一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

とちのきカップを見に行く(前編)

2009-06-17 02:00:02 | 観戦記
14日(日)は、日本女子プロ将棋協会(LPSA)主催の1DAYトーナメント「とちのきカップ」の公開対局を見るために、宇都宮まで行った。
宇都宮というのは東京から見ると、中途半端な場所である。前日に現地に入るほど遠くはないが、当日朝に家を出て、有料特急電車に乗るほどの距離でもない。
結局7時前に早起きし、東武鉄道の快速列車などを乗り継いで、会場である「とちぎ健康の森」に入った。
ここは昨年も同トーナメントが行われ、北尾まどか女流初段が優勝している。
このときの対局場は小さめの畳が20枚敷かれた和室で、観戦も可能だったのでありがたく観戦させていただいたが、女流棋士の盤上没我の対局姿には、強い感銘を受けたものだった。
とくに藤森奈津子女流三段は、ふだんの指導対局からは想像もできない真剣な表情で、小汚い私服でふらふらやってきた自分が恥ずかしく思えた。
1DAYトーナメントは小規模とはいえ、LPSAのれっきとした公認棋戦である。それを直で観戦するからには、こちらもそれなりの服装をしなければならぬ。それから私は、いかなる棋戦でも、対局を拝見できるときは、スーツを着用するようになった。
もうひとつ、このときは中倉宏美女流初段(当時)の、袴を召しての対局姿も印象に残っている。ちょうど真横から拝見していたのだが、鼻筋のスッととおった美しい横顔、盤上を見つめる澄んだまなざし、脇息に置かれた白い左手、静寂の中でチャッとひびく駒音。まるで平安時代からタイムスリップしてきたような、この世の人とは思えない気品があった。

今年に戻る。会場に入ると、対局場である2階の廊下で、袴姿の北尾女流初段から「おはようございます!」と挨拶される。私も挨拶を返したが、二の句が告げない。何を言っても、「味が悪い」のだ。LPSA退会は本人の決断とはいえ、こういう結論しかなかったのかと残念に思う。
今年は参加棋士が6人から8人に増えたので、1回戦の4局は洋室で、椅子席での対局となる。それぞれの対局は、室内左から、藤田麻衣子女流1級-大庭美樹女流初段、北尾女流初段-船戸陽子女流二段、中倉宏美女流二段-石橋幸緒女流王位、蛸島彰子女流五段-中井広恵天河である。トーナメント表の順番に位置しているわけだ。この中で注目の一番は、やはり北尾女流初段-船戸女流二段戦であろう。
今回は観客席がタテに3列並んでいて、立ち見での観戦はできない。ただし別室の大ホールで解説があるので、出入りは自由だ。
私は2列目中央の席が空いていたので、そこにすわる。前の人が邪魔で、船戸女流二段の姿がすっぽり隠れてしまっているが、北尾女流初段の姿は見える。きょうは北尾女流初段が主役であるから、それでいい。それによく見れば、ここは8名の対局者が俯瞰できる好位置でもあったのだ。
10時50分、対局開始。
静寂の中、駒の音だけが響くこの緊張感がいい。LPSA所属として最終日となる北尾女流初段も、いい顔をしている。そんな彼女をじっと見ていて、あっ!と思った。女優の若村麻由美がそこにいたからだ。
正面から向かって左に75度。北尾女流初段には甚だ失礼ながら、彼女がこんなに美人だとは思わなかった。船戸女流二段の対局姿、中倉女流二段の横顔を拝見しようとしても、つい北尾女流初段に目がいってしまう。
しかし肝心の将棋は、どうも形勢が悪いようだった。私たちはすわって観戦しているから、盤面はほとんど見えない。だから対局者の姿勢や仕種で判断するしかないが、北尾女流初段のそれはすぐ分かる。今回は姿勢が斜めにくずれ、目に元気がない。形勢がおもわしくない証拠だ。しかしそんな表情もまた、素敵だった。ディフェンディングチャンピオンの北尾まどか女流初段、緒戦で散る。
結局1回戦は、4局中でこの対局がいちばん遅くなったことを割り引いても、そのほとんどの時間を、北尾女流初段のご尊顔を拝見することに費やしていた。なんでだろう。どうして北尾女流初段は、LPSAを退会してしまうのだろう…。
外で昼食を摂り戻ってくると、廊下に何人かの女流棋士がいらした。船戸女流二段が声をかけてくれる。
「ああ船戸先生、きょうは船戸先生に優勝予想で1票を入れましたから、頑張ってください!!」
今回の1DAYトーナメントに船戸女流二段が参戦することは、2月に新宿で行われた天河戦第1局で、船戸女流二段に指導対局を受けたときに、直々に聞いて、知っていた。だから今回は対戦相手の分析をせず、船戸女流二段の優勝に賭けていたのだ。
「ああー、ありがとうございますぅ」
「相手は中井先生か石橋先生のどちらかになると思いますけど、船戸先生なら大丈夫です!」
「あのー、そのふたりのどちらかが出てくるのは、もう決まってるんですけど」
あっ、そうだった…。船戸女流二段は美しすぎるがゆえに、むしろ私は冷静に会話をしているつもりだったのだが、やっぱり舞い上がっていたようだ。
やがて指導対局の受付が始まり、空きがあるというので、申し込む。指導棋士は1回戦で敗退した棋士などがあたる。対局室は、さきほど1回戦が行われた部屋だ。
藤田麻衣子女流1級が入室する。
「1回戦、残念でしたね。ケッケッケ」
と憎まれ口を叩いておく。藤田女流1級もニヤッと笑う。5日後の戦いは、すでに始まっているのだ。
指導対局が終わり、私は大ホールの解説室を素通りして、対局室へ入る。午後1時40分ごろだった。
(つづく)
コメント (2)
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