孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イタリア・メローニ政権、救助船受け入れ拒否 改めて露呈した移民・難民対応の困難さ

2022-11-20 23:12:37 | 難民・移民
(地中海中央部、イタリア半島と仏領コルシカ島の間の海域ティレニア海を航行中の移民救助船「オーシャン・バイキング」船上で、矢印の上に「フランス」と書かれた段ボール箱からのぞく子どもの指(2022年11月10日撮影)【11月20日 AFP】)

【まずまず安心出来るスタートを切ったイタリア・メローニ首相】
イタリアでは10月、極右政党とも評される「イタリアの同胞」を率いるジョルジャ・メローニ氏が首相に就任し、新たな右派内閣を組閣しました。

メローニ首相のムッソリーニへに関するかつての言及や、連立政権のパートナーである「同盟」のサルヴィーニ氏や「フォルツァ・イタリア」のベルルスコーニ元首相が親ロシア的な言動を行ってきたことなどで、イタリア新政権によってウクライナ支援などにEUの結束が乱れるのでは・・・とも危惧されていました。

ただ、ウクライナ問題に関しては、メローニ氏自身がこれまでもウクライナ支援を明言してきたこともあって、現段階では問題は出ていません。その他の経済問題などについても「無難」なスタートを切ったとも評されています。

****イタリア右派メローニ政権まずまずの船出と課題****
イタリアでは総選挙の結果を受け、右派FdI(イタリアの同胞)のジョルジャ・メローニが首相となった。Economist誌11月5日号の社説は、メローニ政権は閣僚人事および政策の面で比較的安心出来るスタートを切ったが、難題をメローニ首相がどのように克服して行けるかは明らかでない、と論じている。主要点は次の通り。

・メローニ政権は予想より長く持つかもしれない。メローニは三つの安心材料を提供している。

・第一に、ウクライナについての彼女の態度は確固たるものである。彼女はプーチンを略奪者と見ている。彼女は議会における最初の演説で「主権国家の領土的一体性の侵害は受け入れられないだけでなく、我々の国益を守る最善の道である」としてウクライナに対するイタリアの支持を強調した。

連立政権のパートナーである「同盟」のサルヴィーニとFI(フォルツァ・イタリア)のベルルスコーニにはプーチンにおべっかを使った前歴があるが、連立政権におけるFdIの立場は圧倒的だ。

また、前任のドラギがエネルギー供給の多様化を巧みに進めたお陰で、プーチンが欧州を凍えさせようとしても、イタリアが「弱い環」にはならないように見える。

・第二に、多くの人がメローニをビクトル・オルバン(ハンガリー首相)の女性版のように見て来たが、メローニが欧州連合(EU)と喧嘩したがっているようには見えない。外相には欧州議会元議長のアントニオ・タヤーニを起用した。彼女はドラギとEUの間で合意された経済改革計画を多少手直しして維持するようだ。

・第三に、財務相として、中央銀行の経歴を有する尊敬される人材を起用できなかったのは残念だが、「同盟」の副党首でプロ・ビジネスの一派に属するジャンカルロ・ジョルジエッティ(ドラギ政権では経済開発相)が起用されたのは妥当だ。

・以上の通り、これまでのところ、比較的安心させられる。しかし、ユーロ圏が恐らく不況に向かうにつれ、イタリアはEU内で最も心配の種になる。

メローニはイタリア経済を成長に転じさせる興味あるアイディアをまだ示していない。多くの観測筋はドラギが推進した改革のプロセスが今や遅延し、あるいは国家主義と保護主義に逆転すると心配している。

イタリアの巨額の債務(2兆7000億ユーロ、国内総生産(GDP)比150%)は金利が更に上昇すれば耐え難いものになる。メローニの政治的経験の浅さも懸念材料だろう。

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(中略)以上を要するに、メローニの政権は西側にとってまずまず安心出来るスタートを切ったということである。しかし、最も大きな不確実性は財政運営であろう。(後略)【11月17日 WEDGE】
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【救助船受入れ拒否でフランスと対立】
“まずまず安心出来るスタート”“EUと喧嘩したがっているようには見えない”・・・とは言いつつも、問題が生じていない訳でもありません。それは難民問題です。

アフリカ・中東から押し寄せる難民・移民に関しては、イタリアはその「玄関口」の位置にあることから、これまでもフランスなどとは対立してきました。

難民・移民に厳しいスタンスをとる「右派政権」となったことで、その対立が更に先鋭化することも危惧されます。

****メローニ伊右派政権、移民救助船の受け入れ拒否 仏が受け入れ 両国対立****
イタリアで先月発足したメローニ首相の右派政権が、約230人を乗せた移民救助船の受け入れを拒否した。船は3週間近く漂流し、フランス政府が10日、人道的見地から受け入れを発表した。イタリア政府を強く批判し、両国の外交問題に発展している。

移民救助船は、ドイツで発足した人道支援団体が地中海で運営している。今回乗っていたのは、リビア沖で10月に救助されたアフリカからの移民や難民。イタリアが受け入れを拒否した後、船内は病人が出るなど衛生環境が悪化していた。

国際法では、遭難者の救助が義務付けられているが、イタリア政府は「乗船しているのは遭難者ではなく、移民だ」として受け入れ拒否を正当化してきた。メローニ首相や右派与党は9月の総選挙で、移民流入の阻止を公約にした。

フランスのダルマナン内相は10日の記者会見で、「イタリア政府が、欧州の責任ある国家として行動しないのは遺憾」「理解しがたい」と不満を示し、救助船受け入れは例外措置によるものだと主張した。

これに対し、イタリアのサルビーニ副首相は「イタリアには今年、9万人も流入したのに、フランスはこのうち38人、欧州連合(EU)で117人しか受け入れていない」とツイッターで発信し、EUの移民政策を批判した。

EUは地中海岸のイタリアやギリシャの負担を軽減するため、有志国が移民や難民受け入れを分担する仕組み作りを目指すが、実現は難航している。【11月11日 産経】
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イタリア側の説明では、今年1月からイタリアに上陸した移民は9万人。フランスを含むEUの複数の加盟国がそのうち計8千人を分担して受け入れると約束しているが、実際に受け入れられたのは117人にととどまる・・・ということでは、イタリアの不満もわかります。「どうしてイタリアだけが・・・フランスが受け入れればいいじゃないか」といったところでしょう。

イタリア、ギリシャ、キプロス、マルタの欧州4ヶ国は、これ以上の難民を受け入れることができないとする共同声明を出しています。

****地中海沿岸欧州4ヶ国、これ以上の難民を受け入れ不能****
地中海経由の流入難民の受け入れに関する、イタリアとフランスの間の対立が激化している中、地中海に面するイタリア、ギリシャ、キプロス、マルタの欧州4ヶ国が共同声明を発表し、これ以上の難民を受け入れることができない、としました。(中略)

今年の第一四半期にEU圏に入った難民や移民の数は、2016年以来最多数を記録しています.

ユーロニュースのインターネットサイトによりますと、今年1月から3月までの間に、4万人以上の難民がEU諸国に入っており、前年比で57%の増を示しています。

ヨーロッパへの違法難民の大量流入の主な原因としてウクライナ危機、一部の国の混乱した経済状況や旱魃などが挙げられます【11月13日 Pars Today】
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上記4ヶ国は、加盟国の任意とされているEUの流入移民管理の在り方を批判。イタリアに到着した移民をEUの全加盟国に強制的に割り振るよう欧州委員会に呼び掛けています。

今回の救助船は、国際NGO「SOSメディテラネ(地中海)」が運航する「オーシャン・バイキング」で、リビア沖で10月に救助された230人の移民や難民を乗せており、そのうち約60人は子どもでした。

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今回上陸した難民234人は、人数の多い順にバングラデシュ人が54人、次いでエリトリア人が39人、シリア人が32人、エジプト人が27人、マリ人が25人、その他ギニア、スーダンなど、戦争や悲惨な状況、抑圧から逃れてきた計11国籍の人々であった。

しかしながら234人のうちパスポートを所持していたのはわずか25人だったといい、ほとんどが18歳〜30歳もしくは未成年の若者で、うち10人ほどが2005年1月1日という同じ生年月日を申告していたという。

なおフランス政府は現在のところ、234人のうち44名の強制送還を発表している(正確な理由は不明)。【11月17日 Design Stories】
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“今回(フランス)トゥーロンで下船した移民のうち、フランスとドイツがそれぞれ3分の1程度を引き受け、残る3分の1についてはブルガリア、クロアチア、フィンランド、アイルランド、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、ノルウェー、ポルトガル、ルーマニアが引き受けに同意している。”【11月20日 AFP】

【フランス 労働力不足で移民政策の転換か】
フランスも今回受入れにあたって、議会で揉め事も起きています。

****黒人議員演説中に「アフリカに帰れ」 仏極右議員、登院停止に****
フランスの国民議会(下院)は4日、黒人議員の演説中に「アフリカに帰れ」と議場でやじを飛ばした極右「国民連合」所属の議員に対し、15日間の登院停止と議員報酬半減という異例の処罰を賛成多数で決定した。発言は超党派で非難を呼んでいた。

左派「不屈のフランス」所属のカルロス・マルテン・ビロンゴ議員が3日、仏NGO「SOSメディテラネ」が海上で234人の移民を救助した船の寄港先を確保するよう求めていることを受け、代表質問を行っていたところ、「アフリカに帰れ!」と国民連合の新人議員グレゴワール・ドフルナス氏がやじを飛ばし、議場は騒然とした。

ドフルナス氏は、特定の個人への人種差別ではなく、地中海で救助される不法移民に対する発言だったと弁明した。

今回の処罰は、議場での議員の言論の自由を広く認める議会規則の中では最も重い。1958年に当時のシャルル・ドゴール首相が樹立した第五共和制史上、議員がこうした処罰を受けるのは2度目。

ドフルナス氏の発言は誰を対象にしたか明確ではないが、ヤエル・ブロンピベ議長は採決後、「人種差別は、その対象が何であれ、議会でわれわれを一つにしている共和国の価値観に反している」と述べた。 【11月5日 AFP】
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なお、今回の救助船受入れは別にしても、フランスは現在、移民政策の転換期にあるとの指摘も。理由は労働者不足です。

****フランス、移民政策転換期か?『オーシャン・バイキング号』を巡って議論が活発化****
(中略)
移民と難民では定義が異なるが、彼らと長く対峙してきたフランスは、今まさに移民政策の転換期を迎えているのかもしれない。

というのも、オーシャン・バイキング号の問題とは別に、フランス政府が外国人労働者を今後さらに受け入れる考えがあるため。

これは、2023年前半に予定されている亡命・移民法草案の一環として、過去2年間に爆発的に増えたフランス国内の人材不足(レストラン従事者、ホテル業務、農業、建設業など)を緩和するために計画されているものだ。

内容は主に、こうした仕事への就労を望む者に対し1年間有効の特別滞在許可証を発行し、かつ亡命者がフランスに入国してから6ヶ月間働くことができない期間を取りやめるというもの(犯罪歴がないことなどが前提条件)。

労働力不足の解決の糸口になるとされているが、極右政党からは当然のように反対の声が上がっており、今後の行方に注目が集まっている。

パリで12歳の少女が不法滞在者によって殺害された「ローラ事件」に始まり、オーシャン・バイキング号、イギリス海峡における英仏協定、そして外国人労働者の拡大問題と、今のフランスは移民政策に関する話題で持ちきりだ。

他のヨーロッパ諸国は右傾化するところもあるが、フランスがどう舵をとっていくのか、これからの動きに着目したい。【11月17日 Design Stories】
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なお、移民・難民に関する欧州各国の対応について以前から指摘されているのは、ウクライナ難民とアフリカ・中東からの難民・移民に対する扱いが“二重基準”ではないかということ。

【ウクライナ難民の対応と差 “二重基準”】
****欧州、ウクライナ・アフリカ難民対応で「二重基準」 IFRC会長****
国際赤十字・赤新月社連盟のフランチェスコ・ロッカ会長は16日、欧州の難民対応には「ダブルスタンダード(二重基準)が存在する」と指摘し、アフリカ出身とウクライナ出身で著しく扱いが異なると非難した。(中略)

ロッカ氏は記者会見で、ウクライナ東部ドンバス地方から逃れる人と、ナイジェリアのイスラム過激派組織ボコ・ハラムによる暴力から逃れる人の間に違いはないと訴えた。

欧州社会が短期間にウクライナ難民数百万人を受け入れた点を称賛する一方、主に地中海経由で欧州入りしているアフリカ難民を数千人しか受け入れていない点を惜しんだ。

さらに「暴力から逃れる人、庇護希望者は平等に扱われるべきだ」として、「民族や国籍に基づいて命を救うかを決めるべきではない」と主張した。

さまざまなリスクがあり、虐待されることもあると分かっているにもかからわず、アフリカから欧州を目指す難民は後を絶たない。国連の統計によると、昨年は3万1000人以上が危険で命を落とすことも多い地中海ルートでリビアからイタリアに渡った。

一方、2月末にロシア軍が侵攻を開始して以降、ウクライナから国外に逃れた難民は600万人以上となっている。 【5月17日 AFP】
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「巨大な墓場」地中海を渡る移民・難民に目を向けると、国際移住機関(IOM)によると、今年1~10月に地中海で死亡・行方不明になったのは1912人。2014年以来、この海域で消息を絶った人々はわかっているだけでも2万5千人を超えるとのこと。

犠牲者の多くはコートジボワールやスーダン、マリなどアフリカの国々で、紛争や貧困から逃れるために危険を冒して欧州を目指す人が絶えません。

****地中海で船が転覆 移民ら89人の死亡確認 行方不明者の捜索続く****
(中略)多くの移民や難民がよりよい生活を求めてヨーロッパを目指す中、地中海で命を落とすケースが後を絶ちません。
シリアの国営通信などによりますと、シリア沖の地中海で22日、移民らを乗せた船が転覆し、およそ20人が救助されましたが、これまでに89人の死亡が確認され、現在も行方不明者の捜索が続いているということです。

救助された人たちなどの話によりますと、船にはおよそ150人が乗っていて、地中海にある島国のキプロスを目指して中東のレバノンを今月20日に出港しましたが、シリア沖で転覆したということです。

レバノン当局は事態を受けて、国内で移民の密航に関わったブローカーの摘発などに乗り出しましたが、経済危機が深刻化するレバノンではよりよい生活を求めてヨーロッパを目指す移民が後を絶ちません。

また北アフリカなどからも移民や難民が地中海を渡ってヨーロッパを目指していますが、船が転覆するケースが相次いでいて、IOM=国際移住機関によりますと、ことしに入ってこれまでに1600人以上が命を落としているということです。【9月25日 NHK】
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【ローマ法王 「困っている人にドアを開けないのは犯罪である」】
フランシスコ・ローマ法王は「困っている人にドアを開けないのは犯罪である」と語っています。

****国連、リビアでの「凶悪な虐殺」を非難****
(中略)ローマ法王フランシスコは移民を熱心に擁護し、彼らを排除する行為を「恥ずべき、嫌悪すべき、罪深い」と形容した。その結果、イタリアの次期右派政権と衝突することになった。

フランシスコ法王は、「移民の父」として知られる19世紀の司教と、アルゼンチンで病人に奉仕した20世紀の人物を列聖する際、自らのコメントを残した。

移民支援を教皇職の主要課題としてきたフランシスコ法王は、サンピエトロ広場に集まった5万人の人々の前で式典を司会した。

その際、「移民の排除は恥ずべき行為だ。実際、移民の排除は犯罪的行為である。彼ら移民を私たちの目の前で死なせてしまうのだ」と同法王は述べた。

さらに、「そして今日、地中海は世界最大の墓地となっている」とし、欧州に到達しようとして溺死した何千人もの人々に言及した。

「移民を排除するのは嫌悪すべきことであり、罪深いことだ。困っている人にドアを開けないのは犯罪である」。同法王はこう付言した。【10月10日 ARAB NEWS】
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ひとは生まれる国を選べない「国ガチャ」、国によっては紛争・貧困など個人の努力では如何ともし難い問題が。

確かに移民・難民を受け入れることで、経済・治安などで問題も起きます。
ただ、その問題の多くは、受け入れ側の本気でない対応、厄介者扱いする対応によって生じているのではないかと考えています。

難民・移民の問題でいつも思うのは、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」・・・と言う話は何度も書いているので今回はパス。
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イラン製ドローンの部品のほぼ3分の1が日本製 難しい軍事転用防止の輸出管理

2022-11-19 23:03:36 | 軍事・兵器
(【11月17日 WSJ】 ウクライナは相次ぐドローン攻撃について、ロシアに供給されたイラン製ドローンによるものだと主張していますが、そのイラン製ドローンの部品の3分の1が日本製だとの報告が)

【イラン製ドローンの部品のほぼ3分の1は日本企業によって製造されていた】
ウクライナ攻撃でロシア軍がイラン製ドローンを使用していること、イランは当初ロシアへの供与を否定していましたが、その後「少数の無人機を侵攻前に供与した」と限定的に認めたものの、ウクライナ・ゼレンスキー大統領はロシア軍が大量使用している実態と異なるとして「イランはまだ嘘をついている」と批判していること・・・などは、11月7日ブログ“イラン バイデン米大統領は「解放する」とは言うものの熾烈な当局のデモ弾圧 対露ドローン供与問題”でも取り上げました。

そのイラン製ドローンに日本製部品が多数使用されている(確認部品のほぼ3分の1)とのことです。

****イラン製ドローン、部品の大半は西側製 ウクライナ分析****
ウクライナの情報当局が同国で墜落した複数のイラン製ドローン(無人機)を分析した結果、部品の大半は米欧など同志国の企業によって製造されていたことが分かった。

事情に詳しい関係者やウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した資料によると、西側当局者らはこの問題に対し懸念を強めており、米政府は調査に乗り出している。

ウクライナ情報当局はWSJが確認した資料の中で、墜落したイラン製ドローンの部品のうち、4分の3は米国製との推定を示した。ウクライナ軍は複数のドローンを撃墜したほか、イラン製「モハジェル6」1機は当局が飛行中にハッキングし無傷で着陸させたという。

部品の詳細はウクライナの軍情報部が特定し、首都キーウ(キエフ)を拠点とする非営利団体「独立反汚職委員会(NAKO)」が確認した。NAKOの報告書をWSJは閲覧した。

この報告書によると、ウクライナ当局が特定した200個以上のドローン部品のうち、半分ほどは米国に拠点を置く企業によって、ほぼ3分の1は日本企業によって製造されていた。

米国で輸出規制を担当する当局者と部品の製造元とされた企業はWSJの取材に対し、部品の出所を確認できなかったか、あるいはコメントの要請に応じなかった。

イランの国連代表部は西側製の部品の使用についての質問には答えなかったが「技術専門家のレベルでウクライナと会談し、ドローンや部品の出所を巡る主張について調査する用意がある」と述べた。

米シンクタンクの科学国際安全保障研究所(ISIS)を創設したデービッド・オルブライト氏は、イランのドローンに外国製部品が組み込まれた経緯を突き止めることが重要との認識を示した。

ISISは先月、イラン製ドローンに関する独自の分析を発表。その中で、中国企業がイランに対し、ドローン生産向けに西側製の模造品を供給していることを示唆する証拠もあると指摘していた。

米商務省で輸出管理を担う産業安全保障局(BIS)は西側で製造された部品を巡り調査を開始したと関係者は語る。
商務省高官は具体的な問題に対するコメントは避けつつ、「ウクライナの人々への攻撃を目的とした武器がウクライナに流入する」事態への対処は「最優先事項」との認識を示し、これに関連した不正輸出があれば調査する方針を示した。

ロシアはイラン製ドローンを使い、ウクライナの主要インフラを攻撃してきた。
こうした西側製の部品は、イラン製ドローンの拡散を食い止めようとする当局が直面する困難を浮き彫りにしている。

問題となっている部品の多くは輸出規制の対象になっていないと安全保障関係者らは指摘する。インターネットで購入し、他国を経由して目立たずにイランに送ることは容易だという。

ウクライナ情報当局の資料とNAKOの報告書によると、モハジェル6に搭載されたサーボモーターは日本企業の利根川精工によって製造された。同社はコメントの要請に応じなかった。

日本の経済産業省は昨年、無許可でサーボモーターを中国に輸出しようとした疑いで利根川精工を告発した。国連の調査で、イラン製ドローンに同社製の部品が使われていることが見つかっていた。利根川精工は日本のメディアに対し、軍事ドローンに使われるとは知らなかったと説明した。

NAKOの報告書などによると、半導体大手2社、独インフィニオン・テクノロジーズと米マイクロチップ・テクノロジーの関連会社は、イラン製ドローンに搭載された電子部品を製造していた。

在米日本大使館の広報担当者は、日本の製品や技術の軍事転用防止に向けて引き続き外国為替及び外国貿易法に基づく厳格な輸出管理を行うと述べた。【11月17日 WSJ】
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【軍事転用取引の現場 「利根川精工」のケース】
“日本の製品や技術の軍事転用防止に向けて引き続き外国為替及び外国貿易法に基づく厳格な輸出管理を行う”・・・ただ、「国益を考えない生産者が中国など外国勢力と結託して・・・」といったイメージと実際は異なり、当事者には購入者が何に使用するかよくわからないことも。

上記記事にもある利根川精工は社長、取締役、従業員2人の計4人の零細町工場で、書類送検当時90歳の社長は「まさかうちのモーターが…」と語っています。

****軍用ドローンに転用可能「高性能モーター」を輸出…都内業者が中国・イエメンに****
軍用ドローンなどに転用可能な高性能モーターを中国企業に無許可で輸出しようとしたとして、警視庁公安部は、東京都大田区の精密機械メーカー「利根川精工」と男性社長(90)を外為法違反(無許可輸出未遂)容疑で近く書類送検する方針を固めた。モーターは実際に中国や内戦が続く中東イエメンに輸出されており、公安部が実態を調べる。

外為法違反容疑で書類送検へ
捜査関係者によると、利根川精工は昨年6月、経済産業省の許可を得ず、軍事転用可能なモーター150個(計約500万円相当)を中国の企業に輸出しようとした疑いがある。東京税関の検査で発覚した。

モーターは電子信号を受信してドローンなどの動きを制御する仕組みで、優れた防水・防じん性能も備える。中国では農薬散布用の無人ヘリコプターに搭載される予定だったという。

UAEで押収されたモーター(国連専門家パネルの報告書から) 一方、国連の専門家パネルが昨年1月に公表した報告書によると、利根川精工は2018年11月、イエメンの企業にモーター60個を輸出したが、経由地のアラブ首長国連邦(UAE)で押収された。

同じモーターは16年にアフガニスタンで墜落したイランの無人機の残骸からも見つかっていた。専門家パネルは、モーターがイランと関係の深いイエメンの反政府武装勢力「フーシ」の支配地域に出荷され、爆発物を積む軍用ドローンや、軍用ボートに使われる予定だったと分析した。【21年7月6日 読売】
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“モーターは輸出先のメーカーを経由して別の中国企業に送られる予定だった。この企業の親会社は中国人民解放軍と取引があったとみられる。”【21年7月6日 nippon.com】

****「なぜ中国人がうちに…」外事警察に摘発された90歳社長の告白****
賛否両論が渦巻くオリンピック一色の東京で、小さな町工場を経営する90歳の老社長が頭を抱えていた。中国に自社製のモーターを輸出しようとしたところ、外為法違反容疑で警視庁に書類送検されたのだ。中国では軍事転用される危険があったとされる。

「まさかうちのモーターが…」。零細企業の技術を中国側が求めた理由は何だったのか。立件から6日で1カ月。事件の背景を追った。

従業員2人の町工場
警視庁に書類送検された「利根川精工」は東京都大田区の住宅街の一角にあった。建物は3階建てで自宅も兼ねている。1962年創業。従業員はずっと数人しかおらず、現在も社長、取締役、従業員2人の計4人という有限会社だ。

会社を訪ねると、社長が室内に招き入れてくれた。事務所は6畳もないようなスペースでパソコンやプリンター、本棚が所狭しと並ぶ。取材中、会社の電話が複数回鳴った。「あんたは国賊だ」。警視庁の発表後、無言や嫌がらせ電話が相次いでいるという。

「なぜうちが中国に着目されたか分からない」。当惑しながら、社長は中国企業からアプローチがあった時のことを語り始めた。

“中国商社員”の飛び込み営業
3年ほど前のことだった。外出先から会社に戻ると、見慣れない男性が、連れてきた通訳を通じて従業員と話し込んでいた。「農薬散布用ヘリコプターに使うので、モーターを売ってほしい」。男性は中国の商社社員を名乗り、日本語でモーターの回転角度など細かい性能についても注文をつけたという。

名刺を受け取った記憶はない。男性は「妻」という女性と4~5歳くらいの子どもを連れていた。(後略)
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この利根川精工社長は不起訴となっています。

****不正輸出未遂疑い不起訴 東京地検、軍用ドローン部品****
東京地検は25日までに、軍用ドローンの部品に使われる恐れがあるモーターを中国企業に不正輸出しようとしたとして、外為法違反(無許可の貨物輸出未遂)の疑いで書類送検された東京都大田区の機械製造会社「利根川精工」の社長(91)を不起訴とした。22日付。会社の関係者は会社も不起訴になったと明らかにした。【7月25日 共同】
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「利根川精工」側にどの程度の認識があったのかを含め、上記記事以上の情報は知りません。

【当局の強引な捜査が“冤罪”を生むことも 噴霧乾燥装置製造の「大川原化工機」のケース】
軍事転用が可能かどうかは微妙で、“冤罪”を生む取り締まる側の強引な手法が問題視されるケースも。
生物兵器の開発に転用可能とされる液体を粉状に噴霧乾燥させる機械をめぐる「大川原化工機」の案件。

****初公判4日前に起訴取り消し 不正輸出事件で異例の判断****
生物兵器などに転用が可能な噴霧乾燥装置「スプレードライヤ」を中国と韓国に不正に輸出したとして、外為法違反(無許可輸出)罪などで起訴された精密機械製造会社「大川原化工機」(横浜市)と同社社長の大川原正明氏(72)、元取締役の島田順司氏(68)について、東京地検は30日、いずれも起訴を取り消した。両氏の初公判期日は8月3日に指定されていたが、4日前に起訴を取り消す異例の判断となった。

両氏は昨年3月に警視庁公安部に逮捕されて以降、今年2月に保釈されるまで1年近くにわたって勾留された。両氏とともに逮捕された同社顧問の男性は体調の悪化により勾留の執行が停止され、その後死亡したため東京地裁が公訴棄却を決定していた。

地検公判部によると、起訴後に被告側の弁護人からの主張を踏まえて再捜査した結果、装置が貨物の輸出規制を定めた省令に該当しない可能性が浮上。「定置した状態で内部の滅菌または殺菌をすることができる」という要件を満たすかどうかに疑問が生じ、追加の立証には相当の期間を要するため、被告側の刑事裁判の負担を考えて起訴の取り消しを決めたという。

大川原化工機の広報担当者は30日、産経新聞の取材に対し「当初から無罪を主張しており、社員としても無罪を信じていた。当然の結果だと思う」とコメントした。【2021年7月30日 産経】
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****中国への不正輸出容疑で逮捕、その後起訴取り消し…分断招く経済安保、国民生活にも影響****
◆全く身に覚えなく…勾留11カ月、取引先失う
横浜市の化学機械メーカー「大川原化工機」の大川原正明社長(73)は2020年3月、生物兵器の製造に転用可能な噴霧乾燥装置を中国に不正輸出したとして逮捕、起訴された。全く身に覚えのない話だった。

兵器製造に転用できる性能はないと独自の実験を重ねて反論。初公判直前に起訴は取り消されたが、勾留は11カ月間に及び、取引先を失った。「売り上げは減少し、有罪にされたら会社を畳むしかなかった」

当時は米中対立の激化を背景に、日本でも先端技術の流出を防ぐ「経済安全保障」の必要性が叫ばれていた時期。大川原さんは、捜査当局が法整備を見据えて「実績として摘発したかったのでは」と推し量った。

先の通常国会で成立した経済安全保障推進法は、半導体をはじめとする「重要物資」の供給網から中国などを切り離すことにもつながる内容だ。規制違反への罰則もあるが、その対象などは法律で具体的に示されず、政省令で決められる内容は138項目もある。何が対象になるか不透明で、企業の自由な経済活動を萎縮させかねない。

今後、国際的なモノのやりとりに一定の制約がかけられる。その範囲が広がるほど、戦前のようなブロック経済に近づく。自由貿易の恩恵を受けてきた私たちのくらしへの影響は避けられない。【6月20日 東京】
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****起訴取り消し、1130万円補償へ 「無罪受けるべき理由」―東京地裁****
生物兵器製造に転用可能な噴霧乾燥機を不正輸出したとして外為法違反罪などで起訴され、その後起訴を取り消された化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の大川原正明社長(72)らによる刑事補償請求で、東京地裁が長期の勾留に対し計1130万円の支払いを決定したことが9日、同社長らの代理人弁護士への取材で分かった。

決定は7日付。平出喜一裁判長は「起訴事実が審理されれば、無罪判決を受けるべき十分な理由がある」と判断したという。

大川原社長と元役員の島田順司さん(68)は昨年3月に警視庁に逮捕され、起訴後も勾留が継続。今年2月に保釈されるまで332日間にわたり身柄拘束された。同様に逮捕、起訴された元顧問の男性は胃がんが判明し、昨年11月に勾留停止となるまで240日間拘束された。元顧問はその後、死亡した。

地裁は刑事補償法上の上限である1日1万2500円の支払いを決定。大川原社長と島田さんがそれぞれ415万円、元顧問は300万円となる。(後略)【2021年12月09日 時事】
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なお、「大川原化工機」の大川原正明社長(72)らは、「捜査機関から謝罪がないことは本当に残念」と語っており、捜査当局による違法な逮捕・勾留などで損害を受けたとして、国と東京都に慰謝料など計約5億6千万円の国家賠償を求めて東京地裁に提訴しています。

以上、「利根川精工」のケース、「大川原化工機」のケースなど、“軍事転用防止に向けてた厳格な輸出管理”というのは容易ではありません。
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世界人口80億人突破という一方で、男性の「精子数減少」の報告も

2022-11-18 22:20:36 | 人口問題

【人口80億時代  評価すべき面の他、懸念される面も】
15日報道によると、世界人口は80億人を突破したようです。増加の中心はアフリカ・インド。
来年にはインドは中国を抜くとも。

****世界の人口 80億人突破へ インドやアフリカなどで増加が顕著に****
国連によりますと、世界の人口が15日、80億人を突破します。人口の増加はインドやアフリカ諸国などで著しく、来年にはインドが中国を抜いて世界で最も人口が多くなるとみられています。

世界の人口は、平均寿命の伸びや母子の死亡率の低下を背景に増加を続けていて、この12年でおよそ10億人増え、国連は15日、80億人を突破するとしています。(中略)

また、今後2050年までに増える世界の人口の半数以上は、アフリカのサハラ砂漠以南の国々になる見通しだということです。

一方で日本を含む61の国や地域では、出生率の低下などから2050年までにそれぞれ人口が1%以上減少すると、予測されています。

世界全体の人口増加のペースも徐々に鈍っていて、2080年代におよそ104億人のピークを迎えたあとは、減少に転じる可能性があるとみられています。

国連の経済社会局は、人口が急速に増加している国では若者の教育や就労機会の確保が必要だとする一方、人口の増加が見込めない国では少子高齢化などに備える必要があると指摘しています。

2050年までに人口が大幅に増加するのは8か国
国連は、今後2050年までに人口が大幅に増加する国として、インド、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ民主共和国、エチオピア、エジプト、フィリピン、タンザニアの8か国をあげています。

こうした国々で大幅な人口の増加が見込まれる要因として、国連は平均寿命が伸びる一方で、乳幼児などの死亡率が低下していることをあげています。

一方で急速な人口の増加や高い出生率が続くことについて、国連の経済社会局は、子どもたちへの教育が追いつかず、社会の発展を妨げるおそれがあるとしています。

そのうえで、ジェンダーの平等などを推進することで、高すぎる出生率をより安定したレベルに移行させることが可能になるとしています。

インドの人口増加の背景は
インドの現在の人口はおよそ14億人。政府は1950年代以降、人口を抑制するため、夫婦の子どもを2人までとすることなどを目標にした政策を展開し、避妊手術なども行われましたが、現在は国としての厳格な制限はありません。

人口は最近毎年1%増えていて、背景の1つには衛生環境の改善などによる乳幼児の死亡率の低下があるとみられています。政府の統計によりますと、乳幼児が亡くなる割合は2000年には1000人当たり68人でしたが、2020年には28人へと大幅に減っています。

それに加えて、高い経済成長が続く中、平均寿命も1970年代前半には49.7歳だったのが、2000年代後半には69.7歳へと、20年も長くなっています。

人口構成も、これから子どもを持つことが想定される若年層の割合が高い「釣り鐘型」になっていることなどから、当面は人口の増加が続くとみられていて、2050年には16億人を超えるという推計も出ています。

2050年までには4人に1人がアフリカの人々と予測
人口増加の波はアフリカにも押し寄せていて、国連によりますと2022年のアフリカの人口は14億人余りと、世界全体のおよそ18%ですが、2050年までには24億人を超え、世界の人口の4人に1人がアフリカの人々になると予測されています。

人口急増の背景にあるのが高い出生率で、国連のデータによりますと、サハラ砂漠以南の国々では1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標は平均して4.5となっていて、世界平均の2.3を大きく上回っています。

さらに、アフリカでは人口が増加するだけでなく、平均年齢も世界全体と比較して若いのが特徴で、市場としての魅力も高く、世界から注目されています。

近年はインターネットの普及を背景に、保健医療や物流、農業などこれまで課題を抱えていた分野で新たなサービスを生み出す現地のスタートアップ企業も多く生まれていることから、世界から投資が集まっていて、日本も官民をあげて投資を増やす動きを活発化させています。

一方で、増え続ける人口に教育や雇用が追いつかず、格差の拡大も大きな問題となっているほか、貧困や飢餓が深刻さを増している国もあり、アフリカの人口問題は世界が取り組むべき課題になっています。

国連機関 声明 ”格差や不平等の解消が重要”
世界の人口が80億人に達することについて、国連人口基金などの国連の機関が共同で声明を発表しました。

声明では、人口増加の背景となっている世界の衛生状況の改善や乳幼児死亡率の低下などを歓迎する一方で、「急激な人口の増加は、貧困、飢餓、栄養失調との闘いや、保健サービスや教育の普及を難しくする」と、人口増加によって生じる課題もあげています。

そのうえで「保健、教育、ジェンダー平等の推進などのSDGs=持続可能な開発目標の達成は、世界人口の増加のペースを遅らせる」として、改めて格差や不平等の解消が重要になると指摘しています。

また「人口増加は世界の最も貧しい国に集中していて、そのほとんどがサハラ以南のアフリカの国々だ。すべての国が、人口の増減にかかわらず国民が質の高い生活を送れるようにするとともに、最も弱い立場の人に配慮しなければならない」として、国際社会が協力して取り組まなければならないと強調しました。

国連人口基金「人口の増減のデータに基づいた政策を」
世界の人口が80億人を突破することについて、日本を訪れていたUNFPA=国連人口基金のコミュニケーション・戦略的パートナーシップ局のイアン・マクファーレン局長はNHKのインタビューに対し「人々が長生きし、女性が出産で命を落とすことが減ったことを、まずは祝福すべきだ。一方で、環境への負荷など世界への影響を懸念する声もあがるだろう」と述べました。

そのうえで、食料不足や格差拡大への懸念については「人口の増減について状況を正確に把握するとともに、人々が平等にサービスを享受でき、社会に貢献できるような法的枠組みも必要だ」と述べ、各国が取り組む課題や責任も生じるとして、人口の増減のデータに基づいた政策を進める必要性を指摘しました。

また「出生率が最も高い国の1つのニジェールでは、女性1人当たりから7人近くの子どもが生まれていて、多くの場合、女性はこれほど多くの子どもを望んでいない」と述べたうえで「女性や少女が保健サービスや避妊方法へのアクセスを保証され、結婚や出産について自分の意思で決める環境をつくることが変化をもたらす」として、女性に教育や選択肢を提供する重要性を強調しました。【11月15日 NHK】
*********************

人口増加を可能にした諸条件・環境の改善という喜ぶべき側面と、急激な人口増加がもたらす貧困、飢餓、栄養失調などの深刻化、教育・雇用機会の不足への不安、女性の権利・教育が十分でなく意図せざる妊娠・出産で増えている側面・・・評価すべき側面と懸念すべき側面の両方が考えられる現実です。

国連報告書は温暖化や食糧不足への懸念も指摘しています。

********************
国連は報告書で人口の急速な増加が「地球温暖化や気候変動など様々な環境劣化を引き起こしている」と指摘し、「化石燃料への過度の依存から脱却する必要がある」と警鐘を鳴らした。

化石燃料の使用などによる二酸化炭素(CO2)の排出量は過去半世紀で倍増した一方、1990年以降、日本の国土の11倍超にあたる面積の森林が消失した。

温暖化の影響として「小さな島国が海面上昇の危機に直面している」と指摘。南太平洋の島国ツバルのナタノ首相は8日、エジプトで開催中の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で「温暖化する海が我々の土地をのみ込み始めている」と訴え、各国に化石燃料の廃止を求めた。

海面は今世紀末で最大55センチ上昇するとの予測もある。平均海抜約2メートルのツバルでは国土消失の危機に直面している。インド洋の島国モルディブも国土の大半が水没する恐れがあり、人工島への住民移住を進めている。

食糧不足
食糧問題も深刻な課題だ。報告書は「人口の増加が見込まれる多くの国が低所得国だ」と指摘し、「飢餓」が増える可能性を指摘した。特にアフリカは、現在の約13億人から約25億人に倍増すると予測される。アフリカではすでに気候変動による干ばつに加え、ロシアのウクライナ侵略による穀物価格の急騰に直面しているが、今後は一層厳しい状況に置かれそうだ。

国連世界食糧計画(WFP)によると昨年、アフリカ諸国を中心に約8億2800万人が飢餓状態となった。特に南スーダンは来年、国民の3分の2にあたる780万人に命の危険が迫る「深刻な飢餓状態」に直面する恐れがあるという。

国連は報告書で、先進国が低所得国に対し、「技術協力や資金援助」する必要性を訴えている。【11月14日 読売】
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【男性の「精子数減少」が進んでいる・・・本当だろうか?】
人口増加・・・という話の一方で、男性の精子の数が激減しておりヒトの妊娠可能性が低下しているという報告も。

****ヒトの精子の減少が加速、70年代から6割減、打つ手見えず****

今から5年前、男性の精子の数が激減しているという研究結果が出され、人類滅亡の危機かと騒がれた。そして今回、新たに発表された研究によって、精子の数はさらに減り、しかもそのスピードが速まっていることが明らかになった。

5年前の研究は、2017年7月25日付けで学術誌「Human Reproduction Update」に発表された。それによると、北米、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドの男性の精子を分析したところ、1回の射精に含まれる精子の数が1973年から2011年までに50%以上減少していたという。

その後、同じ研究者が率いるチームが2014年から2019年までに公開された精子サンプルの研究結果を分析し、これを以前のデータに付け加えた。新たなメタ分析は、世界的な傾向を知るため、中南米、アフリカ、アジアを含め1万4233人分のサンプルを使用した。

すると、精子の総数は70年代に比べて62%減少していたことが判明。そればかりか、1年ごとの減少率は2000年以降2倍になっていた。この結果は、11月15日付けで同じく「Human Reproduction Update」に掲載されている。

「数の減少速度は緩やかになるどころか、激しい落ち込み方です。減り方の程度としては全体的にほぼ同じと言えますが、近年に注目すれば加速していることがわかります」と、米ニューヨーク市にあるマウントサイナイ医科大学の生殖・環境疫学者で、論文の共著者でもあるシャナ・スワン氏はコメントする。

「ある時点で下げ止まるのではないかと期待していたのですが、その反対のことが起こっているようです。このままではほとんどの男性が不妊状態になるところまでいって後戻りできなくなるか、健康面で他の問題が現れてしまうのではないかと懸念しています」と、論文の筆頭著者でイスラエル、ヘブライ大学ハダッサー・ブラウン公衆衛生学部の医学疫学者であるハガイ・レビーン氏は話す。(中略)

世界的な精子数減少の原因は?
2017年と2022年のメタ分析はいずれも、何が精子数の低下を引き起こしているかについては検証していない。しかし、環境や、喫煙や肥満など生活習慣による要因を示唆する研究はある。(中略)

精子の数の減少が、中南米、アフリカ、アジアの男性にも見られたということは、その原因となる生活習慣や環境因子が世界的に存在することを示唆している。

しかし、減少を加速させているものは何かという問いには、誰もはっきりした答えを持っていない。レビーン氏は、原因は一つではなく、いくつもの化学物質が環境中で混じり合い、それぞれのマイナス効果が拡大されてより大きな問題になってしまったのではないかと考えている。または、長い時間をかけて繰り返しさらされたことが影響しているのかもしれないという。

最新のメタ分析には50年分のデータが含まれていることから、スワン氏は何世代にもわたって環境化学物質の影響が蓄積することで問題が加速するのではないかと考えている。

母親が妊娠中にさらされるのと同じ化学物質や生活習慣の要因(不健康な食生活、喫煙、肥満など)に、胎児もさらされる。そして誕生後、これが次の世代へと受け継がれる。また、母親だけでなく父親から受け継がれる可能性もある。母親の子宮内で、父親からの精子のなかにある何かが生殖器の発達を妨げる原因になっているのかもしれない。

これらの環境化学物質や有害な生活習慣にさらされる世代が今後も増え続ければ、その影響は蓄積する一方かもしれない。【11月18日 ナショナル ジオグラフィック日本版】
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本当でしょうか? もし、本当なら「温暖化」などよりはるかに直接的な人類滅亡ぼ脅威かも。
しかし、冒頭のように70年代から右肩上がりに世界人口は増加しており、そのことは上記「人類滅亡の危機」が間違っている証拠・・・・なのかも。

もちろん、上記のような「精子数減少」は、いままでのところ絶対数としては妊娠可能性を大きく阻害するレベルにはいたっておらず、一方で、衛生環境・医学などの改善の結果増加している。しかし、このまま「精子数減少」が進行すればやがては・・・という推論も成り立ちます。

5年前の2017年の報告の際も、その真偽について賛否両論がありました。
その報告によれば、「経済的に豊かな先進国に住む男性の間で、精子の濃度が1973年の1ミリリットル当たり9900万から、2011年に4700万まで減った。精子の総数も3億3750万から1億3750万に減少し、全体で60%近く減った。」とのことでした。

****「精子減少で人類滅亡」のウソ****
<精子の数が減ったからといって即パニックに陥る必要はない>
BBCのタイトルは衝撃的だった。「精子数の減少で人類滅亡の恐れも」
このニュースの根拠は、精子の濃度と総数に関する過去の研究結果を見直し「メタ分析(分析の分析)」をした研究だ。(中略)

それでは、精子の数の減少が原因で人類が滅亡する日は近いのだろうか? 恐らくそんなことはない。

2013年、ニューヨークのプレスバイテリアン病院と米ワイルコーネル医科大学で生殖医学を専門とするハリー・フィッチと彼の同僚は、1992年以降に発表された精子の質に関する35件の研究結果を包括的に分析し、精子の数をめぐるデータのトレンドを調べた。

フィッチらは1万8109人の男性を対象にした8件の研究で、精液の質の低下がみられたと報告した。一方11万2386人を対象にした21件の研究で、精液の質は同じ、もしくは良くなっていた。さらに2万6007人を対象にした6件の研究は、曖昧もしくは矛盾する結果だった。

精子の数はまだ十分
フィッチに言わせれば、要するに「世界中で精子のパラメーター値が下がっているという主張は、まだ科学的に証明されていない」のだ。

フィッチは、研究チームは複合的な原因を考慮しようと努めた割に、肥満の増加やマリファナの服用、座ることの多い生活スタイル、精巣の温度上昇など元に戻すことも可能な要因が精子の減少を引き起こしているかもしれないことを十分に考慮しなかったのではないか、と言う。

世界保健機関(WHO)によれば、正常で受精可能な精子の濃度は1ミリリットル当たり1500万だ。今にも人類が滅亡しそうな印象を与える見出しは、少々大げさだろう。【2017年8月9日 Newsweek】
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一方で、この報告を重視する立場としては、環境保護団体グリーンピースのように、精子数の減少は海洋汚染が原因だと訴えるキャンペーンを行うものなども。

体内にとりこまれるプラスチックが原因だとする説も。
“スカケベックは、もっと決定的な原因を見つけた。それは産業革命に始まり、20世紀における石油化学産業の勃興がもたらしたもの。石油の浪費による二酸化炭素の大量排出は地球の温暖化を招いたが、石油化学産業はプラスチックの微粒子をまき散らし、それを体内に取り込んだ私たちのホルモン(とりわけ女性ホルモンと男性ホルモン)のバランスに深刻な影響を与えていた。”【2018年11月27日 “止まらない精子減少の行方──人類の終わりのはじまり?” GQ】

あるいは、現代の一夫一妻制とセックス頻度の減少が「精子減少」と「睾丸の萎縮」につながっているとの説も。

“文化の発展とともに一夫一妻になり、結婚した女性は配偶者としかセックスをしなくなりました。
すると、どうなるか。精子の競争が生じないため、弱い精子であっても受精できる確率が高くなります。弱い遺伝子を受け継いだ子どもの繁殖力は低い可能性があり、このような状態が続くことで人類全体の繁殖力が低下する(クリストファー・ライアン/カシルダ・ジェタ)【2019年8月16日 「精子が減ってるって本当?〜男性不妊に多い造精機能障害と予防法〜」】

「精子数減少」が本当なのか? もし本当なら、どの程度影響しているのか?  よくわかりません。
2017年報告から、世間があまり大騒ぎしていないことからすれば、さほど気にする必要のないことなのでしょう・・・・多分。
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世界人口80億人突破という一方で、男性の「精子数減少」の報告も

2022-11-18 22:20:36 | 人口問題

【人口80億時代  評価すべき面の他、懸念される面も】
15日報道によると、世界人口は80億人を突破したようです。増加の中心はアフリカ・インド。
来年にはインドは中国を抜くとも。

****世界の人口 80億人突破へ インドやアフリカなどで増加が顕著に****
国連によりますと、世界の人口が15日、80億人を突破します。人口の増加はインドやアフリカ諸国などで著しく、来年にはインドが中国を抜いて世界で最も人口が多くなるとみられています。

世界の人口は、平均寿命の伸びや母子の死亡率の低下を背景に増加を続けていて、この12年でおよそ10億人増え、国連は15日、80億人を突破するとしています。(中略)

また、今後2050年までに増える世界の人口の半数以上は、アフリカのサハラ砂漠以南の国々になる見通しだということです。

一方で日本を含む61の国や地域では、出生率の低下などから2050年までにそれぞれ人口が1%以上減少すると、予測されています。

世界全体の人口増加のペースも徐々に鈍っていて、2080年代におよそ104億人のピークを迎えたあとは、減少に転じる可能性があるとみられています。

国連の経済社会局は、人口が急速に増加している国では若者の教育や就労機会の確保が必要だとする一方、人口の増加が見込めない国では少子高齢化などに備える必要があると指摘しています。

2050年までに人口が大幅に増加するのは8か国
国連は、今後2050年までに人口が大幅に増加する国として、インド、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ民主共和国、エチオピア、エジプト、フィリピン、タンザニアの8か国をあげています。

こうした国々で大幅な人口の増加が見込まれる要因として、国連は平均寿命が伸びる一方で、乳幼児などの死亡率が低下していることをあげています。

一方で急速な人口の増加や高い出生率が続くことについて、国連の経済社会局は、子どもたちへの教育が追いつかず、社会の発展を妨げるおそれがあるとしています。

そのうえで、ジェンダーの平等などを推進することで、高すぎる出生率をより安定したレベルに移行させることが可能になるとしています。

インドの人口増加の背景は
インドの現在の人口はおよそ14億人。政府は1950年代以降、人口を抑制するため、夫婦の子どもを2人までとすることなどを目標にした政策を展開し、避妊手術なども行われましたが、現在は国としての厳格な制限はありません。

人口は最近毎年1%増えていて、背景の1つには衛生環境の改善などによる乳幼児の死亡率の低下があるとみられています。政府の統計によりますと、乳幼児が亡くなる割合は2000年には1000人当たり68人でしたが、2020年には28人へと大幅に減っています。

それに加えて、高い経済成長が続く中、平均寿命も1970年代前半には49.7歳だったのが、2000年代後半には69.7歳へと、20年も長くなっています。

人口構成も、これから子どもを持つことが想定される若年層の割合が高い「釣り鐘型」になっていることなどから、当面は人口の増加が続くとみられていて、2050年には16億人を超えるという推計も出ています。

2050年までには4人に1人がアフリカの人々と予測
人口増加の波はアフリカにも押し寄せていて、国連によりますと2022年のアフリカの人口は14億人余りと、世界全体のおよそ18%ですが、2050年までには24億人を超え、世界の人口の4人に1人がアフリカの人々になると予測されています。

人口急増の背景にあるのが高い出生率で、国連のデータによりますと、サハラ砂漠以南の国々では1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標は平均して4.5となっていて、世界平均の2.3を大きく上回っています。

さらに、アフリカでは人口が増加するだけでなく、平均年齢も世界全体と比較して若いのが特徴で、市場としての魅力も高く、世界から注目されています。

近年はインターネットの普及を背景に、保健医療や物流、農業などこれまで課題を抱えていた分野で新たなサービスを生み出す現地のスタートアップ企業も多く生まれていることから、世界から投資が集まっていて、日本も官民をあげて投資を増やす動きを活発化させています。

一方で、増え続ける人口に教育や雇用が追いつかず、格差の拡大も大きな問題となっているほか、貧困や飢餓が深刻さを増している国もあり、アフリカの人口問題は世界が取り組むべき課題になっています。

国連機関 声明 ”格差や不平等の解消が重要”
世界の人口が80億人に達することについて、国連人口基金などの国連の機関が共同で声明を発表しました。

声明では、人口増加の背景となっている世界の衛生状況の改善や乳幼児死亡率の低下などを歓迎する一方で、「急激な人口の増加は、貧困、飢餓、栄養失調との闘いや、保健サービスや教育の普及を難しくする」と、人口増加によって生じる課題もあげています。

そのうえで「保健、教育、ジェンダー平等の推進などのSDGs=持続可能な開発目標の達成は、世界人口の増加のペースを遅らせる」として、改めて格差や不平等の解消が重要になると指摘しています。

また「人口増加は世界の最も貧しい国に集中していて、そのほとんどがサハラ以南のアフリカの国々だ。すべての国が、人口の増減にかかわらず国民が質の高い生活を送れるようにするとともに、最も弱い立場の人に配慮しなければならない」として、国際社会が協力して取り組まなければならないと強調しました。

国連人口基金「人口の増減のデータに基づいた政策を」
世界の人口が80億人を突破することについて、日本を訪れていたUNFPA=国連人口基金のコミュニケーション・戦略的パートナーシップ局のイアン・マクファーレン局長はNHKのインタビューに対し「人々が長生きし、女性が出産で命を落とすことが減ったことを、まずは祝福すべきだ。一方で、環境への負荷など世界への影響を懸念する声もあがるだろう」と述べました。

そのうえで、食料不足や格差拡大への懸念については「人口の増減について状況を正確に把握するとともに、人々が平等にサービスを享受でき、社会に貢献できるような法的枠組みも必要だ」と述べ、各国が取り組む課題や責任も生じるとして、人口の増減のデータに基づいた政策を進める必要性を指摘しました。

また「出生率が最も高い国の1つのニジェールでは、女性1人当たりから7人近くの子どもが生まれていて、多くの場合、女性はこれほど多くの子どもを望んでいない」と述べたうえで「女性や少女が保健サービスや避妊方法へのアクセスを保証され、結婚や出産について自分の意思で決める環境をつくることが変化をもたらす」として、女性に教育や選択肢を提供する重要性を強調しました。【11月15日 NHK】
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人口増加を可能にした諸条件・環境の改善という喜ぶべき側面と、急激な人口増加がもたらす貧困、飢餓、栄養失調などの深刻化、教育・雇用機会の不足への不安、女性の権利・教育が十分でなく意図せざる妊娠・出産で増えている側面・・・評価すべき側面と懸念すべき側面の両方が考えられる現実です。

国連報告書は温暖化や食糧不足への懸念も指摘しています。

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国連は報告書で人口の急速な増加が「地球温暖化や気候変動など様々な環境劣化を引き起こしている」と指摘し、「化石燃料への過度の依存から脱却する必要がある」と警鐘を鳴らした。

化石燃料の使用などによる二酸化炭素(CO2)の排出量は過去半世紀で倍増した一方、1990年以降、日本の国土の11倍超にあたる面積の森林が消失した。

温暖化の影響として「小さな島国が海面上昇の危機に直面している」と指摘。南太平洋の島国ツバルのナタノ首相は8日、エジプトで開催中の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で「温暖化する海が我々の土地をのみ込み始めている」と訴え、各国に化石燃料の廃止を求めた。

海面は今世紀末で最大55センチ上昇するとの予測もある。平均海抜約2メートルのツバルでは国土消失の危機に直面している。インド洋の島国モルディブも国土の大半が水没する恐れがあり、人工島への住民移住を進めている。

食糧不足
食糧問題も深刻な課題だ。報告書は「人口の増加が見込まれる多くの国が低所得国だ」と指摘し、「飢餓」が増える可能性を指摘した。特にアフリカは、現在の約13億人から約25億人に倍増すると予測される。アフリカではすでに気候変動による干ばつに加え、ロシアのウクライナ侵略による穀物価格の急騰に直面しているが、今後は一層厳しい状況に置かれそうだ。

国連世界食糧計画(WFP)によると昨年、アフリカ諸国を中心に約8億2800万人が飢餓状態となった。特に南スーダンは来年、国民の3分の2にあたる780万人に命の危険が迫る「深刻な飢餓状態」に直面する恐れがあるという。

国連は報告書で、先進国が低所得国に対し、「技術協力や資金援助」する必要性を訴えている。【11月14日 読売】
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【男性の「精子数減少」が進んでいる・・・本当だろうか?】
人口増加・・・という話の一方で、男性の精子の数が激減しておりヒトの妊娠可能性が低下しているという報告も。

****ヒトの精子の減少が加速、70年代から6割減、打つ手見えず****

今から5年前、男性の精子の数が激減しているという研究結果が出され、人類滅亡の危機かと騒がれた。そして今回、新たに発表された研究によって、精子の数はさらに減り、しかもそのスピードが速まっていることが明らかになった。

5年前の研究は、2017年7月25日付けで学術誌「Human Reproduction Update」に発表された。それによると、北米、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドの男性の精子を分析したところ、1回の射精に含まれる精子の数が1973年から2011年までに50%以上減少していたという。

その後、同じ研究者が率いるチームが2014年から2019年までに公開された精子サンプルの研究結果を分析し、これを以前のデータに付け加えた。新たなメタ分析は、世界的な傾向を知るため、中南米、アフリカ、アジアを含め1万4233人分のサンプルを使用した。

すると、精子の総数は70年代に比べて62%減少していたことが判明。そればかりか、1年ごとの減少率は2000年以降2倍になっていた。この結果は、11月15日付けで同じく「Human Reproduction Update」に掲載されている。

「数の減少速度は緩やかになるどころか、激しい落ち込み方です。減り方の程度としては全体的にほぼ同じと言えますが、近年に注目すれば加速していることがわかります」と、米ニューヨーク市にあるマウントサイナイ医科大学の生殖・環境疫学者で、論文の共著者でもあるシャナ・スワン氏はコメントする。

「ある時点で下げ止まるのではないかと期待していたのですが、その反対のことが起こっているようです。このままではほとんどの男性が不妊状態になるところまでいって後戻りできなくなるか、健康面で他の問題が現れてしまうのではないかと懸念しています」と、論文の筆頭著者でイスラエル、ヘブライ大学ハダッサー・ブラウン公衆衛生学部の医学疫学者であるハガイ・レビーン氏は話す。(中略)

世界的な精子数減少の原因は?
2017年と2022年のメタ分析はいずれも、何が精子数の低下を引き起こしているかについては検証していない。しかし、環境や、喫煙や肥満など生活習慣による要因を示唆する研究はある。(中略)

精子の数の減少が、中南米、アフリカ、アジアの男性にも見られたということは、その原因となる生活習慣や環境因子が世界的に存在することを示唆している。

しかし、減少を加速させているものは何かという問いには、誰もはっきりした答えを持っていない。レビーン氏は、原因は一つではなく、いくつもの化学物質が環境中で混じり合い、それぞれのマイナス効果が拡大されてより大きな問題になってしまったのではないかと考えている。または、長い時間をかけて繰り返しさらされたことが影響しているのかもしれないという。

最新のメタ分析には50年分のデータが含まれていることから、スワン氏は何世代にもわたって環境化学物質の影響が蓄積することで問題が加速するのではないかと考えている。

母親が妊娠中にさらされるのと同じ化学物質や生活習慣の要因(不健康な食生活、喫煙、肥満など)に、胎児もさらされる。そして誕生後、これが次の世代へと受け継がれる。また、母親だけでなく父親から受け継がれる可能性もある。母親の子宮内で、父親からの精子のなかにある何かが生殖器の発達を妨げる原因になっているのかもしれない。

これらの環境化学物質や有害な生活習慣にさらされる世代が今後も増え続ければ、その影響は蓄積する一方かもしれない。【11月18日 ナショナル ジオグラフィック日本版】
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本当でしょうか? もし、本当なら「温暖化」などよりはるかに直接的な人類滅亡ぼ脅威かも。
しかし、冒頭のように70年代から右肩上がりに世界人口は増加しており、そのことは上記「人類滅亡の危機」が間違っている証拠・・・・なのかも。

もちろん、上記のような「精子数減少」は、いままでのところ絶対数としては妊娠可能性を大きく阻害するレベルにはいたっておらず、一方で、衛生環境・医学などの改善の結果増加している。しかし、このまま「精子数減少」が進行すればやがては・・・という推論も成り立ちます。

5年前の2017年の報告の際も、その真偽について賛否両論がありました。
その報告によれば、「経済的に豊かな先進国に住む男性の間で、精子の濃度が1973年の1ミリリットル当たり9900万から、2011年に4700万まで減った。精子の総数も3億3750万から1億3750万に減少し、全体で60%近く減った。」とのことでした。

****「精子減少で人類滅亡」のウソ****
<精子の数が減ったからといって即パニックに陥る必要はない>
BBCのタイトルは衝撃的だった。「精子数の減少で人類滅亡の恐れも」
このニュースの根拠は、精子の濃度と総数に関する過去の研究結果を見直し「メタ分析(分析の分析)」をした研究だ。(中略)

それでは、精子の数の減少が原因で人類が滅亡する日は近いのだろうか? 恐らくそんなことはない。

2013年、ニューヨークのプレスバイテリアン病院と米ワイルコーネル医科大学で生殖医学を専門とするハリー・フィッチと彼の同僚は、1992年以降に発表された精子の質に関する35件の研究結果を包括的に分析し、精子の数をめぐるデータのトレンドを調べた。

フィッチらは1万8109人の男性を対象にした8件の研究で、精液の質の低下がみられたと報告した。一方11万2386人を対象にした21件の研究で、精液の質は同じ、もしくは良くなっていた。さらに2万6007人を対象にした6件の研究は、曖昧もしくは矛盾する結果だった。

精子の数はまだ十分
フィッチに言わせれば、要するに「世界中で精子のパラメーター値が下がっているという主張は、まだ科学的に証明されていない」のだ。

フィッチは、研究チームは複合的な原因を考慮しようと努めた割に、肥満の増加やマリファナの服用、座ることの多い生活スタイル、精巣の温度上昇など元に戻すことも可能な要因が精子の減少を引き起こしているかもしれないことを十分に考慮しなかったのではないか、と言う。

世界保健機関(WHO)によれば、正常で受精可能な精子の濃度は1ミリリットル当たり1500万だ。今にも人類が滅亡しそうな印象を与える見出しは、少々大げさだろう。【2017年8月9日 Newsweek】
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一方で、この報告を重視する立場としては、環境保護団体グリーンピースのように、精子数の減少は海洋汚染が原因だと訴えるキャンペーンを行うものなども。

体内にとりこまれるプラスチックが原因だとする説も。
“スカケベックは、もっと決定的な原因を見つけた。それは産業革命に始まり、20世紀における石油化学産業の勃興がもたらしたもの。石油の浪費による二酸化炭素の大量排出は地球の温暖化を招いたが、石油化学産業はプラスチックの微粒子をまき散らし、それを体内に取り込んだ私たちのホルモン(とりわけ女性ホルモンと男性ホルモン)のバランスに深刻な影響を与えていた。”【2018年11月27日 “止まらない精子減少の行方──人類の終わりのはじまり?” GQ】

あるいは、現代の一夫一妻制とセックス頻度の減少が「精子減少」と「睾丸の萎縮」につながっているとの説も。

“文化の発展とともに一夫一妻になり、結婚した女性は配偶者としかセックスをしなくなりました。
すると、どうなるか。精子の競争が生じないため、弱い精子であっても受精できる確率が高くなります。弱い遺伝子を受け継いだ子どもの繁殖力は低い可能性があり、このような状態が続くことで人類全体の繁殖力が低下する(クリストファー・ライアン/カシルダ・ジェタ)【2019年8月16日 「精子が減ってるって本当?〜男性不妊に多い造精機能障害と予防法〜」】

「精子数減少」が本当なのか? もし本当なら、どの程度影響しているのか?  よくわかりません。
2017年報告から、世間があまり大騒ぎしていないことからすれば、さほど気にする必要のないことなのでしょう・・・・多分。
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ポーランドへのミサイル着弾 ロシアによるものとの主張を続けるウクライナ 欧米との見解に相違

2022-11-17 23:01:57 | 欧州情勢

(【11月16日 NHK】 ウクライナ・ゼレンスキー大統領は未だロシア軍のミサイルだと主張しています)

【欧米の“支援疲れ”などの難題を抱えるウクライナ】
ヘルソン市奪還など攻勢を続けるウクライナですが、このまますんなり勝利を手にする・・・というほど甘い状況でもありません。下記記事は、欧米の“支援疲れ”、ドニエプル川を渡河しての軍事的攻勢の難しさ、戦後復興に重要な南部戦線の問題を指摘しています。

****ヘルソン解放でもゼレンスキー大統領を待ち受ける3つの難題****
まるで戦争に勝利したかのような報道が相次いでいる。11月11日、ウクライナ軍は南部ヘルソン州の州都ヘルソン市を奪還した。3月にロシア軍が占領し、9月にはロシア編入を問う住民投票まで実施されたのだが、ウクライナ軍の大攻勢で退却を余儀なくされた。(中略)

小国のウクライナが大国のロシアを相手に大戦果を挙げた。だが、今後の展開は必ずしも楽観視できない。軍事ジャーナリストが「今後の難題」について以下のように指摘する。

「第1点は、『停戦交渉を開始しろ』という国際社会の圧力が高まる可能性です。ヘルソン市奪還でウクライナの面子は保たれたと見なし、アメリカやヨーロッパのNATO(北大西洋条約機構)加盟国がロシアとの停戦交渉に応じるようウクライナを強く説得するかもしれません。背景として、NATO加盟国を中心に“支援疲れ”が出てきていることが挙げられます」

特にヨーロッパの場合、冬本番となるとエネルギー需要が増加してしまう。
「NATO加盟国は今のところロシア制裁で一致団結しています。とはいえ特にヨーロッパの加盟国は、ロシアが天然ガスの供給を再開してくれるなら大助かりというのも本音でしょう。NATO加盟国が停戦を求めてウクライナに圧力をかけるという可能性もあるのです」(同・軍事ジャーナリスト)

アメリカも一枚岩でまとまっているわけではない。共和党下院議員のケビン・マッカーシー氏(57)は、次期下院議長が確実視されている有力議員だ。

マッカーシー氏は10月18日、「米国は景気後退の最中にある。ウクライナは重要だ。だが、その支援だけをしていればいいわけではない。白紙の小切手はありえない」(註)と発言し大きな注目を集めた。

「第2点の難題は、ロシア軍が退却してドニエプル川を渡ったことです。自ら橋を壊したので、ロシア軍がヘルソン市を再攻撃しないこと、そしてウクライナ軍を迎え撃つ戦術に転じたことは明らかです。一方のウクライナ軍は渡河作戦を実施しない限りロシア軍を撃滅できないわけですが、この作戦は簡単には成功しません」(同・軍事ジャーナリスト)(中略)

「第3点は、ウクライナの戦後復興という難題です。ウクライナは小麦の輸出国として知られていますが、ロシアとの関係が悪化するまでは軍事産業でも外貨を稼いできました。内陸の工場で製造された兵器をアゾフ海沿岸から貨物船に積み、黒海と地中海を経てアフリカ諸国に輸出するのです。この海路は、まさにウクライナ経済の“生命線”と言えます」(軍事ジャーナリスト)(中略)

戦後復興を成し遂げるためには、クリミア半島からロシア軍を叩き出し、ウクライナ領であることを明確にする必要がある(中略)

だがゼレンスキー大統領には、少なくとも強い追い風は吹いていないようだ。NATO諸国に“支援疲れ”があるのは先に触れたが、ウクライナ国民に“厭戦気分”が蔓延する可能性も否定できないという。

「今、ウクライナ国民の士気は最高潮に達しているでしょう。ゼレンスキー大統領はこのムードを最大限に活用し、一気にロシア軍を殲滅したいはずです。しかし、迎撃は可能でも、追撃には強い国力が求められます。また、ウクライナ軍が勝利を重ねると、『戦争はもう充分。平和こそが必要だ』という国内世論も高まるはずです。どうやって国民の戦意高揚を維持し、NATO加盟国と連携して悲願のクリミア半島奪還を実現するか、まさにゼレンスキー大統領の手腕が問われています」(同・軍事ジャーナリスト)【11月17日 デイリー新潮】
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米軍トップも短期的なウクライナの軍事的勝利には懐疑的です。ウクライナに政治的解決策を勧めるようにも。

****短期的なウクライナの軍事的勝利、確率高くない=米軍制服組トップ****
米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は16日、ロシア軍が依然ウクライナ国内でかなりの戦闘力を維持しているとし、ウクライナ軍が短期的に勝利するという考えをけん制した。

ミリー氏は、ロシア軍をクリミアなどを含むウクライナ全土から撤退させることを意味する「ウクライナの軍事的勝利が近く起きる確率は高くない」と述べた。同時に「ロシアが撤退するという政治的解決策が存在する可能性はある」と述べた。(後略)【11月17日 ロイター】
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【ミサイルのポーランド着弾 危機の火消しに機敏に行動したバイデン米大統領】
まだまだ困難な状況が続くウクライナ・ゼレンスキー大統領にとって“命綱”は欧米の支援でしょう。
そのなかで起きたポーランドへのミサイル着弾(ウクライナ軍も使用しているロシア製ミサイルS300)。

当初は(意図したものかどうかは別にして)ロシア軍による初めてのNATO領内への攻撃・犠牲者発生か・・・ということで、ロシア対NATOという形で戦線が欧州全体に拡大する危険もあって世界に緊張が走りました。

ウクライナ・ゼレンスキー大統領はロシア軍の攻撃との前提で「(NATOの)行動が必要とされている」とNATOの対応を求めていました。

しかし、当時国ポーランドの対応は「誰が発射したか決定的な証拠ない」(ドゥダ大統領)と慎重で、ちょうどG20首脳会議で各G7首脳が集まっていたこともあって、アメリカ・バイデン大統領の火消は“いつになく”機敏なものでした。

*****G20開催のさなか…ポーランドにミサイル着弾 目立った“バイデン大統領の動き”とは****
ポーランドの国境付近での爆発は、G20=主要20か国・地域の首脳会議のため、各国首脳がインドネシアに集まるさなかに起きました。 (中略)目立ったのはバイデン大統領の動きでした。

アメリカ バイデン大統領 「何が起きたかを正確に把握する。調査を進めたうえで次の対応を決定する」
今回、バイデン大統領の対応はとても早いものでした。

現地時間の早朝にポーランドのドゥダ大統領、NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長と相次いで電話会談を行い、午前9時前にはG7とNATOの首脳らを緊急に集め、状況の説明を行いました。そして、調査が完了する前にも関わらず、「ロシアから発射されたものとは考えにくい」と公に説明したわけです。

バイデン大統領としては、不確定な情報で一方的にロシアへの非難が強まり、緊張がさらにエスカレートするのを防ぎたい考えです。

ドイツのDPA通信によると、バイデン大統領は16日のG7とNATOの緊急首脳会合で、ポーランドに着弾したのはウクライナから飛来した対空ミサイルだった兆候があると説明しました。(後略)【11月16日 TBS NEWS DIG】
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ポーランドの慎重姿勢、バイデン大統領の「ロシアから発射されたものとは考えにくい」という反応の背景にはNATO軍航空機による監視活動による情報があるようです。

****NATO、ミサイル追跡か 航空機で上空から、報道****
米CNNテレビは16日、ポーランド東部に着弾したロシア製ミサイルについて、ポーランド上空を飛行していた北大西洋条約機構(NATO)の航空機が追跡していたと報じた。複数のNATO関係者の話としている。

NATOの航空機はウクライナ周辺で監視活動を続けており、今回入手したミサイルの航跡などの情報はポーランドやNATO諸国に伝えられた。NATO関係者はミサイルがどこから、誰が発射したのかについては明らかにしなかったという。【11月16日 共同】
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【欧米とウクライナの見解が割れる現状】
その後は多くの報道のとおり、アメリカなど欧米各国はロシアのミサイルに対するウクライナによる迎撃ミサイルが誤ってポーランドに着弾した・・・という見解になっていますが、ウクライナ・ゼレンスキー大統領は依然としてロシア軍ミサイルだと主張しており、これまで(少なくとも表面上は)一丸となってロシアに対峙してきたウクライナと欧米の間の乖離が際立つ流れとなっています。

****「現場の証拠はそうではない」とバイデン氏 ウクライナ ロシアの攻撃と主張****
アメリカのバイデン大統領は17日、ロシア製のミサイルがポーランドに着弾し、ウクライナのゼレンスキー大統領が「我々のミサイルではないと」と述べたことに対し、「現場の証拠はそうではない」と否定した。(中略)

これまでにバイデン氏は、「ロシアから発射されたとは考えにくい」と述べていたほか、NATO(北大西洋条約機構)のストルテンベルグ事務総長は、ウクライナ軍の迎撃ミサイルとの見方を示していた。【11月17日 FNNプライムオンライン】
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ゼレンスキー大統領も犠牲者への「哀悼の意」は表明していますが・・・
ゼレンスキー大統領の頑なな主張の背後にはウクライナ軍の報告があるようです。

****ポーランド着弾、どこが発射? 欧米とウクライナの見解が割れる背景****
(中略)
ロシアによる侵攻に対し、欧米諸国とウクライナは協調姿勢を取ってきたが、今回は両者の見解が割れている。背景には、自軍の報告を尊重するゼレンスキー氏の立場があるようだ。対露戦で圧倒的な不利を予想されながら善戦を続けている軍との結束を崩したくない考えとみられる。

ただし、調査が進んでもウクライナが今後もかたくなに自国の関与と責任を認めない場合、欧米諸国が反発する事態も起こりえる。

北大西洋条約機構(NATO)加盟国の外交官は「誰もウクライナを非難していないのに、彼らは堂々とうそをついている。このような事態はミサイルよりも破壊的だ」と英紙フィナンシャル・タイムズに述べた。(後略)【11月17日 毎日】
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“ウクライナのゼレンスキー大統領は同日(16日)、落下したミサイルは露軍が発射したものだとウクライナ軍が報告したとし、「私は露軍のミサイルであることを疑わない。一緒に戦う軍を信じない理由はない」と強調。”【11月17日 産経】

【このままウクライナが主張を曲げない場合、風向きの変化が起きる可能性も】
しかし“ウクライナが今後もかたくなに自国の関与と責任を認めない場合、欧米諸国が反発する事態も起こりえる”ということが懸念されます。

すでにハンガリーはウクライナを「無責任」と批判しています。

****ハンガリー、ゼレンスキー氏の主張批判 ポーランド着弾で****
ハンガリーは16日、ポーランドに着弾したミサイルがロシアによって発射されたものだとするウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の主張を、無責任だと批判した。(中略)

ハンガリーのグヤーシュ・ゲルゲイ首相府長官は記者会見で、「このような状況では、世界の指導者は責任ある発言をすべきだ」と指摘。「ウクライナの大統領が即座にロシアを非難したのは間違いであり、悪い手本だ」と批判し、ポーランドと米国の慎重な姿勢を称賛した。 【11月17日 AFP】AFPBB News
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もともとハンガリー・オルバン首相はロシア・プーチン大統領と親しい関係にありますので、上記発言に意外性はありませんが、今の状況が長引けば同様反応が他の欧米諸国にも拡散し、冒頭にも論じた“支援疲れ”の状態を加速させることも考えられます。

現段階では欧米側は、直接的にはウクライナ軍のミサイルであっても、ロシアの仕掛ける戦争が招いたことだとして、責任はロシア側にあるとの姿勢ではありますが・・・。

また、これまではロシアの主張のフェイク・プロパガンダが大きく扱われてきましたが、今回の欧米とウクライナの不協和音が長引くと、ウクライナの主張の信ぴょう性にも疑念が持たれることにもなりかねません。

ロシアとしては「ウクライナが嘘でロシアを悪者に仕立てている、戦争を煽っている」と、恰好の“つっこみどころ”ともなるでしょう。

ポーランド国内の反応を報じたものはまだ目にしていませんが、今回事件以前から、ウクライナ難民を大量に受け入れてきたポーランド国内には難民への厳しい視線も出始めていました。

****ポーランドのウクライナ難民への態度に微妙な変化―中国メディア****
2022年11月17日、中国メディアの中国青年報は、ポーランドにおけるウクライナ難民への態度に微妙な変化が生じ始めていると報じた。

記事は、ロシアがウクライナを侵攻して戦闘状態に入ってからすでに9カ月が経過する中、ウクライナの隣国であるとともに北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるポーランドはウクライナからの難民を積極的に受け入れ、各種支援を提供してきたと紹介。

侵攻が始まった2月24日から現在までに772万人を超えるウクライナ難民が国境を越えてポーランドに渡り、そのうち590万人がすでにウクライナに戻る一方で、なおも100万人以上がポーランドにとどまることを選択し、40万人がポーランドで働き口を探していると伝えた。

そして、ポーランドはこれまでに難民の就業支援を行ったり、1人1日当たり最大40ズウォティ(約1200円)の資金援助を当初の60日以内から高齢者などを対象に120日以上へと拡大したりといった一連の支援を提供してきたとする一方で、「ウクライナ難民に対する一連の援助が、近頃徐々に縮小し始めた」と指摘。

ポーランドメディアの報道として、ポーランド政府が来年2月以降滞在期間が一定日数を超えるウクライナ難民に対して限度額を設けた上で一定の自己負担を求めることなどを盛り込んだ改正支援法案を提出する計画だと伝えた。

その上で、ポーランド政府がウクライナ難民への援助縮小を検討している理由はさまざまであり、ポーランドの政府や学術界では「難民への援助は長過ぎると、難民が再び働き始めて自活を実現ことを難しくしてしまう」とう認識を持っていること、そしてポーランドの資源や経済力に限りがあることなどがあるとしている。

記事はまた、ポーランド社会でもウクライナ難民への態度にも微妙な変化が生じていると紹介。ポーランド市民による同情の態度は今なお存在し、多くの非政府組織がさまざまな形で人道的支援を続けている一方で、「ウクライナ難民が現地の雇用市場や社会秩序に影響を与えるのではないかという不安を募らせている市民が多い」とし、近頃行われた世論調査では26歳以下の若い回答者の約半数が「自分の仕事がウクライナ人に奪われることを心配している」と答えたことが明らかになったと伝えた。【11月17日 レコードチャイナ】
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多くの難民を受け入れた際の予想される反応ではありますが、今回のミサイル着弾、そしてその後のウクライナの対応で、ポーランド国内の空気が変わるのかどうか・・・。

欧米の支援が“命綱”のウクライナとしては、自らの責任を認め、誠意ある対応で隙間が広がらないようにするのが賢明だとは思いますが、大国ロシアとの命がけの戦争でアドレナリン全開状態のウクライナには難しいことなのかも。

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中国  新型コロナ感染拡大 住民不満は限界 当局対応「適正化」も ただし「ゼロコロナ」は維持

2022-11-16 23:14:33 | 中国
(【広東省 #広州市 でロックダウンに対して住民が暴動 #shorts #ビデオ #中国 - YouTube】
先月から封鎖が続く広州市海珠区で、住民が警察のバリケードを破壊する様子)

【中国 14日のコロナ新規感染者1万7772人 4月以来の高水準】
中国の「ゼロコロナ」政策については11月4日ブログ“中国 党大会後も続く「ゼロコロナ」 高まる住民不満 近く「大幅修正」との発言も”で取り上げましたが、その当時の感染状況は“中国国家衛生健康委員会は4日、新型コロナウイルスの新規市中感染者が3日に3871人と、5月初旬以降で最多になったことを明らかにした。5月初旬には上海で新型コロナが猛威を振るい、北京市も感染対策を急いでいた。”【11月4日 ロイター】というものでした。

現在は・・・検査態勢を縮小しているにもかかわらず、14日の1万7千人超と、上記の4~5倍のレベルに新規感染者数が更に増大しています。

****中国コロナ感染者、検査縮小でも増加 広州は初の5000人超え****
中国の新型コロナウイルス新規感染者は、関連規制の緩和で多くの都市が検査を縮小しているが増加している。

14日に確認された新規感染者は1万7772人。前日の1万6072人を上回り4月以来の高水準となった。

首都北京市の新規感染者は462人。前日の407人から増加した。
南部の大都市、広州市は新規感染者が初めて5000人を超えた。

JPモルガンのアナリストは、広州の感染曲線は3月から4月にかけての上海と同様で、これまでならロックダウンが発動されてもおかしくないとし、「規制緩和を推進する政府の決意が試される」と指摘した。

上海市の新規感染者は16人と、比較的低水準にとどまっているが、集合住宅全体が封鎖されている。【11月15日 ロイター】
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オミクロン株の感染力の強さの前には、習近平政権が中国体制の欧米に対する優位性を示すものと誇った「ゼロコロナ」政策も歯がたたないようです。

【厳しい規制に対する住民不満等に「適正化」で調整 「ゼロコロナ」は堅持】
厳格な、あるいは強引・無謀な「ゼロコロナ」による様々な軋轢・トラブル・住民不満については、これまでも取り上げてきましたが、コロナとの闘いが長引くにつれ、「ゼロコロナ」の負の側面が大きくなっています。

さすがに習近平政権も住民不満増大や経済減速という負の側面に配慮せざるを得なくなり、軌道修正の兆しは見えますが、体制の優位性と結び付けてしまっただけに「ゼロコロナ」の看板を降ろすことには政治リスクが伴いますので、「ゼロコロナ」の基本路線は維持されたままです。

****感染1万人超の中国、相次ぐ封鎖措置に不満噴出…習政権は「ゼロコロナ政策」を断固継続****
中国政府は11日、中国本土で10日に確認された新型コロナウイルスの市中感染者が1万535人に上ったと発表した。市中感染者が1万人を超えたのは4月29日以来となった。

感染者の増加傾向に歯止めがかからず、危機感を強めた習近平シージンピン政権は10日、共産党最高指導部の会議で、わずかな感染も許さない「ゼロコロナ政策」を継続する方針を確認した。

市中感染者は、10月の党大会期間中は数百人台で推移していたが、同月22日の閉幕後に急増。感染者は全国31の省・直轄市・自治区の全てで確認されている。

習総書記(国家主席)が主宰した10日の会議では、ウイルスの変異や本格的な冬の到来で、「感染の範囲と規模がさらに拡大する可能性がある」と強い危機感を示し、ゼロコロナ政策を「断固貫徹しなければならない」と強調した。

中国では、厳格な移動制限や隔離を伴うゼロコロナ政策の画一的な運用で、企業活動や社会生活が大きく制限され、各地で不満が噴出している。

特に北京市では、感染者が出た地域から市内に入ることを厳しく制限している。中国に進出する日系企業でつくる中国日本商会によると、10月以降約1か月にわたり北京に戻れない社員もいる。同商会は11日、「合理的でない移動制限は経済活動に負の影響しかもたらさない」と制限の緩和を求める要望を市政府に出した。

広東省広州市では、感染が広がっている地区を丸ごと封鎖。感染者の立ち寄りが疑われるビルや住宅街が次々封鎖されるなど、混乱が続く。中国のSNS上では、同省で使う人が多い広東語で、厳格なゼロコロナ政策への不満や不安が相次いで書き込まれている。

不満の広がりや経済への影響を背景に、中国政府は11日、封鎖措置を乱発しないよう地方政府に求めるなど感染対策を「適正化」すると発表した。だが、SNS上では「適正化など信じられない」と政府への不信感が渦巻く。
 
「適正化」の中には、入国者に対する事実上10日間の隔離期間を8日間に短縮する措置も含まれる。ビジネス関係者の往来増を期待しているとみられる。【11月11日 読売】
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「適正化」が今後の本格的な「緩和」、「セロコロナ離脱」につながるのか・・・様々な憶測がなされています。

****中国がコロナ対策で規制を緩和、「ゼロコロナ策」からの離脱の前触れなのか****
中国政府は11日、新型コロナウイルス感染症対策の新たな「20の措置」を発表した。隔離期間の短縮など、規制を緩和した特徴がある。同措置を受けて、中国が「ゼロコロナ」政策の堅持を断念する前触れなのかどうかの、さまざまな観測が発生している。

「20の措置」は、感染者との濃厚接触者に対して、これまで7日間だった集中隔離期間を5日間にする。自宅隔離期間は3日間で変更されなかったが、隔離期間全体で2日間短縮されたことになる。新型コロナウイルス感染者を搭乗させた航空会社への罰則は撤廃された。

「二次接触者」の特定も撤廃され、感染リスク地区の分類も従来の「高」「中」「低」から「高」と「低」の2種に簡素化して、規制措置を適用する人の数を最小限に抑えることにした。

「20の措置」が発表された後に、人民元の為替レートは7週間ぶりの高値になった。上海・深セン300指数は午後の取引で2.8%上昇し、香港ハンセン指数は7%以上上昇した。ハンセン指数の上げ幅は、1日内の反発としては今年3月以来の値だった。また、中国の旅行検索エンジン「去哪爾網」では、11日の国際便検索数が前日の3倍に急増した。

ただし中国では、中央政府が定めた政策を実行するのは地方政府である場合が多く、地方政府は「地元の実情に合致した施策」を進めるために、相当に大きな裁量が認められる場合が一般的だ。そのためSNSには「20の措置」について「どのように実施するかは、すべて地方(政府)が組める。従って楽観はできない」との書き込みも寄せられた。

中国外交部(外務省)の趙立堅報道官は11日の定例記者会見で、「20の措置」について「感染症対策の最適化を図る措置が発表されたことで越境旅行が改善され、ビジネスパーソンによる中国への投資や起業に利便性がもたらされるだろう」と述べた。ただし趙報道官は続けて「科学的かつ正確に感染症を抑止するためであり、感染症対策を緩めることでは決してない」として、中国は今後も感染症対策を徹底すると強調した。(中略)

「20の措置」は、中国で新型コロナウイルス感染症が約3年前に発生して以来、これまでで最も大胆な規制緩和だ。ロイターはシティバンクの分析を引用し、この新たな政策は「ゼロコロナ」政策の終わりの始まりを示しており、今後数カ月間でワクチン接種の推進が加速するのに伴い、全面的な開放に向けた準備が進むとの見方を示した。

ただし多くの専門家は、中国がただちに全面的な開放に向けて進む可能性は低く、早くとも2023年3月の全国人民代表大会と政治協商会議の後になると考えているという。【11月13日 レコードチャイナ】
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“早くとも2023年3月の全国人民代表大会と政治協商会議の後”・・・・中国人民の苦難はしばらく続きそうです。

【「保身」に走る地方政府の「現実」対応 一方で「財政悪化」という「現実」も】
問題は、上記記事にあるように地方政府の対応です。
中央が「適正化」を云々しても、実際に感染が拡大すると地方政府幹部はその責任を問われます。そのため、地方政府は自らの「保身」のために住民無視の厳しい規制・「過剰対応」に走りがちです。

****コロナ「過剰対応」続く中国、妊婦が4時間搬送待ちし流産・1人感染で23万人外出禁止****
中国政府が新型コロナウイルス感染対策を「適正化」すると発表したにもかかわらず、外出制限で病院搬送が間に合わずに妊婦が流産したり、ロックダウン(都市封鎖)が行われたりするなど、地方政府による過剰な対応が続き、インターネットには当局を批判する投稿が相次ぐ事態になっている。

内陸部の重慶市内の区政府は14日、妊婦が流産した事案について調査を始めたと発表した。米政府系のラジオ自由アジア(RFA)などによると、感染対策で外出が制限された地区に暮らす妊婦が12日、体調不良を訴えて管理者に車の手配を依頼したが、搬送まで4時間を要し、流産したという。

東北部の黒竜江省鉄力市では、13日から3日間、事実上のロックダウンに入った。12日に感染者が1人見つかったため、約23万人の住民にPCR検査時以外の外出を禁じ、タクシーやバスの運行も停止している。

中国政府は11日、感染対策を「適正化」すると発表し、地方政府に対して、無分別な封鎖措置を禁じ、妊婦や基礎疾患のある人々には状況に応じて対応することなどを求めた。「ゼロコロナ」政策に対する人々の不満を軽減する狙いがあったとみられる。

しかし、感染拡大による処分を恐れる地方幹部が過剰な対応を継続しているのが実情で、ネット上では「まだこんな悲劇が起きているのか」などと批判的な投稿が相次いでいる。【11月14日 読売】
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もっとも、地方の「保身」からの過剰反応という「現実」の一方で、従来の地域住民全員を対象に行っていた定期的なPCR検査が「財政悪化」という「現実」から廃止されるという緩和に向かう側面もあるようです。

****中国 「ゼロコロナ」新方針で地域住民「全員対象」のPCR検査廃止の都市続々 背景に財政悪化の指摘も****
新型コロナの感染を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策をとる中国。感染者の洗い出しのため、地域住民全員を対象に行っていた定期的なPCR検査をやめる都市が増えています。背景には地方財政の悪化も指摘されています。

こちらは中国のインターネットに投稿された河北省石家荘市の映像です。動画を投稿した人は、店舗に入る際に求められていた72時間以内のPCR検査の陰性証明が14日から必要なくなったと伝えています。

証明の必要がなくなったきっかけは、中国政府が今月11日に発表した新型コロナに関する新たな方針です。

感染が発生していない地域については、新たに感染者が出ても感染源や経路が特定できていれば、市や区といった行政区の「全員を対象」にした検査は行わないと定めました。

これを受け、石家荘市のほか、南部の広東省広州市や、東北部の遼寧省大連市など、市民全員を対象にした定期的なPCR検査を廃止すると発表する都市が各地で相次いでいます。

ただ、今回の方針について政府は、政策の「緩和」ではなく、あくまで「ゼロコロナ」政策を堅持すると強調しています。

中国の証券系シンクタンクは検査には、人件費など最大で年間およそ34兆円の費用がかかると試算。

中国メディアによりますと、公衆衛生の専門家が「大規模なPCR検査は多くの地方の財政に大きな圧力をかけている」と話すなど、今回の検査廃止の背景には地方政府の財政悪化を指摘する声も上がっています。【11月15日 TBS NEWS DIG】
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【広州市では暴動、警察との衝突も】
「適正化」後の様々な反応、憶測もあるなかで、基本的には厳しい規制が続いており、住民不満も限界状態。
感染拡大の中心地ともなっている広州市では暴動に至り、警察と衝突する事態にも。

****中国・広州市でコロナ封鎖抗議の住民が暴動、警察が高圧放水で鎮圧…香港メディア****
中国の広東省広州市で14日夜、新型コロナウイルス感染対策に基づく厳格な封鎖措置に住民が抗議し、暴動に発展した。香港メディア・香港01は、住民が警察車両や封鎖に使われていたフェンスを倒すなどし、警察が高圧放水で鎮圧を図ったと報じた。けが人も出ている。

暴動が起きたのは市中心部南方の海珠区で、5日以降、公共交通機関の運行を停止し、事実上のロックダウン(都市封鎖)状態となっていた。インターネット上では、大勢の住民が大声を上げて封鎖区域外に飛び出し、防護服姿の職員ともみ合う様子を撮影した動画が拡散された。

中国メディア・財新によると、封鎖区域の住民が中に入れず、路上で夜を明かしている。人口約1880万人の広州市では、14日の新規感染者数が5124人と過去最高になった。【11月15日 読売】
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【SNSで流出する実態 当局側の規制強化】
“当然ながら”情報統制が厳しい中国ではこうした状況をメディアは一切報じていませんが、暴動の様子が動画でSNSで国外に流れてもいます。

辛坊治郎氏は「これまでの中国であれば、あり得ない」とも指摘しています。
“あり得ない”のは暴動が起きたことではなく(中国では、土地収用をめぐる問題などで住民デモと警察が衝突するということは以前からよくある話です。)、動画が国外に流出することです。

****中国コロナ封鎖で住民暴動 「これまでの中国であれば、あり得ない。この動画で中国の実態が分かる」辛坊治郎、広州住民の暴動動画流出で指摘*****
(中略)中国の広東省広州市で15日夜、新型コロナウイルス感染症対策の封鎖措置に住民が抗議し暴動に発展した。香港メディアによると、住民が警察車両や封鎖に使われていたフェンスを倒すなどし、警察が高圧放水で鎮圧を図った。

辛坊)中国ではいまだに「ゼロコロナ」政策です。感染者が見つかると、街ごと、また町内一帯をフェンスで封鎖しています。そうすると自宅に帰れない人や、自宅から出かけられない人が発生します。それで怒った住民たちがフェンスを倒すなどして、警察と衝突したんですね。

警察官の中には「いつまで、こんな馬鹿なことをやっているんだ」と個人的には懐疑的な人もいるのでしょうが、命令を受ければ個人的な意思とは関係なく封鎖を死守しようとするわけです。

日本であれば、メディアが現場に駆けつけ、報道されて大騒ぎになりますが、中国では徹底した報道管制が敷かれています。

しかし、その中国でも最近、抜け穴ができてきました。欧米の交流サイト(SNS)の大半は中国では使えませんが、国内のSNSを使って暴動の様子を映した動画などを流す人が現れてきたのです。これまでの中国であれば、あり得ないことです。

しかし、ここまでスマートフォンが普及すると、今回の暴動のように、その動画が世界へ漏れ出すようになりました。こうした動画によって、今の中国の実態が世界の人々にも分かるようになってきたわけです。【11月16日 ニッポン放送 NEWS ONLINE】
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中国に限らず、SNSの普及で、強権支配体制に対する抗議行動のあり様がSNSを活用した形に様変わりしていることはよく指摘されるところですが、弾圧の様子なども動画ですぐに世界中に拡散します。

その点では、強権支配者にとっては“やりづらい”世の中になったとも言えますが、それで諦めるほど“やわ”ではありません。
そうしたSNS、ネット利用を封じ込めるような強力な規制も行われています。

****中国、ネット法規を厳格化 共産党大会前に統制加速****
中国政府は8月1日、インターネットの統制を強めるため、交流サイト(SNS)の新たな管理規定や改正独占禁止法を施行した。秋ごろに開かれる5年に1度の共産党大会を前に社会を安定させるため、反政府的な言論やネット企業の巨大化を阻止する取り組みを加速させる。
 
たなSNS規定は「社会主義の価値観を発揚し、国家の安全を守る」ことを目的に、身分確認を徹底する。サービス提供業者は、利用者の氏名、身分証番号、職業などをこれまで以上に厳格に審査しなければならない。

改正独禁法は「データやアルゴリズム(計算手法)、技術、資本の優位性を利用した独占行為」を禁じた。【7月31日 共同】
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****中国「エアドロップ」機能を制限 習近平氏批判のスローガン拡散を問題視か****
中国で共産党大会の前に習近平国家主席を批判するスローガンが掲げられたことを受け、中国政府がアップルに対しiPhoneで画像などの共有ができる機能を制限するよう求めたことがわかりました。

台湾の中央通信社によりますとアップルは中国政府からiPhoneの画像やファイルを他人と自由に共有することができる「エアドロップ」の機能を制限するよう求められ、9日から中国国内で使用されるiPhoneの機能を制限したということです。

北京市では先月、共産党大会の開幕前に習近平主席を批判するスローガンが掲げられましたが、中央通信社は、この動画がエアドロップを通じて多くの人に拡散されたことを問題視した習近平指導部が制限をかけたのでは、という見方を伝えています。

スローガンの映像は中国国内では一切報道されていないほか、通信アプリ「ウィーチャット」などで拡散された動画はすぐに削除されるなど厳しい統制が敷かれています。【11月11日 TBS NEWS DIG】
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中国の情報統制・ネット規制については様々な問題が指摘されるところですが、話が長くなるのでまた別機会に。
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アフガニスタン  イスラム主義による厳格・抑圧的な統治を強めるタリバン政権

2022-11-15 22:37:06 | アフガン・パキスタン
(治安部隊の女性たち(タリバン暫定政権の内務省)【11月5日 日テレNEWS】)

【タリバン政権 イスラム主義による厳格・抑圧的な統治を強める】
政権掌握時には旧政権時代より穏健な統治も示していたアフガニスタンのイスラム原理主義組織タリバンですが、次第に(彼らが信じる)イスラム主義による厳格・抑圧的な統治の色合いを濃くしています。

****タリバン、イスラム法の完全執行命令 アフガン****
アフガニスタンの実権を掌握するイスラム主義組織タリバンの最高指導者ハイバトゥラ・アクンザダ師は、同国の裁判官に対し、公開処刑や石打ち、むち打ち、窃盗犯の手足の切断など、シャリア(イスラム法)のすべての側面を完全に執行するよう命じた。ザビフラ・ムジャヒド報道官が13日夜、発表した。

同報道官はツイッターへの投稿で、アクンザダ師が裁判官と会談後に「義務的」命令を出したと説明した。同師は、昨年8月にタリバンが政権を掌握して以来、公の場に姿を見せておらず、同組織発祥の地である南部カンダハルから法令を出して同国を統治している。

タリバンは1996〜2001年に政権を握った際、抑圧的な支配体制を敷き、競技場でのむち打ちや公開処刑などを定期的に行っていた。昨年の政権掌握時にはより穏健な統治を約束していたが、徐々に国民の自由と権利の締め付けを強化している。

ソーシャルメディアでは1年間以上にわたり、タリバン戦闘員がさまざまな犯罪の疑いで人々にむち打ちの刑を執行する動画や写真が拡散している。タリバンはまた、銃撃戦で死亡したとされる誘拐犯の遺体を何度か公の場にさらしている。農村部では、金曜礼拝の後、不倫をした人がむち打ちの刑に処されているとの報告もあるが、真偽は不明だ。 【11月15日 AFP】
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国内でのタリバン統治への不満、タリバン政権を承認しない欧米との軋轢、IS(イスラム国)系のテロ活動などによる安定しない治安状況・・・等々へのタリバン政権の苛立ちを示すもののように思われます。

****アフガン首都の自爆攻撃、死者35人に ハザラ人女性が抗議デモ****
アフガニスタンの首都カブールで9月30日、大学入試の模擬試験会場が自爆攻撃を受けた事件で、国連は1日、死者が35人に達したと発表した。

国連アフガニスタン支援団によると、最新情報では少なくとも35人が死亡、82人が負傷した。うち20人以上が少女と女性だという。(筆者注:国連は10月3日、死者が53人に増えたと発表。うち46人は少女や若い女性とのこと。)

模擬試験の会場となった教育施設があるカブール西部のダシュテバルチは、イスラム教シーア派の住民が多く、中でも長年迫害されてきた少数民族ハザラ人が居住している地区。

1日にはハザラ人女性約50人が、イスラム主義組織タリバンの集会禁止令を無視し、地元での惨事を受けて抗議デモを実施。黒いヒジャブとスカーフに身を包み、「ハザラ人虐殺を止めろ、シーア派教徒であることは罪ではない」などと叫びながら、負傷者が入院している病院の前を行進した。

目撃者はAFPに対し、攻撃の実行犯は、男女別のホールのうち女性用のセクションで自爆したと語った。

デモに参加していた女性はAFPに、この攻撃は「ハザラ人とハザラ人の少女たちに対するもの」だと述べ、「こうした大量殺害をやめるよう求める。私たちは自分たちの権利を要求するために抗議している」と語った。 【10月2日 AFP】
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“犯行声明を出している組織はないが、シーア派を異端視するイスラム過激派組織「イスラム国」は過去に同地域で少女や学校、モスク(イスラム礼拝所)を標的とした攻撃を繰り返してきた”【10月4日 AFP】

統治を厳格・抑圧的なものにするタリバンの姿勢を反映したものには、以下のような動きも。

****“全身黒ずくめ”ヘルメットに盾を持つ女性たち タリバンが女性治安部隊を創設 その狙いは****
アフガニスタンで実権を握るタリバンは、今週、治安部隊に元警察官の女性約100人を採用したと明らかにした。女性への抑圧が懸念される中、その狙いは何なのか。
 ◇◇◇
目以外の全身を黒い服で覆った女性たち。頭にはフェイスシールド付きのヘルメットを装着し、盾を持っている。
タリバン暫定政権で国内の治安維持を担う内務省は、今週、女性による治安部隊の創立を明らかにした。元警察官の女性100人を再雇用したのだという。

治安部隊の女性(タリバン暫定政権の内務省)女性隊員らは「暴動を防ぐための訓練は有益だった」「仕事を離れていた女性警察官たちに、職務に戻るようお願いしたい」などと話していた。

タリバン復権後、多くの女性が役所などの公的な仕事につきにくくなったと指摘される中、元女性警察官の職場復帰は、歓迎すべき動きにも見える。

しかし、タリバンは、いまも、女性の権利を訴えるデモなどを許さず、厳しい取り締まりを続けている。今週も、記者会見場にタリバンがやってきて、女性活動家が逮捕されるということがあった。

治安部隊の女性たち(タリバン暫定政権の内務省)女性治安部隊は、警備や暴動鎮圧のための訓練を受けているとされ、女性たちの抗議デモを取り締まる目的があると指摘されている。

女性治安部隊が、力づくで、女性の権利を訴えるデモを取り締まる状況が訪れるのか、懸念が広がっている。【11月5日 日テレNEWS】
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****タリバン、公園・遊園地への女性の入場禁止 アフガン首都****
アフガニスタンの実権を掌握するイスラム主義組織タリバンは今週、首都カブールの公園や遊園地への女性の入場を禁止した。

タリバンは実権掌握以来、男性の付き添いなしで旅行するのを禁止し、外出の際には常にヒジャブやブルカの着用を義務付けるなど、女性の公共の場での権利を制限してきた。女子中等教育機関も、ほぼ全国で1年以上閉鎖されている。

勧善懲悪省の報道官は9日夜、AFPの取材に応じ、「われわれはここ1年3か月、問題解決に最善を尽くしてきた」「しかし、いまだ一部の場所、いや、実際には多くの場所で規則が破られている」と語った。
「(男女が)分けられておらず、ヒジャブの着用も守られていないため、今回の判断に至った」

ある女性は、公園で遊ぶ子どもたちを近くの飲食店の窓から見守りながらこう話した。「学校も、仕事もない。少なくとも私たちも楽しめる場所が欲しい」

その隣のテーブルでは、姉妹と一緒に1日を過ごそうと公園に来た、大学でイスラム法を学ぶ女性が「家にいるのに飽き飽きしていたので、楽しみにしていたのに」とがっかりした様子で言った。「イスラム教では外出して、公園に行くことは明らかに認められている。何の自由もないのなら、この国に住む意味があるのだろうか」

女性だけではなく、施設開発に多額の投資をしてきた公園管理者らも落胆を隠せない。
数キロ先にあるザザイ遊園地では、入場者数があまりにも少ないため、観覧車などほとんどの乗り物を突如運休にした。

ハビブ・ジャン・ザザイ氏は、1100万ドル(約16億円)を投じ、遊園地を共同開発した。250人の従業員がいるが、遊園地を閉鎖しなければならないのではないかと心配している。

ザザイ氏は「女性が来なければ、子どもたちも自分たちだけでは来ない」と訴える。今回の決定により、国外在住のアフガニスタン人は投資を避けるようになり、税収にも影響が出るだろうと警告する。
「政府は税金で運営されている。投資家が税金を払わなければ、どうやって国を運営していくつもりなのだろう」 【11月10日 AFP】
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首都カブールの遊園地では今年4月以降、男性と女性で入場できる曜日を分けて対応していましたが、今月に入って女性の入場は認められなくなったとのこと。

女性が禁止されれば、子供も連れて来られない・・・ほとんど利用する人のいない公園・遊園地、髭面の男だけの遊園地といった奇妙で愚かしい光景になるのかも。

タリバンは、基本的に人々が娯楽を楽しむことが気にいらないのでしょう。(旧政権時代は、音楽も、演劇も、凧あげも、闘犬も“娯楽”は全て禁止されました) 人々は家でおとなしくコーランを読んでいればいいという発想でしょうか。 もっとも、政権奪取直後、遊園地で嬉々として遊ぶタリバン一般兵士の姿などが報じられていましたが・・・。

【強権支配政権との付き合い方】
こうした抑圧姿勢を強めるタリバンとの付き合い方は難しいところ。
日本を含め、タリバン政権を政府承認した国は現在もありませんが、日本は首都カブールで大使館の一部業務を再開させました。

****アフガン タリバン暫定政権 日本大使と会談 業務の再開を歓迎****
アフガニスタンのイスラム主義勢力、タリバンの暫定政権はハッカーニ内相代行が首都カブールで大使館の一部業務を再開させた日本の大使と会談し、関係の強化につながるとして歓迎したことを明らかにしました。

アフガニスタンのイスラム主義勢力タリバンの暫定政権は、治安対策などを担当するハッカーニ内相代行とアフガニスタンに駐在する日本の岡田隆大使が、23日に首都カブールで会談したことを明らかにしました。

アフガニスタンの日本大使館は、前の政権が崩壊した去年8月以降、一時閉鎖されていましたが、先月から業務を一部再開させています。

タリバン側の発表によりますと、会談でハッカーニ内相代行は、日本が大使館の業務を再開させたことについて「関係強化につながる効果的な一歩だ」として歓迎し大使館の安全を守ると約束したということです。

一方、日本大使館によりますと、会談ではタリバンが認めていない日本の中学校と高校にあたる学校に通う女子生徒に対する授業の再開など、国際社会が抱いている懸念についても、意見を交わしたとしています。

タリバンの暫定政権をめぐっては、女性の権利を制限しているなどとして、国際社会からの批判が強く、これまで承認した国はなく、日本がどのような関係を築いていくかが課題です。【10月24日 NHK】
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欧米諸国がどういう対応をしているのかは知りません。
ただ、日本はかつてのスリランカやミャンマー軍事政権など、欧米諸国が人権抑圧を理由に関係を断つ政権と、経済関係優先、あるいは中国との影響力競争などの視点から宥和的な外交をする傾向もありますので、今後のタリバン政権との関係が注目されます。

アフガニスタンと日本のつながりでは、公益財団法人ジョイセフによる「思い出のランドセルギフト」事業という活動も。

****思い出のランドセルギフト」とは****
日本で役目を終えたランドセルをアフガニスタンに寄贈し、子どもたち、特に教育の機会に恵まれない女の子の就学に役立てる国際支援活動です。2004年の開始以来、およそ26万個のランドセルが贈られました。

ランドセルを贈ることで、子どもたちが学校で学ぶ機会が得られ、読み書きができるようになり、自分自身や家族を守る知識や情報を身につけられるようになることを目指しています。この活動は、小学校4年生の国語や中学校の英語の教科書といった教材にも取り上げられています。9,360個のランドセルがアフガニスタンに届きました

2021年8月に起きたタリバンの全権掌握により不安定な情勢が今なお続くアフガニスタンに2021年11月〜2022年7月までに寄贈された9360個のランドセルをナンガハール州のヒスラク郡とシェルザッド郡の小学生1年生から3年生の子どもたちへ配付しました。

配付は10月に開始され、11月も配付が続けられます。ヒスラク郡は昨年の政変までタリバンの支配下にあったため、20年間、国際支援が届けられなかった地域です。ヒスラク郡もシェルザッド郡の子どもたちにも今回初めて日本のランドセルと学用品を届けることができました。(後略)【11月4日 公益財団法人ジョイセフ】
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こうした活動を行うためにはタリバン政権との一定のパイプが必要にもなります。
より広範な話としては、飢餓に苦しむタリバン国民への食糧支援の問題もあります。

人権抑圧政権を無視すればいいというものでもありません。さりとて、人道支援が強権支配政権を利することにつながるのも釈然としない・・・ということで、悩ましいところです。


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トルコ・エルドアン大統領  内政の困難もあって、独自外交を活発化 ウクライナ問題仲介にも意欲

2022-11-14 23:10:51 | 中東情勢
(エルドアン大統領とプーチン大統領 クレムリン公式HPより【11月13日 アゴラ】
エルドアン大統領はウクライナ・ロシア双方へのパイプを利用して、ウクライナ問題仲介への意欲を示しています)

【イスタンブール爆発事件 トルコ政府「クルド組織のテロ」と断定 報復示唆】
トルコのイスタンブール市内の有名観光スポットのひとつが「イスティクラル通り」
有名店、オスマントルコ時代のヨーロッパ風の建物が立ち並ぶイスタンブール最大の歩行者専用道路で、レトロな路面電車が走っています。

「見てきたようなこと」言うのは、今年9月上旬のトルコ観光で実際に歩いたから。
そのときの旅行記のサイトへアップがここしばらく中断しており、中断した「イスティクラル通り」周辺の旅行記を書こうとしていたときに飛び込んできたのが、「イスティクラル通り」での爆発事件。

トルコ政府はクルド人反政府勢力PKKが関与したテロ事件と断定しています。

*****「クルド組織のテロ」と断定=シリア国籍の女拘束―イスタンブール爆発*****
トルコの最大都市イスタンブールの繁華街イスティクラル通りで起きた爆発で、トルコ治安当局は14日、爆発物を現場に残して去ったシリア国籍の女の身柄を、イスタンブール市内で拘束したと発表した。

犯行声明は確認されてないが、ソイル内相は爆発について「反政府武装組織クルド労働者党(PKK)が関与したテロ」と断定した。

爆発は13日午後、人混みの中で発生し、9歳前後の女児を含む少なくとも6人が死亡、81人が負傷した。死者はいずれもトルコ人。地元メディアによると、負傷者にはシリア人やロシア人、セルビア人、モロッコ人が含まれている。

治安当局によると、女はアフラム・バシル容疑者で、取り調べの中で「PKKの情報要員として、違法な手段でシリア北部からトルコに入った」と供述したとされる。バシル容疑者のほか、事件への関与が疑われる40人以上の身柄を確保したという。

ソイル氏は、クルド人が暮らすシリア北部のアインアルアラブから「攻撃の指示が下されたとみられる」と説明。「近い将来、われわれは彼ら(PKK)への反応を示す」と訴え、シリア北部に報復攻撃を行うことも示唆した。【11月14日 時事】
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負傷者に多くの外国人がいるのは、前述のように事件現場が有名観光スポットであるため。

“シリア北部に報復攻撃を行うことも示唆”・・・イドリブに残るシリア反体制派を支援するトルコは、現在もシリア北部のクルド人地域に軍事介入してクルド人武装勢力を追い出し、親トルコ地域をつくっていますが、おそらくまた介入・攻勢を強めるのでしょう。エルドアン大統領としては、この地域にトルコ国内のシリア人難民を移す計画とも言われています。

【止まらない物価上昇 高まる国内不満を封じ込める動きも】
記録的な物価上昇が止まらず、内政では困難な状況にあるエルドアン大統領にとっては、(犠牲者には不謹慎なもの言いではありますが)国民の目を外に向ける恰好の機会となるかも。

****トルコCPI、10月は前年比+85.5% 利下げで24年ぶり上昇率****
トルコ統計局が3日発表した10月の消費者物価指数(CPI)は、前年比上昇率が85.51%と24年ぶりの伸びを更新した。物価高騰にもかかわらず中央銀行が3カ月で3回利下げしており、インフレが一段と加速した。(後略)【11月3日 ロイター】
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もともと反対勢力を力で封じ込める強権支配的な傾向があるエルドアン大統領ですが、上記のような経済苦境にあって、来年6月の次期大統領選挙に向けて国内不満の拡散を封じ込めようとする動きを強めています。

****フェイクニュースで禁錮3年 トルコ「規制法」のウラ側****
先週、施行された、トルコのフェイクニュース規制法。偽の情報を流した場合、最大で禁錮3年が科される。

国会で審議中に、野党議員は、「表現の自由を侵害されるおそれがある」とスマホをたたき壊し、批判していた。

2023年6月の大統領選挙に向け、政府にとって都合が悪い情報が出ないようにするため、規制を強化したともいわれるこの法案。SNSへの投稿だけで逮捕される可能性もあり、懸念が強まっている。【10月28日 FNNプライムオンライン】
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【内政から国民の目をそらす思惑もあってか、活発化するエルドアン外交】
権力者にとって、内政で問題を抱えるときは、外交で国民の目を外にむけて求心力を高めるというのは常套手段ですが、エルドアン大統領は以前からも、今でも、外交面での世界の注目を集めるような独自活動は非常に活発です。

ただ、以前は中東・イスラエル諸国の反発を買うようことが多かったのですが、最近は「関係改善」の動きが目立ちます。

第1次大戦中の「アルメニア人虐殺」問題で対立するアルメニアとの歴史的和解に向けた動きも。

****関係改善へ13年ぶり会談=トルコ・アルメニア首脳****
トルコのエルドアン大統領とアルメニアのパシニャン首相は6日、「欧州政治共同体」の会合が開かれたチェコの首都プラハで個別に会談した。

第1次大戦中の「アルメニア人虐殺」問題などで見解が対立し、国交がない両国の首脳級による対面での会談は2009年以来13年ぶり。関係改善が加速する可能性もある。

エルドアン氏は会談後の記者会見で「(国交の)完全正常化というゴールに到達できると信じている。友好的な雰囲気だった」と語った。【10月7日 時事】 
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上記以上の内容は知りませんが、アルメニアはアゼルバイジャンとの領土問題で劣勢にあり、アゼルバイジャンを支援するトルコとの対立緩和は望むところでしょう。トルコ・エルドアン大統領としては、アルメニアが苦境にある今こそ、トルコにとって有利な条件で話を進める好機ということにも。

独自外交で軋轢が強まったアラブ諸国との関係改善にも乗り出しています。国内経済が困難な状況で、石油大国サウジアラビアとの協力関係が欲しいのでしょう。

****アラブ諸国との関係改善模索 トルコ大統領、サウジ訪問****
トルコのエルドアン大統領は(4月)28日、サウジアラビアを訪問する。トルコのサウジ総領事館で反体制サウジ人記者の殺害事件が起きた2018年以来、冷え込んできた両国関係は改善に向かう見通しとなった。

トルコ大統領府によるとエルドアン氏は29日まで滞在し、2国間の協力強化や国際情勢について意見交換する。実力者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談する可能性もある。

反体制サウジ人記者のジャマル・カショギ氏は18年10月、トルコ・イスタンブールのサウジ総領事館内で殺害された。エルドアン氏はサウジ政府の「最高レベル」が殺害を命じたなどと非難してきたが、事件の審理を担当するイスタンブールの裁判所は今月、公判を中断して審理をサウジに移管すると決定。和解の兆しとの観測が出ていた。

トルコは近年、周辺地域の多くの紛争に介入するなど強権的な対外政策を進め、アラブ諸国との関係も険悪になっていた。

昨年には通貨トルコ・リラが対ドルで急落してインフレが深刻化しており、石油大国サウジとの和解を経済好転に生かす狙いがある。トルコはエジプトなどとの関係改善も模索している。【4月28日 産経】
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イスラエルとの関係正常化も進んでいます。

****トルコとイスラエル、4年ぶりに外交関係正常化 大使復帰へ****
トルコとイスラエルは(8月)17日、両国が外交関係を正常化し、約4年ぶりに互いに大使を復帰させると発表した。パレスチナ問題を巡り悪化していた両国関係はこの数カ月で改善していた。

エルサレムの米大使館開設に反対する抗議デモでパレスチナ人60人がイスラエル軍に殺害されたことを受け、両国は2018年に大使を呼び戻していた。

ただ、エネルギー分野における協力の重要性が高まってきたことから、このところ関係修復に取り組んできた。

イスラエルのラピド首相は、トルコのエルドアン大統領との会談後に声明を発表し、「関係改善は両国民の絆の深化、経済・貿易・文化の関係拡大、地域の安定強化に寄与する」と述べた。
トルコのチャブシオール外相もアンカラで、大使復帰は関係正常化のステップの一つだと述べた。【8月18日 ロイター】
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【欧米にはトルコ独自外交への“苛立ち”も】
最近では、ロシア・ウクライナの仲介にも積極姿勢を見せています。
8月初めには、戦闘で停滞したウクライナ産穀物の輸出再開にこぎ着けるという「成果」もあげています。
しかし、エルドアン大統領の「独自」外交は欧米からすると苛立たしいものに思えるところも。

NATOへのスウェーデンとフィンランド加盟問題でトルコが難色を示していることも、欧米からすれば苛立たしいところでしょう。

****「調停者」トルコに欧米困惑 対露輸出増でも批判避け****
ロシアによるウクライナへの侵略を巡り、トルコのエルドアン政権の動きに欧米が頭を痛めている。トルコが、ロシアとウクライナの「調停者」を自任して対露制裁に加わらず、ロシアとの関係を強化して経済制裁の抜け穴になっているからだ。だが、トルコはウクライナ、ロシア双方と対話のパイプを持つ。眉をひそめる欧米もトルコを頼りにせざるを得ない事情がある。

英紙フィナンシャル・タイムズは8月中旬、トルコの5〜7月の対露輸出が前年同時期比で46%増の20億ドル(約2900億円)に達したと伝えた。欧米がロシアに制裁を科し、千社以上が市場から撤退したとされるが、外国企業の穴をトルコが埋めている形だ。

欧州連合(EU)欧州対外活動庁のスタノ報道官は、同紙に「欧州が対露関係を縮小しているときに関与を深めるのは適切とはいえない」と述べ、くぎを刺した。

バイデン米政権もトルコの対露輸出増加にいらだちつつ、調停への期待からトルコへの表立った批判は避けているものとみられる。

制裁を科していないトルコはロシアの富豪の資産逃避先となり、ロシアが制裁で輸入できない高性能の電子機器などを迂回(うかい)して入手する拠点にもなっている。トルコでは露通貨ルーブルの決済システム「ミール」のカードも使用可能だ。

漁夫の利を得るトルコを欧米が表立って批判できないのは、トルコのエルドアン大統領の「調停外交」が成果を挙げた実績があるからだ。

エルドアン氏は8月にロシアのプーチン大統領と会談する一方、国産無人機を供与してウクライナとも関係を築き、同国のゼレンスキー大統領とも会談。8月初めには、戦闘で停滞したウクライナ産穀物の輸出再開にこぎ着けた。

エルドアン氏が調停に熱心なのは、来年6月のトルコ大統領選を見据えた動きだとの見方が根強い。同氏は立候補を表明したものの支持率は低迷している。大きな理由が経済不振だ。

景気浮揚を優先するエルドアン氏は、中央銀行総裁を相次いで解任して利上げを阻止。トルコの通貨リラが対ドルで急落し、8月のインフレ率が24年ぶりに前年同月比80%を超えた。急速な物価高で同氏への反感が強まっている。

こうした中で戦争が起き、エルドアン氏は「国際社会に不可欠な指導者像」を誇示して、支持回復を図る思惑とみられる。

侵攻に端を発するスウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟問題でも、エルドアン政権は、スウェーデンとフィンランドが、トルコが重視するテロ対策に非協力的だと横やりを入れ、両国の加盟承認に難色を示した。

トルコも一員であるNATOは、全加盟国が批准しないと新規加入ができない。エルドアン氏は、6月下旬のNATO首脳会議で態度を一変させ、加盟を歓迎する姿勢を示したが、数日後には「合意事項が履行されなければ批准を見送る」と表明した。

NATOに加盟する30カ国の内、数カ国は批准手続きが完了していない。その一国であるトルコは、いわば加盟問題を「人質」に取っている形だ。エルドアン氏の支持率が思うように上がらない中、トルコが批准するまでに「まだドラマが起きる可能性がある」(米紙)との懸念がくすぶる。

トルコが批准せず、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟が遅れれば、欧米から非難を浴びることは必至。支持率改善に向けた「内政ありき」のエルドアン氏の外交は危うい段階に差しかかっている。【9月12日 産経】
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欧米側は今のところは、“苛立たしいながらも状況を見守る”という対応ですが、エルドアン大統領が“やり過ぎる”と、一斉にトルコ批判が噴き出すかも。

なお、トルコはNATOに加盟しながら、中国・ロシアが主導する上海協力機構(SCO)への加盟も目指しています。

****独首相、トルコに「いら立ち」 上海協力機構加盟目標巡り****
ドイツのショルツ首相は20日、中国とロシアが主導する上海協力機構(SCO)への加盟をトルコが目指していることに「非常にいらだっている」と不快感を表明した。

トルコのエルドアン大統領は17日、SCO加盟を目指していると発表した。トルコは、北大西洋条約機構(NATO)に加盟している。

ショルツ氏はエルドアン氏と会談後、ニューヨークで行われた国連総会で「SCOは世界的共存に対して重要な貢献をしていない」と指摘。「そのため、この展開に非常にいら立っている。ただ最終的には、ロシアのウクライナ戦争が成功しないかもしれないことを明確にすべく、その原動力を巡って合意することが重要だ」と会見で述べた。(後略)【9月21日 ロイター】
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【ウクライナ問題での仲介に意欲を見せるエルドアン大統領】
ウクライナ問題の仲介については、エルドアン大統領は引き続き意欲を示しています。
10月13日、ロシアと中国、中央アジア諸国などで構成する「アジア相互協力信頼醸成会議」(CICA)の第6回首脳会議に出席したエルドアン大統領は「和平は外交によって達成できる」と述べ、ロシアとウクライナの停戦交渉の仲介に意欲を示しました。

攻勢を強めるウクライナはともかく、支援疲れも表面化し始める欧米側には交渉を望む声も。

***米、和平交渉への姿勢転換促す 「支援疲れ」に懸念と報道***
バイデン米政権がウクライナ政府高官らに対し、ロシアとの和平交渉を一切拒否する姿勢を改め、交渉入りに前向きな姿勢を示すよう内々に勧めていたと、米紙ワシントン・ポストが5日伝えた。

米政権当局者は交渉の席に着くよう強制する趣旨ではなく、戦争長期化で「支援疲れ」が広がる各国からの支援をつなぎ留めることが狙いだと指摘した。

ウクライナのゼレンスキー政権は2月の侵攻開始後、交渉入りする姿勢を示したが、ロシアの戦争犯罪が明らかになり態度を硬化させた。侵攻が継続する中での譲歩には応じない構えで、着地点は見えないのが現状だ。【11月6日 共同】
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劣勢になったロシアも、交渉には関心があるでしょう。

そうしたアメリカ・ロシアの思惑もあって、トルコの仲介が行われているようです。

****米露代表団がトルコで交渉か 詳細は不明****
ロシアの経済紙コメルサント(電子版)は14日、情報筋の話として、米国とロシアの代表団がトルコの首都アンカラで同日、交渉を開始したと伝えた。

同紙によると、米露交渉の予定は事前に公表されていなかった。露代表団にはナルイシキン対外情報局長官が含まれている。交渉の詳細は不明。

タス通信によると、ペスコフ露大統領報道官は同日、米露交渉の実施について「否定も肯定もできない」と述べた。【11月14日 産経】
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シリア・レバノンのコレラ感染拡大  レバノンではシリア難民への憎悪拡大の懸念も

2022-11-13 22:44:00 | 中東情勢
(容器に水をためるシリア難民。2017年3月、レバノン・ベッカー高原の町、バーエリアスにある仮設集落で撮影【11月13日 ロイター】)

【インフラが破壊されたシリアでコレラ感染拡大 中東一帯の水不足の状況で隣国との水をめぐる対立も】
“以前は国際問題の中心課題のひとつであったシリア情勢については、反体制派が北部イドリブに拠点をもつものの、現地での内戦が小康状態にあることやウクライナでの新たな問題の発生などで、あまり大きな扱いをされることがなくなりました。ただ、衝突がなくなっている訳でもありません。・・・・”というのは、8月20日ブログ“シリア 政権支援の露・イランと反体制派支援のトルコが協調する奇妙な関係 悪化する難民の生活環境”の書き出しですが、今日も同じ書き出しで。

****死が死を呼ぶ報復の連鎖、シリア北西部****
在英NGOのシリア人権監視団によると今月6日の朝、政権側のロケット弾攻撃があり、子ども3人を含む10人が死亡、77人が負傷した。

国内避難民キャンプなど複数の地点で30発以上のロケット弾が爆発。ロケット弾攻撃はしばらく続き、反体制派は報復として砲撃を行った。政権側は午後遅くにもイドリブ県南部のカフルラタへの攻撃を行い、1人が死亡、3人が負傷した。死傷者はオリーブを収穫している最中だった。

前日の5日には、イスラム過激派組織「タハリール・アルシャーム機構」系組織による砲撃でシリア軍に5人の死者が出ていた。

政府が民主化運動を弾圧したことを受けて2011年に始まったシリア内戦では、これまでに数百万人が国内外に避難し、50万人近くが死亡。

ロシアとイランから支援を受けたバッシャール・アサド政権は、反体制派が一時支配下に置いた地域の大半を奪い返した。

シリア北西部は時折戦闘があるものの、ロシアと反体制派を支援するトルコが2020年に合意した停戦がおおむね維持されている。 【11月13日 AFP】AFPBB News
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長年の戦闘で浄水・水道施設は大きなダメージを受けていますので、衛生環境が極度に悪化していること、その結果、感染症が拡大しやすくなっていることは容易に想像できます。
実際、シリアではコレラが流行しています。

****シリアでコレラ流行、39人死亡 1万人超が感染か****
シリア保健省はこのほど、国内でコレラが大流行しており、これまでに39人が死亡したと明らかにした。世界保健機関(WHO)は感染が「危険な速さで拡大している」と警告している。

WHOは(10月)5日の会見で、「シリアでは過去6週間で、コレラに感染したと疑われる人が1万人以上報告されている」と述べた。
シリア保健省は(10月)4日、9月下旬以降、全14県のうち11県で計594人の感染が報告されていると明らかにした。死者の大半は北部アレッポで報告された。死者数が感染者数に含まれているかは現時点で分からない。

国連によると、シリアでは10年以上続く内戦で浄水・水道施設の3分の2近くが損壊している。
今回の感染源は、下水による汚染が問題になっているユーフラテス川だとみられている。

ユーフラテス川では干ばつや高温に加え、トルコが上流にダムを建設したことから水位が低下し、汚染が進んでいた。
国連によると、シリアでは約1800万人が汚染されているにもかかわらず、飲料水をユーフラテス川に依存している。【10月6日 AFP】
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感染は更に拡大、2万4000人超に。死者も81人へ。

****シリアのコレラ禍深刻化、政府とトルコに責任 HRW****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは7日、シリアでコレラ禍が深刻化していることについて、同国政府とトルコが北東部のクルド人勢力支配地域への支援物資の配給や水流を妨げていることが背景にあると非難した。

シリアではここ10年あまりはコレラの流行は報告されていなかったが、世界保健機関によると、9月以降、2万4000人以上がコレラに感染、81人が死亡した。

HRWは、トルコ政府はユーフラテス川の十分な水量を保証せず、また同国の占領下にあるアルーク給水所からの水道供給も保証していないと指摘した。

クルド人勢力が支配する北東部の保健当局は9月、報道陣に対し、ユーフラテス川の水位は低下しており、コレラ菌が検出されたと話していた。

同勢力は、トルコが上流で水量を調節しており、水を武器として利用していると非難している。トルコ政府はそうした主張を否定している。

HRWの中東・北アフリカ地域副ディレクターのアダム・クーグル氏は「トルコはシリアの水危機深刻化を直ちに止めることができるし、そうすべきだ」と語った。

またHRWは、シリアのバッシャール・アサド政権も、北東部のクルド人居住区向けの支援物資・サービスを他の用途に転用していると批判した。 【11月8日 AFP】
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温暖化の影響でイラク・シリア・イラン・レバノンなど中東一帯で水不足が深刻化していること、チグリス・ユーフラテス川の水位が低下していること、上流国のトルコ・イランと下流国のイラクで水資源をめぐる対立が生じていることは、11月10日ブログ“イラク 気候変動で水不足が深刻化 国民は困窮し、健康被害も 多くを期待できない新政権”で取り上げたばかりです。

シリアの水不足状況、トルコなど隣国との水をめぐる対立も、イラクと同じのようです。

トルコはシリア北部のクルド人勢力をトルコ国内のクルド人反政府勢力と連携する勢力とみなして、軍事介入で排除しようとしていますので、“トルコが上流で水量を調節しており、水を武器として利用している”というのも極めて“ありうる”話でしょう。

【レバノンでもコレラ レバノン政府は隣国シリアでの感染拡大が原因と】
隣国レバノンでも衛生的な水へのアクセスが困難となっており、コレラ感染が拡大しています。
この地域は難民など人的移動が多い地域ですから、それに伴って感染も国外に拡大する可能性があります。レバノン政府は隣国シリアでの感染拡大が原因と考えています。

****経済危機のレバノンでコレラ流行、背景に深刻な水問題****
レバノン北部の難民キャンプでは、水道が止まるのは日常茶飯事だ。だが、マハ・エルハメッドさん(34)と家族は、水道が出なくなってもボトル入りの水を買うことがもはやできない。

「水道水がない時は、近くの池に頼っている」
コレラに感染し重症化した4歳の息子の病床に寄り添いながら、彼女は語った。経済危機で苦しむレバノンに、コレラがさらなる悲劇をもたらしつつある。

人口600万人のレバノンでは、10月以降わずか1カ月のうちにコレラの感染が国中に拡大し、同国保健省が発表した最新のデータによれば2000人近くが罹患、17人が死亡した。

レバノンでは1993年以来、コレラの流行は終息状態にあった。しかし、エリート層の派閥抗争で政府の機能がまひする中、深刻な経済危機は4年目に突入し、公共サービスが打撃を受けている。

コレラは、人間の排泄物などで汚染された食べ物や水を摂取することで感染する、下痢を伴う病気だ。治療を受けなければ数時間で死に至る恐れもあり、子どもへの危険性は特に高い。(中略)

<汚染された水>
国連児童基金(ユニセフ)によると、水道管からの供給が不十分なことや、水道水の代わりとなる水の価格上昇などから、金銭的余裕のない難民やレバノンの家庭は汚染された水の使用を余儀なくされている。

また、広範囲の停電によってポンプ場や浄水場が停止したため配水システムが作動せず、清潔な水道水の配給が滞っているという。

「慢性的に清潔な水や電気を家庭やキャンプに届けることができず困っている。これにより、下水処理にもさらに多くの問題が生じている」とアメリカン大学ベイルート医療センター感染症研究所のガッサン・ドゥバイボ所長は説明する。

レバノンで暮らす多くの人々と同様、エルハメッドさんは水道水の安全性に懐疑的だ。もし水道から水が出ていたとしても、飲用や料理にはボトル入りの水を買う方が望ましいと思っている。

だが、ボトル入りの水は、急激なインフレで昨年と比べ3−5倍にまで価格が高騰。現在、人口の80%が貧困状態にあるレバノンでは、多くの人にとって手の届かないものになってしまった。

エルハメッドさんによれば、建設作業員である夫の給料ではボトル入りの水を買うことができなくなり、「不衛生な」水道水を飲むしかないという。

シャワーや洗濯などに必要な水は、ろ過した水を民間業者から購入してタンクにため、エル・ハメッドさんの一家と近隣住民で共有して使っているが、この価格も上昇。残る選択肢は池の水だけだ。

また、コレラの流行は人手不足と資金難に苦しむ医療施設にとっても重荷となっている。(中略)

世界保健機関(WHO)のレバノン担当者、アブディナジャ・アブバカル氏は、清潔な水や衛生管理キットの供給に努めているものの、感染状況がこれから最悪の状況を迎える可能性を懸念していると話した。

<シリアでも感染爆発>
レバノン政府の当局者は今回のコレラ感染について、隣国シリアでの感染拡大が原因と考えている。(中略)

ベイルートを拠点とする表現の自由を保護する非営利組織で、トムソン・ロイター財団の資金パートナーでもあるサミール・カッシル財団(SKF)によれば、レバノンにおけるコレラ感染の拡大は、11年にわたる戦争でレバノンに避難している約150万人のシリア難民への敵対心を増大させる恐れもあるという。

「レバノンで初めてコレラ感染が確認された10月、シリア人に対するヘイトスピーチの増加がみられた」とSKFのウィダード・ジャーブル研究員は分析する。

WHOは先月、紛争や自然災害が世界中で前例のない感染拡大を引き起こしていると指摘し、ワクチンの迅速な支給を呼びかけた。

レバノンは今月初旬、第1回目のワクチン配給を受け取った。会見でアビヤド保健相はワクチンについて、感染拡大を抑制する上で「必要不可欠な役割」を担うだろうと述べた。

同省の報道官はこれまでに、ワクチンは前線の医療従事者や、保健当局が野外病院を設置している北部地域など感染リスクの高い地域に住む家庭に配布するとしている。また、過密状態にあり不潔な刑務所で感染が広がる可能性も懸念されている。

WHOのアブバカル氏は「感染拡大はまだこれからだろう」との見解を示した。【11月13日 ロイター】
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【レバノンの経済破綻・政治の機能停止】
停電などによる水道インフラの麻痺、市販の水の価格上昇、そもそも貧困により水の購入が難しい状況、膨大なシリア難民の流入・・・・問題は多々ありますが、そうした問題の背後には、レバノンの財政破綻・政治の機能停止があります。

****レバノンでも食料高騰と腐敗が同時発生****
19年に債務不履行で国家破綻したレバノンは小麦のほとんどを輸入に頼り、その半分はウクライナ産。

20年夏に起きたベイルート港大爆発で穀物の貯蔵庫が壊滅、小麦の備蓄は1カ月しかないと伝えられている。このためパンの価格が2倍にも急騰、通貨レバノンポンドの価値が半減するなどウクライナ戦争の影響は計り知れない。 

世界銀行によると、人口約700万人の3分の1が貧困ライン以下の生活を強いられている上、パレスチナ難民50万人、シリア難民85万人を抱えていることもあって国家経営は文字通り「火の車」だ。国内総生産(GDP)比の国の借金はギリシャ、日本に次ぐ。  

庶民の生活は困窮の一途。
停電が断続的に続き、発電機なしではまっとうな生活さえできないが、ガソリンなどの燃料が不足し、ガソリンスタンドは連日長蛇の列だ。個人の預金引き出しが制限されていることも生活の大きな不安材料だ。レバノンに見切りをつけた医師の脱出が相次いでいる。  

だが、「腐敗のデパートのような国」(前出の中東アナリスト)と言われるように、レバノンを牛耳っている各宗派の支配層は国家の再建どころか、利権の確保に血道を挙げているのが実態だ。その一角に逃亡中の元日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告もぶら下がっている。

長年同国の経済を動かし、国家破綻を招いた責任を問われるべき中央銀行総裁は解任されるどころか、各派の談合で任期の延長が決まった。腐敗を調査する民間団体が5月に発表したところによると、個人が自由に預金を引き出せない中、同総裁の息子が650万ドル以上を国外に送金していたことが発覚したことも国民の怒りに火をつけた。

イランとサウジの代理戦争も過激化の懸念
こうした中で先月、国民議会選挙(定数128)が行われ、同国最大の軍事組織であるイスラム教シーア派の「ヒズボラ」政治連合が議席を減らし、過半数を割った。対照的に「ヒズボラ」と敵対するキリスト教マロン派の「レバノン軍団党」が15から20に議席を伸ばした。  

「ヒズボラ」はベイルート港爆発事件の原因になった爆発物を倉庫に保管していたことからその責任が追及されてきたが、刑事捜査を途中で打ち切らせた疑惑が浮上し、人気を落とした。

だが、選挙は「ヒズボラ」を支援するイランと、「レバノン軍団党」を援助するサウジアラビアによる代理戦争の様相も濃かった。小国レバノンをめぐるイランとサウジの覇権争いということだ。  

選挙の結果を受け、議席はキリスト教、イスラム教にそれぞれ64ずつ配分されるが、ミカティ現政権に代わる新政権の発足には利権の奪い合いなど各勢力による駆け引きが行われ、政治的な混乱は半年以上も続くことになるだろう。

希望は改革志向の独立系の新人が13人も当選したことだが、腐敗の元凶である宗派の利権構造を崩すのは難しい。 
 
しかし、ウクライナ戦争による食料危機が深刻化すれば、国民の不満が一気に噴出し、宗派の対立も激化するのは必至だ。

昨年10月にはベイルートで、「ヒズボラ」支持者らが激しい銃撃を受け6人が死亡する事件が発生。「ヒズボラ」は「レバノン軍団党」の犯行と非難、両派の緊張は沈静化していない。【6月18日 WEDGE「食料危機でも腐敗は横行 政情不安のエジプトとレバノン」】
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9月には、凍結された自分の預金の引き出しを求める人々が、各地の銀行を相次いで襲撃して自分の口座のカネを「強盗」する事件が話題になりました。

【弱者の不満がより弱い立場の者に向けられるという差別の構図 レバノンで増加するシリア難民へのヘイト・暴力】
そうした経済混乱、市民生活の苦境のなかで、人々の不満は“より弱い立場の者”に向けられがちです。
レバノンの場合はシリア難民。

****シリア人に対する暴力増加、国連機関が発表****
国連当局によると、レバノンの各地で難民に対する外出禁止令を発令、パン屋にはレバノン市民を優先するよう要請している。

ベイルート:金曜日、国連難民機関がAP通信に伝えたところによると、レバノンは食料品価格の高騰や食料不足で悩まされる中、この数週間のうちに、シリア難民に対する差別や暴力が急増している。

「レバノン各地のパン屋で、レバノン市民とシリア人との間に緊張が走る場面が見られる。」と国連難民高等弁務官事務所のスポークスマン、ポーラ・バラチナ氏がAP通信に語った。「中には銃撃やシリア難民を棒を使って攻撃するケースもあった。」

国連世界食糧計画によると、レバノンは食糧安全保障危機に直面しており、国民の約半数が食料が足りていない状況であるという。また、食料品の価格高騰や、この3年間での通貨暴落に苦しんでいる。

バラチナ氏によると、レバノンの各地で難民への外出禁止令が発令され、パン屋にはレバノン市民を優先するよう要請が出ているという。(中略)

ソーシャルメディアで公開されたある動画では、レバノンの首都近郊に位置するBourj Hammoudのパン屋付近で、男らが集団でシリア人の少年を棒で殴ったり、顔を蹴るなどしている姿が映し出され、背後では銃声が鳴り響いている。(中略)

レバノン近郊には、内戦から逃れて来たシリア難民、約100万人が暮らしており、その大多数が極度の貧困状態にある。

2019年以来、レバノン全域に住む全ての人々の間で、貧困が深刻化している。 同国に暮らすレバノン人、シリア人、パレスチナ人が、毎週のように地中海を渡り、ヨーロッパに避難するために危険な航海をしている。

レバノン当局者の間では、シリア難民をシリア国内の紛争から安全と思われる地域へ強制帰国させる声が高まり、すでに崩壊しつつあるレバノンのインフラをシリア難民が圧迫していると非難している。

シリアの多くの地域では武力紛争が治まってはいるが、人権団体やUNHCRによると、人々が戻るにはいまだ安全ではないという。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、恣意的な拘束や拷問、多くの難民に対する人権侵害のケースを記録しているという。

レバノン政府はこのような懸念を無視し、シリア政府とダマスカスで、毎月最大15,000人の難民をシリアに帰国させる計画を調整している。【7月30日 ARAB NEWS】
*********************

以前から上記のようにシリア難民への反感が高まり、暴力も横行するような状況にありましたので、コレラ感染についてシリア難民がレバノンに持ち込んだということになると、暴力が更にエスカレートすることも懸念されます。

弱者がより弱い者を差別し、暴力をふるう・・・痛ましい現実です。人々の他者へ向けられる憎悪はコレラより拡散しやすく、より危険かも。
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ASEAN  悪化するミャンマー情勢に有効な対応とれず 首脳会議でも進展なし

2022-11-12 22:09:35 | 東南アジア
(【11月12日 日経】 3年ぶりに対面で実施されたASEAN首脳会議でしたが・・・)

【エスカレートするミャンマー国軍の暴力 ASEANのミャンマー対応も硬化】
前回ミャンマーを取り上げたのが10月14日ブログ“「ならず者国家」ミャンマー軍事政権との付き合い方”ですが、それ以降の約ひと月の間の主な出来事としては、少数民族記念日のコンサート会場への国軍による空爆がありました。

****ミャンマー軍がコンサート会場を空爆 アーティストや観客ら約80人死亡****
クーデター後の混乱が続くミャンマーで23日、国軍が、対立する少数民族組織の創立記念コンサートを空爆し、アーティストや観客らおよそ80人が死亡しました。

AP通信などによりますと、ミャンマー北部カチン州で23日、少数民族組織・カチン独立機構が創立記念日を祝うコンサートを開催中、国軍の戦闘機が会場を空爆し、およそ80人が死亡しました。

爆弾は会場のメインステージ近くに投下され、死者の中には、地元の有名アーティストや、組織の幹部も含まれているということです。また、ほかにもおよそ100人がケガをしたということです。

ミャンマーでは、去年2月のクーデター後、民主派と少数民族武装勢力が連携し国軍に抵抗を続けていて、特に地方で戦闘が激化しています。【10月25日 日テレNEWS】
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ASEANと国軍は昨年4月に暴力停止やミャンマー国内での対話を仲介するASEAN特使の派遣など5項目について合意しました。国軍トップのミンアウンフライン総司令官は8月、「今年中にいくつかの合意を履行する」と述べましたが、国内で弾圧の手を緩めていません。

7月には民主派4人の死刑を執行。
9月16日、北西部ザガイン地方域にある村の僧院学校が軍のヘリコプターから空爆を受けて児童11人が死亡。

更に今回のコンサート会場空爆と、ミャンマー国軍の暴力はエスカレートするようにも。ASEANの対応も厳しさを増しています。

****ミャンマー情勢「進展どころか悪化」 ASEAN特別外相会合で協議****
東南アジア諸国連合(ASEAN、10カ国)は27日、インドネシアの首都ジャカルタで特別外相会合を開き、昨年2月に国軍によるクーデターが起きたミャンマー情勢について協議した。

同4月の臨時首脳会議で合意した国軍による暴力の即時停止などの5項目に進展がないことから、ミャンマー側の履行に向けた行動に期限を設ける必要性を確認した。

議長を務めたカンボジアは声明で、「ミャンマーでは今も、非常に厳しく、危うい状況が続いている」と指摘。5項目について「明確で実践的、かつ期限を切った行動を通じて、さらに履行を確実なものにする」よう各国代表が求めたと説明した。

会合開催を呼びかけたインドネシアのルトノ外相は会合後の記者会見で「ミャンマーの状況は進展がないどころか、悪化している」と述べた。ミャンマー側は出席しなかった。

5項目についてミャンマー国軍側は、年内に履行するとしている。ただ進展が見られないことから、マレーシアのサイフディン外相らが見直しの必要があると指摘していた。

会合は11月にカンボジアで予定されるASEAN関連首脳会議を前に、方針を確認する形となった。【10月27日 毎日】
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ASEAN議長国は持ち回りで今年はカンボジアが務めていますが、カンボジアはASEAN内にあっては中国の代弁者的な役割。ミャンマー国軍との関係も重視する中国の意向を反映してか、フン・セン首相はこれまでミャンマーを訪問して国軍司令官と会談するなど、軍事政権に対しては宥和的とも見られる対応をとってきました。

そのカンボジアにしても、ミャンマー軍事政権に対して厳しい対応を迫られています。

****ASEAN議長国カンボジア、ミャンマーの暴力激化に警鐘****
東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国のカンボジアは、ミャンマーでの暴力の激化に警鐘を鳴らし、自制と戦闘の即時停止を呼びかけた。(中略)

議長国カンボジアは声明でミャンマー最大の刑務所への爆撃、カレン州での紛争、23日にカチン州で発生し少なくとも50人の死亡が報告されている空爆を例として指摘。

「犠牲者の増加、そしてミャンマーの一般の人々が耐えてきた計り知れない苦しみに深い悲しみを覚える」とした。

さらに、紛争は人道状況を悪化させるだけでなく、昨年ASEANと合意した和平「コンセンサス」実現に向けた努力も台無しにしていると批判した。

暴力の最大限の自制と即時停止を強く求め、全ての当事者が対話を追求するよう求めた。【10月26日 ロイター】
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【ASEAN加盟国間で温度差 有効な対応がとれない実態】
とは言うものの、カンボジア・ラオス・タイ・ベトナムなどミャンマー軍事政権に宥和的な国と、マレーシア・インドネシア・シンガポールなど厳しい対応を求める国の間で温度差があり、「全会一致」「内政不干渉」を原則とするASEANとして有効な対応が取れない状況が続いています。

****「加盟国に決断求める」シンガポール外相 ミャンマー問題で手詰まりのASEAN****
<軍政によるクーデターと民主派弾圧が続く彼の国に隣国が打つ手はあるか?>

東南アジア諸国連合(ASEAN)によるミャンマー問題への和平・対話の仲介工作が暗礁に乗り上げている。ミャンマーを含めた加盟国10カ国の間に厳然と存在する仲介に向けた温度差がその主な要因だ。1

1月8〜10日にカンボジアの首都プノンペンで開催予定のASEAN首脳会議に向けた加盟各国の外務省担当者による事前交渉でも、難しい意見の集約が進められている。

これまでASEANはミャンマー問題の解決に向けて、2021年4月のASEAN緊急首脳会議で採択された議長声明の「5項目の合意」を共通プラットフォームとしてきた。ところが、今ではその有効性に疑問を示す加盟国が増えてきたことも「全会一致」「内政不干渉」を掲げるASEANの結束した対応策打ち出しを困難にしているという実状がある。

シンガポール「困難な決断すべき時」
11月1日、シンガポールのビビアン・バラクリシュナン外相はASEAN円卓会議で「ミャンマー問題はこのままでは今後数十年間にわたって続く可能性がある。このためASEANは困難な決断をする時が来た」との見解を示し、今後2週間の動きを注視するとも述べた。

ミャンマーでの2021年2月1日の軍によるクーデターで、アウン・サン・スー・チー氏率いる民主政府が打倒された直後から、シンガポールはマレーシア、インドネシアと並んでミャンマー軍事政権への厳しい姿勢を表明。軍政への批判を続けてきた。

2022年になってもミャンマー軍政が「5項目の合意」のうちの「即時武力行使の中止」と「全ての関係者とASEAN特使の面会」の2項目について拒否し続けていることから、ASEANの一連の会議にミャンマー軍政の代表を招待しない状況が続いている。

11月のASEAN首脳会議にもミン・アウン・フライン国軍司令官を招待する予定はなく、9カ国の首脳会談となる見通しだ。

マレーシアが民主勢力代表招致に前向き
こうした手詰まりの状況を打開すべくマレーシアのサイフディン・アブドゥッラー外相は、ASEANの一連の会議に軍政代表ではなく、軍政に対抗して武装抵抗闘争を全土で展開している民主派勢力の「国民統一政府(NUG)」の代表を招致するべきだとの姿勢を明らかにしている。

これは事態打開の一策として注目されたが、10月27日にインドネシアの首都ジャカルタで開催されたASEAN特別外相会議では引き続きミャンマー軍政に「5項目の合意」の履行を求めていくことで意見が一致。マレーシアによる「NUG代表の招致」は議論されなかったという。

特別外相会議終了後、インドネシアのルトノ・マルスディ外相は記者会見で「ミャンマーの状況は進展がないどころか悪化している」との認識を示し、ASEANとして何ら有効は打開策を見いだせないことへの焦燥感を表した。

ただ特別外相会議ではミャンマー軍政に対して「5項目の合意」の完全履行に対して期限を設ける必要性を確認した。とはいえ、この期限に関しては外相会議は明確にしておらず、首脳会議に決定を委ねる形となった。

議長国カンボジアの融和姿勢がネックに
これまで何度も指摘されたことだが、ASEAN内部ではミャンマー軍政の後ろ盾となっている中国と親しいカンボジアやラオス、ベトナムなどがミャンマー軍政に融和的姿勢を示し、ASEANが一致してミャンマーへの強硬姿勢をとれないネックとなっている。

特に今年のASEAN議長国であるカンボジアのフンセン首相やASEAN特使に任命されたプラク・ソコン外相は複数回に渡ってミャンマーを訪問し、ミン・アウン・フライン国軍司令官など軍政幹部と直接会談して「5項目の合意」の履行を迫ったが、軍政の頑なな拒絶の姿勢を崩すことはできなかった。

それにも関わらすカンボジアは5月に自国で開催したASEAN国防相会議にミャンマー軍政代表を招待し、軍政代表が「重要な会議に招待されたことに感謝する」などと述べる事態になった。

こうした議長国カンボジアの「全加盟国参加での対話を通じた打開策を探る」との姿勢に基づく「スタンドプレー」に対してマレーシアやシンガポール、インドネシアなどは「煮え湯」を飲まされてきた。

今回シンガポール外相が「重大な決断の時」として「今後2週間に何が起きるかその動きに注視する」と述べた背景には、現在各国外務当局を中心した準備交渉の成果が11月8日から予定されるASEAN首脳会議及び関連会議で主要議題となることが見込まれている事情がある。

その首脳会議でシンガポールやマレーシア、インドネシアなどが、ASEANのミャンマー問題に対する大きな転換を期待していることをシンガポール外相が代弁したとの見方が有力視されており、ASEAN首脳会議での議論が注目されている。【11月3日 大塚智彦氏 Newsweek】
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【首脳会議でも進展なし 問われる存在意義】
ASEANは特別外相会議の結果を受け、11月の首脳会議で今後の対応を本格的に協議する方針としていました。
そのASEAN首脳会議が11日、カンボジアで開かれました。

会議が開催されるカンボジアを訪問した国連事務総長も事態改善を強く訴えています。

****国連総長、国軍に民主化移行要求=「ミャンマーは終わりなき悪夢」****
国連のグテレス事務総長は12日、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議が開かれているプノンペンで記者会見し、クーデターで権力を握ったミャンマー国軍に対し、直ちに民主化への移行作業を軌道に乗せるよう強く求めた。

グテレス氏は「市民に対する無差別攻撃はぞっとさせられる」と国軍を非難。「終わりのない悪夢の状態。地域の平和と安全の脅威にもなっている」と語った。

また、「組織的な人権侵害は受け入れられない」と述べ、国軍に国民の声を聞き、政治犯を解放するよう要求。「それこそが安定と平和をもたらす唯一の策だ」と強調した。【11月12日 時事】
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しかし、“やっぱり”と言うべきか、首脳会議でも具体的な進展は見られませんでした。

****ASEAN首脳会議、ミャンマー問題「ほぼ進展なし」…国軍への対応で隔たり大きく*****
カンボジアのプノンペンで11日に開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議は、ASEAN側がミャンマー国軍に求めている暴力停止などについて、具体的な履行期限の設定で合意できなかった。履行計画の策定は外相による協議に委ねられた。

会議終了後に発表された文書では、昨年4月にASEANで合意した暴力停止や、当事者間の対話の開始など5項目について「ほぼ進展がない」と明記。

ASEAN交渉筋によると、国軍への対応を巡って各国の意見の隔たりは大きく、合意に至らなかったという。5項目については、外相による協議の結果次第で修正や追加の可能性がある。ミャンマーの資格停止についての議論は出なかった。(後略)【11月12日 読売】
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****ASEAN首脳会議 ミャンマー問題で合意5項目の実施計画策定へ****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は11日にプノンペンで開いた首脳会議で、混迷の続くミャンマー問題について、昨年4月の臨時首脳会議で合意した暴力停止などの5項目を実施する計画を策定することなどを決めた。

首脳会議後に公表された文書によると、外相会議で計画を策定する。5項目履行に向けて国連などの支援を求めることも決めた。(後略)【11月12日 毎日】
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当事者ミャンマーも参加せず、期限設定や資格停止などミャンマー軍事政権への強い圧力もかけられない状況で「実施計画」と言ってもその有効性ははなはだ疑問です。

ASEANの文書を受けてミャンマー外務省は声明で「現状と5項目実施に取り組むミャンマー政府の努力を反映していない」と抗議したとのこと。

なお、これまでミャンマー国軍批判の急先鋒ともなっていたマレーシアは国内総選挙を優先して首相が不参加。これでは、決まるものも決められません。

結局、実質的な進展はなく、来年議長国のインドネシアに引き継ぐことになります。

今回首脳会議において、ASEANへの東ティモール加盟が原則承認され、また、アメリカとの関係も強化されることになりました。

****東ティモールがASEAN加盟へ…1999年のカンボジア以来の新規加盟で11か国に****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は11日にカンボジア・プノンペンで開いた首脳会議で、東ティモールのASEAN加盟を原則として承認することを決めた。

ASEANへの新規加盟は1999年のカンボジア以来で、ASEANは11か国になる。【11月12日 読売】
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****米とASEANが連携強化 中国に対抗、関係格上げ****
バイデン米大統領は12日、カンボジアの首都プノンペンで東南アジア諸国連合(ASEAN)との首脳会議に出席した。双方の関係を「包括的戦略パートナーシップ」に格上げ。ASEANとの関係を昨年、一足先に格上げした中国に対抗し、東南アジア諸国との連携を一層強化する。

米ASEANの関係はこれまで「戦略的パートナーシップ」だった。今後は協力分野をエネルギーや気候変動対策などにも広げる。

バイデン氏が大統領就任後、東南アジアを訪問するのは初めて。バイデン政権はASEANとの関係をインド太平洋戦略の中核として重視しており、米中の綱引きが激化しそうだ。【11月12日 共同】
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ただ、加盟国の暴力・人権侵害に対し有効な対応をとれない状況では、今後のASEANの存在意義についてもあまり期待できません。

議長国がカンボジアからインドネシアに交代することで多少は・・・というところもありますが、「全会一致」「内政不干渉」の枠組みの中では難しいでしょう。

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