ビートルズ
昨日義母が生前お世話になっていた病院を訪れた。
当然義母はもう入院していない。
義母が入院している時に他の患者さんとの友情が育まれ、その人物KW氏に会いに行ったのだ。
KW氏はパーキンソン病を患っている。
何かを考えたり何かをしようとする時身体が大きく揺れてしまって自分自身では制御できなくなってしまう。脳内物質がそうさせるのだ。だから私の姿を見つけベッドから車椅子に移ろうとするとき、激しく身体が反応してしまってベッドから落ちそうになってしまう。また車椅子で落ち着いて話をしていても時として大きくのけ反ったり、また頭が左右に振れて車椅子全体が揺れてしまうこともある。
最近は私のほうが症状に慣れてきて揺れているのを見ても、あまり大げさに心配したり気遣うことを止めている。そのほうが本人にとっても楽なようなのだ。
KW氏は義母が危篤のとき
「もしお母さんが亡くなったらもう来なくなるよね。俺、友達居ないもんでね」
と寂しそうに尋ねた。
「いや、KW氏に会いに来るよ」と私は答えた。
実際義母が亡くなった後も病院には挨拶に訪れたり事務手続きに訪れたりしていた。
先日KW氏を訪ねたときに驚いたことがあった。
KW氏は趣味でクレヨン画を描いている。揺れる身体を何とかだまして描き続けている。私も数点いただいたことがある。稚拙ではあるが魅力のある作品も多い。
その絵が、とても暗かったのだ。
「これはね、夜だよ」と言う。夜の景色の中に人物らしきものが描かれている。
今まで動物や植物あるいは病室から見た景色などを描いていたのだが、いずれも
明るい絵ばかりであったのだ。
咄嗟にKW氏の心が今とても暗い気分になっているのでは、と感じた。
これは何とかしてあげたいなと思った。
以前KW氏からビートルズが好きだと聞いたことがある。
彼はまだ66歳。こよなく音楽を愛する人間の一人だ。
この病院の室内スピーカーで以前は音楽を流していたという。たまにビートルズがかかると天井に埋め込まれたスピーカーの真下に移動して聞き入っていたという。
だが病院では、このところ全く音楽をかけなくなってしまっていた。
私にとって音楽無しの生活は考えられない。好きな時に好きな音楽を聴くことができる。この自由を奪われたら生きていく価値を大きく失ってしまう。それほど音楽というものが私自身の身体や精神に影響を与えている。普段当たり前のように音楽を聴いていた私は、それを奪われたらなどと考えてもみなかったのだ。
KW氏の話を聞いて愕然とした。
義母の葬儀の残務処理に忙しく動いていたときジャスコで980円のラジオを見つけた。AMのみならずFMも聴ける。
「これだ」と直感してすぐにラジオと乾電池を購入した。
今日はそれをKW氏に渡した。
パッケージから本体を取り出して乾電池を装着しスイッチを入れてみた。
鳴った。ちゃんとFMNHKが入った。とりあえず、これで好きなときに音楽は手に入れることができる。
KW氏は嬉しさのあまり身体が大きく揺れて横腹が車椅子に当たってガッシャンガッシャンと音を立てた。おもちゃをもらった子どものような笑顔でスイッチの切り替えやらボリュームの調整をしていた。
私は今までのように毎週定期的に病院を訪れるというわけにはいかない。しかしこのラジオで少しは今までに無かった安らぎを受けられるようになったと思う。
今後もKW氏は私の友人である。病院に行けば必ず会える友人である。
昨日義母が生前お世話になっていた病院を訪れた。
当然義母はもう入院していない。
義母が入院している時に他の患者さんとの友情が育まれ、その人物KW氏に会いに行ったのだ。
KW氏はパーキンソン病を患っている。
何かを考えたり何かをしようとする時身体が大きく揺れてしまって自分自身では制御できなくなってしまう。脳内物質がそうさせるのだ。だから私の姿を見つけベッドから車椅子に移ろうとするとき、激しく身体が反応してしまってベッドから落ちそうになってしまう。また車椅子で落ち着いて話をしていても時として大きくのけ反ったり、また頭が左右に振れて車椅子全体が揺れてしまうこともある。
最近は私のほうが症状に慣れてきて揺れているのを見ても、あまり大げさに心配したり気遣うことを止めている。そのほうが本人にとっても楽なようなのだ。
KW氏は義母が危篤のとき
「もしお母さんが亡くなったらもう来なくなるよね。俺、友達居ないもんでね」
と寂しそうに尋ねた。
「いや、KW氏に会いに来るよ」と私は答えた。
実際義母が亡くなった後も病院には挨拶に訪れたり事務手続きに訪れたりしていた。
先日KW氏を訪ねたときに驚いたことがあった。
KW氏は趣味でクレヨン画を描いている。揺れる身体を何とかだまして描き続けている。私も数点いただいたことがある。稚拙ではあるが魅力のある作品も多い。
その絵が、とても暗かったのだ。
「これはね、夜だよ」と言う。夜の景色の中に人物らしきものが描かれている。
今まで動物や植物あるいは病室から見た景色などを描いていたのだが、いずれも
明るい絵ばかりであったのだ。
咄嗟にKW氏の心が今とても暗い気分になっているのでは、と感じた。
これは何とかしてあげたいなと思った。
以前KW氏からビートルズが好きだと聞いたことがある。
彼はまだ66歳。こよなく音楽を愛する人間の一人だ。
この病院の室内スピーカーで以前は音楽を流していたという。たまにビートルズがかかると天井に埋め込まれたスピーカーの真下に移動して聞き入っていたという。
だが病院では、このところ全く音楽をかけなくなってしまっていた。
私にとって音楽無しの生活は考えられない。好きな時に好きな音楽を聴くことができる。この自由を奪われたら生きていく価値を大きく失ってしまう。それほど音楽というものが私自身の身体や精神に影響を与えている。普段当たり前のように音楽を聴いていた私は、それを奪われたらなどと考えてもみなかったのだ。
KW氏の話を聞いて愕然とした。
義母の葬儀の残務処理に忙しく動いていたときジャスコで980円のラジオを見つけた。AMのみならずFMも聴ける。
「これだ」と直感してすぐにラジオと乾電池を購入した。
今日はそれをKW氏に渡した。
パッケージから本体を取り出して乾電池を装着しスイッチを入れてみた。
鳴った。ちゃんとFMNHKが入った。とりあえず、これで好きなときに音楽は手に入れることができる。
KW氏は嬉しさのあまり身体が大きく揺れて横腹が車椅子に当たってガッシャンガッシャンと音を立てた。おもちゃをもらった子どものような笑顔でスイッチの切り替えやらボリュームの調整をしていた。
私は今までのように毎週定期的に病院を訪れるというわけにはいかない。しかしこのラジオで少しは今までに無かった安らぎを受けられるようになったと思う。
今後もKW氏は私の友人である。病院に行けば必ず会える友人である。