ケイの読書日記

個人が書く書評

山本文緒「なぎさ」

2014-05-29 15:07:37 | Weblog
 海のない長野県で生まれ育った、冬乃と佐々井夫婦。彼らは故郷を離れ、海辺の町で静かに暮らしていた。そこに転がり込んできた、妹と佐々井の会社の後輩。
 妹は、元売れっ子漫画家で、売れていた時の作品が再出版されるので、まとまった金が入るからと、姉の冬乃をカフェの経営にさそう。
 一方、佐々井と後輩の会社はブラック企業で、あまりの激務に身体も心もきしみ始めていた。
 そんな時、妹の知人が、海外放浪から帰って来て、妹が居候している冬乃の家に、同居するようになる。そして…。

 
 山本文緒15年ぶりの長編小説!という触れ込み。もう、そんなになるのか。直木賞をとってしばらくしたら、うつ病がひどくなって、仕事をあまりしなくなったものね。
 この人は、女の毒を書くのが本当に上手な人で、作品もバブル期の影響が、すごく強かった。
 本作の、冬乃と佐々井夫婦のような、非モテ系のカップルが主人公なんて、ちょっと驚いた。こういった非モテ系の人たちを、少しバカにしている所があったように思う。
 15年の歳月は、確実に山本文緒を変えたのだ。

 ブラック企業を取り上げて、社会派っぽい作品を書きたかったのかなと思っていたら、最後に、夫婦の秘密が暴かれる。
 長野を出たのは、海にあこがれただけではない。冬乃の両親から逃げたかったからだ。なぜ、逃げたかったかというと…興味のある人は、読んでください。



 佐々井たちの勤める会社は、美容院にシャンプーやらリンスやら、その他の備品を納めている会社で、美容院の営業時間前、あるいはその後に、納品を依頼されるから、早出や残業が多くなる。
 美容業界も、仕事がきつい割に給料が安く、職場は封建的。つまりブラック業界だという話を聞いたことがある。
 そうだろうなぁ。客として見ていても、そう思うものね。

 ブラック企業って、消費者が存在させているとも言える。例えば、250円のお弁当。安くてボリュームがあって、学生さんには人気だけど、この弁当を作っている人は、厚生年金や健康保険、雇用保険などには、決して入っていないだろう。入っていたら、250円でお弁当はできない。
コメント
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