私はWパパのクルマに乗った。同乗者はKaz氏だけである。Wパパの娘さんであるAkiちゃん、Hanaちゃん姉妹は、なぜかW氏のクルマに乗った。この3人は仲がいいのだ。
信濃わらび山荘を出たが、遠足と同じく、自宅へ帰るまでが将棋合宿である。よってまだ合宿は続いているのだ。
私たちは小諸市にある「丸山珈琲・小諸店」に向かう。軽井沢本店のオーナーが中井広恵女流六段と懇意だからで、当初はそちらへ向かう予定だった。ところがこの日はオーナーが東京に出張で、本店は休み。そこで小諸店に赴くことにしたのである。
途中、小諸へ向かう道を間違えたらしい。Uターンするとき、前を運転していた中井女流六段がチラッと見えたが、そのハンドル捌きはカッコよかった。
国道18号線沿い、鉄道でいえば「しなの鉄道・平原駅」の近くに「丸山珈琲・小諸店」はあった。
小諸市といえば、蕎麦である。小諸駅近くには懐古園や寅さん会館などがあるので、一人旅だったら、この珈琲店に寄ることはなかった。そう思えば、こんなコーヒーブレイクもいいものだ。
丸山珈琲は全面ガラス張り。焙煎工場も兼ねていて、クルマを降りたときから、コーヒーの香りが漂っていた。店内は広いが、焙煎工場がスペースを取っていて客席は意外に少なく、ほぼ満席だ。何しろ私たちは総勢19人である。客観的に見れば、この団体は迷惑だろう。
工場案内係氏がいらっしゃり、工場内を案内してくれる。ちょっとした社会科見学となる。
工場側のドアを開けると巨大な焙煎機があり、係氏の説明によると、焙煎時に出る煙を消す特殊な機能が付いているそうで、日本(世界だったか)でも珍しいものらしい。焙煎後の味見をする専門家もいて、育成もしているとのこと。そんな説明を拝聴していると、北海道・余市のニッカウヰスキー工場で、無料の工場見学に参加したことを思い出す。
10数分の案内が終わるが、席はまだ空かない。そこで私たちは持ち帰り用のコーヒーをいただいて、フロアで立ち飲みした。私は味の違いは分からないが、善し悪しは判断できる。
今年1月、LPSA1dayトーナメントを観戦するため大阪を訪れたが、その帰り、JR大阪環状線・野田駅近くの喫茶店で、1杯1,000円もする「パナマSHBゲイシャ・エスメラルダ2009」を口にしている。今回嗜んだコーヒーは香りも高く濃厚な味で、エスメラルダに勝るとも劣らない美味だった。
中井女流六段をはじめ、何人かの会員もここのコーヒーを購入していたが、その気持ちはよく分かった。
ポツポツ雨の降る中、私たちはクルマへ戻る。時刻は午後4時を過ぎた。ここからは上里PAまでノンストップだ。
高速道路に再び入る。雨が降ったり止んだりして、ドライバーは大変だろうと思う。行きのHonカーでは、私たちがおしゃべりをするのが運転の邪魔にならないかと危惧したが、Hon氏は
「そのほうが気が紛れていいです」
と言った。
Wパパ氏はどうか知らぬが、やはり私はしゃべる。しかし「ここだけの話」の連発で、ここにはその内容を書けない。
5時少し過ぎ、上里PAに到着した。Honカーがやや遅れていることもあり、私たちは土産物などを物色する。下仁田ネギが売られている。ここは群馬県なのだ。
今回は旅行ではないし、お土産を買うつもりはなかったのだが、お酢の健康ドリンクがあったので、それを買うことにする。
手に持ってふらふらしていると、Kun氏がニヤッと笑う。Is氏もニヤッと笑う。船戸陽子女流二段へプレゼントするとは宣言していなかったはずだが、バレバレのようだ。
Honカーがかなり遅れて到着した。途中のPAで一休みしていたらしい。カレコレ晩ご飯の時間なので、私たちはここの大食堂で夕食を摂ることにした。
食堂を出ると、前日の朝に乗ったクルマに乗り換える。私は中井カーに復帰だ。私が早々とクルマに乗り、「ピー」「ピー」とアブナイ話をしていると、
「いまからこれじゃ…もうカンベンしてくださいよ」
と、植山悦行七段がクルマの外で苦笑した。そのあとしばらくおしゃべりをしていると、大野八一雄七段が
「このふたりはじゃれあってるんだよ」
と笑う。そして「大沢さん、もうケータイ買いなよ」
と言った。まあケータイを持てば便利なのだろうが、棋友からどうでもいいメールが来ても困る。また、お気に入りの女流棋士のメールアドレスなんか知った日には、私の粘着的な性格からして、メール攻勢をかける危惧もある。やはり私は、ケータイを持たないほうがいいのだ。
雨の中、中井カーら4台がスタート。本当に中井女流六段にはお世話になりっ放しだ。助手席の植山七段は、微動だにしない。席にすわった瞬間から、深い眠りについていたのだ。横に美人女流棋士がいるというのに、もったいない。
私たち4人は、中井女流六段と談笑しながら快走する。話が途切れて沈黙の時間が流れると、
「竜王戦は2局終わりましたね」
と中井女流六段のほうから水を向けてくれ、その配慮に恐縮した。
高速道路を降りた。このままJR川口駅へ直行と思いきや、私とKaz氏は、JR蕨駅近くで降りることになった。
Kaz氏がケータイで連絡を取ったかどうか知らぬが、Honカーがこのまま帰り難いらしく、蕨駅近くの「サイゼリヤ」で将棋談議をすることになったらしい。それにKaz氏も参加することになり、勝手にどうぞと他人事のように考えていたら、Kaz氏から
「大沢さんも来てくださいよ」
「大沢さんが来なかったら、私が行く意味がありませんよ」
と気持ちのわるい誘われ方をされ、私もサイゼリアにご一緒することになったのだった。
きのうの朝の時点では、帰りのお茶もアリかなと考えてはいたが、きょうの午前3時半まで将棋を指していたのである。しかもその相手はKaz氏である。私は早く帰宅して体を休めたかったが、彼らにそういった考えはないのだろうか。まあしかし、彼らの将棋好きも相当なものだと思った。
Kaz氏と私は中井女流六段に厚く御礼を述べ、サイゼリヤ蕨店の前で降りた。もうすっかり雨は止んでいた。
先に店に入り、座席を確保する。明日は仕事だというのに、何をやってるのだろう。
しばらくして、R氏、Y氏、Iz氏がやってきた。ドライバーのHon氏は、Tat氏を川口駅まで送りに行ったという。Tat氏、昨夜はさして将棋を指さずに酒をしこたま飲んでいたが、ここにきてダウンしたようだ。
やがてHon氏も入店し、総勢6名で将棋談議に花を咲かせた。私も最後の力を振り絞って、会話に加わる。
Y氏の「☖8九金」の話になる。Y氏が
「ボクは日本で最も弱い三段です」
と自虐的に言うから、
「大丈夫だよY氏。Y氏は最も弱い三段じゃなくて、ただの二段だから」
と慰めたら、Iz氏が
(信じられん、この人…)
と、私を冷めた目で見た気がした。
サイゼリアには2時間ほどいた。店を出たのは9時半を過ぎていたと思う。Hon氏に蕨駅前まで送っていただき、私たち4人は蒲田方面行きの京浜東北線に乗った。
座席がかなり空いていたので、4人で並んで座る。長い長い2日間の将棋合宿が、ようやく終わろうとしている。私の最寄駅まで、あと数駅だ。私はボンヤリと、窓に映る夜景を見ていた。
(了)
信濃わらび山荘を出たが、遠足と同じく、自宅へ帰るまでが将棋合宿である。よってまだ合宿は続いているのだ。
私たちは小諸市にある「丸山珈琲・小諸店」に向かう。軽井沢本店のオーナーが中井広恵女流六段と懇意だからで、当初はそちらへ向かう予定だった。ところがこの日はオーナーが東京に出張で、本店は休み。そこで小諸店に赴くことにしたのである。
途中、小諸へ向かう道を間違えたらしい。Uターンするとき、前を運転していた中井女流六段がチラッと見えたが、そのハンドル捌きはカッコよかった。
国道18号線沿い、鉄道でいえば「しなの鉄道・平原駅」の近くに「丸山珈琲・小諸店」はあった。
小諸市といえば、蕎麦である。小諸駅近くには懐古園や寅さん会館などがあるので、一人旅だったら、この珈琲店に寄ることはなかった。そう思えば、こんなコーヒーブレイクもいいものだ。
丸山珈琲は全面ガラス張り。焙煎工場も兼ねていて、クルマを降りたときから、コーヒーの香りが漂っていた。店内は広いが、焙煎工場がスペースを取っていて客席は意外に少なく、ほぼ満席だ。何しろ私たちは総勢19人である。客観的に見れば、この団体は迷惑だろう。
工場案内係氏がいらっしゃり、工場内を案内してくれる。ちょっとした社会科見学となる。
工場側のドアを開けると巨大な焙煎機があり、係氏の説明によると、焙煎時に出る煙を消す特殊な機能が付いているそうで、日本(世界だったか)でも珍しいものらしい。焙煎後の味見をする専門家もいて、育成もしているとのこと。そんな説明を拝聴していると、北海道・余市のニッカウヰスキー工場で、無料の工場見学に参加したことを思い出す。
10数分の案内が終わるが、席はまだ空かない。そこで私たちは持ち帰り用のコーヒーをいただいて、フロアで立ち飲みした。私は味の違いは分からないが、善し悪しは判断できる。
今年1月、LPSA1dayトーナメントを観戦するため大阪を訪れたが、その帰り、JR大阪環状線・野田駅近くの喫茶店で、1杯1,000円もする「パナマSHBゲイシャ・エスメラルダ2009」を口にしている。今回嗜んだコーヒーは香りも高く濃厚な味で、エスメラルダに勝るとも劣らない美味だった。
中井女流六段をはじめ、何人かの会員もここのコーヒーを購入していたが、その気持ちはよく分かった。
ポツポツ雨の降る中、私たちはクルマへ戻る。時刻は午後4時を過ぎた。ここからは上里PAまでノンストップだ。
高速道路に再び入る。雨が降ったり止んだりして、ドライバーは大変だろうと思う。行きのHonカーでは、私たちがおしゃべりをするのが運転の邪魔にならないかと危惧したが、Hon氏は
「そのほうが気が紛れていいです」
と言った。
Wパパ氏はどうか知らぬが、やはり私はしゃべる。しかし「ここだけの話」の連発で、ここにはその内容を書けない。
5時少し過ぎ、上里PAに到着した。Honカーがやや遅れていることもあり、私たちは土産物などを物色する。下仁田ネギが売られている。ここは群馬県なのだ。
今回は旅行ではないし、お土産を買うつもりはなかったのだが、お酢の健康ドリンクがあったので、それを買うことにする。
手に持ってふらふらしていると、Kun氏がニヤッと笑う。Is氏もニヤッと笑う。船戸陽子女流二段へプレゼントするとは宣言していなかったはずだが、バレバレのようだ。
Honカーがかなり遅れて到着した。途中のPAで一休みしていたらしい。カレコレ晩ご飯の時間なので、私たちはここの大食堂で夕食を摂ることにした。
食堂を出ると、前日の朝に乗ったクルマに乗り換える。私は中井カーに復帰だ。私が早々とクルマに乗り、「ピー」「ピー」とアブナイ話をしていると、
「いまからこれじゃ…もうカンベンしてくださいよ」
と、植山悦行七段がクルマの外で苦笑した。そのあとしばらくおしゃべりをしていると、大野八一雄七段が
「このふたりはじゃれあってるんだよ」
と笑う。そして「大沢さん、もうケータイ買いなよ」
と言った。まあケータイを持てば便利なのだろうが、棋友からどうでもいいメールが来ても困る。また、お気に入りの女流棋士のメールアドレスなんか知った日には、私の粘着的な性格からして、メール攻勢をかける危惧もある。やはり私は、ケータイを持たないほうがいいのだ。
雨の中、中井カーら4台がスタート。本当に中井女流六段にはお世話になりっ放しだ。助手席の植山七段は、微動だにしない。席にすわった瞬間から、深い眠りについていたのだ。横に美人女流棋士がいるというのに、もったいない。
私たち4人は、中井女流六段と談笑しながら快走する。話が途切れて沈黙の時間が流れると、
「竜王戦は2局終わりましたね」
と中井女流六段のほうから水を向けてくれ、その配慮に恐縮した。
高速道路を降りた。このままJR川口駅へ直行と思いきや、私とKaz氏は、JR蕨駅近くで降りることになった。
Kaz氏がケータイで連絡を取ったかどうか知らぬが、Honカーがこのまま帰り難いらしく、蕨駅近くの「サイゼリヤ」で将棋談議をすることになったらしい。それにKaz氏も参加することになり、勝手にどうぞと他人事のように考えていたら、Kaz氏から
「大沢さんも来てくださいよ」
「大沢さんが来なかったら、私が行く意味がありませんよ」
と気持ちのわるい誘われ方をされ、私もサイゼリアにご一緒することになったのだった。
きのうの朝の時点では、帰りのお茶もアリかなと考えてはいたが、きょうの午前3時半まで将棋を指していたのである。しかもその相手はKaz氏である。私は早く帰宅して体を休めたかったが、彼らにそういった考えはないのだろうか。まあしかし、彼らの将棋好きも相当なものだと思った。
Kaz氏と私は中井女流六段に厚く御礼を述べ、サイゼリヤ蕨店の前で降りた。もうすっかり雨は止んでいた。
先に店に入り、座席を確保する。明日は仕事だというのに、何をやってるのだろう。
しばらくして、R氏、Y氏、Iz氏がやってきた。ドライバーのHon氏は、Tat氏を川口駅まで送りに行ったという。Tat氏、昨夜はさして将棋を指さずに酒をしこたま飲んでいたが、ここにきてダウンしたようだ。
やがてHon氏も入店し、総勢6名で将棋談議に花を咲かせた。私も最後の力を振り絞って、会話に加わる。
Y氏の「☖8九金」の話になる。Y氏が
「ボクは日本で最も弱い三段です」
と自虐的に言うから、
「大丈夫だよY氏。Y氏は最も弱い三段じゃなくて、ただの二段だから」
と慰めたら、Iz氏が
(信じられん、この人…)
と、私を冷めた目で見た気がした。
サイゼリアには2時間ほどいた。店を出たのは9時半を過ぎていたと思う。Hon氏に蕨駅前まで送っていただき、私たち4人は蒲田方面行きの京浜東北線に乗った。
座席がかなり空いていたので、4人で並んで座る。長い長い2日間の将棋合宿が、ようやく終わろうとしている。私の最寄駅まで、あと数駅だ。私はボンヤリと、窓に映る夜景を見ていた。
(了)