孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

保守化に振れる振り子 SNSで増幅される右派ポピュリスト的主張 ファクトチェック廃止 「DEI」離れ

2025-01-11 23:27:25 | インターネット SNS

(米大統領選運動の一環で、マクドナルドでフライドポテトを揚げるドナルド・トランプ氏。ペンシルベニア州フィースタービルトレボースの店舗で(2024年10月20日撮影)【1月7日 AFP】)

【欧州で相次ぐX(旧ツイッター)利用停止 「多様性、自由、科学を促進する価値観は、もはやこのプラットフォームには存在しない」】
トランプ氏と並んでその言動が注目を集めているのがイーロン・マスク氏。

****「犯罪の加担者」「無能なバカ」 マスク氏が欧州首脳を口撃****
X(ツイッター)オーナーの米実業家で、右派的な言動で知られるイーロン・マスク氏が、政治的信条を異にするスターマー英首相らへの露骨な批判を続けている。マスク氏はトランプ次期米政権で政府外助言機関「政府効率化省」を率いる予定で、米欧関係への影響も懸念されている。

「スターマーは辞任しなければならない」。マスク氏は3日、Xへの投稿でそう訴えた。その理由としてマスク氏は、スターマー氏が検察官時代、パキスタン系容疑者らによる白人少女らへの性的暴行事件を十分に捜査しなかったと主張した。そのうえで、「英国史上最悪の集団犯罪に加担した罪で告発されなければならない」と続けた。

マスク氏はこのほか、スターマー政権の別の高官も「刑務所に入るべきだ」などと攻撃している。

英紙フィナンシャル・タイムズは9日、マスク氏の狙いはスターマー氏が率いる中道左派・労働党の弱体化で、自らが支持する右派ポピュリスト政党「リフォームUK」の勢力拡大を画策していると伝えた。

英メディアによると、一連の攻撃に対しスターマー氏は6日、マスク氏を名指しせずに「虚偽情報を拡散する人々は、被害者に関心があるのではなく、自分たちが目立ちたいだけだ」と指摘した。そのうえで、自身は検察官時代、性的暴行容疑者の起訴に真正面から取り組んだと反論し、「この手口は何度も見てきた。彼らは脅威をあおり立て、メディアがそれを増幅させることを期待しているのだ」と述べた。

マスク氏の矛先は、2月に総選挙を控えるドイツにも向かう。マスク氏は昨年12月、Xへの投稿で中道左派・社会民主党のショルツ首相を「辞任すべきだ。無能なバカだ」と非難した。マスク氏は、排外主義的な右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)がドイツを救うと訴えている。

これに対しショルツ氏は「冷静でいよう。あおり行為に乗ってはいけない」と述べ、挑発を無視する意向を示している。

欧州首脳からは、「大きな影響力を持つ人物が、他国の内政にこれほど関与することを憂慮する」(ノルウェーのストーレ首相)といった声が挙がっている。

一方、イタリアの右派連立政権を率いる極右出身のメローニ首相は、マスク氏は「言論の自由を行使しただけだ」と述べ、左派への攻撃を事実上擁護している。【1月10日 毎日】
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既存の新聞・TVに代わってSNSが世論を動かす大きな影響力を持つようになっていることは、昨年の日本の選挙でも明らかになっちます。

そうした極めて大きな影響力を持つようになったSNSにおける、偏った(ヘイト的な)主張、あるいは偽情報をいかにコントロールするべきかが現代的課題ともなっていますが、大手SNSではむしろ逆行するような動きも。

マスク氏が活用しているのが、自身がオーナーのX(旧ツイッター)。Xは言論の自由を掲げるマスク氏買収後は投稿への監視や制限を緩和していますが、その結果、右派ポピュリスト的コンテンツの巣窟となっているとの指摘があり、ドイツやイギリスで利用制限の動きが広がっています。

****ドイツなど60以上の大学や機関がXの利用中止表明「基本的な価値観に反する」****
60を超えるドイツとオーストリアの大学や研究機関がX(旧ツイッター)の利用を中止するとの共同声明を発表しました。

10日に大学や研究機関が発表した共同声明では、利用中止の理由について、現在のXの方向性が「大学や研究機関が重視する科学的な透明性や民主的な議論などの基本的な価値観に反するため」としています。

近年X上で「右派ポピュリスト的コンテンツ」が増幅していることについて、「継続的な利用を正当化できないものにした」と指摘しています。

Xの利用を巡りドイツ政府は10日、「興奮して二極化する傾向のある議論を促進するアルゴリズムがある」として、国内での利用中止を検討していると明らかにしています。【1月11日 テレ朝news】
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独墺大学等の共同声明では、「多様性、自由、科学を促進する価値観は、もはやこのプラットフォームには存在しない」とも指摘しています。

****英大学でXの利用停止広がる、暴動あおった情報拡散きっかけに****
トランプ米次期大統領の側近となった米実業家イーロン・マスク氏が率いる短文投稿サイトX(旧ツイッター)が昨年の英国での極右主義者らによる暴動をあおる情報を拡散したとして、英国の大学などの高等教育機関が相次いでXの利用を停止している。ロイターが7日に実施した調査によると、いくつかの大学はXの利用を最低限にまで減らすか、完全に取りやめている。

マスク氏はスターマー英首相を投獄し極右団体「イングランド防衛同盟」の共同設立者で反イスラム活動家のトミー・ロビンソン(本名スティーブン・ヤクスリーレノン)受刑者を刑務所から釈放するよう求めている。(後略)【1月9日 ロイター】
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【メタ 「ファクトチェック」を米国で廃止】
問題視されているSNSはマスク氏のX(旧ツイッター)だけでなく、ザッカーバーグCEOのメタ(旧フェイスブック)も「ファクトチェック」を米国で廃止すると発表しており、偽情報の拡散が懸念されています。

メタの動きは、メタが保守的な内容の投稿を不当に制限していると批判してきたトランプ氏への配慮とも見られています。

****投稿の真偽検証を廃止した米メタ、トランプ氏への配慮か…偽情報の拡散につながる恐れ****
米SNS大手メタ(旧フェイスブック)は7日、第三者機関を通じて投稿の真偽を検証する「ファクトチェック」を米国で廃止すると発表した。投稿への過度な検閲を批判するトランプ次期米大統領への配慮があるとみられ、偽情報の拡散につながる恐れがある。

マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は7日、「ファクトチェックは政治的に偏りすぎていた。原点に立ち返り、表現の自由の回復に注力する」との声明を出した。「悪質な投稿を発見する可能性は低下する」として、偽情報が増える可能性を認めた。

メタ傘下のフェイスブックやインスタグラム、スレッズを対象に、米国で数か月かけて段階的に廃止する。代わりに、誤解を招く投稿に対して別の利用者が情報を補う「コミュニティーノート」機能を導入する。日本など、米国以外でも同様の措置を取る可能性があるとしている。

メタは2016年にファクトチェックを導入。第三者機関に投稿の真偽の調査を委託し、虚偽内容が含まれていると判断された場合に投稿を削除するなどの対応を行っていた。日本では24年に導入された。

21年に発生した米連邦議会襲撃事件後、トランプ氏のフェイスブックのアカウントを凍結した。その後に凍結は解除されたが、トランプ氏はメタが保守的な内容の投稿を不当に制限しているとして、繰り返し不満を表明していた。

トランプ氏に対し、大統領就任後にメタに対して厳しい立場を取らないよう働きかける思惑があるとみられる。

米国の大手SNSでは、投稿監視を緩和する動きが続いている。政治的な圧力に加え、コスト削減を図る狙いもありそうだ。

X(旧ツイッター)は22年10月のイーロン・マスク氏による買収後に問題のある投稿への監視や制限を緩和しており、偽情報が急増したと指摘されている。米IT大手グーグル傘下の動画投稿サイト「ユーチューブ」も23年6月、20年の米大統領選で不正があったとする虚偽動画の削除を停止した。【1月9日 読売】
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ザッカーバーグ氏に限らずテック業界大物が次々と新たな権力者トランプ氏にすり寄っていることは、12月17日ブログ“アメリカ  新たな権力者へすり寄るテック業界大物たち 司法の場の流れも手繰り寄せるトランプ氏”でも取り上げたところです。

【相次ぐ「DEI」離れの現象  ポリティカルコレクトネスや多様性重視から反対側に振れる振り子】
メタについては、上記のファクトチェック廃止だけでなく、多様性のDEIプログラムを終了することも報じられています。

「DEI」は、「Diversity(ダイバーシティ、多様性)」「Equity(エクイティ、公平性)」「Inclusion(インクルージョン、包括性)」の頭文字からなる略称で、“すべての人々、特に歴史的に過小評価されてきたグループやアイデンティティや障害に基づいて差別を受けてきたグループのフェアな扱いと完全な参加を促進するための組織的なフレームワーク”【ウィキペディア】を意味し、具体的には人種や性別、LGBTのような性的な問題におけるマイノリティーへの配慮がその中身になります。

****米メタ社、多様性のDEIプログラムを終了。同性愛者やトランスジェンダーへの侮辱的な言葉も許容****
ファクトチェック機能の廃止を発表した米メタ社が、社内で多様性を促進するための取り組みを即時終了することがわかった。
FacebookやInstagramを運営するメタプラットフォームズのジャネル・ゲイル人事担当副社長は1月10日、ダイバーシティ・スレート・アプローチを終了すると従業員宛の社内メモで発表した。

ダイバーシティ・スレート・アプローチは「多様性を考慮して候補者をえらび、さらなる多様性につなげていく」ことで、採用担当者が女性やマイノリティである候補者を提案できるようにするプログラムだった。

ゲイル氏は、このプログラムを廃止するものの「引き続き異なるバックグラウンドを持つ候補者の採用を続ける」としている。

その一方で、メタ社は「DEI(多様性、公平性、包括性)」に特化したチームを廃止すると社内メモで伝えている。
その理由を「多様性、公平性、包括性の取り組みを取り巻くアメリカの法的および政策的状況は変化している」と説明。

「一部の人々に、特定のグループを他のグループよりも優遇する取り組みだと理解されるなど、『DEI』という言葉自体が議論を呼ぶようになっている」と述べている。

「多様性などを取り巻く状況が変化している」という説明は、暗に次期トランプ政権への配慮を示していると考えられる。

メタのマーク・ザッカーバーグCEOは2024年11月、ドナルド・トランプ次期大統領と会談し、その後メタ社はトランプ氏の大統領就任式基金に100万ドルを寄付した。(中略)

トランスジェンダーや同性愛者、女性への侮辱的な言葉も「許可する余地が残されている」
この社内メモを最初に報じたのはニュースサイトのアクシオスで、全文も公開している。この方針転換は、メタの最新のコミュニティ規定とも一致している。

メタはこのガイドラインで、トランスジェンダーの権利や移民、女性、同性愛者に関する議論などについて、排除の呼びかけや侮辱的な言葉を使用を「許容する余地が残されている」としている。

テクノロジージャーナリストのケイシー・ニュートン氏は、ニュースサイト・プラットフォーマーに1月9日に掲載された記事で、次のような投稿を目にするようになると指摘している。

「トランスジェンダーの子どもなんて存在しない」
「神は2つの性別を創造した。『トランスジェンダー』の人々は実在しない」
「ノンバイナリーという概念は作り話だ。そんな人々は存在せず、治療が必要なだけだ」
「トランス女性は女性ではない。混乱した哀れな男性だ」
「トランスの人間の(代名詞)彼でも彼女でもなく『それ』だ」

また、テック系ニュースサイトの404メディアは、メタがチャットアプリ・メッセンジャーの外観デザインをカスタマイズできる「テーマ」機能から、「トランス」や「ノンバイナリー」を削除したと報じている。

一方、「バスケットボール」や「マインクラフト」、「愛」など多様性やジェンダーなどとは関係ない一般的なテーマは引き続き利用できる。【1月11日 HUFFPOST】
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Xが右派ポピュリスト的コンテンツの巣窟となり、メタがファクトチェックを廃止するというのも、また、メタが「DEI(多様性、公平性、包括性)」プログラムを終了するのも、トランプ氏を大統領に復権させた右派・保守的な世論の変化を反映したものでしょう。

“「DEI」離れ”とも言うべき逆流現象は、メタだけでなく産業界に広がっています。

****米マクドナルド、多様性の取り組み縮小へ DEI離れ続く****
米ファストフード大手マクドナルドは6日、多様性に関する取り組みを縮小すると発表した。

米最高裁が一昨年、大学の入学選考で志望者の人種・民族を考慮する「アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)」を禁じる判決を下して以降、多様性推進の取り組みを見直した企業の最新例となる。

マクドナルドが発表した変更には、供給業者に「多様性・公平性・包括性(DEI)」に関する特定の目標を求めないこと、企業の多様性を評価する外部調査からの撤退、多様性委員会から「グローバルインクルージョンチーム」への名称変更などが含まれている。(中略)

2023年6月、保守派判事が多数を占める米最高裁は、1960年代の公民権運動の主要な成果の一つである大学入学選考におけるアファーマティブ・アクションに違憲判決を下した。 

以来、米国では進歩的な政策への支持が低下する中で、企業や政府機関などが少数派支援プログラムの見直しを行ってきた。

職場での偏見の是正を目指したDEIの方針は現在、批判の対象となるケースが増え、大統領選でドナルド・トランプ氏の勝利後、こうした取り組みへの支持者はさらに守勢に立たされることとなった。 

マクドナルドの発表は、自動車フォードやオートバイのハーレーダビッドソン、農業機械ジョンディアから酒造メーカーのジャックダニエルまで、一連の大手企業や名門ブランドによる同様の動きに続くもので、米国でのいわゆる「ポリティカルコレクトネス(PC、政治的公正)」への反動の現れとなっている。【1月7日 AFP】
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日本でもトヨタが昨年10月、LGBTQ支援イベントへの協賛を中止することを発表しています。

****「DE&I」の潮流に、縮小への方向転換が起こる可能性****
トヨタUSが発表したDEI活動の縮小
Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の頭文字をとった略称「DE&I(以下、DEI)」は、日本でも馴染みのある概念だ。そのDEI概念が静かになり、定番概念と思われている昨今の潮流に方向転換が起きつつある。

DEIの概念は企業の発信メッセージに必須!とばかりに、「コピペ」や「とりあえず入れておこう」といった安易な姿勢になっていないか。本稿は自社の立ち位置を振り返る参考材料だ。

トヨタ自動車USは2024年10月、LGBTQ支援イベントへの協賛を中止することを発表した。報道によると、同社はDEIに関する政治的な議論を理由に、DEIプログラムの焦点を絞り直し、LGBTQイベントへの協賛を中止。

加えて、5万人の米国従業員と1,500のディーラーに向けて、「STEM教育と労働力の準備に沿うよう、コミュニティ活動を“狭めていく”」と方向転換を発表した。(後略)【1月8日 MarkeZine】
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2020年のジョージ・フロイドさん殺害後に多数の企業が採用したDEIの方針は、全米で次々と取り下げられている。

連邦最高裁が大学入試におけるアファーマティブアクション(積極的差別是正措置)を違憲と判断して以降、企業のマイノリティー(少数派)優先に異議を唱え、法廷闘争に持ち込み経営者らに見直しを迫るケースも少なくない。

トランプ次期米大統領はDEIの方針を公に批判、連邦政府の主導でこうした慣行を根絶すると公約している。【1月7日 Bloomberg】
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現在の保守化の流れは、行き過ぎたポリティカルコレクトネスや多様性重視への反動と見ることもできますが、トランプ政権下で振り子は反対側に大きく振れるのかも。保守化の流れがトランプ政権を生み、そのトランプ政権が保守化を更に加速させます。
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イラン  中東情勢変化で影響力低下 核開発加速か トランプ政権の制裁強化で国内改革頓挫の懸念も

2025-01-10 22:36:30 | イラン

(全身を布で覆った女性(イラン・テヘラン)【12月17日 BBC】)

(ペゼシュキアン大統領(左側の両手を合わせた男性)らが描かれた看板の前を通り過ぎる女性たち(10月、テヘラン)【同上】)

【低下するイランの影響力】
イランが対イスラエルで支援してきたパレスチナ・ガザ地区のハマスに続いて、イランの子飼いと言えるレバノンのヒズボラも深刻な打撃を受け、更にはこれまでロシアとともに支えてきたシリア・アサド政権も崩壊・・・という激動の中東情勢にあって、「シーア派の弧」を誇ってきたイランは大きな痛手を被っています。

****アサド政権崩壊で「シーア派の弧」も崩れる イランに大打撃、レバノンへの供給に支障****
シリアのアサド政権崩壊は、中東にイスラム教シーア派のネックワークを構築してきたイランにとって大きな打撃となる。

イランからイラクをへてレバノンに至る「シーア派の弧」がシリアで途絶え、物資供給などが滞る恐れがあるからだ。イスラエルを取り巻く「包囲網」も弱体化する公算が大きく、イランの中東地域に対する影響力の低下は避けられない情勢だ。

イランからレバノンに送る物資や資金の供給に支障が出ると、イランが対イスラエル攻撃の前線拠点として支援してきたレバノンの民兵組織、ヒズボラの活動に影響すると考えられる。

ヒズボラは9月以降のイスラエルによる激しい攻撃で体力を奪われ、アサド政権の崩壊を阻止できなかった。支援が細れば組織の衰退に拍車がかかりそうだ。

イランやイラクで人口の多数派を占めるシーア派はレバノンでも人口の30%前後を占めており、存在感は小さくない。これに対し、「弧」を形成したシリアの事情は異なる。

シリアのイスラム教徒は全人口の90%近くを占めるが、うち70%以上はスンニ派でシーア派の影は薄い。親子2代で半世紀以上、独裁体制を維持したアサド親子も、人口の1割余しかいないイスラム教の一派、アラウィ派の出身だ。

アサド親子は少数派が多数派を支配する統治構造を安定維持する上からも、イランとの関係を深め、その庇護(ひご)を得てきた経緯がある。

例えば、イランで王政が崩壊した1979年のシーア派革命の際にも、他のアラブ諸国がイランからの「革命の輸出」を警戒した中で、シリアは真っ先にシーア派政権を承認した。

シリアの脱落に伴う「シーア派の弧」の弱体化は、「抵抗の枢軸」と称して連携してきたイラクやイエメンの親イラン民兵組織に対するイランの求心力にも影響しかねない。

イランは今年4月と10月、イスラエルと互いに本土を攻撃し合ったが、この間に各地の民兵組織と連動して対イスラエル攻撃を組織することはなく、それぞれの対応に任せる姿勢をみせた。米国やイスラエルの軍事攻撃の標的になるのを避ける狙いがあったとも指摘される。【12月9日 産経】
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アサド政権のあっけない崩壊には、イランも憤懣やるかたない様子。

****イラン外相、シリア軍批判 「やる気なし」で政権崩壊と不満****
ランのアラグチ外相は(12月)8日、シリア内戦で支援したアサド政権が急速に崩壊したことについて「シリア軍はやる気がなかった」と不満をぶちまけた。

「アサド大統領は正確に軍の能力を把握していなかった。アサド氏自身は軍の状況に動揺していた」とも付け加えた。国営イラン放送のインタビューで語った。

アラグチ氏は1日に訪問先のシリアの首都ダマスカスでアサド氏と会談している。

イラン外務省は8日、シリア社会のあらゆるグループが参加する国民対話を開始し、全シリア国民を代表する包括的な政府を樹立することが必要だとの声明を発表。シリアの将来に関する意思決定への他国の介入にも反対を表明した。【12月9日 共同】
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【弱体化したイランが核兵器開発を加速させる懸念】
ただ、イランの影響力低下で情勢が安定するかと言えば、イランのウラン生産は加速していると見られており、アメリカは弱体化したイランが核兵器を製造することを懸念していることを表明しています。

****イランのウラン生産加速、重大な懸念 交渉再開宣言と矛盾=関係筋****
西側諸国の外交筋は7日、イランが濃縮度を高めたウランの生産ペースを加速させていることは重大な懸念であり、同国が核問題を巡る交渉に戻るという宣言と矛盾していると述べた。

イラン外務省は同日、同国の核開発計画は引き続き国際原子力機関(IAEA)の監視下にあると述べた。

匿名を条件に語った西側外交筋は、濃縮度の加速は「信頼できる交渉に戻るというイランの宣言と矛盾している」とし、「これらの措置には信頼できる民生用の正当な理由がなく、逆に、イランがその決定を下した場合、軍事核計画を直接助長することにつながる可能性がある」と語った。

IAEAは6日、加盟国への報告書で、イランが濃縮度を60%に高めたウランの生産ペースを大幅に加速させていると明らかにした。

イラン外務省の報道官は7日、イランの核開発計画は核拡散防止条約およびその他の保障措置の枠組みの中で「完全に透明性のある方法によりIAEAの監督の下で」実施されていると述べた。イラン国営メディアによると、同報道官は「最近の活動もIAEAに提供された詳細な情報に基づいて実施されており、IAEAの継続的な監督下にある」と主張した。【12月9日 ロイター】
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****弱体化したイラン、核兵器製造する可能性=米大統領補佐官****
サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は(12月)22日、バイデン政権は弱体化したイランが核兵器を製造することを懸念していると語った。トランプ次期政権のチームにもそのリスクについて伝えたという。

イランが支援するイスラム組織ハマスとレバノン拠点のイスラム教シーア派組織ヒズボラをイスラエルが攻撃し、イランと同盟関係にあったシリアのアサド政権が崩壊したことで、イランは影響力低下に見舞われている。

サリバン氏はCNNに対し、イランのミサイル工場や防空施設などへのイスラエルの攻撃でイランの通常軍事能力が低下したと発言。イラン国内で、今すぐ核兵器を持つべきだ、核ドクトリンを見直す必要があるかもしれないといった声が上がっても不思議ではないと語った。

イランは自国の核開発は平和的目的に基づくものと説明しているが、トランプ前政権が制裁緩和と引き換えにイランの核開発に制限を加えるという核合意から離脱して以来、イランはウラン濃縮を拡大している。

サリバン氏は、イランが核兵器を製造しないという約束を放棄するリスクがあると警告。「それは、私たちが今警戒しているリスクであり、私が個人的に次期政権チームに説明しているリスクだ」と述べ、米国の同盟国イスラエルとも相談したと語った。

来年1月20日に就任するトランプ次期大統領は、イランの石油産業への制裁を強化し、強硬なイラン政策に回帰する可能性がある。

サリバン氏は、イランの弱体化を考えれば、「トランプ氏は今度こそ、イランの核開発を長期的に抑制する核合意を実現できるかもしれない」と語った。【12月23日 ロイター】
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アメリカはイランが核兵器開発を進めれば、イランの核関連施設を攻撃する可能性も選択肢のひとつとしています。

****「バイデン政権がイラン核施設攻撃の可能性を議論」国家安全保障担当補佐官がバイデン大統領に対応策の選択肢として提示か 米ニュースサイト報道****
アメリカのバイデン政権がイランの核関連施設を攻撃する可能性について議論していたと、アメリカメディアが伝えました。

アメリカのニュースサイト「アクシオス」は2日、国家安全保障を担当するサリバン大統領補佐官がおよそ1か月前、イランが核兵器の開発を急速に進めた場合、アメリカとしてとりうる対応策についてバイデン大統領に説明したと伝えました。

その中では、イランの核関連施設をアメリカが攻撃する可能性も選択肢のひとつとして示されたということです。

バイデン氏とサリバン氏ら国家安全保障チームの議論の中では、▼バイデン氏は核関連施設への攻撃を承認しなかったほか、▼対応策について最終的な決定を下すこともなかったとしています。

また記事は、現在、ホワイトハウスの中で核関連施設の攻撃をめぐる活発な議論は行われていないとする関係者の話も伝えています。【1月3日 TBS NEWS WIG】
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【トランプ次期政権で予想される対イランの締め付け強化】
そうした核関連施設への攻撃まではいかなくても、かつて核合意から離脱したトランプ氏の復権で、イランは今以上に厳しい状況に置かれることが予想されます。

イランにしても、ロシアにしても、制裁措置に対しては一定に「適応」は示してはいるものの、そうは言っても・・・・ということで、現状でもイランは相当に苦労はしているようです。

****イラン、中国で貯蔵の原油2500万バレル回収へ=関係筋****
イランが、中国の港に貯蔵された2500万バレルの自国産原油の回収作業を進めていることが分かった。事情に詳しい両国の複数の関係者が明らかにした。当時のトランプ米大統領が科した制裁措置により、イラン産原油は2018年から6年間、中国の港に取り残された状態になっている。

アナリストは、今月大統領に復帰するトランプ氏がイラン産原油に対し再び制裁を強化するとみている。

中国は一方的な制裁措置を認めないとしており、近年はイランが輸出する原油の約90%を割安価格で購入。中国の製油業者は数十億ドル規模の経費を節約している。

ただ、原油が中国の港に取り残されている現状は、イランが中国相手でさえ原油の売却に苦心していることを示唆している。残された原油は、現在の為替レートに換算すると17億5000万ドル分に上る。

西側諸国はイラン産原油に対し厳しい制裁を科しているが、中国に売却されるイラン産原油の多くは他国産に偽装されている。

関係者によれば、港に取り残されている原油はトランプ氏がイラン産原油を制裁対象から一時除外したことで、イラン産として中国に輸送。その後再び制裁対象となったため、売却が不可能となり、貯蔵タンクに保管されたままになっているという。【1月9日 ロイター】
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【アメリカの強硬姿勢がイラン国内の反米保守強硬派を刺激し、国内改革が頓挫することも】
問題は、イランに対するアメリカ・トランプ次期政権の強硬姿勢が、イランを譲歩の方向に向かわせるのか、あるいは、アメリカへの反発が強まり、国内的に保守強硬派の台頭を招くのか・・・という問題です。

改革派のペゼシュキアン大統領の国内統治の状況に関しては情報が少ないですが、下記記事など見ると一定にその色合いを出してはいるようです。

****ヒジャブ着用の厳格化法「施行できず」イラン大統領が最高指導者に伝達 現地メディア****
イランで頭髪を覆う「ヒジャブ」の着用を巡り、罰則を強化した法律について、大統領が「施行できない」と最高指導者・ハメネイ師に伝えたと改革派メディアが報じました。

イランでは「ヒジャブ」の着用などを巡り、罰金や懲役刑を厳しくした新しい法律が13日に施行される予定でしたが、国際社会などの反発を受けて14日に施行延期が発表されました。

改革派メディアによりますと、イランのペゼシュキアン大統領は最高指導者・ハメネイ師に「ヒジャブを巡る新法は国の体制に悪影響を及ぼすので施行できない」と伝えたということです。

ペゼシュキアン大統領は7月の大統領選挙期間中に新法への反対を表明していました。

ペゼシュキアン大統領はヒジャブ着用を義務付けるために警察がパトロールすることに反対するなど、改革派として知られています。

国際人権団体のアムネスティインターナショナルは、この新法について「女性などが差別や虐待を受けてしまう」とイラン当局に施行の中止を求めています。

ヒジャブを巡っては、イラン出身の女性歌手パラスツー・アフマディさんがヒジャブを着用せずにオンラインライブを配信したとして14日に一時拘束されました。【12月16日 テレ朝news】
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しかし対米保守強硬派が勢いを増すと、上記のような改革路線の実行は困難となります。対米関係の悪化から国内改革が頓挫するというのはこれまでも見られたことですが、トランプ次期政権のもとでそうした現象が再現することを懸念しています。
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韓国  大統領・与党支持が意外に少なくないとの世論調査結果 北朝鮮スパイ疑惑も

2025-01-09 22:53:31 | 東アジア

(弾劾訴追され職務停止となった韓国の尹錫悦大統領の拘束が実現せず、先行き不透明感が増していることで、尹氏の支持者が勇気づけられ、与党「国民の力」の支持に回復の兆しが見られている。大統領支持派のデモ、ソウルの大統領官邸近くで9日撮影。【1月9日 ロイター】)

【大統領公邸を「要塞化」 国家権力同士のにらみあい】
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が12月3日夜に一時宣布した「非常戒厳」を巡る大混乱と弾劾決議などに関しては周知のところ。

現在は、伊大統領の拘束をめぐって、抵抗する大統領側が大統領公邸を「要塞化」、大統領警護処と警察等の国家権力同士がにらみ合うという異例の事態となっています。

****尹氏の拘束令状再着手へ調整続く 韓国、対応強化で衝突懸念****
韓国の高官犯罪捜査庁や警察などによる合同捜査本部は9日、尹錫悦大統領の拘束令状執行に再び着手する時期や方法を巡り検討を続けた。

3日の執行失敗を受け、より強力な警察部隊の投入が取り沙汰され、抵抗する大統領警護庁も鉄条網などで公邸を「要塞化」(韓国メディア)。衝突への懸念と緊張が高まる中、尹氏側は正式に逮捕状を取った場合の捜査には応じる考えも示した。

韓国メディアによると、警察は暴力団など犯罪組織の制圧にも当たる「刑事機動隊」の展開を検討。捜査員も前回の倍に当たる約300人を動員する構えだという。対する警護庁は、公邸に通じる道の門に鎖を絡めたり、捜査員の行く手を阻む大型車両の数を増やしたりと防備を固める。

8日にはインターネットメディアが、尹氏とみられる人物が同日午後(日本時間同)、関係者らと公邸敷地内を点検するような場面を捉えたとする映像を公開。尹氏が直々に警護強化を指示するような姿に注目が集まった。大統領府は「軍事上の保護区域を無断で撮影した」として同メディアを告発した。【1月9日 共同】
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【大統領・与党を支持する者も少なくない世論調査結果】
「非常戒厳」宣布からの一連の動向で、伊大統領は国民の信頼を完全に失って孤立し、巷には大統領への怒り・批判の声が溢れている・・・・というイメージも持ちがちですが、最近発表された世論調査をみると、必ずしもそういう話でもなさそうです。

尹大統領の支持率は40%台回復したという調査も。もっとも野党側は調査手法に問題があるとして調査機関を公選法違反の疑いで告発する方針とか。

****韓国・尹大統領の支持率は40%台回復か 一部世論調査報道、野党は手法を問題視し告発へ****
韓国で弾劾訴追された尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の支持率を巡り、一部の世論調査で昨年12月3日の「非常戒厳」宣布以降、初めて40%台に達したと、地元メディアが報じた。

保守的な論調で知られる朝鮮日報(電子版)は「1カ月でV字回復」と強調している。一方、革新系最大野党「共に民主党」は、この調査を行った機関を公選法違反の疑いで告発する方針を明らかにした。

朝鮮日報などによると、韓国世論評判研究所(KOPRA)が18歳以上の男女1000人を対象に1月3、4両日行った世論調査で、尹氏を「強く支持する」との答えが31%、「支持する」も9%あった。一方、「全く支持しない」は56%、「支持しない」は4%だった。

一方、政党支持率では「共に民主党」が39%、尹氏が所属する保守系与党「国民の力」は36%で拮抗(きっこう)した。

この調査結果を、共に民主党などは問題視する。
「質問項目の設計などが特定の回答を誘導する形で進められた」 共に民主党の趙承来(チョスンレ)首席報道官は6日、記者団にこう述べ、KOPRAに対し、公選法違反の疑いで告発する方針を明らかにした。

具体的には、捜査機関「高位公職者犯罪捜査処(公捜処)」が執行を目指す尹氏の拘束令状について、違法性が指摘されていることを前置きした上で質問している点などを疑問視しているという。

左派系のハンギョレ新聞は7日配信の記事で、KOPRAの調査結果について「極右勢力と与党『国民の力』の支持層で共有され、世論の流れを歪曲(わいきょく)している」と非難した。

共に民主党の対応に対し、「国民の力」のメディア特別委員会は「『告発脅迫』で世論調査まで手なずけようとする奸悪な試みと見るほかはない」と反論している。【1月7日 産経】
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この調査だけの話なら“特定の回答を誘導する形”云々も「そうなんだ・・・」という話になりますが、大統領・与党側が意を強くするような調査が他にも。

別の調査では、大統領に対する逮捕状執行について、44.5%が反対しているとの結果も・

****4割超が尹大統領逮捕に反対 分断あらわに 韓国世論調査****
韓国の世論調査会社「リアルメーター」は8日、戒厳令を宣布した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する逮捕状執行について、54・4%が賛成する一方、44・5%が反対しているとの調査結果を発表した。

高官犯罪捜査庁(高捜庁)や警察などで作る合同捜査本部は内乱などの容疑で尹氏に対する2度目の逮捕状執行を試みようとしているが、世論の分裂は捜査当局の判断にも一定の影響を与えそうだ。

調査は7日に18歳以上の男女約500人を対象に行った。逮捕に反対する44・5%には「拘束せずに捜査」を求める12・5%と、「戒厳令は正当だったので逮捕すべきでない」とする31・9%が含まれている。

年代別には40〜50代の約7割が逮捕を支持。一方、60〜70代の半数以上が反対した。男女別で見ると、女性は約6割が逮捕に賛成し、男性は賛成が48・8%、反対が49・2%と拮抗(きっこう)した。

逮捕について賛否が二分する背景には、戒厳令以降の政治的混乱について、尹氏だけでなく、安定化に積極的な役割を果たさない野党にも責任があるとの見方が広がっていることとの関連もありそうだ。政治混乱について「尹氏や与党の責任だ」と回答した人は51・3%で、「野党の責任だ」と答えた人は39・1%だった。【1月9日 毎日】
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「戒厳令は正当だったので逮捕すべきでない」が31・9%・・・保守の岩盤支持層は崩れていないようです。更に政治的混乱への野党責任も加わって・・・といったところ。

また、別調査では与党「国民の力」の支持率が3週間ぶりに6ポイント上昇し、30%台を回復したとのこと。

****大統領が弾劾される政局で韓国与党の支持率が上昇も…“次期大統領”にふさわしい人物は圧倒的に野党・李在明****
韓国の世論調査で与党「国民の力」の支持率が3週間ぶりに6ポイント上昇し、30%台に回復したことが明らかになった。これにより最大野党「共に民主党」との支持率の差が4ポイントまで縮まった。

エンブレインパブリック、KSTATリサーチ、コリアリサーチ、韓国リサーチが1月6日から8日にかけて、全国18歳以上の男女1000人を対象に実施した全国指標調査(NBS)の結果を1月9日に発表した。

それによると、1月第2週の「国民の力」の支持率は32%、「共に民主党」の支持率は36%で、その差は4ポイントだった。「共に民主党」の支持率は前回調査(2024年12月19日実施)より3ポイント低下した。
「祖国革新党」は7%、「改革新党」は3%の支持を得た。

次期大統領にふさわしい人物は?
大統領選挙が今年行われた場合、どの政党の候補に投票するかという質問には、「共に民主党」の候補を選ぶとした回答が41%、「国民の力」の候補を選ぶとした回答が29%だった。

次期大統領として最も適任だと思う人物について尋ねたところ、「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表を選んだ回答者が31%だった。(中略) 「該当者なし」「わからない」、または回答を拒否した人は32%だった。(中略)

また、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾審判について「弾劾を認めて尹大統領を罷免すべきだ」との回答が62%に上った。「弾劾を棄却し、職務に復帰させるべきだ」との回答は33%だった。

尹大統領の弾劾審判に対する対応については、「非常に誤っている」(53%)を含め、「誤っている」と答えた人は65%だった。一方、「うまくやっている」との回答は30%だった。

NBS調査は、携帯電話の仮想番号(100%)を用いた電話インタビューで行われた。標本誤差は95%信頼水準で±3.1ポイント、回答率は22.8%だ。【1月9日 サーチコリア】
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これだけの政治混乱のあとで与野党の支持率の差が4ポイントしかないというのも極めて意外。

また、3人に一人が「弾劾を棄却し、職務に復帰させるべきだ」と考えているのは、前述のように保守岩盤支持層健在(復調)を示すものでしょう。

【大統領拘束失敗で勢いづく保守勢力】
また、大統領拘束の失敗で保守勢力の意気は上がっているようです。

****韓国与党に支持回復の兆し、尹氏拘束失敗で保守層勢いづく****
弾劾訴追され職務停止となった韓国の尹錫悦大統領の拘束が実現せず、先行き不透明感が増していることで、尹氏の支持者が勇気づけられ、与党「国民の力」の支持に回復の兆しが見られている。

9日に発表された全国指標調査(NBS)によれば、回答者の59%が尹氏の拘束を望んでおり、37%は拘束は行き過ぎと答えた。

尹氏の弾劾訴追から数週間を経て、国民の力の支持率が回復している。一部のアナリストは、年内に大統領選が行われる可能性を見据えて保守派が団結する兆候を示していると分析している。

韓国外国語大学のメイソン・リチー教授は、「尹氏を拘束しようとしたことで、保守派が再び活気づいたようだ」と述べた。

与党の支持率回復の背景には、尹氏の戒厳令布告に賛同する岩盤支持層に加え、野党「共に民主党」の李在明代表が大統領になることを懸念する消極的な支持層の存在があるとの見方を示した。

「尹氏が拘束されていたら、保守派は弾劾訴追に続いて2度目の敗北を喫し、復活の勢いはすぐに失われていただろう。拘束の試みが失敗すればするほど、保守派は復活を強く感じるだろう」と語った。

6日に発表されたリアルメーターの世論調査によると、国民の力の支持率は34.4%で、3週連続で上昇した。一方、最大野党の共に民主党の支持率は45.2%だった。

韓国の世論調査機関の大半は、尹氏の弾劾訴追以降、同氏の支持率を公表していないが、一部の調査ではここ数日、尹氏個人の支持率が上昇している。

ユーラシア・グループの北東アジア担当シニアアナリスト、ジェレミー・チャン氏は、尹氏の拘束に向けたさらなる試みは、同氏と与党の支持を「活気づける」だけだろうと述べた。

仁川大学のイ・ジュンハン教授(政治学)は国民の力の復調について、2017年に朴槿恵元大統領が弾劾された後の選挙で保守政党が大敗した経験があるため、保守層の間で危機感が高まっているとの見方を示した。【1月9日 ロイター】
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【「共に民主党」の李在明代表も崖っぷち】
“次期大統領にふさわしい人物”の筆頭にあがっている「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表ですが、伊大統領の罷免・次期大統領選挙を急がないと、自身の事件で大統領選挙にも出馬できない“時間的”事情があるのも周知のところ。

****すでに“大統領気取り”だが、大統領選に出馬さえできない可能性も…李在明代表、側近が控訴審でも有罪****
12月3日の非常戒厳事態を契機に尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾審判が開始され、次期大統領選に向けた青信号が灯るかに見えた「共に民主党」李在明(イ・ジェミョン)代表だが、再び暗礁に乗り上げた。

偽証教唆容疑の無罪判決で一息ついた李代表の“司法リスク”が再び浮上してきたからだ。
サンバンウルグループと絡んだ裁判で起訴された李代表の側近であるイ・ファヨン元京畿道平和副知事が、控訴審でも有罪を免れなかった。李代表にも直結するサンバンウルによる違法な北朝鮮への送金の事実関係が、今回も認定された。

目前に迫った公職選挙法違反事件もある。李代表が今年11月、1審で懲役1年、執行猶予2年の判決を受けた事件だ。今後10年間、選挙に出馬できない重い判決だ。

選挙法違反事件では、控訴審が3カ月以内に結論を出すことが義務付けられている。尹大統領の弾劾審判とは別に、李代表が直面する危機の火種は消えていないように見える。【12月20日 サーチコリア】
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【「戒厳令は正当だった」という主張を更に強めそうな北朝鮮スパイ疑惑】
伊大統領及び保守岩盤支持層の「戒厳令は正当だった」という主張を更に強めそうな北朝鮮の介入疑惑に関する情報も明らかになっています。

****韓国最大規模の労組幹部は北朝鮮のスパイ、報告文で「総会長」金正恩氏に忠誠示す****
北朝鮮の対韓国工作機関「文化交流局」が、韓国最大規模の労組幹部だった男らによって秘密裏に結成されたスパイ組織に対して多数の指令文を送っていたことが、韓国・水原地裁の判決で認定された。韓国の労組を通じ、日米韓3か国協力の弱体化を狙う北朝鮮の思惑が見てとれる。

日米韓揺さぶり
「韓国と日本の関係は最悪だ。高揚した反日世論の流れに乗り、『韓米日三角同盟』を破裂させるための活動が必要だ」

北朝鮮は2019年7月から8月に3回にわたって指令文を送った。これに先立ち、日本政府は元徴用工訴訟問題への対応を巡り当時の文在寅ムンジェイン政権が解決に向けた対応を見せない中、対韓輸出管理強化に踏み切っていた。

指令文では「民族の利益を侵害する冒涜ぼうとく行為だと社会に認識させ、文政府が日本に妥協案を出さないよう力を与えろ」と求め、日本大使館を包囲したり、日の丸を破ったりするような過激な反日闘争の強化を促した。この後、韓国内では市民団体などによる日本製品の不買運動が広がった。

また保守の尹錫悦ユンソンニョル政権が発足した直後の22年5月の指令文は、「(尹政権が)従属的な韓米同盟にしがみつき、反北朝鮮対決策動に狂っている」と対北強硬路線への転換に危機感を示し、韓国内での「大衆闘争」で糾弾する必要があると主張した。

米軍基地画像も
スパイ組織に対しては、日米韓の協力強化が「平和と安定を害する」というメッセージの発信につながる記者会見や署名運動、抗議デモを指示。リーダー格の男が局長を務めていた労組「民主労総」は、尹政権発足後、3か国協力反対の活動を積極的に展開している。

水原地裁の判決で「北朝鮮に渡れば攻撃対象になり得るなど、韓国に不利益をもたらす危険性が明白」と強く非難したのが、この男が所持していたデータだ。ソウル南方の京畿道キョンギド平沢ピョンテクの米軍基地のヘリコプターや車両、ミサイル砲台の画像などが収められていた。

北朝鮮の工作機関は19年1月の指令文で「有事に備えた準備を整える」とし、平沢の軍基地や軍港の配置図、「大統領府や主要統治機関をマヒさせるため」として、送電網システムの資料について入手を求めており、判決は北朝鮮の指示に従い、男がこうした情報を収集したと認定した。

「本社」「支社長」
指令文は、北朝鮮の文化交流局を「本社」、韓国のスパイ組織のリーダー格の男を「支社長」、民主労総を「営業1部」と表現。19年8月には「『本社』の指示に従い、『支社長』が『営業1部』を通じ反日感情を高めるための闘争を戦術的によく練っていると評価する」との指令文もあった。流出した場合でも、実態解明を防ぐ隠蔽いんぺい工作とみられる。

メールなどで送られた指令文は、別の文字や画像に内容が埋め込まれる「ステガノグラフィー」と呼ばれる暗号化手法で隠されていた。捜査機関の捜索や押収があってもやりとりが発覚しないよう備えていた。

リーダー格の男は北朝鮮に報告文を送るたび、金正恩キムジョンウン朝鮮労働党総書記を「総会長」との隠語で表現し、「いつも忠実な息子として闘争しています」(20年5月)、「我が民族の自主と平和のために努力されている総会長の領導に感服します」(同6月)とつづるなど、忠誠を示していた。

今回の事件について、韓国に亡命した北朝鮮元工作員の一人は「スパイ活動の氷山の一角が明らかになっただけ」と指摘する。韓国の裁判所では今回の事件以外にも、北朝鮮からの指令文を受け取っていたなどとして国家保安法違反に問われているスパイ事件の公判が3件行われている。【1月9日 読売】
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この事件は韓国メディアは直接には報じておらず、上記【読売】報道を引用する形で多くの韓国メディアが取り上げているとのこと。

そのあたりについても、“「なぜこんな重大なスパイ事件を国内メディアは報道せず、日本のメディアを引用しなければならないのか。一体どれだけ北朝鮮や中国のスパイがメディアに浸透しているのか」といった疑心の反応も少なくなかった。”【1月9日 サーチコリア】という反響も。

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ベネズエラ  大統領就任式を前に帰国表明の野党候補 圧力を強めるマドゥロ政権

2025-01-08 23:05:23 | ラテンアメリカ

(2025年1月7日、首都カラカスの兵士(車上)と民兵のメンバー(手前)。当局は首都カラカスで治安部隊の大規模な配備を実施しています。【1月8日 L'Opinion】)

【盗まれた選挙 居座るマドゥロ大統領】
昨年7月28日にベネズエラで行われた大統領選挙では、数々の失政、国民の不満にもかかわらず強権支配を続けるマドゥロ大統領が「勝利」したとして、選挙管理委員会や司法もこれを支持しています。

しかし、状況から判断する限り、選挙結果捏造疑惑は限りなくクロに近いように思えます。

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バングラデシュ・ハシナ政権のようにあっけなく崩壊する政権もあれば、一方でどれだけ国内外の批判にさらせれようが、強権的に、選挙結果を捏造しても居座る政権もあります。そのひとつが南米ベネズエラのマドゥロ大統領。

ベネズエラは長年、石油収入に依存し、原油価格が下落した後もばらまき政策を続けた結果、財政が破綻しました。一時は天文学的数字のハイパーインフレーションで市民生活は満足に食事もとれないほどに崩壊。その後も野党弾圧などを理由にアメリカから経済制裁を受け、外貨不足とインフレが常態化しています。

(中略)ベネズエラ大統領選挙(7月28日)では、マドゥロ大統領が選挙での敗北を認めるというサプライズは起きず、想定されたように結果を捏造して居座る構えを見せています。

マドゥロ政権の影響下にある選挙管理委員会は、全国から集めた投票結果を集計する際、野党側の立会人を排除して集計を進め、その結果、マドゥロ大統領の得票率は51・95%、無名だった野党候補ゴンサレス氏は43・18%と「マドゥロ勝利」を発表しています。

一方、野党側は各地で公表される票を積み上げてゴンサレス氏が7割を得票したと発表していますが、この数字は事前の世論調査や当日の出口調査とおおよそ一致するもので、選挙結果は政権側によって捏造されたものと思われます。【8月11日ブログより再録】
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野党側は、本来大統領選挙に出馬する予定だったものの、政権側に立候補を阻まれた“鉄の女”マチャド氏を戦闘に、抗議活動を展開。

****ベネズエラの〝鉄の女〟、「マドゥロ大統領勝利」抗議デモの先頭に 大統領選から1カ月****
南米ベネズエラの大統領選から1カ月が経過した28日、野党側は、不正集計の疑いが浮上した選挙管理当局による「マドゥロ大統領勝利」を認定した最高裁などに抗議する集会を各地で開いた。

「鉄の女」の異名を持つ指導者マリア・コリナ・マチャド元国会議員(56)が先頭に立ち、独裁色を強めるマドゥロ政権に退陣を迫ったが、政権交代の実現は難しくなっている。

マチャド氏は、マドゥロ氏が大統領に就任した2013年、「自由」を掲げて発足した政治団体「ベンテ・ベネズエラ」の創設メンバー。昨秋の予備選で約9割の票を得て野党統一候補となった。

しかし、マドゥロ氏の影響下にある最高裁は「汚職に関与した」としてマチャド氏を公職から追放。マチャド氏は、自らの出馬を断念し、今年7月の本選では元外交官のゴンザレス氏の支援に奔走した。

マチャド氏は、大統領選の結果について、野党側が全国3万の電子投票機の8割超から回収した開票記録に基づき、得票率67%のゴンザレス氏が、同30%のマドゥロ氏に勝利したと訴える。28日は首都カラカスの抗議集会で、「世界がベネズエラの声を聞いている」と支持者に訴え、政権交代の実現を呼びかけた。

これに対し、治安当局は28日、マチャド氏と一緒に集会に参加した野党側の幹部ピリエリ氏を逮捕。既にマチャド氏の警護責任者や弁護士も逮捕しており、マチャド氏への圧力を強めている。マチャド氏自身も、軍の離反を呼びかけたとして、ゴンザレス氏とともに捜査対象となっている。【2024年8月29日 産経】
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マチャド氏に変わって急遽出馬した野党候補のゴンサレス氏は、当局から逮捕状が出され、スペインへの出国を余儀なくされています。

****ベネズエラ野党候補、スペインに出国 扇動容疑で逮捕状****
7月のベネズエラ大統領選に出馬した野党統一候補ゴンサレス氏がスペインに向け出国した。両国の当局者が7日、明らかにした。

ベネズエラ検察は2日、文書偽造や扇動などの容疑でゴンサレス氏の逮捕状を取っていた。マドゥロ政権が大統領選後の野党弾圧をさらに強めたことを意味する。

大統領選では選挙管理当局と最高裁がマドゥロ大統領の勝利を認定したが、野党が公表した集計ではゴンサレス氏が圧勝していた。(後略)【2024年9月8日 ロイター】
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マドゥロ政権と対立するアメリカは、政権側に野党勢力との対話を呼び掛けましたが、目立った成果は出ていません。

****ベネズエラ大統領に野党勢力との対話呼びかけ=米国務長官****
ブリンケン米国務長官は26日、ベネズエラのマドゥロ大統領に野党勢力との対話に応じるよう呼びかけ、米国はこうしたプロセスを支援する用意があると述べた。(中略)

ブリンケン氏は「われわれは、ベネズエラ国民の人権を守り、ベネズエラの民主的な未来の回復に向けた同国主導の包括的な取り組みを実現すべくここに集まっている。マドゥロ氏は野党勢力との直接対話に応じ、平和裏に民主主義を回復すべきだ。米国とそのパートナーはこうしたプロセスを全面的に支援する準備ができている」と述べた。

米国とアルゼンチンは国連総会が開かれているニューヨークでベネズエラ問題について話し合う会合を開き、31カ国から参加があった。しかし主要国は出席を見送り、ブリンケン氏の対話呼びかけを支持する共同声明にも調印しなかった。【2024年9月27日 ロイター】
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【野党候補ゴンザレス氏 就任式を前に帰国を表明 アメリカ・中南米各国を歴訪】
こうした経緯を経て、今月10日に大統領就任式が行われますが、出国したままの野党候補ゴンザレス氏は自分が大統領に就任すると動きを活発化させています。

*****ベネズエラで「大統領就任」=野党候補ゴンサレス氏が意欲****
7月のベネズエラ大統領選で主要野党の統一候補として出馬し、勝利したと訴えているゴンサレス氏は、10日までにスペイン紙パイスとのインタビューで、来年1月10日の大統領就任のため亡命先のスペインから母国に戻る考えを明らかにした。副大統領には選挙で支援を受けた野党指導者のマチャド氏を任命すると語った。
 
ゴンサレス氏は「700万人以上に選ばれた職務に就くため、ベネズエラに戻る決意だ」と表明した。同氏にはベネズエラ当局から逮捕状が出ているが、帰国しても逮捕されることはないと自信を示した。
 
大統領選を巡っては現職マドゥロ大統領が3選を宣言した。しかし、野党や米欧諸国などが求める詳細な開票結果の公表を拒否し、国内で反体制派を弾圧した。先進7カ国(G7)外相は先月、ゴンサレス氏の勝利を支持した。【2024年12月11日 時事】
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“帰国しても逮捕されることはないと自信を示した”という根拠は不明です。現状では帰国すれば逮捕されることが想定されます。

いずれにしてもゴンザレス氏は、支援を求めて中南米各国歴訪を開始しました。

****マドゥロ大統領3期目前に支援要請 ベネズエラ野党候補が中南米各国歴訪を開始****
昨年7月のベネズエラ大統領選で野党候補だったゴンサレス氏が4日、独裁色を強めるマドゥロ大統領の3期目就任式を10日に控える中、マドゥロ政権に批判的な中南米各国に支援を求めて歴訪を開始した。

最初の訪問国アルゼンチンで4日にミレイ大統領と会談後、米国も訪れてバイデン大統領に面会する方向で調整を進めていると明かした。

大統領選では、政権の影響下にある選挙管理当局が詳細な開票結果を示さずマドゥロ氏の勝利を発表。国際的な批判を集めている。

野党は独自集計でゴンサレス氏が勝利したと主張し、欧米も支持。ゴンサレス氏は政権の圧力から逃れるため選挙後にスペインに亡命したが、10日の就任式に合わせベネズエラに戻る意向を示している。その前にアルゼンチンやパナマ、米国などを訪問して支援を取り付ける狙い。

ベネズエラではゴンサレス氏に逮捕状が出され、政権は情報を提供した人に10万ドル(約1570万円)を支払うとしている。ゴンサレス氏は帰国すれば逮捕される可能性が高い。【1月5日 産経】
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アメリカではバイデン大統領と会談、バイデン大統領はゴンザレス氏を「次期大統領」と呼んで歓迎。

****亡命野党候補と会談=ベネズエラ政権の責任追及―バイデン米大統領****
バイデン米大統領は6日、2024年7月のベネズエラ大統領選の野党統一候補で、マドゥロ政権の弾圧によりスペインに亡命したゴンサレス氏とホワイトハウスで会談した。バイデン氏はゴンサレス氏をベネズエラの「次期大統領」と呼んで歓迎し、支持する姿勢を示した。

大統領選を巡っては、現職マドゥロ氏が3選を一方的に宣言。米国を含む先進7カ国(G7)は、過半数の得票を得たとしてゴンサレス氏の勝利を支持すると表明していた。【1月7日 時事】 
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アメリカはマドゥロ政権に対する新たな制裁を導入するとの情報も。

****米、ベネズエラに新たな制裁発動へ 8日にも=アクシオス記者****
米政府は今週、ベネズエラのマドゥロ政権に対する新たな制裁を導入する見通し。米ニュースサイト、アクシオスの記者が7日、米当局者2人の情報としてXに投稿した。

米国務省が8日に第1弾の制裁を発表する可能性があるという。【1月8日 ロイター】
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ただ、これ以上アメリカが制裁を導入してもマドゥロ大統領が「じゃ、私やめます」とはならないですし、また、どうやってゴンザレス氏がベネズエラに帰国するのかも不明です。

ベネズエラ政府は、バイデン大統領がベネズエラの民主主義を侵害する「暴力的なプロジェクト」を支援するのは「グロテスク」だとする声明を出しています。
一方、南米パラグアイがゴンサレス氏を「当選者」と認め、これに反発するベネズエラはパラグアイと断交する事態に。

****ベネズエラ、パラグアイと断交=野党ゴンサレス氏は米大統領と会談****
ベネズエラ政府は6日、パラグアイとの断交を決めたと発表した。パラグアイが、昨年7月のベネズエラ大統領選で野党統一候補だったゴンサレス氏を「当選者」と認めたことに反発した。

選挙では独裁色を強めるマドゥロ大統領が勝利を宣言したが、詳細な開票結果を公表しておらず、ゴンサレス氏も当選を主張。マドゥロ政権が3期目に入る今月10日を前に、緊張が高まっている。
 
パラグアイのペニャ大統領は5日、ゴンサレス氏とオンラインで会談。6日の声明で同氏を次期大統領と認定した上で、ベネズエラ外交団に「48時間以内の国外退去」を命じた。

これに対し、ベネズエラは「国際法や内政不干渉の原則を無視している」と猛反発。関係を断ち、外交官を直ちに引き揚げると表明した。

支持を求めて米州を歴訪しているゴンサレス氏はスペインに亡命しているが、10日の就任式に合わせて帰国し、大統領に就く意向を示している。6日には米ワシントンでバイデン大統領と会談。「(ゴンサレス氏勝利が)平和的な民主統治への復帰を通じて尊重されるべきだ」との見解で一致した。【1月7日 時事】 
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【就任式を前に圧力を強める政権側】
また、詳細は不明ですが、ゴンサレス氏は帰国の意向を表明してから数日後に義理の息子が誘拐されたと明らかにしています。

****ベネズエラ野党指導者、義理の息子誘拐されたと指摘-帰国意向表明後****
昨年7月のベネズエラ大統領選で野党統一候補として出馬し、スペインに亡命したエドムンド・ゴンサレス氏は、7日に首都カラカスで義理の息子が誘拐されたと語った。帰国の意向を表明してから数日後だった。
  
(中略)同氏はX(旧ツイッター)への投稿で、子供を学校に送りに行くところだった義理の息子が「黒いフードをかぶった男らに捕まり」、車に乗せられたと指摘した。
 
首都では緊張が高まっている。政府は帰国すればゴンサレス氏を逮捕すると警告しているが、同氏は大統領に就任するため10日にベネズエラに戻ると表明。カベロ内相はゴンサレス氏拘束につながる情報に10万ドル(約1580万円)の懸賞金もかけた。(後略)【1月8日  Bloomberg】 
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ベネズエラでは野党勢力は、治安部隊が法律を尊重していないという立場から、逮捕に「誘拐」という言葉を常用していますので、民兵組織による拘束なのかも。

マドゥロ大統領は国家軍事警察計画を「発動」しましたが、当局は既に首都カラカスで治安部隊の大規模な配備を実施しています。【1月8日 L'Opinionより】

野党指導者のマチャド氏は、「政権の工作員が私の母の家を取り囲んだ」とXに投稿し、母親への嫌がらせを非難しています。【同上】

10日の大統領就任式を前にいろんな方面でざわつき始めています・・・・が、何度も繰り返すように、野党候補ゴンザレス氏が無事に帰国できる目途はたっておらず、マドゥロ大統領がこのまま3期目に入るというのが現実でしょうか。
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バルト海、台湾北部海域で相次ぐ海底ケーブル切断

2025-01-07 22:32:56 | 軍事・兵器

(台湾に接続する海底ケーブル(提供:Submarin Cable Map)【1月7日 note】)

【バルト海で相次ぐ海底ケーブル切断】
昨年11月から、北欧バルト海と台湾北部海域で船舶による海底の通信ケーブルの切断とみられる事案が相次いでいます。いずれも不注意による事故ではなく、故意の切断の疑いが濃いとも報じられています。

****バルト海ケーブル切断 ロシアの指示受けた中国船が関与の疑い 米メディア報道****
北ヨーロッパのバルト海で海底の通信ケーブルが相次いで切断された問題で、関与が疑われている中国船がロシアの指示を受けた疑いがあるとみて当局が捜査を進めていると報じられました。

バルト海で17日と18日、海底の通信ケーブル2本が切断されました。

アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルは28日、ヨーロッパの捜査当局が中国船籍の貨物船「伊鵬3」がいかりを下ろしたままバルト海のスウェーデン水域を約160キロ航行し、故意に切断した疑いがあるとみていると報じました。

捜査官は「いかりを引きずりながら速度が落ちた状態で数時間航行し、途中でケーブルを切断したことに船長が気付かなかったとは非常に考えにくい」と話しているということです。

伊鵬3は15日にロシアのバルト海沿岸の港を出港し、ロシア産肥料を積んでいました。

捜査当局はロシア情報機関の関与を疑っていて、船長がロシアからケーブルの切断を指示されたかどうかを焦点に事件を調べているということです。【2024年11月28日 テレ朝news】
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スウェーデンは中国に正式に捜査協力要請を行っています。

****スウェーデン首相、海底ケーブル切断で中国に正式な捜査協力要請****
スウェーデンのクリステション首相は28日、バルト海の2カ所で海底通信ケーブルが相次いで切断された問題で、中国政府に正式な捜査協力要請を行ったと明らかにした。

17─18日にフィンランドとドイツを結ぶケーブル、リトアニアとスウェーデンを結ぶケーブルで損傷が見つかり、ドイツのピストリウス国防相は破壊工作だとの見方を示した。

当局の捜査対象になっているのが中国の貨物船で、15日にロシアの港を出た後、ケーブルが切断された時間に現場付近を航行していたことが分かっている。

クリステション氏は26日、デンマークの排他的経済水域に停泊中のこの中国船に対して捜査協力のためスウェーデンに引き返すよう要求していた。

同氏は、中国への正式な協力要請は捜査機関からの検証報告に基づくものだと説明した上で「何が起きたかを究明するため貨物船を徹底的に調べるというわれわれの決意の表れだ」と述べた。

西側各国の捜査機関は、中国船が2本のケーブル切断の原因だと確信しているが、それが事故なのか意図的な行動なのかでは見解が割れている。【2024年11月29日 ロイター】
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この件に関してはすでにひと月半以上が経過していますが、真相に関する報道は目にしていません。
疑念を持たれている船舶が特定されているのに、なぜ時間を要するのか・・・素人的には不思議な感も。
中国側の反応も不明です。

“事故なのか意図的な行動なのかでは見解が割れている”状況で、12月には再び海底送電線が切断される同様の事案が。今度は、制裁下にあるロシア産原油の不法運搬に関与する闇タンカー群「影の船団」が関与しているとのこと。

****バルト海ケーブル損傷 NATOが警戒を強化 「影の船団」が破壊か****
バルト海のフィンランドとエストニアを結ぶ海底ケーブルが25日に損傷した事故で、北大西洋条約機構(NATO)は27日、バルト海での不審船に対する警戒を強化すると発表した。

フィンランド当局は、ロシア産原油を運搬中のクック諸島船籍のタンカー「イーグルS」がいかりを引きずる形で海底ケーブルを損傷したのが原因とみて捜査している。

フィンランド政府によると、25日に損傷したのは同国とエストニアを結ぶ全長170キロ(海底部分145キロ)の送電線「Estlink2」。25日昼に送電を停止し、復旧工事は2025年7月までかかる見通し。ほかにも同じ海域でインターネットケーブル4本が損傷した。エストニア政府は稼働中の送電線「Estlink1」の安全確保のために哨戒艇を派遣した。

NATOのルッテ事務総長は27日、X(ツイッター)でフィンランドのストゥブ大統領と「海底ケーブルの破壊活動を巡る捜査について協議した」と明かし、NATOがバルト海での警戒活動を強化する意向を表明した。

フィンランド沿岸警備隊は26日、現場付近を航行していた「イーグルS」を拿捕(だほ)。フィンランド領海に誘導した。フィンランド地元メディアによると、沿岸警備隊がイーグルSのいかりが欠損しているのを確認した。フィンランド当局は、このタンカーがいかりで海底ケーブルを損傷したとの見方を強めている。

欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会は26日、バルト海での捜査にあたる現地当局との共同声明で、このタンカーが、ロシア産原油の不法運搬に関与する闇タンカー群「影の船団」の一部であると断定。「欧州の重要インフラに対するいかなる意図的な破壊も強く非難する」と述べた。また既に実施している影の船団を対象とする制裁をさらに強化すると発表した。

一方、ロイター通信によると、ペスコフ露大統領報道官は27日の記者会見で、イーグルSの拿捕についてコメントを拒否した。

バルト海では11月にも、フィンランドとドイツ、スウェーデンとリトアニアを結ぶ通信用の光ファイバーケーブルがそれぞれ損傷。スウェーデン当局などが、中国籍の船がいかりを下ろしたまま航行した疑いがあるとみて捜査している。この中国籍の船も「影の船団」の一部とみられている。

エストニアのツアフクナ外相は26日、「海底インフラの損傷はより組織的に行われており、攻撃とみなさなければならない」との声明を発表した。

EUは6月、「影の船団」やロシアの軍事装備などを輸送する船舶の域内への入港を禁止するなど取り締まりを強化している。影の船団には整備不良の老朽船が使われることが多く、事故による油漏れなどの環境汚染も危惧されている。【12月28日 毎日】
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【台湾北部海域でも】
年が明けると、今度は中国の貨物船が台湾北部の通信用海底ケーブルを損傷させた疑いが浮上。

****台湾で通信用海底ケーブル損傷 中国人7人乗る貨物船関与か、いかり引きずりジグザグ航行****
台湾の北部海域で中国人が乗る貨物船が通信用海底ケーブルを損傷した疑いがあり、海巡署(海上保安庁)は6日、捜査を始めたと発表した。現地メディアが報じた。

海巡署は3日、台湾の通信会社・中華電信から米西海岸とを結ぶ海底ケーブルが損傷したと通報を受け、貨物船を確認した。カメルーン船籍だが、船主は香港の会社で取締役は中国本土に在住。船員7人も全員中国人だ。

海巡署は、貨物船が海底ケーブルを意図的に損傷させた疑いがあるとみている。貨物船は韓国の釜山港に向かったため、韓国当局に捜査協力を要請した。

英紙フィナンシャル・タイムズは、この貨物船が北部海域でジグザグに航行する航跡図を掲載した。台湾当局の話として、いかりを引きずっていたとも報じた。

海底ケーブルは、情報通信を支える重要なインフラだ。バルト海では2023年10月、フィンランド―エストニア間の海底ガスパイプラインとケーブルが損傷。昨年11月にはスウェーデン―リトアニア間と、フィンランド―ドイツ間のケーブルが損傷した。いずれも中国船の関与が疑われている。【1月7日 産経】
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中国が関与している船舶ですが、中国側はコメントしていません。

****台湾海域でケーブル損傷、捜査は悪天候で中断=沿岸警備当局****
台湾海巡署(海上保安庁に相当)によると、台湾北東部の海域で先週末、通信用海底ケーブルが船舶によって損傷された。しかし、悪天候のため捜査は中断された。

ケーブルを破損させた疑いが持たれているのは、カメルーンとタンザニアの両国に登録された船舶。乗組員7人は全員中国国籍で、船主は香港在住だという。

海巡署は6日夜、悪天候のため乗船して検査できず、船は韓国の釜山に向かったと発表した。バルト海で昨年、海底ケーブルが損傷した事件を参照したほか、同船舶の航行履歴を調べたが、真意は確認できていないと説明した。

中国政府で台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室は、コメントの要請に応じていない。

台湾の安全保障当局高官はロイターに対し、この船への捜査で韓国に協力を要請したと述べた。デジタル発展省は6日夜、ケーブルの損傷による通信への影響はなく、2月3日までに修復される見込みだと発表した。【1月7日 ロイター】
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話はそれますが、台湾と米西海岸とを結ぶ海底ケーブル(日本の通信も同様ですが)・・・そんな長距離・深海をケーブルでつなぐなんて、よくそんなものが設置できるものです。切断云々より、そっちが不思議。

話をケーブル切断に戻すと、いかりを引きずりジグザグに航行ということが事実であれば、故意の犯行と思われますが・・・・真相は明らかになっていません。

事故なのか故意の犯行なのか、どういう思惑でこうした行為を行っているのか、バルト海の事案と台湾の事案は関連があるのか・・・・よくわかりません。

英紙「フィナンシャル・タイムズ」は中国による「グレーゾーン作戦」だったとの見方を示しています。

“緊急バックアップの作動と他の海底ケーブルへのトラフィック移行で、大きな通信障害は発生しなかったとされる”【1月7日 note】

【日本や台湾、英国のような島国にとって、主要な海底ケーブルが切断されることは、軍事のみならず経済や社会活動が停止することを意味する】
今回取り上げた昨年11月以来のバルト海及び台湾北部以外にも、海底ケーブル損傷は起きています。
2023年2月初旬、台湾・マレーシアを結ぶ通信ケーブルが中国船によって損傷された疑い
同年10月、フィンランドとエストニアを結ぶガスパイプラインが中国船によって破裂

****インターネット通信の99%が海底ケーブルを使用****
社会的なインフラのインターネットは仮想空間に存在するが、そのトラフィックの99%は海底ケーブルを通じて行われる。大量のデータを高速かつ効率的に転送するためには、地上の通信回線や衛星通信と比べて帯域幅が広く、遅延が少ない海底ケーブルが適しているからだ。

日本につながるケーブルはおよそ30本、世界では400本以上にのぼり、総延長は地球30周分に相当する130万キロにおよぶ。

台湾本島は9つのケーブル陸揚局に25本のケーブルが接続されている。今回損傷したのは台湾と米国西海岸を結ぶ「太平洋横断高速海底ケーブルシステム(TPE)」の一部で、日米などの通信事業者もケーブルを共有する。

近年、軍事的な目的を背景に海底ケーブルなどを破損する行為が相次いでいる。日本や台湾、英国のような島国にとって、主要な海底ケーブルが切断されることは、軍事のみならず経済や社会活動が停止することを意味する。

国際社会には、海底ケーブルを破損させる行為を中止させるための枠組み形成や洋上監視など体制の構築が求められる。【1月7日 note】
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“一種の『静かな戦争』が始まっている”との指摘も。

****「静かな戦争」の始まりか 台湾やバルト海でも 相次ぐ海底ケーブル損傷、中国船関与か 通信インフラ破壊行為の意図は****
台湾の沿岸警備を担当する海巡署は6日、北部の海域で中国人が乗船した貨物船が海底ケーブルを破損した疑いがあり、捜査していると発表した。北ヨーロッパのバルト海でも昨年11月、沿岸各国を結ぶ海底ケーブルの損壊が2カ所で相次ぎ、中国船が関与した疑いがあるとみられている。

現代生活に欠かせない通信インフラの破壊行為が、習近平国家主席率いる中国による妨害行為だとすれば意図は何なのか。識者は「静かな戦争」が始まっている可能性を指摘する。(中略)

中国の関与が疑われる海底ケーブルの相次ぐ損壊は何を意味するのか。
軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「ロシアが2014年にクリミア半島に侵攻した際には、兵を進めるだけでなく、ウクライナの通信や電力などインフラの破壊活動を行った。

台湾のケーブル損壊に中国が関与しているとすれば、一種の『静かな戦争』が始まっているということではないか。『台湾有事』の際には日本のインフラも狙われることが予想されるため、警戒が必要だ」と話した。【1月7日 夕刊フジ】
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シリア難民  避難先トルコで始めて「自由」を知った女性 シリア帰還を望まず

2025-01-06 22:30:56 | 難民・移民

(木村菜穂子氏撮影 “シリア女性と友達。女性だけで出かけた日。シリアにいる時は想像もできなかったことです”【1月4日 木村菜穂子氏 Newsweek】)

【シリアで「大勝利」収めたトルコ】
昨年末のシリア・アサド政権崩壊について、トランプ次期大統領は12月16日、「トルコはとても賢い。多くの命を失うことなく、非友好的にシリアを奪取した」などと主張、今後のシリア情勢では「多くの不確定要素があるが、トルコが鍵を握ると思う」との見方も示しました。【12月17日 毎日】

これはトランプ氏に限らず、大方の見方です。

****政権崩壊シリアで「大勝利」収めたトルコ 影響力拡大、その先に****
トルコのエルドアン政権がシリアへの影響力を強めようとしている。トルコは、アサド政権を倒した旧反体制派武装組織の一部を支援してきたほか、暫定政権の主体となった「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)とも一定の関係を持つとされる。今後の狙いはどこにあるのか。

「トルコはアサド政権崩壊で大勝利した」。米紙ニューヨーク・タイムズは端的にこう指摘する。

2011年に勃発したシリア内戦で、トルコは反体制派側を支援してきた。国境の管理を通じて、反体制派が陣取ったシリア北西部イドリブ県への人道支援や貿易の調整も実施。さらに、トルコ軍が17年からイドリブ県内に駐留し、この地を拠点とするHTSなどを政府軍の攻撃から守った。

トルコは、国際テロ組織アルカイダ系組織を前身とするHTSをテロ組織に指定しつつ、実際には間接的に支援してきたと言える。

エルドアン政権は近年、内戦で優勢だったアサド政権との関係改善を模索する時期もあったが、今年11月に反体制派の大規模な攻勢が始まると旗幟(きし)を鮮明にした。エルドアン大統領は「(反体制派の進攻が)問題なく続くよう願う」と述べ、後押しする態度を明示していた。

安保と難民帰還が狙いか
「トルコはシリア新政権による国家形成と改憲草案の作成を支援する」。エルドアン氏は12月20日、記者団にこう強調した。

アサド政権の崩壊以来、トルコはシリアの暫定政権との関係強化を進めている。14日には自国の在シリア大使館を再開した。トルコのギュレル国防相は15日に「要請があれば、必要な軍事支援を提供する用意がある」と述べ、安全保障分野での協力にも前向きな姿勢を見せた。

トルコがシリアに積極的に関わる目的は何か。 その一つは、両国の国境沿いの安全保障の強化だ。トルコは、自国からの分離独立を主張する「クルド労働者党」(PKK)を非合法武装組織とみなし、シリア北東部のクルド人主体の武装組織「シリア民主軍」(SDF)とつながりがあると見る。そのため、アサド政権崩壊後、トルコが支援する武装組織「シリア国民軍」(SNA)はSDFへの攻撃を激化している。

トルコに暮らす300万人以上のシリア難民を巡る事情もある。トルコはシリアでの内戦勃発以来、国を逃れた人々をイスラム教徒の同胞として受け入れてきた。しかし、トルコ経済の低迷が続く中、難民を負担とみて排斥を求める動きは強まった。シリアが安定すれば、難民の帰還につながるメリットもある。

各国の介入で混迷の恐れも
ただ、トルコの思惑通りに行くかは不透明だ。トルコが敵視するSDFは、過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討にもあたり、米国の支援を受けている。SDFが弱体化すれば、ISの伸長を許し、一帯が不安定化する恐れもある。また、シリア南部に軍を展開するイスラエルは、トルコの影響力増大を警戒してクルド人への支援を検討しているとされている。

シリアの暫定政権は、主要閣僚を指名するなど新体制構築の作業を進めている。そうした中、トルコを含む各国が自国に都合の良い勢力に肩入れすれば、シリアは混迷に陥る可能性がある。【12月26日 毎日】
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【早期帰還を望むトルコ トルコに逃れて、今まで「抑圧」されていたことを知ったシリア難民女性は帰還を望まず】
トルコには300万人とも、400万人とも言われるシリア難民が暮らしています。トルコ国内の難民への風当たりが強まる中で、エルドアン政権としては彼らの早期帰還を促進したいところでしょうが(アサド政権時代、エルドアン政権のシリア領内への侵攻は、シリア領内に領土を確保し、そこに自国シリア難民を移送するため・・・・とも言われていました)、シリア難民自身の帰還への思いは?

下記は、シリア・アレッポとの国境にほど近いトルコ・ガジアンテプに4 年以上暮らし、シリア難民支援の活動をされていた木村菜穂子氏によるものです。

****帰りたくない女性たち・帰りたい男性たち ― トルコのシリア難民の現状****
(中略)アサド政権の崩壊で、シリア人たちが一斉に国に帰っているかのような報道がなされているかと思いますが、実際に帰っている人たちの数はかなり少ないといえます。アサド政権が崩壊してからシリアに帰ったシリア人の数は 3 万人ほどと報告されています。この数を多いとみるか少ないとみるか...。

トルコでは 2024 年の時点で登録されているシリア人の数は320万人ともいわれています。ただし、登録されていないシリア人も非常に多いので、実際の数は 400万 ともいわれています。この数と比較すると、帰ったのはほんの一握りだといえます。

アサド政権崩壊後のシリア人たち
さて、アサド政権が倒れたことに対するシリア人たちの心境とはどういうものなのでしょうか。アサド政権が崩壊したことで、シリアに帰る道が開けるシリア人は多くいます。ですから、故国に帰る可能性が現実的になったことに対する喜びは大きいです。

例えば、政治犯として旧政権下で「wanted (お尋ね者)」になっていた人たちが多くいます。(中略)こうした危険性があるアサド政権下では、国に帰りたくても帰れないシリア人たちが多くいました。その政権がもう存在しないのですから、恐れる理由もなくなったわけです。

ただし新政権のポリシーははっきりしませんし、今後シリアがどんな風に変わっていくかは未知数です。ですから高揚感の一方で、多くのシリア人が様子見の段階であるといえます。

帰りたくない女性たち
興味深いことに、非常に多くのシリア女性たちの本音は「帰りたくない」というものです。実際、「帰りたい‼」と諸手を挙げている女性たちや「今すぐ帰るぞ」と息巻いているシリア女性に会ったことが私にはありません。(中略)

主に2 つの理由があると思います。1つは、シリア国内のインフラの破壊。電気・水道の供給もおぼつかなく、多くの場所がとことん破壊されたまま。シリアから出ずにそこでずっと過ごしてきたシリア人たちは飢えや寒さに直面しつつも何とかして生き延びるしかありませんが、トルコやその他の国々に逃れたシリア人たちにとっては暮らせるような状況ではありません。子供たちをそのような環境に置くことへのためらいもあります。

2つ目の理由が、トルコで得た「自由」を失うことへの恐れ。「トルコで "自由" を得た」「トルコで開眼した」と感じているシリア女性が非常に多いです。シリアではごく「普通の自由」が奪われていた女性たちも多く、そのことにすら気づかなかったのです。

(中略)多くのシリア人女性たちは、生まれ育った地域で身近な親族と結婚し、家にこもり、家事と子育てに追われて年を重ねていく...世代から世代へとこのサイクルが繰り返されてきました。

内戦で難民となり故国を追われることにより、これまで見ることも知ることもなかった外の世界に否が応でも触れることになりました。一人で買い物に出かけること、一人で近場の友達の家を訪ねることなどなど...シリアでは決して許されなかった「自由」を経験した女性たちが多くいます。そこで初めて、シリアでの生活は「抑圧」だった、あるいは「権利が奪われていた」のだと気づきます。

これは政権による抑圧ではなく、宗教的あるいは伝統的に受け継がれてきた慣習による抑圧です。女性の意志などは鼻から重要視されない世界です。こうした女性たちにとっては、シリアに戻ること=以前の抑圧に戻ることで、それを恐れています。

帰りたい男性たち
対してアラブ男性の非常に多くはとにかく帰りたい。男性たちが懐かしむのは「あのシリア」で、女性たちがどう扱われていたかなどに関心を払う男性は少ないでしょう。

「そのシリア」では、女性たちが徒歩 10 分の距離の外出でさえも夫または父親の許可を得る必要があり、男性 (父親、夫、成人の兄弟あるいは成人した男の子供) の同伴なしでは家から出ることすらできなかった社会なのです。 男性側としては、女性 (妻) の経験値が増えて意志を持つようになることが脅威です。

(中略)トルコはイスラム教国家で、欧米と比べると女性の権利がそれほど守られていないという印象があるかもしれませんが、女性たちはそれなりの発言力を持っています。トルコを建国したアタチュルクは政教分離を推し進め、そのアタチュルクの精神が多くのトルコ人に根付いています。

実際、トルコでは法律に守られていると感じているシリア女性たちが圧倒的に多く、反対に言うならアラブ男性側は思うほど好き勝手できないという現実があります。

ただし付け加えて言うなら、こうしたシリア男性が悪い人だという訳ではありません。あくまで彼ら自身が育った環境がそのようなものだったということです。多くのシリア人たちの交流は非常に限定的で、通常は家族・親族だけに限られます。ですから、この環境から出たことがない場合、そして交友関係が極端に限られる場合、その環境が「普通」になります。(後略)【1月4日 木村菜穂子氏 Newsweek】
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記事は省略しましたが、シリア難民女性には戻りたくない様々な事情がある者も少なくありません。

なお、トルコで初めて「自由」知った女性、シリアでは「抑圧」されていたことを知った女性、一方で男性は女性の立場を考えることなくふるまえたシリアでの生活を懐かしむ・・・アフガニスタンの旧政権時代に僅かながらも「自由」に開眼し、今それをまたタリバンに奪われて悲しみ怒る女性の姿、「かつてのアフガニスタン」に戻そうとするタリバンといったアフガニスタンの現状にダブるものがあります。

【シリア難民の早期帰還を支援する流れの欧州 新規の難民受け入れは停止】
シリア難民への厳しい世論が強まり、早期の帰還を求めているのはトルコだけでなく、欧州各国も同じです。
また、各国は新たなシリア難民受入れを停止しつつあります。

****欧州諸国、シリア人亡命希望者の受付を一時停止 政変で先行き不透明に****
シリアのバッシャール・アル・アサド政権の崩壊を受け、イギリスなど多数の欧州諸国が、シリア人亡命希望者の受付手続きを停止している。

オーストリアの暫定政府は、シリア人からの亡命申請受付を全て停止したと発表。シリア国内の状況が根本的に変わったとして、シリア人亡命希望者を本国に送還または国外退去にする計画を立てているという。

約100万人ものシリア人が居住するドイツや、イギリス、フランス、ギリシャは、当面の間、亡命申請に関する決定を停止するとしている。

アサド政権は50年にわたる残忍な支配の末、反政府勢力の進攻を受けて崩壊した。このため何万人ものシリア人が、先行きが不透明な状態に置かれる可能性が出てきた。

国連によると、2011年以降、1400万人以上のシリア人が家を追われている。

移民問題で強硬姿勢をとるオーストリアの保守派、カール・ネハンマー首相は、「現在オーストリアに避難していて、母国への帰還を望むすべてのシリア人を(オーストリア)政府は支援する」とソーシャルメディアに投稿した。
また、「将来的な強制送還を再び可能にするには、シリアの治安状況の再評価が必要だ」と付け加えた。

オーストリア内務省は声明で、「シリアの政治状況はここ数日で根本的に、そして何よりも、急速に変化した」とした。

オーストリアには現在、約9万5000人のシリア人が暮らしている。その多くは、2015年と2016年の移民危機の際にやって来た。そうした移民への反発から、オーストリア国内では極右や保守派への支持が加速してきた。

ドイツの連邦移民・難民庁は、シリア人亡命希望者の保留中の申請をすべて一時停止した。政府関係者は、シリアの政治情勢が非常に不透明なため、シリアが安全かどうか適切な判断を下すのは不可能だとしている。

ドイツでは現在、4万7270人のシリア人が亡命申請の結果を待っている。他方、すでに亡命が認められている人々への影響はないという。

ドイツには中東以外で最も多くのシリア人が集まっている。現在は約100万人のシリア人が暮らしており、うち約70万人は難民に分類される。

イギリスではイヴェット・クーパー内相が、「内務省が(シリアの)現在の状況を見直し、監視している間、(イギリスは)シリアからの亡命希望者に関する決定を一時停止している」ことを認めた。

シリアの状況は「アサド政権崩壊後、極めて速いスピードで動いている」とし、すでにシリアに戻っている人たちもいると内相は付け加えた。

イギリスでは2011年から2021年の間に、3万人以上のシリア人の亡命が認められた。その大半は人道的計画に基づいて、トルコやレバノンなどからイギリスに再定住した。

2019年時点では約4万7000人のシリア人がイギリス国内で暮らしているとされていたが、その後は3万人程度まで減少したと考えられている。

ロイター通信によると、フランスもドイツと同様の対応を取りまとめており、間もなく決定される見通し。

こうした中、隣国レバノンとヨルダンに亡命していた大勢のシリア人が故郷に戻りつつある。ただ、レバノン国境では、シリアへ向かう人と、シリアを出国する人の両方の動きが確認されている。

現地で取材するBBC特派員によると、レバノンに入国しようとするシリア人が増加しており、レバノン軍は国境地帯に部隊を増派した。シリア国内での混乱や犯罪の増加を懸念する人もいる一方で、そのようなことは起きないと保証されたという声もある。

レバノンは100万人以上のシリア人難民を受け入れているが、シリア人入国の規制を強化している。【12月10日 BBC】
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“母国への帰還を望むすべてのシリア人”の帰還支援は問題ありませんが、世論の流れは「もう、ここにいる必要はないだろう。早く出ていけ!」というものになりがちです。

なお、上記記事でオーストリアの状況が取り上げられていますが、オーストリアでは世論の移民・難民への反感もあって、去年9月の総選挙では、元ナチス党員らが創設した極右の「自由党」が初めて第1党に躍進。

その後、その極右「自由党」以外の政党で組閣しようと中道右派・ネハンマー首相は模索していましたが、交渉が破綻。ネハンマー首相は辞任を表明。今後は極右政党と中道右派との連立の可能性も取り沙汰されています。

【大量の難民帰還はシリアを不安定化させる懸念も】
シリア難民に話を戻すと、トルコも欧州も早期の帰還を望んでいますが、シリア側では大量の難民帰還はただでさえ不安定な情勢を更に不安定化させる懸念もあります。

****難民帰還、半年で100万人予測 シリア不安定化に懸念―国連****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は17日、シリアのアサド政権崩壊に伴い、来年1~6月の間に最大100万人のシリア難民が帰国する可能性があるとの見通しを明らかにした。

国連の推計では、シリアでは1300万人超が内戦で家を追われ、うち約620万人が国外へ逃れた。

旧政権崩壊後に発足した暫定政府は難民帰還を歓迎する方針を示しており、最多のシリア難民を抱える隣国トルコなどから帰国を目指す動きも本格化している。

AFP通信によると、国際移住機関(IOM)のポープ事務局長は17日、シリアで人道支援や復興に向けた取り組みが不十分な中で、難民が大挙して祖国に戻れば「さらに国家を不安定化させる」と指摘。「帰還を促したり強制したりする前に、まずはシリア国内情勢の安定に集中すべきだ」と訴えた。【12月18日 時事】
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中国  急速に進行する少子高齢化 結婚・出産を個人へ「強制」するような対応には若者は反発

2025-01-05 22:11:57 | 中国

(“愛が出会う街”湖南省長沙市【1月5日 日テレNEWS】)

【出生数は7年間で半減 60歳以上の高齢者の比率は20%超 増加する「空巣老人」】
中国の2023年の出生人口は902万人。今世紀以降のピークだった2016年からの7年間で約半分に減少しています。

****中国の出生数が「7年間で半分」に急減 その根底にある根深い「不信感」とは****
中国の昨年2023年の出生人口は902万人。今世紀以降のピークだった2016年の1786万人から、わずか7年間で約半分に減った。

この事実が与える影響は甚大だ。中国社会ではこれから数十年かけて幼稚園から小・中学校、高校・大学への進学、新卒就職、結婚・出産など、人の生活にかかわる、さまざまなイベントが順番に「7年で半分」のペースで縮小していくことになる。

出生数急減の背景には、出産や子育て、進学などの費用の高さに加え、子供を育てやすい社会・労働環境の不足などの問題がある。

しかし、それ以上に大きいのは、政府の人口政策に対する庶民の不信感だ。ついこの間まで非人道的と思われるまでの措置を講じて子供の数を減らしてきたのに、いつの間にか「出生数の減少は国家的危機」と、多産奨励の方向に転じた。

国策としての「計画生育」は破綻したのに、政策の過ちを認める様子もない。過去に泣く泣く出産を断念した親たちの思いは複雑だ。

一部の知識人たちの間からは「出産、生育の自由を国家から庶民の手に取り戻すべきだ」との主張も出てきている。

中国は伝統的に「家」や「家族」のつながりを重視し、子供を大切にする社会である。それだけにこの問題の社会的影響は大きい。(後略)【2024年5月17日 田中信彦氏 NECwisdom】
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少子化と同時に高齢化も進行。
“若年人口の減少は、中国社会の高齢化率の上昇につながる。中国民政省などの推計によれば、総人口に占める60歳以上の高齢者の比率は2023年末までに20%を超えた。”【2024年11月15日 東洋経済online】

少子高齢化の急速な進行によって、独居または配偶者のみと生活する高齢者の増加が問題となっています。

****中国の高齢者「独居または夫婦で生活」が6割に接近 少子化で家族介護は限界、政策的支援が急務に****
中国社会の少子高齢化の趨勢がますます鮮明になりつつある。10月21日に公表された最新の調査データによれば、中国の60歳以上の高齢者のうち独居または配偶者のみと生活している(子供や親族などの同居人がいない)比率が、2021年時点で全体の6割近くに達したことがわかった。(中略)

独居または配偶者のみと生活している高齢者は、中国では「空巣老人」(訳注:雛鳥が巣立って親鳥が取り残された状態にたとえた比喩)と呼ばれる。今回の調査によれば、高齢者全体に占める空巣老人の比率は59.7%に上り、2010年と比べて10.4ポイント上昇した。 ■

介護の担い手が不足  
その内訳を見ると、独居者は高齢者全体の14.2%、配偶者のみと生活する高齢者は同45.5%を占めた。一方、子供と同居している高齢者は全体の33.5%、その他の親族などと暮らす高齢者は同6.8%だった。

空巣老人がますます増加する中、子供の数は逆に減少の一途をたどっている。(年老いた親の介護を子供が担う)伝統的な「家族介護モデル」を維持するのはもはや難しいのが実態だ。  

「少子化の加速が家族介護のキャパシティを低下させている。客観的に見て、家族介護への政策的サポートや(施設介護などの)社会的な介護サービス体系の整備を急ぐ必要がある」  中国の高齢者政策の諮問機関である中国老齢協会は、今回の調査の解説文でそう提言した。

今回の調査によれば、自己申告ベースで「自立した生活を送っている」と回答した高齢者は全体の88.4%、「自立生活が部分的に困難」な高齢者は7.1%、「自立生活が(完全に)困難」な高齢者は同4.5%だった。  

同じく自己申告ベースで、調査対象の高齢者の13.2%が「日常生活で他者による介助が必要」と回答し、そのうち83%が「実際に介助を受けている」と答えた。言い換えれば、介助の必要を自覚している高齢者のうち、17%は十分な支援が得られていないということだ。

介護費用の負担能力も不足  
家族介護に頼れない高齢者は、老人ホームなどの介護施設に入居する選択肢がある。しかし今回の調査からは、高齢者の費用負担能力が不足している現実が浮かび上がった。  

介護施設への入居を希望する高齢者に負担可能な費用を質問した結果は、月額1000元(約2万1049円)未満が46.1%と半分近くを占め、同1000~2999元(約2万1049~6万3125円)が38.2%、同3000元(約6万3146円)以上が15.8%だった。

だが、介護施設の実際の費用はほとんどの高齢者の負担能力を上回っている。2023年に北京市で実施された調査によれば、重度の認知症など要介護度が高い高齢者の場合、介護サービス費用はおおむね月額7000元(約14万7340円)を超える。【2024年11月8日 東洋経済online】
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【少子高齢化対策にあの手この手】
少子高齢化は個々のレベルでは上記のような介護の問題を惹起していますが、国家全体では労働力減少や年金制度の維持困難をもたらします。(日本も同じ)そのため、中国では今年から段階的な定年延長がスタートします。

****中国 今年から定年を延長 少子高齢化に伴う労働人口減に対応****
中国はきょう(1月1日)から定年を段階的に延長します。急速に進む少子高齢化に伴う労働力の減少に歯止めをかけたい考えです。

中国はきょうから15年かけて定年を段階的に延長します。1978年に今の定年制度が始まって以来、見直しは初めてのことで、男性は60歳から63歳に、女性は、幹部は55歳から58歳に、その他の職員は50歳から55歳に引き上げるということです。

少子高齢化が急速に進む中国では2035年ごろまでに60歳以上が4億人を超え、労働人口が大幅に減少すると予測されており、定年の引き上げはこうした問題に対処するためとみられています。

ただ、都市部の若者の失業率が17%を超えるなど、若者の就業問題が大きな課題になっており、定年の延長は若者の雇用機会を奪うのではないかという懸念も広がっています。

また、定年の見直しに伴い年金のルールも変更され、年金を受け取るための保険料を支払う期間は現在の15年から20年に段階的に延長されるということです。【1月1日 TBS NEWS DIG)】
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高齢化自体は“すでに起きた事実の結果”であり自動的に進行しますので、そのことを政策的にどうこうすることはできません。できるのは対策です。
少子化の方は“これからの問題”ですから、婚姻や出産への政策的関与によって動かすことも一応“可能”ではあります。

****中国政府、「少子高齢化」の歯止めにあの手この手****
産休・育休制度や保育サービスの充実打ち出す

中国は今、少子高齢化の加速という社会的課題に直面している。そんな中、中国政府が新たな少子化対策を打ち出した。国務院弁公庁が10月28日に発表した「出産支援政策の改善の加速により子育てにやさしい社会の建設を促進する措置」がそれだ。

2023年の中国の出生数は902万人にとどまり、1949年の(中華人民共和国)建国以来の最低記録を更新した。それに伴う若年人口の減少は、中国社会の高齢化率の上昇につながる。中国民政省などの推計によれば、総人口に占める60歳以上の高齢者の比率は2023年末までに20%を超えた。

育児費用の所得税控除も
国務院弁公庁の新対策には、出生数の健全な増加を促す一連の措置が盛り込まれた。
例えば、女性の出産前後の支援に関しては、産休・育休制度の改善を進める。具体的には中国各地の地方政府に対して、法に定められた産休・育休を(母親と父親が)確実に取得できるよう、産休・育休制度の充実と実施状況の監督強化を指示した。

さらに、育児助成金などの制度を整備し、地方政府が積極的かつ着実に実施することも求めた。その中には、3歳以下の乳幼児の育児や教育にかかる費用を、個人所得税の特別控除の対象にする案などが含まれている。

幼児期の子育て支援に関しては、保育サービスの供給増加を打ち出した。その実現に向け、地方政府が託児所や保育園に対して運営補助金を支給することや、保育サービスに対する税金や公共料金の減免、保育業界向けの人材育成プログラムの策定などを求めている。

また、少子化の要因になっている子供の教育費や住宅価格の高さ、女性の職場復帰などの問題に関しては、質の高い教育サービスの供給増加、住宅支援対策の充実、労働者の権利保障の強化などを提起した。

子供が複数なら支援手厚く
さらに小中学校期の支援については、学校での学童保育サービスや体験活動プログラムを積極的に展開し、児童・生徒の多様な学習ニーズに応えるとともに、保護者の送迎の負担を軽減するとしている。

国務院弁公庁の新対策は、複数の子供をもうけた世帯が住宅を購入する場合の支援拡充にも踏み込んだ。地方政府に対して、公的住宅基金の貸付限度額の増額などを検討するよう指示した。

企業などに対して、出産後の女性の再雇用を促す政策の強化も打ち出した。とりわけ妊娠中や出産後の女性労働者への支援を手厚くし、出勤・退勤時間の弾力的な運用や在宅勤務などのサポートを法に基づき提供するよう、雇用主への働きかけを強める。【2024年11月15日 東洋経済online】
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【個人の意識・選択に踏み込む当局対応 若者は反発】
習近平国家主席は、さらなる取り組みが必要との認識を示しています。

****中国少子化対策、さらなる取り組み必要=習国家主席****
中国の習近平国家主席は、出生率の低下と人口規模の縮小を食い止めるためにさらなる取り組みが必要との認識を示した。国営新華社通信が15日に報じた。

16日に中国共産党の機関誌に掲載される記事の中で、習氏は人口動態を改善するために、人口と生殖に関する法制度を強化すべきと指摘した。

中国の出生率は昨年、過去最低を記録し、人口規模でインドに抜かれた。高齢化は中国の年金制度に負担をかけており、2015年に「一人っ子政策」を撤廃したものの、出生率を高めるのに苦慮している。

習氏は長期的にバランスの取れた人口増加を促進するために、出生支援政策を確立・改善し、労働力供給を増やすために、人材育成を強化する必要があるとの見解を示した。

さらに、「人口の安全保障」を確保するために、人口と経済、資源の間の調整も改善すべきと訴えた。【2024年11月15日 ロイター】
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出産・育児補助に関する制度的な対応の面では中国も日本もそう大きな差異はありませんが、「一人っ子政策」を国民に強制したような国家ですから、少子化対策においても、さすがに「強制」とはいきませんが、個人の意識・選択にかなり踏み込んだ政策をとる体質があります。

中国は低迷する出生率を押し上げるため、大学に対し結婚、恋愛、出産、家族に対する肯定的な考え方を強調する「愛の教育」を提供するよう促しているとも。【2024年11月15日 ロイター】

そうした意識変革のモデルタウンみたいなものが湖南省長沙市にあるとか。

****「中国式の恐怖」国から“押しつけられる”結婚と出産 著しい少子化を背景に…****
「これは中国式の恐怖だ」中国で最近、作られた結婚を推奨する施設に、SNSで寄せられたコメントだ。どうして結婚が恐怖なのだろうか。施設を取材すると、見えてきたのはトップダウンで結婚や出産を強烈に勧める強引な施策の実態だった。

■“愛が出会う街”の目的は…
2024年11月、中国南部の湖南省長沙市を訪れると、まず目についたのは商店街の入り口に掲げられた「愛がこの街と出会う」という大きな看板だ。さらに、ハートや花のモチーフと共に「長沙の恋は超甘い」などと、見ていて恥ずかしくなるようなメッセージが並ぶ。

これらの飾り付けの目的は、若者の結婚や出産を後押しすること。地元政府らが整備し「婚育文化街」と名づけられたこの街だが、訪れる人の姿はまばらだった。

■「結婚学校」の過激な主張に冷ややかな若者
特に目玉とされていたのが「結婚学校」と呼ばれる、若者向けに結婚や出産にまつわる情報を発信する施設だ。日本のメディアとして初めて内部を取材すると、さっそく出迎えてくれたスタッフは「前向きに報道してほしい。国が重視する重要な宣伝だ」と口にした。

その言葉を裏付けるように、施設に入るとすぐ習近平国家主席による“重要記述”と題した文章が掲げられていた。人口を増やすことの重要性を説いた上で、国の政策として「子づくりの社会的価値を尊重する」「年齢に応じた結婚と子育てを推奨する」などの言葉と列挙されている。

奥へ進むと、国の政策に関するクイズや主張が並んでいた。「20代は精子と卵子の黄金活躍期だ。この年齢で生まれた子供は他の段階より脳や体の発育が一層、優れている」「高齢化と少子化が加速しているので、国は3人産むことを提唱している」などと主張していて、結婚の素晴らしさを説く訳ではなく、早く子供を産むよう強く促す展示が続いていた。

長沙市民はこうした取り組みに冷ややかだ。ある30代の女性は結婚を推奨する主張自体は認めつつも、「少子化を女性だけの責任にしようとしている」と反発した。また10代の女性は「ここに結婚学校があると、みんな早く結婚しろという意味合いが出て逆効果だ。気分が悪くなる」と不快感をあらわにした。

施設を紹介したSNSにも批判が殺到し、「これは中国式の恐怖だ」などのコメントが寄せられた。取材を終え私たちが施設を去る際にもスタッフが「SNSで批判されているから顔は隠してほしい」と申し出るなど、彼らもこの取り組みが市民から支持されていないことを自覚しているようだった。

■背景には著しい“少子化”が…
どうしてこのような“押しつけがましい”政策が行われているのか。背景には、中国で深刻な「結婚件数の減少」と「出生率の低下」がある。

中国・民政省が発表した2024年1月から9月の結婚件数は約475万組と、前年の同じ時期より100万組近く減少し、初めて500万組を割って史上最低になった。さらに去年生まれた子供の数は902万人と、7年間で約半分にまで落ち込んだ。2016年に「一人っ子政策」を撤廃した後も少子化に歯止めはかからず、「子供を増やすこと」が国家目標になっているのだ。

習主席は「若者の恋愛や結婚、出産、家族観への指導を強化する」よう指示していて、それを受けた地元政府などが「結婚学校」などの取り組みを進めている。

「結婚学校」が作られた長沙市以外に、北京市内の公園でも「適切な年齢で結婚し子育てをしよう」と呼びかける看板が掲げられ、その下には家族の人形が並んでいる。そこにいる子供の人形の数は、国が提唱する「3人」だった。街中にある小さな公園にいたるまで、習主席の号令実現に向けたスローガンを人々にすり込むための場になっている。

■「個人の意思が尊重されるべきだ」
しかし、結婚や出産をめぐる問題を中国の若者に聞くと、聞こえてきたのは様々な“圧力”だった。「結納金が高い」「経済不況だけど教育費が高い。子供を良い学校に入れなければ競争を勝ち抜けないから仕方ない」など、金銭面を心配する声が聞かれた。

一方、複数の女性が口にしたのは、結婚や出産に対して個人の考えがないがしろにされているという不満だった。ある10代の女性は「自分が楽しいと思えれば結婚する。人それぞれ自分の生き方がある。他人から考え方を強制されるべきではない」と話した。

妊娠中の女性にも話を聞くと、彼女は少し考え込んだ末にきっぱりと答えた。
「これは個人の意思の問題だ。国の政策が良いか悪いかは分からない。でも、人々の結婚や出産への考え方も環境もそれぞれだから、もっと個人の意思を尊重すべきだ」【1月5日 日テレNEWS】
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習近平氏も「人それぞれ自分の生き方がある。他人から考え方を強制されるべきではない」といった意識が強まる国民を相手にして、昔みたいな共産党的手法は難しくなっています。この少子化問題に限らず。

****中国、トップダウンの少子化対策に限界 若者は冷ややかな反応****
中国中南部の都市・長沙で開催されたブライダル産業フェアで、鮮やかなピンクのネオンサインが「子どもは3人がベスト」と語りかける。来場者には婚活のヒントも配布されるし、男性が腹部に装置を装着して陣痛の痛みを疑似体験することもできる。

こうした結婚をテーマにしたイベントが行われる背景には、中国が人口減少に歯止めをかけるべく結婚や出産の推進を試みているという事情がある。

だが、来場者は少ない。時代に逆行している、女性軽視である、むしろ結婚への意欲を削いでいるという批判も出ており、政府の狙いが裏目に出た形だ。

ソーシャルメディアのユーザーからは、「家事って最高」「子育てに最適」「宿題を教えるのに最適」といったイベントでのスローガンは、固定的なジェンダー観を補強するものだという声が上がる。

中国の短文投稿サイト微博(ウェイボ)で「Jianguo」というハンドルネームを名乗るユーザーは、「どれも女性に向けたスローガンだ。やるべきことは家事の分担のはずなのに」と投稿した。【2024年11月9日 ロイター】
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2030年には6億人が飢餓状態に 国際支援をカットするトランプ次期政権 責任を果たさない中印

2025-01-04 23:39:32 | 食糧・飢餓

(ベネズエラのマラカイボでスープを飲む子ども。2024年6月12日撮影 【2024年7月29日 ロイター】)

【2030年の時点で6億人近い人々が飢餓状態に陥る】
国連は2030年までの飢餓撲滅を目標としていますが、「達成の道筋から外れている」(FAO報告書)状況にあり、改善が進んでいません。

****国連報告、栄養失調は7億人超 コロナ収束も高止まり****
国連食糧農業機関(FAO)などは24日、2023年に世界の最大7億5700万人が栄養失調状態だったと推定する報告書を公表した。

21年以降ほぼ横ばいの状態。新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)が収束に向かった後も高止まりが続いている。特にアフリカでは右肩上がりに増加し、人口の2割が栄養失調状態にある。
 
国連は30年までの飢餓撲滅を目標としているが、報告書は「達成の道筋から外れている」と指摘。紛争や気候変動、経済の悪化といった要因が同時発生することで「飢餓が増加している」とし、農業・食料システムの変革に向けた資金援助の必要性を訴えた。【2024年7月24日 共同】
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今後の予測に関しても、国連の国際農業開発基金(IFAD)のアルバロ・ラリオ総裁は、気候変動による影響と金融・政治双方の怠慢のために、2030年の時点で6億人近い人々が飢餓状態に陥るとの見方を示しています。

なお、上記の国連食糧農業機関(FAO)、下記の国際農業開発基金(IFAD)、そして国連世界食糧計画(WFP)は共同で世界食料安全保障委員会(CFS)事務局を運営していますが、上記記事の“国連食糧農業機関(FAO)など”の報告書と、下記記事のIFAD報告書の関係は知りません。

また、“栄養失調”“飢餓”の定義は各機関・報告書によって異なるところもあるようです。

****2030年には6億人が飢餓状態に、国連機関トップが警告****
国連の国際農業開発基金(IFAD)のアルバロ・ラリオ総裁は、気候変動による影響と金融・政治双方の怠慢のために、2030年の時点で6億人近い人々が飢餓状態に陥るとの見方を示した。

ラリオ総裁は、世界の飢餓・栄養状態に関するIFAD報告書の発表を前にトムソン・ロイター財団のインタビューに応じ、国連が持続可能な開発目標(SDGs)に掲げた2030年までの飢餓克服が未達成に終われば、アフリカのような人口増加地域を中心に、やむをえぬ移民の増加、新規雇用の減少、資源をめぐる紛争の深刻化が生じるだろうと述べた。

IFADの報告では、2022年の時点で世界人口の3分の1以上に当たる約28億人が健康的な食生活を送れていないとしている。 また、そのうちの70%以上は低所得諸国の住民だ。

報告書は、食糧安全保障が改善されておらず、健康的な食事へのアクセスに格差があるせいで、2020年代末の時点で5億8200万人が慢性的な栄養失調に陥る可能性があり、その半数以上がアフリカの人々だと指摘している。

ラリオ総裁は「2030年の時点で約6億人が慢性的栄養失調に陥るという事態を真剣に避けたいのであれば、一刻も早い措置が必要になる」と述べ、「やるべきことは分かっている。要するに政治的な意志があるかないかという話だ」と続けた。

IFAD報告が示した結論は、現在ブラジルで行われているG20閣僚会議における飢餓・貧困問題をめぐる議論の叩き台となるだろう。

<主要因としての気候変動>
ラリオ総裁はトムソン・ロイター財団に対し、気候変動を背景とする洪水や干ばつ、酷暑が世界中で飢餓と栄養失調を深刻化させつつあると語った。

また、気候変動の影響に対応するためのインフラの不足、過大な債務を抱えた各国財政、食糧の生産・貯蔵・流通分野に向けた気候ファイナンスの大幅な不足も原因になっていると指摘した。

これは、昨年(2023年)COP28で示された国連の新たな計画にとって障害になりかねない。この計画では、地球温暖化を摂氏1.5度以内に抑えこむというパリ協定の目標を守りつつ飢餓と栄養失調に終止符を打つことを目指している。

栽培手法や肥料、貯蔵、輸送、廃棄物処理を含む食糧関連部門は、世界の温室効果ガス排出量の約3分の1を占めている。

昨年のCOP28では、国連の計画としては初めて食糧の生産・消費による温室効果ガス排出が取り上げられた。

それに伴い、農業における「公正な移行」という概念、そして気候変動を悪化させない食糧生産方式への移行に向けた農家支援に対する関心が高まった。

小規模生産者は、世界人口の70%以上に対する食糧を生産しているにもかかわらず、農地や資源に占める割合は3分の1にも満たない。

「こうした何億人もの小規模農家のなかには、生計を維持していくのがやっとという例も多い。そういう農家に特定の農業手法への移行をお願いするというのは負担が大きい」とラリオ総裁は語った。

さらに、こうした小規模生産者が「豊かな生活を送れるような」適切な生態系を生み出すべく、融資やインフラ、そして国の政策による支援を提供することが決定的に重要だと説明した。

だが、こうした課題に対処するニーズが高まっているにもかかわらず、食糧安全保障と栄養改善に向けた資金確保が追いついていないという。

「貧しい農村地域に住む小規模生産者に対する資金供給は、気候ファイナンスのフロー全体と比較すると、実際には以前より減少している」

米国の気候政策イニシアティブ(CPI)が昨年行った調査では、気候変動適応に向けた投資のうち、小規模農家の食糧安全保障に関連したものに注目した。

ラリオ総裁が注目しているのは、同調査において、こうした小規模農家への資金供給が世界全体の気候ファイナンス総額に占める比率が2018年の1.7%から2020年には0.8%に低下している点だ。

総裁は、生産だけでなく、食糧の供給や貯蔵、市場アクセス、品質保証に対する投資も急務だと指摘する。「こうしたバリューチェーンのあらゆる領域において、実際に多くの雇用が生まれる可能性がある」

だがラリオ総裁の指摘によれば、資金供給のギャップはかなり大きい。

総裁が引用した世界銀行の試算では、グローバルな食糧システムをもっと持続可能で包摂性の高い(インクルーシブな)ものにするには、年間3500−4000億ドルが必要とされている。

「だが、この問題を解決すべき理由を考えてみてほしい。何しろ肥満や栄養不良の治療費は約6兆ドル、こうしたシステムの気候変動・環境問題による被害は3兆ドルにも達するのだから」【2024年7月29日 ロイター】
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“気候変動を悪化させない食糧生産方式への移行”・・・いろんなものがあるのでしょうが、真っ先に思い浮かべるのは焼畑農業からの移行でしょうか。焼畑農業は草木を焼き払うことから、大量の二酸化炭素を放出します。 また、二酸化炭素を吸収する森林も失われることがあり、地球温暖化に拍車をかけていると言われています。また甚大な環境汚染・健康被害も惹起しています。

【富裕国が人道支援のために拠出する金額は減少 流れを決定づけるトランプ政権の国際支援カット 「大国」の責任を果たさない中国・インド・ロシア】
いずれにしても、こまかい数字は別として、世界の食糧事情は依然として厳しいものがあり、国際社会の一致した協力・支援を必要としている状況にあります。

しかしながら、支援が期待される富裕国や「大国」の資金提供は満足できる状態にありません。世界中で飢餓などに苦しむ人々の数が増加している一方で、最も富裕な国々が人道支援のために拠出する金額は減少しているのが現実です。

****深刻化する世界の飢餓、支援責任果たさぬ大国に不満も****
これは単純だが残酷な方程式だ。世界中で飢餓などに苦しむ人々の数が増加している一方で、最も富裕な国々が人道支援のために拠出する金額は減少している。

結果として、2025年は人道支援を必要とする3億700万人のうち、60%程度を支援できる資金しか調達できないと国連は予想している。つまり少なくとも1億1700万人が食糧その他の支援を受けられないということだ。

国連は24年、全世界の人道支援のために調達を目指している496億ドルのうち、約46%しか集められそうにないとの見通しを示している。達成率が半分以下にとどまるのは2年連続だ。人道支援機関は苦渋の決断を迫られ、飢餓に苦しむ人々への配給を削減したり、支援の受給資格者を減らしたりしている。

例えばシリアで国連世界食糧計画(WFP)は、かつて600万人に食糧を供給していたが、24年初めの寄付額予測を踏まえて支援対象者を約100万人にまで削減した。WFPのパートナーシップおよび資源動員担当副事務局長であるラニア・ダガッシュカマラ氏が明らかにした。

一部の富裕国は財政逼迫と政治情勢の変化を背景に、支援の規模と対象を見直している。国連への寄付額が最大規模のドイツは既に、財政緊縮の一環として23年から24年にかけて人道支援を5億ドル削減。内閣は25年について、さらに10億ドルの削減を勧告している。

人道支援組織は、トランプ次期米大統領が人道支援についてどのような提案を行うかも注視している。トランプ氏は1期目に米国の資金援助を大幅に削減しようとしていた。

米国は、世界中で飢餓の防止と対策において主導的な役割を果たしており、過去5年間で645億ドルの人道支援を提供した。これは、国連が記録した同種の拠出総額の少なくとも38%に相当する。

<分担に大きな差>
人道支援資金の大半は、米国とドイツ、欧州連合(EU)欧州委員会という富裕な国と組織が拠出している。国連の記録では、20年から24年の危機支援額1700億ドルの58%を、これら3主体が占めた。

ロイターが国連の拠出金データを調査したところ、やはり大国である中国、ロシア、インドによる拠出額は、同期間の人道支援額の1%にも満たない。

この差が縮まらないことが、世界的な飢餓支援制度が窮状にある主因の一つだ。23年には59の国と地域において、約2億8200万人が深刻な食糧不足に直面した。

トランプ氏は、主要な国々が応分の負担を引き受けていないとの不満を繰り返し訴えてきた。トランプ氏の支持者らが2期目に向けてまとめた政策提言「プロジェクト2025」は、人道支援機関に対して他の国々からの資金調達に一層努力するよう求め、それを米国による追加支援の条件にすべきだとしている。

プロジェクト2025はまた、ほとんどの飢餓危機の原因である紛争について特別な言及を行っている。いわく「人道支援は戦争経済を支え、戦闘を続けるための財政的インセンティブを生み出し、政府の改革を妨げ、悪政を支えている」。そして「悪の勢力」が支配する地域で支援プログラムを中止し、国際的な支援を大幅に削減するよう求めている。

トランプ氏が新組織「政府効率化省」のトップに指名した実業家イーロン・マスク氏は今月Xで、同省が海外援助を検証すると表明した。

<五輪と宇宙船>
多くの地域で大規模な飢餓が長引くにつれ、寄付国の間に支援疲れが広がっていると人道支援機関は指摘している。 自国が支援できる額には限界があるだけに、十分な責任を担っていないとみられる大国に対する不満が募っているという。

ノルウェー難民評議会の代表であるヤン・エーゲランド氏は、ノルウェーのような小国が人道支援の拠出国上位に位置するのは「異常」だと話す。ロイターが国連の支援データを調査したところ、23年の国民総所得(GNI)が米国の2%にも満たないノルウェーは同年、国連に10億ドル余りを拠出し、世界7位の寄付国だった。

これに対し、GNI世界2位の中国による人道支援は1150万ドルで32位、GNI世界5位のインドは640万ドルで35位にとどまった。

エーゲランド氏は、中国とインドは世界的な注目を集める取り組みにはるかに多くの投資を行っていると指摘する。中国は22年の冬季五輪開催に数十億ドルを費やし、インドは23年に7500万ドルを投じて月面に無人探査機を着陸させた。

「世界の飢えに苦しむ子どもたちを助けることに、なぜこれほど関心が薄いのか」とエーゲランド氏。「これら(の国々)はもはや発展途上国ではない。五輪を開催し、他の多くの支援国が夢にも思わない宇宙船を所有しているのだ」と憤る。

駐米中国大使館の報道官は、中国は常にWFPを支援してきたと主張。また、中国国内で14億人に食糧を供給していると指摘した上で「それ自体が世界の食糧安全保障に対する大きな貢献だ」と述べた。

インドの国連大使および外務省は質問に回答しなかった。

14年当時、国連難民高等弁務官だったグテレス現国連事務総長は、国連加盟国による人道支援資金の拠出方式を抜本的に変え、加盟国に手数料を課す制度にするよう提言した。国連の報告書によると、翌年に国連はグテレス氏の案を検討したが、支援側の加盟国が、ケースバイケースで拠出を決める現行制度の継続を選択した。

国連人道問題調整事務所の報道官、レンズ・ラーケ氏は、国連は寄付ベースの多様化に取り組んでいると説明。「お馴染みの寄付国クラブに頼るだけではいけない」と認めた。【1月4日 ロイター】
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世の中は「自国第一主義」に傾いていますので、今後国際支援は大きく減少すること、つまり、食糧支援を受けられず飢餓に苦しむ人々が増加することが予想されます。

その流れを決定づけるのがアメリカのトランプ政権であり、マスク氏率いる新組織「政府効率化省」でしょう。
プロジェクト2025の「人道支援は戦争経済を支え・・・」云々からすれば、国際支援は大幅にカットされるでしょう。

それにしても中国は“中国国内で14億人に食糧を供給していると指摘した上で「それ自体が世界の食糧安全保障に対する大きな貢献だ」”・・・面白い言い訳をするものです。

中国は「一帯一路」事業などで海外支援・投資は行っていますが、「大国」を自任するのであれば、中国国旗がはためくもの、「中国支援」のプレートが大きく表示されたものだけでなく、こうした国連を通した支援責任を果たしてもらいたいものです。

【スーダン 人口の半数に当たる約2460万人が深刻な食料不足】
あまた存在する飢餓の具体事例をひとつだけ。「忘れられた紛争」スーダン。

飢餓の状況を監視する国連組織(国連の「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」の飢饉評価委員会)は12月24日、スーダンで飢饉が5つの地域に拡大し、5月までにさらに他の5つの地域に拡大する恐れがあると報告しています。スーダンの現状は現代で最悪の食糧危機の一つとされていますが、内戦当事者が支援を妨害し続けていると指摘されています。

****内戦のスーダン、飢饉が拡大 人口の半数が深刻な食料不足****
複数の国連機関や人道支援団体などの連合体「IPC」は24日、国軍と準軍事組織「即応支援部隊」の内戦が続くアフリカ北東部スーダンで飢饉が拡大、少なくとも五つの地域で確認されたとする報告書を公表した。

人口の半数に当たる約2460万人が深刻な食料不足に陥っているとし、飢饉はさらに拡大する恐れがあると警告した。

8月の報告書では北ダルフール州にある一部の難民キャンプで飢饉を確認。その後も支援が進まず、同州の別の難民キャンプやスーダン南部の一部に広がったという。

IPCは、特定地域の人口の少なくとも2割が極度の食料不足に直面するなど三つの基準を満たした場合に飢饉と判断する。【12月25日 共同】
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“スーダン政府が今年に入ってからIPCの活動を妨害し、ザムザム避難民キャンプにおける飢饉認定を数カ月遅らせていることが明らかになった。同キャンプでは、避難民が生き延びるために木の葉を食べる状況に追い込まれている。”【12月29日 ロイター】

“政府と対立するRSFは、通常の商取引や人道支援によって供給される食料を略奪し、農作業を妨害。一部の地域を包囲している。このため食料の取引コストが上昇し、食品価格は法外なレベルに達している。一方でスーダン政府も、複数の地域で人道支援団体のアクセスを妨げている。”【同上】

“スーダン政府による支援関係者へのビザ発給は時間がかかり、多くの国際NGOが影響を受ける。特に、飢饉の影響が深刻なダルフール地域での活動について、政府は難色を示しているという。この地域は主にRSFの支配下にある。 匿名を条件に取材に応じた支援団体の幹部は、スーダン政府が「ダルフールには活動を正当化するほどのニーズがない」とし、活動を続ける場合はビザ発給を期待しないようにと警告したと述べている。”【同上】

住民の生活困窮に関心がない点では、政府もRSFも同じです。
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ドイツ 2月総選挙で政権交代の予想 注目される年末のクリスマスマーケット襲撃事件の影響

2025-01-03 23:27:08 | 欧州情勢

(【12月27日 Bloomgerg】 右肩上がりの白が最大野党の保守、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)、赤が与党・中道左派の社会民主党(SPD) 青が極右・ドイツのための選択肢(AfD)) AfDの伸びは昨年中はストップしたようです。)

【最大野党の保守、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は支持率トップも、単独過半数には届かない見込みで、連立交渉か】
ドイツでは異例の議会解散による総選挙が2月23日に行われます。

ショルツ首相率いる中道左派の社会民主党(SPD)と環境派の「緑の党」、そして中道の自由民主党(FDP)による3党連立政権は昨年11月、経済や財政政策の対立から自由民主党(FDP)が連立を離脱して少数政権となり政権運営に行き詰まりました。

ドイツは議会解散の頻発がナチス台頭をもたらした反省から、基本法(憲法)で解散を厳しく制限しているため、ショルツ首相が要請した信任投票が予定どおり反対多数で否決されて不信任となるという形を受け、ショルツ首相がシュタインマイヤー大統領に議会の解散を求め、大統領が議会を解散する・・・という流れになっています。

上記事情からドイツでは解散総選挙は異例で、2005年のシュレーダー政権以来となります。

****ドイツ大統領、連邦議会を解散 来年2月23日総選挙へ****
ドイツのシュタインマイヤー大統領は27日、連邦議会(下院)で信任投票が否決されたショルツ首相の提案を受け、下院を解散した。来年2月23日に総選挙を実施することも正式に発表した。解散総選挙は2005年以来、19年ぶり。
 
争点は経済問題や移民・難民政策、ウクライナ支援など。

世論調査では最大野党の保守、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が支持率で首位を走り、排外主義の右派、ドイツのための選択肢(AfD)が2位。与党のショルツ氏の中道左派、社会民主党(SPD)と環境派の「緑の党」は低迷している。
 
21年12月に発足した3党連立政権は今年11月に崩壊した。【12月27日 共同】
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支持率ではトップの最大野党の保守、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)も単独過半数には届かない見込みで、連立政権が現実的と考えられていますが、その連立交渉は難しそう。

****ドイツ総選挙、世論調査トップは中道右派 首相、信任案提出へ****
(中略)公共放送ZDFが12月6日に発表した世論調査によると、支持率が最も高いのは、メルケル前政権で与党だった中道右派の統一会派CDU・CSUで33%。次いで、地方選挙で躍進が続く排外主義的な右派、ドイツのための選択肢(AfD)が17%と続き、ショルツ氏が率いる社民党は15%にとどまる。緑の党は14%、自民党は4%だった。

現時点で次期首相に最も近い立場にいるCDUのメルツ党首は、社会福祉の削減や難民規制の強化など保守的な政策を打ち出し、厳しすぎる気候変動対策にも懐疑的とされる。メルツ氏が政権を率いることになれば、リベラル色の強かったショルツ政権からの方針転換となりそうだ。

ただ、現状では総選挙でCDU・CSUは単独過半数には届かない情勢だ。メルツ氏はAfDとの連立を否定しており、社民党か緑の党との連立が現実的となる。

メルツ氏は今月3日、独大衆紙ビルトに対し「外交と安全保障政策では緑の党と共通点が多い」と述べ、同党との連立交渉の可能性をにおわせた。

緑の党は、ショルツ氏が拒否する長距離巡航ミサイル「タウルス」の供与を含む積極的なウクライナ支援を主張しており、メルツ氏の考えと近い。ただ、両党はその他の政策では相いれず、CDUの姉妹政党であるCSUのゼーダー党首は両党の連立に反対している。

一方、社民党と組めば、メルケル前政権以来となる2大政党による「大連立」となる。だがCDU・CSUは政治の混乱を招いたとして、ショルツ氏を厳しく批判してきた。「ショルツ氏なしの社民党ならチャンスがある」(ゼーダー氏)との声が上がるほどで、連立交渉は容易ではなさそうだ。

21年の前回の総選挙では、支持率トップだったCDUのラシェット党首(当時)が災害現場で笑ったことを批判され、社民党が10ポイント以上開けられていた差を逆転してショルツ政権発足につながった。今後の動きや出来事次第で、選挙情勢は大きく変わる可能性もある。【12月10日 毎日】
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【総選挙の争点の一つが移民・難民対策 注目される年末に起きたクリスマスマーケット襲撃事件の影響】
“今後の動きや出来事次第で、選挙情勢は大きく変わる”ということでは、東部マグデブルクで12月20日、サウジアラビア出身の医師がクリスマスマーケットに車で突っ込み、子供を含む5人が死亡、負傷者は200人を超えるという事件の移民・難民対策が争点となっている選挙への影響、特に支持率2位につけている移民排斥的なドイツのための選択肢(AfD)にどう影響するのかが注目されます。

****ドイツの車暴走、容疑者は「反イスラム」主義者…移民に対する憎悪に拍車の恐れ****
ドイツ東部マグデブルクで20日にクリスマスマーケットを襲撃した容疑者の男は、サウジアラビア出身の医師で、特異な経歴から動機に注目が集まっている。

来年2月に予定される独連邦議会選挙に向け、移民排斥を訴える右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が今回の事件を支持拡大に利用し、移民に対する憎悪をあおる可能性がある。

ドイツに2006年亡命
地元メディアによると、男は母国サウジでの迫害を理由に2006年にドイツに亡命した。更生施設で精神科医として働いていたが、最近「就労不適格」とされた。サウジ女性の国外亡命を長年支援していたという。

警察当局は20日夜、容疑者の取り調べを始めた。独紙ウェルトは、男が反イスラム主義の活動家で、寛容な移民政策を進めたドイツの「イスラム化」を懸念していたと報じた。男は今年5月、自身のSNSでイスラム教徒の入国を制限するべきだと主張し、AfDに共鳴していたという。

社会の分断、一層進む恐れ
AfDのアリス・ワイデル共同党首は20日、「衝撃的だ。この狂気はいつ終わるのか」とX(旧ツイッター)に投稿し、事件を非難した。

事件現場があるザクセン・アンハルト州を含む旧東独地域は、AfDの地盤でもある。今年6月に行われた同州の地方選挙で、AfDは州全体で最多の票を得るなど着実に支持を伸ばしている。シリアのアサド政権崩壊を受け、「もはや逃げる理由がない」(ワイデル氏)としてシリア人の早期帰還を求めるなどイスラム系住民への圧力を再び強め始めている。

今回の事件も含め、選挙戦では移民や難民を巡る議論も争点になると予想され、社会の分断が一層進む恐れがある。【12月22日 読売】
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****車突入事件の直後から移民・難民排斥デモ***
2015〜16年にやってきたシリア難民は100万人を超え、現在も大部分がドイツにとどまっている。

10年前は「シリア難民は人手不足に悩むドイツ経済の救世主となる」との期待があったが、肩すかしに終わってしまった。それどころか、「彼らのせいで国内の治安が悪化している」との非難が噴出している。

生活が厳しくなったドイツ人が最も怒っているのは、移民がドイツの社会福祉制度に依存していることだろう。独連邦雇用庁が昨年9月に発表したデータによれば、「市民金(生活保護と失業手当をひとまとめにしたもの)」の受給者の3分の2が移民の背景がある人たちだ。シリア難民の受給者は約50万人に上っている。

移民への風当たりが強まっている矢先に恐れていた事件が起きた。(中略)犯行直後からドイツ各地で「移民・難民の国外追放」を訴えるデモが相次いでいる。【12月26日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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サウジアラビア出身の医師(2006年にドイツに移り住み、永住権を取得 「元イスラム教徒」を自称する反イスラム主義活動家)による凶行と言う点では、移民・難民に厳しい目を向け始めている世論の反移民感情を加速させ、AfDも最大限に事件を活用するでしょう。

ただ、微妙なのは一部メディアが容疑者は移民排斥を掲げる極右政党「AfD」を支持していたと報じていること。

****5人死亡のクリスマスマーケット襲撃 極右政党「AfD」は関係を否定 サウジ出身の男が「支持していた」と地元メディア報じる****
ドイツのクリスマスマーケットに車が突っ込み5人が死亡した事件で、容疑者の男が支持していたと報じられた極右政党の地元幹部がJNNの取材に応じ、「支持者ではない」と話しました。

この事件で拘束されたサウジアラビア出身の男について、一部メディアは移民排斥を掲げる極右政党「AfD」を支持していたと報じています。

こうしたなか、AfDの地元幹部がJNNの取材に応じ、この報道を否定しました。

極右政党「AfD」 マクデブルク市議団団長
「男が(SNSで)ある種の投稿や共有をしたというのが理由にされています。しかし、本当のAfD支持者は、決して襲撃事件を起こしたりしません」(後略)【12月23日 TBS NEWS DIG】
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【主要政党の経済対策 「もっと大規模なものが求められる」との指摘も 軍需期待も】
2年連続でマイナス成長という状況で、経済対策では財政規律が争点になっています。

****独主要政党、2月総選挙控え公約発表 最大の争点は経済対策****
来年2月23日に総選挙が実施されるドイツで17日、主要政党が選挙公約を相次いで発表した。

最大の争点は低迷する経済への対策だ。ドイツの成長率は2年連続でマイナスに陥ろうとしており、自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は外国メーカーとの厳しい競争に直面するなど課題は山積している。この日公表されたIFO経済研究所の12月業況指数も、市場予想を下回った。

こうした中で世論調査の支持率が最も高く、政権奪取が見込まれている保守のキリスト教民主同盟(CDU)は、所得税と法人税の減税や電気料金引き下げを通じて経済のてこ入れを図る方針を打ち出した。

これらの措置には財源の裏付けが不明確だとの批判もあるが、CDUは成長ペース加速による歳入増加や社会福祉予算を一定程度削減することで賄えると見積もっている。

一方、CDU党首で次期首相が最有力視されるフリードリヒ・メルツ氏はこれまでのところ、財政運営と歳出に一定の規律を持たせるために憲法が定めた「債務ブレーキ」を維持する意向を示している。

これに対してショルツ首相が率いる中道左派、社会民主党(SPD)や、SPDと連立を組む環境保護政党、緑の党は債務ブレーキを修正したい考え。

緑の党のハーベック経済相は、メルツ氏はドイツが突き付けられている現実に正面から向き合おうとしていないと批判。「われわれはインフラを根本から立て直さなければならない。老朽化したインフラの全面的な改修には今後10年で推定数千億ユーロかかり、債務ブレーキの改革が必要になってくる」と訴えた。

ショルツ氏は、SPDが掲げる政策の目玉に雇用を挙げている。「最優先かつ最も大事なのは既存の雇用を守り、新規雇用創出の道を確保することだ」と強調した。

SPDは、特に国内生産とインフラ近代化に向けた民間投資にインセンティブを導入することも提案している。

ただ一部のエコノミストからは、こうした主要政党の政策でドイツ経済の大幅な変革が可能かどうかは疑問だとの声が聞かれた。

ハンブルク商業銀行のチーフエコノミスト、サイルス・デラルビア氏は「小粒の対策では効果がない。もっと大規模なものが求められる。(しかし)大半の選挙公約にそうした内容は見つけ出せない」と語った。【12月18日 ロイター】
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経済対策としては、「有事への備え」・軍拡の流れを受けての「軍需」という要素も。

****ドイツで「シェルター計画」と「新たな兵役モデル」 「2年連続マイナス成長」深刻な不景気への特効薬は軍拡なのか*****
(中略)
新たな地下壕計画、兵役モデルの施行
移民問題に加え、「有事への備え」もドイツ政治の中心テーマとなった感がある。

ドイツ政府は11月下旬、ロシアからの核攻撃に対処するため、避難シェルター(バンカー)のリスト化や設置の奨励などを含む新たなバンカー計画に取り組んでいる。ドイツにはかつて約2000カ所のシェルターがあったが、現在使えるのは579カ所のみ。約8400万人の人口に対し、48万人分に過ぎない。

ドイツ政府は軍の規模拡大に踏み切る構えもみせている。ピストリウス国防相は18日、兵士を現在の約18万人から最大23万人にまで増員する可能性があると明らかにした。北大西洋条約機構(NATO)の戦力増強の取り組みが背景にある。

だが、徴兵制が2011年に停止された後、軍は人員の確保に苦労しており、現時点では目標を約2万人下回っている。

ショルツ政権は6日、兵員確保に資する新たな兵役モデルを閣議決定し、来年5月の施行を目指している。新たなモデルでは、アンケートを元に4〜5万人を徴兵検査に呼び、そのうち5000人に少なくとも6カ月の基礎的な軍事訓練に従事するよう促す。参加者には最大で月額2000ユーロ(約32万6000円)を支給する予定だ。

自動車から防衛へ“鞍替え”も
政府の軍拡にドイツ産業界も反応し始めている。

電気自動車(EV)の需要低迷と、中国との競争激化で苦戦を強いられるドイツ自動車業界には、リストラの波が押し寄せている。そこに、特需に沸く防衛産業から救いの手が差し伸べられた。

例えば、ミュンヘンに拠点を置くレーダー・光電子工学メーカーのヘンゾルトは、軍事関連の受注急増に対応するため自動車部品企業2社からチームを丸ごと雇い入れる交渉を進めている(12月14日付ブルームバーグ)。

深刻な不景気への特効薬は軍需しかないのもしれない。(後略)【12月26日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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【欧州政治にも関与(介入?)するイーロン・マスク氏】
上記のようなドイツ総選挙をめぐる状況に“参入”(介入?)しているのが極右AfDを支持するマスク氏。

****独政府、マスク氏の極右政党支持を非難 「選挙介入にあたる」****
ドイツ政府は30日、米起業家のイーロン・マスク氏が来年2月に行われるドイツの総選挙に影響を及ぼそうとしていると非難した。

マスク氏はトランプ次期米政権で要職に就く見通し。自身のソーシャルメディアXに「ドイツを救えるのは極右政党『ドイツのための選択肢(AfD)』だけだ」と投稿したほか、独紙ウェルト・アム・ゾンターク紙への寄稿でもAfDへの支持を改めて表明した。

独政府報道官はマスク氏のAfDへの支持について「国内情報機関が右翼過激主義の疑いで監視し、一部がすでに右翼過激主義と認定されている政党への投票を勧めるものだ」と指摘。「マスク氏がXへの投稿や寄稿を通して連邦選挙に影響を及ぼそうとしているのは事実だ」と述べた。

マスク氏には自身の意見を表明する自由があるとしながらも、表現の自由には「最大のナンセンス」も含まれるとした。

野党・キリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首は独紙フンケに対し、マスク氏のコメントは「押し付けがましく、傲慢(ごうまん)だ」と語った。メルツ氏は次期首相として有力視されている。【12月31日 ロイター】
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マスク氏の欧州選挙への参入はイギリスでも。

****マスク氏の極右支持が波紋 「選挙介入」、分断の火種に―独****
(中略)
マスク氏は独紙ウェルト日曜版にも寄稿し、AfDが掲げる規制緩和や反移民、原発再稼働などの方針を評価し、「政治的な現実主義だ。既存体制に無視されたと感じる人々の共感を呼んでいる」と称賛した。

マスク氏はベルリン近郊に巨大工場を持つ電気自動車(EV)大手テスラの最高経営責任者(CEO)。自社の利益の追求がAfDを支持する理由の一つとみられ、同党のワイデル共同党首の周辺と「定期的な連絡」(独メディア)を交わしているとされる。

AfDは反国家的活動家との近さから公安当局の監視下にあり、政界で異端視されている。排外主義や欧州連合(EU)からの離脱も辞さない姿勢は、産業界と相いれないとの見方が一般的。しかし、世界トップの実業家による「お墨付き」は追い風となっている。

総選挙に向けて劣勢を強いられている中道左派与党、社会民主党(SPD)のショルツ首相は、新年の国民向け演説で「ドイツのことを決めるのは国民だ。ソーシャルメディアのオーナーではない」とXを傘下に持つマスク氏への不快感をあらわにした。保守系野党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)を率い、次期首相の座に最も近いメルツCDU党首は「友好国に対するこのような選挙介入は記憶にない」と批判した。

マスク氏はドイツ以外の欧州の右派政治家とも交流を深めている。イタリアの極右政党「イタリアの同胞」党首のメローニ首相と密接な関係を構築。英国の右派ポピュリスト政党「リフォームUK」に巨額献金を行うとの見方も強まっている。

トランプ次期米大統領の盟友であり、莫大(ばくだい)な資金を持つマスク氏の動向は今後、欧州政界で注目を集めそうだ。【1月2日 時事】
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“米電気自動車(EV)メーカー、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は英議会を解散し総選挙を実施するべきだと呼び掛けた。トランプ次期米政権がスターマー英政権に与える悩みの種が、また一つ増えた格好。”【1月3日 Bloomgerg】

実際に欧州政治にどれだけの影響力を持っているかは定かではありませんが、“影響力を持つ人物”というイメージを作り上げることでは成功しているようです。
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ロシア産ガスのウクライナ経由供給が停止 電力不足のモルドバ ウクライへの反発強めるスロバキア

2025-01-02 21:57:50 | 欧州情勢

(スロバキアのフィツォ首相(写真左)とロシアのプーチン大統領。12月22日、モスクワで代表撮影【12月30日 ロイター】)

【全欧州的なガス供給不足や著しいガス価格暴騰につながるリスクは小さいものの、中東欧諸国へ影響】
昨年12月13日ブログ“モルドバ 大統領選挙は親欧米派現職勝利も、エネルギーのロシア依存で揺れる”でも取り上げた、ロシアからのウクライナ経由の欧州への天然ガス供給が今年1月1日から、ロシア・ウクライナ間の契約が更新されないことによりストップしました。

****ウクライナ、自国経由するロシア産天然ガスの欧州輸送を停止 契約失効****
ロシア産の天然ガスをウクライナ経由で欧州にパイプライン輸送する契約が1日、失効した。これより前にウクライナは国家安全保障の観点からロシアとの契約を更新しない姿勢を示していた。

ベルギーのシンクタンク、ブリューゲルによると、ウクライナ経由は欧州連合(EU)の天然ガス輸入全体の約5%を占め、主にオーストリア、ハンガリー、スロバキアに供給されていた。今後ロシア産を欧州に送るパイプラインはトルコ経由のみとなる。

米調査会社ユーラシア・グループのエネルギー担当責任者によると、契約の失効でガス価格の上昇が予想されるという。

ただ、欧州は備えを進めてきており、加えて今冬の寒さがこれまでのところ厳しくないこともあり、以前ロシアが供給を削減した時のような値上がりにはならないと見ている。

ロイター通信が報じたところによると、ウクライナ経由で天然ガスを輸出していたロシア国営ガスプロムは昨年、欧州への輸出減が響き、69億ドル(約1兆800億円)の赤字を計上した。ウクライナは今回の契約失効で年約8億ドルの収入を、ガスプロムは50億ドル近くの売上を失うという。

オーストリアのエネルギー相は1日、契約の失効に入念に備えてきたことを明らかにし、エネルギー企業がロシア以外の国からの供給を模索してきたとも述べた。

だがスロバキアのフィツォ首相はウクライナ経由の輸入停止はロシアではなくEUに「極めて大きな」影響を及ぼすと述べたとロイターは報じた。

EUの行政執行機関である欧州委員会(EC)によると、欧州のロシア産天然ガスへの依存度は下がっており、パイプラインでの輸入は2021年に全体の40%超だったのが23年には約8%になった。【1月2日 CNN】
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以前よりウクライナは、ロシアの収入源を減らす必要があるとして、今年1月以降、自国を通過させるロシアとの契約を延長しない方針を示してきました。

ロシアからの欧州へのガス供給パイプラインで稼働しているのは、今回措置によりトルコ経由のみになります。
“ロシア産ガスを輸送するパイプラインで稼働しているのは、黒海を横断してトルコに至るトルコ・ストリームのみとなる。ベラルーシを経由するヤマル・ヨーロッパ・ストリームは停止しており、バルト海を経てドイツに至るノルド・ストリームは22年に破壊された。”【1月1日 ロイター】

上記記事にもあるように、欧州のロシア産天然ガスへの依存度はすでに下がっていること、ロシア以外からの調達に切り替える準備も行われてきたことなどで、今回措置が全欧州的なガス供給不足や著しいガス価格暴騰につながるリスクは小さいとみられていますが、ハンガリー、スロバキア、モルドバなど中東欧諸国ではガス供給の縮小や、価格上昇の影響が予想されています。

【「沿ドニエストル」地域ではガス供給停止 今後、モルドバの電力不足が懸念される】
最も影響が大きいとされているのがモルドバ。
モルドバでは、親ロシア系住民の分離独立派が支配する「沿ドニエストル」地域の住宅で1月1日から暖房が止まり、お茶も湧かせない事態になっています。

モルドバ政府の支配地域は、ガスに関しては主にルーマニアからガス供給を受けて現時点では問題ないとみられていますが、問題は電力。「沿ドニエストル」地域では、ロシアから送られた安価なガスを利用して発電、その電力がモルドバに送られるというエネルギー事情にあるため、今後はモルドバにおける電力不足が懸念されています。

ロシアからのガス供給は代替ルートでの供給も可能ですが、ロシア側はモルドバのガス料金支払いが滞り、7億9千万ドル(約1250億円)の債務があると主張し、ルート変更前の支払いを求めています。

****ロシア、来年初からモルドバ向けガス供給停止 深刻な電力不足懸念****
ロシア政府系天然ガス企業ガスプロムは28日、モルドバに対するガス供給を来年1月1日から停止すると発表した。未払い債務の存在を理由に挙げており、モルドバは深刻な電力不足に陥ることになる。

ガスプロムは、モルドバへのガス供給契約破棄も含めたいかなる手段を行使する権利を留保すると強気の姿勢だ。

ロシアはモルドバに年間約20億立方メートルのガスを供給。ウクライナを経由し、モルドバから事実上分離独立した「沿ドニエストル共和国」の火力発電所を通じて電力としてモルドバに送られてきた。

ウクライナ経由のガス供給はモルドバとロシアの通過契約が年末で期限を迎え、スロバキアやオーストリア、ハンガリー、イタリアなども影響を受けるが、モルドバの打撃が最も大きい。

モルドバで親欧米の立場を取るレチャン首相は、ロシアがエネルギーを政治的武器として利用していると非難。一方ロシア側はモルドバには7億0900万ドルの債務があると主張し、ガスプロムは代替ルートで供給する前にこの債務を支払うよう求めている。

ガス供給が止まれば、モルドバと沿ドニエストル共和国では大規模な停電が発生する恐れが出ている。【12月30日 ロイター】
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親欧米政権のモルドバ側は、ロシア側が主張する約7億900万ドル(約1100億円)の債務は存在しないと主張しています。これまでロシア、モルドバ、親ロシア「沿ドニエストル」の間の微妙な政治事情で曖昧に処理されてきたのでしょう。

【スロバキア・フィツォ首相とウクライナ・ゼレンスキー大統領のロシアをめぐる対立、改めて表面化】
一方、対ロシア姿勢の違いから政治問題化しているのがスロバキア。
かねてよりスロバキアのフィツォ首相は、左派民族主義の立場から、ハンガリーのオルバン首相同様にロシア、更には中国と接近し、反EU・ウクライナ的な姿勢をとってきました。

****スロバキア首相、ロシアのテレビに出演 ウクライナ巡りEU批判****
中欧スロバキアのフィツォ首相は30日、ロシア国営テレビ「ロシア1」に出演し、第二次世界大戦で旧ソビエトがナチス・ドイツに勝利したことを祝う「戦勝記念日」に当たる来年5月9日にモスクワを訪問したいと語り、ウクライナ戦争への欧州連合(EU)のアプローチを批判した。これを受け、国内の野党から批判の声が上がった。

スロバキアのメディアによると、EU加盟国の首脳がロシアのテレビに出演するのは2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降初めて。

フィツォ氏率いる左派の民族主義政権は1年前の発足直後にウクライナへの軍事物資の供給を停止し、武器の供給が紛争を長引かせていると主張してきた。

フィツォ氏はロシア大統領府支持派のテレビ解説者オルガ・スカベエワ氏とのインタビューで、来年の戦勝記念日に訪問したいと述べた。

また、ウクライナの和平計画はもはや実行不可能だとし、ロシア語に翻訳されたコメントで、「これはもう和平策ではなく、突然、勝利計画と呼ばれるようになった」などと指摘した。

最大野党のシメツカ党首は「国内でフィツォ氏のつぎはぎ行政は崩壊しつつある。医療は首相にとって議題ではないが、首相はロシアのプーチン大統領に奉仕する時間は見つけるだろう」と批判した。【2024年10月31日 ロイター】
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“中国、スロバキアとの緊密関係確認 EUと貿易対立下で”【2024年11月2日 ロイター】

こうした政治姿勢の違いから、今回のロシア産ガス供給停止問題でも、スロバキア・フィツォ首相とウクライナ・ゼレンスキー大統領の対立が表面化しています。

****スロバキア、ガス輸送巡り対抗措置警告 ウクライナ反発****
ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、スロバキアのフィツォ首相がロシアの命令でウクライナに対し「第二のエネルギー戦線」を開いていると批判した。

スロバキアなど欧州数カ国はウクライナ経由でロシア産天然ガスの供給を受けているが、ウクライナはロシアの侵攻前に結んだ既存の輸送契約が今年末に期限切れとなった後は輸送を停止する見通しだ。

ロシアのプーチン大統領とモスクワで今月会談したフィツォ氏は(12月)27日、ウクライナが来年1月1日からガス輸送を停止した場合、スロバキアはウクライナに対し、予備電力の供給停止など対抗措置を検討すると述べた。

ゼレンスキー氏はこれについて「プーチンはスロバキア国民の利益を犠牲にしてウクライナに対し第二のエネルギー戦線を開くようフィツォ氏に命じたようだ」とXに書き込んだ。

ウクライナは電力網がロシアの攻撃の標的となる中、周辺国からの電力輸入を余儀なくされている。

ゼレンスキー氏はスロバキアが現在、ウクライナ電力輸入の19%を占めていると指摘。その上で、欧州連合(EU)と協力して供給強化に取り組んでいるとし、「スロバキアは欧州単一エネルギー市場の一部であり、フィツォ氏は欧州共通のルールを尊重しなければならない」と強調した。【12月30日 ロイター】
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ウクライナ・ゼレンスキー大統領からすれば、ロシア軍侵攻後もロシア産ガス依存姿勢を変えないスロバキアに問題があるという話にもなります。

****ゼレンスキー大統領、スロバキア首相のロシア産ガス依存姿勢を非難****
ウクライナのゼレンスキー大統領は23日、スロバキアのフィツォ首相がロシア産ガスへの依存を減らすことに消極的だと非難し、欧州にとって大きな安全保障の問題だと指摘した。

フィツォ氏は22日、ロシアのプーチン大統領と会談した。スロバキアはウクライナを経由して輸送される欧州向けロシア産ガスに依存しており、年末に期限が切れる輸送契約の延長を拒否したとしてゼレンスキー氏を批判する一方で、供給継続に向けた取り組みを強化している。

ゼレンスキー氏は、ウクライナがスロバキアの損失を補うための補償や代替のガス供給ルートを提供すると提案したにもかかわらず、フィツォ氏はそれを望まなかったと指摘した。

フィツォ氏がロシアとの関係を重視していると批判し、これがスロバキアと欧州全体の安全保障に関わる問題であると述べた。【12月24日 ロイター】
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“スロバキアは、代替輸送ルートを利用すればコストが大幅に増え、同国の輸送事業にも打撃となり、5億ユーロの損失を被ることになるとしている。”【12月30日 ロイター】

上記のような需要国にも大きな影響がでますが、供給国ロシアとしても、天然ガスという石油と並ぶ主要財源へのダメージが、欧米による制裁下でさらに加速することになります。
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