(本文とは関係ありませんが、ベラルーシ(白)対ロシア(赤)のアイスホッケー試合 どちらが勝ったかは知りません。 “flickr”より By Patxi64
http://www.flickr.com/photos/chorizo431/1698176816/)
【ロシアとの“距離”】
旧ソ連のひとつベラルーシ、かつては白ロシアと呼ばれていた国ですが、他の旧ソ連の国々同様、プーチンのもとで“大国ロシア”の復活を目指すロシアとの“距離”のとり方に苦慮しているようです。
ベラルーシ大統領ルカシェンコは、かつてはロシアとの「連邦国家」の実現による両国の政治・経済・軍事などの各分野での両国の統合構想を推進しており、1999年には、当時のエリツィン大統領との間でベラルーシ・ロシア連合国家創設条約に調印しています。
ただ、その後、後任のプーチンらが提唱するロシアによる事実上のベラルーシ併合発言にルカシェンコ大統領が反発し、両国の統合構想は行き詰っています。【ウィキペディア】
そうした経緯はあるものの、ロシアとガス戦争を繰り広げるウクライナや、武力衝突に至ったグルジアなどに比べると、少なくとも昨年ぐらいまでは、比較的“親ロシア”的な国と見られていました。
ロシアからの融資を受ける一方で、グルジアの南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の独立承認についてはロシアからの要請に抵抗するといったかたちで、ルカシェンコ大統領はロシアとは日和見的な対応をとってきたとも言えます。
なお、政治的民主化や市場経済化に抵抗するルカシェンコ大統領は“欧州最後の独裁者”とも呼ばれ、欧米世界での評価はあまりよくありませんでした。
【乳製品禁輸】
そのベラルーシ・ルカシェンコ大統領ですが、ここに来てロシアとの関係悪化が伝えられるようになってきました。
****ロシア:ベラルーシの乳製品禁輸 欧州接近の警戒強める*****
ロシア政府は隣国ベラルーシからの一部輸入品に対する禁輸措置を決めたほか、同国が求めていた金融支援を断るなど、これまで親露政策を敷いてきたベラルーシ政権とのあつれきが顕著になっている。背景には同国の独裁者ルカシェンコ大統領が、欧州諸国へ接近していることに対して、ロシア側が警戒を強めていることがある。
ロシアの衛生監督局は9日までに、ベラルーシの主要輸出品である乳製品約600品目が衛生上の基準を満たしていないとして、輸入禁止を決めた。同局は文書の不備などを理由にしているが、政治的な思惑で制裁に踏み切ったとの見方が広がっている。
両国の対立は、ロシアが先月末にベラルーシから要請を受けていた5億ドル(約490億円)の融資について、同国の財政上の問題を理由にして、断ったことが発火点となった。
ルカシェンコ大統領は「ロシアには泣きつかない」と述べ、ロシアのクドリン副首相兼財務相について「我々のならず者(=野党)と相談しながら、我々を指導しようとしている」と批判。これに対して、ロシアのメドベージェフ大統領は「他国の指導部に対する個人的な発言は許されないものだ」と怒りをあらわにした。
両国は90年代から国家連合の創設を検討するなど、良好な関係を基本としてきた。しかし経済基盤が脆弱(ぜいじゃく)なベラルーシは最近になり、経済支援を視野に入れながら、欧州諸国への歩み寄りの姿勢を見せている。先月上旬には欧州連合(EU)が旧ソ連6カ国との関係強化を狙った外交的な枠組みである「東方パートナーシップ」に参加した。
一方、ロシアは同パートナーシップについて「ロシアに対抗する枠組みになる恐れがある」(メドベージェフ大統領)と反発。ベラルーシがロシアと対立するウクライナやグルジアと同じ枠組みに参加したことに不快感を抱いている。【6月9日 毎日】
***********************
別記事によれば、ルカシェンコ大統領は、「カネで主権を売ったりしない」「ロシアの融資よりIMFから借りるほうが3倍も有利」とも対ロ批判を強めているとか。
ベラルーシはロシアが輸入する乳製品の60%以上を供給していますが、衛生基準を理由とした主要産品の輸入禁止措置というロシアの実質的経済制裁のやり方は、やはり欧米に接近したグルジアやモルドバのワイン輸入を06年に禁止した方法と同じです。
【経済共同体発足】
ロシアとの対決姿勢を強めるベラルーシ・・・ということですが、よくわからないのは、上記記事と同日にふたつ並んで、ロシア・ベラルーシ・カザフスタンの旧ソ連3カ国による経済共同体発足という全く逆方向の記事もあったことです。
****ロシア:旧ソ連2カ国と経済共同体発足へ WTO加盟も*****
ロシア、ベラルーシ、カザフスタンの旧ソ連3カ国は9日、統一関税を柱とした経済共同体を11年6月に発足させることで合意した。インタファクス通信などが報じた。3カ国は世界貿易機関(WTO)への同時加盟を目指し、協議を進めることでも一致しており、ロシアは旧ソ連諸国に自らの経済圏を復活させる姿勢を鮮明にしている。
3カ国の首相が9日にモスクワで協議を開いた後、ロシアのプーチン首相が合意内容を明らかにした。プーチン氏によると、3カ国は来年1月から統一関税の実施に向けた移行期間を開始し、11年6月までのプロセスの完了を目指す。WTO加盟についても「同時申請に向けた話し合いを開始する」と説明している。
3カ国は95年から関税同盟に関する協定を結ぶなど、長年にわたり同問題を検討してきた。ベラルーシとカザフスタンが昨秋に始まった経済危機で、より深刻に打撃を受けていることから、ロシアとの結束の強化に動いたとみられる。またロシアを中心とした「ユーラシア経済共同体」は同日、ロシアのクドリン副首相兼財務相を議長として、経済危機へ共同対処することを決めた。
一方、ロシアとベラルーシは最近になり、ベラルーシ側が要請していた緊急融資の是非をめぐり、あつれきを深めている。ベラルーシのルカシェンコ大統領が融資問題を担当していたクドリン氏を批判したことに対抗する格好で、ロシア政府はベラルーシからの乳製品約600品目の輸入を禁止した。【6月9日 毎日】
**********************
【戦車の影】
ルカシェンコ大統領のロシアとの距離のとり方については、“日和見的”との言い方も見られますが、旧ソ連の国々にとっては、ロシアとの関係は死活問題です。
乳製品禁輸も大打撃ですが、ベラルーシ経済はロシアの天然ガスに依存しており、また、対ロシア債務は150億ドル以上と言われています。【3月18日号 Newsweek日本語版】
事態がこじれると、グルジアのように、ある日戦車がやってくる・・・という恐怖感もあります。
旧ソ連圏の近隣諸国を自国勢力圏と見なすロシアは、これら諸国の経済危機に乗じてその影響力を強めようとしてきましたが、うまく進まないときは今回のような“乳製品禁輸”といった高圧的な対応にでてきます。それも、戦車の影をちらつかせながら。
このあたりが、日本を含めた欧米世界からロシアが“異質”と見られる所以でもあります。