Akiちゃんに断る理由はない。私の先手番で対局開始。私の四間飛車に、Akiちゃんは棒銀できた。ここで私はまた定跡外れの手を指す。
☗4七銀から☗3八飛の袖飛車だ。かつて大山康晴十五世名人が得意にしていた急戦対策だが、現在の将棋界ではほとんど見られない。余談ながら、昭和50年に指された☗植山悦行1級対☖谷川浩司初段との一戦では、谷川初段が中飛車から袖飛車に変化して猛攻したが、植山1級の絶妙の受けの前に屈している。まったく、あのころの植山七段は強かった。
Akiちゃんの☖4四銀に私は☗4五歩と突く。☖3三銀なら☗4六銀と立って調子がよい。Akiちゃんは強く☖同銀。こんなところで銀を引いては気合負けと見たもので、この女子中学生は強いと思った。
☗3七桂☖5五角☗5六歩。☖6四歩が突いてあるから、角を引けば☗4五桂と、☖4五の銀をボロッと取れる。どうするのかと見ていると、Akiちゃんは少考で☖4六銀と突っ込んできた。強手。私は1秒も考えていなかった。
ここで☗4六同銀は☖同角で、銀をさばかれた上に角まで生還されては、何をやっているのか分からない。☗4八金と立つ手もあるが、まったく考えなかった。いきおい私は☗5五歩と角を取る。しかし☖4七銀成と銀を取られ、これが飛車取りとなっては、形勢を損ねた。
以下は私の疑問手を的確に咎められ、無念の2連敗となってしまった。こんな強い中学生が、日本将棋連盟の研修会ではE級だという。いったい研修会のレベルはどれだけすごいのか。いずれにしても、このままAkiちゃんが精進を続ければ、すぐ女流棋士になれるだろう。
このあとはW氏との飛車落ち戦。W氏は飛車落ちのスペシャリストで、女流棋士や男性棋士との対局は200局を越えているはずだ。本局も定跡どおり的確に指され、完敗した。しかも感想戦では、こちらが紛れや変化を教えてもらう始末。これではどちらが上手か分からない。いや、参った。
うつろな目でほかの対局を見て回る。中井女流六段には、Is氏が挑戦している。終盤の寄せ合いだが、中井女流六段が余しているようだ。
Y氏は誰と指していたか。終盤の感想戦を見ていたら、(Y氏を後手番と見て)☗7七桂☗8七歩☗8八玉☗9六歩☗9九香、☖6九竜・持駒:金、銀…の局面で、Y氏が☖8九金と打った。Y氏は「LPSA芝浦移転記念」で三段に昇段したが、「☖8九金」とは、三段が指したとは思われぬ重たい手。当然ここは☖7八金と打つのが形だ。
たまたま中井女流六段がこの局面を見ており、
「☖8九金はいけません。金を一段目に打つと、金の利きは3ヶ所でしょう? 二段目に打てばほら、6ヶ所になります。それにこれなら☗7七桂も取れるでしょう?」
と、優しく諭す。Y氏、三段らしからぬスットコドッコイな手を指したのに、中井女流六段直々に指導を受けるとは、羨ましい。
そろそろ昼時である。信濃わらび山荘では、昼にお弁当(500円)も用意してくれる。私たちは食堂中央に戻り、黙々とお弁当を食べた。
食後に一休みしていると、中井広恵女流六段が、
「今回の合宿はどうでしたか」
と感想を聞きにきた。
「とても充実していて、素晴らしかったです」
と率直な感想を述べると、中井女流六段は満足したようだった。中井女流六段はほかの会員にも聞いて回っていたが、概ね好評だったようである。
このあとはミニ表彰式。詰将棋トライアルで好成績だったHak氏に記念品(棋書or扇子)が贈られた。さらに中井女流六段、植山悦行七段、大野八一雄七段との指導対局で見事勝利した会員にも、記念品が贈られた。中井女流六段らはここまで配慮していてくれたのだ。恐縮である。植山七段のはからいのお陰で、私も扇子をいただくことができた。
最多対局賞にも記念品が贈られるそうで、私は14局くらい指したから手を挙げたが、すでに記念品をいただいていたので、黙殺された。それによく考えてみたら、私の対局数は12局だった。指導対局が1勝2敗。会員とは7人と指し、4勝5敗だった。勝敗は意味がないが、Y氏との将棋の時間切れ負けと、Akiちゃんからの2連敗が痛かった。
このあとは中井女流六段の、結びの言葉があった。みなさんが1泊2日の将棋合宿を楽しんでくれたことを心から嬉しく思ったこと、好評だったようなので、「第2回」の将棋合宿も考えたいこと、などが述べられた。したっがって、今回の「信濃わらび山荘将棋合宿」の前には「第1回」が冠することになった。
将棋盤と駒はすでに仕舞ってある。チェックアウトの時間も近い。みんなでグターッとしていると、Akiちゃんが
「(大沢さんのブログを)『お気に入り』に入れてます」
と嬉しいことを言ってくれた。女子中学生に惨敗して傷心状態の私を元気づけてくれたのだろう。
山荘からアンケート用紙を渡されたので、入浴時間を長く、と記入しておいた。夕食時間を挟んでの午後5時から9時は、いかにも短い。これではフナトヨーコの入浴シーンも挿入できない。食事や宿泊棟は満点だっただけに、そこだけがわずかな瑕瑾だった。
買い出しした飲食物は、飲み物はほとんどハケたが、お菓子はかなり残ってしまった。大矢順正氏やTat氏などごく一部の会員を除いて寛ぎの時間なしに将棋に没頭していたためだ。
「柿ピー」が手つかずだったのは、私の選択ミス。これはAkiちゃん、Hanaちゃんにプレゼントである。
いよいよチェックアウト。表に出ると、雨は降っていなかった。霧もだいぶ晴れた。山も紅葉に染まっている。しかし10月末でこの寒さなら、冬の寒さは推して知るべしだ。雪に覆われて、営業になりそうもない。
その点を中井女流六段に質すと、冬期間は閉鎖とのことだった。今期の営業も11月上旬(7日)で終わるという。再開は来年4月なので、第2回の開催は最短でも半年後ということになる。
合宿参加者19人がそろい、記念写真を撮る。3年前にLPSAが設立されたから、この企画が実現したのだ。ありがたいことだと思う。
午後1時半。私たちはクルマ4台に分乗し、管理人さんに見送られ、信濃わらび山荘を後にした。
(つづく)
☗4七銀から☗3八飛の袖飛車だ。かつて大山康晴十五世名人が得意にしていた急戦対策だが、現在の将棋界ではほとんど見られない。余談ながら、昭和50年に指された☗植山悦行1級対☖谷川浩司初段との一戦では、谷川初段が中飛車から袖飛車に変化して猛攻したが、植山1級の絶妙の受けの前に屈している。まったく、あのころの植山七段は強かった。
Akiちゃんの☖4四銀に私は☗4五歩と突く。☖3三銀なら☗4六銀と立って調子がよい。Akiちゃんは強く☖同銀。こんなところで銀を引いては気合負けと見たもので、この女子中学生は強いと思った。
☗3七桂☖5五角☗5六歩。☖6四歩が突いてあるから、角を引けば☗4五桂と、☖4五の銀をボロッと取れる。どうするのかと見ていると、Akiちゃんは少考で☖4六銀と突っ込んできた。強手。私は1秒も考えていなかった。
ここで☗4六同銀は☖同角で、銀をさばかれた上に角まで生還されては、何をやっているのか分からない。☗4八金と立つ手もあるが、まったく考えなかった。いきおい私は☗5五歩と角を取る。しかし☖4七銀成と銀を取られ、これが飛車取りとなっては、形勢を損ねた。
以下は私の疑問手を的確に咎められ、無念の2連敗となってしまった。こんな強い中学生が、日本将棋連盟の研修会ではE級だという。いったい研修会のレベルはどれだけすごいのか。いずれにしても、このままAkiちゃんが精進を続ければ、すぐ女流棋士になれるだろう。
このあとはW氏との飛車落ち戦。W氏は飛車落ちのスペシャリストで、女流棋士や男性棋士との対局は200局を越えているはずだ。本局も定跡どおり的確に指され、完敗した。しかも感想戦では、こちらが紛れや変化を教えてもらう始末。これではどちらが上手か分からない。いや、参った。
うつろな目でほかの対局を見て回る。中井女流六段には、Is氏が挑戦している。終盤の寄せ合いだが、中井女流六段が余しているようだ。
Y氏は誰と指していたか。終盤の感想戦を見ていたら、(Y氏を後手番と見て)☗7七桂☗8七歩☗8八玉☗9六歩☗9九香、☖6九竜・持駒:金、銀…の局面で、Y氏が☖8九金と打った。Y氏は「LPSA芝浦移転記念」で三段に昇段したが、「☖8九金」とは、三段が指したとは思われぬ重たい手。当然ここは☖7八金と打つのが形だ。
たまたま中井女流六段がこの局面を見ており、
「☖8九金はいけません。金を一段目に打つと、金の利きは3ヶ所でしょう? 二段目に打てばほら、6ヶ所になります。それにこれなら☗7七桂も取れるでしょう?」
と、優しく諭す。Y氏、三段らしからぬスットコドッコイな手を指したのに、中井女流六段直々に指導を受けるとは、羨ましい。
そろそろ昼時である。信濃わらび山荘では、昼にお弁当(500円)も用意してくれる。私たちは食堂中央に戻り、黙々とお弁当を食べた。
食後に一休みしていると、中井広恵女流六段が、
「今回の合宿はどうでしたか」
と感想を聞きにきた。
「とても充実していて、素晴らしかったです」
と率直な感想を述べると、中井女流六段は満足したようだった。中井女流六段はほかの会員にも聞いて回っていたが、概ね好評だったようである。
このあとはミニ表彰式。詰将棋トライアルで好成績だったHak氏に記念品(棋書or扇子)が贈られた。さらに中井女流六段、植山悦行七段、大野八一雄七段との指導対局で見事勝利した会員にも、記念品が贈られた。中井女流六段らはここまで配慮していてくれたのだ。恐縮である。植山七段のはからいのお陰で、私も扇子をいただくことができた。
最多対局賞にも記念品が贈られるそうで、私は14局くらい指したから手を挙げたが、すでに記念品をいただいていたので、黙殺された。それによく考えてみたら、私の対局数は12局だった。指導対局が1勝2敗。会員とは7人と指し、4勝5敗だった。勝敗は意味がないが、Y氏との将棋の時間切れ負けと、Akiちゃんからの2連敗が痛かった。
このあとは中井女流六段の、結びの言葉があった。みなさんが1泊2日の将棋合宿を楽しんでくれたことを心から嬉しく思ったこと、好評だったようなので、「第2回」の将棋合宿も考えたいこと、などが述べられた。したっがって、今回の「信濃わらび山荘将棋合宿」の前には「第1回」が冠することになった。
将棋盤と駒はすでに仕舞ってある。チェックアウトの時間も近い。みんなでグターッとしていると、Akiちゃんが
「(大沢さんのブログを)『お気に入り』に入れてます」
と嬉しいことを言ってくれた。女子中学生に惨敗して傷心状態の私を元気づけてくれたのだろう。
山荘からアンケート用紙を渡されたので、入浴時間を長く、と記入しておいた。夕食時間を挟んでの午後5時から9時は、いかにも短い。これではフナトヨーコの入浴シーンも挿入できない。食事や宿泊棟は満点だっただけに、そこだけがわずかな瑕瑾だった。
買い出しした飲食物は、飲み物はほとんどハケたが、お菓子はかなり残ってしまった。大矢順正氏やTat氏などごく一部の会員を除いて寛ぎの時間なしに将棋に没頭していたためだ。
「柿ピー」が手つかずだったのは、私の選択ミス。これはAkiちゃん、Hanaちゃんにプレゼントである。
いよいよチェックアウト。表に出ると、雨は降っていなかった。霧もだいぶ晴れた。山も紅葉に染まっている。しかし10月末でこの寒さなら、冬の寒さは推して知るべしだ。雪に覆われて、営業になりそうもない。
その点を中井女流六段に質すと、冬期間は閉鎖とのことだった。今期の営業も11月上旬(7日)で終わるという。再開は来年4月なので、第2回の開催は最短でも半年後ということになる。
合宿参加者19人がそろい、記念写真を撮る。3年前にLPSAが設立されたから、この企画が実現したのだ。ありがたいことだと思う。
午後1時半。私たちはクルマ4台に分乗し、管理人さんに見送られ、信濃わらび山荘を後にした。
(つづく)