「盲目のピアニスト(と呼ばないで)」の辻井伸行君を
テレビで見た。アメリカでのコンクールで賞をとった後、
ひっはり凧。日本人は乗りやすい。暖かく歓迎してくれる。
しかしドイツでの公演は違った。「所詮アメリカでの入賞。
伝統と格式のあるヨーロッパでの賞ではない。東洋人が
弾くピアノである。ヨーロッパ人とは血が違う」。
その公演はチケットも最低料金。ホールも狭く、響きが悪い。
観客も「友達が行けなくなったというので、チケットもらって
代わりに来たわ」とか「つまらなかったら途中で帰るつもりよ」
と、聞く前からバカにしてかかっている。
辻井君も「今日は会場の空気が違う」と、目は見えなくても
感じるのだ。ピアノの前に座っても、しばらく弾かない。
落ち着き無く手を動かし、ハンケチを出して鍵盤を拭いたり。
「いったいどうした?」いぶかる観客。やがて弾き始めた。
その一音に、観客の表情が変わった。
演奏後の彼のことば「今日は空気が違ったので、失敗しては
いけないと、より気をひきしめた」と。わかるわかる。