孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  アメリカによる価値観押しつけ失敗と中国・ロシア批判

2021-08-21 23:15:20 | アフガン・パキスタン
(大統領官邸の前で権利保護を求めてプラカードを掲げるアフガニスタンの女性【8月20日 Business Insider】)

【“赤ちゃん”は治療を受けて父親のもとへ】
最初に、世界中で反響を呼んだ昨日ブログの冒頭写真の赤ちゃんの続報。

****米兵に託された赤ちゃん、治療受け父親のもとに戻される****

首都カブールの空港で、群衆の中から赤ちゃんを壁の上に立つ米兵に託す――。SNS上で拡散した動画に映った赤ちゃんのその後について、米国防総省のカービー報道官が20日の記者会見で明らかにした。

ロイター通信が20日に配信した動画では、空港の外壁で男性が両手で赤ちゃんを担ぎ上げ、米兵に差し出す姿が映っている。米兵に片手で引き上げられた赤ちゃんは、いったん別の兵士に預けられた後、壁の向こう側へと運ばれていった。

会見での説明によると、赤ちゃんは病気を抱えていたため、親が海兵隊に託したという。赤ちゃんは空港内にあるノルウェーの医療施設に運ばれ、治療を受けて父親のもとに戻された。父親が米軍に従事した元通訳などであるかどうかは不明だという。

カービー氏は「海兵隊による人道的な思いやりの行為であり、プロ意識に基づくものだと思う」と述べた。

米軍は空港を拠点にして、市民らの国外退避を進めており、空港外には退避を求める人が押し寄せている。米政府は現地に取り残された米国人に加え、元米軍通訳などのアフガニスタン人協力者と家族、今後の身の危険がある立場のアフガニスタン人などを優先して退避させている。【8月21日 朝日】
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そのままアメリカに連れて行くという訳ではなかったようです。ただ、一度の治療がどれだけの効果がある状態なのか・・・。

【ヘラートでは女子生徒授業再開 今後は不透明】
アフガニスタンの権力を掌握したタリバン女性や政府関係者・兵士への報復など、懸念される事態については昨日も取り上げましたし、今日もいろんな報道がなされています。

一方で、旧タリバン政権時代とは違うことへの可能性を示す事例もあるようです。

****西部都市ヘラートで女子生徒の登校再開 タリバン制圧数日後 アフガン****
アフガニスタン西部の都市ヘラートで、白いヒジャブ(ベール)と黒いチュニックを身に着けた女子生徒らが教室を埋め尽くしている。イスラム主義組織タリバンによる制圧からわずか数日後のことだ。

学校が開き、生徒たちが学校の廊下を行き来し、中庭でおしゃべりをしている。国中をのみ込んだこの2週間の混乱を忘れているかのようだ。(中略)

イランとの国境もそう遠くなく、かつてのシルクロード沿いにあるヘラートは長年、より保守的な中部とは違い、国際色ある都市だった。女性は比較的自由に外出し、詩や芸術の分野で有名なこの都市で学校や大学に通う女性も多い。

しかし、ヘラートの今後は不透明なままだ。

1990年代のタリバン政権下では、厳格なシャリア(イスラム法)によって、女性は教育や就労をほぼ禁じられていた。また、公共の場で顔を完全に覆うことが義務付けられ、女性だけでの外出もできなかった。(後略)【8月21日 AFP】
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【パシュトゥン人の農村社会の伝統に基づくタリバンの価値観 欧米・日本の価値観とは相違】
タリバンの復権が問題となるのは、そのイスラム原理主義、あるいは、タリバンの主流であるパシュトゥン人の部族社会的価値観と、人権や自由を尊重する欧米・日本の価値観が大きく異なるためです。

****タリバンとは何者か?なぜ復活したのか?アフガン政権崩壊の裏で何が起きたのか****
(中略)(旧政権時代)タリバンは自派の厳格なイスラム解釈を押しつけたうえ、少数派シーア派を「背教徒」扱いして弾圧し、女子の学校教育をやめた。さらにタリバンが「反イスラム」「非イスラム」と考える歌謡曲を聴くことや、たこ揚げなど伝統的な遊びまでも禁止したからだ。映画の公開も禁止された。 

孤立するタリバンは国際社会に背を向け、国際社会の大勢もタリバンを「アフガンの政府」として承認しなかった。 

アフガニスタンは多民族・多宗教国家で、「アフガン語を話すアフガン人」というまとまった国民がいるわけではない。パシュトゥー語を話すパシュトゥン人が4割強で最大勢力。タジク人、ウズベク人、そして東アジア人によく似た風貌でイスラム教シーア派信者が多いハザラ人など、様々な民族がいる。(中略) タリバンはこのうち、パシュトゥン人を主体とし、パシュトゥンの農村社会の伝統を基盤とする勢力だ。

「草の根保守」なのに麻薬を資金源とする矛盾
タリバン支配の内実は、少なくともパシュトゥー語を話し農村部で暮らす中高年男性にとっては、あまり違和感がないというのが実態だ。 

というのも、 1)保守的で厳格なイスラム解釈 2)もめ事があれば長老とイスラム法学者が協議して物事を決める、伝統的かつ家父長制的で男性優位なパシュトゥン人農村社会の秩序と価値観の維持 という点において、「草の根保守」といえる部分があるからだ。 

長くパシュトゥン人が多いアフガニスタン東部で援助活動を続けた故・中村哲医師は2001年、以下のように語っている。 

「タリバンは訳が分からない狂信的集団のように言われますが、我々がアフガン国内に入ってみると全然違う。恐怖政治も言論統制もしていない。田舎を基盤とする政権で、いろいろな布告も今まであった慣習を明文化したという感じ。少なくとも農民・貧民層にはほとんど違和感はないようです」(日経ビジネスより) 

一方でそれは、個人の意思の尊重、信教の自由、男女の平等といった、日本や欧米をはじめグローバルに重視される現代的な価値観とは、相容れない部分が多い。 

非パシュトゥン人や非スンニ派信者、そしてパシュトゥン人でも家父長的で古い社会秩序から脱却したい都市部などの人々、そして女性にとっては、タリバンの存在は「恐怖と抑圧の象徴」となる。 

米軍と北部同盟(タジク人、ウズベク人勢力などによる反タリバン連合)の攻勢で2001年11月に第1次タリバン政権が崩壊しても、東部などを中心に勢力を維持できたのは、草の根の保守性に対する地元民の一定以上の支持があったからだ。 (後略)【8月17日 BuzzFeed】
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こうした価値観の違いを前提に、今回復権したタリバンは自分たちの価値観が尊重されることを求めています。

****タリバン報道官「価値観の尊重が必要」****
アフガニスタンで実権を掌握したイスラム主義勢力タリバンの報道官は、「外国との良好な関係の見返りには価値観の尊重が必要」などと述べました。

タリバンの報道官は19日の会見で、アフガニスタンが良好な外交関係を確立し、経済を強化するのを支援するよう国際社会に呼びかけました。その上で、報道官は「外国と良好な関係を望むが、見返りには我々の価値観の尊重が必要だ」とくぎを刺しました。(後略)【8月20日 日テレNEWS24】
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また、欧米的民主主義について「土台がない」と受入れを否定しています。

****タリバン幹部、民主制を否定=「アフガンに土台なし」****
アフガニスタンで実権を掌握したイスラム主義組織タリバンの幹部は、新たな政治体制について「民主制は全く取られないだろう。アフガンには土台がないからだ」と語った。ロイター通信が18日に伝えた。2001年のタリバン政権崩壊後、民主制に移行したアフガンの政治体制が大きく変わる可能性がある。
 
この幹部は、タリバン最高指導者アクンザダ師が実権を握り、その下に置かれた評議会が統治を行うと説明。「(評議会議長に就く)アクンザダ師の副官が『大統領』の役割を果たすかもしれない」と述べた。【8月19日 時事】 
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【アメリカによる価値観押しつけの「失敗」で勢いづく中国・ロシア】
ただ、欧米・日本などからすれば、個人の意思の尊重、信教の自由、男女の平等といった価値観は社会の根幹をなすものであり、これを否定する社会を「認める」というのは困難です。

今回の事態を、アメリカによる価値観の押しつけが失敗したとみなし、欧米・日本とは異なる政治体制をとる中国・ロシアは勢いづいている面もあります。

****移植された民主が長くは続かない=外交部****
外交部の華春瑩報道官は20日、北京で開かれた定例記者会見で、「アフガニスタン情勢の激変は、移植された民主主義が長くは続かないことを再び立証した。民主主義の旗印を掲げ、利益集団を作り出し、他国の内政に横暴に干渉したり、悪意をもって他国の発展やより良い生活を求める国民の権利を抑制したりすることは、最も民主主義に反する行いであり、覇権であり、独裁である」と指摘しました。
 
米国の元アフガニスタン駐在大使であるマッキンリー氏はこのほど、アフガニスタン情勢について文章を発表し、「米国式の民主主義をアフガニスタンに押し付けようとする20年間の努力は結局失敗に終わった」としました。
また、ドイツの大統領も、「カブール空港の惨状は西側諸国の恥だ」との考えを示しました。
 
これについて華報道官は「今回のできごとによって、民主的か否かを判断する基準は国民の期待や求めに応えられているかどうかによるのだということが再び裏付けられた。

中国は『人民民主』であり、米国は『金銭民主』である。中国の国民は実質的な民主を、米国民は形式上の民主を享受している。中国共産党は国や国民の利益を最優先にしているが、米国の政治家は選挙で勝てるかどうかを最も重要視している。

民主というのはただのスローガンではなく、実際に存在するものである。民主主義を国民を麻痺させるアヘンにしてはならず、他国を中傷したり、自国の覇権を維持したりする口実にもしてはいけない」と強調しました。【8月20日 CRI】
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*****ロシアがタリバンと協調姿勢 「裏庭」の安定確保 反欧米アピールも****
(中略)ロシアは従来、「欧米は自らの価値観を他国に押し付け、世界を一極支配しようとしている」とし、こうした手法が「対立と混乱を招く」と批判し、多様な政治体制が共存する「多極世界」を構築すべきだ−と主張してきた。

そのため、アフガンで米国を後ろ盾としたガニ政権にタリバンが勝利したことは、こうした主張を後押しするものとみているようだ。

ラブロフ氏は17日、「米国の最大の失敗は、数百年にわたる地域の伝統を無視し、民主主義と呼ぶ自分たちの規範をアフガン人にも押し付けようとしたことだ」と指摘した。【8月18日 産経】
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ロシア・プーチン大統領も、ドイツ・メルケル首相との会談で、同様の主張を行っています。

****アフガンに民主主義、欧米の失敗 プーチン氏が発言****
アフガニスタン情勢をめぐり、ロシアのプーチン大統領は20日、欧米がアフガンに民主主義を導入しようとしたことが失敗の要因だ、との見方を示した。

イスラム原理主義勢力タリバンによるアフガン掌握後、プーチン氏が公の場でアフガン情勢に言及するのは初めて。プーチン氏には欧米の「錯誤」を強調し、ロシアの影響力を相対的に高める狙いがあるとみられる。

プーチン氏は、アフガンで旧タリバン政権を崩壊させて民主主義政権を樹立しようとした米国を念頭に、「欧米の政治家は私が述べてきたことを理解したはずだ。ある国の民族構成や宗教、伝統を無視し、外部から政治規範を押し付けてはいけないということだ」と述べた。同日のドイツのメルケル首相との会談後の記者会見で発言した。

プーチン氏はかねて、欧米による民主主義の一方的な押し付けが世界に紛争や混乱を生んでいるとし、欧米は多様な政治体制や価値観を認めるべきだと主張してきた。同じ論理に基づき、ロシアなど強権国での人権侵害に対する欧米側の非難には「不当な内政干渉だ」として聞き入れない姿勢を続けている。【8月21日 産経】
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確かに、地域の伝統的価値観を無視した「押しつけ」は、問題がありますし、今回のアフガニスタンのような「失敗」ともなります。

特に、アメリカの場合、「上から目線」的な“押しつけ”があり、それにアフガニスタン政府も反発した面もあります。

なお、「押しつけ」にせよ、何にせよ、アメリカが「民主的な国家」建設にどれだけ本気で取り組んだのかは疑問があります。都合が悪くなると「我々の目的は民主的国家建設ではなく、アルカイダの壊滅である」というところに逃げ込むアメリカ歴代政権は、アフガニスタンの民主的国家建設に本気でなかった面もあります。

【「押しつけ失敗」ではあっても、価値観そのものの否定ではない メルケル首相改めて人権でロシア批判】
いずれにしても「押しつけ」と取られるような方法に問題はあったとしても、個人の意思の尊重、信教の自由、男女の平等といった価値観を否定するようなタリバンや中国・ロシアの価値観を認めることにはなりません。

メルケル首相は、改めてロシアの人権侵害の非を主張しています。

****メルケル独首相、人権侵害で露非難 退任控えなお強い姿勢****
ドイツのメルケル首相は20日、ロシアの首都モスクワでプーチン露大統領と会談し、イスラム原理主義勢力タリバンが掌握したアフガニスタンや、ロシアによる主権侵害圧力に直面しているウクライナ、人権侵害が続くベラルーシなどをめぐる情勢を協議した。

9月に16年間務めた独首相を退任するメルケル氏にとって、長年の対話パートナーだったプーチン氏との最後の会談となる見通しだが、メルケル氏はロシアの人権侵害などを非難。別れのムードを演出せず、ロシアの強権主義と対峙(たいじ)する強い指導者像を示した。

会談冒頭、メルケル氏はプーチン氏に「これは別れを述べるためだけの訪問ではない。実務協議のための訪問でもある」と伝えた。

会談後の記者会見でメルケル氏は、ロシアによる反体制派指導者ナワリヌイ氏の収監は容認できず、釈放を求めたと表明。2014年のロシアによるクリミア併合はウクライナの主権侵害だとも指摘した。

さらに、ベラルーシのルカシェンコ政権による欧州への攻撃的政策を強く非難するとし、ルカシェンコ政権を支援するロシアを牽制(けんせい)した。(後略)【8月21日 産経】
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「これは別れを述べるためだけの訪問ではない」云々は、メルケル首相の面目躍如といった感も。

【国際政治的には自由主義陣営の劣勢】
タリバンの復権は欧米・日本的な価値観を否定するものではありませんが、ただ、国際政治の面で見れば、バイデン政権が掲げる「民主主義諸国vs専制主義諸国」において手痛い「失点」ではあるでしょう。

****アフガニスタンで敗北したのは、自由主義諸国全てである 膨大な人命と巨額援助の末に...*****
(中略)
自由主義陣営は劣勢にある
米軍撤退の是非や、その方法について、米国内では議論が起こっているようだ。間違いだった、拙速だった、稚拙だった、様々な評価がありうるだろう。いずれにせよ、受け止めなければならないのは、敗北の事実だ。

代わって中国がタリバンと蜜月関係を築いて一帯一路の影響圏をアフガニスタンに広げる。アメリカと敵対するロシアやイランも、タリバンによるアメリカの影響力の駆逐を歓迎している。

「クアッド」でアメリカと結ばれたインドの影響力が、アメリカの撤退によってアフガニスタンから消滅することを、パキスタンは喜んでいる。

アフガニスタンからの撤退は、バイデン政権が見通す「民主主義諸国vs専制主義諸国」の世界において、自由主義陣営の退潮を象徴する事件だ。自由主義諸国は、明らかに劣勢にある。

アフガニスタンからの撤退は、自由主義陣営の防衛ラインの修正にすぎない、とは言えるだろう。だが果たして防衛ラインは、どこまで後退していくのか。見定められない不安が漂う。

果たして自由主義諸国は、劣勢を余儀なくされたまま、国際秩序の担い手としての立場も放棄していくことになるのか。
まずは、アフガニスタンにおける敗北を認め、自由主義陣営の劣勢を認めよう。現実をふまえた新しい構想を始めるのは、それからだ。【8月17日 篠田 英朗氏 SAKISIRU】
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アフガニスタン 変わらぬタリバンの実態 大量難民を警戒するトルコ・欧州

2021-08-20 22:25:51 | アフガン・パキスタン
(カブールの空港で19日、赤ちゃんを助けてもらおうと壁上の米兵に託す男性。SNSの動画から=ロイター【8月20日 朝日】)

【カブール空港の混乱 「せめて子供だけでも・・・」】
アフガニスタン・カブールでは米軍への協力などに対するタリバンの報復を恐れる多くの人々が出国しようと試みていますが、表向きは“反対勢力に報復をしない”という融和姿勢を表明しているタリバンによる妨害にあっているようです。

****タリバン、空港周辺に検問所 アフガン人退避「妨害」か****
アフガニスタンの首都カブールでは、同市を制圧したイスラム主義組織タリバンが空港周辺に検問所を設置し、国外退避者向けの便に搭乗しようとする人々を妨害しているとの懸念が高まっている。米国は、安全なアフガニスタン人の国外脱出を要求した。
 
15日にタリバンがカブールを制圧して以来、数万人のアフガン人が国外退避を試みている。タリバン幹部らはここ数日、反対勢力に報復をしないことを繰り返し誓い、寛容な印象を与えようとしてきた。
 
しかし米国は18日、タリバンが米国やその同盟国に協力したアフガン人の国外退避を許可するという誓約を放棄していると指摘。ウェンディ・シャーマン米国務副長官は記者会見で、「タリバンが公約や米政府への誓約に反し、出国を望むアフガン人が空港に到達できないよう妨害しているという情報がある」と説明し、「タリバンには、国外退避を望むすべての米国民、すべての第三国民、すべてのアフガニスタン人を安全に、いやがらせ行為に及ぶことなく出国させることを期待する」と述べた。 【8月20日 AFP】
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そうしたなかで、「せめて子供だけでも・・・」という切なく絶望的な光景も。

****せめて子どもだけでも 殺到の群衆、米兵に赤ちゃん託す****
イスラム主義勢力タリバンの支配から逃れようと人々が殺到している首都カブールの空港で、赤ちゃんを壁の上に立つ米兵に託す動画がSNS上で拡散し、注目を集めている。
 
ロイター通信が20日に配信した動画では、空港の外壁に詰めかけた男性が両手で赤ちゃんを担ぎ上げ、米兵に差し出す姿が映っている。米兵に片手で引き上げられた赤ちゃんは、いったん別の兵士に預けられた後、壁の向こう側へと運ばれていった。19日に撮影された動画だという。
 
また同通信は、19日にも別の動画を配信。小さな女の子が男性に持ち上げられ、米兵に引き渡される様子が映されている。「タリバンの復権を恐れる人々の絶望感を捉えている」と伝えている。
 
アフガニスタンでは15日に政権が崩壊。タリバンが権力を掌握しているが、カブールの空港では約5200人の米軍部隊が安全を確保し、退避作戦を行っている。

国務省が19日時点で発表した情報では、これまでに空港から国外退避させた人数は約7千人。さらに6千人が手続きを終えて出発を待っている状況という。
 
ただ、米軍が退避の対象にしているのは米国人のほか、元米軍通訳などのアフガニスタン人協力者や家族らで、大半の住民に脱出の手段はない。ロイター通信によると、退避を求める数千人の住民らが空港周辺に詰めかけているという。【8月20日 朝日】
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【報復、女性の権利制限・・・融和姿勢表明と異なる実態】
“反対勢力に報復をしない”という件に関しては、タリバンは民家を一軒一軒回り、米軍などの協力者や、アフガニスタン政府の関係者を捜索しているといった異なる実態も報じられています。

****タリバン、米国への協力者捜索を「強化」 国連文書*****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが、米軍と北大西洋条約機構軍に協力した人々の捜索を強化しているとみられることが、AFPが入手した国連の機密文書から明らかになった。タリバンは、反対派への報復はしないと誓約していた。
 
文書は18日付で、国連機関に情報提供を行うノルウェー国際分析センターが作成。それによると、タリバンは身柄拘束を目指す人々の「優先順位リスト」を作成している。特

にアフガン軍や警察、情報機関で中心的な役割を担った人々が危険な状況に置かれており、タリバンは対象人物やその家族に「対象を絞った戸別訪問」を実施しているとされる。
 
さらにタリバンは、首都カブールの空港に向かう人々に対し検問を実施。同市のほか、ジャララバードなどの主要都市でも検問所を設置しているという。
 
RHIPTOのクリスチャン・ネルマン所長は「タリバンは出頭を拒否する人の家族を標的とし、『シャリア(イスラム法)にのっとり』起訴したり罰したりしている」とAFPに説明。「NATO軍と米軍、その同盟国にかつて協力した人とその家族の両方が拷問・処刑される」恐れがあると語った。 【8月20日 AFP】
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報告書によれば「タリバンは前政権の全ての関係者と協力者の洗い出しを強化しており、家族と共に逮捕し、タリバン独自のイスラム法(シャリーア)の解釈に基づき罰している」【8月20日 ロイター】とのこと。

また、タリバンは「イスラム法の範囲」で女性の就労や教育の権利を保障する方針を示していますが、その実態は従前の旧タリバン政権時代と大差ないのではという疑問も。

****アフガン女性キャスター強制的に降板 情報統制強める気配も****
武装勢力・タリバンが制圧したアフガニスタンで、女性と子どもへの抑圧が懸念される中、国営放送の女性キャスターが出社を拒否され、番組を強制的に降板させられた。

国営放送のキャスター「『政権が変わった。仕事はさせられない』そうタリバンに言われた。私の命が脅かされています。世界の皆さん助けてください」

ツイッターに動画を投稿したのは、アフガニスタンの国営放送の女性キャスターで、国営放送では、女性キャスターの代わりに男性キャスターが出演するようになった。

リバンは、首都カブールを制圧した直後、現地のテレビ局で、タリバンの幹部が別の女性キャスターと番組に出演するなど柔軟な姿勢を示していたが、権力を掌握して1週間足らずの間に様相が変わりつつある。

また、カブール市内を取材する海外のメディアクルーが、タリバンの兵士に暴行の被害を受けるなど、現地では情報の統制を強めようとする気配が強まっている。【8月20日 FNNプライムオンライン】
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旧タリバン政権下では女性の就労や女子生徒の通学を禁じており、親族男性と一緒でなければ女性単独の外出も出来ませんでした。今回も、それに類するようなことがタリバン支配地域で起きているとも報じられています。

旧タリバン政権下では、違反すれば見せしめとして人前でむち打ちや石打ちの刑に処せられてもいました。

【大量難民発生の懸念 警戒する受入国側 トルコ:イラン国境に壁建設 仏マクロン大統領:「EUだけでは手に負えない」】
タリバンの融和姿勢が「みせかけ」「国際社会に向けたポーズ」にすぎない、昔と実態は変わらないとなると、今後大量の難民が発生することが懸念されます。

すでにイラン国境には難民が押し寄せています。

****タリバン制圧のアフガニスタン イラン国境に押し寄せる避難民****
イスラム主義組織タリバンに制圧されたアフガニスタンから逃れようと、イランとの国境に19日、避難民が多数押し寄せた。
 
イラン南東部シスタンバルチスタン州に面する国境地域では、イラン赤新月社のメンバーやイラン兵士らが、避難民に食べ物や飲み物を手渡す様子も見られた。 【8月20日 AFP】
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もちろん第一義的には難民となる人々の悲惨な状況が問題となりますが、受入国にとっても人道的な立場と、難民がもたらす社会・政治的な問題の板挟みで苦慮される問題となります。

****(アフガンの衝撃 9・11から20年)難民受け入れ、割れる判断*****
アフガニスタンをイスラム主義勢力のタリバンが掌握したことを受け、欧州などが難民への対応で揺れている。支配から逃れた人々が多く押し寄せれば、「難民危機」の再来となりかねないためだ。アフガン国境に接する国々も備えを急いでいる。

 ■英・カナダ、2万人 独仏、「危機」再来を懸念
英政府は18日、アフガニスタンからの難民らを、最大2万人受け入れる方針を発表した。年内に受け入れる5千人は人権侵害を受ける危険性が高い女性や宗教の少数派などを優先する。ジョンソン首相は声明で、「家族とともに安全に暮らせるよう道筋を示せたことを誇りに思う」と述べた。
 
カナダも2万人の難民を受け入れると発表。トルドー首相は15日、「女性や少女、性的マイノリティーの人びとに対する我々の関与は揺るぎない」と語った。
 
タリバンは融和的なイメージを打ち出すが、国際機関は人権侵害などが報告されているとしている。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の現地代表バンビューレン氏は18日、「彼らを見捨ててはならない」と訴えた。女性への人権侵害も報告されているとし、強制送還しないよう各国に呼びかけている。
 
ただ、欧州連合(EU)各国は2015年にシリアなどから100万人超の難民が欧州に押し寄せた「難民危機」の記憶が残る。各地で反移民・難民を掲げる右翼ポピュリズムが盛り上がるきっかけとなった。
 
ドイツのメルケル首相は16日の記者会見で「過去に犯した過ちを繰り返してはならない」。アフガニスタンの近隣国や国際機関への援助を通じ、難民の滞在場所を確保することで、無秩序に流入した「危機」の再来を防ぎたいとの考えだ。
 
フランスのマクロン大統領は受け入れに消極的だ。16日の演説で「不安定なアフガン情勢は欧州への不法移民の流入を引き起こす恐れがある」と指摘。移民や難民が通過するイランやトルコに協力を求める考えを示した。これまでも「移民の受け入れは政治的にもたない」などと述べており、国内外から批判を浴びた。

 ■トルコ、国境に240キロの壁建設
アフガニスタンと約2700キロの国境を接するパキスタン。現地からの報道によると、アフガン側の混乱で一時閉じられていた国境が再び開き、大勢が国境を越えて来始めている。1979年の旧ソ連によるアフガン侵攻以来、アフガン難民を受け入れ、今も300万人以上が滞在するとみられる。今月訪米した政府高官は「これ以上の受け入れ能力はない」と難色を示したと報じられている。
 
同じく約900キロの国境を接するイランの内務省当局者は15日、地元メディアに「アフガン難民が来た場合は受け入れる」と明言した。イランも300万人余りのアフガン出身者を抱える。一部の公用語が似ているなど共通点が多く、イラン政府はアフガニスタン人を「血縁」と呼び、難民の保護を通じて人道配慮の姿勢をアピールしてきた。
 
ただ、アフガン出身者が差別的に扱われたり、戦闘員としてシリア内戦に駆り出されたりする例も報じられている。よりよい生活を求める難民が、トルコやその先の欧州を目指す流れができている。
 
トルコ側では、密入国者の大量流入に備えて500キロ超に及ぶイランとの国境沿いに壁の建設を始めた。地元メディアによると壁の全長は約240キロを予定。150キロの建設を終えているという。

国境に面する東部ワン県の知事は、7月中旬の10日間で密入国者1456人を拘束したと発表。8月にも400人以上が拘束され、多くがアフガニスタン人だとみられる。【8月20日 朝日】
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トルコでは、新型コロナウイルスの感染拡大によって経済低迷が長引く中、国内では難民への風当たりが強まっており、大量難民流入はエルドアン政権にの基盤を揺るがすことにもなりかねません。

****トルコ、アフガン難民流入を懸念 空港警備も見直し****
アフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンが実権を掌握したのを受け、トルコがアフガンからの難民流入に神経をとがらせている。

トルコはすでに、内戦下のシリアなどからきた約370万人の難民を抱える「世界最大の難民受け入れ国」(国連)。新型コロナウイルスの感染拡大によって経済低迷が長引く中、国内では難民への風当たりが強まっており、エルドアン大統領は政権を揺さぶる要因になりかねないとして対応に躍起になっている。

トルコのアカル国防相は15日、イランと国境を接する南東部を訪れ、難民流入を防ぐ壁の建設状況を視察した。トルコのメディアによると壁は全長約300キロの予定だ。アカル氏は、夜間も暗視スコープなども使い、流入阻止に全力を挙げる姿勢を強調した。

トルコはアフガンと国境を接していないが、イラン経由の難民流入を警戒している。トルコ内務省は7月中旬、イラン国境周辺でアフガン人を中心に1500人近くの不法移民を発見、逮捕。米メディアは今月中旬、トルコ当局者がイランを「アフガン難民をトルコ側国境に送っている」として非難したと報じた。

トルコ国内に約12万人いるとされるアフガン難民のさらなる流入をトルコが恐れるのは、「安い給料でも働く難民に仕事が奪われる」として国民の反発が強まっているからだ。

ロイター通信によると首都アンカラでは今月上旬、トルコとシリアの若者が衝突して1人が死亡し、シリア人の店舗や家が襲撃される事態に発展。多数の難民が身の危険を感じ、トルコの人権団体に相談しているという。

在トルコの男性記者(55)は「エルドアン氏がトルコ民族主義を鼓舞したことが、難民への攻撃が起きる要因になっている」とし、同氏の政策が招いた結果との見方を示した。(後略)【8月19日 産経】
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トルコのその先には欧州が。
EU・欧州委員会のヨハンソン委員は加盟国に受入れを要請しています。

****アフガン難民受け入れ要請=EU加盟国に―欧州委員****
欧州連合(EU)欧州委員会のヨハンソン委員(内務担当)は18日、イスラム主義組織タリバンが実権を掌握したアフガニスタン情勢をめぐって声明を出し、「差し迫った脅威」にさらされているアフガン人を保護するため、難民の受け入れ拡大をEU加盟国に要請したと明らかにした。
 
欧州では、タリバンから逃れた大量の難民・移民流入への警戒が高まっているが、ヨハンソン氏は記者やNGOスタッフ、人権活動家などを挙げ「見捨てることはできない」と強調。「女性や少女たちが特に危険な状況にある」と訴えた。
 
一方、ヨハンソン氏は「密航業者による安全ではない非正規のルートを通じて人々がEUに向かうのを防がなくてはならない」とも指摘。アフガン国内の避難民支援や近隣国との連携で、欧州流入を未然に阻止する必要性を主張した。【8月19日 時事】
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しかし、前出記事にもあるように、独仏は慎重姿勢。フランス・マクロン大統領は消極姿勢への国内批判に発言がねじ曲げられているとして評論家を非難。「フランスは、極めて危険な立場にいる人たちを保護する責務を果たしており、これからも果たし続ける」と述べてはいますが・・・。

****アフガン難民危機がくる、「EUだけでは手に負えない」(マクロン)****
<突如、実権を掌握したタリバンの支配を恐れるアフガン人が、国外へ逃れてくる。2015年のシリア難民危機以来の対応を世界は迫られることになる>

(中略)(EU)加盟国の外相は8月17日に緊急会合を開き、タリバンの政権掌握がもたらす安全保障面の影響について議論した。EUの推計によると、2015年以降、難民申請を行ったアフガニスタン国民は約57万人に達する。シリア難民に次ぐ大規模な集団だ。

8月16日にはフランスのエマニュエル・マクロン大統領が、仏独をはじめとする欧州各国は共同で、難民認定はできない不法移民の新たな大波に「確固たる対応」をするとしながら、「欧州だけでは責任を負えない」と付け加えた。

背景には、厳格なイスラム主義組織であるタリバンの支配を恐れるアフガニスタン人が、大量の難民となって流出するという危惧がある。

ドイツのハイコ・マース外相は緊急会合の主要議題は、アフガニスタン在住のEU市民およびEU関連施設で働くアフガニスタン人スタッフの国外退避、タリバンへの対応、そして、アフガニスタン難民が大量に逃れてきた場合いかにして地域の不安定化を防ぐかだ、と語った。

「我々は、事態の進展を注視している。現在アフガニスタンで権力を行使している者たちの正当性は、その行動によって判断される」と、マースはベルリンの記者団に語った。「とりわけアフガニスタン周辺地域の安定化は重要だ。近隣諸国がさらなる難民の流入に直面するのは確実だからだ」

欧州の国々は、2015年にシリア内戦から逃れた大量のシリア難民が押し寄せた時の危機の再燃を懸念している。2015年の欧州難民危機では、主にシリアとイラクからゆうに100万人を超える移民が押し寄せた。対応をめぐって各国の足並みは乱れ、EUの団結にとって最大級の危機が発生した。

マクロンは、難民の波に対する「確固たる対応」は、アフガン難民が途中で通過するであろうトルコを含む各国との協調による取り組みになると述べた。(中略)

ドイツのアンゲラ・メルケル首相をはじめとするドイツ政界のトップは16日、新たな大量難民が発生する可能性を警告。アフガニスタンの隣国のイランやパキスタン、あるいは北部で国境を接するウズベキスタンやタジキスタンがより多くのアフガン難民を受け入れられるよう、これら近隣諸国を支援すると表明した。

「アフガニスタンの難民が向かう先としてまず考えられる近隣諸国をサポートする取り組みだ」と、メルケルは記者団に述べた。

国連の関連機関である国際移住機関(IOM)によるとアフガニスタンでは、2021年だけで40万人近くの人が家を追われている。さらに、生活を援助に頼る人の数も500万人以上に達しているという。

IOMは、アフガン難民が流入するであろう国々に、難民申請が却下された場合でも、彼らの本国送還に猶予期間を設けるよう呼びかけている。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、「イランやパキスタンには、数十年にわたり、全世界のアフガニスタン難民の大多数をひろく受け入れてきた実績がある」と指摘、他の国がより多くの負担を負うよう呼びかけている。
【8月18日 Newsweek】
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アフガニスタン  タリバンへの抵抗を続ける「パンジシールの獅子」故マスード司令官の息子

2021-08-19 23:20:19 | アフガン・パキスタン
(故アフマド・シャー・マスード元国防相の息子、アフマド・マスード氏(2019年8月25日撮影)【2019年9月3日 AFP】)

【新体制準備進めるタリバン】
昨日ブログでも取り上げたように、アフガニスタンで権力を掌握したイスラム原理主義タリバンは、現時点では一定に女性の権利などにも配慮した融和的な姿勢を「公式」には見せています。

ただ、その融和姿勢がタリバンの兵士たちに理解されているのか、タリバンを構成する強硬派勢力も同意しているのか、単なる国際社会向けのポーズに過ぎないのでは・・・・といった疑問も。

公式的な融和姿勢を疑わせるような現実も各地で報じられています。

そうしたなかで、タリバンは新体制づくりを進めています。

****タリバン、新体制準備進める=柔軟路線強調、衝突も発生―アフガン****
アフガニスタンの全権を掌握したイスラム主義組織タリバンの幹部は18日も、新体制樹立に向けて崩壊したアフガン政府有力者との会合を続けた。17日の記者会見では国際社会による政権の承認を期待し、柔軟姿勢を強調。一方、一部地域ではタリバンへの抗議行動で衝突も起きた。
 
タリバンの動向をめぐっては、ナンバー2のバラダル師が17日にカタール・ドーハから帰国。18日には別のナンバー2の1人、シラジュディン・ハッカニ氏の弟がカルザイ元大統領らと首都カブールで会談した。
 
ロイター通信は18日、タリバン関係筋が「新体制に旧政権のメンバーを入れるかどうか話すにはとても時期尚早だ」と語ったと伝えた。
 
タリバンの広報担当者は17日、カブールで開かれた記者会見で、「全国民への恩赦」やイスラム法の枠内での女性の権利保障などを説明。2001年に崩壊するまで恐怖で支配した旧タリバン政権との違いをアピールした。
 
ただ、タリバンは最強硬派とされる「ハッカニ・ネットワーク」をはじめ、さまざまな派閥を糾合して成立しており、新政権が樹立されても地方の組織末端まで統一した施政方針を浸透させられるかは不透明だ。
 
新たな支配地域では既に、女性の権利制限や私刑といった人権侵害の情報も伝えられている。東部ジャララバードでは18日、タリバンに抗議する市民のデモがあり、タリバンの戦闘員と衝突、少なくとも3人が死亡した。カブールでも美容室の外に掲げられた女性の絵を黒く塗りつぶす市民の姿が見られた。【8月18日 時事】 
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タリバンの権力中枢に関しては謎に包まれていますが、3人の副指導者による集団指導体制とも報じられています。

****謎に包まれたタリバン 3人の副指導者が集団指導****
アフガニスタンで実権を掌握したイスラム原理主義勢力タリバンは組織形態は不明な部分が多い。最高指導者のアクンザダ師は精神的指導者という側面が強く、3人の副指導者や指導者評議会が牽引(けんいん)する集団指導体制をとっている。

アクンザダ師はもともとは宗教学者で戦闘経験は乏しいもようだ。2016年に3代目の最高指導者に指名された。タリバン政権期(1996〜2001年)の最高指導者、オマル師(故人)も表舞台には出ておらず、周辺の人物が組織を動かしたという点では恐怖政治を敷いたタリバン政権期と変わっていない。

副指導者のうち、バラダル師はタリバン共同創設者で、対外窓口であるカタール政治事務所代表。ハッカニ師は最強硬派「ハッカニ・ネットワーク」(HQN)を率いる。HQNは独自にテロ攻撃を繰り返しており、国際テロ組織アルカーイダとの関係も指摘されている。ヤクーブ師はオマル師の息子だ。

指導者評議会のメンバーの詳細は不明だが聖職者らで構成され、パキスタン南西部クエッタに拠点を置くとされる。その下に10以上の分野別の委員会があり、実務に当たっている。【8月19日 産経】
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3人のうち、オマル師の息子ヤクーブ師は名誉職みたいなものではないでしょうか。
バラダル師は対米交渉も担ってきた存在ですから、一定に国際常識への理解もあると思われます。
問題は融和的な姿勢に最強硬派「ハッカニ・ネットワーク」を率いるハッカニ師が今後とも協調するのか・・・というところ。

タリバンは、今後の政治体制については、「民主制は全く取られないだろう。アフガンには土台がないからだ」と民主制は否定しています。

【公表された融和姿勢とは相容れない実態も】
こうした状況で、冒頭記事にもあるように、公式的な融和姿勢にそぐわない実態、国民の不安・抗議も報じられています。

****タリバン、民主主義を否定 各地で抗議デモ****
アフガニスタンで実権を掌握したイスラム原理主義勢力タリバンの幹部は19日までに、新たな政治体制では「民主主義的な制度は全く存在しなくなるだろう」と語った。タリバンが民主的な体制を否定したことで、旧タリバン政権(1996〜2001年)と同様に極端なイスラム法解釈に基づく恐怖支配が復活する懸念が高まっている。

タリバンのハシミ幹部がロイター通信のインタビューに応じた。ハシミ幹部は「どんな政治体制を採用するかは議論しない。イスラム法に基づくことが明白だからだ」と強調した。

指導体制については、最高指導者のアクンザダ師が率いる「統治評議会」が政権運営を担い、大統領は3人の副指導者から選出される可能性を示した。タリバンは国内の全勢力が参加する「包括的」な政権樹立を目指すと表明したが、どこまで実現するかは不明だ。

19日はアフガンの英国からの独立記念日だったこともあり、国内各地でタリバンに反発する市民がアフガン国旗を掲げ、抗議デモを行った。

東部アサダバードではデモ隊にタリバン戦闘員が発砲し、複数人が死亡。東部ジャララバードでも18日、市民が銃で撃たれ、少なくとも3人が死亡、10人以上が負傷した。

自ら「暫定大統領」であることを宣言したガニ政権のサレー第1副大統領は抗議活動への支持を表明し、タリバン支配に反対する勢力の結集を目指している。

大統領として国外に脱出したガニ氏はアラブ首長国連邦(UAE)に滞在していることが分かり、18日にビデオメッセージを公表。アフガン出国は「逃亡ではない」とし、近日中の帰国を目指す意向を示した。【8月19日 産経】
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****アフガン女性抑圧の懸念高まる 国連や米欧、タリバンに懐疑の目****
アフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンが20年ぶりに政権を掌握し、女性が再び抑圧される懸念が高まっている。かつてのタリバン支配の時代には女性の就学や就労が禁じられ、違反すれば見せしめとして人前でむち打ちや石打ちの刑に処せられた。

タリバンは「イスラム法の枠内で女性も学び働ける」と強調するが、国連や米欧諸国は「行動が伴うか注視する必要がある」と懐疑的だ。(中略)

一方で、AP通信は13日に北部タハルの教師の話として「男性の付き添いなしでは市場に買い物にいけなくなっている」と報道。ロイター通信も同日、7月初旬の話としてカンダハルの銀行で働く女性9人をタリバンの兵士が自宅まで送り届け、親戚の男性が代わりに働くので女性たちは職場に戻らないようにと伝えたと報じた。
これらは1996〜2001年のタリバン統治時代への「後戻り」の予兆だと警戒されている。

当時、女性はイスラム法の厳格な解釈によって就労できず、外出するときには男性の親族が付きそうことが義務づけられていた。少女は就学を許されず、女性は全身を覆うブルカを着なければいけなかった。

(中略)(旧タリバン政権崩壊後)04年にイスラム教と民主主義を両立させる新憲法を採択し、大統領選を実施。親米政権の下でアフガンの女性は就学・就労の機会を得て、大学に通い、政府や企業で働き、国会議員も誕生した。

タリバン報道官は、首都カブール制圧後初めて開いた17日の記者会見で、女性は教育、医療、雇用に関する権利を維持し、イスラム法の枠内で「幸せ」に暮らすだろうと述べた。女性が進行するニュース番組に出演し「新生タリバン」を印象づける演出もみせた。

しかし、現地の女性にとって抑圧的なタリバンの記憶こそ生々しい。国連報告によれば、米軍の撤退方針に伴いタリバンが支配下に入れた地域から逃げ出した人は今年5月末以降25万人に上り、その8割が女性と子供だった。写真家のラダ・アクバさんは首都カブールが制圧された15日、「人生で最悪の日だ。目の前で愛する国が崩壊した」とツイッターに投稿した。

産経新聞通信員の取材によると、タリバン支配地域の一部では構成員が女性の単独での外出を禁止した。既に国営テレビのキャスターも女性から男性に変更された。

北東部ファイザバードに住む女性は「かつてのタリバン政権もイスラム法の名のもとに恐怖政治を敷いた。到底安心できない」と懸念を強めている。【8月19日 産経】
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****民主制否定、各地でトラブル=タリバン新体制に懸念―アフガン****
アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが全権を掌握してから19日で5日目を迎えた。タリバンは当初、国民融和や女性の権利を一定程度認めると宣言。しかし、幹部が民主制を否定したり、市民の国外脱出を妨害したりする実情が次第に明らかになってきた。新体制樹立に向け懸念が強まっている。
 
タリバン幹部は、ロイター通信のインタビューで、新政権では「民主制は全く存在しなくなるだろう」と指摘。タリバン幹部で構成する評議会が国の運営に当たると説明した。タリバンは当初、全勢力が参加する「包括的」な政権樹立を目指すと明言していたが、タリバンが権力中枢を握る構想を持っていることが露呈した。
 
18日には東部ジャララバードで、タリバン統治に抗議するデモの参加者とタリバン戦闘員が衝突。少なくとも3人が死亡した。ロイターによると、19日にも東部アサダバードで、独立記念日の集会で国旗を振っていた人々にタリバン戦闘員が発砲、混乱の中で複数人が死亡した。タリバンと異なる意見を持つ人々の扱いが不安視されている。
 
タリバンは戦闘員に犯罪行為の禁止を再三呼び掛けてきたが、末端の戦闘員まで規律が浸透していない様子も伝えられている。地元民放トロTVは18日、タリバンによる首都カブール制圧後、自動車の窃盗事件が頻発していると報道。タリバン戦闘員の関与が疑われており、車を盗まれた住民は「タリバンの名の下で盗みを働いた者たちは逮捕されなければならない」と訴えた。
 
こうしたタリバンの実態が伝わるにつれ、国外脱出を望む国民はさらに増加。しかし、タリバンはカブールの国際空港周辺で検問を実施し、アフガン人の空港入りを厳しく制限している。シャーマン米国務副長官は18日の記者会見で、アフガン人が安全に出国できるようタリバンと協議中だと述べた。【8月19日 時事】 
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【タリバン支配に抵抗する故マスード司令官の息子とサーレ第1副大統領】
タリバン側は「団結」を呼びかけています。

****タリバンが声明、「団結」呼び掛け****
イスラム主義組織タリバンは19日、声明を発表し「傲慢な超大国の米国も抵抗に屈して撤退を余儀なくされた。イスラム制度による統治のため、団結しなければならない」と呼び掛けた。【8月19日 共同】
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「あっけなく総崩れ」したガニ政権でしたが、未だタリバン支配を認めず、軍事的にも抵抗する勢力も存在するようです。

タリバンが「団結」を訴える背景には、国際的承認を求めるための配慮、国民の抗議・不安といったものもさることながら、そうした明確な軍事的抵抗行動が全国への飛火を警戒していることもあるのでしょう。

アフガニスタンで人口が2番目に多いタジク系住民が暮らすパンジシール州は、タリバンと戦った故マスード司令官の故郷でもありますが、アフガニスタンの第1副大統領だったアムルラ・サーレ氏(タジク系)が同州に潜伏し、ツイッターで「暫定大統領」に就任したと宣言していると報じられています。武装闘争の準備を急いでいるとも。

このパンジシール州の抵抗が注目されるのは、故マスード司令官の故郷ということです。

歴史に「たら、れば」は無意味かも知れませんが、ソ連進攻・旧タリバン政権にも抵抗を崩さず立ち向かった「パンジシールの獅子」こと故マスード司令官が暗殺されることがなければ、アフガニスタンの歴史は大きく変わり、今のようなタリバンの復活もなかったかも・・・。

****アフマド・シャー・マスード****
パンジシールの獅子
1975年、帰国してパンジシール渓谷に本拠地を築き、1979年のソビエト連邦のアフガニスタン侵攻後は反ソ連軍ゲリラの司令官となり、ソ連軍にしばしば大きな打撃を与えた。ソ連軍の大規模攻撃をも撃退し、「パンジシールの獅子」と呼ばれた。

1988年7月、マスードはソ連軍捕虜を自発的に解放し、ソ連軍の撤退を妨害しないことを約束した。このことはマスードに対するソ連側の心象を良くし、後にロシアが北部同盟を支援する動機ともなった。

1992年にムジャーヒディーン勢力が首都カーブルを占領し、ラッバーニー政権が誕生すると、そのもとで国防相、政府軍司令官を務めた。

その後、ラッバーニー政権が崩壊しターリバーンが勢力を拡大すると、ターリバーンに対抗する勢力が結集した北部同盟の副大統領・軍総司令官・国防相となった。

ターリバーンがアフガニスタンを支配すると、北部同盟の勢力圏はアフガニスタン北部山岳地帯に限られたが、領土としてはアフガニスタンの約10%、人口としては30%程度を掌握していた。(中略)

綱紀やイスラムの教えに厳格だったが、その人柄と軍事的才能から北部同盟の兵士達には強い信頼を得ていた。インタビューではアフガニスタンでの戦乱を平和的な会話によって解決し、民主的な政権が誕生することを望む発言をしている。1996年のタリバーンによる首都カーブル包囲の際には、これ以上首都や民衆に被害を及ぼす訳にはいかないとして撤退している。

大の読書家で、好きな作家はヴィクトル・ユーゴーであり、また、反共主義者にも関わらず、毛沢東の作品から多くを学んだと公言している。1997年時には、寝る間も惜しみ読書に時間を割いていたため、1日の睡眠時間はおよそ2時間程度だった。【ウィキペディア】
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息子アフマド・マスード氏も父の志を継いだようです。下記は2年前、トランプ前政権がタリバンと交渉を行っていた頃の息子アフマド・マスード氏に関する記事です。

****タリバン復活の懸念に立ち上がる 「パンジシールの獅子」の息子 アフガン****
(中略)
■「何も守ってくれない」
マスード氏が見通しているように、米政府とタリバンの和平協議では、絶対権力の獲得が常に目標とされる勝者総取りのあしき制度があるアフガニスタンの政治機構の欠陥に取り組むことは不可能だ。その代わり、イスラム過激派運動の粘り強さが報われることになるだろう。(中略)

マスード氏は、米国がタリバン以外のアフガン勢力を排除した和平協議で、あまりにも性急にタリバンに譲歩していると考えている。それにより、米軍撤退後に生じる空白地帯にタリバンが影響力を拡大させる準備をさせてしまっていると指摘する。

「今起きていることは、米国とタリバン、地域大国とタリバンの間のことだ。アフガニスタン国民はどこにいるというのだろうか?」
 
米国はタリバンとの交渉について、あくまでアフガニスタン政府とタリバンとの協議に付随するものであり、アフガニスタンの問題は「アフガン内の対話」でしか解決できないと主張している。
 
だが、米軍が慌てて撤退すれば、腐敗がまん延し統率力のないアフガニスタンの治安部隊は崩壊しかねないと、マスード氏は警告する。米軍撤退に先立ち、すでにパンジシールなど各地でさまざまな勢力や民兵らが再武装、再結成する動きが出ているという。「残念ながら、アフガニスタン政府にはタリバンとの戦闘を続ける能力がない」とマスード氏は言う。(後略)【2019年9月3日 AFP】
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息子アフマド・マスード氏は、当時から現在の混乱が起きることを予測し、準備も行ってきたようです。
ただ、孤立無援のなか、どこまで抵抗が続くのか・・・。
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アフガニスタン  融和姿勢を見せるタリバン 20年間で変わったのか? 変わっていないのか?

2021-08-18 22:47:59 | アフガン・パキスタン
【タリバン関係者がTV放送で女性キャスターのインタビューを受ける】
アフガニスタンでタリバンが実権掌握したことに関しては、
タリバンはどういう統治を行うのか? 女性の権利は? 報復は?
国際社会はタリバン支配にどのように対応するのか? 支配を承認するのか? 人道支援は?
タリバン支配を恐れて国外に脱出する人々をどのように受け入れるのか?
アフガニスタン撤退の混乱は、アメリカ・バイデン政権にどのような影響を与えるのか?
等々、多くの視点からの問題があります。

まずは、一番目の“どういう統治を行うのか?”というあたりから見ていきます。
その統治内容によっては、他の問題も大きく影響されます。

2番目の“国際社会の対応”も、タリバンがどういう統治を行うかによって大きく変わりますし、そこを見極めてから動こうとする国も多いでしょう。

また、タリバンからすれば、国際社会からの承認を得て、資金的な支援を得るためには、統治内容についても一定に国際社会が納得する形で無ければならないということにもなります。

更には、統治のあり方によっては、今後多くの難民を生むことになり、受け入れ態勢が必要になります。
また、バイデン政権にとっても、撤退の結果生じたタリバン支配の実態によって、撤退の評価も変わってきます。女性の権利が再び奪われる、多くの報復が行われることになれば、撤退政策がよかったのか?という疑問を惹起します。

一言で言えば、「今の段階では」タリバン指導部は、旧タリバン政権時代とは異なる融和的な姿勢を見せています。

17日には、タリバン関係者が女性キャスターのインタビューを受けるという、これまでからすると極めて“珍しい”光景がテレビ放映されました。

この中で、タリバン関係者は「イスラム法の範囲内で」という条件を付けた上で、「女性は統治機構に参画すべきだ」として、女性を公職から排除しない考えを明らかにしています。

上記放送では女性キャスターは顔全体を覆うブルカではなく、髪だけ覆うヒジャブを着用してしました。

旧タリバン政権時代は、女性は顔全体を覆うブルカを強制され、学校で学ぶことや仕事につくことはもちろん、夫や親族男性の同伴がなければ外出もできない・・・といった状況でしたが、新タリバンは柔軟な姿勢も見せています。

****タリバン、女性へのブルカ強制を否定 ヒジャブは必要に****
アフガニスタンを制圧した旧支配勢力タリバンは17日、女性に対し全身を覆う衣服「ブルカ」の着用を強制しない方針を示した。タリバンは旧政権時代には、ブルカ着用を義務付けていた。

1996〜2001年のタリバン政権下で、女性は移動を制限され、教育や就労を禁じられたほか、公共の場ではブルカの着用を義務付けられた。

カタールの首都ドーハを拠点とするタリバン政治部門のスハイル・シャヒーン報道官は英スカイニューズに対し、「ヒジャブ(ベール)とみなされるのは、ブルカだけではない。ブルカに限らず、ほかの類いのヒジャブもある」と語った。

ブルカは頭を含む全身を覆う衣服で、目の部分には網目の窓があり周囲が見えるようになっている。タリバンが15日の首都カブール制圧後、ブルカ着用を強制しない方針を示したのは初めて。ただしシャヒーン報道官は、タリバンが容認するヒジャブの種類については明言しなかった。【8月18日 AFP】
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また、崩壊した政権の職員らに向けた声明で「恩赦」を宣言し、職場復帰などを求めています。

****タリバン、崩壊政権の職員らに職場復帰求める…新体制づくりに着手****
アフガニスタン全土を制圧したイスラム主義勢力タリバンは17日、崩壊した政権の職員らに向けた声明で「恩赦」を宣言し、職場復帰などを求めた。深刻な女性差別など国際社会の懸念を意識し、国民を懐柔しつつ、新体制づくりに乗り出したとみられる。
 
AP通信は17日、タリバン指導部「文化委員会」のメンバーが、「女性は政府機構に加わるべきだ」と述べたと伝えた。首都カブール制圧に伴い、多くの国民が国外脱出を図っていることに、タリバンが危機感を抱いている可能性がある。
 
アシュラフ・ガニ大統領が国外退避した後も、政権メンバーの一部は国内に残っている。AP通信によると、タリバンは政権ナンバー2のアブドラ・アブドラ国家和解高等評議会議長や大統領経験者のハミド・カルザイ氏らと新体制に向けた協議に入った。タリバンがパキスタンで、アフガンの各民族指導者らと協議しているとの情報もある。(後略)【8月17日 読売】
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【謎に包まれていたタリバン幹部 記者会見で融和的方針示すも「イスラム法の範囲内で」】
17日には、これまで公の場に現れたことがなく、謎に包まれていたタリバンの報道担当のザビフラ・ムジャヒド幹部が記者会見を開き、“イスラム法の範囲内で”という条件付きながら、「イスラム法の範囲内で、女性の権利を尊重する。男性と女性は同じ権利を持つ。我々のルールや制限のもと、女性は様々な活動ができる。教育分野や保健分野などだ」「一定の枠内で働き、学ぶことができる」「これまで敵対してきた政府軍や警察、政治家など全ての国民の罪を許す」など融和的な考え方を示しています。

ただし、その具体的な内容は未だ不明です。その言葉を信じていいのかも疑問です。

****謎に包まれたタリバンの報道担当者、初めて公の場に アフガンの権力掌握後の会見****
アフガニスタンの反政府組織タリバンは17日、アフガンの権力掌握後の記者会見を首都カブールで開いた。タリバンの報道担当ザビフラ・ムジャヒド幹部が記者からの質問に応じた。ムジャヒド氏が公の場に姿を見せるのは初めて。

ムジャヒド幹部はこの歴史的な記者会見で、「イスラム法(シャリア)の枠組みの中で」女性の権利を尊重すると主張するなど、記者からのさまざまな質問をうまくさばいてみせた。

会見に出席した大半のジャーナリストにとって、この会見はその内容以外にも意味があるものだった。タリバンの報道担当を務めるムジャヒド氏の顔を見るのが、今回が初めてだったからだ。ムジャヒド氏は長年、舞台裏で活動し、報道陣は電話越しにその声を聞くことしかできなかった。

BBCのヤルダ・ハキーム記者は、10年以上前からやりとりをしてきたタリバン報道担当者の顔をついに目にして、「衝撃」を受けたと話す。

ムジャヒド氏は「我々は内にも外にも敵を望まない」と語るなど、融和的な雰囲気を演出しようとした。
しかし、会見での発言は、ムジャヒド氏からこれまで送られてきたテキストメールの内容とまったくかけ離れていると、ハキーム記者は言う。

「(ムジャヒド氏の)メッセージには強硬なイスラム教の教えが含まれていた。『この人はアメリカ人の血を求めているし、アフガン政府関係者の血を求めている』と思わせられる内容もあった。それが今日になって、会見に出席した彼は、報復はしないと言っている」
「何年間も血なまぐさい好戦的な声明を発表してきた人物がいきなり、平和を愛するようになるなんて。なかなか受け入れがたい」

実際、ムジャヒド氏が会見で座っていたのは、今月初めにタリバンが暗殺した、アフガン政府メディア情報局の責任者ダワ・カーン・メナパル氏が最近まで座っていた席だ。ムジャヒド氏は当時、メナパル氏が「特殊攻撃で殺害された」と犯行を認めていた。(中略)

顔の見えないタリバンの報道担当者は複数人いるのではないかとの憶測が、何年も前からあった。(中略)

「ムジャヒドというのは仮名で、大勢の『ムジャヒド』が交代で登場していたのではないかとの憶測が長年あった。今は当然、我々は皆この人物があのザビフラ・ムジャヒドだと受け止めている。しかし、もしかしたら彼ではないのかもしれない」と、ドゥセット特派員は言う。

こうした謎はすべてタリバンのシナリオの一部だと、ハキーム記者は指摘する。
「タリバンとはそういうものだ。タリバンは組織化され、イデオロギーを共有している。偶発事態など1つもない。1人の人物を謎めかせて、突然スクリーンに登場させる。これ以上よくできた筋書きはないだろう」

ムジャヒド氏が1人の人間なのかどうかに関係なく、17日の会見での同氏の発言を警戒していたと、ハキーム記者は言う。
「注意すべき点はやはりシャリアだ。この言葉を聞いて背筋がぞっとした」
「それがどのようなものなのか、タリバンはまだ説明していないので」
「これがタリバンの特徴だ。彼らは人を欺き、時に魅力的で、適切な言葉を使う術を知っている。彼らを信じるべきかどうかははっきりとはわからない」
「謎は多い。(中略)でも本当にタリバンが何者なのか、私たちは知っているのだろうか?」【8月18日 BBC】
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【幹部主張と現場の実態に違いも すべてはこれから】
こうした主張が、本音なのか、単なる国際承認を得るための最初のポーズなのか・・・そこらはまだわかりませんが、ポーズだとしても、そうしたポーズに配慮するということだけでも、一切“聞く耳を持たなかった”旧タリバン政権とは違っているようにも思えます。

タリバンもそれなりにこの20年間で変化があった・・・・のでしょうか。

いずれにしても、どこまで本気なのか、仮に「幹部」はそう考えたにしても、現場でそれが実行されるのか・・・・疑問は多々あります。
タリバンと一口に言っても、穏健派から過激派まで様々であり、指導部がそれらをまとめることができるのかという問題もあります。

すでに、「幹部」主張とは異なる「現場」での動きも報じられています。

****タリバン、新体制準備進める=柔軟姿勢と実態に乖離も―アフガン****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは、国の全権を掌握してから4日目の18日も新体制樹立に向けた準備を進めた。タリバン幹部は17日の記者会見で、国際社会の視線を意識した柔軟姿勢を強調。

ただ、今後はタリバン内部で方向性の食い違いが生じる可能性もあり、会見内容と実態との乖離(かいり)が懸念されている。(中略)

17日はナンバー2のバラダル師が滞在先のカタール・ドーハから帰国。新体制樹立への準備は着々と進んでいるもようだ。

ただ、タリバンは最強硬派とされる「ハッカニ・ネットワーク」をはじめ、さまざまな派閥を糾合して成立している。

西洋文化の一掃を強硬に主張する一派もあるとされ、新政権が樹立されても全土で組織末端まで統一した施政方針を浸透させられるかは不透明だ。既に、新たな支配地域で女性の権利制限や私刑といった人権侵害の情報も伝えられている。【8月18日 時事】 
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****Q.タリバン政権はどのような政権になる?****
テレビ朝日外報部・元カイロ支局長の荒木基デスク
基本的にイスラム教の教えとして、イスラム法(シャリーア)というものがある。シャリーアには“人の道”という意味もあり、日本語で言えば道徳。イスラム教の人としての生き方に則った政治をやりたいというのが彼らの考え方で、これは20年経った今も変わっていないはず。

例えば、音楽禁止とか偶像崇拝を禁止して仏像を爆破するとか、そういったやり方を今後もやるのかというのは疑問符がつく。

というのも、インターネットもSNSも普及したこの時代に、どれだけのことがタリバンにできるのか。国際社会の目も無視することができない。20年前、オサマ・ビン・ラディンを引き渡せといった時に、誰に交渉すればいいのかもわからないぐらい、タリバンは閉鎖的なグループだった。

ところが今は、アフガニスタン政府と交渉するような代表団もいるし、スポークスマンもちゃんといる。それなりに20年の間に進歩している。

さらに先月、中国の代表とタリバンの代表が会談をしていて、タリバン側も自分たちがアフガニスタンを統治することになった時に備えて、すでに先手を打ち始めていた。そういう意味では、20年前のような状況とは少し違うのかもしれない。【8月18日 ABEMA TIMES】
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タリバンも変わったようにも見えますし、そうそう変わるものではないとも言えますし・・・・すべてはこれからです。
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豪NZ 「感染者1人」でロックダウン措置も 仏米はワクチン接種証明書で「ウィズコロナ」

2021-08-17 23:01:40 | 疾病・保健衛生
(オーストラリア)
(ニュージーランド)
(中国)

【ロイター COVID-19 TRACKER 】

【日本 個人の行動規制法整備が議論に】
日本では、感染拡大が続くなかで、国民の間では“コロナ慣れ”“コロナ疲れ”が強まっており、従来の自粛要請では効果が上がりにくい状況ともなっています。

こうした状況に基本的対処方針分科会では、個人の行動制限、つまり法的根拠を持った強制措置としてのロックダウン・外出制限といったものを求める意見も出されています。

****「個人の行動制限法整備を」分科会で複数の専門家****
新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言の対象地域拡大などを議論した17日の基本的対処方針分科会で、複数の専門家が、個人の行動制限に関する法的枠組みの整備を政府に求めた。

終了後に西村康稔経済再生担当相が記者団に明らかにした。

西村氏は「多くの専門家から、今の感染状況やクラスター(感染者集団)の状況などを見て『個人の行動制限に関する法的仕組みについてもぜひ、検討を進めてほしい』『特措法をはじめ、運用改善でできるものがあれば、早く取り組んでほしい』といった多くの意見をいただいた」と語った。【8月17日 産経】
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****分科会 尾身会長“一般の人々への行動制限の仕組みづくりを”****
「基本的対処方針分科会」の尾身茂会長は会合のあと報道陣の取材に応じ、緊急事態宣言に関する政府の方針を了承したと述べました。
その上で「これまで飲食店など、事業者に対していろいろな制限をかけてきた一方で、一般の人々に対する行動制限は完全にお願いベースで行ってきた。

感染状況がここまでくると、分科会のメンバーの一致した見解として、個人についても感染リスクの高い行動を避けてもらえるよう、保障するようなことが可能になるような新たな法律の仕組みをつくることや、あるいは現行の法律で対応できるならその活用をお願いしたいと考えている。

これまで医療機関や医療従事者にお願いベースで行ってきたコロナ対応への協力要請も同じだ。単に協力をお願いするだけではこの事態を乗り越えられないことを想定し、法的な仕組みの構築や現行の法律のしっかりした運用について、早急に検討してほしいという強い意見が出た」と説明しました。(後略)【8月17日 NHK】
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個人的には、政府のワクチン接種への取り組みの失敗、医療システム全体でコロナに対応する態勢がとられてこなかったことなどの結果、個人・一部業種への負担がますます重くなる・・・という印象があって、違和感を感じる議論です。

【豪NZでは「感染者1人」でロックダウン】
諸外国では強制力を持ったロックダウン(都市封鎖)・外出制限が多くみられますが、最近の報道で印象的だったのは、感染レベルはそう高くないオーストラリアや、ほとんど完全に封じ込んできたニュージーランドの“感染者1人でロックダウン”という厳しい対応です。

****豪首都キャンベラ、急きょロックダウン 1年ぶりの陽性者****
豪首都キャンベラは帰国者ではない新型コロナウイルス陽性者1人が約1年ぶりに確認されたことを受け、現地時間12日午後5時から1週間のロックダウンに入ることになった。感染経路が明らかでないため、約40万人が住むオーストラリア首都特別地域の全域が対象になる。

ロックダウン期間中、対象地域の住民は不要不急の外出が認められない。
ロックダウン開始に向けて、スーパーなどでは住民が行列しているという。

オーストラリアでは感染抑制に苦慮しており、二大都市シドニーとメルボルンではロックダウンが続いている。シドニーのあるニューサウスウェールズ州の大部分がロックダウン中で、ヴィクトリア州でもメルボルンに少なくともあと1週間は行動制限が続く予定。

ニューサウスウェールズ州政府は、シドニーでのロックダウン実施を徹底するため、軍の投入を追加する可能性もあると話している。シドニーではすでに非武装の兵約580人が、行動制限の実施徹底のために配備されている。

オーストラリアではワクチン接種率が人口の25%に達していない。累計感染者数は3万7377人、死者は945人と、大半の先進国に比べて少ない(米ジョンズ・ホプキンス大学の集計、日本時間12日午前9時時点)。

一方、ロックダウンの規制に反発する人たちが、シドニーなど各地で抗議デモを繰り返している。【8月12日 BBC】
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オーストラリアでは6月頃までは1日の新規感染者を10人前後に抑えていましたが、7月.8月に急増し、8月13日の新規感染者は492人。ただ、欧州・アメリカはもちろん、日本と比べても桁違いに少ない状況です。

オーストラリア以上に少ない「ゼロコロナ」を実現していたのがニュージーランド。

そのニュージーランドでは、2月末以降始めての市中感染者があり、しかも感染力が強いデルタ株と推定されることから、全土でロックダウンの措置に。

****ニュージーランド、感染者1人確認で全国ロックダウン デルタ株の疑い****
ニュージーランドのアーダーン首相は17日、国内で新型コロナウイルスの感染者が約半年ぶりに1人確認されたとして、全国で感染警戒レベルを最上位の「4」に引き上げ、ロックダウン(都市封鎖)措置を導入すると発表した。

アーダーン氏によると、検出されたウイルスのゲノム解析はまだ完了していないが、感染力の強いデルタ株と推定される。

保健省のブルームフィールド長官によれば、最大都市オークランドに住むワクチン未接種の58歳の男性が検査で陽性反応を示した。男性は最近、同じ北島のコロマンデル半島を訪れた旅行歴があり、国境とのかかわりが判明している。

アーダーン氏は、17日午後11時59分から3日間、全国にレベル4の警戒態勢を敷くと宣言した。市民の外出を禁止し、必需品を扱うスーパーや薬局以外の店舗を閉鎖する。同国でレベル4が適用されるのは1年ぶり。オークランドとコロマンデル半島では1週間継続する可能性が高い。

アーダーン氏は会見で、これまでデルタ株が見つかっていなかったのは世界でもまれなケースだと指摘。ニュージーランドは諸外国の経験から、どんな対策に効果があって何が無効かを学べる立場にあると強調した。

さらに「デルタ株は(感染の流れを変える)ゲームチェンジャーと呼ばれてきたし、実際にその通りだ。ということはつまり、拡大を食い止めるには強く、素早く行動する必要がある。制圧できなければどうなるか、私たちはすでに外国の状況を見てきた。チャンスは1度だけだ」と訴えた。

同国はこれまで厳しい国境管理で感染拡大を抑え、市民はほぼ通常の生活に戻っていた。ただしCNNの集計によると、ワクチン接種を完了した人は人口の2割未満にとどまっている。【8月17日 CNN】
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感染力が強いデルタ株、ワクチン接種率が低いという現状を考慮しての政治決断のようです。

なお、オーストラリア・ニュージーランド両国はともに感染が封じ込めているということで、隔離なしの両国間の往来を認めるトラベルバブルが4月から取られてきましたが、前述のようにオーストラリアにおける感染拡大を受けて、この「バブル」も停止されています。

****豪NZ間の「バブル」しぼむ=隔離なし往来を停止―新型コロナ****
ニュージーランド(NZ)政府は23日、オーストラリアの新型コロナウイルス感染拡大を受け、到着後に隔離不要の相互往来を一時停止すると発表した。往来はコロナ感染抑制を前提とした特別措置で「トラベルバブル」と呼ばれるが、インド由来のデルタ株の流行によりバブルがしぼんだ格好だ。

停止期間は(7月)23日深夜から少なくとも8週間。豪州では3州でロックダウン(都市封鎖)が導入され、外出規制の対象が豪国民の半数以上に及んでいる。アーダーンNZ首相は声明で「自国民への健康リスクが高まっている」と強調した。

豪州とNZは4月に自由な相互往来を再開していた。NZ政府は今後7日間で、豪州に残された自国民の帰国を進める。【7月23日 時事】
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【収束に向かう中国】
ニュージーランドの「ゼロコロナ」に近い状態を維持していた中国が最近の感染拡大で外出制限や市民一斉PCR検査といった対応をとっていることは、8月12日ブログ“中国  人民・大手IT企業、更にはウイルスさえも管理・統制する習近平指導部”で取り上げましたが、その甲斐あってか、感染状況は収まってきたようです。

****中国、新規のコロナ国内感染者が3日連続減 7月30日以来の低水準****
中国国家衛生保健委員会は、12日の新型コロナウイルスの新規の国内感染者数が47人だったと発表した。新規国内感染者は3日連続で減少し、7月30日以来の低水準となった。

7月20日に江蘇省南京で始まった直近の感染拡大局面が、落ち着きつつあることが示された。

国営メディアによると、コロナ感染予防で最も厳しい規制が課せられる「高リスク」地区は13日現在、27カ所で変わらなかった。

一方、「中リスク」地区の数は、今週付けたピークの210超から127に減少した。「中リスク」地区は、新規の国内感染者が14日間発生しないと、「低リスク」に分類が変更される。

国家衛生保健委の当局者は会見で「感染が確認された48都市中、36都市以上は5日以上、新たな感染が報告されていない。全国的な大規模な流行のリスクは小さい」と述べた。

ただ同委員会は13日、屋外の人が多く集まる場所でのマスク着用を義務付けた。

中国は8月31日まで夏の行楽シーズン。そのピークで起きた感染拡大は旅行や対面サービスなどのサービス業に打撃を与えた。エコノミストは、旅行関連の消費が減速するとみて、第3・四半期の成長率予想を引き下げている。

国家衛生保健委によると、同国でコロナワクチンの接種が完了した人の数が12日時点で7億7700万人超となった。【8月13日 ロイター】
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【欧州・アメリカ ワクチン接種証明書で「ウィズコロナ」】
一方、欧州やアメリカなど感染者がすでに蔓延している国では、「ウィズコロナ」な方向で、ワクチン接種証明書で日常生活を再開させる流れにあります。

****仏で「衛生パス」提示義務を飲食店などに拡大…「事実上の接種強制だ」と反発の声も****
フランス政府は9日から、新型コロナウイルスのワクチン接種を証明する「衛生パス」の提示義務を飲食店などに拡大した。「ワクチン接種の事実上の強制だ」と反発の声も出ている。
 
衛生パス提示は美術館などですでに導入されており、9日からは航空機や長距離鉄道の乗客らにも対象が拡大された。違反者には135ユーロ(約1万7000円)の罰金が科される。ただ、政府は今後1週間は経過措置として厳しい取り締まりは行わない方針だ。
 
インド由来の変異ウイルス「デルタ株」の感染がフランス国内でも拡大しており、仏政府は都市封鎖(ロックダウン)を回避するための措置として衛生パスの活用拡大を決めた。
 
7日にはフランス全土で衛生パス反対のデモが行われ、仏メディアによると約24万人が参加した。【8月9日 読売】
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「自由の国」フランスですから当然に強い反対はありますが、それなりに定着する様相もあるようです。

****飲食店での“ワクチンパス”提示義務化 「面倒くさい」の声も徐々に定着 同時に反対デモも大きく 仏****
フランスで9日から、カフェやレストランへの入店の際に、ワクチンの接種完了や陰性を証明する、いわゆる“ワクチンパスポート”が義務となった。提示しない客は135ユーロ(約1万7000円)の罰金が課されるほか、確認を怠った店も業務停止となる可能性がある。

ワクチンパスポート提示義務化への人々の反応について、ANNパリ支局の金指光宏支局長は「皆さん席につくと、店員さんに聞かれなくてもスマホを開いてQRコードを提示していたり、テラス席でもパスがいるかどうかを聞くおばあちゃんもいたが、その人も紙のパスを持っていたりして、すでにフランスの中でワクチンパスは定着してきている印象を受ける。お客さんに聞くと、コーヒー1杯を飲むのにもパスの提示が必要ということで、『ちょっと面倒くさい』という声はあがっている。ただ、コロナ禍を考えれば、ワクチンパスの制度は『致し方ないんじゃないか』という声が多い」と説明する。

では、ワクチンを接種していない人はお店に入ることができないのか。フランスでは、薬局などでPCR検査や抗原検査を受けることができ、そこで陰性が証明されればパスとして使えるため、大きな混乱などは起きていないという。

また、映画館はすでに7月21日から提示が義務化されているが、金指支局長が取材したところによると、「お客さんがガクッと減ったと。最初の頃は7、8割減ってしまって、若干戻ったが、5割ぐらいになっているようだ。映画館は気軽に行けるところなのに、いちいちパスを用意していくというところで抵抗感が出ているのではないか、と担当者は分析していた」とのことで、経済の面で影響が出ているようだ。

そんな中、ワクチンパスポートに反対するデモが、ここ4週間連続で土曜日に行われている。参加者らの主張は、「自分の体に何を入れるかは、自分の判断でやりたい」「コロナ禍とはいえ、それを強制されるのはおかしい」といったもので、義務化に対する反発が大きい。

これに対して、マクロン大統領は「接種しないという自由のせいで他人を感染させるなら、それは自由ではなく無責任だ」と強気の姿勢を示している。

また、フランス国民であればPCR検査や抗原検査は無料(外国人の抗原検査は25〜30ユーロほど)だが、政府は秋にはフランス国民でも有料化する方針を示していて、有料の検査よりも無料のワクチンを受けるように強く促している形だ。

8月30日からは従業員側のパスの提示の義務化、9月30日以降は提示義務化の対象が12歳以上に拡大される。金指支局長は、「毎週行われているデモも、当初に比べて参加者が2倍になっていて、どんどん反対する人の声は大きくなっている印象はある。パスを持っている人と持っていない人で明らかに差ができてしまっているので、『それは差別だ』と訴える気持ちもわかる」とした。【8月11日 ABEMA TIMES】
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マクロン大統領は「私たちは社会生活において、ともに協力し、頼りながら生活しています。自由というのは、一人だけのものではなく、みんなが持っているものです。他人を思いやり、他人の自由も尊重した上で、個人の自由が成り立ちます。ワクチン接種や検査を受けること。それが、責任を伴う自由であり、国民としての自由であるのです」【8月16日 FNNプライムオンライン】と。

もっとも、イスラム風刺画に対するイスラム諸国の反発に、マクロン大統領は「冒涜する自由」を主張していましたが、そのあたりと整合性がとれるのか?

アメリカ・ニューヨークでも。

****罰金10万円以上 ワクチン接種証明義務化 ニューヨーク屋内施設で****

アメリカ・ニューヨーク市では、新型コロナウイルスワクチンの接種証明の提示義務化に向け、初回の罰金は日本円でおよそ11万円以上であることなどが明らかにされた。

ニューヨークのデブラシオ市長は16日、飲食店やジムなどの屋内施設を利用する際、接種証明の提示を義務づける命令に署名した。

完全に施行される9月13日以降は、初回の違反で1千ドル、日本円でおよそ11万円の罰金が科され、違反回数が増えるごとに金額が上がる。

マンハッタンではレストランが対応を始めていた。
店のオーナー「これまで市や州から多くのガイドラインが出され、全て従ってきたし、今回もそうする。個人的には義務化はよくないと思う」

ワクチン未接種の客「僕みたいに時間がなくてワクチン未接種の人は、時間をつくって受けにいこうという後押しになるかな」

変異ウイルスが猛威を振るう中、ニューヨーク市は「接種がカギ」だと強調している。【8月17日 FNNプライムオンライン】
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フィリピン  「麻薬戦争」に加えて、コロナ規制違反者の殺害も ジャーナリスト殺害はもはや「文化」

2021-08-15 23:17:37 | 東南アジア
(フィリピンの首都マニラ市内で検問所で警戒にあたる警官【8月15日 Newsweek】)

【デルタ株感染拡大で首都圏は厳しいロックダウン】
フィリピンでは、日本や他の東南アジア諸国と同様に新型コロナのデルタ株の感染が急拡大しています。
ただ、日本とは異なり、対策としてマニラ首都圏で、外出は必要な買い物時にのみ許可という厳しいロックダウンが取られています。

****フィリピン首都圏に最強レベルの封鎖措置、デルタ型抑制目指す****
フィリピンのドゥテルテ大統領は30日、新型コロナウイルスのデルタ型変異株の拡大抑制と医療システム保護のため、首都圏のロックダウン(都市封鎖)を承認した。

マニラ首都圏は、16都市と1300万人超の人口を抱える。

ロケ大統領報道官はテレビ演説で、8月6─20日に、首都圏で最強レベルの封鎖を行なうと発表。「痛みを伴う決断だが、全員のためだ」と語った。

封鎖による経済損失は、40億ドルとみられている。

今回の措置により、外出は必要な買い物時にのみ許可、飲食は屋外、屋外問わず禁止となる。

首都圏市長評議会の会長は、ロイターに「デルタ株は既に首都圏全域に拡散しており、これは適切な介入だ」と述べた。

また、市長評議会として、ワクチン接種件数を1日15万回から25万回に増やす方針を明らかにした。【8月2日 ロイター】
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この厳しいロックダウン直前には市民の間では、大勢が真夜中からワクチン接種会場に殺到するという混乱も報じられていました。

****どこへ...真夜中に人殺到 何が人々を駆り立てた? フィリピン****
フィリピンの首都・マニラ。
デルタ株の影響で厳しい外出、移動制限が課される前の日の午前2時。ある場所を目指して、大勢の人が押し寄せた。

混雑の中、人混みをすり抜けて小走りする人たちの姿も。夜が明けても人の数は減らず、ひしめき合っている。

彼らが目指していたのは、ワクチンの接種会場。現地のメディアによると、押し寄せた人数は4つの会場をあわせて、およそ2万2,000人。一部の会場では、接種が停止される事態になった。

なぜ人々は、急にワクチンを接種しようとしたのか。原因はフェイクニュース。

ワクチンを接種しないと家から出られない、経済的な援助が受けられないなどのうわさが相次いだ。
当局は、全ての人がワクチンを受ける必要はなく、状況により仕事に出ることが許可されていると呼びかけている。【8月9日 FNNプライムオンライン】
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感染が拡大する背景のひとつに、フィリピンではワクチンへの不信感が強く、接種が進んでいない現実があります。

そうした状況に、あの超法規的殺人「麻薬戦争」を指揮しているドゥテルテ大統領は「ワクチン接種を拒む者は投獄する」と怒っています。

****「ワクチン接種しなければ投獄」でも拒否するフィリピン国民が忘れない「苦い経験」****
<ワクチン接種による新型コロナ抑え込みのため過激な言動を繰り返すドゥテルテ大統領だが、国民が従わない訳とは>

「新型コロナウイルスのワクチン接種を拒む者は投獄する」。フィリピンのドゥテルテ大統領は、首都マニラの複数の接種会場で接種人数が少ないという報告を受けて、6月21日にテレビ演説で国民に警告した。「私は政府の言うことを聞かない人々に怒っている」

常軌を逸した発言で知られる大統領だから、いつもの捨てゼリフだと思いたくなる。ただし、ドゥテルテの場合、とっぴな発言の裏に、断固として実行するという決意が潜んでいることも少なくない。

2016年の大統領就任直後に勃発した「麻薬戦争」では超法規的な強硬手段も辞さず、1万人以上の死者を出した。その後、人道に対する罪に当たるとして、国際刑事裁判所(ICC)が予備調査に乗り出した。

新型コロナに関しても、ロックダウン(都市封鎖)や感染者の隔離を確実に行うために、時として容赦はしない。今年4月には外出禁止令を破った男性が、警察官からスクワットのような運動を300回強要された後に死亡した。

しかし、こうした懲罰的措置も、新型コロナの蔓延を食い止めることはほとんどできずにいる。フィリピンの累計感染者数は130万人以上、死者は2万4000人を超えている。いずれも東南アジアで2番目に多い。

安全性への不安と効果への疑問
ワクチン接種も進んでいない。6月22日現在、少なくとも1回接種したのは893万人で、人口のわずか6.1%。年内に全国民1億1000万人のうち7000万人に接種を済ませるという政府の目標は、実現が遠のくばかりだ。

ドゥテルテは21日の演説で、村の指導者は接種を拒否した人の名前を記録するべきだとも言及した。さらに、学校の対面授業の再開延期と、フェイスシールド着用の義務付けの継続も発表した。

接種率が低い理由の1つは、国民が躊躇していることだ。調査機関ソーシャル・ウェザー・ステーションズが5月に発表した世論調査では、政府のワクチン接種プログラムを信頼すると答えた人は成人のわずか51%。フィリピンの食品医薬品局が承認したワクチンを無料で接種できるなら受けたいと答えた人は32%だった。

接種を迷う理由として、39%の人が副反応への不安を挙げ、21%はワクチンの安全性と効果に疑問を呈した。さらに、11%の人が「ワクチンが怖い」「信用できない」と答えている。調査機関パルスアジアによる最近の調査では61%が接種しないと答えている。

国民の不信の理由として考えられるのは、デング熱ワクチンの経験だ。フィリピンでは16年からフランスの製薬大手が開発したデング熱ワクチンの大規模な集団接種を行ったが、接種により深刻な症状が出ることが17年に発表され、政府はこのワクチンの使用を禁止した。

新型コロナのワクチンでは、アストラゼネカ社製を接種したごく少数の人に血栓が見つかり、シノバック社製に対する不信感も広がるなど、国民は不安を募らせている。

こうした状況を受けて、フィリピン政府は5月中旬に、接種の直前までワクチンの製造元を明かさないと通達した(自分の番が来て希望するワクチンでなければ、別の列に並び直すことになる)。

ドゥテルテの「脅迫」は、感染拡大を食い止めるために必要な規模の接種を実現できないかもしれないという懸念の裏返しでもある。ワクチンは十分に確保しているフィリピンだが、前途は多難だ。【6月29日 Newsweek】
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【ロックダウン違反者を警官でもない警備員が射殺】
トップが「ワクチン接種を拒む者は投獄する」と国民を脅している社会で、ロックダウンに違反するとどうなるのか・・・射殺されます。それも警官によってではなく、警備員に。ここでも超法規的殺人が。

ドゥテルテ大統領は以前、コロナ規制への違反者に対して「殺害も辞さない姿勢で厳しく対処せよ」との趣旨を警察に対して行ったこともあります。

****ロックダウン違反者を警備員が射殺 過剰暴力と批判高まるフィリピン****
<「デルタ株の猛威を防ぐ」という大義のため、また人権がないがしろにされる事態が起きている>

新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、市民活動に厳しい規制や制限を課しているフィリピンで、規制に違反して検問を通り過ぎようとした一般市民に対して警備員が発砲、殺害する事件が起きた。

フィリピンの人権団体などが「過剰暴力であり、人権侵害である」として独自の調査に乗り出すとともに、警察当局に対して徹底的な捜査を求める事態となっている。

フィリピンでは警察官による過剰な暴力や殺害などによる人権侵害が以前から深刻化しており、最高裁判所は警察官にボディカメラ装着を義務付ける判断を下したばかり。犯罪容疑者などへの警察の「超法規的措置や違法行為」を予防することが期待されているところだった。

一方では警察官以外にもコロナ規制取り締まりにあたる地方行政機関所属の警備員や法執行機関職員などによる「権威を笠にした不法行為」が頻発しており、今回の射殺事件も規制区域に設けられた検問所にいた警備員による犯行だった。

おもちゃの銃所持が発砲理由か
マニラ首都圏警察や地元メディアなどによると8月8日にマニラ・トンド地区の区域の教会に設けられた検問所で警戒に当たっていた地方行政機関の警備員セザール・パンラケ容疑者が検問を違法に通り抜けようとした廃品回収業のエドアルド・ゲニョガ氏(55)に対していきなり発砲。エドアルド氏はその場で射殺された。

エドアルド氏は当時木製のおもちゃの銃を所持していた、というがそれが「射殺の原因」なのかどうかは現時点では判明していないという。

事件当時は夜間外出禁止令が出ており、居住地域から外にでることは原則禁止だったという。マニラ警察では住民からの通報を受けてセザール容疑者を殺人の疑いで逮捕、取り調べを続けている。

フィリピンの人権委員会はこの射殺事件を受けて「不必要な殺害の可能性が極めて高い」として調査に乗り出す方針を示した。

人権組織「カラパタン」も事件を非難するとともに「警察をはじめとする捜査当局、法執行機関関係者などによる過剰な暴力行為を容認しているのは大統領である」としてドゥテルテ大統領に非難の矛先を向けている。

ドゥテルテ大統領は2016年の就任以来、麻薬犯罪関連容疑者に対する強硬姿勢を打ち出し、捜査現場で法に基づかない「超法規的殺人」を黙認する姿勢を示すなどして国内外の人権団体などから厳しい批判を現在も浴びている。

そのドゥテルテ大統領はコロナウイルスの感染が拡大し始めた2020年に、政府が講じる各種の感染拡大防止策の規制への違反者に対して「殺害も辞さない姿勢で厳しく対処せよ」との趣旨を警察に対して行ったという。

規制違反で150人以上殺害のデータも
国際的な人権監視組織「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると、2020年の4〜7月の4カ月間だけで155人がコロナ規制違反などで殺害されているというデータもある。(中略)

人権委は「コロナ規制違反者の脅威に対抗するためとして、警察官、警備員などが実力行使しやすい状況が生まれているが、こうした傾向は社会に肯定的効果を与えない」の見解を示している。

また「カラパタン」も「警察官でもない地方行政機関の警備員がなぜ銃で武装しているのか」との疑問も投げかけている。

フィリピン国家警察によるとコロナ規制違反関係ではこれまでに約2万人が逮捕されているという。行動違反、移動違反、必要書類不携帯などで市民が抵抗したり従わなかったケースが多いという。

フィリピンではデルタ変異株の猛威もあり、8月に入って感染者が166万人を超え、死者も約3万人と東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国中でインドネシアに次ぐ最悪の数字を更新し続けている。(中略)

警察官にボディカメラ装着へ
こうしたなか、フィリピン最高裁は8月までにフィリピン警察のすべての警察官に対してボディカメラの装着を義務付ける決定を下した。

これは警察官による違法行為や人権侵害から容疑者や一般市民を守るためで、多くの国民から歓迎されている。
現地からの報道などによると、最高裁の決定ではすべての警察官にボディカメラと記録機器を着用することが義務付けられ、不正使用や不正アクセス、装着拒否などは罪を問われる可能性があるという。(中略)

警察官など治安当局による不当逮捕や暴力、超法規的殺人などの人権侵害の抑制、阻止にどの程度効力を発揮するのかは未知数だが、国家警察は現在必要な法律や内部ルールの整備を進め、ボディカメラ導入に全面的に協力するとしており、今後の取り組みが注目されている。【8月15日 大塚智彦氏 Newsweek】
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“2020年の4〜7月の4カ月間だけで155人がコロナ規制違反などで殺害されているというデータもある”というのも怖い話です。コロナウイルスよりも怖いかも。

麻薬関連で1万人以上を殺害しているとも言われる政権にしてみれば、155人は取るに足りない数字でしょうが。

警察官へのボディカメラ装着が実行されれば、少なくとも警官による“容疑者の抵抗”などを理由とした殺害は状況が明示されることにもなりますが、まともに機能するとは期待できないところも・・・。

【ドゥテルテ大統領「ジャーナリスト達は決して暗殺の対象外ではない」】
国家権力による超法規的暴力にさらされているのは麻薬関連者やコロナ規制違反者だけでなく、政府に批判的なジャーナリストも。

ドゥテルテ大統領は「ジャーナリスト達は決して暗殺の対象外ではない、もしその活動が邪悪なものであれば」と公言しています。邪悪なもの(その判断は政府・大統領によって決まります)なら暗殺してもかまわない・・・・ということのようです。

****謎の2人組に銃撃され著名コメンテーター死亡 メディア暗黒時代のフィリピン****
<大統領が「ジャーナリスト達は決して暗殺の対象外ではない」と公言する国で、またメディア関係者が凶弾の犠牲に──>

フィリピンの中部ビサヤ地方のセブ州州都セブ市で地元ラジオ局の著名コメンテーターの男性が正体不明の男から銃撃され、死亡する事件が起きた。

フィリピンでは記者などメディア関係者に対する銃撃、脅迫、暴力行為などが頻発しており、2020年以来殺害されたメディア関係者は4人となり、ドゥテルテ大統領が就任した2016年からでは今回の犠牲者を含めて22人が殺人事件で命を落とし、223人がなんらかの暴力を受けているという。

フィリピンは社会問題などを掘り下げて取材、地元有力者や非合法組織、ギャング団、ときには政治家にとって「気に入らないあるいは面白くない記事や放送などの報道」が動機となって報道関係者への殺害を含む「報復」が日常的に発生している。

このため国際的なジャーナリスト団体「国境なき記者団(RSF=本部パリ)」が毎年公表している報道の自由度のランキングで、2021年は180カ国中138位と低く評価されている。この評価基準の一つとして「ジャーナリストに対する暴力行為」が含まれており、フィリピン報道関係者の日常に存在する生命の危機が反映されているという。(中略)

地元で高まる犯行への非難
(セブ市で殺害された地元ラジオ局の著名コメンテーターの)コルテス氏の殺害は1986年のマルコス独裁政権崩壊以来、193人目の犠牲とされ、地元セブ市にある「フィリピン・ジャーナリスト組合セブ支部」の関係者は地元メディアなどに対して「ジャーナリスト殺害は日常化しつつあり、もはやフィリピンの"文化"にまでなりつつある」と厳しく非難、警察当局に早期の犯人逮捕、事件の真相解明を求めている。

また「セブ記者連盟」も「こうした事態が続けば民主主義が暴力にとってかわることになりかねない」と批判している。

コルテス氏は地元ラジオ局「dyRB」で「エンカウンター(邂逅者)」という自らの番組をもっており、地元社会に存在する政治・経済・社会・文化のあらゆる問題、テーマを取り上げていたとされ、警察では「そうした活動のどれかが、犯人につながる人物の怒りをかった可能性がある」としており、殺害がコルテス氏の報道関係者としての活動と無縁ではないとの見方を示している。

フィリピンはメディア暗黒時代の只中
こうしたフィリピンのメディアに対する「殺害を含めた暴力」が蔓延する状況は、マルコス独裁政権時代からの「伝統」で、特に現ドゥテルテ大統領が就任した2016年以降、「報道関係者への暗黒時代が再び登場した」と内外から厳しい指摘が出ている。

ドゥテルテ大統領は「ジャーナリスト達は決して暗殺の対象外ではない、もしその活動が邪悪なものであれば」と公言して憚らないほど自らの政権やその活動に批判的なメディアを敵視している。

著名な元CNN記者だったマリア・レッサさんらが運営するネットメディア「ラップラー」によるドゥテルテ大統領の主導する麻薬犯罪関係者に対する捜査現場での殺害などを助長する「超法規的殺人」に対する手厳しい批判に、ドゥテルテ政権はマリアさんへの「名誉棄損」容疑の拘束や訴追、「ラップラー」社への度重なる税務調査などの「嫌がらせ」を続けている。

また2019年7月10日午後10時ごろには南部ミンダナオ島コタバト州の州都キダパワンで地元ラジオ局の記者でニュース番組のアンカーを務めていたエドゥアルド・ディゾン氏が帰宅するため車に乗っているところに正体不明の2人組がバイクで接近し、発砲。ディゾンが殺害される今回のコルテス氏襲撃に酷似した事件も起きている。

ディゾン氏や勤務先のラジオ局には殺害前に複数の脅迫が届いており、地元警察に届けたものの、警察は動かなかったという。

このようにフィリピンのメディアは現在、「暗黒時代」に直面しており、そんななかでもドゥテルテ政権や地方政府、地方の圧力団体やギャング組織などとの闘いを続け、記者やメディア関係者は「命がけ」で真相報道を試みている。【7月27日 大塚智彦氏 Newsweek】
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その「強権」ドゥテルテ大統領が、国内的には人気が高いのもまた現実です。
次期大統領選挙は本人は立候補できないので、娘を候補者にして、自分は副大統領候補として立候補する策が検討されている・・・という話は以前も取り上げたことがあります。

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アフガニスタン  目前に迫るタリバンの首都到達 焦点はガニ大統領の去就 再び奪われる権利・自由

2021-08-14 22:53:53 | アフガン・パキスタン
(タリバーンとアフガン治安部隊の戦闘の後で立ち上る黒煙を眺める人々=カンダハル【8月14日 CNN】
こういう多くの人々にとっては、現在の政権でも、タリバンでも、どっちでもいいのでしょう。女性の権利、市民の自由云々は部外者のたわごとか・・・)

【「無血開城」的に急拡大するタリバン支配】
動きが急激なアフガニスタン情勢、8月11日ブログ“2009年時点でアフガニスタンを見限ったバイデン大統領 士気も低く、装備の持続性もない政府軍”で取り上げたばかりですが、事態は更に切迫、加速度的に動きを早めています。

この8日間でタリバンは全国の34州都の半数にあたる17州都の制圧を宣言しています。

軍閥がいない州都では目立った戦闘もなく陥落するケースが続いています。州知事らが水面下でタリバンと交渉し、タリバンの要求する「無血開城」を受け入れたようです。

西部ヘラート州のように一定に抗戦した州においても、事前に宗教指導者らに「根回し」を行い、州指導部に「無血開城」を提案するなどの交渉を水面下で行ってきました。

提案を拒否したヘラート州に対し、米軍が完全撤退に向けた動きを本格化させてから攻勢をかけ、最初に農村部、次いで国境検問所や物流拠点を押さえ、最後に州都を包囲する周到な戦略を進めてきました。

対するアフガン政府軍や警察は、薄給で士気が低く、武器のタリバン側への横流しが蔓延しています。

また、州都陥落とともに、米軍が買い与えた武器がタリバンに渡っています。
 
これまでは政府軍が地上戦でタリバンに押されても、米軍の援護で失地を取り戻せていましたが、米軍が去るなかでそれもできなくなりました。

前回ブログに書いたように、バイデン大統領は早くからアフガニスタン政府を見限っており、今更アフガニスタン政府の延命のためにアフガニスタンに戻る考えはないようです。

政権側にとっての問題は、体を張ってタリバンを押しとどめようとする力が弱いこと。自分の身の保全のためにはタリバンへの“寝返り”も少なくないこと。

国際的にはタリバンの“イスラム原理主義”が問題視されますが、現地勢力にとっては思想的にはタリバンとさほど差異はなく、「寝返り」も無理からぬところでしょう。

****ヘラート陥落後、知事や軍幹部らタリバーンに「寝返り」か****
駐留米軍の撤収が進むなかアフガニスタンで支配地を拡大し続ける反政府勢力タリバーンは14日までに、前日に陥落させた西部の要衝ヘラート市で現職や元職の州知事、情報機関「国家保安局」の責任者やアフガン軍の軍団司令官らがタリバーン側に加わったと主張した。

この中には、ヘラート州知事や中央政府の閣僚も務めた経験を持つ著名な軍閥指導者のムハンマド・イスマイル・カーン氏も含まれた。タリバーンが公開したビデオ映像には、同指導者がタリバーン戦闘員のそばで話す姿も映っていた。

ヘラートは国内第3の都市。タリバーンの報道担当者は13日、記者団に同州政府の内務省幹部や数千人規模の治安部隊もタリバーンに合流したと述べた。

これら主張の真偽は不明。ただ、CNNはカーン氏がタリバーン戦闘員らと一緒にいる映像は確認した。【8月14日 CNN】
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タリバンへの抗戦を指揮していた「ヘラートのライオン」とも呼ばれるイスマイル・カーン氏は市内にとどまっているもののタリバンの拘束下にあるとの情報もあり、タリバンに同調したのかどうかは不明です。

【首都へ11km 数日内に首都到達? 焦点となるガニ大統領の去就】
主要都市が次々に陥落、それも無血開城的にタリバン支配に堕ちていくなかで、もはや、アフガニスタン政府が持ちこたえられるかではなく、首都カブールの陥落、タリバンのカブール進攻が“いつ”になるか、あるいは停戦のためのガニ大統領の去就が焦点。

米政権高官は11日、CNNに対し、カブールは30〜90日以内にタリバーンの手に落ちる可能性があると述べていましたが、“米政府高官によると、タリバンが数日以内にカブールに到達する可能性があるという懸念も台頭しているという。”【8月14日 ロイター】という状況に。

****タリバン、首都カブールまで11キロに迫る…米大使館は退避へ機密書類など廃棄を通達****
AP通信によると、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンは14日、首都カブール南方約50キロにあるロガール州の州都プリアラムを制圧した。タリバンはさらに北上し、カブールまで約11キロの地区へ戦線を前進させた。
 
タリバンはカブール州に隣接するロガール州全体を掌握した。プリアラムを含め、タリバンが占拠した州都は全34州中18州となった。
 
米国防総省のジョン・カービー報道官は13日の記者会見で、タリバンの行動について、「国境に通じるルートや主要な幹線道路を押さえ、カブールの孤立化を狙っている」と分析した。「彼らはこれまでも州都を孤立させ、(アフガン政府軍を)無抵抗で降伏させることに成功してきた」と指摘し、タリバンがカブールでも兵糧攻めを狙っているとの見方を示唆した。
 
米政府は12日、米大使館員らの退避を支援するため、米軍約3000人をカブールに派遣すると発表した。カービー氏は、カブールが「現状で差し迫った危機に直面している訳ではない」としつつ、「我々は状況を深刻に受け止めている。だからこそ増派の判断に至ったのだ」と語った。増援部隊の大半は、週末にかけてカブールの空港に到着する見通しだという。
 
米政治専門紙ポリティコは13日、国防総省が、カブールにある米大使館の全職員を退避させる計画を策定し始めたと報じた。事実であれば、カブールの陥落も想定した動きと言えそうだ。
 
ポリティコによると、米大使館の幹部は13日、機密性の高い書類などを破棄するよう職員に通達した。大使館にある米国旗も、「(奪われた場合に)プロパガンダに使われる恐れがある」として廃棄対象に指定されたという。【8月14日 読売】
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タリバンはガニ大統領の辞任と権力の移譲を求めています。

****タリバン、首都カブールの孤立化狙う? アフガン政府も対決姿勢****
(中略)アフガンのメディアによると、ガニ大統領は14日、テレビ演説で「治安部隊の再動員が最優先だ」と述べ、対決姿勢を強調した。首都を巡る戦闘の激化が懸念されている。
 
情勢の緊迫化を受け、タリバンの政治事務所があるカタールのドーハでは、米国や中国などの代表がアフガン政府やタリバン側と打開策を協議。だが、タリバン側は攻撃の手を緩めておらず、即時停戦で合意する可能性は低い。
 
タリバンは13日、カブールに隣接する東部ロガール州の州都プリアラムを制圧。カブールとの直線距離は約50キロで、首都への侵攻が現実味を帯びてきた。取材に応じたタリバン幹部によると、タリバンはガニ氏の辞任と権力の移譲を求めているという。
 
長年タリバンの後ろ盾と指摘されてきたパキスタンのカーン首相は、毎日新聞などとのインタビューで「ガニ氏が辞任しない限り、タリバンは(対話による)政治的な解決を受け入れない」とも指摘している。
 
タリバンは新たに支配下に置いた地域で、政府側に拘束された戦闘員らを刑務所から次々と解放し、政府軍が残した武器も入手。またタリバン幹部は、2020年2月の米国とタリバンの合意に沿ってアフガン政府が解放した捕虜約5000人の多くが、再び戦場に戻ったと明かした。
 
捕虜解放は、タリバンがアフガン政府と和平協議を始める条件とされたが、結果的に戦力の底上げにつながった。
 
一方、アフガン政府も強気の姿勢だ。地元民放トロテレビなどによると、ガニ氏は14日のテレビ演説で「さらなる不安定化や暴力、国民の避難を抑えることに集中する」と語り、国際社会とも協議していると明かした。
 
これに先立ち、サレー第1副大統領は13日、ガニ氏が議長を務める国防に関する会議で「タリバンのテロリストに対し、信念と決意を持って強い姿勢で挑むことを決めた」とツイッターに投稿していた。
 
地方都市ではこれまで、市街戦による流血の事態を避けるため、政府軍がタリバンに投降したり、無抵抗で撤退したりするケースも少なくなかった。だが、タリバンがカブールに攻め込めば、政府側も防衛せざるを得ず、市民が巻き込まれる可能性がある。(後略)【8月14日 毎日】
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一連の動きを見ていると、アフガニスタン政権側に本気で首都防衛に取り組む覚悟があるかは疑問にも。
そこで注目されるのがガニ大統領の去就。

****ガニ大統領の去就焦点=攻勢タリバン、辞任を要求―政府停戦模索か・アフガン****
駐留米軍の大部分が撤収したことを受けて大攻勢に出ているアフガニスタンの反政府勢力タリバンは、14日も作戦を継続した。タリバンの部隊は首都カブール近郊まで迫っており、政府側は首都での戦闘と現政治体制の完全崩壊を阻止するため、停戦を模索しているもようだ。タリバンはガニ大統領の辞任を要求しており、ガニ氏の去就が焦点に浮上している。
 
ガニ氏は14日の国民向け演説で、「さらなる不安定、暴力や避難民を防ぐため、国内外で広範な協議を開始した。まもなく結果を国民と共有できるだろう」と述べ、国民の懸念払拭(ふっしょく)に努めた。ただ、軍や治安部隊の「再動員」にも言及し、抗戦の構えは変えなかった。
 
米国務省は12日、ブリンケン長官らがガニ氏と電話会談し、在アフガン米大使館の人員縮小などについて説明したと発表した。これに関しアフガン情勢に詳しい在米ジャーナリストは「ブリンケン氏が停戦と(タリバンを含む)暫定政権の樹立に向け、ガニ氏に辞任を打診した」とツイッターに投稿。アフガン大統領府高官は13日、「誤りだ。その議論はしていない」と火消しに追われた。
 
インターネット上では、この他にも報道関係者によるガニ氏の去就をめぐる情報が飛び交う。タリバンが首都に肉薄する中、防衛のための選択肢として現実的なのは停戦だという認識が浸透しつつあるためだ。
 
ガニ氏は米主導の和平プロセスの進展に慎重で、テロなどが起きるたびにタリバンを名指しで批判してきた。和平交渉に参加するタリバン幹部は7月の米メディアとのインタビューで、対立をあおることで自らの地位を保とうとしている「戦争商人」だとガニ氏を批判し、辞任しなければ交渉に応じないと述べた。
 
タリバンは今月12日から13日にかけて人口第2位の南部カンダハル、3位の西部ヘラート、首都から約50キロのプリアラム、14日には東部シャランと、州都を相次いで奪取した。9日間で34州都中19カ所を押さえ、カブールを包囲するように部隊を進めている。【8月14日 時事】 
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【再び奪われるのか女性の権利 国際社会の現実的課題は難民受け入れ】
南ベトナム政権同様に、腐敗と汚職にまみれた統治能力のないアフガニスタン政権が消えていくのは止む得ない流れではありますが、旧タリバン政権崩壊以来、少しずつではありますが拡大してきた女性の権利など、国民の自由・人権がタリバン支配復活で再び奪われてしまいかねないのは悲しいことです。

****タリバン、支配地域で女性の権利制限 国連事務総長****
国連のアントニオ・グテレス事務総長は13日、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンが、支配地域で女性の権利を著しく制限していると明らかにした。
 
タリバンは支配地域を拡大しながら首都カブールに迫っており、2001年に米主導の連合軍の攻撃で崩壊したタリバン政権復活への懸念が高まっている。
 
グテレス氏は記者団に対し、「タリバンが支配地域で、特に女性と記者に対して人権を厳しく制限している初期の兆候が見られることに深く心を痛めている」と述べた。「特にアフガンの少女や成人女性が苦労して獲得した権利が奪われているという報告を目にするのは、恐ろしく、胸が張り裂けるような思いだ」
 
さらに、「民間人への攻撃を指示することは、重大な国際人道法違反であり、戦争犯罪に当たる」と警告した。
 
前線では、政府側が個人または部隊、師団単位で投降し、多くの車両や軍用装備品がタリバンの手に渡っており、電撃的な速度での勢力拡大に拍車をかけている。 【8月14日 AFP】
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タリバンの復活・台頭は結局のところアフガニスタン国民の選択だったと言えばそれまでですが、何ともやりきれない思いも。

今後の国際社会の現実的課題は難民受け入れです。

****カナダ、アフガン難民を最大2万人受け入れへ****
カナダ当局は13日、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンの脅威にさらされている女性指導者や政府関係者ら、アフガン難民を最大で2万人受け入れると発表した。タリバンは、国内各地で主要都市の制圧を続けている。

カナダのマルコ・メンディチーノ移民相は記者会見で、「アフガニスタンの現状は痛ましく、カナダは傍観し続けることはしない」と述べた。

カナダが受け入れる難民はアフガン国内にとどまっている「特に脆弱(ぜいじゃく)」な市民をはじめ、隣国に逃れた人も対象となる。また女性指導者や政府関係者のほか、人権活動家や迫害されている少数民族、ジャーナリストも含まれる。

メンディチーノ氏によれば、難民認定申請者らを乗せた複数の航空便がすでに出発しており、13日には最初の便がトロントに到着した。【8月14日 AFP】
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カナダはすでに、同国のために働いた現地の通訳や家族ら数千人の受け入れ方針を明らかにしています。

日本政府は例によって、難民には固く門戸を閉ざすのでしょうか。今回はコロナ対策という格好の名目もあることですし・・・。

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韓国  「男性嫌悪」と「女性嫌悪」の男女間内戦状態

2021-08-13 22:36:13 | 東アジア
(アーチェリー女子の安山選手(7月30日、AFP時事)【8月2日 読売】)

【ショートカットの金メダリストへのフェミニズム批判】
今回の東京オリンピックに関し、いつもの反日は別として、韓国の反応で興味深かったのは、お家芸テコンドーでも金メダルが取れなかった不振の韓国にアーチェリーで混合団体・女子団体・女子個人の3個の金メダルをもたらした安山選手を巡る「フェミニズム」騒動でした。

本来なら英雄扱いになるところですが、韓国男性から批判・中傷を受けています。その批判の理由は髪形が「ショートカット」だから・・・

****短髪の金メダリストを中傷、韓国 フェミニズムに反発****
アーチェリー混合団体と女子団体で金メダルを二つ獲得した韓国代表の安山(20)に対し、髪形がショートヘアであることを理由に「フェミニストなら金メダルを返せ」などとする中傷がインターネット上で相次いでいる。韓国メディアが30日までに伝えた。
 
韓国では、短髪の女性は男女平等を目指すフェミニストであるとの偏見が根強い。近年のフェミニズム運動の盛り上がりに一部の若年層が反発している。
 
安のショートヘア姿について、会員制交流サイト(SNS)では「ショートカットだけどフェミなのか」「なぜ髪を切るのか」「メダルを返上して謝罪しろ」などの投稿があった。【7月30日 共同】
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ショートカット以外にも、過去のSNSも問題とされているようです。
日本語の感覚としては「フェミニスト」「フェミニズム」はそうネガティブなイメージはありませんが、韓国においては「男性嫌悪的差別主義」のイメージがあるようです。

****過去のSNSが批判の的、男性を卑下するスラング使う…3冠の韓国選手****
東京五輪のアーチェリー女子で、金メダル3個を獲得した韓国の安山アンサン選手(20)が、過去のSNS投稿などを巡って、女性解放運動の急進的な活動家らを指す「フェミ」の呼び名で中傷され、論争になっている。韓国の若い男性が同世代の女性に対して抱く「やっかみ」が背景にありそうだ。(中略)

一つ目の金メダルを獲得した頃から、安選手が過去にSNSで男性を卑下する意味を含むとされるスラングを使ったことを根拠に、インターネット上に非難の投稿が相次いだ。安選手が短髪で、女子大に在学していることも批判の的となり、「メダルを返上しろ」などの声も噴出した。
 
これに対し、有名女優が自身の短髪の写真をSNSに載せて反発を示すと、2日までに22万件以上の「いいね!」が付いた。大韓アーチェリー協会のサイトには「安選手を守れ」などの書き込みが相次いだ。(中略)
 
韓国では、若年層の失業率が高い中、男性は約2年間の兵役義務を課されており、不公平感を抱く男性が少なくない。かつては兵役を終えた男性に公務員試験で加点する制度があったが、1999年に憲法裁判所が「女性らへの差別」にあたるとして違憲と判断し、廃止となった。この頃から「逆差別」を主張する男性が増えたとされる。
 
2017年に就任した文在寅ムンジェイン大統領は「フェミニスト大統領になる」と公言し、女性政策に力を入れてきた。これも男性の不満に拍車をかけ、今年4月には女性を徴兵対象に加えるよう求める請願が大統領府に出され、賛同は29万件を超えた。【8月2日 読売】
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【女性の間でフェミニズムが高揚した経緯】
最近の若い男性からのアンチフェミニズムの話の前に、韓国女性においてフェミニズムが高まった経緯を見ると・・・

****韓国のフェミニズムは盛り上がっているのに、なぜ日本は盛り上がってないの?って言われる件****
2019年の2月は本当に、韓国のフェミニズムについての話題がそこかしこで聞かれたひと月だった。(中略)

韓国では確かにフェミニズムに勢いがある。昨年11月に行われた調査では、「韓国の19~29歳のうち『自分はフェミニストだと思う』と答えた女性は42.7%、男性は10.3%」だったそうだ。

『キム・ジヨン』がヒットしたのに続き、7人の女性作家がフェミニズムをテーマに執筆した短編集『ヒョンナムオッパへ:韓国フェミニズム小説集』も邦訳が出版された。

もちろん文学作品だけではない。今年の3月8日、国際女性デーの画像を検索してみる。集会やデモに集まって声を上げている人の数は、日本とはちょっと桁違いに見える。

 10年前には考えられなかった韓国フェミニズムの盛り上がり
 『私たちにはことばが必要だ』の訳者のひとりである小山内園子さんは、2007年にソーシャルワーカーとして韓国の女性団体に派遣されていた経験もある。当時を振り返って小山内さんは、「女性の約半数がフェミニストを自認するようになるなんて、考えられなかった」と言う。

「日本よりも“フェミニスト”のイメージが悪かったと思う。“どうでもいいことを騒ぎ立てる女”というレッテル貼りが強くて、フェミニストって言った途端に親が怒る、みたいなところがあった」(小山内さん)

イ・ミンギョンさんも来日した際に、「少し前までは、フェミニストといえば一生結婚するつもりのない女性というようなイメージで語られていた」と話していた。

けれど今は、10代、20代が率先して「自分はフェミニストである」と声を上げている。

韓国で女性たちが声を上げ始めたのは、いくつかの事件がきっかけだったという。
もっとも有名なのは、2016年の江南駅女性殺害事件。共同トイレの中に潜んだ男が見ず知らずの女性を殺害した事件だ。(編集部注:2016年5月17日、韓国のソウル市・瑞草洞で営業するカラオケ店の男女共有トイレ内で20歳の女性客が刺殺された。犯人は殺害動機を「普段から女性に無視されていたから」と語った)

犯人の男は男性の利用客を何人も見送った後で女性を狙った。「女性嫌悪」の感情(ミソジニー)によって引き起こされた殺人だという声が上がり、事件現場は被害者を追悼する言葉を書き込んだポストイットであふれたが、警察はわざわざ「女性嫌悪殺人」であることを否定する発表を出した。このことが、女性たちの心に火をつけた。(中略)

また、イ・ミンギョンさんは、近年、韓国で起きたフェミニズム関連のもっとも大きなデモは2018年夏に約7万人が集まった「盗撮事件」への抗議だったとも話していた。

韓国で盗撮事件が相次いで発覚していた時期に、女性が男性を盗撮し、ネット上にアップする事件が起きた。すぐに女性が逮捕されたことについて、「男性が犯人の場合は迅速な捜査をしない警察が、女性が犯人だとすぐに動く」と女性たちが怒りの声を上げたのだ。

「当事者意識を持つ」きっかけとなった、セウォル号沈没事故
しかし、これらのいくつかの事件が続いたことだけでは、今の韓国でフェミニズムを支持する人が増えている理由にはならないかもしれない。(中略)

「韓国は植民地時代を経験し、軍部政権がありました。つまり何かと戦わなければいけなかった歴史を持つ国なのです。それからセウォル号沈没事故(中略)も大きかった。

あの事故は、安全を蔑ろにして経済を優先するとか、それを知っているのに目をつぶるとか、そういった韓国の社会問題が凝縮されていた。そして、もしかしたら自分も死んだかもしれない、自分も加害者かもしれないって当事者感覚を主に若い世代が一気に共有しました」

 自分も社会の構成員であり、当事者のひとりである。その感覚をセウォル号事件で共有したからこそ、江南事件が起こったときに「これは私の話かもしれない」と当事者意識を持って問題に飛び込んだ女性が多かったのではないかと、すんみさんは言う。(後略)【2019年04月04日 小川たまか氏 HUFFPOST】
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上記のように韓国女性の間でフェミニズムが燃え上がった根底には、(同じ儒教社会日本にも共通する部分が多いと思いますが)韓国社会における男尊女卑的な基本的風潮があってことでしょう。

そんな男尊女卑的風潮の一端を示す事件・・・

****韓国軍でまた性的被害訴えた女性自殺 文大統領が激怒****
韓国海軍で女性下士官が上官から性的被害を受けたと訴えた後、自殺したとみられる事件が発生した。青瓦台(大統領府)の朴ギョン美(パク・ギョンミ)報道官によると、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は13日、事件の報告を受けて激怒し、国防部に対して疑惑解明に向け徹底的かつ厳正に捜査するよう指示した。

軍関係者によると、海軍の女性下士官は5月27日、飲食店で上官から性的被害を受けたことを明かにした。だが被害届は出さず、今月7日、部隊長との面会で改めて被害を訴え、9日にようやく正式な報告が行われた。島にある部隊で勤務していた女性は同日、陸上の部隊に移された。

女性は12日、部隊内の官舎で遺体で発見された。海軍関係者は自殺したとみられると明らかにした。

韓国では上官から性的被害を受けたと訴えていた空軍の女性下士官が自殺したとされる事件が起きたばかりだ。当時、文大統領は厳正な捜査と措置を数回にわたって指示。?成?(イ・ソンヨン)空軍参謀総長は辞任に追い込まれた。

今回の事件を受け、徐旭(ソ・ウク)国防部長官の責任を求める声が高まる可能性がある。

徐氏は「あってはならないことが発生したことについて、遺族と国民の皆さんに申し訳ない」と謝罪し、特別捜査チームを設置し、徹底的な捜査を行う方針を示した。【8月13日 聯合ニュース】
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【男性からのアンチフェミニズムと徴兵制を巡る議論】
一方で前出【8月2日 読売】にもあるように、女性の間でのフェミニズムの高揚が、高い失業率の中で約2年間の兵役義務を課される男性の被害者意識・「女性嫌悪」に火をつけることにも。

****20代男性の6割が「女性が憎い」と答える韓国で起きたフェミサイド「女性嫌悪」が刺殺事件にも発展***
韓国では、20代男性10人のうち6人が「反フェミニズム的」という調査結果がある。韓国の若者に取材をしてきたライターの安宿緑さんは「若い男性を中心に女性嫌悪が拡大している。特に20代の男性たちは『女性のほうが自分たちよりも優遇されている』と感じている」という――。(中略)

女性嫌悪の核にある「恋愛と結婚」
なお慶熙キョンヒ大学校がソウル市内の男性大学生270人を対象に行った調査研究では、女性嫌悪の核に恋愛と結婚があることが示唆されていた。

現在の韓国社会では、階層がほぼ固定化し、経済的に同じレベルでしか結婚しにくい状況にある。そうして経済構造的に劣位におかれた若年層男性が無気力感、劣等感を募らせた結果、女性嫌悪が増大しているのでは、と分析している。

そもそも韓国の20代の男性たちが「女性のほうが自分たちよりも優遇されている」と感じていることは否めない。

たとえば韓国女性政策研究院が2018年、19歳以上60歳未満の男性3000人(うち20代男性1000人)を対象にしたオンライン調査では、20代男性の半数が敵対的性差別意識および反フェミニズム意識を持っているとされ、彼らが女性に対して「平等という言葉を盾に多くを要求し、男性嫌悪をしている」と認識していることが分かった。

さらに彼らは徴兵に対する被害者意識を持ち、軍隊は時間の浪費で、損失と捉えており、結果として「男性だけ軍隊に行くのは男性差別で、女性も行くべきだ」という認識を強く持っていた。

また他世代に比べて、性風俗などに興味を示さない傾向がみられ、逆にオンライン上での女性嫌悪的書き込みに接する機会が多かったとされる。【2020年9月30日 PRESIDENT Online】
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****女性の成功を敵視****
インターネット暴徒の多くが若い男性だ。彼らが激高するのは、女性の成功は自分たちの犠牲の上に成り立っていると、信じ込んでいるからだ。

「男性ばかりが集まるオンライン・コミュニティーは、君たちが抑圧されているのは女のせいだと、若者に教え込む。たとえば、女性は試験で良い点を取り、君たち男性の席を奪っているのだ、などと」と、ハン博士は言う。

韓国では大学入試や就職活動が熾烈(しれつ)を極めている。一部の男性は、自分たちが不公平で不利な立場に置かれていると主張する。

たとえば、韓国ではすべての男性に18カ月間の兵役が義務付けられているが、これがキャリア形成を遅らせるという指摘だ。

また、韓国には数十の女子大学があり、中には需要が非常に高い学科を設置しているところもある。一方、男性には同じような仕組みが提供されていない。

しかし、韓国の女性の給与は男性のわずか63%に過ぎず、先進国の中でも最も給与格差が大きいのが現実だ。英誌エコノミストの「ガラスの天井(実績があっても性別や属性を理由に越えられない障壁を指す言葉)指数」でも、韓国は働く女性にとって最も環境の悪い先進国となっている。【8月12日 BBC】
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韓国にいまだ徴兵制があるというのは、日本からすると奇異な感もありますが、朝鮮戦争の苦難の歴史、「休戦」状態の分断国家ということを考えれば、当然と言うべきか・・・

北朝鮮に極めて融和的とされる左派・文政権ですら、その廃止を言い出さないというあたり、日本からはうかがい知れない分断国家・韓国の特殊事情でしょう。

廃止できないなら、男性だけでなく女性も・・・というのが男性アンチフェミニズムの主張・・・と言うか、女性フェミニズムに対する「やれるものなら、やってみろ」という物言い。

****韓国男性「女も徴兵されろ」と主張。それに対しフェミニストたちは****
韓国で女性の徴兵制を求める請願が約30万票

韓国大統領府のHPに、女性の徴兵制を求める請願が約30万票も集まった
「Kフェミニズム」と称され、男女同権の実現に向けた女性たちの運動が盛んな韓国で、若い男性たちによる「反逆」が企図されている。徴兵制が実施されている韓国で、男女が同権ならば、女性も徴兵されるべきだというものだ。  

男性たちの反逆が表面化したのは、大統領府(青瓦台)への国民請願サイト。韓国では文在寅大統領就任後、大統領府のHP上に国民の誰もが請願出来るサイトを公開しており、1カ月で国民20万人以上の支持を得た請願に関しては、大統領府が公式に意見を表明するというシステムを採用している。  

その国民請願サイトに登録されたのが「女性も徴兵対象に含めてください」という請願。  
この請願は先月4月19日の登録後、3日で4万5千人の支持を集め、一気に世論の注目を集めることになった。  

請願サイトに登録された「請願内容」によれば、「韓国では年々出産率が下がり、国軍の兵力補充に困難をきたしている。そのような状況で男性の徴集率は9割に迫り、様々な理由で軍服務に適切ではない人までもが徴兵されている現状である」としながら、結論的に「女性も徴兵対象に含めるべき」であるとしている。  

そしてこの請願は、5月17日現在29万人の支持を得ており、大統領府も無視できない「国民の声」となっている一方、韓国内では老若男女間で賛否両論の議論が戦わされている。

「女も兵役に行け」と主張する男性たちの言い分とは
韓国での「女性徴兵制」について、男性側の意見は「賛成」と「反対」に両分される。  

まず反対意見としては、この問題は「差別」ではなく「差異」であるとし、男女の身体的な問題や、セクハラが起きやすい環境を醸成する、そもそも女性がいることを前提としていない軍設備が多い等の意見が聞かれた。  

賛成意見としては、身体的な特徴の問題であれば、周辺業務でも十分に対応出来るし、そもそも軍内でも旧時代文化は一掃されたと聞いている。これからの国防を考えるのであれば女性の募兵も必要だろうという意見が多い。  

特別な意見としては、韓国は「休戦国家」であり、男女区別なく国軍に動員している北朝鮮に対抗するためには、韓国でも、女性を軍に含め(北朝鮮との)兵力数の均衡を保たなければならないという過激な発言もある。

若い女性「行くのは構わない」
しかしこの議論が男性陣の中で活発化するのには、韓国のフェミニズム運動への反抗心も窺われる。要は普段、男女平等を叫ぶのなら、まずは軍に服務してみろ、出来ないだろうというのが男性陣の本音として垣間見える。フェミニストたちへの痛烈な皮肉というところか。  

では一方で、問題の「当事者」でもある若い女性たちの意見はどうか。  
この「女性徴兵(募兵)」問題については過去に何度も話題になった話ではあるが、大学通りの20代の女性は「行けと言われれば行くのは構わない」とあっけらかんと答えている。(中略) 

「女性が徴兵されても女性差別はなくならない」
実際、2019年に韓国女性政策研究院が男性1036人、女性976人を対象に行ったアンケートによれば、女性の53.7%が軍服務に対して肯定的な意見を述べており、対象となる20代~30代の女性も50%以上が賛成している。  前段にもあったが、これが「休戦国家」のリアルなのだろうか。

しかしこの問題を議論するSNS上には、そんな女性たちの声も散見される。 
「女性徴兵制は構わないけど、女性が軍隊に言ったからって、今の社会の女性差別が無くなりはしない」、「男性は、差別問題というと、すぐに自分たちの徴兵の問題を持ち出してくるが、普段の女性差別問題にはまったく関心をもつことは無い」  

韓国社会における男女同権の問題は、伝統的な儒教国家である分、日本よりも根深く深刻であると言われている。韓国軍の話で男女が内戦状態では、仮に男女混成軍でも統率は取れないのだろうが…【5月26日 吉田サラバ氏 SPA!】
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なお徴兵制をめぐる矛先は女性だけでなく、オリンピック野球チームにも向けられているとか。
韓国野球チームが3位決定戦に破れてメダルなしになったことへ、多くの「いいね!」が集まっているとか。

五輪メダリストになれば兵役免除になりますが、出場国がたった6カ国しかない野球で銅メダル取って兵役免除というのは許せない・・・という話のようです。【8月13日 デイリー新潮より】
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中国  人民・大手IT企業、更にはウイルスさえも管理・統制する習近平指導部

2021-08-12 23:20:01 | 中国
(党創立100年の式典に現れた習近平氏。左端は李克強首相、右端は胡錦濤前主席【7月8日 JBpress】)

【市民生活から経済活動まですべてを管理・統制・指導する国家・党】
中国共産党の結党100周年を迎え、自身の長期政権に向けて3期目を狙う習近平国家主席が、最近とみに文化大革命当時を思わせるような社会引き締めを図っていること、国内ではそれに呼応する偏狭とも言えるナショナリズムが台頭していることなどは、6月9日ブログ“中国 結党100周年 習近平氏を「核心」とする長期支配体制の強化 ネット上には現代の紅衛兵も”でも取り上げました。

そうした党指導による社会引き締めの一環と思われるのが下記の違法内容カラオケ禁止措置

****中国、違法な内容のカラオケ曲を禁止へ****
 中国の文化観光省は、全土のカラオケ施設で10月1日から禁止対象となる「違法な内容」のカラオケ曲のリストを作成する方針を明らかにした。

同省はウェブサイトに掲載した文書で、国家の結束や主権、領土の一体性を危険にさらすものや、カルトや迷信を拡散する内容で国の宗教政策に違反する曲、賭博や麻薬のような違法な活動を奨励するものが禁止対象に含まれると説明した。

カラオケ施設にコンテンツを提供する業者は、カラオケ曲を選別する責任を持つことになるとしている。中国にある娯楽施設は5万近くあり、収録曲数は10万を超えているため、施設運営者が違法なカラオケ曲を特定するのは難しいと説明した。

コンテンツ提供業者には「健康的で気持ちを高めさせる」曲を提供するよう促した。【8月11日 ロイター】
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まあ、社会政治体制の違いと言ってしまえばそれまでですが、“「健康的で気持ちを高めさせる」曲を提供するよう促した”というのは、個人的には“うっせぇ、うっせぇ、うっせぇわ!”と思えます。

カラオケだけでなく、ネットゲームも。

****ネットゲームは「電子薬物」「精神アヘン」、中国政府系メディアが指摘―独メディア****
2021年8月4日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、中国の政府系メディアがオンラインゲームを「アヘン」と形容したことで、株式市場でゲーム関連株が大きく下落したと報じた。

記事は、新華社系の「経済参考報」が3日に発表した文章の中で、騰訊のオンラインゲーム「王者栄耀」を名指しした上で、オンラインゲームは未成年者の健全な成長に看過できない影響を及ぼし、その危害に警戒すべきだと評するとともに、「オンラインゲームの危害はますます社会の共通認識となっており、しばしば『精神的アヘン』『電子麻薬』などと称されている」と論じたことを伝えた。(後略)【8月5日レコードチャイナ】
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こうした社会の引き締めの風潮は、別の言い方をすれば政治だけでなく、経済・市民生活の全てを国家・共産党が管理・統制・指導するという発想のなせるわざでもあります。

最近、国家・共産党が管理・統制・指導することを根底にした施策が目立ちます。

経済面では、巨大企業への締め付けが加速しています。

****中国 ネット業界の企業の取り締まり強化へ****
中国政府は26日、今後半年間でネット業界の企業を対象にした取り締まりキャンペーンを行うと発表しました。中国ではアリババなどIT大手への取り締まりが続いていますが、さらに圧力が強まりそうです。

中国の工業情報省は26日、インターネット業界を対象にした新たな取り締まりのキャンペーンを始めると発表しました。

取り締まりを強化する分野として「市場の秩序」や「利用者の保護」などをあげていて、IT大手による市場の独占や広告サイトへの悪質な誘導などへの監視を強める方針です。

中国ではこれまでもネット大手、アリババグループやテンセントなどへの取り締まりが相次いでいますが、中国当局の統制がネット業界全体に波及しそうです。

習近平指導部は、政府の統制を超えて存在感を増すIT大手企業を警戒し、圧力を強めています。【7月27日 日テレNEWS24】
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“中国、ネット配車サービスへの監視強化 一部企業を問題視”【7月30日 ロイター】
“中国当局、肥料会社を調査 価格つり上げの疑いで”【8月5日 ロイター】

それぞれの施策はそれぞれの理由・背景(「市場の秩序」や「利用者の保護」など)があってのことですが、共通する背景としては、近年急成長し、奔放・自由な活動を広げるアリババ・テンセント・滴滴出行など中国民間企業に対し、「社会を動かすのは民間企業ではなく、国家・共産党による指導である」ことを改めて突きつけているように思えます。

下記のビットコインマイニングの全面禁止も、デジタル人民元という国家の通貨政策とのバッティング、電力大量消費など個々の事情はありますが、根底にあるは、国家・共産党の指導の及ばない通貨の存在は認められないという発想でしょう。

****中国の採掘業者、壊滅も ビットコインで全面禁止令****
暗号資産(仮想通貨)の代表格である「ビットコイン」の運営に、大きな地殻変動が起きている。必要なコンピューター処理を行い、新たな仮想通貨を生み出すマイニング(採掘)という作業を中国の習近平政権が全面禁止したためだ。

背景には世界的な普及を狙うデジタル人民元との競合を避けたい思惑がある。中国の採掘業者はかつて世界全体のコインを生み出す能力のうち4分の3を占めるなど運営を牛耳ってきたが、壊滅に追い込まれる可能性が出てきた。(中略)

地元当局との間でウィンウィンの関係だったはずの採掘事業を、中国当局が切り捨てるのはなぜか。仮想通貨に詳しい近畿大の山﨑重一郎教授は「豊富な電力資源を利用して手っ取り早く外貨を稼ぐという段階が終わり、デジタル人民元(の普及)に軸足を移すようになった」と分析する。

中国が発行準備を進めるデジタル人民元と、民間が運営するビットコインなどの仮想通貨。中国政府にとっては国民の決済情報を直接把握できるデジタル人民元と比べて、ビットコインなどの仮想通貨は法規制が及びにくく、取引価格の乱高下が金融リスクにもつながりかねない目障りな存在だ。

電力消費も注視
(後略)【8月12日 産経】
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【ウイルスもコントロールする「ゼロコロナ」】
中国では、完璧に近い状態で抑え込んでいたはずの新型コロナ市中感染が再び広がっており、当局は神経を尖らせ、市民全員のPCR検査・封鎖といった、“中国ならでは”の大規模かつ強硬な対策などを行っています。

ただ、その感染レベルは1万人を超す新規感染者が毎日出ている日本などからすれば、「そのくらいは・・・」というレベルですが、社会の全てを国家・共産党が管理・統制・指導するという発想からすると、その対象はウイルスにも及び、ウイルス任せの「ウィズコロナ」という発想ではなく「ゼロコロナ」になってしまうのでしょう。

そうした硬直した発想への批判は国内にもあるようですが、当局側は「ゼロコロナ」を譲らないようです。

****感染再拡大の中国で「コロナとの共存」を訴える声が出てきた理由****
中国で新型コロナウイルス・デルタ株の感染がじわじわ広がっている。国家衛生健康委員会の発表では、8月9日だけで新たな本土感染確定診断例(確診)は全国で108人。この3カ月以来、全国での新たな確診例が100を超えたのは初めてだという。
 
日本は東京都だけで1日数千人の新規感染者を数えているのだから、なんだ、たった100人か、と思うかもしれない。だが、そのわずかな感染者のために、中国は国民の生活と経済を犠牲にした徹底したロックダウンや全市民を対象としたPCR検査を実施して、「ゼロ感染」を目指している。(中略)
 
コロナとの共存を訴える意見に多くの支持
中国がここまで徹底してゼロ・コロナにこだわるのは、来年(2022年)2月の北京冬季五輪を有観客で東京五輪よりも華々しく立派に開催したい、という野望もあろう。

また中国製ワクチンの予防効果がファイザーやモデルナよりかなり低いという問題もある。中国のワクチン接種率は40%を超えているが、実のところ2回接種後も感染が確認された例は枚挙にいとまがない。

結局、中国政府としては、ワクチン接種率に関係なく、大量PCR検査とロックダウンによる徹底管理方式を取らざるを得ない、ということになった。これは、日本は真似したくてもやれない。権威主義国家の暴力的なまでの統制力があってこそ可能な方式だ。
 
だが、最近になって中国で、この「ゼロ・コロナ」志向に疑問を呈する意見が出てきた。復旦大学附属華山医院感染科主任の張文宏が7月末、中国のSNSの微博で「“コロナと共存”の準備をする方がいい」と提言。これが、中国のネット民から強い支持を得た。
 
張文宏は、「世界は新型コロナ感染のコントロールに失敗しており、中国はウイルスとの共存を準備すべきだ。これまで経験したことは、最も困難なことではない。さらに困難なのは、長期にウイルスと共存する智慧を絞ることだ」という。

張文宏は南京でデルタ株の感染が拡大していることを踏まえて、「ワクチンではウイルスは完全に防御できない。ただ重症化率を下げるだけなのだ」と訴えていた。
 
これに対し 元中国衛生部長の高強は人民日報への寄稿を通じて強烈に反駁した。高強は、世界でパンデミックが収まらないのは、英国や米国が感染者が増えているにもかかわらず、ワクチン接種率の高さに頼って、感染コントロール措置を解除したり緩和したりして、いわゆる「ウイルスと共存する」方向にあることが原因だ、と批判する。
 
さらに「ウイルスと共存など絶対にありえない。ウイルスと人類は、お前が死ぬか俺が死ぬかの関係でしかない」「驚くべきことに、私たち専門家の中にもデルタ株の脅威について語りながら、国家に“ウイルスとの長期共存”戦略を提案する人物がいる」として、名指しこそしなかったが張文宏を批判した。
 
張文宏の発言は、読みようによっては、徹底したロックダウンとPCR検査による今の中国当局の「ゼロ・コロナ」政策を批判しているようにも受け取れる。このことから、ネット民の中には「張文宏は政治的に危ないかもしれない」と心配する声も出ている。

大きすぎる経済的犠牲
中国が、権威主義体制の暴力性を利用した徹底的な管理コントロールによってゼロ・コロナ作戦を展開してきた中、突如こういう意見が現れネットで盛り上がる背景には、この中国方式の「コストの高さ」への懸念が表出してきたからだ。(中略)
 
経済をとるか、ゼロ・コロナをとるか。だが、米メディアのラジオ・フリー・アジアによれば、張文宏を支持する意見がSNSなどで削除されているという。中国当局としては当面、「コロナと共存」路線に転換するつもりはなさそうだ。
 
もし、米国やその他の西側社会が、ワクチンの力で重症者や死者の増加を抑えつつも、ある程度の感染拡大を容認し、経済活動や人の往来を認める方向に動き、一方で中国がゼロ・コロナ政策を貫くならば、これは人的往来のデカップリングにもつながり、本当に中国の鎖国時代が到来するかもしれない。

実際、中国は不要不急の出国を控えるようすでに国民に通達し、一部ではパスポートの更新を拒否されるビジネスマンや留学生もいるという。
 
中国が「ゼロ・コロナ」にこだわるのは、新型コロナの封じ込めが目的のように見えて、実は中国国民を西側社会から遠ざけ、その移動や動静をより厳しく管理したいという政治的な思惑があるのかもしれない。
 
日本の場合は、水際管理も国内管理もグダグダのまま五輪を開催するも、6割以上の国民が開催してよかったと感じ、ステイホームを呼びかけるも、もはや人出を抑えることはできない状況になっている。

あげく、いっそコロナは季節性インフルエンザのようなものと考えてみようと、感染症としての危険度を2類相当から5類に変えるべきかという議論も始まっている。

思えば、最初から、なし崩し的に「コロナと共生」だ。中国人から見れば相当クレイジーに見えるかもしれない。だが、人も気候もウイルスまでも、完全にコントロールしようとする中国共産党が支配する社会よりはまだ過ごしやすい世の中ではないか、と思ったりもするのだった。【8月12日 福島 香織氏 JBpress】
**********************

ちなみに気候のコントロールというのは、“中国共産党100周年記念式典が開かれた今年7月1日の北京・天安門広場。この日は降雨が予想されていたことから、中国当局は式前夜と、当日早朝、上空の積乱雲に向けて数百発の降雨ロケットを打ち上げたという。降雨を早めることによって、式典開会中の降雨を避けるのが狙いで、実際に式典の最後のころには晴れ間も広がっていった。”【7月21日 吉村 剛史氏 JBpress】といった対応をさすのでしょう。

【3期目続投に向け進む習近平体制強化】
といったように管理体制を強化する習近平指導部ですが、その基盤は教育からということで・・・・

****習主席の政治理念を学ぶ授業、必修に 中国*****
中国政府は今年の秋から、学校の授業に、習近平国家主席の政治理念を学ぶ授業を必修とすることを決めました。長期政権を目指す習主席の権威をさらに高める狙いがありそうです。

中国教育省は、習主席の政治理念「新時代の中国の特色ある社会主義思想」を若者に浸透させるため、小学生から大学生に向けた教材をあわせて5冊作成しました。今年秋に始まる新学期から、小中学校などで必修教材として正式導入されるということで、中国教育省の担当者は「新時代の魂を込めた傑作だ」と強調しています。

習主席は来年の党大会で異例の3期目続投を目指すとみられ、権威を高めため次々と打ち出される措置が子どもの教育現場にまで及び始めたかたちです。【8月12日 日テレNEWS24】
*********************

「新時代の魂を込めた傑作だ」・・・・共産党管理社会を生き抜くための言いぐさでしょうか、それとも本気? 本気だったら怖い。

“習氏の文化遺産政策を異例特集 人民日報、進む権威づけ”【8月2日 朝日】なんてものもあります。

でもって、その3期目続投に向けた布石が行われるのが、中国共産党の指導部や長老が毎夏、河北省の避暑地に非公式に集まって重要政策や人事などを議論する「北戴河会議」

****習氏、3期目へ布石探る 北戴河会議開幕か 重要政策・人事議論****
中国共産党の指導部や長老が毎夏、河北省の避暑地に非公式に集まって重要政策や人事などを議論する「北戴河会議」が今年も始まった模様だ。

5年に1度の最重要会議である党大会を来年に控え、習近平(シーチンピン)総書記にとっては慣例を破る3期目を実現するため、指導力をアピールする重要な機会になるとみられる。(中略)
 
習氏自身は総書記の2期目を終える来年以降の進退を明言していないが、実権を握り続けることが有力視されている。課題になるのが、最高指導部は党大会の年に67歳以下なら残留し、68歳以上は引退するという不文律、いわゆる「七上八下(チーシャンパーシア)」の存在だ。
 
共産党は、毛沢東への個人崇拝が文化大革命の混乱を生んだとする反省から、国家指導者の地位には憲法で2期10年の任期制限を、党指導者の地位には「七上八下」の定年制を設けてきたとされる。2017年の前回党大会では、習氏は当時69歳だった盟友の王岐山氏を最高指導部に残そうと試みたものの、定年制のために実現しなかったとされる。
 
18年の憲法改正で国家主席の任期撤廃に成功した習氏だが、定年制については考えを示さないまま今年6月、68歳を迎えた。指導者の定年撤廃が「終身制」につながることへの懸念は根深く、習氏であっても覆すのは容易ではない。
 
権力集中を強める習氏に、足元では不満もあるようだ。河南省の豪雨で大きな被害が出ていることが明らかになり始めた7月21日、習氏が視察に向かったのは河南省ではなくチベット自治区だった。23日になってこの視察が報道されると、SNSでは被災地へ自ら足を運んだかつての指導者らの記事や写真が複数投稿された。
 
習氏が続投するためには、説得力のある理由が必要だ。習氏を「核心」と位置づけた16年の中央委員会全体会議では、直前に地方幹部が「大国には指導の核心が必要だ」などと演説し、筋道をつくった。党幹部養成機関の元教授は「習氏の続投を求める声を党幹部に表明させ、定年制を打破する糸口をつくる可能性がある」と話す。【8月3日 朝日】
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北戴河や中南海で繰り広げられる権力闘争の行方は・・・中国ウォッチャー・専門家を含め部外者には全くわかりません。自分が続投するつもりのせいか、習近平氏の後継者も次の首相も明確ではなく、習近平氏本人も党も、来年秋に開催予定の第20回党大会での指導者交代の可能性について沈黙しています。

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2009年時点でアフガニスタンを見限ったバイデン大統領 士気も低く、装備の持続性もない政府軍

2021-08-11 22:42:24 | アフガン・パキスタン
(【8月11日 NHK】)

【タリバン、怒涛の攻勢 政府軍、「米軍に見捨てられた気持ち」と低い士気】
イスラム反政府勢力タリバンが攻勢をかけるアフガニスタン情勢については8月6日ブログ“アフガニスタン 政権は軍閥に戦闘協力要請 州都、首都に迫るタリバン そのイスラム統治とは?”で取り上げたばかりですが、あまりにも動きが急なので、改めて現時点での状況を。

前回ブログでも紹介したかつて北部同盟の有力軍閥・ウズベク人勢力を率いた(非道な暴力でも悪名高い)ドスタム将軍の帰国ですが、そのドスタム将軍の地元の北部諸州が次々とタリバンに制圧されているのは報道のとおり。

“8日には、過去に北部同盟が支配した北部クンドゥズ、タハル両州の州都も陥落。タリバンと渡り合った実績を持つ北部の軍閥は、ガニ政権の頼みの綱だった。”【8月9日 時事】

タリバンが制圧した州都は、この4,5日で“日ごとに”と言うより“時間ごとに”増加、現在は9州とも。明日になれば更に増えるかも。

****タリバンが9州都目を制圧宣言****
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンは11日、北東部バダフシャン州の州都ファイザバードを制圧したと宣言した。制圧を宣言したのは計9州都になった。【8月11日 共同】
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タリバンは“各地の警察署から武器を奪い、刑務所からタリバーン戦闘員を脱走させて、雪だるま式に勢力を増している。”【8月11日 朝日】

また、国境検問所を確保して関税を徴収することで、自軍の資金を得ると同時に、政権側の資金を断つ動きに出ています。

まさに怒涛の勢いですが、これだけハイペースで進むということは、政府軍側がまともな反撃ができていないということでもあり、その最大原因は士気の低さでしょう。

何年も前から絶えず指摘され続けた点ではありますが、これまで支えてくれた米軍も手を引きはじめており、政府軍兵士は州都防衛より、自分の身をどうやって守るかが関心事となっていると思われます。

****米軍に「見捨てられた気持ち」****
さらに、決定的な要因になり得るのが士気だ。
 
専門家らによると、タリバンが強い結束力を示している一方で、アフガニスタン軍は長年にわたって統率力不足や汚職、兵士らの士気の低下に悩まされてきた。そこへ来て最近のタリバンの攻勢で、精神的に一層ダメージを受けている。
 
独立系政策研究機関「アフガニスタン・アナリスツ・ネットワーク」のケイト・クラーク氏は先月の評価書で、「政府にとっては一部地域の陥落は想定済みだったのかもしれないが(中略)各地が連鎖的に次々と陥落していった時に治安部隊や国民の士気がどれほど下がったかという点は軽視できない」と指摘している。
 
米シンクタンク、ランド研究所のブライアン・マイケル・ジェンキンス氏は、士気を喪失しているアフガニスタン軍の兵士は米軍撤退によって「見捨てられたという気持ちを強く抱き」、自らの生き残りを考えるようになるかもしれないと言う。

「兵士らが個々の決断を下す際の判断材料は、国益や国家戦略ではない」と指摘し、「『こうした状況の中で、自分はどうするべきなのか? タリバンとカブールの大統領府に挟まれ、ここで最後のとりでになることが自分にとって最善なのだろうか?』という思いだ」と続けた。 【8月10日 AFP】
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アメリカがアフガニスタンから手を引く決意を固めたのは、中国を念頭に置いた戦力再配置云々といった話以前に、いくら支援しても政権は腐敗・汚職が絶えないし、政府軍の士気はあがらず、タリバンに寝返る者も珍しくない、米軍兵士は後ろからの銃弾に気を付ける必要がある・・・という状況に、これでは切りがないという徒労感を感じたことがあってのことでしょう。

【2009年時点で固まったバイデン大統領のアフガン撤退の決意】
もともとバイデン大統領自身がかつて、カルザイ前大統領との会食中に、“ナプキンを放り捨て、夕食は突然打ち切られた”というエピソードが示すように、アフガニスタン政権への強い不信感を持っています。

****アフガン撤退決断したバイデン米大統領、不信感が背景****
バイデン米大統領がアフガニスタン駐留米軍の早期撤退を進める裏には、10年以上前からくすぶり続けるアフガンへの不信感があった。 

2009年1月、オバマ政権の副大統領に就任する直前のバイデン氏はアフガンの首都・カブールを訪問。夕食の席で当時のカルザイ大統領に対し、アフガン市民全員のための統治に着手しない限り、米政府の支援を失いかねないと警告した。 

カルザイ氏は、米国はアフガン市民の死に無関心だと応酬。論争が進む中、バイデン氏はナプキンを放り捨て、夕食は突然打ち切られた。その場にいた数人が証言している。 

米国が反政府武装勢力・タリバンの政権を打倒した後、バイデン氏はアフガン再建のための強い軍事・人道支援を支持していた時期があった。タリバンは、2001年9月11日の米同時多発攻撃を首謀した国際テロ組織・アルカイダの元指導者、ウサマ・ビンラディン容疑者を支援しており、米国の攻撃はそれに対する報復だった。 

しかし、2009年のアフガン訪問で不快な経験をしたバイデン氏は、アフガン戦争は米国を泥沼に陥れ、勝利は不可能かもしれない、との思いを抱くようになる。 帰国したバイデン氏は、大統領就任直前のオバマ氏に対し、アフガンに増派すべき時ではないと強く警告した。 

2009年のアフガン訪問でバイデン氏に同行した長年の元側近、ジョナー・ブランク氏は「あれは単なる短気ではなかった。彼の中で楽観的な気持ちは、年を追うごとに失われていった」と語る。

しかし、バイデン氏はこの政策論争で敗れ、オバマ氏は最終的に増派を命じて2017年の任期いっぱいまで戦争を延期した。 

大統領の座に就いたバイデン氏は現在、一部の軍事専門家や民主・共和両党の議員、人道専門家の反対を押し切って、アフガン駐留米軍のほぼ全面的な撤退を進めている。 

(中略)バイデン氏は2009年の訪問で、アフガン政策が失敗すると確信した。 オバマ氏は昨年上梓した回顧録「約束の地」に、バイデン氏はこの時に見聞きしたことを通じて、戦略全体を再考する必要性を確信したと記している。(後略)【7月13日 ロイター】
*********************

バイデン氏の心の中ではアフガニスタン撤退は2009年時点で固まっていたようです。

現在の“政府軍総崩れ”状態も、(これほど急激だとは思わなかったにせよ)ある程度予測されたことではありますが、「それでも撤退する。これ以上関与しても無駄だ」という想いなのでしょう。

****「すでに米兵は何千人も死傷」バイデン大統領、アフガニスタンからの撤退に変更なし****
アフガニスタンで反政府武装勢力「タリバン」が攻勢を強める中、アメリカのバイデン大統領は、アメリカ軍を完全に撤退させる予定に変更はないと、あらためて強調した。

バイデン大統領「何千人ものアメリカ兵が死傷している。アフガン軍は、自力で国のため戦わなければならない」

バイデン大統領は10日、「アメリカ政府は、アフガニスタン軍への十分な支援を行っている」として、駐留部隊を8月末までに完全撤退させる決断について、「後悔していない」として、計画を変更しない考えをあらためて強調した。(後略)【8月11日 FNNプライムオンライン】
*******************

【アメリカに「自分たちで戦え」と言われても、装備のメンテナンス・資金で持続性の低い政府軍】
そのバイデン大統領はアフガニスタン政府・軍に対し、「戦う意思を持たなくてはならない」「アフガニスタンは自分たちのために戦わなければならない」と、正論ではありますが、見方によっては“突き放した”ような姿勢です。

****バイデン米大統領、アフガン政府に「戦え」と喝****
バイデン米大統領は10日、アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンが大規模攻勢によって国内各州の州都を次々と陥落させている問題で、アフガン政府軍に対し「戦う意思を持たなくてはならない」と述べ、タリバンに本腰を入れて反撃するよう呼びかけた。

バイデン政権は、タリバンが全土支配をにらんで支配地域を拡大させているのを受け、駐留米軍に協力したアフガン人通訳や翻訳者の国外脱出と米国への受け入れを急ぐ考えだ。

バイデン氏はこの日、ホワイトハウスで記者団に、アフガン駐留米軍の撤収を決めた自身の判断について「後悔していない」と述べ、予定通り今月末までに撤収作業を完了させる考えを明らかにした。

バイデン氏はまた、無人機によるタリバン攻撃を念頭に、アフガン政府に対する航空支援は続けると表明。アフガン政府軍への食糧や装備の供給、給与の支払いといった関与の継続も明言した。

これに対し、トランプ前政権で大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を務めたボルトン元国連大使は10日、産経新聞の取材に「駐留米軍の全面撤収は重大な誤りだ」と指摘。「タリバンは近い将来に全土を掌握するだろう」との見通しを示し、アフガンが再び対米テロの拠点になりかねないと懸念を表明した。

ボルトン氏はその上で、最悪の事態を食い止めるには「今が最後のチャンスだ」と語り、バイデン氏に対して米軍の全面撤収方針を早急に撤回し、小人数の米軍部隊の駐留を継続させるよう呼びかけた。

タリバンの攻勢激化は、バイデン政権が進めるアフガン人通訳らの国外脱出にも深刻な影響を及ぼす恐れが出ている。

アフガンを脱出した通訳およびその家族をめぐっては、その第1陣となる2500人のうちの200人が7月30日に米国に到着し、南部バージニア州のフォート・リー陸軍基地で特別移民ビザ(SIV)の取得手続きに入った。

国務省によると、特別ビザを申請している通訳およびその家族らは合計で約2万人。これら全員を駐留米軍の撤収期限までに国外に移送するのは不可能で、米軍撤収後も国外移送の作業が続くのは確実だ。

ただ、タリバンが急速に支配地域を拡大しているせいで、地方では脱出の機会を逸した通訳らがタリバンに「裏切り者」と見なされて次々と殺害されているとの情報もある。

通訳らは安全を求めて首都カブールに集結しつつある。ただ、そこから脱出を果たせるかは、バイデン氏が「支援」を確約するアフガンのガニ政権が、タリバンの攻勢を前に首都を死守できるかにかかっている。【8月11日 産経】
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少なくとも今は米軍の空爆支援もありますし、撤退後も無人機による航空支援は続くようです。装備的にはタリバンをはるかにしのぐ近代兵器を有しています。政府軍は何と言っても空軍力も有しています。

アメリカからすれば、これだけ条件的に勝っているのだから、あとはヤル気次第だ・・・という話にもなりますが、敢えてアフガニスタン政府軍の立場で言えば、(これまでアメリカ側が行っていた)継続的な整備が出来ない近代兵器など、すぐにゴミの山になってしまうでしょう。

****外国軍の完全撤退迫るアフガン 規模でタリバンしのぐ政府軍の弱点とは?****
外国軍がほとんど撤退したアフガニスタンで旧支配勢力タリバンが勢力図を拡大する中、政府軍の能力に疑問が投げ掛けられている。

専門家によると、アフガニスタン軍とタリバン、全く異なる2勢力の対決を決定付けるのは、装備や兵力のみならず士気かもしれない。
 
この戦いは従来の軍事衝突とは違う。一方は、訓練・装備の面で超大国に支援された大規模な軍隊。もう一方は、小規模ながら、豊富な供給力を誇り、麻薬資金に支えられているイスラム過激派だ。
 
米国はアフガニスタン軍に数百億ドル(数兆円)を投じ、暗視ゴーグルから戦闘ヘリコプター、装甲車、偵察用ドローンに至る最新兵器やハイテク機器を提供してきた。また国家警察隊を含め30万人以上を擁するアフガニスタン軍は、タリバンよりも規模が大きく、武器や技術も先進的だ。
 
一方のタリバンは歩兵を主体とするゲリラ軍で、空軍を持たない。兵力は、国連による昨年の推計では5万5000〜8万5000人とされている。
 
だが、数だけですべてを語ることはできない。
 
タリバンが主に使用している武器は、戦闘で荒廃した国内で入手しやすいものか、闇市場で調達したもので、自動小銃AK47の派生モデルなど旧ソ連で設計されたものだ。さらにタリバンは、アフガニスタン軍から欧米製の武器や装備を奪い、イランやパキスタンなどから物質的支援や助言を受けているとされる。
 
タリバンの戦闘スタイルについて、米軍事シンクタンクCNAのテロ対策専門家ジョナサン・シュローデン氏は、アフガニスタン軍に比べると「ロジスティクス(兵たん)面がかなり分散されている」と指摘する。
 
タリバンは、財政面でも軍よりはるかに自立度が高いとみられている。国連の監視機関によると、タリバンは国内の巨大な麻薬産業や犯罪行為、支配地域での徴税などから年間3億ドル(約330億円)から15億ドル(約1650億円)の収入を得ている。

■持続性の低い軍隊は不利
一方、アフガニスタン軍は年間50億〜60億ドル(約5500億〜6600億円)の資金を必要とするが、そのほとんどは米国を中心とする外部の資金源によって賄われている。
 
空軍はタリバンを圧倒する攻撃手段になるが、整備要員が不足しており、その役目を主に担ってきた米国の請負業者も米軍と一緒に撤退する。
 
米軍が1月に発表した評価によると、アフガニスタン軍の飛行機やヘリコプターは数か月以内にも戦闘で使えなくなる可能性がある。
 
残留部隊を統括する米司令官は、第三国でアフガニスタン軍機を整備することも可能だと述べているが、どんなに規模が大きく、装備が充実していても、持続性の低い軍隊は、外国の支援が途絶えた途端に不利になり得る。【8月10日 AFP】
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【首都防衛も危うい状況で崩れるアメリカのシナリオ パキスタン「責任を押しつけられている」】
アメリカが「優れた装備があるじゃないか」という利点は持続性に欠き、何より冒頭に示したように士気が低いとなると・・・・通訳など米軍協力者の脱出時間を確保するための首都カブール防衛すら危ういものに思えてきます。

****猛攻タリバン、首都狙う 幹部「3、4週間で占領」****
猛攻を続けるアフガニスタンの反政府武装勢力タリバンは11日までに、全34州都のうち9州都を制圧した。

2001年の米中枢同時テロ後に米軍などの攻撃を受けてタリバン政権が崩壊して約20年。駐留米軍撤退完了が今月末に迫る中、タリバン幹部は首都カブールに向け進撃しているとし「3、4週間で首都を占領する」と述べた。
 
米軍の後ろ盾を失ったアフガン政府は防戦一方。約6割の地区をタリバンが支配し、この数カ月で戦闘地域から数十万人が避難した。米紙ワシントン・ポストは10日、カブールが3カ月以内に陥落する可能性があるとの米軍の分析を報じた。【8月11日 共同】
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“3、4週間”だか、“3カ月以内”だかはわかりませんが、アメリカ側がつい最近言っていた“半年”という時間も持たないと思わせる状況です。

もちろん、このまま一気呵成に首都に迫るのか、いったん有利な立場で和平交渉に持ち込むのか・・・そこらはわかりません。

****米、タリバンに攻勢中止求める=アフガン撤収期限控え対応苦慮****
(中略)米国が想定するのは、タリバンの攻勢を食い止めた状態で停戦を成立させ、アフガン政府との和平交渉の席に着かせるというシナリオ。

米軍撤収後は原則として政府軍が治安維持の全責任を負うという構想は変えておらず、カービー氏は「守るべきは彼ら(アフガン政府)の国であり、これは彼らの戦いだ」と主張する。
 
バイデン大統領は先月、ガニ・アフガン大統領との電話会談で、アフガン情勢の「持続的な政治解決を支援する米国の外交関与」を確認した。だが、タリバンがさらに勢力を拡大すれば、仮に停戦が実現しても、アフガン政府は一層不利な立場で和平交渉に臨むことになる。【8月10日 時事】
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****アフガン和平交渉、タリバンは決裂望んでいない=アルジャジーラ****
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンのスポークスマンは10日、アルジャジーラテレビに対して、アフガン政府との停戦に向けた交渉に引き続き取り組んでおり、交渉の決裂は望んでいないと述べた。

アフガン政府とタリバンの高官は先月、中東カタールの首都ドーハで停戦に向けた直接協議を開始した。

政府側の代表はアルジャジーラに対して、交渉における「双方の真剣さを見極めるため」仲介者が必要だと述べた。

一方でタリバンのスポークスマンは「調停者の原則を拒否したのは政府であり、タリバンではない」とし、「われわれは、国際社会に現実を正確に評価することを求める」と語った。

アフガン政府代表団のメンバーは「タリバンは交渉に関心がなく、暴力での目的達成に関心がある。国際社会はタリバンが真剣な姿勢を示すよう圧力をかけるべきだ」と主張している。【8月11日 ロイター】
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これまでタリバンを支援してきたとされるパキスタンは、タリバンを説得・コントロールする影響力などないと主張しています。

****進まぬアフガン和平 パキスタン首相補佐官「戦闘長期化は悪夢」****
パキスタンのモイード・ユスフ国家安全保障担当首相補佐官が9日、首都イスラマバードで毎日新聞など一部海外メディアと会見した。(中略)

パキスタンは隣国アフガンへの影響力を保持するため、長年にわたりタリバンを支援してきたとされる。現在もタリバン指導部やその家族の一部がパキスタン国内に潜伏しているとされ、国際社会にはパキスタンを批判する声も根強い。

これに対してユスフ氏は、「(国際社会は)莫大(ばくだい)な資金を費やしてアフガン軍の装備を充実させ、訓練をしてきた」と指摘。それにもかかわらず「アフガン政府の中には失敗の責任をパキスタンに押しつけようとしている人がおり、我々はスケープゴートにされている」と反論し、現在のアフガン情勢混迷にパキスタンは無関係との立場を強調した。
 
さらにユスフ氏は、パキスタン側もタリバンに対する影響力が低下していると説明。タリバンが8月初めにパキスタンとの国境の一つを閉鎖したことを例に挙げ、「パキスタンは国境を開けるよう求めたが、タリバンを説得できなかった」と話した。アフガン国内で支配地域を拡大し、攻勢を強める現在のタリバンにとって、パキスタンは既に頼る必要性が薄れている可能性もある。
 
仮にタリバンがアフガンの首都カブールを制圧した場合の対応については、「(パキスタン政府は)武力制圧には反対だが、今はタリバンを正式な政府として承認するかどうかを話すべき時ではない。政治的解決に集中すべきだ」と述べるにとどめた。(後略)【8月10日 毎日】
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