ケイの読書日記

個人が書く書評

有栖川有栖 「インド倶楽部の謎」 講談社

2019-09-04 14:36:09 | 有栖川有栖
 2018年に刊行された本書は、本当に久しぶりの国名シリーズで(2005年の『モロッコ水晶の謎』から中断している)楽しみに読んだが、ちょっと有栖川有栖らしくないような気もするなぁ。
 まあ、国名シリーズのほとんどは短編なので、スパッと火村の推理が冴えわたって事件は解決。しかし長編だと、それだけじゃない。いろんな要素が加わって話が膨らむので、推理部分がぼやけるのだ。でもいい。火村とアリスに会えるから。

 この作品には、輪廻転生を信じている7人のグループが登場する。この7人の前世は、150年ほど前インドで親しい間柄であった。グループの中心の坊津という中年女性は、当時の記憶を鮮明に持っていて、周囲の心に引っかかる人たちに「あなたの前世は、インドの商人」とか「あなたの前世は若くして戦死した武人」とか言って回り、周囲もそれに同調して、互いに浅からぬ縁を感じている。
 この人たちの集まり「インド倶楽部」で、「アガスティアの葉」をつかって、自分たちの過去・現在・未来を教えてもらおうという催し物があった。
 7人のうち3人が参加。1人5万円。日本人コーディネーターが、インドのナーディリーダーを呼んできて、前世から自分が死ぬ日まで、すべての運命が予言されているという「アガスティアの葉」を読ませるのだ。どこからどう見ても、インチキだと思うけど。
 そうそう、「アガスティアの葉」って、作者がでっちあげた架空の事柄だと思ったら、本当にあるんだ。ビックリ!!

 数日後、日本人コーディネーターが殺され、トランクに詰めこまれた状態で神戸港に浮かぶ。インド倶楽部の面々が驚きうろたえていると、今度は坊津までもが絞殺され…。

 輪廻とか前世とか、私はどうしてもオウム真理教を思い出してしまう。信者たちが「あなたは前世では私の姉でした」「だから懐かしい気がするんですね」とか、話し合ってたという記事を読み、どうにも拒否感がある。
 もちろん火村もアリスも、輪廻も転生も前世も全く信じてないので苦戦する。そういった世界観が動機だから。

 読後感はスッキリしないが、筆者があとがきに書いているように「シリーズ全体としては、火村とアリスがいつものように活躍する物語を描いていきたい」とあるので、私もそれを歓迎したいです。
 そもそも本家のエラリー・クイーンの国名シリーズも、シリーズを重ねるごとに本格味は薄れていったもの。

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