ケイの読書日記

個人が書く書評

天埜裕文「灰色猫のフィルム」

2013-06-01 17:24:43 | Weblog
 第32回すばる文学賞受賞作らしいが、そんなこと知らずに借りて読む。

 母親の腹を包丁で刺して殺した若い男が、逃げる途中で、気のいいホームレスに拾われ一息つく。灰色猫は、そのホームレスが飼っている猫。

 
 母親を殺した若い男の感情は、一切排除され、行動だけが書かれている。動機や、殺人に至る経緯などにも全く触れられておらず、家族構成も母と妹と自分の3人家族。幼い頃、父親が家を出て行ったという事が、断片的に語られるのみ。

 母親殺しだったら、動機だけで1000ページくらい書けそうだが、そこにあえて触れてないから、かえって清々しいほど。
 この若い男は、さっさと逃げて、量販店でいつも着る服と全く違うタイプの服を買って、トイレで着替え、殺人時に来ていた服はコインロッカーに隠し、自分で坊主頭にするといった逃走工作をするが、逃げる時に金を物色していない。
 だから、すぐ持ち金が無くなる。
 じゃ、ひったくりでもするかといえば、そんなバイオレンスな事はせず、おとなしく空腹を抱えコンビニの周りを歩く。

 気のいいホームレスに出会ったのも、彼の食べているメロンパンを、若い男が有り金3円で売ってくださいと頼んだからだ。
 この気のいいホームレスは、猫好きで猫のイラストを描いて日銭を稼ぐ技量を持っており、ぱっと見にはホームレスに見えない。
 彼の元で数日間、安らいだ時間を過ごすが、猫殺しの疑いをかけられケンカになり、相手の目をハサミで刺して逃げる羽目になる。


 最後に、この異色の新人、天埜裕文のプロフィール紹介。
 1986年、千葉県生まれ。小学校2年生より不登校に。フリースクール、通信制高校を経て、美容専門学校に入学するも自主退学。ケータイで10か月かけて仕上げた本作が、生まれて初めて書いた小説。
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