孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリスEU離脱 行き詰まり打開は国民投票再実施だけでは? 交渉で結束・存在感を強めるEU

2019-04-09 23:36:46 | 欧州情勢

(ホンダの工場閉鎖の撤回を求める従業員ら【41日 YAHOO!ニュース】)


【漂流するイギリス メイ首相も国民投票再実施を検討か】

ブレグジット(イギリスのEU離脱)については、連日、メイ首相とイギリス議会のやりとりが報じられていますが、“あれもだめ、これもだめ”という感じで、外野の人間としては“一体どうするつもり?何がしたいの?”と言いたくなるような迷走状態です。

 

離脱を大幅に延期したところで、明確な方針がなければ単なる先延ばし・時間稼ぎに過ぎず、EU側が関税同盟残留や国民投票実施など、「正当な理由」を要求しているのも当然のところです。

 

しかし、そうした選択肢は与党保守党内の離脱強硬派が認めるものではなく、メイ首相は与党内説得をあきらめ、野党労働党に協力を求める形にもなっています。

 

****英首相、膠着続けば「離脱なし」 野党労働党との妥協に理解求める****

メイ英首相は6日、英国の欧州連合(EU)離脱問題で膠着状態が長引けば、「離脱を成し遂げられない恐れが高まる」と警告し、最大野党労働党と妥協案を探ることに反発する与党強硬派らに理解と支持を求めた。英政府がメイ氏の声明を発表した。

 

声明でメイ氏は、EUとまとめた離脱合意案が「近い将来に可決される兆しもない」ため、新しい方策を模索せざるを得なかったとも述べた。

 

合意案が下院で重ねて否決される中、メイ氏は労働党のコービン党首に協議を呼び掛け、3日に会談した。英メディアによると、6日には電話で協議を続けた。【47日 共同】

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もっとも、野党労働党の対応も、「合意なき離脱は認めない」という以外は明確ではありません。

労働党内には国民投票再実施を求める声が強く、党としてはその方針を決定してはいるものの、コービン党首はEU懐疑派とも言われ、国民投票再実施の主張を明確にしていません。

 

ブレグジットをめぐる議論がいつまでも漂流している原因のひとつは、こうした労働党の対応の不明瞭さにもあります。

 

ただ、さすがにここまで迷走すると、「もう国民投票再実施しかないのではでいか?」という方向に向かっても不思議ではなく、これまで頑なに否定してきたメイ首相も国民投票再実施を検討し始めているとも報じられています。

 

****メイ首相、国民投票再実施で議会採決を検討か 英紙報道****

欧州連合(EU)からの離脱をめぐり、英紙テレグラフ(電子版)は8日、メイ首相が離脱の是非を問う国民投票の再実施について議会の採決を検討していると報じた。

 

報道が事実であれば、離脱問題で膠着(こうちゃく)状態が続く中、メイ氏が離脱を支持するかどうか改めて国民に問う選択肢を準備しているとみられる。

 

同紙によると、メイ氏は8日、国民投票を行う案について複数の閣僚と協議したという。

 

メイ氏はこれまで、離脱を選んだ2016年の国民投票の結果を尊重し、再実施については「民主主義への信頼を揺るがし、社会の一体感を損なう」などと否定していた。だが、メイ氏がEUと合意した離脱協定案が3度も否決。現状のまま離脱を推し進めることが困難になり、方針転換をした可能性もある。

 

国民投票の再実施をめぐっては、最大野党・労働党の幹部が必要性を主張していた。メイ政権は協定案を可決するために労働党と協議を進めており、政権が労働党に譲歩したという見方もある。ただ、メイ氏が再実施する採決をしても、与党・保守党が反発し、否決される公算が大きい。【49日 産経】

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離脱派がばらまいた“夢物語”のウソが明らかになり、その対応に苦しむ保守党

国民投票再実施が議会に諮られ、与党・保守党の離脱強硬派の反対で否決・・・・ということになれば、残された道は、いよいよ「合意なき離脱」という“自爆”しかないといった状況にもなります。

 

現在の世論調査の数字では「残留」が「離脱」を上回っており、そうした状況で、かたくなに前回投票結果にしがみつくのもいささか非合理に思えますが、国民投票を再実施して「残留」方向転換すると与党・保守党が分裂してしまうという党内事情もあるようです。

 

****大迷走イギリスが「残留」に方向転換できない訳****

<世論調査で「残留」が「離脱」を逆転――それでもメイ政権が固執するのは、失敗すれば保守党が分裂・崩壊するからだ>

イギリスの有権者は、ブレグジット(英国のEU離脱)に関して考えを変えたようだ。

英国社会研究センターの2月の世論調査によれば、いま国民投票が実施された場合にEU残留に投票する人が5%(多分“55%”の誤植)なのに対し、離脱に投票する人45%。ストラスクライド大学(グラスゴー)のジョン・カーティス教授の調査でも、残留支持が53%、離脱支持が47%となっている。

残留派が48%、離脱派が52%だった166月の国民投票とは賛否が逆転した形だ。(中略)

テリーザ・メイ首相は、EUとの間で昨年まとめた離脱協定案の承認を議会に求めてきたが、議会はこれまで2回それを突っぱねていた。そして、329日に行われた3度目の採決でも、議会はメイの協定案を否決した。

こうした議会の姿勢は、世論の風向きを反映している。2月の英国社会研究センターの世論調査によれば、離脱交渉でEUから好ましい条件を引き出すことはできないと考える人が回答者の63%に上っている。好条件を引き出せると考える人は、6%だけだった。

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年前とは状況が大きく変わっている。172月の同センターの調査では、有利な合意を結べると考える人が33%、不利な合意を結ばざるを得なくなると考える人が37%と、国民の見方は拮抗していた。

また、今年2月の調査によれば、国民投票で離脱を支持した有権者の80%は、政府がEUとの交渉に失敗したと考えている。この割合は、2年前の調査では27%だった。

国民投票での約束はほご
英政府は国民投票で示された民意を理由に、ブレグジットに向けて動いてきた。離脱中止を求める600万人近いオンライン署名に対して、政府は次のように返答した。「(離脱を実行しなければ)政府が国民に約束したことが履行されず、民主的な投票によって明確に示された民意がないがしろにされる。そうなれば、民主主義への信頼が損なわれる」

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23日にロンドン中心部で実施された推定100万人のデモ参加者など、再度の国民投票を求める人たちは、離脱派から「民主主義の敵」というレッテルを貼られてきた。(中略)

とはいえ、国民投票のやり直しを望む世論が高まっていることは事実だ。世論調査機関ユーガブが最近行った調査によると、2度目の国民投票を支持する人は48%。反対の人は36%だった。

イギリスの二大政党の保守党と労働党はいずれも、自国がEUのメンバーであり続けるべきだと一貫して主張してきた。メイ自身も、16年の国民投票では残留支持を呼び掛けていた。その点では、下院議員の3分の2以上も同じだ。

では、ブレグジットがもはや民意とは言えなくなっているのに、どうしてメイはかたくなな態度を崩さないのか。「離脱を実現できなければ、保守党が完全に崩壊するからだ」と、ある英政府高官は言う(メディア対応する正式な権限がないことを理由に匿名を希望)。

この高官によれば、保守党内の離脱強硬派は「メイの離脱合意案が理想的なブレグジットには遠いと感じ、怒りをたぎらせている。この協定案では、EUのルールには従わずに加盟国並みの恩恵にだけ浴するという夢物語が実現しないからだ」。

「その一方で、ブレグジットが実現しなければ、裏切りだと騒ぎ立てるだろう。このグループが(離脱推進の)新党を結成すれば、保守党が政権を握ることは向こう数十年なくなる」

多くの保守党議員はブレグジットに消極的だが、保守党の未来はブレグジットの実現に懸かっているのだ。

しかし、国民投票で離脱推進派が約束したような好条件は、EU側が到底受け入れないことが明らかになってきた。つまり、国民投票での離脱推進派の約束を守ることは不可能になりつつある。(後略)【44日 Newsweek
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離脱派がばらまいた“EUのルールには従わずに加盟国並みの恩恵にだけ浴するという夢物語”のウソが明らかになり、63%の国民が“EUから好ましい条件を引き出すことはできない”と考えるに至っている以上、改めて今後の方針を国民に問う(国民投票というものの持つ問題点はあきらかにもなっていますが、前回投票結果を変更するためには国民投票しかありませんので)というのが、一番自然な対応ではないでしょうか。

 

保守党が分裂する云々よりは、国家の基本方針の方がはるかに重大です。与党を守るために国家の将来を危機にさらすことがあってはなりません。

メイ首相がなすべき“最後の仕事”は、そうした自明の理に沿って方針転換への道筋をつけることでしょう。

 

ブレグジット交渉で結束を強めるEU イギリスの迷走で、声を潜める各国EU離脱派

対するEUの方は、イギリスの迷走に苛立ちを募らせているとも報じられています。

 

****英のEU離脱混迷、いいかげんに 仏外相、いらだち示す****

フランスのルドリアン外相は6日、メイ英首相が欧州連合(EU)離脱の期日の再延期を求め、混迷が続いていることについて「この状況はいいかげんに終わらせるべきだ。EUはいつまでも英国の政治に振り回されるわけにはいかない」といらだちを示した。先進7カ国(G7)外相会合終了後の記者会見で述べた。

 

ルドリアン氏は、3月のEU首脳会議の決定で、英国がさらなる延期を望む場合、英議会の支持が得られる明確な計画をメイ氏が提示することになっていると強調。「EUはいつまでも英国の離脱のことばかりやっているわけにはいかない。ある時期が来たら、終わりだ」と訴えた。【46日 共同】

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ただ“苛立ち”とは言うものの、本音では、EUとしては“余裕の対応”という感もあるのではないでしょうか?

 

もちろん、合意なき離脱となった場合、EUも大きな影響を受けますが、EUはイギリスなしでもなんとかやっていけます。イギリスはどうでしょうか?

 

EU内の各国にはイギリスの離脱を賞賛するようなEU懐疑派勢力が存在しており、また、中東欧諸国のようにEU主流派と対立する国家も存在します。

 

そのため交渉におけるEU内部の不協和音が懸念され、イギリスの離脱によってEUの結束が弱まることも不安視されていました。

 

しかし、現実にはEU側の対応には、これまでのところ内部の乱れはほとんど出ておらず、結束を維持しています。

むしろ、各国EU懐疑派もイギリスの迷走ぶりを目の当たりにして、離脱の困難を改めて実感し、「離脱」支持のトーンも下がっているようにも見えます。

 

総じて、今回ブレグジット交渉で、EUの結束は弱まる方向ではなく、逆のEUの存在感が強くアピールされる結果にもなっています。

 

対照的に、EUによるコントロールからの主権の回復を掲げたイギリスは、むしろEUの結束した対応の前で、EUの指示を受けて動かざるを得ないような状況にもなっています。

 

****そしてEUが勝利を手にする****

イギリスの混乱劇で加盟国内の離説諭は下火に 団結して強力になったEUの明るい未来

 

(中略)ブレグジットをめぐる混乱の底無し沼から抜け出そうともがくテリーザ・メイ英首相が、329日が期限の離脱の延期をEUに求めた姿もまた、イギリスの相対的没落を印象付けた瞬間といえるかもしれない。

 

今回の勝者はEUだ。機構としてのEUのみならず、概念としてのEUが勝利を収めている。

 

現状の意味は実に明瞭。EUはイギリスなしでも十分やっていけるが、イギリスはおそらくEUなしでは立ち行かない。イギリスには(多くの議員の虚勢はともかく)まともな離脱案も存在しない。主導権を握るのはEUだ。

 

創設以来、EUは自らの存在意義への疑念に慢性的にさいなまれてきた。アメリカには絵空事と笑われ、加盟国にとっては都合のいいスケープゴート。

 

5月に欧州議会選を控えるなか、右派ポピュリスト勢力の台頭と分断の脅威にも再び直面している。

 

だがブレグジットの混乱劇で、構図は一変した。離脱交渉でのメイの失敗は英政権に大打撃を与える一方、ミシェル・バルニエ首席交渉官らEU側の責任者の評価を高めている。

 

バルニエは319日、イギリスの離脱の延期を認めるには、延長期間の使い方について英政府が「具体的計画」を示すことが必要だと発言。ブレグジットそのものを見直して、残留してはどうかと示唆した。

 

反旗を翻す側か結局は改心

(中略)イギリスの屈辱は、EU内の最も先鋭的なポピュリストやナショナリストにも無視できない教訓になっている。もはやEUからの完全離脱はあり得ない選択肢で、政治的な自滅の道だ。(中略)

 

52326日に予定される欧州議会選は親EU派とEU懐疑派の決戦になると予想されているが、懐疑派の間でも、完全離脱を主張する声はほとんど聞かれない。フランスの極右のリーダー、マリーヌ・ルベンは17年の仏大統領選ではEU離脱を訴えたが、最近ではEUの内側からの改革が持論。

 

イタリアの副首相兼内相で、極右政党「同盟」党首マッテオーサルビニもEU懐疑を掲げつつ、離脱ではなく改革を目指している。

 

スペインのシンクタンク、エルカノ王立研究所のチャールズ・パウェル所長に言わせれば、離脱交渉でのイギリスの不手際とEUが見せた意外な団結力は、二流国になったイギリスとより強力で一体化したヨーロッパというイメージを固めた。

 

ハンガリーやポーランドで強まる反発、南北の分断など域内に多くの問題を抱えるとはいえ、「ブレグジットはEUを団結させて(移民問題などの争点で)合意に達する可能性を高めた」と言う。

 

懐疑派の動きが懸念されるが

もっとも、懸念材料は相変わらず多い。ドイツでは、21年に迫るアンゲラ・メルケル首相の退任で政治の行方が見通せず、ナショナリズム傾向はスペインでも強まっている。

 

EU懐疑派は「離脱を目指すのは完全に逆効果」と学び、「(欧州)議会で多数派、少なくとも議決を左右できるだけの議席の獲得を狙っている」と、プリンストン大学のジェームズは警告する。

 

カプチャンも「改選後の欧州議会ではEU懐疑派のポピュリストが一定の割合を占めるだろう。この問題は早期には解決できない」と指摘した。

 

パウエルによれば、イギリスの「退場」で欧州のさらなる統合という夢が突如、現実になるわけでもない。(中略)

 

こうした事情にもかかわらず、EUは団結してイギリスとの困難な「離婚」に臨み、かえって力を増したように見える。そこに映し出されているのは、ヨーロッパといラ存在をめぐるイギリスと欧州大陸部の考えの違いだ。

 

「ヨーロッパとは単に『市場』を意味するのではないという基本概念で大陸部はほぼ一致している」と、パウエルは語る。「だがイギリスでは、そう考える者は皆無に等しい」

  

19世紀以降、イギリスの対欧州政策は(ナポレオン時代のフランスのような)大国に対抗して、小国と同盟を形成する路線を取った。しかし今の欧州にはEUという大きな存在しかない。

 

国家の主権を取り戻すという大言壮語として始まった政策が完全な屈服で終わりかねないブレグジットの経緯に、将来の歴史家は学ぶべきだ。

 

イギリスは「無風状態の中でマストも舵も失ったヨットだ」と、カプチャンは言う。「漂っているだけで、どこへ進むべきかも分かっていない」

 

対するEUに、より確かな方向性と未来像があることはたぶん間違いない。【42日号 Newsweek日本語版】

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多くの課題・対立を抱えるEUが“確かな方向性と未来像がある”かどうかは問題ですが、少なくとも「無風状態の中でマストも舵も失ったヨット」のようなイギリスの現状に比べたらまし・・・ということです。

 

珍しくEUにとって明るい指摘ですので、そういうことにしておきましょう。

 

ちょっと変わった視点では、旧イギリス植民地がイギリスの混乱ぶりを冷ややかに眺めている・・・という記事も。

 

****英国の混乱は蜜の味?ブレグジット眺めるアジアの旧英植民地****

差し迫る英国の欧州連合離脱(ブレグジット)期限。アジア各地の旧英植民地は、困惑、無関心、気晴らし、あるいは他人の不幸を喜ぶ気分が入り混じった状態でその過程を眺めている。

 

英政府は長年、自国による植民地統治は秩序と安定をもたらし、繁栄を分かち合ってきたとして、大英帝国による征服を正当化していた。

 

英国が植民地支配から撤退した後に問題を抱える国々が新たに生まれ、それらの国との歴史的禍根をぬぐえていない今日でも、その主張は変わらない。

 

ところが今、英国は自分が種をまいた混乱と国内分裂、さらに国際的孤立と今後何年にもわたる経済的苦境の可能性に直面している。特に今月12日に「合意なき離脱」に至った場合はなおさらだ。

 

「香港と呼ばれる英国の植民地で生まれ育った私は、英国人はとても思慮深い人々だと思っていた」と話すクラウディア・モー氏は、香港民主派の議員だ。「けれど元被植民地の一員としてブレグジットの過程を見ていると、これはほとんど茶番だ。悲しくなるほどおかしく滑稽だ。今現在の状況にどうして、どうやって至ってしまったのか。外部の人間にとっては、ほとんど考えられない事態だ」とモー氏はAFPに語った。

 

インドでは多くの人がブレグジットについて「大国として力を振るっていた英国の急激な衰退」の最終章だと捉えていると、同国OPジンダル・グローバル大学国際関係学部の学部長、スリーラム・チャウリア氏はいう。「彼らはもはや見上げるべき金字塔ではない」「沈みかけている船からは誰もが逃げたがるものだと、われわれは感じている」。インド経済は今年、英国を追い越す見通しだ。(中略)

 

インド・ニューデリーでフリーランス・フォトグラファーとして活動するタンメイ氏は、ブレグジットの支持者は忍耐について、インドを見習えるだろうと冗談を言った。「英国のEU離脱に時間がかかっているのは当然だ。英国はインドから出ていくのに何年もかかったからね」 【49日 AFP】AFPBB News

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カザフスタン  ナザルバエフ大統領 電撃辞任後も微妙なロシア・中国との関係を主導

2019-04-08 23:34:25 | 中央アジア

(【2月5日 GLOBE+】より)

 

【独自のアイデンティティーづくりで、ゆっくりとだが変化する中央アジア】

同じアジアにありながら、日本にはあまり馴染みがない中央アジア諸国のイメージは、“旧ソ連圏”“(キルギスを除き)非民主的な独裁体制”といったところでしょうか。

 

そうした中央アジア諸国ですが、ロシアと中国という大国に挟まれ、その間でバランスをとりつつ、ロシア離れを進め、独自のアイデンティティーを確立する取り組みが進んでいるとも。

 

****中央アジアの国々はもはや「旧ソ連圏」ではない****

(中略)

民主主義や安定が課題

それでも「旧ソ連」という呼称は私たちの目を曇らせ誤解を生む。中央アジアは決して変化していないわけではない。特に国家建設に関しては、ゆっくりとだが変化してきた。

 

ソ連崩壊以降、中央アジア各国はそれぞれ独自のアイデンティティーづくりに取り組んできた。

 

中央アジア最大の国カザフスタンは「ユーラシア国家」を自負している。地理的にアジアとヨーロッパの中間にあることから、94年にナザルバエフ大統領が提唱した考えだ。

 

ナザルバエフは14年の演説で、カザフスタンは「ソ連の旧弊」からはるか遠くまで前進したと語り、ソ連的なアイデンティティーに逆戻りする可能性を一蹴。民主化はお粗末な状態とはいえ、自由貿易を受け入れ、市場経済に分類されている。

 

一方キルギスは「中央アジアにおける民主主義の孤島」と広く見なされ、10年4月のバキエフ政権崩壊後、中央アジアで初めて民主的な議会選挙を実現。

民主主義の質はまだ安定しているとは言えないが、ソ連時代の古い中央集権制度から大きく様変わりし、周辺国よりオープンになっている。

 

タジキスタンやトルクメニスタンでは文化面で「旧ソ連」離れが進む。中央アジアで唯一ペルシヤ語系住民が多数派を占めるタジキスタンは16年、タジク語式の姓を復活させるべくロシア語式の姓を法律で禁止。

 

一方トルクメニスタンではニヤゾフ初代大統領が自らを「トルクメニスタンの父」と称し、その威光によるアイデンティティー再建を目指した。ニヤゾフは06年に死去したが、個人崇拝モデルは今も健在だ。

 

中央アジア最大の人口を有するウズベキスタンでは、独立以降、政治的安定と民族間の融和が最大の懸案だ。そのため91年に初代大統領に就任したカリモフは野党と宗教団体に対し強硬策を取ったが16年に死去。ミルジョエフ現政権は相変わらず独裁体制とはいえ、経済の自由化に取り組んでおり、外交面でも開放的だ。

 

中央アジアをソ連時代の遺物扱いするのはもうやめよう。独自のアイデンティティーを持つ新興国家群と考えるべきだ。【2018124日号 Newsweek日本語版】

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【ウズベキスタン 独裁者死去で親族に対する捜査・訴追】

中央アジア諸国のなかでも国際的に影響力があるのは、カザフスタンとウズベキスタンでしょう。

 

ウズベキスタンは、上記記事では独裁的なカリモフ大統領の死後、“ミルジョエフ現政権は相変わらず独裁体制とはいえ、経済の自由化に取り組んでおり、外交面でも開放的だ”とのことで、アメリカとも協調して、カリモフ体制の残滓を清算する動きもあります。

 

****米当局、資金洗浄でウズベキスタン前大統領の娘を起訴 1兆円近く収賄****

米検察当局は7日、ロシア通信大手と共謀して総額86500万ドル(約960億円)を超える賄賂を受け取り、約10年にわたってマネーロンダリング(資金洗浄)を行っていたとして、ウズベキスタン前大統領の娘を「海外腐敗行為防止法」違反で起訴した。

 

ニューヨーク南部地区連邦地検は、FCPA違反で起訴された事例では過去最大級の事件だとしている。

 

起訴されたグルナラ・カリモワ被告は、1990年から2016年に死去するまで旧ソ連圏のウズベキスタンを統治した故イスラム・カリモフ前大統領の娘で、元歌手。ウズベキスタン政府の高官や国連大使を務めた経歴を持つ。

 

カリモワ被告は、ニューヨーク証券取引所に上場しているロシア通信大手MTSのウズベキスタン子会社の元最高責任者で同じく起訴されたベフゾド・アフメドフ被告と共謀し、20012012年にMTSのほか、ロシアで事業展開するオランダの通信大手ビンペルコム(現VEON)、スウェーデンのテリア、これら3社のウズベキスタン子会社から賄賂を受け取っていたとされる。(中略)

 

カリモワ被告は2017年、ウズベキスタンで詐欺と資金洗浄の罪で禁錮5年の有罪判決を受けて自宅軟禁下にあったが、ウズベキスタン当局は今週、軟禁条件に違反したとして同被告を収監したと明らかにしていた。(後略)【38日 AFP】

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【カザフスタンのナザルバエフ大統領 電撃辞任で後継体制づくりを主導】

(電撃辞任したナザルバエフ大統領)

昨日ブログで、北アフリカのアルジェリアやスーダンにおいて、生活苦が続く住民不満が長期独裁政権に対して高まっており、「アラブの春」再現の兆しも・・・という話題を取り上げましたが、状況は中央アジア諸国でも似ています。

 

カザフスタンもナザルバエフ大統領による独裁政治は生活困難に対する住民の不満の高まりに直面しており、その動向を危惧しています。

 

更に、ウズベキスタンで進む上記のような死去した前独裁者に対する清算の動きにも、“明日は我が身”の思いもあるようです。

 

そうした懸念から、ナザルバエフ大統領は先手をうって、自ら電撃的な辞任を発表し、その影響力を残す形で後継者政権を樹立するという対応をとっています。

 

****カザフ大統領退任、30年君臨 親族へ権力禅譲への動き****

中央アジアのカザフスタンで、3月に辞任したナザルバエフ前大統領(78)が、長女のダリガ上院議長(55)ら親族への権力禅譲を視野に入れた動きを強めている。

 

30年近く君臨してきたナザルバエフ氏は、強い権限を持つ安全保障会議議長と与党党首の職に留まった。上院議長から昇格したトカエフ新大統領(65)の任期が終わる来年4月まで院政を敷きながら、次世代の体制づくりを急ぐとみられる。

 

カザフは中央アジアの旧ソ連構成国。ナザルバエフ氏はソ連時代末期の1989年にカザフ共産党第1書記に就任。ソ連崩壊後に独立したカザフで91年から5度の大統領選で圧勝した。

 

2010年には「初代大統領−国家指導者」との特別な地位についた。同氏への侮辱は禁じられたほか、同氏と家族には免責特権も与えらている。

 

同氏の突然の退任の理由としてまず、隣国ウズベキスタンで16年、独裁者だったカリモフ前大統領が在任中に死去したことが指摘されている。

 

後任のミルジヨエフ大統領はカリモフ時代の路線を否定し、カリモフ氏の親族に対する捜査・訴追も本格化させた。ナザルバエフ氏はこれ“反面教師”とし、自身が健康なうちに退任し、政策の継続性や一族の権益を確保するのが得策と考えたとみられる。

 

次に、石油など地下資源に依存するカザフ経済が、市況低迷で成長にかげりが見え始めたことだ。今年2月には貧困層などの間で反政権機運が高まり、初の内閣退陣に追い込まれた。

 

最有力の権力禅譲先として、トカエフ氏の後任の上院議長に就任したナザルバエフ氏の長女ダリガ氏のほか、ナザルバエフ氏の娘婿で富豪のクリバエフ氏ら親族の名が挙がっている。マシモフ国家保安委員会議長ら、ナザルバエフ氏の側近も権力の一角に加わるとの見方もある。

 

大統領などとしてロシアを約20年間統治してきたプーチン氏も、最終任期が終わる24年には70歳を超える。複数の露専門家は「プーチン氏や(旧ソ連諸国の)他の長期指導者らが、退任後も実権を保持する手法として、ナザルバエフ氏とカザフの動向を注視している」と話している。

 

トカエフ氏はロシアの招待に応じ、大統領就任後初の外遊先としてモスクワを訪れ、今月3日にプーチン大統領と首脳会談を行った。両首脳は経済面や安全保障面で協力関係を強化していくことで合意した。

 

ロシアにとって、カザフは地下資源など重要な貿易相手国である上、アフガニスタンや中東に近い同地域は安全保障上の要衝だ。ロシアもカザフも、いずれも国境を接する中国を牽制(けんせい)する狙いもありそうだ。【45日 産経】

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独裁国とは言え、そこまでやるかな・・・という感を抱かせたのは、以下のニュース。

 

****前大統領たたえ首都名変更=カザフ****

カザフスタンのトカエフ大統領代行は20日、大統領を退任したナザルバエフ氏の功績をたたえ、首都の名称をアスタナからナザルバエフ氏のファーストネームである「ヌルスルタン」に変更するよう提案した。

 

カザフの国営通信社「カズインフォルム」は、議会が変更を承認し、「アスタナは公式にヌルスルタンに名称変更された」と報じた。【320日 時事】

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さすがに、“だが「巨額の費用がかかる」などとインターネット上で反対の署名運動が広がっている。”【322日 共同】といった動きもあるようですが・・・。

 

このような見え透いた“歯の浮くような”対応をされてナザルバエフ氏は嬉しいのでしょうか?

独裁者というのはそういうものなのでしょうか?

あるいは、自身への忠誠心を試す試みとして進めているのでしょうか?

 

【ロシア・中国との微妙な関係を維持しながら独自性を主張するという困難な仕事】

いずれにしても、これまでのナザルバエフ氏がそうであったように、後継者もロシア・中国という大国を相手に微妙なバランスをとる外交が求められています。

 

独裁者云々は別にして、ロシア・中国とのバランスをとる手綱さばきに関しては、ナザルバエフ氏は傑出した政治家ではありました。

 

****独裁者辞任は院政への第一歩****

30年君臨した大統領が電撃辞任 経済不振や政治腐敗への不満をかわし、実質的な権力を握り続けるための準備か

 

カザフスタンの初代かつ建国史上唯一の大統領ヌルスルタン・ナザルバエフが319日、辞任を発表した。人口1800万人の中央アジアの資源大国で、権力の不透明な移行プロセスが始まることになる。

 

(中略)「私の今後の仕事は、この国の改革を継続する新しい世代の指導者の出現を支えることだ」

要するに、大統領を辞しても権力を手放すっもりはない、ということだ。(中略)

 

旧ソ連時代末期の89年からカザフスタンを率いてきたナザルバエフは、国家の創始者を自負する。実際、ソ連崩壊に伴う経済と地政学の混乱を乗り切り、カザフスタンを国際社会の一員として認めさせてきた。

 

中国やロシア、アメリカといった超大国とのバランス感覚に優れた有能な政治家でもあり、国全体の生活水準を引き上げた。

 

しかし、突然の辞任の背景には、経済の停滞と、国内で独裁政権に対する不満が高まっているという現実がある。(中略)

 

その矛先をかわすかのように、ナザルバエフは2月21日、内閣を総辞職させる大統領令に署名して、経済政策の成果が上かっていないと批判した。

辞任発表にも、暗い将来に対する民衆の怒りの矢面から逃れようという意図が透けて見える。

 

後継者選びを主導する

(中略)自分のタイミングで辞任することによって後継者選びを舞台裏で主導でき、さまざまな権力を行使し続けることもできると、(英グラスゴー大学で中央アジア問題を研究するルアンチェスキは指摘する。つまり、カザフスタンの将来を導く上で、ナザルバエフは重要な役割を演じ続けるのだ。

 

特に外交では、ロシアのウラジーミループーチン大統領や中国の習近平国家主席など近隣の超大国の指導者との戦略的関係を、今後も維持するだろう。

 

米政府との関係も良好で、18年1月にはドナルド・トランプ米大統領の招きで訪米している。

 

「(カザフスタンの)政治体制が内側から改革できるとは思えない」と、アンチェスキは言う。「カザフスタンは、独裁制の衰退という避けられない段階を迎えている。エリート層は国の自由化や改革ではなく、権力を強化することしか頭にない」

 

羊飼いの息子として生まれたナザルバエフは旧ソ連時代の共産党で力を付け、80年代に政治家として頭角を現した。

 

91年に独立したカザフスタンの初代大統領として、生まれて問もない国を脅かす数々の難局を切り抜けてきた。カザフスタンは世界9位の広大な国土を持ち、豊富な石油埋蔵量を誇る。しかし一方で、旧ソ連の大量の核兵器を受け継いでいた。

 

ナザルバエフはアメリカなどの支援を受けて、全ての核兵器をロシアに移管。国際社会でカザフスタンの独立性を確保した。

 

さらに、米石油メジャーのシェブロンやエクソンモービルなど、欧米へのパイプライン建設に携わる企業と大型契約をまとめてみせた。

 

「振り返ってみれば、ソ連崩壊に伴って生まれた権力者の中で最も有能な指導者だった」と、米ランド研究所上級研究員で、9295年にアメリカの初代駐カザフスタン大使を務めたウィリアムーコートニーは言う。

 

「非化によって(権力の)正続性固めたことは、他国にカザフスタンの独立を尊重させる巧妙な手段でもあった」

 

後継の大統領にとって最優先の課題は、厳しい国際情勢の中での国の舵取りだ。誰が選ばれるにせよ、隣国との付き合いではナザルバエフに頼らざるを得ないだろう。 

 

(中略)カザフスタンはロシアが主導するユーラシア経済同盟と集団安全保障条約機構(CSTO)の一角を占める。さらに、習が掲げる巨大経済圏構想「一帯一路」の要衝の1つでもある。

 

中口との微妙な信頼関係

ロシアと中国は近年、報復主義的および国家主義的な外交政策を強めてぃるが、カザフスタンは両国と強固な関係を維持している。

 

(中略)ナザルバエフはロシアと緊密に連携しながら、その重圧に直面しても、折に触れて独立性を示してきた。ロシアによるクリミア併合に反対する国連総会の決議は棄権した。ユーラシア経済同盟を政治共同体に拡大しようというロシアの思惑にも抵抗している。

 

北京との関係も綱渡りの状態だ。新疆ウイグル自治区の「再教育施設」には数万人のカザフスタン系住民が収容されており、カザフスタン国内で反中感情が高まっている。カザフスタン当局は一部の収容者の解放を働き掛ける一方で、施設の実態を告発している活動家を拘束した。

 

(中略)ナザルバエフが辞任発表後に初めて電話会談を行った相手はプーチンだった。

「ナザルバエフは強力な隣国と信頼関係を築いてきた」と、ストロンスキは言う。「問題は、彼がいなくなった後のことだ」【42日号 Newsweek日本語版】

****************

 

ロシアと一線を画したアイデンティティー確立という面では、ナザルバエフ前大統領は、ロシア語と同じキリル文字を使ってきたカザフ語の表記をラテン文字に切り替える施策をとっています。

 

ロシアとの関係については、2015918日ブログ“カザフスタン ロシアとの微妙な関係 「ナザルバエフ後」の不安もでも取り上げた不安が、現実課題となっています。

 

“ナザルバエフ氏を含め、独立カザフスタンのエリート第一世代には、「旧ソ連諸国の再統合は是である」という基本的な価値観がありました。

 

しかし、ロシアのプーチン政権が、ユーラシア経済連合を自国の国益に沿って過度に政治化していることに対して、カザフスタン国民の不満は高まっているという指摘もあります。

 

カザフでは今日、1991年末のソ連崩壊後に生まれた人々が人口の多数派になろうとしており、今すぐにではないにしても、今後政策の重点がユーラシア統合から主権重視へとシフトしていく可能性もありそうです。”【48日 GLOBE+

 

中国との関係で、上記記事にある“施設の実態を告発している活動家を拘束した”というのは、新疆ウイグル自治区からカザフスタンに不法入国したカザフ系中国人のサイラグル・サウイトバイ(41)のことと思われます。

 

中国のカザフ系住民を含むイスラム教徒弾圧に抗議する世論の後押しを受けて、彼女の身柄を中国側に送還せず、亡命申請者として国内にとどまることを認める“異例”の判決が下されたました。

 

しかし、“その後の展開には不穏な空気が漂っている。サウイトバイの姉妹と友人が拘束されたことだけではない。判決の12日後から、サウイトバイは自身の弁護士によって報道陣を含むあらゆる人との接触を禁じられ、3カ月〜1年かかる難民申請が認められるまで誰も彼女に近づけないという。”【2018828日号 Newsweek

 

「一帯一路」戦略の恩恵にあずかるためには、中国と全面的に対立する訳にもいきません。

 

ナザルバエフ前大統領の後継者は、こうしたロシア・中国との間の微妙なバランスをとりながらカザフスタンの独自性をも主張するという困難な仕事を担う必要があります。

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北アフリカ(アルジェリア・スーダン)でうごめく抗議行動 「アラブの春」再燃? リビアも緊迫

2019-04-07 22:43:34 | 北アフリカ

(スーダンの首都ハルツームの軍本部前で、シュプレヒコールを上げるデモ隊(201946日撮影)【47日 AFP】)

 

【生活苦が抗議デモの引き金に】

20101210日、北アフリカ・チュニジアの一青年の焼身自殺を契機にアラブ世界に広がった「アラブの春」は、発祥国チュニジアでは一定の成果を維持しているものの、その他の国々ではシリア・イエメン・リビアなど、内戦・混乱を惹起する結果に終わったとされています。

 

しかし、強権的・独裁的政治体制が続き、インフレ・失業などの住民の生活苦が改善されないまま放置されれば、同様の抗議運動は繰り返されます。

 

今また、アルジェリアやスーダンなどで生活苦を改善できない長期政権に対する抗議の動きが起きており、「アラブの春」の再来の兆しと見る向きもあります。

 

このうちアルジェリアでは、長期政権を維持してきたブーテフリカ大統領が辞任に追い込まれたのは周知のところですが、下記記事はその辞任発表以前に書かれたものです。

 

****「アラブの春」再び? 中東で広がる抗議デモの嵐****

アラブ諸国では政府への抗議デモが各地で発生しており、その背景には生活苦がある。2011年に発生した政治変動「アラブの春」はその後、シリア内戦や「イスラーム国」(IS)台頭を引き起こしたが、今回の各地での抗議デモも地域の不安定化材料になる危険性を抱えている。

 

82歳の大統領

中東・北アフリカでは政府への抗議デモが広がっている。そのうちの一つ、アルジェリアでは38日、ブーテフリカ大統領の辞任を求める数万人のデモが首都アルジェで発生し、195人以上の逮捕者を出した。

 

82歳と高齢のブーテフリカ氏は1999年から大統領の座にあり、2013年に脳梗塞で倒れて以来、車いす生活を送っている。しかし、それ以前と同様、公の場に出るときには灼熱のさなかでも常にスリーピースのスーツを欠かさない。

 

抗議デモのきっかけは、4月に行われる大統領選挙に、ブーテフリカ氏が出馬を表明したことだった。高齢であるうえ、健康状態さえ疑わしいブーテフリカ大統領による長期政権には、とりわけ若い世代からの批判が目立つ。

 

広がる批判に、ブーテフリカ氏は大統領選挙に立候補するとしながらも、「任期を全うするつもりはない」とも述べ、任期途中で降板することを示唆した。

 

つまり、「すぐ辞めるから5期目の入り口だけは認めてくれ」ということだが、任期途中で辞める前提で立候補するという支離滅裂さは、それだけブーテフリカ政権への批判の高まりを象徴する。

 

黄色いベストの販売を禁止

抗議デモが広がるのはアルジェリアだけではない。

政府への抗議デモは、昨年末あたりから中東・北アフリカの各地で発生しているが、とりわけ先月からはスーダン、ヨルダン、エジプト、モロッコなどで治安部隊との衝突も相次いでいる。

 

このうち、エジプトではフランスで発生した「イエロー・ベスト」の波及を恐れ、昨年末に政府が黄色いベストの販売を禁止している。

 

また、スーダンではバシール大統領が223日、1年間の非常事態を宣言。これによって、「治安を乱す」デモに対する発砲や、デモ参加者を裁判や令状なしで拘留することも可能になった。

 

アルジェリアの生活苦

こうしたデモの広がりの背景には、生活苦がある。単純化するため、アルジェリアに絞ってみていこう。

アルジェリアはアフリカ大陸有数の産油国だが、そのGDP成長率は2010年代を通じて緩やかに減少し続け、2018年段階で2.5パーセントだった。

 

この水準は、伸びしろの小さい先進国なら御の字だが、開発途上国としては決して高くない。

 

資源が豊富であることは、資源の国際価格によって経済が左右されることを意味する。2014年に資源価格が急落して以来、アルジェリアをはじめ、この地域の各国の経済にはブレーキがかかっている。

 

これと連動して、物価も上昇しており、昨年の平均インフレ率は10パーセントを超え、今年に入ってリーマンショック後の最高水準に近付きつつある。

 

さらに、資源経済は雇用をあまり生まないため、失業率は下げ止まっており、昨年段階で11.6パーセントだった。これだけでもかなり高い水準だが、世界銀行の統計によると、1524歳の失業率(2017)は24パーセントで、ほぼ倍だった。

 

冒頭で述べたように、ブーテフリカ大統領に対する抗議デモには若者が目立つことは、これらをみれば不思議ではない。

 

それぞれで事情は多少異なるものの、基本的にはどの国でも、こうした生活苦が抗議デモの引き金になっている。

 

「アラブの春」前夜との類似性

こうして広がる抗議デモには、「アラブの春」との類似性が見て取れる。

2011年の「アラブの春」は、2010年末にチュニジアで抗議デモの拡大によってベン・アリ大統領(当時)が失脚したことに端を発し、同様に各国で「独裁者」を打ち倒すことを目指して拡大した。

 

その背景には、アラブ諸国で民主化が遅れていたことなどの政治的要因もあったが、少なくともきっかけになったのは生活の困窮への不満だった。その引き金は、2008年のリーマンショックにあった。

 

2000年代の資源価格の高騰は、中東・北アフリカ向けの投資を急増させ、インフレを引き起こしていた。ところが、2008年のリーマンショック後、海外からの投資が急に引き上げたことで、これら各国では急速にデフレが進行した。

 

海外の資金に左右される、もろい経済構造のもと、生活を振り回される人々の怒りは、国民生活を放置し、利権と汚職に浸る権力者に向かったのだ。

 

こうしてみたとき、2014年に資源価格が急落して以来、資源頼みの経済に大きくブレーキがかかる現在の状況は、「アラブの春」前夜と共通するところが目立つ。

 

4つのシナリオ

それでは、2010年前後を思い起こさせる国民の大規模な抗議は、中東・北アフリカに何をもたらすのだろうか。「アラブの春」の場合、大規模な抗議デモの行き着いた先は、大きく4つある。

 

・抗議デモの高まりで「独裁者」が失脚する(チュニジア、エジプト、リビア、イエメンなど)
・大きな政治変動は発生しないが、政府が政治改革を行うことで事態を収拾する(モロッコ、ヨルダンなど)
・政治改革はほぼゼロで、最低賃金の引き上げなどの「アメ」と鎮圧の「ムチ」でデモを抑え込む(アルジェリア、スーダン、サウジアラビアなど)
・「独裁者」が権力を維持したまま反体制派との間で内乱に陥る(シリア)

 

今回、抗議デモが発生している各国がこれらのどのパターンをたどるかは予断を許さないが、なかでも注目すべきはアルジェリアとスーダンの行方だ。

 

アルジェリアとスーダンでは「アラブの春」で抗議デモに見舞われた「独裁者」が、「アメとムチ」でこれを抑え込んだ。その意味で、良くも悪くも政治的に安定してきたといえるが、その両国政府がこれまでになく抗議デモに追い詰められる様子は、盤石にみえた「独裁者」の支配にほころびが入っていることを示唆する。

 

テロとの戦いへの影響

それだけでなく、アルジェリアとスーダンにおける政治変動は、「テロとの戦い」のなかで、それぞれ大きな意味をもつ。

 

まず、アルジェリアにはアフリカ屈指のテロ組織「イスラーム・マグレブのアルカイダ」の拠点があり、ブーテフリカ大統領は国内のイスラーム勢力を「過激派」とみなして弾圧することで、西側先進国とも近い距離を保ってきた。

 

ブーテフリカ大統領は若者が抗議デモを行うこと自体は認めながらも、「そこに紛れている勢力が混沌をもたらしかねない」と過激派の台頭に懸念を示すことで自らの地位を保とうとしている。

 

これが権力を維持したい「独裁者」の方便であることは疑いない。とはいえ、「独裁者」の支配のタガが緩んだことで、それまで抑え込まれていたイスラーム過激派の活動が活発化したリビアの事例をみれば、ブーテフリカ大統領の主張に一片の真実が含まれていることも確かだ。

 

一方、スーダンはアルジェリアとは対照的に、アメリカ政府から「テロ支援国家」に指定され、バシール大統領は「人道に対する罪」などで国際刑事裁判所(ICC)から国際指名手配されている。

 

その意味で、ブーテフリカ大統領と異なり、バシール大統領の失脚は欧米諸国にとって好ましいことだろうが、他方で大きな混乱がイスラーム過激派の活動を容易にするという意味では、スーダンとアルジェリアはほぼ共通する。

 

シリアの二の舞?

もはや多くの人は記憶していないが、40万人以上の死者を出したシリア内戦は、もともと「アラブの春」のなかで広がった抗議デモをシリア政府が鎮圧するなかで発生した。その混乱は、イスラーム過激派「イスラーム国」(IS)の台頭を促し、560万人以上の難民を生んだ。

 

そのシリア内戦は、クルド人勢力によるバグズ陥落を目前に控え、終結を迎えつつあるが、そのなかでIS戦闘員の飛散は加速している。IS戦闘員の多くは母国への帰国を目指しているが、なかには新たな戦場を求めて移動する者もある。その一部はフィリピンなどにも流入しているが、アルジェリアやスーダンでの混乱はIS戦闘員に「シリアの次」を提供しかねない。

 

「秩序」を強調して自らの支配を正当化する「独裁者」の論理と、その打倒を名目に過激派がテロを重ねる状況は、どちらも人々の生活を脅かす点では同じだ。シリア内戦が終結しても、中東・北アフリカの混迷の先はみえないのである。【311日 六辻彰二氏 Newsweek

***********************

 

【アルジェリア 「(ブーテフリカ氏の辞任後も)デモを続ける」】

アルジェリアについては、先述のようにブーテフリカ大統領の辞任発表に至っていますが、これで収まるのかは定かではありません。

 

****アルジェリア大統領が辞任 長期政権に抗議デモやまず****

北アフリカ・アルジェリアで4期20年にわたる長期政権を続けてきたブーテフリカ大統領が2日、辞任した。

 

2013年に脳卒中を患ってからは公の場に姿をほとんど見せてこなかったが、5期目に向けて大統領選に立候補したことに市民が反発し、辞任を求める大規模デモが続いていた。

 

辞任は国営メディアを通じて報じられた。ブーテフリカ氏は声明で、「国民の心を静め、よりよい未来を共に築くため」と辞任理由を説明した。

 

抗議運動の広がりを受け、ブーテフリカ氏は5期目への立候補取りやめと大統領選の延期を発表していたが、即時辞任を求める大規模デモはやまなかった。

 

若者中心のデモ参加者らは、高齢者ばかりの現体制を支えるエリート層に強い不満を示し、抜本的な政治改革を求めている。ロイター通信によると、抗議活動のリーダーは「(ブーテフリカ氏の辞任後も)デモを続ける」と話している。【43日 朝日】

**************

 

【スーダン バシル大統領の封じ込めにもかかわらず、抗議デモ拡大】

一方、スーダンの情勢も緊迫しています。

 

****スーダンの反政府デモ、初めて軍本部前に到達 「国民の側に付け」と軍に要求****

スーダンの首都ハルツームで6日、オマル・ハッサン・アハメド・バシル大統領に対する抗議運動のデモ行進が行われ、昨年12月の運動開始後初めて、軍本部前に大勢のデモ隊がたどり着いた。

 

目撃者によると、デモ隊は「平和、正義、自由」とシュプレヒコールを上げながら、バシル大統領の官邸や国防省も入る軍本部施設に向かって行進した。

 

デモ参加者のアミール・オメルさんは、「運動の目的はまだ達成できていないが、『われわれの側に付け』というメッセージを軍に届けることはできた」と語った。

 

医師やジャーナリスト、弁護士らの団体、スーダン専門職組合を中心とするデモ主催者側は先週、6日にデモ行進を実施し、「国民と独裁者、どちらの側に付くのか」態度を明確にするよう軍に求める方針を発表していた。

 

警察は、首都ハルツームおよび複数の州で「違法な集会」があり、ハルツームに隣接するオムドゥルマン市で起きた騒ぎの中でデモ参加者1人が死亡したと発表した。デモの開催を支援した医師の団体は、死亡したのは医療関係者だったと明らかにした。

 

これにより、昨年12月に始まった一連のデモに関連して死亡した人は当局発表で32人になったが、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは子どもと医療関係者を含め51人だとしている。

 

一連の運動開始以来、デモの取り締まりは治安部隊や機動隊が行い、これまで軍は介入してこなかった。デモ隊は6日夜になっても軍本部前にとどまっていた。中には歌ったり踊ったりする参加者もいた。

 

バシル大統領に対する抗議行動は昨年1219日、政府がパンの価格を3倍に引き上げたことをきっかけに始まり、またたく間に全国的な反体制運動に発展。

 

怒れる民衆たちが食料価格の高騰や慢性的な燃料・外貨不足を招いた経済運営の失敗を非難してきた。 【47日 AFP

****************

 

バシル大統領は222日、テレビ演説を行い、全土に1年間の非常事態を宣言し、内閣を解散すると発表、首相と第1副大統領をそれぞれ交代させる「譲歩」の姿勢はみせたものの、デモ隊の辞任要求に応じる姿勢は見せていません。

 

下記のような「力による抑え込み」で抗議運動の沈静化を図ろうとしています。

 

****スーダン大統領、無許可集会の禁止を命令 ソーシャルメディア制限も****

スーダンのオマル・ハッサン・アハメド・バシル大統領は25日、自身に対する抗議行動の終息を目指す諸措置の一環として、当局の許可を受けていない会合や集会を禁止する命令を交付した。スーダン大統領府が発表した。

 

大統領は治安部隊に対し、強制的な家宅捜索や個人に対する身体検査の実施を含む広範な権限を与えた。

 

さらに大統領府は「市民あるいは立憲制に害を及ぼすものについて、ソーシャルメディアを含むあらゆる媒体におけるニュースの公開あるいはニュースのやりとりを一切禁止する」と発表した。(中略)

 

抗議は数週にわたる取り締まりにもかかわらず続き、大統領が22日に非常事態宣言を出していた。

大統領府は今回の命令について「非常事態宣言の一環」としている。

 

一方、全土での反政府運動を主導するスーダン職業団体連合は25日、集会禁止に反対する街頭デモを呼び掛けた。 【226日 AFPAFPBB News

******************

 

上記のような強権的封じ込め策がとられるなかで、今回、軍本部前に大勢のデモ隊が押し寄せるといった事態となっていることは、バシル大統領の威光に陰りが見られるというようにも思われます。

 

【リビア 東のハフタル将軍、首都トリポリに向け進軍 国連事務総長の自制要求も奏功せず】

一方、「アラブの春」でカダフィ政権が崩壊したのちも、統一政府を樹立できない分裂・混乱状態が続いていたリビアは、更に大きな戦火が燃え盛る危機に瀕しています。

 

****リビア首都、武装組織が接近 国連総長の直談判も実らず****

国が東西に分裂した状態の北アフリカ・リビアで、東部を拠点とする武装組織「リビア国民軍」の部隊が、暫定政府が支配する西部の首都トリポリに迫っている。

 

今月には国連が仲介する和平協議が予定されているが、リビア国民軍はすでに首都近郊の都市を制圧し、緊張が高まっている。

 

AP通信などによると、リビア国民軍を率いるハフタル司令官は4日にトリポリへの進軍を命じ、部隊はトリポリの南約80キロのガリヤンを制圧した。

 

これに反発する暫定政府側は、傘下の部隊に「あらゆる脅威に備えろ」と命じ、すでにトリポリ近郊で武力衝突も起きている。

 

リビアでは14~16日、国連の仲介で国家統一に向けた「国民会議」の開催が予定される。リビア入りしていた国連のグテーレス事務総長は5日、ハフタル氏と会談し、進軍をやめるように説得したが、不調に終わった模様だ。

 

ツイッターに「重苦しい気持ちと深い懸念をもってリビアを去る。国連は政治的解決を促し、何が起きてもリビアの人々を支える」と投稿した。

 

また、主要7カ国(G7)外相会議は5日の共同声明で、「リビアでの紛争に軍事的解決はない」とし、全ての関係勢力に軍事行動を控えるよう求めた。

 

2011年にカダフィ独裁政権が崩壊した後、リビアでは新政府ができたが、14年になって東西両地域に分裂。各地の民兵組織による戦闘も散発的に起き、治安が回復していない。【46日 朝日】

**************

 

国連やトルコ・カタールは暫定政府を支える一方、エジプトやUAE・サウジはハフタル氏を支持しており、国際社会の対応も割れています。フランスもハフタル氏に近いとも言われています。

 

国連のグテーレス事務総長がリビア入りしているこの時期に進軍を開始したハフタル将軍の意図は?

暫定政府を支援してきた国連に、その力を誇示し、今後の交渉を有利に運ぼうとするものでしょうか。それとも、本気でトリポリを制圧するつもりでしょうか?

 

リビアに関しては情報が少ないためわかりませんが、“リビアは、アフリカ大陸を脱出する難民の「玄関口」にもなっている。国際移住機関(IOM)によると、17年にリビアなどの中東・アフリカ諸国から船で地中海を経由して欧州に渡った難民・移民は約17万人。リビアが一層の政情不安に陥れば、混乱に乗じた難民流出の勢いが強まる可能性もある。”【46日 毎日】という懸念もあります。

 

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タイ総選挙結果を受けて  「なぜ議会で闘わないのか」というのは誰に対して言うべき言葉か?

2019-04-06 22:33:13 | 東南アジア

(タイの首都バンコクの警察署に到着し、支持者に囲まれる革新政党「新未来党」のタナトーン党首=6日【46日 共同】)

 

【「不正選挙」の疑惑がかかる選挙管理員会への批判】

324日から42日まで、パキスタンを旅行していた関係で、日々のニュースをフォローすることが難しく、時折ニュースサイトで垣間見る程度。

 

そうした中で気になったのは、民政移管に向けてのタイの総選挙。“気になった”というのは、特別関心があるという意味ではなく、目にする記事によって選挙結果の印象が異なるという意味です。

 

“タイ総選挙:タクシン派政党が勝利を主張、公式結果は5月9日までに”【325日 bloomberg

“タイ総選挙、軍主導の政権が優勢 予想外の結果に疑いの声も”【325日 ロイター】

 

端的に言えば、タクシン派が勝ったのか、親軍政勢力が勝ったのか・・・どうも判然としませんでした。

 

帰国後改めて確認すると、“判然としなかった”理由は、単に私の情報量がごく限られていたということだけでなく、選挙管理員会からの詳細な公式発表がなく、そもそも開票集計過程自体になにやら“不明瞭なもの”が漂っていたためのようです。

 

****タイ総選挙「公平に実施されず」市民らから選管への批判高まる****

タイの民政復帰に向けた324日の総選挙で、選挙管理委員会に対する批判が強まっている。

 

市民団体や学生らが「公平に選挙が実施されなかった」と抗議活動を始めると同時に、タクシン元首相派の中核政党「タイ貢献党」は疑惑の解明を求める声明を発表。

 

一方、アピラット陸軍司令官が記者会見で「タイの人々が街頭で戦わないことを望む」と述べ、こうした動きへのけん制を強めている。

 

貢献党の1日の声明によると、選管が選挙当日の24日と、その4日後に発表した投票総数には、約449万票もの差があった。

 

また選管の不手際も目立ち、25日に小選挙区当選者のリストを非公式に発表したが、これに間違いがあり貢献党の獲得議席数が一つ減った。一方、白票などの無効票の合計は約273万票と多い。

 

こうしたことから「票が不正に操作されたのではないか」との疑惑が指摘されている。バンコクでは市民団体などが「選管はいらない」「不正選挙」などと叫んでデモ行進。主催者の一人は「国民の意思は選挙で示された。選管は正しく発表しなければならない」と話した。

 

一方、アピラット司令官は2日の会見で、民主主義が「ゆがめられる」事態が起きていると指摘。59日に予定される選管の公式発表を待つべきだとの考えを示した。【43日 毎日】

*******************

 

****選挙管理委員の辞任求める署名広がる タイ総選挙****

タイで3月24日に実施された総選挙で票の取り扱いなどに不透明、不公正な点があるとして、民主活動家や学生らが、選挙管理委員の辞任や罷免(ひめん)を求める運動を続けている。

 

インターネット上の署名はすでに80万を超え、街頭での署名の呼びかけも広まっている。

 

署名活動は31日夕もバンコクの繁華街であり、民主活動家や学生らが「我々の投票を尊重しろ」「不正をやめろ」などと書かれたプラカードを掲げ、「選管は出て行け」などと、シュプレヒコールを上げた。

 

主催者らは親軍政政党に有利になる様々な不正があった疑いがあると指摘。投票に関するあらゆる情報の開示を選管に要求するとともに、選管委員が速やかに辞任するよう求めた。

 

開票をめぐっては、選挙当日と4日後の発表に整合性がないとの指摘や、いくつかの投票所で票数が投票者の数より多かったとの指摘が出るなど、選管による開票作業に様々な疑問の声が寄せられている。

 

選管は政党別の得票数や各小選挙区の暫定結果は発表したが、比例代表を含めた各政党の議席数や、細かいデータは公表していない。

 

31日の署名活動に参加した学生(25)は「今回の選挙の不透明さに気づいているということを示したかった。様々な方法で不正をしようとしたことは明らかだと思う」と話した。

 

総選挙では、反軍政のタクシン元首相派のタイ貢献党が第1党になる見通しだが、親軍政の国民国家の力党も事前の予想を上回る伸びを見せ、第2党になる見込みだ。政党としての得票数では国民国家の力党がタイ貢献党を上回り、最多となっている。【41日 朝日】

*****************

 

【アピラット司令官は「なぜ議会で闘わないのか」と言うものの・・・】

【毎日】記事にもある、アピラット司令官の発言については、以下のようにも。

 

****「なぜ議会で闘わないのか」タイ司令官、抗議デモに警告****

タイのアピラット陸軍司令官は2日、先月24日の総選挙後、選挙管理委員会による不正などを訴える抗議デモが相次いでいることを念頭に、「なぜルールに従って議会で闘わないのか」と述べ、街頭での抗議行動に警告した。

 

総選挙をめぐっては、票数が投票者の数より多かった投票所があるとの報告が寄せられるなど、選管の票の取り扱いに様々な疑問の声が寄せられている。民主活動家らは、親軍政政党を利する不正があった疑いがあると指摘。情報開示や選管委員の辞任を求める活動を続けている。

 

地元メディアによるとアピラット氏は、各政党は選管の決定に従うべきだとし、「サッカーの試合のようにもしチームが負けたら、ファンもそれを受け入れなければならない」と述べた。

 

選管は選挙の公式結果を発表していないが、軍政のプラユット暫定首相の続投を目指す親軍政勢力と、タクシン元首相派を中心とする反軍政勢力が多数派工作でしのぎを削っている。

 

アピラット氏は軍の政治的中立を強調したが、一方で汚職防止法違反で有罪判決を受け、国外逃亡生活を受けているタクシン氏を念頭に「法の裁きを受け入れず、国外で動き回っている人がいる」と批判した。【44日 朝日】

***************

 

アピラット司令官の発言は「正論」ではあります。特に、タクシン派と反タクシン派が互いに街頭行動で政権を揺さぶり、収拾不能な社会混乱を招いた経緯があるタイでは。

 

「正論」ではありますが、そもそも軍事政権によって軍部等に都合のいいような議会・選挙制度を含む新憲法体制がつくられ、野党・メディアによる政府批判は厳しく弾圧され、しかも選挙自体に“不明瞭なものが漂う”・・・・という状況にあっては、“結果を受け入れ、議会で戦う”ことの意味合いは、日本のような社会と同等に語ることは難しいとも言えます。

 

【圧力のもとでタクシン派善戦 新興勢力・新未来党躍進・・・・か?(今後の選管発表次第ですが)】

でもって、選挙結果は判然としませんが、いろんな形で軍政から圧力・制約を受け、選挙戦途中で王女の首相候補擁立問題で片輪をもがれた状態ともなったタクシン派が、「善戦」したとの評価が。

 

****タクシン派の善戦に終わったタイ総選挙****

「タクシン派」が取り組む政策の起源を考える

 

2019324日、タイの総選挙が終わった。326日付の日本貿易振興機構(ジェトロ)の「ビジネス短信」は、タイの公共放送PBSの報じた選挙結果を伝えており、それによれば、タイ貢献党が135議席で第1党、国民国家の力党が119議席、新未来党が87議席、民主党が55議席となっている。

 

ただし、2017年憲法によれば、首相の選出にあたっては、今回公選された500議席の下院に加えて250議席の上院にも投票権がある。そして、上院は事実上軍政の任命議員によって占められている。

 

その結果、首相選出に必要な議席数は、750議席の過半を超える376議席以上となる。PBSの速報通りであれば、軍政側は、既に369議席獲得しており、52議席を獲得したタイ誇り党との連立や、その他の未定を含む52議席のうちから、7議席を切り崩せば首相を指名することができる。

 

また、そもそも軍政寄りの民主党がどのように最終的な判断をするかは予断を許さない。

 

軍政寄りの民主党は惨敗

以上の情勢を踏まえた上でも、やはりタクシン派の善戦というのが今回の選挙結果の一つの総括であることに変わりないだろう。

 

今回の選挙は、小選挙区で選出される議席を減らしており、小選挙区制の特性を活用してきたタクシン派のタイ貢献党には厳しい選挙制度となっていた。

 

また、民主党が惨敗したことも今回の選挙の一つの総括であろう。同党はタイ貢献党と対立し、一時は親軍政党、タイ貢献党との三つどもえを演じるとも思われた。そもそも、政党でありながら軍政との距離を測りかねていた民主党は、新興政党である新未来党に惨敗したともいえる。

 

現職の強みを生かして軍政支持政党である国民国家の力党が政権を発足させるとしても、やはり国会運営や、次の選挙(?)でタクシン派の動向を無視することはできないだろう。ところで、タクシン派とはそもそもどのような人々なのだろうか。(後略) 44日  高木佑輔氏 日経ビジネス】

*******************

 

上記高木氏の記事は、タクシン派の人気の根源となった「30バーツ医療制度」がどのように実現されたのかが詳述されており興味深いものですが、本旨とは少し離れますので割愛しました。

 

タクシン派というと米の買取り制度のような“ばらまき”的な施策がイメージされますが、そういう面だけではないようです。(“ばらまき”はタクシン派でも軍事政権でも似たり寄ったりですし、誰を対象に“ばらまく”かに、その政権の目指すものがうかがえます)

 

【未来新党党首への卑劣な圧力 「なぜ議会で闘わないのか」】

選挙結果の話にもどると、“タイの公共放送PBSの報じた選挙結果を伝えており、それによれば、タイ貢献党が135議席で第1党、国民国家の力党が119議席、新未来党が87議席、民主党が55議席となっている。”という数字が現実のものになるなら(“不明瞭なものが漂う”選挙管理員会がどのような公式発表をするのかは定かではありませんが)、タクシン派の善戦とともに、新興勢力である新未来党の躍進が目立ちます。

 

完全に老舗政党・民主党を蹴落としたようです。

 

ただ、先ほどの「なぜ議会で闘わないのか」というアピラット司令官への反論にもなりますが、躍進した、かつ、反軍政を明らかにしている新未来党に対し、軍政当局による“議会の外での”不当な圧力がかけられています。

 

****タイ、人気の新党党首に扇動容疑 「政治的動機」と批判噴出****

タイ警察は6日、3月の下院総選挙で大躍進して第3党となるのが確実となっている革新政党「新未来党」のタナトーン党首(40)を首都バンコクの警察署に呼び出し、扇動などの容疑が掛けられていることを告知した。

 

新未来党は、軍政と対立するタクシン元首相派陣営に加わることを表明しており、タナトーン氏に対する訴追に向けた動きは「政治的動機に基づくもの」との批判が噴出している。

 

タナトーン氏は、5人以上の集会が禁止されていたにもかかわらず、20156月に反軍政を訴える集会を開催した活動家らを支援するなどした疑い。タナトーン氏は容疑を否認している。【46日 共同】

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****タイ新未来党党首が出頭、反軍政デモ幹部の逃走手助け容疑を否定****

タイの民政復帰に向けた3月24日の総選挙で、下院第3党になるとみられる新未来党のタナトーン党首が6日、バンコクの警察署に出頭した。2015年に実施された反軍事政権デモにかかわったとして、国家平和秩序評議会(軍政)から扇動罪など三つの容疑で告訴されたため。タナトーン氏は否認した。

 

14年5月のクーデター後、戒厳令が敷かれ5人以上の政治集会が禁止された。タナトーン氏はデモ幹部の逃走を手助けしたなどの疑いが持たれている。

 

「タナトーンを救え」。警察署を取り囲む支持者数百人がシュプレヒコールを上げるなか、タナトーン氏はこの日午前10時に出頭。2時間半後に建物を出て記者団に改めて「無実」を主張した。5月15日までに弁明書を提出するという。

 

支持者の男性(67)は「今ごろ告訴だなんておかしい。タナトーン氏は軍政に攻撃的なので圧力をかける狙いだろう」と話した。

 

新未来党はタクシン元首相派政党「タイ貢献党」と反軍政勢力の中核を担っている。【46日 毎日】

********************

 

このような卑劣かつ露骨な圧力を辞さない軍政当局に対してこそ、アピラット司令官は「なぜ議会で闘わないのか」と言うべきでしょう。

 

 

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トルコ・エルドアン政権  首都・最大都市での地方選敗北 地域バランサーとしての役割を失い不安定要因化の懸念

2019-04-05 23:22:45 | 中東情勢

(トルコ政府はイスタンブールに50カ所、首都アンカラに15カ所の野菜直売所を設け、211日から安売りを開始。まあ、インフレ対策というより、選挙対策でしょう。しかし、両都市とも与党は敗北 【213日 産経フォト】)

 

【米ロを巻き込むパワーゲームで、アラブ・イスラム地域のバランサーの役割を失う危険】

中東世界にあってはトルコ・エルドアン大統領は地域大国として大きな影響力を発揮してきました。

 

それが、下記記事が指摘するような“絶妙な舵取りでバランサーの役割を果たしてきた”と言えるようなものだったかはどうかについては、トルコ・エルドアン大統領自身が地域の不安定化の要因になる近年の印象が強く、従来の“バランサー”という評価にはやや違和感も感じます。

 

それはともかく、近年は“アラブ・イスラム地域のバランサーの役割”をトルコが失いつつあると下記記事は指摘しています。(それは、上記印象と一致します。)

 

その背景にあるのは、エルドアン大統領が仕掛ける米ロ大国との危険なパワーゲーム、ドイツにおけるトルコ移民の問題が顕在化していること、そして北アフリカ・中東で再燃する“アラブの春”の兆候です。

 

****日本のメディアがちっとも報じない、中東トルコの「危険な賭け」****

(中略)

トルコの危険な賭け?!―地域の脆いバランスの崩壊の危機

国際情勢をめぐる世の中のニュースは、日本でも欧州でも、米朝・米中の駆け引きの裏側や、導入部でもちょっといつもより詳しく書いたBrexitを巡る攻防などが主ですが、その裏で起こっている中東地域・北アフリカ地域の大変動の可能性については、まだあまり報じられていません。今回は、この問題についてお話させていただきます。

 

この騒動の夜明けの引き金を引いてしまうかもしれないのは、アラブ・イスラム地域のバランサーの役割を果たしてきたトルコです。

 

トルコを巡る国内外、地域内外の状況次第では、トルコはその歴史的バランサーとしての立場を失うかもしれません。何が起きているのでしょうか?

 

1つ目は、トルコのエルドアン大統領が仕掛けている危険な賭けです。その最たる例が、エルドアン大統領が仕掛ける米ロを巻き込んだパワーゲームです。

 

トランプ政権になるまでは、いろいろとあったにせよ、トルコは、NATO軍の戦略的な基地を提供するなど、アメリカと安全保障上のパートナーとして、地域の安定の要としての役割を果たしてきました。

 

中東地域でいがみ合うイスラエルとイランの攻防は、いつ核戦争に発展してもいいといわれるぐらい、緊張と緩和の繰り返しですが、トルコが地域の要という地政学的な位置に君臨し、両サイドに睨みを利かせていることで、小競り合いこそ起こっていますが、まだ劇的な紛争に発展する手前で止めてきました。

 

それがトランプ政権になり、アメリカ側で、このトライアングルのバランスを無視したような動きが多くなり(これは実はオバマ政権からスタートしている)、米トルコ関係がギクシャクし始めます。

 

実際に、IS掃討作戦におけるクルド人勢力を巡る対立や、アメリカ人牧師の逮捕・勾留事件などのトリガーが何度も弾かれ、米トルコ関係は、以前のような蜜月とは言えなくなりました。

 

そこに入り込んできたのがロシア・プーチン大統領です。飛行機の撃墜を巡る緊張はありましたが、エルドアン大統領はロシアから最新鋭のミサイルS400を購入することに決めたり、シリア内戦や中東地域で激化する「イランvs. サウジアラビア他」の非難合戦や、トランプ政権が仕掛けたイラン包囲網では、ロシアとともにイランの側についたりと、一気にロシア寄りの姿勢を取り、アメリカや他のアラブ諸国を苛立たせる結果になっています。

 

地域による軍事的なバランスを保つという観点からは、形式は異なりますが、トルコはその歴史的なバランサーの役割を果たすことが出来ています。

 

しかし、それを米ロという大国間での微妙なバランスにおいてキープするという危険な賭けに出たことから、非常に難しい舵取りを強いられています。(中略)

 

それに比例するかのように、地域のバランサー・フィクサーとしての立場も以前の様に安定とは言えなくなってきました。そこにカショギ氏をめぐる事件でトルコに弱みを握られているサウジアラビアに付け入ろうとして、トルコ、イスラエル、イランのいびつな安全保障のトライアングルに割って入り、状況はさらに混乱を極めています。

 

その混乱は思わぬところにも飛び火しています。それは2つ目の要因となり得る「ドイツ国内での移民問題の再燃」です。ご存知のように、トルコ国外で最もトルコ人人口が多いのはドイツですが、そのドイツで、政治的に移民問題を巡る対立が深まっています。

 

メルケル首相がシリア難民を受け入れる決定をしたことで、国内での求心力の衰えに繋がり、その後、ドイツの政党は挙って、反移民の流れに傾きました。

 

トルコ人はもともとは移民ですが、すでにドイツ経済に同化しており、シリア難民の問題とは別問題として扱われてきましたが、エルドアン大統領が度々、トルコのEU加盟問題が前進しないことと、移民問題への協力を天秤にかけた“賭け”をメルケル首相とドイツに仕掛けるため、ついに昨年末ごろからでしょうか、この国内における移民問題のターゲットに“トルコ人人口”が加えられてしまいました。(中略)

 

これまでは、エルドアン大統領による介入でドイツ国内のトルコ人たちの動きも制することができており、メルケル首相もそれを知って利用してきましたが、両者ともに今は求心力の衰えが見える中、うまく政治的な安定を保つための仕組みが機能しなくなってきています。

 

その政治的な調整力の衰えが、ドイツによる中東イシューへのシンパシーの衰えに繋がり、エルドアン大統領の中東地域における欧州からの外交的支持の衰えに繋がっています。ゆえにバランサーとしての基盤も少し脆弱化しているといえるでしょう。

 

3つ目の要因は、北アフリカ・中東で再燃する“アラブの春”の兆候です。それは、アルジェリア、スーダンなどの独裁国家での体制への反抗が高まっていることから、他国への混乱の波及が懸念されています。(中略)

 

独裁の綻びは国家破綻の可能性をはらむため、非常にデリケートな調整が必要です。

 

これまで、実は、このようなデリケートな調整の影に、エルドアン大統領とトルコがいました。しかし、トルコ経済の低迷や中東地域でのデリケートなトライアングルへの対応、対シリア、対クルド人対応、そしてドイツ国内のトルコ人をめぐる欧州との攻防など、多方面での綱引きを行ない、自らの調整力に陰りが見える中、混乱の北アフリカの情勢まで調整できる余裕はないのが現状のようです。(後略)。【320日 島田久仁彦氏 MAG2 NEWS

******************

 

上記記事が指摘する点のなかでも、エルドアン大統領の“危険なパワーゲーム”、より具体的にはアメリカとの関係の悪化が国際的には目立ちます。

 

関係悪化の背景には、政敵ギュレンシ師の送還問題、シリアにおけるクルド人勢力の問題、ロシアからのミサイル購入の問題が絡み合っています。

 

ロシア・ミサイル問題では、米国防総省はロシア側に情報が洩れることを懸念し、最新鋭ステルス戦闘機「F35」に関連する機器のトルコへの出荷を停止。アメリカ・ペンス副大統領は「NATOに残るのか?それなら選択が必要」と、かなり厳しい言い様です。

 

****米、NATO残留の是非迫る トルコにペンス副大統領****

ペンス米副大統領は3日、ロシア製の地対空ミサイル「S400」を導入する方針のトルコに対して「北大西洋条約機構(NATO)の加盟国であり続けたいかどうか選択しなければならない」と警告した。米政権幹部が公の場でトルコのNATO残留の是非に踏み込むのは異例で、トルコに導入断念を改めて迫った。

 

NATO創設70周年を記念し4日にワシントンで開かれるNATO外相理事会を前に米シンクタンクの会合で講演。

 

トルコのオクタイ副大統領はツイッターで「米国は選択しなければならない。トルコとの同盟を維持したいのか、友好関係を危険にさらしたいのか」と反発した。【44日 共同】

*****************

 

【かつて「イスタンブールを制する者はトルコを制する」と自ら語ったイスタンブールと首都アンカラで敗北】

上記のような対外的問題以上に政権にとって深刻なのは国内経済問題です。

“3月に入って通貨リラ相場は乱高下が続き、29日にも対ドルで下げた。インフレ率は19%を突破したほか失業率も10%を超えており・・・”【330日 産経】

 

どこの国の政権にとっても、選挙に直結するのは国内経済状況です。

統一地方選挙を控えたエルドアン大統領には、意図的に国民の目を国内経済からそらす狙いの言動もみられました。

 

****トルコ大統領「イスラム教徒攻撃なら棺おけに」豪やNZ反発****

ニュージーランドの銃乱射事件をめぐり、トルコのエルドアン大統領が、イスラム教徒への攻撃が続くならば反撃するとも受け取られる激しい非難を口にし、オーストラリアなどが強く反発しています。

 

イスラム教徒が大多数を占めるトルコのエルドアン大統領は19日、ニュージーランドの銃乱射事件に関連して、第1次世界大戦でニュージーランドとオーストラリアの連合軍が当時のオスマン帝国に攻め入った「ガリポリの戦い」に言及しました。

エルドアン大統領は、「当時、あなたたちの祖父のある者は歩いて、ある者は棺おけで、帰っていった。もし同じことをするならば祖父たちのようにしてやろう」などと述べ、イスラム教徒への攻撃が続くならば反撃するとも受け取られる激しい非難を口にしました。

この発言にオーストラリアのモリソン首相は激しく反発し、「極めて攻撃的で見境のない発言だ。オーストラリアとニュージーランドの兵士を侮辱するものだ」と述べ、オーストラリアに駐在するトルコの大使に抗議して、発言の撤回を求めたことを明らかにしました。

またニュージーランドのアーダーン首相も副首相兼外相をトルコに派遣し、直接対話を行う考えを示しました。

エルドアン大統領は今月行われる地方選挙に向けて、イスラム教徒への攻撃を強いことばで非難することで支持の拡大をはかるねらいがあったとみられますが、外交問題に発展しています。【331日 NHK】

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エルドアン大統領の上記のようななりふり構わぬ取り組みにもかかわらず、与党が首都アンカラ、そして最大都市イスタンブールを落とす(イスタンブールはまだ揉めていますが)という周知の結果に。

 

あらためて、冒頭で指摘されたエルドアン政権の求心力低下を国内的に裏付ける結果にもなりました。

 

****内憂外患、エルドアン大統領に陰り、地方選敗北、対米関係の悪化****

トルコのエルドアン大統領が窮地に追い込まれている。このほど実施された統一地方選挙で、与党候補が首都アンカラ市長選で敗れ、最大都市イスタンブールでも暫定結果ながら敗北するという激震に見舞われた。

 

その上、ロシアの地対空ミサイル導入をめぐり、米国から最新鋭戦闘機F35の部品供給を停止されてしまった。内憂外患のエルドアン氏はどんな手を打つのだろうか。

 

開票への介入も検討?

現地からの報道などによると、異変が起きたのは開票日の331日の夜9時頃のことだった。それまで順調に開票状況を発表していた選挙管理委員会が突然沈黙したのだ。反国営のアナトリア通信も同様に開票発表を停止した。

 

これについて選挙の監視をしていた民間団体の当局者は、エルドアン氏の「公正発展党」(AKP)を中心とする与党連合の敗北が濃厚になり、開票への“介入”が検討されたため、との見方を示している。

 

過去の選挙でも開票の際の不正操作が取り沙汰されており、今回もそうした疑惑が浮上したということだろう。両市の市長ポストは1994年からAKPとその前身の政党が維持してきており、予想を超える劣勢に与党連合が衝撃を受けたのは間違いない。(中略)

 

選挙は全体としてみれば、与党連合の得票率が51.7%と過半数を超え、辛うじて勝利した格好だが、最も重要な2大都市の首長ポストを失ったことが確定すれば、エルドアン氏にとっては手ひどい打撃だ。同氏自身、1994年から同98年までイスタンブール市長だったいきさつもあり、それだけショックは大きい。

 

エルドアン氏の敗北の直接の原因は経済の悪化だ。その低迷ぶりは各指標に如実に表れている。インフレ率は20%を超え、失業率も10%に達している。とりわけ若者の失業率は30%と高い。通貨リラも30%近くまで下落、政府は3月、景気後退を宣言せざるを得なかった。

 

こうした状況に国民の日常生活は厳しさを増し、エルドアン政権への不満がうっ積していた。

 

大統領は野党をテロリストと罵り、遊説の際、最近のニュージーランドのモスク襲撃テロの動画を公開してまでイスラム教徒の宗教心と愛国心に働き掛け、経済問題から国民の関心を逸らそうとした。だが、この争点そらしの戦術はうまくいかなかった。(中略)

 

米説得を無視

しかし、選挙の敗北に塩を塗るようにトランプ政権が動いたのは、エルドアン氏の予想を超えるものだったのではないか。米国は1日、トルコに対する最新鋭ステルス戦闘機F35の関連機器の供給を停止したと発表、トルコがロシアから地対空ミサイル「S400」を取得するのは受け入れられないとの強硬姿勢を示した。(中略)

 

二股戦略が危機に

エルドアン氏が米国の説得を振り切り、ロシアからの兵器システムの導入に踏み切ったのはなぜか。それには大きく言って2つの理由がある。1つは政敵ギュレンシ師の送還問題だ。(中略)

 

エルドアン氏は当初、強権志向でウマが合うトランプ氏ならギュレン師を引き渡してくれるのではないかと思いこんだフシがある。だが、案に反してトランプ政権はギュレン師の送還に応ぜず、完全に当てが外れてしまった。期待が大きかっただけに失望もまた大きく、故に対米関係は悪化の一途をたどった。

 

エルドアン氏はさらに「サウジアラビアの反政府ジャーナリスト、カショギ氏の殺害事件を利用してギュレン師の送還を獲得しようと図った」(ベイルート筋)

 

事件を穏便に解決したい米国から、サウジへの追及を和らげることと引き換えに、ギュレン師送還を成し遂げようとしたが、これにも失敗した。

 

もう1つの理由は、シリアのクルド人に対するトランプ政権の対応への反発だ。

 

トルコにとって、シリアのクルド人はテロ集団と見なす自国の反体制クルド人組織「クルド労働者党」(PKK)と連携する勢力だ。米軍の支援を受けたシリアのクルド人が過激派組織「イスラム国」(IS)を掃 討する中、シリア北部一帯で勢力を拡大したことを安全保障上の深刻な問題として懸念した。

 

トランプ大統領がシリア駐留米軍の撤退を発表した後、米国はトルコに対し、クルド人を攻撃しないよう要求。これにエルドアン氏が激怒し、両国の話し合いは膠着状態に陥った。

 

その後、米国はシリアに400人規模の部隊を残留させる方針に転換したが、エルドアン氏は困った立場に追い込まれた。米部隊に損害を与えかねないため、クルド人への越境攻撃ができなくなったからだ。

 

エルドアン大統領はこうして対米関係が悪化する中、ますますプーチン大統領との関係を深めていき、「S400」の導入にまで踏み込んだ。エルドアン氏にとってみれば、ロシアとの親密な関係を見せつけることにより、米国から譲歩を勝ち取りたいとの思惑もあったかもしれない。

 

だが、今回、米国が事実上、F35の供給停止をトルコに通告、エルドアン氏の米ロを天秤に掛けた「二股戦略」が危機に瀕することになった。生き残りの名人といわれる同氏の出方が見ものだ。【44日 佐々木伸氏 WEDGE

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地方選挙での与党苦戦の背景には、やはり経済問題、それにエルドアン大統領の強権的姿勢があると指摘されています。

 

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地方選の苦戦の背景には、低迷する経済への市民の失望がある。18年に対米関係が悪化したことがきっかけで通貨リラが急落すると、インフレ率は一時25%まで上昇。輸入食料品が大幅に値上がりする一方、所得は伸び悩み、市民の生活水準は大きく悪化した。

 

消費や投資の低迷で、181012月期の国内総生産(GDP)成長率は9四半期ぶりのマイナスに陥った。エルドアン氏は選挙戦中、リラの下落を「外国勢力による操作だ」と主張。トルコ当局は通貨防衛のために巨額の外貨準備を投入したが、かえって市場に不安を広げた。

 

強権的な政治手法も都市部の市民の反発を招いた。20167月の軍の一部によるクーデター未遂事件以降、エルドアン氏は国内の反対勢力や言論機関を厳しく弾圧。17年の憲法改正を経て自らへの権限集中を進めた。政教分離や民主的な価値を重視する都市部の市民は強権化するエルドアン政権への不満を強めていた。【41日 日経】

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【更に対外的に強硬な姿勢に傾く懸念も】

エルドアン氏もイスタンブール市長から首相や大統領に上り詰め「イスタンブールを制する者はトルコを制する」と語っていたように、イスタンブール市長選敗北は与党・エルドアン大統領にとって大きな痛手となります。

 

選挙管理委員会は現在再集計作業を行っていますが、“不正”を印象付けるような方法でこの事態をひっくり返そうとすれば、トルコ国内には混乱が広がります。

 

“エルドアン政権には経済低迷から市民の目をそらすため、対外的に強硬な姿勢に傾く懸念もある”【同上】ということで、冒頭で指摘された地域安定化の“バランサー”ではなく、対アメリカ、対ドイツ・欧州、シリア問題などで、むしろ“不安定化要因”となることも危惧されます。

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アメリカ  「魔女狩り」批判で反転攻勢に出るトランプ大統領が恐れるのはベト・オルーク元下院議員

2019-04-04 23:30:31 | アメリカ

(左傾化する民主党から距離、共和党との和解を唱える47歳の中道派 共和党の牙城テキサス州から現れた「民主党のホープ」ベト・オルーク氏 画像は【41日 JB Press】)

 

【強力な反撃材料を手に入れたトランプ大統領】

323日から一昨日の42日までパキスタンに旅行していたため、この間のニュースについては、ほとんどフォローできていません。浦島太郎状態です。さすがに「令和」になったのは知っていますが。

 

そういう状態で、ポツポツと垣間見たニュースのなかには、うんざりさせられるものが。

モラー特別検察官の報告に関して、トランプ大統領が「勝利宣言」して、再選に向けて始動している・・・という話です。

 

****ロシアと共謀疑惑は「シロ」、トランプ氏再選に追い風か****

2016年米大統領選へのロシア介入疑惑(ロシア疑惑)を巡り、モラー特別検察官はトランプ陣営とロシアの共謀を認定しなかったことが判明した。

 

これによってトランプ大統領は、ロシア疑惑を追及してきた野党・民主党に対する強力な反撃材料を手に入れた形だ。今のところ見通しが厳しい再選に向けた追い風になる可能性もある。(後略)【325日 ロイター】

****************

 

****トランプの勝利宣言が意味するものとは?****

今回のテーマは、「トランプの勝利宣言と民主党の対策」です。ウィリアム・バー米司法長官は324日、ロシア疑惑に関してトランプ陣営とロシア政府の共謀は認定できなかったと米議会に報告しました。

ロバート・モラー特別検察官の捜査報告書は、司法妨害を巡っては判断を示しませんでした。(中略)

 

トランプ大統領は、「共謀はなく司法妨害もなかった。完全かつ潔白が証明された」と自身のツイッターに投稿し、「勝利宣言」を行いました。(中略)

 

さらに、トランプ大統領は記者団に対して「大統領がこのような捜査を受けなければならないのは国家の恥だ」と語気を強めました。自分はロシア疑惑の捜査で22カ月間も、不当に扱われてきたといいたのでしょう。

 

20年米大統領選挙で再選を目指すトランプ大統領は、モラー報告書を最大限活かして、議会民主党を攻撃し、支持者に対して「モラーの捜査は魔女狩りで、ロシア疑惑はでっち上げだったことが証明された」と、強くアピールするでしょう。

 

今後、民主党からの批判を封じ込めるための「攻撃材料」として報告書を活用する可能性は極めて高いといえます。(後略)【326日 海野素央氏 WEDGE】

**************

 

****トランプ氏、再選向け始動 「ラストベルト」行脚 *****
支持率低下に危機感、ロシア疑惑払拭アピール

 

トランプ米大統領が2020年の大統領再選に向けて始動した。28日に再選のカギを握るミシガン州で演説し、ロシア疑惑の払拭や製造業の復活をアピールした。

 

東部から中西部に広がる「ラストベルト」(さびついた工業地帯)で軒並み支持率が下がり危機感を募らせている。ただ「直感任せ」との指摘もある政策決定には支持者の間で戸惑いも広がっている。

 

「ミシガンこそが勤勉に働く愛国者が集う米国の中心地だ」。トランプ氏はミシガン州西部グランドラピッズでの演説でこう強調した。前回16年の大統領選で最後に同地を訪れたことに触れて「最もエキサイティングだった」と指摘。支持者からは「さらに4年間の任期を」との大歓声があがった。(中略)

 

トランプ氏が早々にラストベルトを訪問したのは支持率低下への危機感の裏返しでもある。調査会社モーニング・コンサルトによると、ミシガン州でのトランプ氏の支持率は192月に40%と政権発足時の171月に比べて8ポイント下がった。

 

ウィスコンシン州とペンシルベニア州もそれぞれ6ポイント、4ポイント低い。中国との貿易戦争で製造業や農業に悪影響が及んでいるためとの見方がある。(中略)

 

トランプ氏は巻き返しを狙うが、感覚に任せているとの声も出る政策決定が弊害になりかねない。トランプ氏は今週に入って医療保険制度改革法(オバマケア)を廃止すべきだと突然表明した。

 

支持基盤の保守層受けを狙ったとみられるが、中間選挙ではオバマケア死守を掲げた民主が躍進した。米メディアによると、ペンス副大統領やバー司法長官が難色を示したが、トランプ氏やマルバニー大統領首席補佐官代行が押し切った。

 

「代替策を見せてほしい」。老後生活を送るウェスレー・ホワイトさん(67)はオバマケア廃止に賛成しつつも、政権や共和に注文をつけた。廃止を主張するだけでは責任を果たしたとはいえないとの考えがにじむ。トランプ氏は「保険料をより安くするプランを示す」と説明するが、その具体策は見えていない。(後略)【329日 日経】

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なお、ロシア疑惑捜査をめぐりバー司法長官が示した「シロ」判断については異論も出ていますが、いったん「シロ」「魔女狩り」といった方向に向いた流れは大きくは変わらないようにも思えます。

 

****トランプ氏に「不利な内容」も=疑惑捜査結論で検察不満―NYタイムズ****

米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は3日、トランプ政権のロシア疑惑捜査をめぐりバー司法長官が示した結論について、モラー特別検察官のチーム内に不満が出ていると報じた。捜査結果が「(バー氏の結論より)トランプ大統領に不利な内容」であるにもかかわらず、「(結論は)適切に描写していない」ためだという。(後略)【44日 時事】

******************

 

もともと、有権者の50%がモラー特別検察官率いる捜査を「政治的な魔女狩り」と見なしているとする調査もあります。

 

まあ、それはそうでしょう。いかなトランプ氏といえども、明確にロシアと共謀して・・・ということはないでしょう。

ただ、ロシアにつけいる隙をみせるような脇の甘さ・うかつさ・素人ぶり・判断の甘さ・自覚のなさ等々が明らかになれば、それを梃に・・・という期待もありましたが。

 

4年でも耐えられない長さなのに、8年となると・・・。

 

あまり大きな声で言う話ではありませんが、正直なところ、日本の首相が誰になろうと、安倍首相だろうが枝野氏だろうが、常識的な枠組みのなかで動くことが予想されますので、現実にとり得る選択肢は限定され、“良くも悪くも”あまり大きな変化はないようにも思えます。(政策的なレベルというよりは、個人的な好き嫌いのレベルの差異はありますが。また、任期中に経済的な変化あるにしても、それは政策的なものというよりは、経済自体の自律的な動きでしょう) 日中・日韓関係以外の国際情勢への影響もほとんどないでしょう。

 

一方で、アメリカ大統領が“常識にとらわれない”「直感任せ」で、その巨大な力を振り回すトランプ大統領になるか、他の人物になるかで、世界の安全保障、経済、環境等の種々の問題が大きく変わります。

 

flyover peopleの心をつかんだトランプ氏】

「ラストベルト」での支持率が下がっているとの調査もありますが、岩盤支持層の健在を示す報道も多々あります。

 

****「無罪確定」だと喜ぶトランプ氏の支持基盤 根深いワシントン不信****

米アーカンソー州の人たちは、ムラー捜査は「魔女狩り」だと思っていたし、特別検察官の捜査報告書の結論を大いに歓迎している。ドナルド・トランプ米大統領を深く敬愛し、その分だけワシントン政界や特別検察官を深く疑っている。

 

ジョイス・スミスさんは、定年退職するまで看護師だった。オクラホマ州内を車で移動していた24日、報告書の内容を知った。友人からのテキストメールでニュースを知り、運転していた夫ウォルターさんに伝えた。夫妻はムラー氏の結論に大喜びした。

 

ワシントンの連邦議会の民主党やリベラル派などからは、捜査継続を求める声が上がるかもしれない。しかしジョイスさんは、アーカンソーに住むほとんどの人が自分たちと同意見だと言う。

 

「飛行機が上空を通過する地方の住人(flyover people)」と、ジョイスさんは自嘲する。「国の中央部にいて何かと飛ばされ、無視される人たち」。トランプ氏に言わせると、「忘れられた人たち」だ。

 

この人たちこそ、トランプ大統領の揺るぎない支持基盤だ。「トランプは無罪放免だ」とウォルターさんは言った。同じように、この土地の人たちはムラー報告書の結論を大いに歓迎した。

 

飛行機に通過される地方、フライオーバー・カントリー。アメリカの中心部を知る人たちにはおなじみの風景の中、スミス夫妻は車を走らせた。アメリカの町村や農村部に特徴的な、困窮と我慢強さと愛国心。それはアーカンソー州の西部や中心部でも、あちこちで目に入る。(中略)

 

それでもこの町に住むほとんどの人は、スミス夫妻に似ている。大統領を信じて、特別検察官も連邦議会もその他ワシントンの住人はすべて、大統領の邪魔になるだけだと考える、「忘れられた人たち」だ。

 

ワシントンの連中は、誰が自分たちのボスなのか忘れている」とジョイス・スミスさんは言う。「国民の私たちなのに。私たちに選ばれて、あそこにいるのに」。【41日 BBC】

*****************

 

問題は、トランプ大統領の「直観的」施策がflyover peopleのためになるのか?というところですが。

それにしても、トランプ大統領は実に巧みにflyover peopleの心を鷲頭づかみにしています。

 

【本命バイデン元副大統領のセクハラ疑惑】

一方の民主党ですが、共和党が保護貿易・同盟関係を軽視したアメリカ第一といった本来の共和党の考え方とは異なるトランプ氏に引きずられているのと対照的に、大統領選挙に名乗りを上げた面々を見ると、前回選挙のサンダース氏のような左傾化した急進的リベラリズムに引き寄せされているのは周知のところです。

 

そうしたなかで、いわゆる中間層にも受けがいい「勝てる候補」とも見られていたバイデ前副大統領にセクハラ疑惑が出ているのも報道のとおり。

 

****民主党の本命バイデン氏にセクハラ疑惑「後頭部にキス」****

2020年米大統領選の民主党の候補者指名争いへの出馬が確実視され、世論調査でもトップを走るジョー・バイデン前副大統領(76)にセクハラ疑惑が浮上した。(中略)

 

疑惑は3月下旬、ネバダ州の元州議会議員ルーシー・フローレス氏が雑誌に寄稿したことがきっかけ。フローレス氏は14年、選挙運動で応援に来たバイデン氏に背後から髪の香りをかがれ、後頭部にゆっくりとキスされたという。「何が起きているのか理解できなかった」と語っている。(中略)

 

しかし、4月1日には別の疑惑も発覚。10年前に下院議員の選挙を支援していた女性が、バイデン氏から鼻をこすり合わせるような接触を受けたと告白した。この女性は声明で「(バイデン氏は)出馬をあきらめ、才能と資格をもつ女性候補を応援するべきだ」と述べた。

 

これまで、民主党トランプ大統領の女性を蔑視するような言動を激しく批判してきた。党内の、しかも大統領候補の「本命」から出たセクハラ疑惑に戸惑いを隠せない。(後略)【43日 朝日】

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バイデン氏は「今後はもっと気をつけて他人の個人的スペースを尊重するよう留意します。それが自分の責任だし、その責任を果たします」との謝罪ツイートをしていますが、トランプ大統領は「触って楽しんだか?」とバイデン氏を嘲笑し、“不適切な接触の告発を広めているのは民主党内左派の画策だろうと述べた。トランプ氏は2日夜に共和党全国委員会の集まりで、「社会主義者がしっかり面倒見てやってる。がっちりつかまった」とバイデン氏をからかった。”【44日 BBC】とも。

 

バイデン氏については、昨年の中間選挙の際にジョージア州の知事選挙に出馬して惜敗しつつも全国的な知名度を高めた黒人女性のステーシー・エイブラムス氏がバイデン氏から副大統領候補を打診され断ったと暴露した件も話題になっています。

 

****突如騒がしくなった予備選レーストップのバイデン周辺****

(中略)今回の騒動は、あらためて民主党に「働き盛りの年齢」で「党内宥和のできる中道左派で、左派政策にも実行可能な中道政策にも理解が深く」「トランプ時代を帳消しにできるような女性か有色人種の新鮮味のある本命候補」というのが「いない」ことを浮き彫りにしています。民主党の予備選は、もうこの時点で泥仕合の様相を呈してきました。(後略)【44日 冷泉彰彦氏 Newsweek

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【トランプ大統領が本能的な嗅覚で恐れる民主党のホープ】

ただ、トランプ時代を終わらせるのが“女性か有色人種の新鮮味のある本命候補”か?という点では疑問も。

そうしたリベラル色の強い候補では、民主党内では勝てても、本選ではflyover peopleはおろか、中間層の把握も困難かも。

 

バイデン氏にしても、仮に上記のようなスキャンダルがなかったにしても、いささか「昔の名前で出ている」感も。

 

そうしたところで期待されているのが、先の中間選挙において共和党王国テキサスで現職テッド・クルーズ上院議員をあと一歩まで追い詰めたベト・オルーク氏です。

 

****オルーク元下院議員が本格始動 米大統領選の民主党指名候補争い****

2020年米大統領選に向けた民主党の指名候補争いで、ベト・オルーク元下院議員(46)が30日、地元の南部テキサス州エルパソで開いた集会で出馬を正式に表明し、選挙戦を本格始動させた。

 

トランプ大統領の「恐怖や分断を利用する」政治手法を批判。「私たちは何においても、まず米国人だ」と述べ、米社会の結束を訴えた。

 

<「オバマの再来」米民主党・オルーク氏>

昨年の中間選挙の上院選で現職有力議員に肉薄、一気に注目を浴びたオルーク氏は、ソーシャルメディアを駆使した草の根選挙を展開する戦略で、陣営によるとこの日は全米1000カ所超で支持者が演説中継の「観戦パーティー」を開いた。

 

エルパソ市中心部の演説会場にも数千人が集まり盛り上がりをみせたが、オルーク氏には政策の具体性がないとの批判もある。(中略)

 

ベトが全米の注目を浴びたのは、先の中間選挙で下院から上院に鞍替えを試みようと上院選に出馬したとき。

2016年大統領選に立候補したことのある現職テッド・クルーズ上院議員(共和党=48)と最後の最後まで激しいつばぜり合いを演じた時からだ。

 

クルーズ氏も共和党内では若手ナンバーワン。議会では司法委員会や外交委員会で頭角を現している。

テキサス州は大統領選ではロナルド・レーガン氏(第40代大統領)が19980年に勝利して以来、2016年のトランプ氏まで36年間、常に共和党候補を選んできた「共和党王国」。

 

そこでロルーク氏は結局はクルーズ氏相手に20万票差で負けたとはいえ、得票数402万票(48.3%)を取った。これは画期的なことだった。

 

トランプ氏をうならせた「ソーシャルメディアの申し子」

ドナルド・トランプ大統領(72)も「テキサスの戦い」を重要視し、クルーズ候補応援に駆けつけた。その際、驚かされたのがロルーク氏の集金力だった。

 

今年3月、大統領選への立候補を表明した際にも表明後の24時間以内に610万ドル(約68000万円)の献金を集めて並み居る民主党候補たちを愕然とさせている。(中略)

 

ロルーク氏は、10代の頃には悪名高いハッカー集団に属したり、パンクミュージックのバンドを結成したり、コロンビア大学在学中には下院議員の臨時秘書をやったり、様々なことに手を染めてきた。

 

ティーンエイジャーの頃には飲酒運転も含め警察に2回ご厄介になっており、選挙のたびにライバルからは批判されてきた。しかし、「逮捕されたことで善良な市民としての責任を痛いほど学んだ。反省している」の一言でかわしてきている。(中略)

 

卒業と同時にインターネット会社を立ち上げ、オンライン新聞を発行するなど、起業家精神旺盛だった。この頃からソーシャルメディアは彼にとって自分の庭のような存在だった。

 

ところが金儲けにはあまり執着せず。32歳の時に地元エルパソ市の市長選に打って出た。

 

この際、威力を発揮したのがソーシャルメディアを使った人脈作りや票の掘り起こしだった。

 

またラティーノ有権者を引きつける流暢なスペイン語は強力な武器だった。なんと地元ラティーノ商工会議所のメンバーにすらなっているのである。

 

集金力+ソーシャルメディア+スペイン語――2012年の連邦下院議員選の時も、2016年の上院選の時もこの「三種の神器」が武器となった。

 

さらにオルーク氏にはもって生まれた人懐っこさと実直さがあった。

選挙演説も用意したスピーチを棒読みなどしない。集まった人たちの顔を見ながらその場そば場で即興的に話をする。(中略)

 

トランプ氏が「壁」遊説でエルパソを選んだわけ

(中略)トランプ大統領は、議会民主党の反対を押し切って着工しているメキシコ国境沿いの「壁」の重要性を国民に訴えるため、211日、テキサス州を遊説した。その時選んだ場所はなんとエルパソだった。(中略)

 

「壁」の重要性を説くなら不法移民による実害の出ている場所に行くべきだろう。エルパソは全米でも最も治安が安全な都市。凶悪犯罪は2009年に壁建設が着工される前から減っている。

 

それなのになぜエルパソを選んだのか。

国境沿いに「壁」を作ることに真っ向から反対してきたオルーク氏の地元に乗り込み、叩くのが目的だったことは明らかだった。

 

トランプ氏:昔の名前で出てくる連中は恐れるに足らず

2016年大統領選の時にトランプ選対本部の首席スポークスマンを務めた選挙戦略家のジェイソン・ミラー氏は、トランプ大統領の本心をこう明かす。

 

「トランプ氏にとっては、オルーク候補は民主党エスタブリッシュメントから昔の名前で出てくるような(One of the recycled Democratic establishment candidates)ジョー・バイデン前副大統領(76)やエリザベス・ウォーレン上院議員(69)、バニー・サンダース上院議員(77)といった古顔よりも手ごわい対抗馬になるだろう」

 

先の中間選挙で当選した下院の新人議員は概して過激派リベラルが多い。政策論争でも左傾化する傾向にある。それが民主党大統領候補指名にどう響くか。党執行部の中には憂慮する向きが少なくない。

 

というのもあまりにも過激派リベラル候補を選ぶようなことになれば、一般選挙民の中にはこれを嫌うものも出てくる。特に無党派層の保守的な票はトランプ氏に流れる公算大だ。

 

そう見ると、保守的なテキサス州で保守票を集めてきたロルーク氏の中道主義、共和党との共存、連携主義は、大統領選で勝とうとする民主党にとっては不可欠な選択肢になってくる。

 

民主党の選挙専門家の一人は筆者にこう指摘している。

(中略)「バイデン、サンダース、この2人がいつまでもフロントランナーで走っているのを見て一番喜ぶのはトランプ氏だろう」

 

「今後オルーク氏が支持率を上げてくれば、バイデン氏は自分の票をそっくりオルーク氏に譲るに違いない」(後略)331日 毎日】

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パキスタン  カーン首相による“中国依存見直し”はあるものの、やはり必要なチャイナマネー

2019-04-03 23:05:56 | アフガン・パキスタン

(【331日 GULF NEWS】グワダルの国際空港起工式に参加したカーン首相 左手前は中国大使でしょうか?)

 

【中国だけでなくサウジ・アメリカとの関係も】

昨日、パキスタン・フンザ方面の観光旅行から帰国しました。

周知のように、パキスタンは近年、中国との関係を強化しています。

****パキスタン、中国から21億ドルの財政支援 25日までに ****

パキスタンが(3月)25日までに、中国から約21億ドル(約2300億円)の財政支援を受ける見通しとなった。

同国の外貨不足は201810月時点で120億ドルにのぼる。すでにサウジアラビアから60億ドル、アラブ首長国連邦(UAE)から30億ドルの支援を取りつけ、中国と国際通貨基金(IMF)にも支援を求めていた。 

(中略)パキスタンは自国内で広域経済圏構想「一帯一路」の一部事業を進める中国に支援を要請していたが、具体的な支援額は明らかになっていなかった。 

パキスタンの外貨準備高は315日時点で約88億ドルと、1年前の約116億ドルから2割強減っている。外貨準備高は少なくとも月間輸入額の3カ月分が必要とされるが、現在は輸入額の2カ月程度の水準で、対外債務を返済できなくなる懸念が高まっていた。 

すでに支援を表明した中東の2カ国に加え、中国の支援で合計110億ドルの外貨が積み増しされる計算で、パキスタンの対外債務の返済が滞るリスクはひとまず後退した。同国はIMFにも支援を要請したが、合意に至っていない。26日にIMFの交渉団が同国を再び訪問する予定だ。【323日 日経】

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結局のところ、チャイナマネーへの期待ですが、一方で、もとから関係が深いサウジアラビア(パキスタンの核開発はサウジアラビアからの資金によるもので、有事にはサウジアラビアに核兵器を提供する密約があるとも言われています)、またアフガニスタンのイスラム過激派へのパキスタン国軍の宥和的な対応を批判して関係がギクシャクするアメリカなどとの間でバランスを維持することにも腐心しています。 

****パキスタンと「関係大幅改善」=アフガン和平への協力評価か―トランプ米大統領****

ランプ米大統領は22日、テロ対策をめぐって冷え込んでいたパキスタンとの関係について「大幅に改善した」と述べた。アフガニスタン駐留米軍の撤収を見据えて進めている反政府勢力タリバンとの和平交渉に、パキスタンが協力的な姿勢を示していることを評価したとみられる。【223日 時事】 

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これまでタリバンを支援してきたとされるパキスタン国軍が本当に方針を変えたのかは疑問はありますが、イスラム過激派へ厳しい姿勢をとるカーン首相の姿勢への評価や、カーン首相のもとで国軍も以前とは違っているといった声も旅行中に耳にはしました。(イスラム過激派の力が強く、政府の支配力が十分でないとされていた北西部地域から国軍によって過激派が一掃されて、治安は大幅に改善されたは事実のようです。) 

【カーン首相の中国依存見直し策】

バランスに腐心するなかで、カーン首相は中国との関係を、より具体的に言えば「一帯一路」関連事業について、見直しを行っているとも言われています。 

もし、そうした中国との関係見直しが本格化すれば、中国にとっては「一帯一路」の中核に位置するパキスタンとの関係見直しということになり、その影響は大きなものがあります。

****一帯一路の生命線、パキスタン経済回廊計画暗礁へ****

マレーシアに続きパキスタンも、中国の融資額12位が反旗翻す?  

かつて、世界に名を轟かせたクリケットのスター選手だった政治家と92歳で首相に再び返り咲いた老練の政治家――。 

東南アジアで今、域内に改革を呼ぶ新しいASEAN(東南アジア諸国連合)を象徴するリーダー2人がいる。パキスタンのカーン首相とマレーシアのマハティール首相だ。 

両者とも昨年後半に選挙で勝利し、その後相互訪問も果たしている。公私ともに長年親交が深い。 

この2人の最も特徴的な共通点は、大国を翻弄させるその巧みな“大国操縦力”にある。 

昨年5月に61年ぶりに初の政権交代を果たして首相として再登板、「新マレーシア」を引っ提げるマハティール首相。ナジブ前政権が蜜月だった中国の習近平政権が推す一帯一路の大型プロジェクトの延期や中止などの見直しを打ち出した。 

人口わずか3300万人の“小人”が14億人の巨人を翻弄してきたのは、国際社会でも周知のことだ。 

一方、マハティール首相の息子ほどの65歳という年齢のパキスタンのカーン首相は、元クリケットのスーパースターだった。そのカリスマ性から若者と中間層の間で絶大な人気を誇る。 

昨年7月の総選挙でパキスタン正義運動(PTI)を率いて勝利し、8月、新首相に選ばれた。 

政策構想「新パキスタン」を打ち出し、危機的な債務状況のもと緊縮財政を敷き債務削減に取り組む一方、貧困対策に精力を注いできた。 

カーン氏は「パキスタンは、借金と外国からの援助で生活するという悪しき慣習を長年続けてきた。こうした状況で繁栄できる国は存在しない。自分の足で立ってこそ、国家だ」と力説、債務削減の重要性を訴えてきた。 

外貨準備高は昨年50%近く下落し、80億ドル前後をかろうじて維持しているものの、一帯一路のインフラ事業などで膨らむ対外債務は1000億ドルを超える。 

「貿易赤字の3割強は対中赤字で、さらに対外債務の4割強が、中国からの融資」(中央銀行関係者)。 

まさに、典型的な中国への依存過多型国家といえる。カーン氏は首相就任後、中国からの財政支援を受ける一方で、実はしたたかに「脱中国」も進めてきた。 

パキスタンとマレーシアは、中国による一帯一路融資額では、アジア諸国の1位、2位を占める。中国にとっては最も重要な「一帯一路支援国家」なのだ。 

(中略)一帯一路に関するマハティール氏の本音は、「国益にかなう限り、一帯一路を有益に活用する」ということなのだ。 

言い換えれば、国益にならない場合は、容赦なく切り捨てるか、自分が首相である間は中国の面子を保ちながら「延期」という策をとる。 

「大国に物申すマハティール首相は若い頃から、私の人生の師匠」カーン氏はこのように言い切る。自他ともに認めるマハティール信仰者である。 

現在、中国の国境付近の開発地域で、一帯一路の生命線とも称される「中パ経済回廊(CPEC)」に関連する約400にも及ぶ関連プロジェクトの公共事業計画の見直しを進めている。 

そもそも、中パ経済回廊は中東からの原油や物資を中国のウイグル自治区までパイプラインや陸路で輸送するのが主目的。 

そのため中国・北西部の新疆ウイグル自治区カシュガルから、アラビア海に面するパキスタン南西部のグワダルを結ぶという一帯一路の最も要の大プロジェクトなのだ。 

総延長は3000キロにも達し、中国にとっては悲願の「中東へのゲートウエー」確保にも位置づけられている。 

もし仮に、米中が軍事衝突してマラッカ海峡が封鎖されたとしても、原油などのエネルギーはこの回廊を通じて確保が可能になるわけだ。 

中国にとっては一帯一路の運命がかかっている事業ともいえ、万が一の場合には習近平主席の命取りにもなりかねない。 

そのため、中国政府は前政権の中国との腐敗や汚職に関連した一帯一路プロジェクトの見直しを掲げたカーン氏の就任後、2週間ほどでパキスタンをスピード訪問。その大役を担ったのが、王毅国務委員兼外相だった。 

その際、同国へのインフラ整備を引き続き支援する考えを表明する一方、パキスタンの危機的対外債務の状況は「中国の一帯一路とは『無関係』」と、中国によるパキスタンへの「債務の罠」疑惑を一蹴した。 

一方、カーン氏は中国から引き続き支援を仰ぎながらも、就任後初の訪問先には、サウジアラビアを選んだ。(中略) 

カーン氏が最初の訪問国を中国ではなくサウジを選んだのは、まさに戦略的判断といえる。

「中国とサウジを天秤にかけ、外交の梃子とした戦略が見え隠れする」(外交アナリスト)。サウジからは60億ドルという巨額の資金協力もちゃっかり取りつけた。(中略) 

一方、カーン首相は中国も昨年11月初旬に訪問。習近平国家主席や李克強首相と会談。「中国はパキスタンの理想国家」と中国を絶賛する演説を披露し、一帯一路への協力を表明し、財政支援を約束させた。 

しかし、蜜月を演出する一方で、「脱一帯一路」の時計の針は動き始めている。

パキスタン政府が、首相の中国に対するラブコールの熱唱から2か月経った今年1月、中パ経済回廊の重要な柱の一つを中止する方針を決めた。 

総投資額600億ドルに及ぶ石炭発電プロジェクトで、「すでに供給電力を十分確保できる」とし、プロジェクト中止を中国政府に伝えたという。 

さらに、一帯一路のパキスタン最大プロジェクトで、カラチと北西部ペシャワルを結ぶ1872キロの鉄道路線(ML-1)改修計画も、暗礁に乗り上げている。 

パキスタン政府は、当初の予算を82億ドルから、いったん62億ドルに下げると発表したものの、巨額資金によるひも付き融資を警戒し、現在では42億ドルにまで減額したいとしている。 

中国の投資を警戒するカーン首相の意向が反映しているといわれる。(中略) 

先の石炭発電やML-1計画の暗礁で、一帯一路の生命線「中パ経済回廊」計画そのものが頓挫する可能性も浮上してきた。 

カーン首相は「パキスタンの400近い一帯一路プロジェクトが『政治的動機』である」と非難し、一帯一路プロジェクトの見直しを進めていく構えだ。 

中国政府は、425日から3日間、各国首脳が協議する2回目となる一帯一路の国際フォーラムを開催する。 

同会議を反転攻勢に出る絶好の機会にするという野心を見せるが、「中国の、中国による、中国のための」一帯一路への反旗を阻止することは、簡単ではなさそうだ。【327日 末永 恵氏 JB Press

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【それでもチャイナマネーを必要としているパキスタン】

上記のような、中国とサウジ・アメリカなどを天秤にかける見直し、「債務の罠」への警戒感はあるのでしょうが、1週間ほどの観光旅行の印象ととしては、やはり圧倒的な中国の存在感です。 

今回旅行で使用したカラコルムハイウェイ自体が中国支援によるものですし、新たな道路の建設、巨大ダムの建設などが各地で進行しており、中国建設関連企業の施設・宿舎をあちこちで目にします。 

「一帯一路」についても、“見直し”はあっても、基本的には(国益にかなう限り、地元の人々に恩恵を与えるものである限り)これを維持していくと思われます。 

中国メディアはパキスタンとの関係について以下のようにも。

 

****パキスタン、「中国・パキスタン経済回廊」を称賛 地域一体化の中心に****

パキスタンのバクティヤール計画・開発・改革相は15日、「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」が周辺地域の一体化と相互接続強化に大きな好機をもたらすとの見方を示した。

経済協力機構(ECO)が同日に首都イスラマバードで開催したシンポジウム「成果と挑戦」に出席したバクティヤール氏は、CPECの進展に伴い、パキスタンは地域の貿易と活動の中心となったと述べた。(後略)【318日 新華社通信】

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この“CPEC”(中国・パキスタン経済回廊 China-Pakistan Economic Corridor)という言葉は、ガイド氏から毎日のように耳にしました。ちなみにガイド氏は「中国第一」の中国の姿勢にはやや批判的で、日本びいきの方でした。 

なんだかんだ言いつつも、中国の存在が圧倒的なこと、つまりチャイナマネーによるインフラ投資をパキスタンが必要としていることは、わずか1週間でもパキスタン国内を旅行すれば一目瞭然です。 

未整備の道路が車内でダンスを踊るような悪路なのに対し、チャイナマネーで整備された道路は滑空するような滑らかさです。 

フンザ方面では停電は毎日で、ホテルの自家発電機も深夜は切られていしまいますので、夜の室内は“真っ暗”です。中国支援の巨大ダム(水没問題などはありますが)が完成すれば電力事情も改善するでしょう。 

ホテルでバスタブにお湯を貯めようとすると、茶色い水で底が見えません。地下水ではなく、氷河の水をそのまま使っているとか。健康面での悪影響も多々あるようです。

 

旅行中、「一帯一路」「CPEC」の中核である南部港湾グワダルで、カーン首相や中国大使が参列する空港起工式が行われました。 

下記はそれを報じた英語記事をgoogle翻訳したものです。(一部、加筆・修正しましたが、大体の趣旨は、そのままで理解できます)(google翻訳はたいしたものです!)

 

****パキスタンのグワダル国際空港は国で最大になります****

新グワダル国際空港は、世界最大の旅客機、エアバスA380を含む大型航空機に対応する、パキスタンで2番目の施設になります。 

現在、昨年オープンしたイスラマバード国際空港のみがA380に対応しています。ラホールやカラチの空港を含む他の大空港は、この大物を処理するための設備が整っていません。(中略) 

金曜日、パキスタンのイムラン・カーン首相が新グワダル国際空港の起工式を行った。

(中略)イムラン氏は、「今後数ヶ月、数年で、パキスタンの成長の原動力となるだろう」と語った。(中略)

 

3年建設計画

空港の建設は3年以内に完了し、25,600万米ドルの費用がかかります。

中国 - パキスタン経済回廊(CPEC  China-Pakistan Economic Corridor)の下での他のプロジェクトが譲許的融資(concessional loans 商業金融に比べて条件が借り手にとって有利に設定されている融資)の下で運営されているのとは異なり、空港は中国の助成金(Chinese grant)の下で計画されています。(中略)

 

空港に対する中国の助成金

中国政府は、中国無償資金協力の下、パキスタンの空港建設を支援します。

このプロジェクトはバロチスタン(パキスタンの最大の面積を持つ州)の総合的なインフラ開発の一部です。それは安全な操作のための全ての近代的施設を備えたグリーンフィールド施設として開発されるでしょう。 

このプロジェクトは、初期取扱能力が年間3万トンの貨物ターミナルを備えた近代的なターミナルビルで構成されています。 

この機会に、覚書(MoU)がパキスタンと中国職業訓練所と朴中国友好病院の建設のために調印されました。

イムラン首相は、中国政府が空港に対して行った助成金に中国大使に感謝した。

 

地元の人々へのメリット

彼は、それが地元の人々に恩恵を与えない限り、どんな開発も役に立たないと断固として言った。(中略) 

彼は、グワダルの病院の能力が強化され、職業訓練機関も雇用機会の創出に役立つことを喜ばしく思いました。 

イムラン首相は、Insaf Sehat Card(健康カード)を発足させ、すべての家族に72万ルピーの健康保険に加入することを発表しました。 

彼は以前に電力がイランから伝達されていたと言いました、しかし今政府は地域を全国的な送電網と結び付けることに決めました。

 

淡水化プラント

淡水化プラントも市内に設置され、クリーン&グリーンパキスタンの下に100万本の苗木が植えられます。その上、地域を汚染から守るために固形廃棄物管理システムも確立されるでしょう。(中略)

 

CPECプロジェクト

560億ドルの投資規模の中国パキスタン経済回廊(CPEC)は、世界でより強い貿易のつながりを実現するための、中国のOne Belt One Road(一帯一路)イニシアチブの最も重要な部分の1つです。(中略) 

中国は開発取引(development deals)を含むCPECへの約560億ドル(2055000万ドル)の投資を約束しており、これはパキスタンの年間GDPの約20パーセントに相当する。 

CPECは、パキスタンのGwadar港と中国の新疆地域を結ぶ高速道路、鉄道、パイプラインからなる、2030年までに3,218kmのルートを建設する中国最大の投資と考えられています。 

全体として、経済回廊プロジェクトは約34,000億ドルの費用で約17,000メガワットの発電を追加することを目的としています。 

残りのお金は、カラチ港と北西部の都市ペシャワールとの間の鉄道路線を改良することを含めて、交通インフラに費やされるでしょう。 (後略)【331日 GULF NEWS

***************** 

単なる旅行者の目から見ても、低水準のインフラの状態にあるパキスタンにとって、道路・鉄道・電力・水道などのインフラを改善し、住民生活に資するチャイナマネーは非常に重要な位置づけにあるように思われます。

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パキスタン  食べた料理いろいろ 

2019-04-01 11:03:35 | 身辺雑記・その他

3月25日に到着したパキスタン・フンザ旅行ですが、昨日イスラマバードに戻り。今夜のフライトで帰国です。

いつも長いフライトはおっくうなのですが、今回は「あのカラコルムハイウェイの長時間ドライブに比べれば・・・」という感も。

でもって今日は、旅行中に食べた料理の画像をひたすらアップしていきます。

到着日にアフガニスタン料理店で食べたチキンのカバーブ(串焼き)は昨日紹介したとおり

 

下は、二日目ベシャームで食べた「ハンディ Handi」

土鍋料理ですが、スパイシーな料理が多い(と言うか、ほとんどの)パキスタン料理にあっては、珍しく非常にクリーミーな味付けでした。

具材は骨なしチキンでした。

 

上は一般的な朝食 右下は油で焼いた「パラタ Paratha」 ナンやチャパティとの区別はよくわかりませんが、油を使用するところが違うようです。

もっとも、私は旅行中は、パラタではなく、トーストのバター・ジャムを食べていました。

上の方に写っているのは、オムレツと豆料理です。

上は、三日目夜、カリマバード到着時のホテルで食べた「Shashilik」

肉野菜の煮込みですね。黄色いのは卵焼き。

上は4日目、カリマバードで食べた「Beef Karahi」

上は4日目夜、アリアバードで食べた「ティッカ Tikka」 チキンの丸焼きです。

上は、5日目昼に、ランチ代わりに食べたケーキ 下がくるみ、上はアーモンド

特にくるみのケーキが甘くておいしく、翌日、お土産に購入しました。

上は、5日目昼、パッスー村周辺のガイド氏実家で食べたお菓子「Galmandi」

 

同じく5日目昼 パッスー村周辺の小さなお店で食べたスープ料理「ダウダウ」

チーズ味のとろみのあるスープの中にパスタが入っています。

上は5日目夜、カリマバードのホテルで食べた「酢豚」ならぬ「酢鶏」

これまでスパイシーなパキスタン料理が多かったので、メニューの「Sweet and sour」という表記を見て思わず注文したのですが、オーダーするときにポークではなくチキンなのに気づきました。

パキスタンはイスラム国なので豚肉はありません。酢鶏も結構おいしかったです。

 

上は6日目昼、アリアバードで食べた「Nihari」 味は忘れました。

6日目夜、カリマバードで食べたチキン(右)とビーフ(左)のティッカ

ビーフは固くてチュウインガムを食べているような感じ。

なお、マトンはメニューにはありますが、どこの店で頼んでも「欠品」でした。

7日目朝、ギルギットで食べた豆料理「Chola」

 

7日目昼、ダッソーだかどこかで食べたひき肉のキーマカレー

 

8日目昼、アボッタバードで食べた「コフタ Kofta」

肉団子料理ですが、肉団子の中にゆで卵が入っていました。

同じく8日目昼のマトンの「Bakak」 主にガイド氏が食べたもの

 

同じく8日目昼にドライバー氏が食べた「マシダルカレー」

 

いつも私とガイド氏・ドラーバーの3名で食べますが、一応私が主賓という立場で、何を食べるか決めるのも私、最初に手をつけるのも私ということで、こちらも結構気をつかうことも。

ハンバガーか何かで簡単にすませたいと思っても、それではガイド氏などが頼みづらくなるので、そこらを考えて・・・ということも。

 

今日はこれからガイド氏と最後のイスラマバード市内観光に出かけます。

平成に出発しましたが、帰国したら「令和」ということのようですね。

 

コメント
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