(18日、自宅前で警察に連行される香港紙創業者の黎智英氏【4月19日 日経】)
【新規感染者ゼロ達成】
日本を含めて新型コロナ対策に苦慮する国が多い中で、香港は非常にうまくコントロールしているようです。
****香港、感染者増が再びゼロに 規制などは維持****
香港保健当局は20日、新型コロナウイルスの新たな感染者が3月上旬以来初めてゼロになったと発表した。ただ、依然として住民に厳格な衛生管理と社会的距離の保持、不要不急の移動の回避を求めている。
香港は爆発的な感染拡大は免れ、1月に感染が発生して以来の域内の感染者数は1025人、死者は4人。前回、感染者ゼロだったのは3月5日だった。
学校は閉鎖され、多くが在宅勤務を続けてはいるが、ロンドンやニューヨークなどと違い、香港は完全なロックダウン(都市封鎖)には至らなかった。
4人以上の集まりを禁止する措置は3月29日から14日間の予定で導入され、4月23日まで延長された。ゲームセンターや映画館などの娯楽施設は閉鎖され、外国人の入国も無期限で停止されている。【4月20日 ロイター】
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【コロナで抗議行動ができない状況下、民主派若者はゲームの政治利用も】
しかしながら、今回のコロナ禍でデモなどが規制され、高揚していた対中国抗議行動が表立ってできなくなるということにもなっています。
****香港、5人以上の集会を禁止 感染拡大防止****
香港の林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官は27日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、公共の場所で5人以上が集まることを禁止すると発表した。実施は29日から2週間。
会社や政府の業務、冠婚葬祭など例外のケースを設けたが、事実上、抗議集会やデモは行えなくなる。(後略)【3月27日 産経】
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そうした状況で民主派若者が目をつけたのがゲームの世界だったようです。
****本土から消えた「どうぶつの森」、全てが政治化される香港****
人気ゲーム「どうぶつの森」の最新ソフトが中国本土のECサイトから削除された。香港内外のメディアで香港の民主活動家がゲーム内の島を新型コロナウイルス流行下で新たな抗議活動の場所として利用したことが原因とみられる。ゲームまで政治化される香港の今をどう理解すべきなのだろうか。
突如消えたどうぶつの森の中
任天堂のゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」が淘宝などの中国のECサイトで検索できなくなった。(中略)
なぜこのゲームは突如検索できなくなったのか。多くのメディアは、カスタマイズ性が高く、ユーザー間での通信も容易なゲームとして、香港の抗議活動の新たなフィールドになったことが原因だと推測している。
新型コロナの中、ゲーム中で抗議活動
香港の民主派政党デモシスト(香港眾志)の秘書長(事務局長)の黄之鋒氏がどうぶつの森のゲーム上で抗議活動のための島を作成し、その写真をツイッターに掲載した。
黄氏は23歳で、2012年の国民教育反対運動から長らく香港の民主化・反政府活動に関わってきた若手の民主活動家である。4月10日にはデモシストのYouTubeチャンネルでゲームの「生実況」も行った。
彼以外にも香港のどうぶつの森の中で香港政府・中国政府への抗議の意思を示した抗議者がいるようだ。
「マイデザイン」という機能を使って抗議活動のスローガンなどをパネルとして作成し、自らの島に掲示した人もいれば、中国の指導者の顔をパネルとして作成して虫捕り網でたたくことで抗議の意思を示した人もいる。
また、「島メロ」という島の音楽を自身で設定できる機能を利用し、抗議活動でしばしば用いられた「香港に栄光あれ」(願栄光帰香港)に設定した人もいた。
新型コロナウイルスが流行し、路上での抗議活動ができない中、抗議活動の場所をゲーム上にも広げた形だ。このゲームソフトの特徴は自身で絵や音楽をゲーム上で作成できるようにカスタマイズ性が高いことだ。
新型コロナウイルスの流行で外出ができなくなり、このゲームは香港でも大きな人気を博している。外出しての大規模な抗議活動は難しくなっている代わりに、抗議者はどうぶつの森を新たなデモの場所として利用しているのだ。
アクションゲームも出会い系アプリも「政治化」
政治とはかけ離れたほのぼの系ゲームであるどうぶつの森が政治的な文脈で利用されたわけだが、現在の香港は様々な空間が「政治化」されようとしている。
アクションゲームの「グランド・セフト・オートV」もその1つだ。(中略)
出会い系アプリの「ティンダー」も抗議活動の場となっている。(中略)出会い系アプリにまで政治的なものが持ち込まれているのだ。
生活の隅々に広がる「政治化」
香港の抗議活動には明確なリーダーや主催団体がいないといわれている。そのような状況では多種多様なグループが協調する必要があることから、「テレグラム」や掲示板サイトなどオンライン上でのコミュニケーションが重要な役割を果たしてきた。
そのため、どうぶつの森やティンダーのような若者を引きつけるバーチャル空間に政治的な要素が持ち込まれることは、必然的な結果なのかもしれない。
しかし、この政治化はバーチャル空間に限らず、生活の隅々までに広がっていることに注目すべきだ。
レストランを選ぶときに多くの若者はそのお店が抗議者寄りなのか政府寄りなのかアプリで確認し、どのレストランに行くか決める。香港中文大学の伝播与民意調査中心が2020年3月19日から27日に行った調査によれば回答者の54%が「政治的理由で特定の店舗の利用をボイコットすることがある」としており、51%が「政治的思想のために特定の店舗での消費を選択することがある」としている。
政治的意見対立によって関係が絶たれた兄弟、あまり話さなくなった親子も多く存在する。政治的思想の違いによる人間関係の対立は学校や職場、さらには教会でも起きている。(中略)
しかし、香港では新型コロナウイルスが広がる状況でも「何らかの方法」(現在路上でのデモが感染防止のためにできないため)で抗議活動を続けるべきと考えている人が約36%(前述の香港中文大学調査)もいる。「新型コロナウイルスの感染が収まった後に大規模なデモを行うべき」と考えている人は約49%(同)だ。
どうぶつの森の政治化をどう理解すべきか
もちろん香港の民主派全員が、あらゆる空間を政治化することを望んでいるわけではない。しかし、前述の調査によれば回答者の3分の1が、新型コロナウイルスが流行しており路上での抗議活動ができない中でも何らかの抗議活動実施を支持している。
ロイター通信が香港民意研究所に委託して3月17日から20日に行なった調査によれば新型コロナウイルス流行によって路上での抗議活動が大幅に減少したのにも関わらず、香港警察に対する独立調査委員会を設置すべきと回答した人の割合は12月の74%から76%に若干上昇している。
普通選挙の実施を支持すると答える人は12月の60%から68%に上昇している。香港政府への抗議活動は、決して過去のことにはなっていない。
従って香港でも人気ゲームとなったどうぶつの森の政治化が起きたことは、生活の隅々まで政治化した香港においては不思議なことではない。
ゲームを政治化すべきではないという意見も若者の間ではほとんど聞かれない。すでに生活のあらゆる部分が政治化され、受け入れられている。それは、どうぶつの森のようなゲーム空間も例外ではないのだ。【4月16日 石井 大智氏 日経ビジネス】
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【抗議行動が封印されている今、強硬路線での圧力を強める中国】
コロナ禍によって抗議行動は消えたものの、中国の香港支配に対する否定的な空気はなくならない・・・とは言え、人々の目下の関心はコロナ禍に向いている・・・そういう状況で、中国側がポストコロナに向けて動き出しています。
****香港警察、反中国デモ一斉摘発 民主派幹部ら14人逮捕****
香港警察は18日、昨年から続く一連の反政府・反中国共産党デモの一斉摘発に乗り出し、違法集会を組織した容疑などで、主要な民主派メンバーら少なくとも14人を逮捕した。香港メディアが報じた。
逮捕されたのはいずれも民主党元主席の李柱銘氏、何俊仁氏、楊森氏のほか、政府・共産党批判の論調で知られる香港紙、蘋果日報の創業者、黎智英氏や李卓人元立法会(国会に相当)議員ら。
逮捕容疑となった集会は、中国が建国70周年を迎えた昨年10月1日に行われた反政府・反中デモなど。黎氏と楊氏、李卓人氏は2月末にも、別のデモに参加した容疑で逮捕(保釈中)されている。
香港では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、民主派勢力が反政府・反中デモを自粛。市民の関心も新型コロナに集まる中で、当局が一斉検挙に乗り出した形だ。9月には立法会議員選挙も予定されている。
民主派メンバーや、デモに参加してきた若者らの反発は必至だが、香港では現在、防疫措置の一環として、5人以上の集会が禁止されている。【4月18日 産経】
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李柱銘・元民主党主席は「香港民主主義の父」とも称される人物のようです。
人々の関心がコロナに向いており、表だった抗議行動もできない今、中国・香港政府は中国批判勢力の中核的な部分に切り込んできたようです。
****香港民主派を大量逮捕 元総督「一国二制度を葬る一歩」と非難****
(中略)逮捕・起訴されたのは、民主派政党、民主党の初代主席で「香港民主主義の父」と称される李柱銘(マーティン・リー)氏(81)や、民主派寄りの香港紙、蘋果日報の創業者、黎智英(ジミー・ライ)氏(71)、民主党元主席で1989年の天安門事件の追悼集会などを主催してきた何俊仁(アルバート・ホー)氏(68)ら。
これら3人は、「香港の良心」と称された元香港政府ナンバー2の陳方安生(アンソン・チャン)氏(80)とともに、中国の国営メディアから「香港に災いをもたらす四人組」と非難されている人物だ。
今回、中国・香港当局が15人の逮捕に踏み切った背景については、さまざまな臆測が流れている。
香港紙、明報は「李氏や黎氏らが昨年、米欧諸国に赴いて“遊説”した」ことに注目する。李氏や黎氏らを逮捕・起訴することで、香港から海外に出られないようにし、中国や香港当局に不利な情報発信を阻止する狙いがあるとの見立てだ。特に黎氏は、ペンス米副大統領やポンぺオ米国務長官と面会している。
このほか蘋果日報は、9月6日に予定される立法会(議会)選を前に、当局が「白色テロ」を強行したと指摘し、民主派陣営の立候補に向けた動きなどを封じ込める思惑があるとみる。
一方、中国・香港当局の一連の動きには「シナリオ」があるとにらむのは、民主党の胡志偉主席だ。
立法会の内務委員会では昨年10月以降、民主派議員らの抵抗で、委員長を選出できない状態が続く。民主派の目的は、中国国歌を侮辱する行為などを禁じる「国歌法」の早期成立を阻止することにある。
これに対し、中国政府で香港政策を担当する「香港マカオ事務弁公室」と、中国の香港出先機関である「香港連絡弁公室」が最近、「議員の職責を果たせ」などと非難。民主派が反発を強めている矢先に、一斉逮捕が起きた。
今回の一斉逮捕は、国際的に知名度が高い李氏らが逮捕者に含まれていたことで、国際社会の注目を一層集めることになった。
英領香港時代に最後の香港総督を務めたパッテン氏は声明を発表し、「中国と香港政府は、一国二制度を葬り去るために新たな一歩を踏み出した」と非難している。【4月19日 産経】
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今回の民主派逮捕で欧米と中国の対立も深まっています。
***香港民主派逮捕、欧米相次ぎ非難 中国は全面的に反論 *****
香港警察が18日、昨年の違法なデモを呼びかけ参加した容疑で民主派15人を逮捕したことを受け、欧米から批判が相次いだ。
ポンペオ米国務長官は声明で「中国政府は透明性や法の支配、高度な自治を保障した中英共同宣言の約束と矛盾した行動をとり続けている」と非難。バー米司法長官は「中国共産党が信用できないことを改めて示した」と述べ、英外務省も懸念を表明した。
香港警察が逮捕したのは民主派重鎮の李柱銘(マーティン・リー)氏や黎智英(ジミー・ライ)氏、現職の立法会(議会)議員の梁耀忠氏ら。警察トップは18日夜の記者会見で「法を犯した者は誰でも逮捕する」と述べた。
ポンペオ氏はツイッターに「政治的な法の執行は表現や結社、平和的な集会の自由という普遍的な価値に反している」と投稿した。バー氏は「中国共産党の価値観が西側の自由民主主義とどれほど正反対か示すものだ」とこき下ろした。
中国外務省の香港代表部はこうした批判に全面的に反論する声明を発表し「(逮捕は)道理にかなった合法なもので、外国には干渉する権利はない」と強調した。無許可の集会を「平和的な抗議」とみなすのは「真実をゆがめている」とも指摘した。
このところ新型コロナウイルスの発生源などを巡って米中関係がギクシャクしており、香港問題でさらに対立が深まる可能性もある。【4月19日 日経】
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【焦点は9月の立法会選挙】
更に【産経】記事にある「国歌法」を巡る立法会での攻防においても、新たな動きが。
****香港政府、基本法の解釈変更 中国の介入常態化へ****
香港で民主派の主要メンバーらが一斉に逮捕される中、今度は一国二制度の形骸化を加速させる事態が起きている。
香港政府が基本法(ミニ憲法)の解釈を変更し、中国当局による香港への介入が事実上合法化された。今後、中国の介入が常態化するのは確実で、民主派は激しく反発している。
発端は、立法会(議会)での民主派議員の議事妨害だった。立法会の内務委員会では、民主派の抵抗で昨年10月以降、委員長を選出できない状態が続いている。民主派の目的は、中国国歌を侮辱する行為などを禁じる「国歌法」の早期成立を阻止することにある。
これに対し、中国政府で香港政策を担当する「香港マカオ事務弁公室」と、中国政府が香港に置く出先機関「香港連絡弁公室」が先週、「議員の職責を果たせ」などと民主派に圧力をかけ、対立が激化した。
民主派は「基本法に反して香港の事務に介入した」と反発した。基本法22条には「中国政府所属の各部門は、香港特別行政区が管理する事務に干渉できない」と定められているためだ。
しかし香港連絡弁公室は17日、香港マカオ事務弁公室と香港連絡弁公室は「中国政府を代表して香港の重大な問題について監督権を行使できる」組織であり、単なる「中国政府所属の部門」ではないと主張。22条の制約を受けないとの見解を打ち出した。19日には香港政府もこれを事実上追認し、中国当局が合法的に香港の問題に介入する道が開かれた。
香港メディアによると、香港政府は従来、香港連絡弁公室などは22条の影響下にあるとの解釈を示していた。政府報道官も18日の時点では、これまでの解釈を繰り返していたものの、19日未明に解釈を突然変更し、中国側の見解に合わせるドタバタ劇を演じた。
民主派の立法会議員22人は19日、中国側に盲従する香港政府を非難する声明を発表。民主派の陳淑荘議員は20日、「中国の介入は強まるばかりだ。香港は『北京治港』(中国当局が香港を統治する)状況になった」とコメントした。【4月20日 産経】
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香港・台湾対策で強硬姿勢をとることで「失策」続きの習近平政権ですが、あくまでもこれまで同様の強硬路線で押し切る構えのようで、そのためには今が好機という判断でしょうか。
しかし、表だった抗議行動こそ消えているものの、中国支配への批判的な空気は変わっていない状況での強硬姿勢がどのような結果を招くか・・・・当面は9月実施予定の立法会選挙が焦点になります。