(米大統領選運動の一環で、マクドナルドでフライドポテトを揚げるドナルド・トランプ氏。ペンシルベニア州フィースタービルトレボースの店舗で(2024年10月20日撮影)【1月7日 AFP】)
【欧州で相次ぐX(旧ツイッター)利用停止 「多様性、自由、科学を促進する価値観は、もはやこのプラットフォームには存在しない」】
トランプ氏と並んでその言動が注目を集めているのがイーロン・マスク氏。
****「犯罪の加担者」「無能なバカ」 マスク氏が欧州首脳を口撃****
X(ツイッター)オーナーの米実業家で、右派的な言動で知られるイーロン・マスク氏が、政治的信条を異にするスターマー英首相らへの露骨な批判を続けている。マスク氏はトランプ次期米政権で政府外助言機関「政府効率化省」を率いる予定で、米欧関係への影響も懸念されている。
「スターマーは辞任しなければならない」。マスク氏は3日、Xへの投稿でそう訴えた。その理由としてマスク氏は、スターマー氏が検察官時代、パキスタン系容疑者らによる白人少女らへの性的暴行事件を十分に捜査しなかったと主張した。そのうえで、「英国史上最悪の集団犯罪に加担した罪で告発されなければならない」と続けた。
マスク氏はこのほか、スターマー政権の別の高官も「刑務所に入るべきだ」などと攻撃している。
英紙フィナンシャル・タイムズは9日、マスク氏の狙いはスターマー氏が率いる中道左派・労働党の弱体化で、自らが支持する右派ポピュリスト政党「リフォームUK」の勢力拡大を画策していると伝えた。
英メディアによると、一連の攻撃に対しスターマー氏は6日、マスク氏を名指しせずに「虚偽情報を拡散する人々は、被害者に関心があるのではなく、自分たちが目立ちたいだけだ」と指摘した。そのうえで、自身は検察官時代、性的暴行容疑者の起訴に真正面から取り組んだと反論し、「この手口は何度も見てきた。彼らは脅威をあおり立て、メディアがそれを増幅させることを期待しているのだ」と述べた。
マスク氏の矛先は、2月に総選挙を控えるドイツにも向かう。マスク氏は昨年12月、Xへの投稿で中道左派・社会民主党のショルツ首相を「辞任すべきだ。無能なバカだ」と非難した。マスク氏は、排外主義的な右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)がドイツを救うと訴えている。
これに対しショルツ氏は「冷静でいよう。あおり行為に乗ってはいけない」と述べ、挑発を無視する意向を示している。
欧州首脳からは、「大きな影響力を持つ人物が、他国の内政にこれほど関与することを憂慮する」(ノルウェーのストーレ首相)といった声が挙がっている。
一方、イタリアの右派連立政権を率いる極右出身のメローニ首相は、マスク氏は「言論の自由を行使しただけだ」と述べ、左派への攻撃を事実上擁護している。【1月10日 毎日】
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既存の新聞・TVに代わってSNSが世論を動かす大きな影響力を持つようになっていることは、昨年の日本の選挙でも明らかになっちます。
そうした極めて大きな影響力を持つようになったSNSにおける、偏った(ヘイト的な)主張、あるいは偽情報をいかにコントロールするべきかが現代的課題ともなっていますが、大手SNSではむしろ逆行するような動きも。
マスク氏が活用しているのが、自身がオーナーのX(旧ツイッター)。Xは言論の自由を掲げるマスク氏買収後は投稿への監視や制限を緩和していますが、その結果、右派ポピュリスト的コンテンツの巣窟となっているとの指摘があり、ドイツやイギリスで利用制限の動きが広がっています。
****ドイツなど60以上の大学や機関がXの利用中止表明「基本的な価値観に反する」****
60を超えるドイツとオーストリアの大学や研究機関がX(旧ツイッター)の利用を中止するとの共同声明を発表しました。
10日に大学や研究機関が発表した共同声明では、利用中止の理由について、現在のXの方向性が「大学や研究機関が重視する科学的な透明性や民主的な議論などの基本的な価値観に反するため」としています。
近年X上で「右派ポピュリスト的コンテンツ」が増幅していることについて、「継続的な利用を正当化できないものにした」と指摘しています。
Xの利用を巡りドイツ政府は10日、「興奮して二極化する傾向のある議論を促進するアルゴリズムがある」として、国内での利用中止を検討していると明らかにしています。【1月11日 テレ朝news】
10日に大学や研究機関が発表した共同声明では、利用中止の理由について、現在のXの方向性が「大学や研究機関が重視する科学的な透明性や民主的な議論などの基本的な価値観に反するため」としています。
近年X上で「右派ポピュリスト的コンテンツ」が増幅していることについて、「継続的な利用を正当化できないものにした」と指摘しています。
Xの利用を巡りドイツ政府は10日、「興奮して二極化する傾向のある議論を促進するアルゴリズムがある」として、国内での利用中止を検討していると明らかにしています。【1月11日 テレ朝news】
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独墺大学等の共同声明では、「多様性、自由、科学を促進する価値観は、もはやこのプラットフォームには存在しない」とも指摘しています。
****英大学でXの利用停止広がる、暴動あおった情報拡散きっかけに****
トランプ米次期大統領の側近となった米実業家イーロン・マスク氏が率いる短文投稿サイトX(旧ツイッター)が昨年の英国での極右主義者らによる暴動をあおる情報を拡散したとして、英国の大学などの高等教育機関が相次いでXの利用を停止している。ロイターが7日に実施した調査によると、いくつかの大学はXの利用を最低限にまで減らすか、完全に取りやめている。
マスク氏はスターマー英首相を投獄し極右団体「イングランド防衛同盟」の共同設立者で反イスラム活動家のトミー・ロビンソン(本名スティーブン・ヤクスリーレノン)受刑者を刑務所から釈放するよう求めている。(後略)【1月9日 ロイター】
マスク氏はスターマー英首相を投獄し極右団体「イングランド防衛同盟」の共同設立者で反イスラム活動家のトミー・ロビンソン(本名スティーブン・ヤクスリーレノン)受刑者を刑務所から釈放するよう求めている。(後略)【1月9日 ロイター】
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【メタ 「ファクトチェック」を米国で廃止】
問題視されているSNSはマスク氏のX(旧ツイッター)だけでなく、ザッカーバーグCEOのメタ(旧フェイスブック)も「ファクトチェック」を米国で廃止すると発表しており、偽情報の拡散が懸念されています。
メタの動きは、メタが保守的な内容の投稿を不当に制限していると批判してきたトランプ氏への配慮とも見られています。
****投稿の真偽検証を廃止した米メタ、トランプ氏への配慮か…偽情報の拡散につながる恐れ****
米SNS大手メタ(旧フェイスブック)は7日、第三者機関を通じて投稿の真偽を検証する「ファクトチェック」を米国で廃止すると発表した。投稿への過度な検閲を批判するトランプ次期米大統領への配慮があるとみられ、偽情報の拡散につながる恐れがある。
マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は7日、「ファクトチェックは政治的に偏りすぎていた。原点に立ち返り、表現の自由の回復に注力する」との声明を出した。「悪質な投稿を発見する可能性は低下する」として、偽情報が増える可能性を認めた。
メタ傘下のフェイスブックやインスタグラム、スレッズを対象に、米国で数か月かけて段階的に廃止する。代わりに、誤解を招く投稿に対して別の利用者が情報を補う「コミュニティーノート」機能を導入する。日本など、米国以外でも同様の措置を取る可能性があるとしている。
メタは2016年にファクトチェックを導入。第三者機関に投稿の真偽の調査を委託し、虚偽内容が含まれていると判断された場合に投稿を削除するなどの対応を行っていた。日本では24年に導入された。
21年に発生した米連邦議会襲撃事件後、トランプ氏のフェイスブックのアカウントを凍結した。その後に凍結は解除されたが、トランプ氏はメタが保守的な内容の投稿を不当に制限しているとして、繰り返し不満を表明していた。
トランプ氏に対し、大統領就任後にメタに対して厳しい立場を取らないよう働きかける思惑があるとみられる。
米国の大手SNSでは、投稿監視を緩和する動きが続いている。政治的な圧力に加え、コスト削減を図る狙いもありそうだ。
X(旧ツイッター)は22年10月のイーロン・マスク氏による買収後に問題のある投稿への監視や制限を緩和しており、偽情報が急増したと指摘されている。米IT大手グーグル傘下の動画投稿サイト「ユーチューブ」も23年6月、20年の米大統領選で不正があったとする虚偽動画の削除を停止した。【1月9日 読売】
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ザッカーバーグ氏に限らずテック業界大物が次々と新たな権力者トランプ氏にすり寄っていることは、12月17日ブログ“アメリカ 新たな権力者へすり寄るテック業界大物たち 司法の場の流れも手繰り寄せるトランプ氏”でも取り上げたところです。
【相次ぐ「DEI」離れの現象 ポリティカルコレクトネスや多様性重視から反対側に振れる振り子】
メタについては、上記のファクトチェック廃止だけでなく、多様性のDEIプログラムを終了することも報じられています。
「DEI」は、「Diversity(ダイバーシティ、多様性)」「Equity(エクイティ、公平性)」「Inclusion(インクルージョン、包括性)」の頭文字からなる略称で、“すべての人々、特に歴史的に過小評価されてきたグループやアイデンティティや障害に基づいて差別を受けてきたグループのフェアな扱いと完全な参加を促進するための組織的なフレームワーク”【ウィキペディア】を意味し、具体的には人種や性別、LGBTのような性的な問題におけるマイノリティーへの配慮がその中身になります。
****米メタ社、多様性のDEIプログラムを終了。同性愛者やトランスジェンダーへの侮辱的な言葉も許容****
ファクトチェック機能の廃止を発表した米メタ社が、社内で多様性を促進するための取り組みを即時終了することがわかった。
FacebookやInstagramを運営するメタプラットフォームズのジャネル・ゲイル人事担当副社長は1月10日、ダイバーシティ・スレート・アプローチを終了すると従業員宛の社内メモで発表した。
ダイバーシティ・スレート・アプローチは「多様性を考慮して候補者をえらび、さらなる多様性につなげていく」ことで、採用担当者が女性やマイノリティである候補者を提案できるようにするプログラムだった。
ゲイル氏は、このプログラムを廃止するものの「引き続き異なるバックグラウンドを持つ候補者の採用を続ける」としている。
その一方で、メタ社は「DEI(多様性、公平性、包括性)」に特化したチームを廃止すると社内メモで伝えている。
その理由を「多様性、公平性、包括性の取り組みを取り巻くアメリカの法的および政策的状況は変化している」と説明。
「一部の人々に、特定のグループを他のグループよりも優遇する取り組みだと理解されるなど、『DEI』という言葉自体が議論を呼ぶようになっている」と述べている。
「多様性などを取り巻く状況が変化している」という説明は、暗に次期トランプ政権への配慮を示していると考えられる。
メタのマーク・ザッカーバーグCEOは2024年11月、ドナルド・トランプ次期大統領と会談し、その後メタ社はトランプ氏の大統領就任式基金に100万ドルを寄付した。(中略)
トランスジェンダーや同性愛者、女性への侮辱的な言葉も「許可する余地が残されている」
この社内メモを最初に報じたのはニュースサイトのアクシオスで、全文も公開している。この方針転換は、メタの最新のコミュニティ規定とも一致している。
メタはこのガイドラインで、トランスジェンダーの権利や移民、女性、同性愛者に関する議論などについて、排除の呼びかけや侮辱的な言葉を使用を「許容する余地が残されている」としている。
テクノロジージャーナリストのケイシー・ニュートン氏は、ニュースサイト・プラットフォーマーに1月9日に掲載された記事で、次のような投稿を目にするようになると指摘している。
「トランスジェンダーの子どもなんて存在しない」
「神は2つの性別を創造した。『トランスジェンダー』の人々は実在しない」
「ノンバイナリーという概念は作り話だ。そんな人々は存在せず、治療が必要なだけだ」
「トランス女性は女性ではない。混乱した哀れな男性だ」
「トランスの人間の(代名詞)彼でも彼女でもなく『それ』だ」
「神は2つの性別を創造した。『トランスジェンダー』の人々は実在しない」
「ノンバイナリーという概念は作り話だ。そんな人々は存在せず、治療が必要なだけだ」
「トランス女性は女性ではない。混乱した哀れな男性だ」
「トランスの人間の(代名詞)彼でも彼女でもなく『それ』だ」
また、テック系ニュースサイトの404メディアは、メタがチャットアプリ・メッセンジャーの外観デザインをカスタマイズできる「テーマ」機能から、「トランス」や「ノンバイナリー」を削除したと報じている。
一方、「バスケットボール」や「マインクラフト」、「愛」など多様性やジェンダーなどとは関係ない一般的なテーマは引き続き利用できる。【1月11日 HUFFPOST】
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Xが右派ポピュリスト的コンテンツの巣窟となり、メタがファクトチェックを廃止するというのも、また、メタが「DEI(多様性、公平性、包括性)」プログラムを終了するのも、トランプ氏を大統領に復権させた右派・保守的な世論の変化を反映したものでしょう。
“「DEI」離れ”とも言うべき逆流現象は、メタだけでなく産業界に広がっています。
****米マクドナルド、多様性の取り組み縮小へ DEI離れ続く****
米ファストフード大手マクドナルドは6日、多様性に関する取り組みを縮小すると発表した。
米最高裁が一昨年、大学の入学選考で志望者の人種・民族を考慮する「アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)」を禁じる判決を下して以降、多様性推進の取り組みを見直した企業の最新例となる。
マクドナルドが発表した変更には、供給業者に「多様性・公平性・包括性(DEI)」に関する特定の目標を求めないこと、企業の多様性を評価する外部調査からの撤退、多様性委員会から「グローバルインクルージョンチーム」への名称変更などが含まれている。(中略)
2023年6月、保守派判事が多数を占める米最高裁は、1960年代の公民権運動の主要な成果の一つである大学入学選考におけるアファーマティブ・アクションに違憲判決を下した。
以来、米国では進歩的な政策への支持が低下する中で、企業や政府機関などが少数派支援プログラムの見直しを行ってきた。
職場での偏見の是正を目指したDEIの方針は現在、批判の対象となるケースが増え、大統領選でドナルド・トランプ氏の勝利後、こうした取り組みへの支持者はさらに守勢に立たされることとなった。
マクドナルドの発表は、自動車フォードやオートバイのハーレーダビッドソン、農業機械ジョンディアから酒造メーカーのジャックダニエルまで、一連の大手企業や名門ブランドによる同様の動きに続くもので、米国でのいわゆる「ポリティカルコレクトネス(PC、政治的公正)」への反動の現れとなっている。【1月7日 AFP】
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日本でもトヨタが昨年10月、LGBTQ支援イベントへの協賛を中止することを発表しています。
****「DE&I」の潮流に、縮小への方向転換が起こる可能性****
トヨタUSが発表したDEI活動の縮小
Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の頭文字をとった略称「DE&I(以下、DEI)」は、日本でも馴染みのある概念だ。そのDEI概念が静かになり、定番概念と思われている昨今の潮流に方向転換が起きつつある。
DEIの概念は企業の発信メッセージに必須!とばかりに、「コピペ」や「とりあえず入れておこう」といった安易な姿勢になっていないか。本稿は自社の立ち位置を振り返る参考材料だ。
トヨタ自動車USは2024年10月、LGBTQ支援イベントへの協賛を中止することを発表した。報道によると、同社はDEIに関する政治的な議論を理由に、DEIプログラムの焦点を絞り直し、LGBTQイベントへの協賛を中止。
加えて、5万人の米国従業員と1,500のディーラーに向けて、「STEM教育と労働力の準備に沿うよう、コミュニティ活動を“狭めていく”」と方向転換を発表した。(後略)【1月8日 MarkeZine】
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2020年のジョージ・フロイドさん殺害後に多数の企業が採用したDEIの方針は、全米で次々と取り下げられている。
連邦最高裁が大学入試におけるアファーマティブアクション(積極的差別是正措置)を違憲と判断して以降、企業のマイノリティー(少数派)優先に異議を唱え、法廷闘争に持ち込み経営者らに見直しを迫るケースも少なくない。
トランプ次期米大統領はDEIの方針を公に批判、連邦政府の主導でこうした慣行を根絶すると公約している。【1月7日 Bloomberg】
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現在の保守化の流れは、行き過ぎたポリティカルコレクトネスや多様性重視への反動と見ることもできますが、トランプ政権下で振り子は反対側に大きく振れるのかも。保守化の流れがトランプ政権を生み、そのトランプ政権が保守化を更に加速させます。