孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スコットランド  住民投票で国家帰属を決めるということ 地域・国家・EUの関係

2014-09-20 22:00:47 | 欧州情勢

(キャメロン英首相 当初の思惑とは随分違う展開とはなりましたが・・・ “flickr”より By Bernard Bujold - https://www.flickr.com/photos/lestudio1/15284870271/in/photolist-phEXq4-pfV3DQ-phEXJa-p1CJT9-phzgCu-p1rPX8-p1g4tM-pikrG2-p1wCQs-pgt9YQ-p1bggp-picXfU-phXZKS-p1c4zZ-phV7qR-pfBV3w-p1sjuj-phL4Rp-pfCJ3y-p1G4pR-p1gp6L-p16Ko9-pfyoeJ-pfBDb1-p1bTTA-p17LWe-pi7sw4-phjiee-phmHD2-p192g5-pfzARf-p14pWs-p1fxdj-p14P6x-pfGnay-phxknC-pfy5fY-phsRJP-phGDSL-pfB5os-pfG7c7-phQdXt-phgCFB-pi18pe-pfAwgw-p1M2VY-phgWBr-p1APCn-p1HPrK-p1gXNE)

中国メディア:「住民投票の実施を称えるのは主にポピュリストと分裂主義者だ」】
世界が注目したスコットランド独立を問う住民投票は、周知のように、“独立に賛成”が161万7989票(45%)、“独立に反対”が200万1926票(55%)ということで、イギリスの分裂は回避されました。

イギリス・キャメロン政権が住民投票に応じたのは、この問題を民主的に解決すると言うよりは、勝てる自信があったので、敢えて投票に持ち込むことで決着を図る意図があったと思われます。

結果的には、分離独立という世界各地で紛争の火種となっている問題について、民主主義発祥国らしく住民の意思に委ねる形をとり、一時はきわどい場面もありましたが、最終的には連合王国の統一を維持するという穏当な結論を得ることができました。

イギリス分裂は避けられたものの、住民投票を通じて深まった感があるスコットランドとイングランド等の間の信頼感・絆を今後回復できるのか、議会にはかることなく、いささか緊急避難的に約束されたスコットランドの自治権拡大をいかに実現していくか、他の地域も同様の自治権拡大を要求するものと思われ、その場合イギリスの統一がどのように変質するのか・・・等々、イギリス国内にも多くの問題を残しています。

また、欧州にはスペインのカタルーニャをはじめ、北イタリアやベルギーなど、分離独立の動きが多数存在しているなかで、今回のスコットランド住民投票がこのような動きを加速させることも懸念されています。

そもそもの話として、分離独立という国家分裂を招く問題を住民投票にゆだねることについての議論もあります。

チベット族やウイグル族の独立勢力、更には香港・台湾といった微妙な問題を抱える中国は、政府としては「イギリスの内政であり、コメントしない」としていますが、党機関紙傘下のメディアは「住民投票の実施を称(たた)えるのは主にポピュリストと分裂主義者だ」と批判しています。

****スコットランド残留 中国メディア「住民は『統一』選択」 国内の“分裂主義”を牽制****
スコットランドで行われた住民投票について、20日付の中国各紙は住民が「統一」を選択したと伝えた。中国国内の分裂主義者や国外の支持勢力を暗に批判した形だ。

中国外務省の洪磊報道官は19日の定例記者会見で「英国の内政であり、評論しない」と評価を避けた。

中国は「台湾は中華人民共和国の一部」だと主張しているほか、国内にチベット族やウイグル族の独立勢力という「核心的利益」に関わる火種を抱えている。

今回の住民投票は、欧州の他地域の分離独立勢力にも影響を及ぼしかねない情勢となっており、習近平指導部は神経をとがらせているものとみられる。

中国共産党機関紙、人民日報傘下の国際情報紙、環球時報(英語版)は20日付の社説で、「住民投票の実施を称(たた)えるのは主にポピュリストと分裂主義者だ」とした上で、「国の分裂は核心的利益について争いを招く」と主張した。

さらに、「西側には発展途上国の分裂を支持する国がある。その支持は戦略的利益に基づいている」と指摘し、中国の「核心的利益」に対する欧米諸国の干渉を牽制(けんせい)した。【9月20日 産経】
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カタルーニャを抱えるスペイン政府なども、本音としては同じようなところでしょう。

ロシアは、“住民投票の結果を受けてウクライナからクリミアを一方的に編入しましたが、かつてロシアからの独立を主張したチェチェンを軍事力で抑え分離独立に強く反対してきたことから、スコットランドの住民投票については、静観する姿勢をみせています”【9月19日 NHK】とのことですが、ウクライナ東部の親ロシア派勢力は、欧米諸国のダブルスタンダードを批判しています。

****スコットランド独立否決は「不正」=ウクライナ東部の親ロ派****
ウクライナ東部の独立を主張する親ロシア派「ドネツク人民共和国」幹部のルデンコ氏は19日、英北部スコットランドで反対が多数を占めた独立をめぐる住民投票について、「賛成と反対に大差はなく、不正が行われた可能性がある」と勝手に決め付けた。インタファクス通信が伝えた。

親ロ派は5月に独立に向けた住民投票を強行して「9割が賛成した」と主張。スコットランドに一方的に共感を抱いているが、親ロ派の住民投票では深刻な不正が指摘されている。ルデンコ氏は、スコットランドの住民投票が公式な選挙と認められる一方、親ロ派の住民投票が黙殺されたのは「二重基準だ」と批判した。【9月19日 時事】 
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不正云々は論外として、また、ウクライナ東部で行われた住民投票の信憑性も別にして、もしスコットランドの独立が住民投票で決定されるのであれば、住民投票によって決定されたクリミアの分離・ロシア編入も支持されryべき・・・という議論は当然にあってしかるべきものでしょう。

クリミアの場合、反対派が投票に参加しませんでしたが、ロシア系住民が多数を占めている現実を考えると、オープンな投票が行われたとしてもウクライナからの分離・ロシア編入が過半数を獲得するものと思われます。

ロシアの軍事介入という問題があるにせよ、住民が国家帰属を選択するという基本問題においては、民主的な方法で選択したと評価されるスコットランドも、欧米から厳しく批判されるクリミアも同列にあると言えるでしょう。

一般国民には、国家帰属を冷静・理性的に判断する能力がない、あるいは、そもそも国家はアプリオリに存在するものであり、国家帰属は住民が決めるべきものではない・・・・という立場にたてば、中国メディアのような「住民投票の実施を称(たた)えるのは主にポピュリストと分裂主義者だ」という考えになります。

個人的には、民族主義的な立場から同質なものだけに純化していこうという傾向が強い分離独立の動きよりは、異質なものとの間で妥協・融和を行い、より大きなメリットを目指す方向を是とはしますが、もし、どうしても一緒にやっていけない・・・という思いがあるのであれば、住民の意思に基づいて国家帰属を決定するというのがやはりあるべき姿だと考えます。

それは、日本という国家についても同様です。

****独立否決に日本ホッ 憲法は独立想定せず****
スコットランドの英国からの独立の是非を問う住民投票が否決されたことを受け、日本政府内では「混乱が避けられた」と歓迎するムードが流れた。沖縄には独立を主張するグループがあり、こうした動きが強まるとの観測があったためだ。

菅義偉官房長官は19日の記者会見で、「政府としてコメントは差し控えたいが、大きな混乱がなくてよかった」と、安堵(あんど)の表情を浮かべた。

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の県内移設に反対意見の根強い沖縄には、「琉球独立」を主張するグループがある。琉球独立論について問われた菅氏は「日本では英国のように住民投票で帰属を決めるところまで、歴史的にもなじんでいないのではないか」と述べ、非現実的との認識を示した。

日本国憲法には、地方自治体や国内の一部地域が日本から独立することを想定した規定はない。1997年2月13日の衆院予算委員会で、大森政輔内閣法制局長官(当時)は「独立というのは一国の主権、領土から離脱することであり、現行憲法はそれに関する規定がない。適法にそのような行為(独立)はできないのではないか」と答弁している。

仮に自治体や地域が条例で住民投票を行い、独立を宣言したとしても、無効と判断される可能性が高いと考えられている。条例を裏付ける関連法が存在しないためだ。(後略)【9月20日 毎日】
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上記見解には異論もあるようですが、いずれにしても憲法が想定しない云々は形式論であり、問題の本質とはあまり関係がない話のように思えます。

ラホイ首相:「(EUは)統合のためであり、分離のためではない」】
今回のスコットランド住民投票が明らかにした問題は、地域・国家・EUの関係をめぐる問題です。

おそらくEUという大枠が存在しなければ、スコットランドもそう容易には分離独立を主張できなかったものと思われます。(分離独立後にEU加盟が認められるかという現実的な話はまた別にして)

欧州指導部には、EUの存在が地域主義・分離運動の拡大を招いているとの警戒感があります。

フランス・オランド大統領は、「スコットランドの住民投票が示しているように、国家の統一からの解放は可能だ。だが、私たちは解体するために欧州を建設してきたのではない」と語っています。
スペインのラホイ首相も、EUは「統合のためであり、分離のためではない」と強調しています。

****スコットランドの英残留 欧州統合が抱えるジレンマ映す****
英北部スコットランドの住民投票で独立が否決されたのを受け、欧州連合(EU)では19日、英国の分裂が回避されたことに安堵(あんど)が広がった。

ただ、分離独立運動の高まりの背景には、国家の代わりにEUからの庇護(ひご)が得られるとの期待もあり、英国の事例は高度に進んだ欧州統合のジレンマも映し出したといえる。

バローゾ欧州委員長は19日、住民投票を受けた声明を発表し、「欧州委員会が支持する、団結し、開かれた強い欧州にとり、よい結果だ」と強調した。これまでは国内問題として中立姿勢を保ってきたが結果を明確に歓迎した。

欧州では英国のほか、スペインやベルギーなどでも分離独立機運の高まりが懸念されている。北大西洋条約機構(NATO)のロバートソン元事務総長はこうした動きが旧ユーゴ解体のような「バルカン化」を招き、「地政学的変動」を起こすとも警告。EUも英国の行方が波及するのを憂慮していたのが本音だ。

英国の分裂は免れたが、一方でスコットランドの住民投票は欧州統合の新たな課題を示したとの見方もある。専門家からは、EUがなければスコットランドは独立を目指しただろうか、との疑問も投げかけられた。

加盟国なら経済的には約5億人という自由化された巨大市場が確保される。国家の安全保障はEUに守られ、NATOに加盟すれば、米国を含む集団防衛の傘に入る。加盟国は統合の進展に伴い主権をEUに移譲してきたが、小国ほどそのメリットは大きい。

「国家が欧州の統治全体の中間管理職に縮小し、より小さな統治体でも代替できると思われた」。米ブルッキングス研究所の欧米担当責任者、フィオナ・ヒル氏はスコットランドの動きをこう分析。
スペインのラホイ首相はEUは「統合のためであり、分離のためではない」と強調した。

債務危機に伴う財政緊縮策などでEUではフランスなど各地で反EU感情が問題化。
EU離れの先頭を走るのは英国だ。

「遠心力」の対応が課題の一方、EUの「求心力」が加盟国の“細分化”を促しかねない皮肉な状況ともいえる。

ヒル氏は「強いアイデンティティーを持つ地方が国家と共存できるか、欧州の強さとも調和する形で分離できるか、その手法をEUは開拓する必要がある」とも指摘する。【9月20日 産経】
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既存の国家と言う枠組みを前提にすれば、分離運動加速はEUの進める欧州統合がもたらす副作用と言う話にもなりますが、既存の国家の枠組みにとらわなければ、分離・細分化した国家(地域)がEUという大枠のもとで統合されるという道も選択肢のひとつとなります。

****地域主義拡大の指摘 EUは歓迎****
英スコットランドの住民投票で独立が否決されたことについて欧州連合(EU)は19日、歓迎の声明を発表した。

EUには法的に独立への準備がなく、オランド仏大統領が住民投票自体を批判するなど独立が成立すればEUが割れた可能性もある。EU統合が進むにつれ、地域にアイデンティティーを求める地域主義が加速するとの指摘もあり、今回は地域の権限拡大を求める「波」の始まりとの見方も出ている。(中略)

EU外交筋は独立が否決され「複雑な仕事をしなくて済む」と話す一方、スペイン、ベルギーなど各地で独立・自主権拡大要求の「波が来る」と憂慮し、「民主主義は結構だが、それが望ましいのだろうか」と自問する。

EUは近代国家の集合体で、既存の国家や国境線をおびやかす分離独立・自主権拡大を恐れるのは自然だ。

だが、地域主義に詳しいベサリウス大(ブリュッセル)のフィッセウン教授は「EUの中央集権化を補う形で、地域にアイデンティティーを求める動きは進む」と見る。

ベルギーで自主権拡大を主張するオランダ語圏の地域政党「新フランドル同盟」は、EU統合が進めば「ベルギーという国家の意味がなくなり蒸発する」と唱える。過

激な主張だが、アントワープ大(オランダ)のバイエン教授(歴史学)は「EU統合やグローバル化で、自分たちのアイデンティティーが失われそうになる中、地域に答えを見いだした」とみる。

ドイツのシンクタンク・ナウマン財団のシュタイン欧州機構研究局長は、EUの枠内で独立や分裂が進むと予測。
各地の独立・自主権拡大運動がEU枠内に残ることを主張していると指摘したうえで、それはEU統合の失敗を必ずしも意味しないという。

「米国は自治権を持った50州の集合体だがEUはまだ28カ国。機構改革に取り組めば、EU枠内にとどまりながらの分離独立が逆にEUへの求心力を増して統合を成功に導く可能性もある」と指摘する。【9月19日 毎日】
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今回の住民投票結果はイギリス残留という穏当な結果になりましたが、そのことで、住民投票で国家帰属を決定することの問題やEUとの関係という本質的な問題が表に噴出すことなく、曖昧な形で終わったとも言えます。
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中国  海外移住を希望する富裕層 アメリカへの出産ツアー

2014-09-19 22:45:45 | 中国

(海外移住を考えている富裕層の比率 【9月17日 WSJ】

中国でひともうけすることは自分の背中に的を描くようなもの
貧しい人々、戦乱に苦しむ人々が国外脱出を夢見る・・・・というのは多くの国で見られることですが、中国では国内での生活を楽しむことができる資力を得た富裕層の多くが海外への移住を希望しているとのことです。

****中国の富裕層、約半数が海外移住を希望****
中国の富裕層では、5年以内に海外への移住を考えている人が約半数に上ることが、バークレイズの調査で明らかになった。

調査によると、中国の富裕層で海外移住を考えている人の割合は47%。世界平均の29%を大幅に上回り、調査を行った国の中で最も多かった。

富裕層の間で中国に次いで海外移住を考えている人の割合が高かったのはシンガポールで23%。次に英国(20%)、香港(16%)と続いた。一方、海外への移住を希望する富裕層が最も少なかったのはインドと米国で、それぞれ5%と6%にとどまった。

中国の裕福な人々が挙げた海外移住の理由としては「子供の教育・雇用機会」が最も多く、78%。続いて「経済的な安定や過ごしやすい気候」が73%、「充実した社会保障制度」が18%だった。

移住希望先については、中国の富裕層の間では香港が30%で最も多く、次がカナダの23%だった。

一方で、シンガポールの富裕層は海外の移住希望先に中国を選んでいた。その割合は30%で最も多かった。

調査は、総資産15億ドル(約1600億円)を超える富裕層2000人超を対象に行われた。【9月17日 WSJ】
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海外への移住希望の理由はいろいろあるところでしょうが、中国富裕層の国内における立場の不安定さも大きな理由のひとつのようです。

中国のように官僚が裁量権を握っており、汚職もはびこる社会、法治というより人治の社会においては、企業活動を行う上で権限を有する者との何らかの繋がり・人脈形成が必要になり、そのことは一方で、不正追及の標的にされる可能性も伴います。

そして、習近平国家主席が進める粛清運動は、不正追及の的とされる危険性を増大させています。

****不幸な中国のエリート、不明瞭な政治体制の産物****
中国では今年これまで、30人余りの政府高官や国有企業の幹部が自殺したとされている。中には贈収賄の取り調べを受けていた人物もいた。

そのことは、習近平国家主席が指揮している汚職取り締まりを彼らが本当に恐れていることを示している。

国内の評論家は、汚職の取り締まりが最高指導部をたたえる理由にはならないと述べている。一部の幹部は拷問を受けて自白を強要されたと訴えている。粛正は正義とは異なる。

国内経済の鈍化で、民間企業の幹部も追い詰められている。昨年6カ月間に自殺した実業家の数は、浙江省温州市だけで80人を超えた。

起業家たちは、中国でひともうけすることは自分の背中に的を描くようなものとこぼす。これが、長者番付が中国で「のろいのリスト」とも呼ばれる理由だ。

他の国々と異なり、中国の実業家の多くは、長者番付に入ることを望まない。名前が載れば目を付けられ、その先には破産か逮捕の道が待っているからだ。 

ここに潜むのは実業家たちのジレンマだ。

中国では財産権が保護されていない。また、官僚が裁量権を持っていることは、正直な実業家が会社を奪われる可能性があることを意味する。こうした環境では、共産党指導部との人脈作りが自らを守る唯一の方法となる。

となれば、企業の幹部が贈賄の罪に問われるようになるのも無理はない。

汚職がはびこる中国の文化や権力の乱用は、多くの富裕層が国外への移住を望む大きな理由となっている。

バークレイズが15日公表した調査では、中国の富裕層(総資産150万ドル=1億6000万円超)のうち47%が海外移住を考えていることが明らかになった。

これはこれまでの調査とほぼ結果だ。先進国の中には、海外の投資家に国内の居住用不動産の取得を認めるプログラムを用意しているところもあり、多くの中国人を引きつけている。

中国の優秀な若者も多くが海外に出たいと願っている。国営新華社通信によると、留学後に帰国しなかった学生の数は、2012年に7万人に達した。

人生を楽しむための方法も、その余力もあるはずの富裕層が、中国では自殺に走り、海外移住を考える。これは法の支配の欠如だけが原因ではない。
大気汚染問題や食の安全が脅かされる事件など、生活環境の悪化も一因であるのは間違いない。

しかしこれらは同時に、分かりにくい政治体制が生んだものでもある。
共産党は02年以降、社会のあらゆる領域のエリートを代表すると主張しているが、エリートたちはそうは考えていない。【9月18日 WSJ】
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経済的格差が深刻な中国社会にあって、中国富裕層・エリート層が同情すべき存在かどうかは別問題として、なかなか難しい立場にあるようです。
共産主義という政治システムからすれば、当然のこと、彼らが存在すること自体が不思議なこととも言えますが。

【「赤ちゃんへの最大のプレゼントは米国の国籍です」】
起業家だけでなく官僚においても、いつでも海外に逃亡できるように職権を利用して家族を海外に移住させ、個人資産を移した上で自分だけが国内に要職で残る「裸官」と呼ばれる官僚が多いことは、8月29日ブログ「ロシアと中国 自国の将来に不安を感じる人々」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140829)でも取り上げました。

そのときも紹介したように、上述のような自国生活への不安感は、生まれる子供に海外(特にアメリカ)国籍を取得させる“出産ツアー”という現象を引き起こしています。

****米「妊婦ホテル」に中国人殺到 子供の国籍取得のため…住民反発****
米カリフォルニア州ロサンゼルスのダウンタウンから東へ約40マイル(約64キロ)。
大自然に囲まれ、美しい山脈がそびえるチノヒルズは白人の多い、閑静な住宅街で知られる。庭にプールがある一軒家が並ぶ、典型的な米国の郊外の風景だ。

そんな一軒家に突然、中国人女性3人が暮らし始めた。他にも人はいるようだが、家族には見えない。女性3人は全員、臨月が近いようで、おなかが相当目立っていた。

「どこから来たの」。近所の白人女性がたずねると、「グランドキャニオン」との答えが返ってきた。3人は足早にその場を立ち去った。

一軒家は「マタニティー(妊婦)ホテル」として利用されていた。

妊婦は観光査証(ビザ)で中国から米国に入国し出産する。米国で生まれる子供は、両親の国籍とは無関係に米国籍を取得できる。

その子供が21歳になれば、両親も米国の永住権を得ることができる。違法ではないが、脱法的な国籍取得に米国市民の視線は冷ややかだ。

チノヒルズでは2年前にも、豪邸を不法改造したマタニティーホテルが出現。
多いときには、その家だけで30人の妊婦が暮らしていたという。

ホテルは周辺住民とトラブルになり、市当局の立ち入り検査を受け、宿泊施設の無許可営業などで閉鎖された。にもかかわらず、中国系業者による妊婦の募集は続く。

「ガレージにベッドを設置しているのを見た」「外に出されたゴミ箱は、乳児用品や使用済みのおむつであふれている。とても普通の量じゃない」「居間にゆりかごやマットレスが多数並べられていた」…。

周辺住民の証言から、複数の一軒家がマタニティーホテルとして使用されている疑いが新たに浮上している。

 ■「市民権をお金で買っている」 「妊婦ホテル」に住民反発
今月9日、米カリフォルニア州チノヒルズの住民約30人が参加してマタニティーホテル問題に関する会合が開かれた。

「チノヒルズは家族が暮らす街だ。妊婦を出産させるビジネスの場所ではない」「出産間近な妊婦を民家に宿泊させることは危険な行為だ」

住民らは、市や警察当局などにマタニティーホテルとみられる一軒家の立ち入り検査を求める陳情に署名し、23日に開かれる市議会に提出することを決めた。

会合に参加したジム・ガリガーさん(62)は「人種差別や反移民の立場で反対しているのではない。業者は明らかに観光ビザを悪用している。観光ではなく、出産が目的なのだから。チノヒルズの住民はだまってはいない」と話した。

 ◆豪邸を不法改築
2年前にホテルとして利用された豪邸は小高い丘の上に今でもある。7つのベッドルームがあった室内は、17部屋に不法に改築され、すべての部屋にトイレとシャワーが設置された。(中略)

だが、その豪邸から半径約2・3マイル(約3・7キロ)の範囲にある一軒家10棟が現在、マタニティーホテルと化している疑いが強い。

「ビザの取得からお手伝いします」「信頼できる産婦人科と提携」「赤ちゃんへの最大のプレゼントは米国の国籍です」
インターネット上には中国語で書かれた出産ツアーの募集が散見される。

滞在先はカリフォルニア州だけでなく、ニューヨーク州など全米の大都市の郊外が多い。
上海、北京、四川などの中国の富裕層がターゲットだ。こうしたツアーの参加者が一軒家を使用したマタニティーホテルに宿泊する。

 ◆総費用は140万円
あるサイトを見ると、料金には往復の航空券(エコノミークラス)と宿泊費、食事代、出産前ケア、出産費用、新生児の米国籍取得支援などが含まれ、1万4千ドル(約140万円)となっている。

米メディアによると、「濃い色のTシャツを着て、大きなリュックサックを胸にかけて、おなかを隠す」「乳児用品などは一切もちこまない」などと、観光ビザで入国する際に、いかにして妊婦であることを隠して入国審査をパスするかの「注意」を掲載しているサイトもあるという。

チノヒルズ市議会への署名を住民に呼びかけた、元市議で弁護士のロザンナ・ミッチェルさんは、「市民権をお金で買っているようなものだ。法律に違反していないからといって道徳上認められるのか。国籍は正しい手続きで認められるべきだ」と批判した。
「地域レベルで住民が力を合わせて反対しないと何も変わらない」

ただ、現時点で摘発できるのは業者に対する無許可営業や違法改築などに限られる。
周辺住民とのトラブルで閉鎖してもまた、別の一軒家で営業が始まる実態をみれば、子供に米国籍を取得させたい中国富裕層がいかに多いかが浮かぶ。それだけ業者にも「うまみ」があるということになる。

国籍取得に関する法や規則の改正などがない限り、地域住民や行政当局と、業者のせめぎ合いがやむことはない。【9月19日 産経】
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富裕層の海外移住希望、裸官、出産ツアー・・・・やはり異様な現象と言わざるを得ません。

こうした動き・階層に対し、国内の格差への不満をガス抜きするためにも習近平政権は今後更に粛清の圧力をかけていくのでしょうが、問題の根幹が中国社会の不明瞭性や中国社会の将来への悲観的見方にあることにどれだけ真正面から向き合うつもりがあるのか・・・・。
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インド  領土などでは中国に対抗しつつも、その経済力に期待するインド

2014-09-18 22:04:07 | 南アジア(インド)

(異例の歓迎で習主席をもてなしたモディ首相 “flickr”より By scrolleditorial https://www.flickr.com/photos/115313787@N08/15081540057/in/photolist-oYGQqH-oYqaRo-oYEPLS-pg3Zu3-pg3ZhQ-pg3Zmh-oYRgt4-oYSbg7-pe46Mj-oYzTYa-oYzU9k-pg5YZz)

インドとの関係に対中けん制を期待する日本・ベトナム
インドのモディ首相は8月30日〜9月3日に日本を訪問、両国の関係強化が図られました。
中国と厳しく対立する日本にとっては、中国をけん制する狙いがあったと見られています。

****中国念頭に安保連携…日印首脳が「東京宣言*****
安倍首相は1日、東京・元赤坂の迎賓館で、来日中のインドのモディ首相と会談し、今後5年間でインドに対し、政府開発援助(ODA)を含む約3・5兆円の投融資を行う方針を表明した。

台頭する中国を念頭に、海上自衛隊とインド海軍の共同訓練の定例化や、外務、防衛当局の次官級協議の閣僚級協議(2プラス2)への格上げを検討することでも一致した。

両首相は、これら経済と安全保障の両分野を中心とした新たな2国間関係の構築を目指す共同文書「日印特別戦略的パートナーシップに関する東京宣言」に署名した。(後略)【9月1日 読売】
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また、今月15日には、南シナ海の島々の領有権を巡り中国との対立が続くベトナムをインドのムカジー大統領が訪問し、両国は国防分野での協力関係を強化することで合意しました。

ベトナムはインドとの関係を強化することで、海洋進出の動きを強める中国をけん制するねらいがあるものとみられています。

****ベトナム、インドと防衛協力強化で合意 中国をけん制****
ベトナムのチュオン・タン・サン国家主席は15日、首都ハノイでインドのムカジー大統領と会談し、両国間の国防分野での協力関係強化で合意した。

ベトナムが中国と領有権を争う南シナ海については、国際法などによる秩序維持の重要性で一致、同海域で力による一方的な現状変更を進める中国を牽制した。

ロイター通信によると、会談では、インド政府がベトナム政府に対し、国防強化に必要な物資調達へ、最大1億ドル(約107億円)を融資することで覚書を交わした。

インドがロシアと共同開発した超音速巡航ミサイル「ブラモス」の調達に向けた環境整備の一環とみられている。

また、ベトナムが中国と領有権を争う海域でのインドの石油採掘権更新に関する合意書を正式に取り交わすなど、エネルギー分野での関係強化でも一致した。【4月16日 産経】
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インドの石油ガス公社(ONGC)は、これまでも中国からの“ベトナム沖合での探査活動は違法で中国の主権を侵すことになる”との警告を無視する形でベトナム沖で石油とガスの探査を行っており、今回の合意によってインド・ベトナム両国の探査・生産活動が拡大することになります。

【「21世紀の海上シルクロード」構想を進める中国
一方、中国の習近平国家主席は、15日にはインド洋のモルディブを、翌16日にはインドとの関係が強いスリランカを訪問しています。
****習主席、インド洋諸国歴訪 「海上シルクロード」着々****
中国の習近平国家主席は16日、インド洋の島国スリランカを訪問し、ラジャパクサ大統領と会談した。

両国の行動計画が発表され、スリランカは習氏が提唱する「21世紀の海上シルクロード」構想への支持と参加を表明した。

習氏は15日にはモルディブでヤミーン大統領と会談し、ヤミーン氏も海上シルクロードを支持した。

中国国家主席のスリランカ訪問は28年ぶりで、モルディブ訪問は初めて。

スリランカとの行動計画には自由貿易協定(FTA)の正式交渉開始や、海洋監視や沿岸管理での協力の可能性を探る合同委員会立ち上げなどが盛り込まれた。

中国は、スリランカなどインド洋周辺諸国の港湾整備を支援してきた。コロンボ沖合を埋め立てる「ポートシティー」建設には、14億ドル(約1500億円)を支援し、習氏は17日の起工式に出席する。

日米欧などでは「真珠の首飾り戦略」と呼ばれ、インドなどが中国の艦船寄港につながると警戒している。

安倍晋三首相は今月、スリランカを訪問し、ヤミーン氏は4月に訪日した。中国には、日本の動きを牽制(けんせい)する狙いもありそうだ。【9月17日 産経】
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モルディブでは、両国関係にいかなる困難、障害も存在しない」との習主席に、ヤミーン大統領も「中国は最も誠実で信頼できる友人だ」と応じています。

スリランカでの港湾建設は「21世紀の海上シルクロード」構想実現に向けた一歩となり、インド洋での中国の影響力拡大を嫌うインドは警戒を強めています。

こうした動きを見ると、中国、インドそして日本が、互いをけん制した外交活動を活発化させているように見えます。

特に、インドと中国は、ベトナムとモルディブ・スリランカという相手の懐に手を突っ込んで・・・・という風にも見えます。

その地理的配置から「真珠の首飾り戦略」とも呼ばれる、中国のシーレーン確保戦略である「21世紀の海上シルクロード」構想は、インドからすれば“インド包囲網”でもあり、新興国のライバル国であるインド・中国の間には緊張もあります。

また、中印両国は国境紛争も抱えています。
インド実効支配する北東部アルナチャルプラデシュ州を、中国が自国領土と主張していることでの対立もありますし、北西部のカシミールでも両国の小さな衝突は頻繁に繰り返されています。

****インド、中国国境付近に新型地対空ミサイル配備****
22日付のインド紙タイムズ・オブ・インディアがインド国防省筋の話として伝えたところによると、インド軍は対中防衛力を強化するため、中国との国境に近い北東部に、ほぼ国産化された新型地対空ミサイル「アカシュ」6基の実戦配備を始めた。(中略)

国境画定問題を抱える中印両国は、1962年に紛争を起こし、インドは、中国軍の侵攻を強く警戒している。

中国の軍事的優位は変わらないが、インドにとり、新型ミサイルの配備は大きな成果といえそうだ。【8月22日 産経】
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習主席のインド訪問 異例のもてなしで、首脳どうしの親密な関係を演出
インドは、こうした領土・国境問題ではこれまで同様に中国への妥協はしない方針ですが、経済関係においては中国の圧倒的影響力に期待する向きも強く、全面的に中国と対立するものでもないようです。

習近平国家主席は、モルディブ・スリランカに続いて、当のインドを訪問しましたが、インド側はモディ首相が先頭に立って異例の歓迎を見せています。

****習主席がインド訪問 異例のもてなし****
南アジアを歴訪中の中国の習近平国家主席は、17日、最後の訪問国のインドに入り、モディ首相の地元のグジャラート州で異例のもてなしを受けて、首脳どうしの親密な関係を演出しました。(中略)

グジャラート州はモディ首相が長年トップを務めた地元で、習主席は最大都市アーメダバードのホテルでモディ首相の出迎えを受けました。

そして、両首脳は、中国企業向けの工業団地の整備や、中国南部の広東省とグジャラート州の関係強化などについての覚書の署名に立ち会いました。

さらに、両首脳は、インド独立の父、マハトマ・ガンジーが暮らした住宅を見学したほか、モディ首相が州のトップ在任中に整備した川辺の公園で、一緒にブランコに乗ったり現地の伝統の踊りを鑑賞したりしました。

習主席とことし5月に就任したモディ首相の顔合わせは、早くも2回目で、17日はモディ首相の誕生日でもあり、出身地でのもてなしで首脳どうしの親密さを演出しました。

習主席は、18日は首都ニューデリーでモディ首相と首脳会談を行うほか、中国の対南アジア政策について演説する予定です。

中国からの経済協力引き出したい思惑も
習主席が訪問したインド西部のグジャラート州は、モディ首相がことし5月の就任まで長年トップを務めていたモディ氏の地元です。

インドの首相が首都ニューデリー以外で外国の首脳を出迎えるのは異例のことです。
さらに、モディ首相は、州のトップ在任中に整備した川辺の新たな公園に習主席を案内するなど、親密さを演出しました。

モディ首相としては、今回の訪問を通じて習近平国家主席と個人的な関係を強め、中国からの経済分野での協力などを引き出したい思惑もあるものとみられます。【9月18日 NHK】
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対中けん制への過度の期待は・・・
先述のように、日本には中国をけん制するうえで、同じ民主主義国であるインドとの関係を強化したいという思いがあります。
同様の狙いはアメリカにもあります。

しかし、そうした中国へのカウンターパワーとしてインドを位置づける味方への批判の指摘もあります。

****インドへの過度な期待は禁物****
米国のコンサルタント会社、サミュエルズ・インターナショナル・アソシエイツ上席研究員のスーラブ・グプタが、CSIS Pacific Forumのサイトに8月14日付で掲載された論説において、米印関係について過大な期待を持つことを戒め、インドの自立性を尊重し、対中牽制の視点ばかりから米印関係を見ないよう助言しています。
(中略)
インドの歴代政権は、中国に反対するよりそれに同調する方が賢明であるとみなしてきた。

インドは習近平の「新しい大国関係」の核心的利益論を尊重しているように見える。インドと中国がアジアで競争関係にあると信じ、米印両国の利益はアジアで合致すると安易に想定することは間違いであろう。

米印関係は、中国との関係の視点ばかりから見るべきではない。米印軍事協力を、力の共有とバランスに基づくインド・太平洋地域の多数国間安保協力に資する方向に持っていく方が良い。米印関係では、自立と連携のバランスをとっていく必要がある、と論じています。(後略)【9月17日 WEDGE】
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今回の習近平主席歓迎ぶりや、これまでのカシミールにおけるインド側の対応などをみると、インドは中国との関係悪化は極力避け、関係強化を図りたい方向のようです。

もちろん、そのことは日本がインドとの関係を深める努力を行うことの意義をそこなうものではありませんが。
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アメリカ  西アフリカのエボラ出血熱拡大へ異例の米軍投入

2014-09-17 22:04:18 | アメリカ

(“flickr”より By David Jordan https://www.flickr.com/photos/114803223@N07/15072058898/in/photolist-oY8L4p-oY7df4-oY9GYd-pfqjTa-peR8ag-oXEj6h-oXuGk7-oxR3Xj-oC2ibt-pfDVoX-okyoAK-osaN3j-pauFaK-pfz6gZ-oXSf1s-oYq3S1-oxm4JH-oQWtYx-ojbMey-pcoQai-ouJ7ct)

9月13日ブログ「エボラ出血熱  西アフリカ全域での感染者の「飛躍的増加」も危惧される」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140913)に引き続き、エボラ出血熱関連の話・・・と言うより、アメリカの話というべきか。

西アフリカで猛威をふるうエボラ出血熱の現状については、WHOの16日、西アフリカ5か国での感染者数は疑い例を含め4985人、死者は2461人になったと発表しています。

****国別の内訳****
リベリア 死者1296人 感染者2407人
ギニア  死者595人 感染者936人
シエラレオネ 死者562人 感染者1620人
ナイジェリア 死者8人 感染者21人
セネガル 1人が感染後回復
*************

関係者からは「対応能力をはるかに上回るペースで感染が拡大している」「闘いに負けている」「完全に圧倒されている」といった声が出ていること、WHOは西アフリカ全域での感染者の「飛躍的増加」を予想しており、特にリベリアでは今後数週間で数千人規模の新たな感染者が出る恐れがあると警告していることなどは前回ブログでも取り上げました。

今後の予測では、感染者は2万人を超えるとも言われていますが、実態が正確に把握されていないことを考えると、もっと悪い事態が進行していることすら懸念されます。

****エボラ封じ込めに1千億円…年内2万人超感染か****
国連は16日、エボラ出血熱の封じ込め対策に9億8700万ドル(約1050億円)の資金が必要との試算を発表した。

資金の内訳は、感染者の診断と治療にかかる費用、死亡した患者を安全に埋葬するための費用など。総額の約半分は、感染者の増加が著しいリベリアに充当されるという。

リベリアのほか、シエラレオネ、ギニアでもエボラ出血熱の治療にあたる医療設備や医師・看護師の不足が深刻となっている。

国連は感染者の累計が年内に2万人になるとの見通しも示した。最終的な感染者は2万人を超えるとの見方が有力となっている。【9月17日 読売】
*******************

リベリアの国防相は安保理で、「リベリアは国家存亡をかけた深刻な脅威に直面している」と発言していること、現地では医療スタッフが絶対的に不足いることなども、キューバが医療団を派遣することなどは前回ブログで取り上げたところです。

こうした危機的状況のなかで、アメリカ政府は16日、エボラ出血熱の封じ込めに向け、米兵約3000人を動員した米軍主導の大規模支援を実施することを決めました。

****放置すれば感染数十万人も=エボラ熱対策で大規模支援―オバマ米大統領****
オバマ米大統領は16日、南部ジョージア州アトランタの疾病対策センター(CDC)で演説し、西アフリカでのエボラ出血熱の流行封じ込めに向けた米軍主導の大規模支援策を発表した。

大統領は、流行拡大を今すぐ止めなければ「数十万人が感染する事態に直面する恐れもある」と強調。国際社会には直ちに行動する責任があると訴えた。

大統領はこれより先、エボラ熱対策について「国家安全保障上の優先事項だ」と述べ、米軍を投入する方針を示していた。

大規模人道援助に不可欠な施設や機材を提供する米軍の能力は、昨年フィリピンを襲った台風災害などで証明済み。米政府は疾病対策でも、国際社会の支援活動を支えるために米軍のインフラを活用できると期待している。

大統領は演説で、「(エボラ熱で)2400人以上が死亡したとされるが、実際の死者数はさらに多いと強く疑っている」と表明。

「エボラはこれまで経験したことがないほど流行しており、制御不能の状態に陥りつつある」と指摘し、パニックが広がれば、世界全体に政治・経済・安全保障面で深刻な影響を及ぼすと警告した。【9月17日 時事】 
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米軍はこれまでも東日本大震災(2011年)や米国内外のハリケーンなど自然災害の被災地に出動し、医療支援を行ってきましたが、疾病対策に乗り出すのは極めて異例とされています。

****米軍3000人投入へ 医療支援や施設建設****
国連安全保障理事会議長のパワー米国連大使は15日、エボラ出血熱の感染拡大を防ぐため、18日に緊急会合を開催することを明らかにした。

AP通信によると、武力紛争やテロなど、平和への脅威を議論する安保理で公衆衛生がテーマになるのは2000年のエイズ対策以来初めて。
(中略)
具体的には、リベリアの首都モンロビアに米政府機関や国際NGO(非政府組織)の活動を調整する司令本部を設置し、医療設備や資材、要員を必要地域に素早く投入できるようにする。

ホワイトハウスや米メディアによると、ほかに▽治療施設(100床)を17カ所建設▽毎週500人の医療要員を教育できる訓練施設を導入▽感染リスクの高い住民40万世帯に消毒液やマスクなど「予防キット」を配布--など。リベリア政府からは了解を取っているとみられる。

これまで医療関係者にも感染が広がっていることから、今後現地入りする米軍関係者が感染する可能性は否定できない。

オバマ大統領が米軍出動の大胆な対策に乗り出した背景には、11月の中間選挙を控える中、米国内外でエボラ熱への対応が不十分との批判がくすぶり続けていたこともありそうだ。【9月16日 毎日】
*******************

米軍の投入にしても、安保理での検討にしても異例のことですが、事態がそれほど悪化しているということでもあります。

オバマ大統領は世界各国や国際機関にも感染拡大国への支援を要請。18日の安保理に続き、来週には国連の潘基文(バンキムン)事務総長と共に各国に呼びかけを行うとのことです。

医療スタッフをはじめ、現地スタッフが絶対的に不足している状況で、米兵約3000人の動員というのは、制御不能状態のリベリアなどにとってはありがたい話です。

感染リスクにもかかわらず、また、疾病関係での動員が異例とされるなかでの米軍投入の背景に、単なる危機対策以外の何かの思惑があるのか・・・そのあたりは知りません。

ただ、アメリカにどういう思惑があるにせよ、現地にとって“ありがたい話”であることには変わりありません。

アメリカは「イスラム国」対応でシリア空爆を含む戦線拡大の決断が世界的に注目されていますが、エボラ出血熱に対する今回対応も特筆すべきものでしょう。

正直な感想としては、なんだかんだ言っても、世界の警察官がどうこうとは言っても、アメリカの国際的影響力が低下しているとは言っても、結局アメリカが動かないと現在の世界情勢は動かない、こういうときに頼れるのはやはりアメリカか・・・・という思いがあります。

こういう国と他の国の発言力に差があることもやむを得ないところです。

また、今後アメリカの“内向き”志向が更に進んだ場合、世界はどうなるのか・・・という不安も感じることも正直なところです。

エボラ出血熱に関しては、これまでは当事国と国際医療団体「国境なき医師団」にまかせきりの感もありましたが、今回の米軍投入を機に、やや影が薄かったWHO・国連が前面に立つ形で国際支援体制がとられ、エボラウイルスに対する反転攻勢がかけられることを期待します。
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地中海  後を絶たない中東・アフリカ難民に関する犯罪 2隻で700人超が死亡

2014-09-16 22:11:58 | 難民・移民

(イスラエルから国連運営学校が攻撃を受けたガザ地区Jabaliya難民キャンプ “flickr”よりBy Outlook1970 https://www.flickr.com/photos/126570461@N02/14823001503/in/photolist-ozRKVr-oW7ZjW-oQgpLk-oAc2U3-oyfxCv-oMQqE1-ovnD2H-ovnNGz-oKQSZS-ovof3d-ovo3ff-ovnFV8-ovo8s9-oMQSAu-oKQS1N-oMQTom-ovo4Ku-oMAFei-ovnGPx-oMQQ8d-oKQo3d-oMStav-oMAEmX-oMALs4-ovofzW-ovouyB-ovnMty-oMACek-oKQEbW-ohUSEv-oBadAF-ojLbxS-oBsMjc-oiduu1-oy4Em2-oLutuf-okp4sA-pbtQQi-oJANhL-oSg9Np-oAhU2f-omBFSr-p9QXng-oECEHZ-p33HFB-oyFby9-oUo9qz-paqGxn-oM6tpT-oy4xeu)

人身売買業者が意図的に船を沈める
ひどいニュースには事欠きませんが、下記のパレスチナなどからの難民に関する犯罪行為などは、その最たるものでしょう。

****地中海で難民700人超死亡か=人身売買業者、船沈める―IOM****
国際移住機関(IOM)は15日、地中海で難民船2隻が相次いで沈没し、計700人以上が犠牲になった可能性があると明らかにした。

船にはパレスチナなどから逃れた難民が乗っており、うち1隻は人身売買業者に意図的に沈められたという。

IOMによると、最初の事故は10日に発生。エジプトを6日に出港した後、マルタ沖で小さな船に移るよう命じられた難民が抵抗したところ、船は故意に沈められた。

救出された難民はIOMに、船にはパレスチナやシリア、エジプト、スーダン出身者ら少なくとも500人が乗っていたと証言。救出されたのは9人にとどまり、大半が死亡したもようだ。

また14日にもパレスチナ難民らが乗った船がリビア沖で沈没。約30人が救出されたが、約200人が犠牲になったとみられる。【9月15日 時事】
******************

カネのために数百人を海に沈めてしまう・・・人間とは、かくも残酷になれるもののようです。
テロによる無差別大量殺人や、人種的偏見からの民族浄化を目的とした虐殺などが後を絶たないことからすれば、不思議なことではありませんが・・・。

先の50日間に及んだパレスチナ・ガザ地区の戦闘によって亡くなったパレスチナ人が約2100人とされています。
犠牲者の数を比べても仕方ありませんが、2隻の船で700人以上というのは、あまりにも多すぎる数字です。

懸念されるのは、明らかになった上記事件以外に、実際はもっと多くの犠牲者が出ているのでは・・・ということです。

中東・アフリカから欧州に押し寄せる難民とその悲劇については、7月8日ブログ「中東アラブ社会  閉塞した現実世界からの脱出 「アラブの春」、イスラム過激派、そして不法移民」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140708)でも取り上げました。

そのときに“今年、イタリアで救助されたり漂着したりした人(中東・アフリカからの難民)は6万人以上。一方で、小型船に詰め込まれた人が多数死亡する例もある。”とする記事【7月4日 朝日】にも触れたところです。

このことに関しては、以下のようにも報じられています。

****想像を絶するアフリカ難民の死にざま****
イタリア最南端のランペドゥーサ島の沖では、アフリカから来たボート難民をめぐる事故や事件が続発している。


先週、トラブルから難民60人を船上で刺殺し、遺体を海に捨てた容疑で5人が逮捕された。

デンマークのタンカーが救助に当たった難民船には700~750人が乗船していたが、助かったのは569人だけだった。

ランペドゥーサ島はアフリカ大陸に最も近いため、シリアのような紛争地域やエリトリアなどの独裁国家の亡命希望者を詰め込んだ船が押し寄せる。

沿岸警備隊の目を盗んで上陸しようと待つうちに、周辺沖で転覆する事故が後を絶たない。

6月末には漁船の船内で難民40人以上の遺体が発見された。密輸業者に船の冷凍室に詰め込まれ、窒息死したとみられる。イタリア警察によれば、遺体はナチスが虐殺したユダヤ人のように折り重なっていたという。

今年になってイタリアに到着した難民は6万人を数える。これまでの最高記録は、「アラブの春」で難民が急増した11年の年間6万2000人だった。紛争の増加とともに、記録は遠からず塗り替えられそうだ。【7月31日 Newsweek】
********************

悲惨さにおいても、残虐さにおいても、ナチスのユダヤ人虐殺に比べられるものでしょう。

過酷な日常と「まだ見ぬ世界」への幻想
もちろん、イタリアなど難民が多数押し寄せる側の苦悩も大きな問題です。経済的な問題や治安などで大きな負担を背負うことになります。

難民を救助することは、こうした難民・不法移民が押し寄せることを助長するだけだとして、イタリア国内で移民反対を唱える右派政党からは批判もあります。

さりとて、海に投げ出された人々を何もせず放置すればよいという話にもなりません。

とりあえずの対策としては、難民船を送り出している仲介業者の摘発がありますが、これもあまり進んでいません。

危険を覚悟で(どの程度の危険かを十分に知っているかは疑問でもありますが)、大金を払ってまで欧州に渡ろうとする人々には、向うに行けば夢のような暮らしが実現できる・・・という幻想があります。

出口の見えない貧困と閉塞感の現実からわが身を救い出してくれる唯一の蜘蛛の糸にも思えるのでしょう。
そこに人身売買業者などがつけこむことになります。

しかし、“命懸けの密入国が仮に成功したとしても、自由と繁栄を夢見てたどりついた「まだ見ぬ世界」で彼らを待ち受けるのは、差別と屈辱、そして貧困です。”【前回ブログ】

難民・不法移民の問題は、国家という現実的枠組みをどのように理解するか、国境線を超えようとする人々をどのように扱えばいいのか・・・という問題でもあります。

理想的には、そんな難民・不法移民が発生しないような安定と繁栄が中東やアフリカで実現することであり、そこを国際社会が目指して努力することであることは言うまでありません。

もちろん短期に実現できるような類の話ではありませんが、ただ、パレスチナ、イラク、シリア、アフリカなどで現実に起きている紛争が政治的に解決されれば、少なからず難民発生圧力は減少します。

そうした紛争解決は、必ずしも不可能なことではなく、本来は当事国・関係国の意思さえあれば可能なことでもあります。住民の生命と生活を最大限に尊重すると言う明確な意思さえあれば・・・・。
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ドイツ  メルケル首相の選択  紛争地への武器供与、財政問題など

2014-09-15 21:54:18 | 欧州情勢

(9月4日 NATO首脳会議でメルケル首相を迎えるキャメロン英首相(右)とラスムセンNATO事務局長(右) 今や完全に欧州をリードする立場になったメルケル首相です。 “flickr”より By North Atlantic Treaty Organization https://www.flickr.com/photos/n-a-t-o/14951805898/in/photolist-oM9njG-oTVDzb-oRYxrV-oZdjg3-p1WSc3-p96mrK-oUP3o4-p3t2my-p5tLBZ-p5J2T9-oQNFJv-oUtxDY-oNHuVF-pa5Tg3-paBKyC-p5Dx3V-oKCLJ1-p539is-oMeUYS-oLbesb-p3uSQr-oLh2xV-p3LguP-p3GGrv-oLgchh-p3uSSv-p3Jhvs-oMQ3fh-oQGT3M-oQHSwT-oLfJJE-oLgb3x-p4sNA2-p6dGxw-oLh2fR-p3qQTt-p3GdFv-p1HwN3-p5bvxv-p1X8VF-oJ9tt2-p1EmsE-oQLpdu-p7Zh5H-p1BoT3-p8dMpQ-p7ZgYa-oM9sJC-oM9GT1-p4CUKR)


【「それはわれわれが考える『責任』ではない」】
ドイツは世界第3位の武器輸出国ですが、欧州全土を戦争に巻き込んだ反省と、周辺国の警戒を招かないようにするためもあって、紛争地域への武器供与は自粛してきました。

しかし、メルケル政権は先月末、イラクで「イスラム国」と戦うクルド人勢力への武器供与を認め、これまでの基本方針を変更しました。

****イスラム国」の脅威重視=戦後の外交方針転換―紛争地へ武器供与・ドイツ****
ドイツのメルケル政権は8月31日、イラク北部で攻勢を強めるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」と交戦するクルド人部隊に、対戦車ロケット砲や小型携帯火器を引き渡す方針を決めた。

ドイツは紛争地域への武器供与を控えてきたが、「イスラム国」の勢力拡大は西側諸国の安全保障に影響すると判断。外交政策の転換に踏み切った。【9月1日 時事】
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なお、フランス、オーストラリアはイラクでの空爆にも参加を表明していますが、イラク空爆に関してはドイツは参加する考えはないことを明らかにしています。

アメリカなどNATOは、武器供与を認めるドイツの方針変更を歓迎しており、ウクライナなど欧州情勢が悪化するなかでこれまで以上の役割をドイツに期待しています。

****クルド武器供与:独の決断 欧米歓迎…背景に高まる緊張****
欧米は、ドイツのイラク北部クルド自治政府への武器供与方針を歓迎している。

ロシアのウクライナへの介入で欧州大陸の軍事的緊張が高まったうえシリア、イラク、リビアなどが大きく不安定化し、欧米が軍事的に関与する可能性が高まっているからだ。

北大西洋条約機構(NATO)の外交筋は「武器供与だけでなく、派兵や財政面での貢献も期待したい」と話す。

NATOは来週の首脳会議で、72時間以内に域内外に展開する「速攻部隊」の設立で合意する見通しだが、十分に訓練された兵員、輸送機などの装備、高額な維持費用が必要で、ドイツはじめ大国の貢献が期待されている。

ドイツの国防費は国内総生産(GDP)の1.3%(2013年)とNATOの目標の2%には届かず、負担増は義務との見方もある。

ドイツは、戦争責任も常に明確にしており、ガウク大統領は3月にギリシャ、5月にチェコを訪れナチへの反省と欧州での平和構築の重要性を強調した。

欧州内でドイツへの警戒感は皆無なのが実情だ。在ブリュッセルのドイツ外交筋は「ドイツは常にNATOと欧州連合(EU)の枠組みの中で慎重に外交を進めてきた。その信頼が、期待に変わった」と話す。【8月26日 毎日】
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しかし、ドイツ国内では供与した武器が過激派の手に渡ることへの懸念や、ドイツがテロの標的になるとの不安も強く存在します。

公共テレビZDFが8月22日に報じた世論調査によると、武器供与を支持した国民は27%にとどまり、反対は67%を占めています。【8月24日 産経より】

こうした国内批判に対し、メルケル首相は危機に立ち向かう責任を訴えています。

****テロ拡大の甘受」か「支援」か…ドイツの“危機”に対する責任とは****
「危険を冒さず、テロの拡大を甘受するのか。それとも勇敢に戦う人々を支えるのか。その選択だ」。

ドイツがイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」に対抗するため、イラク北部のクルド人部隊への武器供与を決めた翌日の9月1日、メルケル首相が連邦議会の演説で訴えた。

欧州では戦地から戻った若者によるテロや、イスラム国がテロの拠点を確保することへの懸念が強い。首相はクルド人部隊が戦っているのは「われわれのためでもある」と謝意を示し、決定の理由を説明した。

決定は紛争地への武器供与を自粛してきたドイツ外交の方針転換といわれるが、テロの標的になるといった不安から国民の過半数は政府の決定に反対だ。

「そうした危険は当然、考慮した。だが、武器を送らなければテロ集団の深刻な危険はどうするのか」。そう答えた首相の訴えはさらに続く。「この危機に他人が立ち向かうのを待って願うことができるのか。いや。それはわれわれが考える『責任』ではない」(後略)【9月15日 産経】
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危機への対処を他人(他国)に期待するのは無責任であるとの考えには同感します。

現実世界では紛争が多発し、私たちが普遍的価値と信じる人権や自由が踏みにじられ、多くの市民が紛争の犠牲になっています。

決して武力だけで紛争が解決するものではありませんが、紛争を収めるためには、とにもかくにもまずは実力を行使して、人権を踏みにじる勢力に歯止めをかけることが必要になるケースが多々あります。

当然に、そうした行動は犠牲を伴いますし、負担も大きなものになります。
できることなら避けたいところで、その思いはどの国も同じです。

しかし、誰かがやらねばならないときに、“自分はできない、でも誰かにやってほしい・・・”というのは、やはり責任ある対応とはいいかねるように思います。

日本では憲法を遵守し、とにかく戦争に関与することを避けることを是とする考えや、国益とか国家の威信から近隣諸国との争いばかりに血道をあげる考えなどが多いようですが、たとえ地球の裏側であっても、アフリカや中東であっても、日本の利害や日本人の生命に直接関与しないものであっても、相当な犠牲が出ることが予想されるものであっても、守るべき価値を実現するために一定に関与することは、同時代を生きる人間としての責務であるように感じます。

そのような行動によって世界全体における人権とか自由といった価値観を守ることが、日本国内におけるそれらを守ることにもつながるものだとも考えます。

新規の国債発行を停止 ただし批判も
巨額の財政赤字・債務を抱える日本は、大きな痛みも伴う抜本的な財政改革には乗り出せずにいます。

一方、緊縮財政を進めるドイツでは新規国債を発行しないレベルにまで到達したそうです。
ただ、それはそれで問題も付随しています。

****<ドイツ>15年予算案 国債発行停止46年ぶり借金なし****
ドイツ政府は2015年予算案について、新規の国債発行を停止し、旧西独時代の1969年以来、46年ぶりに「借金なし」で歳出をまかなえる見通しになったことを明らかにした。
今月9日、ショイブレ財務相が連邦議会(下院)で述べた。

ドイツは近年の欧州債務危機で「緊縮財政」路線を進めて歳出削減に取り組んだことに加え、堅調な経済を背景にした税収増も後押しした。来年の歳出規模は2995億ユーロ(約41兆6000億円)を見込んでいるが、この全額を国債発行なしでまかなう方針という。

一方、緊縮路線の影響で、老朽化した道路や橋などの改修に予算が回らない懸念も指摘されている。

野党・緑の党からは「財政健全化自体が目的になってしまい、インフラ崩壊という負の遺産が放置されている」(キンドラー連邦議会議員)と政府の過度な緊縮策を批判する声も上がっている。【9月13日 毎日】
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財政健全化を国内だけでなく、財政問題を抱える他のEU諸国にも強く求めるドイツと、失業などの深刻な問題に悩む国々のあいだで大きな軋轢があることは周知のところです。

ドイツのやり方が正解なのか、あまりにも頑なにすぎるのか・・・判断に迷うところです。

反EU・ユーロ勢力の台頭
メルケル政権のもとで国内外の成果を生み、EU・ユーロにおける影響力を不動のものにしつつあるドイツですが、国内には不満も小さくないようです。

****反ユーロ党、新たに2州で議席=左派党初の州首相も―ドイツ****
ドイツ東部のテューリンゲン州とブランデンブルク州で14日、州議会選挙が行われ、欧州単一通貨ユーロに反対する新興政党「ドイツのための選択肢」が両州で議席を獲得した。

州レベルで初めて議席を得た8月31日のザクセン州議会選に続く躍進に、欧州統合を進めるメルケル首相は警戒を強めている。

「選択肢」の得票率はテューリンゲン州が10.6%、ブランデンブルク州が12.2%。ルッケ代表は「われわれは政治構造を変える勢力。国民が変化を切望していることは誰にも否定できない」と強調した。

「選択肢」は2013年2月に結党。同年9月の連邦議会(下院)選挙で、得票率が議席獲得に必要な5%にあと一歩の4.7%に達し、今年5月の欧州議会選で議席を獲得した。

テューリンゲン州では、旧東独支配政党の流れをくむ左派党が得票率28.2%で第2党となった。社会民主党、90年連合・緑の党との左派連立で、初めて州首相の座を獲得する可能性もある。【9月15日 時事】 
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新興政党「ドイツのための選択肢」は“メルケル政権によるギリシャほか欧州連合諸国への救済措置に不満を抱く勢力が中心となって結成された。欧州連合からの脱退を目標とし、ユーロ圏からの離脱とドイツ・マルクの復活を当面の最優先課題に挙げている。党の政策は全体的に右派色が強いが、国粋主義や移民排斥は掲げていないとされる”【ウィキペディア】とのことです。

自分たちは犠牲を伴いながら現状を達成した。これ以上働かない連中のために我々のカネを使うのは御免だ・・・という話でしょう。

メルケル首相としては、国内のこうした批判を抑えるためにも南欧諸国には財政規律を強く求めることになりますが、そのことで南欧諸国ではドイツ批判が強まり、それがドイツ国内の批判勢力を更に刺激するということで、悩ましいところです。

ただ、南欧諸国の財政規律をないがしろにした旺盛な需要で最も大きなメリットを得たのはドイツ経済だったとも言われますし、社会的にも、足手まといは切り離し、自分たちだけでやっていく・・・という考え方には危ないものを感じます。
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日中関係  関係改善を望む民意を実現することが期待される両国首脳

2014-09-14 22:49:09 | 中国
包容互鑒
(中国の周恩来首相とインドのネルー首相の会談に基づき1954年に合意された平和5原則の60周年記念大会で、習近平主席が提唱した新たな6つの原則に挙げられている言葉です。
“鑒”とは“鑑みる”のことで、寛容の精神をもって、お互いのことを参考にしあう・・・といった意味ではないでしょうか。まさに、そのようにありたいものです。)

潮目が変わった?】
習近平国家主席とプーチン大統領は共に、上海協力機構(SCO)首脳会合が開催された中央アジアのタジキスタンを訪れ、11日にはことし4回目となる首脳会談を行いました。

会談で習近平国家主席は、「できるだけ早く包括的な対話を始めるよう、ウクライナ側に呼びかける」と述べ、ロシア寄りの姿勢を見せました。

9月1日には、ロシア東シベリアの天然ガスを極東経由で中国に供給するパイプライン「シベリアの力」の起工式がサハ共和国の首都ヤクーツクで行われ、式典にはプーチン大統領も出席しています。

また、習近平国家主席は7月3、4日には韓国を公式訪問し、朴大統領と会談。

韓国・聯合ニュースはソウルの外交筋の話として、11月に中国・北京で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の期間中に、朴槿恵大統領が中国の習近平国家主席と個別会談する方向で調整していると報じています。【9月2日 Record Chinaより】

現在の中韓蜜月とも言われる関係からしたら、個別会談がない方が不思議でしょう。

こうした中韓・中ロ蜜月とも言われる情勢の一方、日本と中国首脳の会談がなかなか実現できない情勢がつづいていることは周知のところです。

お互いに故あってのことではありますが、日中関係の重要性を考えると、できるだけ早期の関係修復が期待されます。

ここ1,2か月、若干流れが変わったのだろうか・・・と思わせるようなこともあり、菅義偉官房長官は12日、11月に北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)で日中首脳会談を行う可能性について、「だんだんと環境はできている」と述べ、実現に期待感を示しています。【9月12日 朝日より】

****習主席、対日演説せず=「抗日戦勝記念日」―関係改善にらみ配慮か・中国****
中国で「抗日戦争・反ファシズム戦争勝利69年」を迎えた3日午前、北京市郊外・盧溝橋にある「中国人民抗日戦争記念館」で大規模な記念式典が開かれた。

習近平国家主席や李克強首相ら最高指導部・共産党政治局常務委員7人全員が出席したが、習氏の演説はなく、黙とうや献花などを行った後、約10分間で終了した。習主席が大規模な式典で演説しないのは異例。

中国指導部が今年2月末、国家法定の記念日として9月3日を「抗日戦勝記念日」に制定して以降、初の記念式典となった。

習主席が演説し、安倍晋三首相の歴史認識問題などを批判するのではないかとの見方もあったが、11月に北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)に合わせて安倍首相との会談の可能性を探る中、日本批判を避ける配慮を示し、安倍政権に対日関係改善に前向きなメッセージを送った可能性もある。【9月3日 時事】
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****習主席「日中関係発展を」 重要講話 歴史認識では牽制****
中国の習近平国家主席は3日、今年2月に新たに制定された「抗日戦争勝利記念日」にあたり、「中国は中日関係の発展に努力し、中国共産党、中国政府、中国中央軍事委員会は中日関係の長期の安定的で健全な発展を望んでいる」などとする重要講話を発表した。

昨年12月の安倍晋三首相による靖国神社参拝後、習氏が公の場で日中関係改善に意欲を表明したのは初めて。

習氏は同日、党最高指導部メンバー全員とともに、北京市郊外の盧溝橋に近い中国人民抗日戦争記念館で開催された「抗日戦争勝利記念日」の記念式典に出席。

式典での演説は控えたが、中国国営新華社通信などによると、北京の人民大会堂で開かれた「抗日戦争勝利」に関する座談会で、中国共産党、中国政府、中国中央軍事委員会の幹部を前に「重要講話」を行った。

そのなかで習氏は、戦時中の旧日本軍の「蛮行」を強調。「抗日戦争勝利」を「偉大な勝利は永遠に中華民族の歴史に刻まれ、人類の平和の歴史に刻まれる」と位置づけ、中国国民の「愛国心」をたたえた。

一方、「日本側は歴史、人民、未来に対し責任ある態度で、中日友好、アジア地域の安定という大局から歴史問題に善処すべきだ」と、3日に発足した第2次安倍改造内閣を牽制(けんせい)。

11月に北京で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を前に、歴史問題では譲らない姿勢を示しつつ、日中首脳会談の実現に含みを持たせた形だ。【9月4日 産経】
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習近平主席が従来の対日批判の流れを変えられるかどうかは、周永康前党中央政法委員会書記の問題など、反腐敗運動の形で進む権力闘争の結果、どの程度党内権力を掌握したかも影響するものと思われます。

下記の報道なども、その真意をどのように理解すべきかは自明ではありませんが、“異例”のことではあるようです。

****日本理解の勧め」説く=共産党系紙、異例の文章掲載―中国****
中国共産主義青年団(共青団)機関紙・中国青年報は11日、「日本をもっと理解するのは悪いことではない」と題した文章を掲載した。

「日本に関する本を多く読むことは媚日(びにち)=日本にこびるの意=ではない。日本に対する理解を増すためだ」として相互理解が両国関係の改善に有益だと説いている。

同紙はもともと狭量なナショナリズムに否定的で、他紙に比べて理性的な両国関係構築を提起してきた。

しかし11日は日中関係が決定的に悪化した日本政府による尖閣諸島国有化から丸2年の日。中国政府が安倍首相の歴史認識を強く批判する中、こういう論調が出るのは異例と言える。【9月11日 時事】 
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両国国民の7~8割が現状を問題視
首脳間、国家間の関係もさることながら、最終的に重要なのは国民間の不信感が取り除かれるかどうかです。

この面に関しては、両国民の9割前後が相手に好ましくない印象を持っているという結果の世論調査が最近報じられています。

中国人の過半数が将来の軍事紛争の可能性を予想している・・・というのも厳しい現実です。

****日本と将来軍事紛争に」、中国人の過半数 世論調査****
中国は将来、日本と軍事紛争になる可能性があると考えている中国人が半数以上に達したとの世論調査の結果が10日、発表された。

日中両国で行われた世論調査によれば、中国人の53.4%が将来の軍事紛争の可能性を予想していた。また、その5分の1以上は、紛争は「数年以内」に起きる可能性があると考えていた。

一方、軍事紛争の可能性を予想する日本人は29.0%だった。

日本による東シナ海の尖閣諸島(中国名:釣魚島)の国有化から、11日で2年となる。10日朝には中国海警局の船4隻が尖閣諸島の沖合で日本の領海に侵入した。

■日本人の中国への印象が悪化、中国側は改善
世論調査は日本の非営利団体「言論NPO」と中国の国営英字紙チャイナ・デーリーが7月と8月に実施。
調査対象は18歳以上の日本人1000人と中国人1539人で、中国では北京、上海、成都、瀋陽、西安の5都市で行われた。

日本人の中国に対する印象は「良くない」「どちらかといえば良くない」と回答した人が93.0%に上った。
昨年の90.1%よりも悪化し、調査が開始された2005年以降で最悪の結果となった。

一方、日本に良くない印象を持つ中国人は86.8%で、昨年の92.8%より改善した。

日本人が中国に良くない印象を持つ理由で最も多かったのは「国際的なルールと異なる行動をするから」で55.1%に上った。「資源やエネルギー、食料の確保などの行動が自己中心的に見えるから」が52.8%で続き、「歴史問題などで日本を批判するから」が52.2%、「尖閣諸島をめぐり対立が続いているから」が50.4%だった。

一方、中国人が日本に良くない印象を持つ理由で最も多かったのは「日本が釣魚島及び周辺諸島の領土紛争を引き起こし、強硬な態度をとっているから」で64.0%だった。次いで「中国を侵略した歴史についてきちんと謝罪し反省していないから」が59.6%だった。

■結果に中国国営紙「懸念」
この結果に対し、チャイナ・デーリーは社説で「懸念」を示し、両国の指導者にとっても「この結果は懸念されるものだろう」と述べた。

さらに同紙は「両国の悪化する関係を改善するために両国の首脳が会談する必要がある」と述べた上で、「ボールは日本側のコートにある」と付け加えた。

「安倍晋三(Shinzo Abe)首相は関係改善に真剣に努めていることを、中国の指導部に実際の行動で示さねばならない」と同氏社説は呼び掛けた。【9月10日 AFP】
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この調査に関し、中国メディアの環球網は道紀忠華シンクタンクの庚欣氏による手記を掲載し、「日本人の対中好感度が低いことは、日本人が中国を敵視していることを意味するものではない」と論じています。

****日本人の中国に対する印象 「良くない」は「敵視」を意味するものではない=中国メディア****
・・・・記事は、日本人の中国に対する好感度が低下していることは争いようのない事実だとし、その背景には「複雑な理由がある」と主張。

領土をめぐる対立や歴史問題によって日中が対立する構図が形成されたとしたほか、日中の経済規模の逆転が日本人に不安感や圧力をもたらし、そうした感情が調査結果に現れたとの見方を示した。

続けて、日本で長年暮らした筆者の経験として、「日本人は常に悲観的で、何事にも消極的」だとし、日本メディアの中国に関する偏った報道のもとで日本人の対中感情が悪化していると論じた。

一方、日本人の中国に対する印象が「良くない」としても、「それは必ずしも日本人が中国に敵意を持っていることを意味するものではない」と主張し、中国で40年以上にわたって行われてきた民間での友好協力や日中の経済協力によって「日本国民の間には安定した”中国観”が形成されている」と報じた。

さらに「第10回日中関係世論調査」において、日中関係の悪化に懸念を示し、関係改善を望む日本人が79.4%に上ったことを伝え、「安倍首相が日中関係改善に向けて努力し、首脳会談を実現しなければならないという民意の圧力となっている」と論じた。

続けて、日本人の中国に対する印象が「良くない」としても、「関係改善を望んでいないわけではない」と指摘。

また、日中関係の改善に向けての急務は「日本の民意の背後にある日中の矛盾を正確に理解し、具体的な行動に移すことだ」と論じた。【9月12日 Searchina】
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“日中関係の悪化に懸念を示し、関係改善を望む日本人が79.4%に上った”という点は重要なポイントでしょう。

日本人にあっては、「望ましくない状況であり、心配している」と回答した人が32.5%、「この状況は問題であり、改善する必要がある」と回答した人が46.9%となり、合わせると8割近くが国民感情の悪化している現状を問題視しています。

中国側もこの点では同様です。
「望ましくない状況であり、心配している」と回答した人が35.2%、「この状況は問題であり、改善する必要がある」と回答した人も35.2%で、合わせて7割が、国民感情の現状を問題視しています。

両国首脳がこうした民意を感じて、関係修復に向き合うことを期待します。

求められる冷静な判断
日中関係の険悪さを印象付ける個々の出来事・事件は、多々あります。
今日も下記のような報道が。

****旭日旗Tシャツ男性が暴行を受ける…中国で反日感情が高まる****
中国の景勝地、山東省の泰山でこのほど行われた登山大会で、旭日旗などが印刷されたTシャツを着た中国人とみられる男性が、ほかの参加者に囲まれ「非国民」などと罵られたうえ、Tシャツが剥がされた事件が起きた。

インターネットで大きな話題を呼んだ。
「日本の軍国主義を連想される絵柄や文字を法律で禁止すべきだ」と提案するメディアもあった。

複数の中国メディアによると、登山大会が6日に行われた。天津市出身と自称する30才前後の男性が胸に「旭日旗」と「大日本帝国海軍」の文字が書かれたTシャツで登場したが、直ちにほかの参加者に囲まれ、「日本軍国主義の犬」などと罵られたうえ、無理やりTシャツを剥ぎ取られた。

男性は「私は日本で育った。日本でいつもこのような格好をしている」などと説明したという。その後、上半身裸となった男性は地元の警察に保護されたという。

翌日の中国各紙はこの事件を大きく報じ、インターネットにはさまざまな意見が寄せられた。

男性のTシャツを剥ぎ取った行為について「当然だ」「服を剥ぐ程度じゃ生易しい。皮を剥いでやるべきだった」といった過激な意見も少なくない。

「彼は法律に触れたわけではない」「何を着ようと彼の自由だ」といった意見も一部寄せられている。

中国紙、京華時報は「日本の軍国主義を宣伝することを法律で禁止すべきだ」と提案したところ、インターネットでひろく支持を集めた。

しかし、数年前、武漢大学で和服を着て桜見物を楽しんでいた地元の母娘が同大の学生らに罵倒され、追い出された事件が起きたように、いまの中国では、軍国主義と関係なくても日本を連想させるだけで群衆が激高することが多い。

北京の改革派知識人は「日本を敵視する当局の愛国主義教育の結果だ」と指摘したうえで「戦後70年も経ち、いまさら軍国主義禁止の法律をつくる意味がわからない。

そのような法律ができれば、民間の反日行動に口実を与えてしまい、ますます収拾つかなくなるだろう」と懸念している。【9月14日 産経】
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今回事件自体は、人が大勢集まる大会に、ことさらに一般中国人の感情を逆撫でするような服装で参加するという、やや特殊な案件にも思えます。

これをもって、“中国で反日感情が高まる”とするのはいかがなものか・・・というのが個人的印象です。

“日本を連想させるだけで群衆が激高することが多い”とのことですが、一方で、「日中関係の低迷も中国人観光客の訪日ブームには影響を与えていない」【9月1日 Searchina】といった面もあります。

****日中関係なんのその!? 中国人の訪日観光ブームに影響みられず=中国メディア****
・・・・一方で、中国人観光客の日本旅行ブームには「大きな影響はなかった」とし、原発事故による影響すら、ごく短期間にとどまったと紹介。

日本政府観光局のデータとして、2003年には44万8700人だった中国人の訪日外客数が08年には100万人を突破、さらに12年には142万5100人に達したと伝えた。14年1-7月のは前年同期比90.8%増となり、7月の単月では韓国を抜いて国別で1位になったことを紹介した。

中国人の訪日が増える一方で、中国を旅行で訪れる日本人の数は減少している。

記事は中国政府・国家旅遊局の統計を引用し、2010年に中国を訪れた日本人観光客は373万1200人だったが、2013年には287万7500人にまで減少したと紹介。

日中関係の悪化と同時に、日本人観光客の数も年々減少傾向にあると指摘し、「日中関係が悪化してからというもの、日本人観光客の数は大きく減少してしまった」と嘆いた。(後略)【9月1日 Searchina】
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“日本を連想させるだけで激高する群衆”と海外旅行を楽しむ人々では、社会階層として大きな差があるのかも。
だとしたら、対日感情の問題はすぐれて中国国内問題であることも想像されます。

いずれにしても、287万人の日本人観光客が中国を旅行していることからして、“日本を連想させるだけで群衆が激高することが多い”という表現は注意して見る必要がありそうです。
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エボラ出血熱  西アフリカ全域での感染者の「飛躍的増加」も危惧される

2014-09-13 22:32:12 | 疾病・保健衛生

(リベリアの首都モンロビア 感染が疑われる少年を治療施設に運ぶスタッフ “flickr”より By standbytaskforce1 https://www.flickr.com/photos/127488415@N04/15192036282/in/photolist-oLxqnW-p4GcEM-p4HgDd-p9ta73-p4Eipy-oQYVdX-oReChb-oLwiZ6-oSKKxu-oUDHgc-oNhy4f-p1Vm5f-p9v7Cp-oS1nEY-oS1VSa-p9iXQT-oLfnKz-p4TnFX-oPLAVd-p9S6mw-p27MgG-p29BGR-p27MfQ-oJDNS4-oLwJrb-oSbwYW-p6GY4F-p6YqXV-pbEMbg-oSR8AV-oUiwez-oUaVth-pbEMcD-p9tccq-p9tcgy-oUjFRX-oUjDCQ-p9LWY3-pbxcoB-pbLV6j-oUj3FC-oSWSHj-oNdkxP-p3EzbU-oJE5dA-p9etH8-oR7q8A-p3Ewub-oNczWc-oNcMnj

最多の犠牲者を出しているリベリアのサムカイ国防相は9日の安保理で、「リベリアは国家存亡をかけた深刻な脅威に直面している」「(エボラ出血熱は)野火のように、その進路上にある全てをのみ込みながら拡大している」と述べています。)

感染拡大の現状に「完全に圧倒されている」】
西アフリカで猛威をふるうエボラ出血熱について前回取り上げたのが、8月22日ブログ「エボラ出血熱  感染国での混乱拡大 不十分な国際支援 急がれる治療薬の量産」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140822)でしたが、その時点での犠牲者は1350人でした。

9月12日時点では2400人を超えたとWHOは発表しています。(感染者は4784人)

しかし、感染中心部では医療体制が崩壊していおり感染状況が十分に把握されていないことや、現地住民の間で医療体制への不信感が強く適切な受診が行われていないことを考えると、実際にはもっと犠牲者が多いことも推察されます。

また、膨大な感染者が存在していることから、今後とも犠牲者がハイペースで増え続けることも危惧されます。
“世界保健機関(WHO)は、西アフリカ全域での感染者の「飛躍的増加」を予想しており、特にリベリアでは今後数週間で数千人規模の新たな感染者が出る恐れがあると警告している。”【9月10日 AFP】

空気感染はしないというウイルス特性にもかかわらず、ウイルスとの戦いは後手に回っており、関係者からは「闘いに負けている」「完全に圧倒されている」といった悲鳴にも似た発言が出ています。

****<国連>エボラ出血熱「封じ込めの闘いに負けている」警告****
国連本部で2日、西アフリカで猛威を振るうエボラ出血熱の感染拡大に対処するための会合が開催された。

現地で治療にあたっている国際医療団体「国境なき医師団」のジョアンヌ・リュー会長は「国際社会は、感染の封じ込めに向けた闘いに負けている」と指摘。
生物的脅威に対処する知識をもった文民、軍人の専門家を派遣するよう各国に求めた。

世界保健機関(WHO)によると、これまで確認された感染者数はリベリア、シエラレオネなどで約3500人、うち1500人以上が死亡。リュー会長によると、同医師団のスタッフは感染者全体の3分の2以上を治療してきたが、感染拡大の現状に「完全に圧倒されている」という。

リュー会長は人員の投入に加え▽隔離施設の拡大▽可動式の医療・実験施設の導入▽現地で感染した医療関係者を治療するための地域ネットワークの構築--などの必要性を訴えた。

また、WHOのマーガレット・チャン事務局長は会合後の記者会見で、エボラ出血熱は比較的孤立した集落で発生することが多かったため「すべての関係機関が規模を過小評価していた」と話した。

一方、航空路線の運休などによる感染国の「孤立化」で、国連スタッフや専門家の現地派遣にも支障が出ていることを指摘。
出国時に検査を徹底することで他国への感染拡大の危険性は「極めて小さくなる」とし「孤立化は事態の解決法ではない」と語った。【9月3日 毎日】
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状況はその後も改善せず、WHOのマーガレット・チャン事務局長は12日にも、被害が大きい国の1つであるリベリアでは「感染者の治療に提供されるベッドが全国規模で1つもない」との憂慮すべき状態にも言及、状況は現地対応能力を超えていると指摘しています。

【「今われわれが一番必要としているのは(現場の)要員なのです」】
問題は多々ありますが、医療スタッフが犠牲になることが多いことや、感染の恐怖から逃げ出してしまうことなどもあって、とにかく現地では医療スタッフが絶対的に不足しています。

そうした中で、国策としての医療スタッフ国外派遣では実績があるキューバが大規模な派遣を発表しています。

****キューバが最大の医療団を派遣****
・・・・キューバのロベルト・モラレス・オヘダ保健相はジュネーブでの記者会見で、エボラ熱で500人を超える死者が出ているシエラレオネに医師62人、看護師103人を派遣すると発表した。キューバの医療チームは西アフリカに6か月間留まるという。

参加者全員が「これまでに各種の惨事の対処に参加した経験があり」、全員が派遣に志願したという。

キューバには世界的に評価が高い医療従事者を世界各地の被災地などに派遣する伝統があり、今回のエボラ流行で外国から派遣される医療チームとしては最大になる。

実験的な治療を通じていずれはエボラ出血熱の治療法が確立されるのではないかとの希望が出ているが、WHOのチャン事務局長は、「今われわれが一番必要としているのは(現場の)要員なのです」と強調して、キューバ政府の発表を歓迎した。

WHOは、西アフリカ全体でのエボラ禍の拡大を阻止するには、さらに外国人保健衛生専門家500人と現地の医師と看護師1000人が必要だと推定している。【9月12日 AFP】
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“全員が派遣に志願した”という実態はよくわかりませんが、こういう事態にあっては非常に助かる話ではあります。
ただ、まだ1桁多い数字が求められています。

食糧支援体制も必要
医療体制だけでなく、感染地域の食糧問題も深刻化しています。

****薬だけでは治せない」=エボラ感染地への食料支援急務―WFP事務局長****
国連世界食糧計画(WFP)のカズン事務局長は13日、エボラ出血熱の感染が広がるギニア、シエラレオネ、リベリアの西アフリカ3カ国について「薬だけでは病気は治せない。飢えている人にいくら医療処置を施しても不十分で、食料も水も必要だ」と強調、食料支援が急務だと訴えた。東京都内で時事通信社などとのインタビューで語った。

感染者が出た集落は封鎖され、周辺から隔離されてしまう。WFPは現在3カ国で14万人に食料支援を行っているが、その数は今後3カ月で130万人に増えると予想している。

隔離された集落では「作物の収穫もできないから、食料をめぐる影響はさらに大きくなる」と事務局長は警告する。

流通が滞り、食料価格の高騰が始まっており「食料品の購買力がもともと低い貧困層が真っ先に犠牲になる」と支援拡充への協力を日本を含め国際社会に呼び掛けた。【9月13日 時事】 
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感染地域を十分な食糧支援なしに隔離閉鎖してしまうことは、当局と現地住民との間の緊張を高め、協力体制も難しくなります。
感染しなくても餓死してしまう・・・といった事態になったら、ますます悲惨です。

シエラレオネ 外出禁止令のもとで一斉調査、感染者を把握へ
感染封じ込めには感染者の把握が大前提となりますが、感染者が把握しきれていない現状を打開するため、シエラレオネでは外出禁止令を出して全戸一斉調査を行う予定とされています。

****シエラレオネ、全世帯訪問でエボラ患者特定へ****
シエラレオネ当局は8日、エボラ出血熱の感染者特定や遺体の適切な処置のため、人口約600万人の同国内の全世帯を訪問する計画を発表した。

同国エボラ緊急対策センターのスティーブン・ヌガオジャ氏は記者会見で、先日発表された19~21日に施行予定の外出禁止令の一環として、ボランティア2万1400人が国内の全世帯を個別訪問すると説明。

エボラ感染が疑われる患者を特定するとともに、遺体を発見した場合は接触者の追跡や埋葬を担当するチームに報告するという。

今回のエボラ出血熱流行の中心となっている西アフリカ3か国での死者は2000人を超えており、うちシエラレオネでは491人が死亡している。

シエラレオネ政府は6日、「この恐ろしい病気(の実態)を確実に把握するため」として、19日から72時間の外出禁止令を発令すると発表。この間は必要不可欠な業種関係者を除いて、人々が屋外に出ることや車両の通行も禁じられる。【9月9日 AFP】
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うまくいけば感染者を把握でき、今後の事態改善の糸口になりますが、現在の混乱状態でボランティア2万1400人を動員するという計画がどのように実行されるのか・・・・。

72時間の外出禁止令は市民生活に多大な負担をもたらします。
ただ、このような一斉に網をかけるような方法をとらないと、いつまでも感染が拡大し続けます。
政府は必要があればその後も複数回にわたり、同様の外出禁止措置を取る方針です。

野生動物の肉(ブッシュミート)からの感染の危険はアフリカ以外でも
現在の感染拡大はウイルス保持者および遺体の体液を通じて起きるいわゆる「接触感染」によるとされていますが、もともとの発生源は、感染した野生動物の肉(ブッシュミート)を食べたり、調理時に傷口から感染したりしたことが考えられています。

****サル食肉が運ぶ死のウイルス*****
・・・・今回のエボラ熱感染拡大の正確な原因は不明だが、ウイルスはザイール株に似ているもののギニア固有の株で、ブッシュミートが感染源だった可能性を示唆している。

果実などを主食とするオオコウモリは、エボラウイルスの「自然宿主」(ウイルスが長期間寄生しても害を受けない)とされている。

そのコウモリが食べ残した果実を食べたほかの動物が、付着していた唾液を介してウイルスに感染するのではない
かと考えられている。

そうして感染した動物からヒトに感染する。(中略)

ヒトの場合は感染した動物を殺して解体する際に、手の傷などから血液が体内に入って感染する可能性が最も高い。

しかし「正確なところは分からない」とアメリカ自然史博物館の保全遺伝学部門を率いるジョージ・アマートは言う。

アマートによれば、感染した動物の肉を適切な処理をせず食べたために感染が拡大した可能性も大いにある。(後略)【9月16日号 Newsweek日本版】

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オオコウモリはブッシュミートのなかでも最も需要があり、ガーナだけで年間推定10万匹が売られているそうです。
そのほか、ヒヒ、チンパンジー、マンガペイ、オナガザル、アフリカアシネズミなどの肉が食用とされることがあります。

アフリカの人々にとっては、「生きるためには食べるしかない」という側面もありますが、同時に食文化として、海外移住者にとっては“懐かしい味”ともなります。

そのため、アフリカからの移住者が多いアメリカなどでも、ブッシュミートからの感染は起こりうるとも指摘されています。

*****************
西アフリカ出身者7万7000人が暮らすニューヨーク市は、アメリカのブッシュミート売買の中心地だ。

西アフリカからアメリカヘの直行使はごくわずかで、旅行者の大部分は西ヨーロッパ経由でやって来る。
10年の研究によれば、パリのシヤルル・ドゴール国際空港に持ち込まれるブッシュミートは年間推定273トン。そこからさらにアメリカヘ、という例も多い。

ブッシュミートは珍重され、ますます貴重になっているため、密輸は増え続けている。
02年の米議会聴聞会によれば、ブッシュミートの取引総額は「年間5000万ドル超に達しており、今後20年間で億単位に成長する可能性がある」。

ブッシュミート取引は違法なので正確なデータはないが、過去10年間でアフリカ生まれの移民が増加しているのに伴って、取引も増えている可能性が十分ある。【同上】
*****************

野生動物からヒトへの感染が懸念される地域としては、中国も指摘されています。

****SARSはコウモリから*****
今日ではグローバル化によって人間、そしてブッシュミートも簡単に国境を越えるようになり、感染症が地球規模で拡大する確率が以前より高まっている。

「いい例が中国だ。あの国ではさまざまな種類の野生動物を殺し、倉庫や市場で積み重ねて貯蔵する」とアマードは指摘する。
「普通なら決して接触することのない病原菌と微生物が接触する環境が生まれている」

そうした環境では、同じ個体に感染した異種のウイルスの遺伝子が互いに取り込まれる「遺伝子の水平伝播」と呼ばれる現象が起きやすい。

水平伝播の最悪のケースは、強力だが無害のウイルスの遺伝子が、脆弱だが致死性の高いウイルスに取り込まれスーパーウイルスが誕生すること。

02~03年に世界を震憾させたSARSがそうだった。
SARSの大流行は中国南部にある動物の肉を売る市場から始まった。

SARSウイルスの自然宿主はコウモリ。咸心染したコウモリが市場で食用のジャコウネコの近くに置かれていたのだ。

ウイルスは突然変異を起こしながらコウモリからジャコウネコヘ、そして人間へと感染。
32力国・地域で8000人以上の患者が出る結果となった。【同上】
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治癒者の血液を輸血する方法も
話を西アフリカのエボラ出血熱に戻すと、治験段階の治療薬が投入されていることはこれまでも取り上げてきましたが、病気が治った人の血液を輸血することで、一度エボラウイルスを撃退した人の体内に存在する抗体を別の人の体内に入れることができるのではないかという方法も試されています。ただ、問題点もあるようです。

****エボラ出血熱、治った人の血液で治療 実践にはリスクも*****
(上記輸血治療が施された)サクラ氏の容体は快方に向かっているが、その理由が(エボラ出血熱が治癒し、血漿を提供した)ブラントリー氏の血漿なのか、サクラ氏に投与された別の実験薬なのか、あるいは単に近代的な病院で治療を受けているからなのかは分からないと医師らは話している。

仏パスツール研究所のウイルス学者、ノエル・トルド氏は、エボラ出血熱が治った人の血清には、エボラウイルスを無力化する抗体はそれほど多くは含まれていないといういくつかの研究があると指摘する。(中略)

エボラ出血熱が治った人の血液を輸血するという治療法は、西アフリカで使える簡単で低コストの対応策のように思える。

現に、今月行われたWHOの会議では、参加した約200人の専門家が、血液療法と回復期の血清療法はすぐに利用できるという考えで一致した。

しかし、仏パリのピティエ・サルペトリエール病院で感染・熱帯病部長を務めたフランソワ・ブリケール氏は実際にはリスクもあると言う。

「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)や肝炎ウイルスを広げないよう、まず血清が安全であることを確認しなければならない。そのための技術は先進国では一般的だがアフリカで実践するのは難しい。病気の流行の真っただ中では、あらゆることをチェックすることは主な関心事にはならない」

上述のクラウスナー氏も、適切な手段がなければ治療を受けた患者がエイズや梅毒にかかったり、輸血の副作用が出たりする恐れがあると指摘している。【9月13日 AFP】
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チベット  ダライ・ラマ14世の後継者問題で、ダライ・ラマと中国政府が奇妙な攻防

2014-09-12 22:11:04 | チベット

(“flickr”より By Khabar chitv https://www.flickr.com/photos/125034789@N08/15175535125/in/photolist-p81zTk-p5oYex-p848N8-p92cJn-p4nFPg-p4NZF9-p2TCTT-p2CgGF-p37mtD-p29zWn-oPci4P-oLmioW-p5uq87-oKS16C-oNd7AY-p5tc8W-oQRRWb-oJRVH5-oNcMMs-oNisZU-p3LRDa-p6is4F-pb8Eds-p3jVRB)

抗議行動も許されない抑圧
中国の少数民族問題としては、最近はもっぱら新疆のウイグル族の問題が表面化していますが、焼身自殺者が相次いだチベットに関しては、メディアで見聞きすることは最近はあまり多くありません。

もちろん事態が改善した訳でもなく、中国当局との緊張関係は続いています。

****中国四川省>抗議デモのチベット族に治安当局が発砲****
米政府系の自由アジア放送(RFA)などによると、中国四川省カンゼ・チベット族自治州の村で12日、当局への抗議デモをしていた100人以上のチベット族に治安当局が実弾などを発砲し、10人以上が負傷した。

負傷者らは拘束されたが、中には銃弾が体内に残ったままの人もおり、住民らは治療を受けられていないと訴えている。

報道によると、11日に漢族の役人が村を視察した際、踊りなどを披露したチベット族の女性に役人が嫌がらせをした。
チベット族の村長がこれに抗議したところ、警察当局が村長を拘束。住民らは12日に釈放を求めて抗議したが、治安当局は催涙弾や実弾を発砲して鎮圧したという。

当局は多数のチベット族を拘束したが、負傷したチベット族1人が17日に抗議して自殺したほか、重傷だった22歳の男性も死亡した。村長の息子も被弾して拘束されたが、約1週間が過ぎても収監されたままだという。

四川省や青海省などのチベット族が暮らす地域では2009年以降、中国政府によるチベット政策に抗議し、120人以上が焼身自殺を図っている。【8月19日 毎日】
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焼身自殺については、昨年末に甘粛省甘南チベット族自治州サンチュ県でチベット僧侶(43)が焼身自殺を図り、死亡していますが、このとき中国国内のチベット族居住区で自殺を図ったチベット族124人目と報じられていましたので、今年に入ってはあまり多くは発生していない・・・のでしょうか。

中国当局のチベット族抗議者への凄惨な対応については、下記のような報道もあります。

****中国 チベット人の爪に竹串打ち込み警棒で頭強打・眼球突出****
現在もチベット各地では僧侶や市民によるデモ、治安当局との小競り合いが散発的に発生、当局の弾圧も強化されて情勢は悪化している。

ラサでは私服の公安警察官が徘徊し、街頭に設置された無数のカメラがチベット人の動向を絶えず監視している。不穏な動きを察知すれば、直ちに公安が駆けつけ警察署に連行する。
ビルの屋上に50~100m間隔でスナイパーが配置されているのは、偶発的な事態に対処するためだ。

チベットでは公の場で3人以上集まると「集会」と見なされ身柄を拘束されることがある。近年、チベット人の焼身による抗議が相次いでいるのは、「抗議の声すら上げられなくなった」という絶望感と無関係ではないだろう。

11月12日にも、中国青海省のゴロク・チベット自治州で僧侶の焼身自殺が発生。「チベットに自由を」と叫び炎に包まれた僧侶は弱冠20歳だった。2008年のラサ騒乱以降、焼身自殺者は120名を超えた。

インド・ダラムサラで亡命チベット人の支援活動を行なう中原一博氏が語る。
「2008年に中国政府に対する抗議ビラを撒いた僧侶11人が逮捕、有罪となり四川省のメンヤン刑務所に収監された。最近、その内の2人が解放されたが、1人は足と腰に重傷を負っており、非常に衰弱した状態だった。もう1人は半身不随となり精神に異常をきたしていた。僧侶を解放したのは、責任問題となる監獄内拷問死を避けるためだ」

中原氏が続ける。

「公安は政治犯と見なせば女子供にも容赦がない。2012年、四川省のカンゼ州・タンゴ県で発生した1000人規模のデモでは当局の無差別発砲で2人が死亡。当局は逃走したデモ参加者を執拗に追い山狩りをした。ある僧侶は自宅で発見され、弟とともに射殺された。武装警察は彼らの母親と泣き叫ぶ弟の子供たちにも銃口を向け、5人の子供が撃たれて負傷した」

警察に連行されたチベット人は、凄惨な拷問を受ける。
ある男性はすべての指の爪の間に竹串を打ち込まれ、生爪をはがされた。

また、「チベットはわれわれの国」という貼り紙をして検挙された僧侶は、後頭部を警棒で強打され眼球が突出、視神経が切断され失明した。

これらはすべて、後にチベットを脱出した人々から得た証言だ。「公安の拷問を受けるなら、焼身で抗議の意思を示すほうがマシだ」との悲痛な声もある。

こうした惨状を伝えるためチベットに潜入したジャーナリストが、当局の脅しを受けることもある。
5月にチベット取材を敢行したフランス人ジャーナリストのシリル・パヤン氏は活動拠点のタイに戻った途端、中国大使館から「フランスでオンエアされたリポートについて説明せよ」と大使館への出頭を要請された。

パヤン氏が拒否すると、大使館側は「責任を取ってもらう」と脅迫したという。もし出頭に応じていれば、身の安全は保障されなかっただろう。【SAPIO2014年1月号 取材・文/路山蔵人氏 2013年12月19日NEWSポストセブン】
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抗議デモは徹底的に封じ込まれており、もし実行して拘束されれば凄惨な拷問も行われる・・・ということで、抗議手段としては焼身自殺しかないとも言える状況ですが、チベットの精神的指導者ダライ・ラマ14世はこうした焼身自殺を認めている訳ではありません。

ただ、強く自制を求めているとも言い切れない微妙なものもあります。

****チベット人の焼身自殺、ダライ・ラマ「効果ほどんどない****
オーストラリアを訪問中のチベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世(77)は13日、焼身自殺による中国統治への抗議は、中国政府の政策にほとんど影響を与えていないと語った。

焼身自殺についてダライ・ラマは、「もちろんとても悲しいことだ。ただそれと同時に、そのような思い切った行動が効果を及ぼしているかには疑問を感じている」と記者団に述べた。

一方でダライ・ラマは、「中国当局者が引き金となっている兆候がある。当局者は焼身自殺の原因を調べるべきだ」と訴え、チベット人が単に社会的な抗議のためだけに命を犠牲にしている訳ではないと強調した。

2009年以来、四川省や甘粛省、青海省などで少なくとも117人のチベット人が、中国政府のチベット政策に抗議して焼身自殺を図っている。

チベット研究者らからは、ダライ・ラマが自制を求めていないことが焼身自殺による抗議を助長しているとして、ダライ・ラマの姿勢を批判する声も出ている。【2013年 06月 13日 ロイター】
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ダライ・ラマ14世「ダライ・ラマの目的は果たされた」】
いずれにしても、ダライ・ラマ14世の存在は、中国当局の統治政策への反発を続けるチベットの人々の精神的拠りどころであると同時に、その非暴力を掲げる思想が、当局との大規模な衝突や暴動に対する一定の歯止めともなっています。

従って、高齢にもなっているダライ・ラマ14世の後継者が、チベット問題の将来に向けての重要なカギを握っています。

チベット仏教にあっては、代々最高位ダライ・ラマと次位のパンチェン・ラマは転生によって後継者が決められますが、両者は互いの転生者を認定する役割に大きな影響力を持っています。

つまり、ダライ・ラマの後継者選定にパンチェン・ラマが影響力を有することになります。

パンチェン・ラマ10世が1989年に中国のチベット統治策の誤りを告発する演説を行った直後に急死したことを受けて、ダライ・ラマ14世がパンチェン・ラマの転生者として選定した少年を中国政府は転生者として認めず、政府による独自の転生者が別に認定され、ダライ・ラマ14世が認定した転生者とその両親はその後行方が知れない・・・という話は、これまでも何回か取り上げてきたところです。

ダライ・ラマ14世側によって転生者とされたニマ少年とその家族の消息については、個人情報保護を理由に中国政府は公表していません。

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2010年3月7日、中華人民共和国チベット自治区の主席バイマ・チリンは記者会見で、パンチェン・ラマ11世ゲンドゥン・チューキ・ニマの資格を否定する中国政府の主張を繰り返すとともに、現在のゲンドゥン・チューキ・ニマは一般市民として生活しており、その兄弟は大学に進学したり就職していると述べた。これは、ゲンドゥン・チューキ・ニマは仏教指導者ではないと主張する意だと解されている。【ウィキペディア】
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このような事情もあって後継者問題を抱えるダライ・ラマ14世は、「後継者は不要」との考えを示しています。

****ダライ・ラマ14世、「後継者は不要」 独紙インタビュー****
チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世は、ドイツ紙とのインタビューの中で、自身を最後の指導者とするべきと述べ、故郷の地で数世紀にわたり継承されてきた宗教的伝統を終わりにすべきとの見解を示した。

同氏は過去にも、「ダライ・ラマの目的は果たされた」と述べており、独紙「ウェルト」日曜版での今回のコメントで、その意思をさらに明確にした形だ。

英語で行われたインタビューで同氏は、「ダライ・ラマ(の伝統)はおよそ5世紀にわたり続いてきた。現在のダライ・ラマは非常に人気がある。評判の良い最高指導者がいる間に終わらせるべきだろう」と述べ、「弱いダライ・ラマが継承すれば、その伝統に傷が付く」と笑顔で付け加えたという。

また、「チベット仏教は一個人に依存するものではない。私たちは、高度に訓練された僧侶や学者を何人も擁する非常に組織立った構造を持っている」とした。

1950年にチベットに派兵した中国は、翌1951年から同地を統治。ダライ・ラマ氏は1959年の民族蜂起が失敗に終わった後、インドに逃れた。

2011年にノーベル平和賞を受賞した同氏は、すでに政治活動からは距離を置いているが、それでも国内外のチベット人に対する強力な求心力を維持しており、また民族運動の象徴として広く知られている。【9月8日 AFP】
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中国政府「(転生制度放棄を)中央政府と信者は絶対に認めない」】
中国政府が「公認」するパンチェン・ラマ11世によって、「親中派」のダライ・ラマ15世が選ばれ、チベット統治に利用されるような事態を回避しようとの考えですが、当然ながら中国政府側はこれに反発しています。

****ダライ・ラマ14世「転生」廃止発言 「秩序損なう」中国は猛反発****
 ■後継者選定で綱引き
チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世(79)が、ドイツ紙ウェルトとの会見で、自身の後継問題を踏まえて、「チベット仏教の転生制度を廃止すべきだ」と述べたことが、波紋を広げている。

中国外務省の華春瑩報道官は10日の記者会見で、「発言はチベット仏教の正常な秩序を大きく損なうもので、中央政府と信者は絶対に認めない」と反発し、転生制度の維持を求めた。

ダライ・ラマを含む活仏の転生制度は、チベット仏教の輪廻(りんね)観に基づく。高位の活仏は死後、教義に沿った生まれ変わりの霊童探しで後継者が選定される。

転生制度の存否は、亡命先のインドで高齢を迎えたダライ・ラマの後継選定、さらにはチベット問題の行方に直結するものとして、これまで注目を集めていた。

中国政府は、無神論を信奉する共産党の一党独裁ながら、チベットでの転生制度を容認。高位の活仏だったパンチェン・ラマ10世が1989年に死去した後は、ダライ・ラマ側と競う形で後継の霊童探しが展開され、中国政府「公認」の候補が「パンチェン・ラマ11世」となる一方、ダライ・ラマ側が選んだ別の少年は行方不明となった。

中国当局はさらに2007年に「チベット仏教の活仏輪廻管理条例」を作り、チベット仏教の後継者選びと最終認定に当局が参加することを明記した。

チベット仏教への政治介入と批判されるが、最大の眼目はダライ・ラマの後継を中国政府主導で選定することにある。「ダライ・ラマ15世」を親中派の宗教指導者に育成することで、チベットの安定統治を図る考えだ。

亡命中のダライ・ラマの発言は、この中国政府の策略を熟知したもので、転生制度の廃止という重大決断を今回初めて明示したが、今後、中国当局とチベット亡命政府の新たな確執を招くことは避けられない。【9月11日 産経】
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そもそも無神論共産党政府が宗教的転生者を認定するというのも奇妙な話ですが、現実政治に非常に大きな影響を持つ問題でもあります。

宗教権威者であるダライ・ラマ14世側が転生制度を放棄しようとし、無神論中国共産党がその存続を強く主張するという、これまた奇妙な展開となっています。

もし、チベットの人々の精神的拠りどころとなってきた(チベットの人々が正統と認める)ダライ・ラマが不在となった場合、チベット民族運動が過激化する事態も考えられます。
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アメリカ・オバマ政権  シリア領内空爆を含む戦線拡大に踏み出す

2014-09-11 23:18:05 | アメリカ

(戦線拡大を発表したオバマ大統領 “flickr”より By Delaylah Blue https://www.flickr.com/photos/126540741@N05/15011385077/in/photolist-oT1sq2-oT4kjo-oSJZga-oS7TMP-paggum-oSNpNJ-paA7TL-oSPhbX-oSQrzT-oSJHEm-pa4eR5-oSvgN6)

【「イスラム国を最終的に壊滅させる」】
アメリカ・オバマ大統領は、シリア・イラクの両国にまたがって勢力を拡大する「イスラム国」に対し、シリア領内の空爆を含む戦線拡大に踏み切ることを発表しました。

****シリアに空爆拡大へ=イラクに追加派兵―対イスラム国、包括戦略・米大統領****
オバマ米大統領は10日夜(日本時間11日午前)、ホワイトハウスで国民に向けて演説を行い、シリア領内のイスラム教スンニ派の過激組織「イスラム国」に対して「行動することをためらわない」と明言し、イラクでの空爆をシリア領内に拡大する用意があると表明した。イラクにも米兵を追加派遣する。

オバマ政権が広範な「有志連合」を主導し、イスラム国との戦線拡大を決断したことで、シリア内戦をはじめ混迷する中東情勢は大きな転換点を迎える。国防総省高官は10日、シリア空爆は「周到な準備をした後に決断する」と述べた。

大統領は演説で、イラクで新政権が発足したことを踏まえ、イスラム国との戦いで「反転攻勢に出る」と宣言。「包括的かつ持続的な対テロ戦略を駆使し、イスラム国を最終的に壊滅させる」と強調した。

また、包括戦略の「次の段階」として、イラク空爆の制約を外し、同国領内の全てのイスラム国を攻撃すると述べた。米兵475人を追加派遣し、イラク軍を支援することも明らかにした。ただ、米軍の戦闘部隊は派遣しない。 【9月11日 時事】
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シリア領内空爆の難しさ
シリアに本拠地を持ち、シリア・イラク両国にまたがって活動する「イスラム国」に対して、これまでのイラク領内における限定的空爆では「イスラム国」に大きな打撃を与えられないことは明らかです。

シリア空爆にこれまでオバマ政権が慎重だったのは、ひとつには、シリア空爆が結果的に非人道的との批判が強いアサド政権を利することになり、アサド政権と戦闘を続ける反政府勢力を支援しているアメリカの戦略と矛盾するという政治的・戦略的な問題があります。

もうひとつ、現実的・軍事的な問題として効果的なシリア領内空爆が非常に難しいということがあります。

****及び腰オバマ、勝算なきCIA*****
・・・・米軍の戦闘機には信頼できる「観測手」が必要だ。彼らは地上で敵の部隊の位置を正確に把握し、狙撃手や無人偵察機を標的に誘導する。 

8月後半に初めてISISの戦闘員を狙った空爆は、イラク最大のモスルダムやクルド人避難民を危険にさらした。このときは、米特殊部隊やクルド人工作員が標的まで誘導したと、CIA関係者は語る。

だが、より広範囲な空爆になれば、彼らの手には負えないだろう。

「米兵に交代で観測手をやらせるのは現実的ではない」と、(元CIA職員でイラク情勢に詳しい)スキナーは言う。

ただし、クルド人や米政府が支援しているシリアの反政府勢力「自由シリア軍(FSA)」を観測手として使う
のは論外だとも指摘する。「米軍の戦闘機に(爆弾を落とす)指示を出せるのは、前線の航空管制の訓練を受けた者だけだ」

継続的な空爆には、市民の中にISIS部隊の動きを追跡する偵察要員も必要だと、複数の元CIA関係者は言う。

「アメリカには情報がない」と、03年のイラク侵攻前に、クルド人地域でフセイン政権に対抗する反政府勢力を組織した経験をもつファディスは語る。

「敵は民家の中で自動小銃を構えている。シリアにはアメリカの諜報網がない。この町では『この家がISIS
の拠点だ』と、教えてくれる人はいない」

信頼できる諜報員からの正確な情報がなければ、「正しい」民家を攻撃できず、市民の犠牲者は膨大な数になるだろう。その事実をISISが宣伝しないはずがない。

「ISISに入り込まなければ、攻撃すべき相手を見分けられない」と、スキナーも言う。「彼らは数多くの反体制グループと交じり合っている。攻撃しても構わないグループもいるが、それでは目的を達成できない。極めて複雑な問題だ」

理想としては、「穏健派」とされるFSAがISISに圧力をかけつつ偵察をして、空爆を支援するのが望ましい。しかし、FSAの勢力は今やISISに完全に圧倒されている上、痛ましいほど軍備が乏しい。しかも米軍がイラク軍に供給した兵器の大部分は、ISISの手に渡っている。(後略)【9月9日号 Newsweek日本版】
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国民はオバマがもっと力強い姿勢を見せることを期待している
こうした問題にもかかわらず、シリア領内空爆を含む戦線拡大にオバマ政権が踏み込まざるを得なかったのは、「イスラム国」による二人の米国人ジャーナリストの処刑公開などを境に、“内向き”で外国の揉め事への関与に消極的だった世論が、「(「イスラム国」に対する)戦略はまだ持っていない」(8月28日の記者会見での質問に対する発言)とのオバマ大統領に対する苛立ちを強めていることが背景にあります。

****夢想家大統領に背を向ける世論****
米政策 世界的な問題を交渉で解決しようとしてきたオバマに国民の過半数は手ぬるいという判断を下している

・・・・・オバマが国際社会を一つにまとめて、ISISの増長とプーチンの挑戦に対抗できるか。政権の威信はそこに懸かっている。
だが、オバマを冷ややかな目で見る者は国内外で少なくない。

その理由の1つに挙げられるのが、オバマの言動に一貫性がないことだ。例えば、ISISを「ガン」と呼んで非難した翌週に、シリア領内のISISの拠点を直ちに攻撃する可能性を否定。「戦略はまだない」とまで発言して、世間を驚かせた。

このエピソードは、シリアのアサド政権が自国民に化学兵器を使用した際のオバマの反応を思い出させる。(中略)

米市民処刑が世論に影響
だがこの時の危機と、オバマがISISとロシアをめぐり現在直面している危機には重要な相違がある。

昨年8月、オバマがアサドを攻撃しなかったことに対し、国民からそれほどブーイングは起きなかった。当時、世論の51%はアメリカが他国の問題に関与し過ぎていると答え、関与しなさ過ぎると答えたのはわずか17%たった。

1年後に実施された世論調査では、両者の差はわずか8ポイントに狭まり、アメリカは関与し過ぎるという割合は39%、関与しなさ過ぎるという割合は31%になった。

もっと重要な点は米国民の54%が、オバマの外交政策と国家安全保障政策は「手ぬるい」と回答していることだ。

この1年間でアメリカ人が考えを改めた理由はいくつかある。

まず1つは、ISISが2人のアメリカ人ジヤーナリストの首を切断して処刑し、こうしたケースがまた起こり得ると多くの国民が恐怖心を抱いたためだ。

米軍が犠牲を払ってイラクで成し遂げたことが、ISISによるファルージャやモスルの陥落で無に帰したと憤る人々もいる。

プーチンがクリミア半島を掌握し、ウクライナに強硬手段を取る問、アメリカが手をこまねいていたことにいら立つ人もいる。

パレスチナのガザ地区を激しく爆撃するイスラエルが、最重要同盟国であるアメリカの意向をまったく気に掛けなかったことに愕然とした人もいる。
アメリカの最も近しい友好国から敬意を払われないとすれば、他国からの尊敬など期待できない。

こうしたいくつもの例から分かるように、国民はオバマがもっと力強い姿勢を見せることを期待している。
アメリカ人は、アメリカが今以上の重荷を担うことを望んでいる。そうしなければどんな事態が起きるかを、現実に思い知らされたからだ。

取りあえず静観するというオバマの外交姿勢は1年前なら支持されたが、今はもう通用しない。傍観者でいることは日増しに評価されなくなっている。(後略)【9月16日号 Newsweek日本版】
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“イスラム国への対応強化を求める声は米国人記者2人の殺害などを受けて拡大。米紙ワシントン・ポストなどが4~7日に実施した世論調査では、イラク空爆支持は71%と、6月の45%から大幅に増えた。シリア空爆も65%が支持し、逆に大統領のこれまでの対応を「慎重過ぎる」とする回答が53%に上った。”【9月11日 毎日】

この時期の方針転換は、劣勢が予想される中間選挙を控えて、大統領・民主党への逆風を和らげようとする意向の表れとの指摘もあります。

ただ、“「無策」というこれまでの批判が「不十分」という批判に変わるだけに終わる可能性もある。”【9月11日 毎日】とも。

第二次大戦後の安全保障は、アメリカの積極関与を前提に構築されている
国際問題への直接的関与に消極的なオバマ大統領の外交政策には以下のような批判もあります。

****世界の脅威に策を持たないオバマの危険なミニマリズム****
・・・・しかし親オバマ派は、彼の外交政策を擁護するために奇抜な論理を考えついた。
政治評論家のピーター・バイナートはオバマの政策を「果敢なミニマリズム」と呼ぶ。

オバマが本当に反撃するのは、米本土に直接の脅威がもたらされた場合だけだという。「シリアで多大な犠牲が出ても、タリバンがアフガニスタンを動揺させても、イランが核兵器を持っても構わない。オバマはアメリカ国民に危害を加えるであろう相手にだけ剣を抜く」(中略)

この考え方が危険なのは、アメリカが世界から手を引けば、悪の勢力がその空白を埋め、アメリカの同盟国が脅威にさらされる点だ。結局アメリカは問題解決に乗り出す羽目になり、代償はさらに大きくなる。

第二次大戦後の安全保障は、アメリカの積極関与を前提に構築されている。アメリカが世界の平和を保てば、アメリカの繁栄につながるという考え方だ。

政治評論家のロバート・ケーガンは、オバマは国民が望んだミニマリズムの外交政策を取ったが、結局誰も喜ばなかったと指摘した。

ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、ロジャー・コーエンはこう書いた。「国民が求める大統領は、彼らの思いをただ受け取るのではなく、国を引っ張る人物だ」

激動の時代である。いま必要なのは、第二次大戦後に現れたような実行力と先見性のある指導者だ。安全保障の構造や同盟関係を再構築することも重要だ。世界もアメリカも、自ら時代を形作る大統領を求めている。(後略)【9月11日 Newsweek】
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安全保障政策を最終的にはアメリカに頼る日本にも大きく影響する問題です。

今後の展開
問題はこれからどうなるのか・・・という点です。

ウクライナについては、ロシア・プーチン大統領が犠牲を払ってでもウクライナから手を引かない姿勢を明らかにしている一方で、アメリカにはロシアと戦争をするという選択肢はない以上、「どうしようもない」というところです。

それに比べれば、少なくともイラクにおける「イスラム国」に対しては、一応イラク国内でクルド人・スンニ派をい含む挙国一致内閣が成立し、国際的に見てもシーア派のイランも、スンニ派のサウジアラビアも、アメリカと利害が対立することが多いロシア・中国も、みな反「イスラム国」で一致するという、非常に珍しい状況になっています。

もちろん、本音は様々です。例えば、クルド人勢力は強力なイラク中央政府は望んでおらず、アメリカが独立を約束しない限りは本気では「イスラム国」に対処しないのでは・・・とも思われます。

とりあえずは反「イスラム国」で結束した状況を考えると、少なくとウクライナに比べれば“やりやすい”とも言えます。

シリア領内空爆については事情は異なりますが、イラクで「有志連合」なり「挙国一致内閣」なりが機能すれば、その分、アメリカとしてシリア領内に余力を振り向けることも可能でしょう。

シリア・イラク国境を固め、シリアとイラクをつなぐ補給路を分断するだけでも、「イスラム国」への打撃となるでしょう。

基本的には、アメリカがアサド政権敵視政策を放棄して、その行動を監視しつつもアサド政権の存続を許容し、「イスラム国」への対応だけでなくシリア国内でいつ果てるともしれず続く内戦に終止符を打つべきだと考えますが、現実にはなかなか・・・。

ただ、アサド政権崩壊で権力の空白が生じれば、「イスラム国」のような過激派勢力がその空白を埋めることになり、事態は更に悪化することはイラクの例でも明らかになったとも思えます。

****米主導の対イスラム国作戦、今後の展開は****
■シリア国内での軍事作戦
シリアで活動するイスラム国戦闘員を標的とした空爆は、オバマ大統領が計画する軍事作戦における最大の賭けといえる。

米国の空軍力を活用し得る能力を持ったシリアの穏健派反体制勢力が地上に展開していない以上、同国での空爆は、隣国イラクよりも限定的なものになる可能性が高い。

専門家や元米政府関係者らは、空爆はシリア東部のイスラム国支配地域に的を絞ったものになるとの見方を示し、オバマ政権がパキスタンとイエメン、ソマリアで国際テロ組織アルカイダのメンバーを標的に行った無人機攻撃と同様の作戦が行われる可能性を指摘している。

オバマ政権が、軍事作戦を無人機攻撃に限定するのか、あるいはイスラム国やシリア政府の支配地域で空軍機が撃墜されたり不時着したりする危険を冒してでも有人戦闘機・爆撃機を作戦に投入するかは、今のところ不明だ。(中略)

■航空作戦の強化
米軍が8月8日からイラクで開始した空爆は今のところ、1日平均10回程度の限定的な攻撃にとどまっている。

だが、オバマ大統領の空爆拡大の方針発表を受け、攻撃のペースは今後、加速していくと予想され、欧州の同盟国の一部も参加する構えを見せている。フランスが既に参加に向けて準備を進めていることを明らかにしているほか、英国もこれに続く可能性がある。(中略)

航空作戦の拡大には、米政府が周辺国の基地の利用許可を取り付ける必要があるが、これは中東諸国の各政府にとって常にデリケートな問題だ。

■現地部隊に対する訓練と武器供与
オバマ政権は航空作戦に加え、最終的にはイスラム国を撃退できるだけの地上部隊を国内に構築したい考えだ。

イラクに対しては、米国は既に300人近い軍事「顧問」を派遣し、イスラム国の攻勢によって大きな痛手を負った治安部隊の再編制を支援している。米国を含む各国の政府は今後も、イラク政府と同国北部クルド人自治政府の治安部隊ペシュメルガへの訓練と武器の提供を継続するとみられる。

一方のシリアでは、穏健派の反体制勢力を対象とした訓練と武器の提供も優先事項となる。だが、米政府関係者の間では、シリア国内に無数の勢力が展開していることや、内戦の多面性からみても、こうした努力が成果を生むまでには幾年もかかるとの見方が出ている【9月11日 AFP】
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中国も「有志連合」に関心
現実性はともかく、中国も「有志連合」に関心を有しているという報道もあります。

****中国、有志国連合参加に前向き 対イスラム国、ウイグル族が戦闘員参加の可能性**** 
米紙ウォールストリート・ジャーナル電子版は9日、オバマ政権が中国に、イラクとシリアで勢力を拡大するイスラム過激派「イスラム国」に対抗する有志国連合への参加を打診、中国は「興味を示している」と報じた。米政府高官の話として伝えた。

同紙によると、有志国連合への参加打診は、中国の習近平国家主席が9日、訪中したライス米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)と会談した際に伝えた可能性があるという。

中国側は最近、少数民族のウイグル族のイスラム教徒がイスラム国の外国人戦闘員として加わった可能性があると指摘している。

米高官は同紙に「中国は国内外でのテロへの懸念を強めている。米国の国益や価値観と一致するような方法による(中国参加の)機会がないか検討している」と述べた。【msn産経】
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中国がアメリカと共に戦うという話になると、日本は?という話にもなります。
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