孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

北朝鮮  餓死、絶望からの自殺、凍死、格差・・・理不尽な現実 それでも「金王朝」は続く

2023-02-08 23:08:00 | 東アジア

(7日、朝鮮人民軍創建75周年記念宴会に参加した軍幹部と李雪主夫人、娘と共に記念写真に納まる金正恩朝鮮労働党総書記(朝鮮中央通信=朝鮮通信)【2月8日 産経】)

【都市部の開城でも餓死者が1日数十人】
北朝鮮・金正恩政権が、アメリカなどからの攻撃から政権を守るためには核戦力の保有しかないと確信し、また、アメリカを交渉のテーブルに引き出すためにも、核開発・ミサイル開発に邁進していること、そのことによって国民生活は顧みらることはなく、経済は破綻し、国民は塗炭の苦しみに喘いでいることは周知のところです。

経済構造の破綻という基本要因に加えて、新型コロナに関連した規制、自然災害もあって食料事情は極度に悪化し、地方部での餓死者の発生に関するニュースは珍しくありませんが、これまでは比較的恵まれているとされていた都市部でも餓死者が出る状況に至っています。

****北朝鮮、食料難が深刻化か 開城で餓死者続出と報道****
韓国の聯合ニュースは6日、北朝鮮南西部の開城市で食料事情が悪化し、1日数十人が餓死しているとの消息筋の話を伝えた。開城は生活水準が比較的高いとされる地方都市で、事実なら食料難が全国で深刻化している恐れがある。

聯合は昨年末に金正恩朝鮮労働党総書記の指示で穀物の生産と流通の統制が強まり、住民の食料調達に重大な問題が生じているとした韓国政府の分析を伝えた。

北朝鮮メディアは6日、朝鮮労働党の重要会議、党中央委員会拡大総会が2月下旬に招集されると伝えた。農業問題を討議するとしており、食料難への緊急対処を目的に開かれる可能性がある。【2月6日 共同】
********************

開城は穀倉地帯の黄海道(ファンヘド)地域に隣接し、北朝鮮内でも裕福な都市とみなされていますが、生活苦からの自殺も相次いでいると言われています。

2月下旬に招集される党中央委員会拡大総会は昨年末に開かれたばかりで、極めて短い間隔での再招集となります。
“新型コロナウイルス感染対策に伴う交易制限や自然災害を受け、都市部でも餓死者が続出する事態に陥っていると伝えられており、深刻な食糧難の打開に向けた金正恩(キム・ジョンウン)政権の焦りがうかがえる。”【2月6日 産経】

****大都市でも餓死続出か 北朝鮮、農業対策を集中討議へ*****
(中略)
北朝鮮は限定的な交易の中で中国からコメや肥料を輸入してきたが、韓国政府関係者は今年80万トン程度は穀物が不足するとみている。

農民らに穀物の提供を求める「愛国米献納運動」も繰り返し報じられているものの、抜本的な食糧難の解決には程遠いようだ。

一方で、平壌では、多数の人員や車両を動員して軍事パレードを準備する様子が衛星画像などで捉えられてきた。8日の朝鮮人民軍創建75年に合わせて最新兵器も投入した大規模なパレードを実施し、軍事力を誇示するとみられている。

食糧難が深まる中でも、金政権は日米韓への対決姿勢を一層強め、核・ミサイル開発など、軍備増強を優先する路線を放棄する気配は読み取れない。【2月6日 産経】
********************

厳しい情報統制が敷かれている北朝鮮に関しての情報はその真偽が問題となりますが、韓国の聯合ニュースが報じた今回の情報の出所は、韓国の情報機関・国家情報院であろうと見られています。

“北朝鮮の混乱は韓国にとって安全保障上の重要な懸案となるため、国内世論に認識を与えつつ、北朝鮮の反応を探る「観測気球」として出したとも考えられる。”【2月8日 デイリーNKジャパン】とのこと。

【凍死の危険も】
飢えに加えて、寒さ(防寒対策がとれないこと)も状況を厳しくしています。

****【北朝鮮国民インタビュー】「空腹と凍傷で死んだような状態に」厳寒との闘い*****
北朝鮮は先月、記録的な大寒波に襲われた。国営の朝鮮中央テレビは、24日の平壌の最高気温が氷点下15.2度にとどまり、ここ30年で最も厳しい寒波となったと報じた。また北部山間地では、最低気温が氷点下30度以下となった。

中国の中央気象局によると、北朝鮮の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)と幅数メートルから十数メートルの鴨緑江を挟んで向かい合う、吉林省長白朝鮮族自治県の先月24日の最低気温は、平年を10度下回る氷点下34度を記録した。

北朝鮮の人々の中には、極端なゼロコロナ政策による経済難で暖房用の燃料を充分に確保できないまま、極寒と闘っている人々もいる。

デイリーNKは、中国と国境を接する北部山間地の両江道と慈江道(チャガンド)、北西部の平安北道(ピョンアンブクト)の寒さの厳しい3つの地域に住む住民から、暮らしの様子を聞いた。

ー 先月、大寒波が襲来したが、どんな対策を取った?

両江道住民(以下A):多くの人が凍傷やしもやけになり苦労している。コロナ禍で商売上がったりで、越冬用の燃料を得るには(緑化政策で禁じられているが)山に入って薪を切り出すしかない。午後6時以降は(コロナ対策で)通行禁止となるので、苦労して山に入って薪を運び出そうとしても捕まったら全部没収される。

一度山に入れば2日はかかるが、その間の食べ物の調達もたいへんだ。生活が苦しく、朝食を家で済ませてから弁当をひとつだけ持って山に入り2日間を耐える。それで帰宅する頃には、空腹と凍傷で半分死んだような状態になる。空腹は味噌汁を飲めば回復するが、凍傷は治療を受けられない。薬を買おうにもそのカネがない。生きること自体が苦痛だ。

平安北道住民(以下B):人々は凍死を避けるため家にこもりきりだった。普通の日なら1日に練炭を2個使うが、先週は6個も使った。7〜8個使った家もある。

慈江道住民(以下C):女性や子どもは外出しないようにと布置(布告)が出され、暖房をつけて外出しなかった。トイレは家の外にあるが、服を着込んでも寒いので、バケツを土間に置いて用を足した。

ー 防寒準備は充分?

A:防寒準備はだいたい初冬にするが、今は皆が皆、暮らし向きが楽ではないので、壁の隙間をすべて塞ぐことができず、大きな穴だけ塞いだ。最近のようにとても寒いときには、玄関ドアに毛布などを貼り付けておく。

B:充分にできている。足りないところはない。

C:足りていない。家も自分自身も(防寒準備が)足りていない。先週勤め先に出勤したら、除雪と凍った水道管を溶かす仕事ばかり延々とやらされた。

ー 暖房の問題は?

A:市内中心部に住む余裕のある人々は、寒さが訪れる前に薪を充分に確保しているから、温かく過ごしている。生活に余裕のない人々は、その日の儲けでなんとかコメと薪を買い、(暖房を兼ねて)朝夕の2回、飯炊きをして耐えている。

B:公共施設の暖房はボイラーで行っている。一般の民家では石炭を使う鉄製の暖炉で行っている。暖房設備は足りているが(寒さのせいで多くの家で)暖炉が破裂してしまった。補修に必要なパイプや溶接棒を買うにはそれなりにカネがかかるため、大騒ぎになった。

C:革命歴史研究室、会館などの暖房設備が破裂して補修工事中だ。一般の民家では薪や石炭を使って暖房をしているため問題は起きなかった。井戸水が凍らなかったのは幸いだ。

ー 寒波の被害を受けた人に国は補償してくれる?

A:今も昔もそんなものはない。自分で解決しなければならない。国が解決してくれるなんて夢物語だ。

B:そんなものはない。人民班(町内会)で練炭を10個集めて助けてあげた。

C:国は自力更生せよと言うばかりだ。

ー 寒波関連の指示はあった?

A:寒くなって風邪をひく人が多い、風邪に気をつけよと言われただけだ。

B:世帯主は、家族の健康管理を行って、凍傷にならないように責任を持って気をつけよという布置が下された。革命歴史研究室の暖房保障事業を単位(職場)、地域の特性に合わせて徹底的に行い、1件たりとも事故を起こしてはならないとの布置もあった。

C:冬休み期間中に7歳から10歳の子どもを不必要に学校に登校させたり動員したりせず、家にいさせろという指示があった。それより上の子どもは、学校や町内の道、銅像、(金氏一家の)現地指導史跡碑などの除雪作業に動員されたが、引率の担任教師には、子どもたちが凍傷にならないように気をつけよとの指示が下された。【2月8日 デイリーNKジャパン】
*******************

居住地域・生活レベルによって、山に入って禁止されている薪を切り出すか、練炭を7〜8個使うか・・・かなり差はありますが、両江道住民(A)の薪にも事欠く、壁の穴も塞げない・・・状況は、凍死と隣り合わせの状況に思われます。

【金正恩総書記は夫人や娘とともに軍幹部と宴会 娘“尊敬するお子さま”が後継者?】
この危機的状況に金正恩(キム・ジョンウン)総書記が何をしているかと言えば・・・・

****軍の宴会に金正恩総書記の夫人と娘 北朝鮮でパレードも?****
北朝鮮メディアは、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が、朝鮮人民軍の創建記念日に合わせ、夫人や娘とともに軍の宿舎などを訪れた様子を伝えた。

朝鮮中央テレビは8日朝の放送で、金総書記が7日、夫人や娘のキム・ジュエ氏と軍の宿舎を訪れ、軍創建75周年を記念した宴会に出席した様子を伝えた。

朝鮮中央テレビ「夢にも会いたかった、敬愛する金正恩同志が、尊敬するお子さまとともに宿舎に到着すると、最も熱い敬慕の情を抱いて出迎えた」

金総書記は、「わたしたちはついに、偉大で絶対的な力を育てた」と強調していて、韓国メディアは、核兵器の完成を誇示していると分析している。

軍の創建記念日にあたる8日、平壌(ピョンヤン)で軍事パレードが行われるとの見方が強まっていて、金総書記が演説するかや、核が搭載可能な新型のミサイルが登場するかなど、注目されている。【2月8日 FNNプライムオンライン】
*********************

注目されるのは娘とされる少女への“尊敬するお子さま”という表現。新型のICBMとみられる発射実験にも父と共に立ち会うなど、最近急にメディア露出が増えています。

ということは常識的には「後継者」として扱われているのだろう・・・と推測されます。

****金正恩氏の娘に「尊敬」と敬称 軍同行、演説で核言及なし****
(中略)「尊敬する」との敬称が最高指導者以外に用いられるのは極めて異例。韓国政府が第2子の「ジュエ」さんとみている少女は10歳前後とされるが、金正恩氏が後継者と考えているとの指摘もある。【2月8日 共同】
*****************

【理不尽な現実 それでも「権力」は倒れない】
都市部でも餓死者がでる飢え、凍死の危険がある状況・・・更に理不尽な思いを強く感じるのは、北朝鮮に限らず、どんなに国民が困窮している社会にあっても、一部の者は別世界の状況にあることです。

****食糧難でも液晶テレビが飛ぶように売れる平壌の「格差社会」****
北朝鮮の首都・平壌では、市民の4割が、食べ物が底をついた「絶糧世帯」に陥ったとされ、市当局が緊急の食糧配給を行うほど状況がひっ迫している。しかし、そんな中でも、浮かれた暮らしをしている人々がいる。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、平壌市内中心部にある高級外貨商店の楽園(ラグォン)百貨店が、12月26日の午前10時半から、液晶テレビの緊急販売を行った。

価格は15インチ型が400ドル(約5万2000円)、19インチ型が450ドル(約5万8600円)。コロナ禍が始まった直後の2020年春より100ドル(約1万3000円)も安い割引価格だ。合わせて100台の限定販売だったが、百貨店のオープン前から長蛇の列ができ、あっという間に売り切れてしまったという。

購入者はトンジュ(金主、ニューリッチ)だが、彼ら自身が列に並んだわけではない。カネで雇った人々を代わりに並ばせたのだ。日本で言うところの「並び代行」を使ったということだ。(中略)

今回販売された液晶テレビだが、情報筋の説明によると、2019年末に大同江テレビ受像機工場が、中国遼寧省の投資家からの投資を受け、中国からの輸入部品の組み立てによる「HC」というブランドで生産を始めたものだ。

製品は中国に輸出し、国内の外貨商店でも販売していた。しかし新型コロナウイルスの大流行を受けて、北朝鮮当局が人のみならず物の出入りも完全に遮断したため、部品の調達ができなくなり生産も輸出もストップしてしまった。

昨年末になってようやく部品の輸入が再開され、まずは製造途中だった製品を完成させた。半完成品のまま3年近くも放置されていただけに、正規価格の販売は見送り、2月8日の朝鮮人民軍(北朝鮮軍)創建日と16日の光明星節(金正日総書記の生誕記念日)を控えて、平壌市民を対象に割引販売で「特別販売」したのだ。

その目的は、国内で流通する外貨を吸い上げることにあるとされる。

購入者は、品質を確認するため売り場でコンセントに繋いで動作をチェックするなどしたが、特に問題はなかったようだ。

さて、販売された100台の液晶テレビだが、多くは市場で転売されたとのことだ。トンジュたちはそもそも、転売目的で、並び代行を使ってまで液晶テレビを購入したのだ。それでもかなりの儲けになるのだろう。

また、極寒の中で並び代行を行い、わずかな賃金を稼ぐ人が少なからず存在するのも、経済難の深刻さを反映したものと言えよう。【2月5日 デイリーNKジャパン】
**********************

異様と言うしかない北朝鮮の統治システム・国民生活状況ですが、それでも国民の反発で権力が揺らぐような事態は想像できません。「国家権力」というのはそういうもののようです。残念ながら。

生きるのに精一杯の人々に、国家権力に抗う術はありません。

権力周辺の既得権益層にとっては、どんなに国民を顧みない政権であっても、その存続が自身の利益につながりますので、全力で「権力」を支えることになります。

「金王朝」はこの先何十年続き、“尊敬するお子さま”に引き継がれていくのでしょうか。

民意に基づく民主的な政治・・・・といった言葉がうつろに響きます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

北極海  ウクライナの緊張と共に高まるロシア・NATO間の緊張

2023-02-07 22:49:47 | 国際情勢

(【2022年11月24日 ロイター】 北極海をはさんで対峙するロシア軍基地とNATO基地)

【温暖化による氷の融解で高まる利用価値】
世間では中国の飛ばした気球で大騒ぎ、米中関係にも大きな影響を及ぼしていますが、思いがけない出来事から国家間の緊張が・・・という展開は往々にして現実でも起きることです。

先月末、『メーデー 極北のクライシス』(グレーテ・ビョ― 著 / 久賀美緒 訳 二見書房)というフィクションが発売されたとのことですが、その内容はいかにも現実に起きそうな話です。

※※※※※↓↓ 小説『メーデー 極北のクライシス』の書評です!!!!※※※※※
*****ロシア対NATO?!極北の国境近くにNATO軍の女性パイロットが墜落。一触即発の戦争危機が・・・・****
北大西洋条約機構(NATO)が大規模な軍事演習をロシアとノルウェーの国境近くで実施、ロシアとの間に緊張が高まる。

そのさなか、ノルウェー空軍の女性パイロット、イルヴァとアメリカ空軍の伝説的パイロット、ジョンは民間ヘリの護衛のため国境近くを飛ぶが、ロシア軍の戦闘機から威嚇を受けて機体が接触、ロシア領内に墜落してしまう。

ロシアはNATOによる核基地への攻撃があったと主張、第三次世界大戦勃発への危機感が漂い始めるなか、墜落直前に脱出していたイルヴァとジョンは徒歩で国境を目指す……【2月2日 PR TIMES】
********************
※※※※↑↑ 小説『メーデー 極北のクライシス』の書評です!!!!※※※※※

地球温暖化の影響は多岐にわたりますが、そのひとつが氷に閉ざされていた北極海の氷がとけて航路として利用可能となること、そして北極圏の地下資源開発も可能となることでしょう。

****北極海の夏の氷、温暖化進行で2050年までに消失確実=報告書****
国際雪氷圏気候イニシアチブ(ICCI)は7日公表した報告書で、急速な温暖化の進行が地球の雪氷圏に影響を及ぼしており、北極海の夏場の氷が2050年までに消失するのは確実だと警告した。

報告書によると、今年だけ見ても、3月に異常な温度上昇を記録した南極東部で雨が降り、夏にはアルプス地域の5%の氷が消えたほか、9月のグリーンランドはこの時期として記録的な規模で氷床の融解が発生したという。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの海氷研究者で、報告書の共著者となったロビー・マレット氏は「世界の気温上昇を摂氏1.5度未満に抑え続けるための信頼に足る道筋がなくなっている以上、夏に氷がなくなるのを避けられると信じられる道筋も存在しない」と指摘した。

マレット氏は、現在開催されている国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)についても、海氷の融解を阻止する上で有効な手は打てないだろうと悲観的な見方を示した。

現在のままでは、世界の気温は2100年までに産業革命前より2.8度上昇すると見込まれている。昨年、国連の気候変動に関する政府間パネルは、世界の気温上昇のピークが1.6度にとどまった場合でさえ、夏場の海氷は消えてなくなると想定した。【2022年11月8日 ロイター】
********************

北極海の氷が消失し北極航路が利用可能になれば、そのこと自体はプラスではありますが、その利用をめぐって周辺国のせめぎあいが始まる・・・というのは、当然の帰結でもあります。

そういう揉め事を未然に防ごうとの提案もなされてはいますが、現実の利益を目の前にしたときどこまで各国が制御できるか・・・

****北極圏の石油開発、禁止を提唱 EU、地球温暖化対策で****
欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表は13日、北極圏を巡るEUの新戦略を発表、地球温暖化対策のため北極圏での石油や天然ガスなど化石燃料の開発を行わない方針を打ち出した。北極圏での開発や産出された化石燃料の購入をやめるための多国間の法的枠組みも提唱する。

北極圏では、天然資源や新航路の開発などを巡り米ロや中国の間で主導権争いが激化し、脱炭素化社会の実現をアピールするEUとしても関与を強めたい考え。欧州での天然ガス価格が高騰する中、議論を呼びそうだ。
 
EUは2050年までに域内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を掲げている。【2021年10月13日 共同】
*******************

北極圏に最大の関与を有しているのがロシア。ほとんど“北極海は自分のもの”という意識でしょう。
ウクライナで忙しい中でも、北極海への権利主張は忘れないようです。

****プーチン大統領、北極海の大陸棚延長巡り高官らと協議****
ロシアのプーチン大統領は27日、北極海における大陸棚の外側の境界を合法的に延長する取り組みの現状について安全保障当局者らと協議した。

ロシアは2021年、未開発の石油・ガス資源が豊富に存在するとされる北極海における自国の大陸棚の延長を国連に申請した。この地域で独自の権利を主張するカナダやデンマークにも影響を与えることになる。

ロシア大統領府によると、会議にはショイグ国防相やナルイシキン対外情報局長官ら複数の高官が出席した。それ以上の詳細は公表されていない。

ロシアによる昨年2月のウクライナ侵攻を受け、隣国は戦略的に重要な北極圏でのロシアの野心に警戒を強めている。【1月30日 ロイター】
*****************

【ウクライナに伴う緊張の高まりで、北極圏の戦略的地政学的重要性も高まり、関係国間の緊張も】
“ウクライナで忙しい中でも”とは書きましたが、実際にはウクライナをめぐるロシアの欧米の緊張の高まりによって、ロシア・欧州・北米に囲まれた北極圏の戦略的重要性が高まっており、それに伴って関係国の緊張も高まっているようです。

****暗転する北極圏 軍事的優位に立つロシア、追うNATO****
人工衛星と交信する地上局のうち、世界最大のものはノルウェーのスバールバル諸島に置かれている。利用しているのは西側諸国の宇宙機関で、極軌道を周回する衛星から重要な信号を受信している。

そのスバールバルで今年(2022年)1月、ノルウェー本土との間を結ぶ北極海底の2本の光ファイバーのうち1本が切断された。ノルウェーはバックアップ回線に頼らざるを得なくなった。

2021年4月には、ノルウェーの研究所が北極海海底での活動を監視するために使っている別のケーブルが損傷を受けた。
この2件はノルウェー国外のメディアではほとんど報道されなかった。しかし、ノルウェー軍のエイリーク・クリストファーセン司令官はロイターの取材にこう述べた。
「偶然の事故という可能性もある。だが、ロシアにはケーブルを切断する能力がある」

クリストファーセン司令官は一般論として発言しており、意図的な損傷を示唆する証拠は何も示さなかった。だが数カ月後、ロシアからバルト海海底を経由して欧州へと至るガスパイプラインで、破壊工作により大規模なガス漏れが突如として発生した。ロシア国防省にコメントを求めたが、回答はなかった。(中略)

北大西洋条約機構(NATO)加盟国とロシアは近年、この水域での軍事演習を拡大している。中国とロシアの艦船は9月にベーリング海での合同演習を実施した。ノルウェーは10月、軍事警戒レベルを引き上げた。

だが、軍事プレゼンスという点で、西側諸国はロシアに後れを取っている。
ロシアは2005年以降、北極海に面したソ連時代の軍事基地数十カ所の運用を再開。海軍を近代化し、米軍の探知・防衛システムを回避することを狙った新たな極超音速ミサイルを開発した。

北極圏の専門家4人は、西側諸国がこの水域におけるロシア軍の能力に追いつくことを目指したとしても、少なくとも10年はかかるだろうと指摘する。(中略)

NATOのストルテンベルグ事務総長はロイターの取材にこう述べた。
「NATOは現代的な軍事能力の増強によって北極圏でのプレゼンスを高めている。これはもちろん、ロシアがやっていることへの対応だ。ロシアはプレゼンスを相当に高めている。したがって、こちらもプレゼンスを高める必要がある」

<高まる緊張>
極冠の氷が縮小して新たな航路や資源開発の可能性が出てくるにつれて、北極圏の戦略的重要性は増しつつある。海氷が溶ける夏季の2-3カ月だけアクセスが可能になるエリアもあり、新たなチャンスが生まれている。

ロシアにとっては、ヤマル半島の液化天然ガスプラントも含め、北極圏地域には膨大な石油・天然ガス資源が眠っている。

ロシアの北方を拠点とする船舶が大西洋に到達するには、「GIUKギャップ」と呼ばれるグリーンランド、アイスランド、英国のあいだの水域を抜けるしかない。ロシアのミサイルや爆撃機が北米に到達する最短の空路は、北極点の上を通過する。(後略)【2022年11月24日 ロイター】
*****************

****ロシア、北極圏でNATO活発化と懸念 「意図せぬ事態」を警告****
ロシアのコルチュノフ北極国際協力特任大使は、北極圏で北大西洋条約機構(NATO)の軍事活動が活発化していることに懸念を示し、「意図しない事態」が発生するリスクが高まっていると警告した。ロシアのタス通信が17日、報じた。

NATO加盟を検討しているフィンランドとスウェーデンは3月、NATOの軍事演習に参加した。以前から計画されていたものだったが、2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻によって軍事演習は激しさを増した。

コルチュノフ氏は「北極圏でNATOの活動が活発化しているのを懸念している。最近、ノルウェー北部で大規模な軍事演習が行われた。地域の安全保障に資するものではないと考える」と指摘した。

その上でコルチュノフ氏は、そうした活動は「意図しない事態」が発生するリスクを高め、安全保障上のリスクとともに北極圏の生態系に深刻な打撃を与えかねないとの見解を示した。

具体的にどのような出来事を指しているのかについては言及しなかった。【2022年4月18日 ロイター】
****************

上記は“北極海は自分のもの”という意識のロシアの主張ですが、欧米からすればロシアこそが北極圏での軍事活動を活発化させている元凶であり、欧米はそれに対抗しているだけということにもなるのでしょう。

****次の決戦の場は北極圏か?──ロシアが狙うカナダと北欧諸国への牽制と全面対決への備え****
<天然ガスの宝庫である北極圏。そこで軍事的プレゼンスを強めるロシアに対し、アメリカも負けじと積極姿勢を見せている。もはや2022年以前の北極圏には戻れない理由とは?>

この1月、日中でも氷点下のいてつく演習場でアメリカ各地の州兵(連邦軍の予備役)が大規模な砲撃訓練を行った。

初めてのことではないが、今年はヨーロッパからラトビア軍の兵士も参加した。ロシアのウクライナ侵攻が始まって1年、北方でもロシアとの緊張が高まり、武力衝突に発展する恐れがあるからだ。

演習はミシガン州北部のグレイリングで1月20日から29日まで実施され、予備役を統括する陸軍大将ダン・ホカンソンが指揮を執った。

今のアメリカは北極圏の防衛態勢を一段と強化している、と語るのは米シンクタンク北極研究所のモルティ・ハンパートだ。

「第3次世界大戦への備えではないが」とハンパートは言う。「アメリカはロシアが基本的に敵性国家であり、北極圏でも牙をむく可能性があることを理解している」

NATOの一員であるノルウェーだけでなく、スウェーデンやフィンランドも、いざロシアとの対決という事態になればアメリカが支援してくれるものと期待している。そして米軍は、もちろんその期待に応えるつもりでいる。

今のロシアはウクライナ戦で手いっぱいに見えるかもしれないが、実は北極圏の軍備強化にも励んでいる。昨年末のCNNの報道によれば、新たなレーダー基地や滑走路の建設も確認されている。

米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)によれば、ロシアは北極圏でもハイブリッド戦術を駆使しており、ドイツ向けの天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」の破壊工作にも関与した疑いがある(ロシア側は否定している)。

アメリカ政府も昨年10月に、ロシアのウクライナ侵攻によって「北極圏の地政学的緊張」が高まり、「意図せぬ紛争の生じるリスク」が高まったと発表した。

北極圏は天然ガスの宝庫
それでもCSISは、北極圏におけるロシアの軍事的活動はもっぱら防衛的なものだとみている。
フィンランドとの国境に近いコラ半島のムルマンスクには原子力潜水艦の基地があるし、液化天然ガス(LNG)や石油精製の大規模工場もある。地球温暖化によって通年の航行が可能になりそうな北極海航路の防衛という目的もありそうだ。

だが、それだけではなく、北極圏におけるロシアの軍事力強化には攻撃的な側面もあるとCSISは指摘する。北極圏に接するカナダや北欧諸国などを牽制し、「可能性は低いが、あり得ないとは言えない」NATOとの全面対決に備えるためだ。

「死活的に重要なコラ半島の核戦力を守るためなら、ロシアはノルウェーやフィンランドへの限定的な侵攻に踏み切る可能性もある」。CSISは今年1月の報告書で、そう警告している。

それに、北極圏は今でも全世界のLNG生産量の約8%を占めている。だから経済的にも戦略的にも、ロシアの未来は北極圏における権益の維持に懸かっている。

北極圏の資源争奪で戦争が始まる可能性は低いとしても、よそで起きた紛争の火の粉が北極圏まで飛んでくるシナリオは十分あり得る。北極研究所のハンパートは言う。

「今となっては、もう2022年以前の北極圏には戻れない」【2月7日 Newsweek】
*********************

上記のように「北極圏の地政学的緊張」が高まるなかにあって、冒頭で紹介したフィクション『メーデー 極北のクライシス』のような「意図せぬ紛争の生じるリスク」も現実味を増しています。

【ロシア 南極でも資源開発に乗り出す動き】
北極圏のように「地政学的重要性」はありませんが、地下に膨大な資源が眠っているということでは北極圏に劣らないのが南極。

南極をめぐる資源開発に関してはいろいろの議論・交渉が行われていますが、ロシアは遠路はるばる南極にも出かけているようです。北極海で培った極地開発技術を南極でも活用・・・ということでしょう。

****ロシア極地調査船に抗議デモ 南ア・ケープタウン港****
南アフリカ・ケープタウン港に寄港しているロシアの極地調査船に対し、南極で禁止されている鉱物資源の開発に乗り出すことを懸念する環境保護活動家が抗議の声を上げている。

ロシアのメディアによると、ケープタウンに寄港したのはアカデミック・アレクサンドル・カルピンスキー号。昨年末、南極での科学調査に向けロシアの港を出港していた。気候変動危機を訴える団体「絶滅への反逆」のメンバーは、ケープタウンへの入港は28日午前としている。

これを受けて活動家らは29日、港に集まり、「化石燃料はもういらない、南極から手を引け、戦争反対」などと連呼した。

調査船は、ロシア国営の探鉱会社ロスゲオの子会社が所有している。

「絶滅への反逆」の広報は、「次は鉱物資源開発を狙っているとみている」と述べた。ロスゲオの広報は28日付のロシア主要経済紙コメルサントに「南極大陸および周辺海域における活動は専ら科学的なものだ」と説明している。 【1月30日 AFP】
*****************

【氷河や永久凍土の中から新たなパンデミックの危険性も】
個人的に「極地の氷がとけて・・・」ということに関して不安なのは、シベリアなどの永久凍土に眠っていた未知のウイルス・細菌が活性化する可能性ですが、これもあながち絵空事ではないように思います。新型コロナ以上のパンデミックを引き起こすかも・・・。

****「次なるパンデミック」は溶ける氷河から始まるかもしれない?****
気候変動によりノルウェーでもフィヨルドが溶けている

次なるパンデミックが、コウモリや鳥類からではなく、溶け出す氷から始まるかもしれないことが新しいデータから見えてきた。

カナダの北西準州にあり、北極圏北部で最大の体積を誇るヘイゼン湖の土壌と湖沼堆積物を遺伝子解析したところ、ウイルスのスピルオーバー(異種間伝播)のリスクは溶ける氷河に近いほど高いかもしれないことが示された。

この研究結果から示唆されるのは、気候変動のせいで地球の気温が上昇するにつれ、氷河や永久凍土に閉じ込められていたウイルスやバクテリアが目覚め、近くの野生生物に感染する可能性がより高くなるということだ。しかも、野生生物の生息地が北極・南極の近くに寄ってきているとなればなおさらだ。

過去の一例として、2016年にシベリア北部で炭疽菌が流行し、児童が1人死亡し、感染者が少なくとも7人出たが、これは熱波で永久凍土が溶けて、炭疽菌に感染したトナカイの死体がむき出しになったことが原因とされている。それ以前にこの地域で炭疽菌が流行したのは1941年のことだった。(後略)【2022年10月19日 クーリエ ジャポン】
*******************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロシアを支える(とされる)トルコ、北朝鮮、イラン、そして中国のそれぞれの事情

2023-02-06 22:42:25 | 国際情勢

(昨年9月、ウズベキスタン・サマルカンドで顔を合わせたロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席(右)【2月5日 共同】)

【ウクライナの生命線、欧米諸国の支援】
周知のようにロシア軍の侵攻になんとかウクライナが耐えているのはアメリカを始めとする欧米からの支援があっての話です。

****各国のウクライナ支援、15兆円超 米独の戦車供与にロシア反発****
ロシアの侵攻が続くウクライナに対し、西側諸国は相次いで支援を表明した。キール世界経済研究所(ドイツ)のまとめでは、これまでの支援表明額(2022年11月20日時点)は、軍事支援・人道支援・財政支援の3分野を合わせて少なくとも計1080億ユーロ(約15兆3000億円)に上る。

国別では、米国が479億ユーロで、全体の4割強を占める。このうち軍事支援が229億ユーロで最も多く、財政支援151億ユーロ、人道支援99億ユーロと続く。

米国はこれまで、高機動ロケット砲システム(HIMARS)や耐地雷装甲車「マックスプロ」など多くの武器を供与し、ウクライナ軍への使用訓練も実施して戦局に影響を与えてきた。地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」や主力戦車「M1エーブラムス」の供与も表明し、引き続き軍事支援をリードしていく姿勢を示している。

欧州各国の軍事支援は英国が41・3億ユーロ、ドイツ23・4億ユーロ、ポーランド18・2億ユーロ――など。ドイツは1月、欧州で広く保有されている自国製主力戦車「レオパルト2」を供与すると表明した。ポーランドなどの保有国もこの戦車を供与する方針で、ロシアは猛反発している。【2月6日 毎日】
********************

ドイツ戦車「レオパルト2」をめぐるドイツ・関係国間の駆け引きについては一段落しましたが、いつ・どれだけ供与するのかという現実的問題はこれからです。

アメリカは高機動ロケット砲システム「ハイマース」で使用する射程80キロのロケット弾をウクライナに供与していますが、ウクライナの要望で、射程が最大150キロと倍増する精密誘導ロケット弾「地上発射型小直径爆弾」(GLSDB)の供与も決めています。

【トルコ ロシア軍に必要な機械や電子機器など数千万ドル相当を輸出 アメリカは制裁リスクを警告】
一方のロシアは、かねてより武器・弾薬の不足、あるいは経済制裁による経済への打撃等が指摘されています。
そのロシアを支えていると言われる(公にはしていない部分も含めての話ですが)のが、トルコ、イラン、北朝鮮などであり、ぞして、今後のロシアの戦闘能力維持に最も影響力があるのが中国の動向です。

****ロシアの戦闘、トルコの輸出が下支え****
トルコの企業は昨年、ロシア軍に必要な機械や電子機器など数千万ドル相当を輸出したことが貿易データで明らかになった。ウクライナへの侵略を巡り国際社会の制裁を受けているロシアが、なぜ戦争を継続できるのかをこのデータは示している。

今回のデータによると、少なくともトルコ企業13社が、樹脂やゴム製品、車両など合計1850万ドル(24億円)を超える品目を、米国の制裁対象となっている少なくとも10社のロシア企業に輸出した。

これらのトルコ企業は米国製の製品を3回は出荷している。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はこのデータを確認した。

これに加え、トルコ企業が2022年3月から10月にかけて、ロシアの軍需産業を対象とした米国の輸出規制に反して米国製の昇降機や発電機、回路基板など1500万ドル相当をロシアに輸出していたこともこのデータで分かった。

ロシアによるウクライナ侵攻を受け、昨年は米国をはじめ30カ国以上が、ロシアが戦争継続に必要とする資金や武器、技術を遮断する目的で制裁を発動した。トルコは北大西洋条約機構(NATO)に加盟しているものの、制裁の実行には加わらないことを表明している。

米国は中立的な立場を取るトルコなどに対し、制裁の柱となる分野について協力するよう促している。米財務省の高官は今週、ロシアの軍事調達網の分断などを狙い、トルコとアラブ首長国連邦(UAE)、オマーンを訪問した。

トルコ当局者は制裁について、国連安全保障理事会が決めた措置は実施するものの、米国などが科した措置は実行しない考えを示している。トルコ外務省はまた、対ロ制裁逃れの試みは容認していないとも述べている。【2月4日 WSJ】
*******************

アメリカは上記のようなトルコに対し、(「米国などが科した措置は実行しない」とするトルコの立場との関係はよくわかりませんが)このままでは企業ないし銀行が制裁対象になると警告しています。

****米政府がトルコに制裁リスク警告、軍事転用可能製品のロシア輸出で****
米政府はトルコに対して、ロシアがウクライナでの軍事作戦に転用可能な化学製品やマイクロチップなどがトルコから輸出されており、このままでは企業ないし銀行が制裁対象になると警告している。

米財務省のネルソン次官(テロ・金融情報担当)は2―3日にトルコを訪れて政府や民間企業の幹部らと会談し、こうした製品のロシア向け禁輸でより緊密な連携を促した。

ネルソン氏はトルコの銀行関係者への講演で、1年にわたってトルコからロシアへの輸出が続いているのは明白で、トルコ企業は特に制裁リスクにさらされやすくなるか、主要7カ国(G7)の市場にアクセスできなくなる恐れがあると指摘。ロシアの軍産複合体に利用されかねない軍事転用可能な技術に関連した貿易を避けるよう用心すべきだと訴えた。

またある米政府高官は、ネルソン氏や米国代表団の1人がトルコにおける複数の会合で、数千万ドル規模の輸出が懸念対象に上っていると強調したと明かした。

トルコはロシアに対する包括的な経済制裁には原則として反対しているが、制裁逃れの取引がトルコ経由で行われるとの見方は否定している。【2月6日 ロイター】
**********************

【北朝鮮 武器・弾薬をロシアに供給? 事実としても、ロシア支援というより窮地にある自国経済の救済が主眼】
制裁で外貨不足に苦しむ北朝鮮にとっては、ロシアへの武器輸出はロシア支援というより、自国の切実な経済事情という側面が強いようにも見えます。

****ロシアへの武器販売、北朝鮮の頼みの綱か-外貨不足で経済停滞****
北朝鮮は旧式の武器弾薬を処分する好機に飛び付くだろうと専門家
ロシアの民間軍事会社に北朝鮮が兵器を提供とNSCのカービー氏

ウクライナを攻撃する兵器を求めるロシアの需要が北朝鮮にとっては生命線となる可能性がある。比較的小規模な武器取引でも、外貨不足で停滞している経済の成長支援につながると考えられる。

米国は今月、北朝鮮がロシアのウクライナ侵攻を支援するために武器・弾薬を提供しているとあらためて非難。バイデン政権は、それにより戦況が大きく変わることはないとしながらも、世界貿易の大半から締め出された北朝鮮に新たな収入源をもたらすことになると警告した。 

北朝鮮は武器提供に関する米国の主張を否定しているものの、そうした合意があるとすれば金正恩朝鮮労働党委員長にとっては絶好のタイミングだ。新型コロナウイルス感染拡大に伴う国境封鎖で、既に停滞している北朝鮮経済は数十年ぶりの大きな落ち込みとなった。

韓国銀行(中央銀行)によれば、北朝鮮経済は2021年にマイナス成長に陥り、昨年も不透明な見通しに直面していた。金氏の資金源とされるサイバー攻撃で盗んだ暗号資産(仮想通貨)が、FTXの経営破綻で打撃を受ける可能性もある。

ウクライナの最前線で復活を遂げた20世紀型の粗末な大砲などの武器は、金氏が大量に所有しているものの一つだ。国際戦略研究所(IISS)の推計では、北朝鮮が保有する大砲は2万1600基余りに上る。

武器専門家のヨースト・オリーマンズ氏は「北朝鮮は老朽化した旧式の武器・弾薬を大幅に値上げして処分する好機に飛び付くだろう」と指摘。著作「朝鮮民主主義人民共和国の陸海空軍」を執筆した同氏は、金政権はロシアの一部システムと互換性のある旧式のけん引砲を大量に生産しているとも述べた。

米国は北朝鮮がロシアに送ったと考えられる武器の数量について詳細を明らかにしていないが、バイデン政権は昨年9月にそうした批判を最初に展開した際、ロシアは北朝鮮から数百万のロケット弾や砲弾の購入を目指しているとしていた。

米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は約1週間前の記者会見で、ロシアのウクライナ侵攻に深く関与している民間軍事会社ワグネル・グループが北朝鮮から兵器の提供を受けていると発言。北朝鮮に向かうロシアの鉄道車両とされる画像2つを公開した。

カービー氏は金政権が受けるメリットに触れ、「われわれは北朝鮮の行動を明確に非難し、ワグネルへのこうした供給を直ちにやめるよう求める」と表明した。

米国務省の報道官は、ロシアへの武器販売によって北朝鮮が受ける可能性のある経済的な恩恵についてコメントを控えたが、米国はワグネルに対するさらなる軍事物資提供を引き続き懸念していると語った。【1月30日 Bloomberg】
******************

北朝鮮は、上記記事にもあるように「(米国が)ありもしないことまででっち上げて、我々のイメージを傷付けようとしている」(北朝鮮外務省のクォン・ジョングン米国担当局長)と否定しています。

この北朝鮮からロシアへの武器輸出(裏を返せば、そこまでロシアが武器・弾薬に困っているという話にもなります)については、以前からある話ですが、事実かどうかは判然としません。

ロシアが以前北朝鮮に輸出した武器・弾薬などを北朝鮮から買い戻したという話もあるようですが、新たにロシアが北朝鮮から本格的に武器・弾薬を購入するという話については疑問を呈する向きもあるようです。

「ありうる」けど、規模は大きくないと推測する向きも。

****ロシアが北朝鮮に販売した武器を買い戻した理由****
(中略)
北朝鮮の政治・軍事について詳しい、聖学院大学政治経済学部の宮本悟教授は、北朝鮮からロシアへの武器販売について「ありうる話だ」という。

ウクライナ侵攻のためにロシアは極東地域の部隊や兵器を欧州寄りに移し、極東の守りが手薄になっているとされ、それを補強するため北朝鮮から武器を調達する可能性はある、と説明する。

一方で宮本教授は「北朝鮮の武器はもともと自国を守るためのものであって、ロシアに武器を輸出する余力はそれほど大きくない」と指摘する。報道された「数百万ドル」という調達金額も、軍事的には非常に小規模なものでしかない。「これでロシアが武器不足に陥っていると判断するのは難しい」という。(後略)【1月1日 東洋経済ONLINE】
**********************

生活水準が比較的高いとされる地方都市・開城市でも食料事情が悪化し、1日数十人が餓死していると報じられている(韓国の聯合ニュース)北朝鮮ですから、売れるものなら“好機に飛び付くだろう”とは思いますが。

ただ、北朝鮮としてもロシアとの関係で“深入り”する考えはないようです。
“北朝鮮は、ウクライナ東部のロシア占領地域を支援するために労働者を送り込むのを遅らせている。これはウラジーミル・プーチン大統領に最も近いこの同盟国でさえ、戦争の行方に懐疑的になっていることを示唆している。”【2月3日 BUSINESS INSIDER】

【イラン ロシア国内にイラン製ドローン生産工場建設 「本格的な防衛パートナーシップ」構築】
続いて、イランが関与しているとされるのがドローン。ロシア国内にイラン製ドローンの生産工場を建設するとか。

****ロシアとイラン、ドローン生産で協力 防衛関係強化へ****
ロシアは、イランが設計したドローンの新たな生産工場を国内に設ける計画で、イラン政府と協議を進めている。米同盟国の当局者らが明らかにした。

工場ではウクライナ戦争向けに少なくとも6000機のドローンが生産される可能性があり、ロシアとイランの協力関係の深まりを示す新たな兆候だ。

当局者らによれば、イラン政府高官は1月上旬にロシア入りし、施設の建設予定地を訪問してプロジェクトを進めるため詳細を協議した。両国はより速いドローンの生産を目指していて、ウクライナの防空システムにとって新たな脅威となる可能性もあるという。

イラン政府はこれまで数百機のドローンをロシアに供与しており、ウクライナ国内の軍事および民間施設への攻撃に利用されていると米政府当局者らは述べている。

またバイデン米政権は、ロシアとイランが「本格的な防衛パートナーシップ」を構築しているほか、ロシアが同国の戦闘機を飛行できるようイランのパイロットを訓練していると指摘している。年内にはイラン側にロシアの戦闘機を供与する意図があるという。

米政府は昨年12月、ロシアとイランが合同でドローン生産拠点をロシア国内に設ける検討をしていると述べていた。ロシアとイラン当局者からこの件について今のところコメントは得られていない。

工場はまだ着工しておらず、ウクライナでの戦況に直ちに影響を与えることはないとみられている。【2月6日 WSJ】
*********************

このイラン・ロシア関係は「本格的な防衛パートナーシップ」のようです。

【中国 プーチン大統領にとって「頼みの綱」だが、中国は自国利益最優先で安いロシア産原油を買い漁っただけ】
そうしたイランやトルコとの関係にも増して、プーチン大統領が最も欲しいのは大国「中国」の本格的支援でしょう。

****中国、軍用品でロシア支援 「欧米制裁に抜け穴」と分析****
米ウォールストリート・ジャーナルは4日、欧米による制裁対象となっているロシアの複数の国営軍需企業に対し、中国企業が戦闘機の部品や電波妨害機器などの軍用品を輸出し、ウクライナ侵攻を支援していると報じた。ロシアの税関記録を分析し、明らかになったという。

同紙は、他にも軍民両面で利用可能な技術を使った多くの製品をロシアが中国から輸入していると指摘。中国を抜け穴として制裁を回避している実態が浮かび上がったとしている。

昨年10月に中国企業から最新鋭戦闘機スホイ35の部品を輸入。昨年8月には別の軍需企業などが輸送ヘリの航法装置や軍用車のアンテナを供給していた。【2月5日 共同】
********************

****ロシア、対中貿易が急増 制裁の限界浮き彫り****
ロシアと中国の貿易が昨年、急拡大したことが新たな報告書で明らかになった。疲弊するロシア経済にとって中国は生命線となっており、西側による制裁の効果に限界があることも示された。

米首都ワシントンに本部を置く非政府組織「自由ロシア財団」の報告書によると、ロシアは中国から半導体やマイクロチップなど、ウクライナとの戦争継続に不可欠な技術分野の輸入を増やした。

一方、エネルギーをはじめとする中国によるロシアからの購入拡大は、米英や欧州連合(EU)加盟国など西側によるロシアからの購入減少を補って余りある規模に達した。

「米国、EU、英国がロシアとの取引を縮小したため、中国が他を大きく引き離しロシアにとって最も重要な貿易相手国となった」と報告書は指摘した。(後略)【1月31日 WSJ】
******************

しかしながら、中国も“深入り”してロシアを支える考えはなそう。
“22年の露中貿易の拡大は、国際石油価格が高騰する中で、中国が割安になったロシア産原油を積極的に買い増したという要因にほぼ尽きると言っていい。”【下記 WEDGE記事】というように、あくまでも中国の利益が最優先です。

****煮え切らない中国、焦るプーチン 露中経済関係の実情****
(中略)先進国に制裁の包囲網を敷かれたロシアは、電子部品、とりわけ半導体の不足に苦しむことになった。注目されたのは、中国が抜け穴となり、ロシア向けの電子部品供給を拡大するのではないかという点であった。(中略)

今のところより詳細なデータが得られないので、断言はできないが、中国がロシア向けに電子部品輸出を大幅に増やした様子は見られない。

(中略)22年には、ロシアからのエネルギー輸入が59.5%も伸びたのに対し、エネルギー以外の品目は11.6%しか伸びなかった。このように、22年の中国の対露輸入増は、ほぼエネルギー輸入増に尽きると言って過言でない。(中略)

ロシアが息を吹き返す唯一のシナリオは……
22年12月30日にプーチン大統領と習近平国家主席のリモート首脳会談があった。その席でプーチンは、22年の露中貿易は25%ほど伸びており、このペースで行けば24年までに往復2000億ドルの貿易額を達成するという目標を前倒しで実現できそうだと、手応えを口にした。

しかし、上で見たとおり、22年の露中貿易の拡大は、国際石油価格が高騰する中で、中国が割安になったロシア産原油を積極的に買い増したという要因にほぼ尽きると言っていい。

シベリアの力2をめぐる駆け引きに見るように、中国はプーチン・ロシアに救いの手を差し伸べているわけではなく、経済協力を進めるにしても、自国にとっての利益を最優先している。

このように頼みの中国が積極的に支えてくれないとなると、筆者が以前のコラム「プーチンによる侵略戦争はいつ終わるのか」、「2023年ロシア経済を待ち受ける残酷物語」で論じたように、ロシア経済が中長期的に衰退に向かうことは、やはり不可避であろう。

ただし、一部で警鐘が鳴らされているとおり、もしも近いうちに中国が台湾に軍事侵攻するような事態となれば、話はまったく違ってくる。その場合、中国はロシアとのより強固な同盟関係を構築するはずなので、経済面で相互補完性の強い中露が支え合って、ロシアが息を吹き返す可能性が出てくる。【2月6日 WEDGE】
*********************

こうして見ると、ロシアがある程度あてにできるのはイランのドローンぐらいかも。
北朝鮮は支えになるほどの力はないし、トルコ・中国は自国への悪影響に耐えてまでロシアに肩入れする考えはないでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

韓国  “潮目の変化”を感じさせる日韓関係 「セカコイ」「スラムダンク」人気に見る複雑な対日感情

2023-02-05 22:34:29 | 東アジア
(映画「THE FIRST SLAM DUNK」を上映中の映画館で、記念撮影する人たち=ソウルで1月23日、共同【1月24日 毎日】)

【“潮目の変化”を感じさせる最近の日韓関係】
昨年5月の韓国・尹錫悦(ユンソンニョル)保守派政権発足によって、どん詰まり状態だった日韓関係も随分潮目が変わってきたように見えます。

(日本側では、“山ほどある”韓国にネガティブなブログなどは依然として警戒感を露わにしていますが、まあ、そのあたりは韓国側も事情は似たようなものでしょう)

年が明けてからも、上記の“潮目の変化”を感じさせる動きが続いています。

****元徴用工問題、韓国の財団が日本企業の賠償肩代わりする案…韓国外交省が明らかに****
韓国外交省は12日午前、日韓間の最大の懸案となっている元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)訴訟問題の解決に向け、韓国の財団が日本企業の賠償を肩代わりする案を明らかにした。同省の徐旻廷ソミンジョンアジア太平洋局長が、韓国国会で開いたこの問題を巡る公開討論会で説明した。

財団による肩代わり案については、資金を拠出するのが日韓両国の企業か、韓国企業のみとするかで日韓の意見が分かれているが、徐氏は明言を避けた。韓国政府は今後、討論会での意見を検討した上で、最終的な解決案を発表する方針だ。

元徴用工問題では、韓国の大法院(最高裁)で2018年、三菱重工業などに対し賠償を命じる判決が確定した。原告側は、日本企業の韓国内資産を差し押さえて売却する「現金化」の手続きを進めている。

徐氏は、昨年5月の尹錫悦ユンソンニョル政権発足後、日韓関係の改善などのため、元徴用工問題の解決を急いできたと説明。韓国政府の傘下で、元徴用工らの支援を行っている「日帝強制動員被害者支援財団」が、被告の日本企業の代わりに、原告に賠償金の相当額を支払う案を示した。

原告側は被告の日本企業に資金拠出を求めているが、徐氏は事実上難しいとの見解を示した。原告側が求めている日本側の謝罪も困難だとした上で、日本政府が過去に表明した「痛切なおわびと反省」の継承が重要だとの認識を示した。【1月12日 読売】
*********************

もちろん、上記「政府案」に対して韓国国内の野党などからは痛烈な批判があります。

****徴用解決策「屈辱的」と政府に撤回要求 野党議員と市民団体=韓国****
韓日間の徴用問題の解決策を探る韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権に対し、韓国野党の国会議員と市民団体は12日、「屈辱的な解決案を直ちに撤回せよ」と要求した。

多数の市民団体でつくる「歴史正義と平和な韓日関係のための共同行動(韓日歴史正義平和行動)」と、革新系最大野党「共に民主党」の24人、革新系野党「正義党」の6人、無所属2人の計32議員はこの日国会前で、「非常時局宣言」とする記者会見を開いた。

日本による植民地時代の韓国人徴用被害者への賠償問題を巡る韓国政府の解決の方向性について、一同は「被害者に対する日本の加害企業の謝罪と賠償が抜け落ちたまま、韓国企業の寄付金だけで判決金(賠償金)を代わりに支払わせる案」と指摘。「司法府の判決を行政府が無力化する措置で、三権分立に反し、憲法を否定するもの」と見なし、「日本の圧力に屈服し、韓国の司法の主権を放棄するも同然だ」と批判した。

また加害企業からの正当な謝罪と賠償を求める被害者を、寄付金を乞うような立場に追い込み、人権を踏みにじるものだとし、「誰のために韓日関係を正常化しようというのか」と問いただした。

政府はこの日、徴用問題の解決策を取りまとめるために最後の意見集約となる公開討論会を開催している。【1月12日 聯合ニュース】
**********************

世論調査でも厳しい数字が出ています。

****財団賠償肩代わり、反対64% 元徴用工問題の韓国政府案****
韓国の元徴用工問題で、同国最高裁が日本企業に命じた賠償の支払いを財団に肩代わりさせる韓国政府の解決案について、韓国のMBCテレビは21日、反対が約64%で、賛成の約23%を大きく上回ったとの世論調査結果を報じた。

韓国政府は12日の公開討論会で案を公表。MBCの世論調査は18〜19日に行われた。日韓政府は早期の問題決着を目指しているが原告側は強く反発。厳しい世論も浮き上がった形で、難航は避けられそうにない状況だ。【1月21日 共同】
*******************

こうした批判・世論動向は尹錫悦政権としても当然に想定しているところでしょうが、それでも敢えて賠償肩代わり案を出してきた政権側の狙い・意図がどこにあるのか興味深いところです。

日韓政府の間での解決に向けては、まだ紆余曲折があることも想像されますが、前政権時よりは遥かに希望が持てる流れです。

日韓の感情的対立を象徴する形にもなっていた対馬の盗難仏像をめぐる裁判にも変化が。(政治・世論を反映する傾向のある韓国司法の)「潮目の変化」を意識した司法判断のようにも。

****日韓改善への悪影響は回避 盗難仏像巡り韓国高裁 「徴用工」交渉が佳境***
韓国人窃盗団が長崎県対馬市の観音寺から韓国に持ち込んだ仏像をめぐり、韓国・大田(テジョン)高裁の1日の判決は韓国側の所有権を否定した。

日韓関係の最大の懸案である、いわゆる元徴用工訴訟問題の解決へ両国政府の協議が大詰めを迎える中、関係改善に向けたムードに韓国の司法判断が水を差す事態は回避された形だ。

「10年前に窃盗団に盗まれて不法に韓国に持ち込まれたという事件の本質に立ち返るべきだ」。観音寺の田中節竜住職は昨年6月、控訴審弁論に韓国政府側の補助参加人として出廷し、こう訴えていた。

2017年1月の1審大田地裁判決は、仏像が盗まれ韓国に持ち込まれた経過や、現代法上の所有権の論点を考慮しないまま、倭寇の存在などに言及して韓国・浮石寺(プソクサ)への像の引き渡しを命令した。

これには韓国国内でも「韓国人が盗んできたことが明らかな文化財を『韓国のものだ』と主張するのは国益にならない」(朝鮮日報)などと疑問視する声が上がった。

韓国司法でも軌道修正を図る動きがあり、1審が認めた判決確定前の仏像引き渡しについて、地裁の別の裁判官が強制執行を認めないと判断。控訴審では、裁判所が原告側に、仏像を日本に返還して複製品を保管するよう提案したことも報じられた。

韓国の司法判断が日韓関係を悪化させた点で、日本企業に賠償を命じた18年10月の韓国最高裁判決が外交の障害となった徴用工問題に重なる。

この問題では、韓国政府による解決案の公表に向け大詰めの交渉が続くが、先月30日のソウルでの局長級協議では詳細の合意に至らなかった。韓国の朴振(パクチン)外相は1日、今月中旬に国際会議があるドイツで林芳正外相との面会実現に期待を示し、「持続的な協議を通じて合理的な解決策を見つけたい」と話した。【2月1日 産経】
****************

【愛憎相半ばする、あるいは、屈折した対日感情】
政治の動きを離れて、社会の風潮という点で見ると、日本製品の不買運動である「ノージャパン運動」といった根深い反日世論がある一方で、若い世代を中心に日本文化を受容する流れも存在するという、愛憎相半ばする、あるいは、屈折した対日感情があることは以前からの話です。

(韓国文化にあまり抵抗がないというのは、日本若者も同じのようですが。年寄りの私でも、最近よく韓国ドラマを動画配信サイトで観ますし、その出来は高く評価しています。)

****「セカコイ」観客100万人超え=日本映画で21年ぶり―韓国****
日本の恋愛映画「今夜、世界からこの恋が消えても(略称・セカコイ)」(三木孝浩監督)の韓国での観客動員数が29日、100万人を超えた。映画輸入会社が発表した。

韓国メディアによると、アニメを除く日本映画の観客数が韓国で100万人を超えるのはホラー映画の「呪怨(じゅおん)」以来、約21年ぶり。(中略)

日本のアニメ映画では、バスケットボール漫画「SLAM DUNK(スラムダンク)」の劇場版「THE FIRST SLAM DUNK」が今月、韓国で観客数100万人を超えたばかり。若年層で日本映画への関心が高まっている。【1月29日 時事】
******************

上記記事にもあるように「スラムダンク」も大人気のよう。その人気を支えているのが、30〜40代で文在寅(ムン・ジェイン)前大統領支持層と重なるというところが面白いところ。

****映画「スラムダンク」人気に韓国社会の複雑な反応 文在寅支持派の人気アナに批判の矛先が****
日本同様、韓国でも劇場版「ザ・ファースト・スラムダンク(THE FIRST SLAM DUNK)」が大人気だ。封切りから3週目となる1月25日現在、全国の観客動員数は約159万人(韓国映画振興委員会発表)を記録。この調子なら500万人も難くないといわれる。

映画レビューの評価も高い。大型フランチャイズ映画館であるロッテシネマとメガボックスのサイトを見ると、観客評価点数は10点満点でそれぞれ9.7点と9.4点。韓国のシネコン最大手のCGVの場合は観覧評価数で評価されるが、100点満点で97点を記録した。

人気は漫画にも波及。韓国の大型インターネット書店「YES24」の新年初日のベストセラーは「スラムダンク チャンプ」だった。韓国のテレビ局ではかつて韓国語吹替版のスラムダンクを放送したが、韓国語バージョンのオープニング曲を歌った歌手が参加する特別上映では、430席ある座席が前売り開始2時間で売り切れた。

最近は会社の同僚や友人に会うと、スラムダンクが常に話題になる。会話も「スラムダンク観た?」ではなくて「まだ観てないの?」になる。

「スラムダンク」の観客と重なる文在寅支持層
映画の観客層は30〜40代に集中している。CGVの集計によると、映画の前売り購入者は30代が39.8%、40代が32.8%で、この年齢層が70%以上を占める。筆者も見に行ったが、観客の半分以上が30〜40代の男性だった。学生だった頃、漫画やテレビを通じてスラムダンクに熱をあげた世代だ。

韓国ではこの世代が、昨年、退陣した文在寅(ムン・ジェイン)前大統領支持層と重なる。昨年5月、世論調査専門機関「リアルメーター」が文在寅氏の大統領退任直前に国政支持率を実施した。その結果は42%だったが、40代の支持率が圧倒的に高く、なんと60%だった。スラムダンク人気が、そこに亀裂を生んでいるのだ。

バッシングを受けた“反日アナ”
非難の矛先が向けられているのは、韓国の有名アナウンサー、ペ・ソンジェさんだ。1978年生まれの彼は最近、知人たちと「ザ・ファースト・スラムダンク」を観て記念写真を撮り、SNSにアップした。自身が進行するラジオでも以前、「スラムダンク」の漫画を50回以上読んだほどのファンだと告白していて、映画を観たあとで漫画を読み直したいとも発言したのだ。

彼は文在寅元大統領の熱烈な支持者としてよく知られている。文氏を支持する有名人とも親交があり、文政権が主催するイベントではよくメイン司会を務めた。また自分の祖父が日本帝国時代の独立運動家だと明らかにしていた。

2014年に行われたサッカーのブラジルワールドカップ大会で、旭日旗のペインティングを顔に施した日本人サポーターがテレビの画面に映ると、「戦犯旗を顔に描く心理はなんなのか」「チケット代がもったいない」「アジアではナチスの模様と変わらないのでスタジアムから追い出すべきだ」と発言した。当時このニュースは日本にも伝わった。

そんなペさんに、保守派のコミュニティが非難を浴びせるのだ。「日本嫌いを自称し、人を諭しておきながら、自身は日本の漫画を観るなんておかしいじゃないか」、「選択的反日にへどが出る」という内容である。

日本に行かない、ユニクロ着ない…
韓国には「クリアン(CLIEN)」というコミュニティサイトがある。文在寅前大統領が所属する政党「共に民主党」を支持するネットユーザーが主に活動している。

文政権時に行われた日本製品の不買運動である「ノージャパン運動」をPRし、いまも参加を求めている。運動の最盛期には、日本旅行に行かず、ユニクロの服を着ず、日本のビールを飲まず、日本車を野球バットで打ち砕くなどの行動もあった。

彼らが支持するクリアンには、「ノージャパン運動の実践のため、回転寿司を食べに行ってもアサヒビールの代わりに国産ビールを飲み、スラムダンクではなく他の映画を観た」「ノージャパン運動には『スラムダンク』を観ないことも含まれる」「第2の植民地時代を生きたいのか。『スラムダンク』を観るな」などといった書き込みが溢れる。

なかには、「ザ・ファースト・スラムダンク」の代わりに韓国映画「英雄」を観て、愛国とノージャパン運動を実践しようと言い出すグループもいる。「英雄」は1909年に伊藤博文を暗殺した朝鮮の安重根(アン・ジュングン)の一代記を描いたミュージカル映画だ。

残念ながら1月10日時点の人気ランキングで「ザ・ファースト・スラムダンク」を下回り、ノージャパン運動を叫ぶクリアンのユーザーたちの願いはかなわなかったが。

居直り派も登場
もっとも、クリアンには、「スラムダンクの大ファンで、山王工業高校との試合を映画で観られて大満足」「娘と一緒に観に行ってきた。とても満足した。カン・ベクホ(桜木花道の韓国語バージョンでの名前)がかわいいと娘がいっていた」などいった書き込みも少なくない。

約3年前まで文在寅政権を支えノージャパン運動の先頭に立った30〜40代が、スラムダンクのコアファンという皮肉……。映画1本を観ることで、同じ左派の支持者たちから非難を受けないか、顔色をうかがわなければならない状況だ。「ノージャパンは実践するけれどスラムダンクは観る」という居直り派も生まれている。

“中間派”を自称するビジネスマンのPさん(41)はこういう。「私の世代にとって、スラムダンクは楽しい思い出。しかし、その後、ノージャパン運動に夢中になった人々には、若い頃のスラムダンク愛が痛恨のブーメランとなって戻ってきている」【2月1日 デイリー新潮】
********************

韓国の30代から40代の人たちにとっては「スラムダンク」は、日本文化がどうこうというより、以前から慣れ親しんでいる青春の思い出のような作品だということであり、あまり深読みするのはどうか・・・という話にもなりますが、ひと頃に比べると、あまり政治や両国の関係を気にせず、エンタテインメントのコンテンツとして韓国の人たちにそのまま受け入れられるようになった・・・ということは望ましいことでしょう。

【韓国の若い世代は日本より中国の方に拒否感を抱いている】
単純ではない対日感情ですが、特に韓国の若者の間では今や日本より中国を嫌う者が多いというのも、近年よく言われている話です。

****韓国若者の7割が「核武装」必要、「最も遠く感じる国」は北朝鮮、中国、ロシア、日本、米国の順****
韓国の20代・30代の7割弱が北朝鮮の核ミサイルの脅威が高まっているのに伴い、韓国の独自核武装が必要だと考えていることが調査で明らかになった、と朝鮮日報が報じた。中国に対する認識も大きく悪化。「最も遠く感じる国」は北朝鮮、中国、ロシア、日本、米国の順だった。

朝鮮日報によると、この「対北・統一認識調査」は「統一と分かち合い財団」と同紙、ソウル大学社会発展研究所がカンターパブリックに依頼し、韓国国内の20歳から39歳までの世代1000人を対象に昨年11月14日から21日にかけて行われた。

「北朝鮮が核兵器を廃棄しない場合、韓国も核兵器の保有をすべきか」という質問には68.1%が「賛成」と回答。「反対」の31.9%より2倍以上高かった。

核兵器保有に賛成する理由については「北朝鮮の核の脅威に対応すべきだから」が39.2%で最多。続いて「主権国家として国家・体制の安定を守るため」(37.3%)、「国際社会での影響力が増大」(23.3%)だった。

核兵器の保有に反対する理由としては「国際社会の制裁による被害」(40.1%)、「周辺国の核武装をあおる懸念」(26.3%)、「北朝鮮との関係がさらに悪化」(18.5%)、「米国の核の傘で十分」(14.7%)などが挙げられた。

北朝鮮の核兵器に対し、20代・30代の82.9%は「脅威を感じる」と答えた。「脅威を感じない」は17.1%だった。「北朝鮮は核兵器を放棄しないだろう」という意見についても「そう思う」(85.4%)が「そうは思わない」(14.6%)より圧倒的に多かった。

さらに若者の60.2%は「北朝鮮が核兵器を実際に使う可能性」についても「ある」とした。「ない」は35.8%だった。昨年、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党総書記)が先制核攻撃を含む「核武力法制化」を鮮明にしたことなどが影響を及ぼしたとみられる。

一方、「最も遠く感じる国」を尋ねる質問に対しては、北朝鮮(29.1%)に次いで中国(25.3%)となった。中国に続いてはロシア(24.5%)、日本(18.5%)、米国(2.6%)だった。中国に対する関係認識に関する質問でも「警戒の対象」とする回答が45%を占め、最も多かった。

「最も近く感じる国」は米国(75.3%)、日本(11.5%)、北朝鮮(8.5%)、中国(2.5%)。朝鮮日報は「ここ数年にわたり『ノー・ジャパン運動』が繰り広げられ、歴史問題などで日本との摩擦が続いている中でも、韓国の若い世代は日本より中国の方に拒否感を抱いている」と伝えた。【2月3日 レコードチャイナ】
******************

話は、上記の核兵器保有論や、韓国と中国の関係になりますが、そこは長くなるのでまた別機会に。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

同性婚の法制化 「関係ない人にはただ、今までどおりの人生が続くだけです」

2023-02-04 23:02:46 | ジェンダー

(【2021年6月23日 エコノミスト】
日本の大手新聞社調査によれば、「同性婚を認めるべき」が2015年調査の41%から2021年調査では65%に増加、「認めるべきではない」は37%から22%に減少しています)

【「見るのも嫌だ。隣に住んでいたら嫌だ」】
報道されているように、同性婚をめぐって「見るのも嫌だ」などと発言した荒井勝喜総理大臣秘書官について、岸田首相は、政権の方針と相いれない発言で言語道断だとして、更迭したことを明らかにしました。

****岸田首相 同性婚「見るのも嫌だ」などと発言の荒井秘書官 更迭****
(中略)荒井秘書官は3日夜、オフレコを前提にした記者団の取材に応じた際に、同性婚についての見解を問われ「見るのも嫌だ。隣に住んでいたら嫌だ。人権や価値観は尊重するが、認めたら、国を捨てる人が出てくる」などと発言しました。

しかし、発言への批判が相次いだことから改めて取材に応じ、不適切な発言だったとして撤回し、謝罪しました。

岸田総理大臣は、訪問先の福井県で記者団に「大変深刻に受け止めており、秘書官の職務を解く判断をした。本人からも辞意があった」と述べ、荒井秘書官を更迭したことを明らかにしました。

そして、荒井氏の後任には、経済産業省の伊藤禎則秘書課長の起用を決めたと説明しました。

その上で、荒井氏の発言について「今の内閣の考え方には全くそぐわない言語道断の発言だ。『性的指向』や『性自認』を理由とする不当な差別や偏見はあってはならない」と述べました。

また、みずからの任命責任を問われ「任命責任を感じているからこそ今申し上げた対応をとっている」と述べました。

荒井氏は、経済産業省出身で、岸田内閣が発足したおととし10月から総理大臣秘書官を務め、広報やメディア対応を担当し、岸田総理大臣の演説などの原稿の執筆役も担っていました。(後略)【2月4日 NHK】
********************

荒井秘書官は、「首相秘書官室全員に聞いても同じことを言っていた」とも発言。同時に「LGBT(の人)も好きでなっているわけじゃない。サポートしたり、救ってあげたりしないといけない」と語っていました。

荒井秘書官の発言は、岸田首相が2月1日の衆院予算委員会で同性婚に関し、「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」として慎重に対応する考えを示した答弁に関する記者の質問に対してなされたものです。

****岸田首相 夫婦別姓や同性婚「改正で家族観 価値観 社会が変わってしまう」****
岸田総理大臣は、夫婦別姓や同性婚について「制度を改正すると、家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と述べ、慎重な検討が必要だという考えを示しました。

岸田総理大臣は、2月1日の衆議院予算委員会で、児童手当をめぐって自民党が民主党政権時代に所得制限の導入を主張したことについて「この10年の間に子ども・子育て政策のニーズ自体も大きく変化し、より経済的な支援を重視してもらいたいと、求められる政策も変わってきた」と述べました。

そのうえで、与野党双方から所得制限の撤廃に加え18歳までの支給対象の拡大などを求める声が出ていることを踏まえ、政府として内容の具体化を進める考えを改めて示しました。(中略)

また岸田総理大臣は、夫婦別姓や同性婚について「制度を改正するということになると、家族観や価値観、そして社会が変わってしまう課題なので、社会全体の雰囲気のありようにしっかり思いをめぐらせたうえで判断することが大事だ」と述べ、慎重な検討が必要だという考えを重ねて示しました。【2月1日 NHK】
****************

【急速に変化する社会】
十数年前、所得制限なしの子供手当支給に対し「愚か者めが」と罵声を浴びせた自民党でしたが、「ニーズも、求められる政策も変わってきた」との首相の認識です。 同性婚については?

東京都は昨年11月から同性カップルを公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」の運用を開始しました。

****東京都、同性パートナーを公認 「宣誓制度」の運用開始****
東京都は1日、都内に居住または勤務する同性カップルを公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」の運用を開始した。日本では同性婚が認められておらず、同制度の開始は待ち望まれていた。

LGBTなど性的少数者のカップルは、都から受理証明書を受け取ることで、住宅、医療、福祉などさまざまな公共サービスで結婚したカップルと同等の扱いを受けられる。これまでに少なくとも137組からの届け出があった。

東京都では2015年、渋谷区が国内初の同性パートナーシップ証明制度を導入。以降、全国200以上の自治体が同様の制度を設けている。結婚と同じ法的権利は保障されないが、性的少数者に対する差別の撲滅につながると期待されている。 【2022年11月2日】
********************

性的マイノリティーの権利を守る活動をする認定NPO法人「虹色ダイバーシティ」(大阪市)と渋谷区の共同調査によると、性的マイノリティーのカップルを公的に認める「パートナーシップ制度」を導入している自治体は9府県を含めて239(2022年10月11日時点、人口でみると全国の55.6%を占めるとのことで、東京都の開始により、6割を超すのは確実な状況です。

アメリカでは、日本以上にドラスティックに変化しています。おそらく日本もスピードに差はあれ、同じような流れをたどるのではないかと想像されます。

****米 同性婚の権利を連邦レベルで保障する法律 大統領署名で成立****
アメリカで、同性どうしによる結婚の権利を連邦レベルで保障する法律が、バイデン大統領の署名で成立しました。
首都ワシントンのホワイトハウスでは13日、記念の式典が開かれ、バイデン大統領が、「平等と自由に向けて重要な一歩を踏み出す日だ」と述べたあと、法案に署名し法律が成立しました。(中略)

アメリカでは、2015年に連邦最高裁判所が同性婚を認める判断を示し、すべての州で事実上、合法化されていますが、保守派の判事が多数派を占めるようになった連邦最高裁が、同性婚についてのこれまでの判断を覆す可能性が指摘されています。

今回、成立した法律では、仮に連邦最高裁が判断を覆し、一部の州で同性婚が禁止されたとしても、同性婚が認められているほかの州から移動してきたカップルの権利は維持されることになっていて、法案を提出した民主党としては先手を打った形です。

アメリカの2020年の国勢調査によりますと、同性どうしのカップルの世帯数は全体の1.5%に当たる98万世帯となっていますが、同性婚を認めるか認めないかをめぐっては、保守層とリベラル層の間で長年対立が続いています。【2022年12月14日 NHK】
********************

世論の同性婚への賛否は、ここ10年でほぼ逆転しました。
ピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、マサチューセッツ州が同性婚を初めて容認した2004年当時は同性婚支持が31%に対し、反対が60%でした。

しかし、2019年には支持が61%、反対が31%と逆転しています。


【「同性愛宣伝禁止法」のロシアメディア 「岸田首相が率いる保守の自民党議員の多くは認めることに反対している」】
荒井秘書官の更迭は、海外メディアでも報じられています。5月に広島市で主要7カ国首脳会議(G7サミット)を控えるなか、先進国のなかで同性婚を認めていない日本の異質性と合わせて取り上げられています。

一方、性的少数者(LGBTなど)の情報発信を事実上、禁止したロシアの国営タス通信は、荒井氏の発言を紹介し、「岸田首相が率いる保守の自民党議員の多くは認めることに反対している」と伝えています。

ロシアでは昨年12月、「同性愛宣伝禁止法」にプーチン大統領が署名して成立。性的少数者を小児性愛などとまとめて「非伝統的な性的関係」だとし、メディアや書籍を含めて情報発信をほぼ禁止。すでに違法とみなされる恐れのある本の公開を取りやめたほか、大手書店で販売を取りやめる事態となっています。

【「同性婚を認めても、関係ない人にはただ今まで通りの人生が続くだけ」】
同性婚への社会の理解・支持は変わりますが、同性婚を認めることで「家族観や社会が変わってしまう」のか?
その変化は忌避すべきものなのか?

****同性婚で社会が変わる?合法化から17年のスペインから見る同性婚の価値観****
同性婚の法制化をめぐって岸田総理が「家族観や社会が変わってしまう」と発言し、さらに首相秘書官がその発言について「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」とコメントをしたというニュースをSNSで目にしました。

国のトップやその秘書官がこう言った差別的な発言をしれっとしてしまうことに驚きを隠せませんが、今日はこれを機会にスペインでは同性婚を始め家族の多様性についてどのような動きがあるのかを紹介したいと思います。
  
同性婚は2005年から合法
スペインでは、2005年7月3日から同じ性を持つ2人の婚姻(同性婚)が法律で認められています。(中略)

この法が制定された時、当時のホセ・ルイス・サパテロ首相は演説でこう述べています。「皆さん、私たちは遠くにいる奇妙な人たちに向けて法制定をしているわけではありません。私たちは私たちの隣人、仕事仲間、友人、家族が幸せになる機会を広げるとともに、よりまともな国を構築しているのです。まともな社会というのは、国民たちを辱めることのない社会です。」

オランダ、ベルギーに続いて世界で3番目に同性婚を合法化したスペインでは、これまで4万組を超える同性カップルが法的に夫婦として認められてきました。

スペインに住んでいて同性カップルを見かけることは珍しくありませんし、同性カップルに対して冷たい視線を向ける人を見ることもありません。

同性カップルの存在はもはや当たり前の存在なので、同性婚に対して周りの友人に意見を聞いても「普通じゃない?好きな人と一緒にいたいなら勝手にすればいいと思うよ。自分たちには関係ないし。」と、特に男女のカップルと区別していないという印象を受けました。

家族観や価値観は他人の結婚で変わるものなのでしょうか。具体的にどう変わるのか私には想像がつきません。愛し合う2人が夫婦になることの何がいけないのでしょう。
  
16の家族の形を発表
同性婚を認めて17年。スペイン社会は多様性へ向けて年々変化しています。去年12月、社会権省のロネ・べララ大臣は新しい「家族法」を発表しました。

この法律には3歳未満の扶養児童1人につき月100ユーロの子育て支援、2親等以内の親族や同居人の世話(怪我・病気等)をするための年5日の有給介護休暇、子どもが8歳になるまで継続・中断可能な8週間の育児休暇などの内容が含まれています。そのほかに「父親・母親・子供」という従来の家族のステレオタイプを取り除き、多様性教育や補助金支給に役立てるために「16タイプの家族」というリストも今回の法で定められました。

リストには「片親家族」「同性婚家族」「養子縁組家族」「事実婚家族」から、「複数民族家族」「多国籍家族」「移民家族」「貧困家族」など16種類にわたる家族の形が記載されています。今後これらは学校の多様性教育にも組み込まれていくそうです。

社会は変わらなければいけない
今回はスペインの同性婚や家族の多様性について紹介しましたが、世界でこのような動きがどんどん進んでいます。2019年には隣国台湾が、2022年にはチリ、スイス、スロヴェニア、キューバが同性婚を合法化しているのです。

社会や世界の価値観がどんどん変化し前進している中で、それらの変化を恐れて古い当たり前にすがりつき立ち止まってしまうことは、世界からどんどん遅れをとっていくことを意味するでしょう。

「よそはよそ、うちはうち」と言われたらそれまでですが、それは日本が所詮それまでの国であることを認めることになるのではないでしょうか。私は日本も同性婚を法制化するべきだと思いますし、法制化をしないということは差別だと認識しています。(後略)【2月4日 松尾彩香氏 Newsweek】
******************

岸田首相の言うように、同性婚法制化によって社会の価値観の変化が後押しされるというのは事実でしょう。

ただ、一部の者を極度に抑圧する現状について、変わるべきものは変わらなければいけないし、それによって異性婚の者が不利益を被るものでも、価値観を強制されるものでもありませんので、その変化を恐れる必要もない・・・ということでしょう。

今回の「騒動」で、ニュージーランドの元議員のスピーチが改めて注目を集めています。2013年に当時議員だったモーリス・ウィリアムソン氏が、同性婚を認める法案の最終審議と採決の際に行ったものです。

****「同性婚を認めても、関係ない人にはただ今まで通りの人生が続くだけ」*****
(2013年に当時議員だったニュージーランドのモーリス・ウィリアムソン氏が、同性婚を認める法案の最終審議と採決の際に行ったスピーチ)

「『不自然なもの』を支援していると批判されました」
私の選挙区の有権者に、「同性婚を認める法案が通れば、その日からゲイによる総攻撃が始まるだろう」と言った聖職者がいました。 

ゲイの総攻撃って、どんなものでしょうね。大勢のゲイたちが軍隊となって高速道路を攻めてくるんでしょうか? それともガスか何かが流れてきて、私たちを選挙区に閉じ込めてしまうんでしょうか? 

カトリックの聖職者にも、私が『不自然なもの』を支援していると批判されました。面白いですね。だって、一生独身、禁欲の誓いを立てた人がそう言うんです。まぁ、私には禁欲がどんなものかはよくわかりませんけどね。 

『永遠に地獄の業火で焼かれるだろう』とも言われました。間違いです。私は物理学の学位を持っています。自分の体重や体水分率を測って、熱力学の式で計算しました。もし5000度の火で焼かれたら、たった2.1秒で燃え尽きます。これはとてもじゃないけど永遠とは言えないですよね。 

養子縁組についてひどい意見もありました。私には3人の素晴らしい養子がいます。養子縁組がどんなに素晴らしいか知っていますし、だから、そういう意見がくだらないものだとわかります。邪悪ないじめです。私は小学校の時から、いじめには屈しないと決めています。

「この法案が社会にどういう影響があるか、心配しているんでしょう。言わせてください」
反対する人の多くは、この法案が社会にどういう影響があるかということに関心があり、心配しているんでしょう。
その気持ちはわかります。自分の家族に起こるかもしれない「何か」が心配なんです。

 繰り返しになりますが、言わせてください。 今、私たちがやろうとしていることは「愛し合う二人の結婚を認めよう」。ただそれだけです。 

外国に核戦争をしかけるわけでも、農作物を一掃するウイルスをバラ撒こうとしているわけでもない。お金のためでもない。 

単に、愛し合う二人が結婚できるようにしようとしているのであり、この法案のどこが間違っているのか、本当に理解できません。なぜ、この法案に反対するのかが。自分と違う人を好きになれないのはわかります。それは構いません。みんなそのようなものです。

「関係ない人にはただ、今までどおりの人生が続くだけです」
この法案に反対する人に私は約束しましょう。水も漏らさぬ約束です。 明日も太陽は昇るでしょうし、あなたの10代の娘はすべてを知ったような顔で反抗してくるでしょう。明日、住宅ローンが増えることはありませんし、皮膚病になったり、湿疹ができたりもしません。布団の中からカエルが現れたりもしません。 明日も世界はいつものように回り続けます。だから、大騒ぎするのはやめましょう。

この法案は関係がある人には素晴らしいものですが、関係ない人にはただ、今までどおりの人生が続くだけです。 

最後になりますが、私のところに、この法案が干ばつを引き起こした、というメッセージが来たんです。この法案が干ばつの原因だと。

ええと、私のTwitterアカウントをフォローしている方はご存知かもしれませんが、パクランガでは今朝、雨が降ったんですよ。 そしたら、今まで見たことがないくらい、大きな虹が見えたんです。ゲイ・レインボーが。 

これは、しるしに違いありません。あなたがもし信じるならば、間違いなく、しるしです。 

結びとして、この法案を心配している全ての人のために、聖書を引用させて下さい。旧約聖書の申命記、1章29節です。 「恐れることなかれ」【2月2日 HUFFPOST】
********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イギリス  インフレ、相次ぐストライキ  EU離脱から3年、「西欧最貧国」へ転落?

2023-02-03 23:34:27 | 欧州情勢

(記録的なインフレが続くイギリスで、教師ら公務員が、過去10年で最大規模とされる50万人規模のストライキを実施した。【2月2日 FNNプライムオンライン】)

【記録的インフレに相次ぐストライキ】
記録的なインフレが進むイギリスで、賃上げを求めるストライキが頻発し、国民保健サービス(NHS)の下で働く看護師らでつくる労組の「王立看護協会(RCN)」も12月15日、待遇改善を求めて全国規模のストライキに突入した件は以前ブログで取り上げました。


背景にあるのは人員不足からの医療体制の崩壊状態。「王立看護協会(RCN)」の組合書記長は「イギリスの医療は、落ちるところまで落ちた」とも。

救急車を呼んでも、特に1分1秒を争う生命の危機がある場合以外は長く待たされる。

一般の診療待ち患者に至っては、700万人が数か月待ちといった状態で、政府が「年内にせめて、18か月以上診療待ちの人を診て欲しい」とNHSに懇願するような状況。

体調が悪いから「今」受診を希望している訳で、それが18か月以上待たされたら・・・・。当然ながら、体調が更に悪化する者が増大し、そのような者は働けなくなり、更に社会全体の人出不足を加速させることにもなります。

こうした人出不足状態の原因については、コロナ後遺症やEU離脱の影響も指摘されています。

****英経済に人手不足の暗雲、コロナ後遺症やEU離脱で****
(中略)
<原因はコロナ後遺症か>
長期間病気を患う人の増加が、どれほど直接的に新型コロナに起因するかを正確に示すのは難しい。
新型コロナの症状が1カ月以上続いている英国人の数は4月初めの時点で約180万人と報告されており、このうち34万6000人前後は日々の活動を「大きく制限」せざるを得ないほど症状が酷いと述べている。これは労働参加率低下の原因かもしれない。

BOE(イングランド銀行)の金融政策委員会(MPC)のマイケル・ソンダース委員は最近の講演で、パンデミックによって緊急治療以外の医療を受けるための待ち時間が大幅に長期化したことで、病気が重症化して働けなくなる人が増えた可能性も指摘した。(中略)

<ブレグジットが追い打ち>
英国は今、求人が増えており、今年第1・四半期には賃金が前年比7%上昇した。英国のEU離脱(ブレグジット)前であれば職に就く人が増え、必要に応じてEU諸国から労働者を呼び込んでいたところだろう。

しかし過去2年間で、英国で働くEU加盟国籍の人は21万1000人減った一方、非EUの労働者は18万2000人増えた。そして今ではほぼすべての外国人労働者がビザを取得する必要があるため、海外からの雇用は困難さを増し、適切な職能を備えた人材を素早く採用して穴を埋めるのはハードルが高くなっている。(後略)【2022年5月31日 ロイター】
**********************

上記のような状況は今も続いており、2月1日には「過去約10年で最大規模」の学校教員や公共交通機関職員らによる同時ストが行われました。

****教師や鉄道職員ら同時スト=50万人参加、学校閉鎖も―英****
英国で1日、学校教員や公共交通機関職員らによる同時ストが行われた。参加者は全体で50万人とされ、英メディアによると「過去約10年で最大規模」。物価高騰などを受けた「生活費危機」に対応する一連の賃上げ要求の一環で、多くの学校で授業が中止されるなど市民生活に大きな混乱が生じた。

BBC放送のまとめによれば、イングランドとウェールズで中等教育までの教員10万人以上が参加。列車やバスの運転手、公務員、大学の教職員らもそれぞれストを行った。

これにより2万3000校以上の学校が閉鎖などの対応を余儀なくされ、通勤客の多くも交通手段を奪われた。【2月1日 時事】
********************

【経済・市民生活を悪化させたEU離脱 「西欧最貧国」へ転落との指摘も】
「光熱費や生活費は上がるのに、給料はまったく変わらない!」という状況、あるいはコロナの影響などは日本や他の欧米諸国も同様でしょうが、イギリスの場合、EU離脱という経済全体に悪影響を及ぼす特殊要因も影響しています。

そのため世論調査において「離脱は間違いだった」との声が増加しているようです。

****EU離脱「悪い方向」45%=3年経過で大幅増―英世論調査****
英国の欧州連合(EU)離脱から31日で3年が経過するが、「予想より悪い方向に進んでいる」と考えている人が45%と、2021年6月調査の28%から大きく増えていることが明らかになった。世論調査会社イプソスが30日、成人1000人を対象に実施した調査結果を発表した。

離脱によって日常生活がどう影響を受けたかについても、45%が「悪化した」と答え、「良くなった」と回答した11%を大きく上回った。

離脱によるマイナスの結果としては、「EUとの貿易障壁」を挙げた人が40%と最も多く、「移動の自由の終了」が30%で続いた。逆に、良い結果については「何もない」が24%で最も多かった。
 
イプソスは調査結果について「3年間で市民は国の方向性に悲観的だ。離脱派と残留派の根本的な意見の相違も依然として存在する」と分析している。【1月31日 時事】 
********************

****「私たちを一気に崩壊させた」イギリスのEU離脱から3年も厳しい声 約16兆円の損失との試算も****
EU=ヨーロッパ連合離脱から3年を迎えたイギリス。最新の世論調査では、半数以上が「離脱は間違いだった」と回答。離脱に否定的な考えの人が増えていることが分かりました。

ロンドンの金融街シティを中心に、ヨーロッパの金融センターとして発展してきたイギリス。しかし…

記者 「ヨーロッパ最大だった、ロンドン株式市場の時価総額がパリ市場に逆転されるなど、EU離脱の影響は金融街シティにも及んでいます」

3年前のEU離脱後、金融機関が人員や機能をイギリスから移す動きが進み、ブルームバーグ通信によりますと去年11月、ヨーロッパでトップだったロンドン株式市場の株式時価総額はパリ市場に抜かれました。

シティで働く人 「EU離脱の影響は絶対にあります。私はEU残留に投票しましたが、離脱の投票者は後悔していると思います」

また、イギリスで行われた最新の世論調査では「離脱は間違いだった」と答えた人が54%と、離脱の是非を問う国民投票が実施された7年前より10%以上増える結果となりました。

紅茶の販売会社社長、アガーウォルさん(50)も離脱に否定的な人のひとりです。
ニラージュ・アガーウォルさん 「EU離脱が私たちを一気に崩壊させました」

アガーウォルさんの会社は、離脱に伴う煩雑な通関手続きによる手数料の増加などで利益が大幅に減少。
ニラージュ・アガーウォルさん 「EU離脱の影響で、毎年およそ6万ポンド(約1000万円)近くの損失が出ています」

利益の半分を充て行っている、生まれ育ったインドでの学校の運営も厳しくなりました。事業継続のため、アガーウォルさんはEUへの輸出を止め、北米、さらに日本などに販路を拡大しています。
ニラージュ・アガーウォルさん 「フランスやドイツの顧客に販売するよりも、アメリカに売る方がはるかに簡単です」

EU離脱について、イギリスのスナク首相は「すでに多大な利益とチャンスをもたらしている」と主張。
一方で、ブルームバーグエコノミクスはこれに反する分析として、イギリス経済に年間およそ16兆円の損失が生じているとの試算を出しています。【2月1日 TBS NEWS DIG】
********************

EU離脱がイギリス経済に悪影響をもたらすということは、当初からわかっていた話で、個人的には「何を今更・・・」という感も。

イギリス経済の凋落は単なる生活実感ではなく、数字にあらわれています。

IMFの二一年のまとめでは、英国の一人当たりGDPは約四万六千ドルで、オランダ(約六万二千ドル)やドイツ(約五万四千ドル)に比べると、かなり低い数字になっています。

更に大ロンドンを除くと、二万ドル台になり、旧東欧諸国とほぼ同水準になるとも。

セックス産業の従事者も急増しているとか。

【生活苦の国民から遊離した資産家スナク首相】
国民がセックス産業に入ってでも何とか生活を支えよう・・・としている時期の首相として、国王をも凌ぐと言われる資産家のスナク首相は何とも場違いな感じも。

****英スナク新首相は資産1200億円の超リッチマン! スーツ59万円、靴に7万6000円、コーヒーカップは3万円!****
10月25日、チャールズ国王の任命を受けて英国の首相に就任するスナク元財務相。スナク氏は、インド系ヒンズー教徒で、英国初のアジア系首相が誕生する。  

スナク氏は、1960年代に英国に移住したインド系アフリカ移民の両親を持つ。父は医師、母は薬剤師。本人は名門全寮制校ウィンチェスター・カレッジ、オックスフォード大学で学んだ英才だ。  

卒業後、渡米してスタンフォード大学大学院でMBAを取得し、米金融大手ゴールドマン・サックスに就職。その後、ヘッジファンドで働いた後、政界入り。エリート街道を歩んできた。  

妻はインドのIT企業インフォシス創業者の娘。スナク夫妻は2022年、英紙「サンデー・タイムズ」の長者番付で、英国のもっとも裕福な250人にランク入りした。

推定資産は、夫妻合わせて7億3000万ポンド(約1227億円)だ。 「英紙『ガーディアン』によると、夫妻が2人の娘と過ごす自宅は現在、 200万ポンド(約3億3600万円)以上の価値があり、寝室が5室。40万ポンド(約6700万円)の、12m×5mの屋内スイミングプールや、ジム、ヨガスタジオ、テニスコートまで備えています。  

選挙運動中に建築現場を視察する際にも、3500ポンド(約59万円)もする特注のオーダースーツを着用。靴は450ポンド(約7万6000円)の、プラダのローファー。妻からの贈り物とされるマグカップは、オンラインで最大180ポンド(約3万円)で販売されているもので、充電コースターもついているため、温かい温度を最大3時間、保持できるとのこと。 

『ガーディアン』紙は、スナク夫妻はチャールズ国王以上の資産家と伝えています」(英国事情に詳しいジャーナリスト)  

スナク氏の妻は、父親のソフトウェア会社・インフォシスの株の0.93%(約1160億円相当)を所有しており、配当は年間1160万ポンド(約19億5000万円)。妻が「非定住者」として、海外での所得について税金を英国で納めていなかったことが、批判されたこともある。  

エネルギー価格高騰に苦しむ英国民。経済の安定を求める国民の声に、「超リッチマン」であるスナク氏は答えられるだろうか。【2022年10月25日 FLASH】
*******************

こうした国民の目をスナク首相も意識しており、首相は1月、国民の生活苦を「自分の目で見る」という触れ込みで、ホームレスのための給食センターで、配食係を買って出たそうです。

しかし、首相周辺が案じた通り、ホームレスたちとは会話が成立しなかったとか。首相のスーツ一着で、ホームレスは何か月も遊んで暮らせるのですから・・・・。

“人々の不満を反映して、スナク政権の支持率は12%と低迷。不支持は70%になっています。”【2月2日 TBS NEWS DIG】とも。

金融界にとって、首相は「使い捨て」でいくらでも首をすげ替えられますが、このままでは保守党政権の存続は難しいようにも見えます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ  不法移民対応に揺れる 強制送還措置は? バスでNY市に送られた移民のその後は?

2023-02-02 23:27:23 | 難民・移民

(メキシコとの国境を視察するバイデン米大統領(左から3人目)=テキサス州エルパソで8日、AP【1月10日 毎日】)

【当面存続することになった強制送還措置「タイトル42」】
アメリカにおいて中絶や銃規制と並んで政治を左右する大きな問題となっているのがメキシコ国境に押し寄せる不法移民への対応。

トランプ前政権は、コロナ対策を名目に、通常の法的審査なしで移民希望者を即座に送還できる「タイトル42」を適用して強制送還していました。

バイデン大統領は選挙ではこの「タイトル42」廃止を掲げていましたが、実質的には就任後もこれを運用継続して移民を強制送還してきました。

しかし、移民の権利を重視する勢力からの批判もあって、バイデン政権は昨年末の「失効期限」に併せて、タイトル42を失効させることとしました。

これに対し、不法移民規制を求める州からはタイトル42の存続を求める訴えがだされ、昨年末段階ではその扱いに関する司法判断が注目されていました。

****国境に殺到する不法移民…「タイトル42」まもなく失効 「送還」と「受け入れ」で揺れるアメリカ国内****
アメリカ南部のメキシコとの国境沿いに、不法に国境を越える移民が殺到している。国境の川沿いにはテントがひしめき合い、すでに入国した移民希望者のなかには、滞在するはずの避難シェルターが満員状態となり、空港で生活する人まで出ている。

なぜこのような事態に陥っているのか。それはトランプ政権時代の2020年に導入した「タイトル42」と呼ばれる移民制限措置を連邦地裁が無効とし、21日に失効する予定となっていたからだ。

“国境が開放される”と希望を持った移民希望者が大挙して押し寄せ、メキシコとの国境の街、テキサス州エルパソ市では行政機能が破綻直前となり、非常事態も宣言された。

バイデン政権は「国境を開放するものではない」と事態の混乱を抑えるメッセージを出す一方で、予定通りにこの「タイトル42」を廃止する方向で進めていた。

しかし連邦最高裁は19日、19州からの緊急請願を受け、この失効を一時停止し、20日までに19州からの要望に対する政府の回答を求めた。

バイデン政権は20日に、この法律の失効の一時停止を少なくとも27日まで延長した上で、「タイトル42」を予定通り失効させるべきとの回答を最高裁に示した。

「タイトル42」実際の運用は…
不法移民が押し寄せている、テキサス州のグレッグ・アボット知事は18日、米ABCテレビのインタビューで「タイトル42の終了は完全な混乱をもたらす」と強調し、法律の失効に大きな懸念を示した。

この「タイトル42」とはアメリカの公衆衛生法の一部で、伝染病などを持ち込む危険があると判断した場合に、入国を禁止できる措置だ。

トランプ政権時代の2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大し発動された。表向きは、感染拡大を防ぐためとしているが、実際の法律の運用は、不法移民を入れないために適用されている面があり、2年間での送還者は250万件以上に及んでいる。

移民制限措置は他にもあるが、もう1つの主な法律である「タイトル8」と呼ばれるものは、罰則も含めて適用が厳格な分、送還するプロセスに何年もかかることがある。一方で、タイトル42は、伝染病の蔓延を防ぐ立て付けのため、通常の法的審査なしで移民希望者を即座に送還できるメリットがあり、運用する側は非常に使い勝手がよいのだ。

アメリカメディアによれば、ほとんどの場合、2時間以内に不法とされた移民を追い出すことができるとしている。ただ、移民希望者に対して、国内で亡命を求めることを認めず、迫害や人権侵害の恐れがある人までも簡単な手続きで追放できることから、人権無視だとの批判も起きていた。

さらに、送還されてもそれがほとんど記録に残ることはないため、繰り返し何度も挑戦することができ、事態の解決にはつながっていないとの声もある。

アメリカとしては、処理に時間がかかる従来の法律と、簡単に送還できる「タイトル42」との併用を続けてきたわけだが、この片翼の「タイトル42」が失効することで、不法移民は期待を持って国境を渡ろうとし始めたのだ。

押し寄せる不法移民に街は大混乱
国境の自治体関係者や非営利団体などは、すでに入国した移民希望者への住居、食料、衣料を提供しているが、行政機能は限界を迎えているといっていい状況だ。

テキサス州エルパソ市では、国境警備隊の不法移民との遭遇件数が12月に1日あたり2500件に達し、すでに5万人以上の不法移民が市や非営利の避難所、街中に解放された。避難所は収容人数の限界を超え、公立学校の建物を使う可能性なども検討されている。

しかしエルパソ市では、入国希望者を保護する施設やアメリカ国内で移動する手段を提供することができず、街中に人があふれかえり、さらに押し寄せる不法移民の波に、非常事態を宣言する状況に追い込まれてしまった。

テキサスの地元紙「テキサスマンスリー」はこの事態に、バイデン大統領とアボット知事の両方に対して厳しい論調を示している。ニカラグアのような権威主義と機能不全に陥っている国や、ベネズエラのような国から逃れてきた人たちを受け入れることもできず、難民と地元住民の双方を危険にさらしていると批判。

「深刻な問題に直面しているが、解決可能な問題だ」と強調して、政治的な対立を優先せずに、大統領と知事がともにこの問題の対処に当たるよう呼びかけた。(中略)

政治的な対立を超えて対策は?
この状況にかみついたのは、トランプ前大統領だ。
19日の声明では、「過去2年間、バイデンは何百万人もの不法移民を招き入れ、巨大な不法越境を行わせてきた」と政権を批判。(中略)

バイデン政権は2022年の早々に、このタイトル42を解除しようと動いたこともあったが、準備不足という面も否めず、不法移民に悩む州からの訴えもあり、この解除を延長した経緯もある。

実際に、トランプ政権からバイデン政権に移行して以降は、移民希望者や不法移民は増加傾向にあり、アメリカ国内でも大きな社会問題となっている。移民政策に寛容なバイデン政権としては不法移民の対策をしつつ、移民を受け入れようという意欲は見えるものの具体的な対策は乏しく、後手に回っている印象だ。

ただ、野党・共和党側にも果たして責任がないのかとも言える状況でもある。アボット知事側はこれまで、増加する不法移民をバスに押し込め、民主党・バイデン政権の支持基盤である、ニューヨークやワシントンDCと言った都市に送りつける強硬手段をとって物議を醸したこともある。

11月に行われた中間選挙を前に、「政治的パフォーマンス」とも批判されたが、連邦政府、州政府ともに具体的な対応策を協調して行う動きは見られず、現状の解決にはほど遠い状況にあると言える。

国民からは、「何でもかんでもバイデン政権のせいにする」と批判の声も強まり、党派を超えてこの問題を解決していこうという姿勢が感じられないというものだ。(後略)【2022年12月27日 FNNプライムオンライン】
*******************

「12月27日以降」どうなるのか注目されていた「タイトル42」でしたが、アメリカ最高裁は12月27日、法廷闘争が決着するまで継続を認める判断を示しました。

【バイデン大統領 新たな移民対策】
“具体的な対策は乏しく、後手に回っている印象”との批判があるバイデン大統領は年明け早々に、新たな対策を発表しました。

不法入国者への取り締まり強化策として、中南米の4カ国(ベネズエラ、キューバ、ハイチ、ニカラグア)から許可なく入国しようとした移民は、強制退去の対象とすることに。

一方で、合法的な入国の道を広げ、この4カ国から特別な入国枠で毎月最大3万人を米国に受け入れる。ただし、不法入国を試みた人は対象外にする・・・という内容。

しかし、強制退去対象を拡大するという国境管理強化の側面があるため民主党内には批判もあります。

バイデン大統領は1月8日には就任後初めて国境を訪問して、上記対策をアピールしています。

****バイデン米大統領、メキシコ国境を初訪問 不法移民対策をアピール****
バイデン米大統領は8日、中南米からの移民希望者が殺到している南部テキサス州エルパソを訪問し、国境管理の現場を視察した。バイデン氏がメキシコとの国境地帯を訪れるのは大統領就任後初めて。5日に公表した不法移民対策の新たな措置をアピールする狙いがある。

バイデン氏はエルパソで税関・国境警備局の担当者らから取り締まり状況の説明を受けた。国境沿いに設置されている巨大なフェンスも視察。支援団体などと対策の在り方についても意見交換した。

新たな措置は、昨年10月からベネズエラ出身者に適用している制度をキューバ、ハイチ、ニカラグアの出身者にも拡大するのが柱。米国に身元引受人がいるなどの条件を満たせば2年間の滞在と就労が可能になる。不法越境した場合は原則としてメキシコに強制送還される。(後略)【1月9日 毎日】
*******************

共和党からは国境訪問が「遅すぎた」「写真撮影のため」(マッカーシー下院議長)といった批判も。

【NYにバス移送された不法移民は今どうなっているのか?】
一方、共和党アボット・テキサス州知事など南部州知事がバスに押し込め、民主党・バイデン政権の支持基盤である、ニューヨークやワシントンDCといった「移民に寛容」とされる都市に送りつけた不法移民はその後どうなったのか?

****南部州からNYにバス移送された不法移民は今どうなった?****
<南部州から大量に移送されてきた不法移民は、リベラルなニューヨークでどんな暮らしをしているのか。思ったより悪くないとも思えるが、「俺たちは犬じゃない」と怒っている>

ベネズエラ人のアイザック・カスティリャーノ(21)は2022年8月に米南部の国境を越えてアメリカに入国。10月からニューヨーク市に滞在し、12月からはマンハッタンにあるワトソンホテルで暮らしてきた――今週までは。

1月29日、外出先から戻ってみると、カスティリャーノは1カ月半滞在したホテルから突然、締め出された。ニューヨーク市が、不法移民のうち独身男性をブルックリンにあるクルーズ・ターミナルに設置したテント村に移し、ワトソンホテルには子連れの家族を滞在させることにしたためだ。

カスティリャーノはその日のうちにバスでテント村に向かったが、施設を一度ぐるりと見た後、マンハッタンに戻ることにした。市が用意した「新しい家」の状況について、仲間の移民たちに警告しなければと思ったためだ。

彼をはじめ、ほかにも「引っ越し」を求められた不法移民たちは、ホテルの部屋にはもう入れないため野宿をすることにした。1月31日午後の時点で、彼らはまだ57丁目の路上に設置したテントの中で、ホテルに戻る許可が下りるのを待っていた。

「ワトソンホテルのような、もっと安定した場所に滞在できるという約束だった」と彼は本誌に述べ、さらにこう続けた。「騙された気分だ」

国の問題なのに都市に負担が
ニューヨーク市当局によれば、過去1年で推定4万3000人を超える不法移民が、南部の州からバスでニューヨークに移送されてきている。

ジョー・バイデン米政権に、南部国境地帯の問題に対処するよう圧力をかけるために始められたこの「移送」が、ニューヨークの資源を圧迫し、多くの不法移民を混乱に陥れている。

ニューヨークのエリック・アダムズ市長は、バイデンに連邦政府の助けを求めてきた。バイデンは31日に、看板政策のインフラ投資法をアピールする遊説のために、ニューヨークを訪れる予定だ。アダムズは、「国家の問題」についてニューヨークのような都市が負担を強いられているのは不公平だと主張する。

テキサス州など南部の複数の州の知事は、大量の移民が不法に越境してくる問題に注目を集めるため、バイデンが大統領に就任した2年前から、移民をバスに乗せて北部の州に移送してきた。

政府は不法移民の問題に対処するための長期計画を模索しているが、アダムズは「必要なのは短期計画だ」と言う。

1月25日にMSNBCの人気番組「モーニング・ジョー」に出演したアダムズは、次のように語った。「自分の家が燃えている時に、防火対策についての議論なんて聞きたくはない。私は火を消して欲しいのだ。いま起きている火事は、国内の複数の都市に不法移民や難民希望者が集中しすぎているという問題だ」

アダムズの事務所は本誌と共有した声明の中で、ブルックリンのクルーズ・ターミナルはワトソンホテルと同様のサービスを提供すると主張している。

だが1月29日にバスで移送された不法移民たちは、テント村から出て、自分たちが目にした状況について抗議の声を上げている。

インターネット上に投稿されたテント村の写真や動画には、狭いスペースに折り畳みベッドが並んでいる様子が映っている。カスティリャーノは本誌に対して、新たな施設にはプライバシーがほとんどなく、400人以上の収容者に対してトイレが4つだけで、持ち込みを許されたスーツケース1個の保管場所もないし、携帯電話を充電するためのコンセントもないと語った。

ほかの複数の男性は、ニューヨークのウェブメディア「Gothamist」に対して、新たな施設はとても寒く、暖房もなければお湯も出ないと語った。

「あそこで犬みたいに寝るのはごめんだ」とカスティリャーノは言い、さらにこう続けた。「僕らが望んでいるのは、もっとましな生活だ」(中略)

アダムズの報道官は、ブルックリンに出来た新たな施設は暖房があって適切な温度管理が行われており、トイレも85~90あると説明。収容者一人ひとりに、荷物を収納するスペースが割り当てられていると述べた。

カスティリャーノをはじめとする不法移民たちがブルックリンのテント村に移るのを拒んでいる理由のひとつは、同施設が公共交通機関では訪れにくいレッドフックに設置されていることだ。ワトソンホテルの近くで仕事を見つけたり、英語のクラスに通ったりしている者にとってブルックリンへの引っ越しは、新たな職場や学校から約13キロも離れた場所に移ることを意味する。

ニューヨーク・ポスト誌は1月に入って、アダムズがニューヨーク市ホテル協会と2億7500万ドルの契約を結び、今後6カ月にわたって少なくとも5000人の移民を同協会に登録する300のホテルで受け入れる取り決めを交わしたと報じた。ただしニューヨーク市は、これらのホテルには家族連れの移民を優先的に滞在させたいとしている。

カスティリャーノは、今の一番の悩みは、少なくとも3カ月は確実に滞在できる場所を見つけることだと言う。ワトソンホテルに移る前には、ランドールズ島にある広さ約7800平方メートルの仮設の人道支援施設に滞在していたが、ここは開設から1カ月を待たずして閉鎖されてしまった。ニューヨークに来てからは何度も滞在場所が変わったため、地理には詳しくなったという。

「保護を求めている訳ではない。何も求めてはいない。ただベッドと、安心して眠れる場所が欲しい」とカスティリャーノは言った。(後略)【1月31日 Newsweek】
******************

ニューヨーク市のアダムズ市長によれば、受け入れ費用は最終的に20億ドル(約2560億円)に達する見通しとのことで、バイデン民主党政権に対策を求めています。

一方で、移民のための支出に市民からは不満も。

****宿泊1泊5万円…NY移送の〝不法移民〟への不満募る****
米ニューヨーク市のアダムズ市長(民主党)が米南部の国境地域から移送された4万人超の〝不法移民〟への対応に苦慮している。受け入れ費用は最終的に20億ドル(約2560億円)に達する見通しで、バイデン民主党政権に対策を求めた。

アダムズ氏は受け入れを歓迎するが、膨大な費用がかかるのに加え、一時滞在先のホテルでの移民の振る舞いが問題化し、市民の不満は募っている。

「ホテルの部屋に調理器具を持ち込んで自炊し、カーペットが焦げた」「感染症対策を守らない」「飲酒禁止なのに大量のビールの空き缶が廃棄される」。一時滞在先ホテルの従業員は1月、米ABCテレビにこう証言し、火災発生や伝染病拡大への懸念を訴えた。

ホテルはマンハッタン中心部に位置し、宿泊費用は通常1泊400ドル(約5万2千円)以上という。「米国人でも手が届かないサービスを移民に提供するのは間違っている」(マッコーイ元ニューヨーク副知事)との不満も出ている。

移民はもともと、メキシコからビザ(査証)を持たずに米南部テキサス州などに侵入し、拘束された不法移民。米国が制裁を科す反米左派政権のベネズエラから来る例が増えている。亡命を申請し、一定の条件を満たすと判断されれば、申請に対する決定が出るまで、合法的な一時滞在が認められる。

不法移民に寛容なバイデン政権の発足後、一時滞在が認められやすくなると期待が高まり、不法入国を試みる人が急増した。負担の増えたテキサス州などで批判が強まり、アボット同州知事(共和党)が昨春から、政権への抗議の意思を込めて首都ワシントンにバスでの移送を始めた。

ニューヨーク市への移送は昨年8月に開始。アダムズ氏は昨秋の中間選挙を前に、「ニューヨークは移民の街だ。常に新たな移民を歓迎する」と述べる一方、アボット氏を「思いやりの心がない」と批判するなど、移民政策は党派対立を色濃く反映した課題となっていった。

米公共ラジオなどの8月時点の全米調査では、「南部国境が侵食されている」と答える成人が半数を超えた。ニューヨーク在住の20代女性も「本音を言えば心地よいわけではない」と話す。

ニューヨーク市の負担は移民用の食事確保や教育支援などで増加の一途をたどり、アダムズ氏は非常事態を宣言。今年1月にはバイデン大統領に続き、テキサス州国境付近の街エルパソを視察した。2人の視察は「現場に来て実態を知るべきだ」とアボット氏が訴えていたものだ。

対策に窮するアダムズ氏は視察後、「移民を全米各地に分散する計画を立ててほしい」とバイデン政権に要望。移民支援の活動家は、政権の対応に期待を寄せる。

ただ、たらい回しにされることに嫌気がさす人もいるようだ。子供2人を連れてベネズエラからニューヨークにたどり着いたダビッド・ガストロさん(34)は1日、取材に対し「カナダの(最大都市)トロントに行きたい。米国よりも移民に寛容なイメージがあるからだ」と話した。【2月2日 産経】
*********************

“1泊5万円”云々は、全てのホテルの話ではなく、中にはそういう事例もあるということではないでしょうか。

いずれにしても不法移民への対応は難しい。寛容に扱っても、厳しく扱っても、批判はあるでしょう。バイデン大統領の対応が後手に回っているのも、ニューヨーク市などへの支援が十分でないのも、そういった問題の性格によるものでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー  国軍のクーデターから2年 状況は「悪化の一途」 困難な抵抗、薬物に逃避する若者も

2023-02-01 23:17:55 | ミャンマー

(買い物客でにぎわうミャンマー・ヤンゴンの市場=1月29日(共同)【2月1日 産経】 一見、平穏な市民生活が営まれているようにも見えますが・・・・)

【「悪化の一途」 「状況は10年前に逆戻り。いや、それよりひどい」】
昨日・今日、国際面で最も多く目についたニュースはミャンマー情勢に関するもの。何か変化があった訳ではなく、国軍によるクーデターから2年経過という「節目」にあたっての記事です。

2年が経過しての状況は一言で言えば「悪化の一途」。欧米によるミャンマー軍政批判に慎重な日本政府が言うのですから間違いないでしょう。

****悪化の一途をたどるミャンマー情勢を深刻に懸念=松野官房長官****
松野博一官房長官は1日午前の記者会見で、ミャンマーで軍がクーデターを起こしてから2年が経過するなか「ミャンマー国軍は国際社会の声に聞く耳を持たず、暴力行為は止む兆しがない」と指摘、「悪化の一途をたどるミャンマー情勢を深刻に懸念している」と述べた。(後略)【2月1日 ロイター】
*******************

クーデター勃発後の2021年4月にミャンマー国軍が拘束。5月に解放され、日本に帰国することを余儀なくされたジャーナリストの北角裕樹氏は「状況は10年前に逆戻り。いや、それよりひどい」と。

****ミャンマー国軍によるクーデターから2年「状況は10年前に逆戻り。いや、それよりひどい」ジャーナリスト・北角裕樹氏が解説****
(中略)ミャンマー経済は、2011年の軍事政権による民政移管後、概ね順調な拡大を続けていた。北角氏は「民主化が進んで夢があり、明るい未来があった。しかしクーデター後の混乱で、立て直せない状態にある。商店には日常が戻ってきていると聞いているが、ダメージを負っているのはとくに貧困層だ。物乞いをしなくてはいけない人もいると聞いている」と厳しい経済状況について触れた。

国軍の弾圧で民間人の死者はおよそ2900人、拘束中の政治犯は1万3000人を超え、いまも各地で民主派との武力衝突が頻発している。

言論活動については「今は政府・国軍の批判は出来ない。するとしたら地下活動でしか出来ない。ジャーナリストが他の仕事を持ちながらヤンゴンに潜伏し、インターネットで配信するという方法になる」と述べた。

また「ミャンマーの90年代は圧政の時代だったが、『今はそれに輪をかけて厳しい』とミャンマー人が言っている。いまは内戦状態で、国民が敵・味方に分かれて戦っており、いつ密告されるかもしれず喫茶店でも話が出来ない」と、心休まらずピリピリとした緊張状態に置かれた国内の様子について指摘した。【2月1日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
**********************

国軍は「力による支配」の体制を固めており、8月までに行うとされていた総選挙もその実施は不透明になっています。仮に実施されたとしても国軍に都合の悪い勢力の参加は許されず、国軍支配を正当化するための形式的儀式でしかないでしょう。

****ミャンマー支配を固める国軍 クーデターから2年****
ミャンマーで国軍がクーデターにより全権を掌握してから1日で2年となる。国軍は8月までに総選挙を行う意向を示すが、公正な選挙が行われる可能性は低い。

民主派への弾圧や少数民族武装勢力との戦闘を続けながら、国軍は形式のみの「民政移管」で親軍政権を樹立し、支配を固めようとしている。

国軍は2021年2月1日、国家顧問兼外相のアウンサンスーチー氏(77)や与党、国民民主連盟(NLD)の幹部らを拘束し、全土に非常事態を宣言。憲法はその期間を最大2年と規定しており、31日に期限を迎えた。終了後は半年以内に総選挙を行う必要がある。

国軍はNLDが圧勝した20年の総選挙に不正があったとしてクーデターを起こし、総選挙実施はその直後から表明していた。ただ、国民的人気があるスーチー氏には度重なる刑事訴追で身柄拘束を続け、政治生命を断つ動きを進める。スーチー氏が受けた刑期は計33年に及ぶ。選挙制度も改め、組織票を持つ国軍系政党に有利な比例代表制を導入する予定だ。

民主派は総選挙をボイコットする考え。NLD元国会議員は産経新聞の取材に「すべてが国軍に有利な環境で行われる選挙に参加する意味はない」と述べた。

国内では民主派がつくる挙国一致政府(NUG)が結成した「国民防衛隊」と国軍の戦闘が続き、NUGに呼応する少数民族武装勢力も攻勢を強める。不安定な治安状況を名目に、国軍トップのミンアウンフライン総司令官は選挙延期の可能性も示唆している。

市民団体によると、クーデター以降の弾圧の死者は2901人、逮捕者は1万7525人。国連の集計で住居を追われた市民は120万人を超える。NUG関係者は「最大の課題は国際的関心が薄れていること。国際社会はミャンマー市民が日々殺されていることを踏まえ、国軍の横暴をさらに糾弾すべきだ」と訴えた。【1月31日 産経】
*******************

【スーチー氏の近況】
スーチー氏の近況は詳しくは報じられていませんが、“スーチー氏は首都ネピドーにある刑務所内の約20平方メートルのバンガローに収容されたままだ。スーチー氏が率いた国民民主連盟(NLD)の男性幹部によると、暑さが厳しく、水が汚いことから皮膚アレルギーの症状が出ているという。”【2月1日 共同】

その政治的影響力はほぼ封じ込められている状況のようです。「前世代の人」との評価も。もっとも、もし解放されれば、再び民主派の中核となる存在でしょう。

*******************
スーチーさんと市民による武装勢力とは完全に分離されています。スーチーさんが彼らや彼女たちを指導している状況にはありません。

市民の武装勢力はもちろん、軍に反対する一般市民はスーチーさんたちの解放を求めていますが、あくまで「市民の権利と義務」を意識して行動しています。スーチーさんは民主化のシンボルでしたが、すでに前世代の人だという認識があるようにも感じます。【2月1日 フォトジャーナリストの宇田有三氏 日系メディア】
********************

【せめてもの「沈黙のストライキ」】
国軍支配に抵抗する民主派勢力は外出を控えて軍への抗議の意思を示す「沈黙のストライキ」を呼びかけています。
そのことは、国軍の厳しい支配下で積極的な抗議は出来ない状況にあり、そうした方法しかとれないという現状を示してもいます。

****ミャンマー“クーデター”から2年 民主派勢力、抗議の意志示す「沈黙のストライキ」呼びかけ****
ミャンマー軍がクーデターを起こしてから、1日で2年です。軍による武力弾圧が続く中、民主派勢力は1日、抗議の意志を示す「沈黙のストライキ」を呼びかけています。

ミャンマー軍が全権掌握の根拠としていた非常事態宣言は、先月31日で期限を迎えました。軍は憲法にのっとり、8月までに総選挙を行い、民政移管する意向を示していますが、民意を反映した選挙になるかは疑問視されています。

一方、民主派勢力は1日、外出を控えて軍への抗議の意思を示す「沈黙のストライキ」を呼びかけています。軍の徹底した武力弾圧で、表だった抗議行動はできなくなっています。(後略)【2月1日 日テレNEWS】
********************

「沈黙のストライキ」すら、国軍の圧力のもとで行うのは非情な決断と覚悟を要します。

【薬物に逃避する若者も それを黙認する国軍】
もちろん武装闘争に身を委ねているような若者らの意思は固いものがあります。
“右手を失った男性「(Q.後悔は?)命をかけて戦っている仲間を思えば、右手くらいなんでもない。ただ、母に伝えた時、母は泣きました。そのことは悲しかったです」”【2月1日 TBS NEWS DIG】

しかし、普通の一般市民にとっては、出口の見えない泥沼状況は耐えがたいものがあり、一部には「薬物」に逃避するような状況もあるようです。また、そうした状況を軍が黙認・誘導しているとも。

****ミャンマー軍事クーデターから2年 軍と民主派の戦闘が泥沼化…市民生活に影 若者の一部に「薬物」まん延も****
ミャンマーで軍事クーデターが起きてから2月1日で2年です。軍と民主派の戦闘が泥沼化する中、電力事情の悪化で停電が続くなど、生活に影を落としています。市民の間に閉そく感が広がり、一部の若者たちの間では「薬物」がまん延。国外に逃れようとする若者も後を絶ちません。
   ◇◇◇
ミャンマーの国境地帯。クーデターに反対する若者たちは、今も軍と激しい戦闘を続けています。一方、最大都市ヤンゴンの車通りはクーデターの直後より戻ってきた印象も。市場にはたくさんの食材が並び、都市部では日常が戻りつつあるように見えます。

しかし、世界銀行によると、ミャンマーでは経済の落ち込みで、貧困ライン以下で暮らす人が2017年(24.8%)から1割以上増え、全人口の約4割に達しているということです。

鶏肉店の店員 「客は3分の2に減った。みんな、お金がないのだと思う」

さらに、市民生活に影を落としているのが、電力事情の悪化による停電です。毎日4時間ほど停電が続く地区もあるといいます。幹線道路では信号機も停電し、商店が立ち並ぶエリアでは至る所で発電機が使われていました。

店のオーナーは、「少しイライラします。電気が止まると(発電機の)ガソリンを買いに行くので、その分、仕事が増えます」と話すなど、市民の間に閉そく感が広がっています。
   ◇◇◇
民主化への道筋が見えない中、抑圧された環境は若者たちを追い詰めています。

かつて抗議デモに参加していた25歳の女性が見せてくれたのは、カラフルな照明が輝くナイトクラブの映像です。1年あまり前、友人に誘われて、初めて訪れた時のものだといいます。

女性(25) 「たくさんのテーブルにパイプや皿を置いて、堂々とドラッグをやっている人たちがいたんです」
話の途中、彼女が突然バッグから取り出したのは、黄色いプラスチック製のパイプ。彼女も薬物を常習するようになっていました。若者の一部でまん延しているのは通称“K”。幻覚作用のある「ケタミン」です。

女性(25) 「ここ(ナイトクラブ)は、ヤンゴンで楽しめる唯一の場所です。私たちはどこへ行っても自由ではありませんから」

無法地帯となっているナイトクラブですが、当局は見て見ぬふりをしているといいます。また、国連薬物犯罪事務所(=UNODC)によると、ミャンマーでは去年、麻薬の原料となるケシの栽培面積が3割以上増えたとの報告もあります。

“黙認”の理由について、別の20歳の女性は「(軍事政権は)若者が政治に興味を持たないよう、注意をそらそうとしています」と話しました。
   ◇◇◇
混迷が深まるミャンマー。国外に逃れようとする若者も後を絶ちません。

29日、ヤンゴンにあるアパートの一室を訪ねると、肩を寄せ合って座る女性たちの姿がありました。国外で職を得るために、英語の勉強をしているのです。地方から出てきた20歳から35歳までの女性9人が、共同生活をしています。パスポートが発行されたら、一刻も早く国外に出るためです。

出国を目指す女性(20) 「母と祖母の体調があまりよくありません。もし、お金があれば2人の治療ができます。稼げるなら“悪い仕事”(売春)以外、何でもやります」

クーデターから2月1日で2年。混迷からの出口はいまだ見えません。【1月31日 日テレNEWS】
******************

若者が政治に無関心になるように、国軍は意図的に麻薬を流している・・・といった話もよく聞かれるそようです。

【制裁に参加しない日本 結果的に資金が国軍へ】
「力による支配」を強める国軍に対し、欧米は制裁強化で対抗しています。制裁の効果があがっているとは言えない状況ではありますが。

****米と同盟国、ミャンマーに追加制裁発動****
米国は31日、同盟国の英国、カナダ、オーストラリアと協調してミャンマーへの追加制裁を科す。ロイターが入手した米財務省の声明で分かった。(中略)

声明によると、米政府はミャンマーの選挙管理委員会、ともに国営の鉱業関連企業2社、エネルギー関係当局者、現・元軍人に対して制裁を科す。カナダとオーストラリアは1月31日に追加制裁を科した。

財務省の声明によると、今回の米国の制裁では国営のミャンマー石油ガス会社(MOGE)のマネージングディレクターと副マネージングディレクターを対象にする。人権擁護団体は、軍事政権の重要な収入源となっているMOGEに対する制裁を要求してきた。

財務省によると、Myo Myint Ooエネルギー相も対象となる。同氏は国内外のエネルギー部門でミャンマー政府を代表し、石油・ガスの生産と輸出に関わる国有企業を管理している。【2月1日 ロイター】
*********************

日本はこうした欧米の制裁には参加せず、民主派と同時に国軍ともパイプを維持する対応をとっていますが、日本も制裁に参加するように促す声もあります。

****「日本も制裁参加を」=ミャンマー危機で国連報告者****
ミャンマー国軍によるクーデターから2年になるのを前に、同国の人権問題を調べる国連のアンドルーズ特別報告者が31日、報告書を公表した。その中で日本に対し、国軍関係者らへの制裁網への参加や、軍関係者の即時国外追放を促した。

報告書は、ミャンマー国軍が設置した最高意思決定機関「国家統治評議会(SAC)」について「正統な政府ではなく、承認されるべきではない」と強調。国連加盟国に対し、承認につながる行動を慎み「SACを外交的に孤立させる」よう求めた。

日本や韓国など、ロシアのウクライナ侵攻で制裁を発動しながら、ミャンマー危機では制裁を見送っている国に対しては「直ちに制裁を科すよう勧告する」と訴えた。【2月1日 時事】
********************

日本はクーデター以降、経済制裁を強める欧米諸国と一線を画し、対話を探ってきましたが、国軍の強硬さは増す一方です。また、「対話」と言いながらも成果はほとんどなく、日本が手を引いたあとの中国の影響力拡大を経過しているのが本音とも。

新規ODAは停止していますが、既存のODAは続行されており、その資金が国軍支配化の企業に流れており、結果的に国軍支配を資金的に支援している形にもなっています。

********************
国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、橋梁事業などを手掛ける横河ブリッジが、ミャンマー国軍傘下のミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)に対し、約130万ドル(約1億7000万円)を支払っていたことが判明したと発表した。

松野長官は、バゴー橋建設事業について「交通や物流のボトルネックを解消し、ミャンマーの経済発展を支え、国民生活の向上を促すことを目的とした事業」と説明、「ミャンマー国軍の利益を目的として実施しているものではない」と述べた。【2月1日 ロイター】
**********************

一方的に事業を中断すれば契約違反になる可能性があるとのことで継続されている事業ですが、国軍支配に苦しむミャンマー国民を納得させる理由ではないようにも思えます。

****ミャンマー “非常事態宣言 6か月間延長” 国営メディア****
ミャンマーの国営メディアは、軍が2年前のクーデターに伴って発令していた非常事態宣言を6か月間延長すると伝えました。非常事態宣言は、軍による統治を正当化し、民主派勢力を抑え込む根拠とされてきました。【2月1日 NHK】
*********************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする