孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

香港  コロナ禍で抗議行動が封印されている状況で、強硬姿勢を強める中国

2020-04-20 22:24:44 | 東アジア

(18日、自宅前で警察に連行される香港紙創業者の黎智英氏【4月19日 日経】)

【新規感染者ゼロ達成】
日本を含めて新型コロナ対策に苦慮する国が多い中で、香港は非常にうまくコントロールしているようです。

****香港、感染者増が再びゼロに 規制などは維持****
香港保健当局は20日、新型コロナウイルスの新たな感染者が3月上旬以来初めてゼロになったと発表した。ただ、依然として住民に厳格な衛生管理と社会的距離の保持、不要不急の移動の回避を求めている。

香港は爆発的な感染拡大は免れ、1月に感染が発生して以来の域内の感染者数は1025人、死者は4人。前回、感染者ゼロだったのは3月5日だった。

学校は閉鎖され、多くが在宅勤務を続けてはいるが、ロンドンやニューヨークなどと違い、香港は完全なロックダウン(都市封鎖)には至らなかった。

4人以上の集まりを禁止する措置は3月29日から14日間の予定で導入され、4月23日まで延長された。ゲームセンターや映画館などの娯楽施設は閉鎖され、外国人の入国も無期限で停止されている。【4月20日 ロイター】
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【コロナで抗議行動ができない状況下、民主派若者はゲームの政治利用も】
しかしながら、今回のコロナ禍でデモなどが規制され、高揚していた対中国抗議行動が表立ってできなくなるということにもなっています。

****香港、5人以上の集会を禁止 感染拡大防止****
香港の林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官は27日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、公共の場所で5人以上が集まることを禁止すると発表した。実施は29日から2週間。

会社や政府の業務、冠婚葬祭など例外のケースを設けたが、事実上、抗議集会やデモは行えなくなる。(後略)【3月27日 産経】
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そうした状況で民主派若者が目をつけたのがゲームの世界だったようです。

****本土から消えた「どうぶつの森」、全てが政治化される香港****
人気ゲーム「どうぶつの森」の最新ソフトが中国本土のECサイトから削除された。香港内外のメディアで香港の民主活動家がゲーム内の島を新型コロナウイルス流行下で新たな抗議活動の場所として利用したことが原因とみられる。ゲームまで政治化される香港の今をどう理解すべきなのだろうか。

突如消えたどうぶつの森の中
任天堂のゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」が淘宝などの中国のECサイトで検索できなくなった。(中略)

なぜこのゲームは突如検索できなくなったのか。多くのメディアは、カスタマイズ性が高く、ユーザー間での通信も容易なゲームとして、香港の抗議活動の新たなフィールドになったことが原因だと推測している。

新型コロナの中、ゲーム中で抗議活動
香港の民主派政党デモシスト(香港眾志)の秘書長(事務局長)の黄之鋒氏がどうぶつの森のゲーム上で抗議活動のための島を作成し、その写真をツイッターに掲載した。

黄氏は23歳で、2012年の国民教育反対運動から長らく香港の民主化・反政府活動に関わってきた若手の民主活動家である。4月10日にはデモシストのYouTubeチャンネルでゲームの「生実況」も行った。
 
彼以外にも香港のどうぶつの森の中で香港政府・中国政府への抗議の意思を示した抗議者がいるようだ。
「マイデザイン」という機能を使って抗議活動のスローガンなどをパネルとして作成し、自らの島に掲示した人もいれば、中国の指導者の顔をパネルとして作成して虫捕り網でたたくことで抗議の意思を示した人もいる。

また、「島メロ」という島の音楽を自身で設定できる機能を利用し、抗議活動でしばしば用いられた「香港に栄光あれ」(願栄光帰香港)に設定した人もいた。
 
新型コロナウイルスが流行し、路上での抗議活動ができない中、抗議活動の場所をゲーム上にも広げた形だ。このゲームソフトの特徴は自身で絵や音楽をゲーム上で作成できるようにカスタマイズ性が高いことだ。

新型コロナウイルスの流行で外出ができなくなり、このゲームは香港でも大きな人気を博している。外出しての大規模な抗議活動は難しくなっている代わりに、抗議者はどうぶつの森を新たなデモの場所として利用しているのだ。

アクションゲームも出会い系アプリも「政治化」
政治とはかけ離れたほのぼの系ゲームであるどうぶつの森が政治的な文脈で利用されたわけだが、現在の香港は様々な空間が「政治化」されようとしている。
 
アクションゲームの「グランド・セフト・オートV」もその1つだ。(中略)

出会い系アプリの「ティンダー」も抗議活動の場となっている。(中略)出会い系アプリにまで政治的なものが持ち込まれているのだ。

生活の隅々に広がる「政治化」
香港の抗議活動には明確なリーダーや主催団体がいないといわれている。そのような状況では多種多様なグループが協調する必要があることから、「テレグラム」や掲示板サイトなどオンライン上でのコミュニケーションが重要な役割を果たしてきた。

そのため、どうぶつの森やティンダーのような若者を引きつけるバーチャル空間に政治的な要素が持ち込まれることは、必然的な結果なのかもしれない。
 
しかし、この政治化はバーチャル空間に限らず、生活の隅々までに広がっていることに注目すべきだ。

レストランを選ぶときに多くの若者はそのお店が抗議者寄りなのか政府寄りなのかアプリで確認し、どのレストランに行くか決める。香港中文大学の伝播与民意調査中心が2020年3月19日から27日に行った調査によれば回答者の54%が「政治的理由で特定の店舗の利用をボイコットすることがある」としており、51%が「政治的思想のために特定の店舗での消費を選択することがある」としている。
 
政治的意見対立によって関係が絶たれた兄弟、あまり話さなくなった親子も多く存在する。政治的思想の違いによる人間関係の対立は学校や職場、さらには教会でも起きている。(中略)

しかし、香港では新型コロナウイルスが広がる状況でも「何らかの方法」(現在路上でのデモが感染防止のためにできないため)で抗議活動を続けるべきと考えている人が約36%(前述の香港中文大学調査)もいる。「新型コロナウイルスの感染が収まった後に大規模なデモを行うべき」と考えている人は約49%(同)だ。

どうぶつの森の政治化をどう理解すべきか
もちろん香港の民主派全員が、あらゆる空間を政治化することを望んでいるわけではない。しかし、前述の調査によれば回答者の3分の1が、新型コロナウイルスが流行しており路上での抗議活動ができない中でも何らかの抗議活動実施を支持している。

ロイター通信が香港民意研究所に委託して3月17日から20日に行なった調査によれば新型コロナウイルス流行によって路上での抗議活動が大幅に減少したのにも関わらず、香港警察に対する独立調査委員会を設置すべきと回答した人の割合は12月の74%から76%に若干上昇している。

普通選挙の実施を支持すると答える人は12月の60%から68%に上昇している。香港政府への抗議活動は、決して過去のことにはなっていない。
 
従って香港でも人気ゲームとなったどうぶつの森の政治化が起きたことは、生活の隅々まで政治化した香港においては不思議なことではない。

ゲームを政治化すべきではないという意見も若者の間ではほとんど聞かれない。すでに生活のあらゆる部分が政治化され、受け入れられている。それは、どうぶつの森のようなゲーム空間も例外ではないのだ。【4月16日 石井 大智氏 日経ビジネス】
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【抗議行動が封印されている今、強硬路線での圧力を強める中国】
コロナ禍によって抗議行動は消えたものの、中国の香港支配に対する否定的な空気はなくならない・・・とは言え、人々の目下の関心はコロナ禍に向いている・・・そういう状況で、中国側がポストコロナに向けて動き出しています。

****香港警察、反中国デモ一斉摘発 民主派幹部ら14人逮捕****
香港警察は18日、昨年から続く一連の反政府・反中国共産党デモの一斉摘発に乗り出し、違法集会を組織した容疑などで、主要な民主派メンバーら少なくとも14人を逮捕した。香港メディアが報じた。
 
逮捕されたのはいずれも民主党元主席の李柱銘氏、何俊仁氏、楊森氏のほか、政府・共産党批判の論調で知られる香港紙、蘋果日報の創業者、黎智英氏や李卓人元立法会(国会に相当)議員ら。
 
逮捕容疑となった集会は、中国が建国70周年を迎えた昨年10月1日に行われた反政府・反中デモなど。黎氏と楊氏、李卓人氏は2月末にも、別のデモに参加した容疑で逮捕(保釈中)されている。
 
香港では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、民主派勢力が反政府・反中デモを自粛。市民の関心も新型コロナに集まる中で、当局が一斉検挙に乗り出した形だ。9月には立法会議員選挙も予定されている。
 
民主派メンバーや、デモに参加してきた若者らの反発は必至だが、香港では現在、防疫措置の一環として、5人以上の集会が禁止されている。【4月18日 産経】
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李柱銘・元民主党主席は「香港民主主義の父」とも称される人物のようです。
人々の関心がコロナに向いており、表だった抗議行動もできない今、中国・香港政府は中国批判勢力の中核的な部分に切り込んできたようです。

****香港民主派を大量逮捕 元総督「一国二制度を葬る一歩」と非難****
(中略)逮捕・起訴されたのは、民主派政党、民主党の初代主席で「香港民主主義の父」と称される李柱銘(マーティン・リー)氏(81)や、民主派寄りの香港紙、蘋果日報の創業者、黎智英(ジミー・ライ)氏(71)、民主党元主席で1989年の天安門事件の追悼集会などを主催してきた何俊仁(アルバート・ホー)氏(68)ら。
 
これら3人は、「香港の良心」と称された元香港政府ナンバー2の陳方安生(アンソン・チャン)氏(80)とともに、中国の国営メディアから「香港に災いをもたらす四人組」と非難されている人物だ。
 
今回、中国・香港当局が15人の逮捕に踏み切った背景については、さまざまな臆測が流れている。
 
香港紙、明報は「李氏や黎氏らが昨年、米欧諸国に赴いて“遊説”した」ことに注目する。李氏や黎氏らを逮捕・起訴することで、香港から海外に出られないようにし、中国や香港当局に不利な情報発信を阻止する狙いがあるとの見立てだ。特に黎氏は、ペンス米副大統領やポンぺオ米国務長官と面会している。
 
このほか蘋果日報は、9月6日に予定される立法会(議会)選を前に、当局が「白色テロ」を強行したと指摘し、民主派陣営の立候補に向けた動きなどを封じ込める思惑があるとみる。
 
一方、中国・香港当局の一連の動きには「シナリオ」があるとにらむのは、民主党の胡志偉主席だ。
 
立法会の内務委員会では昨年10月以降、民主派議員らの抵抗で、委員長を選出できない状態が続く。民主派の目的は、中国国歌を侮辱する行為などを禁じる「国歌法」の早期成立を阻止することにある。
 
これに対し、中国政府で香港政策を担当する「香港マカオ事務弁公室」と、中国の香港出先機関である「香港連絡弁公室」が最近、「議員の職責を果たせ」などと非難。民主派が反発を強めている矢先に、一斉逮捕が起きた。
 
今回の一斉逮捕は、国際的に知名度が高い李氏らが逮捕者に含まれていたことで、国際社会の注目を一層集めることになった。
 
英領香港時代に最後の香港総督を務めたパッテン氏は声明を発表し、「中国と香港政府は、一国二制度を葬り去るために新たな一歩を踏み出した」と非難している。【4月19日 産経】
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今回の民主派逮捕で欧米と中国の対立も深まっています。

***香港民主派逮捕、欧米相次ぎ非難 中国は全面的に反論 *****
香港警察が18日、昨年の違法なデモを呼びかけ参加した容疑で民主派15人を逮捕したことを受け、欧米から批判が相次いだ。

ポンペオ米国務長官は声明で「中国政府は透明性や法の支配、高度な自治を保障した中英共同宣言の約束と矛盾した行動をとり続けている」と非難。バー米司法長官は「中国共産党が信用できないことを改めて示した」と述べ、英外務省も懸念を表明した。

香港警察が逮捕したのは民主派重鎮の李柱銘(マーティン・リー)氏や黎智英(ジミー・ライ)氏、現職の立法会(議会)議員の梁耀忠氏ら。警察トップは18日夜の記者会見で「法を犯した者は誰でも逮捕する」と述べた。

ポンペオ氏はツイッターに「政治的な法の執行は表現や結社、平和的な集会の自由という普遍的な価値に反している」と投稿した。バー氏は「中国共産党の価値観が西側の自由民主主義とどれほど正反対か示すものだ」とこき下ろした。

中国外務省の香港代表部はこうした批判に全面的に反論する声明を発表し「(逮捕は)道理にかなった合法なもので、外国には干渉する権利はない」と強調した。無許可の集会を「平和的な抗議」とみなすのは「真実をゆがめている」とも指摘した。

このところ新型コロナウイルスの発生源などを巡って米中関係がギクシャクしており、香港問題でさらに対立が深まる可能性もある。【4月19日 日経】
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【焦点は9月の立法会選挙】
更に【産経】記事にある「国歌法」を巡る立法会での攻防においても、新たな動きが。

****香港政府、基本法の解釈変更 中国の介入常態化へ****
香港で民主派の主要メンバーらが一斉に逮捕される中、今度は一国二制度の形骸化を加速させる事態が起きている。

香港政府が基本法(ミニ憲法)の解釈を変更し、中国当局による香港への介入が事実上合法化された。今後、中国の介入が常態化するのは確実で、民主派は激しく反発している。
 
発端は、立法会(議会)での民主派議員の議事妨害だった。立法会の内務委員会では、民主派の抵抗で昨年10月以降、委員長を選出できない状態が続いている。民主派の目的は、中国国歌を侮辱する行為などを禁じる「国歌法」の早期成立を阻止することにある。
 
これに対し、中国政府で香港政策を担当する「香港マカオ事務弁公室」と、中国政府が香港に置く出先機関「香港連絡弁公室」が先週、「議員の職責を果たせ」などと民主派に圧力をかけ、対立が激化した。
 
民主派は「基本法に反して香港の事務に介入した」と反発した。基本法22条には「中国政府所属の各部門は、香港特別行政区が管理する事務に干渉できない」と定められているためだ。
 
しかし香港連絡弁公室は17日、香港マカオ事務弁公室と香港連絡弁公室は「中国政府を代表して香港の重大な問題について監督権を行使できる」組織であり、単なる「中国政府所属の部門」ではないと主張。22条の制約を受けないとの見解を打ち出した。19日には香港政府もこれを事実上追認し、中国当局が合法的に香港の問題に介入する道が開かれた。
 
香港メディアによると、香港政府は従来、香港連絡弁公室などは22条の影響下にあるとの解釈を示していた。政府報道官も18日の時点では、これまでの解釈を繰り返していたものの、19日未明に解釈を突然変更し、中国側の見解に合わせるドタバタ劇を演じた。
 
民主派の立法会議員22人は19日、中国側に盲従する香港政府を非難する声明を発表。民主派の陳淑荘議員は20日、「中国の介入は強まるばかりだ。香港は『北京治港』(中国当局が香港を統治する)状況になった」とコメントした。【4月20日 産経】
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香港・台湾対策で強硬姿勢をとることで「失策」続きの習近平政権ですが、あくまでもこれまで同様の強硬路線で押し切る構えのようで、そのためには今が好機という判断でしょうか。

しかし、表だった抗議行動こそ消えているものの、中国支配への批判的な空気は変わっていない状況での強硬姿勢がどのような結果を招くか・・・・当面は9月実施予定の立法会選挙が焦点になります。

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シンガポールの外国人労働者、日本の「ネットカフェ難民」 弱者を通して社会全体を脅かすウイルス

2020-04-19 23:08:15 | 東南アジア

(シンガポールで暮らすバングラデシュとインドからの労働者。4月5日、まだ厳しい対策が取られる前のリトルインディアで撮影【4月19日 ロイター】)

【シンガポール コロナ対応優等生の方針転換】
新型コロナ対策に関して、シンガポールは3月段階ではきびしい行動制限をとることなく感染拡大を有効に阻止していると高い評価がなされていました。

****韓国、シンガ、台湾…スピード最優先で新型コロナ押さえ込み****
(中略)シンガポールは3日までに新型コロナウイルスに1114人が感染し5人が死亡したが、他国の増加ペースと比べ、拡大を押さえ込んでいるといえる。強制力を伴う迅速な対策や積極的な情報発信が奏功した形だ。
 
政府は2月1日には、世界に先駆けて中国本土に滞在した人の入国を原則として禁止。水際対策を強化した。2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行で33人が死亡した苦い経験を踏まえたという。
 
同時に感染者の国籍、年齢、性別、感染者が出た企業名などの詳細の公表に踏み切った。クラスター(感染集団)を公にし、感染ルートの追跡を容易にするためだ。積極的な情報発信は、悪質な偽情報や噂の蔓延(まんえん)を防ぐ狙いもある。
 
3月末には集団感染につながる「3密(密閉、密集、密接)」を避けるために感染症対策法を厳格化した。公共の場所で座ったり列を作ったりする場合、他人と1メートル以上の距離を保つことを求めた。違反した場合、罰則も設けている。
 
それでも感染経路が特定できないケースが増えており、4月7日から国内の学校や職場を1カ月間閉鎖する。リー・シェンロン首相は3日の演説で「感染拡大を先取りし、断固とした行動を取るべきだと判断した」と話し、迅速な措置の重要性を強調した。【4月4日 産経】
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しかし、上記記事でも「感染経路が特定できないケースが増えており」とあるように、4月に入るとフォローしきれない状況に追い込まれ、企業・店舗の閉鎖など、厳しい措置への方針転換を余儀なくされています。

このあたりの経緯は、クラスター潰しの限界から緊急事態宣言へと転換した日本と似たような推移に思われます。
7日から職場や店舗の大多数が閉鎖され、食料の買い出しなどを除く外出は原則禁止されました。

****追跡・隔離に限界、シンガポールも企業や店舗閉鎖****
シンガポール政府は7日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、生活の維持に必要な業種以外の企業・店舗を閉鎖させた。

感染者の感染経路の追跡と隔離措置を徹底してきたシンガポールは、感染抑制の模範例とされてきたが、経路不明の感染者の急増で厳しい措置への転換を迫られた。
 
閉鎖措置は5月4日までの予定で、医療や交通、スーパーなどを除く企業・店舗の従業員は在宅勤務に完全移行する。飲食店は持ち帰りのみの営業を認める。学校も今月8日からオンライン授業に切り替える。
 
リー・シェンロン首相は3日、「思い切った措置を取る」と述べ、今回の措置を「ロックダウン」(都市封鎖)ではなく、株価が急変動した際に取引を一時中断する「サーキット・ブレーカー」(強制遮断)という金融用語で表現した。

政府は閉鎖に先立つ6日、休業などによる給与補償などを視野に、総額51億シンガポール・ドル(約3900億円)の経済対策を発表した。
 
シンガポール保健省によると、国内の感染者は1500人に近づいているが、周辺国のマレーシア(約4000人)やインドネシア(約2700人)よりは少ない。

これまでは、情報技術(IT)を駆使した感染経路の割り出しと情報公開などを徹底し、経済に影響する措置をとらないようにしてきた。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長も、「感染ルートの追跡を徹底している」と対応を評価していた。
 
しかし、3月下旬以降に欧米からの帰国者が増加し、連日50人以上の新規感染者が確認されるようになった。感染経路をたどれないケースも急増し、ローレンス・ウォン国家開発相は「表に出ていない感染者が多数いる可能性がある」と危機感を示していた。【4月8日 読売】
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日本同様にマスク配布も。

****行動制限へ転換のシンガポール、洗えるマスク配布始まる****
新型コロナウイルスの感染拡大を防ごうと、1家庭に2枚の布マスクが配られることになった日本に対し、1人1枚の布マスクを配ることを決めたシンガポール。5日から地域のコミュニティーセンターなどを通じた配布が始まった。

政府は外出自粛を求めているが、どうしても外に出る必要がある場合はマスクをつけるよう促している。日本以上に厳格な感染ルートの追跡などで感染の封じ込めをめざしてきたシンガポールだが、7日からは大幅な行動制限に踏み込む。(後略)【4月7日 朝日】
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コロナに限らず、何かとルールが厳しい(あるいは“うるさい”)「管理国家」シンガポールですから(タバコの吸い殻ポイ捨ては数万円の罰金、もっと大きなボトルを捨てると裁判所に呼び出されることも、ガムの国内持ち込み禁止、公共トイレの水を流さないと罰金・・・等々)、外出時のマスク着用が義務付けられ、違反すれば罰則の対象となります。

【止まらない感染拡大の背景に、これまで都合よく使ってきた外国人労働者の存在が】
しかし、その後も感染者増加を阻止できずにいますが、その原因として、劣悪な住環境で生活してシンガポール経済を支えてきた外国人労働者の存在が指摘されています。

****「模範的対策」のシンガポールで第2波、外国人労働者らの感染急増****
新型コロナウイルス感染拡大対策の模範例と称賛されていたシンガポールで最近、感染者が急増している。寮生活を送る外国人労働者らの集団感染が相次いでいるためだ。

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、シンガポールで確認された感染者は先月17日の時点で266人だったが、1カ月のうちに5900人を超えた。

同国は当初、厳しい制限措置を取らずに感染拡大を抑えた成功例とみられていた。成功の要因としては、国境を接する国がマレーシアのみで入国管理がしやすいという地理的条件に加え、高度な医療水準や日頃からの厳しい国家管理体制などが指摘されていた。

2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)で隔離病棟が整備されていたこと、検査で陽性になった患者は軽症や無症状のケースも含め全員入院させるという対応も功を奏した。

しかし、初期の対策で見過ごされ、検査対象から外れていた外国人労働者らの間でクラスター(感染者集団)が発生し、もともと制限が緩かった国内で急激に広まったようだ。

同じような人口規模の香港では学校を2月から閉鎖し、政府職員に在宅勤務を指示するなどの対策を取っていた。一方でシンガポールが休校や在宅勤務に踏み切ったのは今月、第2波が来てからだ。

シンガポールでは16日、過去最多となる728人の感染が新たに確認されたのに対し、香港は4人にとどまった。

シンガポールの外国人労働者は大半が密集した寮生活を送り、自宅隔離は不可能に近い状況だ。政府は検査や規制の強化に乗り出しているが、これを機に外国人労働者の処遇全体を見直すべきだという意見も出ている。【4月19日 CNN】
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シンガポールは、労働力人口の4割近くが外国人で、特に低賃金労働は母国での賃金が低い国からの出稼ぎ労働者が担っています。

最低賃金がなく、家族を同伴することもできず、ときに劣悪な環境に置かれていることもある外国人労働者の労働環境については、シンガポール社会でも問題が指摘されてきました。

フィリピン人やインドネシア人のメイドさんも多く働いていますが、半年に一度妊娠検査が義務づけられており、もし妊娠していれば国外退去になるとのこと。

「安価な労働力は欲しているが、決して永住はさせない」というシンガポールの外国人労働者政策がこれまでも指摘されてきました。

今回の新型コロナでは、これまで都合のいいように使ってきた外国人労働者の存在に社会全体が脅かされるという展開ともなっています。

ウイルスは一番弱いところを狙ってきます。
単に抵抗力の弱い高齢者・持病のある者というだけでなく、予防をできない環境にある貧困者やシンガポールにおける外国人労働者のような社会的弱者が狙われます。

そうした面での対応に配慮しないと、いくら予防だ、自粛だと言っても、抜け穴ができてしまうことになります。

“国内へのマスク配布も、外国人労働者居住地域は対象外だった。さらに最近、何万人もの労働者を狭い区画に隔離する措置が導入され、感染拡大を加速させる恐れが生じている。”【4月19日 ロイター】ということで、シンガポール政府は外国人労働者を切り捨てても、自国民に拡散しなければいいという発想のようです。いくらでも補充できる存在ですから・・・。でも、「非人道的」という面は別にしても、そううまくいくのか?

【ネットカフェ休業要請で「ネットカフェ難民」を密集環境の無料低額宿泊所へ】
ところで、日本では緊急事態宣言に伴い、東京などでは「遊興施設」のひとつとしてネットカフェも営業休止が要請されています。

そこで問題になったのが、ネットカフェで寝泊まりしている者が多数存在するという現実。

****ネットカフェ 休業要請で募る悩み 1日の寝泊まり4000人 東京 ****
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためネットカフェなどに休業が要請される中、住む家がないなどさまざまな事情で寝泊まりする人を抱える店舗は、休業してしまうと利用者が居場所を失ってしまうと悩みを募らせています。

(中略)しかし、都内でネットカフェを経営するオーナーは、遊興施設というよりは、住む家がないという理由や仕事や家庭の事情で家を離れざるをえなくなり寝泊まりする人たちがいるのが現実で、そうした人たちが居場所を失ってしまうと悩みを抱えています。

この店舗では、一晩2000円ほどで完全個室の部屋で過ごすことができるため長期で滞在する人たちを多く受け入れていて、この日は10人余りが寝泊まりしていました。

店を利用する53歳の男性は、建設関係の仕事をしていて2年以上、この店を生活の拠点にしていると言います。

男性は、都内が仕事の現場になることが多く、店が休業すると今の仕事を続けられるか不安を感じていて「行政には従わないといけないし、ネットカフェがたたかれているのも分かっています。でも、そんな急に言われても困ってしまいます」と話していました。

東京都によりますと、ネットカフェなどで寝泊まりしながら生活する人は1日当たりおよそ4000人と推計され、都は、こうした人たちに一時的な住まいとして民間のアパートや都営住宅など新たに400室を用意しようと準備を急いでいるということです。

店によりますと、これまでに利用者で感染を疑うような症状が出た人はおらず、店内の消毒や換気を徹底しているということで、利用者が新たな生活の拠点を確保するめどが立つまでは営業を続けざるをえないと話しています。

オーナーの男性は「皆さん、家もないし、行くところもない。そんな人たちに出て行ってくださいとはとても言えないです。臨時に泊まることができる場所はどこで、いつから入れるのかなど明確にしてほしいです」と話していました。

ネットカフェをめぐる協議は
小池知事はネットカフェの休業で寝泊まりしている利用者の行き場が無くなることなどが懸念される中、国との協議の中で休業要請の対象にするかどうか調整が行われたことを明らかにしました。

そのうえで、今月、専決処分した補正予算に一時的に住まいを提供する事業を盛り込んだことなどを説明し、「セーフティーネットをちゃんと用意しますということで休業要請にネットカフェの文字が入った」と述べました。【4月10日 NHK】
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東京都は、「ネットカフェ難民」を一時的にビジネスホテルを2000室確保し、無料で宿泊してもらう措置をとると発表。
日頃、こういう弱者に冷たい「行政」にしては、随分と配慮が行き届いた対応だと感心していたのですが・・・

****新型コロナ福祉のダークサイド、ネットカフェ難民が追いやられた「本当の行き先」 ****
(中略)
劣悪な環境に人を収容
そこで東京都は、その人たちを一時的にビジネスホテルなどに無料で宿泊してもらう措置をとると発表し、やれやれこれで一安心……と思っていたら、実はそうは動いていないんだという話を、生活困窮者の支援活動を行っている一般社団法人『つくろい東京ファンド』の小林美穂子さんから聞いて、驚いた。(中略)

「今、いちばんの問題はネットカフェから出されて福祉事務所に助けを求める人たちが、次々に無料低額宿泊所に送り込まれていることです。そこがどういう所かの説明も受けず、『迎えの車が来てるから、さぁさぁ』と連れていかれ、契約書にサインをさせられています」

無料低額宿泊所。
聞きなれない言葉だが、小林さんの説明によると、無料低額宿泊所、通称・無低は、生活保護受給者を中心に受け入れる、施設で、良心的な施設もいくらかはあるものの、その多くは、悪名高き「貧困ビジネス」の場になっていることが多いという。

大部屋にぎっしり二段ベッドを並べたり、6畳ほどの部屋を3つに区切って敷きっぱなしの布団に寝かせるだけといった、劣悪な環境に人を収容する施設が多く、以前から問題になっている。

「しかも入居者が受給された生活保護費のほとんどを持っていかれます。門限もあり、外出外泊には許可も必要。場所によっては長くそこに逗留する牢名主みたいな人がいて、小銭やタバコをかすめとられたりもしますし、弱いものいじめはあたりまえ。人間トラブルから死亡事件が起きたこともあります。
 
一般の人たちは、こんなところを役所が重宝しているなんて、とても信じられないでしょうが、そこに留め置かれ、いつまでもアパートへの転宅を許されない人達が全国で3万人いるといわれています」
 
生活保護費のほとんどをむしり取り、自由も制限し、高齢者が多くて心身ともに治療が必要な人も放置される。これまで何度かニュースになってきたのに、現在も生活困窮者救済の対策として大手を振ってド真ん中にいる。福祉のダークサイドだ。(中略)

東京都の“逃れよう”とする姿勢
それでは感染防止のためにネットカフェをクローズした意味が全くない。東京都はビジネスホテルを2000室確保して、ネットカフェから追い出された人たちを無償で泊まらせると発表したのではないか。
 
そもそも元からその無低を家として住んでいた高齢の人たちのところへ、もしや無症状で感染しているかもしれない新規の若い人たちを送りこむことは、感染リスクを高める最悪のやり方だ。クラスターになりえる。(中略)

なぜ、そんなことが起きるのかは、東京都が23区や市の福祉事務所に『一義的に無料低額宿泊所を使うべし』という通達をしているからです。感染拡大を止める気があるんでしょうか? ビジネスホテルを確保しているというのに、そこを使わせない。意味がわかりません。(中略)

『つくろい東京ファンド』代表の稲葉剛さんが東京都へ強く抗議し、16日夜になって東京都は「本人とのやり取りにおいて民間施設(無料低額宿泊所)等が困難と判断した場合は、ビジネスホテルを使う。民間施設を使う場合も、施設の感染症対策を確認した上で、可能な限り個室で対応する」と新たに発表したそうだ。(中略)

新型コロナがパンドラの箱を開けた
(中略)「自己責任で弱者を見捨てることも、生産性で人の価値をはかることも、弱者同士を争わせる既得権を持つ者たちが責められることもなく、権力や経済力の上にあぐらをかき続けるさまも、ぜんぶ霞んで消えればいい」
 
本当にそうだ。この新型コロナウイルスを生き抜くには、自分だけが助かればいい、では成り立たない。今は会えない人たちとも心の手を結び合い、物心共にシェアしていく以外、この時代を築いていくことは無理だ。自己責任論は最も忌むべき敵だと思う。

「コロナ禍を転機に、福祉を正常化させましょう。今後はネットカフェに暮らすような人がいない社会にしましょうよ」と、小林さんは言う。

「逆を言えば、新型コロナウィルスがこれまで行政が開けようとせず、私たち支援者も開けられなかった“パンドラの箱”を開けたんです。

ネットカフェに暮らし、これまで毎日うつらうつらとしか睡眠は取れず、医療にもかかれず、節約のためにシャワーも毎日は使わず、カップラーメンばかり食べながら足も伸ばせずにいた人たちが、ふつうに人間らしい暮らしができるようになれば、禍も福と転じます。(後略)【4月17日 週刊女性PRIME [シュージョプライム] 】
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生活保護費のほとんどを吸い上げるダークビジネス「無料低額宿泊所」の存在はこれまでも指摘されてきたところです。

小池都知事が大見得を切った「セイフティーネット」とは「無低」のことだったのか?

「ネットカフェ難民」を一時的にそうした「無低」に移すことの福祉政策面での問題は多々議論もあるところでしょうが、コロナ対策として見た場合は、“密集”環境においてむしろクラスター発生を促すような措置で、それぐらいならネットカフェを営業した方がずっといいように思われます。

“新型コロナウイルスを生き抜くには、自分だけが助かればいい、では成り立たない”ということで、「ネットカフェ難民」のような弱者への配慮も必要になるあたりは、シンガポールの外国人労働者への対応と同じです。

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アメリカ  外出制限の緩和・経済再開を急ぐトランプ大統領  運用は州一任  NY州知事との「ケンカ」

2020-04-18 22:38:21 | アメリカ

(州政府による「極端な隔離」な抗議して州議会議事堂前に集まった人たち(15日、ミシガン州ランシング)【4月18日 BBC】・・・て言うか、皆自動小銃抱えていますね・・・・トランプ氏は連続ツイートで、「ミネソタを解放しろ」、「ミシガンを解放しろ」、「ヴァージニアを解放して、みんなの偉大な修正第2条を守れ。攻撃されてる」と書いています(太字で強調した部分は、原文では大文字で強調)。どうしてコロナと銃規制がドッキングするのか・・・・)

【感染増加の傾向がみられない地域から、3段階で外出禁止などの対策を緩和 運用は州に一任】
深刻な新型コロナ感染拡大が続くアメリカですが、トランプ大統領は17日の記者会見で、新型コロナウイルスによる国内の死者数について、当初、10万人から24万人にのぼるとされていた予測を大幅に下方修正し、6万人から6万5000人になるという見通しを示しました。

これについてトランプ大統領は、「われわれが正しい対応をしたことで、何百万人もの命が救われている」と述べ、トランプ政権の対応による成果だと強調しました。【4月18日 NHKより】

ものは言い様というか・・・、この人にかかると、6万人の犠牲者も自分の選挙向け「成果」になってしまうようです。
初動対応の遅れ・無策が今の感染拡大を招いたという批判をなんとか払拭したい・・・ということなのでしょう。

トランプ大統領が批判払拭のためにこだわるのが、市民に犠牲を強いる制限をなるべく早く緩和して、早期に経済を再開させること。

もちろん、そのこと自体は政治指導者として当然の願望ですし、国民としても実現することを切実に望んでいます。
問題は、規制緩和の裏付けがあるのか、時期が適当か?、経済再開のリスクをどのように評価したのか?・・・ということです。

とかく選挙対策の国民受けを狙った言動が目立つトランプ大統領ですが、この判断を誤ったら「何百万人もの命」にかかわってきます。いつものように「まあ、トランプだからね・・・」では済まされません。

****トランプ大統領が経済再開へ指針 感染少ない地域から3段階で****
トランプ米大統領は16日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染症対策で停滞した経済活動を再開するための連邦政府の指針を発表した。

感染増加の傾向がみられない地域から、3段階で外出禁止などの対策を緩和する。ただ、実際の指針運用は州などの地方当局に任せるため、指針策定の影響は限定的となる。
 
トランプ氏は「州が段階的に熟慮された方法をとれるようになる」と述べ、政府指針をどう運用するかは各州に一任する考えを示した。同氏は早期の経済再開を迫り、政府指針に州知事を従わせる構えをみせていたが、姿勢を転換した。
 
新指針の第1段階は、感染確認者が減少傾向で、医療機関に重症者の対応余力があるといった条件を達成した地域が対象となる。客席間を十分に離すなどの対策をとった大型飲食店や映画館の営業再開を認め、企業や事業所は、可能な限りテレワークを実施しながら必要な出社が可能になる。
 
さらに2週間後、感染増加の兆候がなければ、旅行や学校が再開できる第2段階に入る。その2週間後も感染収束の傾向に変化がなければ、第3段階として、事業所への出社を含む企業活動の通常稼働を認め、バーなどの小型店も営業できるようになる。
 
感染症対策の緩和は、各州で十分な感染の検査体制が整備できていることが前提となる。トランプ氏は第1段階について、条件が整った地域は「明日にも」可能だと述べた。一部の州はすでに独自の経済再開指針の策定に動いている。【4月17日 産経】
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この方針に沿って、テキサス州知事(共和党)が経済再開を目指しています。

****米テキサス州、いち早い経済再開を模索 検査に遅れも****
米テキサス州のアボット知事は17日、5月上旬をめどに一部の民間企業の再開を目指す方針を表明した。

方針策定に当たっては、事業再開を強く希望する経済界と、早まった再開は犠牲者を出しかねないと警告する医療専門家やエコノミストとの間で慎重なバランスを取る必要に迫られた。

最終的に、アボット氏は穏健なアプローチを採用。完全再開に踏み切るのではなく、医療や経済の専門家の助言を参考にしつつ、緩やかな経済再開に向けて段階的な措置を取る考えを表明した。

企業活動の再開に向けた計画を発表するのは今月27日となる。アボット氏は、計画の内容は「データと医師」が決めると強調している。

それでも、アボット氏は大規模州の知事の中でいち早く、自宅待機命令の解除に向けた具体的な日程を発表する形となった。(中略)

テキサス州は企業寄りの姿勢で知られ、一部ではアボット氏がもっと積極的な再開に踏み切るのではないかとの予測もあった。テキサス州の経済規模は1兆8000億ドルとカリフォルニア州に次いで米国2位だが、原油価格の下落にパンデミック(世界的流行)が重なり特に打撃が大きい。

アボット氏が自宅待機命令を出したのはわずか2週間前。テキサス州は依然、新型コロナウイルスの検査数で他の大規模州に大きく水をあけられている。

地元保健当局によると、人口2900万人の同州において、検査の実施回数は17日時点で16万9536回にとどまる。感染者は1万7371人、死者は428人に上っている。【4月18日 CNN】
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【制限措置に不満を募らせる市民を煽るトランプ大統領】
この新型コロナ対策も、共和・民主、トランプ・反トランプの「分断」を反映した形になっており、トランプ支持勢力からは早期の規制緩和を求める動きが表面化しています。

****外出禁止にうんざり、「反撃」に出る米国市民 ****
新型コロナウイルスの感染拡大を受けた外出禁止などの制限措置に不満を抱く米国市民の間で、制限緩和や経済活動の再開を州知事に訴える動きが目立ち始めた。 
 
ケンタッキー州のアンディ・ベシア知事(民主)ら、一部の知事はデモ参加者を非難。ベシア氏は会見で、経済活動を再開すれば「確実に人々が死ぬ」と述べた。 
 
米国ではコロナ流行を受けた封鎖措置が続く1カ月間で、新規失業保険申請件数が約2200万人と記録的な水準に達した。強制的な事業停止に対して、企業従業員や個人事業主の間では不満が高まっている。 
 
ミシガン州ランシングでは15日、大規模な抗議集会が開かれた。開催に関わったグループのボランティア、マット・シーリー氏はインタビューで「命を救うために人々を家の中に閉じ込めておけば経済が崩壊し、結局人の命が犠牲になる」と語った。 

 
今週各地で行われたデモの規模や様子はさまざまだ。荒れ模様となったランシングの集会には警察の推計で3000人以上が集まった一方で、16日にバージニア州リッチモンドでは40人が静かな集まりを開いた。 

ノースカロライナ州ローリーでは14日に約100人が集まった。警察は10人を超える集まりを禁止する行政命令に違反したとして、51歳の女性を逮捕した。州当局では、女性は命令に従う機会を何度も与えられたにも関わらず「そうしないことを選んだ」としている。 
 
ランシングのデモ参加者は、ミシガン州のグレッチェン・ホイットマー知事(民主)が自宅待機措置を拡大したことに反発。州議会議事堂 周辺の交通を遮断し、銃を携帯する参加者もみられた。「彼女を収監しろ」と叫ぶ声も聞かれた。 
 
ホイットマー知事は非常事態宣言を4月末まで延長することを発表したほか、店舗の規模に応じて入店者の数を制限する新たな措置も導入した。 
 
必要不可欠とはみなせないとして、店舗内の特定のコーナーを閉鎖する措置もあり、園芸用品コーナーの閉鎖については、州のグリーンハウス業界から、業界が壊滅状態に陥るとの悲鳴が上がっている。(後略) 【4月18日 WSJ】
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荒れ模様となったミシガン州・ランシングの集会については、以下のようにも。

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ミシガン州の州都ランシングには、民主党のグレッチェン・ホイットマー州知事が発令した厳しい外出制限に反発する約3000人が集結した。デモの参加者の一部は武器を携帯していた。

「グリッドロック作戦」と名付けられたこの抗議デモを主催したのは、「過度な隔離措置に反対するミシガン市民」と名乗る、複数の右派組織からなるグループ。

デモ隊は「私たちは働きたい」「ロックダウンを解除しろ」といった標語を掲げ、ホイットマー氏をナチス・ドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーになぞらえた参加者もいた。
 
また多くの参加者がトランプ氏への支持を示すために、「アメリカを再び偉大に」という前回大統領選での同氏のスローガンが書かれた共和党カラーの赤い帽子をかぶり、今年行われる次期大統領選のための「トランプ2020」と書かれた旗を振っていた。この抗議行動によって、ミシガン州議事堂の周囲では大規模な渋滞が起こった。【4月17日 AFP】
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“一方、大方の市民らはホイットマー州知事の新型ウイルス対策を好意的に評価している。”【同上】とも。

保守系メディアのWSJは、この件では早期の規制緩和を望む立場のようで、規制の行き過ぎ、特にミシガン州の過剰な規制を厳しく批判しています。

****【社説】過剰なコロナ対策、逆効果も ****
米国民は、屋内退避とソーシャルディスタンシング(対人距離の確保)の命令をおおむね進んで受け入れている。しかし一部の当局者は、これでは十分ではないと考えているようだ。隠れたいじめ体質を発現させたような彼らのやり方は、新型コロナウイルスの拡散抑制につながる行動への国民の支持を弱めることになるだろう。 
 
問題の1つは、規制の行き過ぎた適用だ。屋内退避の命令施行を任された州や地方の当局者の一部は、執行すべき命令内容を誤解しているか、判断力の欠如という問題を抱えているように見える。

コロラド州ブライトンの警察官たちは、ほとんど無人のソフトボール場で妻と6歳の娘と遊んでいた男性に手錠をかけた。警察官はこの男性が規則に違反したと主張したが、その規則とは5人以上のグループに対するものだった。 
 
首都ワシントンの公園などでは、警察官が地元の人々に対し、ベンチに座ることを禁じている。1人きりで座ることさえも禁じているのだ。

フィラデルフィアでは、警察官らが、マスクをしていなかった男性を公共バスから引きずり降ろした。この男性は降車を求められた際に応じなかったようだが、違反行為の内容から見て、警察官の行動は行き過ぎだったと思われる。(中略)

最も行き過ぎた命令を出したのは恐らく、ミシガン州のグレッチェン・ホイットマー知事だろう。同知事は、他の多くの知事が行っている「必要不可欠でない」事業所の閉鎖に加え、州民が互いの家を行き来することも禁じた。

同知事は記者会見で、「あらゆる規模の全ての公的および私的な集まりは禁じられる」と説明した。同知事は「それでも屋外活動のための外出は認められる」として寛大にもそれを容認し、屋外活動は「他者から6フィート(約1.8メートル)離れた場所で行われる限り、許される」と述べた。 
 
ミシガン州政府はまた、一連の厳格な制限を押し付けた。スーパーマーケットの非必需品売り場の禁止令もその一つで、結果としてその売り場は周囲から遮断された。(中略)
 
政府当局者は、もっと緩やかな手法を採用していくことが望ましい。コロナウイルスの脅威はワクチンや、より良い治療法が確立されるまで終息せず、米国民は、政府が経済活動の再開を認めても、何らかのソーシャルディスタンシングや自己隔離をまだ何カ月も続ける必要があるとみられる。 
 
ミシガン州知事が出したような命令やその恣意的な適用は、市民の集団的な不服従を招き、命令の本来の趣旨を損なう恐れがある。公衆衛生、そして合衆国憲法の擁護の立場からは、米国民を責任能力のある市民として扱う方が望ましい。【4月15日 WSJ】
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トランプ大統領はミシガン州などでの規制緩和を求める動きを後押ししていますが、なにやら露骨な政治的思惑が・・・

****「州を解放せよ!」 トランプ氏がツイート、野党系知事に揺さぶり****
トランプ米大統領は17日、中西部ミシガン州とミネソタ州、南部バージニア州で新型コロナウイルス感染の拡大防止策である自宅待機令の緩和と早期の経済再開を求める抗議デモが起きていることに関し、これらの州を「解放せよ!」とツイッターに書き込み、抗議デモを支持する立場を示した。
 
3州は知事が野党・民主党系であるほか、11月の大統領選の行方を左右する激戦州に位置付けられている。特に、ミシガン州のホイットマー知事は民主党候補指名を確実にしたバイデン前副大統領の副大統領候補にも取り沙汰されており、トランプ氏の発言には大統領選に向けて民主党勢力を揺さぶる思惑も込められているとみられる。
 
(中略)抗議デモは、中西部ウィスコンシン州や東部ペンシルベニア州、西部アイダホ州でも予定されるなど、トランプ氏が16日に経済再開に関する新指針を発表したのを受けて多くの州で実施される公算が大きい。
 
米調査機関ピュー・リサーチ・センターが16日発表した世論調査では「州政府が外出制限を性急に解除することを懸念する」との回答が66%に上った。

また、73%が「最悪の事態はこれから訪れる」と答えるなど、米世論の大勢は自宅待機令などで「ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)」を維持することを支持する立場を示している。【4月18日 産経】
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【慎重姿勢のクオモNY州知事との「ケンカ」をヒートアップさせるトランプ大統領 深まる「分断」】
一方、反トランプの急先鋒の立場にあるのが、最近全米で注目度がアップしているクオモNY州知事(民主党)。
トランプ政権は必要なカネを出さずに、責任だけ州に押し付けていると、大統領を批判しています。

****トランプ政権、経済再開で各州に「責任転嫁」=NY州知事****
米ニューヨーク州のクオモ知事は17日、新型コロナウイルス感染拡大を受け休止状態の同州の経済活動再開に向けて連邦政府からの支援が必要とし、トランプ政権は「金を渡さずに責任を押し付けているだけだ」と批判した。

(中略)トランプ大統領は前日、新型コロナ感染拡大で打撃を受けている米経済の再開に向けた指針を発表。各州は状況に応じて3段階で封鎖措置の解除を進めるべきとした上で、経済再開プロセスを開始するにあたり「強力な検査プログラム」を備えるべきとした。

クオモ知事は「トランプ政権が州政府に望んでいる措置を講じるための資金はあるか。答えはノーだ」と述べた。

ニューヨーク州は経済再開と新型コロナ検査拡大に向け連邦政府による資金提供が必要と強調。連邦政府が打ち出した3つの経済対策から「州政府が受け取った支援はゼロだ」と言明。「何らリソースを提供することなく、先例のない大規模な責任を各州に要請しないでもらいたい」と述べた。

また、州政府による連邦支援要請を巡るトランプ大統領の批判に対し、「家でテレビを観ているだけなのであれば、トランプ大統領は仕事に戻るべきなのでは」と応じた。【4月18日 ロイター】
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トランプ大統領は、やれるものなら自分の判断で経済再開を決めてしまいたいのでしょうが、アメリカの政治システムにあってそれが出来ないので州に判断をゆだねている・・・ということでしょう。

ただ、そのことは失敗した際には非常に便利。おそらく州知事の判断が間違った、州の対応が悪かったと、すべての責任を(民主党系の)州側に負わせるつもりでしょう。

クオモNY州知事とトランプ大統領の争いはヒートアップ。

****不仲のNY州知事に「仕事しろ」 トランプ大統領が応戦****
「責任転嫁をするな」「仕事をしろ」――。新型コロナウイルスへの対応をめぐり、米ニューヨーク州のクオモ知事とトランプ大統領が17日、そんな言葉で互いへの批判を繰り広げた。

米国の感染者と死者の数はともに世界最多。連邦政府に支援を求めるクオモ氏に対し、トランプ氏は自らの成果を強調しており、非難合戦は今後も続く可能性がある。
 
両氏は以前から仲が悪いことで知られる。17日に口火を切ったのはクオモ氏。これまでの連邦政府の支援が州にとって不十分だと訴え、「金を渡さずに責任転嫁をするな」と批判した。
 
一方、トランプ氏は数十分後、クオモ氏を名指しして「不満でなく、行動に時間を使うべきだ。そこ(会見場)から出て、仕事をしろ」とツイート。連邦政府として臨時の病床を設置したり、人工呼吸器を贈ったりした「実績」も挙げた。
 
まだ会見中だったクオモ氏は、報道陣からこのツイートについて問われ、「もし家でテレビを見ているなら、立ち上がって仕事に行くべきだ」と反論。病床や人工呼吸器を増やすことは、疾病対策センター(CDC)などの予測に基づくものだったと訴え、「CDCの予測を読んでいないのか?」と皮肉った。
 
米国は新型コロナウイルスの感染者数が世界最多の69万9千人超。死者も3万6千人を超え、世界で最も多い。【4月18日 朝日】
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トランプ大統領は、周知のように国外にあってはWHO・中国を激しく批判して、資金停止まで。

「今はそんなことやっている時じゃないだろう・・・」と常識人は思うのですが、あちこちにケンカを売って、初動を誤ったという自分への批判をうやむやにしてしまおう・・・というようにも見えます

と言うか、自分の意に沿わない相手には、すぐにケンカを売って、力でねじ伏せようとするというのは、「分断」を深める結果にも。強い指導者を求める一部の支持者には受けるスタイルでしょうが。

なお、一連のコロナ対応で影がかすんだのがバイデン氏。いっそのこと好感度アップのクオモ氏を副大統領候補にしたら・・・と思うのですが、公約で副大統領は女性にということにしているようです。

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現在の欧米中心の感染拡大は「悲劇の序章」か 今後アフリカ諸国、途上国貧困層などで感染爆発も

2020-04-17 23:07:14 | 疾病・保健衛生

(多くの人が普段通り外出しているリオデジャネイロの貧民街=13日午後【4月17日 朝日】)

【アフリカ地域で今後感染者1000万人?】
****新型コロナ死者14万人超す 感染者210万人に****
米ジョンズ・ホプキンズ大の集計によると、新型コロナウイルス感染症による死者が16日、世界全体で14万人を超えた。15日に13万人を上回ったばかり。感染者も16日に世界全体で210万人を超え、増え続けている。
 
世界保健機関(WHO)の16日付状況報告によると、死者の68%は欧州地域事務所管内(トルコや旧ソ連諸国を含む)に集中。死者数が3万人を超え最多の米国は一国で約20%を占めており、欧米での被害拡大が依然として顕著となっている。
 
米国は世界で唯一、死者が3万人を上回り、2万2千人のイタリア、1万9千人のスペインなど欧州各国が続く。【4月17日 共同】
*******************

現在は上記のように欧米を中心としていますが、今後は医療資源が未整備なアフリカ諸国・途上国において更に桁違いに拡大するものと思われ、それに比べれば現在の状況は「悲劇の序章に過ぎなかった」ともいえるレベルなのかも。

****アフリカ地域の新型コロナ感染、3─6カ月で1000万人=WHO****
世界保健機関(WHO)は16日、アフリカ地域の新型コロナウイルス感染者数は向こう3─6カ月で1000万人に膨れ上がる恐れがあると警告した。

ただ、WHOのアフリカプログラムの緊急対応責任者、マイケル・ヤオ氏は記者会見で、こうした予測は暫定的なもので、感染動向は今後変化する可能性もあると指摘。

エボラ出血熱の感染が拡大した際は人々が行動を変えたため最悪のシナリオは回避できたことに言及し、「公衆衛生面での措置が完全に実施されれば実際に効果が出るため、長期的な見通しを提示するのは難しい」と述べた。 

アフリカ地域の新型ウイルス感染件数はこれまでのところ約1万7000人、感染による死者数は約900人と、世界の他の地域と比べると抑制されている。 

ただWHOのマシディソ・モエティ・アフリカ地域事務局長は、感染は連日拡大しているとし、「地域的な感染拡大を懸念している」と述べた。

モエティ氏はまた、トランプ米大統領がWHOへの資金拠出の停止を決めたことについて、ポリオ、マラリア、HIV感染症など他の疾病への対応が阻害されるとし、「ポリオウイルス根絶などに大きな影響が及ぶ」と述べた。【4月17日 ロイター】
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感染件数はこれまでのところ約1万7000人・・・・検査態勢が整っていないアフリカ諸国にあっては、実態とはかけ離れた数字なのかも。

いずれにしても、ウイルスがアフリカで拡大しにくい特段の理由がない限り、爆発的な感染拡大は不可避であるように思われます。あるいはすでに水面下で始まっているのかも。

【途上国貧困層に深刻な感染リスクと「食べていけない」現実】
ウイルス感染拡大防止のための外出制限等の措置は、日本や欧米でも経済活動の停止という激痛を伴うため議論を呼ぶところですが、経済的基盤が弱いアフリカ諸国を含めた途上国では、先進国以上に難しい判断となります。

先進国では「命の問題か、それともカネか」という言われ方をしますが、日本など先進国にあっても、そういう議論は経済問題の持つ重要性を軽視しているように思います。

日本にあっても失業率が仮に20%、30%といった事態になれば、事業倒産や借金を苦に自殺といった話だけでなく、例えば持病に関して十分な治療がうけられないなど経済的困窮に由来する直接・間接の死亡者がコロナ死亡以上に増大すると思われます。

途上国にあっては、更に切実です。「コロナ感染のリスクか、より確実な収入途絶による餓死か」といった問題にもなります。

加えて、そういう地域にあっては衛生環境・居住条件が悪く、「感染のリスク」も先進国よりはるかに大きく、いったん感染が広がれば手がつけられない状況になることが予測され、更に対応が困難になります。

****感染200万人、新興国危機的 医療・補償、行き届かず 新型コロナ****
新型コロナウイルスの世界の感染者が15日、200万人を超えた。今月3日に100万人に達したばかりで、新興国や途上国でも流行が拡大している。

こうした国々で貧しさにあえぐ人たちは、政治の恩恵から漏れる憤りや、感染の危険、生活苦に震えている。

 ■貧困層「見捨てられた」
13日、ブラジルの最大都市・サンパウロの貧民街にある公立の医療センター前で、Tシャツやサンダル姿の男女が集まっていた。

感染が拡大するなか、狭い自宅を出て、風通しの良い路上で過ごすためだ。住民団体の代表は「すでに15人の感染が確認された。感染して亡くなった人も8人いると疑っている」と話す。
 
状況は第2の都市・リオデジャネイロでも同様だ。感染者が出た貧民街に住む主婦マリルセ・マリアさん(38)は「各家屋に最低5人は住んでいる。1人が感染すれば全員にうつる」。
実家では、れんがを積んだ約50平方メートルの2階建てに家族14人が暮らす。せっけんや水道のない家もある。

感染拡大を招く「密集」「密接」「密閉」がそろった環境で、感染症の専門家は地元紙に「貧民街で感染が広がれば、致死率は格段に上がる」と指摘する。

ただ、住民の懸念は感染の危険より明日の食事だ。地方政府が出した外出自粛要請で、多くの人が仕事を失った。 

ブラジルの15日時点の感染者は2万8320人、死者も1736人で、いずれも中南米で最多。だが、検査は重症者や医療関係者らにしか行われておらず、複数の研究機関が、実際の感染者は公表数の12~15倍になるとの試算を発表した。
 
それでも、ボルソナーロ大統領は「社会的隔離はブラジル経済を壊す」と訴え、買い物に出たり、支持者と間近で写真を撮ったりする姿をツイッターに投稿。地方政府による自粛要請と矛盾する内容で、社会に混乱が広がっている。
 
政権は仕事を失った低所得世帯に1人あたり月600レアル(約1万2千円)を支給し始めたが、システムの混乱で、受給できない人は少なくない。サンパウロの貧民街に暮らす家政婦フェルナンダ・ソウザさん(37)は「子連れ家族が、この額で暮らせると政府は思っているのか。私たちは見捨てられた」と嘆いた。
 
トルコでも、エルドアン大統領が経済への影響を考慮し、21~64歳の主な生産年齢層には外出禁止を課していない。

労働者は公共交通機関で出勤を続け、3月11日に国内で初めて確認された感染者は1カ月余りで7万人近くまで急増した。

世界的な感染拡大による国内景気の減退を受け、政権は、近く企業に従業員の解雇を3カ月禁じる法律を成立させる予定という。
 
だが、トルコに約358万人いるシリア難民は労働許可なしで働く人が多く、この法律では保護されない。
イスタンブールでアパートを借り、旅行会社で働いてきたシリア難民のムナフさん(32)は先月すでに解雇を告げられた。母語のアラビア語を生かし、アラブ諸国の旅行客の通訳をしてきたが、感染拡大を受けた国際線の停止で仕事がなくなったためだ。
 
難民たちはこれまでも、低賃金で長時間働く便利な存在として、企業の雇用調整弁とされてきた。ムナフさんは「コロナ危機の終息を祈るしかないが、危機が去っても僕の将来には何の保障もない」と嘆く。
 
古里を離れ、避難キャンプ暮らしを強いられている人々はより悲惨だ。イラク北部シェイハン郊外のキャンプでは、過激派組織「イスラム国」(IS)に迫害された少数派ヤジディ教徒ら約1万5千人が生活する。イリヤス・ハデルさん(29)は妻子3人と約30平方メートルのテントに住む。
 
イラクは全土に外出禁止令が出されており、ほとんどの支援団体がキャンプから一時的に撤収した。政争による政治空白が続くことに加え、最近の原油価格の暴落で、政府に避難民らを支える余裕はない。
 
キャンプ内で感染者は報告されていないが、移動制限の影響で、住民は日雇い仕事にも行けない状態という。政府の食料配給が頼りだが、マスクや消毒液はない。イリヤスさんは「一人感染すれば、キャンプは大混乱だ」と不安がる。(後略)【4月17日 朝日】
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【インドの巨大スラムでも】
アジア最大規模のスラムが存在するインドでも非常に懸念されるニュースが。

****インド最大のスラム街に新型コロナ拡大、感染者・死者共に増加****
インド・ムンバイにあるアジア最大規模のスラム街ダラビで、新型コロナウイルスの感染者数が43人に増え、死者は4人となった。当局が12日、明らかにした。同国では感染拡大の抑止を急ぐため、検査数を増やしている。
 
約100万人が密集して暮らすダラビは、2008年に米アカデミー賞を受賞した映画『スラムドッグ$ミリオネア』の舞台として有名になった。
 
今月初旬に初の死者が出て以来、インド当局はこのダラビ内で、感染が確認された地区を封鎖する措置を強化してきた。
 
だがムンバイ市は12日、前日の11日から新たに15人の感染と1人の死亡を報告。同スラムの感染者数は計43人になったと発表した。
 
同市によると、無症状の感染者を特定するため、過去数日間に複数の検査場が設置され、「結果、陽性の症例が増えた」という。
 
市は11日、AFPの取材に対し「より多くの新型コロナウイルス検査を行い、無症状の感染者を放置しないために、ダラビ内およびムンバイ各地に大規模な医療拠点を複数設置している」と話していた。
 
また地元当局は10日以降、公共の場の往来を減らすため、ダラビ内の「感染抑制区域」周辺の薬局以外の店舗をすべて閉鎖している。 【4月13日 AFP】
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感染者数が43人・・・実態よりは桁違いに少ない数字にも思えますが、すくなくとも今後は桁違いに増加するでしょう。

そのときどうするのか?地区全体を封鎖すれば、この地区の貧困者は餓死を余儀なくされます。
インド政府に貧困者の生活を支援する余力があるのか?
対策を取らなければ、感染は13億人インド全体に拡散する恐れも。

インドではユニークな対応も。

****インド、寝台車両を隔離施設に改造 最大32万人を収容****
輸送距離が6万キロ超と世界有数の「鉄道大国」インドで、新型コロナウイルスの感染者が急増して病院のベッド数が足りなくなる事態を防ごうと、鉄道省が寝台車両の隔離施設への改造を始めた。2万車両を造りかえ、32万人を隔離できるようにする計画だ。
 
世界銀行によると、人口1千人当たりの病院のベッド数は日本13・4、中国4・2に対し、インドはわずか0・7。すでにスポーツスタジアムや結婚式場、ホテルなどを隔離施設として利用しているが、人口13億人の国にとって十分とはいえない。

日本の支援で進める新幹線事業の一環で西部グジャラート州に建設した研修施設も、隔離施設として利用されるという。特に農村部では医療施設が乏しく、対応が急務となっている。
 
そこでモディ政権が目をつけたのは、英国の植民地時代に整備が進んだ、国内に約7300カ所あるという鉄道の駅。庶民にとって身近な場所である駅や車両を活用することを決めた。

現在、3月末から始まったインド全土での都市封鎖で、鉄道は運休中。感染者数が増えてベッドが足りない場所に、車両を移動させることができる。
 
寝台車両のベッドをそのまま使い、医療器具を使えるよう改造、整備する。ただ「窓を開けて空気循環をよくするため、冷房がついていない車両が対象」(鉄道省)だといい、すでに気温40度を超えているインドの酷暑を車内でどう緩和するかが課題となる。
 
同省担当者のナライン氏は「竹製のマットで日よけをするなど、快適な環境を工夫する。使える資源は最大限、有効活用してコロナと闘っていく」と話している。【4月15日 朝日】
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これはこれで実情に即応した対処ではありますが、巨大スラムを抱えるインドの状況が厳しいことには変わりありません。

【中東サウジでも王族にも感染拡大 中東の感染拡大で原油生産は?】
感染は中東地域でも拡大しています。よく取り上げられるのがイランですが、その成り行きが注目されるのがイラン以上に秘密主義で国内状況が分かりづらいサウジアラビア。

****新型コロナ感染拡大で苦境に陥るサウジアラビア****
(中略)サウジアラビア保健省は4月7日、「国内の新型コロナウイルス感染者が今後数週間で最大20万人に増加する公算が大きい」とする見通しを明らかにした。

サウジアラビアにおける直近の感染者数は3000人強だが、4月下旬にラマダン(断食月)入りすることで感染爆発が起きる恐れがあるからだ。
 
宗教行事をきっかけに新型コロナウイルスの感染が広がる例が世界で相次いでいるが、宗教行事の中で最も大きなイベントはラマダンであると言っても過言ではない。

サウジアラビアをはじめ各国政府は大規模な集会を避けるよう求めているが、4月下旬から約1カ月続くラマダンはイスラム教徒信仰心が一段と高まる時期である。

日没後は解禁された飲食を集団で楽しむ習慣があるが、武漢市やダイヤモンド・プリンセス号などの経験から、集団飲食が感染爆発を引き起こす最も危険な行為である。

サウジアラビア政府は既に禁止措置を採っているが、イスラム教の聖地であるメッカやメディナに世界のイスラム教徒が大量に巡礼に訪れることだろう。(後略)【4月12日 藤 和彦氏 JB press】
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サウジでは王族の感染も拡大しているようです。

****サウジ、コロナ感染爆発の恐れ 王族に拡大、巡礼に影響も****
イスラム教の聖地を抱えるサウジアラビアで、新型コロナウイルスの感染が爆発的に広がる恐れが出てきた。当局は感染者が最大20万人に上るとの推計を発表。感染が王族に広がっているとの報道に加え、世界各地から200万人以上が集う大巡礼(ハッジ)の中止や規模縮小も取り沙汰されている。
 
米紙ニューヨーク・タイムズは今月、約150人の王族がウイルスに感染し、重症者もいると報道。頻繁に欧州を行き来する王族がウイルスを持ち帰ったとの見方を伝えた。
 
サウジの王族は約1万5千人。84歳と高齢のサルマン国王は西部ジッダに近い島の宮殿に退避したとされる。【4月17日 共同】
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サウジアラビアで感染爆発すると、石油生産がストップする事態も。
サウジだけでなく中東産油国は同じような状況でしょうから。

そうなると、今は協調減産もコロナ禍による大幅な需要減少をカバーしきれないということで低迷している原油価格が一転して大幅上昇することもあるのかも。

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(中略)イラクに加えてサウジアラビアで新型コロナウイルスが蔓延し、隣接するアラブ首長国連邦(UAE)やカタール、クウェートなどアラビア半島での原油生産にも悪影響が及べば、世界の大原油地帯(日量2000万バレル以上)が新型コロナウイルスのせいで封鎖されるかもしれないのである。
 
リーマンショック後の2011年、リビアの政変による供給の大幅減を材料に大量のマネーが原油市場に殺到し、原油価格は1バレル=100ドル超えとなった。

新型コロナウイルスによる不況を警戒して世界の中央銀行が再びマネーを大量に放出していることから、中東地域での未曾有の地政学リスクが火種となって、原油価格が再び高騰するリスクが生じているのではないだろうか。【4月12日 藤 和彦氏 JB press】
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ロシア  急速に進む新型コロナの感染拡大 外出時のQRコード義務化 自宅での検査 帰国難民も

2020-04-16 22:55:22 | ロシア

(道路を消毒する車両。モスクワで撮影【4月13日 NHK】)


【「事態は制御下にある」から一転、対策に追われる】
世界各地で感染拡大が続く新型コロナはロシアでも。

****ロシアで新たに3448人感染 計2万7938人に 新型コロナ****
ロシアでは過去24時間で新たに3448人が新型コロナウイルスに感染した。これでロシアの感染者数は計2万7938人となった。16日、新型コロナウイルス緊急対策本部が発表した。

新たな感染者はロシアの78地域で確認された。最も多かったのはモスクワ(1308人)、モスクワ州(467人)、サンクトペテルブルク(154人)。死者数は計232人、回復した人の数は2304人。

なお、ロシア保健省は、すべての予防策が遵守された場合の感染者数が減少する時期については、モスクワで6~7月、流行のピーク時期については、4月末から5月上旬に訪れるかもしれないとの見方を示している。【4月16日 SPUTNIK】
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ロシアでの感染拡大を推測させるのが、ロシアから中国への帰国者の状況です。

****中国のコロナ新規感染89人=79人はロシアから黒竜江省へ****
中国政府は14日、新型コロナウイルスの有症感染者の累計が同日午前0時(日本時間同1時)時点で前日比89人増の8万2249人になったと発表した。

増加分は広東省内での感染が確認された3人以外は海外からの入国者で、このうちロシアから黒竜江省に陸路で入った帰国者が79人を占めた。
 
黒竜江省政府によると、入国者の感染確認は累計326人となった。ロシアからの感染者帰国が相次いでおり、中国政府や同省は警戒を強めている。【4月14日 時事】 
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ロシアは3月末頃までは、「事態は制御下にある」(プーチン大統領)としていました。

****感染防止へ…ライオン500頭を街中に?露****
ロイター通信が掲載したSNSの画像が物議を醸しています。
街中を歩いているライオンと「速報」の文字。なんと、「プーチン大統領が500頭のライオンを街に放った」と書かれています。

その理由は、「新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためライオンを放ち、人々に外出をとどまらせるため」だというのです。

SNSでは「なんてこと」「隔離措置が終わったあとはどうなるんだ?」など驚きの声。
しかし、ロイター通信によりますと、(中略)完全に嘘のニュースだったのです。

このフェイクニュースにロシアのザハロワ報道官は、「大統領がライオンを放ったという冗談は面白いがロシアには普通にクマがいるので大丈夫です」とコメント。普段から街にクマが出るのでライオンを放つ必要はないと一蹴しました。【3月30日 日テレNEWS24】
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上記ザハロワ報道官の対応など、まだ余裕が見られました。
“ロシア、米に医療機器・防護用品を空輸へ…プーチン氏が提案”【4月1日 読売】といった対応にも余裕が感じられました。

しかし、水面下で事態悪化が進行し、モスクワ市長が公式発表数字より事態は深刻であることをプーチン大統領に示す異例の対応も。

****モスクワの新型コロナ感染は見かけよりはるかに深刻=市長****
モスクワのソビャニン市長は24日、病院の視察に訪れたプーチン・ロシア大統領に対し、市内の新型コロナウイルス感染者数は公式発表をはるかに上回っているとの認識を示した。

市長は大統領の側近。広大なロシア国内で新型コロナがどの程度拡大しているか完全に把握できていない現状が浮き彫りとなった。

これまでにロシアで確認された感染者は495人、死者は1人で、西欧主要国の死者・感染者をはるかに下回っている。

大統領は先に事態は制御下にあると発言したが、一部の医師は公式発表がどの程度現実を反映しているかを疑問視している。

政府は24日、拡大抑制策としてナイトクラブ、映画館、児童向け娯楽施設を閉鎖した。
ソビャニン市長は大統領との会談で、「深刻な事態が進行している」と発言。感染の実数は不明だが、急速に増加しつつあると述べた。【3月25日 ロイター】
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その後の推移を見出しでなぞると

“モスクワ市も外出禁止拡大 30日以降、全市民対象 新型コロナ”【3月30日 毎日】
“ロシア、新型コロナで国家非常事態宣言を検討=関係筋”【4月2日 ロイター】
“ロシアが市民監視強化 コロナ対策、目的外利用の懸念 位置情報や顔認証カメラ”【4月2日 毎日】
“プーチン氏、非労働期間を延長 ロシアでコロナ感染者急増”【4月3日 AFP】
“ロシア、新型コロナ感染者が1万人突破 新規の判定が過去最多に”【4月10日 ロイター】
“モスクワが正教会の復活祭礼拝を規制、新型コロナ感染拡大で”【4月13日 ロイター】
“ロシアの新型コロナ状況悪化、対応に軍隊動員検討=大統領”【4月14日 ロイター】
“モスクワ市、数週間以内に病床不足の恐れと警告”【4月15日 ロイター】

【外出時のQRコード原則義務化は初日は混乱】
そうした事態が切迫するなかでの対応の一つが外出時のQRコード義務化。

****露モスクワ 外出にQRコード原則義務化へ****
ロシアのモスクワでは、新型コロナウイルスの感染拡大をうけ、外出禁止措置が強化されることになり、外出の際には原則、事前にQRコードを入手することが義務づけられることになりました。

QRコードは電子通行証に表示されるもので、13日から始まった申し込みでは、スマホやパソコンを使って、外出の理由のほか、電話番号、年金番号といった個人情報など必要な情報を登録します。外出時にQRコードのある通行証がなければ、罰金を科せられる可能性があるということです。

新型コロナウイルスのロシアでの感染者数は1万8000人を超え、そのうち約6割がモスクワ市に集中しています。事態を重くみたモスクワ市が外出禁止措置の強化に踏み切った形で、QRコードの携帯は15日から原則義務化されます。【4月14日 日テレNEWS24】
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でもって、15日から実施したところ・・・・

****モスクワの地下鉄駅に利用者が密集…外出許可の確認作業が追い付かず****
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、外出が原則禁止されているロシアの首都モスクワ市で15日朝、地下鉄駅に長蛇の列ができるなど混乱が起きた。
 
モスクワ市は15日、やむを得ない理由で地下鉄やバス、車を利用する人に「外出許可証」としてQRコードを配信し、警察官がチェックする制度を開始した。

しかし、利用者の多さに確認作業が追い付かず、露有力紙ベドモスチ(電子版)によると、複数の地下鉄入り口で大勢が密集する状況が生じ、駅構内に入るのに30〜40分かかったケースもあったという。
 
ソビャニン・モスクワ市長は15日、ツイッターに「非常に危機的な状況」と書き込み、改善策を講じると強調した。

市中心部に向かう幹線道路でもこの日、QRコードをチェックする検問待ちで数十キロ規模の渋滞が発生したという。【4月16日 読売】
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QRコードチェックで大密集ができたら本末転倒です。
おそらく、次第に運用も改善されていくのでしょう。

【看護師派遣で自宅で検査 検査件数は大幅増加】
韓国を筆頭に各国が検査態勢を拡充している中で、なぜか一向に検査態勢が改善しない(あるいは、改善する気がない)日本ですが、ロシアでは自宅への看護師派遣・検体の自己採取で検査数を大幅に増やしているとか。

****ロシアが新型コロナ訪問検査、自分で採取→看護師が持ち帰り****


新型コロナウイルスの感染者が急増しているロシアでは、感染の有無を診断する自宅訪問検査が始まりました。
 
新型コロナウイルスの感染者数が1万8000人を超えているロシア。首都モスクワで6日からロシア政府の研究機関が希望者に対し、看護師を派遣する形で新型コロナウイルスの訪問検査を始めました。
 
TBSのモスクワ支局がインターネットを通じて検査を申し込みました。 感染防止のため、看護師は検査キットを訪問先の扉にかけ、手渡しはしません。
 
「さて、この袋の中に試験管の入った小さい袋、それと別の袋に綿棒があります」(訪問検査に訪れた看護師)
 診断用の検体採取も看護師ではなく、申込者本人がめん棒で、のどの奥をこすります。検体が付着しためん棒の先端を試験管に入れ、それをビニール袋で三重にして密封します。
 
「私は離れますが、ドアノブに袋をかけてください」(訪問検査に訪れた看護師)
 
看護師が検体を持ち帰るまで訪問時間は5分、費用はおよそ2800円。検査結果は後日、メールで送られてきます。 
 
6日に検査受け付け開始以降、すでに1万6000件の申し込みがあり、135人の看護師がフル稼働で、モスクワで1日最大2500人を訪問するといいます。(中略) 

ロシアでは、こうした訪問検査も含め日本が2月中旬以降行ったPCR検査数のおよそ10倍の、およそ130万件の検査がすでに行われています。

感染者を特定して早期に隔離措置をとるため、ロシア政府は、誰でも簡単に受けられる、この訪問検査を積極的に活用したい考えです。【4月14日 TBS】
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【羽田にロシア人帰国難民】
先述のロシアからの中国への帰国者がウイルスを持ち込むことに中国側が警戒を強めている話、中国メディアでは「帰ってくるな」とも。

****中国、ロシア国境で新型コロナ対策強化 渡航者からの感染封じ込め****
(中略)共産党機関紙・人民日報傘下の有力紙「環球時報」は社説で、ロシアから渡航した感染者は計409人と、海外から持ち込まれた感染例で最多となっていると指摘。同国に滞在中の中国人は帰国すべきでないと論じた。

また「ロシアは海外から持ち込まれる感染の封じ込め失敗を示す新たな例として警鐘を鳴らすものだ」とし、「中国は感染者の流入を厳しく阻止し、感染第2波を防ぐ必要がある」と強調した。(後略)【4月14日 ロイター】
******************

「帰ってくるな」は中国だけでなく、ロシアも同様のようです。羽田には帰国できないロシア人が1週間空港内で寝泊まりする状態になっているとか。

****国際線運休 羽田空港にロシア人25人が1週間足止め *****


新型コロナウイルスの感染拡大を受けて日本各地とロシアを結ぶすべての国際線が運休している影響で、羽田空港には仕事で訪れていたロシア人25人が1週間にわたって足止めとなっています。

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて羽田空港では、モスクワやロシア東部のウラジオストクなどと結ぶ定期便が今月8日以降、すべて運休しています。

このため、8日以降のウラジオストク行きの便に搭乗する予定だったロシア人、合わせて25人が出国できなくなり、羽田空港の第3ターミナルで足止めとなっています。

25人はターミナルのロビーで寝泊まりしていて、これまでのところ体調不良を訴える人などはいないということです。

国土交通省によりますと、国内からは羽田や成田、それに新千歳などからロシア各地への定期便が運航されていますが、これまでにすべて運休となり、再開の見通しはたっていないということです。

ウラジオストクの貿易会社から出張で大阪府を訪れていた39歳の男性は、「ロシアにいる家族も心配して航空会社に問い合わせてくれていますが、対応してもらえません。ここには糖尿病の持病がある仲間もいるので体調が心配です」と話していました。

ほとんどが仕事で訪日した極東の人たち
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ロシア政府は先月27日から国際線の定期便の運航を停止しています。

これを受けてロシア政府は、仕事や観光で国外に滞在しているロシア人を帰国させるため、各国にチャーター機を派遣していて、12日には羽田空港から首都モスクワに向けて運航されたチャーター便で、ロシア人観光客などおよそ180人が帰国しました。

しかし、このチャーター便に乗ることが許可されたのは、モスクワやその周辺に自宅などがある人のみで、座席の数にもかぎりがあることから、東京にあるロシア大使館によりますと、現在もおよそ400人が帰国のめどが立たず、都内周辺のホテルなどに滞在しているということです。

羽田空港のロビーで寝泊まりしているのはロシア極東の人たちで、ほとんどが仕事で日本を訪れ、今月9日にロシアの航空会社が運航する便で、ウラジオストクに帰る予定でしたが、直前に欠航となり、所持金もほとんどないことから、空港にとどまり続けているということです。

現在は日本に住むロシア人が、ボランティアで食料を届けて支援しているということです。

自動車輸入関連の仕事でウラジオストクから訪れ、今月9日から羽田空港に滞在している、マクシム・トゥマノフさん(31)は「泊まっていたホステルが閉鎖され、ホテルも高くて泊まれないので空港にとどまるしかありません。家族も心配しています。早く帰りたいです」と話していました。

トゥマノフさんたちは13日、手書きの請願書をロシア大使館に提出し、早期の帰国を求めていて、大使館では宿泊先の提供や医療面の支援などを進めたいとしています。【4月14日 NHK】
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新型コロナがもたらす社会変化 強い指導力と国民監視の強権支配体制か?

2020-04-15 23:28:34 | 民主主義・社会問題

(【2017年4月13日 CITY WATCH】 トランプ大統領の専制君主のような言動への批判は今に始まった話でもありませんが・・・)

【14世紀ペスト大流行は欧州に「自由」をもたらした】
新型コロナの世界的感染拡大、特に欧米社会に対する強烈なダメージは、中世ヨーロッパにおけるベスト(黒死病)の大流行への注目を惹起しています。

数字はいろいろあるとは思いますが、当時の世界人口4億5000万人の22%にあたる1億人が死亡したとも推計されています。

大規模な疫病は社会の変質をもたらしますが、14世紀欧州を襲ったペスト大流行は「自由」をもたらすことにもなり、その後のルネサンスや自由経済を生み出すことにもなったようです。

****感染症による社会の変質を考える 東京大学入試問題から****
(中略)感染拡大が続く新型コロナウイルス。緊急事態宣言が出るなど私たちにとっては未曽有の事態となっているが、歴史をひもとくと、世界規模の感染症の流行は何度も起きている。

 ■ペスト後にめばえた「自由」の数々 受験世界史専門塾代表・ゆげひろのぶさん
14世紀にパンデミックを起こし、黒死病と呼ばれたペスト。大航海時代に欧州とアメリカ大陸で交換されたと言われる天然痘と梅毒。ベンガル地方の風土病が、英国の覇権拡大で世界に伝搬したコレラ。第1次世界大戦の終戦の一因にもなったスペイン風邪……。感染症が大規模に流行するたびに多くの人命が失われました。

一方、感染症は、歴史の教科書に載っている様々な出来事のきっかけにもなっています。
 
「ペストは近代の陣痛」という言葉があります。ペストの流行が、暗く息苦しい中世から明るく自由な近代への転換をもたらしたという考えです。(中略)

中世の西ヨーロッパは神に対して敬虔(けいけん)でした。ところが人口の3分の1がバタバタと死んでいく。そうすると「神様はいないのでは……」「どうせ死ぬなら好き勝手に」となります。

ペストが猛威を振るった14世紀に出された『十日物語』には、修道院長が露骨に性交を迫る場面があり、近代小説の始まりとされます。ペストは従来の価値観に大きな変化をもたらしました。これがルネサンスです。
 
次に経済的側面です。同じく中世の西ヨーロッパでは、農村は共同体でした。畑には柵がなく、みんなで働いて、領主に年貢を納めた残りをみんなで分け合いました。

しかしペストによる大量死は極端な労働力不足をもたらします。そこで領主は農民の労働意欲を上げるために、それぞれに土地を貸し出します。

すると農民たちは、麦を植えるか、豆を植えるか、羊を飼うかと、自分で考え行動し、その成果も失敗も自身が受け入れます。これが資本主義、自由経済の始まりです。経済面でもペストは自由をもたらしたのです。
 
問題から外れてその後の歴史を見ると、特にペストが深刻だったイギリスで資本主義が発展しました。その結果、強国となって、英語と資本主義を世界中に広げました。(中略)

こうした社会の変化はペストに限った話ではありません。コレラは飲み水を介して流行が広がったので、予防のために上下水道の整備が進みました。結核予防のため、空気の通りを良くする大通りなど近代都市のインフラが整備されました。
 
現代に当てはめれば、新型コロナウイルスによる外出自粛は、テレワークやネット授業を急速に普及させています。新たな感染症の流行は大きな脅威ですが、それがもたらす変化の側面も、私たちは熟考すべきかもしれません。(談)

 ■新型コロナ、地方分権進むか
(中略)ヒトに感染するコロナウイルスは7種類が報告されている。四つは通常の風邪を引き起こすウイルスで、残る三つが2002~03年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)、12年に出現したMERS(中東呼吸器症候群)、そして今回の新型コロナウイルスだ。

山本(長崎大学熱帯医学研究所)教授は「20年弱で新型が3度というのは異常な出現頻度だ」と言い、「無秩序な開発や地球温暖化による生態系の変化で、ヒトと野生動物の距離が縮まっている。巨大都市化をさらに進めるのか、それとも人口も含めた地方分権をするのか。今後の変化は我々の意識次第だろう」とみる。(後略)【4月15日 朝日】
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【新型コロナが助長するのは強権支配か?】
ペストは「自由」をもたらしましたが、新型コロナ対応では強権的な中国が危機を一応乗り切ったことで「成果」を誇っているのに対し、欧米民主主義国は対応に苦慮している現実もあり、危機対応と言う面で「強権的政治体制」のメリットを示しているという見方もあるかも。

また、感染防止対策としての「市民監視」が強化され、コロナ後の「監視社会」に道を開くことになるかも・・・という不安もあります。

****コロナ危機、ハラリ氏の視座 「敵は心の中の悪魔」****
新型コロナウイルスによる感染症の脅威に世界中がすくんでいる。私たちはどう立ち向かうべきなのか。人類史を問い直し、未来を大胆に読み解く著作で知られるイスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリさんが電話でのインタビューに応じた。今まさに分かれ道にさしかかっている、と言う。(中略)

 ――ウイルスの感染拡大で、私たちはどのような課題に直面していると考えますか。
「世界は政治の重大局面にあります。ウイルスの脅威に対応するには、さまざまな政治判断が求められるからです。三つの例を挙げてみましょう」
 
「まず国際的な連帯で危機を乗り切るという選択肢があります。すべての国が情報や医療資源を共有し、互いを経済的に助け合う方法です。他方で、国家的な孤立主義の道を選ぶこともできる。他国と争い、情報共有を拒み、貴重な資源を奪い合う道です。どちらの選択も可能で、政治判断に委ねられています」
 
「また、ある国はすべての権力を独裁者に与えるかもしれない。独裁者がすでにいる場合もあれば、新たな独裁者が生まれる場合もあります。一方で、別の国では民主的な制度を維持し、権力に対するチェックとバランスを重視する道を選ぶでしょう」(中略)

強さ求める国民、慎重な政府
 ――独裁と民主主義のうち、どちらが感染症の脅威にうまく対応しているでしょうか。
 
「日本や韓国、台湾のような東アジアの民主主義は、比較的うまく対処してきました。感染者や死亡者の数は低めに抑えられています。しかし、イタリアや米国は同じ民主主義でも、状況ははるかに悪い」
 
「独裁体制でも中国は、うまくやっているように見えます。中国がもっと開かれた民主主義の体制であれば、最初の段階で流行を防げたかもしれない。ただ、その後の数カ月を見れば、中国は米国よりもはるかにうまく対処しています。

一方でイランやトルコといった他の独裁や権威主義体制は失敗している。報道の自由がなく、政府が感染拡大の情報をもみ消しているのが原因です」

 ――どちらの政治体制が望ましいとも言えないわけですか。
「現状では、独裁と民主主義が生む結果の間に明白な差はないようにみえます。しかし、長い目で見ると民主主義の方が危機にうまく対応できるでしょう。理由は二つあります」
 
「情報を得て自発的に行動できる人間は、警察の取り締まりを受けて動く無知な人間に比べて危機にうまく対処できます。数百万人に手洗いを徹底させたい場合、人々に信頼できる情報を与えて教育する方が、すべてのトイレに警察官とカメラを配置するより簡単でしょう」
 
「独裁の場合は、誰にも相談をせずに決断し、速く行動することができる。しかし、間違った判断をした場合、独裁者は誤りを認めたがりません。メディアを使って問題を隠し、誤った政策に固執するものです。これに対し、民主主義体制では政府が誤りを認めることがより容易になる。報道の自由と市民の圧力があるからです」(中略)

 ――市民への監視や管理を強めた中国の手法が成功例とされることは、どう考えますか。
「新技術を使った監視には反対しないし、感染症との闘いには監視も必要です。むしろ、民主的でバランスの取れた方法で監視をすることもできると考えます」
 
「重要なのは、監視の権限を警察や軍、治安機関に与えないこと。独立した保健機関を設立して監視を担わせ、感染症対策のためだけにデータを保管することが望ましいでしょう。そうすることで、人々からの信頼を得ることができます。たとえばイスラエルでは、警察による監視をすれば、少数派のアラブ人からの信頼を決して得ることができません」
 
「独裁体制では、監視は一方通行でしかない。中国では、人々がどこに行くのかについて政府は知っていますが、政府の意思決定の経緯について人々は何も知りません。これに対し民主主義には、市民が政府を監視する機能がある。何が起き、誰が判断をして、誰がお金を得ているのかを市民が理解できるなら、それは十分に民主的です」

 ――日本は私権の制限に慎重で、民主主義を守りながら対応をしています。しかし国民が不安に駆られ、より強い政府を求める声も出ています。
 
「政府に断固とした行動を求めることは民主主義に反しません。緊急時には民主主義でも素早く決断して動くことができる。政府からの情報を人々がより信頼できるという利点もある。政府が緊急措置をとるために独裁になる必要はありません」(後略)【4月15日 朝日】
***********************

ユヴァル・ノア・ハラリ氏の議論はグローバリゼーション、国際協力体制などに及んでいきますが、そのあたりはまた別機会に。

「長い目で見ると民主主義の方が危機にうまく対応できる」とする同氏ですが、現実世界では、危機対応で強い指導力が必要・・・と、強権的政府がコロナ対策で「焼け太り」するような事例も目につきます。

****コロナで浮上する政府の権力濫用****
新型コロナウイルスへの対応には強力な指導力が必要である一方、それを悪用した権力の濫用、さらには統治権の全権委任などの独裁化が懸念される。

例えば、ハンガリーの新たな法案では、3月11日に出された非常事態宣言を無期限に延長し(終了は政府の判断による)、この間、政府に政令による新たな立法と既存の法律の停止を認める。更に、パンデミック対策を妨害していると認められる者、および偽りの情報を拡散していると認められる者には刑罰を課すことを可能とするものである。

政府は先例のないパンデミックの脅威に対抗するために必要な措置だと説明しているが、その内容は憲法の枠組みを逸脱するものと見られ、統治の全権をオルバン首相に委ねるものに他ならない。(中略)

ハンガリーのケースとは様相を異にするが、東欧やバルカンにはパンデミックを理由に(あるいは口実に)政府の規制権限を強化する動き、具体的には人々を監視する色彩のある措置を導入しようとの動きがあるようである。

スロバキアでは3月25日、感染した人の動きを追跡し自己隔離の要求に従っているかを確認する目的で通信会社の位置情報に保健当局がアクセスすることを認める法案を議会が可決した。これはシンガポール、韓国、台湾が採用した措置に倣ったものだと当局者は述べている。

ポーランドの首相は自己隔離を求められている人が本当に自宅待機をしているか確認するために「電子的解決策」を導入すること考えていると発言。セルビアの大統領はイタリアの電話番号を持っている人の行動を追跡していると述べた。
 
エコノミスト誌(3月28日号)の社説‘The state in the time of covid-19’は、パンデミック対策のため西側諸国が外出規制とビジネス閉鎖を行い、経済の下支えのために巨額の資金を投入し、更に韓国とシンガポールの例に倣えば医療と通信のプライバシーすら危うくしかねない状況を観察して、「これは第二次大戦以降で最も劇的な国家権限の拡大である」と書いている。

政府は果敢に行動せねばならない、しかし、危機に際して一旦手にした権限を政府は放棄しようとしないというのが歴史の教訓である。

「危機はより大きな権限と責任を持った永久に大きな国家、そしてそれを賄うに足る税金をもたらす」と社説は警告する。

その上で、社説は、最大の問題は監視(surveillance)の拡散であり、パンデミックが終わった後も監視を利用することの誘惑にかられることだと指摘する。
 
国民の行動を監視し、医療や行動のデータを収集することはパンデミック対策には有効であるに違いない。しかし、ハンガリーのケースは論外として、危機に際する緊急措置の恒久化を阻止すること、いわば政府の「焼け太り」を阻止すべくそれぞれの国民が注意を怠らないことが求められているのであろう。【4月15日 WEDGE】 
******************

アメリカでは経済活動の再開に向けて強い指導力を発揮したいトランプ大統領と、「大統領は、なんでも思い通りできる国王ではない」とするクオモNY州知事などが対立しています。

****トランプ氏は「国王でない」 経済再開めぐり州知事ら反発****
ドナルド・トランプ米大統領が、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)を受けて停止している米経済活動の再開に向けて、国王に相当する権力を行使しようとしているとの批判を受けている。
 
再選をかけた11月の大統領選で苦戦が予想される共和党のトランプ氏は、世界最大の規模を誇る米経済をできるだけ早期に再始動させたい意向で、14日にはそのためのタスクフォースが発表される予定。

しかし米経済の屋台骨であるカリフォルニアとニューヨークの両州(いずれも州知事は民主党所属)は、トランプ氏に主導権を渡すことを拒み、独自の再開計画を発表しようとしている。
 
トランプ氏は13日の定例記者会見で「米大統領の権力は完全だ」と述べ、自身が州知事の決定を覆して再開日程を決定できると主張し、物議を醸した。
 
ニューヨーク州のアンドルー・クオモ知事は米CNNテレビに対し、「この国にいるのはトランプ国王ではなく、トランプ大統領だ」と反論。「彼が私の州の人々の公衆衛生を危険にさらす形での再開を命じたとしても、私は従わない」と表明した。
 
大統領選で民主党候補としてトランプ氏と対決する見通しのジョー・バイデン前副大統領も論争に加わり、自分は「米国王の地位に立候補しているわけではない」とツイッターに書き込んだ。 【4月15日 AFP】
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【国民が強制措置とその補償を国家に求める「依存」の指摘も】
一方、所得補償など、国民が国家に過度に依存する傾向を危ぶむ声も。

****新型コロナで肥大化する国家の危険度****
この2ヵ月間、世間の話題は新型コロナウイルスのことばかり。苦しいときの神頼みではないが、国家や政府に強制措置を取ってもらいたい。だが自分に何か強制するなら、損害の補償はしてもらいたい・・・こんな声が聞こえてくる。

そうした要求に押されて、先進諸国の政府は(日本を除き)市民の外出を取り締まり、金融市場への下支えなどで肥大する一方だ。

これがどのくらい後戻り不能で、専制政治への種をまいてしまったのか、検証してみたい。
 
まず民主主義。近代民主主義の中心地である欧州では、コロナヘの対応はまちまちで、ハンガリーのオルバン政権のように悪乗りして無期限の非常大権を手にした例もある。

だが西欧諸国では、今は警官が市民の外出を取り締まっても、いずれ民主主義体制に戻るだろう。いくつかの革命も経て、民主主義は彼らの精神に染み込んでいる。
 
問題はアメリカだ。秋の大統領選を見据えて、コロナ対策も政争の種になっている。民主党が予備選の一時停止を迫られたなか、トランプ大統領はコロナ問題についてと称して毎日長丁場の記者会見を実施。政敵や外国を非難して、選挙運動に使う始末だ。

コロナ問題が長引けば、トランプは再び非常事態を宣言して大統領選を延期し、無期延命を図りかねない。
 
そして中国は性懲りもなく、「ウチは政府が強権を振るったからコロナを退治できた」と強弁し、途上国に専制政治を薦めている。

こうしたなかで、日本も含め民主主義を維持できる国々は団結を強めるべきだ。例えばOECDのハイレペル会合を開き、各国の民主主義の状況を毎年レビューし、途上国に対しては上から目線ではなく、親身の支援を表明することなどができよう。

個人補償へのルール作りが必要
もう1つ気に掛かるのは、経済活動に対する政府と中央銀行の限りない関与増大だ。(中略)

アメリカでは一般市民でも金融資産、特に年金積立の多くを株式で保有するため、トランプにとって株価の維持と引き上げは再選に不可欠。国家が金融市場をのみ込み、バラマキの道具に使っているとも言える。
 
翻って日本でも、長期国債の約47%は日銀が保有し、上場投資信託(ETF)も日銀が現行から2倍となる年12兆円を買い上げる構えでいる。
 
さらに国家は、個人の所得補償に大々的に乗り出した。この数年先進国では、ロボットに職を奪われる労働者に対する国家による所得保障の是非が議論されてきたが、コロナで収入を失った人たちへの補償という形で、未来が一歩早く実現してしまった。
 
これは、台風や大地震で所得や財産を失った人たちにも国家補償を行うという発想にもつながる。日本経済の生産力と貯蓄の規模を考えれば可能性はある。

だが、「補償」の肥大化による国家資本主義が勤労意欲や経済効率を損なえば有害だ。災害時の個人補償については、その可能性とルール作りを進めるべきだし、個々の審査を迅速化するにはマイナンバーの普及などを通じて国民の所得をガラス張りにし、デジタル化することが不可欠になる。
 
コロナに打ちひしがれてはいけない。だが、政府への過度の依存も問題だ。官民のバランスを保ちながら、次の疫病を見据えた対策を整備する必要があろう。【4月21日号 河東哲夫氏 Newsweek日本語版】
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新型コロナ  国営医療制度NHSを誇ったイギリスで欧州最悪の死者の予測、医療崩壊の危惧も

2020-04-14 23:24:12 | 疾病・保健衛生

(ロンドンでコロナウイルス患者を収容する病院の近くで学生が掲げたアウトブレイクと闘っている国営医療制度NHSのスタッフを応援する貼り紙【4月13日 朝日】 しかし、帰宅したNHSスタッフにツバを吐きかけたり「病気のスプレッダー」と罵詈雑言を浴びせたりするケースも相次いでいます。)

【新規の死者の9割が欧米】
東京の新規感染者はここ数日“高止まり”状態で、今後増加に転じるのか、逆に沈静に向かうのか・・・気になるところです。

東京が沈静化するば、やや浮き足立った感もある日本社会全体も落ち着きを取り戻して、冷静に新型コロナと向き合うこともできるようになるでしょう。

世界全体の数字は“拡大”が続いています。

****新型コロナ世界の死者約12万人 依然、欧米での被害拡大続く****
米ジョンズ・ホプキンズ大の集計によると、新型コロナウイルス感染症による死者は14日、世界全体で11万9千人超となった。依然として欧米での被害拡大が続いている。感染者は192万人を超えている。

死者は3月20日に1万人を超えて以降、増加のペースが急加速。31日に4万人を上回った後は、1〜2日で1万人以上が増える状態が続いており、今月12日に11万人を超えたばかりだった。
 
WHOの13日付状況報告によると、前日から増えた死者のうち、56%は欧州地域事務所管内(トルコや旧ソ連諸国を含む)、34%は米国と、欧米だけで全体の9割に達している。【4月14日 共同】
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3月20日に1万人を超えて、14日には12万人・・・すさまじいペースです。
そのなかで欧米が死者数の9割。

今は初期段階で、今後感染の中心が欧米以外の途上国に移っていくということでしょうか。
そうなると数字は現在よりもう一桁大きいものになっていくでしょう。最悪のシナリオです。

あるいは、欧米以外では正確な数字が把握されていないだけということでしょうか? 
多少はそういう面もあるかも。ただ、感染者数はともかく、そうそう死者数を隠すこともできないようにも・・・

あるいは、この疾病が、握手やハグ・キスなどの習慣を含めて、欧米に集中しやすい理由があるのでしょうか?
例えば、先月タイを旅行していましたが、店舗の大部分は道路との仕切りがないオープンスタイル。これなら「密閉空間」はできにくいかも・・・と感じましたが、そういうことも影響するのか?あるいは、気候の問題か?

【ピークを越えたようにも見える国があるなかで、先が見えないイギリス 欧州最悪の予測も】
感染の中心となっている欧米でも、これまで一番深刻だったイタリアやスぺインなどでは沈静化の兆しも見え始め、アメリカ・ニューヨークもやや傾向が変わってきたようにも。

そうした情勢を受けて、現在の外出規制などを緩和する議論も各地で出ていますが、一方でイギリスのように未だピークが見えない国、ロシアのように今後更に深刻化しそうな国も。

****英国は「欧州最悪となる恐れも」と政府顧問 死者1万人を超す****
イギリスの新型コロナウイルスによる死者が12日、1万人を超えた。英政府の科学顧問は、イギリスが欧州で最も被害の大きい国になる恐れがあると警告している。

医学研究を支援する英財団ウェルカム・トラスト代表で、英政府科学顧問の1人、サー・ジェレミー・ファラーは、イギリスが「欧州で最悪級の、下手をすると最悪の被害を出す」と、BBC番組」「アンドリュー・マー・ショー」で述べた。

イギリスの新型ウイルスによる病院での死者は12日、737人増え、計1万612人となった。この人数は病院以外での死者を含んでいない。

マット・ハンコック英保健相は、「今日は暗い日となった」と述べた。同時に、国民による外出自粛の努力を歓迎した。

死者が1万人を超えたのは世界で5カ国目で、アメリカ、イタリア、スペイン、フランス、イギリスの順。

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、世界最多のアメリカでは日本時間13日午後3時までに2万2100人超が亡くなっている。

欧州における死者は現在、イタリアが1万9800人以上で最も多い。スペインが1万7000人超で次に多く、1万4000人以上のフランスが続き、4位がイギリスとなっている。

一方、ドイツではフランスの13万3600人超に次ぐ12万7800人超の感染が確認されているが、死者は3000人に達していない。

緊急時に英政府に助言する科学顧問グループ(SAGE)のメンバーであるファラー氏は、ドイツについて、「並外れた」検査規模が入院患者の少なさの要因になっていると述べた。

BBCの番組で同氏は、COVID-19(新型ウイルスの感染症)の検査をすることで、感染者を隔離して感染拡大を防げると同時に、病院に態勢を整える時間を与えることになると説明。「間違いなく、学べることはある」と付け加えた。(後略)【4月13日 BBC】
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イギリス政府は当初、かなりの人数が免疫を獲得した集団内では感染が拡大しないという「集団免疫」戦略を取りました。重症化のリスクが最も高い人たちを守りつつ、医療崩壊を防ぐために感染者が一気に急増する事態を防ごうとする「緩和策」です。

しかし、それでは25万人が死亡し、国営医療制度NHSの集中治療能力は完全に破綻するという見通しが出され、ジョンソン首相は3月23日にテレビ演説を行い、国民に外出禁止を要請して方針を転換しました。

しかし、それでも感染拡大の勢いは止まっていません。

イギリスに限った話ではありませんが、実際の死者数は公式発表より更に大きいと思われます。

****英国の新型コロナ死者、公式データより15%多い可能性=統計局****
新型コロナウイルスによる英国の死者は、これまで公式統計で明らかにされているよりも実際には15%多い可能性がある。

英国立統計局(ONS)が14日公表したデータでは、老人ホームなど病院以外のコミュニティーにおける死者数も含まれている。それによるとイングランドとウェールズで4月3日までに死亡した6235人の死亡診断書に「COVID━19(新型コロナウイルス感染症)」と記載されていた。

ONSの統計学者、ニック・ストライプ氏は「イングランドのデータを見ると、国民保健サービス(NHS)による数字よりも15%多い。死因として疑われるケースも含めて死亡診断書に『COVID━19』と記載されているからだ。コミュニティーでの死亡者も含まれている」と語った。

政府が毎日発表するデータには病院での死者数しか反映されていない。

日々公表される公式データによると、英国では12日1600GMT(日本時間13日午前1時)までに累計で1万1329人が検査で陽性反応が出た後に病院で死亡している。
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今後の予測に関しては、更に厳しい見方も。

****英国のコロナ死者、欧州最多の6.6万人となる恐れ 米大学予測****
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)第1波による英国の死者数が、欧州で最多の6万6000人に達する可能性があるとする分析結果が7日、米ワシントン大学の研究チームにより発表された。
 
同大医学部の保健指標評価研究所が行ったモデリングによると、欧州全体での新型コロナウイルスによる死者数は15万1680人前後に達すると予測される。
 
英国の新型コロナウイルスによる死者数は7日、6000人を突破。これはスペイン、イタリア、フランスの死者数を下回っているが、英国のウイルス流行は他の欧州諸国より数日遅れており、死者の増加ペースは現時点で既に他国を上回っている。
 
IHMEの研究チームは、各国と世界の感染者数の集計と、中国、イタリア、韓国、米国の年齢別致死率、各国の集中治療室の病床数などに基づき、国別予想死者数のモデリングを実施。

その結果として、欧州諸国での8月4日までの死者数は上位から順に、英国が他国を大きく引き離す約6万6000人、イタリアが約2万人、スペインが約1万9000人、フランスが約1万5000人となると予想した。
 
IHMEは5日に発表した分析結果で、米国でのパンデミック第1波による死者は8万人以上に達すると予測していた。 【4月8日 AFP】
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こうした状況から、先述のようにイタリア・スペインでは規制緩和の話も出ていますが、イギリスはそういう段階にはないようです。

****英外相、外出禁止緩和せず=死者1万1000人超える―新型コロナ****
ラーブ英外相(首相代行)は13日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大阻止のための外出禁止について「現在の措置にいかなる変更も加わるとは考えていない」と述べ、当面は緩和されないと厳しい見通しを示した。

英紙タイムズによれば、ラーブ氏は少なくとも5月7日まで禁止措置を延長する方針を16日に発表する。
 
政府は先月23日、全土で不要不急の外出を禁止。政府の科学顧問グループが今週、再検討を行うことになっている。会見でラーブ氏は「この戦いに勝利し始めたことを示す前向きな兆候はある」と述べた。しかし「まだ先は長い。(感染拡大の)ピークを過ぎてはいない」と警戒を崩さなかった。
 
保健省によると、英国での感染者は13日現在、9万人に迫り、死者も1万1000人を超えた。【4月14日 時事】
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【現実味を増す医療崩壊の危機】
厳しい状況のなかで、気になる風潮も報じられています。

****「ウイルスを持って帰ってくるな」イギリスでは医療スタッフへ差別的な“虐待”が起きた****
新型コロナウイルスの大流行で日本でも緊急事態宣言が発令された。感染爆発が起きる前に医療現場が機能不全に陥る恐れも十分にある。医師や看護師を守ることができなければ患者の命は救えない。どんな備えと支えが必要か。医療崩壊に瀕する欧州から報告する。

数十人が公の場で虐待された
現在、英国では医療の最前線でウイルスと戦って帰宅したNHS(国民医療サービス)のスタッフにツバを吐きかけたり「病気のスプレッダー」と罵詈雑言を浴びせたりするケースが相次いでいる。近所の人から「ウイルスを持って帰ってくるな」「中国に帰れ」と嫌がらせを受けたスタッフもいる。
 
NHSスタッフの中には移民も多く、数十人が公の場で虐待されたという。イングランド主任看護師のルース・メイ氏はNHSのスタッフにユニフォームやID(身分証明書)を身に着けて通勤しないよう指示するとともにこう呼びかけた。

「私たちの命を救うために通勤していることを知りながら危害を加えようとするなんて本当に恐ろしいことだ。断じて許せない。看護師も助産師のチームもみな一生懸命働いている。どうか温かく接して」
 
こうした虐待はどうか少数であってほしい。英国の医療制度は原則無料、税金と国民保険料で運営されている。英国の誇りであり、市民の命を守る最後の砦である。

「医療従事者を拍手で激励しよう」
毎週木曜日午後8時、“対ウイルス戦争”の最前線に立つNHSの医師や看護師、スタッフを激励するため、英国中の市民がバルコニーや窓、玄関から拍手と声援を送っている。そしてNHSを支えるボランティアに75万人以上が志願した。(中略)

NHSのスタッフを拍手で激励する運動は、ロンドンで暮らすオランダ人女性のアナマリー・プラスさんの「外出禁止になり、ご近所さんとも顔を合わせなくなった。みんなで安全距離を保ちながら一緒に外に出て医療従事者を励まそう」という呼びかけで瞬く間に広がった。【4月10日 文春オンライン】
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「ウイルスを持って帰ってくるな」云々は座視できない暴言ですが、ただ、現実問題として医療関係者の間で感染が拡大している事実もあって、「医療崩壊」の引き金にもなる危険性があります。

****検査受けた医療従事者、3分の1が陽性判定 英****
 英国の国営医療制度「国民保健サービス(NHS)」の医療従事者を対象に実施されている新型コロナウイルス感染の検査で3分の1が陽性反応を示したことが分かった。

検査対象となっているのは「主要な医療従事者」とその家族。英政府が13日に発表したデータによると、検査を受けた1万6888人のうち、5733人の感染が確認されている。

医療現場で防護具が不足しているとの懸念が広がるなか、当局がNHSスタッフと家族の検査を強化するよう求める声が高まっている。

ハンコック保健相はこれまでに政府の計画として、まず自身や同居者に症状のあるスタッフから検査すると表明。最終的には症状にかかわらず、全員の検査を実施するとの方針を示している。【4月14日 CNN】
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医療従事者の3分の1が感染・・・・言葉を失う数字です。医療崩壊の現実味が一段と増す数字であり、その先には“(死者数が)欧州で最多の6万6000人”という悲惨な数字もちらつきます。

イギリスが世界に誇ってきた国営医療制度「国民保健サービス(NHS)」については、新型コロナ以前から深刻な問題が指摘されていました。

“英国の医療は、NHSと呼ばれる「国営医療制度」が主体だ。財源は税金であり、英国に居住していれば外国人であっても、患者は基本的に無料で医療が受けられる。(歯科治療は除く)しかし、NHSは慢性的な資金不足に苦しみ、近年の緊縮財政で、更に予算は削られる一方だ。資金難から人件費も削られ、手術を必要とする患者が長期間待たされるなど、深刻な事態に陥っている。”【2018年10月17日 伏見 香名子氏 日経ビジネス「EU離脱で英国の魂である医療制度が崩壊も」】

こうしたNHSの“劣化”の問題が現在の窮状に関係しているのかも。

【深刻な経済への打撃 EU離脱をどうするのか?】
当然ながら、経済への打撃も深刻です。

****4─6月期の英経済、30%のマイナス成長もと財務相 タイムズ紙報じる****
英タイムズ紙は、スナク財務相が他の閣僚に対し、4─6月期の国内総生産(GDP)は20─30%のマイナス成長になるとの認識を示したと報じた。

10人の閣僚が5月にも外出禁止措置を緩和すべきと主張しているという。閣僚名は報じられていない。

同紙によると、閣僚の1人は「ロックダウンによって一段の打撃を被る事態にならないようにすることが重要だ。ロックダウンはさらに3週間を予定しているが、その後は解除を開始すべきだ」と発言した。【4月13日 ロイター】
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“底が抜けて”死者数が欧州で最多の6万6000人といった状況になれば、こんな数字では済まなくなります。

つい2,3か月前までのEU離脱の問題など吹き飛んでしまいます。
こうしている間にも離脱期限が迫っていますが、どうするのでしょうか?
さすがにEU側も、しゃくし定規に期限を切って、合意もないまま「出ていけ」とは言わないでしょうが・・・。

新型コロナの影響を考慮して、EU離脱の話はいったん棚上げにするという道もあるように思いますが、コロナから復帰したジョンソン首相がどう考えるのか・・・。

 

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中国  新型コロナの国外からの流入防止で顕在化したアフリカ黒人蔑視・差別の風潮

2020-04-13 23:19:53 | 中国

(中国南部広東省の省都広州にある「リトルアフリカ」の路上に集まる人々(2018年3月2日撮影)【4月13日 AFP】)

【国外からのウイルス流入に神経をとがらせるなかで表面化したアフリカ人差別】
****中国大使がナイジェリアに頭を下げて謝罪?動画が物議****
2020年4月12日、環球時報は、ナイジェリアに駐在する中国大使がナイジェリア議会議長に謝罪したとされる動画がネット上で拡散したことについて、中国大使館がコメントを発表したと報じた。 

記事によると、周平剣(ジョウ・ピンジエン)駐ナイジェリア大使がナイジェリア議会議長と面会した際に、ソファーの端に座る議長に対し、大使が反対側から腰をかがめ頭を下げているように見える動画がネット上で拡散し「大使が謝罪している」と注目を集めた。 

これについて、駐ナイジェリア中国大使館は12日にSNS上で声明を発表。動画は10日に両者が面会した時に撮影されたもので、「ナイジェリア国民が広東省広州市で不当な扱いを受けているという動画を机上のスマートフォンで閲覧している最中の様子」と説明した。(中略)

(中国大使館は)また、広州市でのナイジェリア国民の扱いについて、「正当なものであり、不適切ではない」と主張。自国民も外国人も同一視し、特定の集団を差別することなくウイルス感染拡大防止に努めるという中国政府の姿勢を改めて強調した。【4月13日 レコードチャイナ】
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中国大使が頭を下げて謝罪することはあり得ませんので、「机上のスマートフォンで閲覧している最中」という中国側説明はそのとおりなのでしょう。

問題は、新型コロナへの社会不安が大きい中国社会にあって、広州市でのナイジェリア国民の扱いに関するその動画の内容であり、「不適切はない」とする中国側の対応です。

広州市でのアフリカ人に対する「差別」の一例

****中国広州でアフリカ人差別深刻化 家追い出される人も、政府に抗議****
新型コロナウイルスの感染が広がった中国の広東省広州市で、アフリカ出身者への差別が深刻化している。「アフリカ人がウイルスを持っている」とのデマが排外主義に拍車を掛け、家やホテルから追い出され路上で寝る人が続出。アフリカ諸国が緊密な関係を築く中国政府に抗議する異例の事態に発展している。
 
寒空の下、路上に布を敷き身を寄せ合って寝る人たち―。ケニアのテレビ局が13日までに報じた広州の様子だ。現地に住むケニア人女性は「理由もなく家主に追い払われ地下鉄の乗車も拒否された」と憤る。診察を断られた妊婦もいたという。【4月13日 共同】
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こうした事態に、アフリカ諸国大使らが中国政府に抗議することにもなっています。

****「アフリカ人差別やめて」 新型コロナで外交官らが中国政府に抗議****
中国で海外から流入した新型コロナウイルス感染症患者が増える中、アフリカ系外国人に向けた嫌悪・差別の事例が相次いでいる。

海外から流入した患者のほとんどは外国に居住していた中国人であるにもかかわらず、容姿が異なる外国人たちが標的になっているというわけだ。中国に駐在するアフリカ各国の大使たちは、中国の王毅外相に抗議の書簡まで送った。(後略)【4月13日 chosun Online】
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中国政府も一応の対応改善は表明しているようですが・・・

****中国のアフリカ人、コロナ対策で標的に 国際的な非難浴び政府が改善約束****
中国政府が国外から渡航してきた新型コロナウイルス感染者への対策を強化する中、同国南部の大都市で暮らすアフリカ系住民らが、疑いのまなざしを向けられ、強制的な退去、恣意(しい)的な隔離、集団検査などの対象になっていると訴えている。

米国務省が外国人嫌悪だとして非難するなど、国際的な圧力に直面した中国政府は12日、対応の改善を約束した。
 
中国当局は新型コロナウイルス感染症の拡大が大部分は抑えられたとしている。だが、最近発生したクラスター(感染者の集団)が広東省広州にあるナイジェリア人のコミュニティーと関連していたことで、地元住民と防疫当局者らのアフリカ人に対する差別を招いているという。
 
人口1500万人を抱える産業都市、広州の当局は、新型コロナウイルスに感染したと診断された人々少なくとも8人が「リトルアフリカ」と呼ばれる越秀区にいたと明らかにした。
 
報道によると、うち5人がナイジェリア人で、隔離義務を破り、自宅にとどまらずレストラン8軒やその他の公共施設を訪れていたとされ、5人に対する怒りが広まった。
 
その結果、5人と接触したとみられる2000人近い人々が検査を強いられ、もしくは隔離下に置かれたと国営メディアは報じている。
 
広州では9日の時点で海外からの渡航者114人の感染を確認。うちアフリカ人は16人で、残りは中国人の帰国者だった。
 
これが中国国内でのアフリカ人に対する疑い、不信、人種差別につながった。
 
複数のアフリカ人はAFPに対し、住んでいた家を強制的に退去させられ、ホテルでも宿泊を拒まれていると語る。
 
6日にアパートを退去させられたウガンダ出身の交換留学生、トニー・マサイアスさんは、「食べる物がなく、橋の下で4日間寝泊まりしている。どこに行っても食料が買えない。店もレストランも対応してくれない」「われわれはまるで路上の物乞いだ」と訴えた。
 
マサイアスさんは、警察は検査や隔離についての情報を全く提供してくれず、「別の都市へ行け」と命じたという。 広州の警察当局はAFPの取材に対し、コメントを拒否した。
 
他のアフリカ人たちも、たとえその多くが最近中国を出国していなかったとしても、アフリカ系コミュニティーは集団検査を受けなければならなかったと話し、人々は恣意(しい)的に自宅やホテルで隔離下に置かれているという。
 
ギニア出身の交換留学生であるティアムさんは、検査結果は陰性で、しかもここ4年近く中国を出国していないと話したにもかかわらず、7日に警察から自宅にとどまるよう命じられたという。
 
ティアムさんはこの措置について、明確かつ不公平にもアフリカ人を標的にしたものと考えており、「私が目にした受検者たちは全員がアフリカ人だった。中国人は自由に歩き回っているが、もし黒人だったら外出できない」と話した。

■アフリカ人への異常な恐怖感
広州での感染例をめぐり、インターネットでも暴言があふれ、多くの中国人ユーザーが人種差別的なコメントを投稿。すべてのアフリカ人を強制送還するよう求めた。
 
また先週、異なる種類のごみに分別される外国人を描いた画像がソーシャルメディア上で拡散され、物議を醸した。
 
デービッドとだけ名乗る広州在住のカナダ人男性は、「アフリカ人なら誰でも、病人と接触したかもしれないという、端的に異常な恐怖感がある」と述べた。
 
米国務省は、アフリカ系米国人や、アフリカ人と接触する可能性のある米国人に対し、広州への渡航を避けるよう勧告する警戒情報を出し、さらに11日には、アフリカ人への対応をめぐって中国に痛烈な非難を展開。
 
国務省の報道官は、「残念なことだが、中国当局によるアフリカ人に対するこのような外国人嫌悪は驚くに当たらない」と述べた。
 
アフリカ連合も11日、この状況について「極めて強い懸念」を表明し、中国政府に対して直ちに修正措置を取るよう求めた。
 
一方の中国外務省は先週、アフリカ人コミュニティーに対し、いくつか「誤解」があったことを認めた。同省の趙立堅報道官は9日、「中国政府が、中国にいるすべての外国人を平等に扱っていると強調したい」と主張。地方当局に対し、「業務システムを改善する」よう求めた。
 
さらに同報道官は12日、「中国政府は、中国国内在住の外国人の生命と健康を極めて重視している」と述べ、「広東省当局は、アフリカの一部の国々の懸念を極めて重視しており、業務手法を改善するために迅速に動いている」と付け加えた。
 
同報道官によると、広東省の当局者らは、「すべての人種差別的な発言」を否定しているという。 【4月13日 AFP】
****************

【もともとから存在するアフリカ黒人蔑視の風潮】
今回の新型コロナに関係した「騒動」の背景には、もともと中国社会に存在する「黒人蔑視」的な風潮が影響しているように思われます。

2016年には露骨な「差別」CMが世界で炎上しました。(中国国内ではさほど大きな問題ともならなかったようで、そこが大問題ですが)

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体にペンキの付いた黒人男性が中国人女性にキスをしようと迫る。彼女は男性の口に洗剤のカプセルを投げ込み、頭から洗濯機に押し入れてふたをする。しばらくすると、真っ白なシャツを着た中国人美男子が洗濯機から現れ、美女は大喜び──。
 
こんなCMを流した上海の洗剤メーカーが人種差別と非難された。メーカー側は当初、「過剰反応」として真摯な対応を怠ったが、ついに放送中止に追い込まれ、謝罪で幕を閉じた。【楊海英氏 Newsweek 2016年6月21日号】
*****************

当時、楊海英氏は以下のように指摘しています。

****差別で嫌中化する留学生****
中国は政治的利益から外交を重視するが、相手国の文化や歴史を研究する姿勢に欠ける。半世紀以上アフリカ諸国と交流を重ねても、一般の中国人は常に黒人に差別的な目を向ける。
 
私が80年代に北京で大学生活を送っていた頃、中国語を学ぶ外国人留学生を受け入れる北京語言学院(現・北京語言大学)の学生はほとんどがアフリカ人留学生だった。

「アフリカのために人材を育成する」とのスローガンの下で受け入れた学生に対して、「あいつらは黒鬼(ヘイクイ)だ」と公言してはばからない中国人が多かった。

21世紀に入るまでに中国は約1万5000人ものアフリカ人留学生を迎えたが、中国で差別を受けた彼らの大半は嫌中意識を抱いて帰国する。
 
近年もアフリカ人の中国在住者は増える一方だ。最も多い広東省では30万人以上が暮らす。ナイジェリアやアンゴラなどの人々が独自にコミュニティーを形成してビジネスを展開する。
 
国際結婚を生活改善と立身出世の手段の1つと考える中国人女性も多いが、今でもアフリカ人と中国人との子供は「二黒鬼」と差別されている。在住者の9割以上を占めるといわれる不法滞在者の増加で治安は悪化し、差別も助長されている。
 
黒人を洗濯して中国人に改造するという心理も、こうした背景から生まれたのだろう。【同上】
********************

【「友好」をアピールし、コロナ禍の「救世主」を狙う中国政府だが・・・】
中国が「一帯一路」で、アフリカを含めた世界各国における中国の存在感を高めようとしているのは周知のところ。
新型コロナでも、いち早くコロナ禍を克服した「実績」をもとに各国に支援をアピールしています。

****中国、127カ国に支援外交 「救世主」狙う****
中国の習近平指導部が、新型コロナウイルスの感染拡大国への支援外交を強化している。

最も早く感染拡大のピークを過ぎた優位性と、従来持っていた豊富な生産能力を活用し、医療物資の不足が深刻化する各国の“救世主”として評価を高めたい考えだ。

国際的な影響力の拡大に加えて、当局の初動の遅れが世界的な感染拡大を招いたとする国内外の批判をかわす狙いもある。
 
中国外務省の趙立堅報道官は10日の記者会見で、中国が医療用マスクや防護服、ウイルスの検査キットなどの物資を援助した国は127カ国に上ると明らかにした。このほか医療専門家チームをイタリアやセルビア、カンボジア、パキスタンなど11カ国に派遣している。
 
医療支援の対象は巨大経済圏構想「一帯一路」に積極的な姿勢を示す親中国の国が大半だ。ただ中国政府は今月、感染拡大が深刻化する米ニューヨーク州に人工呼吸器1000台を寄贈するなど、安全保障や人権分野で対立することも多い米欧諸国に積極的な人道支援を行っている。
 
中国は医療物資の輸出にも力を入れており、今月4日まで約1カ月間の輸出額は102億元(約1570億円)に上る。また国営新華社通信によると、医薬品の有効成分となる原薬の輸出は今後、一時的な急増期を迎える見通しで、原薬メーカーの業績に好影響を与える見通しだという。医療関連産業の活況が中国経済の再生を後押しすることへの期待もにじむ。
 
一方、中国製品の品質と安全性に対する不信感も一部の国で高まっている。フィンランド政府高官は今月、中国から緊急輸入した医療用マスク約200万枚が品質基準を満たしていなかったとして「失望」を表明した。中国の税関当局は10日、輸出する医療物資の品質検査を開始するなど対応に追われている。
 
また中国の支援外交が、各国への影響力をどこまで強めるかも不透明だ。北京の外交研究者は「感染が深刻な国の国民は、感染源として中国に厳しい感情を持っており、支援の効果は相殺される」と指摘した。【4月10日 産経】
******************

より基本的なところで、中国政府がいくら「友好」をアピールしても、「黒人蔑視」的な風潮が国民の間にあるかぎり、本物の関係強化にはつながらないでしょう。(「黒人蔑視」という点では、日本も似たようなものがありますが)

****中国医療チームを歓迎しないナイジェリア、「おかしい!」と中国メディア****
2020年4月8日、環球時報は、「おかしい!中国医療チームがナイジェリアで歓迎受けられず?」と題する記事を掲載。中国の医療チームが支援を行うナイジェリアで、各メディアから反対の声が噴出していると報じた。 

記事は、中国企業の中国鉄建が派遣する医療チーム一行15人が、支援物資を携えて8日昼にナイジェリアの首都アブジャへ到着し、30日間の医療支援を提供する予定だと紹介する一方で、ここ数日同国内のテレビ、インターネット、新聞紙の各メディア、特にセルフメディアにおいて「政府による中国医療チーム招請に、国民が反対している」という報道があふれていると伝えた。 

そのうえで、「調べた結果、このような論調が出現した発端はナイジェリア医療協会の会長が5日に発したコメントだった」とし、同協会会長が「非常に失望している。わが国はそもそも中国の医療チームなど必要ない」と発言したことを紹介した。 

また、同国のある衛生部門の官僚は「新型コロナウイルス対策として国や各州が特別予算を捻出しているが、対象は衛生当局や疾病コントロールセンターのみになっており、医療協会は恩恵を受けていない。彼らは中国医療チームの到来に鬱憤(うっぷん)晴らしの機会を求め、存在感を示そうとしているのだ」と語った、と伝えている。 

記事はさらに、現地メディア関係者が、中国に対する反発が出ているもう一つの背景として「西側メディアによる中国に対する批判的な報道がある」とし、「中国の試薬キットは不正確」「中国のマスクは不合格」といった情報を市民が信じているためとの見方を示したと伝えている。【4月8日 レコードチャイナ】
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“ナイジェリア医師会は、「政府が中国の医療チームの受け入れを進めれば、長きにわたって最前線で働いてきた医療従事者の士気は大きく下がる」「中国チームの受け入れは、パンデミック対策で彼らがこれまでに払ってきた犠牲をおとしめるものだ」と主張した。”【4月9日 AFP】

詳しい事情は知りませんが、相手から歓迎されないことを「おかしい!」と決めつけるのは「尊大」というものでしょう。

外交姿勢でも「王毅現象」とも評される尊大な姿勢が指摘されています。

****戦狼外交が中国を損なう、高圧的な態度やめるよう専門家が提言****
仏RFIの中国語版サイトは7日、「戦狼(せんろう)外交が中国を損なう、高圧的な態度やめるよう専門家が提言」とする記事を配信した。(中略) 

記事は、習近平(シー・ジンピン)政権になってからますます顕著になってきた、中国の外交官が外交辞令を重んじず威圧的な態度を取る現象は一部で「王毅現象」とも呼ばれていると指摘。

その例として、王毅(ワン・イー)外相が中国の人権問題を指摘したカナダ人記者に対し、「あなたに発言権はない」「あなたは中国に行ったことがあるのか。あなたは中国が1人当たり平均8000ドルの世界第2の経済大国であることを知っているのか。中国が人権を守っていなかったらなぜこんなに発展できるのか。中国の憲法にはすでに人権保護の記述があることを知っているのか」などと「外交儀礼も顧みずに叱責」したことや、趙立堅報道官が「ネット上で拡散された陰謀論を持ち出して」新型コロナウイルスは米軍が武漢に持ち込んだ可能性があるとツイートし、トランプ米大統領から「中国ウイルス」と反撃されたことを取り上げた。 

その上で、香港紙の星島日報が6日付の記事で、「中国が国内での感染症の拡大を抑え込んだ後、(マスクや検査キットなどの医療物資の提供や医療チームの派遣といった)『抗疫外交』を展開していることを評価する声がある一方で、西側諸国の警戒心を招いている」とした上で、「しばしば中国のために入れ知恵すると言われている」シンガポール国立大学の鄭永年氏の見方として、「中国は現在の高圧的な態度をやめて人道的配慮に戻るべき」「中国政府が強調する『大国の責任』は、国外では『これを機に覇権を握ろうとしている』と理解されやすい」「中国が外国への支援で得られた信用や名誉、評判は、メディアや宣伝機関、外交当局によって消費されてしまっている」と報じたことを紹介した。【4月7日 レコードチャイナ】
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新型コロナで世界の労働者の8割に打撃 2億人が失業も ベーシックインカムを導入する国も

2020-04-12 22:31:04 | 経済・通貨

(日本の有効求人倍率と完全失業率の推移【4月1日 朝日】 21年は一気に2本の線がクロスする可能性が濃厚です)

【着飾って「ごみ出し」】
最近目にした面白い記事。

****世界各地で外出制限、着飾れる唯一の機会は…ごみ出し!****
新型コロナウイルス対策による都市封鎖で、一日中家に居てうんざり…そんな世界各地で他者の気分を明るくしようと、写真を撮って共有し始めたものがある。それは特別に着飾っての「ごみ出し」の様子だ。
 
オーストラリア・シドニー在住のDJ、ビクトリア・アンソニーさんは「家でドレスアップするなんて本当にどうかしていると思うけど、この封鎖の間に正気を保つにはこれしかない。おしゃれしてごみ箱をがらがら外に出すと、ハッピーな気分が戻ってくる」と話した。
 
アンソニーさんはインスタグラムに、カクテルドレスを着た自身の写真に「#」というハッシュタグを添えて投稿した。(中略)
 
「たくさんの人の気分を明るくする」ことができてうれしいと語った(流行の火付け役の)アスキューさんの元には、落ち込んだり新型ウイルスにおびえたりしていたというユーザーらから、アスキューさんのページを見て笑顔になれたというメッセージが届いているという。 【4月10日 AFP】
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目を吊り上げて、あるいは不安に怯えて「自粛、自粛」ばかりでは息が詰まります。
カクテルドレスに着飾ってゴミ出し・・・そんな心の余裕がいいですね。

【2億人近くが失業する可能性への対策なしには感染予防も成立しない】
しかし現実世界に目をやると、そうも言っていられない厳しい現実も。

****「われわれは働きたい」=ブラジルで隔離反対デモ―新型コロナ****
ブラジル最大都市サンパウロの中心街パウリスタ通りで11日夜、新型コロナウイルス対策としてサンパウロ州政府により実施されている隔離措置に反対するデモが行われた。参加者らは、通りを車でふさぎ、「ドリア知事は辞めろ、われわれを働かせろ」とシュプレヒコールを上げた。
 
参加者らは通信アプリや口コミでデモを知ったといい、主催者によると、車1000台とオートバイ2000台、トラック200台が加わった。

国旗を振って隔離措置解除を訴えた教師チコ・ペンチアドさん(53)は「このままでは経済は2、3カ月で崩壊する。効果と犠牲をはかりに掛けると、こんな措置は見合わない。隔離は高齢者だけでいい」と語った。
 
新型コロナの感染者2万人以上、死者が1000人を超えているブラジルではサンパウロをはじめ、ほとんどの州で商業活動などが停止。市民は外出自粛を求められている。経済への打撃は深刻化しており、国内企業の99%を占める零細・小企業の3割は1カ月で事業閉鎖に追い込まれるとの調査がある。
 
世論調査では8割が隔離措置を支持しているが、ボルソナロ大統領は「雇用が破壊され、人々は餓死する」などと主張し、隔離に反対する態度を変えていない。

大統領に反発する市民は毎日午後8時半になると、自宅の窓から突き出した鍋をけたたましく打ち鳴らし、抗議の意思を示している。【4月12日 時事】
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ちょっと“変わった” ボルソナロ大統領と外出制限措置を強める州政府の対立、厳しい制限が暴動・略奪にもつながりかねない国情などについては、3月26日ブログ“ブラジル 州政府の外出禁止措置に反対するボルソナロ大統領 国情を考えると配慮すべき点も”でも取り上げました。

ブラジルに限らず、「働かないと生きていけない」という貧困層が存在することも事実であり、「自宅にとどまって」と規制を強める政府はそうした人々への配慮も不可欠です。

そうでないと、「可能性の小さいコロナ感染での死」か「確実なコロナ失業での飢え」かの選択になってしまいます。
「働かないと生きていけない」者には、自宅にとどまり危機をやり過ごすような「贅沢」は許されない現実も。

東京都が休業要請の対象になったインターネットカフェで寝泊まりをしていた人など、新型コロナウイルスの影響で居場所を失った人にホテルなど一時的な宿泊場所を提供するようですが、そういった配慮も必要でしょう。

新型コロナ対策で大量の失業者が発生する事態はもはや避けられない様相ともなっています。

****新型ウイルス、世界の労働者の8割に打撃 2億人が失業も****
新型コロナウイルスの影響で、世界中の33億人の労働者の81%が、職場の全面的または一部閉鎖に直面している。
日常生活における様々な制限により、多くの企業は閉鎖を余儀なくされ、労働者は解雇、あるいは一時的な解雇に見舞われている。

国連の国際労働機関(ILO)(中略)のガイ・ライダー事務局長は、「先進国でも発展途上国でも、労働者や企業が破壊的状況に直面している。(中略)我々は、迅速かつ断固たる行動を共に取らなければならない。適切な緊急措置が、生き残りと崩壊を分けるだろう」と述べた。

2億人近くが失業する可能性も
新型ウイルスのアウトブレイクにより、2020年の第2四半期中に、世界中の労働時間の6.7%が消滅するとみられる。これは、1億9500万人のフルタイム労働者が職を失うことに相当する。

最も被害が大きいのは、労働時間が8.1%(フルタイム労働者500万人分に相当)減少するアラブ諸国と予測されている。

ILOは、第2次世界大戦以来の「最も深刻な危機」としている。

ILOは、2020年中に、世界の失業者数が最終的に増加するかどうかは、2つの要因に大きく左右されるだろうと付け加えている。
その2つの要因は次の通り。

・世界経済が下半期にどれだけ早く回復するか
・政策措置がどれだけ効果的に労働需要を押し上げるか

今年末の世界の失業者数が、ILOの当初予測の2500万人を大幅に上回る危険性が高い。

宿泊サービスや製造業に大打撃
経済の異なる分野が、突然の仕事の落ち込みにより様々な打撃を受けている。
移動が最小限に抑えられ、社会生活が中断されていることから、宿泊業や飲食業はもちろんのこと、製造業や卸売・小売業者、不動産業が最も影響を受けている。

これらの分野では、世界の労働人口の38%近くにあたる、12億5000万人が雇用されている。
失業リスクが最も高い労働者は北米と欧州に集中

リスクの高い仕事に就いている人の割合は、世界各国でかなり異なっている。
北米では労働者の43.2%が、欧州と中央アジアでは42.1%が、リスクの高い分野で働いている。

これらの地域に比べ、アフリカやアラブ諸国、アジア太平洋地域では、非正規労働者の数がはるかに多く、労働力の大半を占める。

非正規労働者は、特にインドやナイジェリア、ブラジルなどの国で、経済において重要な役割を果たしている一方で、正規労働者に付与される社会保障などが受けられない。

ILOのライダー事務局長は、「これは、75年以上にわたる国際協調における最大の試練だ。一国が失敗すれば、私たち全員が失敗することになる。私たちは国際社会のあらゆる分野や、とりわけ最も弱い立場にある人々、あるいは自分自身を守れない人々を助ける解決策を見つけなければならない」と述べた。【4月8日 BBC】
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****世界の貧困層、新型コロナで約5億人増の可能性=オックスファム****
国際非政府組織オックスファムは9日に公表した報告書で、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響により、1日1.90ドル以下で生活する貧困層が約5億人増えるとの見方を示した。

オックスファムは、新型コロナの感染拡大を受けて明らかになりつつある経済への打撃は、2008年の世界金融危機時よりも深刻だと指摘した。

世界銀行が設定する貧困ラインを採用し所得が20%減少するという最も深刻なシナリオを想定した場合、1日1.90ドル以下で生活する極めて貧しい人は4億3400万人増え、9億2200万人に増加する見通し。5.50ドル以下で生活する人は5億4800万人増え、40億人近くに達するという。

女性は、雇用に関する権利がほとんどないなどの理由から、男性よりも貧困に陥るリスクが高いという。

オックスファムは「豊かな国は今回の危機で、自国の経済を下支えするため数兆ドルという規模の資金を活用できることを示している」と指摘したうえで「発展途上国が健康や経済への打撃に対応できない限り、危機は続き、豊かな国と貧しい国、全ての国がより大きな打撃を受ける」と強調した。【4月9日 ロイター】
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自国だけ混乱からのがれようとしても、貧しい国が多い世界全体の混乱が収まらないかぎり、大きく制約を受けます。

国家レベルの「協調」が必要とされていますが、各国は自国の対応に追われ、まだその気運は高まっていないのも現実です。

【大富豪の寄付 国家レベルの「ベーシック・インカム」】
個人レベルでは、以下のような話も。

****ツイッターCEO、1100億円を新型コロナ対策に拠出 総資産の28%****
米ツイッターの共同創業者で最高経営責任者のジャック・ドーシー氏は7日、新型コロナウイルス対策として、総資産の約28%に相当する10億ドル(約1100億円)を自身の慈善基金を通じて拠出すると発表した。
 
ドーシー氏は一連のツイートで、共同創業したデジタル決済サービス「スクエア」の所有株を、自身の有限責任会社「スタート・スモール」に譲渡すると表明。
 
ドーシー氏は、「なぜ今か? ニーズは緊急度を増している。生きているうちに(支援の)影響を目にしたい」と投稿。自身の行動が他の人々を感化することを期待しており、「人生は短い。だから、人々を助けるためにきょうできることは全部しよう」と呼び掛けた。
 
他のIT起業家らも、それぞれの金額で支援を表明している。
 
米アマゾン・ドットコムのジェフ・ベゾスCEOは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)に伴い、食料支援として1億ドル(約110億円)の寄付を表明。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは、マイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏の慈善団体「ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団」を通じて、研究支援として2500万ドル(約27億円)超を提供した。 【4月8日 AFP】AFPBB News
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国家レベルの国内対策として注目されるのは、「ベーシック・インカム(最低所得保障制度)」制度導入の動きです。

****スペインで「ベーシック・インカム」導入、経済大臣が宣言****
新型コロナウイルスの感染者数が世界2位に達したスペインは、経済の立て直しに向け、可能な限り迅速に「ユニバーサル・ベーシック・インカム(最低所得保障制度)」制度を導入することを決定した。

4月5日、経済大臣のナディア・カルビニョが発表した新たなスキームは、終了期限を設けずに導入されることになる。カルビニョは現地メディアの取材に対し、感染拡大の脅威が去った後も、ユニバーサル・ベーシック・インカム制度は継続すると述べた。

予算規模などの詳細は未定というが、政府は既に導入に向けた調整を進めている。感染拡大による経済的ダメージからの復興に向け、スペインのペドロ・サンチェス首相は3月17日、2000億ユーロ(約24兆円)の支援策を発表していた。

支援策には1000億ユーロの政府による信用保証のほか、企業に対する無制限の流動性供給などが含まれていたが、ユニバーサル・ベーシック・インカムでこれを補完する狙いがあるとみられる。

スペインではロックダウンの開始から3週間で90万人が失業し、3月の失業者数は過去最大を記録していた。

カルビニョ経済大臣は現地メディアLa Sextaの取材に「ユニバーサル・ベーシック・インカムの導入に向けた手続きは、非常に煩雑なものになるが、我々のチームは決意をもって取り組んでおり、可能な限り迅速に導入する」と述べた。

スペインにおける新型コロナウイルスの感染者数は13万人を突破し、死者は1万2600人を超え、欧州ではイタリアに次ぐ規模の被害を受けている。ただし、全土にわたるロックダウンを4月26日まで延長することを決めたスペインでの死者は、イタリアやフランスと並んで減少傾向にあり、わずかな希望の光が見えつつある。【4月8日 Forbes】
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下記記事によれば、上記スペインの対応は、全国民ではなく低所得層を対象としたもののようです。

新型コロナに感染したボリス・ジョンソン英首相も、一時的措置ではあるものの、全国民に最低限の所得を保障する「ベーシック・インカム(BI)」を検討する考えを示しています。

****コロナ危機により、ついにベーシック・インカムが実現する可能性****
<各国で何度も議題に上がりながら、机上の空論のイメージを拭えなかった「最低所得保障」だが、真剣に導入を検討する国が現れ始めた>

ボリス・ジョンソン英首相が、全国民に最低限の所得を保障する「ベーシック・インカム(BI)」を検討する考えを示したことが話題となっている。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う一時的な措置ではあるが、主要国がこの制度について本格的に議論するのはおそらく初めてだろう。

スペインも低所得者に限定した形だが、コロナ対策の一環として、最低限の所得を保証する制度について検討を開始している。

BIは経済的に豊かな欧州の小国を中心に以前から議論されており、2016年にはスイスが導入について国民投票を行ったこともある(結果は否決)。フィンランドでは17年から2年間の実証実験を行っており、オランダでも同様の実験が行われた。

BIでは最低限の所得が常に保障されるので、経済危機などで多くの人が一時的に仕事を失っても、安心して当面の生活を続けることができる。新しいビジネスにもチャレンジしやすくなるので、推進論者はBIを導入しても経済に悪影響を与えないと主張している。

一方で、労働者の就労意欲がなくなり、経済が低迷することを危惧する声も根強い。フィンランドの実験では、BI実施前後で就労状況に大きな変化はなかったので、限定された範囲内であれば、就労意欲の低下はそれほど心配しなくてもよいのかもしれない。だが何といっても最大の懸念材料は財源だろう。

財政目標棚上げの可能性
フィンランドのケースでは1人当たり月額560ユーロ(約6万7000円)を配るというものだったが、仮に日本において全成人(20歳以上)に月額7万円を配ると仮定すると、毎年88兆円もの財源が必要となる。

日本政府の一般会計予算は約100兆円しかないので、今のままでは到底不可能だが、一方で、日本は一般会計とは別に、年金に約52兆円、医療に43兆円、介護に10兆円、合計105兆円の社会保障関連支出を行っている(一部、一般会計と重複)。

年金受給者にBIを支給しなければBIの給付金額は58兆円に減らすことができ、BIの給付を月5万円にするとさらに41兆円まで下がる。それでも医療制度を自助努力型に変えるなど、根本的な歳出見直しを実施しない限り日本での導入は難しいと思われる。

ジョンソン首相が言及したのは一時的な措置なので、金融危機や今回の感染症のような事態が発生したときだけこの制度を発動する形にすれば、国によっては財政との両立が可能かもしれない。

もっともアメリカは今回のコロナ対策として、現金給付を含む2兆ドル(約220兆円)規模の経済対策を検討しているし、イギリスも休業者に賃金の8割を2500ポンド(約32万5000円)を上限に支給するプランを発表した。日本政府も金額は小さいが、現金給付を実施する予定である。

これまでBIに対しては、机上の空論というイメージも強かったが、非常時における期間限定の措置ということになると話は変わってくる。やり方によっては、いわゆる従来型BIと現金給付の違いは限りなく縮小するので、BIの定義そのものについても再検討が必要かもしれない。

筆者自身は金利上昇という日本にとって最悪の事態を回避するためにも、長期的な財政目標の維持が不可欠との立場だが、最近では消費減税を求める声が大きくなっており、財政目標が一時、棚上げされる可能性も高まってきた。大幅な財政拡大が国民の総意として許容されるのであれば、BIの導入についても一気に道筋が開けてくるだろう。【4月9日 Newsweek】
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もちろん問題も多々ある「ベーシック・インカム」でしょうが、マスク2枚で揉めている国では、「ベーシック・インカム」の議論など遠い世界の話ですね。

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米中対立  新型コロナ危機のさなかにもWHO・台湾を巡って非難の応酬

2020-04-11 22:12:31 | 国際情勢

(8日の記者会見で、台湾から人種差別的な中傷を受けたと主張するWHO=世界保健機関のテドロス事務局長【4月11日 NHK】)

【米海軍の駆逐艦、中台中間線を超えて航行】
アメリカは新型コロナで大変な状況ですが、そういう状況にあっても中国へのけん制は続けているようです。

****米艦が台湾海峡の中間線越す 異例の行動、中国強く牽制**** 
が10〜11日に台湾海峡を通過し、中国大陸と台湾本島の中間線を中国側に越えた海域で航行していたことが11日、分かった。台湾の国防部(国防省に相当)関係者が明らかにした。

中間線は中台間の事実上の停戦ラインとして機能しており、米軍が越えるのは極めて異例。中国軍機が中間線を台湾側に越えて飛行した際、米国は「地域の安定を害する」(国務省)と批判していた。今回は米側が中国を強く牽制(けんせい)した形だ。(中略)
 
米海軍による台湾海峡通過は、2018年後半からほぼ月1回と定例化しているが、いずれも中間線の台湾側を通過してきた。

フランス海軍のフリゲート艦が昨年4月、台湾海峡を通過した際、中国国防省は「中国の領海に違法に侵入した」と強く抗議した。関係者によると、この際も今回同様、仏艦は中間線の中国側を航行していたという。
 
中間線をめぐっては、中国空軍の戦闘機2機が昨年3月末、台湾側に侵入。台湾の蔡英文総統が「挑発行動の排除」を指示し、米国も「台湾への威圧をやめよ」と警告した。今年2月にも中国の戦闘機が侵入し、米軍は直後に特殊作戦機や戦略爆撃機を台湾周辺で飛行させた。

【台湾海峡の中間線】
台湾海峡で中国大陸と台湾本島の中間点を結ぶ線。米国と台湾の米華相互防衛条約締結時(1955〜79年)の58年に米軍が台湾防衛のために引いた「デービス線」に由来し、中台双方の軍は平時には越えない。

中国側は公式に認めておらず、中台間の「暗黙の了解」として運用されてきた。台湾の国防部は北緯27度、東経122度と北緯23度、東経118度を結ぶ直線と定める。【4月11日 産経】
********************

台湾を巡っては、米議会超党派の強い支持により成立した「台湾同盟国際保護強化イニシアチブ法」に、トランプ大統領が3月27日に署名し、米中の緊張関係が強まっています。

「台湾同盟国際保護強化イニシアチブ法」は、台湾の外交関係強化に向け講じられた措置について、国務省が議会に報告することを義務付けており、また、台湾の安全保障や繁栄を弱体化させる国との関わりを「修正」することも米政府に義務付けています。

【「WHO・中国」VS「台湾・アメリカ」のタッグ・マッチ】
米中関係で今一番ホットな話題は、新型コロナを巡る、台湾とWHO事務局長、そしてそれぞれの後ろ盾となっているアメリカ・中国の対立でしょう。(中国がWHO事務局長の後ろ盾となっていると言っていいかどうかは議論があるところでしょうが、昨今のWHOの運営が中国寄りだとの批判はあります。特にトランプ大統領からの。)

****WHO事務局長「台湾から人種的な中傷」に台湾が反論 ****
WHO=世界保健機関のテドロス事務局長は、台湾から人種差別的な中傷を受けたと主張しましたが、これに対して、台湾の捜査機関は、根拠は見つかっていないと反論しています。

WHOのテドロス事務局長は今月8日の記者会見で、3か月前からインターネット上で、人種差別的な中傷を受けていると明らかにし、「攻撃は台湾から来た。台湾の外交部は知っていたが、何もせず、むしろ私を批判し始めた」と主張しました。

これに対して台湾の捜査機関、法務部調査局は10日、記者会見を開き、台湾から中傷が行われた根拠は見つかっていないと反論しました。

一方、調査局は、テドロス事務局長の発言後、ツイッターに「台湾人を代表して謝罪します」などという書き込みが100件以上投稿され、アカウントを分析した結果、中国のユーザーの間で拡散された疑いがあると指摘しました。

テドロス事務局長の主張には蔡英文総統も反論していて、9日、自身のフェイスブックに「台湾は長年国際組織から排除され、誰よりも差別と孤立の味を分かっている。テドロス事務局長にはぜひ台湾に来てもらい、差別を受けながらも国際社会に貢献しようと取り組む姿を見てほしい」と書き込んでいます。

WHOをめぐっては、アメリカのトランプ大統領から新型コロナウイルスへの対応が中国寄りだと批判を受けていて、テドロス事務局長は「ウイルスを政治化しないでほしい」と訴えています。【4月11日 NHK】
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****WHOトップに厳重抗議=「個人攻撃」と名指しされ―台湾****
世界保健機関(WHO)トップのテドロス事務局長が8日の記者会見で、「台湾から(ネットで)差別的な個人攻撃を受けている」と発言したことについて、台湾外交部(外務省)は9日、「いわれのない主張だ」として厳重に抗議し、謝罪を求める声明を発表した。
 
新型コロナウイルスの感染が世界で拡大し、WHOの対応に国際的な批判が集まる中、テドロス氏は台湾をことさらに名指しした格好。中国の圧力でWHOから排除され、新型コロナ対策でも事実上、蚊帳の外に置かれている台湾側は、これに強く反発している。
 
エチオピア出身の事務局長は記者会見で、ネット上で自身を中傷しているのは、台湾の個人だけでなく、「外交部長(外相)も同じだ」と指摘。官民一体の取り組みとの見解を示した。
 
テドロス氏の発言を受け、蔡英文総統はフェイスブックに「強い抗議を表明する」と投稿。その上で、「テドロス氏を台湾に招きたい。ここに来れば、台湾人がいかに差別と孤立の中で世界と接点を持ち、国際社会に貢献するための努力をしているかが分かるだろう」と強調し、WHOへの参画を重ねて訴えた。【4月9日 時事】
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中国はWHOテドロス事務局長を支持して、台湾を批判しています。

****台湾がWHOに悪意に満ちた攻撃、独立のためウイルス利用=中国当局****
中国当局は、台湾が世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長に対して「悪意に満ちた」攻撃をし、独立を追求し、インターネットユーザーと共謀して人種差別的なコメントを拡散していると非難した。

台湾の外交部(外務省)は9日、テドロス事務局長が台湾から人種差別的な中傷を受けたと述べたことについて、「根拠のない」言いがかりだと反論した。

テドロス事務局長は8日、自身に対する人種差別的な中傷を受け付けないとし、こうした中傷が台湾からあったと述べた。

台湾は中国の反対でWHOに加盟できず、新型コロナへの対応を巡りWHOへの批判を強めている。

中国の台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室は9日夜に声明を発表し、「(台湾の与党)民進党は独立を追求するために無節操にウイルスを利用し、WHOとその責任者らに対して悪意に満ちた攻撃をしている」ほか、インターネットユーザーと共謀して人種差別的なコメントを拡散していると主張、「われわれはこれを強く非難する」と表明した。【4月10日 ロイター】
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“台湾から人種差別的な中傷”というのがどういう内容化は知りませんが、台湾は新型コロナの中国における感染に関する警告をWHOに知らせたにも関わらず、WHOをこれを無視したと主張しています。

****台湾、警告無視のWHOに苦言=早期に「人・人感染」通報―新型コロナ****
台湾政府で新型コロナウイルス対策本部のトップを務める陳時中・衛生福利部長(日本の厚生労働相に相当)は11日の記者会見で、新型コロナの世界的感染拡大で国際社会から批判されている世界保健機関(WHO)に対し、「これ以上、過ちを犯さないでほしい」と苦言を呈した。
 
陳氏によると、台湾は昨年12月31日、中国湖北省武漢で原因不明の肺炎にかかった人がいることについて、現地の報道に基づいてWHO側に電子メールで通報。「複数の患者が隔離治療されている」として、人から人への感染の可能性を示唆し、警告したものの、無視されたという。
 
WHOはこのメールについて「人から人感染の可能性には触れられていない」との立場を示している。陳氏は「専門家が素人を装っている。隔離治療が警報でなければ、どんな状況が警報なのか」とWHOを批判した。台湾は「一つの中国」原則を主張する中国の圧力で、WHOから排除されている。【4月11日 時事】 
**********************

アメリカ・トランプ政権は台湾のこの主張を後押し、更に、WHOへの資金拠出を一時停止する可能性まで示してWHOの「中国寄り姿勢」を批判しています。

****米がWHO非難「台湾のコロナ早期警告を無視」、中国に過剰な配慮*****
米国は9日、台湾が早い段階で新型コロナウイルスの人から人への感染を警告していたにもかかわらず、政治を優先して無視したとして、世界保健機関を非難した。
 
ドナルド・トランプ米大統領はこれに先立ち、WHOを「非常に中国中心的」と非難し、資金拠出を一時停止する可能性もあるとけん制していた。
 
トランプ氏による突然の警告は、新型コロナウイルス感染症への備えを怠ったとして非難を浴びる中、国外に身代わりをつくるための政略だとの批判もある。米国では新型ウイルスによる死者が1万6000人超に上っている。
 
米国務省は、WHOは新型ウイルスへの警鐘を鳴らすのが遅すぎ、中国に配慮しすぎていると非難。台湾からの情報について調査しなかったことに疑問を呈した。
 
同省の報道官は、「WHOが2020年1月14日の声明で人から人への感染は確認されていないと発表したことに表れているように、台湾からの情報を公表しなかったことを(米国は)深く憂慮している」と述べた。
 
同報道官は、「WHOがまたしても公衆衛生より政治を優先した」と指摘し、2016年以来、台湾のオブザーバー参加さえ認めていないことを批判した。さらに、WHOの行動によって「時間と人命が失われた」と述べた。
 
台湾は、中国と地理的に近く関係が深いにもかかわらず、新型コロナウイルスによる死者が5人にとどまっており、封じ込めに成功している。陳建仁副総統によると、台湾は昨年12月31日、人から人への感染についてWHOに警告していた。
 
疫学者でもある陳氏は英紙フィナンシャル・タイムズに対し、台湾の医師らは中国・武漢の医師らが罹患(りかん)していると把握していたが、WHOはその情報を確認しようとしなかったと述べた。
 
台湾は9日、WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長が、新型ウイルスのパンデミック(世界的な大流行)への対応をめぐり、自身に対する個人攻撃とWHOに対する批判を台湾政府が主導していると非難したことを受けて、テドロス氏に謝罪を要求した。 【4月10日 AFP】AFPBB News
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もちろん、記事にもあるように、トランプ大統領としては、自身の米国内での対応の遅れへの批判をかわすために、外敵「WHO」を演出しているという指摘もあります。

台湾は中国の反対でWHOへの加盟・会議参加ができない状況になっていますが、新型コロナに関しては、2月中旬にジュネーブで開催された国際会議にオンラインや電話での参加が認められています。

ただ、“この背景には、隠蔽により国際社会に新型コロナウイルスの拡散を許した習近平政権や、習近平政権の要請を受けたWHOのテドロス事務局長が緊急事態宣言を見送ったことなどに対して不信感、不満感を募らせる諸外国の圧力もあった。” 【3月5日 福島 香織氏 JBpress】ということで、WHO事務局と台湾の間にはこの時点でも強い緊張があったことも推測されます。

対立を先鋭化させているトランプ大統領の資金拠出一時停止に関して、WHOは強く反発しています。

****WHO、米大統領の「中国中心」批判否定 資金停止発言にも反発****
(中略)トランプ大統領は7日、新型コロナ感染拡大を巡り、WHOが「中国中心主義」で、世界に不適切な提言を行っていると批判し、WHOへの拠出金を停止する考えを示した。

WHOのハンス・クルーゲ欧州地域ディレクターはネットワーク上での会見で、トランプ氏の発言に関する質問に対し「われわれは依然としてパンデミックの急性期にあり、今は拠出金を停止する時期ではない」と述べた。

ブルース・アイルワード事務局長補佐官も「新型コロナ発生の早い段階で可能な限りあらゆることを十分に利用し、新型コロナを理解するために中国と協力していくことは極めて重要だ」とし、WHOと中国との関係を擁護。新型コロナ感染拡大によって大きな打撃を受けたスペインなど他の全ての国とも協力しており、中国に限った話ではないと主張した。

また中国は感染拡大を抑制するために、初期の感染者とその接触者を特定し、移動を制限するなど徹底した措置を取ったと語った。(後略)【4月8日 ロイター】
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「WHO・中国」VS「台湾・アメリカ」のタッグ・マッチの様相を呈していますが、新型コロナという最大の難敵を前にして「そんなケンカしている場合かよ!」というのが常識的な反応でしょう。

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