ケイの読書日記

個人が書く書評

津村記久子 「エヴリシング・フロウズ」

2016-04-19 10:28:06 | 津村記久子
 ヒロシは大阪市内の中学3年生。クラス内のヒエラルキーでいうと下の方。クラス替えで、いままでつるんできた子たちと別々のクラスになってしまい、ちょっと困っていたが、すぐ前の席のヤザワと仲良くなる。
 ヤザワはひょろっとした長身で、1・2年の時はいつも一人でいた。部活はやっていない。夏休みとか冬休みといった長期の休みにはいつも関東に行くので、不思議に思っていたが、どうも関東の自転車競技のクラブチームに入っていて、いい成績を収めているらしい。
 他には、ヒロシが少し気になっているソフトボール部の野末と、その友達・大土居と増田も同じクラス。増田はあまりにも絵が上手なので、ヒロシの絵に対する情熱が薄れてしまった。

 そう、このヒロシは『ウエスト・ウイング』に登場した小学校5年のヒロシの、4年後の姿なのだ。この時のヒロシは、私立中学受験のため、電車に乗り遠くの塾まで通っていた。でも勉強には全く身が入らず、絵ばかり書いていた。ヒロシの版画を店に飾ったり、お金を出して買いたいという大人もいた。その時の塾で一緒だったフジワラ(男)やフルノ(女)も出てくる。
 結局、ヒロシやフジワラは志望した私立中学に落ち、フルノは合格して、中高一貫の女子校に通っているが、友人関係がうっとうしくて、高校は外部受験するといっている。

 ヤザワは悪いクラスメートから無実の罪でおとしめられ暴力を受けるし、大土居は新しいお父さんの性的虐待から実妹を守ろうとする。普通の中学生も大変なんだ。

 森野という彼らの担任がいい。力量不足だが、何とか踏ん張って生徒たちの力になろうとする。大阪の公立中学の3年の担任って本当に大変だと思うよ。


 ヤザワは東京の高校へ、大土居は鹿児島の高専へ進学することになり、他は地元の大阪だが高校は別々になる。ただ、女子の「私たち、一生親友だよね」というような過剰な感傷は無い。本当にサラッとしている。こういう所が良い。
 月日は百代の過客にして 行きかう人は皆、旅人なり…だったっけ。このフレーズを思い出す。


P.S.① それにしても、このヒロシ、お小遣いが潤沢でうらやましい。中学生なのに、そんなに頻繁にコンビニで唐揚げやお菓子を買えるお金がもらえるのかな?ミスドにもよく行くらしい。やっぱり祖父母といっしょに住んでいるから、母親以外からのお小遣いが多いんだろう。

P.S.② 作者の津村さんが、スポーツや洋楽が好きなことは知っていたが、それ関係の固有名詞が多くて困った。調べようかな?とも思ったが、まあいい、だいたいこんな人だろうと前後関係から推測。でも注が付いていないという事は、津村さんの中では、これらの固有名詞は常識だってことなのかな。
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津村記久子 「ウエスト ウイング」

2016-03-19 16:07:40 | 津村記久子
 『ウエスト ウイング』というタイトルからしても、西洋のお城や馬車、吟遊詩人、裾の長いドレスを着た女の人が描かれている表紙絵からしても、これって西洋のお話?って思ったが、全く違う。現代日本の、ちょっと疲れた成人男女や子どもを優しく書いている。

 ウエストウイングとは、古びた4階建ての雑居ビルの西館のこと。東館もあったが、西館以上に古びていたので取り壊された。西館も、近いうちに解体されるという噂はあるが、ターミナル駅の近くという立地にしては家賃が安いので、いろんな店や小規模な会社や小学生向けの塾などが入居している。
 そこの4階の廊下の一画に、転居した事務所が置いていったスチール棚・机・椅子などが無造作に置きっぱなしになっている場所がある。そこを、近くの会社の社員や塾の小5の男の子が、サボリ場として利用している。

 小5の男の子・ヒロシの通ってる塾は、同じビルの中でも、サボリ場とは離れた場所にあり、塾の他の子たちはここまで来ない。
 ヒロシは、塾につくとすぐ教室をでて、一人でぶらぶらと時間をつぶす。教室内にいて、他の子たちが楽しそうに話しているのを見るのが嫌なのだ。だから、トイレもできるだけ遠くの、塾の子たちが利用しないトイレに行く。
 学校では地味グループに属しているが、塾には友達はいない。この塾は地元の塾ではなく、私立中学を受験する生徒専用の進学塾なのだ。当然、授業料は高い。
 ヒロシのお母さんは、離婚後、実家に身を寄せ、懸命に働いて、ヒロシを名門校に入れ一流企業に就職させたいと思っている。それがヒロシの幸せだと信じて。
 でもヒロシは、絵を描くこと以外、興味を持てないでいる。本当は塾もやめたい。ただ、母親の気持ちを思うと、言い出せないでいる。

 この進学塾の講師がひどいんだ! 子どもたちに「こんなボロビルに入居しているような会社の社員になど、なっちゃいかん」と言ってるらしい。

 でも、当の社員さんたちは、結構楽しそうだ。4階のサボリ場を利用しているネゴロ(女)フカボリ(男)にしても、リーマンショック後の景気の悪い時の話なので、給料の減給とか遅配などがあり「こんな安い給料で、朝9時に人を集めるな!!」と怒りながらも、真面目に仕事をこなす。
 
 特にネゴロは、設計会社の支所で一般事務をやってるOLだが、その仕事を、筆者・津村記久子は本当にきちんと描写している。こういう所から、津村記久子が専業作家になる前、小規模な会社の契約社員として、まじめに働いていたんだなぁと、うかがい知ることができる。
 やっぱり経験って大きいね。つまんない仕事と思っても、何かに役に立つんだな。
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津村記久子 「八番筋カウンシル」

2016-02-16 16:46:37 | 津村記久子
 小説の新人賞を受賞したのを機に、会社を辞めたタケヤス。東京で勤めていたが、そこを辞め、家業の文房具屋を継ごうと考え始めるヨシズミ。地元の会社に就職するも、家族との折り合いが悪く、マンションを買って家を出たいと思っているホカリ。
 幼馴染の3人が、30歳を目前に、自分たちが育った町・八番筋商店街で再開する。カウンシルとは、青年団のこと。
 そこに、15年前、無実の罪をきせられ町を追われたカジオや、地域一番の美少女だったカヤノが現れ…。


 作者の津村さんも、10歳の時ご両親が離婚し、こういった大阪のさびれた商店街で商売をやっている祖父母の元で大きくなった。だから、この小説は、彼女の自伝的な色合いが濃く出ている。

 30歳目前のタケヤス、ヨシズミ、ホカリの日常と、中学校・高校時代の思い出とが、交互に書かれている。
 いつも思うことだが、津村記久子は、一見まったく目立たない普通の中学生・高校生を書くのが、本当にうまい。
 目立たないといっても、タケヤス、ヨシズミ、ホカリは、それぞれ父親と死別したり離別したりして、母子家庭で母方の祖父母と同居しているという共通項がある。学校内で問題をおこさず、良い意味でも悪い意味でも注目されない。
 でも、彼ら彼女らの心の中は、進学の事、家庭の事、友人の事、異性の事、いろんな思いが渦巻いている。


1)男子は、自分たちと仲良くしたがっている女子を、すぐに嗅ぎつけるものだ。それは女子も同じで、それぞれの仲良し希望者をそれぞれが選別して、そのエリミネーションに残った者が晴れて異性と仲良くする権利を得る。

2)「夜遊びとか、わからんなぁ。おれやったら、休みの前の日の夜から朝は、絶対家におりたいわ(中略)だいたい人とおりすぎんのも疲れへんか?」タケヤスの言葉。

3)ほとんど顔見知りもいないつまらないクラスに配属され(中略)クラスに友達がいないのは一緒なので、力なく笑うだけだった。4月は、そういうところがいやだ。自分が安寧に所属できるグループを探して、不安を抱えたまま、好きでもないやつに、上手くもない愛想笑いをしなければいけないなんて。

4)塾へは異常に真面目に通っていたのは(高校受験のため)14才のこの時の努力で人生が決まってしまうような恐怖を、講師たちに叩き込まれていたからだった。

5)校則違反までして化粧をしている、そこそこ小奇麗な女たちが、煙草を買いに来る男たちの隣で笑っていたが、あらゆることを早く済ませてしまうが為に早く疲れてしまう彼女たちの未来が、タケヤスには見えるようだった。


 この小説を読んで、久々に自分の中学時代を思い出した。楽しかったことも、つまらなかったことも。今まで、記憶の下に埋もれていたのに。私を含め、大多数の人にとって、中学生時代というのは、なかなか過酷な時代なんだろうね。
 もし神様が「若い時に戻りたいって? 中学生に戻してあげよう」と言っても、私はキッパリ断るね。
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津村記久子 「二度寝とは 遠くにありて想うもの」

2016-02-01 10:47:59 | 津村記久子
 『やりたいことは二度寝だけ』の続編エッセイ。
 朝日新聞や読売新聞、京都新聞などの連載エッセイや、日経ビジネスオンラインに載ったエッセイを集めたもの。特に、日経ビジネスオンラインに載ったWEBエッセイは印象深いものが多い。

 「親は親をやりなおせるけどな」の章では、自分の生い立ちについて触れている。
 津村さんが9歳の時に、お母さんは彼女と弟さんを連れて別居、10歳の時に正式に離婚している。原因は、父親が働かなかったこと(ここらへんの子どもの気持ちについては『まともな家の子どもはいない』に書かれている) 離婚が別に珍しくない今、転校先にも母子家庭の子どもはいたはずだが、そういった事情は、子供の世界でも、表に出しづらいものらしい。
 お父さんは、離婚後、再婚し、新しい家族とは今度は仲良くやっていたようだが、病死した。
 お父さんとは全く音信不通だったので、死んだのを知らなかったが、再婚家庭の誰かが、娘が芥川賞作家だというので、出版社経由で津村さんに連絡した。

 ここらの津村さんの気持ちは…どんなだったろう。
 さすがに、出版社が連絡してくれたので無視するわけにもいかず、香典は出したが、悲嘆にくれる気分には全くなれず、葬式には参加していない。

 そうだろうなぁ、働かず、家でぶらぶらしていて、娘の友達が来ると顔を出し、寂しがり屋なのか、物欲しげに彼女たちの周りをウロウロする。「どうしてお父さんが家にいるの?」と友達に尋ねられ、顔から火が出そうなほど恥ずかしい。そりゃ、私でも本当に嫌だよ。
 それなら、スパッと離婚して父親とはサヨナラして、友達には「お父さんは外国でお仕事している」ってしゃべるよ。

 親には親の事情があるだろうが、働く父親の背中を見せてほしかった。


 話は変わるが、木下晋也の挿画が、ほんとうにかわいい!
 木下晋也って、イラストレーターじゃなくてマンガ家なんだね。WEB無料マンガで少し読んだけど、そっちよりもこの挿画の方がうんとかわいい!津村さんの、ほんわかぼんやりした雰囲気をよく表している。おススメ!
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津村記久子 「君は永遠にそいつらより若い」

2015-07-08 13:10:27 | 津村記久子
 津村記久子のデビュー作にして出世作。デビュー作には、その筆者のエッセンスが詰まっているとは、よく言われるが、本当にそう。彼女の特徴が、あちこちに散らばっている。
 ゆるーいユーモア、仕事に対する誠実さ、ぐだぐだ無駄話できる友人、固有名詞にカタカナ使用…etc

 ミステリだと、後半に起る出来事に対して、ああ、前半のアレが、この伏線だったんだなと気付くことが多い。この伏線が無いと、駄作って事になる。
 でも、こういった純文学的な作品(これは太宰治賞受賞)って、ミステリと違って、伏線があまり無いのだ。出来事はそのまま作品中に置かれているから、ちょっとフラストレーションがたまります。


 女主人公のホリガイは、大学4年生で、就職も決まり、ホッとしてバイトに精を出す日々。彼女は子どもの頃、TV番組で、子どもの行方不明事件(誘拐された?)が多発している事を知り、将来、児童福祉に関する仕事をしようと決意した。
 大学入学時から、食品工場で働き始め、せっせとお金を稼ぎ、公務員試験向けの専門学校にも通い、見事、地元の役所に職を得る。
 この「君は永遠にそいつらより若い」という変わったタイトルは、ホリガイが虐待されている子どもたちに対して、「君たちは、そいつら・虐待している大人より、永遠に若いんだ。だからなんとか生き延びろ!というメッセージから来ている。
 最初は「マン・イーター」というタイトルだった。これはこれで怖い題名です。

 ホリガイの周りの大学の友人、その恋人、バイト先の上司・同僚のなかにも、訳ありの人はいる。リストカットを繰り返す女の子、その女の子を疎んじながらも愛する男、子どもの時レイプされ、心にも身体にも傷を負った後輩、親からネグレクトされ部屋の中でうずくまっている小学生…。
 でも、最後は明るい光が差し込んでくるところで、この小説は終わる。
 津村記久子の作品って、読後感が良いんだよね。


 そうそう、先日、新聞で、津村記久子のインタビュー記事を見た。津村さんって、結構かわいいんだ!驚いた(失礼!!)クールビューティってわけじゃないけど、柔らかく優しくかわいらしい容姿。いいなぁ。
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