家訓は「遊」

幸せの瞬間を見逃さない今昔事件簿

少年と黒猫

2021-09-21 06:59:43 | Weblog
いつもの川沿いを歩いていた。
ポツポツと雨が降っていたので傘を差していた。
たいして強くない雨は音を立てることもなく傘の上で重なりまとまった水滴のみが傘の骨の先端から落ちていった。
私の歩く堤防の反対側の河川敷に黒ネコを見つけた。
たまに見るネコで橋を越えてこちら側に来たり橋の下のコンクリートで日向ぼっこをしているのを見たことがある。
そのネコが何かに興味を持っていることが、その姿を見て分かった。
凝視しているのみならず少しそちらに歩き始めた。
その先が樹木を通り過ぎたら見えた。
少年が居た。
小学校の低学年か。
その少年の動きに興味を抱いたらしい。
河川敷には虫取り用の網と虫かごが置かれていた。
こんな雨の日に河川敷に居るのは少し怖いなと思った。
もう少し歩いていくと、その少年は河川敷から一段下の石の積まれた場所に降りて石を「ガシャガシャ」動かしている。
益々危険に近いので散歩の予定を変更して橋を渡ることにした。
橋を渡っていると少年は自分に興味を示した黒ネコを見つけた。
今度は少年がネコに興味を奪われた。
石積みの所から這い出て、いきなり黒ネコを追いかけ始めた。
私が橋を渡り終えて反対側の堤防を歩いていくと少年だけが見えた。
少年が追ったネコが桜の木の下に逃げ込み、そこにあったゴミ捨て用の枠に隠れたのだ。
少年の思ったままの行動に私は笑みがこぼれてしまった。
笑って近づく私に少年が「ネコ」と言った。
「黒ネコだろう?」と答えた。
こんな少年にネコが捕まるわけはない。
少年は「カニを捕まえていたの」と傘を持たない私の左腕の肘辺りをそっと掴んだ。
それで石をガシャガシャやっていた分けが分かった。
少年が「あれが僕のお母さん」と言って3階建てのアパートを指さした。
そちらを見るとアパートの3階の外階段の踊り場に居て何かを言っている女性が居た。
会釈して私は「虫網と虫かごを持って帰んな」と伝えた。
そのお母さんにとって息子が知らない爺さんと話していること自体も恐怖に近いであろう。
少年が道具を取りに行ったことを確認して散歩の続きに戻った。
一時間後再び同じ場所を通ってみると道具はなくなりネコも姿を消していた。