
(キャメロン英首相 当初の思惑とは随分違う展開とはなりましたが・・・ “flickr”より By Bernard Bujold - https://www.flickr.com/photos/lestudio1/15284870271/in/photolist-phEXq4-pfV3DQ-phEXJa-p1CJT9-phzgCu-p1rPX8-p1g4tM-pikrG2-p1wCQs-pgt9YQ-p1bggp-picXfU-phXZKS-p1c4zZ-phV7qR-pfBV3w-p1sjuj-phL4Rp-pfCJ3y-p1G4pR-p1gp6L-p16Ko9-pfyoeJ-pfBDb1-p1bTTA-p17LWe-pi7sw4-phjiee-phmHD2-p192g5-pfzARf-p14pWs-p1fxdj-p14P6x-pfGnay-phxknC-pfy5fY-phsRJP-phGDSL-pfB5os-pfG7c7-phQdXt-phgCFB-pi18pe-pfAwgw-p1M2VY-phgWBr-p1APCn-p1HPrK-p1gXNE)
【中国メディア:「住民投票の実施を称えるのは主にポピュリストと分裂主義者だ」】
世界が注目したスコットランド独立を問う住民投票は、周知のように、“独立に賛成”が161万7989票(45%)、“独立に反対”が200万1926票(55%)ということで、イギリスの分裂は回避されました。
イギリス・キャメロン政権が住民投票に応じたのは、この問題を民主的に解決すると言うよりは、勝てる自信があったので、敢えて投票に持ち込むことで決着を図る意図があったと思われます。
結果的には、分離独立という世界各地で紛争の火種となっている問題について、民主主義発祥国らしく住民の意思に委ねる形をとり、一時はきわどい場面もありましたが、最終的には連合王国の統一を維持するという穏当な結論を得ることができました。
イギリス分裂は避けられたものの、住民投票を通じて深まった感があるスコットランドとイングランド等の間の信頼感・絆を今後回復できるのか、議会にはかることなく、いささか緊急避難的に約束されたスコットランドの自治権拡大をいかに実現していくか、他の地域も同様の自治権拡大を要求するものと思われ、その場合イギリスの統一がどのように変質するのか・・・等々、イギリス国内にも多くの問題を残しています。
また、欧州にはスペインのカタルーニャをはじめ、北イタリアやベルギーなど、分離独立の動きが多数存在しているなかで、今回のスコットランド住民投票がこのような動きを加速させることも懸念されています。
そもそもの話として、分離独立という国家分裂を招く問題を住民投票にゆだねることについての議論もあります。
チベット族やウイグル族の独立勢力、更には香港・台湾といった微妙な問題を抱える中国は、政府としては「イギリスの内政であり、コメントしない」としていますが、党機関紙傘下のメディアは「住民投票の実施を称(たた)えるのは主にポピュリストと分裂主義者だ」と批判しています。
****スコットランド残留 中国メディア「住民は『統一』選択」 国内の“分裂主義”を牽制****
スコットランドで行われた住民投票について、20日付の中国各紙は住民が「統一」を選択したと伝えた。中国国内の分裂主義者や国外の支持勢力を暗に批判した形だ。
中国外務省の洪磊報道官は19日の定例記者会見で「英国の内政であり、評論しない」と評価を避けた。
中国は「台湾は中華人民共和国の一部」だと主張しているほか、国内にチベット族やウイグル族の独立勢力という「核心的利益」に関わる火種を抱えている。
今回の住民投票は、欧州の他地域の分離独立勢力にも影響を及ぼしかねない情勢となっており、習近平指導部は神経をとがらせているものとみられる。
中国共産党機関紙、人民日報傘下の国際情報紙、環球時報(英語版)は20日付の社説で、「住民投票の実施を称(たた)えるのは主にポピュリストと分裂主義者だ」とした上で、「国の分裂は核心的利益について争いを招く」と主張した。
さらに、「西側には発展途上国の分裂を支持する国がある。その支持は戦略的利益に基づいている」と指摘し、中国の「核心的利益」に対する欧米諸国の干渉を牽制(けんせい)した。【9月20日 産経】
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カタルーニャを抱えるスペイン政府なども、本音としては同じようなところでしょう。
ロシアは、“住民投票の結果を受けてウクライナからクリミアを一方的に編入しましたが、かつてロシアからの独立を主張したチェチェンを軍事力で抑え分離独立に強く反対してきたことから、スコットランドの住民投票については、静観する姿勢をみせています”【9月19日 NHK】とのことですが、ウクライナ東部の親ロシア派勢力は、欧米諸国のダブルスタンダードを批判しています。
****スコットランド独立否決は「不正」=ウクライナ東部の親ロ派****
ウクライナ東部の独立を主張する親ロシア派「ドネツク人民共和国」幹部のルデンコ氏は19日、英北部スコットランドで反対が多数を占めた独立をめぐる住民投票について、「賛成と反対に大差はなく、不正が行われた可能性がある」と勝手に決め付けた。インタファクス通信が伝えた。
親ロ派は5月に独立に向けた住民投票を強行して「9割が賛成した」と主張。スコットランドに一方的に共感を抱いているが、親ロ派の住民投票では深刻な不正が指摘されている。ルデンコ氏は、スコットランドの住民投票が公式な選挙と認められる一方、親ロ派の住民投票が黙殺されたのは「二重基準だ」と批判した。【9月19日 時事】
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不正云々は論外として、また、ウクライナ東部で行われた住民投票の信憑性も別にして、もしスコットランドの独立が住民投票で決定されるのであれば、住民投票によって決定されたクリミアの分離・ロシア編入も支持されryべき・・・という議論は当然にあってしかるべきものでしょう。
クリミアの場合、反対派が投票に参加しませんでしたが、ロシア系住民が多数を占めている現実を考えると、オープンな投票が行われたとしてもウクライナからの分離・ロシア編入が過半数を獲得するものと思われます。
ロシアの軍事介入という問題があるにせよ、住民が国家帰属を選択するという基本問題においては、民主的な方法で選択したと評価されるスコットランドも、欧米から厳しく批判されるクリミアも同列にあると言えるでしょう。
一般国民には、国家帰属を冷静・理性的に判断する能力がない、あるいは、そもそも国家はアプリオリに存在するものであり、国家帰属は住民が決めるべきものではない・・・・という立場にたてば、中国メディアのような「住民投票の実施を称(たた)えるのは主にポピュリストと分裂主義者だ」という考えになります。
個人的には、民族主義的な立場から同質なものだけに純化していこうという傾向が強い分離独立の動きよりは、異質なものとの間で妥協・融和を行い、より大きなメリットを目指す方向を是とはしますが、もし、どうしても一緒にやっていけない・・・という思いがあるのであれば、住民の意思に基づいて国家帰属を決定するというのがやはりあるべき姿だと考えます。
それは、日本という国家についても同様です。
****独立否決に日本ホッ 憲法は独立想定せず****
スコットランドの英国からの独立の是非を問う住民投票が否決されたことを受け、日本政府内では「混乱が避けられた」と歓迎するムードが流れた。沖縄には独立を主張するグループがあり、こうした動きが強まるとの観測があったためだ。
菅義偉官房長官は19日の記者会見で、「政府としてコメントは差し控えたいが、大きな混乱がなくてよかった」と、安堵(あんど)の表情を浮かべた。
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の県内移設に反対意見の根強い沖縄には、「琉球独立」を主張するグループがある。琉球独立論について問われた菅氏は「日本では英国のように住民投票で帰属を決めるところまで、歴史的にもなじんでいないのではないか」と述べ、非現実的との認識を示した。
日本国憲法には、地方自治体や国内の一部地域が日本から独立することを想定した規定はない。1997年2月13日の衆院予算委員会で、大森政輔内閣法制局長官(当時)は「独立というのは一国の主権、領土から離脱することであり、現行憲法はそれに関する規定がない。適法にそのような行為(独立)はできないのではないか」と答弁している。
仮に自治体や地域が条例で住民投票を行い、独立を宣言したとしても、無効と判断される可能性が高いと考えられている。条例を裏付ける関連法が存在しないためだ。(後略)【9月20日 毎日】
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上記見解には異論もあるようですが、いずれにしても憲法が想定しない云々は形式論であり、問題の本質とはあまり関係がない話のように思えます。
【ラホイ首相:「(EUは)統合のためであり、分離のためではない」】
今回のスコットランド住民投票が明らかにした問題は、地域・国家・EUの関係をめぐる問題です。
おそらくEUという大枠が存在しなければ、スコットランドもそう容易には分離独立を主張できなかったものと思われます。(分離独立後にEU加盟が認められるかという現実的な話はまた別にして)
欧州指導部には、EUの存在が地域主義・分離運動の拡大を招いているとの警戒感があります。
フランス・オランド大統領は、「スコットランドの住民投票が示しているように、国家の統一からの解放は可能だ。だが、私たちは解体するために欧州を建設してきたのではない」と語っています。
スペインのラホイ首相も、EUは「統合のためであり、分離のためではない」と強調しています。
****スコットランドの英残留 欧州統合が抱えるジレンマ映す****
英北部スコットランドの住民投票で独立が否決されたのを受け、欧州連合(EU)では19日、英国の分裂が回避されたことに安堵(あんど)が広がった。
ただ、分離独立運動の高まりの背景には、国家の代わりにEUからの庇護(ひご)が得られるとの期待もあり、英国の事例は高度に進んだ欧州統合のジレンマも映し出したといえる。
バローゾ欧州委員長は19日、住民投票を受けた声明を発表し、「欧州委員会が支持する、団結し、開かれた強い欧州にとり、よい結果だ」と強調した。これまでは国内問題として中立姿勢を保ってきたが結果を明確に歓迎した。
欧州では英国のほか、スペインやベルギーなどでも分離独立機運の高まりが懸念されている。北大西洋条約機構(NATO)のロバートソン元事務総長はこうした動きが旧ユーゴ解体のような「バルカン化」を招き、「地政学的変動」を起こすとも警告。EUも英国の行方が波及するのを憂慮していたのが本音だ。
英国の分裂は免れたが、一方でスコットランドの住民投票は欧州統合の新たな課題を示したとの見方もある。専門家からは、EUがなければスコットランドは独立を目指しただろうか、との疑問も投げかけられた。
加盟国なら経済的には約5億人という自由化された巨大市場が確保される。国家の安全保障はEUに守られ、NATOに加盟すれば、米国を含む集団防衛の傘に入る。加盟国は統合の進展に伴い主権をEUに移譲してきたが、小国ほどそのメリットは大きい。
「国家が欧州の統治全体の中間管理職に縮小し、より小さな統治体でも代替できると思われた」。米ブルッキングス研究所の欧米担当責任者、フィオナ・ヒル氏はスコットランドの動きをこう分析。
スペインのラホイ首相はEUは「統合のためであり、分離のためではない」と強調した。
債務危機に伴う財政緊縮策などでEUではフランスなど各地で反EU感情が問題化。
EU離れの先頭を走るのは英国だ。
「遠心力」の対応が課題の一方、EUの「求心力」が加盟国の“細分化”を促しかねない皮肉な状況ともいえる。
ヒル氏は「強いアイデンティティーを持つ地方が国家と共存できるか、欧州の強さとも調和する形で分離できるか、その手法をEUは開拓する必要がある」とも指摘する。【9月20日 産経】
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既存の国家と言う枠組みを前提にすれば、分離運動加速はEUの進める欧州統合がもたらす副作用と言う話にもなりますが、既存の国家の枠組みにとらわなければ、分離・細分化した国家(地域)がEUという大枠のもとで統合されるという道も選択肢のひとつとなります。
****地域主義拡大の指摘 EUは歓迎****
英スコットランドの住民投票で独立が否決されたことについて欧州連合(EU)は19日、歓迎の声明を発表した。
EUには法的に独立への準備がなく、オランド仏大統領が住民投票自体を批判するなど独立が成立すればEUが割れた可能性もある。EU統合が進むにつれ、地域にアイデンティティーを求める地域主義が加速するとの指摘もあり、今回は地域の権限拡大を求める「波」の始まりとの見方も出ている。(中略)
EU外交筋は独立が否決され「複雑な仕事をしなくて済む」と話す一方、スペイン、ベルギーなど各地で独立・自主権拡大要求の「波が来る」と憂慮し、「民主主義は結構だが、それが望ましいのだろうか」と自問する。
EUは近代国家の集合体で、既存の国家や国境線をおびやかす分離独立・自主権拡大を恐れるのは自然だ。
だが、地域主義に詳しいベサリウス大(ブリュッセル)のフィッセウン教授は「EUの中央集権化を補う形で、地域にアイデンティティーを求める動きは進む」と見る。
ベルギーで自主権拡大を主張するオランダ語圏の地域政党「新フランドル同盟」は、EU統合が進めば「ベルギーという国家の意味がなくなり蒸発する」と唱える。過
激な主張だが、アントワープ大(オランダ)のバイエン教授(歴史学)は「EU統合やグローバル化で、自分たちのアイデンティティーが失われそうになる中、地域に答えを見いだした」とみる。
ドイツのシンクタンク・ナウマン財団のシュタイン欧州機構研究局長は、EUの枠内で独立や分裂が進むと予測。
各地の独立・自主権拡大運動がEU枠内に残ることを主張していると指摘したうえで、それはEU統合の失敗を必ずしも意味しないという。
「米国は自治権を持った50州の集合体だがEUはまだ28カ国。機構改革に取り組めば、EU枠内にとどまりながらの分離独立が逆にEUへの求心力を増して統合を成功に導く可能性もある」と指摘する。【9月19日 毎日】
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今回の住民投票結果はイギリス残留という穏当な結果になりましたが、そのことで、住民投票で国家帰属を決定することの問題やEUとの関係という本質的な問題が表に噴出すことなく、曖昧な形で終わったとも言えます。