孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「汝殺すなかれ」という日本的常識が通用しない社会

2019-04-20 23:13:57 | 国際情勢

(マリの首都バマコで、オゴサグ村襲撃事件とフランス軍の駐留をめぐって政府に抗議するデモの参加者ら(2019年4月5日撮影)【4月19日 AFP】 虐殺事件だけでなくフランス軍駐留も問題となっているようです)

【マリ 土地争いから160人を虐殺】

当然のことながら、世界各地では日本の常識では考えられないような事件が多々起きています。

 

ここ2,3日のニュースから、そうしたものを拾うと、まずアフリカ・マリで起きた下記の事件。

 

****マリ内閣総辞職、160人死亡の民族間衝突で政府対応に非難****

狩猟民族が牧畜民族の村を襲撃して160人を殺害した事件をめぐって政府批判が高まっていた西アフリカのマリで18日、内閣が総辞職した。

 

大統領府の発表によると、スメイル・ブベイ・マイガ首相と全閣僚の辞任を、イブラヒム・ブバカル・ケイタ大統領が承認した。

 

マリでは、情勢が不安定な中部モプティ州で民族間の衝突が激化しており、政府の対応に批判が集まっていた。

 

特に先月23日、狩猟民族のドゴン人がブルキナファソとの国境に近いオゴサグ村を襲い、土地利用をめぐって長年対立してきた牧畜民族フラニの村人160人を虐殺した事件では、マイガ政権への退陣圧力が高まっていた。

 

首都バマコでは今月5日、数万人規模のデモが行われ、襲撃事件の増加防止策が不十分だと政府を非難。17日には与野党の議員が共同で、マイガ政権は社会不安を抑え込めていないとして内閣不信任決議案を提出していた。

 

マリでは北部の広大な砂漠地帯を2012年に国際テロ組織「アルカイダ」系のイスラム過激派組織が掌握。20131月にフランス主導の軍事作戦が開始され、過激派の大半は掃討されたものの、今なお国土の広域が無法地帯と化しており、政府は治安の回復・安定化に苦慮している。 【419日 AFP

************

 

アフリカでは、農耕・牧畜・狩猟(今でも狩猟民族というものが存在するのですね・・・・)を生業とする民族・部族が、(民族・部族対立も絡めて)その土地利用を巡って争うというのは、そう珍しい話でもありません。

 

ただ、160人という虐殺の数にちょっと驚きました。

内閣不信任案や総辞職という話は別にして、襲撃した人々はそうした大量殺りくをどのように考えているのでしょうか?

 

日本では、「殺してはいけない」というのは社会の大前提ですが、そうした常識が全く通用しない社会も多々あります。マリのこの地域もそうしたなかのひとつのようです。

 

おそらくは事件が起きた地域は、これまでもいろんな小競り合いがあり、「殺すか、殺されるか」というジャングルの掟が支配する社会(まさに「無法地帯」)なのでしょうが、それにしても・・・・という感も。

 

【バングラデシュ セクハラを訴えた女性を校長が焼き殺す】

もうひとつ印象に残った事件は、セクハラを訴えた女性を校長が焼き殺したというバングラデシュの事件。

 

****校長からセクハラ受けた女子学生、通報後に火を付けられ死亡 バングラ****

バングラデシュで、校長からのセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)を警察に通報した女子学生が、複数の人物に火を付けられて後に死亡する事件があった。警察が19日、発表した。女子学生の襲撃を指示したのは、セクハラを行った校長だったとみられている。

 

10日に病院で死亡したのは、イスラム神学校に通っていたヌスラット・ジャハン・ラフィさん。先月下旬に警察に行き、校長からセクハラを受けたと通報した。

 

そのもようを撮影し、後に広まった動画には、地元警察署長がラフィさんの訴えを受理しながらも「大したことではない」と受け流している様子が捉えられている。

 

ラフィさんはその後、複数の人物に学校の屋上に呼び出され、警察へのセクハラ通報を撤回するよう脅迫を受けた。ラフィさんがこれを拒否すると、襲撃犯らはラフィさんに灯油をかけ、火を付けた。

 

警察は事件に関連し、ラフィさんの同級生3人を含む17人を逮捕。うち1人が、襲撃を命じたのは校長で、「ラフィさんに通報を取り下げるよう圧力をかけ、もし拒否したら殺すよう命じた」と供述した。

 

警察幹部の話では、逮捕者のうち5人が、火を放つ前にラフィさんをスカーフで縛り、自殺に見せかけようとした疑いもあるという。

 

ラフィさんは体表の8割にやけどを負った。死亡する前に自ら動画を撮影し、「先生が私を触った。息絶えるまでこの犯罪と闘う」と校長への非難を繰り返していた。

 

事件を受けて国内各地で抗議デモが発生。シェイク・ハシナ首相は、関与者全員を訴追すると約束した。 【419日 AFP

******************

 

性的暴行の訴えを警察がまともに取り上げない(そのくらいは“問題とするような話ではない”ということなのでしょう)ということは、隣国のインドなどでも見られる傾向で、女性への暴力が社会問題となっています。

 

ただ、今回事件では首謀者が校長で、生徒ら使って被害者女性を焼き殺してしまうというあたりが驚きです。

 

マリの場合は内閣総辞職に至り、バングラデシュの事件でも国内各地で抗議デモが発生しているということで、国民の多くはこうした事件を“とんでもないことだ”と認識はしているようで、そのことはひとつの救いでしょうか。

 

【サウジアラビア 「戻れば殺される」】

もうひとつ、日本的価値観からすれば非常識な事件を。

 

****「戻れば殺される」サウジ姉妹、ジョージアに逃亡 保護訴える*****

旧ソ連のジョージアに逃亡したサウジアラビアの姉妹2人が、国際社会に保護を求めている。超保守国家サウジで抑圧され、逃亡する女性が後を絶たない。

 

姉妹はツイッターの「@GeorgiaSisters」というアカウントで、サウジ当局にパスポートを無効にされたため「ジョージアに足止めされている」と主張。

 

2人が掲載したパスポート写真によると、姉妹はそれぞれ28歳と25歳だという。

 

姉はツイッターに投稿した動画の中で、「私たちは危険にさらされている」「サウジに戻れば殺されてしまう」と訴え、「どこか安全な国に亡命申請したい」と助けを求めた。

 

国連難民高等弁務官事務所は姉妹の状況を「注視している」と発表した。

 

これに対しジョージア内務省の報道官は18日、AFPの取材に対し、姉妹から「ジョージア当局への接触はこれまでのところない」「亡命申請はされておらず、いかなる種類の支援の求めもない」としている。

 

サウジ国民がジョージアに旅行する際、ビザ(査証)取得は不要となっている。

 

女性に対する制約が最も厳しい国の一つであるサウジアラビアからは、家族の虐待を逃れようと20歳と18歳の姉妹が中国・香港で潜伏生活を送り、先月安全な第三国にたどり着いた。また今年初めにも、ラハフ・ムハンマド・クヌンさんがカナダで難民認定され、劇的な逃亡劇に世界中が注目した。 【418日 AFP

******************

 

記事にもあるように、この種の事件はサウジアラビアでは時折目にします。

 

いまだ血が流れている訳ではありませんが、前述のようにマリでも、バングラデシュでも事件を厳しく批判する大きな世論が起きているのに対し、サウジアラビアの場合は、(公式コメントがどのようなものになるかは別にして)「姉妹を連れ戻すことのどこが悪い。当然のことではないか」というのが指導層や多くの人々の意識であるという点で、問題の根は深いとも言えます。

 

【身近な世界でも・・・】

なお、マリやバングラデシュの事件は、日本とは隔絶した遠い世界の出来事のようにも思えますが、暴力で問題を解決しようとする姿勢は(国内的には支持を得ている)フィリピン。ドゥテルテ政権の麻薬関連容疑者の超法規的殺人にも通じるものでしょう。

 

更に言えば、力の論理を前提にしている社会という点では、アメリカ・銃社会も・・・と言えば、いささか飛躍が過ぎるでしょうか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フランス  大聖堂再建寄付金に「人間より石が優先されるのか」 想起されるタリバンの大仏破壊

2019-04-19 22:10:42 | 欧州情勢

(失われたアフガン・バーミヤンの大仏跡 “flickr”より By tracyhunter
http://www.flickr.com/photos/tracyhunter/1778632003/)

 

【二日ともたなかった連帯感】

社会の分断はフランスだけの話ではありませんが、フランスでも中央政府の政治からこれまで顧みられることがなかったとの不満を持つ人々を中心に「黄色いベスト運動」が根強く続いています。

 

****フランスデモ22週目、再び増加 マクロン大統領、新政策発表へ***

フランスでマクロン政権に抗議する黄色いベスト運動のデモが13日、22週連続で行われた。地元メディアによると、内務省は全国の参加者が約31千人だったとの集計を明らかにした。前週6日は昨年11月に始まったデモで最少の約22300人だったが、再び増加した。

 

黄色いベスト運動のデモは2月中旬以降、5万人を超す規模にはならなくなっているが、増減を繰り返しながら根強い参加が継続。

 

政権が市民の意見を聴くため全国で行った「国民大討論」が今月終わり、マクロン大統領は新たな政策を近く発表する見通し。

 

パリの参加者は約5千人で、前週の約3500人から増加した。【414日 共同】

***************

 

そうした中にあって、パリのノートルダム大聖堂の火災という悲劇は、悲しみによってではありますが、フランス国民の心をひとつに結束させた・・・ようにも見えました。

 

****大聖堂火災に広がる悲しみ 「分断された国民、一つに」***************

(中略)パリ郊外に住むピエールエルベ・ゴージョンさん(41)は火災を見て、無力感を抱いたという。だが「過去にもひどいことがあった時には多くの人が大聖堂に集まった。フランスは今、社会的にも政治的にも国民が分断されているが、この出来事をきっかけに一つになれる」と語った。(後略)【417日 朝日】

*****************

 

マクロン大統領も「私は、この大惨事を結束の機会とする必要があると、強く信じている」と呼び掛けています。

 

しかし、この結束も“つかのま”だったようで、大聖堂修復への寄付金という思わぬところから批判の声が上がっています。

 

****寄付と再建方法で論争 ノートルダム火災、仏社会結束ならず*****

「私は、この大惨事を結束の機会とする必要があると、強く信じている」──。エマニュエル・マクロン仏大統領は、パリのノートルダム大聖堂で今週起きた大火災を受けたテレビ演説でこう表明したものの、この連帯感は2日と持たなかった。

 

フランスでは15日夜に起きた火災を受け、各政党が欧州議会選に向けた選挙活動を停止した一方、大聖堂再建に向け集まった寄付をめぐる論争が17日までに勃発した。

 

集まった寄付金85000万ユーロ(約1070億円)については、その一部が貧困層支援に使われるべきではないかとの声が上がっている。

 

フランク・リーステール文化相は18日、仏ラジオ・モンテカルロに対し、「この無意味な議論は、『他に必要とされているところがある時に、ノートルダムに使うには多すぎる資金だ』というもの。社会システムや健康、気候変動対策のための資金が必要なのは当然だ」と指摘した上で、「だが、この並外れた寛大な行為の成り行きを見守ろう」と呼び掛けた。

 

大聖堂の再建に対しては、フランソワ=アンリ・ピノー氏やベルナール・アルノー氏をはじめとするフランスの大富豪や大企業がそれぞれ1億ユーロ(約130億円)を超える寄付を表明。

 

しかし、「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」運動の抗議デモが5か月にわたり続くフランスでは、富の不平等と低所得者層の窮状に注目が集まっており、巨額の寄付は批判を呼んだ。

 

寄付により大規模な税額控除を受けられることも反発の一因となっており、これを受けてピノー氏は、税額控除の権利を放棄すると表明。一方のアルノー氏は、18日の株主総会で寄付をめぐる論争について問われた際、「フランスでは(公益となる)何かをする時でさえ批判され、非常に悩ましい」と語った。

 

また、保守派の政治家らは18日、大聖堂に近代的な建築物が加わる可能性に懸念を示した。政府はこれに先立ち、新しい屋根と尖塔(せんとう)のデザインを公募する計画を発表。マクロン氏は再建を5年で完了する目標を定め、「近代建築の要素も想像できる」と述べていた。

 

極右政党「国民連合」のジョルダン・バルデラ氏は仏ニュース専門局LCIに、「この狂気の沙汰を止めよう。私たちはフランスの文化財を絶対的に尊重する必要がある」と述べ、「現代アートとやら」が加えられるかもしれないとの考えを一蹴した。 【419日 AFP】

*******************

 

再建方法に関しては、「なるほど、極右はやっぱり現代アートは嫌いなんだ・・・」という面白い点はありますが、個人的に関心がもたれたのは“寄付金”の問題。

 

****ノートルダム高額寄付に怒り=反政府デモ激化も―フランス****

大火災に見舞われたフランスのパリ中心部にある観光名所、ノートルダム大聖堂の再建のため、大富豪らから多額の寄付金の申し出が相次いでいることに対し、マクロン大統領の政策に反対し昨年11月からデモを続けている抗議運動参加者らは「不公平だ」と不満を募らせている。

 

抗議運動の中心となっている女性は17日、「社会的な惨状には何もしないのに、わずか一晩で膨大な金を拠出できることを見せつけた」と高額な寄付を批判。インターネット交流サイト(SNS)上では「人間より石が優先されるのか」などと反発する投稿が相次いだ。

 

有力紙フィガロは、20日に予定されているデモについて「怒りを募らせたデモ隊が結集する可能性がある」と指摘。再び破壊行動が起きる恐れがあると報じた。【419日 時事】 

********************

 

【タリバン「彼らにとっては石の像の方が人間より大切なのだ」】

この“寄付金”に対する「人間より石が優先されるのか」という反応で思い出されたのが、かつてアフガニスタンを支配したタリバンが、国際世論の強い反対にもかかわらず、世界的な文化遺産である「バーミアン大仏」を破壊したときのタリバン側の主張です。

 

「今、世界は、我々が大仏を壊す言ったとたんに大騒ぎを始めている。だが、わが国が旱魃で苦しんでいたとき、彼らは何をしたか。我々を助けたか。彼らにとっては石の像の方が人間より大切なのだ。そんな国際社会の言うことなど、聞いてはならない」【高木徹氏著「大仏破壊」】

 

高木徹氏によれば、この「彼らは何をしたか。我々を助けたか。」というタリバン側主張は間違っている、国際社会は決して何も支援・援助を行っていなかった訳ではないとのことです。

 

そうであるにしても、高木氏も「この言い分に、わずかではあるが、説得力の断片を認めるのは私だけだろうか。」とも。

 

私はタリバンのような宗教的原理主義は嫌いです。タリバンが行ってきた数々の人権弾圧・女性抑圧を強く批判します。

 

また、「バーミアン大仏」は、個人的に一度は見てみたかった文化遺産で、時を超えてシルクロードを往来する人々を見守り続けた大仏が破壊されたことは非常に残念であり、憤りを感じます。

 

しかし、そうであるにしても、確かにタリバン側の「彼らにとっては石の像の方が人間より大切なのだ」という主張に、“説得力の断片を認める”こともまた事実です。

 

もっと卑近な事例で言えば、例えば子猫が木に登り降りられなくなってしまい、付近の人々が大騒ぎし、消防隊がかけつけて“救助”した・・・といった類の話をよく見聞きします。

 

私も猫好きで、猫を実際飼っていますので、木から降りられなくなった子猫には心が騒ぎます。

 

ただ、一方で、私たちの周りには支援・援助を必要としている人々が大勢います。

私たちは普段、そうした人々を存在を“無視”して生活しています。

 

「子猫一匹に大騒ぎするのに、私たちの苦境は見て見ぬふりか!」と言われれば、あながち否定もできません。

 

もちろん、多くの反論はあります。

支援・援助を必要とする人々を対象とした社会的支援システムがちゃんと存在する、基本的に「自己責任」の問題ではないか、世の中には支援を求めているひとは数限りなく存在し、手を差し出していたらきりがない・・・・等々。

 

そうであるにしても、鳴き叫ぶ子猫に対するほどの関心をそうした人々に向けていないのも事実でしょう。

 

社会から無視されてきた(と感じている)人々の「人間より石が優先されるのか」「彼らにとっては石の像の方が人間より大切なのだ」という主張にどのように対応すべきか、今も昔も、正直よくわかりません。

 

人間の“関心”というのものは、そういったものだ・・・と言ってしまえばそれまでですが。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パキスタン  治安は改善したものの、なおも続くテロ活動も 中国支援で電力事情は改善

2019-04-18 23:01:25 | アフガン・パキスタン

(パキスタンでは、多くのイスラム教徒が人文字で襲撃事件のあったNZのモスクを作り、犠牲者への祈りをささげました。【414日 NHK】 “ISLAM IS PEACE”の文字も)

 

【南西部バロチスタン州では、活発な分離運動】

パキスタンについては、3月末から4月初めにかけてフンザ地方を旅行した際に、このブログにおいても現地で見聞きしたことや食べたものなどを取り上げました。

 

そのときも触れたように、かつてはパキスタンと言えば「テロ地獄」という言葉が連想されるような状況にもありましたが、最近は政府・軍部とも国内イスラム過激派を一掃する取り組みが進み、治安は大幅に改善されたようです。

 

もっとも、軍部中枢の情報機関と隣国アフガニスタンのタリバンやカシミール地方で対インド・テロ活動を行うイスラム過激派組織の関係がどうなっているかは、また別問題のようにも思えますが。

 

今回のインド・パキスタン関係の緊張の発火点となったインド治安部隊に対するジャム・カシミール州における自爆テロを行った「ジャイシュ・エ・ムハンマド(JeM)」や同様の対インドテロを行う「ラシュカレ・タイバ(LeT)」などはパキスタン軍中枢と緊密な関係にあると国際的には見られています。

 

そうした、軍コントロール下のテロ組織以外の、特に反政府活動を行うような過激派組織は一掃されたということでしょう。

 

以前はペシャーワル周辺の北西辺境州と呼ばれていた地域は、現在は「カイバル・パクトゥンクワ州」と名前が変わっています。

 

かつてはアフガニスタン国境地域はとトライバルエリア(連邦直轄部族地域 FATA)として政府コントロールが及ばない地域でもありましたが、2018年の憲法改正でFATAは廃止され、「カイバル・パクトゥンクワ州」に編入されたそうです。

 

そうしたことも、この一帯に跋扈していたイスラム過激派が軍によって一掃されたことの反映でしょう。

(その結果、かつては非常に危険なエリアとされていたペシャーワル周辺も、今は観光が可能になったとか)

 

しかしながら、国内テロがなくなった訳ではなく、特に南西部のバロチスタン州では、分離運動が活発で、しばしばテロが報じられています

 

****武装集団がバス襲撃、14人死亡=パキスタン****

パキスタン南西部バルチスタン州で18日、武装集団が幹線道路を走行中のバスを襲撃し、警察当局者によると14人が死亡した。死者の大半は治安要員という。

 

同州では分離独立を目指す過激派や、イスラム武装集団によるテロがたびたび起きている。

 

地元紙ドーンが警察の話として報じたところによれば、襲撃したのは15〜20人の迷彩服を着た集団。バスを停車させ、身分証明書を確認した上で14人を射殺した。同州では2015年にも武装集団がバスを襲撃し、約20人が死亡した。【418日 時事】 

********************

 

**************

タリバンやバロチスタン分離王義者などの反政府テロリスト(パキスタンのテロリストは政府側と反政府側に大別できる)は、新疆のウイグル人に対する弾圧を敵視する立場で、中国のインフラ建設などをテロの標的としてきた。

 

バロチスタン州には、中パ経済回廊の重要拠点グワダル港があり、資源が豊富な州だが、かつてバロチスタン藩王国をパキスタンが軍事併合した歴史があり、「パキスタンの新疆」といえる土地柄だ。【「選択」4月号】

**************

 

このあたりの関係で、「新疆」での「東トルキスタン独立運動」を警戒し、またバロチスタンでの「一帯一路」事業を進めたい中国とパキスタン、そしてパキスタン軍のエージェント的存在のJeTなど「軍公認テロ組織」の共通利害関係がうまれています。

 

一方、反政府的なテロ組織にとっては、中国は攻撃対象ともなり、昨年11月には南部カラチの中国総領事館が襲撃を受ける事件も。

 

いすれにしても、バロチスタンでのテロは依然として活発です。

12日には州都クエッタで、イスラム教シーア派の少数民族ハザラ人を狙った自爆テロもあったばかりです。

 

****パキスタンの市場で自爆攻撃、20人死亡 異端視される少数民族が標的か****

パキスタン南西部バルチスタン州の州都クエッタにある混雑した果物市場で12日、イスラム教シーア派の少数民族ハザラ人を狙ったとみられる大規模な自爆攻撃があり、少なくとも20人が死亡、48人が負傷した。当局が発表した。

 

イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動」の一派が犯行声明を出し、同国でシーア派に対する残虐な攻撃を多数仕掛けている武装集団「ラシュカレ・ジャングビ」と共同で行ったと発表。ただ現時点では、LeJからの確認は取れていない。

 

アフガニスタンとイランと国境を接するバルチスタン州は、パキスタン最大にして最貧の州であり、民族や宗派間の衝突、分離主義者による暴動が横行している。

 

イスラム教スンニ派の武装集団はハザラ人を異端者とみなしており、ハザラ人の顔立ちが中央アジア系で目立つことから攻撃対象となっている。

 

頻繁に攻撃を受けるため、クエッタ市内に2か所ある保護地区での生活を余儀なくされており、普段日用品を買いだめするために市場に行く際には警察の護衛がつくという。 【412日 AFP】AFPBB News

****************

 

【平和的な方法で犠牲者への連帯を示す】

もっとも、そうしたテロに加担しているのは一部の人間で、一般のパキスタン・イスラム教徒は平和を求めており、ニュージーランドでイスラム教徒が襲われた事件についても、平和的手段でのアピールを行っています。

 

****人文字のモスクでNZ銃撃事件の犠牲者追悼 パキスタン****

ニュージーランドでイスラム教の礼拝所が襲撃され50人が死亡した銃の乱射事件から15日で1か月となるのを前に、パキスタンでは、多くのイスラム教徒が人文字で事件のあったモスクを作り、犠牲者への祈りをささげました。

 

 

先月15日、ニュージーランド南部のクライストチャーチで、イスラム教の礼拝所、モスクが銃を持った男に襲撃され50人が死亡しました。

事件から1か月となるのを前に、9人の犠牲者の出身地であるパキスタンでは、地元のNGOの呼びかけで、数千人のイスラム教徒が白い民族衣装をまとって芝生の上に並び、襲撃された「ヌールモスク」を人文字で作りました。

また、「イスラムは平和である」という英語の文章も作られ、参加した人たちは何度も唱和しながら平和への祈りをささげ、犠牲者を追悼しました。

この事件で殺人などの容疑で訴追されたオーストラリア人の男は、イスラム教徒が白人の文化や伝統に対する脅威になっているという考えを持っていたとみられています。

主催したNGOのアフマド・アリさんは「平和的な方法で犠牲者への連帯を示すことでイスラム教は平和の宗教だという強いメッセージを世界に送りたい」と話しています。【414日 NHK】

***********************

 

【「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」は「一帯一路」の生命線 一方で、微妙な国民感情も?】

パキスタンと中国の関係は、パキスタン・グワダル港に至るラインが「一帯一路」の“生命線”ともなっており、「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」の各種事業が進められています。

 

中国にとってパキスタンとの協力関係は非常に重要で、下記のような両国関係を悪化させるような報道(パキスタンのARYテレビ)には強く反発しています。

 

****「中国人が結婚餌にパキスタン女性の臓器売買」報道、中国側強く反論****

パキスタンで、同国女性に中国人男性を相手とする結婚を仲介する中国人の非合法グループが存在し、同グループはパキスタン女性に売春や臓器売買の強要もしているとの報道があった。

 

中国の駐パキスタン大使館は413日(現地時間)付で、結婚を仲介する非合法グループの存在を認めた上で、臓器売買は事実無根と強く反論した。

大使館はまず、「中国もパキスタンも法治国家であり、人身売買には断固として反対している。臓器売買はなおさらのこと、存在しない」と主張。

 

一方で、中国とパキスタンをまたぐ結婚を仲介する非合法組織が活動していることは認め「当事者から多額の費用を徴収し、違法に利益を得ている」と論じた上で、中国とパキスタンの若者は、「いずれも被害者」と主張した。(中略)

環球網は報道中の「臓器売買が存在」の主張について「西側の反中勢力の捏造(ねつぞう)によるデマ」と断じた。

中国とパキスタンは早い時期から極めて親密な関係を構築してきた。共にインドとは領土問題などで対立しており、インドへの対抗上とされている。(後略)【415日 Record China

********************

 

一方で、こうした報道が流れる背景には、(政府間の関係とは別物の)パキスタン国内の中国に対する“微妙な”感情があるのかも。

 

【中国支援で改善する電力事情】

中国の「一帯一路」については日本などでは多くの批判があるところです。

ただ、ほんの数日間の旅行でも、中国の支援によってパキスタンの道路事情や電力事情が急速に改善しつつあるということは感じられました。それもまた、一面の事実でしょう。

 

中国支援による電力事情改善は、以下のようなパキスタンのイメージには結びつかないような社会現象も生んでいるようです。

 

****格ゲー業界騒然! パキスタン人が異様に強い理由 「地元には、まだまだいる」発言の真相、現地で確かめた****

今年2月、強豪ひしめく格闘ゲームの世界大会で、無名のパキスタンの若者が「番狂わせ」の優勝を果たした。さらに業界を騒然とさせたのは優勝後に放った一言。「パキスタンには強い選手が、まだまだいる」。

 

まるで漫画のような展開。真偽を確かめるため訪れた現地で待っていたのは「ラホールの強心臓」「コンボの魔術師」「青Tシャツの神童」などの猛者たちだった……。

 

ネットゲームの時代、わざわざゲーセンに通う理由。宗教指導者に「がん見」されながら腕を磨くそこはまさに「虎の穴」。パキスタンでいったい何が起きているのか。真相を探った。(中略)

 

ゲーム熱は電気とともに押し寄せた

しかし、なぜこれほど、ゲーム熱が高まっているのか。ビラルさんやアワイスさんらは、主に3つの理由を指摘した。

1
つは、若者の多さだ。パキスタンの人口は、世界6位の2777万人。このうち約6割を、25歳以下の若者が占めている。圧倒的なゲーム人口と、層の厚さ。各地方の有名選手たちが100人近く集まる全国大会は、年10回近く開かれるまでに市場が育ってきた。

また、電力事情の改善も追い風になっている。中国によるインフラ投資で発電所が整備され、ここ数年、停電が少なくなってきた。中流階級では希少だった電気が当たり前のものとなりつつあり、ゲームを楽しむ環境が家庭に浸透してきたことが、大きく影響している。(後略)【417日 with news

********************

 

電力事情の改善は、私が旅行した北部フンザ方面にはまだ及んでおらず、現在進行形でダム建設などが進められています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

韓国  ベトナム戦争参戦の残した傷跡 歴史に向き合うこと難しさ

2019-04-17 23:01:39 | 東アジア

(サッカー・ベトナム代表監督の朴恒緒。20179月に就任後、ベトナム国内で英雄となっている【124日 YAHOO!ニュース】)

 

【ベトナム戦争参戦の“落とし子” ライダイハン】

朴正煕政権下の韓国がアメリカに追随してベトナム戦争に参戦し、住民に対する多くの虐殺・暴行や女性への性的暴力に及んだことは周知のところで、その象徴的な存在が、下記の「ライダイハン」と呼ばれる韓国人兵士と現地ベトナム人女性の間に生まれた子供たち(今では50歳前後になっていますが)です。

 

今回、この種の問題を取り上げたのは、当時および現在の韓国の対応を非難するためではなく、人権などに対する意識が希薄な時代の戦争・支配といった環境下における自国の歴史に向き合うことの難しさをくみ取るためです。

 

韓国政府や現在の韓国内ネットのこの種の問題に対する反応に「身勝手さ」を感じるとすれば、韓国・中国との間に同種の歴史を有する自分たち日本の反応についても、同種のものが潜んでいないのか・・・ということの参考にするためです。

 

****ライダイハン****

ライダイハンとは、大韓民国(以下、韓国)がベトナム戦争に派兵した韓国人兵士と現地ベトナム人女性の間に生まれた子供、あるいはパリ協定による韓国軍の撤退と、その後のベトナム共和国(南ベトナム)政府の崩壊により取り残された子供のことである。

 

郷新聞によれば、ベトナム戦争が終わって残された子供は少なくとも3000人以上、23万人との推算もある。ベトナム人女性が韓国兵や会社員などと結婚し生まれた子どももいるとされるが、韓国兵による強姦によって生まれた子どもも多数存在し、国際問題となっている。(中略)

 

ライダイハンの正確な数は、諸説ありはっきりしない。1500人(朝日新聞199552日)、2千人(野村進)、500万人(産経新)、最小5千人・最大3万人(釜山日)、7千人、1万人以上(名越二荒之助など)などの説がある。

 

出産者数だけでもこの人数であり、実際の強姦の被害者数はこの数倍だと考えられる。

 

彼らの中には父親の記憶を持たず、朝鮮語を話せず、写真だけが唯一残された思い出という者がいる。韓国との混血児は名乗りでないとの主張もある。正確な調査が行われないまま、援助団体が支援を主張したため、数が膨れ上がったとの批判もある。

 

ライダイハンの原因

原因については韓国軍兵士による強姦、兵士や民間人が「『妻』と子供を捨てて無責任にも韓国に帰国したこと」とする現地婚、「ベトナム人には美人が多いので、女は皆、慰安婦にさせられた。」とする慰安婦(非管理売春)などと複数のことが言われている。

 

ただし、南ベトナム解放民族戦線が放送によって、韓国軍による拷問や虐殺事件、あるいは婦女子への暴行事件を連日報じていたことは事実であり、各地の韓国軍による虐殺、暴行事件の生存者の証言に共通する点としても婦女に対する強姦が挙げられている。

 

戦闘終了後の治安維持期に入って、ようやく韓国軍は表向きに兵士の行動を律したが、その後も猛虎師団青龍旅団白馬師団などの兵士が、村の娘を強姦して軍法会議にかけられる事件が頻発している。

 

他方、韓国軍の兵士がベトナム人の母と子を置き捨てて帰国したため、軍司令部が再志願させてベトナムに戻し、結婚式を挙げさせた旨が伝えられている。

 

背景

当時、韓国の朴正煕政権は反共を国是とし、分断国家としての共感を訴えて派兵を推進した。安聖基は「参加する方では『男に生まれたからには、一度は戦場に赴かねば』という気風がありました」とも指摘している。

 

南ベトナムに派兵された韓国軍は、2個師団プラス1個旅団の延べ3.1万名。最盛期には5万名を数えた。また、「ベトナム特需」を当てこんだ産業資本や出稼ぎの民間人も進出し、これも最盛期には2万人近くがベトナムに赴いた。(中略)

 

兵士や出稼ぎの民間人による本国への送金は、年に12千万ドルを数え、1969年の韓国の外貨収入の2割に達した。65年から72年までのベトナム特需の総額は102200万ドルにのぼる。これはアメリカによる軍事・経済援助、日韓基本条約による莫大な援助と合わせて、漢江の奇跡の基礎となった。

 

韓国政府の対応

韓国の民間団体や韓国のキリスト教団体とベトナム政府の支援により、支援施設(職業訓練学校)が設立され、無償での職業訓練と朝鮮語の教育が行われた。(中略)

 

ライダイハン自身が、韓国人である父親に対して実子であることの認知訴訟を起こし、判決により韓国国籍を取得する動きもある。盧武鉉政権は2006年に、写真など客観的に立証できる手段があれば韓国の国籍を付与する法案を検討するとした。

 

なお、韓国政府は2009年にベトナム戦争の解釈をめぐってベトナム政府と衝突するという事件があった。

 

2009年に韓国の国家報勲処が国家報勲制度の改定作業を行い、国会に法案改正の趣旨説明文書を提出した。この文書でベトナム戦争参戦者を「世界平和の維持に貢献したベトナム戦争参戦勇士」と表現したことにベトナムが、「我々は被害者。ベトナム戦争の目的が、なぜ世界平和の維持なのか」と猛反発し、予定された李明博大統領のベトナム訪問も拒否する方針を伝えた。

 

韓国側は、柳明桓外交通商相をベトナムに派遣し、外相会談で「世界平和の維持に貢献」の文言を削除することを約束し、李のベトナム訪問を予定通り実現させた。

 

一連の外交交渉で、ベトナム政府は「侵略者は未来志向といった言葉を使いたがり、過去を忘れようとする」と批判した。

 

韓国兵の行為にはメディアも人権活動家も目を向けなかった。その根底には、韓国人の、ベトナム人に対する人種差別意識が原因との見方もある。

 

韓国マスメディアの反応

後の韓国大統領である全斗煥は白馬師団第29連隊長として、と同様にベトナム派兵で活躍した指揮官だった。最大の圧力団体である軍部の存在もあって、韓国ではベトナム戦争を批判的に取り上げることをタブー視する雰囲気が存在した。

 

しかし後年、徐々に国民の意識が変わり、SBSでライダイハンをテーマとしたドキュメンタリー『大韓の涙』が放送された。

 

リベラル紙を発行するハンギョレ社は、19995月に自社の週刊誌『ハンギョレ21』にて掲載した記事を皮切りに、ベトナムでの韓国の戦争犯罪やライダイハン問題をたびたび取り上げ、韓国の世論に衝撃を与えた。

 

これに対し、韓国の海兵隊の退役軍人にて組織される「枯葉剤戦友会」などの団体は、2000627日に2400名という大集団を率いてハンギョレ社を襲撃した。彼らは同社内のあらゆる事務機器を破壊し、同社幹部を監禁し、同社の従業員十数名を負傷させた。(後略)【ウィキペディア】

*****************

 

1975年にベトナム戦争終結後、南ベトナム政府の崩壊により、共産党政権下でライダイハンは「敵国の子」として迫害され、差別されてきたとされています。

 

「ライダイハン」の問題を追及する英民間団体「ライダイハンのための正義」は韓国政府に公式な謝罪を求めています。【110日 zakzakより】

 

【「十分反省した」「ベトナム経済を発展させたのは韓国企業ということを忘れないで」】

「ライダイハン」の問題に代表されるように、韓国とベトナムの間には国民感情のわだかまりがありますが、最近では韓国人・朴恒緒氏がベトナムサッカーチームの監督に就任して、チームが活躍したことで、多少の改善も見られているとも。それでも・・・

 

****ベトナムに深く残る「韓国軍のベトナム戦争参戦」の傷、韓国ネットはどう考える?****

2019214日、韓国メディア・韓国日報は、いわゆる「朴恒緒(パク・ハンソ)マジック」によりベトナム国民の韓国に対する認識は大きく改善したものの、ベトナム戦争など不幸な歴史に根差す感情のわだかまりはいまだ残っていると伝えた。

韓国の朴恒緒監督は昨年、東南アジア選手権(スズキ杯)でベトナム代表を10年ぶりの優勝に導いた。AFCアジアカップ2019UAEでもベスト8に入る活躍を見せ、ベトナムでは「朴恒緒ブーム」が起きていた。

これを受け韓国日報とコリアタイムスは、ベトナムの韓国に対する意識の変化を分析するため、ベトナム国民1000人を対象に調査を行った。

 

その結果、ベトナム国民の985%が朴監督を知っており、738%が「朴監督のおかげで韓国の印象が良くなった」と回答したという。

 

韓国日報は「201712月の第1次調査で『韓国文化に共感する』と回答したのが61%だったことを考慮すると、朴恒緒マジックは韓国に対する認識の改善に大きな効果をもたらした」と説明している。

 

また、「韓国人とは友達になれない」と考える割合も184%から136%に減少。韓国人との国際結婚に反対する割合も213%から72%に減少したという。

ベトナム国立大学ハノイ校のジャーナリズムコミュニケーション学科教授は「ベトナム人の韓国に対する認識は朴監督の登場前と後で変化した」とし、「音楽やドラマ、映画、グルメ中心のベトナムの韓流がスポーツにまで広がった」と分析したという。

一方で、韓国軍のベトナム戦争参戦による不幸な歴史と韓国・ベトナム間の非対称的な経済関係に基づく否定的な認識には「変化が見られなかった」という。

 

中でも、「韓国軍のベトナム戦参戦の事実が韓国に対する否定的な認識に影響を与えているか」との質問に対して「はい」と答えた割合は50代以上(150人)で32%を占め、第1次調査(206%)より大幅に増加したという。

 

これについてユ・テヒョン元駐ベトナム大使は「朴監督の一時的かつ大衆的な人気では、彼らの脳裏に深く刻まれた傷を癒すのは難しい」と指摘したという。

これに、韓国のネットユーザーからは「当然では?韓国が日本を好きになれないのと一緒」「韓国も被害者だから理解できる」「朴監督とベトナム戦争は全く別物。朴監督の活躍で過去を消そうだなんて、多くを望み過ぎ」など、理解を示す声が数多く寄せられている。

また「解決法は心からの謝罪のみだ」「韓国が許しを請うべき」「文大統領が現地に行って謝罪しないと」「韓国が公式に謝罪しなければならない。日本のようにならず、韓国によって被害を受けた人たちに補償し、慰霊碑も建てよう。わだかまりが消える日まで謝罪し続けるんだ。そうしなければ、世界の前で日本の態度を批判できない」など、ベトナムに対する韓国政府の謝罪や補償を求める声も多い。

一方、これに対し「韓国は歴史を歪曲(わいきょく)していない。十分反省した」「ベトナムは過去を忘れたがっているのに、文大統領が無理に蒸し返そうとして反感を買っているといううわさもあるよ」「ベトナム経済を発展させたのは韓国企業ということを忘れないで」「韓国は参戦させられたんだ。むしろ被害者。謝罪する必要はない」と反論する声も見られた。【25日 Record china

*******************

 

ベトナム側からの韓国政府への訴えも続いています。

 

****「日本の前に韓国が謝罪を」ベトナム戦争被害者らが韓国に初の請願書****

201944日、韓国・聯合ニュースによると、ベトナム戦争当時に韓国軍から被害を受けたと主張するベトナム人らが、文在寅(ムン・ジェイン)大統領に真相究明を求める請願書を出した。

記事によると、民主社会のための弁護士会(民弁)と韓ベ平和財団は同日午後、ベトナム・フォンニィ村虐殺の生存者とハミ村虐殺の生存者とともに、韓国大統領府の噴水前で記者会見を開いた。請願書は民間人虐殺の真相調査と公式謝罪、被害復旧措置などを要求している。

会見に出席したイム・ジェソン弁護士は「これまで韓国軍の民間人虐殺に対する真相究明や被害復旧などいかなる手続きも行われていない。情報公開請求を通じて、国家情報院にベトナム戦争当時の民間人虐殺に加わった軍人らを調査した文書の公開を数回要求して勝訴までしたが、依然として(文書を)隠している。国家情報院は必ずこの文書を公開すべきだ」と話したという。

生存者らは「韓国政府は日本政府に謝罪を要求している。韓国とわれわれが経験した苦しみは同じ。日本に謝罪を要求するなら、まずわれわれに謝罪するべき」などと主張したという。

民弁と韓ベ平和財団は先月115日、ベトナム戦争当時に韓国軍が駐留した中部地方を回り、請願への署名を集めた。16の村から103人のベトナム人が参加したという。

なお、ベトナム戦争の民間人虐殺被害者とその遺族が、韓国政府に対し公式に真相調査などを要求する書面を提出したのは今回が初めて。

これを受け、韓国のネット上では「これはわれわれの過ち。他国の内戦になぜ韓国が参戦したのだろう。恥ずべき歴史」「痛ましい過去。解決して前を向いていこう」と過去史を受け止める声が上がっている。

一方で「ベトナム政府が真相調査をもみ消したって聞いたが?だから韓国に要求したわけであって。それに韓国は何度も(ベトナムに)謝罪している」

「ベトナム政府は謝罪を求めてないのに、どうやって韓国が個人に謝罪したらいいの?」

「それなら米国は?米国は相当なものだと思うけど、なんで韓国?」

「日本に謝罪を要求したいのなら、まずはわれわれがベトナムに謝罪しなければならないって?韓国はかつて軍がベトナムの虐殺を認めて謝罪して反省もした。でも日本は韓国人を虐殺したり侵略したことを否定し、謝罪や反省もない」など反論コメントが多く寄せられている。【45日 Record china

******************

 

*****「ベトナム戦争まだ終わってない」地雷被害者の訴えに、韓国ネット「なぜ」****

2019410日、韓国・KBSは「特派員レポート」として、ベトナム戦争の地雷被害者たちの現在を伝えた。

ベトナム戦争は1975年に終結したが、その後もベトナムでは地雷と不発弾により少なくとも4万人が死亡、6万人が負傷したとされている。まだ把握されていない被害も多く、実際の規模はこれよりもはるかに大きいと見られているという。

KBS
の記者は、かつての激戦地だった中部クアンビン省を訪れ、地雷被害者の男性を取材。男性は、9歳の時に地雷事故に遭い破片が脊椎に刺さったが、貧しさから満足に治療を受けられず、「骨の成長とともに苦しみを味わった」と話している。(中略)

専門家によると、ベトナム戦争当時、米軍が投下した砲弾・地雷は合計1500万トンに及ぶと推定される。このうち80万トンほどが今も不発弾として地中に存在するという。ベトナム国防省は、このうち除去できたのは32%とみている。記事は「ベトナム国土の1882%が、今も地雷や不発弾に汚染されている」と指摘している。

記事によると、韓国政府は来年まで2000万ドル(約22億円)の予算を投じる計画で、国連開発計画(UNDP)、ベトナム国家地雷対策センター(VNMAC)とともに不発弾、地雷除去事業を進めている。

 

先月にはクアンビン省に、地雷探知機200個を追加支援した。キム・ドヒョン駐ベトナム韓国大使は「ベトナムと韓国はどちらも戦争を経験し、その後に発展を遂げてきたという共通点がある。この地域の発展のために、安全問題の解決が必要だ」とコメントしている。

記事は「19年続いたベトナム戦争は44年前に終わったが、住民たちはまだ地面に埋まった地雷におびえている。彼らは戦争の破片が安全に取り除かれることを願っている」と伝えている。

この記事に、韓国のネットユーザーからは「過去の過ちを謝罪し、ベトナムとの友好のために支援を」との声が寄せられ、多くの共感を得ている。

しかし、一方で「ベトナム戦争に対する謝罪と補償、そして復興支援は、反戦と平和を目指す広い意味でも必ず必要なこと。しかし、参戦した国は韓国以外にも多数あるのに、まるで韓国がベトナムを侵略でもしたかのような報じ方をしている」

「ベトナムの地雷は全部、韓国が設置したとでも?」

「韓国は参戦したが、米軍が主だった。なのに韓国に全てをかぶせるのか?」

というような反対意見や、

「韓国にも地雷被害者はたくさんいるのに、彼らには見向きもせず、何をしているのか」

「朝鮮戦争の虐殺と地雷被害者たちは米国、北朝鮮、中国、そして韓国に謝罪を求めろという報道はなぜ出ないのか?」などの声も多く見られた。【411日 Record china

***********************

 

繰り返しますが、今回、この種の問題を取り上げたのは、当時および現在の韓国の対応を非難するためではなく、人権などに対する意識が希薄な時代の戦争・支配といった環境下における自国の歴史に向き合うことの難しさをくみ取るためです。

 

もし、韓国側の対応・反応に違和感を感じるものがあるとすれば、同種のものが自分たちの中にもないのか・・・と、自らを省みるためです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

台湾  独立志向の頼氏が民進党総統選予備選挙に出馬の意向 「一つの中国」清算の可能性も

2019-04-16 23:17:00 | 東アジア

(総統選の民進党公認候補を決める党内予備選に立候補を届け出た頼清徳前行政院長(首相)は19日、李登輝元総統の台北市内の自宅を訪れ、総統選に向けて教えを請うた。【320日 フォーカス台湾】

李登輝元総統はもともとは国民党ですが、独立志向を強め、国民党を離れています。中国に対する歯に衣を着せぬ批判でも知られている独立派長老です。現在は96歳。)

 

【台湾をめぐる米中の綱引き】

今も昔も台湾をめぐる問題は国際的な大問題であり続けていますが、近年は米中対立、中国経済の減速に伴う習近平主席の台湾問題への傾斜などの流れの中で、これまで同様の曖昧な「一つの中国政策」が維持できるか危ぶむ声も出ています。

 

****迫りくる台湾をめぐる米中危機****

台湾をめぐる米中の対立は、本欄でも何度も指摘してきた通り、高まる一方である。

こうした事態に懸念を示す、最近の論説、社説の中から、米外交問題評議会のリチャード・ハースによる215日付け論説を中心にご紹介する。同論説の要旨は、以下の通り。

 

米中外交は、米国は「中国は一つであり台湾は中国の一部であるという中国の立場」を認識する(acknowledge)とする、3つのコミュニケ(1972年、1978年、1982年)を基礎としている。

 

1979年の台湾関係法には、米国の台湾へのコミットメントが明記されている。3つのコミュニケと台湾関係法が相まって、米国の「一つの中国政策」の基礎をなしている。

 

この構造は、勝利の方程式となってきた。中国は世界第二の経済大国にまで発展し、台湾も経済発展と民主化を遂げた。米国は、地域の安定、中台双方との緊密な経済関係により利益を得ている。

 

問題は、時間が尽きつつあるのではないかということだ。長年、米国の政策立案者は、台湾が独立その他、中国に受け入れられないことをしないか、懸念してきた。台湾の指導者は理解しているように見える。ただ、彼らは「一国二制度」による統一を拒否している。

 

しかし、今や、安定は米中双方により危機にさらされている。

 

中国経済の鈍化は習近平を脆弱な立場に置き得る。習が、国民の目を経済成長の鈍化から逸らすために外交政策、とりわけ台湾問題を使うことが懸念される。

習は今年1月、台湾併合を目指す考えを繰り返し、そのために武力行使を排除しないと述べた。

 

米国も、過去40年間機能し続けた外交的枠組みを守らないようになってきている。ジョン・ボルトン安全保障担当補佐官は、就任前、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に、「一つの中国政策を見直す時だ」とする論説を寄稿している。トランプも、米大統領(あるいは同当選者)として、1979年以来初めて台湾の総統と直接話をした。

 

最近、5人の共和党上院議員が、ナンシー・ペロシ下院議長に、蔡英文総統を米議会に招くよう求める書簡を送った。そんなことをすれば、米台間の非公式の関係と矛盾し、中国の強い反応を招く。

 

政府内外の多くの米国人が中国に強いメッセージを送ることを望み、そうすることで失われるものはほとんどない、と信じている。

 

この計算が正しいかどうか、全く明確ではない。中国の経済制裁、軍事力行使が行われるような危機が起これば、2300万の台湾人の自治、安全、経済的繁栄が危機に瀕する。中国にとり、台湾危機は米国および多くの近隣諸国との関係を破壊し、中国経済にダメージを与えるだろう。

 

危機により、米国は台湾への支援を求められ、それは新冷戦あるいは中国との紛争に繋がり得る。といって、台湾の自助努力に全て任せるという判断は、米国の信用を損ね、日本の核武装、日米同盟の再考に繋がりかねない。

 

関係者全てにとり、リスクが高くなっている。相手にとって受け入れられないような象徴的な一歩を避けるのが最善だ。現状維持には欠点があるが、一方的な行動、きちんとした解決策の伴わない状況打破の企てよりは、はるかにマシである。

 

(論評)

上記論説でハースが言っていることは、3つのコミュニケと台湾関係法に基づく「一つの中国政策」が40年間機能してきたのだから、今後ともそれに従って各当事者が自制すべきである、ということである。(中略)

 

自制は重要だが、米国の「一つの中国政策」の枠組みが今後も有効であるのかは、検討を要する。中国が台湾を併合する意思は一貫しているが、今や、中国は軍事大国であり、台湾併合のために武力行使を排除しない、と明言している。

 

米中双方が危機を作り出しているというが、やはり中国の責任が重いのではないか。米国が強い態度をとり中国を抑止することの方が「現状維持」に資すると思われる。米国の最近の対中強硬姿勢は止むを得ないと言うべきであろう。(中略)

 

米国の対応で、むしろ最も心配すべき点は、トランプ大統領が、台湾問題が米中の間でカードとなり得ると解釈され得るような発言をしてしまうことであろう。トランプは、そういう不用意な発言をする傾向があるので、注意を要する。【312日 WEDGE

*********************

 

経済失速から目をそらすために、ことさらに台湾併合をアピールする習近平主席、安易に台湾を「取引」のカードに使うことが懸念されるトランプ大統領・・・・二人の政治指導者のもとで台湾問題の危険性が増しているという状況です。

 

アメリカの台湾支援は、常に中国を刺激する側面があり、上記記事にもある蔡英文総統の米議会招へいも、もし実現すれば中国の激しい反発は避けられないでしょう。

 

また、台湾へのアメリカの軍事支援についても、中国は常々問題視しています。

 

****米国、台湾に軍事訓練提供 中国軍をけん制****

米トランプ政権は15日、台湾軍のパイロットの訓練プログラムなど総額約5億ドル(約560億円)分を台湾に売却することを決め、議会に通知した。台湾海峡で活動を活発化させる中国軍をけん制する狙いがあるとみられる。

 

訓練はF16戦闘機のパイロットが対象で、米西部アリゾナ州の基地で行う。F16関連の装備や修理なども含まれている。

 

米国務省高官は米CNNに対し「台湾が十分な防衛力を維持するためのものだ」と述べた。台湾国防部は16日、「台湾の防衛力強化につながり、米国の決定に感謝する」との声明を出した。

 

中国軍は台湾への軍事的圧力を強めており、3月末には中国軍の戦闘機2機が台湾海峡の中台の中間線を越えて台湾側に侵入。15日も多数の爆撃機などが台湾を周回飛行した。

 

トランプ政権は台湾支援の姿勢を強めており、これまでに計2000億円規模の武器売却を決定している。台湾はF16戦闘機の新型機売却を米側に求めているが、まだ実現していない。【416日 毎日】

********************

 

アメリカとしても、中国を刺激しすぎるF16戦闘機の新型機売却までは認めないが、台湾への軍事訓練提供は認める形で中国の最近の台湾周辺での活動活発化をけん制する・・・・という、微妙なバランスを意識した対応です。

 

【中国軍事演習に台湾「ひるまない」、中国「見くびってはならない」】

中国の台湾周辺での軍事演習というけん制に対しては、台湾・蔡英文総が「台湾はひるむことはない」と反発、一方、台湾の反発に対して中国が更に「(中国の意思と能力を)見くびってはならない」と批判・・・と、いつものことながら緊張したやり取りが続いています。

 

****台湾、中国の軍事演習にひるむことない=蔡総統****

台湾の蔡英文総統は16日、中国が今週行った軍事演習について、台湾がひるむことはないと述べた。台北で開催された米台関係に関するフォーラムで記者団に述べた。

中国人民解放軍は、軍艦、爆撃機、偵察機が15日に台湾周辺で「必要な演習」を行ったと発表した。ただ定例の演習だったと説明した。

蔡総統は「われわれの領域に対して一切妥協しない。常に民主主義と自由を堅持する」と述べた。また、米国による台湾への武器売却は台湾空軍の能力強化につながると付け加えた。

台湾の国防部(国防省)は、中国軍の行動を監視するため、15日に軍用機と軍艦を緊急出動させたと発表。中国政府が「台湾海峡の現状を変えようとしている」と非難した。

ポール・ライアン前米下院議長が率いる代表団は、米国と台湾の関係を定めた台湾関係法の成立から40年を迎えるのに合わせて台北を訪問した。フォーラムは台湾の外交部が共催した。

ライアン氏は、米国は台湾に対するいかなる軍事的脅威も懸念事項と考えているとし、非生産的だとして中国に中止を求めた。【416日 ロイター】

********************

 

****中国が台湾に警告 「主権守る決意見くびるな」****

中国人民解放軍の軍機などによる台湾周辺の「巡航」を台湾の蔡英文政権が批判したことに対し、中国国務院(政府)台湾事務弁公室は16日に発表した報道官談話で「国家主権と領土を守るわれわれの堅い決意と強靱(きょうじん)な能力を見くびってはならない」と警告した。談話は、蔡政権が「民衆をだまし、機に乗じて両岸(中台)の対立をあおっている」と非難した。

 

中国国防省は15日、東部戦区の艦艇や爆撃機、偵察機などの海空戦力が台湾東方の海域で合同訓練を実施したと発表。「敵」に対して爆撃機や駆逐艦などによる打撃を加える訓練だったとした。

 

一方で訓練について「主権国家の正当で合法的な権利であり、台湾海峡の安定と平和に資する」と主張した。【416日 産経】

*******************

 

【今後の台湾情勢を左右する民進党内の争い 独立志向の頼氏、総統選出馬の意向】

こうした微妙な台湾をめぐる緊張を大きく左右するのが、来年1月に行われる台湾の次期総統選挙です。

 

昨年11月に行われた統一地方選では、中国に距離を置く与党・民進党が惨敗、中国との協調姿勢を見せる野党・国民党が躍進し、次期総統選挙では国民党による政権奪還の可能性も言及される状況となっています。

 

そうなれば、現在の中台緊張は、中国側のペースで一気に緩和することが予想されます。(そのことは、台湾が中国に飲み込まれる危険性と裏腹ですが)

 

そうした政治状況に、台湾独立派は危機感を強めています。

 

****台湾独立派が中部で反中国集会 総統選に危機感****

台湾の独立を主張する複数のグループが13日、台湾中部の台中市の駅前で中国による統一に反対する集会を開き「中国に抵抗し台湾を守ろう」と訴えた。

 

来年1月の総統選で対中融和路線の野党、国民党が勝利すれば、統一への流れが加速するとの危機感が背景にある。

 

主催者側は「昨年11月の統一地方選後、中国の勢力が台湾に入り込んでいる」「来年の総統選で台湾の主権を守らなければならない」と、中国にのみ込まれることへの警戒を訴えた。

 

統一地方選では台湾独立志向の与党、民主進歩党(民進党)が大敗。台中市でも市長が民進党から国民党に交代した。【413日 共同】

*****************

 

なお、316日に行われた補欠選挙では、与党・民進党は低迷に一定に歯止めをかけた結果ともなっています。

 

****台湾・与党、党勢低迷に歯止め 立法委員補選***

台湾で(3月)16日、立法委員(国会議員に相当)4議席の補欠選挙が行われた。与党、民主進歩党は改選前の2議席を維持し、昨年11月の統一地方選で惨敗した党勢の低迷に歯止めをかけた。

 

台湾では来年1月の総統選まで選挙がなく、二大政党が前哨戦と位置付けた。

 

民進党は地盤の南部・台南市の選挙区で、総統選への出馬の呼び声がある頼清徳(らい・せいとく)前行政院長(首相)の側近が出馬。党員の女性が予備選を不服として離党して出馬し基盤票の流出が指摘されたが、元台南市長の頼氏が支援し当選を果たした。頼氏自身も総統選への出馬の可能性をつないだ形だ。

 

一方、野党、中国国民党は改選前2議席から1議席減らした。国民党はメディアが注目する高雄市の韓国瑜(かん・こくゆ)市長が応援に入ったが、民進党から議席を奪うことはできなかった。韓氏人気の限界を指摘する声が出そうだ。【316日 産経】

*******************

 

民進党・蔡英文総統にとって問題なのは、野党・国民党よりは、身内の民進党内における頼清徳(らい・せいとく)前行政院長(首相)の総統選出馬でしょう。

 

過度の中国刺激をさけて台湾独立などには曖昧な姿勢を続けるのに対し、頼清徳氏はストレートな独立志向を隠さず、国民的人気は蔡英文総統を上回っています。

 

その頼清徳氏が総統選に出馬するとなると、予備選挙が実施され、現在の支持率では蔡英文総統は予備選の段階で敗北するということにもなります。

 

****総統選、前行政院長が名乗り 蔡総統と与党指名争い 台湾**** 

台湾で来年1月にも行われる総統選で、与党民進党の前行政院長(首相に相当)、頼清徳(ライチントー)氏(59)が18日、党内の予備選への立候補を届け出た。

 

現職の蔡英文(ツァイインウェン)総統(62)に比べ、頼氏は台湾独立志向が強い。一般党員や有権者の人気は蔡氏を上回るとされ、候補者選びは混迷しそうだ。

 

頼氏は18日、党本部で立候補を届け出た後、報道陣に「台湾を第二の香港、第二のチベットにしてはならない」と、中国の圧力への危機感を訴え、「台湾を守る責任を負う」と、総統選への意欲を語った。

 

頼氏は元医師で、立法委員(国会議員)や南部の台南市長を経て、2017年9月に蔡政権の行政院長に就任。「ポスト蔡氏」の有力候補とみなされてきた。昨年11月の統一地方選で民進党が大敗した責任を取り、今年1月に行政院長を辞任。動向が注目されていた。

 

蔡氏は支持率で野党国民党の候補者にリードを許している。頼氏の立候補の背景には、独立派を中心に党内で残る「蔡氏では中国とも野党とも戦えない」との懸念や不満がある。 

 

民進党は討論会や世論調査などを経て、4月中旬に総統選候補者を決定する。【319日 朝日】

*****************

 

民進党執行部は蔡氏に一本化する方向で調整を進めてきましたが、頼氏は一歩も引かない構えです。

蔡氏は予備選に敗れれば1期目の任期満了(来年5月)での退任を余儀なくされるため、危機感を強めています。

 

****台湾・与党、予備選混迷 蔡氏VS頼氏 深まる対立****

台湾の与党、民主進歩党で、2020年1月の総統選の候補者を選ぶ党内予備選が混迷を深めている。

 

再選を目指す蔡英文総統(62)と頼(らい)清徳(せいとく)前行政院長(首相に相当)=(59)=の対立が深まり、党の分裂を避けたい党執行部は予備選を今月下旬から5月22日以降に先送りした。話し合いによる候補者の一本化を目指すが、頼氏は反発しており先行きは見通せない。(中略)

 

中台関係の「現状維持」を掲げる蔡氏と異なり、頼氏は「台湾独立」を公言し党の伝統的な支持者の受けが良い。清新な印象もあって世論調査の支持率は蔡氏を上回る。

 

ただ、現在の党執行部は頼氏が3月18日に出馬を突如、表明して以降、蔡氏への配慮と映る行動を繰り返している。蔡氏が同21〜28日に外遊した際には頼氏に選挙運動の自粛を要請。両氏に近い総統府の陳菊秘書長ら5人の調整役を任命し事実上、頼氏の出馬撤回を模索してきた。

 

今月8日に両氏の直接会談が平行線に終わると、蔡氏は翌9日に総統府で臨時の記者会見を開き、「大切なのは誰が予備選に勝つかではなく、どうやって本選に勝つかだ」と主張。08年と12年の総統選は予備選の“後遺症”で敗れたとして、予備選実施に否定的な見方を示した。

 

予備選は世論調査だけで行うため、現状で突入すれば蔡氏が敗れる可能性が高い。蔡氏はその一方で「私は現職。再選を目指すのは総統としての責務だ」と自身は譲らない姿勢を強調している。

 

台湾各紙によると、10日の党会合では、蔡氏の支持派が予備選延期を強硬に主張した。調整役の5人は今後も頼氏の説得を続けるとみられるが、頼氏が応じる気配はない。

 

12日には延期に反発した蔡(さい)明憲(めいけん)元国防部長(国防相)が離党を表明。蔡、頼両氏もお互いに批判を続けており、確執が深まっている。【415日 産経】

*******************

 

中道的なスタンスが国民支持を失い、与野党ともに、より急進的なスタンスの方が国民に好まれる、結果的に世論が両極に分断されるという現象は、アメリカをはじめとして各国で見られる現象ですが、台湾でも同様のようです。

 

もし、このまま頼氏が引かずに予備選に突入し、蔡氏が敗れるということになれば、来年1月の総統選は、中国との協調を重視する国民党候補と、独立志向を鮮明にする頼氏の争いということにもなります。

 

仮定の上に仮定を重ねた話ですが、そうした総統選で頼氏が勝利すれば、独立志向を鮮明にする台湾・頼氏に対し中国の軍事オプションの可能性も一気に高まる(日本も対応を迫られる)ということにもなります。

 

まずは、民進党内の調整がどうなるかが注目されます。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国  1000万人都市若者を農村に送る計画 文革再評価の流れの一環か?

2019-04-15 22:28:41 | 中国

1968年の「下放」青年の様子 習近平氏が今の中国若者にこういう場面を期待しても無理でしょう。ただ、その「無理さ」が余計に習近平氏の心中にあるものを急き立てるのかも 画像は【2016 5 16 日 WSJ】)

 

【夏休みのボランティア活動?】

中国国内政治関連で最近気になったニュースは、下記の文革当時の「下放」の再来をも思わせる施策に関するものです。

 

****1千万人の若者よ、農村へ 中国共産党の派遣計画が物議****

中国共産党の青年組織、共産主義青年団共青団)が、2022年までに1千万人以上の若者を農村に派遣する計画を発表し、議論を呼んでいる。習近平(シーチンピン)指導部が進める農村の脱貧困や都市部との格差是正に役立てる狙いだが、毛沢東時代の苦難を思い出す人が多いようだ。

 

「学校で愛国心教育強化を」 中国・習近平氏が号令

共青団が3月下旬に全国に通知した文書によると、農村の現代化を目指す習指導部の政策を実践するため、リーダーとなる青年を育てることが目的だ。

 

具体的には、農民の思想やマナーの向上を目的とするプログラムに10万人以上貧困地区などに文化や科学、衛生などの知識を普及させる夏休みの学生プログラムに1千万人以上農村での起業プログラムに10万人農村の共青団幹部となる人材に1万人以上――などの目標を立てた。

 

だが、中国では1966年から76年の文化大革命で多くの若者が農村に送り込まれ、厳しい労働をさせられた歴史がある。

 

その一人だった習氏は当時の経験が政治を志す土台になったと公言しているが、ネット上では「文化大革命の再来だ」との批判や「都市で仕事が見つからない学生の就職対策では」などの声が出ている。

 

共青団側は「文革当時とは全く別物だ」「学生はボランティアであり、夏休みの活動は1カ月以内」と釈明に追われている。

 

党幹部が輩出した共青団は「民衆から遊離している」と習指導部に「貴族化」を批判された経緯があり、農村での活動計画はこうした批判に応える狙いもあるとみられる。【414日 朝日】

******************

 

****「下放」の再来か…中国、地方部に若者数百万人の派遣検討****

中国で、農村部に数百万人の若者たちを「ボランティア」として派遣する計画が進められている。だが50年前に毛沢東が苛烈な文化大革命期に取った措置の再来を懸念する声が上がっている。

 

中国共産党の文書によると、同党の青年組織でエリート養成機関の「中国共産主義青年団(共青団)」は、「スキルを高め、文明を広め、科学や技術を促進する」ために、2022年までに1000万人超の学生を「地方部」へ派遣することを公約したという。

 

11日付の国営紙「環球時報」が、共青団の文書を引用して伝えたところによると、派遣の目的は、そうしなければ大都市での生活に魅かれてしまう若者たちの才能を地方部に伝えるためだという。

 

同国中部・湖南省の町の副町長は環球時報に対し、「私たちは地方における伝統的な開発モデルを刷新する一助として、科学や技術に携わる若者が必要だ」と述べた。

 

学生たちは夏季休暇の間、地方部で暮らすことを要請されることになるが、共青団は、どうやって若者にボランティアへ参加させるかは明らかにしなかった。

 

共青団によると、最優先の派遣先は以前の革命時の拠点となった場所や、極度の貧困に悩まされている地域、また少数民族が暮らす地域だという。

 

その一方、中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」では、懸念を示すユーザーの反応がみられた。

 

多くの人々は、大学が10年にわたって閉鎖され、毛沢東によって「若い知識人」たち数百万人が地方部の低開発地域に派遣された1966年から76年まで続いた文化大革命の混乱を想起。「また始まるのか?」「もう40年前に実施された」との投稿もあった。 【414日 AFP】

***********************

 

夏休み時期の「ボランティア」・・・・どうでしょうか?

参加しないと、表だって、あるいは水面下でペナルティーが課されるようなものは「ボランティア」とは言いませんが・・・。

 

どう見ても、文革時の「下放」とイメージがだぶります。

 

計画した共青団は、胡錦涛前国家主席や李克強首相の出身母体で、習近平主席に対抗する勢力でしたが、最近ではすっかり習近平主席によって牙を抜かれてしまったとも言われています。

 

【朝日】記事の最後にあるような話であれば、習近平主席におもねるような感じにもとられます。

 

【文革の歴史を徐々にあいまいにしようとする動き】

文革時の「下放」が想起されるのは、否定されたはずの甚大な混乱・犠牲を出した「文化大革命」について、近年再評価ともとられるような動きがあるからです。

 

****中国の教科書「文化大革命」を削除へ ネット流出で騒動****

2018年)3月から中国の中学校で使われる歴史教科書から、中国が混乱に陥った政治運動「文化大革命」の項目が削除される見通しだ。文革を発動した毛沢東の過ちを認める表現が削られるとみられる。

 

中国では政治的な問題を巡る発言への締め付けが強まっているが、改訂の是非を巡り批判や疑問の声が上がっている。

 

中国は昨秋から順次、「歴史」「国語」「道徳と法治」の教科書の改訂を進めている。以前は複数の出版社の教科書が使われていたが、この3科目は「重要で特殊な教育機能がある」として教育省が統一して監修するようになった。新たな教科書では、愛国意識を養い、共産党が国を発展させた歴史を詳しく教えることに重点を置いている。

 

注目を集めているのは、中学2年生向けの「中国歴史」。現行版は「文化大革命の十年」という独立した項目を設け、全国の学校や工場が閉鎖され、知識人らが迫害されたなどと説明している。ところが10日、新版とみられる内容の一部がネット上に流出、文革の項目がなかったことから騒動になった。

 

出版社側はすぐにコメントを発表。文革については別の項目の中でしっかり採り上げ、マイナス面にも触れるとした。

 

しかし、流出した新版の内容では、現行の「毛沢が誤って認識」との表現や「動乱と災難」という見出しが消える一方、「世界の歴史は常に曲折を経て前進してきた」との説明が追加されている。

 

改訂には、習近平(シーチンピン)国家主席の意向が反映された可能性もある。習氏は2013年の毛沢東生誕120周年座談会で、文革の誤りを指摘しつつ「個人の責任だけでなく、国内外の社会的、歴史的な原因があった」と主張。「世界の歴史を見れば、どの国や民族もみな曲折に満ちている」と、毛への批判を和らげようとするような発言をした。

 

「今さら覆い隠してどうするのか」

文革を研究してきた北京大学の印紅標(インホンピアオ)教授が朝日新聞のインタビューに応じ、この問題について語った。

     

中国で、文革の歴史を徐々にあいまいにしようとする問題は、昨日や今日に始まったものではない。教科書の言葉はより穏やかなものとなり、マイナス面の内容は減ってきている。理由は三つあると思う。

 

まず文革は共産党の過ちであったということ。党のイメージの問題がある。党の統治の威信や合理性に影響するからだ。

 

二つ目は、団結のためだ。ある期間までは悪いことはすべて(毛沢東の周りにいた)林彪や江青がやったとして団結が保てたが、弊害が大きくなっている。

 

最後に、文革研究は共産党の制度上の問題につながっていくということ。中国国内で研究が制限される一方、海外では学術的なもの以外に、反共の人々も文革を研究している。こうした人々に文革の歴史が利用されるのを恐れているのだ。

 

しかし、私には理解できない。1980年代、共産党は文革の歴史について自ら過ちを正し、人民の支持を得た。それを今さら覆い隠してどうするのか。

 

将来、国内の人々は何も分からず、国外の人々だけが文革について語るようになれば、私たちは文革についての発言権を外国に渡してしまうことになる。愚かな政策だと思う。

 

どの民族も、過ちを犯すときがある。日本の侵略戦争やソ連のスターリン時代の問題などたくさんある。中国では文革がそうだ。

 

問題はいかにそれを正しく認識するかだ。真剣に過去に向き合い、過ちを繰り返さないようにするならば、現在の人々が恥じることはない。歴史を直視し、過ちをきちんと認めることができれば、私たちは必ず尊重されるはずだ。(後略)20180112日 朝日】

*****************

 

若い方は「文化大革命」と聞いてもピンとこないかもしれませんが、TVなどでリアルタイムな情報を見聞きする機会がった私などは、子供のころで何が起きているのかはわからないながらも、大勢の紅衛兵が「造反有理(上への造反には、道理がある)」のスローガン」を掲げて行進する様子、政治家や知識人などが三角帽子を被されて引き回される様子などに、なんだかすごいことが起きているという強烈な印象を持ちました。

 

****文化大革命****

1966年、共産党内の路線対立を背景に、毛沢東主席が階級闘争の継続などを訴え大衆を動員して始めた政治運動。「紅衛兵」と呼ばれた若者らが毛と対立する政治家や知識人などを攻撃し多くの犠牲者を生んだ。76年に終結するまで、国全体が混乱。共産党は81年の決議で「指導者が誤って引き起こし、党と国家、人民に深刻な災難をもたらした内乱」と総括した。【同上】

********************

 

“文化大革命中、各地で大量の殺戮や内乱が行われ、その犠牲者の合計数は数百万人から1000万人以上ともいわれている。”

 

“毛沢東の1927に記した

革命は、客を招いてごちそうすることでもなければ、文章を練ったり、絵を描いたり、刺繍をしたりすることでもない。そんなにお上品で、おっとりした、みやびやかな、そんなにおだやかで、おとなしく、うやうやしく、つつましく、ひかえ目のものではない。革命は暴動であり、一つの階級が他の階級を打ち倒す激烈な行動である。」

という言葉が『毛主席語録』に掲載され、スローガンとなって、多くの人々が暴力に走った。”【ウィキペディア】

 

この「文革」混乱期にとられた施策が、都市青年を農村に送り込む「下放」であり、“紅衛兵運動から下放収束までの間、中華人民共和国の高等教育は機能を停止し、この世代は教育上および倫理上大きな悪影響を受け、これらの青少年が国家を牽引していく年齢になった現在も、中華人民共和国に大きな悪影響を及ぼしていると言われる。”【ウィキペディア】とも。

 

1981年には文化大革命をリードした「四人組」に対する有罪判決が出され、また、中国共産党は文化革命が「中華人民共和国の創設以来、最も厳しい後退、党、国、そして国民が被った最も重い損失を負う責任がある」と宣言しました。

 

中国政治・共産党に関するイメージを二つあげるとすれば、個人的には、この「文化大革命」と「天安門事件」です。

 

【文革時代にストックホルム症候群的な思いを抱く(?)習近平氏】

その、数百万人から1000万人以上の犠牲者を出したとされる文革が再評価されるということが注目されるのは、そうした動きをリードする習近平氏自身が文革で下放され、父親は迫害を受けるという経験をもつ、まさに文革の時代を基盤とする人物であるからです。

 

かねてより、習近平氏は文革に対するノスタルジーともとれるような、肯定的発言もしています。

 

****教科書改訂で毛沢東の文革再評価、習政権の狙い****

「誤った認識」は「必要な苦労」へと改変

 

(中略)

習近平が文革について、非常に深い思い入れを持っていることはかねてから指摘されていた。

 

習近平が愛用するスローガンやキメ台詞には「党政軍民学、東西南北中、党が一切を指導する」といった文革時代に使われたものが多く、習近平が下放された先の陝西省北部の梁家河の経験を美化するようなラジオドラマを作らせたりもしている。

 

また、毛沢東時代の前半30年、後半30年ともに過ちはなかったという発言もしており、毛沢東を完璧な英雄だと見ているようでもある。

 

文革で苦労した習近平一家

多くの知識人にとっては、悪夢であり、中国が最も野蛮であった暗黒期という認識の文革時代だが、いわゆる本当の意味での知識人ではなかった習近平にとっては、思春期に毛沢東思想にどっぷりつかったときの精神的刷り込みの方が強烈であった。

 

あるいは自分が毛沢東のようになるつもりであり、そのために毛沢東のやったことは全部正しかった、と言いたいのかもしれない。

 

習近平は本気で、文革時代は貧しくとも皆が清廉であった理想の時代、とか思っているかもしれない。

 

いずれにしろ、習近平が理解している唯一の権力とは、毛沢東そのものであり、習近平が知る権力掌握、権力維持の唯一の方法は階級闘争であった、といえる。

 

文革時代、習近平の父親の習仲勲は迫害に遭い、習近平自身も下放先で苦労しているはずだ。なのに、なぜここまで文革と毛沢東に対して強い思い入れをもちうるか、については、米国のニューヨーク市立大学政治学教授の夏明がラジオ・フリー・アジアの取材に次のように分析している。

 

「習近平とその取り巻きたちは、彼らのなじんでいるロジックで中国の歴史と未来を見ている。つまり彼らの思想形成期は中国史上最も暗黒で貧しく野蛮な人類の悲劇の中で形成された。

 

習近平ら50年代生まれのイデオロギーと思想、世界観は一種のストックホルム症候群(人質が犯人に過度の好意や共感を持つこと。無意識の生存戦略)的なもので、迫害時代のいけにえのようなものではないか。

 

あの時代にのみ理解可能な生命の意義、あの時代の枠組みでのみ解釈できる生存の価値というものがあり、それに一種の懐かしさを覚えるのだ。

 

習近平のいかなる行動、思想もあの時代の結果として培われたもので、あの時代を超えるものにはならない。……我々にとってより大きな悲劇は、そういうあの時代が生んだ指導者が、50年前の思想をもって、未来を見ていることだ。すでに歴史が過ちであったことを証明している毛沢東のやり方を維持して、未来の新時代の人々の上に用いようとしていることだ」(後略)【2018926日 福島 香織氏 日経ビジネス】

*********************

 

中国最高指導者が混乱・暴力の暗黒時代にストックホルム症候群的な思いを抱いているとすれば、それは13億中国人民だけでなく、中国との密接な関係が不可避である日本や世界にとっても不幸なことです。

 

【進まぬ「天安門事件」再評価】

本来、再評価すべきは「文化大革命」ではなく、「天安門事件」という民主化運動のはずですが、天安門事件の再評価の兆しは未だ見られません。

 

****中国、民主化要求警戒=天安門事件30年控え―胡耀邦氏命日****

中国で学生らによる民主化運動を武力弾圧した天安門事件のきっかけとなった胡耀邦元共産党総書記の死去から15日で30年を迎えた。

 

習近平指導部は、開明派として知られる胡氏を追悼する動きが民主化を要求する運動や政権批判に発展することを警戒しているもようで、緊張したムードが漂っている。

 

香港の人権団体・中国人権民主化運動情報センターによると、胡氏の親族が15日、江西省共青城にある胡氏の墓地を参拝した。当局が慎重な行動を要求したため、一部の親族は15日を避け、事前に参拝。宿泊するホテル周辺では数十人の公安当局者が親族の活動を監視しているという。

 

海外の報道機関は12日に近親者による追悼集会が北京で行われたと報じたが、官製メディアは伝えていない。【415日 時事】

***************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

米軍撤退後のシリア  勢力圏確保を目論むイラン トルコ・シリア政府の圧力に直面するクルド

2019-04-14 22:37:09 | 中東情勢

(IS敗北が宣言された式典で写真を撮るSDF兵士【416日号 Newsweek日本語版】)

 

【不透明さも漂う米軍撤退計画】

トランプ大統領はISを打倒したとして2000人超の規模で展開する米軍のシリア撤退を公表していますが、ISの存在が未だ非常に危険なことは多くの者が指摘するところです。

 

****IS打倒」宣言が正しくない理由****

323日、米国が支援するSDF(シリア民主軍)は、ISの最後の拠点を陥落させた。SDFの司令官は、同日、「ISを打倒した」と宣言した。

 

確かに、領土を持った「カリフ国」としてのISは終わった。しかし、ISは真に打倒されたと言えるのか。この点について、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのFawaz Gergesは、323日付けでニューヨーク・タイムズ紙に掲載された論説で、ISは打倒されていない、イラク、シリアで潜伏、再起の時を待っている、と分析する。論説の要点を紹介すると、次の通りである。

 

ISは打撃を受け、イデオロギー・作戦上は弱体化されたが、打倒されたとは言えない。そのネットワークは未だ機能している。

 

アラブ・イスラム世界の政治の破綻、政治制度の脆弱性と正当性の欠如、地政学上の競争と外国の干渉というISが生まれた原因が続けば、IS等は再起する。

 

ISを生み出す第一の要素は、統治の崩壊とシリア、イラク、リビア、イエメン、エジプトのシナイ半島、西アフリカ、アフガニスタンにある無政府状態の空間である。不十分な中央や地方の政府、あるいは政府の欠如は過激派の格好の温床になる。

 

・第二の要素は、スンニーのサウジアラビアとシーアのイランの激烈な冷戦である。両国の対立は地政学的なものであるが、イラク、シリア、レバノン、イエメンなどでは地方での宗派対立にもなっている。ISはスンニーの保護勢力としてこの対立を利用してきた。

 

・第三の要素は、ISの戦闘員の分布とそれがもたらす脅威である。ISが主要な市街地域で支配権を失うようになるにつれ、戦闘員は住民とともに各地に避難、潜伏した。その潜伏要員がそこで攻撃をするようになった。今やIS10を超える国に基地や潜伏支部を擁する世界的なネットワーク機構だ。

 

ISは反乱の原点に戻った。今ISはイラクでゲリラ戦闘を行い、治安部隊や部族指導者などを殺害している。地域社会を恐怖化し、不安定要素を植え付け、イラク保安部隊の無能さを露呈するISの戦略は成果を生み出しつつある。

 

・アラブ・イスラム社会が直面する課題はジハーディズムのイデオロギーに代わる議論を発展させることだ。そのためには、仕事と希望をもたらす透明性のある、包含的な、代表性のある政府が必要である。

 

(論評)

(中略)妥当な分析をした、非常に良い記事である。

 

イラクの現状は、シーア派の中央政府がスンニー派地域への対応を怠っており、ISはそれに付け込んでいる。そして、最近のトランプ政権による米・イラン対立激化がイラクの中央政府の弱体化を助長し、それがISを勢いづかせている。

 

シリアでは、ISはトルコによるクルド抑圧と米軍の撤収により生じる真空に入り込もうとその時が来るのを待っていると思われる。

 

SDFISの最後の拠点を制圧したことは良い知らせである。しかし、それは対症療法が終わったに過ぎない。根本解決は終わっていない。

 

論説の言う通り、カウンター・テロ戦略だけでは十分でなく、長期的な経済、政治、イデオロギー戦略が必要であると思われる。戦闘が唯一の雇用になり、過激活動が生活手段になることを先ず断ち切らねばならない。過激派の高まりやアラブの春の根本原因は雇用にあったと言っても過言ではない。

 

トランプの中東政策は、サウジとイランなどの地政学上の競争やアラブ・イスラエル対立を煽るというものである。これがうまく行くとは思われない。

 

米国はそうした対立を煽るのではなく、モスレム社会の和解・再建を支援すべきなのであろう。

 

論説は「トランプはそのような賢明な戦略をとる願望もビジョンも持たないだろう。しかしISに対して真に勝利したいのであればトランプは自分の行動の長期的な結末を考えるべきだ」と手厳しい。しかし、トランプのゴラン高原に対するイスラエル主権支持決定を考えると、この批判は一層の重みを増す。(後略)【411日 WEDGE

********************

 

こうした情勢を受けて、米軍撤退のスケジュールは不透明です。

 

****シリア米軍、1000人残留を計画****

トランプ大統領の撤退命令から3カ月

 

米軍はシリアに1000人近い兵士を残留させる計画を準備している。政府当局者らが明らかにした。ドナルド・トランプ大統領は3カ月前にシリアからの全面撤退を命じたが、その方針は大きく後退し、残留する兵士の数はホワイトハウスの当初の予定を大きく上回ることになる。

 

トランプ氏は米軍撤退に際してシリア北東部に安全地帯を設ける方針だが、米国はトルコや欧州の同盟国、米国が支援するクルド人勢力との間で合意に達することができていない。

 

トルコ政府はシリア領内のクルド人戦闘員を越境攻撃する構えを見せているが、米政府はクルド人勢力と協力を続ける方針だと米当局者は述べた。米政府の案では、シリア北部から南部まで最大1000人の米兵が残留するという。(後略)【318日 WSJ】

**********************

 

米国防総省は上記報道を否定しています。

 

****米国防総省、シリア米兵1000人 残留に関する報道を否定****

米軍のジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長は、シリアからの米軍撤退について、米国防総省は米兵1000人をシリアに残留させる方針だと報道されたことに関して、事実と一致してないと述べた。米国防総省が発表した。

 

ダンフォード氏は、12月に発表されたシリアからの米軍撤退に関する計画は現在も有効であるとし、米軍撤退に関するトランプ米大統領の指示は引き続き遂行されていると強調した。

 

同氏はまた、米国とトルコはシリアとトルコの国境の安全保障の問題解決に向けた生産的な対話を続けていると伝えた。(後略)【318日 SPUTNIK

*********************

 

【防衛ラインを築くイラン】

米軍撤退が進めば、その空白を埋めるのはロシアであり、トルコであり、イランであり・・・ということになりますが、そのイランはシリア内における拠点確保にまい進しているとか。

 

****イランがシリアで狙うのは「帝国の再現」か ****

内戦で疲弊したシリア国民に対し、イランは現金や食料、公共サービスを提供している

 

シリア東部で過激派組織「イスラム国(IS)」がかつて拠点としていた地域では、イランが軍事力と経済力を駆使して永続的な足場を築こうとしている。

 

イランは8年に及ぶシリア内戦で、軍事介入によりバッシャール・アサド大統領を勝利目前まで導いた。その後、イランは友好ムードを醸成し、シーア派への改宗を促進することでシリア国内での長期的影響力を確保しようとしている。

 

イランは戦争で疲弊したシリア国民に現金や食料、イランのIDカード、公共サービス、無償の教育を提供している。

 

「目標はペルシャ帝国の再現だ」。ISが首都と称していたラッカの市議会議員ムネール・アル・カリフ氏は語る。

 

人心を掌握しようとするイランの動きは、同国の影響力を抑え、シリアからイラン勢力を排除しようとする米国、イスラエル、アラブ諸国の取り組みを阻害している。(中略)

 

イランの影響力拡大は、シリアで多数派のスンニ派住民をターゲットとしている。その地域は東部デリゾール県から西部のレバノン国境にまで至り、かつてのISの拠点も幾つか含まれている。

 

イラク国境に近い東部アブカマルなどの主要都市では、地元住民への働きかけが目立っている。近郊の村ジャラー出身の男性(24)の話では、現在は警察署もイラン革命防衛隊(IRGC)の管轄下にあり、イラン兵が困窮者らに食料や家庭用品を配っている。

 

この男性によると、イランはこうした慈善活動と並行し、イラン民兵組織への参加やシーア派への改宗を促している。民兵組織に参加すれば、見返りとして防衛隊のIDカードと月200ドル(約22000円)の支給が約束される。IDカードがあれば、検問所通過の際の面倒がなくなる。

 

「どの家庭でも、1人か2人はシーア派に改宗している」と男性は語る。「仕事を得るため、あるいは誰にも邪魔されずに歩くために、彼らはシーア派に改宗している」

 

シリア東部や中部の一部地域では、イランの民兵がモスク(礼拝所)を乗っ取り、シーア派の祈りの呼び掛けを流している。彼らは歴史的に重要な場所に宗教施設を設け、ペルシャ語の学校も開設している。

 

シリア北東部カーミシュリーの支援活動家は、イランで学ぶ機会を与えられた友人もいると話す。「何であれ必要なものを彼らは与えてくれる。シーア派になればだ」

 

シリア政府にコメントを要請したが、回答はなかった。

 

シーア派の分派であるアラウィー派に属すアサド氏にとって、こうしたイランの動きは宗派の勢力図書き換えというよりも、内戦の主要支援国に借りを返すという意味がある。(中略)

 

かつてのISと同じ 

シリア東部デリゾール県の住民は、若い世代を口説くというイランの戦略を、かつてISが使っていた洗脳の戦術になぞらえている。(中略)

 

男性の家族や友人の多くは、スンニ派からシーア派に改宗した。主に仕事の機会や安全を確保するためだ。

 

影響力を及ぼそうとするイランの戦略は宗教以外の分野にも及んでいる。

 

アサド政権は奪還した地域で公共サービスの提供に苦労しているが、それを埋めているのがイラン政府と同国の民兵、および慈善団体だ。シリア東部で米政府と連携している治安の専門家によれば、イランの慈善団体「フセイン・オーガニゼーション」はデリゾール県の都市や村落に発電機や給水ポンプを持ち込んでいるほか、食料や学校備品も提供している。

 

米シンクタンク「中東政策ワシントン研究所(WINEP)」の研究員ハニン・ガダール氏によれば、イランの主要活動地域は、同国が構築を目指すレバノンとの軍事物資供給ルートに的を絞ったものとなっている。(中略)

 

地元住民や米当局者らによると、イランはまた、親イラン派の外国人兵士に対し、内戦中にスンニ派住民が退去した地域に定住するよう働きかけている。(後略)【327日 WSJ】

*********************

 

イランの影響が強い地域で、仕事の機会や安全を確保するために、多くの者がスンニ派からシーア派に改宗しているというのは興味深い現象です。(改宗というのは、そんなに簡単にできるものなのでしょうか?)

 

イランのこうした影響力拡大を「目標はペルシャ帝国の再現だ」と積極的な拡大戦略と捉えるのは誤りでしょう。

 

西側諸国の圧力におびえたソ連が衛星国を配置して防衛体制を固めたように、アメリカやサウジ・イスラエルと対立するイランとしては周辺地域に自国影響の及ぶ地域を確保するという「防衛戦略」をとっているということでしょう。したがって、地域的には“(親イラン)レバノンとの軍事物資供給ルートに的を絞ったもの”になっています。

 

なお、上記記事最後に出てくる“親イラン派の外国人兵士”というのは、レバノンのヒズボラのことでしょう。(イランは、アフガニスタンからも動員しているとも言いますので、そういう者も含むのかも)

 

イランのこうした影響力拡大に対し、イスラエルは現在でも激しい攻撃を加えています。

 

****イスラエル軍のミサイル攻撃で3人負傷、シリア国営メディアが報道****

シリア中部ハマ県で13日未明、イスラエル軍による攻撃があり、戦闘部隊の隊員3人が負傷した。国営シリア・アラブ通信が報じた。

 

SANAが軍関係筋の話として伝えたところによると、イスラエル空軍が午前230分(日本時間同830分)頃、ダマスカス北方ハマ県にある軍の拠点を標的とする攻撃を実施。また「防空部隊がイスラエル軍のミサイルの一部を迎撃した」ものの、「戦闘部隊の隊員3人が負傷し、軍施設が破壊された」という。

 

イスラエルはこれまでに、シリアに対して数百回にわたって空爆を行ってきた。その大半についてイスラエルは、イランとイスラム教シーア派原理主義組織ヒズボラを標的したものと主張している。(後略)【413日 AFP】AFPBB News

******************

 

【置き去りにされるクルド人の苦境】

一方、米軍撤退の成り行きを不安を抱えて見守っているのが、アメリカに協力してIS打倒の先兵となったクルド人勢力。米軍が撤退すれば、トルコの攻撃にさらされます。

 

****戦い済んで取り残されたクルド人****

ISIS掃討作戦で活躍したクルド人勢力と住民がトランプの米軍撤退計画で将来を脅かされる

 

(シリア東部の小都市)ハジンには昔から少数民族のクルド人が暮らす。(中略)しかし、ようやく避難民キャンプから帰還した市民たちの間には不安が漂う。

 

ISISは壊滅したのではない。占領軍という形から領土なき武装勢力へと変身しただけだ。彼らは自爆攻撃を繰り返し、道路脇に爆弾を仕掛ける。わが物顔で至る所に検問所を設け、通り掛かりの住民に引き続き忠誠を誓わせたりもする。       。゛

 

そこへ、クルド人にとって最も心配な事態の進展が重なった。米軍のシリア撤退だ。昨年12月、ドナルド・トランプ米大統領は「ISISの敗北」を宣言し、米兵約2000人を撤収させる計画を表明した。 ・

 

過去4年にわたって、米軍は訓練や武器の供与を通じて、クルド人主体のシリア民主軍(SDF)に支援を続けてきた。この協力関係は軍事的な勝利を導いたばかりでなく、少数民族として歴史的に軽んじられてきたクルド人にいまだかつてない政治力をもたらした。

  

シリア内戦で獅子奮迅の戦いをしたSDFは国土の約4分の1(その多くはISISから奪還したもの)を手中に収めた。

 

農業や石油の貴重な資源も管理下にある。今までになく強い立場に立ったクルド人指導層は、アメリカとの同盟関係を支えに、独立は無理でも相当な自治を獲得できるだろうと期待していた。

 

ところが米軍が撤退するというので、そんな夢はしぼみかけている。気が付けば四面楚歌、一転して存続の危機が迫っている。

 

米軍撤退なら「絶望的」

隣国トルコは、クルド人およびSDF系民兵組織の人民防衛隊(YPG)をテロリストと見なす。クルド人勢力が国境に近いシリア北西部アフリンで拠点を確保しようとしたときには、トルコ軍が2ヵ月にわたって越境攻撃をかけてきた。

 

シリアのバシャル・アサド大統領も、クルド人支配地域への圧力を強めている。クルド人がISIS掃討作戦中に制圧した地区の多くを、米軍の存在という抑止力が消滅するのを待って奪い返そうとしている。

 

クルド人にとって、今や道は2つしかない。米軍が駐留を続けて地域を安定させる道と、撤退してケルド人が周辺諸国の集中砲火を浴びる状況を生み出す道だ。

 

「3つ目の道はない」と筆者の運転手オサマ(身の安全のため姓は伏せることを希望)は言った。「絶望的だ」

 

クルド人が大国の意向に振り回されるのは今に始まった話ではない。オスマン帝国時代には今日のイラク北部部(シリアのロジャバ地方のすぐ東)で石油資源が発見されるまで、クルド人の存在はほば無視されていた。

 

第一次大戦後にはイギリスによる軽率な線引きでクルド人は置き去りにされた。

 

最も厳しいのはトルコ国内の状況だ。自治権を求めるクルド労働者党(PKK)は一貫して武装闘争を展開しているが、アメリカもEUも同党をテロ組織と認定している。

 

だが「アラブの春」とシリア内戦を受けて敵味方の区別が曖昧になった。やがて誰もが敵視したのがISISだ。

 

イラクとシリアの不安定な状況に付け込んで、彼らは一時イギリスの面積ほどの地域を支配した。そこで戦いの先頭に立つだのがYPGだ。

 

アメリカは14年にYPGへの武器供与と空爆による支援を決めた。顧問的な立場で米兵も送り込んだ。しかし米兵の立場は明確さを欠いていた。

 

そもそも制服に所属部隊の記章を着けていないしい国連のお墨付きもない。米議会が進駐を認めたわけでもないが、なぜかシリア北部のクルド人地域には米軍基地ができた。

 

ただしアメリカにとって、駐留継続の負担は大きい。米兵の命が危険にさらされるだけではない。終わりの見えない紛争に大金を注ぎ込むことになる。  

 

アフガニスタンのように状況が悪化するリスクもある。(中略)それに、当該国政府の同意なしに米軍を駐留させるのは植民地支配に等しい。

 

トランプはこうした事情を聞いた上で、「出ていく」という言い方で撤収を表明した。(後略)【416日号 Newsweek日本語版】

***************

 

クルド人の置かれた苦境には同情しますし、自治権獲得に向けた道筋を期待もしますが、トルコとの対立が表面化した時点で予想された展開でもあります。クルド人指導層もこうした展開を念頭に置いていた・・・と思うのですが。

 

それにしても、ベトナムでもアメリカに協力した勢力・人々を残してアメリカは「名誉ある撤退」を行い、残された人々には苛酷な運命が襲い掛かりました。「大国」というのは、トランプ流「アメリカ第一」に限らず、そういうものです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アルジェリア・スーダンは「民主化」か「混乱」か 遅い南スーダンの和平 ローマ法王、異例の要請

2019-04-13 22:35:35 | スーダン

(11日、南スーダンのキール大統領(中央)の前にひざまずき、靴にキスをするフランシスコ法王【413日 朝日】)

 

【アルジェリア 7月に大統領選 既得権益層の存在、経済問題、IS浸透の危険も】

47日ブログ“北アフリカ(アルジェリア・スーダン)でうごめく抗議行動 「アラブの春」再燃? リビアも緊迫”で取り上げた、アルジェリアやスーダンの「新たなアラブの春」もしくは「遅れてきたアラブの春」は刻々と進展しています。

 

アルジェリアでは4期20年にわたる長期政権を続けてきたブーテフリカ大統領が、現実に執務できないほどの健康上の問題がありながらも、国民生活を改善できないまま政権に居座ろうとしましたが、国民の反発を受けて辞任に。

 

後任のベンサラ暫定大統領に対する国民不満も強く、状況は収まっていません。

こうした状況で、政権は74日に大統領選挙を実施すると発表しています。

 

****アルジェリア、7月に大統領選 首脳交代もデモ続く****

アルジェリア大統領府は10日、74日に大統領選挙を実施すると発表した。同国では長期にわたり政権を握ってきたアブデルアジズ・ブーテフリカ大統領が辞任した後も、現政権に対する抗議デモが続いている。

 

アブデルカデル・ベンサラ暫定大統領は大統領府の発表に先立ち、「透明な」選挙の実施を約束していた。

 

国民評議会の議長を務めていたベンサラ氏は前日の9日、憲法の規定に準じて任期90日間の暫定大統領に就任したが、デモ参加者らはブーテフリカ氏の側近だったベンサラ氏の就任に激しく反発。

 

7週間にわたり反政府デモが続いている首都アルジェでは、10日も警察が監視する中で数千人がデモを行い、「ベンサラは出ていけ」「自由なアルジェリアを」とのシュプレヒコールをあげた。

 

ベンサラ氏は憲法により次期大統領選への立候補が禁じられているが、デモ隊は同氏退陣を要求し続けており、学生や判事らは10日、アルジェを含む同国各地での集会や行進の継続を呼び掛けた。 【411日 AFP】

********************

 

後述のスーダンも同様ですが、こうした動きが「民主化」につながるのか、かつての「アラブの春」のように内戦や過激派台頭をもたらす「混乱」に終わるのか・・・これからが正念場です。

 

アルジェリアの今後について、下記記事で島田久仁彦氏は、実質的な改革を阻害する権力を取り巻く特権階層の存在、深刻な経済・財政状況、そしてシリア・イラクからのISの移動をあげています。

 

****国際交渉人が警戒。アルジェリアの政変が地域にもたらす変動の嵐****

アルジェリアのブテフィリカ大統領が辞任を表明しました。この知らせをアルジェリア人から受けたというメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』の著者の島田さんは、独裁体制は終わっても、アルジェリアの未来に明るい光が差したとはとても言えないと、理由を3つ上げて解説しています。

 

さらに、アルジェリアの動静は、トルコの中東での立場の変化も相まって、北アフリカ・中東地域に大きな変動を引き起こすかもしれないと警戒を呼びかけています。

 

中東・北アフリカ地域が直面する再編の波

(中略)2010年に隣国チュニジアで端を発した『アラブの春』では、アルジェリアでもブテフィリカ氏の独裁に対する混乱はありましたが、「国民の声を聴く」と社会保障の拡充や職の斡旋といった社会政策を通じて、何とか抑え込むことが出来ていました。

 

しかし、その際の社会政策はさらなる国家経済の破綻の引き金となり、長引く原油価格の低レベルでの安定は、アルジェリア経済を回復不可能なレベルまで悪化させ、失業率も45割に到達する事態になっていました。

 

その元凶をブテフィリカ氏とその周辺の特権層に見つけた国民は、首都アルジェはもちろん、アルジェリア各地で大規模なデモに訴え、ついにブテフィリカ氏の独裁体制に終止符を打つことになりました。

 

ここまでであれば、「ついにアルジェリアも近代化され、明るい未来が…」というストーリーに繋がるはずなのですが、どうもそう一筋縄では行かないようです。

 

それはなぜか?主に3つの理由が考えられます。

1つ目は、先にもお話したブテフィリカ氏の取り巻き、Pourvoirの存在です。国民の支持を失ったブテフィリカ氏を切り捨て、自分たちの特権を堅持するためにさまざまな策を尽くすと思われるからです。

 

(中略)つまり、20年にわたったブテフィリカ氏の独裁体制が“終焉”したとはいえ、実質的な変化は起こらないでしょう。

 

2つ目には、積み重ねられた財政赤字と悪化する一方の失業率の存在です。2018年のデーターでは、失業率は12%ほどですが、20代から30代の失業率については、50%から60%と算出されており、若年層での社会不満が顕著になってきています。

 

また、日本のように失業保険制度は存在しないため、大学教育や専門教育を受けても働き口がなく、収入のあてもないという状況です。(中略)

 

そしてアルジェリア経済を立ち行かなくさせてしまっている元凶は、一向に改善しない原油価格です。

 

国家財政に占める石油関連産業の割合が少なくとも6割という経済であるため、国としての収入も年々減少しているにもかかわらず、失業対策で始めた公共事業が立ち行かず、費用ばかりがかさむという悪循環に陥っているため、アルジェリア財務省筋によると、「本当にヤバイ」のだそうです。

 

この“やばい!”状況は、数年前からIMFや世界銀行でも問題視されているのですが、ブテフィリカ政権はその“やばさ”を否定してきたため、国際的な金融支援も滞っています。

 

ゆえに、ブテフィリカ後のアルジェリアにおいても、目立った改善の種は見当たらず、国家財政の破綻と、生活環境の著しい悪化がもたらすcivil unrestの懸念が高まってきています。

 

そして3つ目は、高まる国家安全保障上の危機です。

最近のニュースでは、ISISの危機は去ったとの情報もありますが、それはあくまでも“シリア”“イラク”に限った話であり(といっても真相は??ですが)、その他の国ではまだまだ勢力を保っているか、増殖しています。その一つがアルジェリアと言われています。

 

その理由は、カダフィー大佐が民衆に惨殺されて以降、リビアでは無政府状態が続いていますが、そこに北アフリカ地域に勢力を伸ばすISISの中心が移ってきています。そのリビアの隣国ともいえるのが、アルジェリアです。

 

これまでは、現在大統領代理を務めているベンサラー将軍率いる国軍の健闘もあり、アルジェリアにおいては大規模なISISによる攻撃は起こっていないとされていますが、2016年あたりから激化しているアルジェリア南部にある炭鉱町を舞台にした武力衝突の背後には、ISISの戦士たちがいるとされています。

 

イラクに展開していたISIS勢力がイラクから駆逐されたとされる今、その残存勢力がリビア周辺に集まっています。今年に入ってから、ブテフィリカ氏の求心力の著しい低下と、民衆の不満の爆発、立ち行かない経済といった諸事情もあり、“生存を求めてISISと与する”という流れがあるように聞いています。

 

また、治安部隊や警察に対して、給与支払いが滞っているようで、次々と人員の離反が進んでいるようで、国内の治安状態の悪化は著しく、もう国軍の力では抑えきれない状況になっているようです。

 

もし、アルジェリアが近々、倒れるようなことが起きると、モロッコやチュニジアという周辺国はもちろん、北アフリカ地域と中東をつなぐ大国エジプトも一気に倒れ、その悪影響はドミノ倒しのように中東全域に広がりかねません。もうすでにシリア、イラクは言うまでもなく、イエメンなどでも惨憺たる状況が広がっているわけですから。(後略)【410日 MAG2NEWS

**********************

 

【スーダン 軍によるバシル大統領拘束 軍事評議会議長は1日で交代】

一方、物価上昇に対する抗議デモが昨年末から続いていたスーダンでは、実質的な軍事クーデターで、バシル大統領は軍に拘束される事態となっています。

 

****スーダン大統領、辞任 軍がクーデターか****

アフリカ北東部スーダンで、軍事クーデターを経て30年にわたり政権を握ってきたバシル大統領(75)が11日、辞任に追い込まれた。軍当局が同日、発表した。物価上昇に対する抗議デモが昨年末から続いており、軍が事実上のクーデターを起こしたとみられる。

 

国防相は国営放送を通じ、「バシル氏を拘束した。今後、2年間にわたって暫定の軍事政権を発足させる」と述べた。政権幹部が逮捕されたとの情報もある。(中略)

 

スーダンは、油田の8割を占めた南部が2011年に南スーダンとして独立し、石油関連の輸出が約75%減少した。米国から「テロ支援国家」に指定された影響もあって経済難が続き、昨年末には物価上昇をきっかけに各地で抗議デモが発生した。

 

バシル氏は経済改革を約束しつつ、今年2月には、1年間の国家非常事態を宣言し、不満の抑え込みを図った。しかし、人々はバシル氏の辞任を求め、今月にはハルツームの軍本部前でも連日デモを続けていた。

 

バシル氏は1989年に軍事クーデターで政権を掌握。2003年に始まり、推定30万人の犠牲者が出たとされるダルフール紛争での集団殺害などの容疑で国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ている。(後略)【412日 朝日】

*******************

 

しかし、勢いづいた抗議の矛先は権力を掌握した軍部にも向けられています。

 

****スーダンのデモ隊、軍による政権移行を拒否 抗議継続を宣言****

スーダンで長期政権を維持してきたオマル・ハッサン・アハメド・バシル大統領が軍のクーデターで解任されたことに関し、同大統領の強権支配への抗議活動を続けてきたデモ隊は11日、軍の評議会による政権移行を拒絶し、デモの継続を宣言した。

 

アワド・イブンオウフ国防相は国営テレビで、「政権を打倒」し、バシル大統領は「安全な場所」で拘束されていると発表。30年におよぶバシル政権の支配に幕が閉じられた。

 

イブンオウフ氏は、今後2年間、大統領に代わり暫定軍事評議会が設置されると説明。また、新たな発表があるまでは国境および領空は閉鎖するとした。一方で、デモ隊に警告を発し、午後10時〜午前4時までの夜間外出禁止令を出した。(中略)

 

これに対し、昨年12月からバシル政権に対する抗議活動を続けてきたデモ隊は、軍のこうした動きを拒否し、政権が一掃されるまで抗議運動を継続すると宣言した。

 

陸軍本部前でデモ隊のシュプレヒコールを先導する様子がインターネット上に拡散し、抗議運動の象徴となったアラー・サラハさんは、「人々は暫定軍評議会を望んでいない」と述べた。

 

サラハさんはツイッターの投稿で「バシル政権全体が軍事クーデターでスーダン市民を欺いている限り変化は訪れない」と主張。「われわれは市民評議会主導の移行を望んでいる」と述べた。 【412日 AFP】AFPBB News

*****************

 

こうした国民の不満に押されたのか、あるいは軍内部の権力闘争か、軍事評議会議長がわずか1日で交代するという事態になっています。

 

****軍評議会トップ、1日で辞任=民衆反発で混乱も―スーダン****

スーダンでバシル前大統領がクーデターで解任された後に設置された軍事評議会のイブンオウフ議長は12日、国民向け演説で辞任を表明した。11日に議長に就いたばかりで、わずか1日での辞任。

 

バシル氏退陣を求めてきた市民の間には軍主導のクーデターへの反発が強い。軍政トップ人事をめぐる混乱で政情不安が続く恐れもある。

 

新しい議長にはブルハン・アブドルラハマン中将が就任した。民政移管を求める反政府勢力は「国民の意思の勝利だ」と歓迎。一方で、一連の抗議活動を今後も継続するよう呼び掛けた。【413日 時事】

******************

 

今後の動向は「流動的」としか言えません。

 

【和平の成果が遅い南スーダン ローマ法王、異例の和平実現要請】

個人的にスーダンの動向以上に関心があるのは、その南の「南スーダン」の状況。

日本の自衛隊が撤退して以来、日本メディアの関心は消えてしまい、一体現在どうなっているのかすら定かではありません。

 

****メディアの報道から消えたアフリカの国****

総人口(約1300万人)の半分以上に当たるおよそ700万人が緊急の人道支援を必要とし、約228万人が近隣の国々に難民として逃れ、これとは別に約187万人が国内避難民と化し、もはや国家崩壊の危機にある──と書けば、「一体、どこの国の話?」と思う読者もいるのではないだろうか。

 

これはアフリカの南スーダン共和国の現在の状況である。20175月まで陸上自衛隊が国連平和維持活動(PKO)に派遣されていた国だ。

 

これほど深刻な人道危機が起きているにもかかわらず、その危機が現在の日本で人々に知られているとは到底思えない。なぜか。一つ考えられるのは、陸自が撤収した途端に、新聞もテレビも南スーダンについて、全くと言っていいほど報道しなくなったことである。(中略)

 

■メディアがアフリカを取り上げる「例外」とは

(中略)

筆者は南スーダン内戦に関する報道だけでなく、日本の新聞とテレビが1990年代以降のアフリカや中東の紛争について、何をどれくらい報じてきたかを詳細に調べたことがある。

 

そこで分かったことは、70年以上昔の「過去」の戦争体験を語り継ぐことに今も膨大なエネルギーを投入し続けている日本のメディアが、大勢の人々が命を落としている世界各地の「現在進行形の戦争」については、「一部の例外」を除いて相対的に低い関心しか示さないという事実であった。とりわけテレビ報道に、その傾向が著しかった。

 

「一部の例外」とは、「自衛隊派遣」と「米国の関与」である。とりわけ、日本のメディアは、米国が部隊派遣や和平仲介などの形で関わっている紛争については熱心に報道するが、米国が足抜けした途端に報道が激減する。(中略)

 

紙の新聞には紙面の広さという物理的な制約があり、テレビのニュースには時間的な制約がある。世界各地で起きている森羅万象の出来事を全て報道することは不可能であり、メディアはニュースに優先順位を付けざるを得ない。それはインターネットによる情報流通が主流となった現在でも変わらない。

 

しかし、メディアによるニュースの優先順位の付け方がこのままでよいのか、という問題はあるだろう。

 

南スーダンの総人口の半分以上が人道危機に瀕している中、自衛隊派遣と日報問題に集中する報道の仕方はメディアの「内向き志向」を、米国の関与を重視する報道の仕方は「米国偏重」を象徴してはいないだろうか。【321日 GLOBE+

*****************

 

南スーダンの混乱・内戦は、民族問題を背景とするキール大統領とマシャール前第1副大統領の対立・抗争という形で展開してきました。

 

今現在は、両者は表立った抗争は停止しているようです。(よくわかりませんが)

ただ、これまでも何度も停戦合意は破棄された経緯もありますので、安心はできませんし、“配給に向かう女性を標的、10日間で125人がレイプ被害 南スーダン”【2018121日 AFP】といった記事にみられるように、国内情勢はとても“安心できる”状態にはないようです。

 

国際停戦監視団も、現状には不満を表明しています。

 

***南スーダンの和平進捗、成果は「期待をはるかに下回る」 停戦監視団****

南スーダンの和平合意の実行に向けた進捗状況について、国際停戦監視団「合同監視評価委員会」は12日、「期待をはるかに下回っている」との見解を示した。(中略)国軍の創設や各州の境界確定といった「未解決の重大課題」が残されていると指摘した。

 

反政府勢力を率いるリヤク・マシャール氏は、2013年にサルバ・キール大統領と不和になるまで副大統領を務めていた。同国ではスーダンから独立してわずか2年後に内戦が勃発する事態となった。

 

マシャール氏が属するヌエル人と、キール大統領が属するディンカ人の間の民族対立は、残忍な暴力やレイプに発展し、国連は「民族浄化」だと警告した。

 

内戦の終結を目指し、いくつかの停戦合意や和平協定が結ばれたが、いずれも失敗に終わった。南スーダン内戦では推定で約38万人が死亡、国民の約3分の1が住む場所を追われて250万人近くが難民化したほか、深刻な飢餓も発生した。 【413日 AFP】AFPBB News

********************

 

そうしたなかで注目されたのは、ローマ法王の対応。

 

****和平願うローマ法王、対立の両者の靴にキス 南スーダン****

ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王は11日、南スーダンのキール大統領と、反政府勢力を率いるマシャル元副大統領の両者とバチカンで面会した。

 

法王は、昨年9月の和平合意後も対立を続ける両者に和平の実現を呼びかけた後、両者に歩み寄ってひざまずき、靴にキスをした。

 

南スーダンの和平を望む強い思いの表れとみられるが、法王の前代未聞の行動が話題を呼んでいる。

 

南スーダンは2011年の独立後に内戦が続き、昨年9月に和平合意を結んだ。来月12日までにマシャル氏も参加した統一政権が発足することになっているが、両者は主導権争いを続けている。同国にはキリスト教徒が多く、法王は和平問題の解決に関わりたいとの強い意向を示していた。【413日 朝日】

********************

 

全世界が注目するのを見越してのパフォーマンス的側面もあるでしょうが、キール、マシャール両氏とも、一定に思う所はあるでしょう。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イスラエル 政権維持のネタニヤフ首相 入植地併合の意味するところは? トランプ和平提案の不安

2019-04-12 22:18:43 | 中東情勢

(“言動はまるで双子のように似通っている”ネタニヤフ首相とトランプ大統領 2018125日、スイス・ダボスで 画像は【2018128日 東洋経済online】)

 

【占領地を巡るイスラエルにおける国民的合意】

接戦となったイスラエル総選挙は、汚職問題を抱えるネタニヤフ首相が、ゴラン高原のイスラエル主権を認めるといったアメリカ・トランプ政権の援護射撃、ヨルダン川西岸の入植地の併合といった右派へのアピールなどが奏功する形で、全体としては政権を維持する結果となっています。

 

もし、接戦となったガンツ氏の勢力が勝利していたら、パレスチナ問題への取り組みが変わったのか?・・・という点で言えば、柔軟な方向への若干の姿勢の変化はあったかもしれませんが、現在の枠組みについてはあまり変化はなかったかも・・・とも推察されます。

 

“「青と白」もイランに対しては強硬姿勢で臨み、パレスチナとの間では「分離」政策を進める−といった与党側と大差のない政策を打ち出している。政権を取ったとしても、パレスチナ問題での大幅な進展は望めないとの見方が大勢だ。”【48日 産経】

 

“ガンツ氏は和平に前向きな姿勢を示す一方、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領した土地にパレスチナ独立国家を建設するパレスチナ側の構想を支持するかどうかについては態度を明確にしていない。”【48日 ロイター】

 

****イスラエル総選挙はネタニヤフ首相問う「国民投票」****

占領地を巡る国民的合意を構築したが、長期政権にうんざりする有権者も

 

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が5期目の政権を目指す今回の総選挙は、同氏が公職に就いてきた20年間の成果と一連の汚職疑惑をめぐり、指導者としての資質を問う国民投票の様相を呈している。ただ結果がどうなろうと、同氏の右傾化政策によって決定的な変容を遂げたイスラエルの状況は変わらないだろう。

 

投票日を9日に控え、最終盤の世論調査は情勢が流動的であることを示している。ネタニヤフ氏への主要な挑戦者であるベニー・ガンツ元軍参謀総長率いる政党連合が、有権者の現政権への嫌気と、汚職疑惑に狙いを定め、与党リクードを若干上回る議席を確保しそうだ。

 

しかしリクードの連立パートナーとなり得る複数の右派小政党が健闘しており、ネタニヤフ氏の首相続投を可能にするとみられている。そうなれば、首相在任期間は建国の父であるダビド・ベングリオン氏よりも長くなる。

 

通算13年にわたり首相を務めるネタニヤフ氏はイスラエルの政治地図と世界での役割を変化させ、かつては社会主義的だった同国の右傾化を後押しし、それによって利益も得てきた。

 

パレスチナ国家樹立を支持するユダヤ系イスラエル人の割合が過去20年間で最も低くなっている現在、同氏の対抗勢力は方向性を大きく変えることに関心を示していない。(中略)

 

「もうたくさんだ、ビビ(ネタニヤフ氏の愛称)」。先週放映が始まったガンツ氏のテレビ広告では、こんなスローガンが使われ、医療や交通渋滞などに関する一般市民の不満が取り上げられている。ネタニヤフ氏が無視してきたと野党が主張する問題ばかりだ。

 

「私はベンヤミン・ネタニヤフ氏が国のために多くのことを行ったと思う」。ガンツ氏は先週のイベントでこう述べて首相の軍経験をたたえ、同氏の兄が戦死していることに触れた。「だが、われわれが言っているように、もうたくさんだ」

 

ネタニヤフ氏は2009年、当時のバラク・オバマ米大統領から圧力を受け、入植活動の凍結に合意し、パレスチナ国家樹立への支持を表明した。しかし政治家になるかなり前には反対の主張をしており、2015年の選挙以降は国家樹立を許さないと言明してきた。

 

ガンツ氏はパレスチナ国家について話すことを避ける一方、安定と「パレスチナ人からの分離プロセス」についてアラブ諸国の指導者らと話し合いたいと述べ、国家樹立に希望を持たせようとしている。

 

イスラエルをユダヤ人国家だと正式に規定した法律が昨年成立して物議を醸したが、同氏はこれを修正したいと述べていた(ネタニヤフ氏は同法を支持)。人口の20%を占めるアラブ系イスラエル人は、同法は自分たちを二級市民にするものだと反発している。ガンツ氏の党の綱領は、平等を定めた基本法を成立させるとしている。(後略)【48日 WSJ】

******************

 

パレスチナへの厳しい対応はイスラエル国内の総意ともなっており、反ネタニヤフ勢力としても、この問題での大きな方向転換は掲げられない状況です。

 

ただ、元軍人のガンツ氏としては、多くの友人を戦争で亡くした経緯もあって、イスラエルが再び戦争に巻き込まれるような事態は避けたい・・・という視点から、若干の姿勢の差異があったというところでしょう。

 

【「平和でも戦争でもない」環境における“緩慢な併合”による領土拡張の既成事実化】

いずれにしても、ネタニヤフ首相を主軸とする右派の勝利で、ネタニヤフ首相の対パレスチナ強硬路線は今後も継続することになります。

 

****ヨルダン川西岸入植地、併合意向 ネタニヤフ首相、続投なら****

イスラエルのネタニヤフ首相は6日、9日にある総選挙を経て首相を続投することになった場合、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区にある入植地を、イスラエルに併合するという考えを語った。地元テレビのインタビューに答えた。

 

接戦の選挙戦で保守派の支持を固める狙いとみられるが、パレスチナの反発は必至で、「2国家共存」がさらに遠のくことになる。

 

イスラエルは1967年の第3次中東戦争で西岸地区を占領後、入植を進めてきた。占領地への入植は国際法違反だとされるが、すでに40万人以上のイスラエル人が西岸地区の入植地に住んでいる。

 

ネタニヤフ氏はインタビューで、首相に再選された場合の政策について「(西岸地区の入植地に)イスラエルの主権を適用する。(入植者は)誰一人として追い出さないし、パレスチナに主権は渡さない」と明言した。これまで、入植地の拡大を進める一方、西岸地区の併合は明言していなかった。

 

この発言について、パレスチナ解放機構(PLO)高官は「トランプ政権をはじめ、国際社会が免責を続ける限り、イスラエルは国際法に違反し続ける。我々は自らの権利を求めていく」とする声明を出した。

 

イスラエルの占領地をめぐっては、トランプ米大統領が3月、シリア領ゴラン高原に対する主権を認めることを表明している。【48日 朝日】

****************

 

この入植地併合路線は、イスラエル・パレスチナの「2国家共存」を困難にし、最終的にすべてのパレスチナ自治区をイスラエルに併合し、1つの国家「大イスラエル」の中で両民族が共存していくという形に近づくものです。

 

しかし、1つの国家「大イスラエル」となると、そこに居住するパレスチナ人にどのような権利を与えるのか?という問題が生じます。

 

もし、ユダヤ人と同じように等しくイスラエル人として扱うということになると、「大イスラエル」内ではアラブ人の人口比率が次第に増大し、「イスラエルはユダヤ人国家」という右派主張が崩壊することにもなります。

 

他方、パレスチナ人の権利を制約すれば、イスラエルは民主主義国家ではなく、アパルトヘイト国家になってしまいます。

 

したがって、現実問題としては「大イスラエル」の実現は困難と思われており、イスラエル保守派にあってもそのような認識があります。(だからこそ、「2国家共存」という考えがイスラエル側にもあった訳ですが・・・)

 

では、どうするのか・・・。

 

****2のアパルトヘイトに現実味、イスラエル総選挙、与党続投へ****

9日のイスラエル総選挙はネタニヤフ首相率いる右派「リクード」と中道連合「青と白」が大接戦を繰り広げたが、連立協議の枠組みは右派勢力が優位に立ち、首相の続投が濃厚となった。

 

首相はパレスチナ自治区の入植地併合など強硬方針を表明。イスラエルとパレスチナの「2国家共存」は絶望的となり、パレスチナ人が“二級市民”となるアパルトヘイト化が現実味を帯びてきた。

 

首相在任、史上最長に

(中略)首相が連立交渉をうまく運んだのは、右派に向けて大盤振る舞いをしたからだ。首相は選挙直前の6日、新政権を発足させたあかつきには、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区の入植地をイスラエルに併合するという方針を発表した。パレスチナ側は強く反発し、西岸全域の併合につながると懸念を表明した。

 

1993年の「オスロ合意」で確定したパレスチナ自治区の西岸には、パレスチナ人約260万人が居住。ガザ地区と合わせれば450万人のパレスチナ人が自治区で暮らしている。イスラエルはこの間、国際社会の批判を無視して西岸への入植活動を推進、現在は40万人のユダヤ人が住むまでになっている。

 

しかし、この入植地拡大は中東和平交渉にとっては大きな障害だ。国際的に認知されている和平の方式はイスラエルとパレスチナによる「2国家共存」だ。

 

だが、ユダヤ人入植地は将来のパレスチナ国家の建設地である西岸一帯に拡大しており、いざ国家を樹立しようとしても、ユダヤ入植者を他の場所に移す必要に迫られるなど極めて困難な状況になってしまう。

 

しかも、ネタニヤフ首相の入植地の併合方針は、入植地をなし崩し的にイスラエルの領土にしてしまうということに他ならず、事実上「2国家共存」の否定である。

 

このままでは、最終的にすべての自治区をイスラエルに併合し、1つの国家「大イスラエル」の中で両民族が共存していくという形に近づく。

 

“緩慢な併合”

しかし、この方式は大きな問題を抱えている。選挙権などユダヤ人と同等の基本的権利をパレスチナ人に与えるのか、という問題だ。

 

権利が付与されなければ、パレスチナ人はかつての南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離)と同様、差別された“二級市民”に成り下がってしまう。支配者と被支配者に分断されれば、抵抗と抑圧が生まれ、暴力の連鎖よる治安悪化は避けられない。

 

そしてイスラエルは名実共に民主国家の地位を捨てなければならなくなるだろう。

 

だが、パレスチナ人に平等の権利を付与すれば、出生率の違いなどから、パレスチナ市民の人口が増え「ユダヤ国家が事実上、乗っ取られてしまう」(ベイルート筋)。ネタニヤフ氏もこうしたジレンマを十分に認識しているはずだ。

 

ネタニヤフ氏がやろうとしているのは「“緩慢な併合”による領土拡張の既成事実化ではないか」()。つまりは、和平交渉を停滞したままに放置する一方で、徐々に入植活動を推進。パレスチナ人を「平和でも戦争でもない」環境に置いておき、問題を顕在化させずに併合を思い通りにできるというわけだ。

 

だが、こうしたイスラエルの身勝手な振る舞いが続くと考えるのはあまりに楽観主義的すぎるだろう。「平和でも戦争でもない」環境は、怒りと不満が充満すれば、すぐに爆発してしまう。

 

抑圧された西岸の若者たちがより過激化した原理主義組織ハマスにこぞって合流しかねない。長期的なイスラエルの安全保障にとって大きな脅威になりかねないリスクをはらんでいる。

 

トランプ、プーチン氏利用し挽回

ネタニヤフ氏が今回の選挙戦序盤で苦戦を強いられたのは検察当局が3月、収賄など3件の容疑で首相を起訴する方針を発表し、批判が高まったからだ。

 

主な容疑は同国の通信大手ベゼクに便宜を図った見返りに、同社傘下のニュースサイトで同氏を好意的に報道するよう要求したというものだった。

 

だが、首相はトランプ米大統領、プーチン・ロシア大統領との親密な関係を誇示して劣勢を挽回した。

 

特に首相の勝利はトランプ大統領のおかげと言っても過言ではない。大統領自身も、首相やイスラエルに肩入れすることが自らの再選につながると判断したのは間違いあるまい。

 

大票田の大統領の支持基盤、キリスト教福音派が強くイスラエルを支持しているからだ。大統領はネタニヤフ氏の要請に応え、手始めにイスラエルが嫌っていたイラン核合意から離脱した。

 

次いで係争の聖地エルサレムをイスラエルの永遠の首都と認め、昨年5月米大使館を同地に移転。

 

この325日には、イスラエル占領下のシリア領ゴラン高原のイスラエルの主権を認める文書に署名した。

 

一方で、パレスチナ自治政府に対しては厳しく接し、ワシントンの自治政府事務所の閉鎖、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に対する資金拠出停止に踏み切った。

 

こうした2人の言動はまるで双子のように似通っている。トランプ氏がロシア疑惑で追及を受け、「政治的魔女狩りだ。ロシアとの共謀はない」と主張してきたのに対し、首相も「魔女狩りだ。(収賄など)ないものはない」と否定、両者がメディアを「フェイクニュース」と罵るところも同じだ。

 

トランプ政権は選挙の熱気が沈静化するのを待って新たな中東和平提案を発表する見通しだ。トランプ氏の娘婿クシュナー上級顧問が中心となって策定した提案だが、イスラエルの主張をそのまま反映した内容にはならないと見られ、ネタニヤフ氏が米国の提案に従うのか、注目されるところだ。【411日 WEDGE

****************

 

【「イスラエル批判=反ユダヤ主義」という認識のトランプ政権の出す和平案とは?】

トランプ大統領の「新たな中東和平提案」・・・かねてより「世紀の取引」とも称されているものですが、上記記事には“イスラエルの主張をそのまま反映した内容にはならないと見られ”とはありますが、これまでの流れを見る限り、イスラエルの主張を基本的に受け入れ、パレスチナ側には死活的に重大な譲歩を強いるような内容になるのでは・・・と考えます。

 

****米国、イスラエル・パレスチナ紛争解決案を「間もなく」公表へ****

ポンペオ米国務長官は10日、トランプ政権がイスラエルとパレスチナの紛争解決に向けた提案を「間もなく」公表すると述べた。

長官は上院で「われわれは一連の提案について取り組んでおり、間もなく発表するだろう」と語った。

イスラエル国内の主要テレビ3局が10日報じたところによると、9日に実施されたイスラエル総選挙で、現職のネタニヤフ首相の5期目続投が確実になった。最終的な結果は12日までに確定する見通し。【411日 ロイター】

*******************

 

鬼が出るか蛇が出るか・・・といったところですが、公表されれば、アメリカ・トランプ大統領はパレスチナ支援停止なども前面に出して、強引にパレスチナ側に認めさせようとの対応にでるのでは・・・とも懸念されます。

 

一方、アメリカにあっては、「イスラエル批判=反ユダヤ主義」という風潮がトランプ政権によって広まっているとも。

 

****対イスラエル不買運動は「反ユダヤ主義」? パレスチナ活動家の米入国拒否****

米当局が、イスラエルに対する抗議の不買運動を呼び掛けている著名なパレスチナ人活動家の入国を拒否したことが分かった。米政府高官からは、不買運動を「反ユダヤ主義」とみなす発言も出ている。

 

米入国を拒否されたのは、米ハーバード大学やニューヨーク大学、シカゴのシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)などで講演が予定されていたオマル・バルグーティ氏。パレスチナ問題をめぐり対イスラエル制裁や不買を呼び掛ける「ボイコット、投資引き揚げ、制裁」運動の共同創始者だ。

 

バルグーティ氏は10日、米講演ツアーに出発しようとした際、テルアビブのベングリオン空港で搭乗を拒否されたという。

 

米非営利団体「アラブ系米国人協会」によると、バルグーティ氏は20211月まで有効な米入国ビザを保有している。しかし、入国の権利を認めないとの通達が米当局からあったと空港職員に告げられたという。

 

バルグーティ氏はイスラエルについて、「数十年にわたって軍事占領体制を敷き、アパルトヘイト(人種隔離)や民族浄化を続けているのみならず」「マッカーシズム(赤狩り)じみた理不尽な抑圧政策を、米国や、世界各地の外国人嫌いの右翼連中に外注する傾向が強まっている」と非難する声明を発表。

 

今回の渡米では、米国在住の娘の結婚式にも出席予定だったと明かし、「傷ついたが、思いとどまりはしない」と述べた。

 

BDS運動は、パレスチナを占領するイスラエルに対し、パレスチナ人の窮状を改善するよう圧力をかけるため経済、文化、学問の各分野で展開されているボイコット運動。

 

パレスチナ自治区ヨルダン川西岸にあるユダヤ人入植地を産地とする商品の不買運動も、その一つだ。イスラエルはBDS運動に激しい怒りを表明している。

 

米ドナルド・トランプ政権に先ごろ任命されたエラン・カー反ユダヤ主義対策特使は11日、バルグーティ氏の入国拒否については話すことはないとしつつ、BDS運動について「誰でも好きなように買い物をする権利がある。イスラエルという国を経済的に抑圧する組織的な運動があるならば、それは反ユダヤ主義だ」と記者団に述べた。

 

トランプ大統領はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を強く支持し、保守色の濃い同首相から距離を置く民主党の政治家らを反ユダヤ主義的だと批判している。 【412日 AFP

********************

 

当然ながら、国家としてのイスラエル批判と反ユダヤ主義は全く別個のものですが、トランプ政権にあってはそのような認識はないようです。

 

そのトランプ政権の提示するイスラエル・パレスチナ紛争解決案ですから・・・。

単に期待できないというだけではなく、いったん公表されたら、トランプ政権は力づくでその容認をパレスチナに迫るであろう・・・という点で、新たな問題を惹起する恐れがあります。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロヒンギャ ミャンマーへの帰還を拒否する難民 インド政府もロヒンギャ排斥

2019-04-10 23:48:46 | ミャンマー

(ロヒンギャ難民キャンプ【47日 HARBOR BUSINESS Online 】)

 

【治安が回復しないミャンマー・ラカイン州】

最近、あまり関連報道を目にしなくなったミャンマー西部・ラカイン州からのロヒンギャ難民は今どうしているのか?という話。

 

ラカイン州では、イスラム系ロヒンギャの武装勢力(“武装”とは言っても、“武器は乏しく、わずかな銃器の他は、鉈や鋭くとがらせた竹の棒を使っているという”【ウィキペディア】というレベルですが)と国軍等の治安当局との衝突に加え、もともとミャンマー全体から見ると少数民族になる仏教徒ラカイン人の自治権拡大を要求する武装集団「アラカン軍」(こちらは宣伝動画で見る限り、りっぱな武装軍隊のようにも見えます)と治安当局の衝突が起きていることは以前も取り上げました。

 

26日ブログ“ミャンマー 進まぬロヒンギャ難民帰還に加えて、新たな仏教徒ラカイン族難民も発生”)

 

現状に関する報道は目にしていませんが、3月段階では、ラカイン人「アラカン軍」の活動は続いているようです。

 

****警察署襲撃、9人死亡 ミャンマー西部、1月も襲撃事件****

ミャンマー西部ラカイン州で(3月)9日深夜、警察署が襲われ、警察官9人が死亡した。同州では1月、仏教徒の少数民族武装勢力アラカン軍(AA)が警察施設を襲撃し、警察官13人を殺害しており、治安部隊との緊張が高まっていた。

 

10日の時点で犯行声明はないが、地元メディアは国軍などの情報として、AAのメンバー約100人による襲撃とみられると伝えている。

 

地元メディアによると、襲撃があったのは同州の州都シットウェーの北約50キロの村。複数の警察官が負傷、行方不明になっているとの情報もある。

 

同州ではAAが自治権拡大を求め、国軍など治安部隊と衝突を繰り返しており、これまでに約1万人の住民が避難。1月の襲撃以降、国軍は同州で兵士を増員していた。

 

同州からは少数派イスラム教徒ロヒンギャ約70万人がバングラデシュに難民として逃れている。ミャンマー政府は難民帰還を進めようとしているが、国際機関などは治安悪化を理由に「帰還を急ぐべきではない」などと忠告している。【310日 朝日】

*******************

 

現状はよくわかりませんが、少なくとも現地ラカイン州の状況は治安が安定する方向ではなく、むしろ新たな衝突で新たな難民が発生する状況にもあります。

 

【再びロヒンギャ「ボート難民」も】

ロヒンギャについても、最近は耳にしなかったボートによる海外漂着も3月、4月に報じられています。

 

****ロヒンギャ41人が漂着 マレーシア、先月に続き****

マレーシア北部ペルリス州の海岸に8日、ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャ41人が漂着した。同州の海岸では3月にも子どもを含むロヒンギャ34人が保護されている。地元警察が発表した。

 

発表によると、今回漂着したロヒンギャは1430歳。タイで1人当たり4千リンギット(約109千円)を支払って船に乗ったが、同州沿岸で放置され、海岸にたどり着くまでに6人が行方不明になったという。

 

警察はこの他に約200人がタイ海域の船上に残されているとみている。【48日 共同】

******************

 

「連れ戻され、殺されるなら自分で死ぬ方がいい」

こうした状況で、バングラデシュに逃れた70万人超のロヒンギャ難民帰還はまったく動いていません。

 

治安も安定しない、そもそも自分たちを焼き討ちし、暴行し、レイプし、殺害した国軍等はその責任を認めてもいないし、当然責任も追及されていないという状況では、多くのロヒンギャ難民が帰還したがらないというのは、これまた当然の話です。

 

無理やり帰還させられるなら死んだ方がまし・・・と、自殺をはかる難民もいるようです。

 

ミャンマー・バングラデシュ両国政府も、あまりこの問題に積極的に取り組んでいるようには見えません。

 

****ロヒンギャ「帰りたくない」 ミャンマー当局へ不信感 バングラへ避難1年半*****

バングラデシュに逃れていたミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャの帰還が始まらない。ミャンマー当局への不信感があるためだ。約70万人が逃れて1年半が過ぎ、難民生活は長期化している。(コックスバザール=染田屋竜太)

 

連れ戻され殺されるなら…自殺図る

バングラデシュ南東部コックスバザール郊外。竹の骨組みをシートで覆った無数に並ぶ簡易住居の一つを訪ねた。電気のない難民キャンプはどの家も薄暗い。

 

「連れ戻され、殺されるなら自分で死ぬ方がいいと思った」。ディル・モハマドさん(60)が声を絞り出した。ここでの生活が1年半を超えた。

 

昨年11月。殺虫剤を水に混ぜ一気に飲んだ。1週間後に始まる予定だった難民帰還の第1陣リストに自分の名前があった。「知らないところで準備が進んでいた」。気を失い、キャンプの医療施設で一命を取り留めた。

 

帰還を拒むのは、ミャンマー側から逃れる時の光景が目に焼き付いているからだ。「村が焼かれ、遺体が転がっていた。(ミャンマー)軍の仕業だ」

 

約70万人が難民になる発端は、2017年8月のロヒンギャ武装組織アラカン・ロヒンギャ救済軍(ARSA)による警察襲撃事件だった。

 

これに対し軍や警察が掃討作戦を実施。ミャンマー側は否定するが、国連などによると多数のロヒンギャが殺され、家を焼かれたとされる。

 

両政府は昨年11月、難民約2千人の帰還を始めるとしていた。だが別の帰還対象者のヌルル・アミンさん(50)は「用意された10台ほどのバスに乗る人はいなかった」と振り返る。帰還は先延ばしになった。

 

「今の状況で帰りたい人はいない」とアミンさんは言う。難民の多くが帰還の条件とするのは、ミャンマー国籍の付与、掃討作戦をした治安部隊の訴追、そして帰還後の安全確保だ。

 

ミャンマー政府は、国内居住歴が確認できた難民には国籍申請資格のある身分証を渡すとしている。だが、同じく帰還リストに名前があったモヌ・マジヒさん(49)は「信用できない」と言う。

 

ロヒンギャの住んでいたラカイン州では、仏教徒らが帰還に反対。約200人が死亡した12年の仏教徒との衝突で国内避難民になった10万人超のロヒンギャですら、州内の避難民キャンプから戻れないでいる。「ましてや国外に逃れた我々が戻って、安心して暮らせるはずがない」とマジヒさんは吐き捨てた。

 

両政府、鈍る動き

両政府とも、難民帰還に向けた動きは鈍くなってきている。バングラデシュ政府の難民帰還担当責任者シャムサッド・ドウザ氏は「事態が進んでおらず、取材には応じられない」と話した。

 

昨年末に総選挙を控えていたバングラデシュは「難民問題に触れると厄介だ」(与党幹部)と目立った動きをしなかった。だが与党は選挙で大勝した後も、帰還を進める気配がない。

 

ミャンマー側は「帰還難民用の住宅建設が順調に進んでいる」と説明する。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などは、難民を一時帰還させ、まず現状を見てもらって本格的に戻るかどうか判断させるようミャンマー政府に求めているが、政府は明確な回答をしていない。

 

 キャンプで支援をする国際機関職員からは「数年は多数の難民がキャンプ生活を続けると覚悟した方がいいかもしれない」との声が上がる。日本政府もミャンマー政府とUNHCRを仲介して帰還準備を進めようとしているが、現地の仏教徒らに帰還への根強い反対があり、難しいという。

 

「仲間守るため」銃を持った 武装組織メンバー名乗る難民

ARSAのメンバーと名乗る難民がキャンプ近くで取材に応じた。ラカイン州北部出身の男性(49)は2012年、前身組織に加わった。

 

その年「アタウラ」と名乗る男が村に現れ、「我々は仏教徒に迫害されてきた。仲間を守るため立ち上がろう」と呼びかけ、多くの村人が賛同したという。アタウラはARSAのリーダーとされ、サウジアラビアなどで戦闘訓練を積んだとみられている。

 

男性は数カ月に1度、近くの山や丘で数十人とともに戦闘訓練を受けた。5、6丁の自動小銃AK47を交代で使い、教師役から撃ち方を教わった。

 

17年8月、アタウラが男性の村近くに「戦闘員」を集め、「我々の尊厳を守れ」と呼びかけた。ARSAが政府を攻撃するらしいと聞いたが、同月の警察襲撃には加わらなかった。男性は「我々は自分の身を守っているだけだ。テロリストではない」と話した。

 

ARSAの影響は若者に広がる。16年に加入した男性(19)は、政府機関で「ロヒンギャは高等教育を受けられない」と言われ、大学入学を阻まれたのがきっかけ。「民族で差別するのは間違っている」と話す。キャンプでは仕事もできず、イライラが募る生活を送る。「ARSAは特別じゃない。ロヒンギャを守りたいと思えば誰でもメンバーなんだ」と訴えた。

 

キーワード

<ロヒンギャ> 多くがバングラデシュとの国境地帯に暮らすイスラム教徒。仏教徒が9割近くを占めるミャンマーでは、バングラデシュからの移民とみなされている。大半が国籍を与えられていないため、移動の自由が制限されるなど差別や迫害につながっているとされる。【410日 朝日】

********************

 

ミャンマー政府が難民帰還に消極的なのはわかりますが、バングラデシュ政府もあまり急いでいないのはよくわかりません。難民保護は資金的にも大きな負担になるはずですが。

国際的な難民支援のカネを中間搾取している訳でもないでしょうに。

 

【インド政府 4万人と推定する国内のロヒンギャ全員の国外退去を命じる】

なお、ロヒンギャに関しては、インド政府がインド国内に暮らすロヒンギャをミャンマーに引き渡す動きがあるとの報道が以前ありました。

 

その後の動きについては知りません。

 

****ンド、ロヒンギャ7人をミャンマーに強制送還 国連の警告無視****

インドは(201810)4日、国連の警告を無視してイスラム系少数民族ロヒンギャの男性7人をミャンマーに強制送還した。

 

国連は、国軍がロヒンギャに対する「ジェノサイド(大量虐殺)」を行っているとされるミャンマーに7人を送還すれば、迫害を受ける恐れがあると警鐘を鳴らしていた。

 

入国法違反の罪で2012年から身柄を拘束されていたこの7人は、インド北東部マニプール州の国境検問所で、ミャンマー当局に引き渡された。

 

7人の強制送還を阻止するためインド最高裁に不服が申し立てられていたが、最高裁は4日、これを却下し、ロヒンギャを不法移民とする判断を支持した。

 

人権団体フォーティファイ・ライツのジョン・クインリー3世氏は、ロヒンギャ7人をミャンマーに強制送還するとしたインドの決定について、「残酷で、命を拷問などの迫害や死の危険にさらす恐れがある」と指摘した。

 

インド政府は過激派組織とのつながりを理由に、ロヒンギャを安全保障上の脅威と位置づけている。政府は昨年、4万人と推定する国内のロヒンギャ全員の国外退去を命じた。

 

最高裁は、政府の国外退去命令を違憲とする申し立てを審議している。

 

国連は、インド国内に登録されたロヒンギャの数を16000人としている。【105 AFP

**********************

 

****インドのロヒンギャも難民化、バングラ国境で31人拘束****

インドの警察当局は(1月)22日、バングラデシュ国境でどちらの国にも受け入れられなかったために立ち往生していたイスラム系少数民族ロヒンギャ31人を拘束したと発表した。

 

インドには約4万人のロヒンギャが生活しているが、政府はここ数週間、ロヒンギャの逮捕とミャンマーへの引き渡しを実施。国連や人権団体の激しい非難を受けている。

 

ロヒンギャはミャンマーで、国連が「民族浄化」と非難する暴力と迫害を受けているため、引き渡しを逃れようとするインドのロヒンギャが大量に移動を始めた。バングラデシュには数週間で1300人のロヒンギャがインドから流入している。

 

今回、拘束された子ども17人を含む31人は、インド側国境にある有刺鉄線のフェンスを越えたがバングラデシュに入国できず、3日間にわたって立ち往生していた。最終的にバングラデシュの国境警備隊が一行の身柄をインド当局へ引き渡した。

 

インドの警察当局によると、31人が拘束されたのは同国北東部トリプラ州で、「不法入国」の容疑に問われているという。政府へもロヒンギャ31人が国内で勾留されていることを伝えたという。さらに国連難民高等弁務官事務所へ報告する予定だと説明した。

 

一方、バングラデシュはこれまで南東部の大規模な避難キャンプにロヒンギャ難民約100万人を受け入れている。うち75%が20178月のミャンマー軍による弾圧から逃れてきたロヒンギャで、彼らは軍による殺害やレイプ、放火などを証言している。

 

人権侵害が続いているとの懸念から、ロヒンギャのミャンマー帰還計画はこう着状態にある。 【123日 AFP】

*********************

 

“インド政府は過激派組織とのつながりを理由に、ロヒンギャを安全保障上の脅威と位置づけている。政府は昨年、4万人と推定する国内のロヒンギャ全員の国外退去を命じた。”というのも随分乱暴な話に思えるのですが、トランプ大統領の移民排斥に見られるように、現代ではこうした異質な者の不寛容は、ごく“当然”のことのように実施されるようになっています。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする