(2009年11月 CISの会議で 左から二人目が現在ベラルーシにかくまわれているキルギスのバキエフ前大統領、一人置いて鼻髭の男性がルカシェンコ・ベラルーシ大統領 “flickr”より By itupictures
http://www.flickr.com/photos/itupictures/4176846570/)
【21日からガス供給量を85%減量】
ロシアとのガス紛争・・・と言えば、ロシアからの欧州向け天然ガスの7割が経由するウクライナがすぐ頭に浮かびますが、そのウクライナ問題は親ロシア政権誕生で安定化した一方で、残り3割が経由するベラルーシがロシアと揉めているようです。
****ロシアとベラルーシ、ガス紛争再燃か 納金巡りトラブル****
ロシアとベラルーシの間で「ガス紛争」の危機が高まっている。ロシアの政府系天然ガス独占企業「ガスプロム」が、ベラルーシ側に約2億ドル(約180億円)の未払い金があると主張。精算できない場合は契約に従い、21日からガス供給量を85%減量すると18日に発表した。
ガスプロムによると、ベラルーシとの今年の契約では第1四半期が千立方メートル当たり約169ドル、第2四半期が同約184ドルだが、ベラルーシ側は昨年の契約料金の同150ドルで支払っているという。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は18日、「この問題は交渉中だ。我々は負債はないと考える」と話した。ロシアは昨年末、ベラルーシに適用してきた石油の特恵関税をほぼ全廃すると通告し、ベラルーシ側は強く反発。この問題での不満が今回の対応につながったと見られる。
両国間では2007年8月にも同様の問題が起きたが、ロシア側の最後通告にベラルーシが応じて全額を支払い、ガス供給停止は回避されている。【6月19日 朝日】
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実施されれば、下流の欧州諸国にも影響します。
この問題に関しては、ベラルーシ側が天然ガス輸送会社と製油所の株式をロシアに譲渡する提案を行ったとの下記報道がありましたが、今回問題が表面化したということは、この交渉はうまくいかなかったということでしょう。
****ベラルーシ、対露ガス未払い問題 債務解消へ苦渋の株譲渡*****
ベラルーシのルカシェンコ大統領は5月27日、ロシアから国内価格で天然ガスを輸入するのと引き換えに、ベラルーシ政府が50%の株式を保有する天然ガス輸送会社ベルトランスガスの経営権をロシアの天然ガス独占企業ガスプロムに譲渡することを認める発言をした。すでにガスプロムは2月以降、ベルトランスガスの株式を50%保有している。
ガスプロムは、支払い不足を理由にベラルーシへの天然ガス供給を停止するかもしれないと警告していた。同社によると、今年の天然ガス代としてベラルーシにはロシアに1億9200万ドル(約175億5000万円)の債務があるという。
ベラルーシは、2010年の天然ガスを欧州価格の90%、11年は欧州価格でロシアから輸入する契約を結んでいた。ところが、ベラルーシは、一方的に天然ガス1000立方メートル当たりの料金を09年と同じ150ドルに設定し、未払い代金が累積していた。
ルカシェンコ大統領は、ロシアが輸出税を撤廃する代わりに、ベラルーシの製油所の株式をロシアに譲渡することも提案した。ロシアのシマトコ・エネルギー相は、慎重ながら関心を示している。ベラルーシの新提案により、同国に市場価格で天然ガス供給をする規定の方針をロシアは見直すかもしれない。【6月1日 Oxford Analytica】
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【ロシアとEUを天秤にかける「欧州最後の独裁者」】
94年から旧ソ連のベラルーシの大統領を務めるルカシェンコ大統領は、ロシアとの「連邦国家」の実現による両国の政治・経済・軍事などの各分野での両国の統合構想を推進、経済的には経済の市場化に逆行した政策を実施、時に強権的政治手法をとる政権運営もあって、経済的自由化と政治的民主化の推進を主張する欧米諸国政府からは「ヨーロッパ最後の独裁者」「奇人」と呼ばれ、批判の対象となることもある政治家です。
しかし、ロシアとの関係も一様ではなく、ロシアのプーチンがロシアによる事実上のベラルーシ併合の考えを示したことに反発し、両国の「連邦国家」統合構想は行き詰ったままになっています。
2009年に入ってベラルーシは西側への接近を強め(ルカシェンコ自身「我々は西側との関係を正常化する」と言明している)、ロシアとの関係が悪化しています。
“ロシアから約束されていた5億ドルの支援が棚上げになったことに立腹し、「ロシアに泣きついて頭を下げることはない」と述べ、欧米への接近を図った。これに対し、ロシアは対抗措置としてベラルーシ産の乳製品を輸入禁止にした。
しかし、金銭面での支援を得るためにEUへ接近したものの独裁体制などを理由に支援を却下され、これにルカシェンコは立腹し、ロシア、EU双方を「わが国の主権を侵害している」と非難した。
ベラルーシの国家財政の基盤だった他国からの援助が得られず、ルカシェンコは国際社会から孤立した。ロシアの財務相であるアレクセイ・クドリンはベラルーシが市場改革や財政面での見直しを行っていないため、近い将来ベラルーシは財政破綻するとの見方を示している。”【ウィキペディア】
“ロシアとEUを天秤にかけ、双方から経済支援を引き出す外交を展開”とも評されています。
最近その“独自性”を発揮した例としては、4月の核安全保障サミット参加拒否がありました。
****ベラルーシ:高濃縮ウラン放棄せず 核サミット参加拒否*****
インタファクス通信によると、ベラルーシのルカシェンコ大統領は14日、訪問先の同国ゴメリ州で記者団に、国内に保管する数百キロの研究用高濃縮ウランを外国に売却する考えはないと表明。それが理由で「(米ワシントンで12~13日に開かれた)核安全保障サミットに招待しないと言われたので、自分も行くつもりはないと答えた」と述べ、事実上参加を拒否したことを明らかにした。
大統領は、保有する高濃縮ウランは「事実上兵器に使用できるものと、やや濃縮度の低いもの」があるが、いずれも国際原子力機関(IAEA)の監視下にあると説明。「米国かロシアに売却するよう言われたが、なぜ命令されなくてはならないのか。これはわが国の物だ。(低レベル放射性物質をまき散らす)『汚い爆弾』を作るつもりはないし、誰かに売り渡すつもりもない」と述べ、あくまで研究目的のための保有だと強調した。
さらに「わが国が核兵器を持っていれば(米露は)違う対応をしただろう」「わが国は(経済をバナナ輸出に依存するような小国を指す)バナナ共和国ではない」などと米露への不信感をぶつけた。・・・・【4月15日 毎日】
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【軋むロシアとの関係】
更に、ロシアとの関係では、キルギス政変で誕生した臨時政府をロシアがいち早く支持したのに対し、ベラルーシ・ルカシェンコ大統領は、追放されたキルギスのバキエフ前大統領と家族をベラルーシの首都ミンスクで保護していると明らかにしています。ルカシェンコ大統領は「人間としてこのような決定をした」と述べています。
そうしたこともあってロシアとの関係はぎくしゃくしており、ロシアは関税同盟でもベラルーシとの距離を保つ姿勢を見せていました。
****関税同盟ベラルーシ抜きで導入へ ロシアが主導****
ロシアのプーチン首相は28日、同国の主導でカザフスタン、ベラルーシとともに計画中の「関税同盟」について、ベラルーシ抜きで7月1日に統一法を導入することでカザフと合意したと述べた。インタファクス通信などが伝えた。
首相は、ベラルーシは後で参加することができると説明。しかし同国のシドルスキー首相は、関税同盟の「基本的問題をめぐる不一致」を理由に28日のロシアでの関係会合を欠席し、関税同盟と距離を取った。
ロシアは世界貿易機関(WTO)への加盟交渉を関税同盟として進めると表明していたが、プーチン首相は同日、ベラルーシが関税同盟に賛同しない場合は、カザフと2カ国で加盟交渉を行うと述べた。【5月29日 共同】
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ロシアの“裏庭”への影響力を強める政策は、大方順調に推移しているように見えます。
グルジアは力でねじふせ、ウクライナには親ロシア政権が誕生。かねてよりロシア批判が強かったポーランドとの関係も急速な改善が見られます。中央アジア・キルギスにも親ロシアの臨時政府が成立。
そうしたなかで、かつての“兄弟国”ベラルーシの素直ではない最近の態度は、ロシア・プーチンの逆鱗に触れたのかも。
今回ガス紛争でのロシア側の厳しい対応に、「奇人」ルカシェンコ大統領はどのように反応するのか?