ケイの読書日記

個人が書く書評

桐野夏生 「夜の谷を行く」 文藝春秋社

2017-11-24 18:03:58 | 桐野夏生
 連合赤軍事件は1971年、私が中学生の時におきた。新聞もろくに読まず、ニュース番組も見ない中学生だったが、それでもハッキリテレビの映像を覚えている。過激派が立てこもった雪のあさま山荘を、ものすごく大きな鉄の球で打ち壊し、放水したり催涙弾を打ち込んでいる様子を。

 連合赤軍事件は、大きく分けて二つある。『山岳ベース事件』と『あさま山荘事件』と。興味のある人は自分で調べて。私なりに大雑把に言うと、追い詰められた過激派が、山中に拠点を移し軍事訓練をするが、そこで総括という名のリンチがまかり通り、わずか2か月の間に12人が殺される。
 逮捕者も脱走者も相次ぎ、山岳ベースのことが警察にもれると恐れた過激派は、その拠点を捨て、長野県に逃げようとし、あさま山荘の管理人を人質に取り、立てこもる。

 山岳ベースの当初の参加者は29人いたそうだが、あさま山荘に逃げ込んだときは、わずか5人。その間2か月。いかにハイピッチでリンチが行われていたか分かる。山岳ベースの参加者の中には事実婚の夫婦も多く、妊娠している人もいた。妊婦もリンチの対象になり殺される。夫は妻も子も守らない。自分が総括要求をされるのを恐れて、かえってリンチを主導する。
 社会正義を実現しようと集まった人たちが…どうしてこうなるんだろうね。

 総括というのは処刑ではなく、反革命的な言動をした本人の自覚反省をうながす、という意味らしいが、実際はリンチ。食事を与えず、縛り付けて雪の中に放置する。暴力をふるう。自分の顔を殴るよう強要するなど。
 この総括の名を借りたリンチを主導するのが森(拘置所で自殺)永田洋子(死刑判決が出たが、脳腫瘍で死亡)。


 この本『夜の谷を行く』の主人公・西田啓子は約40年前、この山岳ベースにいた元女性兵士。彼女は永田洋子に気に入られていたので、自分がリンチにかけられることはなかったが、11人目が死んだ後、脱走。山を下りたところで捕まった。刑期を終え、出所し、できるだけ目立たず生きて行こうとする。
 親は心労で早くに他界。実の妹は姉の事件のおかげで離婚においこまれた。他の親せきからは縁を切られている。
 そんな時、妹の娘が結婚することになり、かつて自分が関係していた山岳ベース事件の事を、姪に伝えなければならなくなる…

 この西田啓子さんは、モデルはいるだろうが架空の人物だろう。この本は、連合赤軍事件を題材にしたフィクションなのだ。
 でも、この本を読むと、本当の当事者たちの書いたものを読みたくなるね。

 永田洋子の『16の墓標』を読んでみようかと思っている。
コメント
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