一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

LADIES HOLLY CUP・熊倉紫野女流初段VS山口恵梨子女流1級

2009-06-29 00:29:03 | 観戦記
私が敬愛する長崎県の喫茶店のマスターによると、この世に偶然はないという。とするならば、今回山口恵梨子女流1級の対局の場に私がいたことは、偶然ではなく必然だったことになる。
もし私がLADIES HOLLY CUPの対局者に背を向けて座っていたら…もし山口恵梨子女流1級が後手番でなかったら…また違った展開になっていただろう。いやそもそも、スーパーサロンのコマが空いてなかったら…。私の山口女流1級への期待が、この「出会い」を作り出したのだ。
おっちゃんとの対局中に開始されたLADIES HOLLY CUPのリーグ戦。私は自分の対局どころではなくなってしまった。私は対局中いつも猫背なのだが、今回はのけぞって指す。山口女流1級のご尊顔を拝見するためである。私とおふたりまでの間にはもう1列将棋盤があるので、彼女との距離は4、5メートルくらいだろうか。
ああ…正面から見る山口女流1級のお顔は、ちょっとすました感じで、素敵だ。彼女が「週刊ヤングジャンプ」の制服コレクションにエントリーしたら、入賞すること確実である。
私の将棋は、先手のおっちゃんがゴキゲン中飛車から向かい飛車に転じている。▲8四歩の存在が大きく、おっちゃんが指しやすい。ここで5五の角を▲3三角成と切り、取った桂を▲7五桂とでも打てば、8筋の突破が利きそうだ。
しかしおっちゃんはウンウン考えてなかなか指さない。こっちはとっとと将棋を終わらせて、観客席でピチピチ女流の対局をじっくりと拝見したいのに…。
しかしおっちゃんはさんざん考えて、▲4六角と自重してしまった。こちらもわざと負けるわけにはいかないから、渋々△7四歩と傷を消す。これは先が長くなりそうだ。またおっちゃんが考えだした。
私はまたもや山口女流1級の観賞に入る。長めの髪を左右で束ねている。幅の広い紺色のリボンを締めた夏用制服の上に、白いカーディガンを重ねている。スカートは長くも短くもなく、このくらいの長さが清楚な感じでよい。ソックスはいま流行りのロングの紺ではなく、オーソドックスな白だ。もう、可憐としかいいようがない。
私の対局相手のおっちゃんには申し訳ないが、こちらの盤面は瞥見するだけだ。 それにしてもおっちゃん、ちょっと考慮時間が長くないか!?
後ろ姿の熊倉紫野女流初段に目をやる。カーキ色の、あれはふつうのTシャツだろうか。ついおしりに目がいってしまう。観客席から眺めるのもいいが、この位置も悪くない気がしてきた。
おっちゃんが「う~ん…」と唸りながら、広げた腕を頭のうしろで組む。あっ、それじゃあ山口女流1級が見えないじゃないか!!
私はやや体をズラして、山口女流1級を観る。なんだか自分の行為が変態的に思えて、軽い自己嫌悪に陥る。
熊倉-山口戦のパソコン棋譜入力は、伊藤明日香女流初段。なるほど…この棋戦はチェスクロックを使用しているので、盤側から盤面を見やすくするために、チェスクロックは盤の向こう側になければならない。通常チェスクロックは、後手番の駒台近くに置かれる。だから先ほど、両対局者は入れ替わったのだ。
やっとおっちゃんが次の手を着手する。私はノータイムで指し返す。こんなところで時間は使えない。まるで2面指しをしている気分だ。いや実際、こちらの将棋と山口女流1級のお顔を交互に見ているので、変則的な2面指しと云えないこともない。
観客席を窺う。みんなの視線は大盤に向けられている。将棋は相振り飛車で、面白い局面ではある。しかし、美少女ふたりが真剣に対局をしているのに、彼女らを観賞しないとは、私には考えられない。皆さん、心底将棋が好きなんだなあ、と、妙に感心する。
こちらの将棋は、何とおっちゃんが▲7三角成と、反対側の桂を取って暴発してきた。これは意外と早く将棋が終わりそうである。しかしそこからまた、おっちゃんの苦慮が続く。じゃあ最初から角を切らなければいいのに…。まさかこちらより先にあちらの将棋が終わることはないだろうが、焦る。
大盤の駒の操作は奨励会員だろうか。解説するわけにもいかないので、黙々と駒を動かしている。記録の伊藤女流初段は、このあと金曜ナイトスクールが控えている。ファンのために、精いっぱい頑張ってほしいと思う。
こちらの将棋は、おっちゃんが完全に指し切っている。と、突然…といった感じで、おっちゃんが潔く投了してくれた。あ、ありがたいことである。すぐにも観客席のほうへ移動したいが、感想戦がある。私は先ほどの局面で自分の読みを披露する。しかし角を切って▲7五桂は、後手も指せる、という結論になった。
気が急く。5分ぐらい感想を述べて、お開き…というところで、しかしなあ…とおっちゃんが言い、また感想戦が再開されてしまった。ま、まだやるんですか。しかしこちらが快勝した手前、もうやめましょうと切り上げるわけにもいかない。美少女の対局姿が遠のく。
感想戦がやっと終わり、これで心おきなく女流棋士の観賞に入れる。しかし私は観客席には座らない。両者の顔を拝見するには、席位置が固定されてはダメだ。
まずは山口女流1級を、あらためて観賞する。正面から向かって左に45度の位置に立ってみる。かなりの色白である。チャッ、と指す手つきが美しい。
白のソックスには紺色のワンポイントが入っている。学校指定のソックスだろうか。
観客席のうしろに廻り、両者を横から眺めてみる。ダメだ。さすがのふたりも、横顔は中倉宏美女流二段のそれには叶わない。
そのまま左に歩を進めて、今回初めて、熊倉女流初段を正面右45度からじっくり拝見する。熊倉女流初段も、山口女流1級に劣らず美しい。
先日発行された「将棋ペン倶楽部 通信33号」で私は、「マイナビ女子オープン挑戦者決定戦」の模様を描いた、拙稿が載っている。冊子全32ページのうち、6ページ以上も割かれている長文だが、今回は女流棋士が20名近くも登場する大作である。もちろん山口女流1級にもスペースを割いているが、熊倉女流初段は名前の紹介だけ。これはマズかった。
熊倉女流初段も、マイナビ女子オープン一斉予選決勝で千葉涼子女流三段に逆転勝ちし、本戦入りを決めている。その戦績だけでも記すべきだった。
カーキ色の半袖のシャツ(正式な名称があるはず)の正面は白抜きのハートマークがいくつもデザインされている。スカートには黒と白の細いストライプが入っている。黒のパンプスは大人の証。高校生の恵梨子ちゃんとは違うのよ、という気概が感じられる。ちなみに山口女流1級は学生靴である。
もう一度先ほどの場所に戻って、山口女流1級を観賞する。あんまりうろうろして不審者に思われたくないが、いまのところ大丈夫だ。
もう1回、熊倉女流初段が窺える位置に戻る。熊倉女流初段の手つきもクセがなく、上品だ。ほどよい駒音が心地いい。と、彼女が私を見て軽く目礼したように見えた。
昨年の「とちのきカップ」で、松尾香織女流初段対北尾まどか女流初段の決勝戦を観戦したとき、松尾女流初段が私を見て目礼したことがあった。
そのときは、おっ、私を覚えてくれていたのかと感激したのだが、後日訊くと、私の存在は気付かなかったと言われ、気が抜けたものだった。
今回も、私がボーッと立っていたので、熊倉女流初段がたまたま視線を向けたものであろう。
試みに、シャツの白抜きハートマークを数えてみる。将棋オタクが熊倉女流初段の胸のあたりをじっと見ている絵は、傍から見ると相当ヤバイ。変態といえよう。そんなリスクを冒してまで数えたハートマークは、横に4つ、その下に5つ。そのパターンが服の下まで6つ繰り返されている。鎖骨のあたりにもハートマークが左右で2つある。計算すると、(4+5)×6+2=56、であろうか。
現在、女流棋士会所属棋士は42名、LPSA所属棋士はツアー女子プロ1名を含めて18名、合計60名である。しかし両対局者と記録の伊藤明日香女流初段、立ち会いの野田澤彩乃女流1級の4名を引くと56名、このハートマークの数とピッタリ一致する。いつの日か、両者合同のイベントが開かれることがあるなら、女流棋士ファンとしては、こんなに嬉しいことはない。しかしその日が来ることは、ない。
冷房が利きすぎなのか、私の粘っこい視線を無意識に感じたのか、熊倉女流初段が両腕を軽くさすっている。
席が空いているのに私が座らないので、近くのおじさんに不審そうに私を見上げる。私は三たび、山口女流1級を斜めに窺える場所に移動した。ここなら一般対局場に近いので、不審者に思われることはない。
肝心の局面のほうは、熊倉女流初段が▲6四同飛から▲5四飛と歩をかすめ取り、△5三銀上に▲4四角と銀を取って勝負に出ていた。
しかし山口女流1級も強く迎え撃って一歩も譲らず、△4九角と迫る。終盤の入口にさしかかり、山口女流1級はお腹を押さえている。たしかに胃が痛くなるような攻防だ。そういえば、6月26日にブログを開設した渡部愛ツアー女子プロも、先日のとちのきカップでは、北尾まどか女流初段との終盤で、心臓のあたりを押さえながら指していた。塚田正夫名誉十段は、「勝つことは偉いことだ」と言ったが、至言だと思う。
▲2六角の飛車取りに構わず、△3七歩の手裏剣が厳しい。指し手が筋に入った感じだ。
以下数手進んで、▲3七の角を取るのに、銀を残して飛車のほうを切ったのが鋭い。もう山口女流1級の体は反っている。勝利を確信したのだ。
熊倉女流初段は不屈の闘志で▲6八飛と打つ。ここで私ならとりあえずは△6七歩と飛車の縦利きを消すところだが、山口女流1級は、そんな甘い手は指さない。数秒後△2八金と打ち、ここで熊倉女流初段の投了となった。
以下手数は長いが、即詰み。ここで投了するのが、プロの嗜みである。
山口女流1級が、あどけない笑顔を見せた。そこだけ見れば、勝負師とは思えない、ふつうの女子高校生である。しかしその「ふつう」が実は、いるようでいないのだ。
感想戦に入ってしばらく経つと、野田澤女流1級が、
「感想戦なので、皆さま近くでご覧ください」
と、ありがたい申し出をしてくれる。こういうのをファンサービスという。
私ははやる心を抑えて感想戦を聞きに行く。と言っても対局者のおふたりに近づき、若い女性のフェロモンを吸引するためである。
ここでも私は一定の場所に留まらず、両対局者にまとわりつくように、観賞する。もう完全な変質者である。
それはともかくおふたりはさすがにプロで、読みの量がすごかった。「山口語」も直に聞くことができて、嬉しかった。熱戦を見せてくれた両対局者には、深く感謝の意を表したい。
感想戦も終わり、私は受付で帰りの手続きをする。と、横を通った熊倉女流初段が、また私を見て目礼をした。
ええ? これも偶然なのか? 繰り返すが、熊倉女流初段と私は、一面識もない。マイナビ女子オープン挑戦者決定戦の控室で、私の顔を覚えてくれたのだろうか。まさか。しかしそれを彼女に訊くチャンスは永久に、ない。
コメント (8)
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