孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン追加制裁決議採択  ロシア、中国、イスラエルなど関連国の思惑

2010-06-10 23:20:03 | 国際情勢

(ロシアの“イランカード”のひとつ、地対空ミサイルS-300 “flickr”より By Danner Gyde http://www.flickr.com/photos/dannergyde/2966814646/)

【反対2、棄権1】
国連安全保障理事会(15カ国)は9日、核開発を続けるイランへの追加制裁決議案を賛成12カ国、反対2カ国、棄権1カ国の賛成多数で採択しました。
反対の2カ国は、先にイランとの間で、イラン保有の低濃縮ウランの一部をトルコに搬出するとした合意をまとめたブラジルとトルコ、棄権はイランの支援を受けるヒズボラが国内で大きな力を持つレバノンでした。
国連安保理の対イラン制裁決議は08年3月以来4度目になりますが、過去3回の制裁決議のうち2回は全会一致で、前回はインドネシアが棄権。決議への反対国が出たのは初めてです。

制裁決議内容については、“今回の決議案は、加盟国に戦車など大型武器の対イラン輸出を禁止し、核兵器やミサイル関連物資を積むとみられるすべての貨物船について、港湾だけでなく、公海上でも検査を行うよう求めた。
イランのアフマディネジャド大統領の権力基盤である革命防衛隊関連企業の資産凍結なども求め、核・ミサイルにかかわるイラン系銀行の支店開設を認めないよう各国に求めた。また、制裁の実施状況を監視する8人程度の専門家パネルの設置を決め、付属文書では制裁対象として新たに1個人と40団体を指定した”【6月10日 毎日】とのことですが、イラン制裁に難色を示していたロシア・中国を取り込むためもあって、産油国ながら精製能力が低くガソリンや軽油の輸入国であるイランに対する石油の禁輸措置といった“効果的”な対策は見送られています。
このため、今回制裁措置で直ちにイランが態度変更を求められるといったものではないようです。

【ロシアの“イランカード”】
そのイランへの地対空ミサイル「S-300」の売却を進めていたロシアは、制裁決議に賛成するとともに、この売却を凍結するとも報じられています

****ロシア、イランへのS-300ミサイル売却を凍結か****
ロシアのインタファクス通信は10日、国連安全保障理事会が9日に対イラン追加制裁を採択したこと受け、ロシアはイランへの地対空ミサイル「S-300」の売却を凍結するという消息筋の話を報じた。
これによると、ロシアの武器輸出を統括している連邦軍事技術協力局内部の人物が「国連安保理の決定を履行するのは義務であり、ロシアも例外ではない。当然、S-300ミサイルの売却契約も凍結されるだろう」と述べたという。
しかし、ロシア連邦下院国際問題委員会のコンスタンティン・コサチェフ委員長は、追加制裁でイランへの大型武器輸出は禁止されたものの、S-300のような防衛的なシステムは対象になっていないと述べた。もっとも、国連安保理の追加制裁は攻撃的武器と防衛的武器を区別していない。

ロシアは数年前にS-300ミサイルシステムを提供することでイランと合意していたが、イランの防空能力が大幅に強化されることを恐れた米国とイスラエルの圧力を受けて、引き渡しはまだ行われていない。
アナリストや外交関係者の間では、イスラエルはS-300がイランの手に渡ることを極度に警戒しているため、ロシアがイランにS-300を引き渡すとの情報があれば、イラン空爆に踏み切るのではないかという見方もある。
前年7月に貨物船「アークティック・シー(Arctic Sea)」が行方不明になり、8月中旬に発見されたときには、この船がイラン向けのS-300ミサイルを積んでいたのではないかとの疑惑が持ち上がったが、ロシア政府はこれを強く否定した。【6月10日 AFP】
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どうもまだ“確定”ではないようです。
このS-300ミサイルを最も懸念しているのが、イランの核関連施設を空爆したがっているイスラエルですが、そのイスラエルは“イスラエル製の無人偵察機の譲渡”という「事実上のわいろ」をロシアに贈ることで、S-300ミサイル売却の断念を確約させた・・・との報道も以前ありました。

****露・イスラエル“蜜月” 無人機大量購入…イランと溝*****
ロシアがイスラエルとの軍事協力強化に動いている。昨年夏のグルジア紛争以降、最重要課題となっていた兵器近代化の一環として、イスラエルから無人偵察機を大量購入する交渉が進行中と伝えられる。ロシアは最近、伝統的な友好国であるイランに距離を置く姿勢を示しており、イスラエルへの接近は、ロシアが中東地域に対する政策を転換する兆しとも受け取れる。

ロイター通信によると、ロシアがイスラエルから1億ドル(約89億円)相当の無人偵察機を購入する交渉を進めている。今年4月に同機12機を5千万ドルで購入したのに続く大型交渉となる。
昨夏のグルジア紛争では、イスラエル製の無人偵察機にロシア空軍は苦戦を強いられた。が、ロシア国産の無人偵察機はといえば、軍幹部も「速度も高度も性能も不満だ」と公然と批判しているのが実情だ。ロシアはイスラエルからミサイル搭載可能な最新鋭の無人偵察機を入手し、周辺国に対する軍事的優位を確保するとともに、機体を分析して国産機の技術向上にも役立てる狙いだ。
一方のイスラエルには、無人偵察機を供与する見返りに、ロシアがイランに対して対空ミサイルS300を売却しないという“確約”を得る狙いがある。イランの核開発計画を無力化する切り札として、核施設を空爆する余地を残しておきたいのがイスラエルの立場とみられるが、S300がイランの手に渡れば、爆撃機が撃墜される危険が出てくる。

無人偵察機の製造技術の流出をも覚悟したイスラエルの対露戦略について、欧米の専門家はUPI通信に、ロシアに対する「事実上のわいろだ」と述べた。サウジアラビアも、ロシアがイランにS300を売却しないことを条件に最大70億ドル相当の兵器類を購入する交渉を進めているとされる。
イラン国内でこの秋、2カ所目のウラン濃縮施設の存在が明らかになった後、ロシアとイランとの関係は急速に冷え込んだ。
ただ、モスクワの軍事ジャーナリスト、アレクサンドル・ゴリツ氏は、対米交渉のテコとして“イランカード”を保持したい思惑から、米国の対イラン強硬姿勢に完全に同調するとは限らない、とみる。
ロシアは当面、中東における親米陣営への接近を図ることで、軍事面で利益を獲得する狙いが主眼といえそうだ。【09年12月16日 産経】
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追加制裁決議に先立ってトルコ・イスタンブールで開催されたアジア相互協力信頼醸成会議には、イラン・アフマディネジャド大統領、ロシア・プーチン首相が出席していますが、アフマディネジャド大統領は常任理事国のロシアに拒否権発動を求めたと報じられています。
今回採決では、ロシアは結局、制裁決議に賛成していますが、プーチン首相は「制裁は、過剰であってはならず、イランが核を平和利用する障害となってはいけない」とも語っています。

S-300ミサイル売却問題と並んで、イラン・ロシア間でのびのびになっているのが、ロシアが建設協力しているイランのブシェール原発です。プーチン首相はこのブシェール原発について「8月に稼働する」と発言しています。【6月8日 毎日より】
S-300ミサイル売却にしても、ブシェール原発にしても、ロシアとしては“イランカード”を活用して、関連国からの最大限の譲歩を引き出そうという狙いのようです。

【アメリカ、イスラエルを宥めて決議を急ぐ】
一方、今回アメリカが制裁決議を急いだ背景には、イスラエルの「空爆も辞さず」という強硬姿勢があるとも言われています。
****急いだイラン制裁決議 核兵器転用、米に危機感 イスラエルの攻撃姿勢懸念****
国連安全保障理事会で9日、イランに対する追加制裁決議が採択された。米国はトルコやブラジルなどの反対を押し切って、採択を急いだ。その背景には、イランが着実に核開発を進めていることに加え、イランの核保有を警戒するイスラエルが、イランへの空爆も排除しない姿勢を示しているとされることがある。当初は対話の重要性を訴えていた米国も、イランへの国際的な圧力が不可欠だとの判断に傾いた。
(中略)イランが核開発を進める一方、米国とイスラエルの関係は「ここ30年で最悪」とされるまでに悪化した。イスラエルは、イランの核武装を阻止するためには軍事攻撃も排除しないとの姿勢もちらつかせ、オバマ政権は自制を求めてきた。
さらにイランの核保有は周辺国を刺激するのも確実で、米シンクタンク、ヘリテージ財団のジェームス・フィリップス研究員は「サウジアラビアやエジプト、トルコを巻き込んだ中東の核軍拡競争を誘発する可能性が高い」と懸念する。米国は最悪のシナリオも想定、国連安保理の枠組みによる早期制裁に固執した。【6月10日 産経】
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【中国の“取引”】
このところ、追加制裁決議に関するカギを握っていると言われていた中国のイラン問題に関する発言はあまり目立たなくなっていましたが、中国は制裁決議にも賛成しています。(付帯文書とされた資産凍結リストの選定にあたっては、中国の強い抵抗があって、米中間で激しいやりとりがなされたそうですが)
中国とアメリカの間で、中国がイラン制裁決議を容認する見返りに、中国の為替操作問題を当面は大きな問題としないという“取引”があったとも噂されています。

実質的効果は疑問視される対イラン追加制裁決議ですが、イラン、イスラエル、ロシア、中国、アメリカ・・・など関連国のそれぞれの思惑が渦巻いているようです。


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ドイツ・フランス  共同書簡送付で経済政策の不協和音打ち消し

2010-06-09 23:08:37 | 国際情勢

(ユーロ圏を牽引するメルケル首相とサルコジ大統領 写真は2008年のものですが、欧州各国の財政危機が表面化するなかで、最近は少し風向きも違うような・・・ “flickr”より By Chesi - Fotos CC http://www.flickr.com/photos/pimkie_fotos/2960834497/)

【両国の結束を示す狙い】
欧州各国の財政危機を受けて、国債や株式の空売り禁止、大規模な財政支出削減など財政規律を重視する路線に踏み出したドイツと、巨額の貿易黒字を抱えるドイツに対して内需拡大を求め、ユーロ圏全体を統括する「経済政府」の設立構想を最優先課題とするフランスの間で、このところ路線の違いが表面化していましたが、ユーロ圏を牽引する独仏両国の一応の結束を示す共同書簡が出されました。

****独仏トップ、欧州委員会委員長に共同書簡****
ドイツ政府は9日、メルケル独首相とサルコジ仏大統領が、欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会のバローゾ委員長あてに、国債や株式の空売り禁止に取り組むことを求める共同書簡(8日付)を送付したことを明らかにした。
共同書簡では、国債を含む債券、株式のほか、国家が財政破綻するリスクに賭ける国債の「クレジット・デフォルト・スワップ」(CDS)について、EU全域で空売り禁止対象に含めるように求めた。
ドイツは5月に空売り禁止を単独で実施。フランスは慎重だったが、歩調を合わせた。これまでユーロ危機をめぐっては、ユーロ圏各国の財政規律を重視するドイツと、ユーロ圏全体の経済政策の調整をめざす機関設立を目指すフランスとの間で、立場の違いが浮き彫りになっていた。共同書簡は、EUを主導する両国の結束を示す狙いもあるとみられる。【6月9日 読売】
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今月7日に予定されていたメルケル首相とサルコジ大統領の首脳会談が急きょ1週間延期される(表向きはメルケル首相のスケジュール問題ということですが)など、独仏両国の関係悪化が取り沙汰されていましたが、今回、金融規制の強化で足並みを揃えたことで、そうした懸念が緩和する可能性も指摘されています。

【ドイツ 金融市場規制へ】
ドイツは、5月、ギリシャの財政危機によりユーロ圏の国債が急落した事態を受け、ユーロ圏各国の国債・株式の空売りを禁止する措置を発表しました。
****ドイツ:ユーロ圏の国債空売り禁止****
ドイツ連邦金融監督庁は18日、ギリシャの財政危機によりユーロ圏の国債が急落した事態を受け、ユーロ圏各国の国債空売りを禁止する措置を19日から導入すると発表した。各国債を対象とするクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の空売りも禁止した。また、ドイツ銀行、コメルツ銀行など大手金融機関10社の株式の空売りも禁止した。ドイツ国内が対象で、来年3月末までの時限措置。株式の空売り規制は、08年秋の金融危機時に米国などが導入した例があるが、国債取引に導入するのは初めてとみられる。(中略)CDSは、債務不履行(デフォルト)に備えた一種の保険商品。裏付け資産のない投機的なCDS取引が各国債の大量売りを招き、信用不安を拡大させたとして、独仏ギリシャ首脳とユーロ圏常任議長のユンケル・ルクセンブルク首相は17日、CDSの全面禁止を求める共同書簡をオバマ米大統領に送付。6月のG20(主要20カ国)首脳会議で議題とするよう求めている。【5月19日 毎日】
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クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)というのは門外漢にはよくわからない代物です。
“クレジット・デリバティブの一種で、企業の債務不履行にともなうリスクを対象にした金融派生商品。債務不履行のリスク(Credit risk)に対してのプロテクション(Protection)を商品として売買する。
CDSの契約に基づいて、対象となる企業が破綻し金融債権や社債などの支払いができなくなった場合、CDSの買い手は金利や元本に相当する支払いを受け取るという仕組み。”・・・・といった説明を聞いても、正直なところ私はよく理解できません。

こうした金融規制については、独仏間だけでなく、イギリスとの間でも意見の違いがあります。
****ユーロ危機:英独首脳会談 市場規制などで異論****
英国のキャメロン首相は21日、ドイツのメルケル首相とベルリンで会談し「強く安定したユーロが必要」との認識で一致した。一方、ドイツが単独で実施している国債などの空売り禁止については否定的な考えを表明した。
首脳会談後の記者会見でキャメロン首相は、「英国はユーロに加わらない」としながらも「通貨ユーロの成功を望む」と強調。世界経済の混乱回避にはユーロ圏の安定が不可欠との考えを示した。ドイツが欧州諸国に空売り禁止への同調を求めていることには「取り扱うような問題でない。問題の真の原因である(ギリシャなどの)財政赤字に焦点を当てるべきだ」とかわした。
ドイツが主張するヘッジファンド規制についても「ヘッジファンドが金融市場の問題の原因だとは思わない」と指摘した。独メディアによると、欧州のヘッジファンドの約6割がロンドンに拠点を置いている。キャメロン首相は、規制強化による英国経済への悪影響を懸念したとみられる。欧州連合(EU)は今後、金融規制の具体策を協議するが、英独の不一致が議論の障害になる可能性もある。【5月22日 毎日】
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【歳出削減・財政再建の流れ】
また、ドイツは最後最大規模の歳出削減を明らかにしています。
****ドイツ:4年間で8.9兆円歳出削減 戦後最大規模*****
ドイツのメルケル首相は7日、11年から4年間で、総額816億ユーロ(8兆9000億円)の歳出を削減する財政再建策を発表した。公務員1万5000人、国防軍4万人の削減など人件費に切り込むほか、失業保険などの支給額を減額する。また耐用年数を過ぎた原発への課税制度を創設するほか、同国内を発着する航空機に環境負担金を課し、歳入を増やす。
独メディアによると削減幅は戦後最大となる。生活保護を受けている人に対しては、政府支給金を削減するほか、子育て給付金も取りやめるなど、社会保障分野にも大ナタを振るう。さらに、12年以後にはすべての金融取引に課税する金融取引税の導入を目指す考えも示した。
メルケル首相は会見で、所得税や付加価値税(日本の消費税に相当)の増税は否定した上で「財政は深刻な状況にあり、歳出削減は必要不可欠だ」と強調した。

ドイツは09年の基本法(憲法)改正で、財政赤字を16年までに国内総生産(GDP)の0.35%以内に抑える条項を新設した。だが、リーマン・ショック後の金融危機対策や、ギリシャ救済などで大型の財政出動が続き、10年の財政赤字はGDP比5%に拡大するため、連立与党内には早急な財政再建を求める声が高まっていた。
財政再建策に対しては、野党は「弱者切り捨て政策だ」と反発、労働組合からも強い批判が起きている。大手労組・独労働組合総同盟(DGB)は、削減策に代えて富裕層に対する増税を実施するよう求めている。
一方で、フランスや米国などは、巨額の貿易黒字を抱えるドイツに対し、内需拡大を求めている。ギリシャ危機に端を発したユーロ危機が世界経済にとって新たなリスク要因となる中、ドイツは欧州域内では財政的に比較的余裕があるためだ。周辺国の期待を裏切る形でドイツは緊縮財政にかじを切った形であり、今月下旬にカナダで開かれるG8サミット(主要国首脳会議)などで論議を呼ぶ可能性がある。【6月8日 毎日】
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歳出削減・財政再建は、いまや大きな流れとなっています。
財政危機が注目されているハンガリーのオルバン首相は8日、総額1200億フォリント(約460億円)の歳出削減を実施する考えを表明しました。公務員給与を15%削減するほか、銀行税を3年間の期限で新設し、歳入増を図るとしています。削減額は、国内総生産(GDP)の約0.5%に相当するとか。
イスラム移民排斥を求める極右・自由党の躍進が予想されているオランダ総選挙(9日)も、歳出削減が最大の争点となっています。
欧州だけでなく、アメリカもオルザグ米行政管理予算局長が8日、12会計年度(11年10月~12年9月)予算で、安全保障関係以外の政府部局に5%の予算削減を指示したことを明らかにしています。

また、従来“聖域”とされてきた国防関連支出にも削減が及んでいます。
****国防費にも大なた 欧州各国、NATO装備共有も****
ギリシャ財政危機に揺れる欧州各国は財政赤字の削減に着手したが、国防も聖域ではなくなってきた。ドイツは基地縮小や徴兵制廃止を検討し、財政再建が最優先課題になっている英国も国防費の2割削減は不可避とされる。北大西洋条約機構(NATO)加盟国間の装備共有も現実味を帯びてきた。
基地縮小と徴兵制廃止を唱えるのはドイツのグッテンベルク国防相だ。ドイツでは18歳以上の男子に9カ月の兵役が課されているが、来年から6カ月に短縮される。「(こんな短期間では)国防上の意味がなくなる」と同国防相は与党内の反対を押し切って徴兵制廃止を近く提案する。
総兵力を25万人から15万人に削るとの報道もある。
英国のキャメロン政権は今年こそ国防費は削らないが、20の装備調達計画を見直し、今後10年間で360億ポンド(4兆8千億円)の赤字を削減するとみられる。
アフガニスタンに派兵する9500人の安全確保のためにはヘリコプターや装甲車の増強、偵察機の買い替えは不可欠で、その分、2隻の空母建造と多用途戦闘機調達の計画見直しは避けられない情勢だ。
イタリアは緊急赤字削減策の一環として国防費を1割削減。ポルトガルも13年まで軍事支出を4割削る。
中国などの国防費が増大する中、欧州が大幅削減を余儀なくされることについて、NATOのラスムセン事務総長は英紙タイムズに「各国政府は国防費の過剰削減が長期的にもたらす影響も考えるべきだ」と警鐘を鳴らしている。【6月8日 産経】
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日本でも、国内総生産(GDP)の2倍近くに膨らんだ財政赤字について、組閣を受けて会見に臨んだ菅首相は「財政の立て直しが経済の立て直しの必須要件である」とし、財政再建では「党派を超えた議論をする必要がある」と超党派の議論を呼びかけていますが、どうでしょうか。

当然ながら、財政支出削減は、その内容によっては国民の大きな抵抗を招きます。
“スペインで8日、政府の財政緊縮策に抗議する初めての大規模ストがあった。異例の給与カットに反対して公務員らが主要都市でデモを展開。政府は企業が労働者を解雇しやすくする仕組みの導入も検討しており、労組側は今月中にもゼネストを実施する方向で準備を始めている”【6月8日 朝日】
今回のストでは、大きな混乱は生じていないようです。
いずれにしても、国民の理解が得られるかどうかは、その国の政治への信頼の度合いによります。


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イラン  ガザ地区支援船派遣を発表 問題国イラン・イスラエルの衝突の懸念も

2010-06-08 22:32:56 | 国際情勢

(スウェーデン・ストックホルムで開かれたガザ支援・イスラエル批判の集会
“flickr”より By liftarn
http://www.flickr.com/photos/liftarn/4657440204/)

【「イラン革命防衛隊が護衛し、イスラエルのガザ封鎖を突破する」】
経済封鎖が続くパレスチナ・ガザ地区への支援船団へのイスラエル軍の強襲は、このブログでも取り上げたようにイスラエル国内外に大きな波紋を広げています。今度は、イランが支援船派遣を発表しています。

****イラン、ガザに支援船2隻派遣へ 医師・看護師70人も****
イラン赤新月社(赤十字に相当)は7日、イスラエルが封鎖するパレスチナ自治区ガザへの支援船2隻を今週中に派遣すると明らかにした。イスラエルを敵視するイランが支援船派遣の動きに出たことで、両国の緊張がさらに強まる恐れがある。
イラン赤新月社の声明などによると、船は同社がチャーターする。1隻には食糧や医薬品など約1千トンの支援物資を積み、別の船には医師、看護師ら約70人が乗り込む予定だという。出港地はともにトルコのイスタンブールを予定している。
これとは別に、同社はガザ向けの支援物資約30トンを空路でエジプトに送る計画も進めている。さらに、手術室などを備えた病院船も1カ月以内に送りたいという。
同社は「人道支援が目的だ」と説明するが、イランでは大規模な反政府デモを誘発した大統領選の投票日から12日で1年となる。抗議活動の再燃を恐れる政府としては、この時期に支援船を送ることで、国民の関心を国外にそらす狙いもあるとみられる。
パレスチナ支援船を巡っては5月31日、イスラエル軍が6隻を拿捕(だほ)した際にトルコ人活動家ら9人が死亡。5日には別の支援船1隻も拿捕されている。【6月7日 朝日】
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記事にある“国民の関心を国外にそらす狙い”の他、欧米諸国からは目の敵にされているイランとしては、この機に乗じてアラブ・イスラム世界の支持を得ようという思惑もあるのでは。

物騒なのは、“イランの最高指導者ハメネイ師の側近は6日、「船団は、イラン革命防衛隊が護衛し、イスラエルのガザ封鎖を突破する」と言明、「既にその準備はできている」と語っており、同船団を阻止するとみられるイスラエル軍との間で、衝突が発生する可能性も出てきた。”【6月7日 世界日報】とも報じられていることです。
アハマディネジャド・イラン大統領はかつて、「イスラエルを地図上から抹殺する」と発言、イスラエル及び国際社会から激しい反発を買ったこともあります。

かねてよりイランの核開発阻止を目指しているイスラエルとしては、もしイラン革命防衛隊との衝突といった事態になれば、この際一気にイラン国内の核関連施設爆撃・・・なんてことも考えるのかも。

【イラン追加制裁案採択へ】
イラン、イスラエル両国とも、現在国際的に厳しい立場に立たされています。
イランの方は、核兵器開発疑惑で国連安保理の追加制裁決議が採択される状況になってきています。

****国連:イラン追加制裁案採択へ 安保理、9日にも*****
核開発を続けるイランに対する追加制裁決議案について国連の安全保障理事会は7日、非公式会合を行った。複数の国連外交筋は9日にも制裁決議案が採択されるとの見通しを示した。
先月18日に米国が決議草案を安保理に提出して以来、非公式会合がもたれるのは初めて。専門家レベルでは決議案本文は全理事国が合意に達しており、付属文書の最終的な協議が続いている。
毎日新聞が入手した最終決議案によると、文書の追加部分で、イランの核問題での「交渉に基づく政治的、外交的努力の重要性」を強調し、先月17日にイランと低濃縮ウランの国外移送と燃料棒の交換に合意したブラジル、トルコの努力に留意し、「イランが核問題に取り組む重要性」を強調した。その他は「大きく変わっていない」(国連外交筋)。イラン革命防衛隊を対象とした資産凍結措置などは、草案通り。
この日の非公式協議は、専門家レベルの協議が大詰めを迎え「政治レベルで協議したい」とのブラジルとトルコの要請で開かれた。両国はこの問題で安保理が公開討論を開くよう求めたが結論は出なかった。【6月8日 毎日】
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イラン保有の低濃縮ウランの一部をトルコに搬出するとしたブラジル・トルコ案については、アメリカはこの受け入れを拒否しています。最大の理由は、同案ではイランがウラン濃縮を継続するということにありますが、搬出後にイラン国内に残った低濃縮ウランは、核兵器製造に十分な量となる可能性があることにもアメリカは懸念を表明しています。
追加制裁決議のハードルとされていた拒否権を有する中国については、採択の見通しが云々されるということは、一定にクリアされたのでしょう。ブラジルとトルコの対応が注目されます。

また、国際原子力機関(IAEA)の定例理事会では、天野之弥事務局長が冒頭演説で「イランは核兵器の開発を進めている可能性があり、(ウラン濃縮活動の即時停止など)IAEAの要求に従うべきだ」と述べています。
この演説で天野事務局長は、「イランの核開発計画には、軍事的側面に関連している可能性がある問題も含まれており、特別なケースだ」、「イランは、イラン国内にある全ての核物質が平和的活動に利用されているとIAEAが確認できるために必要な協力を行っていない」と、イランに対して厳しい指摘を行っています。【6月8日 AFPより】

【IAEAでイスラエルの核が議題に】
これにイランのソルタニエIAEA担当大使は「国際法に違反して支援船を急襲したイスラエルが核兵器を保有していることの方が世界の脅威だ」と反論していますが、今回のIAEA定例理事会では1991年以来初めて事実上の核保有国イスラエルについて議論が行われことになっています。【6月8日 産経より】
“パレスチナ自治区ガザ地区に向かった支援船団をイスラエル軍が急襲、多数の死傷者を出した事件を受け、イスラム諸国を中心に反イスラエル機運が高まっていることもあり、核を巡るイスラエルへの風当たりは一層強まりそうだ。イスラエルの同盟国・米国は、イスラエルの「核能力」について議題とすることに「留保」の姿勢を示したが、議題からの削除は求めなかった。”【6月7日 毎日】
イスラエルは核拡散防止条約(NPT)に加盟しておらず「議論する正当な根拠がない」と、アメリカはイスラエルを擁護しているとも。

【それでもイスラエル支持のアメリカ】
国連安全保障理事会が事件を非難する議長声明を全会一致で採択するなど、イスラエルに対する国際的批判の高まりのなかで、アメリカも従来のようなイスラエル支持を続けることは困難にはなっていますが、中間選挙を控えたオバマ政権にイスラエルによるガザ支援船攻撃を批判する余裕はなく、アメリカのイスラエル支持は大きくは変わらないないようです。

****それでもアメリカはイスラエルの言いなり****
・・・・しかしアメリカに関して言えば、今回の事件によってパレスチナ紛争をめぐる外交姿勢が変わることなど期待できない。今のアメリカの政治情勢、特に今秋に中間選挙を控えていることを考えればありえない話だ。
・・・・イスラエルを批判する左派の人々は民主党の方針転換を望んでいるが、時期が悪い。11月の中間選挙で民主党は上下両院で敗北する可能性がある。まともな選挙参謀だったら、有権者の注目度が高い金融改革や失業対策など「共和党に勝てる」政策課題に集中するよう忠告するだろう。
パレスチナを実効支配するイスラム過激派組織ハマスに味方して、中東で唯一の民主主義国家イスラエルと敵対する。そんな行動を民主党が取るだろうか? それでは、共和党に格好の攻撃材料を与えるだけだ。
共和党に比べて内政問題に強い民主党のこと、中間選挙の年に外交政策の議論などしたくないはずだ。・・・・さらに民主党の有力議員、ニューヨーク州やカリフォルニア州の有力献金元の多くはいわずと知れたイスラエル支持者だ。
今回の事件をめぐるメディアの報道にも、アメリカの親イスラエル政策に反対するような論調はない。議会におけるイスラエル支持は党派を越えており、「共和党対民主党」というお決まりの対立構造は成立しない。
アメリカで活動する親イスラエルのロビー団体は、イスラエルの人権侵害など黙殺している(むしろイスラエル国内の人権団体の方が批判的だ)。これに対抗できるような親パレスチナのロビー団体はないため、世論形成につながるような反イスラエルの意見はどこからも聞こえてこない。・・・・【6月2日 Newsweek】 
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【イスラエル国内の批判】
イスラエル・ネタニヤフ首相は強気の姿勢を崩しておらず、潘基文国連事務総長から提案された国際調査委員会の設置を拒否し、イスラエル独自の調査委の設置を検討していいます。
“潘事務総長が提案した国際調査委は、海洋法の専門家であるニュージーランドのパーマー元首相を委員長とし、イスラエル、トルコ、米国の各代表で構成するもの。ネタニヤフ首相はこの提案を拒否し、「イスラエルと軍の権益を保護しつつ、調査について慎重に検討したい」と述べた。”【6月7日 毎日】
“イスラエルと軍の権益を保護しつつ”と言われれば、調査する意味もほとんどないでしょう。

ただ、イスラエル国内でも、ガザ封鎖への国際批判まで高めてしまう“失態”を演じたことへの政府批判、ガザ経済封鎖の有効性への疑問が出てきていることは、以前のブログでも紹介したところです。

****イスラエル軍、ガザ支援船団を急襲 疑われる統治能力 政権の危機*****
・・・・国連安全保障理事会が事件を非難する議長声明を全会一致で採択したほか、国内からも政権の統治能力に懐疑的な見方が出ており、今回の事件が同政権の命運を左右しかねない情勢となっている。
・・・・今回の事件は、多数の死傷者が出たことで、イスラエル国内でも衝撃をもって受け止められた。同国政府は国際的な孤立に直面して、国民の団結を訴えようとしたが、国内メディアはネタニヤフ政権の最近の失敗を指摘し、批判を強めている。イスラム友好国、トルコとの関係が史上最低の水準まで悪化していること、ガザ封鎖は地下トンネルを通じて物資が搬入されており有効に機能していないこと、友好国のフランスやイタリアの支持を失ったことなどだ。
国連安全保障理事会は1日、議長声明で潘基文(バン・キムン)事務総長に対し、事件の「公正で信頼性と透明性のある調査」を要請。イスラエル軍も2日、調査を開始した。イスラエル国内からも、引退した判事を議長とする独立調査委員会の設置を求める声が上がっている。

ネタニヤフ政権を追い打ちするように、同国の対外特務機関モサドのダガン長官は1日、一院制議会クネセトに報告書を提出し、イスラエルは米国から、「友好国というよりも米国の国益の障害と受け止められている」と指摘。イスラエルの行動は、米国がパレスチナとイスラエルを仲介する間接和平交渉の妨げになっているとの認識だ。
イスラエル国内で政権への批判が大きな力を持つまでには数カ月がかかり、ヨルダン川西岸への入植停止の期限が切れる9月末が山場となるだろう。それまでに情勢がいくらか変化する可能性はあるものの、国内論争がどこまで過熱するかが、政権の寿命を決めるとみられる。(6月5日 オックスフォード・アナリティカ)
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中国経済  賃金上昇と購買力拡大 他国技術パクリ問題

2010-06-07 22:06:47 | 世相

(「iPad」に「Apad」「iRobot」 “flickr”より By cvander http://www.flickr.com/photos/cvander/4653202262/)

【「中国のホンダ事件が日本への警鐘に」】
中国広東省のホンダの変速機工場におけるストライキは、5月31日には会社側を支持する政府系労働組合員とストに参加する従業員合わせて数百人が乱闘になり、7、8人の従業員が負傷する混乱もありましたが、6月4日、ようやく終結しました。

****ホンダ:中国工場、ストライキ終結*****
ホンダは4日、中国広東省仏山市の変速機工場で発生した労働争議が終結したと発表した。5月末に提示した24%の賃上げで合意した。この結果、5日以降、変速機工場と中国内の完成車4工場はすべて通常稼働に戻る。変速機工場では5月17日にストライキが発生。変速機供給が止まったことで、完成車工場も約2週間操業停止した。【6月5日 毎日】
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中国ではこのところ、河南省平頂山市にある国有企業の繊維メーカーの工場で賃上げ要求のストが起き、従業員ら約1万人が工場を封鎖したり、広東省の台湾系携帯電話機メーカーで従業員の自殺が相次いだり、労務管理に絡む大きなトラブルが頻発しています。

今回のホンダにおける労働争議は、“中国の低労働コスト時代が終わりに近づいている”ことを示しているとの指摘があります。
また、一方で、そのことは“中国人の給料や生活水準の上昇につながり、日本の輸出企業だけでなく、現地で生産・販売する日本企業にとってもプラスとなる”との指摘もあります。

****ホンダ中国工場のストライキ、日本企業への警鐘に―米紙****
2010年6月1日、米紙ニューヨーク・タイムズは「中国のホンダ事件が日本への警鐘に」と題した記事を掲載し、中国で発生したホンダ部品工場のストライキが、安価な労働力を求めて中国へ進出している日本企業にとって中国との関係を再考する機会となっていると指摘した。4日付で環球時報が伝えた。

中国経済に詳しい東京大学の教授は「日本は中国の低労働コスト時代が終わりに近づいていることに気付き始めた。コスト削減のために中国に目を向けていた企業は方向転換する必要がある」と指摘する。しかし一方で、労働コストの上昇は生産コストに影響するものの、中国人の給料や生活水準の上昇につながり、日本の輸出企業だけでなく、現地で生産・販売する日本企業にとってもプラスとなる。(中略)

今回のストライキの原因は、給料の低さだけでなく、日本人社員との給料格差にもあり、日本人の給料は中国人の50倍にも達しているとされた。専門家は「日本企業は中国での雇用形式を変更する必要に迫られている。中国人労働者に日本人と同等の給料、福利厚生、昇格の機会を与える必要がある」と指摘している。【6月5日 Record China】
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上記記事でも指摘されているように、単に賃金水準の問題だけでなく、不公平感も絡んでいるようです。
“中国人民大学労働人事学院の楊立雄教授は、中国国内に展開する外資系企業で中国人の昇進機会が限られている点を指摘する。「ホンダ工場の場合、経営陣の大半は日本人。現地の中国人が昇進するのは非常に難しい上、月給も低く、労働条件も良くはない」
また、長きにわたる日中両国の対立の歴史を背景とした中国人従業員の日本人従業員に対する反感もある。今回のストでホンダの中国人従業員たちは、同じ工場で働く日本人の賃金は50倍だと訴えた。水野氏によると、中国人労働者の間には雇用側の日本企業に差別されているという気持ちが強く、「このほうがもっと感情的かつ根本的な問題で、政治的問題に発展する懸念もある」という。”【6月4日 AFP】

賃金上昇に伴う中国市場の購買力拡大についても、同様指摘があります。
“岡三証券の藤木宏和投資戦略部主任は、日本は価格面ではすでに周辺のライバル国に勝ち目はなく、競争できるのは高級品市場の需要に応える職人的な技術力の高さだと強調。ゆえに日本企業がターゲットとすべき層は、中間層から富裕層の消費者だと話している。”【同上】
長期的視点でみるなら、中国市場の購買力拡大、高級品需要の高まりは日本にとって大きなプラスとなるのではないでしょうか。

【技術革新のために求められる知的財産権保護】
中国経済に関しては、上記の賃金水準上昇の話のほか、他国技術の模倣・・・端的に言えば“パクリ”の問題が「iPad」絡みで話題になっています。
****自業自得?パクリが中国の技術革新を妨げる―独メディア****
2010年6月1日、ドイツの放送局ドイチェ・ヴェレによると、アップルのタブレット型コンピュータ「iPad」の発売から2か月も経たないうちに、その「パクリ版」が中国市場にお目見えしたという。4日付で環球時報が伝えた。
記事によると、その名は「iPed」。深セン市内の電子機器市場で他のコピー商品と並んで販売されている。その小売価格は700元(約9500円)、本物のiPadのエントリーモデルは499ドル(約4万5700円)だから、単純計算しても5分の1だ。

多くの外国人にとって、中国のコピー商品はもう珍しくも何ともない。コピー商品開発は中国の数十年の経済成長とともにあり、常にさらされる諸外国の批判をものともせず、中国はその「パクリ」技術を年々進歩させているという。
米シンクタンク・ヘリテージ財団の中国経済問題専門家、デレック・スィザーズ博士は、「(中国の技術盗用には)大企業もなす術がない。10年前なら中国に知的財産権を盗まれるのがいやなら中国でのビジネスを諦めろと助言したが、もう中国が全世界でビジネスを展開している」と話す。
記事は、現在の中国には他国技術の模倣から始めたかつての日本や韓国との共通点があるとしながら、その最大の相違点は、模倣商品製造技術が独り歩きしていることだと指摘した。本来なら技術の進歩はイノベーションを生み出していくものだが、模倣による利益が独自開発の利益を上回るとき、イノベーションが妨げられるとスィザーズ博士は考える。
同博士は言う。「知的財産権が保護され得ないなら、政府が進めようとしている技術革新は永遠に実現しないだろう。他人の技術を盗んでたやすく金儲けができても、自分が開発した技術が盗まれると分かっているなら、誰もそんな開発をしようとはしない。」【6月5日 Record China】
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もっとも、「iPad」のパクリ商品については、同じRecord China の別記事で、“予想に反してあまり売れていない”との指摘もあります。
“外観だけ似せた粗悪品を買うよりは、少々値段が張っても確かな性能の正規品を買った方が良いと考える層が増えているからだという”【6月5日 Record China】

中国企業にとっても、低賃金に依存した低価格商品の輸出に依存した形から、独自技術の開発に基づくイノベーションへ、経済構造の変革が求められる時代にそろそろさしかかってきたようです。

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ハンガリー財政危機表面化  欧州経済危機にアメリカの“安堵”と“優越感”

2010-06-06 12:37:36 | 国際情勢

(日本の財政破綻も「Ifの問題ではなくWhenの問題」とも言われていますが、菅首相はどのように道筋をつける考えなのか・・・ “flickr”より By Ben Heine http://www.flickr.com/photos/benheine/3041594660/)

【「ギリシャ危機」の二の舞い】
かねてより、ギリシャ財政危機がスペイン・ポルトガルなど“PIIGs”と称される同様の問題を抱える国へ飛び火することが懸念されていましたが、4日、ハンガリーの財政赤字が拡大する可能性が高まり、週明けにも新たな財政再建策を公表する見通しになったことが報じられ、欧米の金融市場ではギリシャに端を発した欧州の財政危機が東欧に飛び火することへの懸念が広がっています。

ハンガリーの経済危機は今に始まった話ではなく、すでに2008年10月段階で、IMF、EU、世界銀行が計200億ユーロ(約2兆5000億円)の金融支援を実施すると発表するなど、IMF支援のもとで財政再建に取り組んできたはずですが、うまく進んでいなかったようです。

****ハンガリー:「ギリシャ危機」二の舞い懸念 財政赤字粉飾****
4月に8年ぶりに政権交代したばかりのハンガリーのオルバン新政権は4日、財政赤字が大幅に拡大する可能性が高いことを明らかにした。新政権は、社会党前政権が「粉飾」していたとの見方を示しており、政権交代に伴う赤字隠しの発覚が引き金となった「ギリシャ危機」の二の舞いとなる、との懸念が強まっている。これを受け、4日のニューヨーク外国為替市場ではユーロが独歩安の展開となった。

ロイター通信などによると、与党フィデス・ハンガリー市民同盟の幹部が3日、財政状況が予想より悪く、ギリシャ危機がハンガリーで起こる危険があると発言。オルバン首相の報道官は4日、社会党前政権時代に財政赤字のデータが改ざんされたと指摘。「ギリシャでも経済データが改ざんされ、(債務不履行の危機の)正念場がきた。ハンガリーはその手前だ」と危機感をあらわにした。
オルバン政権は、今年の財政赤字について、国際通貨基金(IMF)との合意目標の対国内総生産(GDP)比3.8%を上回る可能性があるとしていた。銀行や専門家の間は4.5~5%と見ているが、今回の報道官の発言を受け、7.5%と大幅に拡大するとの見方も浮上し、市場に動揺が広がっている。
AFP通信によると、IMFは、週明けにも同国へ高官を送り、善後策について協議する。これに伴い、政府は正確な財政状況と財政再建策を公表するとみられる。【6月5日 毎日】
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ハンガリーの政権交代に伴う、国外在住のハンガリー系住民にハンガリー国籍を付与する法案が起こしてしている波紋、また、国内少数民族ロマへの迫害・差別の問題などについては、5月28日ブログ「ハンガリー 在外ハンガリー系住民への国籍付与」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100528)で取り上げたところですが、こうした民族主義的な国内政治情勢の背後には、今回あきらかになった経済的な問題があるようです。

【ユーロ下落、ニューヨーク株価も】
ハンガリー財政危機表面化が原因のひとつとなって、ニューヨーク外国為替市場ではユーロが対ドルで下落し、4年超ぶりに1.20ドルを割り込みました。ニューヨク市場の株価も3%超下落。欧州の債務危機拡大をめぐる懸念が広がっています。

****NY株:急落323ドル安*****
4日のニューヨーク市場は、欧州の新たな財政不安の表面化や、米景気の先行きへの懸念が強まったことなどを受けて、大荒れの展開となり、株式市場ではダウ工業株30種平均が急落、前日終値比323.31ドル安の9931.97ドルと1万ドルの大台を割り込み、2月8日以来、約4カ月ぶりの安値で取引を終えた。ダウ平均の下げ幅は今年3番目の大きさだった。
外国為替市場では、欧州で新たにハンガリーの財政不安が表面化し、東欧諸国に信用不安が広がるとの懸念が生じたことに加えて、フィヨン仏首相がユーロ安を容認したと受け止められる発言をしたことなどを受けて、ユーロが主要通貨に対して、独歩安の展開となった。ユーロ・ドル相場は一時、1ユーロ=1.1955ドルと、06年3月中旬以来、約4年3カ月ぶりのユーロ安水準をつけた。(後略)【6月5日 毎日】
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【米:懸念と安堵と優越感が交錯】
欧州の財政危機は、当然ながら日米を含む世界経済全体を揺るがす事態に発展します。ニューヨクの株式・為替市場の反応は至極当然の反応ですが、一方で、アメリカ国内には欧州経済の危機について、基軸通貨としてドルの地位が当面維持されることについての“安堵”、アメリカ保守派にとっては「社会主義的」な高福祉政策破綻と評価される事態への“優越感”・・・そうした感情もあるとか。

****ギリシャ財政危機 懸念・安堵・優越感、錯綜する米*****
ギリシャの財政危機に始まるヨーロッパの動揺への米国の反応がおもしろい。懸念と安堵(あんど)と優越感が交差する、なんとも複雑な態度なのだ。米欧の結びつきをみれば、ギリシャの危機が米国に危険な余波を及ぼす可能性は当然だろう。
なにしろ米国の銀行の欧州への融資は総額1兆5千億ドルにのぼる。米国の輸出全体の4分の1は対欧州である。欧州の財政が崩れれば、米国にも直接の被害が生じる。
米国が国際通貨基金(IMF)のギリシャへの巨額の救済融資に賛成したのも、その懸念からだろう。ガイトナー米財務長官がロンドンを訪れ、ギリシャ危機対処への国際協調をイギリス側と話しあったことも同様だといえる。

しかしその一方、米国側では微妙な安堵感もうかがわれる。ユーロはやはりドルにはかなわない、という再認識もその一端だろう。「ギリシャ危機の最も顕著な影響は基軸通貨としてのドルの役割を今後の一世代もの期間、確定したことだろう」(ファリード・ザカリア・ニューズウィーク誌国際版編集長)という受けとめ方だ。
ユーロの下で団結するはずの欧州連合(EU)のギリシャ危機への対処は鈍く、乱れた。ユーロの構造的な欠陥や信頼性の不足が露呈されたというのだ。米国のその認識の背後では、国家が主権の一部を譲りあうというEUの概念への日ごろの落ち着かない思いが、今回のEU側の無能ぶりに「ほら、みたことか」というほっとした感じに転じたともいえる。

米国の反応でさらに大きいのは、今回のギリシャ危機を戦後の長い年月の西欧の社会主義的「大きな政府」政策の破綻(はたん)として位置づける見方だろう。「ギリシャの失態はケインズ主義的過剰政府支出の終わりを告げている」(米紙ウォールストリート・ジャーナル社説)という見解である。その背後にも米国本来の民間主体の資本主義システムがより優れていることが証明されたのだという優越感ふうの示唆がある。
確かにギリシャの財政崩壊の土壌には公務員や一般労働者の賃金、休暇、年金の超優遇という高福祉政策が存在した。国民の生活の豊かさを政府支出で支える「巨大な政府」策がふんだんに実行されてきた。だから米側では「ギリシャの指導者はケインズ的助言を排除して政府支出を大削減したイギリスのサッチャー首相の実例に従うべきだ」(経済学者のアラン・メルツァー氏)として、今こそ民営化の促進を、と奨励する。
米国ではさらにギリシャ危機が西欧全体の高福祉国家政策の終わりの始まりとみる向きが多い。米紙ニューヨーク・タイムズはパリ発で「財政危機が欧州の生活スタイルの福祉受益を脅かす」という長文の記事を載せた。西欧諸国が国民の高齢化や経済の停滞で巨額の政府支出が困難となったが、その破綻の先頭がギリシャだというのだ。ウォールストリート・ジャーナルのダニエル・ヘニンガー記者は「私たちは『非欧州党』」という題のコラムで「米国民は躍動する将来を望むならば、欧州の社会主義的経済志向を排すべきだ」と主張した。

米国の欧州への錯綜(さくそう)した姿勢はオバマ大統領にとってはさらに屈折した意味を持つ。大統領の医療保険改革のようなリベラル政策は「欧州の社会主義志向に近い」と評されてきたからだ。その点では大統領が苦労して成立させた医療保険改革法を破棄すべきだという米国民が全体の60%にも達したという5月末の世論調査結果は、偶然ではないのだろう。(ワシントン 古森義久)【6月6日 産経】
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“「福祉国家」=社会主義”というアメリカ的認識に賛同はしませんが、日本にとっても、群を抜く債務状況のもとで年金・福祉政策をいかに維持、あるいは再構築するかという議論が緊急の課題です。

アメリカのついでに、ユーロ危機へのイランの反応。
****イラン:ドル買いへ 嫌米でもユーロ安には勝てず****
イラン国営放送は2日、イラン中央銀行が保有する外貨準備のうち450億ユーロ(約5兆900億円)を売却し、代わりに米ドルや金を購入すると伝えた。核開発問題を巡り対米関係が悪化する中、イランは近年「ドル離れ」を急速に進めてきた。だが、ギリシャの財政危機を機に、5月の1カ月だけでユーロが対ドルで7%以上下落したことなどを受け、ドル購入を余儀なくされた形だ。(後略)【6月3日 毎日】
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アフマディネジャド大統領はこれまでドルからユーロなどへの転換を進め、07年11月の石油輸出国機構(OPEC)首脳会議後に「米ドルは全く価値のない紙切れだ」と発言したこともあります。

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天安門事件から21年  中国の評価は変わらず 進む胡輝邦再評価 香港・台湾では

2010-06-05 13:34:56 | 国際情勢

(香港では4日夜、民主派団体主催の集会が開かれ、10万人を超える参加者たちがろうそくを手に、事件で犠牲になった若者たちを追悼しました。“flickr”より By judithbluepool http://www.flickr.com/photos/74399150@N00/4669534348/)

【「すでに明確な結論を出している」】
中国で民主化運動が武力鎮圧された天安門事件から4日で21年が過ぎました。
個人的には、それまでの仕事を辞め、新たな生活に乗り出そうとしていた時期に起きた事件であり、「21年か・・・」との思いもあります。

昨年は20周年ということで、また、前年末には中国共産党の一党独裁体制の変更を求めた「08憲章」が発表されたことなどもあって、ピリピリした雰囲気もありましたが、今年は昨年ほどではなかったようです。
天安門事件に対する「動乱」という中国当局の評価は相変わらずです。
また、国内では教育の場でも触れられることはなく、風化が進んでいます。

****中国:天安門事件から21年 評価変えず****
中国外務省の姜瑜副報道局長は3日の定例会見で、民主化を求める学生らを武力鎮圧した天安門事件(89年)について「(共産党・政府が)すでに明確な結論を出している」と述べ、評価を変えていないことを明らかにした。
4日で事件から21年。犠牲者の遺族らは学生らの行動を「愛国運動」として再評価するよう求めているが、姜副局長は「中国の発展ぶりをみれば、(武力鎮圧が)中国の国情と最も幅広い国民の根本利益に合致していたことが分かる」と主張した。【6月3日 毎日】
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また、“中国当局は、北京中心部の天安門広場の周辺に私服警官や、治安維持のための市民の「ボランティア」を数多く配置し抗議行動や追悼活動を封じ込めた。外国メディアの一部記者は、安全検査で広場への入場を拒否された。”【6月4日 読売】とのこと。

「市民ボランティア」については、
“4日の天安門広場。中国全土から訪れた観光客でにぎわう光景はいつもと変わらなかった。警備は通常より強化されていたとはいえ、発生から20年の節目となった昨年に比べれば警察車両の台数も少なく、警戒態勢は一見、緩和されたようにも映る。
広場付近の歩道では、椅子に座って雑談する多くの市民の姿がみられた。しかし、地面に置かれているミネラルウオーターはみな同じ銘柄で、制服警官の話に耳を傾ける一団もいた。不穏な動きに目を光らせる市民ボランティアだという。”【6月5日 産経】とあります。

【数十人の警官が監視する中で花を】
活動家や遺族への監視も相変わらずです。
****活動家らへの監視強化=天安門事件21年で中国当局****
中国で民主化運動が武力鎮圧された1989年の天安門事件から21年を迎えた4日、中国当局は天安門広場周辺で警戒態勢を敷くとともに、民主活動家らへの監視を強化して抗議活動を封じ込めた。
同事件で家族を失った人たちの一部は3日夜から4日にかけ、警察の厳重な監視の下で、現場での追悼や墓参が認められたが、メディアの取材は排除された。
中国人権民主化運動情報センター(本部香港)によると、元学生リーダーとして同事件で投獄された広東省深セン市の馬少方氏や河南省安陽市の郭海峰氏は3日夜、メディアの電話取材を受けていた最中に通信が遮断され、連絡が取れない状態になった。当局は元リーダーらが香港での追悼行事に参加するのを警戒して監視を強化しているという。【6月4日 時事】
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遺族に関しては、“3日深夜、遺族団体「天安門の母」の発起人の一人、丁子霖さん(73)が、高校生だった息子・蒋捷連さん(当時17歳)が戒厳部隊に射殺された現場を訪れ、数十人の警官が監視する中で花をささげた。他の遺族らは当局から外出を許されなかった。”【6月5日 朝日】とのことです。

【胡耀邦氏を慕う胡錦濤主席】
事件そのものではないですが、その死去が事件の発端となった胡耀邦元総書記については、同氏を慕う胡錦濤国家主席のもとで、再評価が進んでいるようです。
ただ、事件で失脚した趙紫陽元総書記については、厳しい評価は変わっていません。

****進む胡耀邦氏 再評価 趙紫陽氏に厳しい声*****
1989年の天安門事件から4日で21周年を迎える。その死去が学生デモのきっかけとなった故・胡耀邦元総書記については、胡錦濤政権下で再評価の動きが急速に進む。ただ、学生に同情的な姿勢を示して失脚した故・趙紫湯元総書記の再評価の動きはない。事件を「動乱」とする中国共産党の位置づけも変わらない。

5月上旬、胡耀邦氏と一緒に失脚した側近の朱厚沢・元党宣伝部長(79)が死去した。
中国筋は、その葬儀に習近平国家副主席がひそかに花輪を送ったと明かす。
胡耀邦氏は80年代に総書記として改革・開放を急速に推し進めたが、民主化を求める動きに理解を示して批判され、失脚した。

事件後に総書記に就任した江沢民前総書記は胡耀邦氏の再評価に慎重だった。自らに権威をもたらした事件の再評価につながることを警戒したためとされる。
だが、胡耀邦氏と同じく党幹部養成機関である共産主義青年団(共青団)出身の胡錦濤氏が2002年に総書記に就任し、状況が変わった。
05年の胡輝邦氏の生誕90周年には式典が開かれ、当時の曽慶紅国家副主席が一定の評価を表明。昨年9月には、同じく共育団出身の李克強副首相が墓参りをしたことが明らかにされた。
さらに注目を集めたのは今年4月、温家宝首相が追悼の又章を党機関紙の人民日報に載せたことだ。
事情に詳しい別の中国筋は、いずれの再評価の動きにも胡錦濤氏が表面に出てこないと指摘する。
温首相の文章は、胡輝邦氏の貴州省視察に同行した話が中心だったが、このとき同省トップでホスト役だった胡錦濤氏の名前は出てこない。この視察は、当時、地方勤務で実力を試された胡錦濤氏を、明輝邦氏が「励ます旅」だったと言われているのにもかかわらずだ。
「胡錦濤氏が胡耀邦氏を慕っているのは明らかだ。しかし、自らが再評価の動きに踏み込むことはしない。これはまだ極めて敏感な問題だからだ」と同筋は語る。

一方、趙氏に対しては再評価の動きは一向に見えない。生前の肉声を収めたテープを元にしたとする回顧録が昨
年、香港で出版されたが、中国内では禁書とされた。保守派だった老党員は「死んでも趙氏を許せない」と語る。 ほかの指導者の胡耀邦氏に対する一連の動きはいずれも、胡錦濤氏に近いことを示す政治的な狙いだとの見方さえある。
北京の外交筋は「胡耀邦氏の再評価は、あくまで胡錦濤氏の権力の正当化につながる動きに過ぎず、事件自体の再評価は難しいということではないか」とみる。
中国外務省の姜瑜副報道局長は3日の定例会見で事件について「とっくに明確な結論が出ている」と述べ、評価秤変化がないことを確認した。【6月4日 朝日】
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“ひそかに花輪を送った”ことが、関係筋から明かされる・・・いつもながら、中国指導部の力関係というのは微妙なものがあります。

【中国、香港民主派へ接近か?】
香港では4日夜、民主派団体主催の追悼集会が開かれ、10万人を超える参加者たちがろうそくをともし、事件で犠牲になった若者たちを悼んだとのことです。【6月5日 朝日】
なお、香港では直接選挙早期実施を求める民主派議員による辞職・補欠選挙の作戦は失敗に近い不発に終わったことは以前も取り上げましたが、中国側からのアプローチもあるようです。

****天安門事件後初の公式会談=香港民主派と中国当局****
香港民主派最大の政党・民主党の何俊仁主席ら幹部3人は24日、当地で中国政府の出先機関である連絡弁公室の李剛副主任(次官級)と公式に会談し、香港の選挙制度改革について話し合った。
香港民主派が全面支援した本土の民主化運動が武力弾圧された天安門事件(1989年)で同派と中国当局が決定的に対立して以来、両者の公式接触は初めて。
中国はこれまで、本土の社会主義体制に批判的な香港民主派全体を敵視してきた。しかし、香港政府が進める立法会(議会)と行政長官の選挙制度改革を後押しするため、民主党などの穏健民主派に接近する方針に転換しとみられる。【5月24日 時事】
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中台関係の強化を進める台湾・馬英九総統は「人権について新たに熟慮するよう希望する」との声明を発表しています。
****台湾:中国に「人権熟慮を」 天安門事件から21年で****
89年の天安門事件から21年の4日、台湾の馬英九総統は、中国政府に対して「人権について新たに熟慮するよう希望する」という声明を発表し、「普遍的価値の体現」を呼びかけた。
馬総統はかつて天安門事件での武力鎮圧を批判してきたが、08年5月の就任後は、事件に触れる際にも中国の人権状況の進展を評価するなど配慮を見せていた。【6月5日 毎日】
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“新たに”という文言に、「これまでも人権については一定の配慮がなされてきたところであるが・・・」との意味が込められているのでしょうか。

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コロンビア大統領選挙  世論調査で急浮上したモックス元ボゴタ市長、投票では支持伸びず

2010-06-04 23:02:26 | 国際情勢

(コロンビア大統領選挙に急浮上した「変わり者」モックス元ボゴタ市長でしたが・・・・ “flickr”より By visionshare
http://www.flickr.com/photos/visionshare/4647705975/)

【ウリベ大統領 再々選は断たれる】
左派・反米政権(その程度は様々ですが)一色に染まる南米にあって、今年1月にチリで中道右派野党連合のピニェラ氏が大統領選挙に勝利するまで、唯一の右派・親米政権であったコロンビア・ウリベ政権の後任を決める大統領選挙が行われています。

2002年に就任したウリベ大統領は、コカインの生産拠点であり、コロンビア革命軍などの左翼ゲリラ、右翼民兵、麻薬組織による内戦に明け暮れていたコロンビアにあって、徹底した軍事的強硬策でこれに臨み、一定の治安回復を実現、国民からは高い支持を得ていました。
ただ、右派準軍事組織への対応や人権問題などで、ウリベ大統領の姿勢を批判する向きもあります。

この間、隣国ベネズエラの左派・反米チャベス大統領とは、左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」との仲介役を務めていたチャベス大統領をコロンビア政府が「解任」した事件、エクアドル領内にあったFARC拠点へのコロンビア軍の越境攻撃などで、国交断絶を含む様々のトラブルもありました。

もともとコロンビア憲法では大統領の再選は禁止されていましたが、高い国民の支持(05年当時の支持率は約70%)を背景に、2005年10月、コロンビア憲法裁判所は、現職の大統領が選挙に出ることを許す憲法修正条項を承認しました。これにより再選が可能となり、ウリベ大統領は06年5月の大統領選挙に勝利し2期目を務めています。

更に再々選を求める下院は、大統領再々選を可能とするための憲法改正のための国民投票法案を昨年9月に承認しましたが、さすがにコロンビア憲法裁判所は、2月26日、この憲法改正国民投票法について、7対2で「違憲」という判断を下しました。これにより、ウリベ大統領の再々選はなくなり、後任大統領選びがスタートしました。

【波乱も予感させた世論調査】
大統領選挙は、ウリベ大統領の後継候補であるサントス前国防相を軸とした展開となりましたが、3月頃はほとんど名前も挙がっていなかったボゴタ大学元学長、哲学者、数学者のモックス元ボゴタ市長(緑の党)が終盤急浮上して、選挙直前の世論調査では本命サントス候補に並ぶほどになりました。

5月19日、インバメル・ギャラップ・コロンビア社の調査結果が発表されましたが、これによると、サントス候補37.5%、モックス候補35.4%、となっていました。いずれの候補も51%以上を取れなかった場合の、6月20日の決選投票ではモックス候補48.5%、サントス候補43.0%とも。
他の調査も、第1回投票でサントス候補にモックス候補が肉薄し、決選投票では逆にモックス候補が優勢という結果が示されており、緑の党・モックス候補の大統領への可能性がにわかに高まっていました。

【脱“既成政治家”】
二期にわたりボゴタ市長として人気を博したモックス候補は数学者、哲学者、ボゴタ国立大学の元学長で、リトアニア系移民の子どもで派手好きの変わり者として知られています。
以前、NHKの番組でも取り上げていましたが、学生集会では注意を引くために尻を丸出しにして見せたこともある人物です。

モックス氏は、高級住宅街とスラム街が隣り合わせ、暴力と犯罪が横行する世界一危険な都市と言われたボゴタの市長選挙のときも、無党派候補として選挙戦終盤で彗星のごとく現れ、一気に人気を高め当選しました。
市長当時は市役所や警察官などで汚職をした人たちを追放し、道路にピエロの恰好をした人たちを送り、パントマイムで、マナーを守った人には白いカードを、守らなかった人にはレッドカードを渡すといった意表を突く方法でマナー・モラル向上を呼び掛けるなどの施策を実行しました。

“力”で治安維持にあたる現職大統領後継のサントス前国防相(ウリベ大統領以上にタカ派とも)と、数学者・哲学者で既成の政治家の概念を打破するモックス元ボゴタ市長(パーキンソン病の初期段階にあるとも)・・・という異色の対決が注目を集めましたが、結果は・・・。

【支持されたウリベ路線】
****コロンビア大統領選、与党の前国防相が首位 決選投票へ *****
任期満了に伴う南米コロンビアの大統領選挙が、30日投開票された。選挙管理当局の開票率約99%時点での集計によると、与党で中道右派、全国統一社会党のサントス前国防相(58)が得票率約47%で首位に立った。ただ当選に必要な過半数には届かず、2位についた緑の党、モックス元ボゴタ市長(58)との間で決選投票が実施される見通し。
モックス候補は小政党の候補ながら、選挙終盤で急速に支持を拡大した。ただ得票率は約21%にとどまっており、6月20日の決選投票での逆転は難しい情勢だ。

コロンビアは2002年に就任した現ウリベ大統領が、強硬な対左翼ゲリラ対策を実施。治安の改善や経済の安定を背景に高い支持率を保っている。サントス候補は憲法の再選禁止規定で立候補できないウリベ大統領に代わり立候補。路線継承や雇用創出を訴えた。
モックス候補は治安や経済政策で現政権の路線踏襲を表明した一方、汚職撲滅などを主張。既存政党に不満を持つ若者や無党派層を取り込んだが、最終的には支持基盤の都市部でも得票が伸び悩んだ。選挙には9人が立候補した。【5月31日 日経】
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第1回投票の結果は、直前世論調査とは異なり、与党の現職後継候補サントス前国防相がダブルスコアでリードし、決選投票での勝利に近づいています。
世論調査は地方部を十分にカバーしておらず、地方部は治安対策の恩恵を最も受けた地域で、左翼ゲリラ「コロンビア革命軍」弱体化に貢献したサントス前国防相の支持者が多い・・・との指摘【6月9日号 Newsweek日本版】もあります。

実際の投票にあたっては、「変革」への期待より、現実的な安定性を国民が選択した・・・ということでしょうか。

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アフガニスタン  タリバン攻撃下でピース・ジルガ(国民和平大会議)

2010-06-03 22:37:55 | 国際情勢

(ピース・ジルガには女性も大勢参加しているようです。この点はタリバン政権との明確な差異でしょう。“flickr”より By United Nations Assistance Mission in Afghanistan http://www.flickr.com/photos/unama/4662638609/)

【「会議の成果は期待できない」】
アフガニスタンの各勢力が国の安定について話し合うピース・ジルガ(国民和平大会議)が2日から3日間の予定で開催されています。
ジルガは、カルザイ大統領の訪米・オバマ大統領との会談がセットされたことで、当初の5月2日から29日へ延期されましたが、更に、タリバンによる会議を狙ったテロ攻撃への懸念もあって、再度今月2日に延期されていました。

タリバンは「米軍撤退まで政府とは交渉しない」と明言して会議にも参加せず、ジルガを間に軍事攻勢をかけています。5月18日にカブールで米軍車列を狙った大規模自爆テロを起こし、19日にはカブール北部のバグラム米空軍基地をロケット砲で攻撃し、22日には南部カンダハルの北大西洋条約機構(NATO)軍基地も襲撃しています。

アメリカが来年7月から撤退を開始することを発表していますので、今回ジルガにおける各勢力の「国民和解」が本来は注目されるべきところですが、“今夏にも予定されている米軍増派で、米軍とタリバンとの戦闘が激化するのは確実で、ジルガ関係者からも「会議の成果は期待できない」と失望感が漏れている。”【5月24日 毎日】とも報じられています。

ジルガには国内各地の有力者ら約1600人が参加、「タリバンとの対話をどう実現するか」が主要議題となるとされています。
07年に初開催されたピース・ジルガは、当時のブッシュ米大統領が「アフガンとパキスタンの関係改善が和平の基礎」と提唱し、パキスタン側からも多数参加しました。しかし、オバマ米政権のジルガへの関心は低く、2回目の今回はパキスタンからの参加者も2人にとどまっています。【6月1日 毎日より】

会議は、自爆攻撃の爆音が会場にも届くような状況で行われました。
****アフガニスタン:国民和平大会議が開幕…付近で交戦、自爆*****
アフガニスタンの首都カブールで2日、和平を話し合うピースジルガ(国民和平大会議)が3日間の日程で開幕した。しかし、開会式でカルザイ大統領が演説中、約1.5キロ離れた市街地で旧支配勢力タリバンの戦闘員と治安部隊が交戦、一部が自爆した。爆発音は会場にも響き、会議が2時間にわたって中断されるなど、波乱の幕開けとなった。
ジルガ事務局によると、最初の爆発はカルザイ氏が「タリバンとの対話方法を探り、アフガン人の手で平和を築こう」と訴えた直後に起きた。
会議は日程通り進められるが、昨年8月の大統領選でカルザイ氏と激しく対立したタジク人勢力のアブドラ元外相は出席を拒否。ウズベク人やハザラ人の旧軍閥勢力トップも「病欠」するなど、カルザイ政権が目指す「民族融和」にはほど遠い参加状況となった。【6月2日 毎日】
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大テントで開催される会議は、治安要員1万2000人が警戒にあたっているとか。
カルザイ大統領は開幕演説で「タリバンは今も人を殺し、爆弾を仕掛け続けている」と述べ、和平が容易でないことを認めた上で、「アフガンはわれわれの祖国だが、タリバンの祖国でもある」として、タリバン側に武器を置くよう呼び掛けました。
“カルザイ大統領は予定通りに演説を終えた後、普段から使っている装甲車で会場を後にした”【6月2日 AFP】そうです。

【世代交代進むタリバン 交渉は困難】
前線で戦うタリバン兵の80%が10代後半から20代前半の若者で、司令官の半数が30歳以下というように、タリバンは世代交代が進み、旧政権時代のタリバンとは気質もずいぶん変化しているとの指摘があります。【5月26日号 Newsweek】
それによれば、こうした若いタリバン兵士は、短気・衝動的で規律への配慮が欠け、オマル師以外のタリバン指導層への敬意が薄く、伝統的な部族の権威もあまり重んじていないとか。平和には全く興味がなく、“彼らにとって重要なのは、政権内部に食い込むことでも、純粋なタリバン政権の樹立でもない。彼らは母国だけでなく、世界中のイスラムのために戦っている・・・”とも。
こうした、旧来の秩序にとらわれず、大義のために戦うことしか眼中にない若者達からなるタリバンを、和解の交渉に引き出すのは至難の業のようにも思えます。

タリバンはもちろん旧軍閥トップも欠席、隣国パキスタンとの連携もとれず、夏に行われる予定のカンダハルでの“決戦”を前に、米軍・タリバン双方が兵力を増強させている現状・・・残念ながら今回ジルガは形式的なものに終わりそうです。TVのインタビューで「時間とカネの無駄だ」との地元民の声もありました。

【「オバマの戦争」】
アメリカはすでに、イラクを上回る兵力をアフガニスタンに展開しています。
****駐留米軍:アフガンがイラク上回る****
米国防総省は5月24日、アフガニスタン駐留米軍の規模が、イラク駐留米軍の規模を初めて上回ったと明らかにした。オバマ大統領はイラクからの早期米軍撤退を目指す一方、アフガン戦争を「必要な戦争」と位置づけ米軍増派を推進してきた。米軍部隊の態勢が大統領の政策決定を反映するものとなり、アフガン戦争は「オバマの戦争」との色彩が一層、濃くなってきた。
国防総省によると先週末現在、アフガンには9万4000人、イラクには9万2000人が展開。オバマ大統領が昨年12月に3万人のアフガン追加派遣を決めたことを受け、アフガン駐留米軍は今夏には約10万人規模に膨れ上がる予定だ。
一方のイラク駐留米軍は8月末までには戦闘部隊が撤退し5万人規模に縮小した後、来年以降の大幅な撤退を視野に入れている。(後略)【5月25日 毎日】
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一方で、米兵の死者も増加し、米軍が01年にアフガンに軍事侵攻して以来、これで米兵の死者数が1000人に達したと報じられています。今後、この数字は更に増加します。
“アフガン駐留米軍は3万人増派が完了する今夏にも、旧支配勢力タリバンの発祥地、南部カンダハルで最大規模の軍事作戦に乗り出す構え。無人爆撃機を多用して米兵の犠牲を減らすとみられるが、都市部では市街戦が予想されており、市民の犠牲は戦争当事者以上の数になりそうだ”【5月30日 毎日】

【パキスタンからの越境攻撃】
一方、パキスタン北西部の武装勢力が、アフガニスタン領内に越境して軍事行動を起こしているとの報道もあります。
****アフガン:パキスタン武装勢力が越境 東部で襲撃を開始****
アフガニスタン東部ヌーリスタン州で25日、パキスタン北西部スワートを拠点にしている武装勢力が越境し、アフガンの旧支配勢力タリバンを率いて州政府庁舎や警察などへの襲撃を開始した。現地からの情報では、軍勢は総勢300人以上で、襲撃は26日夜も続き、西方へと進軍している。米軍は昨年10月、タリバンの攻勢を受けて同州から撤退しており、州政府は「(軍勢を)鎮圧する手だてがない」と米軍などに助けを求めている。
パキスタンの武装勢力がアフガン国内で大規模攻撃を指揮したのは初めて。アフガンは6月2日のピースジルガ(国民和平大会議)を前に治安が悪化しており、米国やアフガン政府がパキスタンの武装勢力対策に批判を強めるのは確実だ。
現地からの情報によると、襲われたのはバルゲマタル地区。武装勢力はロケット砲や自動小銃による猛攻を続け、多くの死傷者が出ている模様だ。
軍勢を指揮するのは、武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)傘下のスワート地区勢力を束ねるファズルラ師。同師は01年に米軍がアフガン攻撃を開始した際、約1万人の軍勢を率いてタリバンを支援したことでも知られる。
パキスタン軍が昨年5月にスワート地区で掃討作戦に乗りだし、ファズルラ師はアフガン国境付近に逃げていた。
【5月27日 毎日】
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アフガニスタン情勢が好転する兆しはいまのところはないようです。
動きがあるとしたら、今後予定されているカンダハルでの戦いの結果次第でしょうか。

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ガザ地区支援船団強襲事件 強まるイスラエル批判 国内からも批判 ラファ開放

2010-06-02 21:51:15 | 国際情勢

(東エルサレムのヘブライ・エルサレム大学外で31日行われた支援船強襲事件への抗議集会
に参加する学生 “flickr”より By HanadiTalk
http://www.flickr.com/photos/hanaditalk/4657350094/)

【「血塗られた虐殺だ」】
経済封鎖が続くパレスチナ自治区ガザ地区に向かっていた支援船団が公海上でイスラエル軍に急襲され、死者9名を含む多数の死傷者が発生した事件については、第一報が入った一昨日のブログでも、「“力”による安全保障を追及し、周辺国との妥協を排し、独自のパレスチナ政策を推し進めるイスラエルですが、一方で地域での孤立化を強めており、長い目で見たとき、こうした強硬策が本当にイスラエルの安全保障に資するのかどうか疑問に思えます。」と書きましたが、その後の展開はやはりイスラエルにとって内外ともに厳しいものとなっています。

今回の支援船団は、トルコの人道支援団体を中心に組織され、乗船者のほぼ半数がトルコ国民だったこと、また死者9人のうち少なくとも4人がトルコ国籍だったこともあって、この地域での存在感を増しつつあるトルコ・エルドアン政権は「血塗られた虐殺だ」とイスラエルを激しく非難しています。

****支援船急襲 イスラエルとの関係見直し示唆 トルコ首相*****
トルコのエルドアン首相は1日、国会で演説し、パレスチナ自治区ガザ地区に向かっていた支援船団に対するイスラエル軍の急襲を「血塗られた虐殺だ」と非難し、「今日が歴史の転換点だ。すべては、これまでと同じでは済まされない」と述べ、軍事協力協定などイスラエルとの戦略的な協力関係を見直す考えを強く示唆した。
首相は演説の際、怒りの表情をあらわにし、「イスラエルの犯罪は、必ず罰せられなくてはならない」と強調した。
また、トルコのダウトオール外相は訪問先のワシントンで、「友好国の国民を尊重しない相手を、どうして和平の真のパートナーとして信頼できようか」と語り、一昨年末までトルコが行っていたシリアとイスラエルの間接和平交渉の仲介などを今後一切停止する考えを示した。【6月2日 産経】
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ただし、“トルコのギョヌル国防相はイスラエルから無人航空機を1億8300万ドル(約167億円)で予定通り購入し、今夏に受け取ることを表明。両国間で確認した。軍事を通じて辛うじて関係が維持される兆候もみえる。トルコ軍はイスラエル製の無人機を、同国南東部の山間部を拠点に独立闘争を続けるクルド人勢力の偵察・攻撃用に使うとみられている”【6月2日 毎日】ということで、“それはそれ、これはこれ”といった打算的なところもあります。

【EU、ロシア、中国も批判】
欧州連合(EU)のブゼク欧州議会議長は31日、「正当化できない攻撃であり、明らかな国際法違反だ」と非難する声明を発表。この声明はイスラエルに対して、急襲に至る経緯の説明を求めると共に、国際社会がガザ封鎖の早期解除を目指して対イスラエル圧力を強めるよう促しています。
ロシアも1日のロシア・EU首脳会議で、「人道物資と商業品、人々の往来について、ガザの境界を即座に開放するよう求める」とする共同宣言を発表しています。

北朝鮮による韓国海軍哨戒艦「天安」沈没事件で、アメリカをはじめとする国際社会から、かねてより支援してきた北朝鮮への圧力を求められている中国は、これまでアメリカが“かばってきた”イスラエルの今回の事件に、国連安保理での迅速な行動を要求しています。

【イスラエル正当性主張 アメリカは苦しい選択】
国際的批判が強まるなか、イスラエルのネタニヤフ首相は31日、「兵士は乗員に集団暴行されており、自分の身を守らなければならなかった」と正当性を主張しています。
また、ネタニヤフ首相は訪問先のカナダで記者団に「我々はテロリスト政権のハマスと対立しており、ガザへの武器搬入を防ぐ状態を維持したいだけだ」とも発言しています。
アヤロン副外相は、ハマスと支援船団側には「強い結び付きがある」と主張し、「船団側の目的は(イスラエルへの)挑発だ」と語っています。【6月1日 朝日】

アメリカ・オバマ大統領は31日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話で協議、大統領は事件への「深い遺憾の意」を表明して真相解明を求めましたが、非難は避けたと報じられています。【6月1日 毎日より】
国際社会がイスラエルへの批判を強める中、どこまでイスラエルを擁護できるのか、アメリカも苦しい選択を迫られています。

そして、国連安全保障理事会は31日、非常任理事国のトルコ、レバノンが要請する形で緊急会合を開きましたが、イスラエルを非難する各国と、非難を和らげたいアメリカの間で交渉は難航しました。
結局、玉虫色の間接的表現をちりばめながらも、事件を非難する議長声明を全会一致で採択しました。

****イスラエルを非難 ガザ支援船急襲 安保理議長声明****
イスラエル軍がパレスチナ支援船団を急襲し死傷者が出た事件で、国連安全保障理事会は1日未明(日本時間同日午後)、事件を非難する議長声明を全会一致で採択した。多くの死者を出したトルコなどは当初、イスラエルを直接非難する内容の案を提示していたが、米国の反発で間接的な表現に改められた。

トルコなどの要請で開催された安保理の緊急会合は声明の文言をめぐる調整がもつれ、10時間以上にわたって続けられた。
最終的に声明は、イスラエルが拿捕(だほ)した支援船と拘束した乗組員の即時解放を求める一方、「イスラエルによる公海上での武力使用の結果、死傷者が出たことに深い遺憾の意を表明する」などと、間接的にイスラエルを非難する内容にとどまった。
当初案では国連が国際的な独立調査に乗り出すよう求めていたが、米国の反対により、「迅速かつ公平で透明性のある調査」を求めるとした。
今後の調査のあり方については、緊急会合終了後、一部の国から、国連主導による事実上の独立調査が行われるとの見方が示されたのに対し、米国代表は「イスラエルは十分に公平かつ透明性のある調査を行うことができる」と述べるなど、意見の食い違いが残された。
声明はまた、ガザ地区の人道状況に関して「重大な懸念」を強調したものの、イスラエルが続けるガザ封鎖の解除を求める文言は米国の反対で見送られた。【6月2日 産経】
******************************

朝日報道では、安保理議長声明は“これらの行為を非難する”と、複数形になっており、これはイスラエルの行為だけでなく、支援船団側の行為も含むものとされています。多分、アメリカ側の解釈で、トルコなどはまた別の解釈でしょう。
ただ、過度のイスラエル援護は、アラブ・イスラム世界の反発を高め、今後の中東和平交渉におけるアメリカの立場もあやうくしかねません。

【イスラエル国内での批判】
今回事件に関しては、イスラエル国内からも“失敗だった”との批判が出ています。
****支援船強襲、イスラエル国内でも批判噴出*****
1日付のイスラエル各紙は一斉に「作戦は大失敗だった」と批判した。
イスラエル軍は事件について、ヘリコプターからロープで降下させた特殊部隊兵士を、支援船に乗った活動家約30人が、鉄の棒や刃物を持って甲板で待ち受け、次々に襲ったと説明。この攻撃は予想外で、その後の発砲は正当防衛だったと主張している。(中略)
批判の矛先は、軍が船上での想定外の武力衝突に対応できずに多数の死傷者を出し、ガザ封鎖への国際批判まで高めてしまう失態を演じたことに向けられている。
ガザ武装勢力によるイスラエルへのロケット弾攻撃に反発する国民の間では、ガザ封鎖そのものへの批判は少ない。ハマスへの強硬姿勢を取ってきたネタニヤフ首相は、高まる国際圧力に屈する形で封鎖を解除、緩和するわけにはいかない。・・・・【6月2日 読売】
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【エジプト ラファ検問所を開放】
イスラエルメディアは「やむを得ず発砲したイスラエル兵に責任はない」という点ではほぼ一致しているものの、ガザ封鎖の有効性への疑問が出ています。
****支援船急襲 イスラエル国内でも「立場損ねる」 ガザ封鎖、矛盾浮き彫り*****
・・・・国連安全保障理事会の議長声明に「封鎖解除」を求める文言を盛り込むことは見送られたものの、封鎖政策の有効性を疑問視する声はイスラエル国内からも出ている。
・・・・長期にわたるガザ封鎖の効果については、さまざまな議論が出始めており、有力紙ハアレツは「イスラエルは、4年間におよぶ封鎖で苦しむガザに向かう船を攻撃し、ハマスはロケット弾を1発も撃つことなく圧倒的な勝利を収めた」とし、「封鎖政策が逆にイスラエルの国際的な立場を著しく損ねている」と指摘した。
安保理議長声明では見送られたものの、今回は欧州連合(EU)も5月31日、事件の徹底糾明だけでなく、ガザ封鎖の即時解除を求める声明を発表。欧州各国もアラブ・イスラム諸国と足並みをそろえつつある。

イスラエルは、ハマスがガザ地区を武力制圧した2007年6月以降、境界封鎖を強化したが、強硬姿勢を取る以外に無策なハマスへの住民の失望から、ハマスへの支持は低下する傾向にあったとも指摘される。
しかし、イスラエルが強硬策を取るたびに、ハマスは支持を回復。イスラエルとの和平交渉を進めようとする穏健派のアッバス自治政府議長らの立場は弱まり、和平プロセスが停滞するというジレンマも抱えている。・・・・【6月2日 産経】
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イスラエルによるガザの「封鎖」は2006年1月ハマスが評議会選挙に勝利してから強化され。2007年6月にハマスがガザ地区の治安掌握をして以降は、完全封鎖とも言える状況が続いています。
イスラエルに囲まれたガザ地区唯一のイスラエル以外への出口であるラファについては、エジプトが封鎖しています。

国内に穏健派原理主義のムスリム同胞団を抱えるエジプトは、過激派ハマスとの交流を阻止したい狙いがあり、また、アメリカからの資金援助を伴う強い要請もあってのラファ検問所封鎖ですが(ハマスと対立するパレスチナ自治政府からの要請もあったようです)、かねてよりアラブ・イスラム世界では、イスラエルに加担する行為として評判が悪く、今回事件でムバラク大統領は、人道物資などを搬入するためラファ検問所を開放するよう命じています。ガザ封鎖に対する非難の矛先がエジプトに向かうのを回避する狙いがあるとみられています。

【再衝突の可能性も】
事件後、イスラエル軍はその強い姿勢を変えていません。
イスラエル軍は1日、ガザからイスラエル領にロケット弾2発が撃ち込まれたことへの報復として、ガザ地区を空爆し、パレスチナ武装勢力の3人を死亡させています。これに先立ち、ガザ南部では、イスラエル側に侵入しようとしたイスラム原理主義組織、イスラム聖戦のメンバー2人がイスラエル軍との銃撃戦で射殺されています。

一方、支援団体側も、新たに支援船2隻が今週末から来週初めにかけ、ガザ入りを目指す予定だと語っています。
再度の衝突も起こりうる状況です。

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ネパール  毛派が求める反毛派首相辞任を受け入れ、制憲議会任期延長 変わらぬ構図

2010-06-01 21:57:37 | 国際情勢

(5月7日 カトマンズ 警官隊と衝突する毛派支持者 “flickr”より By nagariknews1
http://www.flickr.com/photos/49766831@N03/4588695308/)

【再び首相辞任へ】
ネパールでは、政府と野党・ネパール共産党毛沢東主義派の対立が続いたまま制憲議会の任期切れを迎えましたが、現首相の首を差し出すことで任期延長に関する毛派の協力をなんとか取り付けたようです。

****ネパール制憲議会1年延長 反毛派首相、辞任へ*****
ネパールが連邦共和制に移行してから初めてとなる憲法制定のための制憲議会(601議席)は28日深夜、この日迎えた2年間の任期内に憲法を制定できず、土壇場で任期を1年延長する法案を可決した。議会第一党の野党・ネパール共産党毛沢東主義派から任期延長の賛成を取り付けるため、「反毛派」政党からなる現連立政権は、毛派が求めるネパール首相の辞任を受け入れた。
ネパール首相の辞任後、毛派が復帰しての新たな連立政権を樹立し、再び憲法制定を目指すことになる。だが、毛派兵士の政府軍への統合など、課題が解決される見通しはなく、不安定な情勢が続きそうだ。

ネパール首相の報道官は29日、フランス通信(AFP)に「首相が辞任することに間違いはないが、首相は諸懸案解消の見通しがつくのを見届けたいと思っている」と述べ、辞任には時間がかかる可能性があることを示唆した。
政権側が提出した任期延長法案が可決されるためには、議会の3分の2以上の賛成が必要で、4割の議席を持つ毛派の賛同が不可欠なことから、政権側は毛派に協力を呼びかけていた。しかし、毛派は同派トップのダハル前首相の返り咲きを念頭に、ネパール首相の辞任を要求。当初、政権側は反発していたが、最終的に毛派の要求をのんだ。

ネパールでは、立憲君主制から連邦共和制となった2008年の8月に毛派政権が発足。昨年5月にダハル前首相が、毛派兵士の政府軍統合に反対する陸軍参謀長を解任したことから、主要政党が連立政権からの離脱を表明し、毛派政権は崩壊した。下野した毛派は、現政権の退陣を求め、全国でゼネストを実施するなど、反政府抗議行動を展開してきた。【5月30日 産経】
********************************

【変わらぬ対立の構図と問題点】
これまで、このブログでも何回か、ネパールにおける毛派と反毛派の対立という政治情勢を取り上げてきましたが、基本構造はほとんど変わっていません。

その解決の障害になっている最大の問題が、内戦が終了したいま、毛派民兵組織「人民解放軍」をどう処遇するのか、毛派が要求している国軍への統合を認めるのかということで、この点も全く変わっていません。
今朝のNHKでも、毛派民兵が生活している(あるいは、押し込められている)キャンプの様子を取り上げていたようです。(詳しく観る時間はありませんでしたが)

1年前の5月4日ブログのときと変わったのは、当時は反毛派勢力の圧力で毛派のプラチャンダ(本名:ダハル)首相が辞任したのに対し、今回は毛派の圧力で反毛派のマダブ首相が辞任する・・・という具合に“攻守”が逆になっただけです。

09年5月4日ブログ「ネパール  毛派と国軍が対立 高まる緊張」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090504)からの再録
****「兵士以外の生きる道を知らぬ」若者達****
かつては国軍と戦った毛派兵士は、毛派と政府が和平合意した後は、その処遇が問題となっていました。
多くが貧困家庭出身で、10代で毛派に参加、うち2割が女性・・・という毛派兵士は、「兵士以外の生きる道を知らぬ」若者達です。

毛派は、「06年の政府との和平合意の際、国軍統合が約束されていた」と主張していますが、国軍は「ゲリラと正規軍では戦い方も思想も違う」と拒否。他の政党勢力も「別の治安組織を新設する方が現実的」と、国軍への併合に否定的です。毛派が国軍も掌握すれば、恐怖政治に乗り出す可能性があると警戒しているためです。
もちろん、毛派が軍事組織を残存させていることにも強い警戒感を持っています。
(07年1月から始まった国連監視下での武装解除で、毛派兵士の宿営地内に国連の監視員が常駐。武器は鍵のかかった倉庫に保管されています。ただ、護身用に小型の拳銃などを持ち歩くことは認められています。)
*************************************

登録された毛派人民解放軍は相当に水増しされており、また、プラチャンダ氏自身が「解放軍3,000人が国軍に編入されることにより、国軍全体を毛沢東主義で動かせる。」と過去に発言している【ウィキペディア】ことが問題解決を更に困難にしています。

今回、毛派の要求をのんだということは、再度プラチャンダ首相・毛派政府が復活するということでしょうか?
よくわかりませんが、誰が首相になっても、毛派民兵の国軍への統合問題を何とか処理しない限り、内戦再燃の危険をはらんだネパールの不安定な政治情勢は続きます。

もっとも、240年続いた王制を廃止し、11年続いた内戦に終止符を打つという大きな変革を実現しつつあるネパールですので、1、2年の政治空白は“ひと休み”ということでいたしかたないのかも。
しかし、いつまでもあてもなくキャンプ内に閉じ込めておくこともできないでしょう。

なお、過去2年の制憲議会では、反毛派与党陣営が議院内閣制を志向したのに対し、毛派は大統領制を主張し、将来の政治体制についても意見の相違があります。
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