孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  ジャーナリスト北角さんは解放されたものの「現在の友好的な関係と将来の関係」とは?

2021-05-14 23:21:08 | ミャンマー

(3本指で反独裁の意思を示す(4月18日、南部ダウェイ)【4月28日 Newsweek】)

 

【「ミャンマーと日本の現在の友好的な関係と将来の関係」を考慮】

周知のように、国軍による市民弾圧が続くミャンマーで逮捕・起訴されていた日本人ジャーナリスト北角裕樹さんが解放されました。

 

****ミャンマーで拘束の日本人記者、解放 本日中にも帰国へ****

クーデターで国軍が権力を握ったミャンマーで、虚偽のニュースを広めたなどとして当局に訴追された日本人フリージャーナリストの北角裕樹さん(45)が14日に解放され、帰国の途に就いた。同日夜に成田空港に到着する予定だ。

 

北角さんは日本経済新聞の元記者。ミャンマーではフリーの立場で、2月1日の国軍によるクーデター直後から抗議デモなどを取材していたが、4月18日にヤンゴン市内の自宅で逮捕され、郊外のインセイン刑務所に収容された。北角さんが発信する国軍にとって都合の悪い情報が「虚偽」と判断されたとみられる。

 

拘束は1カ月近くに及んだが、国営テレビが5月13日夜、北角さんが解放されると報道。14日付の国営紙は、市民が職務を放棄して抗議する不服従運動などを北角さんが支援し、法律に違反したと指摘する一方、「ミャンマーと日本の現在の友好的な関係と将来の関係」を考慮し、起訴が取り下げられたと伝えた。

 

北角さんは現地時間の14日午前に解放され、ヤンゴンの空港から成田に向かう便に搭乗した。現地の日本大使館によると、健康状態に問題はないという。

 

日本政府は拘束以来、大使館などを通じてミャンマー側に北角さんの解放を求めてきた。茂木敏充外相によると、丸山市郎・駐ミャンマー大使のほか、ミャンマー国民和解担当日本政府代表を務める笹川陽平氏が働きかけたという。

 

茂木氏は14日の記者会見で、「率直に言って苦労した」とも述べた。日本政府関係者は「国軍による弾圧で700人以上が死亡している。拘束で北角さんが何をされるのか分からないという、強い懸念を抱いたはずだ」と指摘する。

 

一方で、国軍は欧米からの制裁で国際的に孤立を深めており、日本との関係を損ないたくないとの事情もあったとみられる。日本は途上国援助(ODA)を2019年度に1893億円拠出するなど、最大の援助国だった。

 

国軍側は解放の理由で日本との友好関係に言及しており、外務省幹部は「起訴されれば、普通は解放は難しい。ミャンマー側も、日本のこれまでの取り組みを考慮したのだと思う」と述べた。【5月14日 朝日】

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同じ日本人として、北角さんが不当な逮捕から解放されて、最悪の事態を免れたことは喜ぶべきことですが、抵抗する市民への容赦ない弾圧を続けるミャンマー国軍、その国軍に対し欧米とは異なる日本独自の対応をとるとのことで、制裁などの強硬な対応は避けている日本政府の対応を考えるとき、「ミャンマーと日本の現在の友好的な関係と将来の関係」云々と言われるようなことには釈然としないものもあります。

 

“北角さんはフリーランスのジャーナリストとして活動し、日本の大手メディアに情報を提供していた。ミャンマーに残っている数少ない外国人記者だった。

また、日本メディア向けに今回のクーデターやその後の抗議活動や殺害行為を報じていた一方、自身のソーシャルメディアに、ミャンマーの現状が市民に与える影響について頻繁に投稿していた。”【5月14日 BBC】

 

もし、今回の解放をめぐって、日本政府が国軍に対し「借りをつくる」、あるいは更に「宥和的」になるのであれば、それは国軍の市民弾圧を厳しく報じていたジャーナリストとしての北角さんの望む所ではないのでは・・・とも。

 

【徹底した市民弾圧が続く国軍支配】

ミャンマーでは、抗議の意思表示に鍋をたたいた者は実弾で撃ってもいい・・・といった国軍の徹底した弾圧によって、一時期のような表立ってのデモなどは難しくなっています。

 

犠牲者は780人超にのぼっており、また、44人の報道関係者が拘束中であり、市民は3885人が拘束中であるとされます。

 

また、そうした真実を報じる報道も封じこまれています。

 

****【ミャンマールポ】現地報道もデモも、国軍の「さじ加減」で消されている****

<日本人ジャーナリストの北角裕樹氏が訴追されたが、多くの人はそれほど驚かなかった。多くのミャンマー人が彼と同じように、あるいは彼以上に危険を顧みずに行動し、拘束されている。徹底弾圧の過去は繰り返されるのか>

 

(中略)「日本人ジャーナリスト北角(きたずみ)裕樹氏が国軍により拘束」。その速報はわれわれの元に驚くほど早い段階で入ってきた。しかし、恐らく多くの人がそれほど驚かなかった。実際、私も「まさか」とは全く思わなかった。

 

彼の活動は多くの日本人のみならず、それ以上の数のミャンマー人が知るところだったからである。 彼のこれまでの報道姿勢やソーシャルメディアでの発言にはさまざまな意見もある。ただ多くのミャンマー人が、日本人である彼がミャンマーのためにいま起こっている出来事をつぶさに発信してきたことに感謝している。

 

そして彼は批判が来ることも、場合によっては迷惑を掛けてしまうことも、もちろん自分の身の危険も全て覚悟していたであろうことは想像に難くない。 

 

さらに、多くのミャンマー人が彼と同じように、もしくは彼以上に危険を顧みず真実を報道し続け、軍によって拘束され、場合によっては命を奪われている。 

 

(中略)唯一の救いは、彼が公開で捕まったことかもしれない。ミャンマー人で「闇に葬られた」人も少なくない。拘束されながら、いまだに具体的な数字として表れてきていない人々のことである。

 

現状、戒厳令下で捕まった人間は上訴が認められない軍法裁判にかけられる。軍法裁判とは、本来罪を犯した軍人がかけられるものではなかったか。 北角氏が捕まったのは戒厳令下ではない管区で、今のところ正式裁判が行われる予定だ。しかし、それもいつ覆るかは分からない。全ては「向こう」のさじ加減一つなのだ。

 

街へ出ると、今が平時であるかのような錯覚に陥ることがある。3月のような緊張感はある意味で薄れている。以前は自分が動く範囲のそこここで物々しいバリケードや、タイヤが燃えた痕が見られたが、そういった光景を見る機会は随分少なくなった。

 

 <3段階でネットを規制>

これまでインターネットの制限は3段階で強化された。 最初の制限で深夜1時から朝9時までのネット遮断が行われた。これにより、夜間に起こった事件については次の日の朝まで情報を広めることができなくなった。 

 

それから携帯のネット遮断。これによって固定回線を持たない大多数のミャンマー人のインターネットへのアクセスが遮断された。

 

次にモバイルWi-Fiでのネット通信の遮断。この結果、人々は外で起こる一切をリアルタイムで発信するすべを失った。 

 

そして、この間に国軍が運営する以外の全メディアの報道ライセンスは取り消された。今この国で正式なニュースというのは一部の決められた人間が出しているものだけだ。 

 

今は街に妙な静けさがあり、一見すると平時のように見えてしまう。ただ、この感覚に陥るのは、以上のようなことが原因だと気付くと、背筋が凍る思いがする。 

 

どんなに国軍が取り繕ったとしても、毎日犠牲者は増え続けている。そして人知れず市民は拘束され、全ての人がいつでも罰せられるルールが出来上がっている。 

 

私の住んでいる地域から、毎晩8時に行われていた軍事政権への反意を示す鍋たたきはなくなった。耳を澄まして遠くの音を探しても全く聞こえない。広範囲で地区の代表や重鎮がやめるように働き掛け、徹底させているようだ。 

 

今われわれに示されている「ルール」は、鍋をたたいた者は実弾で撃ってもいいというものだ。自分がたたけば別の誰かも撃たれる──人々が鍋をたたけなくなった理由だ。 

 

誤解されがちだがデモに参加していた人々は、そもそも非武装・非暴力のデモで救われるという単純な発想で行動をしていたのではない。 

 

外国の圧倒的な軍事力による介入で国軍の暴挙を止めてほしいと懇願し、それを可能にするために、市民として非武装・非暴力で反意を示していた。これが1つ目の試みだ。 

 

2つ目は人道的介入が「内政不干渉」という、とある大国の思惑で制限されるため、これを超える「R2P(自国民を保護できない国家の国民を国際社会が保護する責任)」を強く打ち出したこと。

 

<直情的で純粋、でもしたたか>

そしてその2つの可能性も残しつつ、今は国軍の敵対勢力である少数民族軍連合と連邦議会代表委員会(CRPH)が組んで軍事的衝突を起こし、他国が介入しやすい、介入するしかない状態をつくり出そうとしている。

 

 <行く末を見届けたい> 

ミャンマーの人々は直情的で純粋である。しかし感情だけに流されずしたたかだ。後進国だと侮る人も多いが、アジアで最先端を走っていた歴史もある。多様性に富み、そのせいもあってさまざまな思惑が複雑に絡み合う。 

 

悲観的に捉える多くの人は民主化デモが徹底弾圧された1988年、そして2007年の繰り返しになると言っている。しかし歴史は同じところを回っているように見えてらせん階段のように上っていくと、過去の偉人は言う。

 

ミャンマーの歴史は国民の半分以上を占める若い世代を中心に、確実に未来へ向かっていると信じる。苦難を乗り越え、さらなる発展を遂げるこの国の行く末を、1人の在住外国人として見届けたい。 (筆者はミャンマー在住日本人。身の安全のために匿名) 【4月28日 Newsweek】

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こうした厳しい状況にあっても、フラッシュモブのような命がけの抗議行動が行われています。

 

****ミャンマー、クーデター100日 短時間デモ活発化****

治安部隊の目を盗み抵抗

 

ミャンマーで国軍によるクーデターが起きてから100日が過ぎた。最大都市ヤンゴンでは、治安部隊に拘束されないような短時間の抗議デモが活発化している。国軍による徹底した弾圧で、抗議活動はいったん下火になったが、若者を中心とする市民の抵抗は続いている。

 

同国では治安部隊の銃撃などによる死亡者が780人を超えている。クーデターから100日目の11日、ヤンゴンでは数カ所で抗議デモが起きた。いずれも場所は中心部ではなく工場地区や住宅街などが多いエリアだ。横断幕を掲げ、速足で行進しながら「ミャンマーに民主化を」と叫ぶ。逮捕者はいなかったもようだ。

 

通行人にまぎれていた人々が治安部隊の目を盗んで瞬時に集まり、5~10分の短時間で解散する。こうした「フラッシュモブ」型と呼ばれるデモは4月下旬から連日起きている。

 

ある地区の抗議デモのリーダー(26)によると若者らは地区ごとにグループを組織し、情報は信頼できる仲間だけに伝えている。弾圧を受け大半の市民がデモに参加できなくなるなか「我々のような若い世代が声を上げなければ」と話した。

 

ヤンゴンでは2月、数十万人規模の大規模デモが頻発した。同月末から強制排除が始まると、市民は大通りや路地にバリケードを築き、治安部隊に抵抗した。国軍は発砲を繰り返してデモ隊を制圧し、街頭デモを行うのは難しくなった。

 

4月中旬以降、商店やオフィスが再開し、車や人の往来が増えた。医師らの職務拒否で閉鎖されていたヤンゴン総合病院などの公立病院は一部診療を再開した。次第に日常を取り戻しつつあるようにみえる。

 

だが抵抗の芽は消えていない。デモがあれば近隣住民は拍手で支持。夜8時に一斉に音を鳴らして抵抗の意思を示す「鍋たたき」は今も続く。

 

市民側が武装して国軍に立ち向かう動きも出ている。民主派勢力が発足させた「挙国一致政府(NUG)」は5日、「国民防衛隊」の設立を宣言した。これに呼応して地区ごとの「防衛隊」を設立し、連携を目指す動きが広がる。【5月13日 日経】

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夜8時の「鍋たたき」については前出【Newsweek】の記載とは異なりますが、地域によって差があるのでしょう。

 

“17歳少女、軍政による拘束下女性への暴力語る ミャンマー”【5月14日 AFP】といった現実も。

 

上記のような市民として非武装・非暴力の意思表示以外に、武装することを選択する動きも。

徹底した弾圧にさらされている状況では、当然と言えば当然な帰結でしょう。

 

ただ、その効果は限定的ですし、国軍に弾圧の口実を与えることにもなります。

 

****ミャンマー 市民が武装して軍に抵抗 双方合わせて16人死亡****

(中略)軍の弾圧が続く中、現地では市民の一部が武器をとって戦う動きが相次いでいて、現地メディアによりますと、このうち、北西部ザガイン管区のインド国境に近い村では11日から12日にかけて治安部隊と銃で武装した住民が衝突し、治安部隊15人と住民1人の、合わせて少なくとも16人が死亡したということです。

また、市民の中には少数民族の武装勢力のもとで訓練を受ける人たちも出てきていて、8年前の国際的なミス・コンテストにミャンマー代表として出場した女性がみずからのSNSに銃のようなものを持った写真と「反撃の時が来た」ということばを投稿し、訓練を受けているのではないかと話題になっています。

現地では、民主派勢力が軍の弾圧から人々を守るためだとして「国民防衛隊」と名付けた部隊を結成したと発表しましたが、軍は市民の武装化を口実にさらに弾圧を強めるおそれがあります。(後略)【5月13日 NHK】

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【厳しいジャーナリスト・メディア弾圧】

北角さんを含むジャーナリスト・メディア弾圧も厳しく行われています。

 

****ミャンマー、デモ取材記者に実刑 強まるメディア弾圧****

クーデターで国軍が権力を掌握したミャンマーで12日、抗議デモの取材中に逮捕された現地メディア「ビルマ民主の声」(DVB)の男性記者(51)に、禁錮3年の実刑判決が言い渡された。記者への実刑判決はクーデター後、初めてとみられる。国軍側はメディア弾圧を強めており、拘束中のほかの記者にも厳しい判決が下される懸念が高まっている。

 

DVBの声明によると男性記者は3月3日、中部ピーで抗議デモの取材中に虚偽のニュースを広めたりした容疑で逮捕された。当局から激しい暴行を受け、重傷を負ったという。

 

国軍側はこれまでにDVBなど現地メディア8社の免許を剝奪(はくだつ)。虚偽のニュースを広めたりした場合、最長で禁錮3年を科せられるよう刑法を改正した上で、日本人フリージャーナリストの北角裕樹さん(45)を含め、国軍に不都合な取材をした記者らも相次いで拘束している。(中略)

 

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは12日に声明を出し、「国軍は自分たちの犯罪を暴こうとする人々を黙らせて、反対意見をつぶそうとしている」と非難した。

 

現地メディアの一部の記者は国境を越え、隣国タイなどに逃れている。9日にはDVBの記者3人が、タイ北部チェンマイで不法入国の疑いでタイ当局に逮捕された。DVBはタイ当局に対し、記者らを強制送還しないよう求めている。【5月13日 朝日】

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不法入国の疑いでタイ当局に逮捕された逃亡記者に関し、タイ外務省報道官は11日、この問題について「人道的解決策を見つけるために関係当局が調整している」とコメントしています。【5月13日 毎日より】

 

タイのプラユット首相はミャンマー国軍と同じように軍事クーデターで実権を掌握したこと、タイ国内においても市民の抵抗運動を強権的に抑え込んでいることなどから、ミャンマー国軍とは近い関係にあると見られています。

 

【日本ミャンマー外交の特殊性・・・と言うか「曖昧さ」】

まあ、タイ・プラユット政権はともかく、日本政府はどう対応すべきか・・・です。

 

****北角さん解放が明らかにした日本ミャンマー外交の特殊性 〜東京外国語大学 篠田英朗教授に聞く〜****

(中略)5月3日には18カ国の大使が拘束されている報道関係者の即時解放などを求め、声明を出した。
日本はジャーナリストの北角裕樹さんが拘束されていたが、声明に加わらなかった。

 

――共同声明に参加しない日本についてどう見るか

篠田教授:
正当性の高い民衆側に立っていないという批判には非常に弱い。

 

一方で、国軍が勝つはずだという考え方もありそれは短期的に見れば事実だろうが、国軍が勝利するとしても、5年10年というスパンで見た時にそれは極めて表層的な勝利だ。国軍が勝利した翌日から国民みんなが喜んで国家を運営し、日本のODAを上手く回してくれるなんてことは余りにも非現実的。

 

共同声明を出すか出さないかの判断をする際、ミャンマーはどちらの方向に進んでいけばより安定した素晴らしい国に近づくのかを考えるべき。

国際的な原則に則した形で考えてみると、軍隊が銃を振り回して民衆を抑圧するやり方が持続可能性の高い施策とはとても思えない。ミャンマーはそのやり方でずっと国としての脆弱性が高かった。このやり方を何かのきっかけで変えてもらいたい。

日本は、約10年間の民主化のなか変えようとして変わらなかったこの問題について、今回もまた無理だったという結論ではなく、これを産みの苦しみと捉えて、なんとか国民を銃で抑圧しない国に生まれ変わる方向に、外野で第三者ながらも支援するという姿勢について、客観的な認識の中で判断していくべきだ。(中略)

同盟国や友好国が考えている“ミャンマーの進むべき道”について、日本は賛同しているのか否定しているのか表明するべき。すべては大きな方向性の中で、“10年後ミャンマーにどんな国になってほしいのか”という枠組みの中で進めるべきだ。

外務大臣から現地の大使を含めて共有している共通の政策的方向性があるのか。あるなら、日本国民もが分かるように説明してもらわなければならない。現地の大使が「何かよく分からないけれども上手くやれ」と指示されているような状態にいるのではないか心配だ。そんな無茶ぶりをされても成果を出せなくて当然だ。

 

私は対ミャンマーの外交政策に批判的だが、現地の大使には同情的な立場だ。方法論を示されず、方向性や成果目標さえ与えられず、「とにかく上手くやれ」と指示されるという無茶苦茶な仕事は他にない。(後略)【5月14日 FNNプライムオンライン】

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菅首相は「日本独自の役割」を強調していますが、一体何ができたのか、何をしようとしているのかを明らかにすべきでしょう。

ミャンマー国軍が「ミャンマーと日本の現在の友好的な関係と将来の関係」をアピールする状態でいいのか?

北角さんが解放されたから、それでいいのか?

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アフガニスタン  女子生徒が犠牲になる爆弾テロ 将来の姿を暗示するものでなければいいが・・・

2021-05-13 22:24:55 | アフガン・パキスタン

(【5月10日 TBS NEWS】爆弾テロ現場に散乱する女子生徒の遺品)

 

【首都カブールで爆弾テロ 犠牲者60名超 重なり合って倒れる女子生徒】

米軍撤退で、今後の情勢が注目されているアフガニスタンですが、またしても悲惨なテロが。

 

****アフガン首都の爆破攻撃、死者60人超に ほとんどは女子生徒****

アフガニスタンの首都カブールの中学校近くで8日にあった爆発で、確認された死者が9日までに60人を超えた。現地では、子どもを失った親たちが埋葬を行っている。負傷者は150人以上となっている。

 

爆発は自動車爆弾と、2個の爆破装置によるものだったとみられている。攻撃のねらいは、はっきりしていない。死者の多くは、下校途中の女子生徒たちだった。

 

カブールの「殉教者墓地」では、被害者のうち少数派ハザラ出身者の埋葬が行われた。AFP通信によると、女子生徒の遺体を入れた木製の棺が墓穴へと下げられていくのを、人々はショックによる放心状態で見つめていた。

付近の住民の1人は、「現場に駆けつけたら、たくさんの死体があった」、「みんな女の子だった。重なり合って倒れていた」とAFP通信に話した。

 

爆発発生時に現場付近にいたというザハラさんは、「同級生が死んだ。数分後、別の爆発があり、さらにもう1回あった。みんな叫び声を上げ、いたるところで血が流れていた」と記者団に話した。

 

教育省のナジバ・アリアン報道官はロイター通信に、事件があった中学校は国立で、男女両方の生徒がいたと話した。被害にあった多くは女子生徒で、3回に分けて開かれる授業の2回目を受けていた生徒たちだったという。

 

地元報道によると、市内はイスラム教の重要な行事ラマダン(断食月)の終了を祝うイード・アルフィトルに向け、買い物客で混雑していた。

 

現場はカブール西部のダシュト・エ・バルキ地区。モンゴルや中央アジアにルーツのある少数派ハザラが多く住む。ハザラ系の多くはイスラム教シーア派教徒ということもあり、この地区ではスンニ派武力勢力による攻撃が頻発している。

 

BBCのシカンダー・カーマニ・アフガニスタン特派員によると、武装勢力イスラム国(IS)はハザラを異端とみなし、一般住民らを狙った残忍な攻撃を繰り返してきた。これまでに、スポーツ競技のホールや文化センター、教育施設などに爆弾が仕掛けられ、多数が死亡しているという。

 

アフガン政府は反政府武装勢力タリバンの攻撃だとしているが、タリバンは関与を否定した。

 

米軍の完全撤退を前に

アフガニスタンでは、駐留米軍が9月11日までの完全撤退を予定しており、暴力事件が増加している。米国務省は8日、今回の攻撃を「野蛮な攻撃」と非難し、「暴力を直ちに終わらせ、罪のない民間人を意味もなく標的にするのを直ちにやめるよう求める」と声明を出した。

 

欧州連合(EU)のアフガニスタン代表部もツイッターで、「主に女子校の生徒たちを標的にしたこの攻撃は、アフガニスタンの未来を攻撃したことになる」と糾弾した。

 

ノーベル平和賞の受賞者で、女性が教育を受ける権利の拡大を唱えてきたマララ・ユサフザイさんは、「カブールでテロリストらが、女子が大多数を占める生徒たちを狙って、恐ろしい襲撃をした。テロリズムの激化はアフガニスタンの平和と民主主義を危うくしている。世界の指導者たちは結束して学童を守らなくてはならない。カブールの学校で犠牲となった人たちの家族に思いを寄せている」とツイートした。

 

パキスタン出身のユサフザイさんは、2012年にタリバンによって頭部を銃撃されたが、一命を取り留めている。

今回の爆破があった地区では、ほぼちょうど1年前にも、病院の産科病棟が攻撃され、女性24人や、乳幼児を含む子どもらが死亡する事件が起きている。【5月10日 BBC】

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現在のところ犯行声明は出ておらず、タリバンの広報担当者は関与を否定するとともに、犯行を非難しています。

これまでの犯行を考えると、武装勢力イスラム国(IS)の関与が疑われますが、よくわかりません。

 

タリバンにしても、犯行声明が出ていなくても、関与が疑われるような事例もあります。

 

****著名ジャーナリスト射殺 タリバン、前日に警告―アフガン****

アフガニスタン警察によると、南部カンダハルで6日、地元テレビ局で著名だったジャーナリストが射殺された。犯人像は不明だが、反政府勢力タリバンは5日、「偏った報道」を続けているとして同局に警告していた。

 

タリバンの広報担当者はツイッターで「イスラム首長国(タリバン政権時代の正式名称)は暗殺に関与していない」と述べたが、ガニ大統領はタリバンによる「テロ行為だ」と非難した。
 

被害者は大手テレビ局「トロニュース」の司会者として有名になったラワン氏で、年齢は20代。4月にはコミュニケーション担当の専門家として財務省に転職していた。【5月7日 時事】

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いずれにしても、米軍撤退後のアフガニスタンでタリバンなどのイスラム過激派が勢力を強めることは間違いなく、そうした状況で人権や民主主義、特に女性の権利がどのように扱われるのかが非常に懸念されているなかでの今回テロであり、不吉な将来をも予感させます。

 

今後暫定政権に参加するか、あるいはアフガニスタン政府を倒して完全に支配を確立するか、そこらはわかりませんが、影響力が強まるタリバンは、かつての旧政権では女性が教育を受けることや家庭外で働くことを禁じていました。

 

今のタリバンはイスラム主義に反しない範囲で、一定に女性の権利を認めるとの主張もしていますが・・・・

タリバン自身は女子教育を認めても、ISのようなより過激な勢力の跋扈を許すことになれば、結果的に女性への門戸は閉じられてしまいます。

 

****「自転車に乗るためタリバンから逃げた」 東京五輪目指すアフガン女性選手****

アフガニスタンの自転車選手マソマ・アリ・ザダさんは、東京五輪に難民選手団の一員として参加したいと思っている。

 

マソマさんは2016年、家族と共にアフガニスタンを離れた。女性がスポーツを行うことへの社会的圧力が高まり、反政府勢力タリバンからの攻撃を恐れたからだ。

マソマさんは現在、家族を難民として受け入れたフランスで暮らしている。

 

タリバン政権下の1990年代、アフガニスタンでは女性は教育を受けべきではないとされ、働くことも禁じられていた。

 

現在、アフガニスタン政府とタリバンの緊張が高まる中、ジャーナリストや弁護士といった職業の女性が次々と標的にされ、暗殺されている。【5月11日 BBC】

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タリバンはISとは競合していますが、アルカイダ指導者ザワヒリはタリバン指導者に忠誠を誓う関係にあります。

 

“国連の監視チームがタリバンと国際テロ組織「アルカイダ」が今も連携しているとする報告書を2月に発表したことについて、タリバンと対立するアフガン政府の支援者による誤った「証言や情報」に基づくものだとした。ただ、複数のタリバン部隊長は毎日新聞の取材に連携を認めている。”【5月4日 毎日】

 

【米軍 9月11日より早い段階での撤退完了を目指す タリバンも姿勢軟化】
米軍撤退の方は、バイデン大統領は4月末期限を9月11日に延期しましたが、より早い時点での完了(米独立記念日の7月4日)を目指して、すでに撤退が開始されています。

 

****アフガン駐留米軍、前倒しで撤収開始…「必要に応じ戦力投入できる状態」でタリバン警戒***

米国のカリーヌ・ジャンピエール大統領副報道官は29日、記者団に対し、アフガニスタンの駐留米軍が撤収を開始したと明らかにした。バイデン大統領は今月中旬、約2500人規模の駐留米軍の撤収を5月から始めると表明していたが、前倒しで着手した。

 

米軍は撤収に伴い、アフガンの旧支配勢力タリバンが攻勢に出る事態も警戒している。ジャンピエール氏は、空母ドワイト・アイゼンハワーが中東地域にとどまるほか、B52戦略爆撃機も周辺に展開させていると説明し、「必要に応じて追加の戦力も投入できる状態にある」と強調した。

 

トランプ前政権とタリバンが結んだ和平合意では、駐留米軍の撤収期限を4月末と規定していた。バイデン氏は撤収期限を、米同時テロから20年の節目となる9月11日に延期したが、タリバンは、「明白な合意違反だ」と批判し、対抗措置を取ると警告している。【4月30日 読売】

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米中央軍は11日、10日までに全体の6〜12%が撤退を完了したと発表しています。

欧州の同盟国からは、アメリカの早いペースに、延期要請もでています。

 

****米のアフガン撤退計画、欧州の同盟国が延期を要請****

トルコ軍がカブール空港撤収を示唆で

 

バイデン米政権が9月11日までの完了を目指すアフガニスタンからの米軍撤退を巡り、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に一段の猶予を与えるため、欧州の同盟国が延期を要請していることが分かった。米当局者が明らかにした。

 

これにより、2週間かそれ以上、撤退が遅れる可能性が出てきたという。米当局者はこれまで、早ければ7月4日の撤収完了もあり得ると話していた。

 

また当局者によると、数年にわたりカブール国際空港に部隊を配備していたトルコが、米国などNATO加盟国に対して、同国も撤収する可能性があると通知し、問題がさらに複雑になっている。

 

トルコは当初、米軍とNATO連合軍の撤退後までとどまる予定だった。一部の西側諸国は、国際部隊が空港に存在しなくなれば、首都カブールに大使館を維持する方針を見直す可能性があるという。

 

欧州の同盟国による要請は、米国が早期のアフガン撤退と数多くのパートナーとの連携を両立させることの難しさを浮き彫りにする。二十数カ国で構成される米国主導のNATO連合軍は長らく、アフガン駐留に関して「進出も撤退も共に」とする方針を堅持してきた。【5月8日 WSJ】

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一般的に、勢いに乗った前進・進攻より、整然と撤退することが難しいものでしょう。

 

これでタリバンが攻撃を強めれば・・・というところですが、タリバンも4月末からの延期には反対して攻撃も予告していましたが、その後の米軍撤退自体は歓迎し、態度が軟化しているようです。

 

****タリバン、米軍撤退を評価「良い一歩」****

アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンは9日、最高指導者アクンザダ師の声明を発表した。米国が昨年2月の和平合意の「違反」を繰り返していると批判したが、バイデン米政権が進める9月11日までの駐留米軍の完全撤退は「良い一歩と考えている」と評価し、態度を軟化させた。

 

イスラム教のラマダン(断食月)明けの祝祭「イード」が近く始まるのに合わせて発表した。タリバンは和平合意に基づき4月末までの米軍の撤退完了を求め、以降も駐留が続いた場合には攻撃すると示唆していた。

 

声明は「もし米国が再び約束を果たせなければ、国際社会は米国に全ての結果の責任を負わせなければならない」と強調。「いかなる犠牲を払っても、祖国の独立と主権を守る用意がある」とし、武力行使の余地も残した。【5月9日 産経】

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【タリバン 政府軍への攻勢を強める中で、ラマダン明けの3日間停戦】

タリバンは米軍には手を出さないとしていますが、アフガニスタン政府との交戦は続いており、攻勢が増しているようです。

 

****タリバン、カブール近郊の区を制圧****

アフガニスタンでタリバン戦闘員が、首都カブールまでおよそ30キロメートルのナルフ区を制圧した。

 

カブール近郊にあるマイダン・ヴァルダク州のアブドゥル・ラフマン・タルク知事は記者団に発言し、タリバン戦闘員が昨夜(5月11日)マイダン・ヴァルダク州のナルフ区に向けて攻撃を開始したと述べた。

 

治安部隊は撤退したと述べたタルク知事は、そうしてナルフ区中心地がタリバンに制圧されたと話した。

一方、国防省は、同区中心地を奪還すべく作戦を開始すると伝えた。

 

タリバンも、同区中心地外の警察署も制圧したと主張した。

タリバン戦闘員は、5月5日にもバグラン州ブルカ区を制圧している。(後略)【5月12日 TRT】

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米軍撤退も進み、政府軍との交戦もタリバンペースで進んでいる余裕でしょうか、タリバンはラマダン明け停戦を発表しています。

 

****タリバン“断食月明け停戦”和平交渉進むか****

アフガニスタンの反政府勢力タリバンは10日、今週始まる、イスラム教の断食月ラマダン明けの祝日の3日間、政府軍との戦闘を停止すると発表しました。

地元メディアによりますと、タリバンが10日に発表した声明では、「ラマダン明けの祝日の3日間は、敵に対する全ての攻撃を停止する」としています。攻撃を受けた場合は自衛するよう、戦闘員に指示していますが、ガニ大統領も政府軍に停戦を指示したということです。

アフガニスタンでは駐留するアメリカ軍の撤収作業が進むなか、各地で政府軍とタリバンの戦闘が続いています。停戦をきっかけに双方が歩み寄り、和平交渉を進められるかが焦点ですが、タリバンは過去にも同様の停戦を宣言し、停戦期間が終われば戦闘を再開しています。

アフガニスタンでは、8日に首都カブールの女子校の近くで爆発があり、女子生徒ら60人以上が死亡したほか、9日と10日には南部の州などで爆発が相次ぎ、あわせて13人が死亡するなど事件が相次いでいます。いずれも犯行声明は出ていませんが、政府はタリバンによるテロとの見方を示しています。【5月11日 日テレNEWS24】

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今の段階でタリバンが和平に応じることは考えにくいので、あくまでもラマダン明けに限定した停戦でしょう。

 

ただ、タリバンは4月下旬から延期された和平に関するトルコでの国際会合へは「米軍の駐留延長は合意違反」だとして出席を拒否していますが、米軍撤退の進行に伴って、こちらはそのうち動きが出てくるのではないでしょうか。

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イスラエルとパレスチナ・ハマス 攻撃の応酬  見えない解決の糸口

2021-05-12 23:12:21 | パレスチナ

(11日、パレスチナ自治区ガザで、イスラエル軍の空爆で立ち上る煙【5月12日 時事】)

 

【ロケット弾と空爆の応酬 増える犠牲者】

エルサレムにおけるパレスチナ人とイスラエル治安部隊の衝突については、4月28日ブログ“イスラエル  パレスチナ問題が選挙争点にすらならない状況で、再び連日の衝突”でも取り上げました。

 

パレスチナ問題が“選挙争点にすらならない”イスラエルの国内事情、そのイスラエルと関係正常化を進めるアラブ諸国というように、“置き去りにされた存在”にもなりつつあったパレスチナの問題は、衝突が大きく拡大するほどのエネルギーはもはや残っていないのでは・・・と、個人的には感じていました。

 

しかし、イスラエル軍とハマスがロケット弾と空爆で応酬する展開となっていること、多くの犠牲者が出ていることは周知のとおり。

 

ハマスの異例なほどのイスラエル中枢部攻撃に対し、ネタニヤフ首相も「彼らは攻撃に対する重い代償を支払っており、これからも支払うことになるだろう」と一歩も譲らない姿勢です。

 

衝突の発端は、先月エルサレムの旧市街への入り口の1つ「ダマスカス門」の前にある階段に、イスラエルの治安部隊がバリケードを設置したこと。

 

この問題に加えて、東エルサレムのシェイフ・ジャラフ地区に住むパレスチナ人に対してユダヤ人入植者が立ち退きを求める裁判に対するパレスチナ人の懸念が、イスラエルへの抵抗を拡大しました。

 

****イスラエルとパレスチナ 攻撃の応酬が激化 空爆で43人死亡****

中東のエルサレムでの衝突をきっかけに、イスラエルとパレスチナによる攻撃の応酬が激しさを増しています。イスラエルによるガザ地区への空爆でこれまでに子どもを含む43人が死亡するなど、緊張が続いています。

 

中東のエルサレムではイスラム教の断食月ラマダンが始まった先月中旬以降、イスラエルの治安部隊とパレスチナ人が衝突し、反発が各地に波及しました。

パレスチナのガザ地区では、イスラエルが報復として激しい空爆を行い、建物が倒壊するなどして、これまでに子どもを含む43人が死亡したとされています。

一方、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは報復としてロケット弾で対抗し、現地時間の11日夜には、イスラエル最大の商業都市テルアビブや、南部の都市などに向けて200発以上のロケット弾を発射しました。

ハマスがテルアビブなどに向けてこれほど多くのロケット弾を発射するのは異例で、イスラエル側は軍が迎撃して対抗しましたが、一部は着弾し、イスラエル側は市民6人が死亡したと発表しました。

これに対し、イスラエルは11日から12日にかけて夜通しガザ地区に対する激しい空爆を行ったほか、今後、ガザ地区周辺の部隊を強化し、地上からも軍事作戦を展開する構えを見せていて、緊張が続いています。

 

衝突の発端の1つとはバリケードの設置

イスラエルとパレスチナの衝突の発端の1つとなったのは、先月エルサレムの旧市街への入り口の1つ「ダマスカス門」の前にある階段に、イスラエルの治安部隊がバリケードを設置したことでした。

ダマスカス門は東エルサレムのパレスチナ人が、旧市街のイスラム教の聖地「ハラム・アッシャリフ」にある「アルアクサ・モスク」や、金色の丸い屋根が特徴の「岩のドーム」で礼拝するために行き来し、門の前の階段には市民たちが座って時間を過ごす憩いの場にもなっています。

先月中旬からイスラム教徒が日中の飲食を断つ断食月、ラマダンが始まり、礼拝する多くのパレスチナ人がこの門を通りますが、イスラエル側はバリケードによって門の周辺に人が集まるのを妨げようとしたことにパレスチナ側が反発し、イスラエルの治安部隊とパレスチナ人の小競り合いに発展しました。

暴力の連鎖は各地に波及し、ヨルダン川西岸地区では、ユダヤ教の宗教学校に通うユダヤ人入植者が襲撃されて、死者が出たほか、イスラエル軍の兵士を襲撃しようとしたパレスチナ人が射殺されるなど、次第に緊張感が高まっていきました。

こうした中、パレスチナ側をさらに刺激したのは東エルサレムの住宅をめぐる裁判でした。

東エルサレムのシェイフ・ジャラフ地区に住むパレスチナ人に対してユダヤ人入植者が立ち退きを求める裁判が不当な判決になるのではと警戒したパレスチナ側が抗議活動を展開し、衝突が激化しました。

そして、今月7日の金曜礼拝のあと、聖地ハラム・アッシャリフ内にイスラエルの治安部隊が突入してパレスチナ人と衝突するようになり、事態の収拾のめどが立たなくなりました。

その後、パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは、エルサレム周辺のほか、イスラエルの各地に数百発のロケット弾を発射し、これまでに少なくとも3人が死亡しました。

これに対し、イスラエルは報復措置としてガザ地区へ空爆を行い、これまでに、子どもを含む30人以上が死亡していて、双方の応酬はやみそうにありません。

 

対立の中心は「東エルサレム」

今回、最初に衝突が始まったエルサレム東部の「東エルサレム」は、イスラエルとパレスチナの領土をめぐる対立の中心となってきました。

エルサレムは1948年のイスラエル建国後東西に分かれ、それぞれイスラエルと隣国ヨルダンが統治しましたが、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが勝利すると、東エルサレムを占領・併合し、現在も自国の領土として扱っています。

ただ、国際社会はこれを認めず、イスラエルに対して戦争で占領した土地からの撤退を求める国連安保理決議を採択しています。

また、パレスチナは東エルサレムを将来樹立する国家の首都としていて、現在も大勢のパレスチナ人が暮らしています。

このうちシェイフ・ジャラフ地区には、1948年の第1次中東戦争で住む場所を追われたパレスチナ人が暮らしていますが、それ以前にこの土地を所有していたのは自分たちだと主張する右派のユダヤ人団体から立ち退きを求められる事態となっています。

イスラエルは、東エルサレムで国際法に違反した住宅地建設によりユダヤ人入植者の数を年々増加させていて、イスラエルのNGOによりますと合わせて22万人余りが暮らしているということです。(後略)【5月12日 NHK】

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東エルサレムのジャイフ・ジャラフ地区については、1948年にイスラエルが建国し、第一次中東戦争が起きると土地を追われたパレスチナ人が移り住みました。

その当時東エルサレムは、隣国のヨルダン政府が統治し、パレスチナ人は難民を支援する国連機関が建設した住居などで暮らしてきましたが1967年には第三次中東戦争を経て東エルサレムも、イスラエルに占領・併合されました。

ユダヤ人の団体は、この土地をかつてはユダヤ人が所有していたと裁判などで主張して、パレスチナ人の立ち退きを求めています。

 

衝突が激しくなる中、立ち退きをめぐる裁判の判決は延期となっています。【5月12日 NHKより】

 

【双方が「強気」姿勢を崩さない政治的事情も 懸念される「ナクバの日」】

衝突の今後については、“今月15日には、パレスチナ人がイスラエル建国で故郷を追われた「ナクバ(大破局)の日」を迎えることもあり、パレスチナ側による抗議活動がさらに激しさを増すとの懸念が高まる。”【5月12日 朝日】ということで、時期的には非常に危険な状況です。

 

“現地の報道では、ガザとの境界線付近でイスラエル軍の戦車が展開され始めている”【5月12日 TBS】という報道も。

 

イスラエル、パレスチナ双方とも内部に政治対立を抱えており、ネタニヤフ首相・ハマス双方とも「強気」に出ることが政治的に有利と判断していることからも、妥協は困難な状況です。

 

****イスラエルとハマス、双方とも妥協は困難か 国連など調停へ****

(中略)イスラエルのネタニヤフ政権は2014年夏、ユダヤ人少年3人が射殺体で見つかった事件を機にガザに侵攻、ハマスとの間で2千人以上が死亡する大規模な戦闘を展開した。今回も双方が敵対的な姿勢を崩さない可能性がある。

 

右派与党リクードを率いるネタニヤフ氏は3月23日の国会選後、他党との連立協議が頓挫し、現在は中道・左派勢力が連立協議を進める。治安維持で妥協しない態度を誇示して求心力を取り戻す狙いがちらつく。

 

一方、パレスチナでは5月22日に15年ぶりとなる評議会(議会)選挙が行われる予定だったが、自治政府のアッバス議長が4月末に延期を発表。

 

自ら率いる主流派ファタハが分裂、支持基盤が弱体化したアッバス氏が敗北を避けたとの見方が広がり、ハマスはアッバス氏を批判していた。

 

対イスラエル強硬派のハマスはパレスチナ人の間で根強い人気があるとされ、支持拡大のため戦闘継続に意欲をみせているとみられる。

 

エジプトの政治評論家、ハサン・アブターレブ氏(65)は電話取材に「早期停戦は見通せない。イスラエルが東エルサレムのパレスチナ人の強制退去を推進すれば、新たなインティファーダ(反イスラエル闘争)に発展する可能性もある」との見方を示した。【5月11日 産経】

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【イラン問題でイスラエルとの関係を悪化させたくない米バイデン政権 打てる手は限定的】

こうした状況にアメリカは、双方に自制を促していますが・・・

 

****中東対立 米国務長官、事態沈静化呼びかけ****

(中略)こうした事態を受け、アメリカのブリンケン国務長官は10日、イスラエルとパレスチナ双方に事態の沈静化を呼びかけました。

ブリンケン国務長官「双方が緊張を緩和し、事態を沈静化させるための現実的な行動をとらなくてはいけない」

その一方でブリンケン長官は、「ロケット弾攻撃を深く懸念している」「イスラエルにはこうした攻撃から国民、領土を守る権利がある」とも述べています。【5月11日 日テレNEWS24】

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バイデン大統領は、トランプ前大統領のイスラエル一辺倒から「2国家共存」を目指す方向に姿勢を戻していますが、イラン核合意復帰問題を抱えて、これに強く反対するイスラエルとの関係を悪化させたくないとの事情もあって、打つ手は限られているとも。

 

****エルサレム衝突 「脱トランプ」のバイデン米政権、鎮静化の道筋みえず****

エルサレム旧市街でのパレスチナ人とイスラエル治安部隊の大規模衝突を受け、バイデン米政権は10日、イスラエルと将来のパレスチナ国家による「2国家共存」を目指す考えを改めて強調し、イスラエル寄りだったトランプ前政権からの転換を印象付けた。

 

一方でバイデン政権はイラン問題などを念頭にイスラエルとの関係維持に腐心しており、同国との立場の違いを際立たせかねないパレスチナ問題では、和平仲介などの具体的な関与策を打ち出せていない。

 

米国務省のプライス報道官は10日の記者会見で、イスラエルとパレスチナの双方に緊張緩和を呼び掛けた上で、イスラエルには、衝突があった旧市街を含む東エルサレムの住民に「哀れみと思いやりを持って接するべきだ」と求め、強制立ち退きや入植活動に反対の考えを示した。入植を推進する右派ネタニヤフ政権にくぎを刺した格好だ。

 

プライス氏は、東エルサレムの最終的な地位は「当事者(による協議)で解決されるべき問題」だとし、東エルサレムの大部分をイスラエルの首都と認定した前政権と一線を画した。

 

ただ、政権発足から3カ月余りがたった現在も、バイデン政権が2国家共存に向けた協議の仲介に乗り出す兆しは見えていない。

 

背景には、優先課題として取り組むイラン核合意の修復へ向け、同国と敵対するイスラエルから一定の理解を得る必要に迫られていることから、優先度の低いパレスチナ問題で同国との関係をぎくしゃくさせたくないとの思惑がある。

 

また、イスラエルでは過去2年で4回の総選挙が行われる政治空転が続く中でも、対パレスチナ強硬派のネタニヤフ首相が底堅い支持で政権を維持してきた。これに対してパレスチナ側では自治政府に対する住民の不満が強く、アッバス議長ら指導部の求心力が低下。バイデン政権には、こうした政治情勢で和平協議を主導するのは難しいとの判断もあるとみられる。

 

歴代米政権は、イスラム原理主義組織ハマスなどのロケット弾攻撃に対してイスラエルが空爆などで報復することは「正当な自衛の範囲内」だとしており、バイデン政権もこれを踏襲。

 

東エルサレムでの衝突やハマスによる挑発的な攻撃が長期化した場合、事態沈静化のためにバイデン政権がとれる措置は極めて限定的だ。【5月11日 産経】

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一方、トランプ前大統領は、バイデン大統領の「弱腰」がハマスの攻撃を誘発しているとして、イスラエルを後押しすることが中東の安定につながると主張しています。

 

*****「バイデンの弱腰が原因」トランプ氏、イスラエルとハマス衝突で声明****

トランプ米前大統領は11日、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの戦闘を受けて声明を出し、「バイデン(大統領)の弱腰とイスラエルへの支援の欠如のせいで、われわれの同盟国に対する新たな攻撃が起きている」と非難、自身について「平和の大統領として知られていた」と自賛した。

 

トランプ氏は自身の在任中を振り返り、「イスラエルに敵対する者たちは、米国が断固としてイスラエルとともにあったために、イスラエルを攻撃すれば即座に報いを受けると分かっていた」と述べ、イスラエルを後押しすることが中東の安定につながると持論を展開。

 

それに対し、バイデン政権下では「世界はより暴力的になり、不安定化している」と主張した。【5月12日 産経】

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トランプ氏の主張は、うるさい相手は力で押さえつければいいと言っているにすぎず、そうして得られる小康状態が望ましい「安定」とは思いません。

 

歴代のアメリカ政権がイスラエルの拡張姿勢を容認してきたことが、イスラエルが問題可決に向かわせることを阻害し、そうしたイスラエルに武力で対抗しようとする勢力をパレスチナ側に根付かせているように思います。

 

ただ現実問題として、どのような妥協がありうるとか言えば・・・・難しいのが実情です。

 

パレスチナ人が住んでいた土地にイスラエルが建国したことが問題の発端ではありますが、今更イスラエル建国を否定することもできません。

 

ただ、その後の占領地拡大、入植政策に関しては、パレスチナ側の権利を侵害しており、これに関するイスラエル側の譲歩が必要になるでしょう。しかし、イスラエルは認めないし、イスラエルの首に鈴を付ける者もいない状況では手詰まり感も。

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インド・パキスタン 感染対策に優先する宗教行事 ネパールからのエベレスト超えを警戒する中国

2021-05-10 23:21:31 | 南アジア(インド)

(パキスタン・ラホールで、預言者ムハンマドの養子アリを記念する行事に参加したイスラム教シーア派信徒ら(2021年5月4日撮影)【5月4日 AFP】 マスク・ソーシャルディスタンスなど関係ない世界です)

 

【インド モディ政権は感染対策より選挙活動・宗教行事を優先 結果、感染爆発】

インドの新型コロナ感染爆発については、これまでも取り上げてきたとkろです。

4月21日ブログ“インド  コロナ1日30万人 「ワクチン大国」も国内需給ひっ迫 英・日首相、訪印中止

4月27日ブログ“インド  止まらない感染爆発 医療用酸素の不足で死者も 米中は支援でつばぜり合い

 

4月21日ブログの時の新規感染は一日30万人、4月27日ブログのときが35万人でしたが、現在は40万人前後、死者は一日4000人を超えたいうことで、爆発状態が続いています。

 

一応数字上は“天井を突き破るような勢い”で増加していた新規感染者のグラフは、ここ数日40万人レベルで推移していますので、拡大ペースは鈍ったようにも見えます。

 

ただ、もともと実際の感染者は発表される数字よりはるかに多く、100万人規模ではないかという推測もなされています。

病院に入れず車で待機する患者、酸素を求めて駆けずり回る家族・・・といった混乱ぶりを見れば、少なくと公式発表の数字より実態はもっと厳しいことは想像できます。

 

こうした状況で、感染対策より選挙活動・宗教行事を優先し、感染対策に消極的なモディ首相への批判が高まっています。

 

****インド、対応後手のモディ政権に批判 選挙・宗教行事で感染拡大―新型コロナ****

3月中旬から新型コロナウイルス感染の「第2波」を迎えたインドで、対応が後手後手に回ったモディ政権が批判にさらされている。国政与党が勝利を見込んだ地方議会選、与党支持者の多いヒンズー教の宗教行事を適切に規制せず、人が密集する機会が相次いでいた。

 

モディ首相は、感染の「第1波」が収まっていた1月下旬の演説で「インドは世界で最も多くの人命を救うのに成功した国の一つだ」と自賛した。1月にワクチン接種が開始されたことと併せ、人心の緩みを生んだ。
 

それから約3カ月で事態は暗転。1日の新規感染者数は7日、41万4000人を超え、連日の世界最多更新が続いている。
 

3~4月の地方議会選では、国政与党インド人民党(BJP)は勢力拡大を狙い、モディ氏ら幹部が何度も現地入りした。マスク非着用の群衆を前に声を張り上げていた。
 

また、ヒンズー至上主義を掲げるBJP政権は3月、3年に1度のヒンズー教行事「クンブ・メラ」への規制を渋った。参加者はマスクをせず「密」な状態で、ガンジス川で沐浴(もくよく)。その後帰郷し、感染を広げた疑いが強い。
 

4月19日には、医療崩壊の危機にひんしていた首都ニューデリーがたまらずロックダウン(都市封鎖)入りした。すると、モディ氏は翌日の演説で「国民をロックダウンから救う」と強調、政敵ケジリワル・デリー首都圏政府首相への批判を先行させた。支持率低下を恐れ、昨年のような全土封鎖にモディ氏は消極的だ。
 

医療崩壊に際しても、政権からは「医療用酸素は不足していない」「ワクチン不足は根拠がない」といった現状無視の発言が相次ぐ。インターネット上では、モディ氏辞任を求める声が広がってきた。英BBC放送は、モディ氏の選挙区、ヒンズー教聖地バラナシから「モディ氏は隠れている。BJP地方幹部も(批判を恐れ)携帯電話の電源を切っている」と怒る地元住民の声を報じた。【5月8日 時事】

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“モディ政権は、感染対策を地方政府に「丸投げ」している状態で、全土で統一した歩調が取れていない。”【下記 時事】という状況にもあります。

 

****インド首都の封鎖1週間延長=3週間経ても続く医療崩壊―医学誌、異例の批判****

インドの首都ニューデリーを管轄するデリー首都圏政府は9日、新型コロナウイルス感染拡大防止のため4月19日から実施中のロックダウン(都市封鎖)を17日まで1週間延長すると発表した。延長は3度目。3週間に及んだ封鎖でも「医療崩壊」状態を脱することができず、苦境が続く。

 

インド政府によると、9日朝(日本時間同午前)までの24時間の全土での新規感染判明数は40万3738人。40万人を超えるのは4日連続。死者も2日続けて4000人を上回った。

 

首都では、4月に1日2万5000人近かった新規感染者数が最近、2万人以下で推移する。これが数少ない希望となっている。

 

デリー首都圏政府のケジリワル首相は9日、記者会見し「陽性率は下がっているが、依然、余裕を持つことはできない」と訴えた。間引き運転中の地下鉄を10日から運休し、より厳しい制限を導入する。

 

首都以外の各州も次々に都市封鎖入りした。ただ、インド紙タイムズ・オブ・インディアは「封鎖前日の南部チェンナイでは、通りが混雑している」と写真入りで報じ、感染対策が徹底されていないと伝えた。

 

モディ政権は、感染対策を地方政府に「丸投げ」している状態で、全土で統一した歩調が取れていない。8日付の英医学誌ランセットは論説で、モディ政権が十分な対策を取らず、支持母体のヒンズー教徒の宗教行事や、地方議会選での大規模な選挙運動を許し「自ら国民的大災害を招いた」と異例の批判を行った。「政府が失敗を素直に認め」対策を立て直すことが重要だと指摘した。【5月9日 時事】 

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モディ首相には感染第1波の時のように全土封鎖を命じるよう圧力が強まっています。

もっとも、貧困層が多いインドでは、封鎖による経済活動停止は日本以上に市民の生活を直撃し、死活問題ともなりますので、モディ首相が躊躇しているのもそのあたりがあってのことでしょう。

 

ただし、十分な対策を取らず、宗教行事や選挙運動を許してきたことは批判は免れません。

ヒンズー至上主義のモディ首相にとっては、ヒンズーの重要な宗教活動を止めることは、支持基盤からの強い抵抗を受けますので、できなかったのでしょう。

 

【パキスタンでも宗教優先 「われわれの祈りは違う」「アラー(神)はわれわれにやさしい」】

宗教活動が感染拡大の原因になっているのはインドだけでなく、多くの国でみられるところ。

韓国でも教会で大規模クラスターが発生し全土に拡大しましたし、アメリカやイスラエルでも正統派ユダヤ教の活動がやはり問題となったりもしました。

 

宗教とは縁がない私のような人間には理解できないところですが・・・・

 

お隣、パキスタンでも。

ただ、インドの教訓に対し、「彼ら(インド人)は神を信じていない。われわれはイスラム教徒だ」と意に介さないとか。

 

こうした宗教的情熱に対して、イムラン・カーン首相も「(インドと違って)アラー(神)はわれわれにやさしい」と発言するなど、棹差すことは出来ない様子です。

 

****イスラム教行事に約1万人参加か、コロナ感染拡大懸念 パキスタン****

パキスタン東部ラホールで4日、イスラム教シーア派の行事があり、当局の推計で8000〜1万人が参加した。密集して行進する参加者の多くがマスクを着けていなかった。

 

隣国インドで、同様の祭りが感染爆発の要因になったとみられていることから、パキスタンでも感染拡大を懸念する声が上がっている。

 

預言者ムハンマドの養子アリを記念するこの行事に先立ち、連邦政府は大人数での集会を禁じる通告を出していたが、地元の宗教指導者らとの協議で同意が得られなかった。

 

インドでは最近、何百万人もの巡礼者が集まるヒンズー教の大祭「クンブメーラ」など複数の祭事が開催され、過去最悪規模の感染爆発を引き起こしたとみられている。

 

パキスタンは現在、流行第3波の抑え込みに苦慮している。累計感染者数は80万人以上、死者は1万8000人以上に上っている。新型ウイルスワクチン接種を済ませた人はわずかしかいない。 【5月4日 AFP】

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****「神はわれわれにやさしい」感染急増でもモスクに人殺到 パキスタン****

新型コロナウイルスの感染が急拡大しているパキスタンでは、学校や飲食店は閉鎖され、夕方になると商店にはシャッターが下ろされ、軍隊も動員されている。だが、夜になると各地のモスク(イスラム礼拝堂)には敬虔(けいけん)なイスラム教徒が集まり、祈りをささげている。

 

隣国インドで新型ウイルスが猛威を振るっていることを受け、パキスタン当局は規制を強化し、イスラム教の断食月「ラマダン」の終わりを祝う大祭「イード・アル・フィトル」期間中の移動を禁じた。

 

だが、当局は宗教的な集まりには目をつぶっている。極めて保守的なイスラム国家であるパキスタンでは、宗教行事の取り締まりは広く反発を招く恐れがあるためだ。

 

パキスタンの新型ウイルスの累計感染者は84万人以上、死者は1万8500人に上っている。だが、検査数は限られ、医療体制は脆弱(ぜいじゃく)で、実際の数ははるかに多いとの懸念もある。

 

政府は新型ウイルス対策を守るよう市民に懸命に呼び掛けてはいるものの、モスクはまるで別世界だ。

 

ラワルピンディの歴史的モスク、マルカジ・ジャミアを管理するモウラナ・ムハンマド・イクバル・リズビ師は、イスラム教徒はほとんど恐れておらず、インドと比較することは無意味だと話す。

 

同師は、「われわれの祈りは違う」と主張。少なくとも自分が見ている限り、感染対策は取られていると強調した。

「彼らは神を信じていない。われわれはイスラム教徒だ」

 

このような考えは社会の隅々まで浸透している。イムラン・カーン首相は6日、「インドでは人が道端で死んでいく。(中略)他国と比較すると、アラー(神)はわれわれにやさしい」と述べた。

 

今週には各地で、シーア派のイマーム(宗教指導者)、アリを記念する祭事が行われた。

首都イスラマバードで行われた行事では、最初は注意深くしていた人々も、興奮が高まるとマスクを外し、密集した状態で歌ったりしていた。

 

インドの医療関係者は、世界最悪の感染爆発を引き起こした大きな要因の一つとして、宗教行事を挙げている。

 

パキスタン当局は、規制違反の証拠があるにもかかわらず、ガイドラインは守られていると主張している。

宗教問題・異教徒間融和省の報道官は、「新型ウイルス感染対策ガイドラインが守られている場所が一つあるとすれば、それはモスクだ」と強調した。 【5月7日 AFP】

*********************

 

物事の価値観はひとそれぞれですから、コロナ感染より宗教活動を優先する人々がいることは不思議ではありませんが、それならそれで、「コロナで死んでもかまわないから、信仰を続ける」と言って欲しいですね。

「ガイドラインは守られている」とウソをついたり、「アラー(神)はわれわれにやさしい」なんて訳の分からないことを言うのではなく。

 

もっとも、日本でもオリンピックやってもコロナは大丈夫という主張もあるので、似たようなものかも。

 

【リトルインド化するネパール 感染のエベレスト越えを警戒する中国】

インドの感染爆発は当然のように隣国ネパールに及んでいます。医師も病院も足りない“リトルインド”と化しているとの声も。

 

****ネパールのコロナ感染、1200%増以上 隣国インドに連動****

新型コロナウイルスの感染急拡大に歯止めが利かないインドの隣国ネパールで今年4月半ば以降、1日の新規感染者数が7日間で平均1200%以上の増加を示していたことが6日までにわかった。

 

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計データをCNNが調べて判明した。ネパール政府の統計によると、今月4日に判明した過去24時間内での新規感染者は7587人の過去最多で、55人の新たな犠牲者数も同様だった。

 

ネパールでは今年2月から3月初旬にかけ新規感染者数が減り始め、50〜100人の間で推移してきた。しかし、インドの第2波が猛威を振るい始めた4月半ばになり、感染の急加速が顕著となり、数千人規模に拡大していた。

 

インド国内で初めて突きとめられていたウイルス変異株の出現も確認された。同国の公衆衛生や救急救命対策の基盤設備には限度があり、インドで起きているような大規模な感染拡大に到底対処し切れないとの懸念も出ている。

 

この中で、ネパールのシャルマ・オリ首相は3日、全国向けのテレビ演説で、同国での国際航空路線の離着陸を6日午前0時から禁止し、同月14日まで維持するとの対策を発表した。国内線の便は3日から14日まで欠航するともした。

 

さらに、対インド国境沿いの13カ所にある検問所ではネパール国籍の保持者の帰国は認めるが、現場での新型コロナ検査の陰性診断の結果が必要と指摘。陸路を通じての外国人の入国は全て禁止するとした。【5月8日 CNN】

********************

 

2861万人というネパールの人口を考えると、24時間内での新規感染者7587人というのはインドレベルの感染状況です。医療資源はインドにも及ばないネパールですから、犠牲者も・・・。

 

ネパール政府は外国からの流入を心配しているようですが、ヒマラヤでネパールと接する中国は、ネパールからの感染者流入を警戒しています。エベレスト山頂に「隔離線」(どういうものかは、よくわかりませんが)を設けるとか。

 

****中国がエベレスト山頂に「隔離線」 コロナ越境阻止へ****

中国国営の新華社通信は9日、世界最高峰エベレストのネパール側で登山者30人以上が新型コロナウイルス感染症疑いの体調不良を訴えたことを受け、中国当局が山頂に「隔離線」を設置すると報じた。

 

中国は2019年末に世界で初めて新型コロナウイルスが確認された国だが、厳格なロックダウン(都市封鎖)や国境封鎖を行い、現在は国内の感染をおおむね抑え込んでいる。

 

一方、ネパールは感染拡大の第2波に直面。エベレストのネパール側ベースキャンプでは、ここ数週間で30人以上の登山者が体調不良により緊急下山しており、登山シーズンへの新型コロナウイルスの影響が懸念されている。

 

新華社によると、チベット自治区当局は記者会見で、エベレストの山頂や中国側の南斜面とネパール側の北斜面の接する場所で「最も厳格な防疫措置」を講じ、登山者同士の接触を避けると発表した。また、中国チベット登山協会会長が、山頂に登山ガイドが「隔離線」を設置すると説明したという。

 

どのような方法で「隔離線」を設置するかは明らかにしていない。

 

中国は新型コロナウイルス流行を理由に、昨年から外国人のエベレスト登山を禁止している。一方のネパールは、コロナ禍で観光業が壊滅的な打撃を受ける中、登山客を呼び込もうと記録的な数の登山許可証を発行している。 【5月10日 AFP】

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今や、エベレスト山頂も警戒すべき「密」な状況にあるようです。

 

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台湾の干ばつ、アメリカのサイバー攻撃が示す現代社会・経済の「脆弱性」

2021-05-09 22:11:19 | 国際情勢

(台湾最大の湖「日月潭」が干ばつに見舞われ、湖岸の土が露出している【5月9日 レコードチャイナ】)

 

【戦前、八田 與一が建設したダムの着工100年記念式典に蔡総統ら台湾トップ3が出席】

戦前日本の統治下にあった国々のなかでも台湾は今でも極めて親日的な国として知られています。

やはり日本の侵略に苦しんだ中国が「どうして?」と訝しく思うほどに。

 

そんな台湾にあっても、ひときわ敬愛されている日本人が、水利技術者だった八田 與一(はった よいち)。日本よりは台湾で有名な人物です。

 

私事ですが、彼が活躍した嘉義・台南は、亡くなった私の母が女学校時代まで暮らした街でもあります。

(生前、母に八田のことを尋ねると、「なんかそんな人がいたみたいだね・・・」って言っていました。当時、母は弓道一筋の日々でしたから。日本人社会における八田の認知度もそんなに高くなかったのかも。)

 

****八田 與一(はった よいち)****

1886年(明治19年)に石川県河北郡花園村(現在は金沢市今町)に生まれる。石川県尋常中学第四高等学校(四高)を経て、1910年(明治43年)に東京帝国大学工学部土木科を卒業後、台湾総督府内務局土木課の技手として就職した。

 

日本統治時代の台湾では、初代民政長官であった後藤新平以来、マラリアなどの伝染病予防対策が重点的に採られ、八田も当初は衛生事業に従事し嘉義市台南市高雄市など、各都市の上下水道の整備を担当した。その後、発電・灌漑事業の部門に移った。(中略)

 

嘉南大圳

1918年大正7年)、八田は台湾南部の嘉南平野の調査を行った。嘉義・台南両庁域も同平野の区域に入るほど、嘉南平野は台湾の中では広い面積を持っていたが、灌漑設備が不十分であるためにこの地域にある15万ヘクタールほどある田畑は常に旱魃の危険にさらされていた。

 

そこで八田は民政長官下村海南の一任の下、官田渓の水をせき止め、さらに隧道を建設して曽文渓から水を引き込んでダムを建設する計画を上司に提出し、さらに精査したうえで国会に提出され、認められた。

 

(中略)八田は国家公務員の立場を進んで捨て、この組合付き技師となり、1920年(大正9年)から1930年(昭和5年)まで、完成に至るまで工事を指揮した。

 

そして総工費5,400万円を要した工事は、満水面積1000ha、有効貯水量1億5,000万m3の大貯水池・烏山頭ダムとして完成し、また水路も嘉南平野一帯に16,000kmにわたって細かくはりめぐらされた。この水利設備全体が嘉南大圳(かなんたいしゅう)と呼ばれている。

 

ダム建設に際して作業員の福利厚生を充実させるため宿舎・学校・病院なども建設した。爆発事故の翌年には関東大震災が起こり予算削減の為に作業員を解雇しなければならなかった。八田は、有能な者はすぐに再就職できるであろうと考え、有能な者から解雇する一方で再就職先の世話もした。

 

2000年代以降も烏山頭ダムは嘉南平野を潤しているが、その大きな役割を今は曽文渓ダム中国語版)に譲っている。この曽文渓ダムは1973年に完成したダムで、建設の計画自体も八田によるものであった。

 

また、八田の採った粘土・砂・礫を使用したセミ・ハイドロリックフィル工法(コンクリートをほとんど使用しない)という手法によりダム内に土砂が溜まりにくくなっており、近年これと同時期に作られたダムが機能不全に陥っていく中で、しっかりと稼動している。

 

烏山頭ダムは公園として整備され、八田の銅像と墓が中にある。また、八田を顕彰する記念館も併設されている。

 

評価

日本よりも、八田が実際に業績をあげた台湾での知名度のほうが高い。特に高齢者を中心に八田の業績を評価する人物が多く、烏山頭ダムでは八田の命日である5月8日には慰霊祭が行われている。

 

中学生向け教科書認識台湾 歴史篇』に八田の業績が詳しく紹介されている。2004年平成16年)末に訪日した李登輝台湾総統は、八田の故郷・金沢市も訪問した。2007年5月21日、陳水扁総統は八田に対して褒章令を出した。

 

また、当時の馬英九総統も2008年5月8日の烏山頭ダムでの八田の慰霊祭に参加した。翌年の慰霊祭に参加し、八田がダム建設時に住んでいた宿舎跡地を復元・整備して「八田與一記念公園」を建設すると語った。(中略)

 

2011年には台南市の主要道路のひとつが「八田路」と命名された。

妻の外代樹も顕彰の対象となり、2013年9月1日には八田與一記念公園内に外代樹の銅像が建立された。(後略)【ウィキペディア】

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馬英九総統も「八田與一記念公園」を建設したということで、国民党・民進党にかかわらず敬愛されているようです。

 

でもって、今年はダムの着工100年を祝う式典が行われましたが、蔡英文総統を筆頭に台湾政治トップ3人が参列したそうです。

 

****日本人技師、八田與一たたえ 台湾がダム着工100年式典 蔡総統らトップ3が出席****

日本人技師、八田與一(はった・よいち)が戦前、台湾で建設した烏山頭(うさんとう)ダムの着工100年を祝う式典が8日、台南市の八田與一記念公園で行われた。関連イベントも含め、蔡英文総統、頼清徳副総統、蘇貞昌行政院長(首相に相当)が出席した。

 

外国が関わる歴史イベントで、台湾政治トップ3人の参列は極めて異例だ。

 

先月16日の日米首脳会談や、今月5日に閉幕した先進7カ国(G7)外相会議で、菅義偉首相、茂木敏充外相が相次ぎ「台湾海峡の平和と安定」を重視する姿勢を明確にした。台湾も対日関係を強化する意思を改めてアピールした形だ。

 

蔡氏は「100年前に烏山頭ダムを作った八田與一の先見の明、勇気と実行力を学び、台湾と日本は新型コロナウイルス対策や気候変動問題などで協力関係を緊密にし、100年後の子孫に良い環境を残せるよう努力したい」と述べた。

 

安倍晋三前首相もビデオメッセージを寄せて、「真の友人だけがつくる深い交わりをこの先もずっと、世代を継いで大事にしていきましょう」と強調した。

 

1920年着工の烏山頭ダム記念式典は昨年9月に予定されていたが、八田與一の79年目の命日にあたる8日に延期された。台湾側から約500人が出席したが、日本側関係者は八田與一の故郷、金沢市からテレビ会議方式で参加した。

 

烏山頭ダムにある八田與一像前で行われた慰霊祭では、頼氏が「八田與一の台湾への貢献に感謝する」とあいさつし、献花した。(後略)【5月8日 産経】

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敬愛されているのはともかく、台湾政治トップ3人が参列というのは・・・と驚いた次第ですが、昨今の日米の台湾重視に応える形での、台湾の日本重視・関係強化の表明だったとのこと。

 

ただ、いかにそうした国際政治の絡みがあるにせよ、八田 與一という人物の偉業があってのことでもあります。

 

【記録的干ばつ、世界の半導体生産を担う企業の生産にも深刻な影響】

もっとも、ダム着工100年を祝う式典に参列した蔡英文総統など首脳陣の頭には、八田のこと、日本との関係のこと以外に、もうひとつのことがあったのではないでしょうか。

 

それは、現在台湾がみまわれている深刻な干ばつ・水不足。

 

****台湾、半世紀ぶりの記録的干ばつ、不足する半導体生産への影響も懸念****

台湾が半世紀ぶりの記録的な干ばつに見舞われている。

 

一部自治体では週2日間の断水を実施。農産物被害が報告されているが、台湾は世界的に不足する半導体の一大生産基地でもある。製造時に大量の水が必要な半導体産業への影響を懸念する声が上がっている。


台湾・中央通信社などによると、台湾では昨年、台風が上陸せず、台風による降雨がもたらされなかった。今年に入っても中部や南部ではまとまった雨が降っておらず、過去56年で最も深刻な水不足となっている。


今年に入っても中部や南部ではまとまった雨が降らないまま。(中略)


台湾中部を流れる台湾一長い河川、濁水渓の下流は枯渇した。濁水渓は南投県、雲林県、彰化県、嘉義県を東西に流れる。本流の全長は約187キロ。河口に近い西浜大橋付近で川の水が枯れ、4月26日にはそのやや上流の自強大橋付近も干上がっているのが確認された。


濁水渓流域を管轄する経済部(経済省)水利署第四河川局の董志剛副局長は中部や南部で半年以上まとまった雨が降っていないことから、河川の水量が不足していると指摘。「早く雨が降って干ばつが解消されるよう神頼みするほかない」と切実な思いを口にした。


半導体ファウンドリー(受託生産)で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は、台湾中部に生産拠点がある。台湾の半導体工場は世界の生産量の65%を賄っており、生産能力の大半をTSMCが占める。


TSMCは1日で20万トン弱の水を使うとされるが、TSMCの工場群がある台中市の水不足は特に深刻。付近の主要なダム二つの貯水率は5%前後に低下していると伝えられている。TSMCなどは給水車を使って貯水率が比較的高いダムから水を運び、工場を稼働させているという。


事態を重視した台湾の蔡英文総統は3日、北部の水がめの石門ダム(桃園市)を視察し、深刻化する台湾の水不足問題の解決に向けた対策の徹底を各関係部門に指示した。

 

蔡総統は干ばつによる被害を乗り越えられるよう、新たな水源の開発とダムに堆積した土砂排出の加速化を求めるとともに、海水淡水化や汚水の回収・再利用など各種の水資源計画を引き続き進めるよう要請した。【5月9日 レコードチャイナ】

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危機的な干ばつにあって、蔡英文総統は改めて水利事業の重要性に思いをはせていたのではないでしょうか。

 

しかしながら、「神頼みするほかない」というのは、世界にとっても困った事態。

 

「台湾の半導体工場は世界の生産量の65%を賄っており、生産能力の大半をTSMCが占める。」という現状で、もし台湾積体電路製造(TSMC)の半導体生産が止まったら、台湾のみならず、日本を含めた世界経済全体が深刻な影響を被ります。

 

自動車やスマホをはじめ、多くの産業はいまや半導体なしでは成立しません。

先日4月14日にもTSMCの工場「Fab14 P7」で停電が発生して半導体生産がストップ、日本企業への影響が懸念されたこともありました。

 

水不足での生産ストップとなると、短時間の停電以上の長期的問題となります。

グローバル化した世界経済には、台湾で雨が降らないと世界経済が麻痺する・・・という、思いがけない「脆弱性」が存在するようです。

 

今後については、“台湾では例年5~6月に梅雨を迎えるため、水不足には楽観論もある。ただ昨年同様、今年も雨不足となれば、世界的な半導体不足にさらに影響を与えるのは必至だ。”【4月28日 日経】とも。

 

【米 サイバー攻撃で東海岸の燃料の半分近くを担う石油パイプラインが停止】

「脆弱性」つながりで、改めて危うさを認識させられた事件がアメリカで・・・。

 

*****米最大の石油パイプライン停止、サイバー攻撃で 東海岸に供給****
 米パイプライン最大手のコロニアル・パイプラインが、サイバー攻撃を受けて操業を全面的に停止した。東海岸の燃料の半分近くはこの石油パイプラインが供給。車で移動する人が増える夏が近づく中、停止が長引けばガソリン価格が急騰する可能性がある。

コロニアル・パイプラインはメキシコ湾岸の製油所と米東部と南部を結ぶ全長8850キロのパイプライン。ガソリンを含む燃料を1日250万バレル輸送している。ジョージア州アトランタのハーツフィールド・ジャクソン国際空港など、米国内の主要空港にも燃料を供給している。

コロニアル・パイプラインは「状況を把握し、解決に向けて手立てを講じている。と同時に、通常の操業に安全かつ効率的に戻ることに注力している」と発表した。ランサムウエアによる攻撃に7日に気づき、操業を停止したという。停止がどのくらい長引きそうかなど、詳細は明らかにしていない。

米政府による捜査は初期段階にあるものの、元政府関係者1人と業界関係者2人によると、ハッカーはプロのサイバー犯罪集団とみられるという。

この元政府関係者によると、捜査当局は「ダークサイド」と呼ばれる集団を調査。ランサムウエアを仕込んで金銭を要求、拠点が分からないよう旧ソ連諸国に身を隠すことで知られているという。ランサムウエアは、データを暗号化してシステムを停止させ、金銭を要求するマルウエアの一種。

米連邦捜査局(FBI)を含め政府機関は、状況を認識しているとする一方、攻撃者の詳細は把握していないとした。

ホワイトハウスの報道担当者は、できるだけ早い復旧に向け同社を支援するとともに、供給が寸断されないよう取り組んでいると述べた。バイデン大統領は8日午前に説明を受けたという。【5月9日 ロイター】

***********************

 

東海岸の燃料の半分近くを輸送する石油パイプラインが止まる・・・これも米経済・社会、ひいては世界経済にとっても深刻な事態です。

 

アメリカ人はことあるごとに「9.11」を口にしますが、こうしたサイバー攻撃はいともたやすく、「9.11」よりはるかに大きなダメージを経済・社会に与えることができます。

 

まさに現代社会の「脆弱性」を示しています。

 

 

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日本の新型コロナ対応 ワクチン接種の遅れを招く「慎重さ」 全体的に活用されていない医療資源

2021-05-07 22:59:22 | 日本

(日本の人口の中で少なくとも一回のワクチン接種を受けた割合は0.96%で、1%未満となっている。【4月20日 YAHOO!ニュース】 グラフでは、日本は横軸にへばりついている一番下の赤い線です)

 

【先進国では最下位、世界平均より一桁少ない、あのミャンマーにも劣る日本のワクチン接種状況】

緊急事態宣言が延長・拡大されたことは周知のとおり。

 

既定方針どおりで、日本国民全員にとって特に驚きなどはない決定ですが、個人的に言えば“期限延長はやむを得ない”(菅首相)と言う前に、日本はやるべきことをやっていないのではないかとの強い不満を感じます。

 

その不満は、大きく分けて二つ。

 

ひとつは、絶望的なほどに遅れているワクチン接種状況。

ワクチン接種拡大という出口戦略なしに、また、そうした事態となっている「失敗」の反省・謝罪・対策なしに、「自粛をもっと頑張れ」「感染拡大が止まらないのは自粛努力が足りないせいだ」みたいなこと言われても、「筋違いだろ!」という感も。

 

もうひとつは、現在の危機的状況の根幹にあるとされる「医療崩壊の危機」というのは本当なのか?という疑問。

もちろん、東京・大阪などの受入れ医療機関の状況がひっ迫しているのは事実で、関係者が多大な苦労を強いられているのも事実ですが、日本全国、多くの民間病院を含め「総合的・俯瞰的」に見たときどうなのか?という疑問です。

 

そこに問題があるとしたら、その問題に手を付けずに一部の業種などに廃業を決意させるほどの制限をかけることは、これまた「筋違いだろ!」ということにも。

 

まずワクチン接種状況。日本はいわゆる先進国OECD37か国中、最下位です。

 

****日本のワクチン接種率1.1%で「OECD中最下位」…なぜ?=韓国報道****

日本の新型コロナウイルスワクチン接種率が他の先進国に比べ顕著に低いことがわかった。  

 

27日(現地時間)ブルームバーグ通信によると、日本のワクチンン接種率は人口全体の1.1%に過ぎない。米国の36%や英国の35%と比較されており、これは 経済協力開発機構(OECD)加盟国37か国の中でも最も低い数値だ。 

 

アジア内では中国、インド、シンガポール、韓国よりも遅れている。フィリピンやタイなどの低所得国よりはやや進んでいる状態だ。 

 

(中略) 医療関連のL.E.Kコンサルティングの藤井礼二氏は、ワクチン接種の遅延が菅内閣のおろそかな準備のためだと明らかにした。 藤井氏は、「ファイザーのワクチン供給が遅いことや、日本のワクチン確保が不十分なことだけではない」とし、「流通不良や準備不足のため」だと指摘した。 

 

日本のワクチン接種率が低調なもう1つの理由は、日本の製薬会社らがワクチン開発に乗り出さずにいるという点だ。(中略) 駐日米国商工会議所・医療委員会のカールソン共同委員長は、「日本が新技術の採択や革新開発の脈略でどれだけ発展したのか疑問を持つ」と話している。

 

主要7か国(G7)の回復競争が始まったとしても、日本の遅いワクチン開発は日本経済の足を引っ張るだろうと、ブルームバーグ通信は伝えた。【4月28日 WOW!Korea】

*******************

 

OECDどころか、世界平均より“一桁”少なく、国軍による市民への武力弾圧が続くあのミャンマーよりも少ない状況です。

 

****日本、ワクチン接種率OECD37カ国で最下位――東京五輪よりもコロナ対策に専念を***

日本の新型コロナウイルスのワクチン接種率が、先進国の集まりである経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国の中でダントツの最下位に陥っている。世界182カ国中でも131位にとどまっている。世界と比べても、日本のワクチン接種の少なさが際立っている。

 

英国のオックスフォード大学運営の「データで見る私たちの世界(Our World in Data)」の4月19日時点のデータによると、日本の人口100人あたりの接種回数は1.53回で、世界平均の11.61回より一桁も少なく、大幅に下回っている。国軍による市民への武力弾圧が続くミャンマーの1.91回よりも少ない。

 

(中略)筆者は2021年2月2日、「緊急事態宣言」を延長する菅首相の記者会見で「なぜ日本のワクチン接種が遅れているのか」と質問した。

 

これに対し、菅首相は、ワクチン接種が遅れている事実を認めたものの、「日本はワクチンの全量確保が早かった」と強調。「ワクチン接種の体制ができて、始まったら世界と比較をして、日本の組織力で、多くの方に接種できるような形にしていきたい」と述べた。

 

しかし、その菅首相の言葉とは裏腹に現実には日本は依然、国際的に後れを取り続けている。

 

菅首相への筆者の質問当時の2月初め、OECD加盟国37カ国中、日本のほか、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、コロンビアの4カ国がまだ接種を開始していなかった。その後、日本とコロンビアが2月17日に接種を開始。続いて、ニュージーランドが2月20日、オーストラリアが2月22日、韓国が2月26日にそれぞれ接種を開始した。しかし、今では日本は、こうして遅れて接種を開始した国々にも逆転され、接種率はOECD加盟国で最下位に陥っている。(中略)

 

  • 集団免疫を早く獲得した国が「勝ち組」

なぜ各国とも競うようにして国民へのワクチン接種を急ぐのか。それは集団免疫を獲得し、コロナ禍を一刻も早く終息させるためだ。集団免疫の確立で後れを取れば、国際的に人流・物流のフル再開の機運が生まれた時に、日本が締め出される懸念がある。結果として、貿易立国の日本は他国に比べ、経済回復も出遅れてしまう。

 

米英は感染者数や感染死者数では「負け組」だったが、ワクチン接種では先行し、早期のコロナ危機克服と景気回復では「勝ち組」になる可能性が高まっている。ワクチンというゲームチェンジャーを手にし、一発逆転劇を期している。

 

  • 日本のPCR検査数はOECD加盟国37カ国中36位

日本が後れを取っているのはワクチン接種だけではない。国際統計サイト「Worldometer」の4月19日時点のデータによれば、日本の新型コロナウイルスの人口100万人当たりのPCR検査数は8万6543回となり、世界210カ国中145位にとどまっている。OECD加盟国37カ国では36位となっている(最下位はメキシコ)。

 

ワクチンのみならず、検査数の低さも国際的に際立っている。(後略)【4月20日 高橋浩祐氏 YAHOO!ニュース】

**********************

 

普段、なにかといがみ合っている日本と韓国ですが、ワクチン接種状況でその韓国(韓国国内ではワクチン確保で日本にも後れを取っていると強い批判がありました)にも追い抜かれ、日本のスポーツ紙が韓国専門家の日本の「遅れ」に関する指摘を掲載するまでに。

 

****韓国の専門家が指摘する日本のワクチン接種遅れ「3つの理由」****

(中略)日本では他国と比べてワクチン接種が遅々として進まないが、そうした状況を韓国メディアが糾弾。韓国紙「京幾日報」が、朴成彬アジア日本政策研究センター長による見解を掲載した。 

 

(中略)朴教授は最初にこう指摘する。 「まずワクチンの供給不足だ。日本は、米国、英国などの欧米諸国とは異なり、まだ自国でワクチン開発に成功していない。独自のワクチン開発に失敗しても海外から十分に輸入できれば問題は解決するが、米国などでワクチンの自国優先主義が強まりワクチン輸入が遅れている」。  

 

また、日本のワクチン認可における制度の問題点も挙げ「海外での臨床とは別に、日本で独自の臨床試験を進めていることが遅れの理由だ。海外で開発されたワクチンの自国臨床を省略し、すぐにワクチン許可手続きを進めれば供給不足の解決に役立つだろう」。安全面を重視するあまり、緊急時のスピード感の欠如が供給遅れを招いているとの指摘だ。 

 

「次に、ワクチン接種システムの問題がある」と朴教授は続ける。 「日本政府の役割はワクチンを調達して自治体に送ることまでで、実際のワクチン接種は自治体が実施する。最近、日本政府は接種の速度を高めるために東京と大阪に大規模接種センターの設置を決定したが、それでも接種は自治体が担う。

 

政府は急いで接種管理データベースを構築しているが、自治体のシステムとの連携がスムーズではない。つまり、ワクチン接種率を上げるには接種者の管理のデータ化、デジタル化が重要である」とデジタル化の遅れがそのままワクチン接種にも影響が出たというわけだ。  

 

(中略)これまで感染対策においては韓国のほうが成功している感は否めないだけに、検討すべきポイントになりそうだ。【5月4日 東スポ】

****************

 

【逆転を狙う「1日100万回」 足を引っ張る「慎重」「安全第一」「着実に」という責任回避の風潮】

こうしたワクチン接種遅れへの批判に危機感を感じたのでしょう、菅首相は「1日100万回」を目指すそうです。

 

****ワクチン1日100万回、首相「先頭に立って実行」…東京五輪「対策徹底で実現可能」****

(中略)新型コロナワクチンの65歳以上の高齢者向け接種を巡っては、「私自身が先頭に立って加速化を実行に移す」と強調し、1日100万回の接種を目指す方針を表明した。(後略)【5月7日 読売】

**********************

 

「インフルエンザのワクチン接種は平均で1日60万回くらいできていると報告を受けている。体制としては今回の方がはるかに広く取っているので、接種を始めて本格的になり、慣れてくるとそういうことも十分可能だ。」【5月7日 NHK】とも。是非ともそうあってほしいと願っています。

 

ワクチン接種の遅れ、供給不足、そこに至った政府責任・・・言いたいことは山ほどありますが、一番問題なのは、昨今の日本の官民含めた「慎重すぎる」風潮(それは「責任逃れ」でもあります)。

 

「安全第一」を名目に何もしなければトラブルも起きず、責任も問われない。しかし、その遅れによる犠牲者の増加というリスクを考えているのか?

 

自治体にワクチンが届いているのに、副反応のアレルギー症状が出た際の医療体制が準備できないので、接種開始は2週間後・・・そんなニュースも。 

 

平時では尊重されるべき「慎重さ」ですが、ウイルスとの戦い、時間との勝負にあっては、多少の混乱・トラブルは覚悟の上で、万難を排して進める馬力、「走りながら考える」姿勢が必要でしょう。

 

【都道府県単位にとらわれた対応、民間医療機関の責任回避で起きている「医療崩壊の危機」】

二つ目の「医療崩壊の危機」の問題。

これについては、森田洋之医師の指摘に納得がいきます。

 

****コロナ「医療逼迫」に「国民が我慢せよ」は筋違い****

森田洋之医師が語る「医療の不都合な真実」

 

(中略)北海道夕張市立診療所長としての体験などから日本の医療制度や実態を調査し、『日本の医療の不都合な真実』の著書もある森田洋之医師に話を聞いた。森田医師は「医療逼迫」「医療崩壊」の原因は日本の医療制度にあり、まん延防止等重点措置や緊急事態宣言によって国民の活動を制限するのは筋違いであると指摘する。

 

日本の医療では「市場の失敗」が起きている

――(中略)問題は日本の医療制度のほうにあるとのことですね。詳しくお話しください。

 

まず、日本の感染者数は現在も、人口比で欧米のほとんどの国々よりも1桁少ない。一方で、1人当たりで見た病床数は世界で最も多く、医師の数も欧州主要国よりはやや少ないけれども、アメリカとは変わらない。

 

それでなぜ医療逼迫が起きるのか。日本の医療システムは、医療提供を国で管理するのではなく各病院の自由に任せているため、経済学で言う「市場の失敗」が起きているのです。患者数という需要側にもまして、医療の提供という供給側に問題があるのです。

 

今、大阪府で感染が増えて医療逼迫の状態にある、このままでは医療崩壊が起きると吉村洋文知事は訴えています。たしかに大阪だけを見ればそうなのかもしれませんが、一歩下がって全体を俯瞰すると別の景色が見えてきます。

 

厚生労働省が発表している全国の重症者数や病床数を見てみましょう。4月14日時点の発表で、(中略)となりの鳥取県では47病床のうち重症者ゼロ、島根県も25床あって重症者ゼロ、岡山は43病床のうち4人重症者がいますが、広島は48あってゼロ、山口県は重症者向けの確保病床数が124と兵庫よりも多いのですが、重症患者はゼロです。

 

こういう状況ならヘリコプターで患者を隣県に運んでもいいし、逆に応援として、医師や機材が他県から来てもいい。ところが、そんな話にはまったくならない。

 

日頃から病院同士は競争関係にあるので、協力関係になれないからです。都道府県の間はおろか、隣の病院とも協力関係にはなれません。まったく融通が利かない状態です。

 

病床も機材も新型コロナには数%しか使われていない

――そもそも新型コロナ患者を受け入れる病院が少ないですよね。今年に入って、国は新型コロナの重症患者1人受け入れに1500万円の支援金を出し、自治体からの支援金も上乗せされています。ですが、いっこうに受け入れは増えませんでした。

 

全国の日本の病床数は150万もあります。そのうち、新型コロナ患者を受け入れている病床数は6万で4%しかない。これでも実は増えてきたほうで、1年前の感染第1波で緊急事態宣言を行ったときには、0.7%しか使っていませんでした。

 

日本の病院の経営上の理由から常時満床を目指しています。そこには、本人の望む人生かどうかを別にして慢性疾患や終末期の高齢者を病院に収容しているという大問題があります。

 

だから、病院の多くは新型コロナのために病床を空けたがらない。感染症は波があるので、患者数が急激に増えて、また、急激に減る。それに対応していたら、経営が成り立たないからです。

 

重症患者に使われる人工呼吸器の数は全国推計で4万5000台ですが、学会の公表データによると、そのうち4月18日時点で新型コロナでの利用は414台、1%弱しか使われていません。

 

今回の新型コロナではECMO(エクモ)と呼ばれる人工肺のようなものが知られていますが、これは全国2200台のうち、新型コロナに対しては44台が稼働中で、大阪府で11台使っています。新型コロナ患者への使用率は2%です。

 

これだけ日本中で大騒ぎしている新型コロナですが、人工呼吸器やECMOを使うような重症者でさえも日本の医療提供能力の数%しか使っていないということです。

 

欧米は日本の何十倍も感染者・死亡者がいたのですから、医療負荷はもっともっとかかっていたでしょう。それでもなんとか持ちこたえていました。なぜ、これで日本は医療崩壊と騒がれるのでしょうか。しかも、持っている機材の数が推計値なのは、病院が独自に機材の調達を行っているからで、正確な数を国として把握していないのです。

 

政治が医療を管理できず、国民に責任を転嫁

海外の先進国ではどうか。欧州では病院といえばほとんどが国立・公立で、国が全体を管理しているので、病床の融通ができるんです。EU(欧州連合)ですから、国をまたいだ患者搬送もあった。欧米の場合、新型コロナによる病床の使用率は状況に応じて大きく増えたり減ったりしている。減らすことも大事なんです。緊急事態で空けさせるわけなので、急がない手術などを延期していますから。

 

つまり、多くの先進主要国では病院を警察や消防と同じ国の安全保障として位置づけているのに、日本では病院の自由に任せている。競争原理によって医療提供をコントロールしようとしているのです。だから、第1に協力関係ができない、第2に緊急事態に迅速に対応できないという「市場の失敗」が起きてしまう。

 

都道府県単位で悩んでいること自体おかしいでしょう。感染症の拡大は国としての安全保障と考えるべきです。それなのに、九州によその国から敵が攻めてきたら、本州は知らんぷりしてるみたいな、そんな馬鹿な話になっているんです。日本全国で機動的に対応すれば医療逼迫でも何でもない。医療崩壊ではなくて医療資源も医療システムも管理できていないだけの話です。

 

最前線の現場で歯を食いしばって懸命に働いていらっしゃる医師・看護師の方々の尽力に報いるためにも、人員や物資などの医療資源を適切に配備する後方支援システムを早急に立て直すべきなのです。

 

ですが、医療業界が各病院の自由を原則にした市場原理を基本に構築されているため、国も地方自治体もまったく動きが取れないというのが現状なのです。(中略)

 

医療業界はリソースのほとんどを新型コロナに割いていない。一方で、政府は外出するなとか外食するなとか3密を避けろとか、国民にばかり我慢を強いて活動制限を行っている。責任の所在が国民にあるかのようにすり替えているんです。

 

自分の専門領域のみの視点で語る医者の意見、専門家の意見に政治家が頼っていることが大きな問題です。最前線の医療現場で対応している専門家の方々の頑張りは本当に貴重でその意見は尊重すべきですが、かといって最前線の兵士が全体の戦況を把握し、国全体の未来を見通した戦略をたてられるか、というとそれは別の話です。

 

国として全体の武器弾薬に相当する医療設備や医療機器や薬を把握し、さまざまな知見を総合して指揮を執る指揮官がいないといけない。

 

テレビや新聞はコロナ対応の病院だけを報道

――(中略)公立病院がブラック勤務といわれる一方で、開業医の多くは「熱のある方は電話でご相談ください」と張り紙して保健所に回してしまっています。

 

本当に、おかしなことです。皆、全体像をちゃんとみていません。テレビや新聞は新型コロナに対応しているごく一部の病院、対応に追われている病院の医師や看護師さんの苦境だけを報道しているので、国民の多くが誤解してしまう。最前線の現場で頑張っていらっしゃる医療従事者の方々には本当に頭が下がりますが、それが医療業界全体のイメージとして報道されていることにはたいへん違和感があります。(中略)

 

「医療全体主義」が日本を支配してしまっている

――ところが、与党以上にゼロコロナ志向のテレビや新聞、さらに野党が、新型コロナの被害や専門家の活動制限を主張する言葉ばかりを並べ立てる。国民を脅して、与党を国民に活動制限を強いる方向へ駆り立てているのが実態です。

 

コロナ禍の前から、医療偏重という問題がありました。過剰診療や生活の質を無視した苦しい延命治療など、医療に人間の生活や人生までもが支配されてしまうという問題です。

 

今まではそれが病院の中にとどまっていました。しかし、今回の新型コロナをきっかけに医療偏重が社会全体に広がった。医療界が「命を守る」「○○しないと死ぬ」と脅して、そうした恐怖で人々や世界を動かせることが証明されてしまった。まさに「医療全体主義」が日本を支配しているのです。【4月22日 東洋経済ONLINE】

*********************

(大幅に「中略」した関係で、真意が伝わりにくくなっていますので、原文にあたってください)

 

民間医療機関の「コロナ患者受け入れは、人員・設備的に難しい」という主張がとおる一方で、飲食業などは休業を余儀なくされるというのは、「筋違い」の感がします。

 

「専門家」の医療という狭い領域の視点ではなく、社会・経済を止めることのリスクを含めた社会全体にとって何が大事かという判断が政治家に求められています。

 

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途上国・貧困層の多くが亡くなるなかでも大手製薬会社の特許権は守られるべきか? コロナで議論再燃

2021-05-05 23:37:08 | 疾病・保健衛生

(インドの首都ニューデリーの火葬場で、新型コロナウイルスによる死者の遺体を火葬する準備をする親族ら(2021年5月2日撮影)【5月4日 AFP】  

インドの一日の新規感染者は35万人レベルとされていますが、しかし、研究者が計量モデルで分析した結果、1日当たりの感染者数の実数は100万人単位に達している可能性が高いとも)

 

【医薬品の特許権をめぐる問題 エイズの教訓】

現在の国際交易においては知的所有権の保護が中心課題となっています。

 

知的所有権には、芸術的学術的表現保護する「著作権」、技術的発明保護する「特許権」、アイデア保護する「実用新案権」、物品デザイン保護する「意匠権」、商品サービスマーク保護する「商標権」などがあります。

 

要するに、特許権などで開発者の利益を保護し、違法なパクりなどによる権利侵害を防ぐということです。

 

一般論としては正当な主張です。

ただ、往々にして問題となるのは医薬品特許の問題。

 

いろんな治療薬が開発されたこともあって、最近では話題になることが少なくなりましたが、一時期世界中を震撼させたのがエイズ。

 

2000年前後、確かにエイズ治療薬は開発されたものの、特許権で保護された欧米製薬会社の治療薬は高価で、エイズがまん延していた南アフリカなどの途上国・貧困層は現実的には利用できませんでした。

 

途上国の立場からすれば、製薬会社の利益を守るために、自国民を見殺しにすることにもなります。

そのため、南アフリカ政府は1997年、インドからの安価なコピー薬輸入を承認、これに反発する欧米製薬会社との間で訴訟になりました。

 

欧米製薬会社からすれば、開発者の利益が保護されなければ、今後有効な新薬開発が行われなくなり、長期的には人々の命にも関わる・・・というスジ論になります。

 

この訴訟は、ブランドに傷が付くのを恐れた製薬会社の意向もあって、2001年に南アフリカ側に有利な条件で和解が成立しました。

 

医薬品の直接的な製造原価などは微々たるものです。医薬品の価値の大半は、開発までに注ぎ込まれた時間・資金にあります。

 

この問題は、貧困層の命と製薬会社のカネのどっちが大事なのか・・・という単純な話ではなく、製薬会社の「スジ論」が意味があるのは、医薬品の開発には10年から15年といった長い年月が必要で、その過程で多くの試験的な薬は開発が断念され、実際に製品化されるのは極めて少数のものに限られるという医薬品の特性があります。

 

まさに、社運を賭けた開発になることも。

この長期にわたる多大な投資のもとでの開発の利益が保護されなければ、誰も新薬の開発など行わず、人類の健康の改善がストップするいうことにもなります。

 

【新型コロナワクチンをめぐり問題再燃】

そして現在、世界を脅かしていてるのが新型コロナウイルス。

 

一応、対応ワクチンはいくつかできました。しかし、その大半は富裕国に囲い込まれ、多くの途上国には行き渡らない現実があります。

 

****WHOと仏大統領、コロナワクチンの不平等な配分を非難****

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は23日に発表した報告書で、新型コロナウイルスワクチンは依然として最貧国に到達していないと述べた。

新型コロナなどのワクチンを低所得国にも供給することを目指す国際的枠組み「COVAX(コバックス)」は発足1周年を迎える。テドロス局長は「世界で約9億本近いワクチンが接種されているが、高・中所得国がその81%を占める一方、低所得国はわずか0.3%にとどまっている」と指摘。会見ではインドでの感染拡大に懸念を示した。

また、フランスのマクロン大統領は欧州では6人に1人、北米では5人に1人がワクチンを接種しているが、アフリカでは100人に1人しか接種していないとし、「受け入れがたい」と語った。

南アフリカのラマフォサ大統領は、製薬企業に対し、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンに関する技術を「知的財産権を巡る制限なく」中・低所得国に移転するよう要請。ワクチンナショナリズムに対抗し、知的財産権の保護が人命を犠牲にすることがないよう呼び掛けた。【4月23日 ロイター】

**********************

 

上記にもあるように、再び新型コロナワクチンをめぐる「知的財産権の保護」が問題となっています。

下記はスイス公共放送の記事。

 

****コロナワクチンの特許、一時停止すべき?ジュネーブを中心に議論****

新型コロナウイルスのワクチン技術の特許について、保護義務の一時的免除を要求する動きが広がっている。スイスなどの富裕国が抵抗する一方で、ワクチン獲得競争から取り残されている発展途上国はジュネーブの国連機関で圧力を強めている。

 

史上最大のワクチン接種キャンペーンによって、昔からの議論が再燃している。世界的な危機において、技術の独占は理にかなっているのか?つまり、何百万人が亡くなっても知的財産を守る必要があるのか、という議論だ。

 

インドと南アフリカは昨年10月、世界貿易機関(WTO)で、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の抑制に役立つすべての製品について、「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」が定める特許の保護義務を一時的に免除する案他のサイトへを提起した。ワクチンの他に、検査薬、医療機器、将来の治療法が対象となる。もし、同案が採択されれば、免除は義務になる。

 

世界中の研究所がワクチン技術を利用して、ジェネリック医薬品(後発薬)を生産できるようになるという考えだ。同案の提案国によると、ワクチンのコスト削減と世界的な生産拡大が可能になる。

 

同案は数カ月の間に、100以上の国の支持を集めた。しかし富裕国は、パンデミックはWTOルールを破る理由にはならないとして反対している。交渉は続いているものの膠着状態に陥っている。

 

続く圧力

その一方で、中国とアフリカ諸国が世界保健機関(WHO)で、ワクチンの技術移転と国内生産を強化するための措置を盛り込んだ別の決議案を提起した。swissinfo.chが入手した決議草案によると、署名国には特許を所有する企業に技術を移転するよう少なくとも道義的圧力を掛ける義務がある。

 

特許権者は企業なので、実際には難しいかもしれない。しかし、スイスの非政府組織(NGO)のパブリック・アイが指摘するように、コロナワクチンに携わる企業のほとんどは政府から補助金を受け取っている。

 

同NGOの最近の調査によると、世界中の産業界がワクチン開発のために受け取った財政的リスクのない資金は、千億ドル(約11兆700億円)を超えるという。

 

WHOの決議案も交渉中だが5月のWHOの世界保健総会で採決される見込みだ。欧州連合(EU)諸国と日本がすでに、いかなる技術移転も自発的でなければならないという条項を強く要求している。同決議案に関するスイスの立場はWTO交渉で採った路線と同じだ。しかし、最終的な立場は提出される決議の文言による。

 

スイスの抵抗

富裕国の中でスイスだけが反対しているのではない。(中略)スイスの主張はこうだ。

 

新型コロナワクチンは複雑で、新しい製造工程や設備を必要としたり、既存の設備を広範に別の目的で利用したりする。現行の特許制度だけが、ワクチンの開発者と製造者が協力するインセンティブを与え、支援や技術・ノウハウの移転を可能にする。だから、特許保護の一時停止がすぐにコロナワクチンの世界的な供給につながると考えると「誤解を招く」と述べる。(中略)

 

製薬業界の立場を反映

連邦政府の立場は製薬業界の立場にも反映されている。ジュネーブに本部を置く国際製薬団体連合会(IFPMA)のトーマス・クエニ事務局長は「(グローバルな対応は)非常に困難な挑戦だが、これまでのところ、予想以上に上手く進んでいる」と述べた。「しかし、今後は、富裕国が連帯して他国を支援することがカギになるだろう」

 

同氏によると、「知的財産権がパンデミックへの対応を妨げているという主張がある」が、このパンデミックで国内外の知的財産(IP)の枠組みを弱めることは逆効果だという。

 

「研究開発やアクセスを加速させることにはならず、これまで十分に機能してきたIP制度への信頼を損なうことになる。IP制度のおかげで、産業界は学界、研究機関、財団、その他の民間企業と安心して提携し、世界の多くのアンメット・メディカル・ニーズ(治療法が見つかっていない病気に対する医療ニーズ)に対処するために医薬品の研究開発を大幅に促進することができた」と同氏は語った。

 

道義的侵害

WHOと国連合同エイズ計画(UNAIDS)は当初から、特許の保護義務を免除し、技術共有の新しいモデルを摸索するという提案に支持を表明してきた。

 

両機関は昨年10月に行われたWTOの会合で、「新型コロナの予防・診断・治療に関する医療技術へのアクセスと移転を容易にするためには、(特許の保護義務の)免除が、取引費用が削減し、研究開発サイクルやサプライチェーンの主要な障壁を撤廃することになるだろう」と述べた。

 

UNAIDSは、国際社会は初期のエイズ対策の「つらい教訓」を繰り返してはならないと主張した。当時、比較的豊かな国の人々には医薬品が手に入る一方で、発展途上国の何百万の人々は取り残された。「これは人権の問題だ。各国政府が通常の実務のように現在のパンデミックに対処することはできない」

 

半年経っても議論は平行線のままだ。WHOのテドロス事務局長は、ワクチンの不公平な分配を「道義的侵害」と呼び、各国と産業界で行き詰まりの打開策を見つけるよう提案している。【4月15日 SWI swissinfo.ch 】

*********************

 

大手製薬会社の本拠地であり、主要生産国であるアメリカ国内でも議論が高まっています。

 

****バイデン政権、ワクチン特許で板挟み 途上国の放棄要求に米産業界反発****

新型コロナウイルスワクチンの特許権をめぐり、バイデン米政権が、放棄を求める発展途上国から圧力を受けている。途上国は米企業が握る特許を使い、自国生産を加速させて感染を押さえ込みたい考えだ。

 

一方、開発に巨費を投じた米製薬業界は、収益確保の観点から特許放棄へ安易に応じないよう働きかけている。

 

(中略)すでに米人口の44%が少なくとも1度の接種を受けた。一部先進国では英国が51%となるなど接種が加速。対照的に新興国は遅く、感染拡大に見舞われるインドが9%、ブラジルが14%。南アフリカなどの途上国は1%未満にとどまる。

 

格差の背景には、自国民向けの確保を優先する「ワクチン・ナショナリズム」がある。欧州連合(EU)が輸出規制に乗り出し、米国も余剰分を輸出に回す姿勢をとっており、ワクチンの囲い込みが進んだ。

 

こうした中、インドや南アは昨年秋、世界貿易機関(WTO)にワクチンの特許を一時放棄するよう提案。WTOの「貿易関連知的財産権協定(TRIPS)」の規定適用の猶予を求め、大多数の国が支持したが、米国やEUが同意せず結論には至っていない。

 

米国では民主党左派が特許放棄に賛同しており、WTOと協議を継続している米通商代表部(USTR)のタイ代表が、米製薬企業と相次ぎ会談。米政治メディア「ポリティコ」によると、先月30日のWTOの会合で途上国側が提案を修正する方針を表明するなど、関係者が妥協点を探っている。

 

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は今月3日、「勇気づけられる進展」があったと述べた。

 

医薬品の特許をめぐる先進国と途上国の摩擦は、抗エイズウイルス薬などで繰り返されてきた。厳格な特許保護が、生産に乗り出したい途上国での普及で障害になれば、感染が拡大して人道的な問題を生じる。

 

バイデン政権は、途上国へのワクチン外交を活発化させている中国に対抗するためにも、ワクチン普及で指導力を発揮したい意向とみられる。

 

ただ、特許だけで比較的簡単に作れるジェネリック医薬品(後発薬)と違い、ワクチンの工程は複雑だ。ウイルス変異の対応などでも、開発者と製造者の密接な協力が必要になる。

 

ワクチン開発に漕ぎつけた米製薬業界はさらに、利益を生み出す特許の放棄を迫られれば新薬開発に向けた資金が集まらなくなるとの立場も主張し、「米政府や米議会に強力なロビー活動を展開」(米メディア)しているという。

 

特許放棄するより「生産を加速させて途上国に分配する方が役立つ」とも主張。自国の産業競争力を重視するバイデン政権は、板挟みとなっている。【5月4日 産経】

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“政治サイトのポリティコによると、知的財産権放棄を支持する民主党議員はバーニー・サンダース上院議員やエリザベス・ウォーレン上院議員をはじめ、約100人にのぼる。

特許放棄はこのほか、多くの慈善団体やWHOのテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長、ローマ教皇フランシスコらも支持している。一方、トム・コットン率いる共和党上院議員グループは、知的財産権はイノベーションを促進するものだとして、バイデンに特許放棄を支持しないよう求めている。”【4月14日 Forbes】

 

民主党vs共和党というだけでなく、民主党内部の急進派からの突き上げがあってバイデン大統領を苦慮しています。

 

こうした議論のなかで、米政府が特許権の放棄に前向きとの報道も。

 

****ワクチン特許放棄、米政府が前向き 製薬会社は反発****

米政府が新型コロナウイルスワクチンの国際的な供給を増やすため、特許権の放棄に前向きな姿勢をみせている。途上国が生産を増やす手段として要請を強めているためだ。

 

ワクチン外交を繰り広げる中国やロシアへの対抗の側面もあるが、技術流出を懸念する製薬会社は猛反発している。【5月4日 日経】

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中心企業ファイザーの売上高見通しは上方修正とか。

 

****ワクチン売上高見通し2.8兆円 米ファイザー、上方修正****

米医薬品大手ファイザーは4日、ドイツのバイオ企業ビオンテックと開発した新型コロナウイルスワクチンについて、2021年12月期の売上高見通しを上方修正し、従来予想と比べて約1.7倍に当たる260億ドル(約2兆8千億円)程度になることを明らかにした。

 

4月中旬までの契約に基づき、年内に16億回分の供給を見込んでいることを反映した。ワクチンの売上高はファイザー全体の3分の1以上を占める規模に拡大する見通しだ。

 

ファイザーは設備増強などを進めており、ワクチンの年間生産量を最大25億回分に引き上げることを目指している。【5月4日 共同】

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前述のように製薬会社の主張にも配慮すべき点は多々ありますが、ただ、多くの人々が亡くなっていく現状を前にして、「それでも、特許権を守ることが、今後の開発にとって重要」という議論は、そのままではいささか受け入れがたいものがあります。

 

特に、一部富裕国がワクチンを囲い込み、国際的な枠組み「COVAX(コバックス)」が十分に機能していない現状にあっては。

 

何らかの調整が必要ですが、あくまでも特許権を守るというのであれば、最低限、「COVAX(コバックス)」を格段にぺーズアップするための富裕国側の身を切る「犠牲」が必要でしょう。

 

すでに余裕がでてきたアメリカ・イギリスはそれでも大きな問題はないでしょうが、途上国並みのワクチン接種状況の日本は・・・という話はありますが。

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ナイジェリア  ある少女の快挙が際立たせる誘拐拉致による教育崩壊の現実 

2021-05-04 22:42:53 | IT AI

(武装集団による襲撃を受けた学校の空っぽの教室【3月2日 CNN】)

 

【「娘の経験がナイジェリアの若者たちの励みになってくれたら素晴らしい」】

西アフリカ・ナイジェリアの少女の快挙に関する明るい話題

 

****ナイジェリアの17歳少女、北米19大学に奨学金付き合格 ハーバード、エールなど****

ナイジェリアの高校を卒業した女子生徒が今年、米国とカナダの計19大学から学費全額免除の奨学金付き合格を勝ち取った。

 

ビクトリー・インカバンジョさん(17)はCNNとのインタビューで「こんなにたくさん出願したのは、どこにも受からないかと思ったから」だと話した。

 

実際には米国のハーバード、エール、プリンストン、ブラウンなど「アイビーリーグ」と呼ばれる名門私立大学やスタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、ジョンズ・ホプキンス大学などから、学費全額免除が可能な合格通知が届いた。さらにカナダのトロント大学、ブリティッシュ・コロンビア大学にも奨学金付きで合格。提示された奨学金の総額は推定500万ドル(約5億5000円)を超えた。

 

ビクトリーさんは毎日、夢ではないと自分に言い聞かせているという。

高校時代は教師の補佐役を務める「監督生」に選ばれ、昨年末には西アフリカ高校認定試験(WASSCE)でオールAを取って全国のトップに立った。

 

英ケンブリッジ大学国際教育機構の国際中等教育修了試験(IGCSE)では、受験した6科目すべてで最上級「Aスター」の評価を受けた。

 

ビクトリーさんはこれまでの努力を振り返り、「私には合格する資格があるという自覚がゆっくりと芽生えてきた」と話す。

志望する分野は計算生物学だが、どの大学を選ぶかはまだ検討中だという。

 

ビクトリーさんの母でラゴス大学の上級講師を務めるチカさんは、名門大への進学は米国で育ったナイジェリア系米国人が有利なのに対し、ビクトリーさんは国内の学校の卒業生だと指摘。「娘の経験がナイジェリアの若者たちの励みになってくれたら素晴らしい」と語った。【5月3日 CNN】

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アメリカの大学は日本のような入学試験ではなく書類審査が基本だと聞いていますので、ナイジェリアにいてもこういうことが可能なのでしょう。

 

もちろん、本人の天才的な才能に加え、母親がラゴス大学上級講師という恵まれた家庭環境もあってのこと。

 

【北部を中心に学生の誘拐拉致が日常化・ビジネス化している現実】

このビクトリー・インカバンジョさんの話は素晴らしいことで、とやかく言うことは何もありませんが、このニュースを呼んで感じたのは、現在のナイジェリアの危機的教育環境との「落差」

 

イスラム過激派武装組織「ボコ・ハラム」による女子学拉致事件(2014年4月 ボルノ州の公立中高一貫女子学校から276名の女子生徒が拉致された事件が世界的に衝撃をあたえましたが、ナイジェリアではその後も学生を狙った誘拐拉致が日常化しています。

 

最近では・・・

 

****大学から誘拐の学生、さらに2人殺害で犠牲者5人に ナイジェリア****

アフリカ西部ナイジェリアで、北西部カドゥナ州の大学から誘拐された学生2人が殺害された。州当局が26日に明らかにした。誘拐されて殺害された同大の学生はこれで5人になった。

 

カドゥナ州のグリーンフィールド大学からは、20日に学生20人と教職員3人が拉致されていた。

 

同州治安当局はフェイスブックに掲載した声明の中で、グリーンフィールド大学の学生がさらに2人、武装集団に殺害され、26日に遺体が収容されたと発表した。

 

同大から拉致された学生は、先に3人が殺害され、学校に隣接する村で23日に遺体が見つかっていた。

 

カドゥナ州のナシル・エルルファイ知事は、犯人グループとの交渉には応じない姿勢を崩していない。

ナイジェリアのムハンマド・ブハリ大統領は24日、カドゥナ州で繰り返される誘拐・殺人事件を「野蛮なテロ攻撃」と形容した。

 

同州やナイジェリア北部では身代金目的の誘拐事件が頻発し、守りが手薄と見なされた学校が狙われている。【4月27日 CNN】

**********************

 

「ボコ・ハラム」のようなイスラム原理主義にもとづく犯行というより、いろんな犯罪集団による身代金目的の誘拐が「ビジネス」化しているようです。

 

ただ、イスラム過激派もこうした犯罪集団とのつながりがあるようです。

 

****生徒拉致のビジネスモデル、ナイジェリアで定着****

ナイジェリア北部一帯では身代金目的の拉致ビジネスが盛んだ。学校の生徒たちが最も人気の「商品」となっている。

 

3月11日の深夜、カドゥナ州の軍養成大学から約270メートルの距離にある大学に、銃を持った男11人が乱入し、数十人の学生を寮から連れ去った。それから12時間もたたずに、実行犯たちは フェイスブック に画質の悪い動画を投稿し、今や当たり前となった要求を出した。

 

連邦林業大学から連れ去られた人質の1人は、上半身裸で森の中の空き地に座らされ、おびえながら「彼らは5億ナイラを要求している」と語った。これは約100万ドル(約1億0900万円)に相当する額だ。

 

マスク姿でカラシニコフ自動小銃を持った男たちは、39人の学生の周囲を歩き回った後、牛追いのムチで学生たちを打ち始めた。学生の大半は若い女性だった。

 

女性の1人は「私たちの命が危険にさらされている。とにかく要求されたものを渡して」と叫んだ。

 

3月13日には、そこから約80キロ以内の寄宿学校で300人以上の生徒が拉致されそうになり、ナイジェリア軍がこれを阻止した。翌日には、ナイジャ州スレジャで子どもを含む11人が拉致された。

 

ある週末に相次いで起きたこれらの事件は、アフリカで最も人口の多いナイジェリアで日常化している残忍なビジネスの一端にすぎない。

 

昨年12月以降、重装備の犯罪集団が身代金目的で拉致した生徒・学生の数は、800人以上に上る。こうした事件はナイジェリア国内を揺るがせ、米国や欧州連合(EU)、フランシスコ教皇に早急な行動を求める声が上がっている。

 

さらなる襲撃への懸念からナイジェリアの4州で数百校が一時閉鎖され、1500万人近い生徒が学校に通えなくなっている。この数は世界で最も多い。

 

ナイジェリア北部の主要紙「デーリー・トラスト」の安全保障アナリストでコラムニストのブラマ・ブカルティ氏は、「身代金目的の拉致はあまりにも一般化しているため、今や合法的事業の様相を帯びてきている」と指摘。「特に子どもが対象だと」もうかるビジネスになると語った。

 

ナイジェリアの暴力犯罪の波は、隣り合うニジェール、カメルーン、チャドの3カ国にまで広がっている。犯人たちは、戦争で荒廃したリビアからニジェールを通り、ナイジェリアへと渡ってきた武器の恩恵に浴している。

 

恩赦と引き換えに自首した元拉致犯のAuwal Daudawa氏は先月、同国北部では銃の購入が「パンの購入」のようなものになっていると話した。

 

同国北西部では、犯罪組織が無力な政府と手薄な治安部隊の隙をついて拉致を実行している。組織の中心になっているのはフラニ族の遊牧民だ。彼らは牛を放牧するための土地の利用をめぐって農民と争っている。

 

ラゴスの政治リスク分析会社、SBMインテリジェンスによると、遊牧民と農民の衝突は徐々に暴力的になっており、2015年以降で約4000人が命を落としている。先週末には、ある犯罪組織がベヌエ州知事の暗殺を試みた。知事は、遊牧民ではなく農民を支持する姿勢を明確に示していた。

 

こうした犯罪集団は重武装するようになってきている。国内4州にまたがる広さ数百平方キロ以上の密林地帯「ルグ」を隠れ場所として、あるいは攻撃を仕掛けて人質を拘束するための拠点として使っている。

 

同国北東部では、イスラム過激派のボコ・ハラム(大意は「西側の教育は罪」)が2009年にナイジェリア政府に宣戦布告した後、学校の襲撃を始めた。何千人もの生徒を拉致して各地の野営地に連れ込み、地元住民を恐怖に陥れている。

 

ボコ・ハラムが2014年にチボクという町から276人の女子生徒を拉致した悪名高い事件は、国際的な関心を集めた。これをきっかけに「#BringBackOurGirls(少女たちを返せ)」という世界的な運動が起きた。

 

政府当局者や交渉に関わった関係者らによると、2016年と17年に、収監者との交換および300万ユーロ(約3億9000万円)の身代金支払いと引き換えに100人以上の人質が解放された。

 

米シンクタンクの外交問題評議会によると、ボコ・ハラムはカリフ制国家の創設を目指しており、09年以降3万7000人以上の死亡に責任がある。

 

ナイジェリアの治安当局は、ボコ・ハラムが複数の犯罪ネットワークと統合したことを示す新たな兆候があるとの警告を発している。

 

ボコ・ハラムは昨年12月、ナイジェリア北西部カツィナ州の学校から男子生徒344人が拉致された事件の犯行声明を出し、動画を公開した。政府当局者は、この事件は犯罪者集団によるもので、ボコ・ハラムは関与していないとしている。ただ、当時の人質解放交渉に詳しい人物やテロ専門のアナリストらによれば、ボコ・ハラムは重要な役割を果たしていた。

 

人質解放交渉に詳しいある人物によると、ボコ・ハラムの指導者アブバカル・シェカウ容疑者は犯罪者集団と協力する使者を送り、より多くの襲撃を実施できるよう計画の作成を支援したり、ボコ・ハラムへの恐怖を利用して人質の身代金を引き上げたりしている。同容疑者はアフリカで最も重要な指名手配容疑者で、その首には米国により700万ドルの賞金が懸けられている。

 

(中略)シェカウ容疑者は2014年に過激派組織「イスラム国(IS)」に忠誠を誓ったが、神学上の対立から16年にISと決別。その後犯罪者グループとの連携を強めており、それによってボコ・ハラムがより広範な地域でテロ攻撃を実行することが可能になっているとみられる。

 

(中略)ナイジェリアの情報機関当局者によると、国内の権力の空白状態につけ入ろうとしているのはボコ・ハラムだけではない。ISのナイジェリア支部や国際テロ組織アルカイダ系列のアル・アンサルも犯罪者集団と協力関係を築こうとしているという。

 

ナイジェリア北部全域での暴力犯罪とテロリズムの融合は地域の不安定な状況を増幅しており、その範囲はチャド湖周辺からサヘル地域やサハラ砂漠を経てリビアにまで広がっている。

 

米アフリカ軍司令官のスティーブン・タウンゼント大将は昨年の米議会証言で、ISとアルカイダはサヘルに展開中で、同地域でのテロ活動は5倍に増えたと述べた。民間人を対象とした攻撃により、何十万人もの人々が難民となっている。【3月24日 WSJ】

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【必然的な教育危機 少女は教育機会を奪われ早婚へ】

こうした誘拐拉致が日常化・ビジネス化すれば、怖くてとても子供を学校にはやれないだろう・・・と思いますが、実際、ナイジェリアの教育現場は危機的な状況にあるようです。

 

*****ナイジェリアで教育崩壊の危機 武装集団による相次ぐ生徒拉致で****

ナイジェリア北西部ザムファラ州で今年2月、女子中等学校を武装集団が襲撃し、寮で就寝中だったハフサットさんとアイシャさん姉妹は他の250人以上の生徒と共に拉致された。1週間監禁され、3月初めに解放されたものの、2人には、さらなる試練が待っていた。

 

心に傷を負った2人が今恐れているのは、勉強できなくなることだ。ナイジェリア北西部では生徒の拉致事件が相次ぎ、多数の学校が閉鎖されている。

 

「娘たちは心配している。学校が閉鎖されたままだと、自分たちの教育と将来が終わることになるからだ」。姉妹の父親ムスタファ・ムハンマドさんが、ザムファラ州ジャンゲベで語った。

 

ナイジェリアでは昨年末から、犯罪集団が身代金目的で学校や大学を狙い、生徒や学生を拉致する事件が増えている。3月には、北西部の都市カドゥナ郊外で武装集団が大学を襲撃し、学生39人が拉致される事件が起きた。このうちの大半の学生は、4月時点でまだ解放されていない。

 

「ナイジェリア北部では、教育が攻撃にさらされている」と言うのは、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルのナイジェリア代表、オサイ・オジホ氏だ。昨年12月、カツィナ州カンカラの町で344人の男子生徒が拉致された後にこう指摘した。

 

ナイジェリアの北西部と中部は、今や重武装した犯罪集団の拠点となっている。彼らは村落を襲撃し、牛などを略奪して火を付けた揚げ句、住民を殺すか拉致する。

 

「盗賊団」と地元で呼ばれる武装集団による最近の拉致事件を受け、北部6州は公立学校を閉鎖した。

 

■イスラム過激派が教師を殺害し、学校を破壊

昨年12月から約730人の生徒・学生が拉致され、500万人以上の勉学に支障が出ていると国連児童基金(ユニセフ)は指摘している。「緊急に対応策を取らないと、教育制度がいずれ崩壊する」

 

ナイジェリア北東部の識字率や就学率は極めて低いが、10年以上続くイスラム過激派勢力による反政府活動によって、教育の機会はさらに奪われている。

 

ユニセフの2018年の報告書によると、イスラム過激派は北東部で、少なくとも2295人の教師を殺害、1400以上の学校を破壊した。そのうちほとんどの学校は「被害があまりに大きいか、危険な状況が続いている」ため、再開に至っていない。AFPの集計によると、学校への襲撃で殺害された生徒・学生は120人以上に上っている。

 

イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」は、2014年ボルノ州チボクで200人以上の女子生徒を拉致した。その敵対勢力の「イスラム国西アフリカ州」も、近隣のヨベ州ダプチで100人以上の女子生徒を誘拐している。

 

この後、就学率は急激に低下した。

 

ナイジェリアは2014年5月、経済界の組織「教育のための世界経済界連合」の支援を受け、2000万ドル(約22億円)の取り組み「安全な学校イニシアチブ」を開始したが、すぐに行き詰まった。

 

ナイジェリアで就学していない1040万人の子どものうち6割は北部にいるとユニセフは推定する。北部の教育は、より豊かな南部の水準に後れを取っているが、学校襲撃でさらに悪化する恐れがある。

 

「閉鎖中の学校数や、家にいる子どもの膨大な数を考慮すると、私たちはすでに大変な窮地に立たされている」と、北部最大都市カノの教師ムスタファ・アフマド氏はAFPに語った。

 

2月、カノ市は襲撃を恐れて10数か所の寄宿学校を閉鎖し、生徒を帰宅させた。

閉鎖されたのは貧困家庭の生徒が在籍する公立学校で、裕福な家庭の子どもは私立校に通うと教師のユスフ・サデック氏は指摘した。「これで貧しい家庭の子どもたちから教育がさらに取り上げられる。教育こそ、社会的地位を変えるための唯一の手段なのに」

 

■学校に行かなくなり、早婚させられる女子たち

ユニセフによると、イスラム人口が大半のナイジェリア北部では、就学していない600万人の子どものうち6割が女子だ。同地域の女子は、宗教的・文化的な慣習に従った早婚によって教育の機会を奪われることが多い。

 

女子向けの精力的な教育キャンペーンや無料の学校給食によって北部での就学率は向上してきていたが、拉致事件の増加によって「今までの成果が水泡に帰している」とアフマド氏は嘆く。「治安の悪化で女子が学校に行かなくなるようになると、親たちは娘を嫁がせる道を選ぶようになる」

 

自分の娘2人が拉致されていたムハンマドさんによれば、実際、3月にジャンゲベで女子生徒が解放されると、その中の5人の親のところに娘の結婚話が持ち込まれたという。

 

ザムファラ州当局は、この女子生徒たちに地元で通学可能な学校に転校するよう勧めたが、学校側にはスペース不足を理由に受け入れを断られたとムハンマドさんは明かす。

 

「こんな残念な成り行きで、一番影響を受けるのは女の子たちだ」とムハンマドさんは言う。「娘がただ家にいるのを見ていられない親に嫁がされることになるのだから」 【4月30日 AFP】

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貧困からの脱却、女性の地位の向上には不可欠な教育、その教育が拉致事件頻発で危機的状況に。

結果、少女たちは早婚に追い込まれ、旧態依然の生活が。

 

イスラム過激派が犯罪集団の誘拐拉致に関与するのも、金銭面だけでなく、こうした結果を期待するためかも。

実際、彼らの期待どおりに。なんともやりきれない現実です。

 

なお、冒頭のビクトリー・インカバンジョさんの場合、母親がラゴス大学上級講師ということですから、南部の首都ラゴスに住んでいるのでしょう。

 

教育環境だけでなく、経済・社会すべてが、首都ラゴスの状況と犯罪集団に怯える北部ではまったく異なります。

そのあたりがアフリカ最大の経済規模を誇るナイジェリアの問題です。

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南シナ海に居座る中国船団に比外相「うせやがれ」 海上民兵とは?

2021-05-03 23:10:02 | 東南アジア

(比軍によって提供された写真。中国船がウィットサン礁に停泊している=3月27日【4月24日 CNN】)

 

【フィリピン外相「うせやがれ」】

フィリピンと中国が南シナ海で領有権を争っている海域に中国の200隻を超える大船団が居座っている問題が3月頃から表面化し、フィリピン側は中国に激しく抗議しています。

 

この件に関しては3月31日ブログ“中国の南シナ海船団、タイの難民強制退去 ウソと言うより強引な強弁”でも取り上げましたが、いまだに継続中のようです。

 

なお、上記ブログで“ウソと言うより強引な強弁”と評したのは、批判を無視するような、「力」を誇示することで無理筋を押し通そうとするような中国側の見解です。

 

****中国漁船220隻が南シナ海の紛争海域に =中国「風よけのため」、米国「数カ月ずっと停泊」****

2021年3月24日、米華字メディア・多維新聞は、南シナ海の紛争地域に中国漁船約220隻が停泊している問題でフィリピンを支持した米国に、中国政府が反発したと報じた。


記事によると、フィリピン政府は「牛軛礁(英語名Whitsum Reef)で3月7日に、中国漁船約220隻が停泊し、国防相が中国に帰還するよう呼び掛けた」とし、同国政府が漁船の乗組員について民兵との認識を示した。

 

この情報に対して中国の駐フィリピン大使館は22日、「牛軛礁は中国の南沙諸島の一部。中国漁船はこの海域で長期間操業を行っているが、海洋状況を理由に一部の漁船が牛軛礁で風よけをしていた。これは正常な行動であり、民兵船などではない。根拠のない推測は無益であり、理性的な姿勢を望む」と反論した。

 

一方、米国の駐フィリピン大使館も23日に「中国船がこの数カ月、当該地域に停泊し続けており、天候にかかわらずその数はますます増えている。われわれはアジアで最も古い盟友であるフィリピンとともにある」とする声明を発表するとともに、「中国が海上民兵を用いて他国を恐喝、挑発、威嚇し、地域の平和と安全を破壊している」と非難した。

 

中国大使館は程なくしてツイッターを更新し「米国は南シナ海問題の関係者ではない。当該地域にて対抗をあおり立てる行為は、一部の国の私利にメリットがあるばかりで、当該地域の平和と安定を破壊する」と反発している。【3月24日 レコードチャイナ】

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多数の中国海上民兵船が集結しているのは、南シナ海・南沙諸島を形成するユニオン堆(たい)と呼ばれている環礁群の中で最も大きい環礁(満潮時は水没する暗礁)のウィットサン礁である。

 

この環礁はフィリピン沿岸から200海里以内に位置しており、フィリピン政府によるとフィリピンの排他的経済水域内ということになる。

 

しかし、ウィットサン礁をはじめとするユニオン堆に対しては、フィリピン、中国、ベトナム、台湾がそれぞれ領有権を主張している。【3月25日 北村 淳氏 JBpress】

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以上、3月31日ブログからの再録。今日のニュースが下。

 

中国船団はその後、南沙諸島(スプラトリー諸島)各地に分散しているようですが、立ち去ってはいません。

 

これまで中国とは良好な関係を保ってきたドゥテルテ大統領も「良き友人」(中国)に対して、「軍艦派遣の用意」もあると強い姿勢を見せています。

 

****南シナ海に集結中の中国船団、「軍艦派遣の用意」と比大統領、「石油掘削したらこちらも」****

中国と周辺諸国の領有権争いが続く南シナ海に集結している中国船団に対し、フィリピンのドゥテルテ大統領は軍艦を派遣する用意があると言明した。

 

大統領は「石油や鉱物資源の領有権を主張するため」と説明。「中国が石油を掘削したら、こちらも同じ海域で掘削する」と述べた。


比国軍当局によると、先月から多数の中国船がフィリピンに近い海域に集結。比国家機動部隊は今月中旬の段階で南沙(英語名・スプラトリー)諸島のガベン礁周辺に136隻、ケナン礁周辺に65隻の中国船が集結しているのを確認した。残りはフィリピンの主張する排他的経済水域(EEZ)内の七つの環礁の周辺に停泊していたという。

さらに中国が実効支配するスカボロー礁(中国名・黄岩島)の周辺には「海上民兵」を乗せたとみられる艇長約60メートルの漁船が10隻停泊しているのを発見した。その近くでは中国海軍の戦闘艦2隻と中国海警局の公船3隻も確認された。


中国が人工島を造成して占拠している南沙諸島のミスチーフ礁、ファイアリークロス礁、スービ礁の周辺でも、タイプ22紅稗型ミサイル艇のペア(コルベット艦とタグボート)がそれぞれ1組確認され、その日に目撃された中国海軍の船舶は合計6隻となった。


これに対し、比側は韓国から導入した軽攻撃機FA-50PHを中国船団上空に連日出動させ、監視活動を行っている。ロレンザーノ比国防相は「パトロール活動とフィリピン人漁業者の保護のために南シナ海に配置している海軍部隊を増強する」とも明らかにしていた。


ロイター通信などによると、ドゥテルテ大統領は19日、南シナ海をめぐり「争うほどの漁獲量があるとは思えないため現時点で漁業への関心は大きくないが、フィリピンが海底に眠る石油や鉱物資源の採掘を始めるまでには軍艦を派遣し、領有権を主張する」と表明。

 

中国政府との友好関係を維持する意向を改めて示しながらも、「中国が石油掘削を開始したら、われわれとの合意の一部なのかと中国に問うだろう。それが合意の一部でなければ、こちらも同海域で石油を掘削する」とした。

中国船団について、比側は「多数の中国船が集結する状態が続けば、航行の安全と海上における人命の安全が脅かされ、EEZの海洋資源の恩恵に浴すフィリピン国民の排他的権利が阻害される」と非難。

 

外交ルートを通じて中国側に抗議した。中国側は停泊している事実は認めながらも、「大げさに騒ぎ立ているが、何も問題はない」などと反発。「嵐を避けているだけ」と繰り返している。【4月25日 レコードチャイナ】

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もっとも、ドゥテルテ大統領の言動には、「良き友人」中国への配慮も滲んでいるようにも。

 

****フィリピン大統領、南シナ海係争海域の巡視船撤退を拒否****

フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は28日、中国が領有権を主張する南シナ海の係争海域に派遣している、海軍と沿岸警備隊の巡視船を引き揚げるつもりはないと表明するとともに、フィリピンが同海域の主権を有していることに交渉の余地はないと強調した。(中略)

 

フィリピン国内では、ドゥテルテ氏に中国に対し強い態度で挑むよう圧力が高まっている。だが、ドゥテルテ氏は中国と親密な関係を築いており、中国に対峙(たいじ)することに消極的だった。

 

ドゥテルテ氏は28日夜、「良き友人」の中国には、新型コロナウイルスワクチンの無償提供などさまざまな恩があるが、係争海域の領有権については「交渉の余地はない」と述べた。

 

「中国にはこう言いたい。もめ事はごめんだ、戦争も望まない。だが、われわれに去るように言うのなら、ノーだ」

さらに「譲歩の対象にはならないものがある、例えば撤退だ。難しい。理解してほしい。だが、私にも守らなければならない国益がある」と続けた。

 

フィリピン国防省は先に、「中国には、わが国の領海においてフィリピンが何ができるか、何ができないかと口を出す権利はない」としていた。

 

フィリピン沿岸警備隊は、パグアサ島(中国名:中業島)、スカボロー礁北部バタン諸島周辺、さらに南部と東部の海域で演習を実施している。 【4月29日 AFP】

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ドゥテルテ大統領以外のフィリピン側閣僚は、もっとあけすけです。

 

****フィリピン外相、南シナ海係争海域の中国船団に悪態 「うせやがれ」****

南シナ海の係争海域に中国の船団が停泊を続けている問題で、フィリピンのテオドロ・ロクシン外相は3日、ツイッターへの投稿で、「うせやがれ」と悪態をついた。

 

ロクシン氏は「中国、わが友よ、どうすれば丁寧に言えるだろうか。そうだな…さあ、うせやがれ」とツイートした。

 

3月にフィリピンの排他的経済水域内で数百隻からなる中国船団が目撃されて以降、フィリピンと中国の間では緊張が高まっている。

 

中国は資源豊富な南シナ海のほぼ全域について領有権を主張しており、フィリピン政府が再三要求している船団の引き揚げを拒否。フィリピン側は海域のパトロールを強化している。

 

ロクシン氏はツイッター上でたびたび強い言葉を使用しているが、今回の暴言も「通常の上品な外交辞令では、何も成すことはできない」と正当化。さらに、中国を「友人になりたいと思っているハンサムなやつの気を、無理に引こうとしている醜い愚かなやつ」に例えた。 【5月3日 AFP】

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「うせやがれ」というのは、いかにも「悪態」といったところですが、【毎日】では「出ていけ」という表現になっており、かなりニュアンスに差もあります。どのように翻訳するかは、国際問題につきまとう微妙な問題です。

 

なお、そういう「悪態」と言える表現を使うのは、中国向けと言うより、国内世論向けパフォーマンスでしょう。

 

【「小さな青い男たち」海上民兵】

南シナ海に展開している中国側の船団は通常漁船と海軍艦船の中間的な存在でもある海上民兵と思われます。

 

「民兵」というと様々な形態がありますが、中国の海上民兵に関しては以下のようにも。

 

 ****防衛駐在官の見た中国(その13) -海上民兵と中国の漁民-****

(中略)端的に言えば、海上民兵は漁民や港湾労働者等海事関係者そのものであり、彼らの大半は中国の沿岸部で生活している普通のおじさんやお兄さんたちである。「海上民兵が漁民を装う」というのは大きな誤解であり、漁船に乗った「海上民兵は漁民そのもの」である。

 

さらに付け加えると、海上民兵はれっきとした中華人民共和国の正規軍人であり素性の怪しい戦闘集団というのも大きな間違いである。

 

海上民兵は中国の正規軍

海上民兵とは、主として沿岸部や港湾、海上等を活動の舞台とする民兵の通称である。(中略)民兵は人民解放軍や武装警察と同様に「中国軍」の一部として、中国における軍事の最高意思決定機関である中央軍事委員会のコントロールの下に活動する。換言すれば民兵としての行為(公務)は中国という国家の行為と同視しうる。

   

民兵が人民解放軍と大きく異なる点は、組織の構成員が現役将兵であるか否かである。(中略)端的に言うと普段は他に職業を有し、必要に応じて軍人として活動するいわゆる「パートタイム将兵」である。24時間、365日軍人として訓練し任務に従事している人民解放軍現役部隊の将兵とはこの点が異なっている。(後略)【2014年12月8日 海上自衛隊幹部学校HP】

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“中国の沿岸部で生活している普通のおじさんやお兄さんたちである”とは言っても、もともとそういう漁民自体が「中国政府や党ですら手に負えない」荒くれものというか、無法者というか・・・そういう存在のようです。

 

そういう者をなんとか軍のコントロール下に置いて、軍の任務に当たらせているの海上民兵という存在です。

 

ロシアが2014年にウクライナからクリミア半島を併合する前、記章を付けない緑の軍服をまとってクリミアに潜入していた兵士を「小さな緑の男たち」と呼んでいますが、それに倣って中国・海上民兵は「小さな青い男たち」とも。 中国政府は正式にはその存在は認めていません。

 

****南シナ海に群がる「海上民兵」、中国政府は存在すら認めず<上>****

彼らは中国の「小さな青い男たち」と呼ばれている。中国政府の統制下にある海上民兵とされ、アナリストによると、その規模は船舶数百隻および船員数千人に上る可能性がある。

 

中国は彼らの存在を認めておらず、質問を受けた際は「いわゆる海上民兵」と表現している。

しかし欧米の専門家によれば、こうしたいわゆる海上民兵は、南シナ海以遠で領有権を主張しようとする中国の試みの不可欠な一部をなす。

 

青く塗装された船舶や船員(人民解放軍による資金提供や統率を受けているとされる)は、領有権争いのある礁や島の周辺に迅速に大規模展開できるため、彼らに対抗すれば軍事衝突を引き起こすのはほぼ必至だ。

 

海上民兵とみられる集団が注目を集めたのは先月。南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島にあるフィリピン領ウィットサン礁の周辺に、中国漁船200隻以上が集結した。

国際戦略研究所(IISS)シンガポール支部のアナリストは、中国によるこれ程の規模の活動は見たことがないと話す。(中略)

 

中国海上民兵はどのように機能するのか

中国政府の否定にもかかわらず、欧米関係者の見方では、米国防総省が人民軍海上民兵(PAFMM)と呼ぶ集団に関して曖昧(あいまい)な点はほとんどない。

 

米太平洋軍統合情報センターの元作戦責任者、カール・シュスター氏はCNNの取材に、「人民軍海上民兵は漁をしているわけではない」と指摘。「彼らは船に自動兵器を搭載して船体を強化しており、至近距離では非常に危険な存在となる。また最高時速は18~22ノット(時速32~40キロ)に上り、世界の漁船の9割より速い」と説明した。(中略)

 

米海軍と海兵隊、沿岸警備隊のトップによる昨年12月の報告書では、「海上民兵は『他国の主権を転覆し、違法な主張を強制』する目的で中国政府によって利用されている」と指摘した。

 

この問題に関する米国有数の専門家、コナー・ケネディー氏とアンドリュー・エリクソン氏も2017年、海軍戦争学校のために書いた文章で、「こうした民兵は中国軍の重要な一員であり、中国が言うところの『人民軍システム』の一部をなす」と説明した。

 

そのうえで、海上民兵は「国家によって組織、育成、統制される部隊であり、中国政府の支援を受けた活動を行うため、軍の直接の指揮系統に入っている」とした。(中略)

 

海上民兵の目的は?

欧米の専門家によると、中国は海上民兵や非正規海軍の概念により、人民解放軍本体を投入せずに膨大な数の領有権を主張することが可能になる。

 

エリクソン氏やマーティンソン氏が言及するようなリーダー役の船舶は比較的少数かもしれないが、ウィットサン礁で見られるように、彼らは数百隻規模の船団を率いることができる。

 

米ランド研究所の防衛アナリスト、デレク・グロスマン氏は昨年、「こうした典型的な『グレーゾーン』の活動の目的は、大量の漁船で敵を圧倒することで『戦わずして勝つ』ことにある」と指摘した。

 

フィリピン大学海洋問題研究所のジェイ・バトンバカル所長は米公共ラジオ(NPR)とのインタビューで、「彼らは今、単に漁船を展開するだけで実質的にウィットサン礁を占領している」と説明。

 

「実は中国の戦略の目的はそこにある。こうした徐々にエスカレートする動きを通じ、南シナ海全域で実効支配と優位性を確立する狙いだ」と述べた。

 

戦術的観点からすると、漁船は数百個の障害物が並んでいる形となり、米海軍のような敵は迂回(うかい)を余儀なくされる可能性がある。これに対抗するために米海軍が一度に派遣できる駆逐艦は数隻にとどまる公算が大きい。

つまり、数の上では中国が断然有利となる。

 

ジョンズ・ホプキンス大学のシュシアン・ルオ氏とコロンビア大学のジョナサン・パンター氏は今年、米陸軍のミリタリー・レビュー誌で、「漁船は低コストなため、常に数で軍艦を上回ることになる」と述べた。

 

従って、海上民兵の指揮下に入れば、非武装の本当の漁船でさえ実質的に軍隊として機能しうる。

 

戦略的観点からは、両氏は「こうした船舶に対抗するのは危険だ」と指摘する。とりわけ、南シナ海で領有権を主張するものの、中国に立ち向かう軍事力を持たない東南アジア諸国にとっては危険性が高い。

 

「相対的に弱い国家の場合、中国漁船が政府とつながっている可能性を意識して、中国中央政府の反応を誘発しかねない行動に出るのを躊躇(ちゅうちょ)するかもしれない」(両氏)

 

中国はこれらの漁船は軍艦ではないとしているため、外国の海軍や沿岸警備隊が行動に出た場合、中国の民間人に対する攻撃に当たると主張することも可能だ。【4月24日 CNN】

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