孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

民間警備会社  イラクでは米軍撤退後をカバー アフガンでは活動停止

2010-08-21 21:05:10 | 国際情勢

(5月訪米してオバマ大統領と会談するカルザイ大統領 カルザイ政権の腐敗に関して厳しいやりとりもあったようです。“flickr”より By U.S. Department of State
http://www.flickr.com/photos/statephotos/4643058331/)

【イラク:米軍撤退後は民間要員倍増で補完】
イラク駐留米軍の最後の戦闘部隊(約4000人)が18日にイラクから隣国クウェートに撤退を完了。ブッシュ政権当時の07年の増派で最大17万1000人に上ったイラク駐留米軍は戦闘部隊の撤退完了に伴い、5万6000人となります。このうち後方支援などにあたる6000人が今月末までに撤退し、この段階で正式に米軍の戦闘任務が完了する見通しで、9月以降はイラク治安部隊の訓練と支援を目的とする5万人が駐留する予定です。
今後は、11年末までに全部隊を撤退させることになっています。

オバマ米政権は、2011年末までのイラク駐留米軍完全撤退に伴う空白によって混乱が生じるのを回避するため、民間契約者を中心とする人員をイラク国内の数カ所に配置し、任務に当たらせることを検討していると報じられています。

****イラク駐留米軍の任務、撤退後は民間要員倍増で補完 米計画****
イラク駐留米軍の撤退に合わせ、米政府は同地で米軍が担っている任務の一部を、民間警備会社の要員を倍増して引き継がせる計画を検討している。米紙ニューヨーク・タイムズの報道内容を、フィリップ・クローリー米国務次官補(広報担当)が19日の会見で認めた。
バラク・オバマ大統領の計画どおり、イラク駐留米軍は19日、最後の戦闘部隊が撤退を完了した。残る約5万6000人も2011年10月までに全面撤退をほぼ完了する。
クローリー次官補は、これに合わせてイラクで活動する民間警備会社の警備要員を7000人に増員する計画を国務省が検討していると述べ、外交官や開発専門家の安全を確保するためと説明した。
イラクでは民間要員がすでに米大使館の警備にあたっているが、NY紙は匿名の高官の話として、敵対勢力の攻撃を捕捉するレーダーの運営や、道路脇などの仕掛け爆弾の捜索、無人偵察機の運用なども民間要員の活動に含まれると報じている。【8月20日 AFP】
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アメリカの戦争の多くの部分がすでに民間企業に委ねられていることは周知のところですが、イラクでの民間警備会社というと、2007年9月16日に首都バグダッド市内で発生した民間警備会社「ブラックウォーター」の従業員とされる警備員らの銃撃で、イラク民間人17人が死亡した事件が思い出されます。

事件当時、「業者に頼るしかなく、その人達の能力、勇気を称えるべきだ」と民間警備会社を弁護する考えがアメリカ政府内に多いともいわれていましたが、武器の横流しや民間人を無差別に撃って遊ぶ「実弾演習」が常態化しているという噂もあり、イラクでの反米派には、「ブラックウォーター社の社員は、犯罪者達だ」とする向きも多くありました。
最近の民間警備会社の実態はどんなものでしょうか?
もちろん、民間警備会社、その従業員と言っても様々でしょうが。
いずれにしても、一般人の武器所有が厳しく制限されており、警官の発砲すら問題になることも少なくない日本社会の感覚からすると、戦争の民間請負というのはなかなか理解が難しい面があります。

【アフガニスタン:民間警備会社に解散命令】
民間警備会社に後を託す形のイラクに対し、アフガニスタンではカルザイ大統領が唐突に民間警備会社の活動停止を発表しています。
*****アフガニスタン大統領、民間警備会社に解散命令*****
2010年08月18日 09:39 発信地:カブール/アフガニスタン
アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領は17日、「痛ましく悲劇的な事故」を起こしかねない武器の悪用を防止するため、同国で活動するすべての民間警備会社に解散を命じる大統領令を出した。解散の期限は2011年1月1日としている。
アフガニスタン国内で活動する50以上の民間警備会社で雇用される武装要員は4万人以上で、そのうち約半数がアフガニスタン人。これらの民間警備会社は国際部隊や米国防総省、国連ミッション、非政府組織(NGO)、大使館、欧米の報道機関などに警備を提供している。
カルザイ大統領は、民間警備会社について、アフガニスタンの治安部隊と任務が重なっており、軍や警察の訓練に必要な資源を横取りしているとして繰り返し不快感を表明していた。
解散後、民間警備会社の要員は要件を満たせばアフガニスタンの警察に参加することができる。一方、未登録の民間警備会社は違法化され、武器や装備は押収されることになる。

■治安部隊への引き継ぎに懸念
年内の解散命令という厳しい時間設定に国際社会の一部では戸惑いの声が上がったものの、民間警備会社の要員は多くの人びとから「民兵」とみられており、アフガニスタンからの民間警備会社の排除は幅広く支持されている。
最大の懸念は、アフガニスタンの治安部隊の能力が低く、汚職も多いとされていることから、治安部隊が民間警備会社の業務を引き継ぐことができないと考えられていることだ。【8月18日 AFP】
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民間警備会社の問題は数年前から認識されており、国際治安支援部隊(ISAF)も、すべての民間警備会社に登録を義務付けるといった提案をしていたとのことですが、今回発表では「活動停止」ということで、アメリカ政府などには戸惑いもあるようです。

****アフガン大統領、民間警備会社に解散命令 米は懸念表明*****
アフガニスタンのカルザイ大統領は17日、国内で活動する民間警備会社に対し、4カ月以内に解散するよう求める大統領令を出した。統制が利きにくく、警察など政府の治安機関の権威を阻害するとの理由があるとされるが、米軍などは物資の輸送の警備などを民間会社に大きく依存しており、不安の声も出ている。
アフガン内務省によると、現在52の民間警備会社が登録しているが、未登録の企業もあり、武装警備員は外国人も含め、全国で3万~4万人と推定される。大統領令は、こうした企業に対して期限内に活動を停止するよう求めている。アフガン人スタッフについては警察官として採用する方針だという。ただ、大使館や国際機関などについては、敷地の警備に限って例外的に民間会社の活動を認めた。
米軍や北大西洋条約機構(NATO)軍の物資輸送についてはアフガン治安部隊が警備の責任を持つとしている。ただ、米国務省のクローリー次官補は大統領令に関する事前の報道を受けた16日の記者会見で、長期的な目標としては賛同するとしたうえで、「現時点では民間警備会社が活動を続ける必要がある」と早急な改革への懸念を表明した。【8月18日 朝日】
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【大統領親族の利権構造】
海外TV局の報道では、かねてよりカルザイ大統領に対して向けられている親族の民間警備事業利権に関する批判に対する大統領の回答が今回発表になっているとも報じていました。

****カルザイ・ファミリーの巨大利権*****
さらにカルザイ・ファミリーは、米軍の兵站支援業務でも巨利を得ており、カンダハルを拠点とする軍閥や犯罪組織と利益を分け合っている。
米国防総省は、米軍の兵站業務をアフガニスタンの民間企業に委託する「ホスト・ネーション・トラッキング契約」を現地の6社の企業と締結している。これは「ホスト・ネーション」、すなわちアフガニスタンの現地の輸送会社に軍事支援物資の輸送を業務委託するという総額22億ドルに上る巨大な契約だ。2年契約のこの事業は、アフガニスタンのGDPの実に10%近くに相当する巨額の利権である。

この契約をとった企業の一つにワタン・グループというアフガンのコングロマリットがある。このグループを支配しているのはハミド・カルザイ大統領の従弟で、元ムジャヒディーンのアフマド・ラテブ・ポパルという人物である。ワタン・グループは、カンダハルを中心に巨大なビジネス利権を牛耳るコンソーシアムで、傘下に通信、運輸などの会社を持つが、その中でも最も重要なのがワタン・リスク・マネージメントというセキュリティ会社である。ワタンはとりわけカブールからカンダハルへの主要幹線道路のセキュリティを牛耳っており、事実上、米軍向けの軍用物資の輸送・補給ラインを押さえている。
カンダハルへ通じる戦略的な道路「ハイウェイ1」はワタン・グループが完全に押さえており、このハイウェイのトラック輸送の警護もワタンが独占している。アフガン南部の麻薬利権を押さえるワリ・カルザイと、カンダハルの物流を押さえるワタン・グループのポパルは、共にカルザイ大統領の親類であり、連携して利益を分け合っていると言われている。
ちなみに、こうしたトラック輸送の際に、地域の武装勢力に対していわゆる「ショバ代」を支払うことでトラック輸送の安全を確保しており、この「武装勢力」にはタリバンも含まれているという。つまり、米軍の補給物資を運ぶトラックの安全を確保するためにタリバンに上納金を支払うという馬鹿げた仕組みになっているのだ。
ワリ・カルザイがタリバンとも持ちつ持たれつの関係を維持しているのはこうした理由によるものであり、カンダハルを中心にカルザイ・ファミリーと地方の軍閥や武装勢力やタリバンまで巻き込んだ巨大な利権の構図が存在することが分かるであろう。
ワタン・グループ以外にもこの米軍の兵站契約を結んでいる会社は、現国防相であるアブドル・ラヒム・ワルダク将軍の息子でアフガン系アメリカ人のハメッド・ワルダクが所有する「NCLホールディングズ」や、「アジア・セキュリティ・グループ」というカルザイ大統領の別の親族であるハシュマト・カルザイ氏が支配している会社など、カルザイ・ファミリーの身内ばかりである。【日経ビジネスonline 5月10日】
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ついでに言えば、カルザイ大統領の腹違いの弟であるワリ・カルザイは、現在カンダハル州の州議会議長を務めており、長年この州のパワーブローカーとして君臨し、一部では「キング・オブ・カンダハル」とまで呼ばれています。
ワリ・カルザイとその取り巻きは、麻薬取引などで得た不法な資金を使ってカンダハル州政府をコントロールし、その腐敗の元凶になっていると考えられています。このため、政府に反旗を翻して武装闘争を展開しているタリバンの方が市民の人気を集めているとも【同上】

こうした大統領親族が利権を独占し、腐敗が横行するアフガニスタンの実態に対し、オバマ大統領はカルザイ大統領に対し、腐敗是正に着手するよう強い圧力をかけています。
これに対し、カルザイ大統領は、「米国はアフガニスタンを支配しようとしている」、「タリバンの反乱は外国の侵略者に対する国民的な抵抗運動である」、「もし西側が圧力をかけ続けるのであれば、私自身タリバンに加わるしかない」とまで言い放ったとか。

唐突な民間警備会社活動停止の発表、アメリカの困惑、カルザイ大統領親族の利権構造、アメリカの批判、カルザイ大統領の反発・・・・今回の発表については、これから次の展開というか、第2幕があるようにも思えます。

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「死の商人」ボウト被告 タイからアメリカへ身柄引き渡し

2010-08-20 21:59:56 | 世相

(映画「ロード オブ ウォー」(主演:ニコラス ケイジ) “flickr”より By ProfessorMortis http://www.flickr.com/photos/professormortis/165695679/)

【映画「ロード・オブ・ウォー」のモデル】
「死の商人」と呼ばれる世界の紛争に絡む武器密売人を描いた05年の米ハリウッド映画「ロード・オブ・ウォー」の主人公のモデルとされるビクトル・ボウトは現在タイで拘束中ですが、引き渡しを要求していたアメリカへの引き渡しを認める決定をタイの高等裁判所が下しました。

ボウトはロシア軍の元士官で、アメリカのテロ対策当局や情報当局からは究極の「国際犯罪人」と見なされてきました。アフガニスタンのタリバンや、スーパーモデル・ナオミ・キャンベルさんが「血のダイヤモンド」を受け取ったという話題で注目を集めているリベリアの独裁者テーラー元大統領(シエラレオネでの内戦における人道に対する罪で裁判中)、その他数々の「ならず者」政権や麻薬密売人、犯罪組織に武器を提供してきたとされています。
なお、映画「ロード・オブ・ウォー」は、ボウトについて比較的好意的に描写しているせいか、ボウトよりテーラー元大統領の異常さが強烈な印象を残しています。

****タイ:「死の商人」米国へ引き渡しへ****
バンコクの高等裁判所は20日、タイで拘束中のロシア人武器密売業者、ビクトル・ブート被告(43)を米国に引き渡す決定を下した。「死の商人」と呼ばれる同被告は、コロンビアの左翼ゲリラ「コロンビア革命軍」(FARC)に地対空ミサイルなどの武器を密売したとして米国で起訴されており、3カ月以内に身柄が引き渡されて米国で裁判を受ける見通し。
同被告は旧ソ連軍出身で、ソ連崩壊後に同国軍の武器をアフリカなどの紛争地に横流しして大物武器密売人の地位を築いた。(中略)
同被告は08年、バンコク滞在中に米捜査当局の情報提供を受けたタイ警察に逮捕された。米国は身柄引き渡しを求めたが、タイの下級審は昨年8月、被告には政治犯の要素があるなどとして引き渡しを拒む決定を下していた。【8月20日 毎日】
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【関与が疑われるロシアの圧力】
上記記事にもあるように、昨年タイの下級審で、アメリカ政府からの身柄引き渡し請求が却下されていました。
これについては、ボウトの「仕事」に関与したとみられるロシアが、事実が公にされるのを恐れ圧力をかけているとも言われていました。

****ロシアがかばう「死の商人」******
・・・・米政府関係者を激怒させているのは、ロシアが全力を挙げてボウトのアメリカへの身柄引渡しを阻止しようとしていることだ(おいしい石油の取引までチラつかせている)。ボウトが長期間アメリカで服役するようなことになれば、ロシア軍や公安当局上層部の武器密輸への関与について口を割るかもしれない、とロシア軍は恐れている。
ロシア下院は昨年、ボウトの「違法な起訴」を非難する決議を採択。今年2月にタイが初めてロシアから軍用ヘリコプター6機を購入したのも偶然ではないと、米政府関係者は語る。「ロシアがここまでやるとは驚きだ」と、米司法当局者は言う。「ボウトが知っていることは多い。その人脈はロシアの上層部までたどり着く」

オバマ政権の高官も、最近になってボウトの引渡しに動き出している。ヒラリー・クリントン国務長官とエリック・ホルダー司法長官は、タイ政府にこの問題に関する懸念を示した。デビッド・オグデン司法副長官は今月13日にタイの法相と会談し、ボウトの身柄引き渡しは「アメリカの重要案件」だと伝えた。
だがアメリカの情報当局や司法当局の関係者は、オバマ政権の関心があまりに低く、遅きに過ぎるのではないかと危惧している。【09年10月20日 Newsweek】
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今回の高等裁判所の決定は、アメリカの巻き返しが成功したということでしょうか。

【「死の商人」の武器密輸と国家による武器輸出】
いずれにしても、世界中で毎日多くの犠牲者を出している多くの紛争は、武器・弾薬を何処からか、誰からか調達しているから可能なのであり、この武器・弾薬の調達ルートを抑えれば紛争も続けられません。
その意味で「死の商人」摘発は歓迎すべきことですが、武器・弾薬の密売は個人・民間人だけどうにかなるものではなく、国家・軍などの関与が推測されます。

「死の商人」など介さずに、国家が主導して密輸にかかわることもあるようです。
****北朝鮮が中国からミサイル装置密輸入、消息筋伝える****
北朝鮮に詳しい消息筋は19日、北朝鮮が4月に中国企業を通じ、ミサイルなどの発射に必要な先端計測機器を密輸入していた事実を韓国政府当局が把握したと明らかにした。一般機械と偽った書類を作成するやり方で北朝鮮に持ち込まれたという。
こうした計測機器は、国連安保理決議1874などで北朝鮮への輸出が禁じられている。昨年4月、北朝鮮が長距離ミサイルを発射した際には米国製の計測機器が使われたとされ、韓米はこうした物資の対北朝鮮輸出を監視してきた。政府当局は、今回密輸された機器も同様に、今後の北朝鮮のミサイル発射に使用される可能性があるとみている。・・・・【8月19日聯合ニュース】
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もっとも、民間人「死の商人」による武器密輸と、アメリカ・ロシア・イギリス・フランス・中国など「大国」が国家として行っている武器輸出の間にどれだけの差があるかという話になると、判然としないものもあります。

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フランス・サルコジ政権  ロマ規制強化、不法滞在ロマをルーマニアへ送還

2010-08-19 23:23:29 | 世相

(フランスの「ロマ」キャンプ “flickr”より By Council of Europe
http://www.flickr.com/photos/councilofeurope/4497227708/)

【先進国を悩ます移民問題】
欧米各国やオーストラリアでは今、移民対策が大きな論議をよんでいます。
アメリカでは、ヒスパニック系不法移民の増大に対するアリゾナ州独自の移民法にオバマ大統領が反対の姿勢を示しています。
オーストラリアの新政権ギラード首相は、ラッド前首相の移民受け入れ積極策から移民制限へ方針転換を図ろうとしています。
アメリカにしてもオーストラリアにしても、もともとが「移民の国」ですが、最近の世論は移民増加に批判的な方向に向かっているように見えます。
欧州の場合は、北アフリカやトルコからのイスラム系移民、EU拡大に伴う中・東欧からの移民などが増加して問題・軋轢を起こしています。

最近の移民問題の先鋭化は、単に移民の増大というだけでなく、経済危機の中で受け入れ国側の社会に余裕がなくなっていることも影響しているように見えます。

【サルコジ大統領:「フランスは過去50年、移民を安易に受け入れすぎた」】
なかでもフランスは、従来から北アフリカ系移民の若者らによる暴動や、パリなど都市郊外の移民居住地域での治安悪化などが社会問題化していますが、最近論議の中心になっているのがロマの存在です。
ロマはインドが起源とされる流浪の民族で、欧州には推定で1000万人以上が在住。ルーマニアなど中・東欧を中心に定住する一方、移動を続ける人もいます。欧州では非定住者やロマらはジプシーなどと呼ばれ差別を受けています。

****フランス:サルコジ政権が「ロマ」規制強化 人権団体反発*****
フランスのサルコジ政権が、国内を放浪する民族ロマや「非定住者」への圧力を強めている。一部の非定住者が今月、暴動を起こしたのがきっかけで、仏政府は28日、ロマらの違法キャンプを撤去するなどの方針を決めた。だが長い間、差別されてきた人々への強権発動は、国際社会や人権団体から大きな反発を招いている。

仏中部の町で18日、非定住者50人が、警察署や商店を襲撃したり、駐車車両を燃やす暴動が発生した。その数日前、近くを車で通行中の非定住者の男性(22)が警察の検問を無視して逃走、警官に射殺されており、暴動はこれに対する報復とみられている。
サルコジ大統領は28日、緊急の閣僚会議を招集し、▽ロマを中心とした300カ所の違法キャンプの撤去▽国外から来たロマが罪を犯した場合、即時の強制送還▽非定住者の納税状況の調査--などの方針を決めた。
大統領府は、ロマをより簡易に国外追放できる法案を年内にも提出する方針も示している。

仏は暴動後に開かれた欧州連合(EU)外相会議で、「ロマ問題の解決でEUは協力すべきだ」と主張した。だが60万人と多くのロマを抱えるルーマニアは、「ロマを犯罪集団として扱うべきではない」と反発。欧州の人権組織「欧州会議」(47カ国)の幹部も、「仏は非定住者と市民を平等に扱うべきだ」と指摘している。
一方、仏の人権団体「人権連盟」のサロンクール副会長は毎日新聞に「今回の仏の措置は、暴動を口実にした非定住者やロマの摘発で、差別だ」と批判している。
フランスの非定住者は一般的には、キャンピングカーで国内各地を移り住む元遊牧民など約40万人を指し、国外から来たロマ2万人とは区別される。今回、暴動を起こしたのは非定住者で、仏の人権団体は、政府の対応を「非定住者とロマを混同している」とも批判している。【7月30日 毎日】
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サルコジ大統領は「フランスは過去50年、移民を安易に受け入れすぎた」と演説、少数民族ロマや移動生活者が法を犯した場合の即刻本国強制送還に加え、警官や憲兵など治安要員を襲撃した外国出身者の国籍を剥奪(はくだつ)する方針も表明しています。また、フランスで生まれた外国籍の未成年者が、犯罪歴があっても18歳になれば自動的にフランス国籍を取得できる現行制度を見直す考えも示しています。
フランスの世論調査では、国民の8割がこの方針を容認しています。
一方、人権団体などからは「外国人や移民への憎悪をあおっている」「12年の大統領選に向けた右派票獲得を狙った政策」などの批判が出ています。
なお、多くのロマが暮らすルーマニアはフランスの方針に反対していますが、ルーマニア国内では少数民族ロマが差別されているという実態もあります。

【国連差別撤廃委員会「ナチスまがいの政策」 仏政府「治安安定こそ人権の基本だ」】
こうしたなか、6日、フランス当局は国内を放浪する外国籍のロマやフランス国籍の非定住者が住む違法キャンプ300カ所の撤去を開始、滞在許可などを持たないロマ約50人に国外退去命令が出されました。

****フランス:移民政策に強い批判 国連委「ナチスまがいだ」*****
国内を放浪するロマ族や「非定住者」の違法キャンプの撤去や、移民出身の犯罪者に対する「国籍はく奪」などの政策を打ち出したフランスのサルコジ政権に対し、国内外から「外国人や移民の排斥だ」との強い批判が出ている。国連の差別撤廃委員会では「ナチスまがいの政策」との異例の強い意見が出た。15日には、ロマ族などが高速道路を車両で一時封鎖しサルコジ政権に抗議した。

仏では7月、アラブ系の移民や、国内を放浪する「非定住者」が、警官に発砲したり商店を略奪する暴動が起きた。これに対しサルコジ大統領は(1)違法キャンプ撤去(2)移民出身者が警官を殺害した場合の国籍はく奪--などの方針を表明。仏政府幹部はイスラム教に基づく「一夫多妻主義」を実践する移民の国籍はく奪も示唆した。

だが、仏の状況を審議する国連差別撤廃委では先週、多くの委員が「人種や出身による差別の強化だ」と批判。「仏政府幹部には差別撤廃の意欲がない」「国是の平等・博愛の精神を取り戻すべきだ」との意見も出た。同委は27日にも仏に関する報告書を出すが、厳しい内容になるのは必至だ。
これに加え仏では「国籍はく奪はテロや内乱罪で適用される重罪で、そぐわない。移民出身者だけを差別するのも違法だ」(パリ大学教授)などの批判が噴出。野党第1党の社会党は「移民排斥を訴え、極右票を取り込もうとする政治的宣伝だ」とも指摘した。

これらに対し、仏政府は「治安安定こそ人権の基本だ」(ルルーシュ欧州問題担当相=閣外相)として譲らず、ロマ族のキャンプ撤去を続けている。国連の批判には、大統領の支持政党の国民運動連合(UMP)幹部が「差別撤廃委の委員らの多くは(アフリカなど)人権を尊重しない国の出身だ」と挑発的な態度を示した。
一方、報道によると、15日朝、ボルドー(西部)付近の違法キャンプを追放されたロマ族など約250台のキャンピングカーなどが、高速道路の橋の上で約9時間、封鎖を実行。警察が催涙ガスの使用などを警告したため、封鎖は解除された。
支援団体によると、当局が満足なキャンプ地を提供しないことなどへの抗議で、付近の高速は大渋滞した。【8月16日 毎日】
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(「ボルドーのアキテーヌ橋の上で抗議したのは「旅の人々」(les gens de voyages)と呼ばれるフランス国籍をもつ人々で、ロマではない」とのご指摘をmasaotobitaさんからいただきました)

【「同意に基づく送還であり、強制措置ではない」】
世論の支持もあって、サルコジ政権は方針を貫く構えで、不法滞在ロマのルーマニアへの送還を始めています。
****仏に不法滞在のロマ人93人、ルーマニアへ送還*****
フランス政府は19日、仏国内に不法滞在していたルーマニア出身のロマ人93人を定期航空便で同国へ送還した。サルコジ政権が7月末に不法滞在中のロマ人のキャンプ撤去に乗り出して以来、ロマ人を本国送還するのはこれが初めて。
仏政府は今後、約700人のロマ人をルーマニアとブルガリアへ送還する方針。オルトフー内相は、「同意に基づく送還であり、強制措置ではない」と強調した。
だが、欧州連合(EU)の執行機関やルーマニア政府は18日、仏政府の対応に相次いで懸念を表明。ロマ人の処遇が外交問題に発展する可能性もある。【8月19日 読売】
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「同意に基づく送還であり、強制措置ではない」と言っていますが、フランス国内に残った場合は不法滞在で厳しい罰則が加えられるという状況下での“同意”でしょう。

ルーマニアのロマは、政府の公式な統計では40万人とされていますが、実際にはその数は最大250万人、総人口の約11%占めているとも言われています。
ルーマニアにおけるロマに対する差別、彼らの社会的地位の低さの結果として、彼らは自分自身をルーマニア人、ハンガリー人と称したり、それぞれの地域において多数を占める民族と同化することによって「ジプシー」という烙印を押されるのをまぬがれようとしています。伝統的な生活様式で暮らしているロマの人々は、ルーマニア国内で100万人、総人口の4.6%と言われています。【Romania Japan より】
ルーマニアがフランスからの送還に反対しているのは、厄介者をこれ以上引き受けたくない・・・というのが本音ではないでしょうか。

フランスの野党や人権団体は、ロマの送還措置について、「外国人、移民の排斥」と反発。与党内からもナチスの「ユダヤ人狩り」を連想させるとの批判が出ているとも報じられています。

【日本もこれから直面する問題】
移民問題の難しさはこれまでも何回も取り上げたところです。
現在移民をほとんど受け入れていない日本も、少子高齢化・人口減少という流れのなかで、今後“移民”を検討する時期が来るのではないかとも思われます。
“移民排斥”といった差別的風潮を社会に生まないためには、受け入れに際して、安易な労働力補充といった考えではなく、その社会・文化に与える影響をいかに緩和できるか、共存・統合に向けたどのような対策が可能か、真剣な議論・対応が必要になります。

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日本・韓国・台湾・香港・シンガポール・・・・東アジア社会で進行する少子化

2010-08-18 23:17:43 | 世相

(台湾の街角で “flickr”より By C Dova
http://www.flickr.com/photos/cdova1/1230579971/)

【台湾:今年は1人を割り込む予測】
少子化が進んでいるのは日本だけでなく、韓国や台湾、香港、シンガポールなど東アジア圏で共通した傾向です。
特に台湾は、昨年の合計特殊出生率が1.03と世界最低を記録していますが、今年は寅年(寅年生まれの子どもは性格がきつくなるため出産を避けるべきだとの華人社会の慣習があるそうです。日本の丙午と同じようなものでしょう。)にあたるため、1人を割り込むとの予測を台湾政府が発表しています。【8月17日 共同】

合計特殊出生率が1人を割るということは2人ひと組の夫婦から生まれる子供が1人に満たないということですので、驚異的な少子化のペースになります。
寅年と影響はともかく、昨年も1.03人ですから、問題の深刻さに変わりはありません。
すでに昨年段階で、南部・台南県では0.99人と1人を下回っており、背景には経済低迷や女性の高学歴化・晩婚化などがあると考えられています。

****台湾:出生率1.03人、世界最少 未体験ゾーンに突入*****
出生率が1人を割った台南県では08年から育児手当制度を導入し、一般家庭に月額3000台湾ドル(約8300円)、低所得家庭に5000台湾ドル(約1万3800円)が支給されているが、効果は上がっていない。
60年代から台湾の人口計画に携わる孫得雄博士は、背景に▽経済の低迷▽女性の教育レベルと就業率の向上▽独身の増加、中でも未婚女性の拡大--があると説明する。

台湾の失業率は10年前まで3%台だったが最近では5%超が常態化。大卒者の月給は10年前の平均約2万8000台湾ドル(約7万7500円)から昨年は約2万台湾ドル(約5万5400円)に下がった。女性の初婚年齢の平均は00年の25.7歳から昨年は28.9歳と晩婚化が進んでいる。
日本の「子ども・子育て白書」(10年版)によると、アジアの主要国・地域の08年の出生率は、日本1.37人▽シンガポール1.28人▽韓国1.19人▽香港1.06人--で、台湾の1.05人は最も低い。【7月11日】
****************************

【日本:最近の回復傾向と「晩産化」】
長期的に出生率が低下していた日本は、2005年の1.26を底に、06年1.32、07年1.34、08年1.37と、やや回復するかのような動きもありましたが、2009年の合計特殊出生率は前年と同率の1.37にとどまっています。
ここ数年みられた合計特殊出生率(一人の女性が生涯に出産する子供数を表すとされる統計値)の増加は、少子化を巡る環境に何か構造的な変化があったという訳ではなく、合計特殊出生率という統計値を算出するうえでの女性の「晩産化」の影響による部分が大きいように思われます。
(同じ人数の子供を産む場合でも、以前に比べてより高齢で出産する「晩産化」が進行すると、一過性に合計特殊出生率は増大します。ただ、出産する子供数は変わっていませんので、その出生率増加は少子化問題解消にはなんらつながりません。)

「晩産化」の影響がなくなったときの出生率がどの程度に落ちつくかはわかりませんが、人口を維持するためには2人をやや上回る程度の出生率が必要とされていますので、そのレベルを大きく下回り、人口減少・少子高齢化という枠組みには変化はないものと思われます。

「人口負荷社会」(小峰隆夫著)によれば、所得水準と出生率の関係を各国でみると、一般に所得水準が上がると出生率も低下する傾向がありますが、ある水準で底を打ち、その後は所得水準が高まると出生率も上がるという関係が見られます。これは、ある程度まで下がると、社会の危機感が高まり、何らかの対応策がとられるためとみられます。
日本は現在、この2次曲線のボトムの位置にあり、何らかの対応策で下げ止まり上昇に転じてもいい位置にあるようです。

【女性の出産に伴う機会費用】
日本の少子化進行の要因は、短期的には経済状況の停滞・雇用不安がありますが、長期的要因としては「女性の子育ての機会費用」の問題があります。
働いていた女性が出産・育児のために退職すると大きな生涯所得を失うことになります。
仮に、子供が一定年齢に達した後に再就職しても、退職以前と同じ給与条件は難しく、多くの場合パートとなって、正社員との給与格差は大きなものがあります。

日本的な長期雇用を前提にした年功序列的な賃金体系は、女性の出産・育児には極めて不利に働き、女性の出産・育児の機会費用を大きくし、出産をためらわせる大きな要因となっています。
今後、同一労働・同一賃金の流れが強まれば、この機会費用も小さくなると思われます。

【機会費用を増大させる社会意識】
また、日本のように男性が長時間企業に拘束されるような勤務形態は、男性の育児参加を難しくし、女性の負担を大きくする形で少子化を促進させていると思われます。
更に、「男性は外で働き、女性は家庭を守って家事と子育てに専念する」という役割分担意識の強い社会では、女性の社会参加が進むと、女性は仕事に加えて家事・育児も負担することになり、女性にとって出産の機会費用が増大します。
「結婚しないと子供を持てない」という社会意識も、女性の出産にとっては制約になります。

日本同様に少子化が進行したヨーロッパ各国では、社会意識の変化や国の子育て支援策もあって出生率は回復傾向にあり、特にフランスなどは2人を上回るほどに上昇しています。(フランスは合計特殊出生率が08年に2.005に上昇。ただし、09年は1.99と2人を割っています。)

出生率が回復傾向を示すヨーロッパ各国と日本同様低水準を続ける東アジア各国(膨大な人口を抱える中国も、「一人っ子政策」をとっていることもあって、経済成長とともに遅からず少子高齢化社会に移行するものと思われます)の差は、女性の労働環境、社会の男女役割分担意識の問題にあるように思われます。
もちろん、「子供手当」のような経済的育児支援策も必要ですが。

韓国で出産率低下への対策を進めている保健福祉家族省は1月20日、職員の帰宅を早め子づくりに励んでもらおうと、毎月第3水曜は午後7時半に職場の照明を消すことにしたと発表したそうです。
まあ、効果のほどはわかりませんが、単に子づくりの機会だけでなく、出産・育児に伴う女性の機会費用を小さくする社会構造の変化を促さないと、基本的な問題解決にはならないでしょう。

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アメリカ  グラウンド・ゼロ近くのモスク建設をオバマ大統領支持、国内世論はこれに批判的

2010-08-17 22:53:00 | 世相

(モスク建設に反対する9.11遺族の集会 “flickr”より By El Marco
http://www.flickr.com/photos/imagesofperfection/4706382310/)

【「宗教の自由に対する米国の誓約に揺るぎがあってはならない」】
オバマ米大統領は13日、2001年9月11日の米同時多発テロで崩壊した世界貿易センタービル跡地「グラウンド・ゼロ」近くにイスラム教のモスクを建設する計画を支持する意向を示しました。これについて、同国では宗教の自由と、同時多発テロの被害者への配慮について、議論が巻き起こっていると報じられています。

****米大統領:モスク建設支持 グラウンドゼロ近く*****
米ニューヨーク市の01年同時多発テロ跡地近くに、イスラム教のモスク(礼拝施設)を建設する計画が反発を招いていることについて、オバマ大統領は13日、「宗教の自由に対する米国の誓約に揺るぎがあってはならない」と述べ、建設を支持する姿勢を示した。大統領は「イスラム社会との融和」を掲げており、テロ対策など外交・安全保障上の悪影響を避けるためにも、事態の沈静化を図ったとみられる。

大統領はホワイトハウスで、イスラム教徒のラマダン(断食)明けの夕食会を開催。席上でこの問題に触れ、テロ犠牲者の遺族の苦しみは「想像を絶する」とし、モスク建設に反発が起きていることへの理解を示した。
その上で「米国では他のすべての人々と同じく、イスラム教徒にも宗教(の教え)を実践する権利がある」とし、テロ跡地付近でのモスク建設も含まれると指摘。テロを実行した国際テロ組織アルカイダの理念は「イスラム教ではない」と述べ、一般のイスラム教徒を敵視しないよう求めた。

モスク建設に関しては、市の歴史的建造物保存委員会が今月3日、予定地にあるビル(1850年代建設)を「保存に相当せず」と評決し、法的な障害はなくなっている。
だが、計画への反発は続き、モスクを建設するイスラム団体の代表について、共和党下院の保守強硬派議員らが10日、「同時多発テロを巡り米国を非難した」などとする共同声明を発表。反対派団体は、市内を走る公共バスへの反対広告掲載も計画している。
大統領は夕食会で、モスク建設が市の法律に触れていない点にあえて言及。秋の中間選挙を控え、政治問題化させないための予防線を張ったとも言える。

◇米国民「反対」7割近く
モスク建設は、テロで崩壊したマンハッタンの世界貿易センター跡地(グラウンドゼロ)から2ブロック(約150メートル)北に計画。プール、講堂、レストランなどを併設した地域コミュニティー施設となる予定だ。
米トリニティー大学による米国の宗教別人口推計(08年)では、成人のイスラム教徒人口は約135万人で、90年の約53万人に比べ倍以上に増加。全成人人口に占める割合は0.6%になった。一方、キリスト教徒の割合は86%から76%に低下している。
CNNが11日に公表した世論調査によると、米国民の68%がモスク建設に反対し、賛成の29%を大きく上回っている。【8月14日 毎日】
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モスク建設の話はすでに5月には報じられていました。オバマ大統領はこれまで沈黙を保ってきましたが、3日にニューヨーク市の歴史的建造物委員会が建設を事実上認める決定を下したことを受け、それを支持する姿勢を見せたものです。

【「アラーの名のもとにさらなる惨事を引き起こす、意図的な挑発行為だ」】
****一部の遺族は反発*****
同時多発テロの被害者親族による団体、「9/11 Families for a Safe & Strong America」は14日、大統領の発言に「衝撃を受けた」とコメントし、モスク建設は「アラーの名のもとにさらなる惨事を引き起こす、意図的な挑発行為だ」と非難している。
一方、別の被害者団体「September Eleventh Families for Peaceful Tomorrows」は、5月にモスク建設を「強く支持する」姿勢を明らかにしている。
今月行われたCNNテレビの調査によると、モスク建設に賛成するのは29%、反対は68%だった。
ニューヨーク選出のピーター・キング下院議員(共和党)は、ムスリム・コミュニティーが「権利を乱用し、不必要に人びとを怒らせている」と指摘する。「ムスリム・コミュニティーが、グラウンド・ゼロ近辺にモスクを建てるのは、無神経で心ない行為だ。そして残念なことに、大統領はポリティカル・コレクトネス(政治的な正しさ)に屈してしまった」【8月15日 AFP】
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下院のジョン・ベイナー共和党院内総務は、「これは法律や信仰の自由といった問題でなく、歴史上の悲劇に対する配慮という基本的な問題だ」などとする声明を発表し、大統領を批判しています。
身内であるリード民主党院内総務も16日、スポークスマンを通じ、別の場所に建設するべきだとの考えを示し、大統領の意向に反対の姿勢を明らかにしています。
11月に予定されている中間選挙では民主党の退潮が著しいとも言われていますが、世論の反発をみると、今回の問題で更に大統領・民主党は苦しい立場に追い込まれそうです。

【「イスラム教徒に対する米国民の見方を変えることができたら」】
ちなみに、建設する側のニューヨークのイマム(イスラム教の指導者)フェイサル・アブドゥル・ラウフ師は、その趣旨について次のように述べています。
****イスラム教徒以外にも解放、「架け橋」めざす****
モスクにはスポーツ施設や映画館、デイケア・センターなども併設し、イスラム教徒だけでなくあらゆる人に利用を開放する方針で、イスラム教徒たちも地元コミュニティーの一部なのだとアピールしていきたいと語るラウフ師。同師によると米国内でこうした施設はこれまで存在しない。
同時多発テロ以降、アメリカのイスラム教徒たちは世論からも当局からも「テロリズムの温床」というレッテルを貼られ、辛い時を送ってきた。ラウフ師は計画しているセンターが、テロ事件で沈みきったロウアーマンハッタンに活気をもたらすとともに、イスラム教徒に対する米国民の見方を変えることができたらと願っている。【5月20日 AFP】
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【「理想は、辛いときに掲げてこそ・・・・」】
この問題は5月21日ブログ“イスラム社会との関係 アメリカ:「グラウンド・ゼロ」の隣にモスク フランス:「ブルカ禁止法」”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100521)でも取り上げました。
そのとき、「“イスラム教徒以外にも解放して、アメリカ社会とイスラムの「架け橋」をめざす”というラウフ師の理念は高く評価されるべきものでしょうが、モスクという宗教施設を中心にして「グラウンド・ゼロ」の隣に・・・というのは、現実問題としてはいたずらに軋轢を高める結果にもなりかねません。
もう少し地道な信頼醸成が必要にも思えますが、現実には紛争・テロによって欧米・イスラムの亀裂は深まるばかりです」と書いたように、「また厄介な問題を・・・」というのがそのときの本音でした。

ただ、法的に問題のない宗教施設の建設を差し止めるべきか・・・ということになると、アメリカ国内の反対論はいささかヒステリックにも思えます。
当然の話ではありますが、9.11はアルカイダというテロリストの犯罪であり、イスラム教徒全体の犯したものではありません。

アメリカがイラク・アフガニスタンなどイスラム社会との関係に苦しんでいるのも事実ですが、それだけに、民主主議とテロリズムの問題を、アメリカ対イスラムという宗教的対立にすりかえるのは筋違いであり、イスラム諸国の関係を更に難しくすることにもなります。

すでにイスラム社会ではアメリカ・オバマ政権に対し、かなり批判的な風潮があります。
****イラン核兵器、世論過半数「好ましい」 中東など6カ国****
米メリーランド大学などが中東・北アフリカ6カ国で実施した年次世論調査で、イランの核兵器保有が中東にとって「好ましい」と答えた人が初めて半数を超えた。同大はオバマ米大統領への失望が対立するイランへの共感になって表れた、と分析している。
イランの核兵器保有の影響を尋ねたのは2008年からで、今回が3回目。今年は「好ましい」とする回答が57%に達し、昨年の29%から倍増した。別の問いでは「イランには核開発の権利がある」とする答えが77%に上り、「開発停止への圧力」を支持する回答は20%にとどまった。オバマ政権の中東政策全般については「失望した」が63%で、「期待できる」とした16%を圧倒した。
同大のテルハミ教授は米メディアに「オバマ大統領への期待が消えて反米感情に結びつき、『敵(米国)の敵(イラン)』への支持になった」と指摘した。調査は同大と米世論調査機関ゾグビー・インターナショナルが6月29日~7月20日、エジプトとヨルダン、レバノン、モロッコ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)で実施し、計3976件の回答を得た。【8月16日 朝日】
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こうした傾向があるため、オバマ大統領もイスラム社会を更に刺激するような建設差し止めには乗れなかったのでしょう。
イスラムのモスクから9.11のテロを連想するというトラウマが多くの人々にあるのでしょうが、それは克服すべきもので、そこにこだわってイスラム敵視になってしまうと不毛の対立に陥ってしまい、結果的に将来の新たなテロといった危険を生みだすことにもなりかねません。
「イスラム社会との融和」「宗教の自由」というのは理想、建前かもしれませんが、憎悪の連鎖を断ち切るために堅持すべき理念です。

「自分たちの理想を守るために戦っているのに、その戦いにおいて自分たちの理想を曲げてしまっては、自分自身を失うことになります。理想を掲げるのが楽な時だけそうするのではなく、そうするのが辛い時に掲げてこそ、自分たちの理想を守ることになります」【オバマ大統領のオスロ演説より】

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イラク  米軍撤退、長引く「政治空白」に治安は悪化

2010-08-16 21:57:04 | 国際情勢

(“flickr”より By United States Forces - Iraq
http://www.flickr.com/photos/mnfiraq/4882381684/)

【8月末で戦闘部隊撤退】
アメリカは8月末でイラクから戦闘部隊を撤退させ、来年末までに、残る訓練部隊なども全面撤退させる予定で、このスケジュールに合わせ、イラク駐留米軍は7日、イラク治安部隊にすべての戦闘に関する指揮権を移譲しました。
最近のイラク情勢は、アメリカの撤退を前にひところより悪化していると報じられていますが、オバマ大統領は国内の中間選挙を前に、アピールできる数少ない“成果”としてのイラク撤退について、既定の撤退スケジュールを変更する考えはなさそうです。

****バグダッドで爆発・銃撃相次ぐ 9人死亡20人負傷****
イラクの首都バグダッドなどで15日、爆発や銃撃が相次ぎ、AFP通信によると合わせて少なくとも9人が死亡、20人が負傷した。イラクでは今月末に駐留米軍が戦闘任務を終えるのを前に、再び治安悪化の傾向が強まっている。
バグダッドの南約50キロの村では、夜明け前の礼拝を終えたモスク(イスラム礼拝所)が銃撃され、3人が死亡。バグダッド市内では午前に、通勤客を乗せたミニバスが道路脇の仕掛け爆弾で狙われ3人が死亡した。首都東部と北部でも道路脇の爆発で交通警官1人を含む3人が死亡した。【8月15日 朝日】
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****イラク:各地でテロ…63人死亡 米撤退計画に変更なし*****
イラク各地で7日から8日にかけ自爆テロや爆発、銃撃が相次ぎ、AP通信などによると少なくとも63人が死亡、約220人が負傷した。月末に迫る駐留米軍戦闘部隊撤退を前に、イラク治安当局者に対するテロも目立っているが、米側は撤退計画を変更する意向は示していない。
西部ラマディでは8日に警察のパトロールを標的にした自爆テロが発生。西部ファルージャや北部キルクークでも自警組織幹部らが殺害された。7日には南部の主要都市バスラ中心部の市場で爆発が相次ぎ、少なくとも43人の死亡と100人以上の負傷が確認された。バグダッドでは6日夜から7日未明にかけ、爆弾工場とみられる場所で武装勢力と警官隊の銃撃戦となり、警官5人が死亡した。【8月9日 毎日】
******************************

【イラク民主主義は破綻のとば口に立っている】
最近の治安悪化の背景にあるのは、米軍撤退ともうひとつ、国内の政治空白です。
3月の連邦議会選から5カ月が経過しましたが、連立の枠組みが決まらず、いまだに新政権が樹立されていません。
****選挙後の「政治空白」長期化=治安、国民生活に影―イラク*****
イラクでは、3月の連邦議会選から5カ月が経過する中、新政権協議が迷走し「政治空白」が長期化しており、8月末までの駐留米軍戦闘部隊の撤退を控え、治安や国民生活に暗い影を落としている。
政権協議迷走の大きな原因は、アラウィ元首相の世俗会派「イラキーヤ」が91議席を獲得したのに対し、マリキ首相率いる法治国家連合も89議席を得たため、明確な勝者が不在だったことにある。来年末までの米軍完全撤退を前に、イランやサウジアラビアなど周辺諸国が水面下で首班選びに影響力を行使していることも事態を複雑化させているとの見方が強い。

スンニ派のサウジなどの影響下にあるとみなされるアラウィ元首相は、イラク多数派のシーア派や少数民族クルド人勢力の支持を得られず、政権協議を主導できないでいる。一方のマリキ首相は、同じシーア派の「イラク国民同盟」から独断的な政治手法を批判され、首相続投へシーア派内をまとめ切れていない。
米軍撤退を前に過激派の活動活発化や、酷暑の中での電力不足など課題が山積する中、重要な政治決定ができない状態に国民の不満は高まっている。しかし、「治安も国民生活への影響も予想されていたほどではないため、政治家は新政権樹立を急ごうという雰囲気にはない」(在バグダッド外交筋)のが実情だ。
選挙自体は民主的に行われたものの、その結果はくすぶる宗派間対立の火種をあおる形となっており、アラブ首長国連邦(UAE)紙は「イラクの民主主義は破綻(はたん)のとば口に立っている」と論評している。【8月15日 時事】 
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連立協議が難航しそうなことは当初から予想されたことではありますが、“「治安も国民生活への影響も予想されていたほどではないため、政治家は新政権樹立を急ごうという雰囲気にはない」(在バグダッド外交筋)”というのは、なんとも腹立たしい感じがします。
イラク政治家にとって、頻発するテロの犠牲者などは大した問題ではない・・・ということでしょうか?
彼らにとって、政治の目的は国民生活の安定などではなく、利権獲得や宗派・民族の大義を掲げることにすぎないのでは・・・とも勘ぐられます。

【フセインの“功績”を超えて】
「悪の枢軸」とも非難され、民間・軍双方の多大な犠牲を伴って政権から力づくで排除されたサダム・フセインのバース党政権は、秘密警察によって国民を監視する強権支配の政権であり、クルド人を虐待し、クウェートに侵攻したことは間違いありませんが、国民生活向上のため何もしなかった訳ではありません。
最大の政治的成果は石油の国有化であり、そこから得られた潤沢な資金をもとに、イラク社会の近代化に取り組んでいます。

ウィキペディアから彼の“功績”の部分を抜き出すと、“全国に通信網・電気網を整備し、僻地にも電気が届くようになった。貧困家庭には無料で家電が配布された。また農地解放により、農業の機械化、農地の分配を推進し、最新式の農機具まで配られ、国有地の70%が自営農家に与えられた。(中略)
他にもサッダームはイラク全国に学校を作り、学校教育を強化した。教育振興により児童就学率倍増した。イラクの低識字率の改善のため、1977年から大規模なキャンペーンを展開し、全国規模で読み書き教室を開講し、参加を拒否すれば投獄という脅迫手段を用いたものの、イラクの識字率は向上し、80年代に大統領となったサッダームにユネスコ賞を授与する。
また、女性解放運動も積極的に行なわれ性別による賃金差別や雇用差別を法律で禁止し、家族法改正で一夫多妻制度を規制、女性の婚約の自由と離婚の権利も認められた。女性の社会進出も推奨し、当時湾岸アラブ諸国では女性が働くことも禁じていた中で、イラクでは女性の公務員が増え、イラク軍に入隊することも出来た。男尊女卑の強い中東において「名誉の殺人」が数多く行われていた中、この「名誉の殺人」を非難した人物であることは、あまり知られていない。もっとも、91年の湾岸戦争以後は、イスラーム回帰路線を推し進め、この「名誉殺人」も合法化している。”【ウィキペディア】とあります。

民主的選挙で選ばれた現在の政治家たちがこれ以上の実績をあげるのでなければ、あの戦争・混乱はなんだったのか?民主主義の導入がもたらしたものは?といった疑問も生じてきます。
間違っても、連立協議の難航が宗派対立再燃を煽るなどといったことのないように願いたいものです。

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国際赤十字  「沈黙する中立」

2010-08-15 15:28:56 | 国際情勢

(カブールで貧困層女性に保健衛生の知識を啓蒙する国際赤十字活動 “flickr”より By ICRC
http://www.flickr.com/photos/icrc/3967859471/)

【「沈黙」による「共犯関係」】
赤十字と言えば、ナイチンゲール、せいぜい大災害時の救援活動ぐらいしかイメージにない私にとって、最近目にした国際赤十字の活動、特に、その「沈黙する中立」「沈黙のおきて」に関する記事は非常に興味深いものでした。

多発する紛争における拘束者を訪問し、その保護を促す活動において、「拷問や虐待など非人道的事実をつかんでも、収容所長や閣僚など最高責任者にだけ指摘し、改善策を話し合うが、決して非難はしない。世論に訴えるのは厳禁」という姿勢です。
このことによって、紛争当事者の信頼を得て、内部に入ることが許されることになります。
しかし、そのことは、非人道的行為を知りながら明らかにしないという点で、一時的には紛争当事者と「共犯関係」に陥ることをも意味し、強い批判もあります。

****赤十字:「捕虜の保護」徹底…武装勢力も説得****
スイスのジュネーブにある赤十字国際委員会(ICRC)本部。昨年11月、アフガニスタンの人道支援担当者たちは、人知れず達成感をかみしめていた。イスラム武装勢力タリバンに捕らえられていたアフガン軍兵士3人との面会を実現させたからだ。
端緒は「タリバンにも捕虜収容所があるらしい」との情報だった。戦争捕虜の人権を守るため、訪問して安否を確かめ、待遇を改善させるのは、国際人道法(ジュネーブ諸条約)が定める赤十字の重要な任務の一つだ。
01年に米欧軍が「テロとの戦い」を始めるまでタリバンは、訪問を受け入れていた。
交渉の末、赤十字スタッフはトルクメニスタンとの国境にある北西部バドギス州の収容所に案内された。
タリバンが訪問を許したのは、赤十字がアフガン軍と米軍に拘束されたタリバン兵や協力者の消息を、家族に取り次いできた実績がものを言ったからだ。届けた手紙や伝言は、今年前半だけで約1万件。アフガン軍や米軍の収容所と赤十字事務所をテレビ電話でつなぎ、捕虜と家族の「対面」をこれまで1150回実現させた。
人道活動の意義を認めたタリバンが、自らも少しだけ扉を開いた。米軍が来年からの撤退に向け大攻勢をかける厳しい戦局で、敵味方の双方が、赤十字による回路を通じた意味は小さくない。

 ◇「世論への訴え」厳禁
戦争捕虜の訪問は、第一次大戦時から続いている赤十字の伝統ある活動だ。しかし、特に冷戦後、国と国の戦争が減って武装勢力による地域紛争が増え、ジュネーブ条約に定められた「戦争捕虜」には当てはまらない「紛争捕虜」と呼ぶべき被拘束者が多く生まれた。
国際法のすき間にあふれ出る新たな保護の対象。赤十字は、武装勢力にも「紛争捕虜」訪問の受け入れを粘り強く働きかけてきた。
74カ国、1890カ所の収容所で、毎年延べ50万人の捕虜・被拘束者の消息を追跡し、うち約5万人と個別に面接している。ほとんどは「紛争捕虜」だ。
タリバンなど武装勢力は条約締結国でないので、法的義務はない。それでも人道主義を認めることが、自らの利益にもなると理解するよう促していく。
紛争当事者に「中立・公平」の立場を信用させ、対話を続けるには、赤十字自身に厳しいルールが必要だ。
活動は極秘。拷問や虐待など非人道的事実をつかんでも、収容所長や閣僚など最高責任者にだけ指摘し、改善策を話し合うが、決して非難はしない。世論に訴えるのは厳禁だ。
「中立は、無力とも卑劣とも誤解されやすい。沈黙を通すのは、黙認し加担するのと同じで、時に一方の立場を支持することにもなる」(元幹部)
   ◇  ◇
沈黙を条件に紛争当事者の「秘密」に触れていると、時に国際政治のトップシークレットを知りながら、一緒に隠す「共犯関係」を問われることにもなりかねない。冷戦後、2度、試練があった。
一つは、ボスニア紛争(92~95年)で、セルビア人がイスラム教徒の強制収容所を設置し、多数を処刑していた時。もう一つは、04年に相次いで明らかになった、イラク・アブグレイブ刑務所とキューバ・グアンタナモ米軍基地で起きた米兵による捕虜虐待事件。
欧米メディアが虐待を報じる前から、赤十字は事件の概略や予兆をつかんでいたことが明らかになり、激しい批判を浴びた。「非人道的事実すら公表せずに続ける人道支援とは何なのか」という原理的問いかけだった。しかし、赤十字はその後も同じ手法を守る。
赤十字の手法には、古くから同じ批判がある。第二次大戦でナチスのホロコースト(ユダヤ人大量殺りく)を知りながら沈黙していた時も、大きな非難にさらされ、50年後「道徳的に過っていた」と謝罪した。
1971年に国際非営利組織(NPO)「国境なき医師団」を設立したフランス人医師らは、ナイジェリア内戦での赤十字活動に参加して「沈黙する中立」に疑問を抱き、独立。99年にはノーベル平和賞を受けた。
人道支援は、交戦国や紛争当事者の同意がなくても行う権利があるとする「人道的介入」の主張もある。【8月14日 毎日】
****************************

【タリバン兵を対象にした人命救助訓練】
アフガニスタン、タリバンとの関係では、01年の米同時多発テロで米英などが「対テロ戦争」を開始するまでは一定の信頼関係があったそうですが、「対テロ戦争」によって、国際機関を敵とみなすアルカイダ勢力と、「敵か味方しかいない」と“中立”を否定するアメリカ・ブッシュ政権の対立のなかで、赤十字職員も狙い撃ちされる状況に陥りました。

その後、「あらゆる当事者との対話が必要。政府軍、警察、NATO軍、もちろんタリバンとも会い、赤十字はどの立場であれ被害者のため働くことを理解してもらう」(赤十字本部でアフガン支援を統括するリッツ氏)という赤十字の働きかけによって、活動再建が本格化したのが06年。
アフガニスタンに中核となる赤十字の病院12カ所以外に、危険な地域には応急措置の拠点6カ所も設営しています。
“タリバンとの関係も着実に修復していった。07年に韓国人キリスト教徒23人がタリバンに拉致された事件では、赤十字が韓国政府とタリバンを仲介し、人質解放に貢献した。
赤十字は世界保健機関(WHO)のポリオ根絶計画を支援し、南部のタリバン支配地域で年3~4回、住民への予防接種を行うための許可証をタリバンから発行してもらっている。
5カ所だった赤十字事務所は12カ所に増えた。7年前に殺された同僚が働いていた中部ウルズガン州にも今年、開設。現地職員は1500人を超える。”【8月14日 毎日】

赤十字職員が入れない危険な地域で、タリバン兵自らに救命活動をさせようという、タリバン兵を対象にした人命救助の組織的な訓練も実施しています。
こうした活動に、米欧の一部には「テロとの戦いの足を引っ張るな」「なぜタリバンの肩を持つのか」「人道活動でもやりすぎ」との批判もあるとか。

【「敵か味方か」】
冒頭記事にあるイラク・アブグレイブ刑務所とキューバ・グアンタナモ米軍基地で起きた米兵による捕虜虐待事件に関しては、世間からの厳しい批判も浴びています。
****人権と外交:赤十字の試練/1 中立認めぬ世論****
イラク・アブグレイブ刑務所とキューバ・グアンタナモ米軍基地で起きた米兵による捕虜虐待を巡る赤十字国際委員会(ICRC)の対応は、その中立を認めない厳しい世論の暴風にさらされた。
アブグレイブの虐待は04年4月、米メディアが米軍の内部告発を基に報じたが、赤十字は以前から把握し米政府に是正勧告する極秘報告書を渡していた。
01年に「対テロ戦争」が始まって翌年1月、赤十字はグアンタナモ訪問を始めていた。報道で米政権内の情報が流出するにつれ、赤十字の報告書も明るみに出た。「グアンタナモの囚人の人権は法的な保護を受けていない」「アブグレイブなどイラク国内14カ所の米軍収容所は、捕虜の待遇が悪すぎる。一部は拷問に等しい」
報告書は、中立人道主義を実践するには、拘束する側の信頼をつなぎとめるため、罪状の秘匿という点で、一時的な「共犯関係」にならざるを得ないジレンマを教えている。

「違法な戦闘員に国際人道法は当てはまらない」とする米国を、赤十字は「国内法で人権保護を」と説得。ICRCのケレンバーガー総裁は、当時のブッシュ大統領、パウエル国務長官らと交渉を重ねた。ここまでは「外には沈黙し、相手を非難せず、極秘に改善を促す」赤十字の伝統的手法の枠内だったが、報道を機に世論が沸騰すると赤十字の中立は激しく揺さぶられた。
「赤十字はテロリストの味方をする裏切り者だ」という反発が広がり、他方で「赤十字が指摘していたのに、なぜ放置した」と政権批判の援軍にされた。そこに「赤十字は外に向かって沈黙しているべきだったのか」という攻撃も加わった。
「当時は米国が世界中に我々の敵か味方か、と迫り、反対する側も含め中立を否定する空気があった。道徳的権威としてどちらかにつけという国際的圧力はものすごく、暴風雨の中にいるようだった」(赤十字幹部)
赤十字にいら立った米政府高官の匿名コメントが米紙に出た。「赤十字は中立ではない。アムネスティなど左派NGOと同じだ」。ICRCは英紙で反論。「テロとの戦いであろうと、法を免れることはできない」
赤十字本部内でも意見が割れた。「法の順守を呼びかけるのではもはや生ぬるい。はっきり米国を非難すべきだ」と声が上がった。

混乱の中、グアンタナモ訪問を重ねていたICRCワシントン代表のジロー氏が突然、退職。同氏は03年10月時点で早々と米紙に「グアンタナモの現状を続けさせるわけにはいかない」とコメント。米政権とのあつれきが高まり、「沈黙のおきて」を逸脱していたとして、事実上の引責辞任に追い込まれたとの見方が根強く語られる。
ICRCは予算の大半を各国の寄付で賄う。米国は最大の出資国で、緊急資金でも頼らざるを得ない。
「秘密を守るからこそ非人道的な待遇の捕虜にも会える。見たものを非難はしない。(捕虜の待遇改善などについて)いくら言っても聞いてくれないといった交渉の質を非難する」
嵐が収まった今、赤十字本部の担当者たちは、伝統的沈黙こそ人道主義を実行する最も現実的で有効な手法だと改めて強調する。
赤十字は現在も、オバマ政権が閉鎖できていないグアンタナモ収容所への訪問を続け、米国はそれを受け入れている。【8月15日 毎日】
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「沈黙」によって非人道的行為の「共犯関係」に陥ることにもなりますが、紛争当事者の信頼を将来的に保証し、今後起こりうるあらゆる紛争における犠牲者の最後の拠り所としての立場を守るためには、やむを得ない対応のように思えます。
いくら「人道支援は、交戦国や紛争当事者の同意がなくても行う権利がある」と言ったところで、当事者が受け入れない限り、犠牲者へのアプローチは現実問題としてできません。
もちろん、沈黙しない組織・活動があること当然でしょうが、国際的信頼を得た“最後の拠り所”として、「沈黙する中立」を守る国際赤十字が存在することは大切なことではないでしょうか。

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グルジア紛争から2年  憲法改正で権力維持を狙うサーカシビリ大統領

2010-08-14 20:08:43 | 国際情勢

(その美貌と若さで話題のベラ・コバリア経済発展相(28) “flickr”より By Georgian Economy
http://www.flickr.com/photos/53004535@N08/4884583813/# )

【南オセチア:住民流出、『ロシア軍の町』へ】
2008年8月7日、グルジアからの独立を求めていた同国北部の南オセチアにグルジア軍が攻撃、これに対抗してロシア軍が軍事介入して始まったグルジア紛争。ロシア軍はグルジア各地を空爆、やはり独立を要求していた西部のアブハジア自治共和国にもロシア人保護の目的で介入し、グルジア軍を撤退させました。
同月13日にサルコジ仏大統領の調停でロシアとグルジアは和平案に合意。ロシアは26日、南オセチアとアブハジアの独立を承認、今も両地域に駐留を続けています。
そのグルジア紛争から、2年が経過しています。

****グルジア紛争から2年 住民流出 進まぬ復興*****
グルジアの南オセチアとアブハジア自治共和国の分離独立を巡り、ロシアとグルジアが武力衝突したグルジア紛争から2年がたった。ロシアが独立を承認した両地域では復興が進まず、住民の流出が目立っている。一方、国土の統一を目指すグルジアにも解決策はなく、住民の間には閉塞感が漂っている。(トビリシ=星井麻紀)
(中略)
紛争前は人口約8万人だった南オセチア。紛争後の住民流出で、現在は2万~3万人程度とされる。うち、3500人は駐留ロシア軍だ。
グルジア議会のダビタイア副議長は、人口流出は「ロシアの支援が独立支持者の期待通りではなかったため」と分析する。ロシアは紛争後、南オセチアに260億ルーブル(約780億円)の財政支援をしたが、2009年末までに完了する予定だった被災者住宅の建設は、今春までに計画の3分の1も終わっていない。ロシア資本が入ってきてはいるか、雇用にはつながっていない。
グルジア側は、両地域との民間交流を活発化させることで「再統一」につなけたい考えだ。だが、境界はロシア軍の検問が幾重にも設けられ、現実には難しい。ダビタイア氏は「時間がたつほど、この地域は『ロシア軍の町』に変わってしまう」と焦りをにじませた。

ロシアのメドベージェフ大統領は8日、紛争後初めてアブハジア自治共和国を訪問。「ロシアによる独立承認は正しかったと時間が証明した」と自信を見せ、さらなる財政支援を約束した。南オセチアは紛争犠牲者の追悼集会を開催。ココイトイ大統領は「ロシアがいなければ、我々は抹殺されていた」とロシアに感謝する声明を発表した。
一方、グルジアのサアカシュビリ大統領は同日、「占領者の最後の一人がいなくなるまで我々の戦いは続く」とロシアヘの対決姿勢を改めて強調した。(後略)【8月11日 朝日】
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【グルジア:住民間の交流で再統一へ】
“グルジア政府は7月、両地域で社会、経済など4分野の支援・協力を進める「国家戦賂」を採択。両地域の地位問題などの解決を待たずに住民間の交流を取り戻すことで再統一の機運を作る計画”【同上】とのことです。
両地域を放棄することもできない、また、軍事的な手段が閉ざされたグルジアに残された選択肢としては、人道支援を展開することで領土再統一を果たすという姿勢を取り続けるしかない・・・というのが実際のところでしょう。

“紛争前は人口約8万人だった南オセチア。紛争後の住民流出で、現在は2万~3万人程度とされる”というのは、よくわからない南オセチアの内情を伝える数字としては興味深いものがあります。
当然、この住民流出には、南オセチアに暮らしていたグルジア人の紛争を逃れるための流出も含まれています。

約3千戸の簡易住宅が並ぶグルジア側の「避難民村」ツェロバニ村では、グルジア政府が避難民に月100ラリ(約6000円)を支給し、住居費や電気、ガス、水道代は無料です。居住区では学校や保育園などの建設も行われています。

南オセチア当局は紛争後、「人道的な特別措置」としてグルジア人避難民が南オセチアの自宅に一時的に戻ったり、親類や知人を訪ねるため「国境」の自由通過を認めてきました。しかし、昨年8月に境界で緊張が再び高まった時期に、南オセチア当局は「新型インフルエンザ流入の恐れ」を理由にすべての「国境」を閉鎖すると発表しています。現在はどうなっているのでしょうか?
南オセチア側のオセット人住民は「グルジア政府は避難民を生活保障でつなぎ留め、我々が帰還を拒んでいるかのように吹聴している」とグルジア側を非難していました。【09年8月7日 毎日より】
 
いずれにしても、互いに大きな犠牲を出した紛争のあとだけに、グルジア側の再統一の思惑が実現する余地はそう大きくはないように思えます。
紛争後ではなく、紛争前に両地域への手厚い支援・交流を行っていれば、和解へ向けた道もあったろうに・・・とも思われます。

【強化されるロシア軍事支援】
両地域に駐留するロシアは、軍事支援を強化しています。
****ロシア:対空ミサイル配備 グルジアから独立求める2地域****
ロシア軍は11日までに、グルジアからの独立承認を求めるアブハジアで、高性能の対空ミサイルシステム「S300」を配備した。ロシアは同じくグルジアからの独立承認を求める南オセチアでも対空ミサイルシステムを配備し、両地域への軍事支援を強化している。
インタファクス通信などによると、ロシアのゼーリン空軍総司令官は配備について「(両地域の)領土を守るだけではなく、領空侵犯を防ぎ、違法侵犯する航空機を破壊する狙いがある」と言明。グルジアが08年の紛争前にアブハジア上空に無人偵察機を飛ばしたことがあることから、けん制する狙いがある。
一方、ロイター通信によると、グルジア国家安全保障委員会のトケシェラシビリ書記は、ミサイル配備について「ロシアは南オセチアとアブハジアで軍を強化させている」と批判した。【8月12日 毎日】
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【改憲で首相へ】
ロシア政府はグルジアのサーカシビリ大統領が退任しない限り関係改善に応じない方針ですが、サーカシビリ氏は13年の大統領の任期切れ後も首相に転じて権力を維持するとの観測が浮上、波紋を広げています。
****グルジア:ロシアとの軍事衝突から2年 緊張緩和進まず*****
・・・・サーカシビリ氏の与党「統一国民運動」が議席の8割を占めるグルジア国会は先月、大統領の権限を弱め、議院内閣制に移行して首相の権限を強化する憲法改正案の審議を今秋から始めることを決めた。サーカシビリ大統領は13年で2期10年の任期を満了するが、憲法で3選は禁止されている。このため、大統領退任後、強い権限を持つ首相へ転じるための環境整備とみられている。憲法改正案がまとまれば、与党の圧倒的多数で可決は確実視されている。
このような動きに対し、野党側は「サーカシビリ氏個人のための憲法改正を許してはならない」(ブルジャナゼ前国会議長)と憲法改正反対を訴える。ただし野党連合は昨春、南オセチアに進攻し紛争のきっかけを作ったサーカシビリ氏の責任を追及し、退陣を求める運動を起こしたが、失敗に終わった。今年5月のトビリシ市長選でも「サーカシビリ氏の後継者」といわれるウグラバ市長が再選しており、改憲阻止がどこまで国民の支持を得られるか不透明だ。・・・・【8月10日 毎日】
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大統領から首相に転じて権力掌握を維持するロシア・プーチン首相と同じ方法です。
フィリピンのアロヨ前大統領も同様の方法を検討したとも言われており、最近この方法が流行りです。

【問われるサーカシビリ大統領の資質】
記事にもあるように、09年4月には、ロシアとの軍事衝突を招き、結果としてグルジア経済に大きな打撃を与えたとして、サーカシビリ大統領の退陣を迫る主要野党による大規模な抗議集会がおこなわれました。
また、翌5月には、軍の一部によるクーデター計画発覚や機甲部隊の反乱など、不穏な動きも報じられていました。

こうした反大統領勢力はサーカシビリ大統領を追い詰めるところまではいかず、現在に至っていますが、ただ、サーカシビリ大統領に関連して報じられるニュースは、あまりいいものは少ないようです。
今年3月には、政権寄りのTV放送局が視聴者への十分な断りもなく、「ロシア軍が首都トビリシに侵攻し、サーカシビリ大統領が殺害された」との仮想ニュース、過去のロシア軍戦車の映像など使ったニセ番組を放映、国民がパニックに陥る「事件」がありました。
野党指導者がロシアと共謀したと受け取れる内容で、野党側からは「このニセ番組の1秒1秒すべてを、サーカシビリ(大統領)は承認しているはずだ」との批判がありました。実際、大統領は「非常に不愉快な報道だったが、最も不愉快な点はこれが実際に起こりうる事態に非常に近かったこと、そしてグルジアの敵が考えつきそうなことに近かったことだ」と番組を擁護するような発言をしています。

6月には、ポーランド大統領ら96人が乗った政府専用機がロシア西部カチンの近くで墜落した事件を受けて、大統領が自分の専用機に緊急脱出装置を約700万ドル(約6億3千万円)かけて設置、国家予算の浪費だとして野党からの批判を浴びました。

7月末には、任命されたばかりのベラ・コバリア経済発展相(28)が、ナイトクラブでセクシーポーズを取っている写真がスクープされ、スキャンダルになっています。ロシアのメディアは「ストリップから大臣へ」(露大衆紙)などと報じています。
“1996年に一家でカナダに移住したコバリア氏は父親が経営するパン屋を手伝っていたが、今年2月に冬季五輪の応援で訪れたサアカシビリ大統領に会い、グルジア帰国を決意。そのわずか数か月後に大臣に任命され、あまりの若さと美貌で注目された”【8月1日 読売】
先ごろアメリカで話題になったロシアスパイといい、美しい女性はとかく話題になります。
コバリア氏の報道官はAFP通信に、学生時代だった10年前に米国で撮影された写真だと反論、「こんなゴミにとらわれず職務を遂行する」と批判を一蹴しています。

過去の写真自体は(あまり品がないものであっても)どうでもいいことですが、全く経験のない28歳女性が、パン屋手伝いから、(経済再建が急務とされるグルジアで)帰国後数カ月で大臣に・・・というのはどうでしょうか?
“自身も大統領就任時に36歳に過ぎなかったサアカシュヴァリが若年の大臣を起用したがる傾向を持ち、また、若い世代を権力の中枢に引き上げることによってグルジアをかつてのソ連支配時代と決別させる意図を公言している”との有識者指摘もあるとか【ウィキペディア】
(批判が起きることを承知で大臣を受けるコバリア氏の自信のほども、想像を絶するものがあります)

一連の報道をみていると、サーカシビリ大統領の軽々に物事を判断するような性格も窺えます。ロシアとの紛争の引き金を引くことになったのもそんな資質が関係しているのではないでしょうか。

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パキスタン洪水被害、日本も自衛隊ヘリ派遣 イスラム武装勢力は外国援助を拒否 いっそアフガンは?

2010-08-13 22:50:36 | 国際情勢

(パキスタンで洪水被害者救助にあたる米軍とパキスタン軍 “flickr”より By The U.S. Army http://www.flickr.com/photos/soldiersmediacenter/4878605031/)

【援助合戦】
パキスタン北西部を襲った大雨に伴う80年ぶりとも言われる洪水被害は、北西部だけでなく、パキスタンを南北に流れるインダス川下流域の中部パンジャブ州や南部シンド州にも広がっています。
国連などによると、これまでに少なくとも1600人が死亡。被災者は1400万人を超え、このうち少なくとも600万人が速やかな支援を必要としています。 

しかし、政府の救援・援助活動は被害の拡大に追いついていないのが現状のようです。
洪水被害が拡大していた今月1日にザルダリ大統領がフランスとイギリスへ外遊に出たことも、国民の不満に油を注ぐかたちになっていることは、8月7日ブログ「パキスタン タリバン支援の「二枚舌」 民生安定は二の次の国軍・政治家」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100807) でも取り上げたところです。
外遊の目的の一つは、妻の故ブット元首相との間の一人息子で、オックスフォード大を卒業したばかりの長男ビラワル氏(21)が7日に英中部で初演説し政治家デビューを果たすのを見届けることだとも。(結局、ビラワル氏は高まる批判を受け、初演説を取りやめたそうです。)【8月7日 朝日より】

こうした状況で、アメリカとイスラム過激派勢力の“援助合戦”の様相も呈しているとか。
アメリカは10日、新たに2000万ドル(約17億円)の追加食糧支援を発表し、同国の食糧支援の合計は5500万ドル(約47億円)になっています。また、アメリカ政府は、同国のヘリコプターが1000人を超えるパキスタン人を救助したと発表しています。【8月11日 AFPより】

アメリカは、人道上の配慮に加え、対テロ戦を有利に展開するため、パキスタンに広がる反米感情を押さえ込みたいとの考えから、洪水被害者援助に積極的に取り組んでいますが、一方で、もたつく政府対応をよそにアルカイダやタリバン、イスラム過激派ラシュカレトイバとの関係が指摘されるイスラム系団体が、食糧や医薬品などの提供を始めていると伝えられています。【8月6日 産経より】

【TTP:「外国の援助を受け入れるべきではない」】
被害の中心である北西部はイスラム過激派の勢力が強いエリアでもあり、外国援助に対する拒絶、妨害の動きも報じられています。
****パキスタン水害:「人道救援妨害」の懸念高まる*****
パキスタンで続く史上最悪級の大雨洪水被害で、最大被災地の北西部に拠点を置く武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)が政府に対し、「外国の援助を受け入れるべきではない」と脅していることがわかった。外国軍部隊による救援活動を念頭に置いた発言とみられる。TTPは北西部で活動する欧米系援助団体も敵視しており、米国主導の「対テロ」戦の長期化で、05年のパキスタン大地震では見られなかった「人道救援への妨害」の懸念が高まっている。

地元テレビによると、TTPのアザム・タリク報道官が10日、「(TTPは)被災者を救援できる」と声明を出し、外国からの救援を拒否した。実際に攻撃するかどうかは言及しなかったが、日本など各国に救援要請を始めた政府への強いけん制となった。
TTPが脅迫した背景には、米軍など外国軍が国内で活動することへの警戒心とともに、洪水が起きているインダス川流域が、アフガニスタンに駐留する北大西洋条約機構(NATO)軍の物資輸送路と重なっているためだ。TTPと共闘するアフガンの旧支配勢力タリバン幹部は11日、犠牲者への追悼と同時に「NATO輸送路が冠水したことを歓迎する」との声明を出した。
その一方で、北部地域やインダス川沿いの被災地では、数十万人が道路や橋の崩落で孤立。政府による死傷者数などの被害調査も進んでいない。そうした地域の多くが武装勢力の活動域とも重なっていて、「雨と治安」という二重の障壁が救援活動を阻んでいる。
しかし、政府や「対テロ」同盟諸国側、武装勢力側からは現在のところ、人命救助を優先するための「停戦」などを模索する動きは見られない。

水害はパキスタンだけでコントロールできない状況に陥っている。流域で決壊状態にあるインダス川の大規模支流が、大雨の続くアフガンやインドから流入しているためだ。インダス川とチナブ川の合流地点では市域の9割が水没した。
情報省によると、8万人以上が死亡したパキスタン大地震の際は、米軍もアフガン国境地域で救援活動を行ったが、武装勢力が脅迫や攻撃に乗り出すことはなかった。インドがパキスタンと領有権を争うカシミール地方の国境を救援物資輸送のため開けるなど、周辺国との人道協調も目立った。
しかし今回は、政府による国際社会への救援要請が遅れたことや治安悪化への懸念を背景に、各国による救援の動きは遅い。【8月12日 毎日】
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TTPのタリク報道官は、「米国その他の外国による援助は征服につながる」、「米国の援助を受けるべきではない。受け取らないのであれば、われわれが洪水被災者のための救済金として2000万ドル(約17億円)を提供できると」述べ、アメリカが10日に表明した援助額に匹敵する資金を自分たちが出せると断言しています。
さらに、「政府がメンバーを一切逮捕しないと約束すれば、ハキムラ・メスード司令官の指揮の下、われわれ独自の救援物資を人びとに届けるつもりだ」とも語っています。
パキスタン政府の救援活動が遅々として進まないなか、被災地ではイスラム教系慈善団体の存在感が強まっています。【8月11日 AFPより】

【日本:カラチへ自衛隊ヘリ派遣】
日本も援助活動のため、自衛隊ヘリ部隊を派遣する方針です。
****パキスタン:自衛隊ヘリ部隊派遣へ 大洪水で要請受け*****
政府は、パキスタンでの大洪水を受け、国際緊急援助隊派遣法に基づき、自衛隊のヘリコプター部隊を派遣する検討に入った。(中略)
外務省などによると、パキスタン政府から10日、日本政府に対し、援助物資輸送などのためヘリ派遣の要請があった。米国政府からも、現地の被災状況の説明や、同国が救援のためヘリを派遣したことなどが伝えられた。
(中略)大洪水の被災地となったパキスタン北西部は、イスラム武装勢力によるテロが相次ぎ、治安が不安定な地域。対テロ戦争の長期化で貧困層が増大し、これに大洪水の災害が加わり、政情不安に拍車をかけている。
ただ、日本政府は05年、60万軒以上が被災したパキスタン大地震の際、同法に基づき陸上自衛隊のUH1ヘリ6機を約40日間派遣、支援物資の輸送などの救援活動を行った実績があり、今回も復興を支援したい考え。【8月12日 毎日】
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隣国アフガニスタンで医療活動に従事しているキリスト教系非政府組織(NGO)「国際支援ミッション(IAM)」の医師ら10人が射殺された事件(事件後、タリバンが犯行を認め、一行がアフガン人に対しキリスト教への改宗を企てていたと主張しています)があったばかりですので、TTPの外国援助拒否発言から、日本などの援助活動の危険性も危惧されました。
しかし、その後の報道によれば、日本の活動エリアはそうした危険性が高い北西部地域ではなく、比較的安全な南部地域になるようです。

****パキスタンへ調査団 自衛隊洪水救援 政府が今夜派遣****
死者1600人、被災者1400万人に上るパキスタンの洪水被害を受け、政府が国際緊急援助隊派遣法に基づく自衛隊派遣に向け、13日夜に政府調査団を派遣することが分かった。来週末にもヘリコプター部隊を派遣する方針で、同国南部のカラチで被災住民や救援物資の輸送活動を行うことを想定している。
(中略)政府調査団と調査チームの報告を待ち、政府は自衛隊派遣を正式決定する。
(中略)北部は西隣のアフガニスタンと同様に、イスラム武装勢力によるテロが相次ぐなど治安が不安定なため、最南部のカラチで活動する方向で、パキスタン政府や米政府と調整する。(後略)【8月13日 産経】
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最大都市カラチはインダス川河口の海に面した都市ですが、そんな南部でも洪水被害は大きいのでしょうか?
カラチの属するシンド州北部は大きな被害も出ているようですが・・・。
もちろん派遣部隊の安全は大事ですが、現地の人々から感謝されるような有意義な活動を期待します。

7月には、外務省などが検討してきた国連スーダン派遣団(UNMIS)への陸上自衛隊ヘリの派遣(来年1月のスーダン南部の独立を問う住民投票での支援)について、防衛省がこれを拒否し見送りになりました。
“北沢俊美防衛相が、輸送や安全面での懸念の割に自衛隊の存在感を示す効果が薄いことから、派遣に強く反対。費用に100億円、準備に半年間、といった防衛省の試算を示したうえで「準備が間に合わない」と岡田克也外相に通告。”【7月13日 朝日】
朝日コラムで、“自衛隊の存在感を示せるか云々ではなく、現地が必要としているかどうかが重要だろう。そうした活動による信頼の積み重ねが日本の将来の外交につながるのではないか・・・”といった趣旨の批判がありましたが同感です。

【タリバン:「アフガンで戦争をしている国の救援活動は認めない」】
洪水被害は隣国アフガニスタンでも起きています。
タリバンは「アフガンで戦争をしている国の救援活動は認めない」という言い方をしています。
****アフガニスタン:大雨洪水被害 タリバンも支援拒否 「人道休戦」を否定****
アフガニスタンなどで続く大雨洪水被害は12日、アフガン東部を中心に計114人の死亡が確認された。被害は拡大する見込みだが、旧支配勢力タリバン報道官は同日、電話取材に「アフガンで戦争をしている国の救援活動は認めない」と語り、米軍などとの「人道休戦」の可能性を否定した。
対米闘争で連携するパキスタンの武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)と同様、外国軍の救援活動への妨害を示唆したものだ。ただ、「被災者には国際的な援助が必要だ。アフガンに軍隊を派遣していない国の救援は受け入れたい」とも述べ、柔軟姿勢も見せた。
被害が集中する東部地域は、パキスタン北西部とともにタリバンの影響力が強く、政府は多くの地域で被害調査すらできていない。救援当局者は電話取材に「救援から孤立する被災者が増えかねない」と危機感を示した。【8月13日 毎日】
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戦闘部隊を派遣していない日本なら援助活動も受け入れられるのではないでようか?タリバンも国際援助自体は必要としているようですので。
援助活動を通じてのタリバン勢力との関係をつくることは、今後焦点となってくるであろうタリバンとの和解協議において、それこそ日本の“存在感”を示すことにもつながるのではないでしょうか?

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ミャンマー  総選挙、少数民族問題、対外関係の動向

2010-08-12 23:40:49 | 国際情勢

(軍政側のスパイの嫌疑でカレン民族同盟の兵士に捕えられた男性 “flickr”より By JPHulme
http://www.flickr.com/photos/jphulme/2181621889/)

【民主勢力への圧力を強める軍事政権】
ミャンマー軍事政権は国際的な批判をものともせず、独自路線を進んでいるように見えます。
ミャンマーの抱える当面の課題は、年内に予定されている総選挙と少数民族の動向のふたつです。

総選挙については、これまでも取り上げてきたように、民主化運動の象徴、スー・チーさんは軍政容認につながる選挙への不参加を選択し、彼女が率いてきた最大野党・国民民主連盟(NLD)は解党に至りました。
しかし、たとえどんな状況下であっても選挙に参加し民意の受け皿となるべきとする幹部もおり、彼らは国民民主勢力(NDF)として総選挙参加を決めています。

****ミャンマー 民主新党、NDF本部開設 軍政圧力強化懸念も*****
ミャンマーの最大野党だった国民民主連盟(NLD)の元幹部4人が中心となって結成した新党、国民民主勢力(NDF)の本部開所式が1日、同国最大都市ヤンゴンで行われた。タン・ニヤン委員長は、年内に行われる総選挙に向けた準備が整いつつあるとして「次の選挙では完全な民主主義の達成は難しいが、一歩でも民主主義を前進させよう」と決意を語った。
式典には在ヤンゴンの米国大使館の書記官2人も参列した。あいさつでタン・ニヤン委員長は、これまでに全国に50支部を開設し、候補100人を擁立する準備が整ったとし、今後、さらに候補者を増やす方針を示した。また、民主化運動指導者でNLDを率いたアウン・サン・スー・チーさんが、総選挙をボイコットしたことについては「NLDはわれわれの母体であり、批判はしない」と述べた。
一方、中央選挙管理委員会は7月31日、同委員長らNDF幹部4人を呼び、過去の政治行動について釈明し、今後は国民和解実現のため政府への協力を誓う書簡を提出するよう求めた。
NDF側は、すでに政党登録が認められていることに加え、選管側が選挙告示前にこうした手続きを知らせてきたことを歓迎、書簡提出には応じる方針だ。
ただ、問題とされる政治行動は1990年の選挙でNLDが圧勝、政権樹立に動いたことを挙げている。このため今後、NDFが新たな民主化勢力として国民の支持を集めるにつれ、軍政から圧力が強まるものとNDF側は懸念している。【8月2日 産経】
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「過去の政治行動について釈明し、政府への協力を誓う書簡」提出を求めるというのも、踏み絵を迫るようなえげつなさがありますが、総選挙に参加していくためには「耐えがたきを耐え・・・」という辛抱も必要でしょう。
軍政と正面から敵対しての民主化運動の展開が見込めないミャンマーの現状にあっては、実質的に軍政が形を変えた新憲法枠組みではありますが、とにもかくにも、議会内に一定勢力を確保することが今後の民主化運動の出発点になります。

ただ、そうは言っても、軍政側の思いどおりに進む事態に、今度の選挙がどんなものになるのか不安が増します。
*****ミャンマー 民主勢力に圧力 総選挙へ観光入国も禁止****
ミャンマー軍政が年内にも実施する総選挙での与党圧勝に向け、民主派政党への圧力を強めている。また、外国メディアによる選挙取材も認めず、選挙期間中は観光客の入国さえ認めない方針という。報道関係者が観光客として入国することを避ける狙いとみられる。軍政は東南アジア諸国連合(ASEAN)が提案した選挙監視団受け入れにも消極的だ。公正で開かれた選挙を求める各国の要求を無視するもので、民主化勢力は反発を強めている。

軍政は総選挙の実施時期を発表していないが、現状では11月か12月となる可能性が高い。こうした中、反軍政を掲げるミャンマー民主党は10日、特別警察が同党の党員宅を訪れ、履歴書と写真の提出を求め圧力をかけているとして、選挙管理委員会に改善を求める書簡を出したことを明らかにした。フランス通信(AFP)が伝えた。
それによると、同党のトゥ・ウェイ委員長は選管に提出した1千人の党員名簿が情報当局に渡されており、「身の危険を感じ、立候補を取りやめた者もいる。当局はわが党の伸長を望んでいない」と述べた。そのうえで、親軍政の政党について「金や力を使っても国民が自由に投票できれば、彼らは票はとれない。だから他の政党に圧力をかけているのだ」と指摘。同党は国民の期待に応えるためにも選挙はボイコットしないと語った。
一方、反軍政メディア「イラワディ」によると、軍政当局者は、総選挙が11月中旬からの乾期に行われるとしたうえで、乾期には入国制限が行われると述べた。今春から導入された空港到着時点でのビザ発行も停止され、米欧や西側諸国からの旅行者は認められないだろうと語った。【8月12日 産経】
*********************************

ミャンマー民主党は、国民民主連盟(NLD)とは別系列で、3月末にトゥ・ウェイ氏(78)が軍主導の民主化の動きに対抗する勢力として設立を発表した政党です。初代首相ウ・ヌー氏の娘や、2代首相バ・スエ氏の娘が名を連ねています。

1千人の党員名簿提出が求めらており、それが軍政側に渡るということには、確かに身の危険の不安を感じます。
立候補だけでなく、党員名簿に名を連ねることも大変な覚悟を要します。
“1千人の党員”を政党登録の要件にしたことについては「少数政党の乱立を防ぐ狙い」とも説明されていますが、名簿で反軍政思想の者を把握しようという思惑もあったのか・・・とも邪推されます。

【抵抗を強める少数民族武装組織】
少数民族問題については、カレン族の抵抗が報じられています。
****ミャンマーの少数民族、軍部隊を襲撃 兵士9人死亡****
タイ治安当局によると、国境を流れるモエイ川からミャンマー(ビルマ)側に約2キロ入ったカイン(カレン)州で3日、同地域を実質支配する少数民族の武装勢力「カレン民族同盟」(KNU)が、KNU掃討を目指すミャンマー軍事政権の部隊を襲撃。爆弾攻撃で軍政側の兵士9人が死亡、12人が重軽傷を負った。
KNUは軍政と停戦に応じずに独立闘争を続ける同国唯一の武装勢力で、軍政は掃討を目的とした攻勢を強める可能性がある。タイ当局によると、両者の戦闘は最近になって激化しており、7月末にも千人近くのカレン族住民が避難で越境したが、タイ当局が強制送還したという。【8月4日 朝日】
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多くの部族は一定の自治裁量を与えられる形で、武装組織を維持したまま、軍政との停戦合意を結んできましたが、この武装組織を政府軍の指揮下に組み込もうとする軍政側の動きに対し、反発も強まっています。
****ミャンマー:爆発で2人死亡、8人負傷****
ミャンマー東部のタイ国境の町ミヤワディで6日夜、爆発物が爆発し少なくとも男性2人が死亡、8人が負傷した。AFP通信は当局者の話として、死亡した2人が爆発物を仕掛けようとして誤って爆発させた可能性があると伝えた。爆発物は自動車から市場に投げ込まれたとの情報もある。
ミヤワディがあるカイン(カレン)州東部では、少数民族カレン族の武装組織「カレン民族同盟」(KNU)が反政府武装闘争を続けている。一方で今年実施の総選挙を前に軍事政権は、KNUから分裂した政権寄りの「民主カレン仏教徒軍」(DKBA)に対し、今月10日までに国境警備隊として完全に政府軍の指揮下に入るよう求めている。
DKBAが政府軍に統合されれば、カレン族はタイとの国境密貿易で得ている利益を失う。爆発事件の背景は不明だが、ミヤワディ周辺では今月に入り武装勢力による政府軍への襲撃が相次いでいる。【8月7日 毎日】
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少数民族側の抵抗には、“国境密貿易で得ている利益”(部族によっては麻薬製造も)という既得権益が絡んでいるようです。

【インドも軍政との関係改善へ】
対外的な面では、国際社会から同じように批判を浴びている北朝鮮との接近が報じられています。
*****ミャンマー:北朝鮮外相が訪問 首相らと会談******
北朝鮮の朴宜春(パク・ウィチュン)外相は30日から31日にかけ、ミャンマーの首都ネピドーで軍事政権のテインセイン首相、ニャンウィン外相、チョーサン情報相と相次いで会談した。会談内容は不明だが、2国間協力強化などを話し合ったとみられる。
北朝鮮外相のミャンマー公式訪問は、07年の国交回復後初めて。両国は1983年の北朝鮮工作員による爆破テロ「ラングーン事件」で断交したが、共に国際社会で孤立を深めた90年代以降、水面下で協力関係を再開したとされる。
ミャンマー側は首相が朴外相と会談することで北朝鮮重視の姿勢を示す一方、最高指導者のタンシュエ国家平和発展評議会議長は会談に応じなかった。北朝鮮によるミャンマー核開発支援疑惑など、両国関係の強化に懸念を示す米国などに一定の配慮を示した形だ。・・・【7月31日 毎日】
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ミャンマーが、北朝鮮の協力支援で国内数カ所の施設で核開発を進めているとの報道もあったように、最近の両国の接近は周知のところですが、インドも中国に対抗する形でミャンマーに秋波を送っているとか。

****インド舞台の外交 中国の影 ミャンマーと協力、前面****
ミャンマー軍事政権トップのタン・シュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長が、(7月)25日から5日間の日程でインドを訪問している。「世界最大の民主主義国家」を自負するインドはかつて、ミャンマーの民主化運動を弾圧する軍事政権を激しく非難した歴史をもつ。しかしミャンマーで影響力を拡大する中国への対抗上、同議長を厚遇し軍政との協力姿勢をアピールするなど、現実路線を強めている。(中略)
インドのこうした対応は、かつては考えられないことだった。1980年代後半から90年代前半までは軍政を厳しく批判していたからだ。特に88年の民主化運動の際には、スー・チーさんら民主勢力を支持する姿勢を鮮明にしていた。(中略)
しかし、インドが欧米とともに軍政批判を強めている間に、中国がミャンマーで影響力を拡大した。ベンガル湾に面するミャンマーの港湾では、整備支援などを通じて中国の存在感が高まっており、インドにとっては安全保障上の問題にもなっている。
こうしたことから、インドは少しずつ軸足を軍政批判から関係改善へ移し、2006年にはカラム大統領(当時)がミャンマーを訪問、関係を強化する方針を打ち出した。【7月29日 産経】
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民主化云々の理念より、安全保障的な立場が優先するのが国家の論理・・・と言えばそれまですが、北朝鮮やイランと同様に、中国が問題国との関係を維持・強化することで国際的批判の実効を失わせています。
中国は、国際社会における中国のイメージアップ戦略の一環として、中国政府が主導する「国家イメージ広告」を作成中で、10月1日の国慶節(建国記念日)に合わせ、アメリカやアジア・アフリカなど世界中の主要メディアで放映する意向と報じられています。しかし、そうしたイメージ戦略より、現実の外交路線を再考することの方が、中国の評価を高めることにつながると思うのですが・・・。

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