孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ総選挙に衝撃 タクシン派政党がウボンラット王女を首相候補擁立 にわかに波乱含みの展開に

2019-02-08 23:38:01 | 東南アジア

(ウボンラット王女 タイ王室の公式フェイスブックから【2月8日 newsclip.be】

【MITで理学士号(数学)、UCLAで教鞭、カンヌ映画祭に自作映画で参加、恋チュンで話題にも】
3月24日に予定されている民政復帰の出発点ともなるタイ総選挙ですが、今日午後、各メディアが一斉に報じている驚きのニュースが“ウボンラット王女”の話題です。

****タイ総選挙 “タクシン派”首相候補に王女 選挙戦に波乱**** 
3月24日に予定されるタイの総選挙で、軍事政権に対抗するタクシン元首相派政党の一つ「タイ国家維持党」は8日、ワチラロンコン国王の姉ウボンラット王女(67)を党の首相候補として選挙管理委員会に届け出た。

ウボンラット氏は米国人と結婚し王籍を離れたが、離婚後タイに戻り王族同様の扱いを受けている。国王のきょうだいが首相候補となるのは極めて異例。国民が王室を重視するなかで、ウボンラット氏の擁立は選挙戦に波乱を起こしそうだ。
 
ウボンラット氏は故プミポン前国王の長女としてスイスで生まれ、米国暮らしが長かった。昨年タイで大ヒットした「恋するフォーチュンクッキー」を音楽イベントで踊りながら歌うなど、親しみやすい人柄で知られる。

タクシン氏と関係が近いとされ、海外で共にサッカー観戦する写真がインターネット上に広まったこともあった。
 
国家維持党はタクシン派政党「タイ貢献党」から昨年分党した姉妹政党の一つ。貢献党も首相候補はいるが、選挙後はタクシン派政党などが連立し、ウボンラット氏を擁立して首相選出に臨むとみられる。
 
一方、親軍政政党「国民国家の力党」もプラユット暫定首相がこの日、首相候補になることを了承したため選管に届け出た。選管は各党候補の資格を審査し、15日に発表する。【2月8日 毎日】
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タイ王室に関しては、皇太子時代の素行の評判が芳しくなかったワチラロンコン国王はもともと軍主流派とはそりが合わず、軍主流派はできれば国民的人気が高いシリントーン王女(国王の妹)を即位させたかった・・・とも言われていたように、“シリントーン王女”については、プミポン前国王逝去時にいろいろ話題になりました。

ただ、ウボンラット王女(国王の姉)は上記記事にもあるように王籍を離れていることもあって、話題になることはありませんでした。

とりあえず、ウィキペディアで調べると、ウボンラット王女は単に現国王の姉というだけでなく、また、上記記事にもある「恋するフォーチュンクッキー」絡みで紹介される親しみやすい人柄だけでもなく、アメリカUCLAで教鞭をとるような知性を有する方のようです。

****ウボンラット王女****
タイ王国君主ラーマ9世とシリキット王妃の長女。外国人と結婚したため、王族籍は消滅したが、離婚したため、王族籍は戻っていないものの王族的な扱いを受けている。(中略)

略歴
ウボンラッタナはラーマ9世の長女としてスイス、ローザンヌで誕生。少女時代には父親と共にヨットレースに出場するなどスポーツ好きであった。姉弟妹の中でも特に成績優秀でマサチューセッツ工科大学(MIT)に留学している。

MIT在学中に知り合ったピーター・ラッド・ジェンセン(アメリカ人)と結婚したことにより王族籍が剥奪される(王室典範によるもの)。

MITで理学士号(数学)を取得後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で公衆衛生学の修士号を取得し、同校で数年間教鞭をとる。ピーターとの間には3人の子供をもうけた。

1998年には離婚しタイへ帰国。現在では、ラーマ9世の外戚として王族に準じた扱いを受けている。

2018年5月に若者向けの音楽ライブで「恋するフォーチュンクッキー」のタイ語カバー曲を歌を披露した。(後略)
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また、検索すると、自著をもとに脚本も手掛け、出演もしている映画『Where The Miracle Happens』の宣伝のため、2008年のカンヌ国際映画祭に出席したとか。

スポーツ好きで、MITで理学士号(数学)を取得、UCLAで公衆衛生学を学び教鞭もとる、映画もつくれば、若者向け音楽を歌い踊る、しかも全国民から敬愛された前国王の長女で、現国王の姉・・・・これ以上の人物はタイ中探しても見当たらないでしょう。(もちろん、表記された事柄以上のことは、王女についてはまったく知りませんが)

上記の略歴からすると、欧米的価値観にもなじんでおり、軍事政権の価値観(女性についていえば、伝統的“良妻賢母”のイメージでしょうか)とはやはり異なる人生観・世界観の持主のようにも推測されます。

その意味では、軍事政権に対抗するタクシン派政党の首相候補というのも納得がいくところです。

【奇策が続くタクシン派「国家維持党」】
それにしても国家維持党も、とんでもない“隠し玉”を用意していたようです。
そもそも、この国家維持党という政党も、(つい最近の下記記事以外では)今まで聞くことのなかった政党です。

軍事政権と政権をめぐって総選挙で激しく争うタクシン派政党というと、「タイ貢献党」ですが、国外居住のタクシン前首相に支配されているとして解党を命じられるリスクを背負っています。

****タイ、タクシン派解党の恐れ 選管が調査開始****
タイのプラウィット副首相兼国防相は22日、タクシン元首相を支持するタイ貢献党に対するタクシン氏の影響力を調査するよう選挙管理委員会に要請した。

国外に住む者がタイ政党を支配することを禁じた政党法に触れる可能性があるとの理由。選管は23日、調査を開始した。

違反が認定されれば、来年に予定される総選挙を前にタイ貢献党は解党される恐れがある。英字紙バンコク・ポストなどが伝えた。
 
タクシン氏は18日、香港での共同通信とのインタビューで多くの政治的発言をした。プラウィット氏はこれらの発言を根拠に、タクシン氏がタイ貢献党を実質的に支配しているとみている。【2018年10月23日 共同】
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そこで、解党を命じられた場合の対策として、タイ貢献党から分党の形で作られたのが「国家維持党」とのことです。(「タイ貢献党」に解党命令がでたら、所属党員は「国家維持党」の方に一斉に乗り移るのでしょう。これまでも同様手法は取られてきました)

そういう新規の“別動隊”という身軽さもあってか、つい最近も国家維持党は“ある奇策”というか“裏技”で話題になりました。

****タクシン元首相が続々立候補!? タイ総選挙、当選狙う候補が裏技 民政移管は実現するか?****
(中略)
「タクシン」「インラック」候補が続々と登場
これまでの立候補者届け出で、「タイ貢献党」から分派して結成された「タイ国家維持党(タイ国家貢献党とも)」からは男性のタクシン候補者が10人、女性のインラック候補者が4人立候補を届け出た。

これは投票で農村部や貧困層での両者の高い人気、支持にあやかった「便乗戦略」で、姓はそのままで名を改名して届けたものという。

タイでは比較的容易に改名が行われており、選挙立候補に際しての改名も「改名は候補者の判断であり法律違反ではない」(タイ国家貢献党関係者)としており、軍政のアヌポン内相も「(改名は)違法ではないが、適切かどうかの判断に関してはコメントしない」との立場を明らかにしている。

地元「バンコク・ポスト」紙に対し、「タクシン候補者」の1人は「有権者に自分の名前を覚えてもらうために(タクシンという名前を)選んだ」と話しており、タクシン支持者からの票を期待した結果であることを明らかにしている。(後略)【2月6日 大塚智彦氏 Newsweek】
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【軍事政権ペースで進んできた選挙戦に波乱】
総選挙の全体図については、大塚氏は以下のようにも。(首相候補に関しては、冒頭ニュースが報じられる前の記事ですので、今後は様変わりするかも)

****民政移管は実現するか?****
総選挙にはタイ北部や東北部の農村地帯、貧困層に依然として高い人気を誇るタクシン元首相と妹のインラック前首相を支持する「タイ貢献党」と2018年9月に結党された親軍政政党「国民国家の力党」、反軍政でタクシン派とも距離を置くアピシット元首相率いる「民主党」、さらに元実業家のタナトーン党首の「新未来党」などによる激しい選挙戦が予想され、どの政党も単独での過半数獲得は困難とみられている。(中略)

世論調査では3党による激戦か
軍政を支持する「国民国家の力党」の党首ウッタワ前工業相は地元メディアに対して「人気の根強いタクシン派との対立を解消してタイ政治の新たな選択肢となる」との意気込みを示しているが、軍政側にはタクシン派の人気への警戒感から低所得者層に対して一時金を支給するなどして、タクシン支持層の取り込みに懸命となっている。

1月20日に発表されたタイのシンクタンク「国家開発管理研究所(NIDA)」の世論調査では「タイ貢献党」の支持率が32.7%とトップで続いて「国民国家の力党」の24.2%、「民主党」の14.9%、「新未来党」の11.0%と続いている。

また次期首相候補としてはプラユット首相が26.2%と高く、続いてタクシン派「タイ貢献党」のスダラット元保健相が22.4%、「民主党」党首のアピシット元首相が11.6%、「新未来党」のタナトーン党首の9.6%となっている。

東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でも成熟した民主主義国家としてかつては指導的地位を占めていたこともあるタイだが、クーデターで政権を奪取した軍政による経済的な停滞やタイ南部でのイスラム教過激組織によるテロの頻発など軍事力を背景にした政治で停滞してきたといわれている。

総選挙を通じてタイ国民がどこまで民政移管を実現させて、民主国家として「微笑みの国」を再生させることができるのか、3月24日の総選挙はその大きな試金石となる。【同上】
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人気が今なお高いタクシン派が選挙では強い・・・というのは以前から指摘されてきたことですが(それゆえ、軍事政権も何かと理由をつけて総選挙を先延ばしして、親軍政党の党勢拡大に努めてきたところです)、ただ、プラユット暫定首相の個人的人気に加え、タクシン派のお株を奪うような軍政側のバラマキ政策もあって、選挙情勢は微妙との指摘もあります。

それだけに、今回のウボンラット王女の首相候補擁立は、タクシン派にとっては、これ以上はない“巻き返し策”ともなり、今後の選挙情勢を大きく左右しそうです。(親軍政党側もプラユット暫定首相を首相候補に担ぎ出したのですが、ウボンラット王女の話題で吹き飛んでしまいました。)

****タイ王女が首相候補の波紋、劣勢タクシン派巻き返しへ****
タイの国民の間に衝撃が走った。(中略)
 
背景には現政権を握る軍とタクシン派、そして王室それぞれの思惑が交差しており、軍に有利に進んでいるとされる選挙戦でタクシン派が逆転するために打った一手であるとみる向きが多い。
 
汚職罪に問われ国外に逃亡しているタクシン元首相は、地方の農民から支持を受けて2001年と05年の選挙で圧勝したが、06年に勃発したクーデターで失脚。その後2011年の選挙では妹のインラック氏が首相に選出されたが、2014年のクーデターで国を追われている。

以来、タイは軍が政治の実権を握ってきた。軍政は度々総選挙の実施を延期し、ようやく今年3月に実現する見通しが立った。
 
とはいえ、軍政は実質的に8年ぶりとなる総選挙の仕組みを親軍政党である国家維持党(パラン・プラッチャーラット)に有利に定めた。

たとえば首相の指名には下院500議席、上院250議席の両院で過半数の指名が必要だが、うち上院議員は軍政が任命することになっている。投票の仕組みや区割りもタクシン派に不利に作られているという指摘がある。
 
タクシン派は地方の農民や低所所得者層から根強い支持を受けており、支持者数の多さから選挙に強いといわれる。伝統的なエリート層やバンコクの中間層を支持基盤とする軍政が政権の維持と「タクシン派潰し」を狙ってこうした制度を導入したことは明らかだ。
 
タクシン派にとって厳しいのは、訴える政策自体が国家維持党などと大きく違いは見られないことだ。どの政党も異口同音に貧困や格差対策、経済の高度化などを主張するが、いずれもこれまで4年に渡って軍政が重視してきた施策でもあった。こうした背景から、タクシン派は苦戦するとの見方が出ていた。
 
だが「人気勝負」の選挙戦で人気のあるウボンラット王女が登場したことで、その行方はわからなくなった。

加えて、タイでは王室への批判は「不敬罪」に当たり処罰の対象となる。つまり他の政党からすれば王女を候補として要するタクシン派を表立って批判できなくなる恐れもある。タクシン派は選挙中の論戦を有利に進められるだろう。
 
タイでは王室関連の話題はタブーとされているため、王室と軍、タクシン派との関係は見えづらい。だが16年のプミポン国王の崩御を受けて即位したワチラロンコン国王と軍との関係が良好でないことを不安視する見方は出ていた。
 
一方で、ウボンラット王女とタクシン氏は家族ぐるみで親しい間柄にあると見られ、タクシン氏やその息子とウボンラット王女とがともにサッカー観戦を楽しむ様子などが目撃されている。

「王室も一枚岩でない。これまではプミポン国王が複雑な利害関係をコントロールしてきたが、新国王のもとでは統制が効きづらくなっている」。ある研究者はこう指摘する。

一方で、軍が総選挙後も実権を握り続けることや、若年層を中心に、王室に対する意識が薄れていることをけることを王室が不安視しているのではないかとの見方もある。
 
いずれにせよ、今回の選挙でタクシン派が完全な勝利をおさめウボンラット女王が首相に就任した場合、「国外逃亡中のタクシン氏が特例によってタイに戻る道が開ける」(同研究者)。
 
タイでは選挙のたびにタクシン派、反タクシン派の対立が再び激化し、混乱を引き起こしてきた。4年ぶりの民政移管選挙となる今回もまた、タクシン派の復権でこれまでと同じ混乱に陥る恐れが高まってきた。【2月8日 飯山 辰之介氏 日経ビジネス】
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現行憲法下では軍政が上院の全議員(250名)を任命しますので、親軍政派は下院(500名)でわずか126議席を取れば、上院と協力してプラユット氏を首相にすることができるという、極めて有利な枠組みを軍事政権は作り上げてきました。

そうした枠組みのなかで、これまでは決定権を持つ軍事政権側のペースで“選挙に強いタクシン派”の切り崩しが進行していましたが、強権で反対勢力を封じ込める軍事政権の唯一の弱点が、かねてよりワチラロンコン国王とそりが合わないとも言われてきた王室との関係。王室に対しては軍事政権といえども強権は行使できません。

その弱点を一気につくタクシン派の起死回生の一手にも見受けられます。

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タイ北部にあるナレスアン大学のASEAN研究所の講師、ポール・チェンバース氏は「これはタイにとって前例のないことだ。他の政党が王女と争うのは難しいだろう。王女に対抗する選挙戦を仕掛けるのは誰にとっても容易ではない。タイのイデオロギーは王室ファーストであり、有権者は王女を擁立する政党以外の候補者を選びにくいと感じるだろう」と語った。【2月8日 Bloomberg】
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タクシン派がウボンラット王女を首相候補にしたことで、選挙の構図は一変しそうだ。タイでは王室は批判してはならない対象とされ、選挙でもタクシン派への批判や攻撃がしにくくなる。有権者の票が一気にウボンラット王女を立てた勢力に流れる可能性がある。ウボンラット王女はかねてタクシン氏と個人的に親しいとみられていた。【2月8日 朝日】
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【今後の展開は? 総選挙勝利でタクシン復権は?】
そもそも、軍事政権が先延ばしにしてきた総選挙が3月24日に確定した背景には、国王の意向があるのではとの指摘もあります。

****国王の意向強く****
浅見靖仁・法政大教授(タイ政治)の話 

タイ軍政は勝利に確信が持てず総選挙を先延ばししてきたが、プミポン前国王より政治に関与する姿勢を示すワチラロンコン国王の意向が強く働いたのではないか。

冷戦時代の一時期を除けばクーデター後にこれほど長期間、総選挙が実施されなかったことはなかった。選挙後も軍は大きな影響力を持ち続けるだろうが、民政復帰への最初のステップとなる。どの政党も過半数を取れそうになく、選挙後は不安定な連立政権となることが予想される。【1月23日 毎日】 
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今回の件について、ウボンラット王女が弟のワチラロンコン国王と連絡をとっていたとしても不思議ではありません。王女は王族籍を離れた現在もワチラロンコン国王と親しいとされています。

全くの、根拠もない憶測ですが、国王が軍事政権に総選挙実施を迫り、決定したところで王女がタクシン派側から首相候補として出る・・・・という構図も。全くの憶測です。

タクシン派が選挙に勝てば、海外逃亡中のタクシン前首相が帰国し、国王が恩赦を与える・・・という、タクシン復権の青写真もかねてよりささやかれていました。

今回のタクシン派によるウボンラット王女擁立で、そうした青写真の現実味も増してきた・・・とも思えますが、そうしたタクシン派一辺倒ではなく、国王と協力してタクシン派・反タクシン派の和解を模索するということかも。

また、軍事政権側にも対抗策があるのかも。

にわかに目が離せなくなったタイ総選挙です。
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シリア・イラク  IS崩壊でも癒えないヤジディー教徒女性の悲劇

2019-02-07 22:53:03 | 中東情勢

(イラク北部ドホークにあるISから救出された母親たちの支援活動を行うシェルター住人女性のひとり【2018 年 8 月 27 日 WSJ】)

【性急な米軍シリア撤退に与党共和党内からも批判・懸念も】
シリアからの米軍撤退は、トランプ大統領が周囲の反対を押し切る形で独断で決定した経緯もあり、与党共和党内にも批判・懸念があります。

****“シリア撤退 相談なし”トランプ大統領の独断ぶり浮き彫りに****
アメリカ軍で中東地域を統括する中央軍の司令官は、トランプ大統領が先に決定したシリアからのアメリカ軍撤退について大統領から相談がなかったことを明らかにし、大統領の独断ぶりが浮き彫りとなった形です。

アメリカ軍で中東地域を統括するボーテル中央軍司令官は、5日、議会上院の軍事委員会で証言しました。

この中でボーテル司令官は、周囲の反対を押し切ってシリアからのアメリカ軍撤退を表明したトランプ大統領の決定について「自分は事前にそのような表明をするとは知らなかった。大統領からは相談を受けなかった」と述べました。

そのうえでシリアには過激派組織IS=イスラミックステートの一部の勢力がまだ残っていて、引き続き圧力を加えないと復活するおそれがあると指摘し、アメリカ軍の撤退は慎重に進めていく考えを示しました。

シリアからのアメリカ軍撤退をめぐっては、大統領の決定に抗議して大統領特使を辞任したマクガーク氏も、先月、ワシントンポスト紙に寄稿し、「大統領は、同盟国に相談せず、現地の状況も理解せずに撤退を決めた。トルコの大統領との電話会談でトルコ側の提案をそのまま受け入れた」などと不満を示しています。

今回の司令官の証言はトランプ大統領の独断ぶりを浮き彫りにした形で、アメリカ議会では、北朝鮮の核問題など他の外交問題でもトランプ大統領が政府内部で十分協議せずに政策決定することを懸念する声が出ています。【2月6日 NHK】
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****米上院、シリア駐留米軍の性急な撤退に反対する法案可決****
米上院は4日、シリアとアフガニスタンに駐留する米軍の性急な撤退に反対する内容の法案を70対26の賛成多数で可決した。法案に実質的な効果はないが、共和党が多数派を占める上院が米軍の撤退を目指すトランプ大統領の方針に反発した格好となった。

法案は共和党のマコネル上院院内総務が作成。シリアとアフガニスタンの過激派組織「イスラム国」(IS)と国際武装組織「アルカイダ」に対する作戦は進展したが、米国にとって引き続き「深刻な脅威」になっていると指摘。米軍の「性急な撤退」は地域の不安定化と政治的空白につながり、イランあるいはロシアがこの空白を埋める可能性があると警告している。

その上で、トランプ政権に対し、大規模撤退に踏み切る前にISなどの「永続的な敗北」の条件がそろったことを確認するよう求めている。

法案は議会で現在審議されている中東安全保障法案に修正を加えるもので、上院は本案を次の段階に進めるための採決も行い、これを承認した。

ただ、成立には民主党が多数派を占める下院を通過する必要がある。大幅な修正がなければ、可決は難しいとみられている。【2月5日 ロイター】
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確かに、ISによるシリアにおける面的支配は最終段階にあります。

****IS支配地域は「残り4平方キロ」、クルド部隊司令官****
米国主導の有志連合の支援を受けてイスラム過激派組織「イスラム国」と戦うクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」の上級司令官は28日、ISの支配地域はシリア東部の4平方キロメートルにまで縮小していると述べた。(後略)【1月29日 AFP】
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こうした事実を受けて、トランプ大統領は「100%奪還したと来週には正式発表できるだろう」と、米軍撤退の妥当性を強調しています。

****IS支配地「100%奪還」 トランプ氏、軍撤収の妥当性強調****
トランプ米大統領は6日、過激派組織「イスラム国」(IS)のシリアやイラクでの支配地域について「100%奪還したと来週には正式発表できるだろう」と述べた。

IS掃討作戦成功を宣伝し、シリア駐留米軍の撤収方針の妥当性を強調する狙いがある。米国務省で開かれた対IS戦の有志国連合参加国の代表者会合で演説した。(中略)

トランプ氏は昨年12月、シリアに駐留する米軍約2000人の撤収を表明したが、米軍部や有志国連合からは「早期撤収はISの勢力回復を招く」として再考を求める声が上がっている。
 
また米軍が撤収した場合、IS掃討で米軍と共闘したシリアのクルド人部隊とそれを敵視する隣国トルコ軍との衝突が懸念される。衝突回避のため、米国はトルコ国境沿いに緩衝地帯を設定することをトルコに提案しているが、米政府高官は6日、記者団に「協議はまだ結論に至っていない」と語った。【2月7日 毎日】
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なお、アメリカ国防総省の総合監察官は、ISの近い将来の復活を懸念しています。

****駐シリア米軍問題(国防総省の見方等)****
トランプはシリアのISは破れたとして、米軍(2000名)の撤退を表明し、それ以降国防長官が辞任し、米軍は同盟者のクルドを見捨てるのか?ISは本当に敗北したのか?等の議論が続いているところ、関連の情報al qods al arabi net から2つほど

・一つは国防総省の総合監察官の報告書ですが、4日公表された報告書は、ISは毎月数十名の外国人過激派戦闘員を引き付けており、今後6月から1年以内に戻ってくると警告している由。

またISはシリアよりイラクの方で速やかに、その戦略の立て直しや勢力の再編を進めている由。

報告書は同盟者のクルド民主軍についても、彼らは確固とした戦士ではあるが、これに敵意を有するトルコが彼らを征服する可能性があると警告している。

民主軍の対IS戦闘は続いていて、残る2000名のIS戦闘員は激しく抵抗していて、最後の一兵まで戦う可能性ががあるとしている。

記事はクルド研究家の言として、計画の無い撤退は最悪で、今後シリアではロシア・トルコ・イランの連合がその運命を支配することになろうとしている由(後略)【2月5日 「中東の窓」】
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なお、トランプ大統領はイラク駐留の方は継続するとしていますが、その米軍駐留の理由について「イランの動向を監視するため」と発言し、波紋が広がっています。

イラク大統領は、米軍駐留の目的はテロとの戦いであるというのがアメリカ・イラクの合意であり、「米国の考えをイラクに押し付けられては困る、我々(イラク)はこの地に存在するので、イランをはじめ隣国と良好な関係を維持するのがその基本的政策である」という苦言を呈しています。【2月4日 「中東の窓」より】

トランプ大統領の自分の都合しか考えない周囲・関係国への配慮のなさは、結果的に、アメリカへの不信感を強めることにもなっています。

【故郷に受け入れを拒否されるヤジディー教徒女性の悲劇】
それはともかく、ISが面的支配を失うまでに追い詰められたことは(他国へのテロ流失とか、シリアでの復活とかいう話は別にして)喜ばしいことです。

ただ、下記のようなISによるヤジディー教徒女性への非人道的行為を聞くと(このような話は、以前からさんざん言われていた話です)、できることならもう少し早く実現すればよかった・・・とも。

****ISから逃れたヤジディー教徒の女性たち、「家に帰りたい」 シリア****
イスラム過激派組織「イスラム国」が樹立を夢見た「カリフ制国家」が崩れ始め、シリア東部から何千もの人が逃げ出している。その中には、ISの最も残忍な行為を生き延びた人たちもいる。

「決して忘れない」と、40歳のイラク人女性ビッサさんは静かに言う。ベッサさんは少数派のヤジディー教徒で、これまで6人のIS戦闘員に「売買」された。「彼らが望んだことは何でもやった。嫌だとは言えなかった」
 
ビッサさんは、何年もISの「性奴隷」として過ごし、1月末にようやく解放されたヤジディー教徒の女性や少女7人の一人だ。中には13歳の時に拉致された10代の少女も含まれていた。
 
AFPは、米国が支援する部隊の管轄区域でこの女性たちを取材したが、彼らは一様に家に帰りたいと口にした。
 
ここ数週間で、壊滅状態のイラクとの国境付近のIS支配地域から3万6000人以上が逃げ出しており、この中には3200人のIS戦闘員も含まれている。
 
現在、米国が支援するクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」が掌握するこの地で、ヤジディー教徒女性の話ほど痛ましいものは他におそらくないだろう。
 
ISは2014年、シリアとイラク一帯に勢力を拡大したが、この中に大規模なヤジディー教徒共同体が存在するイラク北部シンジャルも含まれていた。

ヤジディー教徒はクルド語を話し、その信仰はゾロアスター教にルーツを持つが、ISは彼らを「背教者」とみなしている。
 
ISはシンジャルで、男性たちを殺し、少年たちを無理やり戦闘員にし、6000人以上の女性を拉致した。

■それぞれの過酷な体験
ビッサさんは捕らえられた後、サウジアラビア人3人、自称スウェーデン人1人を含む6人のIS戦闘員の間で「売り買い」された。繰り返し残忍に扱われたが、怖くて逃げることができなかった。

オマル油田に近いSDF関連施設でビッサさんは、「逃げようとすれば誰でも、毎日違う男の相手をさせる罰を与えると言われた」と語った。
 
わずか13歳の時にシンジャルから拉致された17歳のナディンさんは、2回逃げようとした。だが、2回ともISの警察組織によって捕らえられた。「ホースで打たれた。傷痕が痛くて眠れなかった」と語る。
 
ナディンさんはISが独自に解釈した残忍な教義に従うことを余儀なくされ、公共の場では頭の先からつま先まで体を覆っていた。今でも顔を覆う黒いベールを取る勇気がない。「慣れてしまってもう外せない」「お母さんに会ったら外せると思う」
 
ナディンさんのいとこたちは、今でもシリア東部のISの支配地に拘束されていると言う。
 
ISは全盛期、英国とほぼ同面積を支配下に置いていた。だが、米主導の有志連合による空爆などさまざまな攻撃を受け、今では東部の一部地域を除きすべてを失った。
 
2015〜18年の間に、少なくとも129人のヤジディー教徒の女性・少女が、SDFのクルド女性防衛部隊に引き渡された。
 
ヤジディー教徒のサブハさんはYPJの施設で、結婚を強要されたIS戦闘員のクルド人の男が空爆で死んだので、子ども6人を連れてISの最後の支配地から逃げ出したと語った。

5人は最初の夫との子で、1歳半の娘だけがIS戦闘員の子どもだ。IS戦闘員の男はサブハさんを殴り、従わなければ子どもたちを殺すと脅したと言う。
 
サブハさんは今、家族が待つ家に戻ることを楽しみにしている。「でも、何よりうれしいのは、子どもたちの命を守れたことだ」と話す。 【2月7日 AFP】
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ヤジディー教徒の境遇はシリアでもイラクでも同じです。

イラクでも、IS崩壊によってようやく解放されたヤジディー教徒の女性が多数いますが、ISの支配から命からがら逃れた女性を待つ現実は、厳しいものがあります。特に、IS戦闘員との間で子供が生まれた女性は。

****IS戦闘員の子を宿したヤジディ女性の選択 ****
イスラム国が残した余波、行き場ない母子の苦悩

ニスリーンさん(23)が赤ん坊の顔をのぞき込むと、たまに父親の面影に気づくときがある。彼女をレイプした過激派組織「イスラム国(IS)」の戦闘員のことだ。

ISはイラク北部で勢力を拡大した当時、この地に住む少数派ヤジディ教徒の女性たちを奴隷にした。彼女もその一人だった。
 
ISは2014年夏、大量虐殺作戦でヤジディ教徒に標的を定めた。ニスリーンさんはこのとき他の数千人の女性とともにISに捕まった。それ以降、彼女を「所有」した3人目の戦闘員の子をみごもった。
 
3年間とらわれの身だったニスリーンさんは、ISが崩壊状態に陥った昨年ようやく解放された。だが故郷や家族は、ニスリーンさんを子供と一緒に受け入れることを拒否した。

ヤジディ教徒の社会ではイスラム教徒との結婚を禁じており、戦闘員との強制的な結婚によって生まれた子供を認めることはできない。そこに戻りたければ、赤ん坊を諦めるしかないのだ。

ニスリーンさんは子供を選んだ。膝の上で生後8カ月となる子供をあやしながら、「息子と離れては生きていけない」と語る。自分と子供の身の安全を考え、フルネームを明かさないことを希望した。
 
ニスリーンさんが陥った悲痛なジレンマは、イラク社会が和解を進める上での課題を物語っている。ISはかつて制圧した地域のほぼ全てからすでに敗走した。だがISがずたずたに引き裂いた社会の構造を修復するには、はるかに長い時間が必要だろう。
 
イラク・シリア各地のISに迫害されたコミュニティーは、スンニ派と共存することをもはや望んでいない(ISはスンニ派を代表する組織だと主張していた)。スンニ派内部でもこの過激派組織を支持するか反対するかで真っ二つに意見が分かれる。
 
ヤジディ教徒にとって生活再建はひどく複雑な作業であり、また重大な意味を持つ。ヤジディ教信者は世界中で100万人にも満たない。その大多数がイラクで暮らしているが、今や住む家を追われ、再出発もままならない状況だ。コミュニティー全体の未来が危険にさらされている。
 
ヤジディ教は古代イランの信仰の流れをくみ、キリスト教とイスラム教の要素も取り入れているが、イスラム教では悪魔の化身とされる孔雀天使を信仰している。
 
ヤジディ教徒を異教徒と決めつけたISは彼らが多く住むイラク北西部で粛清を始めた。

数日のうちに米軍はISに対する最初の空爆を実施。ヤジディ教徒「大量虐殺の可能性」を回避するための任務とされたが、実際にはもう手遅れだった。
 
すでにISは数百人の成人男性の虐殺を始めていた。そして戦利品としてヤジディ教信者の6000人以上を捕虜にした。
 
女性や少女は――国連の報告によると9歳の少女もいたという――戦闘員に報償として与えられた。戦闘員は彼女たちをレイプし、奴隷市場(実物市場もネット上の市場もある)に売り飛ばした。
 
メッセージアプリのテレグラムには「カリフの市場」と名づけたフォーラムがあり、ここに「戦場のハヤブサ」と名乗る戦闘員が女性を買いたいと投稿していた。ゲーム機や中古車、自爆用ベルトなどの広告にまぎれて、条件が記されていた。「美しく、料理と家事が得意なこと。年齢不問。値段は安く」
 
ヤジディ教徒はすぐに捕虜となった人たちを取り戻し始めた。4年間で約半数が帰還したが、3000人余りは今も行方不明のままだ。
 
ISの奴隷にされた余波で、極めて閉鎖的で保守的なヤジディの社会では、最も基本的な原則の一部が揺らいでいる。
 
捕虜だった女性が解放され始めると、ヤジディの宗教指導者は、イスラム教徒によるレイプは結婚に関する原則に反するが、伝統を捨て、温かく迎え入れるよう指示した。

IS戦闘員を父親に持つことで複雑な問題が持ち上がる。ヤジディ教では両親がともにヤジディ教の信者でなくては子供を信者とは認められない。「われわれは純粋な血を守っている」。ヤジディ教の聖地、ラリッシュの管理者はこう話す。
 
奴隷だったヤジディ女性の多くは避妊薬を与えられたが、それでも一部の妊娠は避けがたかった。イラクおよびクルド人自治区の当局者は、何人の子供が生まれたかは不明だと話す。支援活動家らの話では、数百人とはいかなくても数十人以上はいるという。
 
選択を迫られた女性の大半は子供を手放し、中には諦めるよう強要された女性もいると当局者やヤジディの活動家は語る。赤ん坊は支援グループなどの手を借り、シリアやイラクの児童養護施設に収容されたり、イスラム教徒やキリスト教徒の家庭に引き取られたりした。
 
ニスリーンさんの場合、イラク軍がISの主要拠点だった北部の都市モスルや周辺地域を奪還した結果、生き延びた親族との再会を果たした。だが、ここから次の試練が始まった。
 
妊娠が目につくようになると、親族は堕胎のために病院に連れて行った。既に妊娠8カ月に入っており、医師は中絶手術は危険だと告げた。
 
やがて健康な男の子が生まれた。ニスリーンさんの母親は子供を手放すよう促したが、彼女は拒否した。長老たちも説得しようとしたが無駄だった。そこで親族は子供を連れて家に戻るよう告げたが、彼女はそれも断った。

結局、ニスリーンさんはイラク北部ドホークにあるシェルターに住むことにした。ISから救出された母親たちの支援活動を行う米オレゴン州出身のポール・キンガリー博士が運営する施設だ。
 
そこで再定住の申請をした。難民として欧米のある国に受け入れが決まった後、「息子には良い生活を送らせたい」とニスリーンさんは語った。その国では同郷者の再定住が進められているという。
 
ニスリーンさんは自分の子供をヤジディ教徒として育てるかどうかまだ決めていない。「心の命じるままに従いたい」【2018 年 8 月 27 日 WSJ】
****************

なんとも気が滅入る現実です。

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ミャンマー  進まぬロヒンギャ難民帰還に加えて、新たな仏教徒ラカイン族難民も発生

2019-02-06 23:24:11 | ミャンマー

(戦闘訓練を行うアラカン軍女性戦闘員 【9周年記念動画】)

【ロヒンギャ問題への対応を変えないミャンマー政府】
ミャンマー政府軍等による虐殺・暴力・放火・レイプなどを逃れてミャンマー西部のラカイン州から隣国バングラデシュに逃れた70万人を超えるイスラム系少数民族ロヒンギャの帰還が一向に進まないことは、これまでも再三取り上げてきたところです。

帰還が進まない最大の理由は、ラカイン州での治安が安定せず、仮に帰還しても再び暴力にさらされるのではないかとのロヒンギャ難民の不安が払しょくできないからです。

スー・チー氏率いるミャンマー政府は国軍による弾圧・暴力を認めようとしませんので、そうした難民たちの不安も当然のことと思われます。

国軍の責任を認めないだけでなく、ミャンマー司法当局は国軍の暴力を伝えようとしたロイター記者を国家機密法違反の罪で逮捕拘束しています。(スー・チー氏は救済に動く気配がないばかりでなく、逮捕された記者のことを「裏切り者」と呼んでいたとのことですので、この件に関する彼女の認識は司法当局と一致しているのでしょう)

****ロイター記者が上告、ミャンマーでの国家機密法違反****
ミャンマーでイスラム教徒少数民族ロヒンギャに関する極秘資料を不法に入手したとして国家機密法違反の罪に問われ、控訴審で禁錮7年の判決を受けたロイター記者2人の弁護士は1日、判決を不服として上告した。

同法違反の罪に問われているのはワ・ロン記者(32)とチョー・ソウ・ウー記者(28)の2人。昨年9月に一審で禁錮7年の判決を言い渡され、控訴審もこの判決を支持した。

ロイターは「最高裁がワ・ロンとチョー・ソウ・ウーに最終的に正義をもたらし、下級裁判所の誤った判決を破棄し、ジャーナリストの解放を命じるようわれわれは求める」とする声明を発表した。

政府の報道官からはコメントを得られていない。【2月1日 ロイター】
*****************

【仏教徒・武装勢力アラカン軍による警察襲撃で、ラカイン族難民も発生】
ロヒンギャ難民が帰るべきラカイン州では、今年に入ってから仏教徒・ラカイン族武装組織と国軍の衝突が報じられており、新たな衝突拡大で、難民帰還どころか、新たな難民が発生する状況にもなっています。

****ラカイン州から新たな難民流入、バングラデシュがミャンマーに抗議****
ミャンマー西部ラカイン州で治安部隊と武装集団が衝突し、新たに大量の難民がバングラデシュに流入していることについて、同国政府は5日、ミャンマー側に抗議した。関係者が6日、明らかにした。
 
バングラデシュ外務省は5日午後、ミャンマー大使を呼び、ラカイン州からの難民流入について抗議した。同州では2017年8月にミャンマー軍がイスラム系少数民族ロヒンギャへの弾圧を開始して以降、70万人以上が国外へ避難した。
 
匿名でAFPの取材に応じたバングラデシュ外務省高官によると、今回流入した難民はラカイン州の仏教徒やその他の部族の出身だという。具体的な人数は明かさなかったが「数は増えている。すでに国境で待機している人々がおり、彼らはおそらく入国するだろう。(ミャンマーに対して、ラカイン州の)衝突を終息させるために、早急に効果的措置を講じるよう要請した」と述べた。(中略)
 
バングラデシュはすでに、2017年8月以降に流入したロヒンギャ難民74万人の対応に追われている。またそれ以前にも、ラカイン州での衝突のせいで30万人がバングラデシュに逃れていた。
 
ラカイン州では現在、同州の多数派を占める仏教徒が、18か月前にロヒンギャ弾圧に加わった部隊と衝突している。
 
先月4日には、ラカイン人の自治権拡大を要求する武装集団「アラカン軍」が国境警察の施設を襲撃し、13人を殺害した。 【2月6日 AFP】AFPBB News
*****************

ラカイン州の多数派住民でもある仏教徒ラカイン族(アラカン族)は、歴史的には18世紀まではビルマ本体とは別個の独立王国を有しており、その言語もいわゆるミャンマー語とは全く異なります。

ビルマやイギリスの支配を経て、現在はミャンマーの一部となっていますが、歴史的経緯や文化・言語の違いなどもあって、独立運動が続いており、その武力闘争を担っているのがアラカン軍(AA)という組織です。

ロヒンギャの問題は、現地レベルではイスラム系少数派ロヒンギャと仏教徒多数派のラカイン族の対立でもありますが、そのラカイン族もミャンマー全体からすると少数民族として差別を受ける立場にもあります。

差別を受ける者が、自分らより劣後する位置にある者を更に差別するという構図は、一般的にも多く見られるものですが、ラカイン州においてもそうした構図になっています。

いさかいも懸念されるロヒンギャ難民とラカイン族難民双方を受け入れるバングラデシュも対応に苦慮するでしょう。

アラカン軍(AA)が国際的に注目されたのは年明け早々に起きた襲撃事件でした。

****警察襲撃、13人死亡=仏教徒武装集団―ミャンマー****
ミャンマー西部ラカイン州で4日早朝、仏教徒ラカイン族の武装集団「アラカン軍」が警察署4カ所を襲撃し、情報省は警官13人が死亡、9人が負傷したことを明らかにした。ロイター通信によると、アラカン軍は警官12人を一時拘束した。

ラカイン州では昨年12月から、ラカイン族による自治拡大を求めるアラカン軍と治安部隊の間で衝突が激化。約2500人が避難する事態になっている。4日はミャンマーの独立記念日だった。【1月5日 時事】 
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最初、“ラカイン州”“警察襲撃”という文字を見て、ロヒンギャの武装組織とされるアラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)が事件を起こしたのか・・・と思い、また国軍等の報復が激しく行われるのでは・・・とも懸念したのですが、記事をよく読むと、ロヒンギャではなく、仏教徒ラカイン族の武装勢力の起こした事件でした。

ミャンマー国軍は昨年12月、政府との停戦協定に署名していない少数民族武装勢力が活動する中国との国境地域などでの攻撃を今年4月末まで停止すると発表しましたが、ラカイン州やAAなどは、停戦の対象に含まれていません。

この襲撃事件を受けて、ミャンマー政府は国軍にこれまで以上の取り締まり強化を指示しています。

****ミャンマー政府、軍にラカイン人武装勢力の取り締まり指示****
ミャンマー西部ラカイン州で先週、仏教徒民族ラカイン人の武装集団が警察署4か所を襲撃した事件を受け、同国大統領府は軍に「取り締まり作戦の開始」を求めた。政府報道官が7日明らかにした。
 
ラカイン州ではここ数週、ラカイン人の仏教徒の自治権拡大を要求する武装集団「アラカン軍」と治安部隊の衝突が発生。急速な暴力の拡大により、一帯では数千人が家を追われている。
 
同州はミャンマーで最も貧しい地方の一つで、民族および宗教上の根深い憎悪がある。(中略)
 
政府報道官は7日、首都ネピドーで記者会見し、「大統領府はすでに、反乱分子を取り締まる作戦を開始するよう軍に指示した」と発表した。
 
国連国連人道問題調整事務所は同日、過去数週間の暴力行為により、約4500人が避難を余儀なくされていると表明した。 【1月8日 AFP】
******************

このアラカン軍(AA)の9周年記念動画なるものがYouTubeで見られます。(https://www.youtube.com/watch?v=vT3uE9BG31w&=&fbclid=IwAR1s9l5VRfrEQEdVh0zRZuszcxyt0wHM5lkh_HjRqlc6J0A7PecHWsIeZCs

“9周年”ということは、そんな古い組織ではないようです。最近の武装組織は動画による広報・リクルート活動を重視していますので、りっぱな動画をさくせいしていますが、アラカン軍(AA)の動画も、プロによって作成されたと思われるりっぱなものです。

この動画については、「ミャンマーよもやま情報局」でも詳しく解説されています。
そこで注目しているのは、動画に出てくるAA戦闘員が使用している高額な武器です。「武装組織」というより「軍隊」のイメージです。(広報動画ですから、極力そのようなイメージをふりまくように作られているのでしょうが)

資金源は、他の関連組織からだったり、麻薬密売だったり、支援者の寄付だったり・・・と、いろいろあるようです。

別のネットサイトでは、ミャンマーの少数民族問題に深く関与している周辺某大国の関与を疑っているような指摘もありますが、根拠は知りません。

「ミャンマーよもやま情報局」によれば、わずか69人の決起ではじまったアラカン軍は、いまや7000人規模にふくれあがっていろあるようでするそうです。

いずれにしても、ロヒンギャのARASの“竹やり部隊”(“武器は乏しく、わずかな銃器の他は、鉈や鋭くとがらせた竹の棒を使っているという”【ウィキペディア】)とは大違いです。

動画では、ミャンマー奥地の山中を行進するAA部隊が出てきますが、個人的には、タイ奥地の「黄金の三角地帯」も近いメーサローンで見た、台湾から孤立してタイ・ミャンマー国境地域で戦闘を続けた、かつての国民党軍の写真を思い出しました。



国民党軍にしても、麻薬王クンサーにしても、あるいはアラカン軍(AA)にしても、ミャンマー奥地には中央政府の支配の及ばない勢力が昔も今も跋扈しているようです。

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イギリス  ブレグジット決定以来の混迷を終わらせる国民投票再実施

2019-02-05 23:23:17 | 欧州情勢

(dzubanovska/NiroDesign/tiero/iStock【2月4日 WEDGE】)

【瓢箪から駒の2016年国民投票からの迷走】
3月29日のEU離脱期限が目前に迫るイギリスの迷走・混乱については、1月30日ブログ“イギリス 迷走するブレグジット 問題点と今後を簡単に整理”で、焦点となっている“バックストップ問題”などを整理する形でとりあげました。

離脱の混乱に備えて、エリザベス女王を退避させる計画もあるとか。

***EU離脱、暴動備え女王退避へ 英政府計画と報道****
英国の欧州連合(EU)離脱問題を巡り、複数の英メディアは3日、英政府がEUとの「合意なき離脱」に伴う市民生活の混乱や暴動といった非常事態に備え、エリザベス女王ら王室関係者をロンドンから秘密の安全な場所へ退避させる計画を立てたと伝えた。
 
メイ政権がEUとまとめた離脱合意案は先月の下院採決で、歴史的大差で否決され、このままEUと何の取り決めもなく3月末の離脱期日を迎える恐れが強まっている。
 
ただ、サンデー・タイムズ紙などによると、女王らの退避は万一に備えた措置で、英政府筋は計画が実施される事態は「起こりそうもない」とみているという。【2月4日 共同】
*****************

前回ブログで紹介した“EU離脱サバイバルキット”同様、そこまでの混乱は起きないとは思いますが。

現在の混乱の原因である2016年の国民投票の実施自体が、当時のキャメロン首相の思惑とは異なるものだった・・・・とも。

****キャメロン氏、英国民投票は実現しないと想定していた=EU大統領****
1月21日、欧州連合(EU)のトゥスク大統領は、EU離脱の是非を巡る国民投票実施を決断したキャメロン前英首相(写真)について、実施を約束した当初は2015年の総選挙で自身の保守党が単独過半数を獲得するとは考えておらず、連立相手の阻止で投票は実現しないと想定していたとの見方を示した。(後略)【1月22日 ロイター】
*****************

キャメロン前首相は、保守党内のユーロ懐疑派をなだめて、反EUの英国独立党(UKIP)に支持者が流れることを阻止する狙いで国民投票実施を掲げたものの、どうせ過半数は取れないから連立協議の結果、国民投票を実施することはない・・・と考えていたとのこと。

トゥスクEU大統領がキャメロン氏に『どうして国民投票を決断したのか。余りにも危険でばかげている』と質問した際に、上記のような答えが返ってきたとのことです。キャメロン氏側は否定していますが、当時の政治状況からすれば十分にあり得る話でしょう。あるいは、現在の混乱のもとともなった自身の行為に対する言い訳でしょうか。

15年の総選挙で保守党は予想外に単独過半数を獲得し、16年に実施した国民投票でEU離脱が決定。
事態はあれよあれよという間に思わぬ方向に転がり、現在に至っています。(得てして現実はそういうものでもありますが)

【三つの選択肢】
今日は、メイ首相の今後の選択肢、特に再度の国民投票実施についての記事をいくつか。

メイ首相の今後の選択肢としては、合意なき離脱(ハードブレグジット)、国民投票再実施、そして離脱期限を延長してEUおよび英議会を説得の三つがあります。

****ブレグジット秒読み ヨーロッパの岐路****
(中略)しかし、その先が見えない。シナリオはいくっかあるが、混乱は必至だ。

例えばボリス・ジョンソン前外相らが主張するように、「ハードブレグジット(合意なき離脱)」を選ぶ道もあり得る。

しかし経済への大きな痛手を伴うため、議会の支持は得られないだろう(1月29日に英議会は合意なき離脱を拒否するとした提案を可決した)。

イングランド銀行(日銀に相当)の18年11月の報告によれば、ハードブレグジットなら失業率が7.5%に上昇し、
住宅価格は30%ほど下落、通貨ポンドも下落し、経済は今年末までに8%ほど縮小する。
 
2つ目のシナリオは国民投票の再実施。その可能性は大いにあるし、今度こそ国民は残留を選ぶだろうと予想する人もいる。前回の投票結果で株価の下落という痛手を被ったからだ。
 
だが離脱強硬派のナイジェル・ファラージュは、再投票が実施されても自分の支持者が残留派を圧倒すると自信満々だ。「有権者の決意は固く、さらに大差で離脱が決まる」と本誌に寄稿した。

「敵意の政治」が英国を分断
保守党がメイを解任し、EUとの新たな合意を模索する指導者を選び直すという展開もあり得る。英BBCによれば、メイと対立する保守党議員は再度、党酋不信任の投票に待ち込めるだけの署名を集めつつあるという。
 
しかし最も現実昧があるのは、メイがEUを説得し、3月29日の離脱期限を数か月延長してもらうというシナリオだろう。

時問を稼いでEUとの交渉を再開すれば、議会を通しやすい協定案を作成できるかもしれない。英ノッティンガム大学の政治学者クリストファー・スタッフォートも「厄介な問題に関する協定を大幅に変えるにはEUとの協議を再開」するしかないと言う。
 
メイを悩ませる議会の分断は路上にも広がっている。メイが辛抱強くEUと協定を交渉していたときも、議会の外には連日極右団体が集結し、EU残留派議員に罵声を浴びせていた。

12月にはロンドンでイスラム教徒排斥を訴える活動家のトミー・ロビンソンが、極右政党イギリス独立党の支持者数千人を率いてメイ首相への抗議活動を行い、彼女を「売国奴」と罵った。
 
「これは混じり気のない敵意の政治、ポピュリスムの政治だ」と、英バーミンガム大学の政治学者アレックス・オ
ーテンは嘆く。「ブレグジットは人々を『われわれ』と『彼ら』に二分するメンタリティーを解き放ち、そのメンタリティーがわれわれ民主主義を分断している」(後略)【2月12日号 Newsweek日本語版】
******************

【英国民のみならず世界に安堵感をもたらす国民投票再実施】
(私もそうですが)「ブレグジットなんて馬鹿なことは止めた方がいい」と考える人々の間では、国民投票の再実施を求める声が強くあります。

前回の投票は問題点が国民に明らかにされないままに、一部の大きな声に扇動された結果である。再度投票を行えば、現在の混迷を目の当たりにした国民は必ず残留を選ぶ・・・という認識があっての主張です。

****Brexit、再度の国民投票はあるのか****
2019年1月15日、メイ首相がEUとまとめ上げたBrexit合意案が、英国議会で、大差で否決された。この敗北の後、メイ首相がどういう行動をしているのかは定かではない。各政党と協議して、議会が同意出来る離脱の案を探るということであったが、そのような案が短期間のうちに見つかる筈もない。
 
そもそも、野党労働党のコービン党首は、メイ首相との会談を拒否している。1月17日、彼はメイ首相に手紙を書き、協議の前提として、メイ首相が「no-deal Brexit」の可能性を排除することを要求した。(中略)

メイ首相は、コービン党首に返書を送り、「no-deal Brexit」を排除する権能は政府にはないという当然の回答をした。

メイ首相は、依然としてメイ首相の纏めたBrexit合意が唯一テーブルの上にある案であり、何等かの修正をするとしても、これを呑まなければ「no-deal Brexit」だという瀬戸際政策を暫く続けるのではないかとの印象である。

それは、議会と同時にEUをも相手とする瀬戸際政策であり、あわよくばEUから何等かの譲歩を取り付けたい(「backstop」を離脱協定から削除せしめられれば最善)ということであろう。こういうやり方にコービン党首が反発している訳である。
 
メイ首相は、時期を失しないうちに、3月29日の離脱時期の延期を、EUに要請すべきであろう。議会では保守党のニック・ボールズ議員が、「no-deal Brexit」の阻止を狙って政府に離脱時期を延期することを法的に強制する法案を提案していると伝えられる。議会に言われて延期を要請するのでは、外交権の喪失と言わないまでも失態である。
 
その上で、英国は、再度の国民投票に向けて動かざるを得ないのではないか。他に出口はないだろう。

1月18日付の英Times紙は、「心の底から我々は英国が残ることを望んでいる」という書簡を掲載した。ドイツのクランプ=カレンバウアーCDU党首による土壇場の訴えである。

彼女だけでなく、SPDや緑の党の首脳、財界首脳、ロック・スターやピアニストも署名している。書簡には、「我々は英国がいなくなると寂しい。伝説的な英国人のブラック・ユーモアが聞けなくなり、仕事帰りのパブでのエールの一杯がなくなると寂しい。ミルク入りのティー、道路の左側をドライブすることがなくなると寂しい」というくだりもある。

英国としては、今になって思い止まるのは決まりが悪いかもしれない。国民投票には大きなリスクもある。しかし、このような状況では、今一度、国民が残留を決めるしかないのであろう。
 
世論は変わって来ているのだと思う。国民投票の実現には、野党労働党の賛成も必要かもしれない。1月17 日、コービン労働党党首は、演説して「来週労働党が提案する案が拒絶され、英国が“no-deal”の惨事に直面するとなれば、国民投票を含む他のオプションを検討する」との趣旨を述べ、なかなか煮え切らない。

しかし、いずれ彼も決断せざるを得ないだろう。それ以外、良い出口は見つかりそうもない。
 
実際、2016年の国民投票でのBrexit可決以降、英国内では、政治も、経済も、先が見えない混乱状態である。安定性や将来の希望が見えなければ、国民も、EU離脱の問題を身に染みて感じ、世論は、EU残留に傾くのではないか。そういう調査結果もある。
 
それの1つの表れが1月15日の下院の議決結果である。メイ首相のEU離脱案が否決されることは予想されていたが、これほどの大差は、まさにメイ首相の敗北だった。
 
既に3年目に入るが、英国での再国民投票は、おそらく英国民のみならず、EU諸国が歓迎するものとなろう。そしておそらく世界各地でも安堵感がもたらされるかもしれない。【2月4日 WEDGE】
*******************

****英EU離脱、国民投票「再実施」に支持高まる****
国民投票で欧州連合(EU)離脱が決まってから2年余りを経てなお、英政治家は望ましい離脱の形を巡り、合意できずにいる。今では最初の投票結果を覆しかねない2度目の国民投票の実施を求める議員が増えている。
 
新たな国民投票を支持しているドミニク・グリーブ議員(保守党)によると、下院で投票やり直しを支持する議員は約150人に上る。野党の労働党やスコットランド国民党(SNP)のほか、一握りの保守党議員も含まれる。
 
それでも2度目の国民投票を行う法案の通過に必要な約320票にはほど遠い。
 
しかも、英国民が何について投票するのか明確になっていない。投票では、英国のEU離脱(ブレグジット)を決めた2016年の投票結果の取り消しを望むかを問う可能性がある。

あるいは、テリーザ・メイ首相がEUとの間で合意した離脱条件を支持するか、もしくは合意なしの離脱を望むかを問うことになるかもしれない。
 
ますます多くの議員が、議会の行き詰まり打開に国民投票が必要だと考えるようになっている。議会はいかなる離脱条件にも合意できずにいるようだ。
 
EU離脱を巡る2度目の国民投票を実施する案について、メイ首相は繰り返し反対を唱え、英国の民主主義への大きな打撃になると述べている。メイ氏は17日、議会で「(投票は)再び国を分断するリスクを冒すことになる」とし、「団結を取り戻す努力をすべきだ」と呼び掛けた。
 
2度目の国民投票を支持する向きは、16年の投票ではEUを離脱することで実際に何が起こるか英国民は分かっていなかったと指摘。条件が明らかになりつつある今、再び国民に問うべきだとしている。
 
EUとの合意条件に反対して先日閣僚を辞任したジョー・ジョンソン議員(保守党)は「約束されたブレグジットとは異なる」とし、「だからこそ、2度目の投票が必要なのだ」と言明した。 
ジョンソン氏はEU残留を希望している。兄のボリス・ジョンソン前外相はEU離脱派の代表格だ。
 
16年の国民投票では、EU離脱への賛成票が52%、反対票が48%だった。ウェブサイト「What UK Thinks」が最近の6つの世論調査を平均したところ、現在はEU残留の支持率が53%となっている。

ただ、調査会社は世論が決定的に変わったと結論付けることには注意を促している。賛否いずれも他方を大幅に引き離すほどではなく、大抵の調査は誤差の範囲が3〜4ポイントあるためだ。コムレスの直近の調査では、EU離脱の是非を問う第2回国民投票への支持率が40%となった。
 
離脱条件でEUからさらなる譲歩を引き出そうと奮闘しているメイ首相は、EU離脱案の議会採決を来年1月中旬に行うとしている。
 
トニー・ブレア元首相は、議会でブレグジットの選択肢が尽きれば、英国最大の貿易相手であるEUとの経済関係に関する合意なしで3月に離脱することを回避するため、議会は2度目の国民投票を支持せざるを得なくなるとの見方を示している。「不可能なものを排除すると、残ったものが答えになる。それがいかに起こり得ないようなことであってもだ」とブレア氏は話す。【2018年12月20日 DIAMOND online】
******************

労働党は昨年の党大会で、再投票をEU離脱をめぐる選択肢の一つと明確化させていますが、コービン党首など労働党執行部はこれに消極的であり、残留派は国民投票再実施の修正案を(離脱協定に関する多くの修正案が審議された)1月29日の議会に出すことはできませんでした。

【国民投票再実施を支持するUKIP元党首のファラージュ氏】
国民投票再実施を支持する意外な人物も。

「国民投票の再実施でいいじゃないか(どうせ離脱派が圧倒的に勝利するけど)」と以前から主張している人物が、離脱を扇動した張本人でもあるイギリス独立党(UKIP)元党首のファラージュ氏です。

****メイ首相は「悲惨なほど交渉力なく頑固一徹」 EU離脱混迷の責任は... ナイジェル・ファラージュ(イギリス独立党元党首)****
<2度目の国民投票になれば、前回以上の大差で離脱派が勝利する――。国民投票で離脱派の急先鋒だったナイジェル・ファラージュはこう予想する>

テリーザ・メイ政権は去る1月15日の採決で、決定的な敗北を喫しただけではない。政府の提案がこれほどの大差で否決されたのは前代未聞だ。

イギリスのEU離脱に向けてメイのまとめた協定案は230票(下院定数の3分の1を超える数だ)の大差で否決された。否決は予想どおりだったが、その票差は大方の予想をはるかに上回るものだった。まさに「大惨事」、いやそれ以上に悲惨な事態だ。

イギリスがこのような事態に陥ったことの責任は、どう見てもメイ首相にある。彼女自身が、今のイギリス政治における最大の問題だ。悲惨なほど交渉力が足りないのに頑固一徹な彼女が、国民に潔いEU離脱をもたらす障害となっている。まともな人間なら、とっくに職を辞しているはずだ。

この2年間の交渉を通じて、メイはEU官僚にずっと主導権を握られていた。彼女の指導力不足は明らかで、まるで和平交渉に引き出された敗軍の将。破綻した政治的プロジェクトに見切りをつけると民主的な投票で決めた独立国の指導者には見えなかった。(中略)

唯一の打開策は再投票か
これ(離脱協定)は彼女のEU側への服従を象徴する例だった。こうした失敗が、EU残留派の議員たちに付け込まれる隙を生み出した。残留派はこれで勢いづき、事あるごとにEU離脱に向けたプロセスに割り込み、骨抜きにしてきた。2度目の国民投票という要求が噴き出したのもこの時だ。

皮肉なもので、メイがEU側とまとめた協定案に対しては離脱派の議員も残留派の議員も一致して反対した。だから、あの無惨な結果となった。(中略)

その本質において、メイの提案は降伏文書以外の何物でもなかった。それも当然。そもそも彼女は2016年の国民投票で離脱反対の票を投じている。「2度目の国民投票が行われたら離脱と残留どちらに票を投じるか」と問われたときも明確な答えを避けている。

イギリスは今、前例のない領域に足を踏み入れている。史上初めて、議会が国民の意思を受け入れることを拒んでいるのだ。2016年の国民投票では1740万人強が離脱を支持した。残留派に130万票の差をつけての勝利だ。そして2017年の総選挙では二大政党がいずれもEU離脱の実現を公約し、圧倒的な支持を得たのだった。

確かに今は、下院議員650人の過半数が離脱を望んでいない。しかし2017年の時点では、500人近い議員がリスボン条約第50条の適用を支持していた。3月29日の期限までに離脱協定が成立しない場合、イギリスにはEU法が適用されなくなるとする条項だ。つまり、合意なしなら自動的にEU離脱が実現するのだ。

残念ながら、今の議会が自動的離脱を認めるとは思えない。むしろ第50条の発動延期を求め、その間に政府がEUからさらなる譲歩を引き出すことを望むだろう。しかしEU側の譲歩は期待できない。

一方で残留派は国民投票のやり直しを要求し続けるだろう。しかし世論調査機関ユーガブの最近の調査でも、2度目の国民投票の実施に賛成する人は8%にすぎない。

仮にもリスボン条約第50条の発動が延期され、2度目の国民投票が実施されたとして、それでも筆者の予想では、イギリスの有権者は前回よりもさらに断固たる決意で、より大差をつけてEU離脱を支持するだろう。もしかしたら、それが本物のEU離脱を実現する唯一最善の道かもしれない。【2月12日号 Newsweek日本語版】
*******************

離脱を扇動したUKIPは、離脱が現実のものとなったことで存在意義を失い失速・凋落、また、ファラージュ氏は過激化・極右化する党の路線に反発してUKIPを離党しています。

ファラージュ氏としては、再び政治的に復活するためには国民投票の再実施が“唯一最善の道”なのでしょう。

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変質する議会制民主主義  仏における直接民主制志向の動き 左右両極台頭で衰退する中道

2019-02-04 23:05:42 | 民主主義・社会問題

(仏パリで開かれた「国民討論会」の集会で市民に話をするエマニュエル・マクロン大統領(2019年2月1日撮影)【2月4日 AFP】)、

【議会は姿が見えず、直接民主主義的な「国民討論会」が脚光を浴びる】
フランス・マクロン政権による自動車燃料税引き上げに対する抗議から端を発した「黄色いベスト運動」は、昨年11月にスタートし、グローバリズム経済における格差やマクロン大統領のエリート主義的言動・金持ち優遇に対する不満を含め、全般的な反政府・反マクロン運動として、今も続いています。さすがに参加者は、このところ減少気味ではあるようです。

****フランス抗議デモ、2週連続減少 12週目、全国5万8千人****
フランスでマクロン政権に抗議する黄色いベスト運動のデモが2日、12週連続で行われた。同国メディアによると、内務省は全国の参加者が約5万8600人だったとの集計を明らかにした。

前週1月26日の約6万9千人から減り、規模縮小は2週連続。
 
マクロン政権はデモを受け、1月から全国で市民の意見を聴く「国民大討論」に取り組んでいる。政権を支持しない層が固定化する一方、支持率はやや改善するなど政治情勢の緊迫感は多少和らいでいる印象だ。
 
パリではデモ参加者に負傷者が出ていることに抗議するとして約1万500〜1万3800人が参加し、前週より規模が拡大した。【2月3日 共同】
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これまでの改革に対する抵抗に対しては全く譲歩することがなかった強気のマクロン大統領ですが、今回は政権に対する草の根的な批判に危機感を持ち、燃料税引き上げを撤回するという譲歩を示しています。

また、上記記事にもあるように全国で市民の意見を聴く「国民討論会」を開催して、不満の解消に努めています。

この直接民主主義的な「国民討論会」をマクロン大統領は結構楽しんでもいるようですが、抗議運動とその対応の過程で、「議会」の姿が全く見えません。

そのことに関して、議員というプロを排したポピュリズム的な危うさを指摘する声もあります。

****プロ不在のポピュリズム 仏マクロン大統領と国民の「討論」****
18世紀のフランス革命の亡霊が、蘇ったようだ。
 
革命前夜、ルイ16世が民意を知ろうと設けた「陳情書」が、マクロン大統領の下で復活した。全国約5000カ所で、市民は思いのたけを書いている。「黄色いベスト」の抗議運動を取り込もうと、大統領は「国民討論会」も始めた。
 
先週、パリの会場に行くと、大変な熱気だった。500人の定員はすぐ満席になり、約100人が小雨の中で行列を作った。
 
司会者が「何でも話してください」と言うと、早速、「金持ちの課税逃れがひどい」という発言が出た。この後は堰(せき)を切ったように、「政策は国民投票で決めろ」「年寄りにデジタル化を押しつけるな」などの訴えが続く。黄色いベストを着た女性が顔を真っ赤にして、「月1200ユーロ(約15万円)の年金は、3分の1が家賃に消える。生活は限界だよ」と政府を罵倒し、拍手を浴びた。
 
約2時間、ほとんどマイクの奪い合い。とりわけ税制への不満は強かった。
 
マクロン氏は結構、楽しんでいる。各地の集会で国民と膝をつき合わせ、「生活改善のため、改革は絶対必要だ」と説得を試みる。「直接民主主義」を彷彿(ほうふつ)とさせる討議が気に入っているらしい。
 
双方は言いっぱなしで、議論はあまりかみ合わないように見える。それでも討論会を機に、20%台に低迷していた大統領の支持率は、久々に30%を超えた。
 
大統領にとって、国会をスキップして国民と対話することは、権力基盤の強化になるだろう。だが、黄色いベスト運動に煽(あお)られて、手法はどんどんポピュリズム(大衆迎合主義)に近づいていく。
 
国民討論会は3月まで、3000カ所以上で行われ、陳情書やインターネットで意見も募る。政府は4月に国民の意見を集約し、「政治に生かす」と公約した。ネットで寄せられた意見だけで、すでに50万件。どんな法案を作っても、みんなを満足させることが不可能なのは間違いない。
 
目下、最大の敗者は「議会制民主主義」のようだ。いま政界の土俵には、大統領と国民しかいない。国会議員は出番が消え、政党政治が不在になった。

大統領の討論会は最大約7時間、テレビで生中継されるのに、国会審議は全く報道されない。1月の世論調査で「政党を信用する」と答えた人は9%まで減った。
 
議会制民主主義では、国民が選挙で代表を国会に送る。この仕組みの中で、税や年金制度が時間をかけて作られた。

フランスは北欧と並んで、所得格差が小さい福祉大国である。だが、黄色いベスト運動は「国民の声」を大義名分に、官僚や議員などプロの専門性を頭ごなしに否定する。「現状打破」のポピュリズムが広がり、政治は煽られる。
 
フランスだけではない。黄色いベストは西欧で「抵抗のシンボル」になった。デモ隊はドイツやオランダなど各国に出現した。
 
ルイ16世は陳情書を編纂(へんさん)させ、貴族や庶民の代表を「三部会」に集めた。財政危機を乗り切るための討論会だったが、逆に革命への扉を開いた。
 
マクロン氏は先週、仏メディアの記者を集めて、「国民投票も検討中だ」と述べた。さらにポピュリズムに扉を開けば、その先には大きな陥穽(かんせい)が待っている。【2月4日 産経】
******************

【「国民討論会」を締めくくる「国民投票」】
記事最後に触れられている「国民投票」については、「国民討論会」を締めくくるイベントとして位置づけられています。

*****マクロン大統領、「黄ベスト」収拾へ5月に14年ぶり国民投票か 仏紙****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領が、自身の政策に対する抗議運動「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」への対応の一策として、今年5月に国民投票の実施を検討していると、仏紙が3日報じた。実施されればフランスでは14年ぶりの国民投票となる。
 
仏週刊紙「ジュルナル・デュ・ディマンシュ」は、国民投票ではマクロン氏が大統領選で公約に掲げた国民議会の議員数削減の是非が問われると伝えている。また、議員の任期に期数制限を設けてベテラン議員の影響力を抑制する提案の是非も問われるという。
 
黄ベストデモへのマクロン氏の対応をめぐっては、欧州議会選挙が行われる5月26日に国民投票を行うのではないかとの観測がある。
 
マクロン氏は1月31日、国民投票の準備が進んでいるとする週刊誌カナール・アンシェネの報道について問われ、「検討中の課題の一つだ」と答えた。
 
発足から2年8か月のマクロン政権は、燃料税引き上げや生活苦への抗議に端を発する黄ベストデモの暴力化で最大の危機に直面している。

昨年12月、マクロン氏は最低賃金の引き上げや増税の一部撤回などの対応策を発表。さらに今年に入り、政策の選択や政策課題について市民と直に語り合う「国民討論会」を立ち上げ、国内各地で集会を開いている。
 
国民投票は「国民討論会」を締めくくるとともに、直接民主制を求める黄ベストデモへの回答ともなるイベントと目されている。 【2月4日 AFP】
********************

抗議行動に対し「国民討論会」で不満を聞き、懸案事項を「国民投票」で決する・・・・となると、確かに議会の出番がほとんどありません。

抗議行動自体が、議会を含めた既成政治への不満を核としていますので、そうした不満に応える形で「国民投票」という直接民主主義的手法が検討されているのでしょう。

本来は物事の決定は「様々な関連事項」を検討したうえで冷静・合理的に行う必要がありますが、そうした検討を行うべき“政治のプロ”としての議会・議員が排されると、抗議行動における過激な、声が大きい主張がクローズアップされ、そうした煽られるような雰囲気の中で「国民投票」で決着するというスタイルになると、ポピュリズムの弊害も危惧されます。

もちろん、それは議会・議員が“政治のプロ”としての本来の役割を果たしていない・・・との不満があっての話ですが。

インターネット・SNSの普及によって、国民・有権者は、政党・議員・新聞・テレビといったものを介することなく情報を収集し、発信することができるようになった現代は、19世紀・20世紀的な民主主義の環境とは異なる時代に足を踏み入れています。

ブレグジット、トランプ現象、黄色いベスト運動などは、そうした新しい政治環境における動きでもありますが、本当に冷静・合理的な判断がなされたのか・・・という危うさもつきまといます。

【左右両極の台頭で弱体化する中道 政治はまひ状態に】
既成政治全般を声高に批判するポピュリズ的雰囲気にあっては、右でも左でも、より過激な主張が有権者の心をとらえます。

結果的に、議会にあっても極右・極左勢力が勢いを強め、中道的な政党は凋落し、「様々な関連事項」を検討するよな議論は影をひそめることにもなります。

****中道派の弱体化、世界の政治をまひ状態に  極右・極左が勢いづき、分断が進む ****

この2年間、世界はまず右派のポピュリストの台頭に、そして次に活力を取り戻した左派に揺さぶられ続けた。いずれも物事を不安定化する根深いトレンド、すなわち中道派支持層が減少していることの産物だ。
 
欧州連合(EU)離脱をめぐる英国の混乱や、米国の政府機関閉鎖が示す通り、中道派を支持する層の縮小は各国政府の実行能力を奪っている。さらに移民や貿易、気候変動といった世界共通の課題に立ち向かうのに必要な国際協力もむしばんでいる。
 
とりわけ今週、ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)に集まる世界のビジネスリーダーにとっては脅威となる。彼らは中道派政党が主導する市場寄りの政策や世界的な市場開放による最大の受益者だからだ。

彼らは次第に左右両極の反政府勢力に対処する必要に迫られている。だがこの両勢力はグローバル化や大手銀行、大手IT(情報技術)企業に対する不信感を除き、ほとんど主張に共通点がない。

中道派の崩壊は何年もかけて進行中だが、その形態は国によって異なる。西欧では、既成政党から分派した新興政党が勢いを増したことがきっかけとなった。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のサイモン・ヒックス教授(政治学)によると、2007年~2016年に西欧諸国の社会民主主義(中道左派)政党の得票率は31%から23%に、中道右派政党の得票率は36%から29%に低下した。

受益者は極右・極左
その主な受益者は極右だが、最近では極左もそこに割り込んできた。

ドイツで連立政権を組む中道左派・社会民主党(SDP)と中道右派・キリスト教民主同盟(CDU)は昨年、どちらも州議会選挙で得票率が大幅に落ち込んだ。一方、反移民・反EUを掲げる新興極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」と移民を支持する環境政党「緑の党」が大きく躍進した。

イタリアでは現在、極右政党とポピュリスト左派政党が連立政権を率いている。
 
米国と英国では中道派支持者の衰退が主要政党を両極化させ、党内の亀裂も生んでいる。米共和党と英保守党の内部ではエスタブリッシュメント(既成勢力)とナショナリストの対立が深まるばかりだ。
 
一方で、英労働党のジェレミー・コービン党首は同党を左傾化し、米民主党では進歩主義者と自称民主社会主義者が同じことをしようとしている。彼らはトニー・ブレア元英首相やバラク・オバマ元米大統領なら決して受け入れなかっただろう政府の介入を提言している。(中略)
 
同様の動きは一部の新興国でもみられる。昨年、ブラジルとメキシコでは一度も政権を握ったことのない新興政党の大統領が選出された。ブラジルは極右政党、メキシコは極左政党出身の大統領だ。

逆方向の反動
政治はどのように分断されたのか。10年前まで右派および左派の大半の既成政党は、権力掌握と票獲得のために徐々に中道寄りとなり、その過程でお互いの立場の多くを認め合った。

中道左派はグローバル化と規制緩和を受け入れ、中道右派は社会保障制度を受け入れた。両者ともに移民を支持していた。
 
だがこれが結果的に、自分の選択に満足できない有権者を増大させることになった。LSEの政治学者サラ・ホボルト教授は、欧州ではここ数十年間に政党への愛着が薄れてきたと指摘。

例えばブルカラーの労働組合員は中道左派に投票すると決まっていた一世代前に比べ、有権者ははるかに頻繁に支持政党を変えるようになった。
 
またインターネットの存在が、従来型メディアの寡占状態を打ち破ったのと同様に、従来の政党の牙城を切り崩した。

「何の規制も受けずにメッセージを支持基盤や支持基盤の中のオピニオンリーダーに届けられることが、こうした新興政党の大きな力になった」と、アムステルダム自由大学の政治学者カトリン・デフリース教授は指摘する。
 
政治的忠誠心の後退とより強力な通信技術という組み合わせが、新興の非主流派政治運動の追い風となった。彼らはただ、中道政党は失敗したと主張するだけでよかった。さらに停滞する賃金や金融危機、歯止めのきかない移民流入などが彼らに道を開いた。(中略)
 
「新たな均衡」へ
政治的中道派層の縮小が国家のガバナンス(統治)をより困難にしているなら、国際社会の統治はほぼ不可能ということになる。

たとえある国がもう1カ国と協定締結にこぎ着けたとしても、「自国でそれを確実に履行できる保証が得られなくなっている」とデフリース氏は話す。

イタリアの現政権を構成する左翼と右翼のポピュリストは、EUとカナダが締結した自由貿易協定(FTA)を批准しないと警告している。

ベルギーの首相は反移民政党が連立政権を離脱したのを受け、先月辞任した。議会の過半数を維持できなくなったためだ。辞任の引き金は、国連が採択した移民協定をめぐる対立だった。
 
今後何年かはなお状況が緊迫するだろう。世界の経済システムを下支えする機関が圧力にさらされるためだ。世界貿易機関(WTO)は機能不全に陥るかもしれない。トランプ氏がその正当性に異議を唱えているからだ。

トランプ氏が再交渉した北米自由貿易協定(NAFTA)は、民主党の反対により議会でつぶされる可能性がある。

EUは既に目前に迫った英国の離脱問題に頭を悩ませているが、EU内でもイタリアやハンガリー、ポーランドから異論が出る可能性がある。こうした国々の政府はEUの統合拡大という前提を疑問視している。
 
いつかの時点で中道派と反主流派が同様に自らの立場に適応し、より多くの票を獲得することや共存することを目指せば、政治的安定が戻ってくるだろう。ただ、デフリース氏の指摘するように、イデオロギーの多様性を生み出すこうした勢力が姿を消すことはなさそうだ。「分断化が続くことが新たな均衡だ」【1月22日 WSJ】
******************

分断された政治状況で議会政治がまひするとき、左右両極は更に既成政治批判を強め、いずれかのポピュリストが大衆掌握に成功したとき・・・というのは大戦前の話ですが・・・・。
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中国経済、米中貿易摩擦で減速傾向加速 先行き懸念の中国と成果が欲しいトランプ大統領の妥協も

2019-02-03 23:18:08 | 中国

(【1月30日 WSJ】 中国はともかく、かつてアメリカで不動産を爆買いした日本はどこに消えたのでしょうか?)

【米中貿易摩擦の深刻化とともに低迷基調を強める中国経済】
中国指導部は一昨年来、目先の景気よりも過剰債務問題の解消といった構造改革を重視する政策をとってきました。問題が深刻化すれば金融危機という最悪の事態を招くことを懸念したためとされています。

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2008年秋のリーマン・ショック直後、中国政府は総額4兆元(約66兆円)もの大型景気対策を打ち出した。各地ではインフラ投資が大盛況となったが、銀行融資などの「借金頼み」だったため巨額の債務が積み上がった。

国際決済銀行(BIS)によると中国の金融部門を除く総債務の国内総生産(GDP)比は、08年に141%だったが17年には255%にまで拡大している。【2018年8月2日 産経】
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こうした“目先の景気より構造改革”という対応は、アメリカなどの外需による景気下支えを前提としていました。しかし、深刻化する対米貿易摩擦で外需頼みの景気の悪化が表面化しています。

中国の景気減速は昨年から指摘されていることですが、ここにきて統計数字(日本以上に信頼性には問題があるとはされていますが)でもそのあたりが明確になっています。

****中国の貿易黒字、2018年は前年比16.2%減****
中国税関総署が14日に発表した統計によると、2018年の中国の貿易収支の黒字は前年比16.2%減となった。輸入が前年比15.8%増加した一方、輸出は前年比9.9%増にとどまった。
 
輸出と輸入を合わせた貿易総額は4兆6200億ドル(約500兆円)で過去最高を記録し、前年比12.6%の伸びとなった。

ただ、輸出の伸びを輸入の伸びが大きく上回り、黒字額は3517億6000万ドル(約38兆円)と前年比16.2%減となった。 【1月14日 AFP】
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まあ、減少したとは言っても約38兆円の大幅黒字ではあります。
問題は、その黒字の大部分が対米貿易によるもので、しかもトランプ大統領が貿易不均衡批判に躍起になっているなかで、過去最大を記録していることです。

****中国、対米黒字が過去最大 18年は前年比17.2%増の約35兆円、米政権の圧力強化必至**** 
中国税関総署は14日、2018年の対米貿易黒字が前年比17.2%増の3233億ドル(約35兆円)だったと発表した。

米ダウ・ジョーンズ通信によると、対米黒字額は過去最大。米中間の貿易不均衡がさらに拡大したことで、中国に米国産品の輸入増を求めるトランプ米政権の圧力が一段と強まりそうだ。(後略)【1月15日 SankeiBiz】
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GDPは28年ぶりの低水準とのこと。絶対値の信頼性はともかく、減速しているは確かなようです。

****中国GDP、2018年は6.6%増 28年ぶり低水準****
中国国家統計局は21日、2018年の国内総生産を前年比6.6%増と発表した。米国との貿易戦争による景気低迷もあり、28年ぶりの低水準。中国政府が設定していた年間成長率目標の6.5%前後は上回った。
 
同時に発表された18年10〜12月期のGDPは前年同期比6.4%増だった。 【1月21日 AFP】AFPBB News
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景気拡大しているとは言われながらも、その実感がまるでない日本経済からすれば、6.8%が28年ぶりの低水準というのはうらやましい限りです。

もちろん、13億人民を支えなければならない中国指導部にとっては大問題です。

****米中貿易戦争で一段と進む中国の景気悪化*****
中国の景気悪化が一段と進んでいる。2018年末の上海株式市場は前年末比約25%安、12月の景況感指数は2年10カ月ぶりの低い水準となり、米中貿易戦争の顕在化は米アップルをも直撃している。

中国経済への逆風は今後さらに増すとの見方が強く、米国との貿易協議にも影響を与えているもようだ。
 
「1年を通じて低迷が続いた」
中国の経済メディア「東方財富網」は18年の上海株式市場をこう振り返った。

同市場の代表的な指数である総合指数の18年末の終値は2493.90と、前年末(3307.17)比で24.6%下落した。米中貿易摩擦の深刻化とともに低迷基調を強め、12月27日には終値が約4年1カ月ぶりの安値を記録している。
 
中国経済では消費の冷え込みが目立つ。中国政府が先月中旬に発表した11月の消費動向を示す小売売上高の伸び率は、03年5月以来15年半ぶりの低水準。

過去の景気対策の反動もあって消費者の財布のひもは固くなっており、18年の中国の新車販売台数は1990年以来28年ぶりの前年割れになるとの見通しを中国メディアが伝えている。(中略)
  
悪影響は製造現場にも広がる。政府が昨年末に発表した12月の景況感を示す製造業購買担当者指数(PMI)は49.4と、好不況の節目の50を割り込んだ。2016年2月以来2年10カ月ぶりの低水準だ。
 
習近平指導部は急速な景気悪化を懸念し、減税措置など景気刺激策を積極化。今月4日には中国人民銀行(中央銀行)が預金準備率を引き下げる金融緩和措置を発表したが、米ブルームバーグ通信は「最近の刺激策にも関わらず、(中国)経済が近いうちに底を見つけるという見方はほとんどない」と伝えた。(後略)【1月12日 産経】
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【米商業不動産市場からのチャイナマネー撤退 中国国内での不動産「神話」の崩壊】
こうした景気悪化を反映して、春節で日本にやってくる中国人観光客の消費支出も減少し、かつての“爆買い”もうすれてきている・・・・と、先ほどのTVニュースでやっていました。

もちろん、以前から言われている変化ですが、ただ、インタビューでは日本旅行中の買い物予算が“200万円”という中国人もいたりして・・・いまだ“爆買い”健在の印象も。

また、某眼鏡店の方が「以前は勧めたら何でも買ってくれたが、最近は吟味するようになった」といった趣旨の話をしていましたが、それって異常な消費行動が正常化したということでもあります。

同じような傾向が、アメリカの商業不動産市場からのチャイナマネーの撤退傾向にも見られるようです。
数字としての撤退傾向は間違いありませんが、上記“爆買い”同様に、異常な不動産投資が正常化した側面もあるように思われます。

****中国マネー、米商業不動産市場からの撤退加速****
2018年の中国による米商業不動産の純購入額は、2012年以来の低水準に落ち込んだ。これは中国政府が経済成長の鈍化を背景に、自国投資家に国内への資金還流の圧力をかけ続けているためだ。
 
調査会社リアル・キャピタル・アナリティクスによると、2018年第4四半期には、保険会社、多国籍企業、その他の中国本土を基盤とする投資家らの米商業不動産売買は8億5400万ドル(約930億円)の売り越しとなった。中国投資家の米不動産の売り越しは3四半期連続。これほど長期にわたって中国投資家が売り越したのは、これが初めてだ。
 
2018年の傾向は、それ以前の5年間からの著しい逆転と言える。中国の投資家らはそれまで猛烈な買いあさりを見せ、米国の象徴的不動産の買い付けで、しばしば競争相手を易々と打ち負かしていた。

ニューヨークのウォルドーフ・アストリアのような高級ホテルやシカゴの超高層ビル開発事業、カリフォルニア州ビバリーヒルズの豪華な住宅開発プロジェクトなどに数百億ドルもの資金を投じていたのだ。

現在、海外不動産を投資対象とする中国大手投資家の多くは、こうした戦利品のような不動産について、一部を売却するか、少なくとも新たな投資パートナーへの持ち分売却によってリスクを減らすなどの行動に出ている。
 
昨年の方向転換は、中国政府による通貨安定化、企業債務削減、経済成長鈍化の抑制に向けた海外投資制限などの政策努力を反映している。

中国の一部開発業者は現在、国内で厳しい資金調達環境に直面するなか、米国に保有していた不動産の一部を売却することで代替資金を調達しようとしている。
 
アナリストらによれば、一触即発状態となっている米中間の貿易面や政治面の対立もまた、中国企業にとって米国を居心地の悪い場所にしている。(中略)

中国による米不動産市場からの撤退は、世界第2の経済大国の成長鈍化が世界に影響をもたらし、金融市場を混乱させ、企業利益を少なくさせていることを示す新たな兆候だ。

中国は最近、18年の経済成長率が6.6%だったと発表した。これは年成長率としては1990年来最悪の数字であり、中国政府の予想を超える減速であることを示している。
 
中国当局は当面は資本規制を緩めそうにない。このため、アナリストは2019年も、中国人投資家が米不動産を売却する流れが続くとみている。(中略)

一部の中国人投資家は依然として米不動産市場に関心を持っている。ただ、高層ビルや豪華ホテルの取得を目指すのではなく、より堅実な運用益の得られる倉庫、コンビニエンスストアなどの小規模小売店舗など、より平凡な不動産に重点を置いている。(中略)

米不動産仲介大手クシュマン・アンド・ウェイクフィールド(C&W)の中国直接投資部門を担当するシニア・マネジングディレクター、シンイ・マッキニー氏によれば、10億ドルを超えるような取引は過去のものとなったが、3000万ドルを下回る規模の不動産開発には依然として中国系からの関心はあるという。
 
マッキニー氏は「投資家は以前、『ニューヨーク、あるいはサンフランシスコの中心部で最も高額なビルが欲しい』と言っていたが、現在はより運用利益を重視するようになっている」と語っている。【1月30日 WSJ】
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中国の国内不動産市場も冷え込んでいるようです。

****中国不動産市場に「異変」、売りたくても買い手見つからない「流動性リスク」=中国メディア****
不動産バブルが生じていると言われて久しい中国だが、中国共産主義青年団(共青団)の機関紙である中国青年報は27日、北京市や上海市、深セン市などの「一線都市」において、中古不動産市場の価格が下落し続けており、流動性リスクが顕在化し始めていると伝え、「中国の不動産市場は『買えば儲かる』という時代ではなくなりつつある」と伝えている。(中略)

記事は、(北京市や上海市など)一線都市であっても「高級不動産が投げ売りされていて、中古不動産も値引き合戦が見られる」と紹介する一方、それでも取引の成約数は低迷していると強調し、2018年下半期から現在にかけて、不動産市場の低迷はすでに中古市場へと波及していると指摘した。

さらに、中国ではこれまで「不動産は元本割れがない」、「不動産は買った時より高い値で売れる」という「神話」が存在したが、この神話はすでに終わったと強調。

「借金をして不動産を買っても儲かる」という黄金の時代は過ぎ去ったと伝え、売ろうとしても買い手が見つからないという「流動性の低下」が見られるとし、不動産ディベロッパーをはじめとする業界関係者は誰もが焦りを感じていると伝えた。(中略)

中国政府が不動産市場に対して行っている緊縮政策が今後緩和されることは考えにくく、中国の投資家にとって「資金を借り入れて、不動産を買う」という時代は、「おそらく二度と戻ってくることはないだろう」と伝えている。【1月30日 Searchina】
********************

日本のバブル崩壊を連想させる話ですが、実態はどうでしょうか。

【過剰債務問題といった経済リスクへの警戒から、大規模な景気対策の余地は限られている】
こうした景気減速傾向に対し、中国指導部は当然に景気対策を講じていますが、冒頭にも書いたように過剰債務問題といった経済リスクを抱えている状況で、景気対策にも限界があるようです。

****景気対策拡充に急ぐ中国…経済リスク警戒で限界指摘も****
中国政府が景気対策を急ピッチで拡充している。1月下旬に自動車や家電の購入を促進する消費刺激策を発表したほか、今年に入ってからだけでも金融緩和や減税措置、インフラ投資の拡大などが相次いで打ち出されている。

米国との貿易摩擦で進む景気悪化を食い止めるためだが、過剰債務問題といった経済リスクへの警戒から、大規模な景気対策の余地は限られているという見方が強い。
 
「消費政策の紅包(お年玉)が出た」。中国紙の経済日報(電子版)は、春節(旧正月)前の1月29日に国家発展改革委員会などが発表した自動車や家電の購入促進策を褒めそやした。
 
発表文によると、環境性能の低い旧型車から新型車に買い替える際に補助金を支給する。農村部での小型車への買い替えも補助するほか、中古車取引でも減税を実施。冷蔵庫や洗濯機、エアコンなどの家電についても、買い替えの際に補助金を支給する。
 
昨年来、個人消費の冷え込みは厳しさを増しており、特に自動車市場の悪化が目立つ。2017年末に小型車減税が打ち切られたことに加え、貿易戦争の激化を見込んで消費者の財布のひもが固くなっており、18年の新車販売台数は28年ぶりの前年割れに陥った。
 
消費刺激策以外にも中国政府は貿易戦争による景気減速への対策メニューを急ぎそろえている。1月4日には中国人民銀行(中央銀行)が、預金準備率を計1・0%引き下げる金融緩和措置を発表。同9日には小規模企業を対象に、当面3年間にわたり毎年約2千億元(約3兆2400億円)規模の減税が決まった。
 
抑制傾向にあったインフラ投資も徐々に積み上がっている。中国紙、中国経営報(電子版)は1月3日、19年の鉄道投資額が過去最高の8500億元規模になるとの見通しを報じた。(中略)
 
ただ一連の景気対策は、08年のリーマン・ショック直後に打ち出した「4兆元景気対策」と比べると規模感は劣る。過剰債務問題や不動産バブルなどの経済リスクが横たわり、中国当局は手を縛られたような状態にあるためだ。

ロイター通信は「強い刺激策の余地は大きくなく、そして非常に大きなリスクがある」という中国情報筋の見方を伝えている。【2月3日 産経】
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【景気悪化が米中貿易交渉進展を後押し 目先の成果が欲しいトランプ大統領との間で妥協も】
鉄道投資額が過去最高・・・採算無視の「高速鉄道」をガンガン作ったことで、国営中国鉄路総公司の債務は約85兆円に膨れ上がっているそうですが【2月3日 NEWSポストより】、いいのでしょうか?

景気悪化を懸念する中国指導部、目先の“成果”が欲しいトランプ大統領・・・ということで、懸案の米中貿易問題の方は“進展”する可能性も大きくなっています。

ただ、アメリカの対中国強硬派が知的財産などで目指すところとは異なる、“目先の成果につられた妥協”となる可能性も。

****トランプ氏、賭けの外交 月末、中朝と首脳会談か****
トランプ米大統領が2月末に、中国の習近平(シーチンピン)国家主席と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長とのダブル首脳会談にのぞみ、「成果」を得ようとの姿勢を強めている。

メキシコ国境の壁建設は議会の抵抗を受けて挫折するなど、米国内は厳しい状況になり、外交・通商の目先の成果で巻き返そうと前のめりになっている。

 ■目先の成果追う 妥協の懸念も
 「これは、とてつもなくデカいディール(取引)だ」。トランプ氏は1月31日、大統領執務室に、中国の劉鶴(リウホー)副首相を招き、高揚感を隠さなかった。記者団の前で、習氏からの親書が朗読された。(中略)

トランプ氏は「美しい手紙だ」と絶賛。劉氏も、米産大豆を大量に買うことを約束し、「大統領と習主席の戦略的指導によって、成功に満ちたディールをまとめられる」と持ち上げた。中国の要請を受け、2月末をめどに首脳会談に臨む意欲も見せた。
 
トランプ政権の交渉責任者ライトハイザー通商代表や、ナバロ大統領補佐官ら「対中強硬派」にとって、この通商交渉は10年や20年先を見据えた覇権争いと位置付けられている。サイバー攻撃などで知的財産を盗まれることを防ぎ、先端技術分野で中国の台頭を抑える戦略を描いている。
 
一方、トランプ氏は中国との巨額な貿易赤字が不満で、中国が輸入を増やせば、勝ちという通商観がある。トランプ氏は、農産物の輸入拡大という国民に分かりやすい「アメ」に飛びついた。習氏との首脳会談で、中国が用意する成果に気をよくし、知的財産など長期的な問題で大幅に妥協してしまう恐れもある。(中略)
 
 ■内政不安が次々、打開狙う
トランプ氏が「目先の成果」にこだわるのは、国内で自らの足元がぐらついていることが背景にある。(中略)

 ■中国、警戒解かず
中国は今回の交渉で、米国が問題視してきた対中貿易赤字を解消するため、米国産の農産物やエネルギー産品の輸入を増やすことを表明した。(中略)中国は実績を求めるトランプ氏の足もとを見透かし、飛びつきやすいカードを示してきたともいえる。
 
事態を打開し、一刻も早い紛争の解決を望む事情は、中国も同じだ。
 
中国国内では米国との紛争が株安を引き起こし、同時に進んでいた金融引き締め政策と相まって高額品の消費が低迷。輸出も落ち込んでいる。(中略)
 
通商紛争の影響が深まろうとするなかで、今回の交渉で首脳会談の提案までこぎ着けられたことに、習指導部は一定の手応えを得ているとみられる。
 
ただ、(中略)かつて高官協議で合意した紛争の一時停止をトランプ氏がほごにした経緯もあり、今後のトランプ氏の出方への警戒は解いていない。【2月2日 朝日】
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アメリカ  キューバ政権転覆まで見据えたベネズエラの反政府運動支援戦略 軍事介入の可能性もちらつかせる

2019-02-02 23:19:43 | アメリカ

(ベネズエラ首都カラカスの自宅前で、娘を抱きながら報道陣の質問に答える野党指導者フアン・グアイド氏と妻のファビアナ・ロザレスさん(左隣) 2019年1月31日撮影【2月1日 AFP】)


(プエルトカベージョの海軍基地を訪れたマドゥロ氏(中央)とシラ・フローレス夫人(右隣)(1月27日)【2月1日 WSJ】

【シリアの難民危機さえかすむほどの大量難民】
南米・ベネズエラにおいて圧政・失政を続ける反米・左派マドゥロ大統領に対し、35歳のフアン・グアイド氏が暫定大統領に就任して反政府運動の核になりつつある・・・という件は、1月26日ブログ“ベネズエラ 若手政治家グアイド氏の暫定大統領就任で反政府運動拡大 政局は流動化”で取り上げたばかりです。

その後も事態は緊迫しており、マドゥロ大統領が権力を維持できるか不透明な情勢にもなってきています。

このベネズエラの政局混乱が世界的に見ても非常に憂慮すべき問題であることは、未曽有の経済危機で医療や教育などのサービスが崩壊の危機にあり、すでに300万人以上が国を離れ難民と化していること、国連の予測では今年中に避難民の数は500万人を超え、隣国コロンビアだけで約200万人が流入するというように、シリアの難民危機さえかすむほどの規模であることからも明瞭です。【2月2日 Newsweekより】

【反政府デモ・政権側の双方がカギを握る軍にアピール 政権側は総選挙前倒しで野党勢力排除も】
アメリカや中ロ、その他の関係国の動きの前に、国内の状況を見ると、グアイド暫定大統領という“核”を得て、国内反政府行動が広がりを見せています。

****「マドゥロ氏に見切りを!」 ベネズエラ各地で大規模デモ****
ベネズエラで暫定大統領への就任を宣言した野党指導者フアン・グアイド氏が率いる大規模な反政府デモが30日、首都カラカスをはじめとする全国各地の都市で行われた。

デモの参加者らは国軍に対し、ニコラス・マドゥロ大統領に見切りをつけ、危機に瀕するベネズエラに人道支援を受け入れるよう訴えた。
 
街頭に繰り出した人々は、鍋を叩いたり口笛や警笛を吹いたりしながら、「国軍よ、尊厳を取り戻せ」「マドゥロは強奪者」「グアイドが大統領」「独裁に反対」などと書かれた横断幕などを掲げた。
 
グアイド氏はカラカスのベネズエラ中央大学から軍に対し、「あなた方の家族にとっても大事な要求をしているデモの参加者に発砲してはならない」と呼び掛けた。
 
一方、米ホワイトハウスによると、ドナルド・トランプ米大統領は同日、グアイド氏と電話会談を行い、暫定大統領としてのグアイド氏の立場を支持することを表明。会談後、「今日ベネズエラ全土で大きな反マドゥロデモが行われている。自由のための闘いが始まった!」とツイッターに投稿した。
 
先週行われた抗議デモでは、40人以上が死亡し、850人が拘束された。そのため30日のデモと2時間に及ぶストライキでは国軍に対し、国民に味方するよう要求が出された。
 
デモに先立ち、マドゥロ大統領は国軍を味方につけておくために、カラカスで2500人の兵士を前に「一致団結」を呼び掛けた。 【1月31日 AFP】AFPBB News
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前回ブログでも指摘したように、反政府運動が成果を得るか、あるいはマドゥロ大統領がこの危機をしのぐかは、軍の行動にもかかっており、双方が自陣営に軍を引き入れよう、あるいは引き留めようとアピールしています。

マドゥロ大統領は当然に辞任・退陣、あるいは大統領選挙のやり直しは否定していますが、総選挙の前倒し実施は支持しています。介入も辞さない政権側の主導・監視のもとでの選挙で、国会で多数派を占める野党勢力を議会から追い出し、反政府運動の基盤を掘り崩してしまおうとの思惑です。

****ベネズエラ大統領、総選挙前倒し支持 野党排除が目的か****
独裁支配を強め、国民の反発を招いている南米ベネズエラのマドゥロ大統領は、「総選挙を前倒しで実施できれば非常に好ましい」と述べ、総選挙の早期実施を支持する考えを示した。インタビューしたロシア国営ノーボスチ通信が30日、報じた。ただし、野党側が求めている大統領選のやり直しについては、改めて拒否した。
 
ベネズエラ国会(定数167)は、暫定大統領就任を宣言したグアイド国会議長ら野党勢力が多数を占める。現在の任期は2021年1月まであるため、マドゥロ氏はなるべく早く総選挙を実施し、野党勢力を排除したい思惑とみられる。
 
野党側は昨年5月の大統領選について、「有力な野党政治家が不正に排除された」としてやり直しを求めている。米国などはグアイド氏に大統領としての正統性を認め、欧州連合も大統領選を実施しなければ、グアイド氏を大統領として承認するとしている。
 
これに対し、マドゥロ氏は「帝国主義者どもが新たな大統領選を望むなら、(任期が終わる)25年まで待てばよい」と反発。ただし、「野党との対話の席につく用意はある」とも述べた。
 
一方、ベネズエラのサーブ検事総長は29日、グアイド氏について「憲法の秩序を脅かし、外国勢力の干渉に協力している」などとして捜査を始めたと発表。同氏の金融資産を凍結し、出国を禁止した。野党勢力は30日に大規模な反政府集会を開く予定で、政権側との衝突が懸念されている。【1月31日 朝日】
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上記記事最後にもあるように、政権側は、捜査開始・金融資産凍結などで中核となるグアイド氏への圧力を強めています。

グアイド氏は、警察の特殊部隊が自宅に立ち入り、家族を脅したとも主張しています。

****ベネズエラ野党指導者、政府による自宅捜索を「脅迫」と批判****
(中略)グアイド氏はカラカスのベネズエラ中央大学で演説し、特殊部隊のFAESが妻のファビアナ・ロザレスさんを尋問するため自宅にやってきたと明らかにした。
 
ファビアナさんと共に演説に臨んだグアイド氏は、「FAESは私の家にとどまっており、ファビアナに面会を求めている。独裁政権はそれで私たちを怖がらせることができると思っている」と自信に満ちた様子で語った。
 
マドゥロ氏は近年、国内で拡大する反体制派を弾圧し、複数の野党指導者を拘束している。(中略)【2月1日 AFP】
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国家警察は事実を否定していますが、地元記者によるとグアイド氏の近隣住民が目撃していたとも。【2月2日 朝日】

【グアイド氏の暫定大統領就任は、アメリカのベネズエラ・キューバ戦略のシナリオ上の動き?】
国内状況は以上のように緊迫していますが、国際社会も政権を支持する側、反政府運動を支援する側に分かれています。

(【2月1日 WSJ】 欧州議会は1月31日にグアイド暫定大統領を承認しましたが、EUは足並みがそろわず、グアイド氏承認が遅れています。ベネズエラおよび南米とかかわりが深いスペインも国内にいろいろ事情があるようです)

グアイド氏を支援する代表格がアメリカ・トランプ大統領です。

****米大統領「後ろ盾」表明 ベネズエラ野党指導者に****
トランプ米大統領は30日、南米ベネズエラで暫定大統領就任を宣言した野党連合出身のグアイド国会議長と電話会談した。グアイド氏はツイッターで「トランプ氏が民主的な努力に対して完全な後ろ盾となることを改めて表明した」と明らかにした。
 
ホワイトハウスによると、トランプ氏は「民主主義を取り戻すベネズエラの闘争を強く支持する」と強調し、両氏は定期的に意見交換することで一致した。米国はグアイド氏の暫定大統領就任を既に承認しており、トランプ氏は電話会談することで米国の立場を鮮明にした。【1月31日 共同】
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私は、グアイド氏が暫定大統領就任を発表し、アメリカ・トランプ大統領がこれをいち早く承認・支援している・・・というように理解していたのですが、グアイド氏の暫定大統領就任自体がアメリカ・トランプ大統領に後押しされたもので、アメリカ・トランプ大統領はベネズエラでのマドゥロ政権の転覆だけでなく、その先にはキューバの政権転覆、さらには中ロ、イランの影響力抑制を目論んでいる・・・・との指摘もあります。

****ベネズエラ政権転覆狙う米国、次の矛先はキューバ****
トランプ米政権によるベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領に対する失脚工作は、中南米への米国の影響力拡大に向けた新戦略の幕開けを意味する。米政権当局者が明らかにした。
 
その視線の先にいるのはマドゥロ氏だけではない。50年以上も米国が中南米で最も敵視しているキューバのほか、最近同地域に接近しているロシアや中国、イランもだ。
 
米政府はウゴ・チャベス前大統領時代を含め長年ベネズエラを非難してきたが、トランプ政権にはキューバの方が国家安全保障にとってより深刻な脅威だと長年みなしてきた当局者がそろっている。彼らはその理由にキューバが米国で情報活動を展開していることや中南米諸国に反米感情を広めようとしていることを挙げる。

米政権が狙いとするのは、ベネズエラとキューバの結束を断ち、両体制を転覆させることだ。
 
こうした米政権の強硬化の根底には、オバマ前政権が行った制裁緩和や投資解禁によるキューバとの部分的国交回復を覆したいとの思惑がある。
 
キューバの情報機関はベネズエラ軍やマドゥロ政権の安全保障機構と密接に連携している。ベネズエラはその見返りに、多い時には日量10万バレルにも達した同国の原油を実質無償でキューバに提供している。いずれも国際社会で孤立を深めるなか、ロシアやイラン、中国との関係を強化している。(中略)

デモを追い風に行動開始
(中略)今年1月10日のマドゥロ氏の大統領就任式を機に、ベネズエラ国会とホワイトハウスは街頭デモの勢いに乗じて行動を開始した。
 
1月22日、マイク・ポンペオ米国務長官、ウィルバー・ロス米商務長官、ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)、ムニューシン氏を含む米政権高官が選択肢を協議。トランプ氏は政権交代を支援する決断を下した。
 
その夜、マイク・ペンス米副大統領はベネズエラのグアイド国会議長に電話をかけ、米政府が支援する意向を伝えた。

翌日、グアイド氏は暫定大統領への就任を宣言し、米国のほかカナダや大半の南米諸国がグアイド氏をベネズエラの新大統領として認めた。(中略)

トランプ政権は、キューバのマドゥロ政権への支援能力を損なわせるため、数週間中にキューバに対する新たな措置を発表する見通しだ。【2月1日 WSJ】
******************

上記指摘が事実だとすれば、現在のベネズエラの政局混迷は、アメリカ・トランプ政権の反キューバ路線の筋書きに乗って展開されているということになります。

何も考えていないようなトランプ大統領ですが、とにかくオバマ前大統領のレガシーをくつがえすことには異様に執着していますので、キューバ政権転覆もそのひとつなのでしょう。

もちろんキューバの現体制が民主的・人道的だとは言いませんが、ただ、“キューバが米国で情報活動を展開していることや中南米諸国に反米感情を広めようとしている”というキューバに対する評価は、いかにもひと時代前の認識のようにも思えるのですが・・・。

剣呑な政権転覆云々ではなく、関係を深めることでキューバの政治・社会の変革を促す方が上策だと思います。

そもそも、ベネズエラとは違って、キューバ国内にはそれほど強力、あるいは組織だった反政府勢力はなく、政権転覆となるとアメリカ国内の反キューバ勢力のキューバ侵攻をアメリカが演出するという、国際的にはあまり歓迎されないシナリオにもなるのではないでしょうか。アメリカの軍事介入には南米諸国は強い拒否反応を示します。

【軍事介入の可能性もあえて隠さないトランプ政権】
ベネズエラの話に戻ると、アメリカ・トランプ政権が上記のようにグアイド氏の裏で、何かと画策している・・・ということになると、マドゥロ大統領がアメリカを執拗に攻撃・非難するのもあながち的外れではないということにもなります。

****ベネズエラの独裁者が米国民に直訴「トランプに攻撃させないで」****
<ベネズエラに対する軍事力行使も検討しているとされるトランプ米政権に対し、マドゥロ大統領が恥も外聞も捨てアピール>

ドナルド・トランプ米大統領が中米で戦争を始めるのを止めてほしい──大統領選の不正疑惑でベネズエラが政治危機に陥るなか、2期目の就任を宣言したニコラス・マドゥロはビデオメッセージで「アメリカの国民」にそう訴えた。

1月30日にフェイスブックの自身のアカウントに投稿した動画で、マドゥロは自分を悪者扱いしているメディアを信用するな、とアメリカ人に警告。

「ベネズエラで起きているのは『政権転覆』」の試みで、その背後でクーデーターを「仕掛け、資金を出し、積極的に支援したのはドナルド・トランプ政権にほかならない」という。(中略)

米政府はグアイド暫定大統領の承認に続き、ベネズエラの国営石油会社を経済制裁の対象に指定した。

マドゥロに言わせれば、この動きに米政府の真の狙いが透けて見える。「わが国に限らず、どこの国にも問題はある。わが国の問題はわれわれが解決する。わが国の石油資源は確認埋蔵量で世界最大だ。アメリカの石油帝国を率いる連中は、それを手に入れるため、イラクやリビアでやったのと同じことを企んでいる。だが、ベネズエラとマドゥロが大量破壊兵器を持っているという話をでっち上げて、介入の口実にするのは無理な相談だ」(後略)【1月31日 Newsweek】
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アメリカのベネズエラの軍事介入についても、いろいろ報道があります。

****「兵士5000人をコロンビアへ」 米大統領補佐官がメモ撮られる****
ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が手にしたノートに「兵士5000人をコロンビアへ」との走り書きがあるのが目撃され、写真が撮影された。

同補佐官は28日、ホワイトハウスで記者会見し、コロンビアの隣国ベネズエラでの危機について説明。この会見中、黄色いノートに黒い文字で上記の走り書きがあるのが目撃された。(中略)

匿名の米当局者は、コロンビア派兵の可能性の「裏付けとなるものは目にしていない」と述べている。
 
ボルトン補佐官は記者会見で、ベネズエラに米兵を動員する可能性を排除せず、「大統領はこの問題に関し、あらゆる選択肢があることを明確にしている」と述べた。 【1月29日 AFP】
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これは、うかつにも写真を撮られたのでしょうか? それとも、わざと写真を撮らせてマドゥロ政権をけん制したのでしょうか? わかりません。

トランプ政権は、あえて軍事介入の可能性を“ちらつかせている”ようにも見えます。

****ベネズエラに軍事介入「選択肢」 ペンス米副大統領****
ペンス米副大統領は1日、反政府デモが激化するベネズエラ情勢について演説し「独裁政権を完全に終わらせる時が来た。今は対話ではなく行動の時だ」と述べた。反米左翼マドゥロ大統領を退陣に追い込むため、外交や経済で圧力を強化する方針を示した。

トランプ大統領はホワイトハウスで記者団に、ベネズエラへの軍事介入は「常に選択肢だ」と語った。

ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は1日、ラジオ番組で軍事介入を直ちに行うことはないと説明。「あらゆる選択肢を検討しているが、私たちが求めるのは平和的な権力の移行だ」と述べた。【2月2日 共同】
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一応、ボルトン大統領補佐官はベネズエラに対するアメリカの軍事介入は差し迫っていないとの認識を示して、一定に歯止めはかけています。【2月2日 ロイターより】

ペンス米副大統領は「今は対話ではなく行動の時だ」、ボルトン大統領補佐官は「私たちが求めるのは平和的な権力の移行だ」、トランプ大統領は軍事介入は「常に選択肢だ」・・・・こういうのを圧力・けん制というのでしょう。

軍事介入するときは、下記のような動きを利用する形で行われるのでしょう。

****ベネズエラ軍離脱した元兵士、トランプ政権に武器支援訴え ****
政変に揺れるベネズエラの軍隊を離脱した元兵士2人がこのほどCNNの単独取材に答え、トランプ米政権に対して武器などの支援を求めた。支援があれば国内で不満を抱えた多数の兵士の蜂起が可能となり、「自由」を手に入れられると主張している。

現在ベネズエラ国外に住む元兵士2人は、米国からの軍事支援によって本国にいる味方に必要な装備を施したいと説明。現時点で軍から離脱する意志を持つ兵士数百人と連絡を取っているとしており、すでにテレビ放送を通じ、兵士らにマドゥロ政権に対する反乱を呼びかけたという。

そのうえで「ベネズエラの兵士として、米国に支援要請を行っている。情報伝達や武器の供給といった後方支援があれば、ベネズエラの自由を実現できる」と訴えた。(中略)

一方で、米軍による大規模な介入については断固として拒否する姿勢を示した。元兵士の1人は「他国の政府がわが国に侵入するのは望まない」「侵攻が必要になるとしても、それはベネズエラの兵士が自国の解放を心から願って行うものでなくてはならない」と強調した。【1月30日 ロイター】
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ベネズエラについては、ほかにも中ロなど政権支援側の動き、アメリカの国営ベネズエラ石油会社(PDVSA)に対する制裁措置(これはベネズエラにとって影響が大きいでしょう)など多々ありますが、長くなるのでまた別機会に。
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アメリカ 記録的大寒波にはしゃぐトランプ大統領 底堅い支持で再選も濃厚?

2019-02-01 22:29:29 | アメリカ

(米イリノイ州シカゴで、氷点下29度の中、ミシガン湖の湖畔を歩く人(2019年1月30日撮影)【1月31日 AFP】 近未来SF映画の一場面のような光景です。)

【米中西部 南極より寒い大寒波】
週明けには立春、冬の寒さも底を打ち、次第に春の足音も・・・というところですが、アメリカ中西部は“南極の寒さを上回る”記録的寒波に襲われています。

****米に寒波、氷点下41度 中西部、南極より低温****
米中西部は30日、記録的な寒波に襲われ、ミネソタ州パークラピッズで氷点下41度に達するなど各地で数十年ぶりの寒さを記録した。南極点近くのアムンゼン・スコット基地(氷点下31.7度)の気温を下回った場所も多く、強風により複数の地点で体感温度が氷点下50度前後に達した。一部の州は非常事態を宣言した。
 
寒さは31日以降も続きそうで、CNNテレビは31日のイリノイ州シカゴは「アラスカや南極より寒くなる」と警告した。(後略)【1月31日 共同】
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****気温は南極以下… 米中西部、大寒波で数千万人に影響****
大寒波に見舞われた米中西部では30日、シカゴなどの一部地域で気温が南極大陸以下にまで下がり、多数の航空便が欠航となったほか、休校や臨時閉店が相次いだ。当局や専門家は、数分で凍傷や低体温症につながるとして警戒を呼び掛けている。(中略)
 
米国の数千万人が影響を受けた今回の寒波は、通常は北極を覆っている極渦から分離した大気の渦によって引き起こされた。米メディアによると、先週末の気温低下と暴風雪、そして現在の寒波により、これまでに少なくとも5人が死亡した。
 
シカゴでは30日午前に氷点下30度を記録。風速冷却による体感温度は氷点下46度となった。これはアラスカ州の州都よりも寒く、さらには南極大陸の一部よりも低い気温となる。シカゴの主要2空港では1800便以上が欠航となり、全米鉄道旅客公社「アムトラック」は市内からの列車運行を中止した。
 
天候にかかわらず郵便を届けることで有名な米国郵便公社も、インディアナ、ミシガン、イリノイ、オハイオ、アイオワ、ノースダコタ、サウスダコタ、ネブラスカの各州の一部地域で配達業務を中止した。
 
ノースダコタ州グランドフォークスでは気温が氷点下37度、体感温度は氷点下52度まで低下。ミネソタ州ミネアポリスでは氷点下32度を記録した。 【1月31日 AFP】
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この記録的な寒波で、寒さが関係したとみられる死者(凍死のほか交通事故死も含まれる)は1月27日から31日までで少なくとも20人に達したとか。“各地の病院には凍傷や低体温症の患者が続々と運び込まれた。”【2月1日 共同】とも。

【警察「外出して犯罪を犯すのだけはやめてくれ」】
凍死者を出す半端ない寒さですが、そんな中でも、警察によるちょっとしたユーモアも。

****大寒波到来の米中西部、警察が犯罪を「禁止」に****
アメリカ中西部全域を氷点下を大幅に下回る記録的な大寒波が襲い、中西部各地の警察は相次いで、犯罪を「禁止」し「無効」にすると発表している。

中西部の一部の地域では今週、気温と体感温度予報が氷点下40度にもなりかねず、「命を脅かす」ほどの低温になるとされ、警察署や郡保安官事務所は「犯罪の休止」を宣言した。

インディアナ州ノーブルズビルとイリノイ州ウェストチェスターの警察はネットで、不法行為をはたらくより「家で読書でもするか、ネットフリックスを見ているように」と呼び掛けたのだ。

ウェストチェスター警察署は1月26日、同署のフェイスブックページにこう書いた。「猛烈な寒さと風のため、わが警察署は、あらゆる軽犯罪および重犯罪活動を無効とする」。「犯罪者諸君、どうか気づいてほしい。いまは犯罪を犯すには寒すぎる。読書をしてもネットフリックスを見てもいい。FBIの銀行強盗犯情報サイトへ行って、容疑者逮捕に協力するのでも構わないが、外出して犯罪を犯すのだけはやめてくれ」

こんな寒さのなかで犯罪者の相手などしたくない、という切実な気持ちがよく表れている。

ノーブルズビルの警察署は、犯罪禁止に違反したら最悪禁固刑を科すという。「(犯罪禁止の通達に)違反した場合は、罰金または禁固刑が科せられる可能性があるから覚悟せよ、とフェイスブックに投稿した。

凍傷になるぞ、という脅しも

「脅迫」に出た警察署もある。凍傷の写真を掲載したのだ。「風が身体にあたると身体の熱が奪われてより冷える。気温が低下し風速が上がると、体感温度はさらに下がる。今のような寒波のもとでは、実際に負傷したり死亡したりする危険も大きくなる。摂氏マイナス29度なら、皮膚が凍って凍傷になるまでに30分もかからない」と同署は書く。

各地の法執行当局によるこうした冗談まじりの警告は効いているのか。シカゴ発の複数の報道によれば、同市の何カ所かで、銃で脅して防寒着を盗む事件が起きているという。【1月30日 Newsweek】
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日本だったら“不謹慎”との批判も出るでしょうが、そのあたりがアメリカです。

【トランプ大統領「いったい、地球温暖化はどうなったんだ? 戻ってきてくれ、必要なんだ!」】
もうひとり、寒波到来に“はしゃいでいる”のが温暖化に否定的なトランプ大統領。こちらも日本なら「死者も出ているのに・・・」と首が飛ぶところですが、「まあ、トランプだから」で問題にもされないのがトランプ大統領の“強み”です。

****米大寒波と気候変動の関係は 温暖化はどうなったのか***
アメリカの3分の1が大寒波に見舞われている中、科学者たちは気候変動がどれくらいこの現象に影響を及ぼしているのかを調べている。

いったい地球温暖化はどうなったのか。
それこそ、ドナルド・トランプ米大統領が数日前のツイートで知りたがっていたことだ。

トランプ氏は1月29日、ツイッターに「美しいアメリカ中西部の体感気温がマイナス60度にもなって、史上最低を記録した。これから数日でさらに寒くなるようだ。人間は数分も外にいられない。いったい、地球温暖化はどうなったんだ? 戻ってきてくれ、必要なんだ!」と書き込んだ。(後略)【2月1日 BBC】
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もちろん、そのときどきの「天候」と、長期的な「気候」は別物であり、温暖化の進行中に大寒波があっても何ら不思議ではありません。

また、こうした異常な「天候」が起きる背景に気候変動が関係しているのでは・・・との疑問もありますが、今回の大寒波と気候変動の関連については検証中ということで“可能性も否定はされていない”ところのようです。

寒気を北極上空に閉じ込めているジェット気流の変化が寒波をもたらしており、なぜこのジェット気流が変化するのかが問題になります。

****米国を襲った大寒波、気候変動との関連は?****
20年来の寒さに見舞われ、各地で気温が氷点下20度以下まで下がっている米国。北極のような寒さをもたらした大寒波は、気候変動と関係があるのだろうか?
 
専門家らは、その可能性を否定していない。ただ、今回の大寒波における地球温暖化の関与をめぐっては、議論の余地があるとも指摘している。

■極渦とは何か
AFPの取材に応じたマイアミ大学ローゼンスティール海洋大気科学部のベン・カートマン教授(大気科学)は、「極渦とは北極を覆っている大量の冷たい空気の渦で、普段はジェット気流によって北極上空にとどまっている」と説明する。
 
通常、この冷気は強い空気の流れであるジェット気流によって北極に閉じ込めているが、ジェット気流がうねったり弱まったりすると北極の外に流れ出る。

「極渦は蛇行することがある。今回の大寒波がまさにそうだ。うねる幅が大きくなると冷気が遠く離れた南方まで到達する」とカートマン氏は話す。(中略)

■なぜジェット気流は蛇行するのか?
ジェット気流の強さは、熱帯と南極・北極の気温差に結びついており、気温差が開くほどジェット気流は強まる。理論上は、北極の冷気は北極にとどまっている可能性が高い。
 
だが、ジェット気流が強くなり過ぎると不安定になることもあるという。これについてカートマン氏は、「不安定になるとジェット気流がうねり、蛇行が始まる」と説明した。
 
南極・北極が温暖化の影響を受けると、熱帯との気温差が狭まり、ジェット気流がうねって冷気が北極から流れ出すという指摘もある。北極については、それ以外の地域に比べ、気温上昇が倍のペースで進んでいることが知られている。

■今回の大寒波は気候変動が理由なのか?
カートマン氏はこう説明する。「ジェット気流が弱まると、極渦は勢力を強め、さらに南下するのかとの疑問が浮かんでくる。これが正しければ、極端な寒波は気候変動と結びついていると言える」
 
そして、この仮説を検討するため、研究者らがまだデータを調べている最中であることに触れながら、「気候変動との結びつきをほのめかすものもあるが、まだ判断は下されていないことを強調したい」と続けた。
 
科学者らはこれまで、気候変動が特定の異常気象に果たす役割を解明してきた。今のところ、豪雨、干ばつ、熱波、山火事は気候変動と明確な関連があることが判明している。だが、突然の寒波については、関連性は依然として不明だ。 【1月31日 AFP】
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【底堅いトランプ支持 再選も濃厚?】
大寒波はともかく、暴言・失言・不謹慎な発言、嘘八百・・・なんでも「トランプだから」ですまされてしまうトランプ大統領については、そうした状況を意図的に作り上げたとしたら、なんとも恐るべき狡猾さです。

そのトランプ大統領を支える岩盤支持層および共和党内部については、先の政府機関閉庁騒動で揺らぎが出ているとの指摘はありました。

****トランプ大統領、一般教書演説を断念へ 政府閉鎖が影響****
(中略)長期化する政府閉鎖の影響で、トランプ氏の支持率は下落している。米CBSが23日に発表した世論調査では、トランプ氏を「支持する」と回答したのは36%、「支持しない」は59%で最悪となった。
 
国境の壁建設は、政府機関が閉鎖に追い込まれても実現するに値する政策と思うか、との問いに対し、「政府閉鎖に値する」はわずか28%で、「値しない」は71%にのぼった。
 
トランプ氏が今すぐやるべきことは、「壁建設費のない予算を受け入れ、政府を再開させる」が66%で、「政府閉鎖が続いてでも、壁建設費のない予算を拒否する」の31%を大きく上回った。

政府閉鎖は、トランプ氏の支持を押し下げている実態が改めて浮き彫りになった。【1月24日 朝日】
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****トランプ氏、壁建設巡り苦境 共和党内からも疑問噴出****
トランプ米大統領は27日、自身が公約に掲げるメキシコ国境の壁建設を目指す考えを重ねて表明し、建設費用捻出のための国家非常事態の宣言や、連邦政府機関の再閉鎖も辞さない姿勢を示した。

だがトランプ氏の手法には足元の共和党からも疑問の声が噴出、同氏は苦境に立たされている。
 
政府閉鎖が長期化したことで、共和党議員の反発も招いている。コリンズ上院議員は同日のテレビ番組で「閉鎖で達成したことは全くない」と断言。政府職員が一時帰休や無給勤務を強いられたことを挙げ「目標がどれほど重要であっても、使われるべき手段でない」と述べた。【1月28日 共同】
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しかし最新世論調査では、トランプ大統領支持率は40%を維持しており、“底堅さ”があるようです。

****トランプ大統領支持率 40%前後 底堅さ維持****
アメリカのトランプ大統領の支持率は、29日時点で41.5%となっていて、歴代大統領と比べて低い水準ながらも、4年の任期の折り返し点である現在も40%前後を維持しています。

アメリカの政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によりますと各種世論調査のトランプ大統領の支持率の平均値は、メキシコとの国境沿いの壁の建設費をめぐって野党・民主党と対立して新たな予算が成立せず、政府機関の一部閉鎖が続くなか、今月初めからは低落傾向を見せ、逆に不支持率は上昇しました。

一方で、去年3月上旬以降は40%を割り込むことはなく、底堅さを維持しています。

ただ、政府機関の閉鎖が続いていた今月21日から24日にかけてワシントン・ポストとABCテレビが行った世論調査では、トランプ大統領の支持率は37%と、この2年で最低水準に落ち込みました。

また、政府機関の一部閉鎖について「主に誰に責任があるか」を尋ねたところ、半数以上にあたる53%がトランプ大統領と共和党、34%がペロシ下院議長と民主党と答えました。

さらにメキシコとの国境沿いの「壁の建設」については、全体の半数以上にあたる54%が反対、42%が賛成と答えました。

ただ、共和党支持層のあいだでは83%が「賛成」、15%が「反対」と答えた一方、民主党支持層では14%が「賛成」83%が「反対」としていて、支持政党によって賛否が明確に分かれていることがわかります。【1月30日 NHK】
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****トランプの底力、なお恐るべし、一般教書延期、民主党に返り血****
本来なら本1月29日に行われるはずだった。米大統領の一般教書演説。政府機関の閉鎖(シャットダウン)の余波で来月までもちこされた。

メキシコ国境への〝壁〟建設をめぐる大統領と民主党の対立から、民主党が演説の延期を大統領に通告した。役所の閉鎖はとりあえず解除され、大統領演説も来月5日に行われることが決まったが、双方からは根本的に矛を収めようという気配は感じられない。
 
〝ロシア・ゲート〟疑惑とも相まって、大統領にとっては決して楽な政権運営とはいえないが、一部世論調査では支持率に何ら変化はみられず、シャットダウン前と同じ水準をたもっているという。混乱の影響などどこ吹く風といった体というからびっくりする。

取りざたされている弾劾など実際は現実味に乏しいとみられ、次期大統領選で再選濃厚との見方すらなされはじめている。トランプの底力、まさに恐るべしだ。(中略)

大統領支持率には影響なし
壁の建設は移民排斥、人種偏見にもつながりかねない政策だけに、一連の混乱をめぐっては大統領の非を鳴らす声が高まると予想された。

事実その通りになり、1月27日にNBCニュースとウォール・ストリート・ジャーナルが行った世論調査によると、政府機関閉鎖による混乱そのものの責任は大統領の政治姿勢にあるとする人は50%にのぼり、下院民主党に責任ありという人は37%にとどまった。APなどの調査では、大統領の支持率が34%、不支持は65%にのぼった。
 
ところがだ。NBCの調査で、大統領の支持率を聞いたところ、43%にのぼり、不支持率は54%。43%という数字は高い支持率ではもちろんないが、政府機関閉鎖前の昨年12月と同じ水準、大統領就任後の平均支持率35%ー45%に比べて遜色がないことに驚く。

シャットダウンの責任があるとみていながら、それでもなおトランプ氏を支持する人が多いことを示している。

APの調査にしても、経済を取ってみると、支持は44%と10ポイントも跳ね上がり、支持せずーは55%に低下する。共和党支持者の間の評価はいぜん圧倒的で、80%台後半から90%にものぼる。 
 
トランプ氏の支持基盤が〝低空飛行〟とはいえ、きわめて強固であることが、当初「一般教書演説ではなく文書を出してくれてもいい」と強硬姿勢を見せていたペローシ議長に妥協の道を選ばせた理由の1つかもしれない。(中略)

一般教書演説は毎年、夜のゴールデンアワー(東部時間午後9時、日本時間翌朝午前11時)から放映される。国会論戦を通じて首相の発言に触れる機会に恵まれている日本とちがって、大統領の言葉を直接聞くことの少ない米国民が関心を持っている政治的イベントだ。それを政争に利用したとなれば。かえって民主党がしっぺ返しを食うことになりかねない。【2月1日 WEDGE】
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国民の最大の関心事である経済は好調を維持しています。

外交面でみると、撤退をあきらかにしているシリアやアフガニスタン、非核化を求める北朝鮮などに関する今後の動向は不透明ですが、もともとアメリカ国民はそんな遠い世界のことなど大した関心をもっていません。

それよりは、中国との交渉で強い姿勢を見せて譲歩を引き出し、INF全廃条約撤廃でロシアにも対抗し、ついでに南米という身近にありながらアメリカにたてついてきたベネズエラ・マドゥロ政権を引きずり倒すことができれば、その実態がどういうもので、今後にどういう影響があるかは別にして、アメリカ国民は留飲を下げて、トランプ支持率も上昇という局面も想像されます。

“米国の選挙専門家の中にも、前回の大統領選、昨年の中間選挙の結果の分析などから、トランプ大統領はジョージア、ノースカロライナ、テネシーなどの州で勝利が濃厚で、すでに総選挙人538人の過半数270人にあと100超にまで迫っていると分析する向きもある。”【同上】ということで、再選の可能性も濃厚とか。

大寒波はいずれ去りますが、「ドナルド・トランプが大統領になることを神が希望した」(サンダース大統領報道官)とのことで、世界を凍えさせる大統領は8年間居座るということにも。めまいがしそうです。

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