(ホンダの工場閉鎖の撤回を求める従業員ら【4月1日 YAHOO!ニュース】)
【漂流するイギリス メイ首相も国民投票再実施を検討か】
ブレグジット(イギリスのEU離脱)については、連日、メイ首相とイギリス議会のやりとりが報じられていますが、“あれもだめ、これもだめ”という感じで、外野の人間としては“一体どうするつもり?何がしたいの?”と言いたくなるような迷走状態です。
離脱を大幅に延期したところで、明確な方針がなければ単なる先延ばし・時間稼ぎに過ぎず、EU側が関税同盟残留や国民投票実施など、「正当な理由」を要求しているのも当然のところです。
しかし、そうした選択肢は与党保守党内の離脱強硬派が認めるものではなく、メイ首相は与党内説得をあきらめ、野党労働党に協力を求める形にもなっています。
****英首相、膠着続けば「離脱なし」 野党労働党との妥協に理解求める****
メイ英首相は6日、英国の欧州連合(EU)離脱問題で膠着状態が長引けば、「離脱を成し遂げられない恐れが高まる」と警告し、最大野党労働党と妥協案を探ることに反発する与党強硬派らに理解と支持を求めた。英政府がメイ氏の声明を発表した。
声明でメイ氏は、EUとまとめた離脱合意案が「近い将来に可決される兆しもない」ため、新しい方策を模索せざるを得なかったとも述べた。
合意案が下院で重ねて否決される中、メイ氏は労働党のコービン党首に協議を呼び掛け、3日に会談した。英メディアによると、6日には電話で協議を続けた。【4月7日 共同】
********************
もっとも、野党労働党の対応も、「合意なき離脱は認めない」という以外は明確ではありません。
労働党内には国民投票再実施を求める声が強く、党としてはその方針を決定してはいるものの、コービン党首はEU懐疑派とも言われ、国民投票再実施の主張を明確にしていません。
ブレグジットをめぐる議論がいつまでも漂流している原因のひとつは、こうした労働党の対応の不明瞭さにもあります。
ただ、さすがにここまで迷走すると、「もう国民投票再実施しかないのではでいか?」という方向に向かっても不思議ではなく、これまで頑なに否定してきたメイ首相も国民投票再実施を検討し始めているとも報じられています。
****メイ首相、国民投票再実施で議会採決を検討か 英紙報道****
欧州連合(EU)からの離脱をめぐり、英紙テレグラフ(電子版)は8日、メイ首相が離脱の是非を問う国民投票の再実施について議会の採決を検討していると報じた。
報道が事実であれば、離脱問題で膠着(こうちゃく)状態が続く中、メイ氏が離脱を支持するかどうか改めて国民に問う選択肢を準備しているとみられる。
同紙によると、メイ氏は8日、国民投票を行う案について複数の閣僚と協議したという。
メイ氏はこれまで、離脱を選んだ2016年の国民投票の結果を尊重し、再実施については「民主主義への信頼を揺るがし、社会の一体感を損なう」などと否定していた。だが、メイ氏がEUと合意した離脱協定案が3度も否決。現状のまま離脱を推し進めることが困難になり、方針転換をした可能性もある。
国民投票の再実施をめぐっては、最大野党・労働党の幹部が必要性を主張していた。メイ政権は協定案を可決するために労働党と協議を進めており、政権が労働党に譲歩したという見方もある。ただ、メイ氏が再実施する採決をしても、与党・保守党が反発し、否決される公算が大きい。【4月9日 産経】
******************
【離脱派がばらまいた“夢物語”のウソが明らかになり、その対応に苦しむ保守党】
国民投票再実施が議会に諮られ、与党・保守党の離脱強硬派の反対で否決・・・・ということになれば、残された道は、いよいよ「合意なき離脱」という“自爆”しかないといった状況にもなります。
現在の世論調査の数字では「残留」が「離脱」を上回っており、そうした状況で、かたくなに前回投票結果にしがみつくのもいささか非合理に思えますが、国民投票を再実施して「残留」方向転換すると与党・保守党が分裂してしまうという党内事情もあるようです。
****大迷走イギリスが「残留」に方向転換できない訳****
<世論調査で「残留」が「離脱」を逆転――それでもメイ政権が固執するのは、失敗すれば保守党が分裂・崩壊するからだ>
イギリスの有権者は、ブレグジット(英国のEU離脱)に関して考えを変えたようだ。
英国社会研究センターの2月の世論調査によれば、いま国民投票が実施された場合にEU残留に投票する人が5%(多分“55%”の誤植)なのに対し、離脱に投票する人45%。ストラスクライド大学(グラスゴー)のジョン・カーティス教授の調査でも、残留支持が53%、離脱支持が47%となっている。
残留派が48%、離脱派が52%だった16年6月の国民投票とは賛否が逆転した形だ。(中略)
テリーザ・メイ首相は、EUとの間で昨年まとめた離脱協定案の承認を議会に求めてきたが、議会はこれまで2回それを突っぱねていた。そして、3月29日に行われた3度目の採決でも、議会はメイの協定案を否決した。
こうした議会の姿勢は、世論の風向きを反映している。2月の英国社会研究センターの世論調査によれば、離脱交渉でEUから好ましい条件を引き出すことはできないと考える人が回答者の63%に上っている。好条件を引き出せると考える人は、6%だけだった。
2年前とは状況が大きく変わっている。17年2月の同センターの調査では、有利な合意を結べると考える人が33%、不利な合意を結ばざるを得なくなると考える人が37%と、国民の見方は拮抗していた。
また、今年2月の調査によれば、国民投票で離脱を支持した有権者の80%は、政府がEUとの交渉に失敗したと考えている。この割合は、2年前の調査では27%だった。
国民投票での約束はほご
英政府は国民投票で示された民意を理由に、ブレグジットに向けて動いてきた。離脱中止を求める600万人近いオンライン署名に対して、政府は次のように返答した。「(離脱を実行しなければ)政府が国民に約束したことが履行されず、民主的な投票によって明確に示された民意がないがしろにされる。そうなれば、民主主義への信頼が損なわれる」
3月23日にロンドン中心部で実施された推定100万人のデモ参加者など、再度の国民投票を求める人たちは、離脱派から「民主主義の敵」というレッテルを貼られてきた。(中略)
とはいえ、国民投票のやり直しを望む世論が高まっていることは事実だ。世論調査機関ユーガブが最近行った調査によると、2度目の国民投票を支持する人は48%。反対の人は36%だった。
イギリスの二大政党の保守党と労働党はいずれも、自国がEUのメンバーであり続けるべきだと一貫して主張してきた。メイ自身も、16年の国民投票では残留支持を呼び掛けていた。その点では、下院議員の3分の2以上も同じだ。
では、ブレグジットがもはや民意とは言えなくなっているのに、どうしてメイはかたくなな態度を崩さないのか。「離脱を実現できなければ、保守党が完全に崩壊するからだ」と、ある英政府高官は言う(メディア対応する正式な権限がないことを理由に匿名を希望)。
この高官によれば、保守党内の離脱強硬派は「メイの離脱合意案が理想的なブレグジットには遠いと感じ、怒りをたぎらせている。この協定案では、EUのルールには従わずに加盟国並みの恩恵にだけ浴するという夢物語が実現しないからだ」。
「その一方で、ブレグジットが実現しなければ、裏切りだと騒ぎ立てるだろう。このグループが(離脱推進の)新党を結成すれば、保守党が政権を握ることは向こう数十年なくなる」
多くの保守党議員はブレグジットに消極的だが、保守党の未来はブレグジットの実現に懸かっているのだ。
しかし、国民投票で離脱推進派が約束したような好条件は、EU側が到底受け入れないことが明らかになってきた。つまり、国民投票での離脱推進派の約束を守ることは不可能になりつつある。(後略)【4月4日 Newsweek】
********************
離脱派がばらまいた“EUのルールには従わずに加盟国並みの恩恵にだけ浴するという夢物語”のウソが明らかになり、63%の国民が“EUから好ましい条件を引き出すことはできない”と考えるに至っている以上、改めて今後の方針を国民に問う(国民投票というものの持つ問題点はあきらかにもなっていますが、前回投票結果を変更するためには国民投票しかありませんので)というのが、一番自然な対応ではないでしょうか。
保守党が分裂する云々よりは、国家の基本方針の方がはるかに重大です。与党を守るために国家の将来を危機にさらすことがあってはなりません。
メイ首相がなすべき“最後の仕事”は、そうした自明の理に沿って方針転換への道筋をつけることでしょう。
【ブレグジット交渉で結束を強めるEU イギリスの迷走で、声を潜める各国EU離脱派】
対するEUの方は、イギリスの迷走に苛立ちを募らせているとも報じられています。
****英のEU離脱混迷、いいかげんに 仏外相、いらだち示す****
フランスのルドリアン外相は6日、メイ英首相が欧州連合(EU)離脱の期日の再延期を求め、混迷が続いていることについて「この状況はいいかげんに終わらせるべきだ。EUはいつまでも英国の政治に振り回されるわけにはいかない」といらだちを示した。先進7カ国(G7)外相会合終了後の記者会見で述べた。
ルドリアン氏は、3月のEU首脳会議の決定で、英国がさらなる延期を望む場合、英議会の支持が得られる明確な計画をメイ氏が提示することになっていると強調。「EUはいつまでも英国の離脱のことばかりやっているわけにはいかない。ある時期が来たら、終わりだ」と訴えた。【4月6日 共同】
*****************
ただ“苛立ち”とは言うものの、本音では、EUとしては“余裕の対応”という感もあるのではないでしょうか?
もちろん、合意なき離脱となった場合、EUも大きな影響を受けますが、EUはイギリスなしでもなんとかやっていけます。イギリスはどうでしょうか?
EU内の各国にはイギリスの離脱を賞賛するようなEU懐疑派勢力が存在しており、また、中東欧諸国のようにEU主流派と対立する国家も存在します。
そのため交渉におけるEU内部の不協和音が懸念され、イギリスの離脱によってEUの結束が弱まることも不安視されていました。
しかし、現実にはEU側の対応には、これまでのところ内部の乱れはほとんど出ておらず、結束を維持しています。
むしろ、各国EU懐疑派もイギリスの迷走ぶりを目の当たりにして、離脱の困難を改めて実感し、「離脱」支持のトーンも下がっているようにも見えます。
総じて、今回ブレグジット交渉で、EUの結束は弱まる方向ではなく、逆のEUの存在感が強くアピールされる結果にもなっています。
対照的に、EUによるコントロールからの主権の回復を掲げたイギリスは、むしろEUの結束した対応の前で、EUの指示を受けて動かざるを得ないような状況にもなっています。
****そしてEUが勝利を手にする****
イギリスの混乱劇で加盟国内の離説諭は下火に 団結して強力になったEUの明るい未来
(中略)ブレグジットをめぐる混乱の底無し沼から抜け出そうともがくテリーザ・メイ英首相が、3月29日が期限の離脱の延期をEUに求めた姿もまた、イギリスの相対的没落を印象付けた瞬間といえるかもしれない。
今回の勝者はEUだ。機構としてのEUのみならず、概念としてのEUが勝利を収めている。
現状の意味は実に明瞭。EUはイギリスなしでも十分やっていけるが、イギリスはおそらくEUなしでは立ち行かない。イギリスには(多くの議員の虚勢はともかく)まともな離脱案も存在しない。主導権を握るのはEUだ。
創設以来、EUは自らの存在意義への疑念に慢性的にさいなまれてきた。アメリカには絵空事と笑われ、加盟国にとっては都合のいいスケープゴート。
5月に欧州議会選を控えるなか、右派ポピュリスト勢力の台頭と分断の脅威にも再び直面している。
だがブレグジットの混乱劇で、構図は一変した。離脱交渉でのメイの失敗は英政権に大打撃を与える一方、ミシェル・バルニエ首席交渉官らEU側の責任者の評価を高めている。
バルニエは3月19日、イギリスの離脱の延期を認めるには、延長期間の使い方について英政府が「具体的計画」を示すことが必要だと発言。ブレグジットそのものを見直して、残留してはどうかと示唆した。
反旗を翻す側か結局は改心
(中略)イギリスの屈辱は、EU内の最も先鋭的なポピュリストやナショナリストにも無視できない教訓になっている。もはやEUからの完全離脱はあり得ない選択肢で、政治的な自滅の道だ。(中略)
5月23~26日に予定される欧州議会選は親EU派とEU懐疑派の決戦になると予想されているが、懐疑派の間でも、完全離脱を主張する声はほとんど聞かれない。フランスの極右のリーダー、マリーヌ・ルベンは17年の仏大統領選ではEU離脱を訴えたが、最近ではEUの内側からの改革が持論。
イタリアの副首相兼内相で、極右政党「同盟」党首マッテオーサルビニもEU懐疑を掲げつつ、離脱ではなく改革を目指している。
スペインのシンクタンク、エルカノ王立研究所のチャールズ・パウェル所長に言わせれば、離脱交渉でのイギリスの不手際とEUが見せた意外な団結力は、二流国になったイギリスとより強力で一体化したヨーロッパというイメージを固めた。
ハンガリーやポーランドで強まる反発、南北の分断など域内に多くの問題を抱えるとはいえ、「ブレグジットはEUを団結させて(移民問題などの争点で)合意に達する可能性を高めた」と言う。
懐疑派の動きが懸念されるが
もっとも、懸念材料は相変わらず多い。ドイツでは、21年に迫るアンゲラ・メルケル首相の退任で政治の行方が見通せず、ナショナリズム傾向はスペインでも強まっている。
EU懐疑派は「離脱を目指すのは完全に逆効果」と学び、「(欧州)議会で多数派、少なくとも議決を左右できるだけの議席の獲得を狙っている」と、プリンストン大学のジェームズは警告する。
カプチャンも「改選後の欧州議会ではEU懐疑派のポピュリストが一定の割合を占めるだろう。この問題は早期には解決できない」と指摘した。
パウエルによれば、イギリスの「退場」で欧州のさらなる統合という夢が突如、現実になるわけでもない。(中略)
こうした事情にもかかわらず、EUは団結してイギリスとの困難な「離婚」に臨み、かえって力を増したように見える。そこに映し出されているのは、ヨーロッパといラ存在をめぐるイギリスと欧州大陸部の考えの違いだ。
「ヨーロッパとは単に『市場』を意味するのではないという基本概念で大陸部はほぼ一致している」と、パウエルは語る。「だがイギリスでは、そう考える者は皆無に等しい」
19世紀以降、イギリスの対欧州政策は(ナポレオン時代のフランスのような)大国に対抗して、小国と同盟を形成する路線を取った。しかし今の欧州にはEUという大きな存在しかない。
国家の主権を取り戻すという大言壮語として始まった政策が完全な屈服で終わりかねないブレグジットの経緯に、将来の歴史家は学ぶべきだ。
イギリスは「無風状態の中でマストも舵も失ったヨットだ」と、カプチャンは言う。「漂っているだけで、どこへ進むべきかも分かっていない」
対するEUに、より確かな方向性と未来像があることはたぶん間違いない。【4月2日号 Newsweek日本語版】
*******************
多くの課題・対立を抱えるEUが“確かな方向性と未来像がある”かどうかは問題ですが、少なくとも「無風状態の中でマストも舵も失ったヨット」のようなイギリスの現状に比べたらまし・・・ということです。
珍しくEUにとって明るい指摘ですので、そういうことにしておきましょう。
ちょっと変わった視点では、旧イギリス植民地がイギリスの混乱ぶりを冷ややかに眺めている・・・という記事も。
****英国の混乱は蜜の味?ブレグジット眺めるアジアの旧英植民地****
差し迫る英国の欧州連合離脱(ブレグジット)期限。アジア各地の旧英植民地は、困惑、無関心、気晴らし、あるいは他人の不幸を喜ぶ気分が入り混じった状態でその過程を眺めている。
英政府は長年、自国による植民地統治は秩序と安定をもたらし、繁栄を分かち合ってきたとして、大英帝国による征服を正当化していた。
英国が植民地支配から撤退した後に問題を抱える国々が新たに生まれ、それらの国との歴史的禍根をぬぐえていない今日でも、その主張は変わらない。
ところが今、英国は自分が種をまいた混乱と国内分裂、さらに国際的孤立と今後何年にもわたる経済的苦境の可能性に直面している。特に今月12日に「合意なき離脱」に至った場合はなおさらだ。
「香港と呼ばれる英国の植民地で生まれ育った私は、英国人はとても思慮深い人々だと思っていた」と話すクラウディア・モー氏は、香港民主派の議員だ。「けれど元被植民地の一員としてブレグジットの過程を見ていると、これはほとんど茶番だ。悲しくなるほどおかしく滑稽だ。今現在の状況にどうして、どうやって至ってしまったのか。外部の人間にとっては、ほとんど考えられない事態だ」とモー氏はAFPに語った。
インドでは多くの人がブレグジットについて「大国として力を振るっていた英国の急激な衰退」の最終章だと捉えていると、同国OPジンダル・グローバル大学国際関係学部の学部長、スリーラム・チャウリア氏はいう。「彼らはもはや見上げるべき金字塔ではない」「沈みかけている船からは誰もが逃げたがるものだと、われわれは感じている」。インド経済は今年、英国を追い越す見通しだ。(中略)
インド・ニューデリーでフリーランス・フォトグラファーとして活動するタンメイ氏は、ブレグジットの支持者は忍耐について、インドを見習えるだろうと冗談を言った。「英国のEU離脱に時間がかかっているのは当然だ。英国はインドから出ていくのに何年もかかったからね」 【4月9日 AFP】AFPBB News
*****************