ドルと、3分の1以下の開きがあります。
このため、宗教的・言語的近さもあって、インドネシアからは合法・非合法含め大量の出稼ぎ労働者がマレーシアに渡っています。(いろんな数字があるようですが、マレーシアで働くインドネシア人は約150万人とも200万人言われています。また、その半数以上は非合法とも)

女性の場合は家政婦が圧倒的に多く、インドネシア人労働者150万人のうち30万人を家政婦が占めているとも言われていますが、マレーシア人雇用主によるインドネシア人家政婦に対する“虐待”がしばしば問題になります。
“理由も告げられないまま、雇用主から風呂場で背中に熱湯をかけられたり冷蔵庫に頭を打ち付けられたりする” “自宅で雇用主の女性から殴られて死亡する”“監禁状態の中で雇用主から暴行を受け、マンション17階のベランダから敷物をロープ状に結んだものを伝って下りようとして救助される”等々。
「クアラルンプールのインドネシア大使館には、月に約110件の暴行やレイプ、監禁、賃金の未払いなどの被害が報告され、約1500人が雇用主の虐待から逃げ出しているとされる。不法入国した家政婦の場合は、強制送還を恐れて被害を大使館に報告しないケースが多く、把握されているのは氷山の一角だと見られている。」【07年9月11日 毎日】

また一般労働者についても、マレーシア側の経済状態が悪化すると、インドネシア人労働者の締め出し、不法滞在者への鞭打ち刑などの厳罰対応が問題となったりします。

経済的にはマレーシアに劣後するインドネシアですが、政治・軍事など面では、スカルノ以来ASEANのなかの“大国”としてのプライドがあります。
経済的に優位な立場のマレーシア側の“虐待”や高圧的な対応は、インドネシア側のプライドを傷つけ、民族感情を逆撫でするところがあります。

最近話題になった、夫であるマレーシアのスルタン(イスラム王侯)の皇太子(31)による虐待に耐え切れないと、妻の10代のインドネシア人モデルが訴え、夫から逃走した事件でも、マレーシアの王室関係者は妻側の主張について「夫婦間の個人的な問題」だと深い関与を避ける姿勢をみせていますが、インドネシア側にはまた別の思いもあるようです。

【BIMP-EAGA】
08年7月11日ブログで、“BIMP-EAGA”を取り上げたことがあります。
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080711
BIMPはブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンの4カ国の頭文字。
EAGAは「東ASEAN成長地域」の略称で、ミンダナオ島(フィリピン)、ボルネオ島(ブルネイ、マレーシア、インドネシア)、スラウェシ島(インドネシア)のほか、パラワン島(フィリピン)、イリアンジャヤ(インドネシア)なども含め、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンの4カ国の辺境の遅れた地域を共同で開発していこうとの構想です。
内陸経済圏として活気付く大メコン圏地域(GMS)の、海洋経済圏版です。

“BIMP-EAGA”は多くの問題で停滞していますが、マレーシア・インドネシアの関係をみると、なかなか実現への道は遠いように思えます。

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麻生総理 温室効果ガス削減の中期目標を発表 「05年比15%減」

2009-06-12 22:00:22 | 環境

(パキスタン北西部 フンザから望むヒマラヤ氷河 “flickr”より By GothPhil
http://www.flickr.com/photos/phil_p/2079086251/)

【「今を生きるわれわれ世代の責任」】
麻生太郎首相は10日、「地球温暖化の防止は、今を生きるわれわれ世代の責任なのです。」と述べたうえで、2020年までの日本の温室効果ガス削減目標(中期目標)について「05年比15%減」(90年比8%減)とする方針を表明しました。
以前から“14%”という数字が取り沙汰されていましたが、高めの目標を主張する公明党への配慮で1%の“政治加算”が上積みされたとのことです。

****温室効果ガス:中期目標「05年比15%減」 90年比では8%--首相会見****
麻生太郎首相は10日、首相官邸で記者会見し、2020年までの日本の温室効果ガス削減目標(中期目標)について「05年比15%減」(90年比8%減)とする方針を表明した。日本はすでに「2050年までに現状比60~80%減」との長期目標を打ち出しているが、首相は中期目標達成により、「30年には約4分の1の減(25%減)、50年には約7割減(70%減)につながる」との見通しも示した。
政府は、比較する基準年は直近の「05年比」とした。日本の場合、同じ削減努力でも、「90年比」より削減率が大きく見える効果がある。
中期目標を決めるに当たっては、六つの選択肢(05年比4%減~30%減)を設定。このうち世論調査で最も支持が多かった「05年比14%減」(90年比7%減)を軸に検討したが、政府内の調整の結果、最終的に1%分を加算した。
「05年比15%減」の目標について、麻生首相は「低炭素革命で世界をリードしたい。太陽光発電の大胆な上乗せなどにより、さらに削減幅を大きくする」と説明した。(中略)

 ■中期目標達成に必要な主な政策
・太陽光発電を、現状(05年)の142万キロワットから、20倍に引き上げ
・ハイブリッド車など次世代自動車の新車販売に占める割合を、現状1%から50%に高め、保有台数の20%に
・新築住宅に占める省エネ住宅の割合を、現状の約40%から約80%に高める
・風力発電を、現状の168万キロワットから500万キロワットに拡大(10万キロワット×34基を新設)
・高効率給湯器を2800万台に
・原子力発電所を9基新設。現状6割の設備利用率を8割に
 (日本エネルギー経済研究所などが政府に提出した資料などを元に作成)【6月11日 毎日】
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「05年比15%減」は後述するように、国際的には期待した水準からは程遠いと批判されていますが、その15%にしても、上記記事最後の必要政策を見ると、その達成のためには相当の努力・画期的な政策転換が必要です。
今回の目標策定は、産業界への影響配慮に軸足を置いているとも言われますが、そうした対応では15%達成すら危ぶまれます。

なお、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、最近の温暖化は人間活動が原因とほぼ断定し、温暖化被害を最小限に抑えるには、先進国全体で温室効果ガス排出量を20年までに「90年比25~40%減」と試算しています。
今後は、12月にコペンハーゲンで開かれる「気候変動枠組み条約第15回締約国会議」(COP15)で各国の対応が協議され、合意形成がはかられます。

【「今日の化石賞・特別賞」受賞】
さて、今回の麻生総理の中期目標発表について、環境団体などからは厳しい批判が出ています。

****「化石賞」日本は2位=中期目標「見劣り」と批判-NGO****
ドイツ・ボンで開かれている国連気候変動枠組み条約特別作業部会の会場で10日、環境非政府組織(NGO)が交渉への取り組みに消極的な国に贈る「きょうの化石賞」の2位に日本を選出した。(中略)
1位には、中期目標をまだ定めていないロシアを選んだ。【6月11日 時事】
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****「ジョージ・W・アソウ」に「化石賞」、環境団体が日本の削減目標を非難*****
2009年06月11日 11:02 発信地:ボン/ドイツ
国連の気候変動枠組み条約の特別作業部会が開かれているドイツ・ボンで10日、環境保護団体らが、日本の「05年比15%削減」という2020年の温室効果ガス削減目標は「悲惨なほど小さい」として厳しく批判した。
活動家らは、削減目標を発表した麻生太郎首相の顔写真を、温暖化対策に前向きではなかったジョージ・W・ブッシュ前米大統領の顔写真と合成した、「ジョージ・W・アソウ」の巨大写真を披露。温暖化対策に後ろ向きな国に贈る「今日の化石賞・特別賞」に日本を選んだ。
国際環境団体グリーンピースは、麻生首相が設定した低い目標値は重工業界にへつらったものだと非難。日本の削減目標は、結果的に地球の平均気温を3度上げることに繋がるとの試算を発表した。【6月11日 AFP】
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こちろん、環境団体と国民生活全般に責任を持つ政府とでは立場が違いますので、彼等の主張を全て受け入れる必要もないですが・・・。

【中国も批判】
COP15での合意形成には、中国など新興国への規制適応が問題となりますが、その中国も今回の「05年比15%減」(90年比8%減)を批判しています。

****日本の温室ガス削減目標、必要水準を大幅に下回る=中国の気候変動大使****
麻生太郎首相が2020年に国内の温室効果ガスを2005年比で15%削減することを目指す中期目標を表明したことについて、中国の気候変動交渉担当の于慶泰特別代表は、気候変動に責任を負うよう求められる水準を「かなり下回っている」と述べた。
気候変動に関する会議に参加するため当地を訪れた代表は、ロイターに対し「(同数値目標は)日本が負うべきかつ必要とされる水準に近いとは考えていない。国際的な気候変動への取り組みに相応の貢献をするには何をすべきかを日本は真剣に検討すべきだ」と語った。【6月11日 ロイター】
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日本からすれば、最大のCO2排出国となりつつある中国など新興国が規制を受け入れようとしないことこそけしからん・・・ということになるのですが、現在のCO2増加は先進国がもたらした結果であり、そのために新興国・途上国の経済活動が制約されるのはおかしいではないか・・・という議論もわからなくはありません。

【気候移民】
先進国がこれまでの結果に責任を持ち、新興国・途上国もこれからの活動については規制を受け入れるという常識的な合意形成が望まれます。
互いに相手を非難しあうなかで、状況は次第に悪化していきます。

****気候変動による「水ストレス」で移民急増も、研究報告****
ドイツ・ボンで開催中の気候変動交渉で10日、気候変動により数千万人が移住を余儀なくされ、社会・政治・治安面にこれまで予期されなかった問題が生じる可能性があるとする報告書が発表された。(中略)
温暖化はヒマラヤ山脈の氷河の溶解を加速し、洪水が頻発することが予想される。また、ヒマラヤを水源とする主要な川の水量にも影響し、農業が甚大な被害を受ける可能性があるという。(中略)

報告書は、移住は、貧困国から裕福な国へというよりは、貧困国内部、つまり田舎から都市部への移動が多く行われており、都市部のインフラに益々負担がかかるようになると予想。各国政府に、気候変動による移住の危機に直面しそうな地域とその人口を特定するためのツールを開発するよう要請している。
また、将来的に世界各国が参加する条約のもとで集められる気候変動対策の資金は、貧しい気候移民に向けられるべきだと指摘している。【6月12日 AFP】
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冬の降雪で氷河が大きくなる欧州アルプスなどと違って、ヒマラヤは夏のモンスーン期に0度より少し高い気温の中で、雪が降ります。
そのため温暖化でわずかでも気温が上がれば、雪が雨に変わり、氷河を拡大するどころか、逆に解かしてしまいます。実際、ヒマラヤ氷河は急速にやせ細っていることが報告されています。
その影響は、最初には氷河湖決壊という形で現れます。

また、氷河が溶けると、はじめは河川の流量が増えて広範囲で洪水が起こります。その後、数十年で状況は変化し、今度は河川の水位が下がります。
ヒマラヤの氷河は、アジアの7つの大河(ガンジス川、インダス川、ブラフマプトラ川、サルウィン川、メコン川、長江、黄河)に注いでおり、インド亜大陸と中国に暮らす数百万人の水需要を満たしています。
氷河から流れ出す川の流量が減少すれば、水力発電の可能性が下がって工業に影響がでると考えられ、また、灌漑が滞って、穀物生産が低下する可能性もあります。
ヒマラヤ氷河の水源に依存する人口は13億人とも言われています。

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高まる黄海での北朝鮮・韓国の緊張 開城工業団地の今後は?

2009-06-11 21:43:59 | 国際情勢

(沖縄・嘉手納基地のF22(2007年2月)「1機でF-15を5機同時に相手にできる」そうですが・・・ “flickr”より By david_axe
http://www.flickr.com/photos/david_axe/406596042/)

【制裁決議案 最終合意】
国連安全保障理事会の常任理事国に日本と韓国を加えた7か国は、10日午前(日本時間10日深夜)、北朝鮮の核実験に対する制裁決議案で最終合意し、決議案は12日にも採択される見通しであると報じられています。

****対北制裁決議案、12日にも採択…常任理事国と日韓が合意*****
決議案は、2006年の北朝鮮の核実験後に採択された決議1718の制裁強化を柱とし、「国連憲章7章のもとで行動し、同章41条に基づく措置を取る」と規定。非軍事的な制裁を定めた「7章41条」下の措置にしぼり、「7章42条」に基づく武力行使を排除した。
北朝鮮を出入りする船舶などの貨物については、核、ミサイル関連物資など禁輸物資があると疑われる場合、国連加盟国が自国領内で検査を行うよう要求。公海上の検査は、船舶が所属する国の同意を得て行うことを要求している。
中国の主張で、加盟国が「貨物検査をしなければならないと決定する」としていた文言よりは弱められたが、決議1718が「貨物検査などを通じた協調行動」を呼びかけるにとどまったのと比べ、各国により強く検査を求めている。
金融制裁では、加盟国と国際金融機関に対し、人道・開発目的を除く新規援助・融資を行わないことや、北朝鮮の核、ミサイル開発につながる資金移転の阻止を加盟国に要求している。北朝鮮による武器輸出禁止は「すべての武器に適用される」とし、外貨獲得を封じ込める措置を取った。
決議1718と今回の決議履行を監視する専門家グループの設置なども定めている。また、今回の核実験を「最も強い表現で非難」し、北朝鮮が今後、核実験や弾道ミサイル発射を行わないよう要求した。6か国協議への即時無条件復帰も求めている。【6月11日 読売】
***********************

【通常の2倍に】
制裁決議案の内容や実効性の問題はさておき、採択されれば北朝鮮が更に行動をエスカレートさせるものと思われます。
長距離ミサイル発射準備の問題も日本にとっては重要ですが、さしあたりのリスクとしては、黄海での北朝鮮・韓国の緊張状態が懸念されます。

北朝鮮は5月27日段階で、韓国が「大量破壊兵器の拡散防止構想(PSI)」への全面参加を発表したことに「宣戦布告とみなす」と反発、敵対行為があれば軍事攻撃も辞さないとする声明を発表しています。
朝鮮戦争の休戦協定について「拘束を受けない」と、また、黄海上の米韓船舶などの航行の安全を保証できないも主張しています。【5月27日 朝日より】

6月1日の韓国・聯合ニュースは、北朝鮮軍が黄海の艦隊司令部所属の警備艇や海岸砲部隊に平時よりも2倍以上の弾薬や砲弾を準備するよう指示したとの情報が入手されたと伝えています。【6月1日 時事】
6月4日には、北朝鮮の警備艇1隻が黄海上の南北境界である北方限界線(NLL)を越えて韓国側に約1.6キロ侵入。警備艇は韓国海軍の高速艇の警告を受け、約1時間後に北朝鮮側に戻るという事件がありました。
韓国軍合同参謀本部は北朝鮮警備艇は中国漁船を追って来たとみていますが、韓国への挑発の可能性もあるとしています。【6月4日 毎日】

緊張が高まる黄海で違法操業していた中国漁船の大半は、3日夜に撤収したそうです。
北朝鮮からの情報に基づく中国当局の指示があった可能性もあるとも言われています。【6月4日 時事】

韓国側は、陸軍参謀総長が4日、北朝鮮の挑発の動きに伴う軍事準備態勢を点検するため、最前線部隊を視察。
将兵らに対し「国民の安全と国の安保を脅かす行為にはいかなる妥協もあり得ない」と述べ、国民が安心して生業に従事できるよう完璧な警戒作戦態勢を維持するよう呼びかけています。
更に、黄海境界線付近の艦艇配備を増強し、北朝鮮からのミサイル攻撃に対しては発射地点を攻撃する態勢を準備しています。

****黄海で警戒強化=艦艇配置、通常の2倍に-韓国軍*****
聯合ニュースは9日、韓国軍が黄海上の軍事境界線に当たる北方限界線(NLL)付近で北朝鮮警備艇の侵犯に備え、艦艇の配置を通常の約2倍に増強したと報じた。韓国軍消息筋の話として伝えた。ただ、北朝鮮軍の特異な動きは今のところ捕捉されていないという。
聯合ニュースによると、韓国軍は現在、駆逐艦や護衛艦、高速艇など数十隻をNLL付近に前線配置。北朝鮮軍が韓国軍艦艇を狙って地対艦ミサイルなどを発射した場合、陸海空軍を総動員して発射地点を攻撃する態勢を取っている。【6月9日 時事】
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【「核の傘」】
アメリカもF22を沖縄・嘉手納基地に再配備して朝鮮半島有事への対応を進めていますが、ワシントンで16日に行われる李明博大統領とオバマ米大統領との首脳会談での合意文書に、北朝鮮情勢などを考慮し、米国が「核の傘」で韓国を守るという「拡大抑止力の強化」が明記される見通しであることを明らかにされました。

****米韓首脳、合意文書に「核の傘」 北朝鮮の反発必至****
韓国軍関係者によると、米国による「核の傘」の提供は78年以降、国防相会談や米韓定例安保協議会の共同声明には盛り込まれてきたが、首脳会談の合意文書に明記されるのは初めて。
会談では米韓同盟を再定義する「未来ビジョン」が採択される方向で、その中に盛り込まれる。単に「核の傘」とするだけでなく、「韓国が核の脅威や攻撃を受けた際、米国が核抑止力を拡大する」との趣旨を明確にすることが検討されている。
弾道ミサイルの発射に続き核実験まで強行した北朝鮮に対し、これまで以上に強いメッセージを発する必要があると判断した。また、韓国国内でも与党ハンナラ党の一部国会議員らから「核保有」を検討すべきだとの声が出始めているため、「核の傘」を明文化することでこれらの主張を抑え込む狙いもある。
北朝鮮の労働新聞は8日付で「米国の核の傘の提供が文書化されれば、核戦争勃発の危険がそれだけ増大する」と牽制しており、反発を強めるのは必至だ。【6月9日 朝日】
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「核のない世界」とは言いつつも、最後に頼るのは“核の傘”です。
そこは日本も同様です。

アメリカは北朝鮮との間で、一昨日ブログで取り上げた米国籍記者拘束問題も抱えています。
更に、金正日総書記の後継者問題、金総書記の健康再悪化説・・・など、いろんな要素が絡まって事態は混沌としています。

【開城工業団地 今日実務会談】
そうした北朝鮮・韓国の緊張のなか、南北経済協力事業として運営されている北朝鮮内の開城(ケソン)工業団地の存続が懸念されています。
これまで北朝鮮はたびたび開城工業団地を往来する南北通行の遮断と解除を繰り返しており、単に物流という経営的な問題に留まらず、南北間で軍事的衝突が発生し北朝鮮が軍事境界線を全面遮断すれば、1000人余りに達する開城工業団地常駐者らがそのまま「被抑留者」となる可能性があるという問題を浮き彫りにしています。
実際、北朝鮮軍当局は、3月30日から現代峨山社員を「体制批判をした」として拘束しています。

こうした経営環境悪化と拘束の不安の高まりのなかで、9日には開城工業団地に入居する韓国企業(106社)のうち1社が、同団地稼働以来初めて完全撤退を決めています。
企業側が独自判断で工業団地を撤退する場合、経済協力保険の保障を受けることができないため、巨額の投資で工場を建設した企業は「極限の状況」が訪れるまで、容易に撤退することはないとみられていますが、小規模投資の入居企業を中心に、さらに撤退企業が出る可能性も指摘されています。【6月9日 聯合ニュース】

開城工業団地からの収益は北朝鮮にとっても重要な収入ではありますが、先月15日に開城工業団地の土地賃貸料・使用料、賃金、税金などに関する南北間契約の無効化を宣言しています。
今日11日には南北当局間の実務会談が開かれ、北朝鮮は北朝鮮側労働者の賃金を4倍の月300ドル(約29000円)水準に引き上げ、納入済みの土地賃貸料についても約31倍に当たる5億ドルで再調整することを要求しています。
韓国・聯合ニュースは“北朝鮮が今後の交渉でこうした立場を貫徹する場合、南北関係悪化のなか注文量減少などで危機に直面する開城工業団地が崖っぷちに立たされる可能性が排除できなくなった。”と報じています。

もっとも、“ただ、北朝鮮側は、こうした要求事項を提示しながら「今後、協議していこう」との立場を示したという。政府当局は、交渉の余地を残したものとみている。”とのことで、19日に再度、交渉が行われます。
なお、韓国側は、北朝鮮に抑留されている現代峨山社員の早期の解放を求めています。

ある意味では、これだけ軍事緊張が高まるなかで、まだ1000人余りに達する常駐者が存在するかたちで南北経済協力事業が展開されていることのほうが奇異な感じはします。
ただ、撤退は先述のような事情で企業にとっては容易ならざる決断ですし、もし撤退企業が続出すると、ますます南北間の緊張は臨界点に近づくことにもなります。

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