孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

日本  加速する出生数減少 多様な家族形態を認め、「男は仕事、女は家事」という意識の変革が必要

2022-11-11 23:20:11 | 人口問題
(【11月10日 NHK)】

【出生数 予測より8年早く80万人割れ】
今更の話ではありますが、日本の少子化が止まりません。
年間の出生数は、第1次ベビーブームにあたる1949年には最多の269万超を記録しましたが、2016年には100万人を下回り、今年は80万人を切ると推測されています。

単に減少しているだけでなく、近年の減少速度が国が予測していたペースを遥かに凌ぐものになっています。

****ことしの出生数 初めて80万人下回るか 国の予測より8年早く****
1年間に生まれる子どもの数を示す「出生数」について、大手シンクタンク「日本総研」はことし全国でおよそ77万人と、国の統計開始以降、初めて80万人を下回る見通しになったとする推計をまとめました。

ことし80万人を下回れば国の予測よりも8年早く、少子化が想定を上回るペースで進んでいることになります。
日本総合研究所は厚生労働省が公表していることし1月から8月までに生まれた子どもの数などをもとに、1年間の出生数を推計しました。

それによりますとことしの出生数は全国でおよそ77万人で、前の年から4万人余り、率にして5%程度減少し、国が統計を取り始めた1899年以降で初めて80万人を下回る見通しになったということです。

厚生労働省によりますと、出生数は1970年代半ばから減少傾向が続いていて、ことしも国内で生まれた外国人も含んだ8月までの速報値で52万人余りと、前の年より2万7000人余り減少しています。

国立社会保障・人口問題研究所が2017年に公表した予測では、出生数が80万人を下回るのは8年後の2030年となっていて少子化が想定を上回るペースで進んでいることになります。

推計を行った日本総合研究所は少子化の進行について、新型コロナの感染が拡大する中、結婚の件数がおととし、去年と、減少が続いていることが関係していると分析しています。(中略)

結婚の件数も減少傾向 来年以降も低下局面か
厚生労働省によりますと1年間の結婚の件数も2000年代から減少傾向が続いています。

最近では、2019年はいわゆる「令和婚」で前の年から増加し、59万9007組となりましたが、2020年は前の年と比べて7万3500組減少して52万5507組に、2021年は前の年から2万4369組減少して50万1138組と、戦後、最も少なくなりました。

また、国立社会保障・人口問題研究所が5年に1回程度行っている出生動向基本調査では、コロナ禍の2021年の時点で「一生結婚するつもりがない」と回答した人が18歳から34歳までの世代で男女とも増加していることから、日本総合研究所は結婚の件数が今後も減少していくことが懸念されるとしています。

専門家「今後10年間は対策するうえで特に重要な期間」
 推計を行った日本総合研究所の藤波匠 上席主任研究員は、ことしの出生数が80万人を下回る見通しになったことについて「2015年の出生数は100万人を超えていた中、わずか7年で20%以上減少してしまうことになる。少子化が進むと国内の社会保障の問題や経済成長などにも大きな影響があると考えられ、対策は喫緊の課題だ」と指摘しています。

そのうえで「1990年代の出生数は120万人程度と比較的安定していた時期で、その年代の子どもたちが20代から30代となってちょうど結婚や出産の時期を迎えているので、今後の10年間は少子化対策に取り組むうえで特に重要な期間になるのではないか」と指摘しています。【11月10日 NHK】
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出生数、ひいては人口動向は経済政策、社会保障制度など国の全ての計画の根幹をなすものです。

その予測において、2017年に80万人を切る年を13年後の2030年に予測していたのが、実際には5年後の2022年・・・・現実において想定を超えるものがった面もあるのでしょうが、予測事態が“(異様に)甘い”というか、“(根拠なき)期待”に近いものだったというか、“(政治的に)不都合な現実”から目を背けようとしていたというか・・・そんな面もあったのでは。

結婚や出産の時期にある者の数が比較的安定している今後10年間の対応が重要・・・・昨今の政治情勢を見ると今後10年の間に抜本的改革がなされるとはほとんど期待できません。
その10年を過ぎたら、母数自体がどんどん少なくなっていくので、どうあがいても出生数は回復しないという時期をを迎えます。

【減っていない既婚女性の出生率 出生数減少を止めるためには未婚化・婚外子への対応が必要】
減り続ける出生数の一方で、「出生率」に関して、私的には“以外”な数字も。既婚女性の出生率は変わっていないそうです。

****少子化傾向が続く中でも、結婚した夫婦の出産志向は変わっていない****
<事実婚や未婚での子育ても支援する、多様な家族像に配慮した環境づくりが必要>

少子化の進行が止まらない。コロナ禍はそれに拍車をかけており、出生数は2019年が86万人、2020年が84万人、2021年が81万人と、ガクンガクンと減っている。戦後間もない頃、年間250万人以上の子どもが生まれていた時代とは、隔世の感がある。

だが出生率という指標を計算してみると、あまり知られていない事実が浮かび上がる。全人口ではなく、出産年齢の既婚女性をベースにした出生率だ。総務省の『国勢調査』から25〜44歳の有配偶女性の数を拾うと、1990年では1403万人、2020年では815万人。年間の出生数は順に122万人、84万人(厚労省『人口動態統計』)。割り算で出生率を出すと、以下のようになる。
▼1990年......122/1403 = 8.7%
▼2020年......84/815 = 10.3%

出産年齢の既婚女性をベースとした出生率は、この30年間で上昇している。結婚した夫婦に限って見てみると、出産志向は変わっていないようだ。国の出生数が減っているのは、出産年齢の既婚女性の絶対数が少なくなっていることによる。(中略)

それは、出生順位の統計からもうかがえる。出生児のうち第3子以降の割合は1990年では18.9%、2020年は17.8%で、大きな変化はない(厚労省『人口動態統計』)。既婚の夫婦の中では、子を何人産もうという意向も変わっていないようだ。

少子化の最大の要因は出産年齢の女性の減少だが、その次に大きいのは未婚化だ。これに歯止めをかけようと、各地の自治体は出会いの場を設けるなどして、何とか婚姻を増やそうとしているものの、あまり成果を上げていない。そういう取り組みもいいが、どういうライフスタイルを選ぼうと、子を産み育てられる環境を構築すべきではないだろうか。

日本では、法律婚をした夫婦を前提に育児支援等の制度ができている。(中略)だが、諸外国では違う。<表1>は、出生児のうち婚外子が何%かを国別にみたものだ。

日本は2.3%で韓国に次いで低いが、アメリカは39.6%で、50%を超える国も珍しくない。事実婚で子を授かる人や、未婚で子を産み育てる人もいる。

日本でも未婚の母が増え、配偶者との離別者や死別者と同じく、税の控除を受けられるようになった。性的マイノリティーのパートナーシップを認める自治体も増えてきた。しかし、そうした人たちが子育てをしやすい(できる)環境になっているかというと、そうとは言えないだろう。

結婚と出産を結びつける慣行を見直すこと、多様な家族像に思いを馳せること。今後の少子化対策の上では、常に念頭に置く必要がある。【11月2日 舞田敏彦氏 Newsweek】
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外国では婚外子が多いことはかねてより指摘されている点です。
日本の場合、政府・与党の考える“あるべき家族の姿”あるいは“美しい日本”に馴染まないせいか、婚外子への配慮が薄く、結果的に人口減少という国家衰退の原因ともなっています。

【未婚化が進む背景に「男は仕事、女は家事」という日本のジェンダー意識から生じる結婚生活における女性の負担の大きさが】
“あるべき家族の姿”の中核にあるのが「男は仕事、女は家事」という日本のジェンダー意識です。
先に見たように、日本の出生数減少の大きな要因として「未婚化」がありますが、未婚化が進む背景に「男は仕事、女は家事」という日本のジェンダー意識から生じる結婚生活における女性の負担の大きさがあるようにも。

****家事分担を妨げる「男は仕事、女は家事」という日本のジェンダー意識****
<男性の労働時間が減っても、その分だけ家事をする時間が増えるとは限らない>

先週の記事「日本の男性の家事分担率は、相変わらず先進国で最低」で見たように、日本の男性の家事分担率は国際的に見て低い。

OECDの統計によると、15~64歳男性の1日の家事等の平均時間は41分で、女性は224分(2016年)。男女の合算に占める男性の割合は15.4%でしかない。他国の同じ数値を計算すると、アメリカは37.9%、スウェーデンは43.7%にもなる。

日本の男性は、仕事時間がべらぼうに長いからではないか、という意見もあるだろう。同じくOECDの統計によると、日本の15~64歳男性の1日の平均仕事時間は452分で、アメリカの332分、スウェーデンの313分よりだいぶ長い。家事等の平均時間は順に41分、166分、171分と逆の傾向だ。

以上は3つの国のデータだが、より数を増やして、仕事時間と家事時間の関連を可視化してみる。横軸に仕事時間、縦軸に家事等の時間をとった座標上に、OECD加盟の30カ国のドットを配置すると<図1>のようになる。

日本は仕事時間が長く、家事等の時間は短いので右下にある。対極にあるのは、北欧のデンマークだ。傾向としては、仕事時間が長いほど家事等の時間は短い、両者はトレードオフの関係にあると言えなくもない。

仕事時間が短ければ、自宅にいる時間も長くなり、家事や育児にも勤しむようになる。いたって自然なことだ。政府の『男女共同参画白書』でも、男性が家事・育児・介護等に参画できるよう、長時間労働を是正する必要があると言及されている。
だが、事はそう単純ではない。定時に上がっても、自宅ではなく酒場に足が向く男性もいるだろう。コロナ禍以降、在宅勤務が増えているものの、夫が家事をしないのは相変わらずで、「大きな子どもが1人増えたようだ」という妻の嘆きもSNS上で散見される。仕事時間を減らせば万事解決となるかは分からない。

<図1>は国単位のデータだが、個人単位でみると仕事時間と家事時間の関連はどうなっているか。既婚男性を仕事時間に応じて3つのグループに分け、家事時間の分布を比べてみる。<図2>は、結果をグラフにしたものだ。

男性を見ると、仕事時間の多寡に応じて家事時間が大きく変わる傾向はない。小さな差はあるものの、どのグループも家事時間は週10時間未満が大半だ。

対して女性は、仕事時間に関係なく、家事時間が週20時間以上の人が多い。サンプル数が少ないが、一番右側のグループ(仕事週50時間以上、家事週20時間以上)の負荷は相当なものだろう。

未婚化が止まらないが、結婚生活の負荷を女性が認識し出したこともあるだろう。2021年の国立社会保障・人口問題研究所の『出生動向基本調査』によると、女性が結婚相手に求める条件として最も多いのは「人柄」だが、それに次ぐのは「家事・育児への姿勢」だ。

2015年との比較でいうと、この項目を重視する女性の割合が増えている(57.7%→70.2%)。対して、職業や経済力を重視するという回答は減っている。

女性の社会進出を促し、かつ未婚化・少子化に歯止めをかける上でも、男性の「家庭進出」が求められるが、長時間労働の是正だけでは足りない。意識の啓発も必要になってくる。家庭内での性別役割分業を子どもに見せることは、既存のジェンダー構造を次代にまで持ち越す恐れがあることをしっかりと自覚しなければならない。

また日本では、「男は仕事、女は家事」という性役割分業で社会が形成されてきた経緯があるので、家事に求められるレベルが高くなってしまっている(一汁三菜の食事、洗濯物は綺麗にたたむなど)。外国人が驚くところだ。これなども、男性の家事分担を妨げている。共稼ぎが主流になっている今、見直すべきだろう。【10月26日 舞田敏彦氏 Newsweek】
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上記記事でもスウェーデンなど北欧は、男性の仕事時間が比較的短く、家事労働時間が長く、結果的に男性の家事分担率が高くなっている姿が示されていますが、同様の現象を示すフィンランドに関する記事も。

****フィンランド、労働時間が初めて男女平等に****
フィンランド統計局は10日、国民が家事労働と有償労働に費やした時間の合計が、昨年初めて男女で等しくなったと発表した。

10歳以上の人口の有償労働と家事労働を合わせた1日の総労働時間はこれまで、女性の方が長かった。統計局は、男性の有償労働時間が減少し、家事労働時間が増加したと説明。特に男性が育児に費やす時間が大きく増えたとし、その要因としては文化の変化に加え、男性向け育児休暇制度の拡充があるとした。

ただ、有償労働の時間は依然として男性が女性よりも1日平均30分長かった。 【11月11日 AFP】
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日本の出生数の減少に歯止めをかけようとすれば、前述のような多様な家族形態を認め、婚外子の扱いを変更、そして「男は仕事、女は家事」という日本のジェンダー意識を変えることで女性の結婚生活の負担感を軽減することが必要と思われます。

それでもカバーできない人口減少は、外国人労働者・移民に関して本腰を入れて取り組むことでフォローすることも。

しかし、上記のいずれも政府・与党の考える“あるべき家族の姿”“あるべき社会の姿”には馴染みません。
ということは、日本を待ち受ける未来は・・・。

【日本以上に深刻な韓国の少子化】
日本より深刻なのが韓国。韓国から見ると、日本の現状はまだましなものに見えるようです。
(ただし、下記記事で“日本の出生率が低水準ながら徐々に上昇している”とありますが、これは事実誤認。
確かに日本の合計特殊出生率は2005年の1.26から2015年の1.45まで上昇しましたが、その後はまた減少しています。2021年は1.30)

****韓国を逆転、日本が低出生率の罠を脱出できた理由は?=韓国ネット「子どもなんて生まないほうが賢明」****
2022年11月7日、韓国メディア・韓国経済は「減っていく人口、消滅する韓国」と題したシリーズ記事を掲載し、「日本が低出生率の罠(少子化の罠)を脱出した秘訣(ひけつ)」を分析している。

日本の人口減少が始まったのは11年(国連統計基準)で、前年の1億2813万人から1億2808万人となった。以来、昨年まで減少が続いている。記事は「日本経済が30年間足踏み状態にある理由の一つに人口停滞・減少が挙げられる」と指摘した。

日本の合計特殊出生率は1975年に2.0人を下回ってから下落傾向となり、80年代後半には1.5人台となった。2005年には1.26人まで落ち込んだが、15年に1.45人に上昇。昨年は1.30人を維持した。国連は日本の出生率は小幅に上昇し60年代には1.5人まで回復すると予想している。

対照的に、韓国は出生率が世界的に例を見ないほど下落している。2000年までは1.48人で日本(1.37人)を上回っていたが、18年は0.98人と、世界で初めて1人を割り込んだ。昨年は0.81人で、今年4~6月期は0.75人まで下落した。

日本の出生率が低水準ながら徐々に上昇しているのに比べ、韓国の出生率は下落し続けている理由について、記事は「日本国内では少子化克服政策を長期間、持続的に進めてきた結果だ」と伝えている。

日本は1990年に少子化対策に着手。継続的に予算を投入してきた。今年はこども家庭庁を新設している。一方、韓国は2006年にようやく対策に乗り出したが、権限のない低出産高齢社会委員会という組織が置かれただけとなっている。

記事はこれまでの日本の政策を詳しく説明し、「1990年から初めた少子化対策の効果が2006年から現れている。15年かかったことになる」と指摘している。

韓国のネットユーザーからは
「不動産価格、教育費、経歴断絶問題など社会的環境も、新婚夫婦に好意的ではない。だから若い夫婦が2人以上の子を持とうと思わないんだ」

「結婚と出産は女性1人でするものではない。低賃金、物価高、不動産価格による未来への不安から、男性は結婚を恐れている」

「不動産価格と物価が安定しないと出生率は上がらないと思う」「育児戦争が終わったら教育問題、入試地獄、就職難、住居問題。子どもを育てようなんて思えるわけがない」

「政策だけの問題ではない。共稼ぎなのに家事、育児の負担は女性にばかりある」「経済のせいにするのはどうなのか。1960年代、70年代は経済環境が良かったから出生率が高かったというのか?」

「少子化と非婚は世界的な現象だ。韓国の出生率が特に低いのは婚外出産がほとんどないからだろう。婚外出産に対する認識から変えるべきだ。家族と性に関する考えが昔も変わっていない」「子どもを欲しがっている不妊の夫婦もものすごく多いよ。彼らへの支援を手厚くするべきだ」

「少子化で困ってるのは国だけじゃないか?個人にとっては、だから何?って感じ。コメントを見ていると、子どもなんて生まないほうが賢明だと思うよ」「まずは生まれた子どもたちをしっかり守らないとね」など、さまざまな声が寄せられている。【11月11日 レコードチャイナ】
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問題の立て方が違います。「どうして日本は韓国よりも・・・」ではなく、「どうして日本も韓国も・・・」という問題認識を持つべきでしょう。

韓国は、婚外子への認識、「男は仕事、女は家事」というジェンダー意識など、日本とよく似た社会です。結果、よく似た少子化に苦しむことに。

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イラク  気候変動で水不足が深刻化 国民は困窮し、健康被害も 多くを期待できない新政権

2022-11-10 22:48:03 | 環境
(川底が露呈したチグリス川 【5月9日 髙岡豊氏「急速に死に向かうチグリス川」 YAHOO!ニュース】)

【今後は水と食糧をめぐってあらそうことになる(トルコ・エルドアン大統領)】
昨日、NHKでCOP27関連番組として「水不足」を取り上げていました。

****いま地球で何が起きている⁉ 水を巡る攻防戦****
今月6日から、エジプトで開かれている、気候変動対策を話し合う国連の会議「COP27」 「水の安全保障」を争点のひとつとしています。各国は気候対策・水対策が国の安全保障に関わることに気づき始めたのです。

100を超える国の首脳らが参加する首脳級会合の冒頭で、国連のグテーレス事務総長が、「人類には選択肢がある。協力するか滅びるかだ」と述べて国際社会が一致して気候変動対策に取り組むよう訴えました。

いま地球の気温は産業革命前より1.1℃上昇し、これが1.5℃を超えると、後戻りできない、深刻な影響が広がるとされています。

ことしは、日本でも「記録的な猛暑」となり、また世界各地では熱波や干ばつなど異常気象が相次ぎました。気候変動による危機で何億という人々の、命や暮らしが脅かされています。

今回、世界各地を取材すると、私たちの生活に欠かせない「水」を巡る様々な対立やあつれきが起きていることがわかりました。【11月9日 NHK】
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番組では、農業用の水源をめぐって住民どうしが衝突するイラク、地下水をめぐり住民訴訟が起きているフランスなどが取り上げられていました。(私は時間がなく、前半しか観ていませんが)

“「水」を巡る様々な対立やあつれきが起きていることがわかりました”・・・・今更の話で、以前からずっと指摘されてきた問題です。これまでもしばしばブログで取り上げたように、国際河川のメコン川、インダス川、ナイル川では周辺国が水資源をめぐって厳しく対立しています。

番組の中で、イラクとダム建設による水争奪戦を繰り広げているトルコのエルドアン大統領の「世界はこれまで石油をめぐってあらそってきた。今後は水と食糧をめぐってあらそうことになる」といった趣旨の発言が紹介されていましたが、まさにそういうことです。

【イラクで深刻化する水不足 上流のトルコ・イランとの対立も】
番組でも取り上げていたイラク。チグリス・ユーフラテス川の豊かな水がメソポタミアの文明をはぐくんだ土地です。そのイラクでは今年考古学的な発見がありました。

****気候変動の影響?3,400年前の都市遺跡がチグリス川で見つかる****
6月に入り、ここイラク北部でも本格的な夏の始まりを感じさせます。日中は45℃近くになり、太陽に当たっているとその日差しの強さでグリルされているような気分になります。(中略)
  
イラク北部で3,400年前の遺跡が発掘される
6月初め、イラクを舞台に考古学会で大きな発見が発表されました。
ドイツのフライブルク大学、チュービンゲン大学と地元クルド自治区の考古学者たちが共同で調査をした結果、3,400年前のミタンニ王国のものとみられる遺跡が発見されました。(中略)

しかし今回のこれらの新しい遺跡の発見、気候変動が原因でチグリス川の水量が減少したことが大きな要因として挙げられています。

昨年から何度か記事でも紹介しましたように、昨年イラクではひどい干ばつが起き深刻な水不足が発生しました。
今年の冬、私の暮らす北部地域では例年に比べ多くの降雨がありました。

しかし水をため込む機能を果たす山岳地帯ではまた雨不足が発生。その影響で今年の夏も水不足が起きると予測が為されています。4月から続く砂嵐も水不足が大きな原因と見られています。

新たな遺跡の発見は喜ばしいことですが、それが気候変動とそれに伴う水不足が原因なのですから、皮肉なものです。【6月12日 牧野アンドレ氏 Newsweek】
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冒頭NHK番組では、農業用水をめぐり住民同士が銃撃戦を繰り広げる様子なども紹介されていましたので、残念ながら遺跡の発見を喜ぶような状況ではありません。

国連は、気候変動に対する脆弱性を持つ国として、イラクを世界第5位に分類しています。イラク政府の調査によると、現在、国土の約40%が砂漠化しており、多くの土地は塩分濃度が高く、農業に適さないことが明らかになっています。

****ラクで深刻化する水不足が人々の暮らしと発展を脅かす****
水量が減少した結果、2大河川の水位は過去最低水準にまで低下
近隣諸国がチグリス川とユーフラテス川の水源にダムを建設、問題は悪化している

イラク全土で、何世紀にもわたる苦難、混乱、干ばつの中でも当たり前のように利用され、頼りにされてきた水源が脅威にさらされている。その結果、この国の多くの人々が、生活の糧を得るためにかつてないほどの困難に直面している。

紛争、汚職、失政、地域の政治的対立が重なり、イラクの人々は慢性的な水不足に直面している。これは農業、経済、市民の健康に深刻な影響を及ぼしており、多くのコミュニティの存続が疑問視されているほどである。

かつてチグリス川の水面だけが見えていた場所に、島の陸地が突き出ている光景は、この5年間でバグダッド市民にとって見慣れたものとなった。水量が減少した結果、水位が記録的に低くなった河川に見られる現象である。
その結果、イラクの首都を悠々と流れていた世界有数の水路には、不毛の島々が点在し、古代の大地を支えた緑の激流は影を潜めている。

タクシー運転手のサラム氏は、生まれたときからバグダッドに住んでいる。昔はチグリス川が街を轟々と音を立てて流れるのを見ていたが、年々その流れが弱まり、今では狭い川底が見えるだけだという。
「それでも、イラクの他の地域よりはましだ」と、彼はアラブニュースに語った。「水道料金はまだ比較的手頃だが、水道水は汚染されているので使えない。料理用の飲料水をたくさん買わなければならない」(中略)

チグリス川とユーフラテス川が合流し、伝説のメソポタミア湿地帯に注ぎ込むイラク南部では、水牛が汚染された湖沼の淀みから水を飲み、農民が伝統的なカヌーに乗り、かつては原始の飲料水だった、今では産業汚泥のような水の中を漕ぎ進んでいる。

このかつては強大であった川に流れ込む淡水は、トルコに建設されたダムによって水源地で制限されている。チグリス川とユーフラテス川の、シリアとイラクへの流れの多くが遮断されているのだ。

この2つの川は、イラクの地表水の98%を供給している。その他の水源はイランでせき止められている。そのため、かつては飢饉や病気を食い止めるのに貢献した水量が今では不足し、悲惨な干ばつの年であっても、生活の保証からは遠ざかっている。

2018年、国連は、気候変動に対する脆弱性を持つ国として、イラクを世界第5位に分類した。気候変動の影響は過去15年間を見ると明らかで、降水量が減り、熱波がより長く、より高温になることが頻繁に起こるようになった。

イラク政府の調査によると、現在、国土の約40%が砂漠化しており、多くの土地は塩分濃度が高く、農業に適さないことが明らかになっている。

近年、イラク南部では、かつて湿地帯だった場所は、その30%がかろうじて水に覆われているのみで、地元の人々が見慣れない、乾燥した、ひび割れた土地に変わりつつある。

気候変動の影響は目に見える形で現れている。2020〜2021年の冬は、イラクでは記録的に降水量が少なく、チグリス川で29%、ユーフラテス川で73%の水量が減少したことが明らかになった。過去20年間、降雨はますます散発的になっている。(中略)

2021年末、イラクのマフディ・ラシッド・アル・ハムダニ水資源相は、国境で水の供給を断ち、ディヤラ州に大災害をもたらしたとしてイランを提訴する予定であると発表した。イラク当局によると、同国は合意された割当量の10分の1しか受け取っていないという。一方、トルコから流れてくる水の量は、ここ数年でほぼ3分の2に減少している。

ノルウェー難民評議会(NRC)が昨年発表した報告書、『イラクの干ばつ危機』によると、多くの農民が家畜を生かすために借金を抱えていることがわかっている。また、干ばつの影響を受けた地域の2世帯に1世帯が食料援助を必要としていることも明らかになった。少なくとも700万人のイラク人が、現在進行中の干ばつの影響を受けている。

NRCのイラク支援アドバイザーであるキャロライン・ズーロ氏によると、農家はこれ以上の家畜の損失を防ぐため、干ばつに強い種子と、牛、ヤギ、羊のための追加飼料を緊急に必要としているという。

長期的には、農民のための灌漑(かんがい)インフラの整備や復旧、地方や国レベルでの水資源管理計画の改善が必要だと、ズーロ氏はアラブニュースに語った。

農作物や家畜の損失、食料確保の障壁の増大、所得の減少、干ばつによる脆弱な家族の難民化など、干ばつの影響は各州で大きくなっている。

水不足が子どもたちに及ぼす影響は、たとえ整備された都市部であっても、長い間、警戒すべき要因となってきた。2021年のユニセフの報告書『水資源の枯渇』には、イラクの子どもたちの5人に3人近くが、安全に管理された水を利用できていないと書かれている。多くの家庭が、飲用に適さない水を得るために井戸を掘るしかない状況で、場合によっては洗濯などの用途にさえ安全でないことがある。

多くの調査によると、南部の都市バスラの水質は、イラクで最も悪いもののひとつだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチが2018年に発表した報告書、『涸れゆくバスラ』には、ここ数カ月で少なくとも11万8000人が衛生や水質の問題に関連する症状に苦しみ、入院していると書かれている。当時、バスラ保健局では、水を飲む前に沸騰させるよう促していた。

水不足がイラクの人口動態に与える影響は、何千人もの人々が都市部からより大きな都市の近郊に避難していることからも明らかになっている。大都市は新たに到着した人々のニーズを満たすのに苦労している。(中略)

イラクの中央政府は依然として弱体であるため、交渉の席で強力な隣国にはかなわない。国政選挙から5カ月が経過したが、新大統領と新首相の選出や政府樹立にはまだ至っていない。政治的な行き詰まりが解消されたとしても、弱く、分裂した政府が水の確保という難題に対処するためには、国際的な支援が必要であることに変わりはない。

クルド地域政府の農務省水資源・ダム部門の責任者であるラーマン・カーニ氏は、時代遅れの手法がこの国の水管理システムを阻害していると指摘する。

「また我々は、汚染や古い灌漑方法にも悩まされている」と彼はアラブニュースに語った。「解決策は、国内の水管理を改革し、ダムを建設し、近代的な灌漑技術を使用することである。さらに近隣諸国に強く働きかけ、公平な量の共有水を放出させることだ」

専門家は、イラクの最も弱い立場にある人々を助けるために、将来を見据えて、もっと多くのことをしなければならないと語る。
「干ばつ状態が続き、悪化することが予想される中、農村はさらなる不作のリスクにさらされている。対策を講じなければ、今よりも多くの難民問題を招く恐れがある」とズーロ氏は語った。

しかし、冬から暖かくなるに従い、今年の夏はこれまで以上に、イラクの人々が飢えと渇きに苦しむことになる可能性が非常に高い。【4月13日 ARAB NEWS】
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井戸を掘って地下水をくみ上げても、乾燥で塩分が濃縮されているため塩水しか出ないという状況。

周辺国トルコ、イランも同様に水不足に苦しんでいるため、自国第一の水確保に走り、隣国との対立が先鋭化します。

また、農地を捨てて都市へ流入する住民が増加することは、社会不安の温床ともなります。

【ウクライナ情勢による燃料と肥料の価格高騰が追い打ち】
今年は水不足に加えてウクライナ情勢の影響で燃料と肥料の価格が高騰し、農業へのダメージを増幅しています。

****イラク:ウクライナでの戦争と水不足で小麦の収穫量は半減****
レバノン、パレスチナ、シリア、ヨルダン、イラクにかけてのマシュリクと呼ばれる地域では、例年11月~5月初頭までが降水期でそれ以後は厳しい暑さに見舞われる。

降水期の終わりと真夏の間の短い期間が、小麦の収穫の時期にあたり、この期間の農村は収穫機器が徹夜で操業する忙しさになる、はずだ。

しかしながら、この地域は昨年に勝るとも劣らない干ばつに見舞われ、降水量と河川の流量は相当に少なかった。シリアの地中海沿岸部は平年並みの降水量を記録した地点もあったが、内陸の農業地帯の降水量は絶望的と言っていいほどの状態だった。

この状況は、トルコやイラクも含むチグリス、ユーフラテス川の流域全般で同様だったようで、今期のイラクの小麦の収穫高は昨期同様の不振となりそうだ。降水量の現象は気候変動とも関連すると考えられており、イラクでは砂嵐の頻発という新たな問題も発生している。

バグダード南方のディーワーニーヤ県では、同県を流れるユーフラテス川の水量が1秒当たり180の平年値に対し、今期は80に過ぎない。このため、イラク政府、そして生産者たちは小麦の作付け面積の削減を余儀なくされた。しかも、降水量の不足により面積当たりの収穫量は例年の半分程度にとどまる見通しである。

この不振に追い打ちをかけたのが、ウクライナでの戦争に伴う燃料と肥料の価格高騰である。エンジンオイル類や種苗も値上がりしており、これらは生産者にとって更なる重荷となる。肥料についても、価格高騰のため国が生産者に供給する量が過去数年に比べて8分の1にまで減少する見通しだそうだ。

元々、チグリス、ユーフラテス川の流域で天水に頼る農業は不確実性が非常に高い営みではある。そこに、燃料や肥料が世界的な広範囲で取引されるようになったことにより、この不確実性に影響を与える要素はイラク政府や地元の生産者の努力ではどうにもならない範囲にまで拡大している。

今期のイラクの小麦の収穫量の見通しは250万~300万トン程度であるが、これは昨期と同程度の水準であり、イラク国内で必要とする量には及ばない。

別稿で指摘した通り、この地域での農業の不振は離農→都市への人口移動→都市近郊の生活環境悪化→社会不安という負の連鎖へとつながりやすいものである。

中東では、経験的に10年に1度ほどの頻度で世界を揺るがす大事件(大抵は紛争や政治危機)が発生するのだが、折悪しく現在は前回の大災難である「アラブの春」とその後の混乱から10年ほど経過している。

世界の耳目と様々な資源がウクライナでの戦争に集中する中、中東諸国はそのあおりを受けて人民の生活水準が低下することがほぼ確実である。そのため、「10年に1度」という経験則がとても嫌な予感として感じられてならない。【5月9日 髙岡豊氏 YAHOO!ニュース】
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【混迷するイラク政治 選挙から1年でようやく新政権は樹立されたものの・・・】
こうした深刻な状況を抱えながらもイラク政治は選挙後も政権が樹立できない混迷が続いていましたが、10月末になってようやく新政権樹立に漕ぎつけました。

****イラクでスダニ新政権発足 選挙後1年、混乱収束課題****
イラク国会は27日、新首相候補に指名されていたスダニ元人権相の内閣を信任し、スダニ氏を首相とする新政権が発足した。国営通信などが伝えた。

昨年10月の国会総選挙から1年以上続いた政治の混乱収束が課題となる。

国会はフセイン副首相兼外相ら主要閣僚を含む全閣僚リストを認めた。環境相など2ポストは空席のまま承認した。
ロイター通信によると、スダニ氏は3カ月以内の選挙法改正と、1年以内の総選挙実施を約束した。

スダニ氏はイスラム教シーア派で、親イラン政治勢力に属している。

昨年10月の総選挙ではシーア派有力指導者サドル師派が第1党になったが、親イラン政党でつくる会派「調整枠組み」と対立した。政権樹立に失敗し、サドル師派の全議員が辞職。サドル師は8月末に引退を表明した。【10月28日 産経】
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イラクは多民族、多宗教の国家で、大統領はクルド人、首相はイスラム教シーア派、国会議長はスンニ派から選ばれる慣例になっていますが、実権は首相が握っています。

サドル師派と連携していた政党が、親イラン派主導の連立に加わることを決断したことでの政権樹立です。

“イラクでは、イランやトルコがそれぞれ自国の反体制派の掃討を理由に、隣接するイラク北部に越境攻撃を継続。過激派組織「イスラム国」(IS)の残党によるテロや攻撃もなくなっていない。行政の腐敗や、経済不振による失業増、電力不足などに国民の不満が高まっている。政権から除外されたサドル派の動向も含め、新政権は早急な対応を迫られる。”【日系メディア】と課題が山積しており、有効な水不足対策を実行できる余裕はなさそうです。

イラク政治混迷の根底には、政治的権限を“利権”として奪い合う政治風土があります。
“新政権の各政党は、「国の資源と能力を自分たちの間で山分けできる戦利品と見なしている」という”10月29日 ARAB NEWS「イラク新政府は危機を解消できそうもない」】

更に宗派・民族の対立、イランとの距離をめぐる争いが混乱を助長しています。

****イラク新政府は危機を解消できそうもない****
(中略)前出のヒゲル氏は、スダニ氏が「外交政策に力を入れるよりも、失業や水、電気の不足といった国内の問題を優先させるだろう」とみている。

また、イラクが外国からの投資を切実に必要としていることから、スダニ氏は、頑強な親イランの支持基盤にもかかわらず、「欧米とイランの間のバランスを取ろうとするだろう」と分析した。

しかし、シャマリ氏は、最近もトルコとイラン両方の攻撃目標になるなど、地域紛争の矢面に立たされることが多いこの国では、”バランス”は十分には取れないかもしれない、と指摘した。(後略)【10月29日 ARAB NEWS】
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イラク政治の混迷は続きそうです。その不十分な統治は人々の不満を蓄積させていきます。やがて何かのきっかけでその不満が・・・。
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温暖化  COP27では気候変動による損失と損害に関する支援が議論 責任を回避したい先進国

2022-11-09 23:06:52 | 環境
(洪水により浸水したエリアを避難する人々=8月27日、パキスタン・ペシャワール【8月29日 CNN】
国土の3分の1が水没し、死者は1400人超。10月初旬時点の情報ではまだ水が退く気配がない地域も。
更に、マラリアなどの感染症が拡大しているようです。)

【「時間がなくなりつつある」】
温暖化の阻止にむけ様々な議論がなされ、対策もとられてはいますが、未だその流れを止めるには至っていません。

****「時間尽きてきた」と国連警告、温室効果ガス濃度が記録的ペース****
国連の世界気象機関(WMO)は26日に発表した年次報告で、温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素)濃度の上昇ペースが昨年は全て過去10年の平均を上回り、記録的な伸びとなったと明らかにした。気温上昇抑制に向けた変革の時間がなくなりつつあると警告した。

11月6─18日に国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)が開かれるのを前に、同年次報告を含めて複数のリポートが公表される。

二酸化炭素の濃度は2.5ppm上昇の415.7ppm。今よりはるかに温暖だった少なくとも300万年前以来の水準となった。メタンの濃度は、1983年の統計開始以来最も速いペースで上昇した。

WMOのターラス事務局長は、「われわれが誤った方向に進んでいることを示している」と指摘。「必要な変革は経済的にも技術的にも実現可能であり、時間がなくなりつつある」と述べ、エネルギー、産業、輸送システムの変革を訴えた。【10月27日 ロイター】
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現在の目標設定では不十分であることも報告されています。

****今世紀末に2.8度上昇も 温暖化巡り国連報告書*****
各国が地球温暖化対策を現状から強化しなければ、今世紀末までの気温上昇が2.8度に至り、国際枠組み「パリ協定」の目標を上回るとの報告書を国連環境計画(UNEP)が27日、発表した。

また国連気候変動枠組み条約事務局は、各国が確約した2030年までの温室効果ガス削減目標を達成しても2.5度上昇するとの予測をまとめた。

UNEPのアンダーセン事務局長は「根本的な変革をしなければ、気候災害の加速を止められない」とコメントした。11月6日から条約の第27回締約国会議(COP27)が予定され、先進国などに対策強化の圧力が高まるとみられる。【10月27日 時事】
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温暖化に伴う異常気象増加・気候変動による被害が世界各地で拡大しています。

****猛暑や熱波の死者、7割増 約20年間で、気候変動****
猛暑や熱波など極端な高温による死者が約20年間で7割増えたり食料不足が深刻になったりして、気候変動が人の健康に重大な被害を及ぼしているとの分析を、世界保健機関(WHO)などの国際研究チームが25日付英医学誌ランセットに発表した。(中略)

チームは猛暑などが引き起こす健康被害を分析。2021年までの5年間の熱関連死は、04年までの5年間と比べ68%増加したことが分かった。【10月26日 共同】
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【ウクライナ情勢の影響で後退する「脱炭素」】
一方で、ウクライナ情勢によるエネルギー供給の混乱は、温暖化防止の取り組みを遅らせることにもなっています。

****エジプトCOP27開幕 ロシアによるウクライナ侵攻で石炭回帰の動き 脱炭素に試練****
地球温暖化をめぐって、気候変動対策を協議する国連の国際会議=COP27がまもなくエジプトで始まります。
エジプトのシャルム・エル・シェイクでまもなく開幕するCOP27には、190を超える国と地域が参加します。

去年行われたCOP26では、「世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える」ことをより重視することで合意。

今年、パキスタンの大洪水やヨーロッパの記録的な熱波など気候変動が原因と指摘される異常気象による被害が深刻化する中、今回のCOP27では議論や交渉の先にある、計画を実践する動きに繋げられるかが期待されています。

ただ、ロシアによるウクライナ侵攻で世界的にエネルギー価格が高騰し、石炭の利用を拡大させる動きも出てきていて、各国のリーダーが「脱炭素」に向けた対策強化で団結できるかが焦点となります。【11月6日 TBS NEWS DIG】
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“世界的なエネルギー危機に対応するため、各国が化石燃料への補助金を積み増している。経済協力開発機構(OECD)と国際エネルギー機関(IEA)の集計では、2021年に前年からほぼ倍増した。ガソリンやガス代への補助などもあり、ロシアによるウクライナ侵攻で今年もさらに勢いを増す。6日、エジプトで始まる国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)を前に、脱炭素と逆行する動きが出ている。”【11月5日 日系メディア】

【COP27で議論される気候変動による損失と損害に関する支援 途上国と先進国の対立が鮮明に】
こうした状況のなかで6日に始まった気候変動対策を協議する国連の国際会議=COP27ですが、気候変動による損失と損害に関する支援が議論となっており、いつものように途上国と先進国の間で対立が鮮明になっています。

****COP27 先進国と途上国、対決姿勢鮮明****
エジプト東部シャルムエルシェイクで始まった国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で7日、温暖化対策の現状を協議する首脳級会合が行われた。

途上国は、先進国が温室効果ガスを大量に排出して開発を進めたことが地球温暖化を招いたとの認識で結束している。COP27では6日の開幕から両者の対立構図が鮮明になっている。

首脳級会合の冒頭、国連のグテレス事務総長は「地球は引き返せない気候変動の転換点に近づいている」と危機感を示し、協議の成果に期待を寄せた。(中略)

COP27はアフリカでの開催とあって途上国が存在感を強めている。議長を務めるエジプトのシュクリ外相は6日の開幕式での演説で「気候変動の犠牲者」への連帯を示すと強調。損失と被害に関する支援が正式議題に決まった。

セネガル環境省のサール気候変動局長は同日、「気候変動は取り返しがつかない損失と被害の原因であり、多大な犠牲を強いられている」と、補償の仕組みを早期に確立するよう求める文書を発表した。同氏はCOPで「後発開発途上国グループ」(約50カ国)を率いる。

日米豪など先進国のグループは、補償の問題に踏み込むのを慎重に控えているもようだ。損失と被害について、先進国側はこれまで公式の議論を避けており、昨年のCOP26でも補償を担う新たな支援機構の設置を拒んだ。温暖化の責任追及や支出増大につながりかねないとの懸念がある。

開幕式では、ウクライナの代表が「環境への打撃や核施設への攻撃」にさらされているとして、侵略を続けるロシアを非難した。「この戦争は持続的発展を目指す権利を侵害している」などと訴えた。【11月7日 産経】
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****「時間的余裕はない」「大胆な行動を」 先進国への批判相次ぐ COP27首脳級会合****
エジプト東部シャルムエルシェイクで開催中の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で、7日に2日間の日程で始まった首脳級会合では、途上国が次々に地球温暖化による被害を訴え、先進国の協力は不十分だとして不満の声をあげた。会議は序盤から双方が対立する構図となり、残る約10日の会期で溝が埋まるかは不透明だ。

アフリカ東部諸国では過去40年で最悪ともいわれる旱魃(かんばつ)の被害が広がっている。その一つであるケニアのルト大統領は「温暖化は国民の人生と健康、未来に直接影響を及ぼしている」とし、「これ以上無駄に時間を使う余裕はない」と訴えた。

アフリカの温室効果ガス排出量は世界全体の4%未満に過ぎないのに、温暖化との関連が指摘される自然災害の被害が相次ぐ。原因は排出を制限せず開発を行って温暖化をもたらした先進国にあるとして、「損失と被害」に対する補償制度を迅速に作るべきだというのがアフリカの主張だ。

温暖化による海面上昇が懸念される島嶼(とうしょ)国も例外ではない。キリバスのマーマウ大統領は「科学(による実証)にもかかわらず大胆な行動が阻まれ、結果として温暖化の被害が起きている」と述べ、先進国の消極的な姿勢を批判した。

一方、7日に登壇したスナク英首相は、自国の厳しい経済情勢の中でも気候変動に関連して110億ポンド(約1兆9千億円)以上を拠出するとし、途上国支援の強化を打ち出した。マクロン仏大統領もアフリカなどへの支援を増やし、気候変動問題で「正義」を実現すると強調した。

しかし、途上国はこうした発言を額面通りには受け取っていない。2009年のCOP15で先進国は、途上国に年間1千億ドル(約15兆円)の資金援助を約束したが、これまでに達成された年はなく、不信感が強まっている。

日本政府関係者は7日、「議長国エジプトは今回の会議を『行動のCOP』と位置付けている。(先進国が)きちんと対応することが重要だ」と述べた。ただ、先進国は支出が膨らむ補償制度の議論を先送りしてきた経緯があり、交渉の行方は見通せない。(後略)【11月8日 産経】
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損失と損害」の具体例としてすぐに思い浮かぶのは、上記にもあるアフリカの干ばつ、海面上昇による島しょ国の水没の危機、そして最近の事例では国土の3分の1が水没したとされるパキスタンの水害です。

COP27の首脳級会合で、パキスタンのシャリフ首相は「(洪水による)被害の予想額は5兆8000億円にものぼる。私たち自身による温室効果ガスの排出量は極めて少ないにも関わらずだ」と、先進国による経済支援の必要性を訴えました。パキスタンの温室効果ガス排出量は世界全体の排出量の1%にも満たないとされています。

今回のCOPでは、温暖化によって起こる「損害と損失」の救済のための先進国による資金援助をめぐる協議が、初めて正式な議題として決まっています。

【人為的な原因による気候変動が災害を引き起こしたと証明するイベント・アトリビューション研究】
素人的には「話はわかるけど、その損失と損害が気候変動によるものだと定量的に特定できるのだろうか?」という疑問があります。 しかし、最近の研究では、ある程度そのあたりがわかるようになってきたとも指摘されています。

****増える気候災害、その莫大な損失をだれが補償すべきなのか?****
2022年3月から5月にかけて、パキスタンを記録的な猛暑が襲った。さらにそのわずか数週間後には、数カ月におよぶ豪雨が続き、「国土の3分の1が水没」とされる事態に見舞われた。この洪水による経済損失は、パキスタンの年間GDPの10%を超える約400億ドル(約5.8兆円)にも上る。

しかし、これは「自然」災害ではない。気候変動と異常気象の関係を分析する国際的なグループ「ワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)」は2022年5月と9月に、パキスタンの水害を引き起こした原因について分析結果を発表した。それによると、人為的な気候変動によって雨は最大75%激しさを増し、熱波の発生率は30倍に増えたという。

パキスタンの環境大臣であるM・タリク・イルファン氏は、ナショナル ジオグラフィックへのインタビューで、長年の不満を吐露した。「我が国の温室効果ガス排出量は世界全体の排出量の1%にも満たないというのに、異常気象のために甚大な被害を被っています」

気候変動を引き起こした責任が最も小さい者たちが最も重い負担を強いられているこのような状況は、気候不正義であると、当事者たちは主張する。そして、その不満は頂点に達しようとしている。

パキスタンほか開発途上国のグループは、現在エジプトで開催されている第27回気候変動枠組条約締約国会議(COP27)で、気候変動の原因を最も多く作り出した先進国から資金を集め、最も責任の小さい途上国の「損失と損害」を補償する基金を設立するよう求めている。米国は一国だけで、過去の温室効果ガス排出量の20%以上を排出している。

こうした途上国の主張の根拠となっているのが、「イベント・アトリビューション研究」と呼ばれる新しいタイプの分析手法だ。これは、気候変動がどのように熱波や豪雨といった異常気象にかかわっているかを、主にコンピューターモデルを使って特定しようとするもの。

バングラデシュの気候変動開発国際センター長を務めるサリーメル・ハク氏は、こうした異常気象が人間と生態系に甚大な被害を与えていると指摘する。 「私たちの適応能力を超えた影響が出始めています。世界は、損失と損害の時代に入ろうとしているのです」
 
年ほど前から、スコットランド、デンマーク、そしてベルギーの一つの州は、気候正義の名目で数百万ドルの資金の拠出を始めた。また、これまで何年もあいまいな態度を取ってきた米国などほかの先進国も、少しずつ損失と損害について話し合いを始めている。米国務省は、「建設的に取り組む」姿勢を示している。

しかし、今年のCOP27で気候正義に関するより明確な議論がされなければ、「この会議は開始した時点で失敗だったとみなします」と、ハク氏は言う。

先送りにされてきた気候正義
1990年代初頭、気候変動会議が開催され始めたばかりの頃、バヌアツやバルバドスなど海抜の低い島国が結束して、海面上昇によって国が消滅する危機について訴えた。これらの国をすべて合わせても、気候変動の原因となる温室効果ガスの排出量は全体の1%に満たない。

この不均衡を是正するために提案されたのが、気候変動への責任の割合に応じて先進国が資金を拠出する国際的な保険基金だ。過去の排出量が多ければ多いほど補償金を支払う仕組みになる。

ところが、富裕国は軒並みこの提案を拒否した。排出量の削減方法や、気候変動に適応するための資金については話し合うが、過去の行いに関する経済的責任を認めたり、それを被災国への補償に結び付けることには後ろ向きだった。

しかし、島国諸国はあきらめなかった。ほかにも海面上昇や異常気象の脅威に直面する国々の協力を集めながら、時間をかけて提案を推し進めてきた。そして20年以上が経過した2013年、ポーランドで開催されたCOP19でようやく、気候変動によって生じる適応可能な範囲を超えた経済的および社会的損失が、「損失と損害」と定義された。

さらに、数年間におよぶ激しい交渉の末、2015年の画期的なパリ協定に「損失と損害」に関する段落が正式に盛り込まれた。ただこのときは、このテーマを議論するという約束がされただけだった。

2021年にスコットランドで開催されたCOP26でも、損失と損害のための基金を設立するよう要請がなされたが、やはり協議を重ねるとの約束だけで終わった。

イベント・アトリビューション研究
2003年、英国で2000人以上が死亡する熱波が発生した。英国の研究者たちは、人為的な原因による気候変動がこの災害を引き起こしたと証明することは可能か、そしてもしそれが証明されれば、被害を被った人々は排出者を訴えることはできるだろうかという疑問を投げかけた。

綿密な分析の結果、少なくとも最初の疑問に対する答えはイエスであることが明らかになった。つまり、ある一つの気象現象(熱波)が人間活動に起因するものであることが初めて示されたのだ。

気候変動が異常気象に影響を与えていそうだということは従来から言われていたが、特定の気象現象が気候変動の影響をどれほど受けたかをはっきり示すのは難しかった。

しかし、2003年の英国での研究以来、科学は格段に進歩した。気候モデルは強化され、世界の気候パターンと地域的な気象現象を関連付けることができるようになった。

イベント・アトリビューション研究は、簡単に言えば、豪雨にしろ、熱波にしろ、ある一つの気象現象が起こる可能性またはそれが激しくなる可能性を、気候変動のない仮想上の世界と現実の世界で比較する。

この2つの世界の違いが、気候変動に「起因(アトリビューション)」する影響ということになる。高度に洗練されたこのようなモデル化手法は、海面上昇や暑さによる農業の損失など、ゆっくりと起こる現象の影響も分析することが可能だ。

英オックスフォード大学の気候・法律専門家であるルパート・スチュアート・スミス氏は、気候変動がどれほど影響を及ぼしているかが非常に明確になったと評価する。例えば、2021年に米国西海岸を襲った熱波で記録された最高気温は、気候変動がない世界と比較しておよそ2℃高かったことや、ハリケーンハービーがテキサス州ヒューストンにもたらした雨量が15%高かったことなどが示された。

とはいえ、イベント・アトリビューション研究にも限界はある。というのも、この手法には地域的気候や天候の優れたモデルが必要であり、そのためには毎日の気象観測などのしっかりとした過去のデータがなければならない。しかし、ほとんどの科学的専門知識は北半球の先進国に集中しているため、信頼できる気象記録がない場所でこれを用いるのは困難であると、WWAプログラムの気候科学者で今年のパキスタンの分析に関わったマリアム・ザカリア氏は言う。

分析結果から責任を追及できるか
イベント・アトリビューション研究が飛躍的進化を見せている一方で、これをどのように活用するかについては激しい議論が続いている。
 
例えば、議論を最も単純にすると、パキスタンの雨量が通常より75%多かったことが示された場合、まず通常を上回った損害額を計算して、先進国など責任を負う国が分担して補償しなければならない。

米国は、1850年代の産業革命以降、温室効果ガスの約25%を排出しているので、支払いの25%を負担する。米国の石油会社であるシェブロンとエクソンは、それぞれ排出量の3%以上に責任を負う。

しかし実際には、負担をどのように振り分けるかは複雑極まる問題だ。排出国や排出企業の多くは、気候変動を助長させた責任とそれを修復する責任は必ずしも同等ではないと主張する。

また、自分たちの排出した温室効果ガスがある一つの気象現象やそのほかの結果を直接招いたことを示すのは不可能であるとも指摘する。(中略)

ところが、2022年7月12日付けで学術誌「Climatic Change」に発表された論文で、米ダートマス大学の研究チームは、どんな国の過去の排出でも、別の場所で起こった経済損失と関連付けることは可能であると示した。

それによると、1990年以降、米国が排出した温室効果ガスは世界に1兆8000億ドル(約260兆円)の損害をもたらしたという。しかも、この数字でさえ過小評価されている可能性がある。

論文の筆頭著者を務めたダートマス大学の気候研究者クリストファー・カラハン氏は、「もはや排出者は、『明白な証拠がない』と言い逃れすることはできません。国や企業の個別の責任を、量的に示すことが可能になったのです」と話す。

バハマ大学の気候政策専門家アデル・トーマス氏も言う。「もう何十年も前から科学は存在しています。そして今、これが人間活動によるものであることを示すこれまでで最も有力な証拠があります。その主たる犯人が誰かは明白です」。あとは、倫理的、社会的、政治的議論だけだ。

「今問われていることは、私たちがこれにどう対処すべきかです」【11月9日 ナショナル ジオグラフィック日本版】
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ドイツ・ショルツ首相訪中 経済的必要性と中国依存批判の間で「必要なのはバランス感覚と現実主義だ」

2022-11-08 22:38:34 | 欧州情勢
(中国・北京で会談したドイツのショルツ首相(左)と中国の習国家主席(4日)【11月5日 BBC】)

【ハンブルク港物流ターミナルへの中国企業参入認可を手土産に訪中】
ドイツのショルツ政権は10月26日、かねてより問題となっていた中国国有海運大手がドイツ最大の港湾ハンブルク港にある物流ターミナルの株式を取得することを認める閣議決定を行いました。

****中国、独ハンブルク港物流ターミナルの株式取得へ…ショルツ政権容認****
ドイツのショルツ政権は26日、中国国有海運大手「中国遠洋運輸(COSCO)」が独最大の港湾ハンブルク港にある物流ターミナルの株式を取得することを認める閣議決定を行った。同港の国際競争力強化が狙いとみられるが、経済安全保障の観点から欧州各国の批判を招く可能性がある。

過去にハンブルク市長を務めたショルツ首相は、COSCOによる35%の株取得という要求を25%未満に引き下げることで妥協を図った。事業や人事など運営に関する重要決定では、介入できない措置を取った。

ロシアのウクライナ侵略を受け、ドイツでは国内で中国の影響が大きくなることへの警戒感が高まっている。独政府内では経済の対中依存度を下げるべきだとの声も強く、COSCOの株取得を巡っては経済相らが反対していた。

同港は取扱量が欧州第3位の重要港で、COSCOが参入するのは四つあるターミナルの一つ。欧州連合(EU)には、域内の重要インフラ(社会基盤)に対する非加盟国企業などの投資について、各国政府が審査できる仕組みがある。【10月28日 読売】
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ドイツのショルツ首相は4日、中国を訪問し、習近平国家主席と会談しました。主要7カ国(G7)首脳の訪中は約3年ぶり。上記ハンブルク港物流ターミナルの件はショルツ首相にとって訪中の「手土産」の形にもなっています。

人権やウクライナ問題で欧州と中国の関係がこじれるなか、改善にかじを切りたい中国と経済関係を維持したいドイツの思惑が一致しての訪中でした。ただ、中国への接近は「権威主義化」を容認しかねないと、ドイツ国内外で批判が出ています。


****中独は互いを尊重すべき、習氏がショルツ氏に表明=新華社****
中国の習近平国家主席は4日、訪中したドイツのショルツ首相との会談で、中国とドイツは互いを尊重し、互いの核心的利益に配慮すべきだと述べた。

政治的に相互信頼を破壊するのは非常に簡単だが、それを再構築するのは難しいと指摘した。国営新華社通信が伝えた。【11月4日 ロイター】
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****ショルツ独首相、習中国主席と会談 ロシアへの働きかけ求める****
ドイツのオラフ・ショルツ首相は4日、中国・北京を訪れ、習近平国家主席と会談した。ショルツ氏は、ウクライナでの戦争を止めるため、中国がロシアへの影響力を行使するよう働きかけた。

新型コロナウイルスの世界的な大流行が発生して以降、ヨーロッパの指導者が北京を訪れるのは初めて。習氏が先月開催された共産党大会で権力の掌握を強めてから、欧州首脳が習氏と会談するもの初めてだ。

ショルツ氏は、ロシアの核による威嚇が「無責任かつ非常に危険」だという認識で両国は一致したと述べた。
習氏はこれまで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による侵略行為を非難していない。

中国の報道によると習氏は、危機を平和的に終わらせるよう国際社会が支援し、核兵器の使用や威嚇に反対すべきだと述べたという。中国外務省は、習氏が「無責任」「非常に危険」という言葉を使ったとは説明していない。

ショルツ氏と習氏は今回、ウクライナでの戦争、世界の食料とエネルギーの安全保障、気候変動、世界的な感染流行などについて、話し合い続けることで合意した。

台湾に関しては、ショルツ氏は従来どおり、現状のいかなる変更も平和的かつ相互の合意に基づかなくてはならないとするドイツの見解を繰り返した。人権については、特に新疆地区の少数民族について保護の必要があると述べた。

欧州で懸念広がる
ショルツ氏の今回の訪中は、滞在時間がわずか11時間。現時点での訪中の是非は、ドイツと欧州各国で懸念を呼んでいる。

中国共産党大会が終わってまもないタイミングでもあるだけに、権威主義を強める習氏の国内評価を高める材料にされかねないと、懸念されている。

これについて、ジェニー・ヒルBBCベルリン特派員は、ショルツ氏は、前首相のアンゲラ・メルケル氏と同様、世界の問題は中国との協力することでのみ解決できるという考えの持ち主だと指摘。首相は、直接会うことで、双方が強く対立する問題でも話し合いが進むと考えているという。(中略)

ショルツ氏の今回の訪中は、発表はされたものの、EUの他の国々との調整がなかったため、欧州各国の神経を逆なでしたとアドラー編集長(BBCの欧州編集長)のは話す。

ヨーロッパがドイツを筆頭にロシア産ガスへの依存から脱却しようとする中、「ドイツはビジネスの見込みに目がくらみ、中国に近づきすぎているのではないか?」と、欧州で疑問視されているのだと、編集長は言う。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領が何年も前から、EUの中国への依存を弱めるよう働きかけてきたこともあり、EUは貿易相手国の多様化は賢明なことだと考えるようになっているが、ショルツ氏はその歩調から外れていると懸念されていると、同編集長は解説した。

<解説> ジェニー・ヒル BBCベルリン特派員
ショルツ首相の前任、アンゲラ・メルケル氏も、中国訪問時には必ずドイツ経済界の幹部を同行した。メルケル氏は「貿易を通じた変化」を政策として追求し、中国やロシアといった国々との関係は、経済的な結びつきを通じて、政治的関係にも影響を与えられると考えていた。

ドイツ経済は長く、安価なロシアのエネルギーに依存してきた。しかし、ウクライナでの戦争によって、ドイツのその戦略の本質的な欠陥があらわになった。そしてかつてはパートナーだった中国のことも、ドイツ政府は今ではライバルとみなしている。

習氏は今回の会談で、ドイツとの「より深い協力」をショルツ氏に求めた。すでにドイツ経済が中国と密接すぎると考える人にとって、これはぞっとする発言だったはずだ。中国が台湾に侵攻したらどうなるのか、そういう人たちは心配している。

すでに100万人以上のドイツ人の雇用が、中国との関係に依存している。
例えば、自動車大手ダイムラーは、製造した車の3割以上を中国で販売している。化学メーカーBASFは、中国南部に新工場を開設したばかりで、年内に100億ユーロ(約1.5兆円)の投資を予定している。

ドイツ政府内で、中国との「デカップリング」(切り離し)を主張する人はほとんどいない。ショルツ首相訪中の前夜、経済界の幹部はこう述べた。「今は中国の陶器を割るべき時ではない。それが唯一のアドバイスだ」と。

とはいえ、ドイツが過度に中国に依存するのを防ぎたいと考えている人は多い。
ショルツ氏には、高度な綱渡りが求められている。ドイツ経済を守りながら、ドイツ企業の利益を最優先しているという非難を避けなくてはならないのだ(そうした非難はここ数カ月でかなり出ている)。

変化する中国にどう対応するか。ショルツ政権にとっては、それが決定的な試練となるかもしれない。【11月5日 BBC】
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互いの立場の主張、当たりさわりのない主張が多い中で、ロシアとの関係を重視し、ロシア批判を避けてきた習近平主席がロシアの核使用に反対したというのは注目されるところです。

****習氏、ウクライナ情勢巡り「核使用反対すべき」 独首相との会談で****
(中略)国営新華社通信によると、習氏は会談で、ウクライナ情勢について「国際社会は核兵器の使用や脅しに共同で反対すべきだ」と述べた。ロシアへのけん制とも受け取れる習氏の発言は極めて異例。

ロシアによる核使用への懸念を深める欧州に寄り添う姿勢を示し、欧州との関係修復につなげることを狙った可能性もある。(後略)【11月4日 毎日】
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【困難な中国への依存度低下 産業界全体のトレンドは「中国にとどまろう」】
しかしながら、人権・自由など西欧的価値観とは大きく異なる権威主義傾向を強める中国と「より深い協力」を行うことへの警戒感が内外に根強くあることは、上記【BBC】や前回11月22日ブログでも指摘されているところです。

それでも中国との関係を重視せざるを得ないのは、ドイツ経済における中国の経済的影響力の大きさに他なりません。

ショルツ連立政権内では、緑の党は中国への厳しい対応を求めていますが、ショルツ首相は「必要なのはバランス感覚と現実主義だ」との考えで、今回訪中もそうした考えによるものです。

****ドイツ車の約4割は中国製──やめられないドイツの中国依存****
<ハンブルクを「ヨーロッパにおける中国の母港」と発言したことがある、ショルツ独首相の訪中が示すものとは? 連立政権での約束「対中強硬方針」を転換せざるを得ない、ドイツの苦しい事情>

すったもんだの攻防の末、オーラフ・ショルツ首相率いるドイツ連立政権が誕生したのは2021年12月のこと。このとき社会民主党(SPD)と緑の党、そして自由民主党(FDP)が結んだ連立協定には、中国に対して厳しい姿勢を取るという新たな方針が定められていた。

それまでのドイツの対中政策は、経済関係を深く、広く構築するというものだった。それ以外の全て、つまり中国国内の人権侵害や、反体制的意見の抑圧や、東アジア地域における強硬姿勢などは、表面的に批判する程度だった。それを変えようというのだ。

連立協定は、中国との協力を引き続き促進するが、あくまで「可能な場合」に限られ、「人権法と国際法に基づく」こと、と制限を設けた。

また、EUと中国が20年末に大筋合意した包括投資協定(退任間近のアンゲラ・メルケル前独首相が、アメリカの警告を押し切ってまとめたものだ)は、「多くの理由により」批准作業が凍結されていることを指摘。欧州企業が中国市場で相応の待遇を受ける必要性を指摘している。

連立協定は、ドイツが中国経済への戦略的依存度を低下させることにも言及している。また、南シナ海の島しょ部などの領有権問題は国際法に基づき解決されるべきで、台湾問題は中国と台湾双方の合意により、平和的手段でのみ解決されるべきだとしている。

(中略)実際、ショルツ政権の発足当初は、連立与党はいずれも、対中政策を全面的に見直す方向を示唆していた。

ところがそこに、ロシアのウクライナ侵攻が起きた。それによる経済制裁と、報復としてのロシアのガス供給削減と最終的な停止は、ドイツにロシア産エネルギーへの過剰依存を痛感させ、それを放置してきたことへの反省をもたらした。

生産台数の4割が中国製
安価なロシア産天然ガスは、何十年にもわたりドイツのあらゆる産業の好業績を支えてきた。その供給ストップで生まれた、「相互依存の兵器化」や「戦略的脆弱性」や「サプライチェーンの回復力」に対する大きな懸念は、ロシアだけでなく、中国にも向けられるようになった。

このことは、ドイツ政府の対中姿勢の見直しに拍車をかけたようだ。中国への依存度低下は、政府だけでなく、ドイツの産業界全体の新しい合言葉になったかに見えた。

ところが中国への依存度がいかにディープかが明らかになるにつれて、これは「言うは易く行うは難し」であることが分かってきた。

なにしろドイツの自動車産業は、全生産台数の約4割を中国で生産している。フォルクスワーゲン(VW)の場合は5割近い。中国市場なしでは、フォルクスワーゲンはおそらく自動車メーカーとして独立を維持できないだろう。

世界最大の総合化学グループBASFは最近、中国南部に100億ユーロを投じて巨大な生産拠点を新設した。今後の収益の伸びの3分の2は、中国市場からもたらされると見込んでのことだ。

中国市場に依存しているのは大手の多国籍企業だけではない。ドイツの代表的企業のサンプル調査では、貿易企業の40%、製造業のほぼ半数が、重要な原材料や中間材の供給を中国に依存していることが分かった。自動車産業の場合、その割合は75%にも達する。

これほどの依存レベルを下げるには、かなりの時間がかかる。そのためか、代替的な供給源や市場の開拓に励む企業がある一方で、産業界全体のトレンドは「中国にとどまろう」のように見える。

事実、メルカトル中国研究所の最近の調査では、ドイツの自動車産業は、中国のパートナー企業への出資を増やすなど、むしろ中国におけるプレゼンスを深めている。研究開発拠点を中国に移すメーカーもある。このため、ショルツ政権が伝統的なビジネス寄りの対中政策を変えようとしていることについて、産業界からは大きな反発があった。

対中ビジネス外交に回帰
とはいえ、政権内部も一致しているわけではない。緑の党とFDPは、連立協定に基づき、厳しい対中政策を推進しているが、ショルツはそれほど前向きではないようなのだ。その対立が露呈したのが、ドイツ最大の港湾であるハンブルク港の権益問題だ。

中国の国有海運最大手・中国遠洋運輸(コスコ)が、同港の4つのターミナルの1つに出資しようとしたところ、緑の党とFDP(と6つの省庁)が猛反対。だが、ショルツは賛成の意向を示し、最終的に渋る連立パートナーに妥協案をのませた。

かつてハンブルク市長を務めたショルツは、中国の李克強(リー・コーチアン)首相に、ハンブルクは「ヨーロッパにおける(中国の)母港」だと語ったこともある。

それだけに、11月初めにショルツがドイツ企業幹部を多数引き連れて中国を訪問したときは、ドイツがビジネス寄りの対中政策に回帰したらしいことを印象付けた。

緑の党のアンナレーナ・ベアボック外相率いる外務省は今、ドイツの新しい対中戦略を策定している。早ければ23年春にも発表される予定だが、果たしてそこに連立協定が反映されるのか、注目される。【11月8日 Newsweek】
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【国民世論は中国により厳しい見方】
経済界の意向も受けて「必要なのはバランス感覚と現実主義だ」とするショルツ首相ですが、国民世論はより厳しい見方をしています。

****ドイツ人の58%「経済にマイナスでも中国により強硬に対応すべき」―独メディア****
ドイツで行われた世論調査で58%が対中強硬策を支持していることが分かった。独メディアのドイチェ・ヴェレ中国語版が3日付で伝えた。

世論調査機関Forsaが行った調査によると、「ドイツは中国により強硬な姿勢で対応すべきか」との問いに、「両国の経済関係にマイナスの影響を与えたとしても強硬に対応すべき」と答えた人は昨年と同じ58%だった。「両国の経済関係にマイナスの影響を与えないことを前提に強硬に対応すべき」は8%(昨年は16%)で、「強硬な対応に反対」は23%(昨年は19%)だった。

記事は、「両国の経済関係にマイナスの影響を与えたとしても強硬に対応すべき」との回答が昨年と変わらず58%に上ったことについて、「国際情勢は危機的であるにもかかわらず、ドイツ国民の対中関係に対する姿勢は確固たるものだ」との分析が出ていると紹介。また、ドイツ西部では対中強硬策を支持する割合が6割を超えたが、東部では44%にとどまったと伝えた。

このほか、支持政党別では、「緑の党」と「社会民主党」の支持者が対中強硬策を強く支持しており、それぞれ69%と66%が支持を表明。一方で、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の対中強硬策への支持率が最も低く、38%だったという。【11月5日 レコードチャイナ】
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横道にそれますが、極右AfDが中国に最も宥和的・・・右とか保守とか言うよりは、「自分たちの利益第一主義」といったものでしょう。

****「中国は信頼できるパートナー」1割に満たず、ドイツ世論調査―独メディア****
独ドイチェ・ヴェレ(中国語版)の4日付報道によると、独公共放送ARDの委託によりインフラテスト・ディマップが実施した世論調査で、「中国を信頼できるパートナー」と考えているドイツ人は9%にとどまった。5年前は36%だった。

記事は、「この結果は、ドイツ人の中国に対する態度がわずか5年で著しく冷え込んでいることを示している。また、ドイツ人が現在、中国に対してロシアと同程度の不信感を抱いていることも意味する」と指摘した。(中略)

中国は過去6年間、ドイツにとって最大の貿易パートナーだ。(中略)回答者の9割近くが、ドイツ政府に対し、非民主主義国への経済的依存を全般的に軽減するよう求めた一方で、人権へのコミットメントよりも経済的利益の方が重要であると考える人は22%にとどまった。

ショルツ首相は4日、経済代表団を率いて中国を訪問した。調査によると、中国との経済協力については、「減らすべき」が49%、「現状を維持すべき」が34%、「拡大すべき」が10%だった。

ほぼ3人に2人が中国を世界の安全保障に対する脅威と認識しており、86%がロシアについて同様の認識を示した。

ドイツ国内のインフラへの中国の投資については反対意見が顕著だった。ドイツ政府がこのほど、中国海運大手の中国遠洋運輸(COSCO)に対して、ハンブルクにあるドイツ最大港のターミナルの権益24.9%の取得を承認したことについて、「反対」が69%に上った。【11月8日 レコードチャイナ】
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ただし、“ドイツでは、ロシアを主要な軍事的脅威と考える割合は22%で、中国については7%にとどまった。

米国では、64%が中国を米国の安全保障に対する軍事的脅威と考え、ロシアについても66%が同様の見方をしている。”(独ケルバー財団と米ピュー・リサーチ・センターが昨年末と今年初め、ドイツで1088人、米国で1万9791人の成人を対象に実施した調査の結果)【10月25日 レコードチャイナ】ということで、ドイツでは中国を「軍事的脅威」とまで見る国民は少ないようです。

日本も中国との経済的関係が強い反面、不信感も強いという点ではドイツと同じですが、領土問題を抱え、軍事的脅威を感じている点ではドイツとはまた異なります。

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イラン  バイデン米大統領は「解放する」とは言うものの熾烈な当局のデモ弾圧 対露ドローン供与問題

2022-11-07 22:43:32 | イラン
(テヘラン市内をバイクで走るイランの警官隊(2022年10月) 【11月5日 Newsweek】)

【バイデン大統領「われわれはイランを解放するつもりだ」】
最近「???」と感じたのはバイデン大統領のイランに関する「イランを解放」という発言。

****バイデン米大統領「イランを解放」と発言、選挙演説で****
バイデン米大統領は3日、中間選挙に向けたカリフォルニア州での演説で、政府に対する抗議デモが続くイランについて「解放」すると表明した。デモ参加者は間もなく自由になるだろうと述べた。

会場の外でイランの抗議者らを支持する集会が開かれる中、バイデン氏は「心配することはない。われわれはイランを解放するつもりだ。彼らはすぐに自由になるだろう」と語った。

具体的にどのような措置を取るのかには言及しなかった。ホワイトハウス国家安全保障会議は現時点でコメント要請に応じていない。

イランでは髪を覆うスカーフの着用が不適切として警察に拘束された女性が死亡した事件を受け、抗議活動が7週間にわたって続いている。

米国は2日、イラン政府が女性の権利を否定し、抗議活動に対し残忍な弾圧を行っているとして、45カ国からなる国連の「女性の地位委員会(CSW)」から同国の除外を目指すと表明した。【11月4日 ロイター】
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「イランを解放」ということは、イラン現体制を転覆させるということになります。イランからすればとても容認できる話ではなく、外交的には絶縁状みたいなことにもなります。核合意再建に関する協議も停止してしまいます。もう、合意をあきらめたのでしょうか。

何らかの具体的な話があってのことでしょうか? 仮にあったとしても、軽々に発言べきものでもないでしょう。

特に意味はなく、演説の勢いで口にした言葉でしょうか? そうであるなら、やはり軽率でしょう。かねてより懸念されている「バイデン大統領は大丈夫か?」という話にも。

台湾有事をめぐる従来からの「あいまい戦略」を否定するような発言は、何回も繰り返しているところをみると“うっかり”ではなく「確信犯」のようですが、今回イラン発言の真意は?

【熾烈なイラン当局のデモ弾圧】
ヒジャブ(スカーフ)の被り方が不適切として拘束されたのち、警察で死亡した女性をめぐる抗議行動は今も続いているようですが、単にヒジャブの問題、警察の暴力の問題にとどまらず、自由を求める現体制否定の闘いともなっており、それだけに当局側の弾圧も熾烈なようです。

****イラン革命防衛隊司令官、デモを「暴動」と呼び強く警告も…収束の兆し見えず***
女性の髪を覆うスカーフ「ヒジャブ」の着用をめぐり抗議デモが続くイランで、精鋭部隊・革命防衛隊の司令官がデモを「暴動」と呼び、やめるよう強く警告しました。しかし、デモは翌日も行われ、収束の兆しは見えていません。

イランでは、ヒジャブの着用が不適切だとして警察に拘束された女性が死亡し、抗議デモが続いています。
ロイター通信によりますと、革命防衛隊の司令官は29日、「“暴動”はきょうで終わりだ。もう街に出るな」と抗議デモをやめるよう強く警告しました。

しかし、イランの大学では翌日もデモが行われ、女性がヒジャブに火をつけ、抗議の意思を示しました。また、集まった学生らは「イスラム共和国はいらない」と声をあげました。

治安当局はデモの鎮圧のため実弾も使用し、これまでに1万4000人以上を逮捕したということですが、依然として収束の兆しは見えていません。【10月31日 日テレNEWS】
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最高指導者ハメネイ師も警察当局の鎮圧行動を支持しています。

****殴りバイクでぶつかり、最後は至近距離で発砲...イラン警官、デモ参加者への非道な暴行現場****
<激しいデモが続くイランで、警官隊によるデモ参加者への常軌を逸した暴行の様子が撮影された。被害者の容態などは不明のままだ>

スカーフを適切に着用していなかったとして若い女性が道徳警察に拘束され、死亡した事件を受けて抗議運動が過熱しているイラン。緊迫した状況が続く首都テヘランで、警官隊がデモ参加者に激しい暴行を加える様子がビデオに収められた。

11月1日にSNSに投稿された2分強の動画には、夜の道路に横たわる男性に、12人ほどのイラン警察が襲い掛かる様子が映っている。警官たちは男性を蹴りつけ、棒で殴り、バイクでひこうとする様子も見られる。そして最後には、至近距離から男性に発砲する。アルジャジーラによれば、この銃は散弾銃と見られるという。

この男性がその後どうなったかは明らかになっていない。(中略)

イラン警察は、この事件が起きた場所や時間などを操作するとともに、関与した人物の特定を進めていると発表した。また国営メディア上で発表した声明で、「警察は暴力や非正規な行動を決して容認しておらず、違反者は規則に従って確実に法的措置を受けることになる」とした。

警察は暴行する「自由を与えられている」
一方、国際人権NGO「アムネスティ・インターナショナル」イラン支部は、国連人権理事会にこの事件の調査を要請し、「彼らは抗議者を残酷な手段で殴ったり撃ったりする自由を与えられている」と声明で述べた。

ノルウェーに本部を置く人権団体「イラン・ヒューマン・ライツ」によれば、イランで女性の死亡を受けて抗議デモが発生して以降、子供40人を含む277人が治安部隊によって命を奪われたという。拘束された人は1万4000人以上に上るとの情報もある。

ただ当局はこれまで、デモ参加者の死亡について関与を否定し、外国が支援する「潜入者」や「テロリスト」によるものだと非難している。【11月5日 Newsweek】
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****イラン当局、デモ参加者約1000人を起訴 公判へ=報道****
 強硬な取り締まりで知られるイランの司法当局は首都テヘランの暴動で約1000人を起訴し、近く公判を開く見通し。同国のタスニム通信が伝えた。当局は長期化する抗議活動の鎮圧に向けた動きを強めている。

スカーフのかぶり方が不適切だとして9月にマフサ・アミニさん(22)が風紀警察に拘束され急死した事件に抗議するデモは、学生や女性を中心に約7週間にわたって繰り広げられており、当局が弾圧を強めているにもかかわらず収束していない。

イランの指導者らは、デモ隊を暴徒と呼び、厳しい措置を取ると警告。米国を含む敵国が暴動をあおっていると非難している。

タスニム通信によると、テヘランの司法当局トップは、治安当局の襲撃や殺害、公共物の放火を含む破壊行為を行った約1000人の裁判が革命裁判所で開かれると表明。報道によると、今週に公開裁判の形で行われる。

司法当局によると、警察官に車で突っ込んだとされる22歳男の判決はまだ下っていないが、死刑に相当する「地球の腐敗」という罪に問われているという。【11月1日 ロイター】
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可能であるなら「イランを解放」してほしいところですが、単に口にするだけなら“米国を含む敵国が暴動をあおっている”とする体制側主張を刺激するだけで、一層の弾圧をまねくことになる危険も。

【イランのロシアへのドローン供与 強化されるイラン・ロシア関係の一端】
イランに関してここのところ問題になっているのが、ロシアに対するドローン供与。

イラン側もこれまでの否定を覆して“少数の無人機を侵攻前に供与した”と認めていますが、ウクライナ・ゼレンスキー大統領は「まだうそをついている」と批判。

****ロシアへの無人機供与認める ウクライナ侵攻前とイラン外相****
イランのアブドラヒアン外相は5日、ロシアがウクライナに侵攻する数カ月前に無人機(ドローン)をロシアに供与したと記者団に明らかにした。国営テレビが伝えた。イランはこれまで、ウクライナで使用される武器を送っていないと重ねて主張していた。

一方で、一部米メディアが報じた弾道ミサイルの供与については「ロシアに対していかなるミサイルも送っていない。完全に間違っている」と改めて否定した。

ロシアは、無人機によるウクライナのインフラ攻撃を激化させており、米欧はイラン製が使用されているとして、同国を強く非難。対イラン制裁で圧力を強めている。【11月5日 共同】
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****イランは「まだうそをついてる」 大統領、対ロ無人機供与で****
ウクライナのゼレンスキー大統領は5日のビデオ演説で、イランが同日、ロシアへの無人機(ドローン)供与を認めたことに言及した上で「まだうそをついている」と批判した。少数の無人機を侵攻前に供与したとのイランの主張に対し、ウクライナ軍が「昨日だけで11機破壊した」と指摘した。

ゼレンスキー氏は、イランの要員がロシア軍に無人機の扱い方を指導しているとし「そのことに関して、イランは沈黙している」と述べた。

10月に続いたウクライナ首都キーウ(キエフ)を含む各地への攻撃にはイラン製無人機が多用されたとみられている。【11月6日 共同】
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イランはロシアへのドローン供与の見返りに、核合意再建協議の決裂に備えて核開発に関する援助をロシアに求めているとも報じられています。

****米CNN、イランが露に核開発巡る援助要請と報道…米研究機関「無人機提供の見返りに」****
米CNNは4日、米情報機関の分析として、イランがロシアに対し核開発を巡る援助を要請したと報じた。イラン核合意の立て直しに向けた協議が破綻した場合に備えているとの見方を伝えた。

報道によると、イランは核物質の提供や核燃料の製造に関する支援を求めているが、ロシアが応じるかどうかは不明だという。

ロシアは核開発抑止を柱とする核合意の当事国で、イランの核兵器保有に反対している。軍事転用が懸念されるイランの核開発拡大をロシアが受け入れた場合、米政府は大きな方針転換につながる可能性があるとみて警戒を強めている。

米政策研究機関「戦争研究所」は5日、ロシアにイラン製無人機(ドローン)を提供する見返りに、イランが核開発への支援を求めているとの見方を示した。(後略)【11月6日 読売】
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イランのロシアへのドローン供与は2年前から極秘交渉されており、ロシアがウクライナ侵攻に備えて入念に準備していたとの見方も。
また、弾道ミサイルも交渉中とのこと。

****無人機供与、2年前から極秘交渉 イラン、弾道ミサイルも協議****
中東イランがロシアに攻撃用無人機(ドローン)を供与した問題で、供与に向けた両国間の極秘交渉は2020年末に始まり約半年で合意に至ったことが7日、分かった。イラン外交筋と革命防衛隊関係者が明らかにした。

機体は21年夏に初納入された。交渉の詳細が判明したのは初めて。ロシアはイラン製弾道ミサイルにも高い関心を示し、現在も売却交渉が継続中という。

ロシアは侵攻前の21年春に部隊を集結。交渉はその数カ月前に始まったことになり、兵器の海外調達を進めていた可能性がある。イランは核問題で米欧と対立、ロシアと軍事分野で急速に連携を深めた実態が分かった。【11月7日 共同】
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バイデン大統領としては、イラン現体制もロシアのプーチン支配体制もまとめてひっくり返したいところでしょうが、明日の中間選挙結果次第では、その前にアメリカ・バイデン政権が窮地に陥ることもあります。

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ロシア  重罪受刑者ら動員合法化、自軍の逃亡兵士を「射殺する」監視部隊 「人間の餌」「使い捨て兵士」

2022-11-06 22:30:24 | ロシア
(動員により幼い息子に別れを告げるロシア兵士(9月29日、ボルゴグラードで)=AP【10月12日 日経】)

【ウクライナ支持を維持するための「計算された試み」?】
ウクライナにおけるロシア軍の苦境がしきりに報じられています。

ただ、そうは言ってもロシア軍が広範な地域をまだ占拠している状況であり、このままロシア軍の態勢立て直し、軍事行動がとりにくい冬の到来、欧米の支援疲れ、昨日ブログで取り上げたような共和党が優勢となったアメリカの支援から距離を置く方針への転換などによってウクライナの攻勢にブレーキがかかり、戦線が膠着することになれば、ウクライナとしても不本意な事態ともなります。

****バイデン政権 ウクライナに対し「ロシアとの交渉に前向きな姿勢を示すよう非公式に促している」 米メディア報道****
ウクライナ侵攻をめぐり、アメリカ政府がウクライナに対し、ロシアとの交渉に前向きな姿勢を見せるよう水面下で促しているとアメリカメディアが報じた。

ワシントン・ポストは5日、情報筋の話として、バイデン政権がウクライナに対して、ロシアとの交渉に前向きな姿勢を示すよう非公式に促していると伝えた。この要請はウクライナに交渉のテーブルにつくよう強制するものではなく、各国のウクライナ支持を維持するための「計算された試み」だとしている。

交渉について、ウクライナ側はこれまでロシアのプーチン大統領が権力を維持し続ける限り、応じないという姿勢を崩していない。記事では、あるアメリカ政府関係者が「一部の支援国にとって『ウクライナ疲れ』は現実的なものだ」と指摘し、バイデン政権はウクライナを支持する各国の離反を防ぐ必要性を認識していると報じている。【11月6日 ABEMA NEWS】
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「計算された試み」? バイデン政権の真意はよくわかりません。

【プーチン大統領の健康不安説  真偽は不明】
一方のロシア。
国内の苦境を伝える報道は多々ありますが、まずはプーチン大統領の健康問題。
ウクライナは“プーチン大統領が権力を維持し続ける限り・・・”としていますが、プーチン大統領に万一のことがあれば状況が大きく変わります。

****プーチンは「癌とパーキンソン病が進行」との記載が...ロシア政府関係者のメール流出か****
<「謎の注射痕」動画で重病説が再燃していたプーチンだが、英紙が入手したメールには「すい臓癌とパーキンソン病と診断された」と書かれているという>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の健康不安説が取り沙汰される中、同氏が「すい臓がんとパーキンソン病の診断を受けた」とするメールの存在が明かされた。

プーチン「重病説」は長くささやかれており、ウクライナ侵攻後には血液のがんなどを患っているとの噂も飛び交った。最近ではロシア国防省が公開した動画内で、プーチンの手の甲に「静脈注射の痕」のようなシミが見えたとして疑惑が再燃していた。

ロシア政府は以前から、うわさは真実ではないと主張してきた。だが、イギリスのタブロイド紙ザ・サンは11月1日、ロシア政府に近い人物のメールを入手し、その中にはプーチンがすい臓がんと早期のパーキンソン病と診断されたと書かれていたと報じた。メールには、プーチンの病気は「すでに進行している」とも書かれているという。

同紙によると、ロシア情報筋はメールで、「プーチンは、最近診断されたすい臓がんの転移を抑えるため、あらゆる種類の強力なステロイド剤と、革新的な鎮痛剤注射を定期的に投与されている」と説明。「それが強い痛みを引き起こしているだけでなく、プーチンには顔のむくみや、記憶障害を含むその他の副作用の症状が出ている」と述べている。

情報筋はまた、すい臓がんとパーキンソン病に加えて、プーチンが前立腺がんを患っているとのうわさが浮上していることも明らかにした。「彼の側近の間では、転移が徐々に進んでいるすい臓がんに加え、前立腺がんも患っているとうわさされている」

手に静脈注射の跡? 腕は震えが止まらず
ソーシャルメディアに先月投稿された映像では、プーチンの手の甲に静脈注射の跡のようなものが映されていたため、ユーザーの注目を集めた。クレムリンはその後、この映像を削除し、プーチンの手の跡を隠すような透かしを入れた映像と、彼の手が映っていない映像を新たに公開している。

6月には、プーチンがロシア国営企業ロスナノのセルゲイ・クリコフCEOと会談した際の動画で、むくんだ手でテーブルをつかんでいると、英メトロ紙が報じた。

4月に行われたベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領との会談では、プーチンは腕が震えているように見え、震えを止めるために腕を胸元に引き寄せるような姿が捉えられた。プーチンは、ルカシェンコに向かって歩くのも困難な様子だった。【11月5日 】
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プーチン大統領に限らず、最高権力者に関するこの種の情報は常にありますが、その多くはフェイクに近いようにも。プーチン氏に関してはどうでしょうか?・・・わかりません。“静脈注射の跡”だけでは何とも判断できないし・・・。

【混乱する動員の実態】
健康不安説の真偽はわかりませんが、動員が大きな混乱を招いたのは事実です。
プーチン大統領は動揺した国内をなだめようと、バラマキも。

****プーチン大統領、動員兵らに3200ドルの一時金支給へ****
ロシアのプーチン大統領は3日、部分動員令で招集された兵士らに対し19万5000ルーブル(3200ドル)の一時金を支払うよう命じた。大統領府(クレムリン)が発表した。

大統領府のウェブサイトに掲載された法令によると、プーチン大統領は、一時金の支給は招集された兵士らに「社会的支援の追加措置を提供する」ためのものという。それ以上の詳細には触れていない。

兵士らに提示された最低賃金は月額16万ルーブル(2700ドル)。これは全国平均賃金のほぼ3倍に相当する。【11月4日 ロイター】
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気前のいい話にも聞こえますが、実態は異なるような情報も。

****動員ロシア兵100人超の「反乱」発生...報酬の不払いに不満を爆発させる様子が動画に****
<訓練センターの屋外に集結して報酬の支払いを叫ぶ100人以上の兵士たち。約束の金銭が支払われず不満が爆発するケースが続発しているようだ>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による部分動員令によって招集された兵士たちが、政府から報酬が支払われていないとして「実力行使」に出る事態が相次いでいる。

SNSには、新兵用の訓練センターの敷地内で100人以上が集まって抗議のスローガンを叫ぶ姿を映した動画のほか、仲間たちが見守る中で上官と対峙して報酬の支払いを訴える兵士の動画などが次々に投稿されている。

ロシアの独立系ニュース機関「7x7 Horizontal Russia」によると、大規模な抗議活動を起こしたのは、中部ウリヤノフスクの訓練所にいるチュバシ共和国出身の兵士らだったという。兵士らは同メディアに対し、19万5000ルーブル(約46万円)の支給を約束されたが、いまだに受け取っていないため、戦闘に参加するのをやめるストライキを実施すると語った。

7x7は2日付のテレグラムの投稿で、ストライキの参加者の1人は、動員兵は全員「だまされて」おり、「二束三文で戦地に送られる」と話したと伝えた。

別の動員兵は、ロシア当局が兵士の親族による訪問を禁止し、休暇の取得も認めなかったと明かしたという。ストライキはその後、機動隊によって中止させられた。(中略)

ロシアは「密かに」兵士動員を継続中との情報も
ロシアの動員兵らによる抗議の声は、相次いで伝えられている。2日にツイッターに投稿された動画では、ロシア軍に加わることで支払われると約束された30万ルーブル(約71万円)が家族に支払われていないと兵士らが上官に訴えている。

「ロシアのモビク(動員兵)は、『約束された』30万ルーブルを一括で支払うよう求めているが、軍の代表は彼らに約束はしていないと主張している」と投稿者は述べている。それを聞いた兵士からは、それなら「議員たちが自ら戦地に行け」との声が上がった。

ロイター通信は、ロシアの2023年の予算には、ウクライナとの戦闘のために兵士約30万人を動員する費用や、自国の領土と主張するウクライナ4州を併合する費用が考慮されていないと報じた。

ロシア軍高官は先月21日、動員された兵士約1万人が「様々な理由」で帰国させられたと発表したが、米シンクタンク軍事研究所(ISW)によると、ロシア軍は兵士を「密かに」動員し続けている。【11月4日 Newsweek】
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動員したものの、装備も自前で用意せねばならず、訓練も十分にされないまま前線に送られる・・・ということは、かねてより報じられているところ。

****装備は自腹、訓練不足で前線へ… ロシア動員の混乱嘆く家族****
ロシア人美容師のタチアナさんは、同国がウクライナ侵攻の兵力増強のために行った予備兵動員は「完全な恐怖」だと怒りをあらわにした。

タチアナさんのおいは先月初旬、首都モスクワの北西にあるクラスノゴルスクで招集された。動員に際して必要なものは、衣料品から救急用品まですべて家族が自費で購入しなければならなかったという。

報復を恐れて姓を伏せることを条件にAFPの取材に応じたタチアナさんは「制服、防寒下着、薬、食料など、すべて自分たちで買わなければならなかった」と憤る。「(動員兵が)到着しても誰も待っておらず、何も準備されていなかった」。当局者も突然の動員令に不意を突かれた様子だったという。(中略)

モスクワの北東20キロに位置するイワンテエフカに住むウクライナ出身の美容師アンナさんは、義理の息子が動員されたことに今もショックを受けている。「親戚がドニプロで爆撃されているのに、義理の息子は私たちの生まれ故郷で人を殺しに行かなければならない」と涙ながらに語った。

本人は戦争に反対していたが、「前線に行くか刑務所に入るか」以外に選択肢はなかったという。義理の息子は防弾チョッキや制服、防寒着、ブーツなどを買うのに、ロシアで最低賃金として定められている月給の7倍に当たる10万ルーブル(約23万円)近くを費やした。

ソーシャルメディア上では、新兵が使う基本的な装備の購入資金を募る投稿が拡散している。

■訓練不足のまま前線へ
動員をめぐる問題の深刻さは、政府支持派のジャーナリストでさえ警鐘を鳴らすほどだ。
複数の記者がソーシャルメディアへの投稿で、モスクワとその周辺地域から招集された新兵たちがまともな訓練も受けずにウクライナの前線に送り込まれたと指摘している。新兵が配属された第27自動車化狙撃旅団では、多数の死者が出た。

死者の中には、オーストリアのライファイゼン銀行ロシア支社でIT技術者として勤務していたチムール・イズマイロフさんもいた。

イズマイロフさんは本来なら兵役を免除されるはずだったが、9月23日に招集された。代理人弁護士のコンスタンチン・エロヒンさんがメッセージアプリのテレグラムへの投稿で明らかにしたところによると、イズマイロフさんは10月7日に戦線に送られ、13日に迫撃砲による攻撃を受けて死亡。

前線に送られたのは、中央銀行が作成した動員免除対象の銀行員名簿が軍司令部に届くのが間に合わなかったからだとされる。 【11月5日 AFP】
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“ロシア、北朝鮮から軍服や靴の調達検討か…厳冬期迎えるウクライナ戦で不足”【11月5日 読売】といった話も。

そうした一般国民の動員だけでは足りずに、殺人、強盗など重罪を犯した者もかき集めるとか。

****ロシア、重罪受刑者ら動員合法化 兵員不足で窮余の策****
ウクライナへの侵攻を続けるロシアで、殺人、強盗など重罪を犯した人の軍への動員を合法化する法改正が6日までにプーチン大統領の署名を経て発効した。軍事作戦が8カ月以上続き、戦況悪化に直面するロシア軍の兵員不足を補う窮余の策といえそうだ。(中略)

ロシアメディアなどによると、これまで動員が禁じられていた「重罪を犯した者」のうち、殺人や強盗、麻薬犯罪で有罪となった受刑者や犯歴のある人は禁止の対象から外れた。【11月6日 共同】
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【士気が期待できない兵士をどのように使うのか?】
上記のような動員の実態、ましてや犯罪者を・・・ということでは、まともな“士気”は期待できません。
実際、ロシア軍兵士の士気の低さは以前から指摘されているところですが、今後はますます問題になります。
そこで、ロシア軍は・・・

****ロシア兵の逃走防ぐため、監視部隊を派遣か 士気低下が背景 英分析*****
英国防省は4日、ウクライナに侵攻するロシア軍が、前線にいる自軍兵の退却や逃走を防止するための監視部隊の派遣を始めた可能性が高いとの分析を公表した。銃撃も辞さない強い姿勢で臨んでいるといい、ロシア兵の士気が低下し、規律も乱れていることが背景にあると見ている。

英国防省によるとロシアは過去の紛争でも同様の部隊を派遣した。ロシア軍幹部は警告を無視した脱走兵の殺害を容認している可能性があり、兵士に対しては防衛陣地を死守するよう求めているという。(後略)。【11月5日 毎日】
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“旧ソ連の独裁者スターリンが、第2次世界大戦のナチス・ドイツとの戦闘で「一歩もひくな」をスローガンに導入した手法として知られる。”【11月6日 読売】とも。

オスマントルコのメフメト2世による世界最強の城壁を誇るコンスタンティノープル攻略(1453年)を活写した塩野七生氏の著作「コンスタンティノープルの陥落」に似たような場面が。

難攻不落の城壁を前にオスマントルコ軍兵士の中には戦線を離脱する者も・・・しかし、オスマン軍の背後にスルタン直属の最精鋭部隊イエニチェリ軍団が逃げる自軍兵士を切り殺すべく抜刀して控えていたとか。
兵士は逃げることもかなわず、城壁に突撃するしかなかった・・・。

こんな士気の低い動員兵が“使い物になるのか?”と誰しも考えるところでしょうが、現実は“冷酷”です。
ちゃんと“使い道”があるようです。血も凍るような冷酷非道な話ですが。

****東部前線で戦うワグネルの「使い捨て兵士」 ウクライナ****
「そこにあるのは恐怖だ。地面はアスファルトのように真っ黒で、すべてが破壊された。遺体があちこちに散乱していた」

AFPの取材に応じたウクライナ兵のエウヘンさんは、ロシア軍が撃ち込む砲弾が付近でさく裂する中、地下トンネルに退避した。そして、わずか1キロしか離れていない東部ドネツク州バフムートの前線の状況を振り返った。(中略)

軍事専門家やウクライナ軍によると、暗躍しているのはロシアの民間軍事企業ワグネルだ。
ワグネルの創設者は、ウラジーミル・プーチン大統領に近い実業家のエフゲニー・プリゴジン氏。ロシアによるウクライナ侵攻を機に存在感を強めており、政治的野心を抱いている可能性があるとの見方も出ている。

ウクライナ当局者によると、プリゴジン氏はロシア国内の受刑者に対し、報酬や恩赦という条件を提示してワグネルの兵士として採用し、数千人を前線に送っているという。

数人のウクライナ兵は、こうした元受刑者が「人間の餌」のような使われ方をしているとAFPに証言した。

ウクライナ軍第93旅団に属するアントンさんは、「暗くなる午後6時前後から、経験のない兵士たちがわれわれの陣地に向けて前進を命じられ、ある地点で数分間とどまる」と説明する。こうした兵士が毎晩7、8人前後、ウクライナ部隊に向かってやって来るという。

第53旅団の少佐セルヒーさんは、「一行の任務は、前進してわれわれが発砲せざるを得ない状況を生み出し、陣地の場所を探り当てることだ」と話す。その後、「ロシア側は(われわれの陣地に向けて)大砲を撃ち込み、より経験豊富な精鋭部隊を送り込んでくる」という。

■ワグネル創設者に政治的思惑
ウクライナ側の説明によると、このようなロシア軍の「使い捨て兵士」の大半が戦死する運命にある。中には、負傷したり、拘束されたりする者もいる。(後略)【11月1日 AFP】
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正規軍ではなく、悪評高い民間軍事会社ワグネルの部隊の話のようですが・・・。
ただ、訓練もされておらず、装備も不十分で、士気も低い動員兵の前線での使い道は限られてくるでしょう。「使い捨て」的なものとして。
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アメリカ国内で共和党トランプ支持勢力を中心にウクライナ支援懐疑論 中間選挙結果次第では・・・

2022-11-05 22:45:57 | アメリカ

(【11月4日 BBC】)

【ドイツのゲパルト自走対空砲用供与 「弾がない」】
ウクライナを軍事支援する欧米は、ロシアとNATOの直接戦闘につながるような戦闘機や戦車、ロシア領内を攻撃できる兵器などの供与には慎重な姿勢を見せつつも、東欧諸国が保有する戦闘機・戦車を含む旧ソ連製兵器のウクライナへの供与といった形で、高性能兵器についても実質的な支援を進めています。

****ウクライナに戦車90両提供=米とオランダがチェコ保有分改修****
米、オランダ両政府は4日、チェコが保有する戦車計90両を改修した上でウクライナに提供すると発表した。ロシアの侵攻開始以降、米国がウクライナに戦車を提供するのは初めて。

ウクライナに提供されるのはチェコが保有する旧ソ連製のT―72戦車。米とオランダはこれに光学・通信機能などを追加する改修を施して供与するという。【11月5日 時事】
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ただ、高性能兵器の供与は「もの」を渡せばすむというものでもないようです。
ドイツは、紆余曲折はあったものの、ドローン迎撃に使えるゲパルト自走対空砲のウクライナへの提供に踏み出しましたが、弾薬製造国である永世中立国スイスの協力が得られず「弾がない」という状況にも。

****ウクライナに送ったゲパルト自走対空砲用の35mm弾薬が規格外で使用できず****
ドイツは先週(7月末)、計画されていた軍事支援の一つ、ゲパルト自走対空砲の提供ついて最初の5両をウクライナ軍に納入しました。しかし、合わせて提供した弾薬が兵器システムに認識されず、使用できないことがわかりました。

ロシア侵攻後の2月末の段階で既に声が上がっていたゲパルト自走対空砲のウクライナへの提供。当初、ドイツ政府は拒否するも、その後、紆余曲折を経て、ショルツ首相は4月末にようやく提供を承認。当初50両という話は最終的に15両に落ち着きます。

しかし、いざ、提供するとなるとゲパルト対空自走砲の35mm砲機関砲(エリコンKD 35mm 機関砲)の弾薬のドイツ軍の在庫が6万発しか無いことが分かります。分間550発の35mm砲2門を持つゲパルトにそれは全く十分な数ではありません。

そこで、製造元のスイスの軍需企業エリコン社に輸出を交渉するも永世中立国であるスイスはその立場上、ロシアを攻撃するための弾薬の提供を拒否します。

そこで、ドイツは過去にゲパルトの中古を販売したカタール、ヨルダン、ブラジルに弾薬在庫の提供を交渉。ブラジルが30万発を提供することで合意します。しかし、これをウクライナに移送するには弾薬の製造国であるスイスの承認が必要なのですが、またしてもこれをスイスが拒否。
八方ふさがりになる中、北欧のノルウェーが35mm弾を生産できると手を挙げます。ノルウェーはウクライナに提供するゲパルトのために新たに弾薬を製造。ドイツはゲパルトの提供と合わせてノルウェー製の35mm弾も提供します。

しかし、いざ、これを発射しようとしてみたところ、兵器システムが弾薬を認識せず、発射することができませんでした。どうやらドイツとノルウェーは提供前にゲパルトでの発射テストを行っていなかったようです。

ノルウェーは直ぐに修正した弾薬を製造するとして、今度は8月にドイツと共同テストを行ってから新しい弾薬を提供するそうです。ウクライナ兵へのゲパルトの運用訓練は終えており、直ぐに前線に投入可能ですが、弾薬が無ければ、ゲパルト自走対空は使い物になりません。【8月1日 World Tank News】
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なんだか間抜けな話にも思えますが、現実というのはこんなものなのでしょう。
昨日も“スイス、自国製弾薬のウクライナ提供認めず 独の要請拒否”【11月4日 AFP】という記事がありましたので、上記ゲパルト自走対空砲の問題はまだ解決してないようです。

なお、中立国スイスがまったくウクライナ支援を拒んでいるという訳でもなく、現政権は相当にウクライナに肩入れはしています。ただ、弾薬までは・・・といったところのようです。

****スイス、自国製弾薬のウクライナ提供認めず 独の要請拒否****
(中略)スイスのギー・パルムラン経済相はクリスティーネ・ランブレヒト独国防相に宛てた書簡で、自国の中立の原則に基づく方針として、ウクライナが武力紛争の当事者である限り、スイス製軍需品の提供は承認できないと説明した。

スイスは2日、冬を迎えるウクライナでの飲料水供給と損傷したエネルギー施設の復旧に向けた支援として、1億スイス・フラン(約150億円)を提供する意向を表明していた。

スイスは中立国でありながら、ウクライナ侵攻をめぐり欧州連合がロシアに科した制裁措置をすべて採用している。国内の政治家からは行き過ぎだとの批判も上がっているが、イグナツィオ・カシス大統領はこの決定を擁護する姿勢を貫いている。【11月4日 AFP】
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【G7 ウクライナの越冬支援】
軍実支援だけでなく、最近のロシア軍のウクライナ領内インフラへの攻撃によって、ウクライナ国民が厳しい冬を乗り切るための支援も必要となっています。

****G7、インフラ支援調整 ウクライナ国民の越冬課題****
ドイツ西部ミュンスターで4日閉幕したG7外相会合は、ウクライナのエネルギーや水道に関するインフラの復旧や耐久性強化の支援を調整する仕組みの設置を決めた。ロシアがインフラを狙った攻撃を繰り返す中、国民の越冬支援が喫緊の課題となっている。

議長国ドイツのベーアボック外相は閉幕後の記者会見で「ロシアはウクライナ国民を寒さと暗闇の中に置こうとしており、やめさせなければならない。寒い冬を生き延びてもらう」と強調。

ブリンケン米国務長官は、新たに設置する仕組みは、ウクライナの需要に応じて軍事支援を各国で調整している仕組みに類するものだと説明した。【11月5日 共同】
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【支援の中核アメリカ国内で“懐疑論”】
ウクライナへの支援は各国事情で様々ですが、冒頭グラフでも一目瞭然なように、何といっても中核はアメリカ。
(ロシア・プーチン大統領側近が「実質的に、NATOとの戦いになっている」と言っているのも間違いではありません)

アメリカ・バイデン政権は冒頭のチェコ保有戦車改修を含めて新たに4億ドルの追加軍事支援を決定しています。

****米、ウクライナに追加軍事支援 4億ドル****
米国防総省(ペンタゴン)は4日、ウクライナ向けに4億ドルの追加軍事支援を発表した。改修された「T72」戦車や地対空ミサイル「ホーク」向けミサイルなどが含まれる。

シン報道官によると、チェコから供給されるT72戦車45台やホーク向けミサイルの一部の改修費用を手当てするという。
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アメリカはすでに計176億ドル(約2兆6千億円)に上る巨額の軍事支援をウクライナに行っており、さすがに国内で懐疑論が出ているようです。

****米のウクライナ支援、与野党で懐疑論浮上****
ロシアのウクライナ侵攻を巡り、米与党・民主党の急進左派グループが24日、バイデン政権にウクライナ支援の見直しやロシアとの直接対話を求める書簡を送り、党内の反発で翌25日に撤回する事態が起きた。

今月中旬には野党・共和党のマッカーシー下院院内総務が、11月の中間選挙で同党が下院を奪還すればウクライナへの軍事支援を縮小させる考えを示唆。バイデン政権は支援を継続する立場だが、同国のエネルギー不足が深刻化する冬を前に、米国の与野党で政権の方針に異を唱える恐れが強まり出した。

バイデン政権にウクライナ政策の見直しを求めたのは、民主党の急進左派に属する下院議員30人。代表者のジャヤパル議員は書簡で24日、米国によるウクライナへの巨額の軍事・経済支援を修正し、ロシアと「現実的な停戦枠組みを模索するべきだ」と主張した。

これに対し党内やウクライナ政府から「現時点でロシアとの対話は非現実的」「侵攻を助けるだけだ」との批判が続出。ジャヤパル氏は同日、「民主党はウクライナ支援で一致している」との釈明文を発表したのに続き、25日に書簡を全面撤回した。

ジャヤパル氏は声明で、「書簡は数カ月前に起草され、精査されずに誤って送付されたものだった」と弁明したものの、今回の騒ぎが、ウクライナ支援を巡る党内の不協和音を浮き彫りにしたのは間違いない。

一方、共和党では下院トップのマッカーシー氏が18日、米メディアのインタビューで、米国が景気後退局面に入る可能性が高い中でウクライナに「白紙の小切手」を出すことはないとして、中間選挙後は支援を縮小させる考えを示した。中間選挙では、上院で民主、共和両党が拮抗(きっこう)する半面、下院は共和党が過半数を奪還する勢い。

米議会はこれまで、バイデン政権によるウクライナ支援の方針におおむね超党派で協力してきた。露軍の侵攻以降、バイデン政権が表明した軍事支援は計176億ドル(約2兆6千億円)に上る。

予算の承認権限を持つ議会で支援への反対が広がれば、ウクライナ軍の対露反攻作戦や、北大西洋条約機構(NATO)をはじめとする国際社会の結束に影響するのは必至だ。

バイデン大統領は20日、遊説先の東部ペンシルベニア州で、共和党が議会の多数派を握り支援が縮小されれば深刻な結果を招くと懸念を示したが、中間選挙後は自党の急進左派を含めた支援懐疑論への対処を強いられることになる。【10月26日 産経】
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【共和党内部でも支援に懐疑的なトランプ支持勢力と反トランプ勢力で対応に差】
上記の共和党下院トップのマッカーシー院内総務はトランプ氏に近いとされています。
そのトランプ支持勢力は「アメリカ第一」で国際協調に後ろ向きな姿勢があります。

予想されているように中間選挙で共和党が勝利するのか、また、トランプ氏の推薦候補が躍進するのか・・・そうしたアメリカ国内政治の動向が今後のウクライナ情勢に大きく影響しそうです。

****米中間選挙、ウクライナ支援が争点に 共和に予算縮小論****
米中間選挙まで2週間を切るなか、ロシアが侵攻を続けるウクライナへの支援のあり方が争点に浮上してきた。野党・共和党のトランプ前大統領の支持勢力が巨額予算を修正すべきだと要求する。下院選は共和が多数派を奪還する勢いを維持しており、選挙結果次第で米政府が対ロシア政策の再考を迫られる可能性がある。

バイデン大統領は23日放送の米MSNBCのインタビューで、野党・共和にある対ウクライナ支援の見直し論について「多くのお金がかかるので、無知な人物がそのような考えを持つのはわかる」と切り捨てた。

発端は共和下院トップのマッカーシー院内総務の発言だった。18日に米メディアで「人々は不況にあえぎ、バイデン政権が国内でやっていないこともある。ウクライナは重要だが、白紙委任はできない」と述べた。

バイデン政権が2月24日にロシアが侵攻を始めた後に決めた軍事支援の総額は176億ドル(2兆6千億円)規模にのぼる。米議会は5月に超党派の合意で400億ドル規模の対ウクライナ予算を可決しており、枯渇しつつあった資金を追加で手当てすることで長期戦に備える態勢を整えた。

米紙ニューヨーク・タイムズによると、米国が単年度で一国に実施した軍事援助としてはベトナム戦争以来、半世紀ぶりの規模になるという。

5月の予算案に共和から下院議員の57人、上院の11人が反対した。当時、賛成に回ったマッカーシー氏がウクライナ支援の再検討に言及したのは、賛否が割れるウクライナ支援をめぐり党内バランスに配慮するためとの見方がある。

トランプ氏に近いマッカーシー氏は中間選挙の下院選で多数派を奪い返せば、下院議長に就く意欲を隠さず、党内で幅広い議員の支持を固めたい思惑が透ける。とりわけ「米国第一」を掲げるトランプ氏の支持勢力に目立つ「見直し派」に秋波を送ったとみられる。

トランプ氏の推薦候補はバイデン政権のウクライナ支援に疑問を呈す。中西部オハイオ州で上院選に出馬したバンス氏は「もう十分な資金を提供した」と急増する予算の縮小に言及。西部アリゾナ州の上院選候補、マスターズ氏も追加予算を米国とメキシコの国境に設ける壁の費用に充てるべきだと主張した。

米ピュー・リサーチ・センターが9月中旬に実施した世論調査によると、共和支持層の32%が対ウクライナ支援を「過剰」と回答。「不十分」が16%、「適切」が30%だった。3月調査で9%だった「過剰」の割合が上昇しており、支持層の不満を映す。

共和内の主導権争いの側面もある。トランプ氏と確執がある共和上院トップのマコネル院内総務は21日「バイデン政権と同盟国は必要な手段をもっと提供しなければならない」と語った。

上院選は激戦になっている一方、下院選は共和が多数派を奪還する勢いだ。上下両院選の共和候補のうち3割超を占めるトランプ氏の推薦候補が躍進すれば、共和内で国際協調に後ろ向きな声が広がるおそれもある。(後略)【10月27日 日経】
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【バイデン政権はウクライナに継続支援を約束してはいるものの・・・】
ただ、中間選挙結果にかかわらず、アメリカのウクライナ支援が短期間で大きく減らされる可能性は少ないとの見方もあるようです。

****米中間選挙でアメリカのウクライナ支援は変わるのか?****
米共和党のトップ議員らが、中間選挙で連邦議会の過半数議席を同党が獲得した場合、ウクライナへの支援を削減するかもしれないと語り、選挙に火種をまいている。しかし実際、中間選挙の結果でアメリカのウクライナへの対応は変わるのだろうか?(中略)

元米海軍将校で戦略・国際研究センターの防衛専門家、マーク・キャンシアン氏は、「アメリカの支援がなければウクライナは占領されていただろう」と語る。(中略)

共和党議員の主張は?
共和党の連邦下院トップのケヴィン・マカーシー院内総務は10月初め、共和党が議会を掌握した場合、ウクライナに「白紙小切手」を渡すことにはならないだろうと示唆した。

同党は現在、中間選挙で下院の過半数議席を獲得する勢いだ。アメリカの憲法によると、下院は全ての予算決議を行う。過半数を取れば、下院議長となったマカーシー氏がどの法案を採決にかけるかを決められる。

ウクライナ支援に対して同じような懸念を示す共和党員は他にもいる。ジョシュ・ホーリー上院議員(ミズーリ州)は、ウクライナ支援は「アメリカの利益にはならない」とし、「ヨーロッパにただ乗りを許している」と述べた。
この発言は、共和党内の分断を示すものでもあるようだ。

マイク・ペンス前副大統領は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の「擁護者」や、「アメリカを広い世界から切り離してしまう」共和党員を、強い口調で非難した。(中略)

アメリカは本当に支援をやめるのか?
欧州では、この可能性について懸念が広がっている。イギリス議会で国防特別委員会の会長を務めているトバイアス・エルウッド議員は米紙ワシントン・ポストに対し、「アメリカが撤退すれば、プーチンは敗北間際で勝利を奪ってしまうだろう」と話した。

しかし、ウクライナ当局やアメリカに拠点を置くオブザーバーらは、中間選挙の結果にかかわらず、支援が短期間で大きく減らされる可能性は少ないとみている。

ウクライナのオレクシイ・レズニコフ国防相は首都キーウでBBCの取材に応じ、アメリカの共和党と与党・民主党双方の議員との話し合いで自信を持ったと話した。

「誰が議会を動かそうと問題ないというシグナルを受け取った。(中略)ウクライナへの党派を超えた支援は続くと信じている」(中略)

アメリカ国民はどう思っている?
世論調査では、ウクライナ支援の支持率はなお高いものの、戦争が長引くにつれ低下の兆候がみられる。
10月にピュー研究所が行った調査によると、アメリカ人の20%がウクライナを支援しすぎだと答えた。3月には7%、5月には12%だった。

一方で、ロイターとイプソスの調査では、11月初めの時点で回答者の73%が引き続き支援するべきだと述べている。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが3日に発表した調査では、ウクライナ支援への意見は支持政党によって大きく異なることがわかった。

支援しすぎだと答えた共和党支持者は30%にのぼり、侵攻開始直後の3月(6%)から大きく増えている。(後略)【11月4日 BBC】
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一番心配しているのはウクライナでしょう。バイデン政権はウクライナに対し支援が揺らぐことはないと表明しています。

****米大統領補佐官がウクライナ訪問、「揺るぎない」支援継続を約束****
米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は4日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問し、来週8日の米中間選挙後も、米国のウクライナ支援が「断固とし、揺らぐことはないと確信している」と表明した。

サリバン氏はウクライナのゼレンスキー大統領らとの会談後、「必要に応じリソースを確保し、議会の上下両院から賛成票を取り付けるつもりだ」と記者団に語った。

さらに、バイデン米大統領が経済・人道・安全保障支援の継続に向け、「いかなるシナリオの下」であれ、超党派の協力にコミットしていると述べた。【11月5日 ロイター】
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中間選挙での共和党の「勝ち方」次第といった感も。
バイデン大統領がトップにある間はウクライナ支援がストップすることはないにしても、機動的な支援が困難になることは予想されます。そうなるとウクライナの反攻にブレーキがかかることも。

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中国  党大会後も続く「ゼロコロナ」 高まる住民不満 近く「大幅修正」との発言も

2022-11-04 22:53:27 | 中国
(中国チベット自治区のラサで、26日に行われた新型コロナ対策への抗議デモとみられる映像 参加者は数百人で警察と衝突がおきたとも。 厳しい少数民族監視体制下にあるチベットでデモは異例のこと。
毎日数人程度の感染者が出るラサでは、8月からロックダウンが続いているとか。

チベット族の不満が爆発したのか・・・と思いましたが、デモ参加者の多くは漢族出稼ぎ労働者で、「家に帰りたい」というものだったようです。【10月28日 TBS NEWS DIGより】)

【党大会後も「ゼロコロナ」が続く】
新型コロナは日本では再び増加の兆しも見えて、冬場の第8波への懸念が高まっていますが、海外では「もう、コロナは気にしない」といった風な対応も。

“コロナ陽性でも隔離不要、オーストラリアは「コロナ終了」で経済活性化へシフト”【10月27日 Newsweek】
“カナダが入国規制撤廃へ=コロナ、ワクチン証明も不要”【9月27日 時事】

欧米でも、途上国でも、コロナ関連のニュースがあまり見られなくなったのは、感染が収まったと言うよりは、もう気にしなくなった、感染者の把握もあまりしなくなった・・・ということのようにも。

一方で、都市のロックダウン、濃厚接触者に限らず一網打尽の大規模隔離といった厳格な「ゼロコロナ」を続けるのが中国。しかし、オミクロン株の感染力の強さは防ぎきれないようです。

****中国の新型コロナ感染者、半年ぶり高水準 規制に不満広がる****
中国国家衛生健康委員会は4日、新型コロナウイルスの新規市中感染者が3日に3871人と、5月初旬以降で最多になったことを明らかにした。5月初旬には上海で新型コロナが猛威を振るい、北京市も感染対策を急いでいた。

中国では厳格な新型コロナ規制に対する不満が広がっている。

ブルームバーグ・ニュースは4日、当局が新型コロナを国内に持ち込んだとする航空会社を処分する制度を打ち切る方向で作業を進めていると報じた。ゼロコロナ政策の影響緩和を探っている兆しという。

湖北省の省都・武漢では過去1週間、2桁の新規感染者が報告されたことを受けて、一時的なロックダウン(都市封鎖)や規制が相次いで導入されており、ソーシャルメディアに投稿された動画によると、3日夜にロックダウン中止を求める抗議活動が起きた。ロイターは動画の信ぴょう性を確認できていない。

青海省の省都・西寧でも今週、ロックダウンに伴う食料品の高騰と生活必需品の不足を訴える投稿がソーシャルメディアに相次いだ。同市では10月末に大半の店が閉鎖され、3日間食品を購入できなかったとされる高齢の女性に住民が牛乳と野菜を手渡す動画も投稿されている。【11月4日 ロイター】
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ロックダウン等の規制による経済減速、有無を言わせぬ強硬な対応への住民不満など、問題が膨らんでいる「ゼロコロナ」ですが、中国当局はその正当性を強調しています。

****中国政府「ゼロコロナ政策は効果が高い」と正当性を強調****
中国政府は「ゼロコロナ政策」について、「トータルとしては最も経済的で効果が高い」と、その正当性を強調しました。

中国は都市封鎖や行動制限などによって新型コロナの感染拡大を封じ込める、いわゆる「ゼロコロナ政策」をとり続けています。

中国外務省の毛寧報道官は会見で、ゼロコロナ政策が経済成長の妨げになっているのではという質問について次のように答えました。

中国外務省 毛寧報道官
「新型コロナの感染拡大を防止して初めて経済は安定する。トータルに考えれば中国のコロナ対策は最も経済的で効率がいいものだ」

毛報道官は「中国経済は全体的に安定的回復を見せている」と主張し、「ゼロコロナ政策」の正当性を強調しました。

習近平指導部は「ゼロコロナ政策」と経済成長の両立を目指すとしていますが、中国経済は減速し続けており、16日からの党大会で、方針の修正があるかに注目が集まっています。【10月12日 TBS NEWS DIG】
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党大会で習近平政権の成果としてコロナとの戦いの勝利をアピールして、対策の緩和に向かう可能性もあるかも・・・とも言われていましたが、党大会での明確な路線変更はなかったようです。

****中国当局、ゼロコロナ政策堅持の方針 新規拡大抑制に向け努力****
中国国家衛生健康委員会は2日、新型コロナウイルス感染を速やかに封じ込めるため、「ゼロコロナ政策」を堅持すべきとの見解を示した。同委員会がコメントを発表するのは第20回共産党大会以降で初めて。

中国は大規模ロックダウン(都市封鎖)や各種対策が経済に悪影響を及ぼしてもゼロコロナ政策を緩和することはないと繰り返し表明している。1日の感染者数は約3000人だった。【11月3日 ロイター】
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しかし、感染者が減らない現状、よく指摘されるように「ゼロコロナ」対応を習近平政権の成果と位置づけ、政権の正当性と結びつけててしまった以上、中途半端な形での「後退」は許されないという政治的な観点、更には、地方部の医療体制の不十分さから感染爆発に対応できないこと、高齢者へのワクチン接種が進んでいないこと、その中国製ワクチンの信頼性に疑問もあることなど・・・等々で、なかなか対応を緩めることが出来ない状況に見えます。

【強引な規制に高まる住民の不満】
ただ、長期化に伴って弊害も。
検査自体も、“少し前より検査はかなり緩んでいた。検査員は綿棒を舌に0・5秒当てただけ。以前はのどの奥をぐりぐり5秒前後こすられたが、最近は、軽く触れるだけだ。陽性の人を見つけるより、検査することが目的になっているかのようだ。”【日系メディア】

中国当局のコロナ対応の苛烈さは以前からも問題になっているところで、最近でも多くの不満・抗議が出る事態にもなっています。

****上海ディズニー一時休園、SNSで来園者「出られない」「助けて」…当局の防疫強化が影響か****
中国の上海ディズニーリゾートは31日、新型コロナウイルスの感染対策として、メイン施設のディズニーランドを含む全施設を一時休園すると発表した。再開時期は示していない。

上海市内では10月に入り、連日、市中感染者が確認されている。市トップの陳吉寧チェンジーニン同市党委員会書記は10月29日の会議で、習近平シージンピン国家主席の肝いりで11月初旬に行われる「国際輸入博覧会」を例示し、「防疫により、重要な活動を順調に実施しなければならない」と述べていた。今回の休園に影響した可能性がある。

中国版ツイッター微博ウェイボーには、来園者と見られる人が「PCRで陰性にならないと出られない」「助けて」などと訴える書き込みがある。【10月31日 読売】
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封鎖の原因は、27日以降にディズニーランドを訪れた上海市内に住む30代の女性1人から陽性反応が出たためだったとのことで、約2万人がPCR検査を行うため園内に足止めされましたが、全員の陰性が確認されたため、封鎖からおよそ10時間後に解放されたとのこと。【11月1日 ABEMA Timesより】

****駐車場やトイレで隔離!?…依然続く中国の“ゼロコロナ政策”に不満高まる****
先の共産党大会で、習近平国家主席が「成果を収めた」と自画自賛したゼロコロナ政策。しかし、SNS上では駐車場やトイレで市民が隔離させられる様子が拡散しています。(中略)

きのう、新型コロナの感染者が1人確認されたことで、急遽、閉鎖された北京の団地。外には宅配されたものが積み上がり、住民は柵越しに荷物を受け取る事態になりました。(中略)

依然続く厳しいコロナ対策に市民は…
市民 「稼げない上、食べるのにも困っています。それを無視して感染症対策をしても意味がないです」

一方、こちらは北西部・甘粛省で撮影されたとみられる映像。屋外の駐車場に並べられたベッドで市民が横になっています。SNS上では隔離施設を消毒するために外に出されたという情報もありますが、この時の気温は10度以下に下がっていたとみられ、窮状を訴える人も。(中略)

こちらの映像では、トイレに並べられたベッドで寝る市民の姿も。きのうの甘粛省の新規感染者は25人でした。

また、内陸部の青海省の西寧市では、感染拡大をおそれた地元政府が物流センターを止めたため、物資が不足し、一時、野菜の値段が高騰。白菜が1つ49元=1000円近くもすると訴える投稿もありました。

きのうの中国全土の新規感染者数は1117人。日本に比べればはるかに少ない数ですが、市民の不満をよそに、中国政府はゼロコロナ政策を継続する構えです。【10月27日 TBS NEWS DIG】
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アップル社製のスマートフォンiPhoneの組み立てを請け負う工場で従業員の帰宅を制限して操業を続けたところ、多くの従業員が脱出するなどの混乱が起きています。

****中国のiPhone工場、コロナで従業員大量脱出の詳細―独メディア****
2022年11月1日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国版サイトは、iPhoneの受託生産を行っている河南省鄭州市のフォックスコン(富士康)工場で発生した従業員の大量逃亡について詳細な経緯を報じた。

記事は、フォックスコン内部関係者に取材した中国メディア・第一財経の10月31日付文章を引用。内部関係者の話として、工場内では10月中旬以降新型コロナの感染対策措置において、影響を受ける従業員の数があまりにも増えたため隔離場所が不足し、物資の配送も遅れたほか、PCR検査などの検体採集者が不足したことなどにより混乱が発生したと伝えた。

そして、フォックスコンが10月13日に工場外から通勤していた従業員を工場エリア内の宿舎に寝泊まりさせた上でのクローズドループ管理を開始し、19日には各棟に検査スポットを設置し、その後食堂も閉鎖して従業員の動線を制限し、N95マスクの装着と24時間以内の陰性証明携帯を義務化、21日には1日にPCR検査と抗原検査の両方を実施する体制を取ったと紹介。しかし感染状況は改善されず、不便な生活を強いられた従業員の不満が徐々に募り、根拠のない流言まで出回り始めたとしている。

さらに「その後、想像を超える事態が発生した」とし、河南省の各都市が29日、鄭州工場で働く地元出身の従業員に対して「帰省を受け入れる準備ができている」とのメールを配信し、その日の午後に従業員が「集団帰郷」する様子がネット上で「生中継」されるに至ったと紹介。この状況について、中国新聞社など中国政府系メディアも珍しく取り上げ、工場から従業員たちが数十キロ、さらには100キロもの道のりを歩いて帰省する現象を報じたとしている。

従業員が工場から続々と脱出する流れを食い止めるべく、フォックスコンはデジタル製品事業群の責任者が10月31日に「現時点で重症者は出ておらず、政府の強力な支援のもとで感染状況は落ち着いている。工場内の食堂も徐々に再開しており、20万人分の一日3食の食事が確保されている」とコメントするなど、工場内の感染状況や秩序が落ち着いていることをアピールしているものの、それでも従業員の徒歩による帰省の流れは止まっていないと記事は伝えている。

また、内部関係者が「従業員も仕方なく歩いて故郷に帰ろうとしている。感染に対する恐怖に加え、会社からの情報が不足していること、そして感染対策のための交通規制が原因だ」と語る一方で、「ネット上では工場内の動画や画像が大量に拡散しているが、都合のいい部分だけを切り取ったような一方的で事実に反する情報もある。内部から見る限り、会社も改善に向けて努力している」と述べたことを紹介した。【11月3日 レコードチャイナ】
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「子どもの粉ミルクがなくなった」と言う父親がナイフを手に検問を突破する騒ぎも。

****新型コロナの封鎖にナイフを持って検問突破…理由は「子どもの粉ミルクがなくなった」****
感染を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策を続ける中国。子どもを抱え、困った父親がまさかの行動に出ました。その結末は。

父親 「特殊な状況だ。こんな小さな子だし、粉ミルクが必要なんだ」 大声で訴えている男性。手にナイフを持っています。

これは中国のインターネットに投稿された映像で、河北省保定市とされます。男性の住む地域は、新型コロナ感染拡大を防ぐためロックダウンとなっていて、子どもの粉ミルクを手に入れようと強硬手段に出たものとみられます。

ただ、この後、車で検問を突破したものの、すぐに拘束され入念に消毒液を吹きかけられたうえ、元いた封鎖地域に戻されてしまいました。

警察は父親に100元、日本円でおよそ2000円の罰金を科しましたが、粉ミルクは当局の立会いのもと、手に入れることができたということです。(後略)【11月1日 TBS NEWS DIG】
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遼寧省丹東市ではロックダウンによって、中朝貿易が再び止まる可能性も。

****中国・丹東市ロックダウン、4日まで外出禁止…感染者1人・中朝貿易に影響の可能性****
中国遼寧省丹東市の中心部で1日、新型コロナウイルス対策として事実上のロックダウン(都市封鎖)が始まった。10月30日に感染者1人が見つかり、31日に実施したPCR検査でも新たに感染が疑われるケースが見つかったためとしている。

市の発表によると、1日午前5時から4日午前5時までの間、住民の外出を原則禁止し、バスの運行やタクシーの営業を止める。期間中、住民のPCR検査を毎日実施し、感染拡大の早期封じ込めを図る。

丹東市は北朝鮮との貿易拠点で、9月26日に定期運行が再開した鉄道貨物輸送にも影響する可能性がある。【11月1日 読売】
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【当局が謝罪に追い込まれる事件も】
一酸化炭素中毒を起こした3歳の男児が「封鎖」で病院搬送が遅れ死亡するという痛ましい事件も。住民の怒りを買い、当局は謝罪に追い込まれています。

****コロナ封鎖で搬送遅れ3歳児死亡、中国当局が謝罪****
中国北西部の都市蘭州で、一酸化炭素中毒を起こした3歳の男児が、新型コロナウイルスのロックダウン(都市封鎖)のため搬送が遅れ死亡したことを受けて、地元当局が謝罪した。中国でこのような問題をめぐり、当局が責任を認めるのはまれ。

蘭州では、1か月近く都市封鎖が続いている。現地警察は1日の発表で、男児の死亡を認めたが、医療機関への搬送に遅れがあったことには言及していなかった。

男児の父親は2日、ソーシャルメディアに、検問所の担当者から自宅の敷地を離れる許可が下りず、救急車の到着も遅かったと投稿。1時間以上たった後、父親は自宅の敷地を出ることに成功し、タクシーで病院に向かった。しかし到着後間もなく、男児の死亡が確認された。

地元保健当局は3日、ソーシャルメディアで今回の出来事の詳細な経緯を公表した上で、家族に対し「心からの哀悼の意」を表するとともに、「メディアとインターネットユーザーの批判と指摘を真摯(しんし)に受け止め、(過ちを)正していくことを誓う」と表明した。

蘭州当局は、父親が何度も緊急通報したにもかかわらず、救急車を派遣するまで90分以上かかったことや、住居の敷地の出口で職員と長時間押し問答になったなったことを認めた。「今回の事態により、緊急救助体制に問題があり、緊急対応能力が不足し、職員の対応に柔軟さが欠如していることが判明した」との声明を出した。

男児の死を受けて、中国の「ゼロコロナ」政策にオンライン上で批判が殺到。「微博(ウェイボー)」では、「新型コロナの3年間の大流行が、この子の人生の全てだった」とのコメントが拡散した。ただし関連ハッシュタグの一つは、数百万回閲覧された後に検閲を受け、削除された。 【11月3日 AFP】
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【専門家から近く大幅修正との発言も】
上記のような全国各地で起きている事態、住民の不満の高まり、経済への悪影響・・・等々で、さしもの中国当局も「変更」するという兆しも。

****中国「ダイナミックゼロコロナ」政策、近く大幅修正=著名疫学者****
中国疾病予防抑制センターの疫学首席科学者を務めた曽光氏は4日、新型コロナウイルスに対する中国の「ダイナミックゼロコロナ」政策について、近く大幅な変更が行われると明らかにした。米シティが主催した会合での発言をロイターが確認した。

曽氏は新しいワクチンや抗ウイルス薬研究の進展を挙げ、中国の開放の条件は「蓄積」されていると述べた。

今後5─6カ月の間に多くの新たな政策が導入されるとの見通しを示したが、どのような情報に基づいた発言か説明しなかった。(後略)【11月4日 ロイター】
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もちろん、「変更」が行われるにしても、「政権のコロナとの戦いの成果」をアピールしつつ、ワクチンや治療薬の状況も変わったので・・・という形でしょう。
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北朝鮮  食糧難は一般人、兵士だけでなく軍中枢にも 戦闘遂行能力があるとは思えない状況

2022-11-03 22:20:42 | 東アジア
(朝鮮人民軍傘下「第1116号農場」を現地指導した金正恩氏(2017年9月30日付労働新聞より) 公開されるのはこの種のプロパガンダ画像ばかりですが・・・)

【「核実験しか残っていない」】
米韓軍事演習に対する北朝鮮による連日のミサイル発射は報道のとおり。
一方の米韓も「強硬に対しては強硬」ということで、対応をエスカレート。「北朝鮮に残された挑発カードは、事実上、核実験しか残っていない」という状況にもなっています。

****米韓両軍が軍事演習を延長 北朝鮮はさらに反発か 挑発「核実験しか残ってない」****
北朝鮮による弾道ミサイルの発射が続いている。(中略)
韓国空軍は3日午後、アメリカ軍と現在行っている大規模な軍事演習について、当初、4日までの予定だったが、北朝鮮の武力挑発を受けて、当面延長すると発表した。北朝鮮のさらなる反発が予想される。

北朝鮮が発射した1発目のミサイルについて、韓国メディアは、韓国軍が新型のICBM(大陸間弾道ミサイル)、「火星17」型と分析していると伝えた。ミサイル自体は正常に飛行できず、日本海に墜落したとみられる。

また、韓国空軍は「北朝鮮の挑発で安保危機が高まっている」として、当初、4日までの予定だった、米韓両軍による大規模軍事演習を当面、延長すると発表した。

北朝鮮は、2日も20発以上のミサイルを発射し、韓国側も対抗措置をとるなど、ミサイル発射の応酬となっていて、朝鮮半島の緊張感が一段と高まっている。

韓国メディアは、「北朝鮮に残された挑発カードは、事実上、核実験しか残っていない」と報じている。【11月3日 FNNプライムオンライン】
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【ミサイル・核開発に注ぎ込む資金があるのなら・・・という“常識人”の考え】
米朝対立といった国際情勢、あるいは新たな核実験の可能性という話はともかく、連日の北朝鮮国内の窮状に関する報道を目にしていると、「ミサイル連射、核実験なんて、そんなことやってる状況じゃないだろうに・・・」というのが率直な印象。

****北朝鮮ミサイル1本最低4億 核開発には食糧4年分を投入できるワケ****
9月末から2日に1回のハイペースに
北朝鮮が発射する弾道ミサイルが、異常なペースで続いている。1回の発射でなんと最低でも4億円、核開発には2300億円が使われているとの推計も出されている。(中略)

今年1月だけで94億円使う
米政府系放送局のボイス・オブ・アメリカ(VOA)は、北朝鮮がミサイル発射に要した費用は今年1月分だけで、最大6500万ドル(約94億円)に上るとすると報道した。(中略)

6500万ドルは、米農務省が基準とするタイ米15万トン購入できる額に相当する。北朝鮮の住民が1日に消費する穀物量は約1万トンとされており、およそ半月分にあたるとされる。

国民が消費する2か月分が消える
10月10日現在で北朝鮮のミサイル発射は25回、約40発となっている。ベネット氏の計算をおおざっぱに当てはめると、ミサイルの数が1月ひと月分の4倍になっているので、約400億円を使ったことになる。
これは国民が2か月に消費するコメの量に相当する。いやはや、ずいぶん気前良く使うものだ。

小型核開発には2300億円つぎ込む
(中略)韓国国防省傘下の韓国国防研究院がまとめ、韓国国会で明らかにした資料によれば、北朝鮮が進めている戦術核兵器(出力を抑えた小型の核兵器)の開発には、最大で16億ドル(約2300億円)に達しているという。

これは、トウモロコシに換算すると410万トンとなる。これは何と、北朝鮮の食糧不足量の4年分に相当するという。ミサイルと核の開発をやめれば、数年間、住民は食べるものに困らないはずだ。

住民は、壮大な無駄使いに怒っているかというとそうでもないらしい。現地からの情報では、日常的に発射しているため、慣れっこになって関心も持っていないという。

兵器開発は第2経済委員会が担当
北朝鮮は1970年代に「第2経済委員会」を組織し、内閣から分離させた。韓国政府が運営するサイト「北韓情報ポータル」によれば、この委員会は独自に軍需品の計画、生産、分配、対外貿易を行っており、傘下に数百に及ぶ軍需工場および企業所を持つ。

収入源は闇の中だが、暗号資産市場へのハッキングを行って資金を稼いでいるとも言われる。

金正恩総書記は、一連のミサイル発射に関連して、「敵と対話する内容もなく、必要性も感じない」と述べ、「核戦闘武力を百方に強化していく」と表明したが、これは本心ではあるまい。むしろ米国と核軍縮協議を開始し、北朝鮮や自分への脅威を減らそうとしているはずだ。

最後は間違いなく核実験と専門家
北朝鮮分析の第1人者である韓国の丁世鉉(チョン・セヒョン)元統一相は、公共放送であるKBSのラジオ番組に出演し、ミサイルや核開発に必要な資金について聞かれ、「北朝鮮は我々のような資本主義の国とは違い、軍事経済が別途存在している。資金は豊かにある」と説明した。

その上で、「米国が北朝鮮と協議せざるを得ないよう、今後も極限までミサイルの発射を繰り返し、最後は核実験をするだろう」と予測した。【10月12日 五味 洋治氏 コリアワールドタイムズ】
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国家・・・と言うより「政権」維持のためにはアメリカを交渉に引っ張りこむしかない・・・ということでしょう。
しかし「資金は豊かにある」と言いつつも、その資金を国民生活のために使えば・・・というのは私など常識人の考え。
北朝鮮国内の食糧事情は限界に近づいています。(餓死者も報じられていますので、限界を超えているとも)

【国民みんなが飢えている 金持ちも、兵士も】
その類の報道は連日山ほどなされていますが、そのうちいくつかをスペースの許す範囲で。

もちろん、報道が極端に規制されている北朝鮮のことですので、情報の真偽はよくわかりません。また、かりに事実であったとしても、それは特殊なケースの話で、一般的な状況とは異なる可能性もあります。
ただ、そうであるにしても、これだけ連日出てくるというのは、国内に相当に深刻な状況があるのではないかとも推測されます。

****「食べるものが何もない」北朝鮮の食糧難が末期症状****
北朝鮮では現在、大々的に秋の収穫が行われている。同時に行われているのは、麦の種まきだ。北朝鮮の人々は、前年の収穫が底をつく春先のポリッコゲ(春窮期)に、飢えに苦しめられるが、その救世主的役割をするのが、初夏に収穫が始まる麦だ。

しかし、その麦栽培に異変が起きている。
デイリーNK内部情報筋によると、昨年の小麦、大麦の種の価格は1キロ4400北朝鮮ウォン(約75円)、4200北朝鮮ウォン(約71円)だったが、今年は1万6000北朝鮮ウォン(約272円)、1万5500北朝鮮ウォン(約264円)と3倍以上になっている。

価格高騰の原因は、食糧難だ。
「深刻な食糧難に瀕し、食べるもののない人々は、農場から託された種を食べてしまい、種不足に繋がり、価格に影響を及ぼしている」(情報筋)

また、麦そのものの不作も影響しているものと思われる。

穀倉地帯である黄海北道(ファンヘブクト)では去年、今年と深刻な食糧難に襲われ、2月からは野草を入れた粥を食べて生き延びる農民が急増。「来年もどうなるかわからない」と不安がっている。

道内の鳳山(ポンサン)郡の協同農場では、麦の種を里管理委員会(村役場)と農場の作業班が管理してきたが、一部では、盗難を恐れて、責任あるポストについている農民に預けるなどの措置を取っている。ところが、それを食べられてしまい、種が不足する事態となっているのだ。

鳳山、黄州(ファンジュ)などの農場では、仕方なく高騰した種を購入して、ようやく種まきを行う有様だ。そんな苦労をして麦を栽培、収穫したところで、平壌ビール工場やパン工場に安値で買い取られ、農民が手にするのはほんの僅か。収穫の盗難も相次ぎ、「これならば麦栽培などやらないほうがマシだ」との声も聞こえるという。【10月8日 デイリーNKジャパン】
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****金正恩、ミサイル乱射の裏で「冬を越す食糧がない」*****
北朝鮮の金正恩総書記は今月10、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の咸州(ハムジュ)郡に作られた連浦(リョンポ)温室農場の竣工式に出席した。前例のない「ミサイル乱射」と同時に「民生重視」もアピールし、国民の不安を和らげようとする意図があるのかもしれない。(中略)

しかし、派手な竣工式が行われる一方で、各地の農場は著しい不作となっている。
両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、恵山(ヘサン)市内の工場、企業所の従業員が、割り当てられた6カ月分の配給用のジャガイモを掘るために、先月末から農場に出向いているが、作況が昨年より悪く、皆が頭を抱えていると伝えた。

デイリーNKは去年10月、道内の三水(サムス)のジャガイモ畑を例に挙げ、1ヘクタール当たり8トンの収穫があるところが、その半分にも満たないと報じたが、今年はもっとひどいのだという。

春の日照り、その後の梅雨、台風など年々深刻化する自然災害に加え、コロナ対策で貿易がストップし、肥料やビニール膜などの営農資材が入荷しなくなったことも影響している。

情報筋は、毎年のように不足する肥料不足を克服できずにいるとし、国の支援がない限りは、数百ヘクタールに及ぶ畑に肥料をまくのは困難で、それに加え異常気象の影響もあって、毎年収穫量が減っていると嘆いた。

当局は、毎年年初に国民を大々的に動員して、人糞を集めさせ、堆肥を作らせているが、それだけでは、役不足のようだ。

気候的に稲作の難しい両江道では、ジャガイモが重要な炭水化物の供給源だ。しかし、年々ひどくなる凶作で、秋を迎えても食糧事情が好転していない。食糧価格も下がっておらず、住民の不満は高まりつつある。(中略)

また、ジャガイモ配給が行われる現場にも、凶作の影響が現れている。昨年まで、従業員にジャガイモを配給する工場と企業所は、自前の畑で育てたジャガイモを質や大きさ、価格などを見極めて収穫していたが、今年はどうにか冬を越すために、ともかく量を確保さえできればいいと手当り次第に掘り出している。

それで得られるジャガイモは、世帯主1人あたり100キロから150キロ。家族全員分もらえるのなら、冬を越すには充分な量だが、配給されるのは世帯主の分だけだ。

本格的な冬が到来すると、山菜採りも野菜の栽培もできなくなるため、現地の人々は、冬を生き抜くために、例年以上に必死になっていることだろう。【10月17日 デイリーNKジャパン】
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****「金持ちまで餓死」北朝鮮国民がさまよう阿鼻叫喚の巷****
秋の収穫期を迎えた北朝鮮。本来なら穀物価格が下がる時期のはずだが、今年に限ってはそうなっていないようだ。弾道ミサイル発射など軍事挑発を続ける金正恩総書記だが、国民は阿鼻叫喚の巷をさまよっている。(中略)

一方、商売や密輸で儲けて豊かな生活をしていたトンジュ(金主、ニューリッチ)の間でも、絶糧世帯(食糧を欠く世帯)が出るほどの有様となっている。(中略)

トンジュすら生活苦に追い込まれる現状について、上述の平安北道の情報筋は驚きを隠しきれないようだ。
「数年前まで、密輸や手広く商売をしているトンジュが餓死したり、自死したりするほど生活が苦しくなるなんて考えもしなかったが、金持ちだった人ですら耐えられないほど困窮生活に追い込まれている人が非常に多い」

また、こんな状況に何の対策を打たない国に対して「政治が間違っているから人民が死につつある」と批判する人も増えたと伝えた。【10月21日 デイリーNKジャパン】
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飢えた兵士が農家を襲撃するといった話は北朝鮮ではよく聞かれる話です。

****「飢えた兵士が農家を襲撃」窃盗も倍増、混乱が深まる北朝鮮****
(中略)秋の収穫が最盛期を迎えた各地の農場では、窃盗が相次いでいるという。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の幹部が、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に対して明らかにしたところでは、秋の収穫期を迎え、農作物の侵害が増加しており、中央からは「農作物を守れ」との指示が下されたという。ここで言う侵害とは、窃盗や横流しのことを指す。

協同農場の収穫物は、すぐに農民のものになるのではなく、一度国に買い上げられた上で、農民に分配されるという形が取られている。しかし、農民への分配がまともに行われないことから、収穫や脱穀の過程で農作物を盗み、市場に売り払って現金化する行為が当たり前のように行われてきた。

また、「輸送過程で横流しされ、規定量の食糧が得られず、腹をすかせた兵士が農場や農家を襲撃することもしばしば起きている」(情報筋)という。

それが今年は例年の倍以上の被害となり、咸鏡北道だけでも9月1ヶ月で100件を超えているとことなだ。農場では警備を行っているが、その警備に動員された農民が収穫物を盗むこともある。当局は、軍糧米(軍向けの食糧)に指定された田畑には兵士を派遣して警備に当たらせているが、そこでも窃盗が起きている。(後略)【10月12日 デイリーNKジャパン】
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【軍中枢のエリートも食糧難 前線兵士は栄養失調で訓練に耐えきれず 戦闘遂行能力なし】
飢えは一般兵士だけでなく、軍中枢にも及んでいるとも。

****北朝鮮の軍中枢でも「飢え」広がる…ミサイル発射は「強がり」*****
(中略)軍の中枢機能を担う総参謀部の指揮部。超の付くエリートが集められた集団だけあり、待遇も非常に良かった。ところが最近、その指揮部内で不安が広がっている。いかなる場合にも止まることのなかった食糧配給が、2カ月に渡って止まってしまっているのだという。詳細を、デイリーNKの軍内部情報筋が伝えた。

総参謀部指揮部の食糧供給所は、9.9節(共和国創建日、建国記念日)に合わせて、遅配となっていた8月、9月の2カ月分の食糧配給を実施した。ただし、勤務する軍官(将校)本人の分だけで、家族の分は配給されなかった。(中略)

食糧供給所は「11月になれば、家族分の配給もまとめて行えるようだ」と曖昧な答えを繰り返すばかりで、軍官の家族の間では「もらえないのではないか」と、不安が高まっている。

去年の場合、家族分の配給が1カ月だけ遅配したことはあったが、今年は2カ月分。こんなことは近年なかったことだという。

そんな状況にもかかわらず、上部は愛国米と称してコメの献納をさせており、「このままでは粥を食べかねればならない」と嘆きの声が上がっている。(中略)

軍官たちは「一つでも口減らしをしなければならない」と、両親や民間人のきょうだいの住む家に家族を疎開させている。また、直属区分隊の下戦士(二等兵)のうち、実家の経済状況の良好な者を密かに選び、10月から2カ月間の冬季訓練準備期間の間に、彼らを連れて実家に帰宅させ穀物を調達してくるという、苦肉の策を取っている。

かつては社会的地位が高く、誰もが羨む職業だった軍官だが、今では苦境に追いやられ、通常勤務や訓練にも支障をきたす始末。(後略)【9月29日 デイリーNKジャパン】
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軍中枢ですらこの状況ですから、末端の兵士の状況はさらにひどく、食べ物欲しさに農場や民家を襲撃したりするなどは上述したところですが、栄養失調で訓練に耐えきれない者も多く出ているとも。

*****北朝鮮軍、最前線で死者続出「兵士は限界を超えている」*****
(中略)デイリーNKの現地情報筋によると、開城(ケソン)市の開豊(ケプン)郡に駐屯する第2軍団・第8軽歩兵師団(132軍部隊)の第4大隊では今月13日、訓練中に死亡事故が発生した。

死亡したのは入隊から4年目の20代の男性兵士で、ロープを使って垂直の壁を登る訓練中に15メートルの高さから墜落した。直接の死因は墜落死だが、本質的には餓死であるとも言える。

北朝鮮軍で、末端部隊への食糧供給が満足に行われていないのはつとに知られた事実だ。韓国軍と対峙する最前線の同部隊も状況は同じで、栄養失調のためキツイ訓練に耐えられず事故死する例が相次いでいるという。

今回死亡した兵士も、飢えのため体力がもたず、自分の体力を支えきれずにロープを離してしまったのだという。

部隊への食糧供給が足りないのは、横流しや横領が原因のひとつであり、北朝鮮当局はそうした行為に厳罰で臨んでいる。しかし、給料も配給もろくにもらえないとあっては、指揮官たちもそうした行為で生き延びるしかないのだ。

情報筋は「苦しいのは兵士も指揮官も同じだが、シワ寄せの大部分は末端の弱者に向かう。兵士たちはすでに限界を超えている」と語っている。【10月1日 デイリーNKジャパン】
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“食糧難の北朝鮮で「灰」を盗んでトウモロコシに替える人が続出”【10月18日 デイリーNKジャパン】
“ワイロが途絶え生活苦に追い込まれた北朝鮮の幹部たち”【10月9日 デイリーNKジャパン】
“北朝鮮の一部都市で1カ月以上も停電続く”【10月26日 デイリーNKジャパン】
“「キムチシーズン」を迎えた北朝鮮で多発する野菜泥棒”【11月3日 デイリーNKジャパン】

この種の情報にはきりがありませんので、これぐらいで。

北朝鮮のミサイル攻撃に関しては、私個人はあまり心配していません。
日本の迎撃能力(イージス艦からのSM3、地上のPAC-3)は非常に疑わしいので、最初の一撃は防ぎきれないかも。ただ、(申し訳ないですが)私は標的となるような都市には住んでいないので・・・

しかし上記のような状況からすれば、その後の日米の反撃に対し、北朝鮮に戦闘遂行能力があるとは思えません。現政権は短期間のうちに消滅することになるでしょう。

そのあたりは北朝鮮自身がよくわかっているところでしょうから、まともな判断ができるうちは攻撃もないでしょう。まともな判断ができない場合は・・・「何でもあり」のそういう事態を議論しても仕方がありません。
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中国  米によって国際宇宙ステーションから排除 独自開発で悲願の「中国宇宙ステーション」を実現

2022-11-02 22:33:09 | 中国
(【11月1日 読売】)

【進展著しい中国の宇宙開発技術 35年までには月面基地 ロシアも協力】
冷戦時代はアメリカとソ連が国威をかけて宇宙開発を競っていましたが、今や宇宙開発の中心に躍り出たのが中国。

中国・習近平政権は「宇宙強国」を目指して宇宙開発に積極的に取り組んでおり、昨年にはアメリカに次ぎ2カ国目となる火星の地表探査を実施。2020年には無人月面探査機「嫦娥(じょうが)5号」が帰還し、米ソに次いで44年ぶりとなる月面の土壌サンプルの回収に成功しました。

中国が独自に建設を進める「中国宇宙ステーション」(CSS)の運用も進んでいます。
また、ロケット打ち上げの「数」の面でも世界最多となっています。

****中国、2021年は55機のロケットを打ち上げ 年間の打ち上げ数は世界最多****
(中略)中国では2021年の1年間に合計55機のロケットが打ち上げられており、同国における過去最多の年間打ち上げ数を記録するとともに、CNSAによると同年に実施された国別の打ち上げ数でも世界1位となりました。この記録には中国国内の民間企業による打ち上げも含まれています。

なお、2021年は長征ロケットシリーズが打ち上げ通算400回のマイルストーンを迎えました。1970年から運用されている長征ロケットは、小型から大型、有人打ち上げ用までバリエーションが豊富であることが特徴の一つです。

2021年にCASC(中国で宇宙開発を推進する中国航天科技集団)が打ち上げた長征ロケットは48機(成功率100%)を数え、今回の長征3B打ち上げによって長征ロケットシリーズの合計打ち上げ数は405機となっています。

また、2021年は中国の宇宙開発が大きく前進した年でもありました。4月29日には中国が独自に建設を進める「中国宇宙ステーション」(CSS)のコアモジュール「天和」が「長征5B」ロケットによって地球低軌道に運ばれており、続く5月29日にはCSSへ物資を輸送する補給船「天舟2号」が天和モジュールへのドッキングに成功しています。

6月17日には中国にとって5年ぶりとなる有人宇宙船「神舟12号」の打ち上げが実施され、3人の宇宙飛行士がCSSへ乗船するなど、同国は宇宙ステーション建設への一歩を踏み出しました。10月には有人宇宙船「神舟13号」のミッションが始まっており、2022年1月4日現在も天和モジュールには3人の飛行士が滞在しています。【1月5日 Sorae】
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アメリカとそれぞれ対立する中国・ロシアが関係を強化するというのは最近の国際情勢一般の流れですが、宇宙開発においても同様の流れがあります。ロシアとしては対立するアメリカと共同作業するするより、資金力が豊富で、技術的に進展が著しい中国と組んだ方が・・・といったところでしょう。

****ロシア、中国と月面基地建設で合意 研究協力へ、米計画からは脱退****
ロシア国営宇宙開発企業ロスコスモスは9日、ロシアと中国が月面などでの科学研究基地建設の政府間合意に署名したと発表した。

インタファクス通信によると、ロシアは1月、米国の月研究計画から脱退しており、この分野で中国との関係強化に乗り出したとみられる。

中国国家宇宙局も9日、ロシア側と基地建設などに関する覚書に署名したと発表した。月面探査は米中など各国が強化している。

発表によると、基地は月面か月の周辺軌道上に建設する。月に関するさまざまな科学研究のほか、月での長期滞在などを視野に研究を進めることを想定している。

ロスコスモスのロゴジン社長は昨年7月、中国側との協議で共同基地建設を提案していた。【2021年3月10日 産経】
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この中ロ共同の月面基地計画は2035年までの完成を目標としています。

****月基地、35年までに建設 ロシアと共同計画―中国****
中国国家宇宙局の呉艶華副局長は28日の記者会見で、中国とロシアが共同建設することで昨年3月に合意した月基地について、2035年までの完成を目標としていることを明らかにした。

人類の月面再訪を目指す米国の「アルテミス計画」に対抗するもので、中ロ主導の月開発を急ぐ。【1月28日 時事】
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上記の呉氏は「基地は小さな村を作るようなもので、エネルギーや通信、運搬システムなどが必要になる」と指摘。ソーラー発電や、地球と通信して月面での装置を動かす機能、物資運搬システムなどを指すとみられています。

また宇宙飛行士の短期滞在のための生活環境も必要だという見通しを示し、これらは「35年までの重点的な任務だ」と語っています。

アメリカの「アルテミス計画」(2019年5月計画発表)は、アポロ計画以来の有人月探査で、2025年以降に男女の飛行士を着陸させ、将来的には月を回る軌道に宇宙ステーション「ゲートウェー」や、月面基地を建設することにしている。

日本も同計画に参加しており、宇宙ステーションに物資を運ぶ新型の無人補給船や、有人の月面車の開発を進めています。

アメリカ航空宇宙局(NASA)は「アルテミス計画」の最初のミッションとなる「アルテミス1」打ち上げは、早ければ今年11月中旬~下旬に実施するとのことです。同打ち上げは、ハリケーンの接近・上陸にともなって延期されていました。

【「中国宇宙ステーション」(CSS)も着実に進展】
中国の宇宙開発の話に戻ると、「中国宇宙ステーション」(CSS)の方も着々と進んでいます。

****天宮号宇宙ステーションまたは中国宇宙ステーション(CSS)****
中国が天宮計画で建設中の宇宙ステーションである。三つのモジュールで設計されており、総質量は80トンに達すると予想されている。天和コアモジュールは2021年4月に打ち上げられ、問天実験棟モジュールは2022年7月に打ち上げられた。

2022年までに完成予定の宇宙ステーション。試験機ではなく、旧ソ連のミールに匹敵するサイズの完成した宇宙ステーションと位置づけられている。

コアモジュール「天和」(てんわ)、2つの実験モジュール「問天」(もんてん) と「夢天」(むてん)、無人補給船「天舟」(てんしゅう) といった構成要素が公表されている。打ち上げには長征5号B型ロケットが用いられる。【ウィキペディア】
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昨日、宇宙実験施設と宇宙ステーションのドッキングに成功しています。

*****中国打ち上げの“宇宙実験施設”と“宇宙ステーション”がドッキングに成功 米中の覇権争い宇宙でも****
中国がきのう打ち上げた宇宙実験施設と宇宙ステーションがきょう、ドッキングに成功。現地では「アメリカは脅威に思うはず」という声も聞かれています。宇宙でも激しくなりそうな米中の覇権争いです。

きのう、中国南部の海南島から打ち上げられた実験施設「夢天」。日本時間のきょう午前5時半ごろ、中国の有人宇宙ステーション「天宮」とのドッキングに成功しました。(中略)

習近平国家主席の3期目入りに花を添えた形の今回の打ち上げ成功。

ただ、中国は宇宙空間の軍事利用を否定していません。他国の人工衛星に接近して、攻撃・捕獲する「キラー衛星」の開発も進めているとされ、官・軍・民が密接に連携しながら、急速に進む中国の宇宙活動はアメリカの優位を脅かすおそれがあると指摘されています。

一方、アメリカは…。
宇宙を「明確な戦闘領域」と位置付けていて、「宇宙軍」の強化などを図っています。

着実に進む中国の宇宙開発。今後、宇宙空間をめぐる米中の覇権争いは激しさを増しそうです。【11月1日 TBS NEWS DIG】
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中国は昨年4月、ステーションの中核的な施設となる「天和」を打ち上げ、今年7月には実験棟「問天」をドッキングさせていました。今回の「夢天」のドッキング成功で、三つの主要施設が組み上がったことになります。

今後は、今月下旬に補給船、12月下旬に有人宇宙船をそれぞれ打ち上げ、ステーションの本格運用を始める計画です。滞在できる宇宙飛行士は通常3人、最大6人。国際宇宙ステーション(ISS)の半数程度と小型ですが、長期滞在や科学実験ができる施設を備えています。

中国は、アメリカ議会が安全保障上の懸念から2011年に米航空宇宙局(NASA)が宇宙開発で中国と協力することを禁じ、ISSから排除された経緯があります。

それにより中国は自力での技術開発を迫られました。宇宙ステーション「天宮」は、宇宙の国際協調の枠組みから外されてきた中国にとって、悲願の有人拠点となります。

【米主導の国際宇宙ステーション(ISS)は老朽化 ロシアの離脱の穴埋めが必要】
一方、米ロなどで運営されてきた国際宇宙ステーション(ISS)は、ウクライナ侵攻などの影響もあり、ロシアが離脱する方向にあります。

ISSに宇宙飛行士を運べるのは米ロだけで、11年にアメリカのスペースシャトルが退役してからは、ロシアの宇宙船「ソユーズ」が人員輸送の重要な役割を担ってきました。高度400キロメートルにあるISSの軌道維持もロシアが担当しています。

多くの実績をあげてきたいISSですがが、老朽化が進み、現在の運用期限は2024年とされています。

アメリカは、30年までISSの運用期限を延長し、その後は民間がつくる宇宙ステーションに移行したい考えを示していますが、今のところ参加国の合意がとれておらず、日本も対応を検討中とのこと。

アメリカもロシア離脱のフォローを検討はしているようです。

****ロシア離脱のISS、米が密かに対策 ウクライナ侵攻前から****
米航空宇宙局(NASA)と米ホワイトハウスが昨年終盤から密かに国際宇宙ステーション(ISS)の緊急時対応計画を練っていたことが分かった。事情を知る関係者9人が明らかにした。ロシアのウクライナ侵攻前に対ロシア関係が悪化し始めていたことを踏まえた動き。

NASAの緊急計画からは、ISSの重要なパートナーであるロシアへの対応に米国が苦慮している様子が読み取れる。NASAは2つの超大国の間に残された数少ない民間協力の1つとして、ISSにおけるロシアとの20年来の協力関係を維持しようと努めてきたが、それが揺らいでいる。

米当局が作成した緊急計画には、ロシアが突然ISS計画から撤退した場合、対応策として(1)全ての宇宙飛行士を撤退させる手順、(2)ロシアの宇宙機関から提供される重要な機器や資材なしでISSを稼働させる方法、(3)ISSを計画より数年早く廃棄する可能性――などが盛り込まれている。

NASAとホワイトハウスの高官は以前から緊急対応策の存在を認めていたが、ロシアとの緊張が高まるのを避けるため、公の場で論じるのは避けてきた。むしろNASAの当局者はロシアの国営宇宙開発企業ロスコスモスとの緊密な関係を強調している。(中略)

ロシアのメディアが先週、新たにロスコスモスのトップに指名されたボリソフ氏の話として報じたところによると、ロシアはISSから撤退する日程を決めていないが、撤退の手続きは「われわれに課されている条件に厳格に従って」行うという。

政府間協定では、どのパートナーも撤退の意向を1年前に通知することが義務付けられている。
4日時点でロスコスモスのコメントは得られていない。(後略)【8月5日 ロイター】
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【BRICS諸国と中国の協調など流れは中国に 軍事利用でもアメリカにとって深刻な脅威に】
激しさを増す米中の宇宙開発競争・・・ということですが、独自開発で着々と前進する中国に対し、老朽化したISSを抱え、ロシアが抜けた穴をどうするのか対策に追われるアメリカ・・・(素人目からすれば)勢いに差があるようにも。

また、今更の話ではありますが、宇宙開発は軍事利用とも直結しています。
米中が激しく競うのも、単に国威発揚や科学・技術の話だけでなく、軍事利用という実用面があってのことでしょう。

****決戦場は宇宙に移った 中国宇宙ステーション正式稼働****
(中略)
◆ロシアが国際宇宙ステーションから抜けて中国と協力
(中略)アメリカは2020年まで宇宙飛行士を宇宙ステーションに送るための役割をロシアのソユーズに頼っていたが、2020年にはスペースXのカプセル型宇宙船クルードラゴンがNASAの有人宇宙飛行能力を復活させ、フロリダから定期的な飛行を開始してはいる。したがって(ロシアがISSから離脱しても)大きな変化はないと思っていたところ、ウクライナ戦争により事態は一変した。

今年7月26日、ロシアは「国際宇宙ステーションの運営が終了する2024年までに、国際宇宙ステーションから撤退する」と宣言したのだ。撤退したあとに行きつく先は中国宇宙ステーションに決まっているだろう。

事実、中国宇宙ステーションには「ロシア、インド、ドイツ、ポーランド、ベルギー、イタリア、フランス、オランダ・・・」など数多くの国がすでに国際協力プロジェクトを立ち上げている。

また今年5月26日にはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカなど新興5ヵ国を中心としたBRICS諸国が「BRICS宇宙協力連合委員会」を発足させた。

実は中国国家航天局は2015年に、BRICSリモートセンシング衛星ネットワークの協力を提案し、5ヶ国の宇宙機関は2021年8月に「BRICSリモートセンシング衛星ネットワーク協力に関する協定」にも署名していた。

6月26日のコラム<習近平が発したシグナル「BRICS陣営かG7陣営か」>に書いたように、G7陣営を除いた、人類の85%を含めた「発展途上国と新興国」を中心とした「BRICS陣営」諸国が、宇宙で中国を中心に活躍する時代に入ったということだ。

日本が習近平に関して権力闘争だと大合唱し、しかもこのたびの胡錦涛事件(参照:10月30日のコラム<胡錦涛中途退席の真相:胡錦涛は主席団代表なので全て事前に知っていた>)などに妄想を逞しくして「楽しんでいる」間に、中国は軍事大国になり宇宙大国になってしまったのだ。(中略)

米中覇権の決戦場は宇宙に移った。中国が勝者となるフェイズに入ってしまったのだ。
そして、はっきり言おう。日本には、すでに挽回の余地はない!(後略)

追記(11月2日):今年9月18日付のワシントン・タイムズ・ジャパンは<中国の宇宙兵器は深刻な脅威 次期宇宙軍トップが危機感>というタイトルで、「米宇宙軍のチャンス・サルツマン作戦副部長は、中国の宇宙兵器は軌道上の米国のすべての人工衛星を妨害、破壊する能力を持ち、米国にとって最も深刻な脅威との見方を示した」と書いている。

またサルツマンは、米国にとっての最大のリスクは「米国の宇宙での能力に対抗する中露の意思と能力を過小評価すること」だと警告しているとのこと。
 
これを実行してきたのが習近平のハイテク国家戦略であり、この国家戦略を断行するために反腐敗運動を強行してきたのだということに日本人は気が付かなければならない。【11月1日 遠藤誉氏 YAHOO!ニュース】
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