孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  大統領選挙と連動して強まるイスラム保守主義の「モラルパニック」

2018-11-20 22:57:09 | 東南アジア

(バイクの後部座席で横乗りする女性=2018年11月16日、ジャカルタ、野上英文撮影【11月17日 朝日】
私は旅行先でときおりバイクタクシーを利用しますが、こういう「横座り」は非常に危険なように思うのですが・・・)

イスラム法適用のアチェ州 「男性を誘惑するから」女性はバイクまたがるな

今月4日から12日まで、インドネシアのバリ島を旅行していましたが、イスラム教徒が大多数のインドネシアにあってバリ島はバリ・ヒンズー教であること、また、大胆に肌を露出した欧米系女性旅行者がそこらじゅうを闊歩していることなどもあって、イスラム教的な窮屈さとは無縁の島です。(他の島のイスラム教徒における、そうしたバリ島の特殊性への反感が、かつての外国人観光客を対象にした大規模テロの背景にあるのかも・・・)

バリでは、男性の運転するバイクの後部に女性が乗っているのはごく普通の光景ですが、イスラム教の戒律がインドネシアでも特別厳しいスマトラ島北部のアチェ州ではどうでしょうか。

そのあたりについて、日本語ガイド氏に「アチェであんなふうに乗っていたら、鞭打ちの刑になるんじゃない?」と尋ねると、「そういうところの女性はかわいそうですね」とのことでした。

男女の二人乗りがどうなのかは知りませんが、アチェでは女性がバイクの後部座席に「またがる」ことが禁じられ、乗るときは「横座り」しないといけないとか。恐ろしく危険です。

****「誘惑するから」バイクまたがるな…差別? 警告に批判****
イスラム教徒が多いインドネシアでも唯一、イスラム法に基づく刑罰が定められたスマトラ島北部アチェ州の都市で、女性がバイクの後部座席にまたがって乗るのが禁じられ、警察による警告が相次いでいることが批判を呼んでいる。「危険で差別的だ」と疑問視する声が大きい。
 
同州第2の都市ロクスマウェで13日、イスラム法違反を取り締まる専門の警察が道路検問を実施。バイクに乗る女性17人に「座り方を変えるように」と警告した。

地元メディアによると、運転する場合は女性もまたがらざるを得ないが、その際は体形が分かりやすいジーンズなどを着ることが市の条例で禁じられている。

5年前に条例を制定した市長は「男性を誘惑してはならない」と説明する。
 
インドネシアはイスラム教徒が人口の9割弱を占めるが、検問のニュースが広がると、ネット上では横座りが原因の死亡事故を引用して「安全ではない」とする主張や「女性に差別的だ」という批判が相次ぐ。
 
専門家によると、イスラム法に女性のバイクの乗り方の規定はない。ただ、首都ジャカルタでも横座りする女性を見かける。

女性らに話を聞くと、「またがるのははしたない」とか、スカート姿では「またがれない」との声が聞かれた。こうした考え方や男性中心の思想と融合して、保守的なアチェ州ではこうしたイスラム法解釈が広がっているとみられる。
 
同州の他の自治体でもここ数年、既婚夫婦のみがバイクの2人乗りを認められたり、飲食店で夫婦以外が同じテーブルに座ることが禁じられたりと、規制が増えている。【11月17日 朝日】
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「男性を誘惑してはならない」・・・・戒律・規則で女性の衣服・行動にまで制約をかけるので、日本人的にはごく普通の衣服・行動に劣情を催してしまうのでしょう。

かつてアフガニスタンを支配した旧タリバン政権は、女性のハイヒールについて、その靴音が男性を誘惑するとして禁止していました。

バイクにまたがる女性やハイヒールに問題があるのではなく、そうしたものに劣情を催すイスラム男性の側に問題があるように思うのですが・・・。不自然なまでに制約された状況にあっては、時に抑えがたい欲望が性犯罪や暴力という形で噴き出す・・・ということも想像されます。

なお、アチェ州における宗教警察による女性の服装チェックは以前から行われています。下記は2010年の記事です。

****ズボンの女性にロングスカートの着用を徹底へ、インドネシア・アチェ州****

(インドネシア・アチェ州の西アチェ県で、バイクに乗ったカップルの服装を点検する宗教警察(2010年5月25日撮影) (筆者注:この女性は結局、自分が不適切な服装(体形があらわれるズボン)をしていたことを認めてノートに署名することになったようです)

インドネシア・アチェ州の宗教警察は、26日から、イスラム法に違反していると見なされる服装をした女性に対し「ロングスカートの着用」を徹底していくことになった。西アチェ県の当局者が25日明らかにした。

この当局者によると、同州では計2万着のロングスカートが配布されており、西アチェ県の宗教警察も、26日から「間違った服装」をした女性たちを見つけたら、その場でこのロングスカートに履かせるよう通達された。

同州では、イスラム法に基づき、女性が「ぴったりした」ズボンを着用することを禁じる規則が今年1月1日から施行されており、一部のイスラム教徒から反発を招いている。

なお、宗教警察は、これまでも定期的に女性の服装に関する指導を行っているが、規則に違反した女性を逮捕する権限は持っていない。一方で、ギャンブル、姦通、飲酒などの宗教義務違反に関しては逮捕の権限があり、こうした違反者には「むち打ち」の刑が適用される。

同州の議会は前年、姦通者および同性愛者に対し石打ちによる死刑を適用する法案を可決したが、知事が署名していないため成立はしていない。【2010年5月26日】
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【強まるイスラム保守主義 大統領選挙戦とも連動してLGBTを標的に】
アチェ州に限らず、近年インドネシアにあってはイスラム的価値観を重視する宗教的保守主義の傾向が強まっていることは、これまでもしばしば取り上げてきました。

そうした宗教的保守主義がまず攻撃対象にするのは、LGBTのような性的マイノリティーです。
インドネシアでは来年4月に行われる大統領選挙に向けて、すでに9月から選挙戦が始まっていますが、野党候補を支持するイスラム保守派によるLGBTを標的にした攻撃は、そうした選挙戦とも連動しているようです。

****インドネシアで吹き荒れる「モラルパニック」 標的はLGBT****
人口2億6000万人の世界最大のイスラム教国インドネシアに今、「モラルパニック(モラルや社会秩序を逸脱していると見なした特定の集団に多数の人々が激烈な反応を示すこと)」の嵐が吹き荒れている。

来年行われる選挙戦を前に、イスラム強硬派によって政治的につるし上げられているのは、普段から標的とされやすい性的少数者だ。逮捕者も相次ぎ、LGBTコミュニティーに不安が広がっている。

インドネシアでは、LGBTは常に不道徳だとそしられてきた。だが、ここ最近の政治的弾圧の背景には、宗教的な保守化が進行していることが挙げられる。

中には、性的少数者を拘束して「更生させる」権利を要求する政治家まで現れるなど、強力なイスラム強硬派が率いるこうした変化によって、穏健派のイスラム教国というインドネシアのイメージも様変わりしてきている。

西ジャワ州では最近、地元自治体がいくつかのモスク(イスラム礼拝所)に対し、同性愛の「危険性」に関する説教を行うよう要請。

一方、会員8000万人を抱える国内最大のイスラム教組織「ナフダトゥル・ウラマー」は、同性愛に対する取り締まりを要求している。

さらにジョコ・ウィドド大統領が再選を狙って共に戦う副大統領候補に選んだ相手が、同性愛者を非難する発言で知られる保守派のイスラム教指導者であることから、LGBTコミュニティーはますます懸念を強めている。

米調査機関ピュー・リサーチ・センターが2013年に行った調査では、インドネシアのイスラム教徒の72%が、同性間の性行為を禁じたイスラム法を世俗法の代わりに導入することに賛成し、今年行われた調査では、国民の90%近くがLGBTコミュニティーに「脅威」を感じると回答した。

「(総選挙の実施によって)政治的なスケープゴートが増えかねない」と言うのは、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの研究員、カイル・ナイト氏だ。「政治家が発した言葉による脅しがたちまち、物理的な攻撃に姿を変えてしまう」

■「今の状況は間違っていると言える指導者が必要」
インドネシアでは同性愛は合法であるにもかかわらず、警察は昨年、反ポルノ法違反などを理由に少なくとも300人の性的少数者を逮捕した。

「法執行機関による憎悪に基づく職権乱用を、多くの人が通常の措置と見なしている現状は憂慮すべきだ」と、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルインドネシア支部のウスマン・ハミド事務局長は警鐘を鳴らす。

HRWによると、LGBTコミュニティーに対する一連の弾圧は、2016年にモハマド・ナシール高等教育相が、大学でLGBTの学生団体の活動を禁じたことに端を発する。以来、警察はLGBTの人々を摘発するため、ナイトクラブ、サウナ、ヘアサロン、ホテル、一般住居にまで踏み込んで捜査を行ってきた。

当局は批判に動じない。西スマトラ州のナスルル・アビット副知事は、「LGBT(行為)は非常に有害であり、われわれはそれを撲滅するよう不断の努力を行っている」と主張している。

インドネシア議会は、同性愛も含めた婚外性交渉を犯罪と見なす法案を検討しており、保健省は、同性愛を精神疾患に分類する医療指針の導入計画を発表した。

当局は、ソーシャルメディアも標的にしている。先ごろ、LGBTコミュニティーのフェイスブックページにリンクを張ったとして、男性2人が逮捕された。米グーグルは今年1月、インドネシア政府の要求に応じて自社のインドネシア版オンラインストアから、世界最大の同性愛者向けデートアプリを削除した。

ジョコ大統領はじめ、再選を目指す政界の有力者が、インドネシア社会で忌み嫌われている性的少数者を擁護する見込みは少ないと、HRWのアンドレアス・ハルソノ氏は語る。「これは間違っていると言う勇気を持つ指導者をわれわれは必要としている」【11月20日 AFP】AFPBB News
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【ジョコ大統領側も反対勢力を摘発】
ジョコ大統領としては、盟友でもあり、副大統領候補とも見られていた華人でキリスト教徒でもあるジャカルタ州前知事バスキ・チャハヤ・プルナマ(通称アホック)氏が「反イスラム」として宗教冒涜罪に問われ、知事選も敗退した経緯があるだけに、宗教保守派の動向には神経を使っています。

比較的穏健なイスラム教指導者を副大統領候補に据えたのも、イスラム保守派の攻撃をかわす狙いがあってのことです。(そういう状況にあるので、ジョコ大統領がLGBTに救いの手を差し出し、火中の栗を拾うことはないでしょう)

ジョコ大統領は、単に保守派の攻撃をかわすだけでなく、反対勢力潰しにも乗り出しているとも指摘されています。

****庶民派ジョコ氏、摘発強化 4月の大統領選へ警戒 インドネシア****
来年4月に投開票されるインドネシアの大統領選で、現職のジョコ大統領が「反イスラム」と批判されることに神経をとがらせている。

人口の9割弱を占めるイスラム教徒の動向が勝敗を左右するためだ。反ジョコ氏の大規模デモも計画されるなか、庶民派のイメージにそぐわぬ取り締まりに乗り出している。

選挙は2014年の前回と同じジョコ氏と野党党首プラボウォ氏の一騎打ち。プラボウォ氏を支援するイスラム強硬派の全国組織「イスラム防衛戦線」は12月2日、ジャカルタで大規模な集会を予定する。
国内に700超の拠点を持つうえ、人口の約68%が関わるとの調査もあり、影響は小さくない。

ジョコ氏を支持する国内最大の穏健派イスラム団体の集会で、イスラムの教義を記した旗が燃やされたことに怒り、「反イスラム」と批判している。

同戦線は2年前の12月2日、ジョコ氏の盟友だった当時のジャカルタ州知事を批判するデモに関与。同知事を「イスラムを侮辱した」と攻撃し、翌年の選挙で敗北に追い込んだ。大統領選でも、その再現を狙っているとみられる。

プラボウォ陣営の副大統領候補サンディアガ氏は15日の会見で、宗教対立が選挙に持ち込まれることに「危険で、望まない」と懸念を示した。

だが、陣営はジョコ氏に支持率で20ポイントの差をつけられており、プラボウォ氏も「1%の金持ちが富の半分を独占」「失敗国家に陥る」と述べるなど危機と脅威を強調する。

家具職人の家庭出身で庶民派イメージが強いジョコ氏だが、最近は再選を狙い反対勢力の摘発を強化。

捜査機関の反汚職委員会は、ジョコ氏が前回選で敗れたスマトラ島北部アチェ州の知事など、今年だけで少なくとも20の自治体の首長を汚職容疑で逮捕した。疑惑を抱え、ジョコ氏支持に寝返った政治家もいる。

警察も「大統領交代」を掲げる市民運動への取り締まりを続ける。中心的な2人を別件の容疑で逮捕し、活動を沈静化。インドネシア政治の専門家からは、ジョコ氏による国家権力を使った弾圧との指摘も出ている。【11月19日 朝日】
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アチェ州知事の汚職容疑については、彼らが掲げるイスラム法適用なら「手を切り落とす」という話にもなります。

****インドネシアの州知事が汚職 イスラム法適用なら手を・・・****
インドネシアで唯一、イスラム法に基づく刑罰が定められているスマトラ島北部のアチェ州で、州知事が反汚職法違反の疑いで逮捕された。

州知事が幹部を務め、国からの独立を目指した闘争組織「自由アチェ運動」(GAM)がイスラム法の厳守を求めてきただけに、イスラム強硬派やネットユーザーからは「州知事をイスラム法で裁き、手を切断すべきだ」との声が出ている。

捜査機関の反汚職委員会(KPK)が3日、イルワンディ・ユスフ州知事(57)らを逮捕した。インフラ事業に絡み、州内の県知事から現金約5億ルピア(約380万円)の賄賂を受け取った疑いが持たれている。

アチェ州では同性愛など一部の「犯罪」をイスラム法で独自に取り締まっている。KPKは国の反汚職法に基づいて訴追するためイスラム法は適用されないが、イスラム至上主義を掲げるイスラム防衛戦線(FPI)は、窃盗犯の手を切断するイスラム法の定めを踏まえ、「州知事の手を切断すべきだ」と主張。

また、ツイッターなどでも「収賄の罪は盗みより重い」「イスラム法は弱者にしか適用されないのか」といった声が相次いでいる。

 イルワンディ氏は5日、地元メディアに、容疑を否認したうえで「イスラム法に汚職の定義はない。自分は国の法律に従う」と話した。GAMの元幹部で、2007年~12年に州知事を務めた後、昨年に再選した。【7月8日 朝日】
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「イスラム法に汚職の定義はない」・・・・イスラム法に規定のない女性のバイクの乗り方などについて、さんざん拡大解釈して取りまりを行っていながら、この言い草は笑止です。

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イスラエル  ガザ停戦への国内批判でネタニヤフ政権は窮地に 防衛で培った先端技術の輸出拡大へ

2018-11-19 22:24:06 | 中東情勢

(日本進出を目指す「エムプレスト」がシステム開発を担当したイスラエルのミサイル防衛装備「アイアンドーム」がロケット弾を迎撃するためミサイルを発射した様子=10月27日(ロイター)【11月12日 産経】)

ネタニヤフ政権の停戦受諾に国内極右勢力が反発 総選挙前倒しの方向へ
全面戦争の可能性も危惧された11日~13日にかけてのパレスチナ・ガザ地区におけるハマス等とイスラエル軍の激しい衝突は、エジプトの仲介もあって、13日には停戦が実現しました。

****ハマス、イスラエルとの停戦発表 ガザ大規模衝突****
パレスチナ自治区ガザ地区で、パレスチナ武装勢力とイスラエルとの大規模な衝突が起きた問題で、同地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスなどは13日、エジプトの仲介による停戦を発表した。ガザでは衝突が激化し、全面紛争に発展する恐れも出ていた。

ハマスをはじめとする武装勢力は共同声明を出し、イスラエル側も攻撃を自粛することを条件に停戦に応じると発表。

ただイスラエルの首相府や軍はこの発表に関するコメントは出しておらず、強硬派のアビグドル・リーベルマン国防相は攻撃中止を支持しないとする声明を出した。

一方、外交官らによると、クウェートとボリビアは同日、国連安全保障理事会に対し、今回の衝突について協議するため非公開の臨時会合開催を要請した。

今回の衝突は、2014年のガザ紛争以降で最悪の規模となった。ガザでは、イスラエル軍による空爆で約24時間のうちにパレスチナ人7人が死亡。またガザからはイスラエル南部に向けてロケット弾や迫撃砲約460発が発射され、27人が負傷、うち3人が重傷を負ったほか、住民数万人がシェルターに避難した。

イスラエルの都市アシュケロンの建物をロケット弾が直撃した際には、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸から働きに来ていたパレスチナ人1人が死亡した。【11月14日 AFP】AFPBB News
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全面戦争が避けられたということで、国際的には歓迎された停戦ですが、上記記事にもあるように、イスラエル国内にあっては極右政治家リーベルマン国防相が停戦に反対するなど、ネタニヤフ首相が停戦を受け入れたことに「テロ攻撃に屈した」との批判的反応も強くあるようです。

停戦に抗議するリーベルマン国防相は14日、辞任を表明し、イスラエルの政治情勢は総選挙前倒しに向けて一気に流動化しています。

****ガザ停戦でイスラエル首相窮地=極右与党離反、総選挙前倒しへ****
パレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスとの停戦に応じる決断を下したイスラエルのネタニヤフ首相が、連立与党内からの反発で窮地に立たされている。

極右政党が相次いで離反の動きを見せ、来年11月に予定されていた総選挙の前倒しは不可避の情勢だ。首相は18日の閣議で「(ガザ情勢などで)敏感な時期に選挙に向かうのは、不必要で間違っている」と訴え、可能な限り選挙日程を遅らせる道を模索している。
 
極右与党「わが家イスラエル」の党首で対パレスチナ最強硬派のリーベルマン氏は14日、停戦受け入れの判断を「テロに屈した」と厳しく批判。国防相を辞任するとともに連立政権からも離脱する方針を示した。

国会(定数120)で5議席を有する「わが家」が抜けると、連立与党の議席数は61に減少。あと1人減れば過半数を確保できなくなる状況に陥った。
 
ネタニヤフ首相は最大与党の右派リクードの党首で、リクード支持者にも対パレスチナ強硬派が多い。リーベルマン氏がガザ停戦を政局に絡める動きを見せた背景には、選挙を視野にリクードの支持層に食い込もうとする狙いがあるとみられる。
 
さらに、ネタニヤフ首相は16日、8議席を有する別の極右与党「ユダヤの家」党首のベネット教育相と今後の政権運営をめぐり協議したが、不調に終わった。ベネット氏もガザ停戦に反対していたとされ、地元紙ハーレツ(電子版)によると、ベネット氏は17日、総選挙の前倒しが必要との認識を示した。
 
首相にとって、ガザ停戦が選挙の争点になるのは痛手だ。当面は政権を維持し、国民の関心がほかに向くのを待ちたいところだが、流れを変えるのは難しい。地元メディアでは、政権はせいぜい1カ月程度しかもたないとの見方が支配的になっている。【11月18日 時事】 
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極右政党にとっては、対パレスチナ強硬論を掲げれば、選挙を有利に戦える・・・との目論見があるのでしょう。
国内選挙対策で戦争突入の危機が煽られるというのは困った話ですが、現実政治というのはそういうものなのでしょう。

【パレスチナからのロケット弾攻撃を防ぐ「アイアンドーム」の技術を電力供給調整に活用】
ところで、パレスチナ側からのロケット弾攻撃があるたびに名前が出てくるのが、イスラエル軍のミサイル防衛システム「アイアンドーム」です。

このシステムは、数々のロケット弾攻撃をほとんど無力化していることでわかるように、軍事的には相当な“優れもの”ですが、この「アイアンドーム」に使用されている技術は単に軍事的用途にとどまらないとのことです。

****NYの電力供給を支えるイスラエルの鉄壁防空技術****
(中略)アイアンドームは直訳すると「ドーム型の鉄の天井」ということになるが、その名が示す通り、イスラエル上空にレーダー網を敷き、国外からのミサイルを迎撃して破壊する防衛システムだ。その迎撃成功率たるや、イスラエルによれば、85〜92%にも達するという。

先日、このアイアンドームのコマンド制御システムを開発したイスラエル企業「mPrest(エンプレスト)」の創設者でCEOのナタン・バラク氏と話をする機会があった。バラク氏は今、このアイアンドームを支える同社のスキルを、世界で電力インフラに活用するという別の挑戦に乗り出していると強調していた。

アイアンドームを作り上げた企業が、なぜ電力インフラの世界に進出するのかーー。エンプレスト社の取り組みを探ってみた。

無駄撃ちしないアイアンドームの制御システム
そもそもアイアンドームというのはどういうシステムなのか。

アイアンドームは、2011年に配備が始まった対空迎撃ミサイルシステムだ。開発には、同盟国である米国が13億ドルを提供している。

世界にその名を轟かせたのは、2012年と2014年に起きたパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとの紛争だった。ハマスが放ったミサイルやロケット攻撃を見事に迎撃しているシステムとして話題になったのである。

そんなアイアンドームは、可動式の3つのユニットから成る。まずレーダーがイスラエル領内に向けて飛んでくるミサイルを察知し、システムのソフトウェアがその弾道を瞬時に予測する。そしてミサイルユニットから、タミルという名のミサイルが発射され、敵のミサイルなどを捕捉して破壊する。

アイアンドームの凄いところは、捕捉・破壊の技術だけではない。無駄撃ちはしないことにある。どういうことかと言うと、システムがミサイルの落下地点が人口密集地かどうかなど、被害の可能性も瞬時に判断し、人がいないようなエリアにミサイルが落ちる場合には迎撃しない。

これにより、1発が約5万ドルと言われるタミル・ミサイルを発射するコストを抑えることができるという。さらには、迎撃時にはその破片がなるべく地上で二次被害を生まないようにも計算して破壊するらしい。

こうした技術を実現するには、その基幹となるシステムがかなりの正確性と成熟度を保証する必要がある。

エンプレストは、その複雑に組まれた迎撃システムのコマンド制御を担っているのである。実はエンプレストのシステムは、イスラエルだけでなく「英国からアジアを含む世界各国」(バラク氏)にも供給されている。表には出てこないが、世界各地で使われているということだ。

そんなエンプレストが今、電力網の世界に力を入れ始めているというのである。

(中略)確かに同社は、イスラエルでは、農業分野で灌漑などを制御管理するシステムや監視カメラからゴミ、駐車問題など街全体をコマンド制御するシステムなども手がけている。(中略)そして現在、コマンド制御システムを電力グリッドに使うことも始めているということらしい。

ニューヨークやニュージーランドはすでに採用
実はすでに導入している地域もある。例えば、ニューヨーク州だ。

ニューヨークは言わずと知れた世界でも有数の大都市。16の発電所を抱え、その7割は水力発電に頼っている。その電力供給の安定を担っているのが、エンプレストのコマンド制御システムだという。

ニューヨーク州では、2012年と2014年、続けて大規模停電に襲われた。その原因は水力発電の変圧器が機能不全に陥ったからだった。その反省を踏まえ、同州はエンプレストのシステムを導入。

そして、変圧ポイントにセンサーを付け、機器の状態やフローなどの記録をビッグデータとして集約し、数多くの施設や電力網そのものを広域に常時管理するシステムを構築している。

そしてAI(人工知能)が、修理やメンテナンスが必要な箇所を前もって警告したり、今後問題が起きそうな変圧器を先に予測するなど、電力供給の安定化を支えている。

バラク氏は、電力網のような基幹インフラには、「アイアンドームと同様、いくつものシステムがからみ、問題点の察知が必要となる強固で絶対的に安全が求められるシステムが必要なのです」と話す。(中略)

今世界では、発電は主に原子力や火力、水力に頼っているが、今後は、太陽光や風力、地熱やバイオマスなど再生可能エネルギーによる発電もかなり増えていくことが予想される。

また日本では2020年から、送配電部門が分社化される予定になっている。つまり、公共インフラである電力の送配電網を様々な電力会社が公平に利用して商売を行えるよう、電気事業者と送配電部門を分離し、新たな発電事業者たちが参入することを可能にする。

そうした電力源をまとめてコントロールして、安定供給するシステムとして、エンプレストは自社のシステムが有効だと主張している。

しかも、今後、インフラが今以上にデジタル化されれば、利便性の反面、サイバー攻撃などのリスクも増える。ただそこは世界でもサイバーセキュリティ意識の高い国として知られるイスラエルだけに、侵入を許さないなどサイバー攻撃対策も十分に行なっていると、バラク氏は話す。

(中略)電力供給の安定、そしてセキュリティ対策は不可欠だが、それ以前に電力インフラは供給過程などのちょっとしたミスでも大規模な停電を起こしかねない。最近では、台風の影響で大規模停電が各地で発生したことは記憶に新しいが、そうした事態はいつでも発生しかねないのである。

そこに、迎撃成功率9割を超すエンプレストの緻密な技術への「信頼」が貢献するというわけである。アイアンドームで実績を積んだテクノロジーが電力網を支えるーーそんな話が世界各地から聞こえる日が来るかも知れない。
【10月31日 山田 敏弘氏 JB Press】
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電力は常に需要と供給が同量にならなければ「周波数」が安定せず、最悪の場合は大規模な停電が起きる・・・ということで、9月6日午前3時8分ごろ、北海道南西部地方を震源とする最大震度7の揺れを観測した地震で、震源に近い石炭を燃料とする苫東厚真発電所(厚真町)が緊急停止、これを契機として北海道全域に及ぶ大規模停電が長期間続いたことは記憶に新しいところです。

こういう電力需給調整に、ミサイル防衛システム「アイアンドーム」で培われた技術が役立つ・・・という話のようです。

実際、上記エンプレスト社は日本進出の準備を進めているようです。

****イスラエルの対空防衛システム開発企業が日本進出へ****
イスラエルの対空防衛システム「アイアンドーム(Iron Dome)」の指揮統制システムを開発した同国のIT企業「エムプレスト」が日本への事業進出に向けて準備を進めていることが11日、分かった。同社幹部が明らかにした。

2019年にも進出したい考えで、防衛分野で培ったノウハウを生かして電力設備の効率化やスマートシティー(環境配慮型都市)などでのシステム受注を目指す。
 
同社が開発したロケット弾攻撃を想定したアイアンドームのシステムでは、センサーが感知した飛来物体のデータを集約。その中からロケットを認識して着弾点を推測し、地対空ミサイルを発射して撃ち落とす機能などを持つ。
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同社はこうした技術を活用し、電力関連設備の最適な運用による省エネ化や、農業分野では灌漑(かんがい)などの効率化を図るシステムなどを開発している。
 
日本での事業進出に関しては日本企業との共同事業を想定していて、パートナー企業を探しているという。日本で実績を積み上げ将来的にはアジア市場で進出拡大を図りたい考えだ。【11月12日 産経】
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親アラブの中国をも引き付ける先端技術 アメリカとの蜜月を背景に輸出拡大を
「アイアンドーム」に代表されるように、イスラエルの先端IT技術は非常に高い水準にあって、その魅力は親アラブの立場にある中国をもイスラエルに引き寄せています。

****親アラブの中国、イスラエルに急接近 狙うは先端技術****
中国が「中東のシリコンバレー」とも言われるイスラエルとの関係を深めている。中国は歴史的にパレスチナと親交が深く、イスラエルも中国との関係が悪化している米国の事実上の同盟国。それでも実利で一致し、貿易や投資額は増加。米中の対立が深まるなか、「蜜月関係」は強まっている。
 
習近平(シーチンピン)国家主席の盟友と言われる王岐山(ワンチーシャン)国家副主席が22〜25日、イスラエルを訪問した。中国指導者のイスラエル訪問は、2000年の江沢民国家主席(当時)以来18年ぶり。

ネット通販大手・アリババ集団の馬雲(マーユン)(ジャック・マー)会長らも同行し、力の入れようがうかがえた。イスラエルも「最も重要な中国の要人」と歓迎した。(中略)

中国は1988年にパレスチナをいち早く国家として承認した親アラブ国だが、92年にイスラエルとも国交を結んだ。ネタニヤフ氏が2013年に訪中し、習氏と会談して以降、急速に関係を強化している。
 
中国政府側の統計によると、17年の両国の貿易額は前年から約15%伸びて130億ドル(約1兆4600億円)。シルクロード経済圏構想「一帯一路」の後押しもあり、中国の対イスラエル投資は70億ドル(約7800億円)を超え、港湾建設など大型インフラ事業も次々と落札している。
 
最近は特に先端分野への投資が増えており、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や小米科技(シャオミー)はイスラエルに研究開発センターを設立している。双方の大学や研究機関の協力も相次ぐ。
 
中国が狙うのは先端技術だ。イスラエルは、サイバーセキュリティーや人工知能、ロボット、医療機器、バイオテクノロジーなどの分野で世界の先端を走る。

低価格製品を輸出する「世界の工場」から脱却を図りたい中国は、イスラエルとの協力で独自技術の開発を強化する狙いがある。「知的財産が中国に盗まれている」と主張する米国との協力が見通せなくなった今、イスラエルの技術への期待はさらに高まっている。【10月30日 朝日】
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イスラエルとしては、こうした先端技術による防衛装備品やサイバーセキュリティー技術の輸出に力を入れていますが、やはり対中国となると、アメリカとの関係で微妙なものもあるようです。

****イスラエル、トランプ政権との蜜月テコに防衛・サイバー輸出の拡大へ 対中連携に懸念****
イスラエルでは、イスラム原理主義組織ハマスによるロケット弾攻撃から夜が明けた13日、防衛装備品やサイバーセキュリティーの技術展示会「HLS(国土安全保障)&サイバー」が商都のテルアビブで開かれ、イスラエル企業約175社が出展し各国の民間企業や政府関係者が訪れた。

イスラエルはトランプ米政権との蜜月をテコに防衛・サイバー技術の輸出拡大を目指す。(中略)

多数のロケット弾攻撃を受けても国が混乱に陥らないのは、対空防衛システムなど軍や民間企業が防衛技術を開発し「被害を最小限にしている」(政府関係者)ことが背景にある。そして政府は、直面する脅威への対応で高めてきた技術力を輸出して経済の押し上げを図る戦略だ。

特に不特定多数からの脅威にさらされるサイバー分野のセキュリティー技術では、定評のあるイスラエル企業へのニーズがある。

展示会に参加したサイバーセキュリティー会社の一人は「最大の市場は米国。米国でうまくいけばそこから世界に出られる」と話す。すでに米政府関連機関から受注していて、新たな市場開拓を目指すという。(中略)

イスラエル首相府の元高官は「米国はイスラエルにとって近い関係の国で、トランプ米大統領とネタニヤフ首相の良好な関係は防衛・サイバー輸出を後押しする」と指摘する。

ただ、輸出拡大を図る中でも課題が出てきている。市場規模が大きい中国に関しては、覇権を強める同国への不信感から投資の受け入れや技術提供はすべきでないという意見がある。

ベンチャー企業が増え続けることで人材確保も徐々に難しくなっており、政府にも新たな対応が求められている。【11月19日 産経】
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上記記事が最後に指摘している人材確保が困難になっている問題、その対策としてパレスチナ人雇用を進めている状況については、11月14日ブログ“イスラエルと日本 政治的障壁を超える「人手不足」という経済的要請 政治打破の一歩か、さらなる悪化か”でも取り上げたところです。

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APEC首脳会議 激しい米中対立 首脳宣言を出せぬまま閉幕

2018-11-18 22:37:39 | 国際情勢

(APEC首脳会議開催に伴い立てられた看板には、パプアニューギニアのオニール首相(左)と中国の習国家主席が握手する姿が写っている。(中略)中国が建設した議事堂に向かう6車線の高速道路には、数百の中国国旗がはためき、電柱には中国の赤いランタンがぶら下がっている。数十カ所あるしゃれた、グレーのバス待合所は中国の支援で建造され、中国格子で装飾されている。【11月17日 WSJ】)

【米中の激しいせめぎあい “乱入”(?)騒ぎも
パプアニューギニアの首都ポートモレスビーで開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議は、アメリカと中国の激しい対立の舞台となりました。

下記の“面白い”ニュースは、そうした激しい対立を物語るものでしょう。

****緊張高まるAPEC、中国代表団がパプア外相の執務室に「乱入」試みる****
アジア太平洋経済協力会議の首脳会議が開催されているパプアニューギニアの首都ポートモレスビーで、中国の当局者がパプアニューギニアのリムビンク・パト外相の執務室に「乱入」しようとしていたことが、18日に明らかになった。
 
事情を知る複数の関係者がAFPに語ったところによると、首脳会議の声明をめぐるギリギリの交渉が続く中、中国代表団のメンバーらが17日、パト外相の執務室への「乱入を試みた」ものの、パト外相は中国代表団との面会を拒否。その後、外相の執務室前に警官が配置されたという。
 
APEC首脳会議では米中間のつばぜり合いにより、すでに外交的な緊張が高まっていた。
 
中国代表団の「乱入」について、関係者の一人はAFPに対し「外相が単独で中国と交渉することは適切ではない。交渉に臨んでいる中国側もこれは承知している」と述べた。
 
だがパト外相自身は事態を重大視しない方針で、AFPに対して「問題は起きていない」と語った。
 
中国側からの公式なコメントはまだ出ていない。だが18日中に同国代表団は記者会見を行う予定となっている。【11月18日 AFP】
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面会を断られた中国側と、何らかの事情で断ったパプア側の間で押し問答があったのでしょうが、“乱入”という言葉がふさわしいものだったのかどうかは知りません。いずれにしても、激しいせめぎあいがあったということでしょう。

【際立つ中国の存在感】
今回APEC首脳会議にはトランプ大統領は欠席、習近平国家主席が会議に乗り込んだ中国の存在感が際立つことが予想されていました。

****トランプ大統領が欠席するAPEC首脳会議-中国の存在感際立つ*****
中国の習近平国家主席がこれほど容易に外交的勝利を手にすることはめったにない。何しろ週末のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議にはトランプ米大統領もロシアのプーチン大統領の参加しないのだ。
  
首脳会議が開催されるのは南太平洋の島国パプアニューギニア。経済規模が全米50州のどこよりも小さいこの国では、米国に次ぐ世界2位の経済大国を率いる習主席の存在感が特に目立つことになる。

習主席はまた太平洋の島しょ国10カ国以上の首脳との会談に多くの時間を割き、中国の国力を誇示する見込みだ。(中略)

ラッド元豪首相はシンガポールで先週開催された「ブルームバーグ・ニューエコノミー・フォ-ラム」で、「米国がこの地域で有形の一角となりたいのであれば、地域サミットの開催時期に『あなた方の会合には参加することに興味はない、東南アジア各国の政府トップとの一対一の会談にも興味がない』と言うことはできない」と指摘、「そうしたことは米国の大統領が担う一端であり、世界のリーダーシップを望むのであれば、そのために働く必要がある」と語った。【11月13日 ブルームバーグ】
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実際、中国の習近平国家主席はこの機会を利用して太平洋諸国への影響力をアピールした形になりました。

****習主席が国力アピール “APEC会場”は中国旗ズラリ****
中国の習近平国家主席は、APEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議に出席するため訪問しているパプアニューギニアで、インフラ整備などを通じた太平洋諸国への影響力をアピールした。

各国首脳より一足先にパプアニューギニアに到着した習主席は、16日、太平洋の島しょ国8カ国と首脳会議を行い、巨大経済圏構想「一帯一路」に基づいた経済支援を進める考えを強調した。

また、習主席は、首都ポートモレスビーでのAPEC開催にあたり、中国が建設した幹線道路の開通式に出席した。

習主席としては、中国の太平洋諸国への影響力をアピールした形だが、17日から始まるAPEC首脳会議では、「自由で開かれたインド太平洋」構想を掲げるアメリカなどと対立する場面もあるとみられる。【FNN PRIME】
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中国・習近平主席の狙いは、「一帯一路」のトップセールスと、この地域に残る台湾の影響力を排除することにあります。

****習主席、島嶼国に「一帯一路」開発トップセールス****
中国の習近平国家主席は16日、訪問中のパプアニューギニアの首都ポートモレスビーで、太平洋の島嶼(とうしょ)国8カ国の首脳らと合同会議を開催、中国の国家プロジェクトである巨大経済圏構想「一帯一路」を通じた経済開発を促した。
 
一帯一路をめぐっては、マレーシアやミャンマー、パキスタンなど東南アジア・南アジア諸国の一部で中国主導の投資計画を見直す動きが相次いでいる。中国としては、トップ外交を通じて、インフラ整備の進んでいない太平洋諸国に一帯一路を売り込み、新たな推進力としたい考えだ。
 
合同会議には、パプアニューギニアのオニール首相をはじめ、ミクロネシア連邦、サモア、バヌアツ、クック諸島、トンガ、ニウエ、フィジーの各国首脳らが出席した。
 
中国国営新華社通信によると、習氏は「中国と太平洋の島嶼国は同じアジア太平洋地域の発展途上国である」とし、「島嶼国が中国の発展の急行列車に乗車することを歓迎する」と指摘。「一帯一路の協力文書への署名を契機として、各分野の実務協力を深化させるべきだ」と述べて、一帯一路への参加を呼びかけた。
 
これに対し、島嶼国首脳らは「一帯一路の共同建設に積極的に参加し、中国との間で貿易、投資、漁業、観光、インフラ建設などの協力を強化したい」と応じたという。(後略)【11月16日 産経】
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****中国・習主席、太平洋諸国と首脳会談 台湾の影響力抑止狙う****
中国の習近平国家主席は16日、パプアニューギニアの首都ポートモレスビーで、太平洋諸島諸国との首脳会談に臨んだ。

中国のこの動きについては、これらの島しょ国のより多くが台湾との外交関係を断ち切るよう、中国が気を配るだけでなく物理的な「贈り物」も配ろうとしているという見方もある。
 
重要な貿易航路上にあり、天然資源の取引や影響力といった面で多くの国々が注目する太平洋地域は、中国と台湾の外交戦の最前線ともなっている。中国経済が急成長する中、台湾は支持を維持することに苦心している。
 
オーストラリアのシンクタンク、ローウィー研究所のジョナサン・プライク氏は、クック諸島やフィジー、ミクロネシア、ニウエ、サモア、トンガ、バヌアツの首脳らとの今回の会談に「習氏が手ぶらで現れることはない」との見方を示した。
 
台湾との国交樹立国は17か国。プライク氏は、「台湾と外交関係を結んでいる国のうち、ほぼ3分の1が太平洋諸島諸国であり、世界の中でもこの地域では小切手外交が健在だ」と話している。
 
小国にとって、世界第2の経済大国である中国との関係性を断つことによる損失は大きくなる一方で、中国側もその事実を有利に生かそうとしてきている。
 
プライク氏は、「中国は台湾の支持基盤を切り崩そうと、ますます攻勢を強めている」と指摘している。【11月17日 AFP】AFPBB News
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アメリカも対抗 中国の「一帯一路」を批判
これに対し、アメリカはペンス副大統領が出席。“トランプ米大統領の代理としてAPECに出席したペンス氏は13日の安倍晋三首相との会談で、インド太平洋諸国のインフラ整備を支援するため600億ドル(約6兆8000億円)の融資枠を設けたと表明。中国の「一帯一路」への対抗心を隠していない。”【11月16日 毎日】ということで、米中のアピール合戦の様相も呈しています。

****対パプア、米中がアピール合戦=APEC主催国にインフラ支援****
今回のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を取り仕切ったパプアニューギニアは、APEC域内で最貧国の一つ。経済覇権を争う米国、中国がインフラ投資支援などでアピール合戦を展開した。
 
首都ポートモレスビーにある国会議事堂の前から延びる片側3車線の「独立大通り」。建設した中国からパプアに引き渡す式典が16日に行われた。中国の習近平国家主席は「繁栄と開放、友好を途上国との戦略的な関係に結びつける道路をさらに建設する」と語った。

パプアがお返しするかのように、習主席が宿泊するホテルの近くには、パプアのオニール首相と習主席が笑顔で握手している姿に中国語で「歓迎」と書かれたゲートもあった。
 
中国が狙うのは、援助をテコに親中派の国を太平洋諸国に広げることだ。中国はAPEC首脳会議に先立ち、太平洋の8カ国の首脳との会議を開催し、シルクロード経済圏構想「一帯一路」を通じた支援を約束した。豪シンクタンクの集計では、中国から太平洋諸国への有償を含む援助額は2011年以降、13億ドル(約1450億円)に上る。
 
対する米国も18日、オーストラリア、日本など3カ国とパプアへの電力供給で協力すると発表。17日にはインド太平洋でのインフラ投資で日豪と協力すると公表した。中国から援助名目で融資を受けた途上国が多額の対中債務を抱えることを懸念している。【11月18日 時事】 
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ペンス副大統領は、中国の巨額融資を「債務の罠」と強く批判、これに中国が激しく反発。

****中国外務省 米副大統領の中国批判演説に反発****
中国外務省の華春瑩報道官は18日、アメリカのペンス副大統領が、APEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議を前にした演説で、中国が経済支援を行う相手国を債務漬けにしていると批判したことに、コメントを発表して強く反発しました。

この中で、華報道官は「中国との協力によって債務の問題に陥った発展途上国はない。反対に、中国の協力と支援でみずから発展する能力を高め、地域の人々の生活は改善した」と反論し、関係する各国の政府や国民から歓迎されていると主張しています。

そのうえで、華報道官は「あら探しをするより、みずからの言行を一致させて大国にも小国にも平等に向き合い、各国が自身の状況に応じて発展の道を選ぶ権利を尊重すべきだ」と指摘し、アメリカの批判に強く反発しています。

また、APECの首脳会議のあと記者会見した中国外務省の王小竜国際経済局長は、「中国の援助は開発や生活の向上に集中し、条件付きでもないため、多くの国から広く歓迎されている」としたうえで、「中国の支援のために債務の罠に陥っている国はない」と述べ、アメリカなどの指摘に反論し、中国の援助は役立っているという立場を強調しました。(後略)【11月18日 NHK】
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【米中対立の調整難航 結局、首脳宣言まとまらず】
会議のほうも、中国がアメリカの保護貿易主義を激しく批判したのに対し、アメリカは中国の「一帯一路」を批判ということで、米中の対立がそのまま持ち込まれて難航しました。

****APEC首脳会議 米中対立で調整難航か****
APEC(=アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議が、18日、パプアニューギニアで開かれている。自由貿易体制などをめぐり協議されるが、アメリカと中国が貿易問題で対立する中、難航も予想される。

さきほど入ってきた情報よると、首脳宣言の文言をめぐり、調整が難航していて、宣言の採択には至っていないという。米中それぞれの主張に食い違いがあり、日本などの参加国は難しい対応を迫られている。

対立するポイントは大きく2つある。

1つ目は貿易問題。中国の習近平国家主席は、きのう、アメリカを念頭に保護貿易主義を繰り返し批判した上で、「人類は今、岐路にさしかかっていて、協力か対抗かを選ぶべきだ」と各国に呼びかけた。これに対し、アメリカのペンス副大統領は「中国が態度を改めるまでアメリカは対応を変えない」と互いに対抗心を隠していない。

2つ目のポイントは中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」。中国はAPECに先立ち太平洋地域の島国と会談を行い、約330億円のインフラ投資などを表明して影響力拡大を図っている。これに対し、アメリカは「この地域に独裁主義や侵略の居場所はない」と中国を強くけん制している。

2つの大国の意見が食い違い、調整が難航する中、玉虫色の決着となる可能性もありそうだ。【11月18日 日テレNEWS24】
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結局“玉虫色”どころか、首脳宣言がまとまらないまま閉幕するという異例の展開となりました。

****APEC 首脳宣言まとまらず 自由貿易めぐり米中などに隔たり****
パプアニューギニアで開かれていた、APEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議は、貿易をめぐるアメリカと中国との意見の対立で初めて、首脳宣言がまとまらずに閉幕するという異例の事態となりました。

17日からパプアニューギニアで開かれていたAPECの首脳会議は、日本時間の18日午後、2日間の日程を終えて閉幕しました。

閉幕後、議長国を務めたパプアニューギニアのオニール首相は記者会見で、「アメリカや中国などいくつかの国の間で意見の隔たりがあった」と述べて、首脳宣言がまとまらなかったことを明らかにしました。

1993年から始まったAPECの首脳会議は、首脳宣言を毎回、発表してきましたが、まとめられなかったのは今回が初めてです。このため今回は、議長の権限で成果をまとめる議長声明を出す見通しです。

今回の会議は、貿易をめぐってアメリカと中国の対立が激しさを増す中、協調姿勢をどこまで明確に示せるかが焦点でした。

こうした中、安倍総理大臣は会議で、「国際的なルールにのっとり、貿易・投資の自由化と連結性の強化によって繁栄するアジア太平洋地域は、日本が志向する『自由で開かれたインド太平洋』の核だ」として自由貿易の担い手として自由で公正なルールづくりに取り組んでいく考えを強調しました。

しかし、会議を前にした演説で、貿易などをめぐってアメリカのペンス副大統領と中国の習近平国家主席が批判しあうなど、米中の対立が会議にそのまま持ち込まれ、首脳宣言がまとめられないという異例の事態になりました。

今回のAPECを巡っては、首脳会議に先立って開かれた閣僚会議でも閣僚声明が発表されず、米中の対立が今後のAPECの結束に大きく影を落とす形になりました。【11月18日 NHK】
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冒頭の“乱入”報道も、こうした激しい対立の過程で起きたものと推察されます。

【慣れぬ国際会議の準備に追われた島国 治安の悪さで、世界で最も危険な国の1つとも】
米中対立に翻弄された形の開催国パプアニューギニアですが、会議の開催自体が大きな負担でもあったようです。

****船がホテル、駐機は隣国へ 慣れぬ国際会議に島国大混乱****
太平洋の島国、パプアニューギニア(PNG)が17、18の両日、21の国と地域が参加するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を主催する。PNGがこれほど大きな国際会議を開くのは初めて。ホテルも移動用の車も足りなかったが、各国の支援も受けて開催にこぎ着けた。
 
首都ポートモレスビーの港に、大きな観光クルーズ船が停泊している。各国代表団や海外メディアなどの宿泊先として政府が3隻を手配した。計約4千人が泊まる予定という。18日までの1週間で、関連行事も含め約1万人が訪れる見込みだが、市内のホテルは「数千人分しか収容能力がない」(観光業者)ためだ。
 
日本の外務省が、スリやひったくり、強盗、性犯罪が「昼夜を問わず発生している」と注意を呼びかける首都は、そもそも観光都市ではない。
 
各国首脳らが移動する車両も足りず、政府は10月、1台1千万円前後はするイタリアの高級車マセラティを40台購入。政府は「APEC開催はPNGを投資の場所として海外に示す好機となる」(オニール首相)とするが、国民の4割近くが貧困層にある国で「国民の暮らしに予算を使うべきだ」と批判を呼んだ。
 
四苦八苦するPNGを各国は支援してきた。隣国オーストラリアは警備のために軍の部隊1500人や戦闘機、軍艦を派遣。豪メディアによると、PNGの国際空港が手狭で各国の政府機がすべて駐機できないため、空路で1時間半離れた豪北部のケアンズ空港を駐機用に提供する。

中国は関連会合に使う国際会議場を無償で建設したほか、バスやミニバス計85台を供与した。
 
日本も開催に向けてバス46台、救急車22台、消防車6台を供与し、昨年までに計51人のPNG政府の担当職員を開催のノウハウを学ぶ研修に招いた。
 
ただ、米国のトランプ大統領の代理で出席するペンス副大統領はポートモレスビーには宿泊せず、ケアンズを拠点に、17、18日とも日帰りする予定という。【11月15日 朝日】
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大きな負担ではあったものの、それなりの“見返り”も米中から得たのでしょう。問題はそれが国民生活にどのように還元されるのか・・・ということです。一部の政治家の懐に流れ込むようなことがないように・・・。
高級車は道路事情が悪いパプアニューギニアでは、会議後は使い道がないかも。どうするのでしょうか?

なお、“日本の外務省が、スリやひったくり、強盗、性犯罪が「昼夜を問わず発生している」と注意を呼びかける首都”という治安の悪さについては、“取材班が訪れたのは、首都・ポートモレスビーのベーカリーショップ。店の中には、赤い鉄格子が設けられていた。商品が自由に取れないように、鉄格子の中で商品が売られていた。鉄格子の狭い隙間越しに、商品を受け取る市民。日本では見られない、徹底した防犯対策がとられていた。”【11月16日 FNN PRIME】という状況のようです。

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コンゴ  紛争地域で10回目のエボラ出血熱感染 死者は200人を超え、ウガンダへの拡大も懸念

2018-11-17 22:04:59 | 疾病・保健衛生

(コンゴ民主共和国ベニで、エボラ出血熱とみられる症状で死亡した人のひつぎを消毒する医療従事者ら(2018年8月13日撮影)【11月11日 AFP】)

【「世界のレイプ中心地」「女性と少女にとって世界最悪の場所」】
コンゴ(旧ザイール)で紛争下の性暴力被害者の治療に尽力し、今年のノーベル平和賞受賞が授与された男性産婦人科医デニ・ムクウェゲ氏(63)は、1999年に病院を設立し、民兵らに暴行された5万人以上の性暴力被害者を受け入れてきたとのことです。【10月7日 共同より】

ムクウェゲ氏個人が関与したレイプ被害者が5万人以上ということは、この地域全体では気の遠くなるような凄惨な現実があるということです。

ムクウェゲ氏の称賛される点は、「世界のレイプ中心地」「女性と少女にとって世界最悪の場所」とも言われるコンゴ東部の最悪の環境で危険を顧みず治療に当たってきたことです。【10月9日 米川 正子氏 東洋経済online「性的テロを告発したノーベル受賞医師の凄み」より】

コンゴは、紛争の絶えないアフリカにあっても、ひときわ紛争が激しく、かつ、長く続いている国です。

****長引くコンゴ問題*****
1996~1997年の第一次コンゴ紛争においては、「ジェノサイド(民族浄化)」とも特徴づけられる非人道的行為が行われた(国連報告書、2010年)。

1998~2002年の第二次コンゴ紛争においては、周辺国をはじめとする約17カ国が軍事的や政治的に介入して「第一次アフリカ大戦」とも呼ばれる大規模な国際紛争に発展した。

2003年に公式には紛争が終結してもなお、コンゴ東部では複数の武装勢力による活動が継続し、累計で約600万人という、第二次世界大戦後の世界において、一地域の犠牲者数としては最大の規模になっている。【同上 米川 正子氏】
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ムクウェゲ氏のノーベル平和賞受賞受賞は、コンゴにとって決して喜ぶべき事態ではなく、一刻も早く改善すべき現実を示すものです。

ムクウェゲ氏自身もコンゴ・カビラ政権の統治の実態を厳しく批判しています。このため、コンゴ政府はムクウェゲ氏の受賞を称賛する一方で、同氏が「人道と政治を混同」していると非難しています。

居座り大統領の不出馬も、「院政」の懸念 「公正な選挙」への疑問も】
任期切れ後も大統領職に居座り続けるカビラ大統領は、ようやく退任することを明らかにしていますが、公正な選挙が実施されるのか、カビラ氏の「院政」が行われるのではないか・・・といった懸念がありますります。

****<コンゴ民主共和国>大統領「不出馬」波紋 「院政」を警戒****
アフリカ中部コンゴ民主共和国のカビラ大統領が12月に予定される大統領選挙に出馬しないと発表した。

国内外から驚きの声が上がる一方で、カビラ氏が任期切れ後も大統領の座に居座り続けた経緯もあり、このまま身を引くと見る向きは少ない。
 
大統領選の立候補期限だった今月8日、カビラ氏は後継候補にラマザニ前副首相兼内務・治安相を指名したことを明らかにした。
 
カビラ氏は大統領だった父親が2001年に殺害されたあと、後任に就任した。16年末に2期目の任期が切れた後も退陣を拒否。3選を禁じる憲法の規定を覆して大統領選に出馬するとの観測が広がり、批判が高まっていた。

選挙の実施を強く促してきた米国のヘイリー国連大使は、カビラ氏の不出馬を歓迎する声明を発表。一方で、民主的な政権移行の実現には課題が残されているとも指摘した。
 
南アフリカ安全保障研究所のステファニー・ウォルターズ氏は、ラマザニ氏の指名について「カビラ氏は自身に忠実な人物を後継者に据えて、退陣後も影響力を維持しようとしている」と分析する。(中略)

野党陣営は連携を模索する。統一候補を立てれば「ラマザニ氏の勝ち目は薄い」(ウォルターズ氏)とみられている。一方で公正な選挙の実施を危ぶむ声も多く、投票日までには紆余(うよ)曲折が予想される。
 
日本の約6倍の国土を誇るコンゴは豊富な天然資源ゆえに紛争が絶えない。1998年に東部を中心に起きた内戦は周辺国も巻き込み、約540万人が死亡。国連によると、現在も450万人が避難民となっている。【8月21日 毎日】
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【紛争地域で発生した10回目のエボラ感染】
“現在も450万人が避難民となっている”「世界のレイプ中心地」「女性と少女にとって世界最悪の場所」のコンゴでは、数多くの武装組織が豊富な地下資源の権利を奪い合う形で跋扈しており、東部には政府コントロールが及んでいないように思われる地域もあります。

国連はPKO部隊を派遣していますが、そのPKO部隊も攻撃対象となっています。

****アフリカ コンゴで国連PKO部隊の隊員7人死亡****
アフリカのコンゴ民主共和国で、国連のPKO=平和維持活動の部隊が武装勢力の攻撃を受け隊員7人が死亡しました。

これは国連が15日の定例の記者会見で発表しました。

それによりますと、アフリカ中部、コンゴ民主共和国の東部、北キブ州で14日、国連のPKO部隊が政府軍と合同でパトロール中に武装勢力の攻撃を受けました。

その結果、マラウイとタンザニア出身の隊員、合わせて7人が死亡、10人が負傷したということです。

攻撃があった地域は鉱物資源の産地で、国内外の多くの武装グループが資源の利権を奪い合い深刻な紛争が続いています。

PKOの部隊は武装グループを監視し、市民の保護に当たっていましたが、国連では、今回の攻撃は隣国ウガンダの反政府武装勢力ADF=民主同盟軍によるものだとしています。

国連のPKOはアメリカなどの要求で予算が大きく削減される中で、隊員の対応能力の向上と装備の近代化が課題になっています。

政府軍との合同の任務にもかかわらず今回、7人もの犠牲者を出したことで武装勢力の攻撃に対する部隊の運用能力をどう高めるか早急な検討が求められることになりそうです。【11月16日 NHK】
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長引く紛争、跋扈する多くの武装組織、「世界のレイプ中心地」、混迷する政治・・・これだけでも十分すぎる悲惨な状況ですが、コンゴでは今、致死率が50~80%といわれるエボラ出血熱の感染拡大が続いています。

エボラ出血熱と言うと、2014年2月から西アフリカのギニア、シエラレオネおよびリベリアにおいて流行し、複数国にまたがるパンデミックとなったことの記憶がまだ新しいところです。

世界保健機関 (WHO) の2015年10月18日の発表によると、西アフリカでのパンデミックでは感染疑い例も含め28,512名が感染し、11,313名が死亡したとのことです。

このエボラ出血熱は、実は過去の発生のほとんどが中部アフリカのコンゴで起きており、コンゴではこれまで9回の発生が確認されています。(今回は10回目)

前回、9回目の発生は今年5月でした。このときは、“今回のアウトブレイクが過去のものと違うのは、感染例のうち4件は都市部で確認された点だ。コンゴ共和国との国境に近い西部のムバンダカという人口100万人超の都市で、首都キンシャサとの交通の便もいい。つまり、都市での感染拡大という恐ろしい事態が起きる可能性がある。”【5月30日 WIRED】という都市部への感染拡大が心配されました。

一方で、新たに開発されたワクチン投与も本格的に投入され、その効果が注目されていました。

(5月19日ブログ“コンゴでエボラ出血熱拡大 ナイジェリアのラッサ熱、南アのリステリア感染 日本の麻疹流行”)

この5月の感染は死者33人を出したものの、それ以上に拡大することは食い止められ、7月24日にコンゴ政府は終息宣言を出しています。

しかし、直後の8月1日にコンゴ保健省は、東部の北キブ州でエボラ出血熱が流行していると10回目の発生を宣言しています。

この8月以来の10回目の感染は、今も広がり続け、コンゴでの感染の最悪事態となる200人を超す死者を出す状況に至っています。

****エボラ感染「最悪の事態」感染が300人超 コンゴ政府****
エボラ出血熱が流行しているアフリカ中部のコンゴ民主共和国で、感染が確認された人が300人を超え、政府は1976年に最初の流行が起きて以来、最悪の事態になっていると発表しました。

コンゴ民主共和国のカレンガ保健相は、9日、声明を出し、東部の北キブ州などでことし8月以降続いているエボラ出血熱の流行で感染が確認された人が319人になり、198人が死亡したと発表しました。(筆者注:同日【産経】では201人)

コンゴ民主共和国では、1976年以来、これまでに9回の流行が起きていますが、今回、感染が確認された人の数は、これまでで最も多かった最初の流行を超え、過去最悪の事態になったということです。

今回、感染が流行している東部は鉱物資源の産地として知られ、中央政府の統治が及ばない中で多くの武装グループが資源の利権を奪い合い、深刻な紛争が続いています。

国連は、世界最大規模のPKO=平和維持活動の部隊を送り込んでいますが情勢は安定せず、戦闘に阻まれて医療関係者が十分に活動できない中でエボラ出血熱の感染が広がっています。

カレンガ保健相は、声明の中で「今回の流行ほど複雑な状況はない。地元の住民と政府、それに国際社会の連携が欠かせない」と訴えています。【11月11日 NHK】
*****************

前回5月のときは都市部感染が問題となりましたが、今回の場合は発生地域が前出PKO部隊襲撃事件が起きるような政府コントロールが不十分な東部の紛争地域のため、国際的な医療活動もままならないという点です。

“WHOが拠点を置く北キブ州ベニで(9月)22日、武装勢力が住民を襲撃し約20人が死亡した。WHOは活動を一時中断したという。”【9月26日 】

現実に医療関係者にも襲撃による犠牲者も出ているようです。

****エボラ流行のコンゴ民主共和国、死者200人超える****
エボラ出血熱が流行しているコンゴ民主共和国で、エボラによる死者数が200人を超えた。同国保健省が10日、発表した。

同省によると、今年8月の流行開始以降、死者は201人、感染が確認された症例は291件に達した。約半数は北キブ州のベニで確認されたという。

国連の平和維持活動局は9日、北キブ州で活動する武装集団らに対し、エボラ対策への取り組みを阻害しないよう求めた。

コンゴのオリ・イルンガ保健相も9日、緊急対応チームは武装集団から脅しや暴力を受けたり、装備を壊されたり、拉致されたりしていると懸念を表明。緊急対応医療班のメンバー2人が襲撃を受けて死亡したという。

イルンガ保健相は今月初め、エボラのワクチン接種プログラムを8月8日に開始して以降、これまでに2万5000人が接種したと発表していた。【11月11日 AFP】
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【隣国ウガンダへ国境を超える事態への懸念も】
紛争地域という対応の難しさ、発生地域が隣国ウガンダに近いことなどもあって、感染は国境を越えてウガンダに拡大することが懸念されています。交通インフラの発達が、こうした感染拡大を助長している面もあります。

****アフリカ中部で勢いを増すエボラ出血熱が、「国境を越える」かもしれないこれだけの理由****
アフリカ中部のコンゴ民主共和国でエボラ出血熱の流行拡大が続き、エピデミック(局地的な流行)の様相を呈している。

交通インフラが整備されたことによる拡散の懸念、紛争地帯での流行による封じ込めの難しさ、そして隣国ウガンダへの拡散の危険性──。医療関係者が「これまでとは違う」と口を揃える今回のエピデミック。果たしてエボラ出血熱の勢いを止めることはできるのか。

エボラ出血熱という言葉からは、誰もが恐怖しか感じないだろう。患者の血液や体液から感染し、発症後の致死率は平均で50パーセント前後とされる。そして、ウイルスの拡散を阻止することは極めて難しい。

現在、アフリカ中部のコンゴ民主共和国で起きているような流行を食い止めるための最善かつ恐らく唯一の方法は、感染者の追跡を徹底することだ。

どのような社会集団に属しているのかを割り出し、行動範囲を特定して、数週間は他人との接触を極力避けるよう指導する。

ただ、米国疾病予防管理センター(CDC)のロバート・レッドフィールドによると、11月に入ってからは感染拡大を防ぐことはほとんど不可能になっている。

レッドフィールドは今回の流行をコントロールすることはできず、最悪の場合、今後はエボラがこの地に継続的に存在するようになる可能性もあると指摘する。もしそうなれば、1976年にウイルスが発見されて以来で初めての事態だ。

国境を越える危険性は「非常に高い」
(中略)感染のリスクの高い25,000人以上を対象にしたワクチン接種プログラムは一定の効果を見せているが、流行が終息したわけではない。10月31日から11月6日までの1週間に、国内では29人の感染が明らかになったが、うち3人は医療従事者だった。

一方、隣国ウガンダへの拡大も懸念されている。コンゴとウガンダの国境線は545マイル(約877km)に及ぶ。しかし管理が緩いために、物資の輸送だけでなく周辺住民や難民の行き来も激しい。検問所の通過者は平均で1日5,000人だが、週に2回のマーケット開催日には20,000人に膨れ上がる。

ウガンダでは11月初め、医療従事者に対する新しいワクチンの接種が始まった。まだ試験段階のものだが、今年の春から夏にかけて起きた前回の流行では効果を発揮した。保健省は国境周辺の5地域で働く医師や看護師向けに、2,100人分のワクチンを用意したと明らかにしている。(中略)

交通インフラ整備との皮肉な関係
コンゴでのエピデミックが始まって以来、同国からウガンダへの入国者に対しては必ず、国境で質問票の記入と赤外線カメラを使った体温検査が行われている。

発熱は初期症状のひとつだが、医療チェックさえ行っていれば問題ないというわけではない。エボラ出血熱ではウイルスへの感染から発症までの潜伏期間が最長で3週間になるほか、アフリカには発熱を伴う感染症がほかにもたくさんあるからだ。

ウガンダが警戒を強めている背景には、今回の拡大の特殊な事情もある。コンゴでは過去に9回の大規模な流行が起きているが、感染の中心地が紛争地域と重なっているのは初めてだ。

また、アフリカ大陸では人口の急増、中国による数十億ドル規模のインフラ投資、人間の居住区域の拡大によって野生動物との接触が増えるといったさまざまな社会変化が起きており、これがエボラのアウトブレイクにも影響を及ぼすと考えられている。

ボストン・メディカル・センターのナヒド・バデリアは、2014年にシエラレオネで起きたアウトブレイクの際に現場で対策に当たった経験をもつ。バデリアはアフリカの現状を以下のように説明する。
「道路などの交通インフラの整備が進んだことで人の移動は容易になりましたが、皮肉なことにウイルスも広まりやすくなってしまいました。また、公共の医療システムの発展がインフラ改良のスピードに追いついていないことも問題です」

過去のエボラの流行は、自然災害で言えば地震に似ている。アクセスの悪い奥地で発生するため、患者を探し出して治療し、感染を封じ込めるために危険地域を封鎖することは簡単だったのだ。

ところが、人口密度の高い場所や武力衝突の起きているところで流行が起こると、感染者の追跡は困難になる。今回の流行がウガンダにまで広がれば、単に地域が拡大したというだけでなく、エピデミックの歴史に新しい1章が加わることになるだろうと、バデリアは警告する。

最悪の事態は脱した?
ウガンダが総力を挙げてエボラが自国に入り込むのを防ごうとしている一方で、世界保健機構(WHO)などの国際機関は、武装集団が実効支配する地域での感染拡大を巡る懸念を示している。

WHOで緊急事態対策を担当するマイク・ライアンは、「WHOや政府当局はこうした地域には足を踏み入れることができないため、ここで感染を広めることは絶対に避けなければなりません」と話す。「エボラウイルスは包囲網の隙を突いて拡散していきます。できる限り情報をオープンにしておくことが重要なのです」

ライアンは北キヴ州からアイルランドの自宅に戻ってきたばかりだが、状況は予断を許さないとしながらも、流行は最悪の段階を脱しつつあるとの見方を示している。

現場の医療チームは、9月半ばにウガンダ国境に近いベニで始まった流行の第二波を食い止めることに成功した。ライアンは「感染をほぼ完全に医療施設内だけに閉じ込めることができました」と説明する。(後略)【11月14日 WIRED】
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ロヒンギャ帰還を見切り発車するミャンマー政府 ASEANでも強まる批判 ラカイン州の事情

2018-11-16 23:26:53 | ミャンマー

(ASEAN首脳会議の開会式で席が隣り合わせになりながら、目を合わそうともしなかったマハティール首相とスー・チー氏 【11月15日 時事】)

【ロヒンギャ帰還 ミャンマー政府「準備が整った」 国連人権高等弁務官「ロヒンギャの命を危険にさらす」】
ミャンマー国軍による“民族浄化”を目的とする虐殺・暴行・レイプ・放火等によって、イスラム系少数民族ロヒンギャ72万人が隣国バングラデシュに避難している問題について、これまで難民帰還は全く進んでいませんでしたが、ミャンマー政府は「環境が整った」として帰還を実施することを明らかにしました。

****ロヒンギャ帰還「環境整った」 ミャンマー政府が会見****
ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャ約70万人が、バングラデシュに逃れ難民となっている問題で、両国が「11月中旬に始める」とした難民帰還を前に11日、ミャンマー政府が会見を開き、「難民が安全に帰り、生活する環境は整った」と説明した。ただ、具体的な日程については「バングラデシュ政府次第」として明言を避けた。
 
最大都市ヤンゴンで開いた会見で、ミャッエー社会福祉・救済復興省相は、第1団として、ミャンマー側が身元確認を終えた2251人が、西部ラカイン州の国境付近にある2カ所の受け入れ施設を経て入国すると説明した。
 
政府側は帰還民に、米や油、1人につき1日1千チャット(約70円)の現金を支給。村を焼かれた人たちには、政府側が住居を提供するほか、自分たちで住居を建てる場合は労賃を支払う考えも示した。

ラカイン州にはロヒンギャの帰還に否定的な仏教徒も多いが、「政府が話し合いをして了解を得た」としている。(中略)
 
さらに、多くが無国籍のロヒンギャに対する国籍付与の問題については、「必要な記録が残っていれば国籍申請はできるようにする」としたものの、どのくらいの難民に国籍を与えるのかについては、「法律に従う」と述べるにとどめ、明言しなかった。【11月11日 朝日】
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しかしながら、虐殺などを行った国軍等の責任が問われることもなく、「政府が話し合いをして了解を得た」と言われても、帰還後の安全を信用することは難しいでしょう。

国籍付与の問題も不透明なまま・・・・というか、多くのロヒンギャが“必要な記録”を有していない(着の身着のまま避難したことに加え、これまでミャンマー政府がそうしたものを与えてこなかったことにもよります)ことも考えると、また「法律に従う」というミャンマー側のロヒンギャ排除の本音を考えると、現実処理にあってはほとんど国籍付与はなされず、むしろ“外国人”として正式認定されるのではないかとも懸念されます。

国連人権高等弁務官は、現状での帰還は国際法に違反し、ロヒンギャの命を危険にさらすと警告し、難民帰還の中止をミャンマー政府に求めています。

****命が危ない 国連弁務官、ロヒンギャ帰還の中止求める****
ミャンマーでの迫害を逃れて難民となった少数派イスラム教徒ロヒンギャをめぐり、ミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官は13日、受け入れ先のバングラデシュ政府に対し、ミャンマーへの帰還第1陣の移動をやめるよう求めた。現状での帰還は国際法に違反し、ロヒンギャの命を危険にさらすと警告した。

 
ミャンマー政府は72万超に上るとされる難民の帰還開始に前向きで、帰還を進める姿勢を示すのは、国際社会の批判をかわすためとみられる。ミャンマー側が身元確認を終えた2200人超が第1陣として、バングラデシュから再入国することになっているという。

だが、バチェレ氏は、多くのロヒンギャ難民は帰還を望んでいないと強調。人権高等弁務官事務所によると、ラカイン州北部では今も殺害や不当な拘束といった人権侵害があるという。

国連人権理事会で9月、ロヒンギャ迫害はミャンマーの国軍が組織的に主導し、特定の民族や宗教に属する集団を殺害する「ジェノサイド」の疑いが強いと指摘した専門家の報告書が公表された。村の焼き打ちや集団レイプといった手法の残虐性も指摘された。

バチェレ氏は、迫害の責任追及が進まないなか、帰還でロヒンギャが再び人権侵害を受けると指摘。迫害の恐れがある国や地域へ追放・送還してはならないと訴える「ノン・ルフルマンの原則」に反するとの見解を示した。

そのうえでミャンマー政府に、根本的な問題を解決し、帰還の環境を整えるため真剣に努力するよう求めた。

チリの大統領を務めたバチェレ氏は、9月に人権高等弁務官に就任した。【11月15日 朝日】
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帰還計画の初日とされた15日には、実際問題としては、帰還者はゼロだったようです。ミャンマー側は、バングラデシュ側の準備の遅れのせいだとしています。

****難民帰還始まらず 「誰も帰って来なかった」****
ミャンマー西部ラカイン州の少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」が隣国バングラデシュで大量に難民化した問題で、ミャンマーのミントゥ外務次官が15日にネピドーで記者会見し、同日から始まる予定だった難民帰還について「誰も帰って来なかった」と述べた。バングラ側の準備の遅れが原因とみているという。
 
ミャンマー政府は11日、バングラ南東部コックスバザール一帯の難民キャンプにいる約72万人のうち、2251人の帰還が15日に始まると発表。対象者は1日当たり150人としていた。
 
一方、ロイター通信は14日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が意思確認した約50家族は帰還を嫌がったと報じていた。

ミャンマーでの安全や生活への不安が背景にあるとみられ、バングラのメディアも15日、キャンプで群衆が「帰還反対」を訴える様子を報じた。
 
帰還希望者がいないわけではなく、ヤンゴンの外交関係者は「既に1000人以上が勝手にミャンマー側に戻ったと聞いている」という。「ミャンマー側の受け入れ環境がまだ不完全だ」として国連などが現時点での帰還に猛反対する中、バングラ政府も積極的ではないとの見方もある。(後略)【11月15日 毎日】
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“帰還希望者がいないわけではない”・・・・それはそうでしょう。各自それぞれの事情がありますので。
ただ、これまで自発的に帰ってきたとされるロヒンギャ難民については、ミャンマー側による“やらせ”“ねつ造”の疑いが指摘されています。

“バングラ政府も積極的ではない”・・・・どうでしょうか? バングラデシュ政府は早く厄介払いしたいというのが本音でしょう。少なくとも難民のバングラ定着は認めない方針で動いています。

【ASEAN首脳会議を前に国際的な批判をかわすための見切り発車】
国連も中止を求めるような状況でミャンマー政府が帰還を見切り発車したのは、13日にシンガポールで開幕したASEANの一連の首脳会議を前に国際的な批判をかわすためではないかと指摘されています。

****ロヒンギャ帰還、本当にできる? 滑り込み発表に疑問も****
ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャがバングラデシュに逃れて難民になっている問題で、ミャンマー政府は難民の帰還が近く始まると表明した。

しかし、早期の帰還は難しいとの指摘があり、13日にシンガポールで開幕した東南アジア諸国連合(ASEAN)の一連の首脳会議を前に国際的な批判をかわすためではないかとの見方が出ている。

11日に最大都市ヤンゴンで記者会見した担当閣僚らは、今月中旬の帰還開始でバングラデシュ政府と一致したと説明。発表のタイミングについて、社会福祉・救済復興省幹部は「合意に行き着いただけで、他の意図はない」と話した。
 
だが、会見で報道陣に配られた説明文には「ASEAN各国は(帰還に)協力してくれるだろう」と記され、担当閣僚が「万全の態勢を敷いている。ASEAN各国にも理解してもらえると思う」と述べるなど、ASEAN諸国への期待がにじんだ。
 
背景には、ロヒンギャ問題をめぐる厳しい国際世論がある。欧米を中心に、ノーベル平和賞受賞者のアウンサンスーチー国家顧問がロヒンギャへの迫害を許しているとの批判が高まっている。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは12日、スーチー氏に授与した「良心の大使賞」を取り消すと発表した。
 
ASEANの中でも、イスラム教徒が多数を占めるマレーシアやインドネシアには、ミャンマーに対する厳しい声がある。(中略)

スーチー氏には、このタイミングで帰還開始をアピールすることでASEAN首脳会議に加え、域外国が出席する会議でも批判を抑えたいとの思いがあるとみられる。スーチー氏はこの問題に神経をとがらせており、12日のシンガポールでの講演ではロヒンギャに一切触れなかった。
 
だが、昨年8月以降に新たに難民になった約70万人の中には、帰還後の再度の迫害を恐れる人も多く、難民キャンプから逃亡する人もいるという。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、バングラデシュ政府による難民の帰還への意思確認もまだ出来ていないとしており、今月中旬の帰還は難しいとみている。【11月15日 朝日】
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ASEAN首脳会議では、ロヒンギャの迫害問題に関心が集まり、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相はロヒンギャのミャンマー帰還に対する支援を要請しました。

【スー・チー氏をこきおろすマハティール氏 国際圧力で黙認できないASEAN】
しかし、各国の反応は厳しく、特にマレーシア・マハティール首相はスー・チー氏を強く批判しています。

“訪問中のシンガポールで記者団に述べた。マハティール氏は「スー・チー氏らはロヒンギャを大量虐殺している」と指摘。「こうした行為は古代には正当化されたかもしれないが、現代では許されない」とこき下ろした。”【11月13日 日経】 相当に辛辣な批判です。

会議の場でも、マハティール首相の姿勢は変わりませんでした。

****93歳マハティール首相、際立つ存在感=15年ぶりのASEAN会議****
シンガポールで開かれた一連の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議では、15年ぶりに参加したマレーシアのマハティール首相が存在感を発揮し、健在ぶりを見せつけた。
 
93歳のマハティール首相は、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャの迫害問題で積極的に発言。会議筋によると、ASEAN首脳会議ではアウン・サン・スー・チー国家顧問を前に「憤りを覚える」と厳しく非難した。(後略)【11月15日 時事】
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マハティール首相の存在感が際立つと、マレーシア国内におけるアンワル氏への禅譲が不透明になるという問題もありますが、それはまた別機会に。

従来、ASEANはこの種の問題には“内政不干渉”を建前に、消極的な対応をとってきましたが、風向きが変わったようです。

****ロヒンギャ迫害、議論活発=国際圧力で黙認できず―ASEAN会議****
シンガポールで15日まで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議では、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャの迫害問題をめぐり、活発に意見が交わされた。

ロヒンギャ問題に国際的な関心が集まる中、一部加盟国と中国が領有権を争う南シナ海情勢や、北朝鮮の核・ミサイル開発問題が議論の中心だった近年の会議とは趣を異にした。

ASEAN首脳会議では、イスラム教徒が多数派を占めるマレーシアのマハティール首相が特に強い言葉でミャンマーの対応を非難。インドネシアのジョコ大統領も厳しい姿勢を示した。

マハティール首相は記者団に対しても、「(ミャンマーの)アウン・サン・スー・チー国家顧問は決して擁護できないことを擁護しようとしている」と批判。スー・チー氏が軍政時代に長年にわたり、自宅軟禁下に置かれたことに触れ、「拘束された経験があるなら苦しみが分かるはず。他人に同じ思いをさせてはならない」と訴えた。

シンガポール国立大学のジャ・イアン・チョン准教授(国際関係)は、国連人権理事会でロヒンギャ迫害を非難する決議が採択されるなど国際的な圧力が強まり、「ASEANも黙認できなくなった」と解説。ASEANは内政不干渉を原則とするが、「(原則に縛られて)何もしない方がより憂慮すべき事態を招く」と指摘した。

域内国による異例の追及に、会議ではぎくしゃくした場面も見られた。ASEANの会議では、各国首脳は国名のアルファベット順に並ぶ。マハティール首相とスー・チー氏は首脳会議の開会式で席が隣り合わせになりながら、目を合わそうともしなかった。【11月15日 時事】
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アメリカもロヒンギャ問題ではミャンマー政府に厳しい姿勢を見せています。
“ペンス米副大統領は14日、訪問先のシンガポールでミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問と会談し、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害について「理由のない」暴力であると述べるなど、強い口調で非難した。”【11月14日 AFP】

【日本は国際世論とは一線を画するミャンマー支援】
こうしたミャンマー政府に厳しい国際世論と一線を画して、日本はミャンマー政府への支援を続けています。
(8月17日ブログ“ミャンマー ロヒンギャ問題の独立調査委員会に日本人起用 真価を問われる日本外交”)

このような人権・民主化問題を棚上げして経済支援で穏やかな改善を促すとする日本外交は、ミャンマーの軍政時代に見られたことですが、そのことについてスー・チー氏は、日本がミャンマーを支援することは結果的に軍事政権存続を助ける行為だとして強い不快感を示していました。

その論理でいけば、今はミャンマー支援ではなく、虐殺の責任を厳しく問うべきときだ・・・ということにもなります。

【ロヒンギャ排斥に走るラカイン州の事情 その裏には利権構造も】
一方、ミャンマー国内の強いロヒンギャ嫌悪の背景には、ロヒンギャやイスラム教徒の排斥を煽る過激仏教徒団体「マバタ」や、その中心人物である「ミャンマーのウサマ・ビンラディン」とも称されるウィラトゥ師の存在があることは2017年10月25日ブログ「ミャンマー “民族浄化”で増え続けるロヒンギャ難民 イスラム教徒全体への嫌悪を扇動する仏教僧」などで、しばしば取り上げてきました。

イスラム教徒が仏教国ミャンマーを乗っ取ろうとしているといった過激な主張、今回の騒動はロヒンギャ側の自作自演だといった陰謀論が受け入れられる背景、特にラカイン州の事情については、下記のような指摘も。

****ロヒンギャを弾圧する側の論理****
(中略) ラカイン州はミャンマー南西部を南北に走るアラカン山脈によって、最大都市ヤンゴンから地理的に分断されている。1785年にビルマ人に侵略されるまでアラカン王国という独立国家が栄えていたこともあり、ラカインの文化はミャンマーの多数派であるビルマ人のものとは人きく異なる。
 
ラカイン州はロヒンギャのホームランドだが、6割以上は仏教徒のラカイン人だ。ラカイン人もまたミャンマーの少数民族で、中央政府からの差別や搾取に長年苦しんできた。それ故、ラカイン州の貧困率は78%と全国平均37.5%(世界銀行2014)を大きく上回っており、国内で最も高い。(中略)

イスラム教徒への嫌悪感
そんなラカイン人が不満のはけ口にしているのが、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する差別だ。

ロヒンギャの祖先は英国植民地時代にベンガル地方からミャンマーにやって来たと言われているが、70年代後半から不法移民として扱われるようになった。現在は無国籍の状態にあるため、教育や医療、福祉といった基本的な公共サービスにアクセスできず、多くの大が貧困と差別、そして断続的な武力弾圧に苫しんでいる。
 
ラカイン人は普段は礼儀正しく親切だが、ロヒンギャの話題になると急に嫌悪感をむき出しにする。(中略)
 
ミャンマー市民にロヒンギャに対する憎悪を植え付けるのに一役買っているのが、13年に発足した強硬派の仏教徒集団「国家と宗教保護のための委員会(通称マバタ)」だ。マバタの前身は「969運動」と呼ばれた反イスラム団体で、それを扇動してきたのが「ミャンマーのウサマ・ビンラディン」の異名を持つ怪僧アシン・ウィラトゥ(50)である。(中略)

利権に群がる軍と中国
(中略)なぜ、ウィラトゥやマバタはこれほどまでにミャンマーの人々を魅了するのだろうか。シットウェにマバタの僧院を構える仏教僧ウーナンダバータ(51)は、「マバタが地域のセーフティーネットの役目を負っているからだ」と話す。(中略)
 
マバタは貧困者、少数民族被災者、女性に対する支援を積極的に行っている。食糧を施すだけでなく、学校建設に無償教育の提供、女性の積極的な雇用など、その内容は多岐にわたる。
 
ミャンマーで広く信仰されている上座部仏教は、修行の妨げになるという理由から、世俗的な活動を禁止している。ある仏教研究者によれば、戒律の厳守を重んじるミャンマーの仏教界において、僧侶たちが「俗世間の人々」のために奉仕活動をするのは珍しいという。(中略)

ラカイン人には、ビルマ人に対する根強い不信感もある。ラカイン州は、天然ガスや石油などの天然資源が豊富な地域だ。ところが、地理的な遠さやロヒンギャ問題のせいで、民主化前から軍部と深く結び付く中国以外に外資の進出は進んでいない。
 
ラカイン州のリ党であるアラカン国民党(ANP)の書記長フタンアウンチョーによれば、天然資源から生じる利益は中国と中央政府が独占しており、地元ラカイン人にはほとんど還元されていない。

ミャンマー政府とスーチーに対するラカイン人の評価は辛辣だ。フタンアウンチョーもこう不満を吐露した。「われわれは独立以来、ずっと差別に苫しんできた。アウンサンスーチーが返り咲いたときにやっと状況がよくなると思ったが、全く期待外れだった。政府はラカインの開発から得た利益を地元住民に還元すべきだ」
 
その一方で、マバタは信者に貧困の原囚と解決方法を明示してくれる。原因とはイスラム教徒であり、彼らを排斥することが貧困から抜け出す道なのだと。
 
そして、こうしたマバタの活動を支える潤沢な資金の源は、大勢の在家者によるお布施以外に軍部にもある。
ロイター通信によれば、ウィラトウは軍部出身の元宗教相サンシンに重用されてマバタの勢力を拡大した。また、ミャンマー紙イラワジは、ウィラトウと国軍司令官ミンアウンフラインとの間に太いパイプがあると報じている。(中略)

さらに、掃討作戦が起きたロヒンギャの居住地の近くには、中国の投資金融グループ「中国中信集団(CITIC)」が港や経済特区を建設しようとしている。

ミャンマー政府は17年9月、掃討作戦で空いたロヒンギャたちの居住地を「再開発」する目的で管理すると発表した。
 
ミャンマーの宗教対立の原因を「民衆を扇動する過激な仏教僧」と「少数民族を弾圧する無慈悲な多数派」のせいにすることは簡単だ。だが、マバタやウィラトゥもこの搾取構造の駒の1つにすぎないのではないか。

無垢な市民の妄信によって反イスラム運動は拡大し、ロヒンギャ危機は臨界点に達した。解決には、マバタやラカイン人といった表舞台の人間だけでなく、水面下で暗躍する「悪」を追及する必要がある。

そしてマバタの僧侶や市民もまた、自らに問いただすべきではないだろうか。自分の頭で考えることを放棄し、悪の甘言を信じ続けた罪はどれはどの重さなのかと。【11月20日号 Newsweek日本語版】
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中国語市民講座での閔子騫(びんしけん)の話から、日中関係を考える

2018-11-15 23:11:49 | 中国

(画像は【大紀元日本】より 寒い中を我が子に車をひかせ、引き綱を落としたからと言って我が子を鞭打つ父親というのも、現在の価値観からすると完璧な虐待おやじですが・・・)

中国に親孝行物語を集めた「二十四孝」というものがあることはよく知られているところです。
その中に、閔子騫(びんしけん)という人物の話があるそうです。

****閔子騫(びんしけん)****
孔子の弟子の閔子騫(びんしけん、子騫は字。諱は損)は幼い時に母を亡くし、父が再婚して異母弟2人ができた。

継母は実子2人を愛したが継子の閔子騫を憎んで、冬になると実子には綿入りの着物を与えたが、閔子騫には蘆の穂を入れた着物を与えた。閔子騫が寒さに凍えているのを見て、父が継母と離縁しようと言うと、閔子騫は「母上が去られては、3人の子供は凍えます。私1人が凍えていれば、弟2人は暖かいのでどうか離縁しないで下さい」と言った。

継母はこれに感激し、以後は実母のように閔子騫を可愛がったという。【ウィキペディア】
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若干補足すると,“蘆の穂を入れた着物”というのは、見た目には暖かそうであるが、実際にはとても寒い着物だそうです。

そのため、父親が乗る車の御者を閔子騫がしているとき(検索した絵で見ると、馬ではなく、閔子騫自身が人力で父親の乗る車を引っ張るスタイルのようにも)あまりの寒さに閔子騫は綱を落としてしまいます。父親は「情けない!こんなこともできないのか!」と怒り、閔子騫を激しく鞭で叩きます。

そのとき鞭打たれた閔子騫の“蘆の穂を入れた着物”が裂け、父親は初めて息子が継母に虐待されていることを知った・・・という話のようです。

離縁を諫める閔子騫の言葉は「母在一子寒 母去三子単」(母上がいれば、私一人が寒い思いをするだけですみます。もし、母上がいなくなると、子供三人とも単衣の着物で寒い思いをすることになります)というものです。

私はこの話は今日初めて聞きました。

私事ですが、ここ数か月、市民講座で中国語の授業に週1回通っています。日中の人材交流事業みたいなもので来日している30歳ぐらい(?)の若い中国人女性が先生です。

その先生が、今日の授業(先ほど終わって、帰ってきたところです)の冒頭で、“故事”(中国語で物語という意味)という言葉の関係で、「中国にはシンデレラ物語があります」ということで紹介されたのが、上記の閔子騫(びんしけん)の話です。

「二十四孝」については、以下のようにも。

****『二十四孝』(にじゅうしこう)****
『二十四孝』(にじゅうしこう)は、中国において後世の範として、孝行が特に優れた人物24人を取り上げた書物である。元代郭居敬が編纂した。

儒教の考えを重んじた歴代中国王朝は、孝行を特に重要な徳目とした。

ここに紹介された中には、四字熟語や、関連する物品の名前として一般化した物もある。日本にも伝来し、仏閣等の建築物に人物図などが描かれている。また、御伽草子や寺子屋の教材にも採られている。【ウィキペディア】
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このような話を多く含む儒教的精神(それは封建社会を支えるものでもあり)をどのように評価するかは、いろいろあるところでしょうが、日本では“御伽草子や寺子屋の教材にも採られている”というぐらいですから、基本的にはこういう話を高く評価する文化的背景・価値観があった(今でも、一定に“ある”)と思われます。

先生は、「中国ではこのような話を教わります。私も親から教わりました」とのこと。

そのとき、「本当に、今の中国の人は閔子騫(びんしけん)のような話を評価しているのだろうか?」と、ちょっと違和感を覚えました。

授業が終わったあと、中国語の発音の質問のついでに、「ところで、中国語とは関係ないことですが・・・」と先生に尋ねてみました。

「中国に二十四孝というような話があることはよく了解していいます。日本でも、中国からそうした話を取り入れて学んでいます。

でも、今の中国の人たちは、本当にこうした話を価値あるものだと評価しているのでしょうか?

現在、中国と日本の関係はいろいろありますが、世論調査では中国側の日本への評価が最近かなり改善されてきたのに対し、日本側の中国への評価は厳しいままです。

そのアンバランスの背景には、中国人・中国社会というのは自分の利益だけを追求し、孝行とかモラルとかいった価値観が薄れているという日本の対中国評価があるのではないでしょうか?

そうした自分の利益だけを重視して、他者・他国の権利・利益を顧みない社会・国家のありように対する厳しい見方が日本側にはあるように思えるのですが・・・」

私も、先生も帰り支度をしながら、先生は送迎の人を待たせながらの立ち話で、ほんの2~3分話しただけです。

先生は「いえ、そうではありません」と言われていましたが、互いに時間もなく、話はそこで終わりました。

まあ、親孝行話を取り上げたのは、私もまずかったかも。
中国では、肉親を大切にある考え方は今でも強いものがあると聞きます。ただ、それはあくまでも“自分”の延長としての“自分の親兄弟”であり、他者・他国への配慮にはつながりにくいのかも。

儒教的な礼節を重んじる価値観は日本には強く残っています。
中国も同様であるなら、両国の関係はもっと良いものになるだろうに・・・という思いからの質問でした。

別に、中国の人が他者への思いやりに欠けたひとばかりだと言うつもりは全くありません。
今まで9回ほど中国を観光したことがありますが、その際に随分と親切にしてもらったことがいろいろあります。

27年前に新疆(シルクロード)を旅行した際には、移動の汽車の中で激しい腹痛に襲われ、やっと目的地に着いたものの歩くこともできず、駅前広場のトイレの前あたりの地面に転がっていたことがあります。

そのとき、近くの病院まで連れて行ってくれた中年女性、治療後に駅まで手を引いて案内してくれた男性医師・・・感謝の念でいっぱいです。

5年前のネパールへの旅行際に、飛行機の乗り継ぎで一泊した昆明で、夜中の12時過ぎ、ホテルがどこにあるかわからず、中国のお金もタクシー代で使い果たし、誰もいない暗闇に一人立ちすくんだ経験もあります。

そのとき、藁にもすがる思いで尋ねた男性が、自分の車でホテルまで連れていってくれたことも。彼に出会わなかったらどうなっていたか・・・。

ですから、中国の人が他者への思いやりに欠けたひとばかりだと言うつもりは全くありません。

また、最近の旅行で目にする中国は、列に並ぶなどのマナーも随分と改善され、街にもゴミは落ちていません。タンを吐くような人もあまり見かけなくなりました。トイレも改善されつつあります。

一方で、自分・自国中心でしか物事を考えないような、眉を顰めるようなニュースを目にすることも少なくありません。

閔子騫や二十四孝などを重視する価値観を共有できるのであれば、尖閣の問題などはどうにでもなる、あるいは、どうなってもかまわない些細な問題にすぎないでしょう。

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イスラエルと日本 政治的障壁を超える「人手不足」という経済的要請 政治打破の一歩か、さらなる悪化か

2018-11-14 23:17:24 | パレスチナ

(韓国で日本企業100社超が集まる就職面接会で、リクルートスーツ姿で詰めかけた韓国人学生ら=7日、ソウル市内【11月10日 産経】)

【イスラエル 政治的な壁を越えて進むパレスチナ人雇用】
継続的に高い緊張状態が続いているパレスチナ・ガザ地区では、11日から13日にかけてイスラエル軍とハマスなどパレスチナ武装組織との間で激しい衝突があったものの、エジプトの仲介などもあって、一応“停戦”が合意されています。

ただ、依然として不透明な情勢であることには変わりありません。

****応酬激化のガザ衝突で停戦合意 ハマスとイスラエル****
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスなどの武装組織は13日、攻撃の応酬が激化していたイスラエルと停戦に合意したと発表した。イスラエルのメディアなどによると、同国当局者も合意を認めた。停戦はエジプトなどが仲介した。

合意を受け、13日夜から双方の攻撃はおさまりつつある。ただ、イスラエルは治安閣議を開き、必要に応じて作戦を続けるよう軍に指示。ハマスもイスラエルが攻撃すれば抗戦する構えで、情勢は見通せない。

イスラエル軍の特殊部隊が11日、ガザ地区に侵入して銃撃戦になり、ハマス軍事部門幹部を含む7人とイスラエル軍幹部1人が死亡した。

ハマスなどは12〜13日、イスラエル側に約460発のロケット弾などを発射し、1人が死亡。イスラエル軍は武装組織の拠点約160カ所を空爆し、7人が死亡した。

2014年夏の大規模戦闘以来、最大規模の攻撃の応酬で、事態の悪化が懸念されていた。【11月14日 朝日】
*****************

上記のような緊張・衝突は残念ながら毎度のことではあり、イスラエルとパレスチナの間の交渉を途絶え、和平の道筋が見えない状況にあります。

パレスチナ側、イスラエル側双方に、相手への不信感が募り、フラストレーションが高まっていることは、10月30日ブログ“改善しないパレスチナ情勢 形骸化するオスロ合意の枠組み アラブ・世界にひろがる現状是認の動き”でも取り上げました。

そうした政治的動きとは別に、イスラエル側の「人手不足」という経済的事情から、イスラエル企業に雇用されるパレスチナ人が増加しているという、ちょっと意外なニュースも。

****IT大国イスラエル、パレスチナ人求む 政治より仕事、若い世代に強い就労意欲 ****
イスラエルのハイテク企業各社は、深刻な労働力不足に対処するため、ヨルダン川西岸のパレスチナ人の雇用を迫られている。和平合意がなく、政治的緊張が続く中、イスラエルとパレスチナの新たな経済的結び付きが確立されつつある。

イスラエル政府によれば、「スタートアップ大国」の異名の元となった同国の革新的技術分野は、ソフトウエアプログラマーやエンジニアなど1万人の人手不足に直面している。これは、隣国との戦争を除けば、同国の経済成長にとって最大の脅威の一つとなっている。

イスラエルの人材に高い報酬を払うことをいとわないアルファベット傘下のグーグルやアマゾン・ドット・コム、マイクロソフトなどの米国企業との競争もその一因だ。イスラエルの移民関連の法規も、ユダヤ人以外の技術を持つ労働者を海外から呼び込むことを難しくしている。

ヨルダン川西岸に本社を置くパレスチナ人労働者の人材会社、アサル・テクノロジーズのMurad Tahboub最高経営責任者(CEO)によれば、現在約1000人のパレスチナ人エンジニアが、イスラエル企業や国際的な企業で働いている。これは前年をおよそ10%上回る水準だという。

アサルに在籍するコンピューターエンジニアのOday Dahadha氏(25)は、2014年にイスラエルのハイテク、ハードウエア企業であるメラノックス社との業務契約で働き始めるまで、イスラエル人と会ったことがなかった。

Dahadha氏は「他の国際的企業で働くのと同じだ」と話す。何年もの仕事を通じてプログラミング言語のパイソンを習得したので、いつか自分の会社をつくりたいと語る。

ヨルダン川西岸を活動拠点とするDahadha氏は、メラノックス社の会議に出席するため、年に10回ほどテルアビブを訪れるが、その際に検問所を通過するのに何時間も費やすのは「いい気分ではない」という。

パレスチナ人はかつて、好調なイスラエルのハイテク業界において、まれな存在だった。多くのパレスチナ人は、和平合意なしにイスラエルの企業で働くことに反対している。こうしたつながりが、ヨルダン川西岸地区とガザ地区におけるイスラエルの支配の現状を固定化してしまうことを恐れているのだ。

著名なパレスチナ人実業家、ムニブ・アルマスリ氏は、「われわれはこれらの(イスラエル)企業と対等な立場でビジネスができることを望んでいたが、今は一切のビジネスをしていない」と話す。同氏はかつて、世界経済フォーラムを通じ、米オバマ前政権の和平への取り組みを支援する方法について、イスラエルの企業幹部と話し合ったことがある。同氏は和平合意が実現するまで、イスラエル企業と協力するのをやめていると話した。

一方で、一部のイスラエル人は、暴力や政治的な変動がパレスチナ人労働者とのビジネスを阻害する恐れがあることを懸念している。

だが、イスラエルの人材不足の深刻さや、イスラエル企業が提示し得る高い給与が、政治的な壁を壊しつつある。

前出のTahboub氏は、「イスラエルの市場に需要があればあるほど、彼らは人材を求めて隅々まで探し回るようになるだろう」と話す。

イスラエルは輸出の半分近くをハイテク分野に依存している。ハイテク業界などを支援する政府機関、イスラエル・イノベーション庁の主任科学者、アミ・ アペルバウム氏は人手不足が続けば、経済成長が停滞するだろうと述べる。

イスラエルの需要は、失業率が18%を超えるヨルダン川西岸地区の経済を拡大しようとするパレスチナの取り組みと融合し、一つの国家のような金融基盤を築きつつある。

パレスチナの情報通信技術企業を代表する統括組織「パレスチナ情報技術企業協会」によると、パレスチナの大学は毎年、情報技術(IT)分野の卒業生を2500〜3000人輩出しており、その多くはイスラエル企業が提供する就労経験や高い給与を欲しがるという。

1年前にヨルダン川西岸地区のエンジニアを雇用し始めたイスラエルのヘルツリーヤに本拠を置くアウトソーシング会社、ワン・エクセキューション・ハブのエリラン・シャロン氏は、「高齢の世代にとっては政治の問題のほうが重要だが、若いパレスチナ人は働きたいという気持ちの方が強い」と話す。

トランプ米政権では和平案の作成に際し、担当チームがハイテク分野のイスラエル人、パレスチナ人の双方と協議している。この和平案は今後数カ月のうちに公表される見通し。ドナルド・トランプ大統領が昨年12月、(テルアビブの)米大使館をエルサレムに移転し、同市をイスラエルの首都と認定すると発表して以来、パレスチナの政治指導者たちはトランプ政権との接触を拒否している。

それでもイスラエルのハイテク企業幹部は、地理的に近いパレスチナの労働力の方がいまよりも活用する余地があると指摘する。(中略)

イスラエル経済紙ザ・マーカーによれば、イスラエル人エンジニアの平均年収が13万ドル(約1480万円)前後なのに対し、パレスチナ人エンジニアの場合は平均4万2000ドルだ。

Dahadha氏の勤務するメラノックスのパレスチナ人社員数は全社員数の約4%の145人で、パレスチナ人の雇用数としては同国最大という。同社ではパレスチナ人の雇用拡大を計画している。

パレスチナ人の採用には想定していなかった利点もある。9月のユダヤ教の祭日でイスラエル国内のほとんどの社員が休みだった際、同社最大の顧客である米マイクロソフトに影響を及ぼす恐れのある問題が発生した。

 同社のエヤル・ウォルドマンCEOによると、「パレスチナ人の社員たちが問題を把握し、解決した」という。同CEOは同社がパレスチナ人を採用するのは経済面での合理的理由があるからだと指摘、「われわれは慈善事業ではない」と述べた。【11月12日 WSJ】
*********************

【日本でも外国人労働者の受け入れ拡大 就職難の韓国からは日本企業就職の動きも】
深刻な人手不足が経済にとって大きな障害となり、これまでとは異なる外国人労働者への対応を余儀なくされている点では、これまで同様に移民政策はとらないとしている日本もイスラエルと非常によく似た状況にあります。

****外国人材に首相「上限」 試算、5年で最大34万人 法改正案審議入り****
外国人労働者の受け入れ拡大に向けた出入国管理法(入管法)改正案の審議が13日、衆院本会議で始まった。安倍晋三首相は受け入れ見込み数について近日中に業種別に明らかにする考えを示した上で「上限として運用する」と語った。

受け入れ数の上限規制は国会審議で焦点の一つとなっており、政府として上限を設定する方針だ。

首相はこの日の答弁では受け入れ見込み数を示さなかったが、「分野別に、5年ごとに向こう5年間の見込み数を示す」と明らかにした上で、「受け入れ業種における大きな経済情勢や雇用情勢への変化が生じない限り、上限として維持される」と答弁した。(中略)

政府は外国人労働者の受け入れ先として14業種を検討。受け入れ人数について、初年度の2019年度は約3万3千~約4万7千人、23年度までの5年間で約26万~約34万人と試算していることが13日、関係者への取材でわかった。厚生労働省の2017年の統計では、国内で働く外国人は過去最高の約128万人となっていた。

また、人手不足の規模は初年度で約61万~約62万人、19年度からの5年間で約130万~約135万人に上ると見込んでいることもわかった。政府は数値についてさらに精査したうえで、14日に国会に示す方針。

改正案には、人手不足が解消すれば新たな受け入れを中止・停止する措置が盛り込まれている。
野党が「受け入れ停止となったらすぐに帰国させるのか」と指摘すると、首相は「すでに在留する外国人材の在留を打ち切り、直ちに帰国させるということは考えていない」と答弁。雇用契約が続く限りは在留が認められるとの見解を示した。

改正案は、政府が指定した業種で一定の能力が認められる外国人労働者を対象に「特定技能1号」「2号」の在留資格を新設することを柱とする。政府は来年4月の新制度導入を表明。そのためには今国会での改正案成立が必要となっている。【11月14日 朝日】
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また、イスラエルとパレスチナほどの対立ではないにせよ、日本に対する根深い不信感を持つ韓国の若者らにも、政治問題よりも経済を優先させる動きが出ています。

****日本企業面接会に韓国の若者2000人超****
元徴用工訴訟で日本企業に賠償を命じる最高裁判決が出た韓国で、日本企業112社が参加した就職面接会が開かれ、2000人超の若者が集まった。

国際信義にもとる判決に日本からの批判は強いが、就職難の韓国の学生にとって日本企業はなお有望な就職先だ。歴史認識をめぐる日韓関係の冷え込みをよそに、就活戦線は熱気を帯びていた。

7日、ソウルの「日本就職博覧会」会場はスーツ姿の若者であふれていた。25歳の男子学生は「韓国では努力しても報われない。歴史認識は違うが機会を与えられれば日本に感謝しないと」と言う。博覧会は韓国への投資誘致などを担う大韓貿易投資振興公社(KOTRA)が主催した。
 
経済協力開発機構(OECD)によると韓国の若年層失業率(15~24歳)は2017年、10・3%(日本4・7%)と高い。大企業を目指して学歴や成績、語学力といった“スペック”競争は激しく、海外を視野に就活する学生も多い。
 
情報系の専門大学を来年卒業する趙秀珍(ジョ・スジン)さん(20)は「日本で就職した先輩から中小企業でも労働環境がいいと聞いて数社面接を受けたが、技術力や人間性を評価してくれると感じた」と好印象を語った。(中略)

■「国と個人の問題は別
人材が欲しい日本企業側と就職したい韓国学生側のニーズは一致し、竹島や慰安婦、徴用工と歴史認識をめぐる問題が次々と持ち上がるなかでもKOTRA主催の面接会に参加する日本企業は毎年増加。面接会を通した日本企業への就職者数も年々増えている。

面接を受けたのは書類選考を通過した人たちだ。多くの若者が「国と個人の問題は別。日本を旅行し日本人が親切だと知っている」と話した。日本のメーカー採用担当者も「判決のビジネスへの影響は心配だが相互理解の姿勢も必要」と、採用の続行に意欲を示す。
 
KOTRAの鄭●(=火へんに赫)(チョン・ヒョク)グローバル雇用創出室長も「韓国の学生はグローバル企業で活躍できる語学力があり、文化的に近い日本で適応しやすい。日韓は問題もあるが人材を交流して互いに発展していきたい」と、熱心にアピールしていた。【11月10日 産経】
*****************

【政治的障壁を突き崩す一歩となるか、あるいは、状況を悪化させるだけに終わるか・・・】
こうしたイスラエルや日本の状況は、政治的には改善が厳しい状況に風穴をあけて変化をもたらすきっかけともらりうる動きですが、実際に関係改善への一歩となるか、あるいは国民感情を刺激するような事態を招き、関係をさらに悪化させるだけに終わるかは、政府の問題への取り組み姿勢によります。

イスラエルの場合は、パレスチナとの共存という国家的安全保障にかかわる問題ですし、今後急速に人口減少が進む日本の場合、韓国人に限らず、中国人、東南アジア諸国からの労働者を含めて、これまでのように門戸を閉ざした社会を続けるのか、共存の道を模索するのかの試金石ともなります。

日本について言えば、日本国内の外国人労働者の境遇には多くの問題があり、単に受け入れを拡大すれば経済的に助かるという問題でもありません。

受け入れる外国人労働者の人間としての境遇を守るためにも、あるいは、ある程度は不可避的に発生するトラブルで外国人への抵抗感も強い一部国内世論を刺激し、社会全体の排外的方向への変質を招かないようにするためにも、慎重な配慮が必要とされる問題です。

中国も、日本の対応を注視しています。

****中国人技能実習生の待遇問題に再び注目が集まっている―中国メディア****
2018年11月13日、中国新聞網は、日本の外国人労働者受け入れ拡大政策発表を受け、「中国人技能実習生の待遇問題に再び注目が集まっている」と伝えた。

7日の参院予算委員会での報告によると、日本に住む外国人技能実習生が失踪する理由として最も多いのが「賃金に対する不満」で、全体の87%に達した。

ある中国人技能実習生の男性は、仕事中に機械で手の指を切断したものの、会社側は治療費用を払わなかったばかりか、帰国を促したという。

また、別の中国人実習生の女性は、縫製工場で働いていたが、残業の時給はわずか300円だと訴えた。さらに、別の女性実習生は、会社側に配置換えを求めたが聞き入れられず、うつ病になって飛び降り自殺を図ったという。

中国新聞網は「日本の社会や世論は、外国人技能実習生の労働環境が劣悪で、賃金は低く抑えられ、安全面でも問題があると認識している。日本政府は実習生の権利を保証していない。今後外国人労働者の受け入れを拡大するのであれば、まず環境整備を進めることが必要だ」と指摘した。【11月14日 レコードチャイナ】
****************

野党側の対応は、政策論議で政府案の問題点を改善していくというよりは、政治的に対決姿勢をアピールする方針とも指摘されており、そうなると政府・与党側は数の力でこれを抑え込み、原案の問題点を残したままスタートする事態も懸念されています。

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空港連絡「最終」バスに見る日本式“細やかな対応”の功罪

2018-11-13 23:34:54 | 身辺雑記・その他
現在、鹿児島空港から自宅方面に向かう空港連絡バスの最終便に乗車しています。

月曜日に丸一日かけてインドネシア・バリ島から帰国して、東京のホテルに深夜着。
今日、火曜日は東京での用事を済まし、鹿児島に夜の8時過ぎに着くフライトで帰ってきました。

自宅まではもう少しですが、私の自宅方面への空港連絡バスは乗客が少なくなる夜8時台は便がありません。
9時20分の最終便まで、空港で1時間ほど待つことになります。

ただ、空港連絡バスの最終便は、到着飛行機が遅延したような場合は、それに合わせて出発を後らせることになります。

今夜も、ようやくバスに乗車すると、東京からの最終フライトが遅れているので、25~30分待つとのことでした。

フライト遅延に合わせて、連絡バスの最終便を遅らせる・・・・・そのことは、日本的な細やかな対応であり、良いことだと思います。なかなか他国ではこうした対応を期待することは難しいかも。

私自身、最終フライトで空港に到着し、フライトの遅れで「もう最終バスの時刻が過ぎてしまったけど、どうしようか・・・」という場面も経験し、待っていたバスに救われたこともあります。

ただ、さきほど書いたように、旅行で疲れて、少しでも早く自宅に帰りたいという今日の私のような立場の者、あるいはバスの時間を想定して、その後の予定を立てている者にとっては、25~30分さらに待つのはつらいところもあります。

今日の場合、待ったあげく、誰も利用者はいませんでした。
同様の事情で待っている別のバスがすぐ前に止まっており、そのバスの排ガスが車内に充満し、苦情を訴える乗客も。

別に「待つ必要がない」と言っているのではなく、待つのは結構です。
しかし、実際にそのバスを利用する者が遅延したフライトにいるのか、確認しながら待つという、システマティックな、あるいは合理的な対応をとってもらうと、待つ方も助かるという話です。

漫然と空港ビル内に人気がなくなるまで待って、結局誰も利用客がおらず、「それでは出発します」では・・・・
(バス会社の方が空港ビル内を確認して、バスとの連絡をとってはいるようですから、決して“漫然と”という訳ではないのでしょうが)

もう少し、空港ビル管理会社や航空会社と連絡を密にして、飛行機を降機する時点で連絡バス利用の基部者がいるか確認するとか、預け荷物引き取りの場所での同様の確認を行うとか、何等かの対応がとれないのか・・・という話です。

待ったものの誰も来なかったという無駄を省く対応ができないものかという話です。

もちろん、空港管理会社や航空会社とバス会社の間には微妙な力関係があって、なかなかものが言えない・・・ということもあるのかも。それもわかりますが、だからといって他の乗客に犠牲を強いるというのも・・・

まあ、旅行最終段階の疲れ果てた状態で、そんなことを考えた次第です。

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インドネシア・バリ島 「聖なる場所」、あるいはパワースポット

2018-11-12 23:17:19 | 東南アジア
1週間ほどインドネシア・バリ島を観光して、今日帰国しました。(今夜は東京泊りで、鹿児島に帰るのは明日ですが)

当初の予定では、今回は3回目のバリということもあって、あまりあちこち観光で動き回らず、のんびりとウブドで過ごすつもりでしたが、貧乏性のため“のんびり”というのは難しく、日本での普段の生活以上に過密なスケジュールで目いっぱい観光に走り回ることになりました。

そうした慌ただしい観光で訪れた場所の中から、スピリチュアルな「聖なる場所」「パワースポット」をいくつか。

スピリチュアルなスポットということになると、宗教的な場所が多くなります。
バリには沐浴(ムルカッ)することで穢れを洗い流す場所が、いくつかありますが、その中でも一番有名なところは、「聖なる泉」の水で沐浴する世界遺産「ティルタ・ウンプル」でしょう。


現地の方に混じって、外国人観光客も大勢参加しています。

日本語ガイドのカデさんの話では、日本からやってくる女性にも、そうした沐浴を希望する人が多いようです。
スピリチュアルなものを求めるのが流行りなのでしょう。沐浴すると、心のもやもやも消えて、不思議なほどスッキリするそうです。

スパでリフレッシュして、ムルカッで心も清めれば、帰国する時には別人のように・・・・なれるでしょうか?

「聖なる場所」と言えば、当然寺院はどこもそういう場所になりますが、なかでも有名どころのひとつは、世界遺産「タマン・アユン寺院」


大切な人との絆を強める力がある、バリ有数のパワースポットとか。
旅行者は境内にははいれませんので、水路に囲まれた境内の周囲を歩いて回る形になりますが、それでも霊験あらたかとか。

私が行ったときは、地元政府主催の文化フェスティバルの開幕セレモニーが広い敷地内(参道スペース?)で行われており、中学生のバリ語コンテストにバリダンス、さらには神輿パレードと人が溢れていましたが、肝心の10基の塔(メル)が建ち並ぶ、寺院中心部はひっそりとしており、私もパワーのかけらを・・・・もらえたでしょうか?

山懐に深く抱かれた「バトゥカル寺院」 降り出した雨の中で続けられる祈りは、張り詰めたような空気も感じます。


自然の景観で、スピリチュアルな雰囲気を感じられるのは滝でしょう。
水と光の織りなす現像的な光景で最近人気があるのが「トゥカッ・チュプンの滝」


浅い川の流れのなかをバシャバシャ歩き、ほの暗い洞窟のような岩の間を抜けると、その奥に水のカーテンのように滝が流れ落ち、差し込む光と交差して・・・・・と、スピリチュアルな雰囲気を高めてくれるロケーションです。

ここでのお決まりポーズは、両手を高く広げ、頭を天を仰ぐように上向きに・・・・。
自分でやらなくても、誰かがやってくれます。

もちろん、自分でやればパワーが全身にみなぎる・・・・と思います。

そのためにも、濡れてもかまわない水着でやってくる観光客も多くいます。(駐車場からは、川底に降りる長い階段を含めて、かなり歩きますが)

何百年もの時を経た巨木もスピリチュアルなパワーを感じさせてくれます。
下の画像は、北部ポーヘン山中腹のバリ植物園にあって、ひときわ巨大な木です。


高地にあるため気温もやや低く、怜悧な空気が一段とパワーを高めてくれます。

場所ではありませんが、周囲の空気を震わせるようなジェゴグの響き、舞い踊るように激しく打ち鳴らされるガムラン、リズミカルなケチャなどのバリ特有の音楽も、内なるパワーを高めてくれるようにも思われます。


(竹楽器ジェゴクでは、大きなものは演奏者は楽器のうえに乗っかて叩きますが、その低い響きは振動となって伝わります。11月7日「ウブド・ダラム寺院」)

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インドネシア・バリ島 五穀豊穣の願い、神々への感謝 ペンジョールとバロン

2018-11-11 21:47:50 | 東南アジア
現在、インドネシア・バリ島を旅行中です。
先週の日曜日夜に到着し、1週間観光して、明日の朝のフライトで帰国します。

バリのイメージと言えば、ガムランの響きに合わせて舞われる伝統舞踊やリズミカルなケチャダンス、頭上高くお供えを運ぶオダランの女性、タナロットの夕日、ビーチリゾートでの優雅なスパ・・・等々、様々なものがあるでしょうが、そうしたもの以外に私が思い浮かべるのは「ペンジョール」です。

日本ではあまりなじみがない「ペンジョール」は、竹竿の先端が垂れ下がった七夕飾りのようなものです。
本来は祭礼に伴うものなのでしょうが、バリの至る所で目にします。

****ペンジョール****

ガルンガン(筆者注:日本で言えば、お盆のような祭礼でしょうか)祭礼日期間にバリを訪れると、日本の七夕飾りに似たペンジョールと呼ばれる竹飾りが、家々の門口に立てられているのを見ることができる。

ガルンガンはウク歴(筆者注:バリの暦)の正月で、210日に一度巡ってくる。

弓状に先をしならせた長い竹竿と椰子の葉飾りのペンジョールは、ガルンガンの前日(プナンパハン)までに必ず立てられる。

日本の門松と同じように、神々を迷いなく迎えるための目印だ。
バリでは、神々と同時に、先祖の霊をお迎えするために立てられる。

日本の七夕飾りも、もともとは、お盆に先祖の霊を迎えるために立てられたと言われ、共通点に興味を惹かれる。
山岳信仰のあるバリでは、神々は“山”いるものと考えられてきた。

ペンジョールは、天と地をつなぐ龍を表しているという説と、山を象徴する説がある。 訪れた神々を手厚くもてなし、1年の豊作を祈願したことには違いない。

ことの起源は、16世紀半ばに活躍した高僧ニラルタに由来するといわれている。

この地上にある生活に必要なものは、すべて神が創造した神からの授かりものと考え、感謝の意味を込めて、大地からの恵みの作物、果物、稲、砂糖キビなど、収穫の一部を供える。

先端には、ポロサンや花をつけ、椰子の葉を見事に細工したサンピアンを飾る。
祝い事の日には、サンピアンはつけない。

また、供物を置く場所として、ペンジョールの足もとにサンガ(祭壇)も取り付けられる。

竹の長さや装飾は、地域によって違う。
特にウブド地域は豪華で、竹は太く長く、割とデザインが統一されている。他の地域は、まったく質素なものだ。シンガラジャ地方は、まさに七夕飾りと同じだ。

ペンジョールは、ガルンガン、オダラン、田んぼの儀礼、地霊儀礼の日に立てられる。(中略)現代では、独立記念の催しものなどの祝い事の日にも掲げられ、これはペンジョール・ヤヤサン=penjor yayasanと言われている。

ペンジョールが2本立っているのは、この家で、結婚儀礼があり家族が増えたということを神々に知らせるためだ。(後略)【「極楽通信・UBUD」】
********************

下の画像はバリの玄関口、デンパサール空港の入り口に見られるペンジョール。


10日に訪れたバンリ方面の「クヘン寺院」の前の通りは、オダラン(祭礼)が終わったばかりということのためでしょうか、何本ものペンジョールが林立していました。


ペンジョールの起源・意味合いはいろいろあるようですが、やはり五穀豊穣への願い、豊穣に対する神々への感謝の気持ちが込められたものでしょう。

そうした点では、郊外トレッキングの際に田んぼのなかで目にした下記の質素なペンジョールは、頭を垂れる稲穂のようでもあり、ペンジョール本来の意味合いをよく体現しているように思われました。



五穀豊穣への願い、神々への感謝ということでは、バロンダンスで使用されるバロン(日本の獅子舞の獅子のようなもの)も、深く関係しているようです。

ウブドで夜毎に舞われるバロンダンスのバロン

下は、やはり「クヘン寺院」に祀られていたバロン。


よく見ると、このバロンは農作物の恵でつくられています。
腹から垂れ下がるふさふさとした長い毛のようなものは稲穂です。


また、背中の飾りをよく見ると、これも、豆やトウモロコシでつくられています。(黄色い花びらのような部分はトウモロコシを砕いたもの)



「タマン・アユン寺院」で見たバロンも同じようなものでした。
まさに、バロンは五穀豊穣への願い、神々への感謝を表したものとなっています。

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