孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベラルーシ  ロシアとのガス紛争再燃か

2010-06-20 16:04:30 | 国際情勢

(2009年11月 CISの会議で 左から二人目が現在ベラルーシにかくまわれているキルギスのバキエフ前大統領、一人置いて鼻髭の男性がルカシェンコ・ベラルーシ大統領  “flickr”より By itupictures
http://www.flickr.com/photos/itupictures/4176846570/)

【21日からガス供給量を85%減量】
ロシアとのガス紛争・・・と言えば、ロシアからの欧州向け天然ガスの7割が経由するウクライナがすぐ頭に浮かびますが、そのウクライナ問題は親ロシア政権誕生で安定化した一方で、残り3割が経由するベラルーシがロシアと揉めているようです。

****ロシアとベラルーシ、ガス紛争再燃か 納金巡りトラブル****
ロシアとベラルーシの間で「ガス紛争」の危機が高まっている。ロシアの政府系天然ガス独占企業「ガスプロム」が、ベラルーシ側に約2億ドル(約180億円)の未払い金があると主張。精算できない場合は契約に従い、21日からガス供給量を85%減量すると18日に発表した。
ガスプロムによると、ベラルーシとの今年の契約では第1四半期が千立方メートル当たり約169ドル、第2四半期が同約184ドルだが、ベラルーシ側は昨年の契約料金の同150ドルで支払っているという。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は18日、「この問題は交渉中だ。我々は負債はないと考える」と話した。ロシアは昨年末、ベラルーシに適用してきた石油の特恵関税をほぼ全廃すると通告し、ベラルーシ側は強く反発。この問題での不満が今回の対応につながったと見られる。
両国間では2007年8月にも同様の問題が起きたが、ロシア側の最後通告にベラルーシが応じて全額を支払い、ガス供給停止は回避されている。【6月19日 朝日】
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実施されれば、下流の欧州諸国にも影響します。

この問題に関しては、ベラルーシ側が天然ガス輸送会社と製油所の株式をロシアに譲渡する提案を行ったとの下記報道がありましたが、今回問題が表面化したということは、この交渉はうまくいかなかったということでしょう。
****ベラルーシ、対露ガス未払い問題 債務解消へ苦渋の株譲渡*****
ベラルーシのルカシェンコ大統領は5月27日、ロシアから国内価格で天然ガスを輸入するのと引き換えに、ベラルーシ政府が50%の株式を保有する天然ガス輸送会社ベルトランスガスの経営権をロシアの天然ガス独占企業ガスプロムに譲渡することを認める発言をした。すでにガスプロムは2月以降、ベルトランスガスの株式を50%保有している。
ガスプロムは、支払い不足を理由にベラルーシへの天然ガス供給を停止するかもしれないと警告していた。同社によると、今年の天然ガス代としてベラルーシにはロシアに1億9200万ドル(約175億5000万円)の債務があるという。
ベラルーシは、2010年の天然ガスを欧州価格の90%、11年は欧州価格でロシアから輸入する契約を結んでいた。ところが、ベラルーシは、一方的に天然ガス1000立方メートル当たりの料金を09年と同じ150ドルに設定し、未払い代金が累積していた。
ルカシェンコ大統領は、ロシアが輸出税を撤廃する代わりに、ベラルーシの製油所の株式をロシアに譲渡することも提案した。ロシアのシマトコ・エネルギー相は、慎重ながら関心を示している。ベラルーシの新提案により、同国に市場価格で天然ガス供給をする規定の方針をロシアは見直すかもしれない。【6月1日 Oxford Analytica】
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【ロシアとEUを天秤にかける「欧州最後の独裁者」】
94年から旧ソ連のベラルーシの大統領を務めるルカシェンコ大統領は、ロシアとの「連邦国家」の実現による両国の政治・経済・軍事などの各分野での両国の統合構想を推進、経済的には経済の市場化に逆行した政策を実施、時に強権的政治手法をとる政権運営もあって、経済的自由化と政治的民主化の推進を主張する欧米諸国政府からは「ヨーロッパ最後の独裁者」「奇人」と呼ばれ、批判の対象となることもある政治家です。

しかし、ロシアとの関係も一様ではなく、ロシアのプーチンがロシアによる事実上のベラルーシ併合の考えを示したことに反発し、両国の「連邦国家」統合構想は行き詰ったままになっています。
2009年に入ってベラルーシは西側への接近を強め(ルカシェンコ自身「我々は西側との関係を正常化する」と言明している)、ロシアとの関係が悪化しています。

“ロシアから約束されていた5億ドルの支援が棚上げになったことに立腹し、「ロシアに泣きついて頭を下げることはない」と述べ、欧米への接近を図った。これに対し、ロシアは対抗措置としてベラルーシ産の乳製品を輸入禁止にした。
しかし、金銭面での支援を得るためにEUへ接近したものの独裁体制などを理由に支援を却下され、これにルカシェンコは立腹し、ロシア、EU双方を「わが国の主権を侵害している」と非難した。
ベラルーシの国家財政の基盤だった他国からの援助が得られず、ルカシェンコは国際社会から孤立した。ロシアの財務相であるアレクセイ・クドリンはベラルーシが市場改革や財政面での見直しを行っていないため、近い将来ベラルーシは財政破綻するとの見方を示している。”【ウィキペディア】
“ロシアとEUを天秤にかけ、双方から経済支援を引き出す外交を展開”とも評されています。

最近その“独自性”を発揮した例としては、4月の核安全保障サミット参加拒否がありました。
****ベラルーシ:高濃縮ウラン放棄せず 核サミット参加拒否*****
インタファクス通信によると、ベラルーシのルカシェンコ大統領は14日、訪問先の同国ゴメリ州で記者団に、国内に保管する数百キロの研究用高濃縮ウランを外国に売却する考えはないと表明。それが理由で「(米ワシントンで12~13日に開かれた)核安全保障サミットに招待しないと言われたので、自分も行くつもりはないと答えた」と述べ、事実上参加を拒否したことを明らかにした。
大統領は、保有する高濃縮ウランは「事実上兵器に使用できるものと、やや濃縮度の低いもの」があるが、いずれも国際原子力機関(IAEA)の監視下にあると説明。「米国かロシアに売却するよう言われたが、なぜ命令されなくてはならないのか。これはわが国の物だ。(低レベル放射性物質をまき散らす)『汚い爆弾』を作るつもりはないし、誰かに売り渡すつもりもない」と述べ、あくまで研究目的のための保有だと強調した。
さらに「わが国が核兵器を持っていれば(米露は)違う対応をしただろう」「わが国は(経済をバナナ輸出に依存するような小国を指す)バナナ共和国ではない」などと米露への不信感をぶつけた。・・・・【4月15日 毎日】
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【軋むロシアとの関係】
更に、ロシアとの関係では、キルギス政変で誕生した臨時政府をロシアがいち早く支持したのに対し、ベラルーシ・ルカシェンコ大統領は、追放されたキルギスのバキエフ前大統領と家族をベラルーシの首都ミンスクで保護していると明らかにしています。ルカシェンコ大統領は「人間としてこのような決定をした」と述べています。

そうしたこともあってロシアとの関係はぎくしゃくしており、ロシアは関税同盟でもベラルーシとの距離を保つ姿勢を見せていました。
****関税同盟ベラルーシ抜きで導入へ ロシアが主導****
ロシアのプーチン首相は28日、同国の主導でカザフスタン、ベラルーシとともに計画中の「関税同盟」について、ベラルーシ抜きで7月1日に統一法を導入することでカザフと合意したと述べた。インタファクス通信などが伝えた。
首相は、ベラルーシは後で参加することができると説明。しかし同国のシドルスキー首相は、関税同盟の「基本的問題をめぐる不一致」を理由に28日のロシアでの関係会合を欠席し、関税同盟と距離を取った。
ロシアは世界貿易機関(WTO)への加盟交渉を関税同盟として進めると表明していたが、プーチン首相は同日、ベラルーシが関税同盟に賛同しない場合は、カザフと2カ国で加盟交渉を行うと述べた。【5月29日 共同】
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ロシアの“裏庭”への影響力を強める政策は、大方順調に推移しているように見えます。
グルジアは力でねじふせ、ウクライナには親ロシア政権が誕生。かねてよりロシア批判が強かったポーランドとの関係も急速な改善が見られます。中央アジア・キルギスにも親ロシアの臨時政府が成立。

そうしたなかで、かつての“兄弟国”ベラルーシの素直ではない最近の態度は、ロシア・プーチンの逆鱗に触れたのかも。
今回ガス紛争でのロシア側の厳しい対応に、「奇人」ルカシェンコ大統領はどのように反応するのか?

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ダルフール、忘れられた「世界最悪の人道危機」 スーダン南部への日本のPKO派遣問題

2010-06-19 12:56:47 | 国際情勢

(ダルフールに暮らす女性 すべてを捨てて避難したのちに帰還、赤十字国際委員会から提供された種と道具で作物を作っています。今年3月頃の写真のようですが、今の状況は落ち着いているのでしょうか?
“flickr”より By ICRC http://www.flickr.com/photos/icrc/4406171858/)

【世界はダルフールヘの関心を失ったのか・・・】
5月27日ブログ「チャド 国連PKO撤退を要請 安定化したのか?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100527)でスーダン西部・ダルフールの状況を取り上げました。
世界最悪の人道危機と呼ばれたスーダン西部ダルフール地方の紛争によって、スーダンと国境を接するチャドは多数の難民を抱え、また、スーダンとチャド双方が相手国の反政府組織を支援しあう形で対立していました。
そのチャド政府が、スーダンとの関係改善もあって、PKOのチャドからの撤退を要請、国連安保理もこれを採択したというものです。

ただ、肝心のダルフール情勢については、反政府武装勢力各派とスーダン政府との間で和平交渉の枠組みはできましたが、“その後、スーダンは大統領選挙に突入し、(最大反政府武装勢力の)「正義と平等運動(JEM)」との最終合意交渉がどうなったのかよくわかりません。”と書いたように、最近あまり情報を目にしません。
事態はあまりよくないようです。

****スーダン 世界に忘れられたダルフールで続く悲劇*****
国連・アフリカ連合合同活動(UNAMID)の報告によると、スーダン西部ダルフール地方で5月に殺された犠牲者の数は約600人。07年に国連が介入して以降、最大の数字だが、なぜかあまり注目されていない。世界はダルフールヘの関心を失ったのか。
反政府組織「正義と平等運動」(JEM)は最近、政府軍の兵士35人を拘束した(6月9日に解放)。今年4月に行われた大統領選挙と総選挙を前に、政府とJEMの間では2月、和平に向けた枠組み合意が結ばれ、停戦が期待された。だが、5月にJEMが和平交渉を打ち切ってから戦闘はむしろ激化していると、英BBCは報道している。
人道危機は深刻で、「紛争地域への支援が圧倒的に不足している」と、国連の報告は警告している。国連の推定では03年以降、ダルフール紛争による同地域での死者は30万人に上り、260万人の難民が発生している。犠牲者数が増加した程度では誰も驚かなくなってしまったのかもしれない。【6月23日号 Newsweek日本版】
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世界がダルフールへの“関心を失い”、月600人“程度”の犠牲者では“誰も驚かなくなってしまった”・・・という状況のようです。
もちろん、本当に国際社会がダルフールを見捨てた訳ではなく、国連安保理はダルフール地方における戦闘の最近の急増に「深い懸念」を表明し、暴力を止めるよう求め、すべての反政府グループに、カタールのドーハで今月再開される予定の和平交渉に「建設的に取り組む」よう求めています。

【難航する和平プロセス】
ダルフール情勢については、この問題を扱うサイト「ダルフール・トリビューン」(中村公政氏 http://darfur-tribune.seesaa.net/article/118337284.html)に海外メディア情報などが紹介されています。
それによれば、2月23日、スーダン政府と和平枠組み合意に調印した最大反政府勢力「正義と平等運動(JEM)」は、期限として定めた3月15日を過ぎても最終合意に至らずドーハでの継続協議に入りましたが、その後、スーダン政府軍がJEMの拠点を攻撃していると非難、和平協議から離脱しています。
なお、JEMは以前チャド政府から支援を受けており、概ね機械化軍とのこと。

国際刑事裁判所(ICC)はダルフールでの戦争犯罪でスーダンのバシル大統領に対し逮捕状を出していますが、そのスーダン当局は、インターポールに対し、JEM指導者ハリル・イブラヒムを2008年のオムドゥルマンの攻撃を計画したことに関して逮捕するよう求めたそうです。
JEMは、もしもしその指導者ハリル・イブラヒムが逮捕されたら、「全面戦争」をするとしています。

スーダン解放運動指導者アブデル・ワヒド・ヌルが率いる「スーダン解放運動(SLA)」はなお政府を排除し、和平協議への参加を拒否しています。SLAは概ねダルフール中央山岳地域に拠点を持つ歩兵軍とのこと。

小規模組織10派が2月に統合した組織「解放と正義運動(LJM)」は、3月18日、スーダン政府と和平交渉の枠組み合意に調印、3か月の停戦に入っています。そして、JEMとSLMのボイコットにもかかわらず、スーダン政府と今月ドーハで協議を開始しています。
なお、最大勢力JEMは、このJIMと政府の動きに激しく反発しています。

チャドが反政府組織支援中止を明らかにしていることは交渉にプラスですが、反政府勢力側がいくつにも分裂しており、各派が牽制しあっている状況では、なかなか全体的な和平合意推進は難しそうです。
この間にも、犠牲者と難民が増え続けます。

【「スーダンはやらない」】
なお、スーダンでは西部ダルフールと並んで、南部と北部(中央政府)の対立・紛争がありましたが、この南北問題については南北包括和平合意が05年に成立。これを受けて停戦監視や選挙支援などのためのPKOとして、67カ国が軍事、警察要員約1万600人(5月末現在)を派遣しています。日本は08年10月から参加し、首都ハルツームの本部に司令部要員として自衛官を2人派遣しています。

昨年の総選挙のマニフェストで国連平和維持活動(PKO)への積極参加をうたう民主党政権のもと、国連から打診もあって、外務省などは国連スーダン派遣団(UNMIS)への陸上自衛隊ヘリの派遣について検討してきました。
“検討されているのは、来年1月のスーダン南部の独立を問う住民投票での支援。道路などの交通インフラが整っていない地域で、陸上自衛隊のヘリを使って、投票箱の輸送や選挙監視要員の移動を行うという案だ。ヘリ4機、隊員300人程度の規模が想定されている。” 【6月19日 朝日】

しかし北沢俊美防衛相は費用対効果への疑問から、この動きに待ったをかけたそうです。
“北沢氏は11日朝に岡田氏と会談した際、「スーダンはやらない」との考えを伝えた。アフリカは日本から遠く、活動地域も内陸側にあるため、ヘリ本体や部品、要員を運ぶための輸送費がかさみ、2カ月の活動で派遣費用が100億円にのぼる。自衛隊の存在感を示す効果も薄い。安全面での不安も残る。”【同上】
普天間問題で悪化した対米関係改善もあって、外務省は派遣すべきだとの考えで、菅首相が最終的に判断することになります。

和平合意ができているとは言っても、今のバシル政権のもと、スーダン南部の独立を問う住民投票がスムーズに行われるとは考えにくく、北沢大臣の安全面への懸念はもっともでもあります。
費用の問題もありますし、何より“日本で誰も関心を持っていないアフリカくんだりに出かけても・・・”というのが本音でしょう。

この地が将来とも戦闘行為が起きない安全地帯であるとは思いませんが、それだけに国際的な監視・支援が必要とされている地域でもあります。やるなら腹をくくってやる必要があるように思います。

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EU  対イラン独自制裁 加盟国の中期的予算計画に対する審査の導入

2010-06-18 23:33:35 | 国際情勢

(左からファンロンパイEU大統領、メドベージェフ露大統領、バローゾ欧州委員会委員長
ロシアとEUの首脳会議が5月31日から2日間、ロシア南部ロストフナドヌーで開催され、「近代化のためのパートナーシップ(PFM)」の立ち上げで合意しました。
“flickr”より By President of the European Council
http://www.flickr.com/photos/europeancouncil/4663335766/)

【エネルギー分野に踏み込む独自制裁】
ギリシャ財政危機に端を発するユーロ危機の渦中にあり、その収拾に追われるEUですが、イラン核兵器開発疑惑に関する独自制裁を打ち出しています。
EU独自制裁は、イラン経済の中枢であるエネルギー分野に踏み込む形で、イランの「ガス・石油産業の基幹部門」に対する欧州からの新規投資、技術支援・移転、機材提供を禁じるものとなっています。特に移転を禁止する項目として、石油精製、天然ガス液化に関する技術を挙げています。

イランは世界有数の産油国で、天然ガス埋蔵量はロシアに次ぎ世界2位ですが、精製能力が低いため、ガソリンの約4割を輸入に依存しています。もし、エネルギー分野の制裁が本格的に発動されれば「イラン経済は大打撃を受ける」とされていますが、中国・ロシアはそこまで踏み込むことには賛同していません。

なお、アメリカは16日、ガイトナー財務長官が、ミサイル産業と取引きのあるイランの国営銀行「ポスト・バンク」や、核開発に深く関与しているとされる「イラン革命防衛隊」の幹部や関係者、それにイラン政府が事実上運営する石油会社や保険会社などあわせて22社を対象に、これらの企業や個人との取引きを禁止する制裁を発表しています。

****イラン核問題:EUの独自制裁 態度硬化も予想*****
欧州連合(EU、加盟27カ国)は17日、ブリュッセルで開いた首脳会議でイランの核問題を巡り、同国のエネルギー分野を対象とする独自制裁の発動方針を決める。米国も16日に制裁措置を発表しており、25日からの主要8カ国首脳会議(G8サミット)を前に欧米が圧力強化で足並みをそろえた形だ。EUは同時にイランに対話を呼びかけているが、制裁決定を受けてイランが態度を硬化させることも予想される。

今回のEU独自制裁は、核・ミサイル関連とのかかわりが疑われる商取引や貨物運輸の禁止など、既に発動済みの措置に加え、制裁対象分野をイラン経済の屋台骨である石油・ガス産業に拡大したのが特徴だ。また、欧州におけるイラン金融機関の営業を制限し、金融制裁も強化した。
エネルギー分野の制裁にはドイツなどが難色を示していたが、フランスなどの制裁強化派が押し切った。制裁の細目は来月のEU外相会議で決める。

EUは「アメ(対話)とムチ(圧力)」の対イラン政策を取っており、独自制裁はムチの強化にあたる。だが、アシュトン外務・安全保障政策上級代表(EU外相)は「制裁は(対話の)終局ではない」と、対イラン協議の可能性に望みを託している。上級代表は14日、イランの核交渉責任者、ジャリリ最高安全保障委員会事務局長に協議を呼びかける書簡を送ったと述べた。

一方、イランはトルコを通じてEUに対話を打診してきた。アフマディネジャド大統領はEU首脳会議前日の16日、欧米との核協議に応じる場合の新たな条件を近く明らかにすると述べた。大統領はアラブ首長国連邦(UAE)の衛星テレビとのインタビューで、欧州は政策面で米国と一線を画すべきだと主張し、欧米の連携に揺さぶりをかけている。

核問題を巡る情勢は世界の力関係の変化を反映している。イランと低濃縮ウランの国外搬出合意をまとめたのは、欧米主導の核協議の枠組みに加わっていないブラジルとトルコだった。EUは新基本条約「リスボン条約」で外交力強化を目指したが、ギリシャ危機以降、ユーロ防衛に忙殺され、影響力を発揮できていない。新興国の台頭で欧米の地位は相対的に低下しており、欧米の制裁強化にどれだけの国々が追随するかどうかが焦点となる。【6月17日 毎日】
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【ロシアは反発】
こうしたEU・アメリカの対イラン独自制裁の動きに、イランとの関係が深いロシアは反発しています。
****イラン核問題:制裁措置、露が「拒否」の声明 「米とEUに失望」****
ロシア外務省は17日、米国と欧州連合(EU)による対イラン独自制裁措置について「国連安保理(の制裁)を超越しようとする受け入れ難い試み。全面的に拒否する」と批判する声明を発表した。ロシアは従来、イラン制裁へ消極的な立場を取ってきたが、欧米が安保理制裁の直後に独自に行動したことへ不快感を強めている。
声明は欧米の制裁措置が「イラン核問題を最適に解決しようとしてきた対話と協力の土台を損なう」と指摘。インタファクス通信によると、リャプコフ露外務次官も同日「米国とEUが呼びかけを聞き入れなかったことに失望している」と述べた。
ロシアはイランの核兵器開発に反対する一方で、南部でブシェール原発の建設を請け負っており、厳格な制裁で同国を追い込む事態を望んでいない。「イラン指導部が国際社会との対話の継続を表明していることを歓迎する」(リャプコフ次官)と早期の対話再開を呼びかけた。一方、ロシアがイランと売買契約を結んだ対空ミサイル「S300」に関し、同次官は安保理決議でイランへの売却を禁止された兵器に該当するという見解を示した。
国連安保理は9日、大型武器の輸出禁止などの対イラン追加制裁決議を採択した。【6月18日 毎日】
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イラン核兵器開発疑惑をめぐる各国の動きは、EU、アメリカ、ロシア、中国、そしてブラジル・トルコなどの新興国が、それぞれの影響力を世界にアピールする場ともなっています。

【加盟国予算編成を監視】
EUについては、財政問題でも新たな動きが報じられています。
****EU首脳会議:加盟国の予算計画審査導入で合意*****
欧州連合(EU)は17日、ブリュッセルで首脳会議を開き、ギリシャ財政危機の拡大を防ぐため、加盟国の中期的な予算計画に対する審査の導入と、財政規律に違反した国への制裁を強化することで合意した。
加盟国がEUの財政規律を順守するための財政法、中期的な予算計画を整備し、EUが審査する。また、各国が毎年EUに提出している経済成長見通しに、来春からは各国の予算状況を加える。加盟国が楽観的な成長見通しに基づいて予算を編成する場合が多いことから、EUが監視の目を光らせる。当初は予算案の事前審査をする構想を提示していたが、英国などが反対したため、中期的予算計画に変更した。
また、首脳会議は、カナダ・トロントで26~27日に開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議で、金融機関が破綻(はたん)した場合の処理・救済費用を捻出(ねんしゅつ)するため銀行に新税を課す「銀行税」導入を提案する方向で調整している。だが、カナダや日本は導入に消極的で、G20での合意の見通しは立っていない。【6月17日 毎日】
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“予算案の事前審査”までいくと、国家主権との厳しい対立が表面化しそうです。
EUの中核をなすフランス・ドイツが、今後、国家主権を大幅に縛るようなレベルでの統合に賛同するかどうかについては疑問があります。

ただ、先日のブログでも触れたように、“EU諸国は常に共通の解決策を見出してきた。ヨーロッパ統合の理想に思い入れがあるからではなく、ヨーロッパは世界で最も経済的に相互依存した大陸だからだ。協力する以外に道はない”【6月16日号 Newsweek日本版】という現実のなかで、EUはこれまで何度もとん挫しかけながらも、しぶとく統合に向けての歩みを進めています。

【内部調整システムが機能するのか?】
ユーロについては、ギリシャのような財政規律が保てない国の追放とか、逆にドイツなど強い国の離脱・・・といった話題も取り沙汰される状態ではありますが、今回のEU首脳会議でエストニアのユーロ加盟が正式承認されています。アイスランドのEU加盟交渉開始も合意されています。

****EU首脳会合、エストニアのユーロ加盟を正式承認*****
欧州連合(EU)は17日の首脳会合で、エストニアのユーロ圏加盟を正式に承認した。加盟は来年からで、17カ国目となる。エストニアのユーロ加盟は、先に開かれた財務相会合ですでに承認されていたため、首脳会合での承認は形式的な措置。
チェコやハンガリー、ラトビア、リトアニア、ブルガリア、ルーマニア、ポーランドなどもユーロ加盟を目指しているが、債務水準などの条件を満たしておらず、当面は加盟は難しいとみられている。 
またEU首脳会合では、アイスランドのEU加盟交渉を開始することで合意した。一方で、経営破たんした同国のオンライン銀行「アイスセーブ」をめぐる英蘭預金者の保護問題に関し、早期に関係国と問題を解決するようアイスランドに要請した。
アイスランドは長年、EU加盟に後ろ向きだったが、世界的な金融危機で銀行システムが大きな打撃を被ったことを受け、昨年加盟を申請している。
だが今年3月に実施された「アイスセーブ」の英蘭預金者に総額約50億ドルを返済する法案の是非を問う国民投票では、反対多数で同法案が否決され、預金者保護を求める英蘭政府と対立。これまでのところ返済交渉は難航しており、アイスランド国民の間でEU加盟に反対するムードも広がっている。
EU首脳は会合で、加盟交渉は開始するとしたが、交渉ペースは英蘭預金者への返済に関するアイスランドの義務履行状況によるとした。【6月18日 ロイター】
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アイスランドの金融危機は、小国が単独でやっていくことの厳しさを明らかにしました。
いろいろ問題はあっても、やはり“寄らば大樹の陰”というか、EU・ユーロの存在感が頼りにされるようです。
ただ、EU内部における、独仏など中核国と新規参入した国々との関係、ユーロ内部での財政基盤の強い国と弱い国の関係を調整するシステムをどのように機能させていくかは、今後の課題でもあります。

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「原発ルネサンス」に求められる「核の安全管理」

2010-06-17 22:42:06 | 国際情勢

(2008年11月段階での中国の原発分布 緑が稼働中、青が建設中、赤が計画のもの 今後更に原発建設の動きは加速するのでしょう。もしチェルノブイリ級の事故が起きると、その影響は日本にも及びます。可能性としては、核兵器による攻撃云々よりはるかに大きいのでは。“flickr”より By ANR2008
http://www.flickr.com/photos/34703494@N07/4193931887/)

【「原発バブル」】
核拡散防止条約(NPT)は原子力の平和利用を条約締結国の権利として認めていますが、近年、地球温暖化対策として原発が注目を集め、世界各地で建設・計画が拡大する「原発ルネサンス」とも「原発バブル」とも言われる状況が続いています。
オバマ米政権も79年のスリーマイル島原発事故以来の原発新規建設に乗り出すことが発表されています。
東アジア・東南アジア各国、更に中東でも原発建設の計画が進んでいます。

****核平和利用:民生用開発進める シリアとイスラエル表明*****
経済協力開発機構(OECD)などが主導し、核平和利用の進展について話し合う「原子力の民生利用に関する国際会議」で9日、シリア政府高官が民生用核開発を進める考えを表明した。シリアのメクダド副外相が語ったものでAFP通信が伝えた。会議ではイスラエルも原発共同開発の意向を示した。
「秘密裏に原子炉建設を進めた」との疑惑が持たれたシリアと、核拡散防止条約(NPT)未加盟で、核兵器を持つとされるイスラエルの両国が民生用核開発に積極的な姿勢を見せたことは、中東地域に新たな緊張をもたらす可能性がある。

メクダド副外相は、シリアにはエネルギー源の転換が必要で、将来の原子力発電も視野に入れていると説明。仏のサルコジ大統領が会議で「核平和利用の技術はすべての国に開かれるべきだ」と発言したことを評価し、同国の開発には国際協力が必要だと指摘した。
一方、イスラエルもエネルギー源確保が喫緊の課題で、隣国ヨルダンとの共同プロジェクトの形で原発開発を模索しているという。ランダウ国家基盤相は会議の席上、ネゲブ砂漠北部に原発の建設予定地を既に選定していると明らかにした。
イスラエルは07年に核疑惑の対象となったシリア北東部の施設を空爆した経緯がある。国際原子力機関(IAEA)は現地調査などに基づき今年2月、「シリアの施設跡から微量のウランが検出されたことは、核関連施設だった可能性を示している」と結論付けている。【3月9日 毎日】
******************************

こうした「原発ルネサンス」のなかで、東芝、日立製作所、三菱重工業などの日系原子炉メーカーも、国内原発需要が頭打ちとなっていることもあって、日本政府の後押しも得て海外展開を目指しています。

【「公表義務ない」】
アメリカ政府によると、世界で建設中の原子炉は現在56基で、そのうち中国が21基、韓国が6基、インドは4基となっています。(数字については、下記記事と若干のずれはあるようです。)
ここでも中国が世界の先陣を切っているようですが、その中国の原発管理について不安なニュースも報じられています。

****中国原発広がる疑念 放射性物質漏れ 香港など「隠蔽か」****
当局確認に3週間「公表義務ない」
中国の原子力発電所をめぐる安全性の確保や情報公開の在り方に対し、内外で懸念が広がっている。広東省深セン市の原発で5月23日に起きた放射性物質漏れ事故が3週間以上たって香港側で確認され、中国側はその後やっと「外部への影響はない」とする声明を出すなどお粗末な対応に終始しているからだ。「隠蔽(いんぺい)工作ではないか」との批判も起きている。

中国では現在11基の原発が稼働し、26基が建設中。今回は香港の報道で原発事故が明るみに出たが、中国の内陸部で今後、原発事故があってもどこまで公正に情報が伝わり、的確に対処されるか疑念が残る。
香港のニュースサイト鳳凰(ほうおう)網などは16日、事故が起きた大亜湾原発(発電能力98万4千キロワット)を管轄する中国広東核電集団が、「燃料棒に微少なひびが入った可能性があるが、放射性物質は外部から完全に隔離され、外部にはいかなる影響もない」と発表したと伝えた。国際原子力機関(IAEA)の原子力事案には当たらず、公表の義務はなかったと突っぱねている。
同原発から電力供給を受けている香港の中華電力も同様の理由で、「事故隠蔽ではない」と反論した。

今回の事故は14日に香港メディアが「大亜湾原発で重大な事故が発生した」と報じて問題となり、香港政府保安局が中華電力に確認を求めたところ、15日になって中華電力が事故の事実を確認した。その後、ようやく中国側も“弁解”の声明を出す騒ぎとなった。
だが、情報公開の不透明さも手伝って、深セン市や同原発から数十キロしか離れていない香港で住民らの不安をあおる結果になった。同原発は中華電力など香港資本も25%出資して1994年9月に設立、70%は香港側に売電されている。
・・・今回の隠蔽疑惑に加え、原発関連の人材不足や、過去には手抜き工事や発注をめぐる巨額贈収賄事件も摘発されている。【6月17日 産経】
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【不用意な廃棄物処理】
一方、インドからは、原発関連ではありませんが、原子力利用に関する認識にかかわる問題も報じられています。
****廃棄された放射線装置で被ばく、1人死亡 インド*****
インドの首都ニューデリーにあるデリー大学が2月に廃棄処分にしたガンマ線照射装置で被ばくした廃棄物処理業者の男性1人が27日、多臓器不全のため病院で死亡した。
29日の警察発表によると、この装置はデリー大学の化学実験室が複数の廃棄物処理業者に売却したものだった。12日に放射能漏れが見つかると7人が体調の異常を訴えて入院し、同市のくず鉄市場に近い現場周辺の住宅地域はパニック状態となった。
問題の装置は1980年にデリー大学が輸入したものだが、85年には使用されなくなっており、この2月に競売によって売却されていた。警察の調べによると、これを入手した業者らが装置を分解した際に鉛製のカバーを外したため、被ばくしてしまった。 
警察はインドの原子力研究所の専門家らの協力を得て、コバルト60を含む放射性廃棄物を除去した。コバルト60は医療や食品加工の際の殺菌に使用される放射性物質。捜査当局はすでにニューデリー西部のくず鉄市場の15店舗から、コバルト60を検出している。【4月29日 AFP】
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中国にしても、インドにしても、“ありそうなことだ・・・”という感がありますが、この種の原発事故をめぐる国家の隠ぺい体質、原子力利用に関する杜撰さは、中国やインドに限らず、近年原子力利用を計画していると伝えられる多くの国々にも共通する問題のように思われます。

【「核安保」以前の問題として・・・】
先月開催された核拡散防止条約(NPT)再検討会議では、原子力の平和利用を装って軍事目的の核開発を行う国があるのではないかとの疑惑への対応や、原発施設の核テロ対策を求める「核安全保障(セキュリティー)」の問題が議論になりました。
特に、後者の「核安保」は日本の提案によるものです。

****NPT再検討会議:核安保導入、合意へ テロ防止、廃棄物管理など*****
国連本部で開催中の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が25日までに、原発施設の核テロ対策を求める「核安全保障(セキュリティー)」の重要性を強調することで合意する見通しとなった。
日本の提案に基づくもので、NPT合意文書に「核安全保障」概念が盛り込まれるのは初めて。核テロを最大の脅威とみなし先月、核安全保障サミットを開いたオバマ米大統領の「核兵器のない世界」構想を後押しする動きとして注目される。

議長案は「原子力平和利用の権利」の課題として「核の安全(管理)と核安全保障(セキュリティー)」の項目を立て、「安全や安全保障の重要性を強調する」と記している。
議長案は先月の核安保サミットに「留意」したうえで、核兵器に転用可能な高濃縮ウランの使用の最小限化など、サミットで合意された事項を挙げ、加盟国による自主的な「最小限化」を「歓迎」している。
また、「核安保」の最も進んだ実践を共有することを勧めるとともに、核廃棄物などの放射性物質を詰めた「汚い爆弾」によるテロ対策を念頭に、核廃棄物管理の教育・訓練プログラムの重要性も強調。「核安保」について加盟国の責任を確認しつつ、その基準作りについては、国際原子力機関(IAEA)が中心的役割を担うべきだとしている。

地球温暖化に伴い、世界各地で原発建設が進む中、日本は今会議で原子力の平和利用は「奪い得ない権利」と確認。そのうえで「信用と透明性を確保するため」不拡散や安全管理のほか「核安保」を提唱した。核テロを警戒する米国、技術支援を得たい新興国とも「核安保」に賛成した。
これまでは、核物質の盗難などが焦点だったが、「核安保」は原子力施設へのテロ攻撃の防止など包括的な対策を想定している。【5月27日 毎日】
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原子力施設へのテロ攻撃の防止などの「核安保」は確かに重要な問題ですが、中国やインドの実態に関する記事に戻って、核施設の安全管理、国家による情報公開、核物質の取り扱いに関する社会の認識を高める教育など、より重要な課題が山積しているように思われます。
そうした課題をクリアしていかないと、チェルノブイリの悲劇が遠からず世界のどこかで繰り返される事態が懸念されます。


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キルギス民族衝突  ウズベキスタンは国境閉鎖 ロシアは平和維持部隊の派遣には慎重姿勢

2010-06-16 23:21:17 | 国際情勢

(南部ジャララバード 放火されたウズベク系住民の家 “flickr”より By Thanh Giang20101 http://www.flickr.com/photos/49626328@N05/4698327563/)

【増える死者 急務となる難民救済】
中央アジア・キルギスにおける民族衝突は収まりを見せつつあるとも報じられていますが、その犠牲者は報道が更新されるたびに増加して百名を大きく超える数字となっています。また、国内外の避難民への救済も急務となっています。

****キルギス、人道危機 略奪・放火、難民10万人に迫る****
中央アジア・キルギス南部で続くキルギス系住民と少数派ウズベク系住民の民族衝突は15日、隣国ウズベキスタンへの難民が10万人に達する勢いとなっている。同日までの死者は171人、負傷者は約1700人にのぼった。騒乱そのものは収束傾向に入ったとみられるものの、難民の増加や食糧不足など人道的危機の様相が深まっている。
中央アジアの通信社フェルガナ・ルーによると、ウズベキスタンには成人だけで4万5千人の難民が流入し、国境近くのテント村などに収容されている。ウズベク側は同日、「さらに難民を収容する余地がない」(アリポフ副首相)として国境を閉鎖し、国際機関の支援を求めた。キルギスに派遣された国連のエンチャ特別代表は「難民数が近く10万人を超える可能性がある」と指摘している。

キルギスでは10日夜以降、南部のオシとジャララバードで、キルギス系とウズベク系の衝突が銃撃戦や放火、略奪など騒乱状態に発展。国内で14%、南部の両都市で半数近くを占めるウズベク系の居住区が無差別的な攻撃を受けているとの情報が多い。
オトゥンバエワ暫定大統領は15日、「衝突は減少傾向にあり、これが続くことを望む」とする一方、実際の死傷者が公表されている数の数倍にのぼる可能性があると述べた。また、警察機能が不十分だとし、ロシアに平和維持要員の派遣を改めて要請したことを明らかにした。
南部では商店や公共施設、病院も放火、略奪されており、食糧や水、医薬品の不足が伝えられる。赤十字国際委員会は「8万人が自宅を追われた」とし、880万ドル(約8億円)の財政支援を訴えている。

ソ連時代の1920~30年代に行われた国境画定を受け、キルギス南部ではウズベキスタンとの国境が複雑に入り組んでいる。90年にはキルギス系とウズベク系の土地利用をめぐる衝突で数百人が死亡し、ソ連の治安部隊が介入した。
ウズベキスタンは天然ガス、キルギスは水が豊富で、ソ連崩壊後の両国間にはこれら資源をめぐる緊張関係がある。露メディアでは、今回の騒乱が民族紛争の拡大や両国の対立激化につながることへの警戒も強まっている。
ロシアなど旧ソ連7カ国の集団安全保障条約機構(CSTO)はキルギスに車両や警察装備品、燃料を提供することは決めたものの、平和維持部隊の派遣には慎重姿勢を見せている。【6月16日 産経】
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赤十字国際委員会(ICRC)は15日、正確な死者数はまだ分からないとしながらも「数百人が死亡した」と発表しています。また、遺体の埋葬などがどの程度まで行われたかは不明で、「一部は放置された状態にある」とも。【6月16日 時事】

【南北対立に重なる民族対立】
産経記事にもあるように、このキルギス南部は国内全体では少数派であるウズベク系住民が、ほぼキルギス系住民と拮抗しており、90年のオシでの民族衝突など、対立があった地域です。
一方で、キルギスは南北間の対立が政治の根底にあり、政変で追放されたバキエフ前大統領はジャララバード地方出身で南部を地盤としており、多くの支持者がいます。
政変に際して、バキエフ前大統領支持のキルギス系住民が州庁舎を占拠するなどの臨時政府への抵抗活動を行っていましたが、一部ウズベク系住民がバキエフ前大統領や親族の家の襲撃に関与したとして、ウズベク系住民との対立に火が付く形となりました。
このように、バキエフ前大統領支持派の南部と北部主導の臨時政府の対立に、キルギス系とウズベク系の民族対立が重なる構造が基本にあります。

“騒乱は当初、若者同士の偶発的なけんかが発端と伝えられ、オトゥンバエワ暫定大統領も11日朝、「日常生活の領域」で起きた争いが拡大したとの声明を発表した。しかし、臨時政府はその後、11日に隣国ウズベキスタンの首都タシケントで開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議の直前を狙い、臨時政府の統治能力の欠如を見せつけようとする勢力がキルギス系とウズベク系の歴史的な民族対立をあおって騒乱をたきつけたとの見方を強めてきた。
騒乱が起きた南部は4月の政変でキルギスを追われたバキエフ前大統領の地盤。政変後オシやジャララバードなどで、バキエフ前大統領の支持者が州庁舎を占拠するなど、臨時政府側との衝突が続いた。5月19日にはジャララバードのウズベク系大学をキルギス系住民が襲撃する事件が起き、民族間の衝突に発展。臨時政府はジャララバード州に非常事態宣言を発令、2週間かけて鎮静化したが、その火種が再燃した形だ。”【6月14日 毎日】

また、南部犯罪組織の関与も報じられています。
“バキエフ前大統領と組んで南部の経済権益を握っていた犯罪組織が、政権交代で権益を失うことを恐れ、民族対立をたきつけて騒乱を起こした可能性を指摘している。27日に予定される国民投票で新憲法案と暫定大統領が承認されれば、臨時政府の正統性が認知されることになる。このため、国内を混乱状態に陥れ、国民投票そのものを中止に追い込む狙いがあったとの見方だ”【同上】

なお、ベラルーシ滞在中のバキエフ前大統領側は13日、衝突への関与を否定する声明を出しています。また、14日の記者会見でも「政界に戻る意図はない」と述べ、改めて関与を否定しました。
しかし、臨時政府側は、バキエフ前大統領支持派が騒乱を組織したと見ており、逮捕したバキエフ前大統領支持者が容疑を認める供述を始めたと発表しています。
バキエフ前大統領が逃亡しているベラルーシの最高検察庁は15日、臨時政府が求めていたバキエフ氏の身柄引き渡しを拒否する決定を下しています。理由は明らかにされず、臨時政府は「政治的動機によるもの」と反発しています。【6月16日 朝日】

もっとも、現地は混乱しており、“インタファクス通信などによると、全域に非常事態宣言が出されたジャラルアバド州では、13日夜も放火や発砲が続いた。軍拠点の占拠も続き、若者らが、ウズベク系だけでなく、キルギス系の住民にも無差別に発砲しているという。火災などで700人が死亡したとの情報もある。”【6月14日 朝日】といった報道もあります。

【「受け入れのための施設や能力が不足している」】
主に襲撃の対象となっているウズベク系住民は隣国ウズベキスタンへ避難しようとしており、国境を越えた避難民は7万5千人とも10万人とも言われていますが、ウズベキスタンはこれ以上の難民流入の負担は耐えられないとして国境を封鎖しました。

****ウズベキスタン、民族衝突続くキルギスとの国境を封鎖****
中央アジア・キルギス南部で起きた民族間の衝突をめぐり、ウズベキスタン政府は14日、避難民が殺到しているキルギスとの国境を閉鎖すると発表した。キルギスでは、政府軍がキルギス系住民によるウズベク系住民襲撃に加担しているとの批判があがっている。
ウズベキスタンのアブドゥラ・アリポフ副首相は、「受け入れのための施設や能力が不足している」ことを理由に、国境の封鎖を発表した。援助団体や国連(UN)は、国境の開放を維持するように求めていた。
副首相は、ウズベキスタンに対する国際的な人道援助が必要だとの認識を示し、「受け入れ態勢が整えば、当然国境は開放するつもりだ」と述べた。
衝突発生から4日目の14日も、南部オシ(Osh)やジャララバード(Jalalabad)では衝突が続いており、死者は少なくとも138人、負傷者は1761人に上っている。ウズベキスタン当局によると、この衝突を避けるため最大10万人のウズベク系、タジク系住民が同国に流入しているという。【6月15日 AFP】
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また、“現地からの報道によると、キルギス側の国境では、ウズベク系住民数千人が「帰る場所などない」と叫びウズベクへの入国を求めている。”【6月16日 読売】とも。

ウズベキスタン外務省は16日の会見で、これまでに7万5千人の避難民が国境を越えたと発表。学校や宿泊施設などを使って避難民を収容しているが、3日間で食料の調達などに約100万ドルかかるなど資金面の問題も大きくなっているとしています。【6月16日 朝日】
同民族の避難に対して国境を封鎖するとういうのは無慈悲な感もしますが、ウズベキスタン政府としてもやむを得ない措置でもあるのでしょう・・・。
国際援助はこれから・・・という段階で、16日にはウズベキスタンに、テントなど国連の支援物資を積んだ輸送機が初めて到着しています。また、ロシアからは食料など120トンを積んだ輸送機3機が16日にキルギスの首都ビシケクに到着する予定です。

【ぎりぎりまで状況を見極めたいロシア】
臨時政府から、情勢安定化のため平和維持部隊の派遣要請を受けているロシアは、単独介入ではなく、周辺国との合同部隊派遣の形を模索していますが、その姿勢は慎重です。

****合同部隊の派遣 周辺国に温度差*****
中央アジアのキルギス南部で起きた民族衝突が深刻化している問題で、キルギス臨時政府から平和維持部隊の派遣要請を受けたロシアが周辺国との調整に乗り出した。単独介入に慎重なロシアは14日、旧ソ連7力国でつくる集団安全保障条約機構(CSTO)の会合をモスクワで開き、合同部隊派遣の可否を協議する。だが、関係国内には慎重意見もある。
インタファクス通信によると、キルギス安保会議トップのクロフ元首相は14日、「情勢は悪化する一方だ。平和維持部隊の投入なしには安定化しない」と述べ、早期の派遣を訴えた。キルギス臨時政府のオトゥンバエワ大統領も13日夜、ロシアのメドベージェフ大統領との電話協議で改めて派遣を求めたとみられる。
だが、4月の政変直後から臨時政府支持を明確にしたロシアは、今回の騒乱では一転、慎重姿勢をとっている。

最初に要請を受けた12日には「国内紛争であり、ロシアが参加する状況ではない」とし、重傷者の搬送など人道支援に限ってきた。キルギスの隣国ウズベキスタンやカザフスタンなどとの調整が不可欠とみているからだ。
背景には、ロシアと、これら中央アジア諸国との間のキルギス臨時政府に対する微妙な温度差もある。
ソ連崩壊後も、中央アジア諸国では強権的傾向の長期政権が維持されている。このため、バキエフ前大統領を、
同族支配や政敵締め付けなどへの反発から失脚に追い込んだキルギス臨時政府への視線は、歓迎一本やりではない。
ロシアはこうした周辺国とのすり合わせをしつつ、「単独介入」との批判をかわすため、今年3月に国連と協力協定を結んだCSTOの枠組みを活用する意向とみられる。
同機構にはロシア、ベラルーシ、アルメニアに加え、キルギス、ウズベキスタン、カザフスタン、タジキスタンの中央アジア諸国が入っている。
ロシアは2008年グルジアヘの軍事介入のような「国外のロシア入保護」という名目が立ちにくい。かつてソ連時代に近隣のアフガニスタンヘの軍事介入で泥沼に陥ったトラウマもある。ぎりぎりまで状況を見極めたいと考えている可能性もある。【6月15日 朝日】
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もともと、キルギスで強権的・親族支配的なバキエフ前大統領が追われる事態となったのは、いささか逆説的ではありますが、キルギスが他の中央アジア諸国に比べれば政治的自由が認められていたからだとも言われています。これが、他の中央アジア諸国であれば、反政府集会や反政府的活動は一切認められず、政変も起こりようがない・・・という訳です。
従って、強権支配的な国が多い周辺国のキルギス臨時政府に対する視線は、冷やかなものがあるようです。


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アフガニスタン  1兆ドル(約92兆円)規模の鉱物資源

2010-06-15 23:23:48 | 世相
【『リチウムのサウジアラビア』】
戦乱の続くアフガニスタンに、リチウムや鉄、金、ニオブ、水銀、コバルトなど1兆ドル(約92兆円)規模の鉱物資源が埋蔵されているという調査結果が話題になっています。

****アフガンに巨大埋蔵鉱脈 金など92兆円規模、米調査*****
米紙ニューヨーク・タイムズは14日、アフガニスタン各地に1兆ドル(約92兆円)規模の鉱物資源が埋蔵されているとする米国防総省の調査結果を報じた。鉄、銅、金のほか、リチウムなどの希少金属も大量にあり、経済復興の要になると期待される一方、資源確保をめぐって反政府武装勢力タリバーンの攻勢が激化するとの見方もある。
同紙によると、2004年、アフガンの鉱物資源を復興に役立てようと考えた米国の地質学者が、旧ソビエト連邦が侵攻当時の1980年代に作製した鉱脈図を発見。米地質調査所(USGS)がこれを元に、アフガン全土の7割以上を航空機で調査し、実際に多くの鉱脈があることをつきとめた。
鉄や銅、コバルトの巨大な埋蔵地のほか、アフガン南部では大規模な金の鉱脈が確認され、中部ガズニ州付近の塩湖ではリチウムの巨大な埋蔵地がみつかった。リチウムの埋蔵量は、世界有数の産出地として知られるボリビアに匹敵するとみられ、米国防総省内には「アフガンが『リチウムのサウジアラビア』になる」との見方もあるという。超伝導物質の原料になるニオブも大量にあるとみられる。

これらのデータをもとに、アフガンの経済復興策を担う米国防総省の特別チームが昨年、鉱物資源の経済規模を「1兆ドル近く」と算出。結果はゲーツ国防長官やアフガンのカルザイ大統領にも報告され、米政府がアフガン政府に対し採掘権管理の指導などを始めている。鉱業の歴史がないアフガンでは、採掘技術の習得や社会基盤整備に時間がかかるとされるが、数年後には一部で操業開始できる見通しだという。
アフガンの治安と経済の回復を最重要課題とするオバマ政権にとって、膨大な鉱物資源の発見は明るいニュースだが、「もろ刃の剣」(同紙)だとの指摘も出ている。
タリバーンが資源確保を目的に支配地域の拡大を強めたり、鉱物資源が豊富な地域の指導者と中央政府との間で「資源をめぐる争い」が頻発したりする事態が予想されるためだ。採掘権の認可をめぐるアフガン当局者の汚職増加や環境破壊も懸念される。同紙は、アフガンで銅山の採掘権を持つ中国が他の資源獲得に乗り出し、米国と対立しかねないとの米政府高官の見方を紹介している。【6月15日 朝日】
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【米軍は以前から把握していた】
このアフガニスタンの地下資源については、以前から関係者の間では知られていたことだったとの報道もあります。
****アフガンの1兆ドル鉱脈:「戦争の真の理由」という声も*****
これらの鉱物資源は新しく「発見された」と報道されているが、実は米軍はかなり以前から、アフガニスタンの金属資源が豊富であることを把握していた。
New York Timesの記者は、アフガニスタンに鉱物があることを国防総省が知ったのは、2004年に発見された「古い図表やデータを集めた興味深い資料」による、と伝えている。・・・しかし、『Politico』によると、米国の元高官の1人は、米国政府がアフガニスタンの鉱物資源を「発見した」と発表したことを「非常に馬鹿げている」と述べたという。「私が1970年代にカブールに駐在していたとき、(米国政府)、ロシア、世界銀行、国連などが、アフガニスタンに大量に埋蔵されている鉱物に大いに注目していた。鉱石を、大洋に面した港まで安価に輸送する方法が、常にその制限要因となっていた」
アフガニスタンの資源については、少なくとも2人の地質学者(Chamberlin氏とShroder教授)がこれまで、米国防総省にアドバイスを与えている。・・・・Chamberlin氏とShroder教授という2人の専門家が米軍にどのような情報を提供したのかについて、正確なところは明らかではないが、彼らが軍のトップと接触していたのは、2004年よりも前であったことは間違いない。2002年には米国内務省の鉱物関係の調査報告が、アフガニスタンには「かなりの量の金や宝石などの鉱物が埋蔵されている」と報告している、とSeattle Post-Intelligencerは報道している。
しかし、それよりも以前からアフガニスタンの資源について関心を持ってきたのがソ連だ。アフガニスタンを再建するために2002年に開催された会議において、いくつかの国の代表は、ロシアが数十年前から行なっていたアフガニスタンの金属資源に関する調査情報を出さないことを批判していた。・・・・【6月15日 WIRED VISION】
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25年にわたってアフガニスタンの地下資源の研究を続けてきた地質学者で、国防総省にも協力してきたChamberlin氏は、「これは新しい事実ではない。おそらくこれはまた、米国がなぜこれほど熱心にこの戦争に取り組んでいるかという真の理由についてヒントを与えてくれるものだろう」と語っているとか。

【利権が惹起する対立・衝突、汚職・腐敗】
戦争を行ってきたアメリカ・ホワイトハウスがどれほどこの情報を意識していたかはわかりませんが、豊富な地下資源が「もろ刃の剣」となる懸念は誰しも感じるところでしょう。
アフリカでは、鉱物資源の豊富なシエラレオネ、コンゴ、更に石油資源のあるスーダン、ナイジェリアなど、各地でその資源をめぐって戦闘・紛争が続いてきました。
アフガニスタンでもその資源をめぐる、中央・地方を巻き込んだ新たな紛争が起こる不安があります。
また、巨額の利権を生む資源は、政権の汚職・腐敗を更にひどくすることも懸念されます。

すでにアフガニスタンは、世界で消費される麻薬の9割はアフガン産と言われるぐらいに、アヘン栽培・麻薬製造が蔓延しています。
アヘン栽培は本来の農業生産を駆逐し、タリバンの資金源となり、政府部内中枢にも麻薬関連の腐敗が浸透している状況です。
その麻薬に加えて、濡れ手に粟の鉱物資源・・・・となると、健全なアフガニスタン経済・社会の復興に悪しき影響が出るのでは。
アフガニスタンが先に取り組むべき課題は、地下資源からの巨額な利益を生むことより、資金が有効・確実に住民のために使用される政治・社会システムを構築することでしょう。

【漁夫の利】
なお、冒頭記事の最後にもあるように、中国がアフガニスタンの銅資源開発にすでに乗り出しており、3年前、中国の企業グループはアフガニスタンにある世界有数の銅山、アイナク銅山に30億ドル(約2800億円)を投資しています。
3月に訪中したアフガニスタンのカルザイ大統領は、中国企業のアフガニスタンへの投資拡大を求めています。
アフガニスタンでの中国の資源獲得については、米国が人命と財産とを犠牲にする中、中国が漁夫の利を得ている。アメリカは軍事的、外交的にアフガニスタンからの撤退をにらんでいる一方、中国は自国の利益のために米軍がアフガニスタンにとどまり続けることを望んでいる」との指摘・批判もあります。

こうしたアメリカ側の中国批判について、中国・環球時報は「アフガニスタン人は中国の投資を歓迎している」と反論、また、日本やインドと比べれば中国の投資ははるかに少ないとして、荒廃しきったアフガニスタンは中国の投資を必要としていると主張しています。【2009年10月14日 Record Chinaより】

アフガニスタンでの戦争は、中国や世界がアメリカに頼んだ訳ではなく、アメリカが9.11への報復として勝手に始めた戦争ですから、そこでどんな経済活動を行おうが“アメリカの犠牲ので、漁夫の利を得ている”云々の批判を受ける覚えはないとする中国側の反論はもっともです。

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ベルギー総選挙  国家分裂の危機をはらみつつ、連邦政府の権限弱体化に向かう

2010-06-14 23:02:00 | 国際情勢

(第1党に躍進した新フラームス同盟のデ・ウェーフェル党首(39) “flickr”より By CarolienC
http://www.flickr.com/photos/carolienc/4541890936/)

【言語境界線】
ベルギーの総選挙で、南北分離派の政党が第1党に躍進したことが注目を集めています。
ベルギーでは、おおざっぱに言えば、首都圏ブリュッセルを挟んで、オランダ語圏の北部と、フランス語圏の南部の対立がかねてよりあります。

もう少し正確に国家形態を言えば、“連邦政府の下に(1)オランダ語圏の北部(2)フランス語圏と(少数の)ドイツ語圏で構成される南部(3)仏蘭2言語のブリュッセル--に各地域政府がある。連邦政府は外交、国防、財政、社会保障、司法などの権限を持ち、地域政府は経済、雇用、公共事業、都市開発などを担当する。地域政府とは別に教育、文化などを管轄する言語別の共同体政府がある”【6月14日 毎日より】ということです。

オランダ語圏の北部フランデレン地域とフランス語圏の南部ワロン地域の境界線は、国土のほぼ中央を東西に横切っており、言語境界線と呼ばれています。
北部のオランダ語圏はベルギー人口(約1067万人)の約6割にあたる約616万人を擁し、フランス語圏を主体とする南部は約346万人、仏・オランダ2言語併用の首都ブリュッセルは約105万人となっています。

政党も南北の地域で分かれており、比例代表制の議会選挙においては、北部オランダ語圏の住民はオランダ語系政党、南部フランス語圏はフランス語系政党に投票します。仏蘭2言語併用地域のブリュッセルと周辺地区は仏語系、蘭語系のどちらかに投票できます。

1830年の独立後、ベルギーでは石炭業で潤う南部に北部住民が出稼ぎに来る「南高北低」の時代が続き、フランス語が支配階級の言語でした。しかし、1960年代以降、南部の石炭産業が斜陽化し、入れ替わりに北部オランダ語圏が自動車、化学工業などでベルギー経済のけん引車役を果たすようになりました。
経済的な主客逆転で自信を深めたオランダ語圏の政党や住民は、連邦政府から地域政府への一層の権限移譲を求めています。

経済的に豊かなオランダ語圏には「なぜ、貧しいフランス語圏を支えなければならないのか」との不満があるとも言われます。フランス語圏の失業率が高いことなどから社会保障負担を通じ、年間推定約50億ユーロ(約5550億円)がオランダ語圏からフランス語圏に渡っているとも。【6月14日】

こうした事情を背景に南北対立が続いており、前回2007年6月の総選挙後も、北部の自治権拡大要求をめぐって連立交渉が難航し、9か月間も首相が決まらない状態が続きました。その際も“南北分裂の危機”が取り沙汰されました。
今回の総選挙も、南北対立から、ブリュッセル周辺自治体を本来のオランダ語圏選挙区に戻す協議が進まず、4月、オランダ語圏の政党が連立離脱を表明して政権が維持できなくなったことによるものでした。

【北部分離・独立派 第1党へ躍進】
今回選挙結果につては、下記のとおりです。
****ベルギー:北部独立派が下院第1党に****
13日のベルギー総選挙は即日開票の結果、北部オランダ語圏の分離・独立を最終目標に掲げる民族主義派政党・新フラームス同盟が前回選挙(07年)の8議席を大きく上回る27議席を獲得し、下院第1党に躍進した。南部フランス語圏の中道左派・社会党は議席数を20から26に伸ばした。姉妹政党・オランダ語系社会党の13議席と合わせれば、下院第1勢力。ルテルム首相の中道右派・キリスト教民主フラームスは23議席から17議席に後退した。
今後の焦点は連立協議に移る。新フラームス同盟のデ・ウェーフェル党首(39)は仏語系に首相ポストを譲るとしており、仏語系社会党のディ・ルポ党首(58)が首相候補に有力視されている。仏語系首相が誕生すれば74年以来、36年ぶり。
ディ・ルポ党首は13日夜、「多くのオランダ語圏住民が国家機構の改革を望んだ。耳を傾けなければならない」と述べ、新フラームス同盟との連立合意を目指す考えを示唆したが、連立協議は難航が予想される。
ベルギーは7月から半年間、欧州連合(EU)の議長国を務めるため、連立協議が長引けばEUの運営に影響が出る恐れもある。【6月14日 毎日】
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これまでの経緯を考えると、特に、今後「国の形」をどうするのかという基本問題が焦点になってきていますので、7月までに連立交渉がまとまるのは難しいような感じがします。

第1党となった新フラームス同盟のデ・ウェーフェル党首(39)は、国の形は維持しつつ、連邦政府権限を国防・外交にとどめ、言語圏別の地域政府に財政や社会保障の権限を移し、独立国家に近づけたい考えと言われています。他の右翼政党が訴える「ベルギー分裂」に比べれば現実的だとも見られているとか。

経済的に優位な北部オランダ語圏だけでなく、南部フランス語圏にも“独立”志向が出てきているようです。
“フランス語系の各党はこれまで連邦国家としてのベルギーの一体性を守る立場を取ってきたが、ここに来て、一部政党の党首が新フラームス同盟に対抗して「フランス語圏とブリュッセル」の独立構想を提唱し始め、足並みの乱れが表面化している。”【6月12日 毎日】

こうした分離・独立への動きについては、アントワープ大学、デイブ・シナルデ教授の次のような指摘もあります。
****強まる地域政府権限*****
独立派政党の支持者の全員がベルギーの分割を求めているわけではなく、分離主義者はオランダ語圏住民の推定10~15%にすぎない。新フラームス同盟への支持は他党への不満の表明でもあり、フラームス・ベラングへの投票は反移民が主な理由だ。
新フラームス同盟はフランス語系各党だけでなく、オランダ語系他党との間でも意見の隔たりが大きく、連立合意の形成は容易でない。一部のフランス語系政党が言い出した「フランス語圏とブリュッセル」の独立構想は現実的でない。
ベルギーは連邦制を維持しつつ、言語圏ごとの地域政府の自立性を高め、権限を強化する方向に向かう。だが、ブリュッセルが仏蘭両言語圏のかすがいの役割を果たすため、ベルギーは国家としては生き残るだろう。【6月13日 毎日】
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【“国家”という“中間的な存在”】
恐らく、分離・独立まで進むのは、現実問題としては様々な問題があってなかなか難しい側面もあるでしょうから、“ベルギーは国家としては生き残るだろう”といったところでしょう。
ただ、毎回のように南北対立を繰り返す現在の“国家”を維持することが、意味があるのか?という疑問もあります。

特に、日本のようなほぼ共通の言語が当然のごとく前提となっている国に暮らす者からすると、言語が異なる住民が明確に北部と南部で住み分けており、政治体制もそうした言語圏の違いを前提に成り立っている国というのは、想像しがたい面もあります。

一方、欧州はEUという国家間の共同体を有しています。
EUは現在、ユーロ危機でやや混乱もありますが、これまでも欧州統一の動きは何度もとん挫しかけながらも、結構しぶとく、リスボン条約のもとで“大統領”を持つまでになっています。(まだ機能するまでには至っていませんが)
これからも、いろんな問題・危機はあるものの、統合に向けた動きは後戻りはしないのではないでしょうか。
それは、“EU諸国は常に共通の解決策を見出してきた。ヨーロッパ統合の理想に思い入れがあるからではなく、ヨーロッパは世界で最も経済的に相互依存した大陸だからだ。協力する以外に道はない”【6月16日号 Newsweek日本版】という現実が存在するからです。

そうであれば、外交面はEUという大きな枠組みに委ね、内政面は言語・文化をいつにする地域を基盤とする形で、現在の“国家”という“中間的な存在”を排除するというのも、ひとつの方向であるようにも思えます。

なお、現在のユーロ危機に関して言えば、ベルギーは今年か来年に債務の対国内総生産(GDP)比率が100%を超え、ギリシャとイタリアに次ぎ欧州で3番目の高さとなる見通しだそうで、連立協議が長引いた場合に市場が混乱するリスクを指摘する向きもあるようです。


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アフガニスタン  和解を求める「ピース・ジルガ」、攻勢強めるタリバン

2010-06-13 12:51:08 | 国際情勢

(「ピース・ジルガ」(国民和平会議)で演説するカルザイ大統領 アメリカの意向に背く形でタリバンとの和解を進めているとも言われていますが・・・ “flickr”より By United Nations Assistance Mission in Afghanistan
http://www.flickr.com/photos/unama/4662638621/)

【国民和解への一歩か、親カルザイ派の「政治ショー」か】
アフガニスタンでは、2日から4日まで首都カブールで、国内各地から選ばれた有力者による「ピース・ジルガ」(国民和平会議)が開かれ、カルザイ政権と反政府勢力タリバンの双方に和平交渉に前向きな対応をとるよう求める決議を採択しました。

しかし、タリバン側はカルザイ大統領が演説中の会場に攻撃を仕掛けるなどジルガを無視する姿勢です。
また、昨年8月の大統領選でカルザイ氏と激しく対立したタジク人勢力のアブドラ元外相は出席を拒否。ウズベク人やハザラ人の旧軍閥勢力トップも「病欠」するなど、カルザイ政権が目指す「民族融和」にはほど遠い参加状況でした。アフガニスタン情勢に決定的な影響を持つ隣国パキスタンからの参加者も2名にとどまりました。
こうした実効性のない会議自体が親カルザイ派の「政治ショー」であるとの批判もあります。

カルザイ大統領は6日、ピース・ジルガ(国民和平会議)の提言に基づき、国内の刑務所に収監中の旧支配勢力タリバンのメンバーについて、釈放の可能性を探る特別調査委員会の設置を最高裁に求めています。
“大統領府によると、カブール北部のバグラム米空軍基地が管理する刑務所も調査対象に含まれており、「証拠や法的手続きのないまま不法に収監された人々」を釈放の対象にするという。しかし、南部カンダハルで大規模軍事作戦を計画している米側が、タリバン兵の釈放を前提とした調査に応じる可能性は低い”【6月7日 毎日】

【攻勢強めるタリバン、政権内部にも批判も】
一方、タリバンは、アメリカがアフガニスタンから撤退しない限り和平交渉を拒絶するとしており、今回のピース・ジルガについて見せ掛けのプロパガンダと非難、外国勢力への攻勢を強めており、和解への兆しは見えていません。
カルザイ政権内部からも、大統領のタリバンとの和解路線への反発が出ています。

****和平路線 アフガン暗雲 テロ続発米兵ら10人死亡*****
アフガニスタンで7日、北大西洋条約機構(NATO)主導の国際治安支援部隊(ISAF)の米兵ら計10入が反政府武装勢力の攻撃で死亡した。ISAFの1日の犠牲者としては今年最悪だ。カルザイ大統領は反政府勢カタリバーンなどとの和解を急いでいるが、6日には治安を担う内相ら2人が辞任するなど、政権内部の足並みの乱れが目立ち始めている。

治安担当も辞任
AP通信などによると、7日、パキスタン国境に近い東部クナール州で米兵5人が仕掛け爆弾の爆発で死亡。南部ウルズガン州でも同様の爆発でオーストラリア兵2人が死亡した。また、南部の都市カンダハルでは、警察訓練センターヘの自爆攻撃があり、訓練官の米国人と警備のネパール人の計2人が死亡した。
アフガンでは、2日から4日まで首都カブールで「和平ジルガ(国民会議)」が開かれ、カルザイ政権と反政府勢力の双方に対話を促したばかり。タリバーンは「ジルガの結論に検討に値するものはない」と反発しており、7日の攻撃は反政府勢力側が和解に応じない態度を明確にしたものとの見方が多い。

だが、カルザイ氏は和解に前のめりな姿勢を見せている。6日には、和平ジルガの決定に沿って、反政府武装勢力に加わったとして国内で拘束している元兵士らのうち十分な証拠がない者の釈放を命じる大統領令を出した。
同じ日、カルザイ政権で警察を所管するアトマル内相と情報機関トップのサレ国家保安局長の2人が辞任した。和平ジルガの初日のタリバーンによる会場攻撃を封じられなかった責任をとったというのが公式の理由だが、国内では2人がカルザイ氏の性急な和解路線に反発したとの見方が出ている。
実際、サレ氏は辞任後、ロイター通信のインタビューに応じ、「辞任の理由の一つはカルザイ氏が大統領令を出したことだ」と語った。
米国ではこの2人の辞任に驚きと懸念が広がっている。ニューヨーク・タイムズ紙によると、辞職した両氏はISAFの信頼が厚く、アフガン政府と連携してタリバーン掃討に取り組むオバマ政権にとって、重要な「つなぎ役」だったためだ。
ISAFを率いる駐留米軍のマクリスタル司令官の側近は、2人の辞任は「我々の現在の取り組みには有益でない」と述べた。7日にISAFが大きな犠牲を出したことで、武装勢力への融和策に今後さらに批判の声が高まることも予想される。

カルザ不氏が和解にこだわる背景の一つは、9年近くに及ぶ紛争への国民の疲弊がある。和平ジルガで議論のまとめ役の1人となった参加者は朝日新聞の取材に「我々は政府にもタリバーンにもまず話し合いのテーブルに着くよう求めると決めたのだ」と語った。    
また、大統領選で不正が指摘されるなど正当性に疑問の声も出たカルザイ政権にとっては「国民和解こそが唯一政権基盤を安定させる成果になる」(現地国連筋)との指摘もあり、早く実績を見せる必要に迫られている事情も背景にある。【6月9日 朝日】
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その後も、9日には南部ヘルマンド州サンギン地区でISAFのヘリコプターがタリバンのロケット砲攻撃で撃墜され、米兵4人が死亡しています。

【カンダハルでの作戦が遅れる可能性】
現在のタリバンが攻勢をかける現状では、“和解”の実現性はあまりないように思えます。
タリバン側を和解のテーブルにつかせるためには、一定の軍事的成果が必要でしょう。
その意味で、今後のタリバンとの戦いの帰趨を決めるとも見られている、タリバンが拠点とするアフガン南部カンダハル州の制圧計画については、その遅れが報じられています。

****タリバン掃討作戦、長引く見通し…米軍司令官*****
アフガニスタン駐留米軍のスタンリー・マクリスタル司令官は10日、当地で、ゲーツ国防長官の外遊に同行する本紙など記者団と会見し、旧支配勢力タリバンが拠点とするアフガン南部カンダハル州の制圧計画について、「当初想定していたよりも実施が遅れる」と述べ、タリバン掃討に時間がかかるとの見通しを明らかにした。
計画に地元住民の理解を得るのが難しいためで、司令官は当初、今月にもカンダハルで大規模な軍事作戦を行い、タリバン掃討にめどをつける方針を示していたが、作戦が遅れる可能性がでてきた。
司令官は2011年7月に予定される撤収開始には自信を示したが、「(テロは)これからも発生する」と戦況悪化を警告した。
司令官は一方、タリバンへの最近の軍事作戦で、「幹部を121人殺害した」と成果も訴えた。地上の敵を狙う上空からの攻撃に巻き込まれた民間人の犠牲者が1年前より減少したことも強調した。
また、米軍撤収に伴うアフガン政府への権限移譲については、「1年前には真剣な議論はなかった」が、この1年で、米軍撤収後の治安維持にあたるアフガンの治安部隊や部隊の訓練要員が増えるなど着実な進展があると語った。【6月10日 読売】
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【民間人犠牲】
和解交渉にしても、軍事作戦にしても、その成否のカギとなるのは住民からの支持を得られるかどうかという点です。そして、住民の支持を得るためには、民間人犠牲を最小限に抑えること、支配権を得た地域で治安を維持し、住民のための行政サービスを速やかに実施するこが必要です。

***アフガン:結婚式場で爆発、130人死傷 カンダハル****
アフガニスタン南部カンダハルの結婚式会場で9日夜、大きな爆発があり、州警察によると、子供を含む少なくとも40人が死亡、90人が負傷した。死者は増える見込み。
現場は、米英軍主体の大規模掃討作戦が予定されている地区。米軍主導の北大西洋条約機構(NATO)軍は「市民を狙ったタリバンの吐き気をもよおす無差別攻撃」と声明を出し、アフガン大統領府も「自爆テロ」と非難したが、タリバン報道官は「空爆だ」と主張している。
カンダハルでは、結婚式場や民家が米軍機に爆撃される事件が多発し、タリバンの勢力拡大を支えた。今回の爆発がタリバンのテロだった場合、逆に軍事作戦支持の市民が増えるとみられる。【6月10日 毎日】
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式には、タリバンに対抗し政府寄りの立場を取る地元の武装自警団のメンバーが大勢出席していたことから、治安当局は自警団を標的にした犯行とみて調べています。
民間人犠牲が外国勢力による攻撃だけでなく、むしろタリバン側の攻撃で多く生じていることを住民に周知していく“プロパガンダ”も必要でしょう。

“プロパガンダ”と言えば、先日、朝のNHK-BSの番組「おはよう世界」で、アフガニスタンで活動する米軍戦闘機へ搭乗してのアメリカ女性記者による同行取材の様子が放映されていました。
取材中に、“たまたま”タリバンの攻撃を受ける地上部隊から爆撃の要請がありますが、戦闘機パイロットは近くに学校があり民間人犠牲がでることを懸念して、再三の爆撃要請を拒否して機銃掃射で対応します。

この“取材”について、NHK記者でもあるキャスターが、いかにも“民間人犠牲排除に尽力している”という米軍に都合のいい結果となっており、演習・やらせ(そういう言葉はさすがに使いませんでしたが)ではないかとも思える・・・という趣旨の、NHK番組にしてはずいぶん思い切った発言をしていたのが印象的でした。

【“すべての政府機関で戦う”】
南米・コロンビアは、かつて左右武装勢力が跋扈し、麻薬に汚染され、テロや誘拐事件が絶えませんでしたが、ウリベ大統領のもとで、アメリカから巨額の援助を受け、左翼ゲリラ・コロンビア革命軍(FARC)の本格掃討を進めた結果、現在ではテロや誘拐事件は激減し、大幅に治安が改善しています。(ウリベ政権については問題もない訳ではありませんが)
そのコロンビアで、陸海空軍30万人を統括する国軍司令官、フレディ・パディージャ氏(61)の発言。
****「安全」が民主主義作る*****
ゲリラに占拠されていた地方都市を軍が解放するだけでは解決にならない。兵士は薬も持っていないし、学校の先生でもないからだ。
ウリベ政権では、解放後その都市にすぐに裁判所を設置し、市長を置き、福祉事務所を開設した。これは革新的な変化だ。軍だけでゲリラや麻薬組織と戦うのではなく、すべての政府機関で戦うという基本方針が確立したのだ。
我々はゲリラの資金源である誘拐と恐喝から国民を守ることでゲリラの力をそいだ。ゲリラ対策は(1)投降を促す(2)逮捕して刑務所に収監(3)軍事力で攻撃--の順で重要だ。最後の一人が死ぬまで戦う必要はなく、生きる道があることを示さねばならない。【6月11日 毎日】
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コロンビア革命軍(FARC)とタリバンを同列に扱うことはできませんが、やることは同じでしょう。
そして今のアフガニスタンに致命的に欠けているのが、“すべての政府機関で戦う”ことを支える警察・軍・役人・政治家の住民生活を守るという意識ではないでしょうか。
コロンビアよりは、ベトナム戦争当時の南ベトナム政権にも似ているような・・・。

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中国  一人っ子政策の現況

2010-06-12 13:22:37 | 世相

(孤児院の障害児 一人っ子政策の結果、障害を持った子供を捨てる親もいるとかで、孤児院は障害児であふれているとの情報も。 もともと中国では環境汚染などのせいか、障害児が多いという話もあります。
“flickr”より By Wen-Yan King
http://www.flickr.com/photos/medapt/436186619/)

【「黒孩子」に戸籍を】
中国は爆発的な人口増加を抑えるため、79年から「一人っ子政策」を実施。自然増加率は1980~2008年の期間で、人口1000人当たり約11.9人から5.2人弱へと減少し、人口爆発が経済成長の足を引っ張ることを防ぐという目的は一定に達成しています。

しかし、その一方で、高齢者に偏った人口構成、いびつな男女間の比率といった重大な問題が派生していることは周知のところです。
また、政府の一人っ子政策に違反して生んだ第2子を戸籍上登録しないことで、政府も把握できない、公的サービスも付与されない子供たち「黒孩子(ヘイハイズ)」の増加も問題となっています。その数は3000~4000万人に達していると言われていますが、“闇”の世界の話ですので、実数ははっきりしていません。
中国政府はこの事態に、違反の子供にも戸籍を付与する方針を打ち出しています。

****<一人っ子>違反の子どもに戸籍を与える方針、初めて明確化―中国*****
2010年6月10日、中国政府は一人っ子政策に違反し戸籍を保有していない子どもに、戸籍を与える方針を初めて明確化した。ラジオ局・中国之声が伝えた。
番組には中国社会科学院人口・労働経済研究所の張翼(ジャン・イー)研究員が出演。まもなく始まる第6回国勢調査についてコメントし、「第6回国勢調査戸籍整備活動プラン」で、一人っ子政策違反で戸籍を保有していない人を速やかに登録するよう定めていると明かした。

戸籍を保有していない人は、病院の出産証明などを参考に登録されることになる。正確な登録を担保するため、病院は一人っ子政策違反を理由に出産証明の発行を拒否することは禁じられた。また河北省はあらゆる地方、企業・機関が一人っ子政策違反を理由に戸籍登録を拒否した場合、行政罰の対象にすることも明記した。

中国では一人っ子政策違反の処罰を恐れ、戸籍に登録しないまま生活している人が少なくない。こうした人々は国勢調査でも把握されないため、統計の信頼性を揺るがす問題となってきた。中国の全国国勢調査条例は、調査と行政は異なるものと定めており、行政罰と切り離すことで正確な統計を得ようとしている。【6月11日 Record China】
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“調査を行政罰とは切り離して・・・”とは言いますが、特に中国のような政府権力が絶対的な社会で、その言葉を信じて進んで申告する者がどれほどいるかは疑問でもあります。ただ、そうは言っても、事態改善に向けた一歩であることは確かでしょう。

【香港ママ】
一人っ子政策逃れのため、香港での出産を仲介する業者の広告もあふれているとか。
****一人っ子政策違反の2人目や愛人の子を「香港で生もう」の広告が氾濫!―中国****
「お子さんの成功の道、その出発点は香港から」「650万元(約8850万円)を節約、移民して香港ママになろう」……。ネットにはこうした香港での出産仲介業者の広告があふれている。2010年3月29日、人民日報が伝えた。

香港で出産した場合、赤ちゃんは香港籍を得ることができる。そのため中国本土から多くの女性が押し寄せ、香港の産婦人科のベッド数が不足するなどの問題が起きているほどだ。仲介業者なしでも香港での出産は可能だが、事情がわからないため依頼する人が多いという。

「(一人っ子政策違反の)2人目出産、未婚での出産、愛人の出産、代理母出産。香港はあなたを歓迎します」とは仲介業者がよく使う宣伝文句。一人っ子政策逃れで香港での出産を選ぶ人も少なくないという。違反金と比べれば、コスト的にも安いのだとか。香港での新生児登録には両親の結婚証明書が必要となるが、ニセ証明書が使われるケースが多い。

中国政府は香港で出産しても一人っ子政策違反であることに変わりはないと強調しているが、現在は把握する方法がないのが実情。国家人口・計画生育委員会のあるスタッフは、「一国二制度」を守りつつ、香港にも中国本土の国民にも受け入れられる法整備が必要だとコメントした。【3月31日 Record China】
***************************

政治的な問題に関してのネット規制が厳しく行われている中国ですが、こうした“香港ママ”の広告があふれているというのは、不思議な感じがします。

【「白髪都市」上海】
一人っ子政策の問題の中核でもある高齢化に伴う人口構成の問題に関しては、人口抑制を進めた結果、2015年頃を境に労働力人口が減少に転じるという統計もあるようです。
高齢化が進めば、社会保障のための経済的負担も増加します。
この問題は、一人っ子政策が早くに普及した上海で全国に先駆け表面化しつつあります。

****<一人っ子政策>全国的緩和へ、1世帯2人出産を提言―上海市****
20日、上海市人口・計画生育委員会が、一人っ子政策緩和の可能性について言及した。全国的に1世帯に2人までの出産を認めても、人口学的にはバランスを崩すことはないという。

2009年4月20日、上海市人口・計画生育委員会の孫常敏(スン・チャンミン)副主任が、一人っ子政策緩和の可能性について言及した。上海で開催された「調和社会と高齢化問題」を主題とした講演でこの問題に触れた。
08年末の統計では、中国の総人口に60歳以上の高齢者が占める割合は12%、1億5900万人超となっている。とくに一人っ子政策が早くに普及した上海市の状況は深刻で、2030年までには人口の半分が65歳以上となる見込み。

急速に進む高齢化に対し、孫氏は「従来の計画生育政策(一人っ子政策)は現在の国情にそぐわない。個々の家庭事情や経済力に合わせて世帯規模を指導していく必要があるだろう」と発言した。全国的に1世帯2人までの出産を認めても、人口学的にはバランスを崩すことはないとしている。
中国ではかつて子だくさんがよしとされたが、時代は変わり、子供の養育コストが上昇し続ける中、子だくさんを望む夫婦は現実的には減ってきているという見方も、政策緩和の方向性を後押ししている。1世帯に2人までの出産を許可すれば、高齢化に歯止めをかけるほか、現在不均衡を生じている男女比の問題も解決に向かうとしている。【09年4月22日 Record China】
******************************

上海では以前から「夫婦共に一人っ子の場合、子供は二人まで」が認められており、その成果で人口の自然減少が緩和されてきてはいます。ただ、政府が第2子を奨励しても、上海のような都市部では、ライフスタイルの変化に伴い、教育コスト負担から、人々がそれを望まないという問題もあるようです。
また、上海がこの問題に力を入れるのは、労働人口減少が上海以外から人口流入、つまり“よそ者”の流入を招き、社会を不安定化させることへの懸念があるとも指摘されています。
先進国における“移民問題”と同じです。

【100:119】
男女の産み分けに伴ういびつな男女比率の問題は、背景に家の跡取りとして、また、労働力として男子を望む風潮があります。その結果、“男性余り・嫁不足”も生じ、嫁にする女性を誘拐してくるといった社会問題まで起きているとか。
ただ、最近わずかながら改善の兆しもあると報じられています。

****「男性余り」懸念の中国、新生児の男女比格差に改善の兆し*****
中国の人口の男女比格差に、わずかながら改善の兆しがみられたことが分かった。李斌・国家人口計画生育委員会主任が3日、政府のウェブサイトで明らかにした。
2009年の中国での新生児の割合は、女児100人に対して男児が119.45人。08年は同120.56人で、数年ぶりに差が縮まった。
出生時の自然な男女割合は女児100人に対し男児105人程度とされるが、中国では人口増抑制のため約30年前に導入されたいわゆる「一人っ子政策」の影響で男女比の差が開いた。中国社会科学院の昨年の発表によると、2020年には結婚適齢期の男性2400万人以上が結婚相手を見つけられない可能性がある。
李主任は、確実に格差が縮まるにはあと何年もかかるとして、出生前の性別判断検査や医療目的でない人工妊娠中絶の根絶に向けて一段の警戒が必要との見方を示した。【6月4日 ロイター】
*****************************

【違反者に避妊手術】
種々の問題を生んでいる一人っ子政策の是非については、政府部内でも検討が行われていることが数年前ぐらいから報じられています。
****中国、「一人っ子政策」廃止せず=公式サイトで声明発表へ―中国紙*****
2008年3月2日、中国国家人口計画生産委員会が29日、先ごろ一部メディアで報道された「中国は一人っ子政策廃止を検討中」というニュースは事実ではないと否定した。北京紙「新京報」が広州の夕刊紙「羊城晩報」の記事を引用し報じた。

ロイター通信社は29日、同委員会の趙白鴿(チャオ・バイゴー)主任が28日、中国が「段階的に」一人っ子政策の廃止を検討していることを明らかにしたと報じていた。時期や方法、具体的な措置は決まっていないが、「政策決定者にとって大きな課題になっている」と述べたとしている。

同委はこれに対し「事実ではない」と否定し、「現行の人口抑制政策は、これからもさらに推進される」ことを強調した。現在、公式サイトでの声明発表を準備しているという。

中国は1970年代に「一人っ子政策」を導入し、地域ごとに異なるものの原則的に1家族につき子供1人とされている。違反すると年収の数倍の罰金など厳しい取り締りが行われているが、人口の高齢化などの問題も指摘されている。【08年3月2日 Record China】
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上海のような第2子奨励の一方で、こんな話もあるようです。
****「一人っ子政策」、違反者1万人に避妊手術へ 中国・普寧市****
中国南部・広東省の普寧市当局が、「一人っ子政策」の違反者取り締まりの一環として、住民1万人近くに避妊手術を施す運動を始めた。国営英字紙・環球時報などが伝えた。
市当局は、前週より20日間の日程で、「普寧市で一人っ子政策に最も違反している人々」9559人を対象に取り締まりを実施。報道によると、これまでに対象者夫婦の約半数が避妊手術に同意したという。
また、15日付の南方日報の関連紙Nanfang Countryside Dailyの報道によると、普寧市当局はこれまでに、手術の拒否者ら1300人以上を拘束した。手術を拒否した人だけでなくその親族も拘束され、市当局施設で家族計画の規則についての指導を受けているという。(後略)【4月18日 AFP】
*******************************
“避妊手術に同意”とは言っても、拘束して同意を求めるのは殆ど“強制”でしょう。

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パレスチナ・ガザ地区  ラファ検問所の部分的開放とガザ封鎖の今後

2010-06-11 23:01:09 | 国際情勢

(08年1月、壁が爆破された頃のラファ ガザ住民からの投石を受けるエジプト国境警備部隊 “flickr”より By bullitproofbaby
http://www.flickr.com/photos/13426282@N06/2225718042/)

【エジプト 批判をかわす狙い】
イスラエル軍がパレスチナ・ガザ地区支援船を強襲し死傷者が出た事件は、イスラエルに対する非難を国際的に呼び起こし、イスラエル国内でもガザ経済封鎖の有効性への疑問を惹起していることは、
6月2日ブログ「ガザ地区支援船団強襲事件 強まるイスラエル批判 国内からも批判 ラファ開放」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100602)や、
6月8日ブログ「イラン ガザ地区支援船派遣を発表 問題国イラン・イスラエルの衝突の懸念も」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100608
でも取り上げたところですが、この事件がもたらした大きな変化のひとつが、ガザ地区がイスラエル以外の国とつながる唯一のルートであるラファ検問所をエジプトが開放したことでした。

6月2日ブログでも書いたように、イスラエルによるガザの「封鎖」は2006年1月ハマスが評議会選挙に勝利してから強化され。2007年6月にハマスがガザ地区の治安掌握をして以降は、完全封鎖とも言える状況が続いています。こうしたなか、イスラエルに囲まれたガザ地区唯一のイスラエル以外への出口であるラファについては、エジプトが封鎖しています。

国内に穏健派原理主義のムスリム同胞団(元々は、ハマスの母体でもあります)を抱えるエジプトは、同組織と過激派ハマスとの交流・武器の流入を阻止したい狙いがあり、また、アメリカからの資金援助を伴う強い要請もあってのラファ検問所封鎖ですが、かねてよりアラブ・イスラム世界では、イスラエルに加担する行為として評判が悪く、今回事件でムバラク大統領はラファ検問所を人道目的で開放するよう命じています。
これは、ガザ封鎖に対する非難の矛先がエジプトに向かうのを回避する狙いがあるとみられています。

****エジプト:ガザ地区へのラファ検問所開門 大統領が命じる****
ムバラク・エジプト大統領は1日、ガザ地区へのエジプト側出入り口であるラファ検問所の開門を命じた。人道目的の支援物資や治療を受ける患者などの通過を認めるもので、ガザ支援船団急襲を受けた措置とみられる。エジプトに対しては「イスラエルのガザ封鎖に協力している」との批判がある。【6月1日 毎日】
***************************

【突然の再閉鎖もありうる】
現在のラファ検問所の状況は下記の記事にもあるように、開放はされましたが、まだまだ厳しい制約があるようです。
****ラファ検問所:いつ閉じるか知れぬ狭き門 待ち続ける人々*****
イスラエルの封鎖下にあるパレスチナ自治区ガザ地区とエジプトを結ぶ唯一の公式の接点、ラファ検問所に入った。ガザ国際支援船団をイスラエル軍が急襲した事件を受け急きょ開門された。娘との久しぶりの再会を願う老いた母、外国で働くためビザを取得しようする男性。いつ閉じるか知れない狭き門の前で、多くの人が待ち続けていた。
9日訪れたエジプト側検問所では、30度を超す気温の中、ファトマさん(76)が座り込んでいた。娘と会うためヨルダンから駆けつけたが、「書類不備」で通過拒否。「戻って書類を整えてこいって。この年でそんな元気はない」。1948年のイスラエル建国で生まれ育った土地を追われた。ガザに嫁入りした娘とは4年も会っていない。「顔を見て話したいだけなのに……」
人1人が通れるほどの狭く高い鉄門から約100メートル歩くと体育館ほどの入国管理施設だ。膨らんだ旅行カバンを持った100人ほどが不安げな表情で通過許可を待っていた。(中略)
検問所員によると、1日の開門以来、毎日700人前後がラファを通過。封鎖は07年6月にイスラム原理主義組織ハマスがガザを武力制圧して以来だが、今回はムバラク・エジプト大統領の命令による異例の「無期限開門」だ。だが、突然の再閉鎖もありうる。ある検問所職員は「命令があれば、当然閉める」と淡々と語った。【6月11日 毎日】
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【6月1日 毎日】では“人道目的の支援物資”通過は認めるようになっていますが、そのあたりの状況はよくわかりません。【6月5日 TBS】では“検問所が開放されたといっても物資の運び込みは許可されないままです”と報じられています。

****ガザ、検問所開放も人々の生活は困窮*****
イスラエルが支援船をだ捕するのは「ガザに人道危機はなく、救援物資は必要ない」と主張しているためです。しかし、ガザの人々の生活は封鎖によって困窮を極めています。
ガザとエジプトとの境界・ラファ。検問所が開放されていました。
「エジプトの病院へ行きます。私も妻もやっと治療が受けられる」(市民)
開放のきっかけは、支援船団に対するイスラエル軍の攻撃です。「ガザに人道危機はなく、救援物資は必要ない」とするイスラエルの主張に基づいた行動でしたが、9人の死者が出たことで国際的な非難が高まり、エジプトが検問所を開けると決めたのです。
2007年、イスラム原理主義組織ハマスがガザを実効支配して以来、イスラエルは「武器の流通を阻止するため」などとしてガザを封鎖しています。住民の生活は困窮。セメントなどの建築資材の価格はここ数年で10倍になったといいます。2008年末のイスラエルによる大規模攻撃で家を失ったまま、今もテントで暮らす家族も多い状態です。
「テント生活から抜け出すことが、私や子供たちの小さな願いです」(母親)
「『人道危機はない』というイスラエルのうそを誰が信じるというのか。世界中の人がガザを支援しようとしているではないか」(ハマス・イスマイリ報道官)
今回、検問所が開放されたといっても物資の運び込みは許可されないままです。ガザの人々は救援物資の到着を切実に待ち望んでいます。(05日17:44)
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【パレスチナ自治政府の思惑】
なお、これまで続けられたラファ検問所封鎖は、エジプトの国内事情や、ハマスへの武器密輸を防ぎたいイスラエルだけでなく、パレスチナ自治政府からの要請でもありました。
パレスチナ自治政府は、検問所は自治政府の手にゆだねられるべきものとの立場であり、ハマスがガザを実効支配している段階でハマス支配下でラファが開放されることに反対しています。

****パレスチナ自治政府、トルコのハマス支持を憂慮*****
パレスチナ自治政府は、トルコがガザ地区を武力支配中のイスラム根本主義過激派組織ハマスに対する支持を増大させていることを憂慮している。イスラエル紙エルサレム・ポスト電子版が8日、報じた。
トルコの過度のハマス支持は、ハマスのガザ武力支配を認めないパレスチナ自治政府の立場を弱めるからだ。

アッバス・パレスチナ自治政府議長率いるパレスチナ解放機構(PLO)主流派ファタハのヨルダン川西岸地区トップのアッザム・アルアフメド氏は7日、同紙に対し、「パレスチナ指導部は、トルコのハマスに対する政策に不快感を持っている。殊にガザ地区の封鎖を無条件に解くことに対してだ」と語り、封鎖解除以前にハマスがガザ地区の武力支配を停止し、エジプト提案のファタハとの和解案を受け入れる必要があるとの見方を示した。
同氏はさらに、「トルコとエジプト政府は、(イスラエルとの)境界線は、ハマスが2007年に武力支配する以前は自治政府が管理していたことを思い起こしてほしい」と述べ、ラファ検問所が開門される際には、ハマスではなく自治政府との合意によりなされるべきだとの見解を強調した。(後略)【6月8日 世界日報】
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ハマスのガザ支配を認めないというパレスチナ自治政府の立場はわかりますが、ガザ封鎖解除よりもハマスとの権力闘争を優先するようなパレスチナ自治政府の考えは、なかなかパレスチナの人々の間では理解を得るのが難しいのではないでしょうか。
そうした対応が、自治政府への支持低下にもつながっているのでは。

【アメリカの対応 “一部緩和”を求める】
国連の潘基文(パン・キムン)事務総長は2日、イスラエルに対しガザ地区の封鎖をただちに解除するよう強く求めています。
****国連事務総長、「ガザ封鎖の即時解除」求める*****
事務総長は会見で、事件の背景にはイスラエルによる「非生産的、持続不可能で間違った」長期にわたるガザ地区封鎖措置があると指摘。支援物資を運搬していた船団を特殊部隊が攻撃したことについて、イスラエル政府は「子細漏らさず事情を説明しなければならない」と語った。
また、国連安全保障理事会が出した事件の調査を求める声明をめぐり、「迅速で信頼性と透明性がある公平な」調査を実施するため、「さまざまな選択肢」を模索していると述べた。
さらに、国連人権理事会が2日午前、事件に関する独立した国際調査機関を設置したことも明らかにした。(後略)【6月3日 AFP】
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事件後、バイデン米副大統領はアフリカ諸国歴訪を前にエジプト・シナイ半島最南端のリゾート地シャルムエルシェイクを訪問し、7日、当地でムバラク・エジプト大統領と会談しました。この会談で、バイデン副大統領はエジプトに対し、ラファ検問所のさらなる開放を求めて圧力をかけたのではないかとも報じられていますが、これまでラファを閉じてきたのはアメリカの意向もあってのことだったのでは?

オバマ米大統領は、ガザ封鎖の全面解除要求とは距離を置きながらも、ガザ市民の苦境にも配慮して、封鎖に代わってガザ地区への武器流入を阻止する「新たな仕組み」の構築に踏み出すようイスラエルに求めていることを明らかにしています。

****オバマ米大統領:ガザ封鎖、一部緩和を イスラエルに要請*****
オバマ米大統領は9日、アッバス・パレスチナ自治政府議長とホワイトハウスで会談した。国際支援船襲撃事件を受け、国際的な批判を浴びているイスラエルによるパレスチナ自治区・ガザ地区封鎖について、大統領は、一部緩和をイスラエルに求めていることを明らかにした。パレスチナ側に対し、新たに4億ドル(約360億円)の人道支援を行うことも発表した。
アッバス議長は、米国が仲介するイスラエルとの中東和平間接交渉を「あきらめない」と述べ、支持する考えを表明。米国が恐れた交渉中断という最悪の事態は避けられる見通しとなった。
大統領は、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスへの武器密輸を防ぐ必要性を強調する一方、ガザ地区の窮状も指摘。全船舶を止めるのでなく「武器の積み荷に対象を絞り、段階的に物資がガザに入るような方法」を構築すべきだと語った。エジプトなど関係諸国と協議するよう、「イスラエルに促している」という。
【6月10日 毎日】
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