きょうは5月31日に行われた、日レスインビテーションカップのことを書こうと思ったのだが、とてもそんな気になれないので、後日記す。
6月1日、日本女子プロ将棋協会(LPSA)から、北尾まどか女流初段の退会・フリー宣言が発表された。まさに寝耳に水、青天の霹靂だった。近々大きなニュースが走る、という噂はあったが、まさかこれだったとは…。
人生は1度しかない。だからヒトの意見に左右されず、自分が正しいと思った道を行けばいい、というのが私の持論である。北尾さんもこの結論に至るまでさんざん悩んだのだろうし、部外者の私がとやかく言える立場ではなく、黙ってその事実を受け容れるしかない。
いまだから書くが、北尾さんがプロデビューしたとき、かつて私が旅先で一目惚れした女性に似ていて、ひそかに注目していたものだった。
そんな北尾さんに、縁あってLPSAで指導対局を受けることになったわけだが、ほかの女流棋士は全般的にリラックスして指しているのに対して、北尾さんのそれは、相手がアマチュアでも手を抜くことなく、全力で指していた。
駒落ちの将棋にも強く、私は計12名に角落ちで教えていただいたが、負けたのは中井広恵天河と、北尾さんだった。
対局姿勢も独特だった。昨年の1月、大阪で開かれた1DAYトーナメントにお邪魔したとき、指導対局に臨んだ北尾さんは、3面指しなのに、わざわざ立ち上がって対局をこなしていた。これが北尾さんのファイティングポーズだったのだろう。
駒込の金曜サロンにおいても、あるときは直立し、あるときはしゃがみこみ、指導対局とは思えないほど、対局に没頭していた。
たまに私が勝たせていただくと、本気で悔しがっていた。それゆえに、こちらも北尾さんに教えていただくのが楽しみだった。
こんなわけだからLPSA公認棋戦における公開対局でも、北尾さんのそれには動きがあり、見ているだけで楽しかった。
私は女流棋士に88局も将棋を教えていただいたが、私のベスト1の対局が、昨年の11月13日、東京・新宿のカフェバー「Who’s who」で指した、北尾さんとの1局であった。
これは以前も記したことがあるが、私が敗勢の終盤、北尾さんの疑問手に乗じて、一気に北尾玉を即詰みに討ち取った、思い出深い将棋である。
今回も本人に承諾をとらず、その棋譜を掲載する。私の勝局だが、北尾さんは許してくれるだろう。
先手(下手):私 後手(上手):北尾まどか女流初段 手合割:平手
▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲6八飛△6二銀▲3八銀△4二王▲1六歩△1四歩▲7八銀△3二王▲4八玉△5二金右▲3九玉△5四歩▲5八金左△5三銀▲6七銀△8五歩
▲7七角△4二銀上▲2八玉△3五歩▲4六歩△3三銀▲4七金△3四銀▲2六歩△7四歩▲2七銀△4四銀▲6五歩△3一角▲8八飛△7五歩▲同歩△同角▲7八飛△5三角
▲3八金△9四歩▲8八飛△4二金直▲5六銀△7六歩▲6六角△6四歩▲同歩△同角▲6五歩△5三角▲7八飛△7二飛▲6七銀△8六歩▲同歩△同角▲8八飛△8五歩
▲8六飛△同歩▲4四角△同歩▲6一銀△4九角▲7二銀不成△6七角成▲6四歩△6二歩▲8一銀成△6八飛▲9一成銀△4九馬▲3九香△5八銀▲4八金引△同馬▲同金△4七銀成
▲3八金△同成銀▲同銀△4八金▲5九銀△3八金▲同香△6九飛成▲4九金△4八銀▲5六角△4九銀成▲3四角△3三金打▲5六角△5九飛成▲3四桂△3九成銀▲2二飛△4三王
▲4二桂成△同金▲3四銀△5三王▲4二飛成△同王▲4三金△同金▲同銀成△同王▲3四角打△5三王▲5二金△6四王▲6五金△6三王▲7四金△7二王▲7三歩
まで、119手で一公の勝ち。
途中の指し手の善悪は置いておいて、100手目、北尾女流初段の△4三王が痛恨の悪手。上手の習性として、つい王を上がりたくなるが、ここは△3一王と引いて踏ん張るべきだった。
ここから私の王手ラッシュが始まる。▲4二桂成△同王に、▲3四銀が利いたのが大きかった。以下数手進んで▲3四角打△5三王に、▲5二金と下から打つ手を発見し、これは詰み筋に入ったと思った。
私が▲6五金と打ったとき、北尾女流初段が次の手をなかなか指さなかったのは、以前記したとおりである。
投了以下は、△7一王▲6一金△8二王▲8三金△9一王▲9二金、まで。
▲4二桂成から数えて25手。ダブル凧金の、奇跡的な詰みだった。
投了を告げたときの北尾女流初段の、「なんで9一に成銀がいるのーーっ!?」「キーーーーーッ!!」という悔しがりよう、「将棋をやってて良かったああ!!」と歓喜の声をあげる私。本当に思い出に残る1局だった。
その後北尾さんは、今年に入ってバッサリと髪を切り、ダイエットを成功させて、見違える容姿になっていた。
あれは4月17日、金曜サロンが終わって、いつものように会員のみんなで食事に行こうとすると、北尾さんも行くと言う。アフターサロンに女流棋士が同席するケースは、まずない。じゃあいつものファミレスへ、と言うと、居酒屋がいいと言う。ファミレスでも酒が飲めると言っても聞かず、けっきょく私たちは、焼肉屋で一杯やることにした。
そのときの北尾さんは、本当に楽しそうだった。そして彼女が実に多彩な才能の持ち主であることも知った。私が「そんなに才能があるのに、なんで女流棋士になったんですか?」と失礼な質問をしたら、彼女は笑うだけだった。ただ、「私は将棋を覚えたのが遅いから、普及に全力を傾ける」というようなことを言った。
彼女が最近あまりにもやせたので、「急激なダイエットは体に悪いから、気をつけたほうがいいです」とも言ったら、彼女は「大丈夫」と言った。
最近の睡眠が3時間だと言うからそれも心配したら、「健康診断でも何でもなかったし、元気です」と言った。
それから私たちは駒込駅まで行き、彼女は仕事が残っているからと、その足でLPSAの事務所へ向かい、私たちはそこで別れたのだった。
ヒトの気持ちなんて、所詮本人にしか分からない。周りはいろいろ言うだろうけど、自分の信じた道を、これから堂々と歩んでいけばいいと思う。
いつかどこかで将棋を教えていただける機会があったら、そのときはまた、厳しく指導してください。
北尾さん、LPSAでの長いようで短かった2年間、本当におつかれさまでした。そして、夢をありがとうございました。
6月1日、日本女子プロ将棋協会(LPSA)から、北尾まどか女流初段の退会・フリー宣言が発表された。まさに寝耳に水、青天の霹靂だった。近々大きなニュースが走る、という噂はあったが、まさかこれだったとは…。
人生は1度しかない。だからヒトの意見に左右されず、自分が正しいと思った道を行けばいい、というのが私の持論である。北尾さんもこの結論に至るまでさんざん悩んだのだろうし、部外者の私がとやかく言える立場ではなく、黙ってその事実を受け容れるしかない。
いまだから書くが、北尾さんがプロデビューしたとき、かつて私が旅先で一目惚れした女性に似ていて、ひそかに注目していたものだった。
そんな北尾さんに、縁あってLPSAで指導対局を受けることになったわけだが、ほかの女流棋士は全般的にリラックスして指しているのに対して、北尾さんのそれは、相手がアマチュアでも手を抜くことなく、全力で指していた。
駒落ちの将棋にも強く、私は計12名に角落ちで教えていただいたが、負けたのは中井広恵天河と、北尾さんだった。
対局姿勢も独特だった。昨年の1月、大阪で開かれた1DAYトーナメントにお邪魔したとき、指導対局に臨んだ北尾さんは、3面指しなのに、わざわざ立ち上がって対局をこなしていた。これが北尾さんのファイティングポーズだったのだろう。
駒込の金曜サロンにおいても、あるときは直立し、あるときはしゃがみこみ、指導対局とは思えないほど、対局に没頭していた。
たまに私が勝たせていただくと、本気で悔しがっていた。それゆえに、こちらも北尾さんに教えていただくのが楽しみだった。
こんなわけだからLPSA公認棋戦における公開対局でも、北尾さんのそれには動きがあり、見ているだけで楽しかった。
私は女流棋士に88局も将棋を教えていただいたが、私のベスト1の対局が、昨年の11月13日、東京・新宿のカフェバー「Who’s who」で指した、北尾さんとの1局であった。
これは以前も記したことがあるが、私が敗勢の終盤、北尾さんの疑問手に乗じて、一気に北尾玉を即詰みに討ち取った、思い出深い将棋である。
今回も本人に承諾をとらず、その棋譜を掲載する。私の勝局だが、北尾さんは許してくれるだろう。
先手(下手):私 後手(上手):北尾まどか女流初段 手合割:平手
▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩▲6八飛△6二銀▲3八銀△4二王▲1六歩△1四歩▲7八銀△3二王▲4八玉△5二金右▲3九玉△5四歩▲5八金左△5三銀▲6七銀△8五歩
▲7七角△4二銀上▲2八玉△3五歩▲4六歩△3三銀▲4七金△3四銀▲2六歩△7四歩▲2七銀△4四銀▲6五歩△3一角▲8八飛△7五歩▲同歩△同角▲7八飛△5三角
▲3八金△9四歩▲8八飛△4二金直▲5六銀△7六歩▲6六角△6四歩▲同歩△同角▲6五歩△5三角▲7八飛△7二飛▲6七銀△8六歩▲同歩△同角▲8八飛△8五歩
▲8六飛△同歩▲4四角△同歩▲6一銀△4九角▲7二銀不成△6七角成▲6四歩△6二歩▲8一銀成△6八飛▲9一成銀△4九馬▲3九香△5八銀▲4八金引△同馬▲同金△4七銀成
▲3八金△同成銀▲同銀△4八金▲5九銀△3八金▲同香△6九飛成▲4九金△4八銀▲5六角△4九銀成▲3四角△3三金打▲5六角△5九飛成▲3四桂△3九成銀▲2二飛△4三王
▲4二桂成△同金▲3四銀△5三王▲4二飛成△同王▲4三金△同金▲同銀成△同王▲3四角打△5三王▲5二金△6四王▲6五金△6三王▲7四金△7二王▲7三歩
まで、119手で一公の勝ち。
途中の指し手の善悪は置いておいて、100手目、北尾女流初段の△4三王が痛恨の悪手。上手の習性として、つい王を上がりたくなるが、ここは△3一王と引いて踏ん張るべきだった。
ここから私の王手ラッシュが始まる。▲4二桂成△同王に、▲3四銀が利いたのが大きかった。以下数手進んで▲3四角打△5三王に、▲5二金と下から打つ手を発見し、これは詰み筋に入ったと思った。
私が▲6五金と打ったとき、北尾女流初段が次の手をなかなか指さなかったのは、以前記したとおりである。
投了以下は、△7一王▲6一金△8二王▲8三金△9一王▲9二金、まで。
▲4二桂成から数えて25手。ダブル凧金の、奇跡的な詰みだった。
投了を告げたときの北尾女流初段の、「なんで9一に成銀がいるのーーっ!?」「キーーーーーッ!!」という悔しがりよう、「将棋をやってて良かったああ!!」と歓喜の声をあげる私。本当に思い出に残る1局だった。
その後北尾さんは、今年に入ってバッサリと髪を切り、ダイエットを成功させて、見違える容姿になっていた。
あれは4月17日、金曜サロンが終わって、いつものように会員のみんなで食事に行こうとすると、北尾さんも行くと言う。アフターサロンに女流棋士が同席するケースは、まずない。じゃあいつものファミレスへ、と言うと、居酒屋がいいと言う。ファミレスでも酒が飲めると言っても聞かず、けっきょく私たちは、焼肉屋で一杯やることにした。
そのときの北尾さんは、本当に楽しそうだった。そして彼女が実に多彩な才能の持ち主であることも知った。私が「そんなに才能があるのに、なんで女流棋士になったんですか?」と失礼な質問をしたら、彼女は笑うだけだった。ただ、「私は将棋を覚えたのが遅いから、普及に全力を傾ける」というようなことを言った。
彼女が最近あまりにもやせたので、「急激なダイエットは体に悪いから、気をつけたほうがいいです」とも言ったら、彼女は「大丈夫」と言った。
最近の睡眠が3時間だと言うからそれも心配したら、「健康診断でも何でもなかったし、元気です」と言った。
それから私たちは駒込駅まで行き、彼女は仕事が残っているからと、その足でLPSAの事務所へ向かい、私たちはそこで別れたのだった。
ヒトの気持ちなんて、所詮本人にしか分からない。周りはいろいろ言うだろうけど、自分の信じた道を、これから堂々と歩んでいけばいいと思う。
いつかどこかで将棋を教えていただける機会があったら、そのときはまた、厳しく指導してください。
北尾さん、LPSAでの長いようで短かった2年間、本当におつかれさまでした。そして、夢をありがとうございました。