和田あき女流初段との指導対局が早く終わってしまったため、私は川口駅ちかくの喫茶店で時間をつぶすことにした。
と、川口駅でTod氏とTaga氏にバッタリ。彼らも4時からの指導対局に臨むのだが、いままで喫茶店で時間をつぶしていたという。とはいえ今から教室に向かっても、まだ時間があるのではないか?
私は彼らと別れ喫茶店に向かったが、人が多くて入れない。辺りでしばらく時間をつぶしてから入店した。
週末は職探しをしなくていいので、いくぶん気持ちがやわらぐ。これから女流棋士との将棋を控え、意外に至福の時間であった。
3時55分に教室に戻ると、中村真梨花女流三段と和田女流初段が客と談笑中だった。これが指導対局のもうひとつの楽しみである。私は口ベタなので、会話には加わらなかった。
そろそろ対局の準備に入る。私は中村女流三段とだ。中村女流三段は中堅の実力者で、もっとタイトル戦に登場してもいい。私たちの周りでも彼女の評価は高い。
本局も4面指しである。私の左はさっきの四枚落ちの男性、その左はHon氏で飛車落ちだ。私の手合いはどうしようか。
「先生、香を落としてもらいたい気もするんですけど、平手でよろしいでしょうか。先生も平手を指したいでしょ」
「ハハ、ありがとうございます」
というわけで、平手戦である。
右はTod氏で、飛車落ちを所望した。私が彼を見ると、
「いや、ヤバイかなァ。実は私、隣の大沢さんに二枚落ちで教わってるんです」
手合いの整合性がないが、指導対局は上手が緩めてくれるので、それでいいと思う。
初手からの指し手。▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△3二銀▲5六歩△4二飛▲6八玉△6二玉▲7八玉△7二銀▲5八金右△5二金左▲3六歩△3三角▲2五歩△7一玉▲6八銀△8二玉
▲9六歩△9四歩(第1図)
中村女流三段は涼やかな白のワンピースで、昭和のアイドルの香りがした。
私の居飛車明示に中村女流三段は角道を止める四間飛車。将棋も昭和の指し方で来てくれたので、私も力を発揮できそうな気がした。
14手目△7二銀で考えどころ。穴熊党なら▲5七銀か。でもまあ私は▲5八金右である。
次の△5二金左でも分岐点で、急戦か持久戦か舵取りをしなければならない。玉頭位取りや左美濃にも食指が動いたが、精神的にも体力的にも長期戦は無理なので、▲3六歩とした。

第1図以下の指し手。▲5七銀左△4三銀▲6八金直△1二香▲1六歩△1四歩▲3七銀△5四歩▲4六歩△6四歩▲2六銀△3二飛(第2図)
▲5七銀左で急戦確定。△4三銀にも居飛車は候補がいっぱいある。この取捨選択が居飛車の醍醐味である。20年前の私なら▲4六歩か。本局は様子見の意味で、▲6八金直とする。
△1四歩には、棒銀の▲3七銀とした。最近の棒銀局はことごとく失敗しているが、これは棒銀が悪いのではなく、私の指し方が悪いから。もう一度プロ相手に試してみようと思った。
第2図で攻撃態勢完了。後は仕掛けるのみである。

第2図以下の指し手。▲2四歩△同歩▲1五歩△同歩▲3五歩△1六歩▲3四歩△同銀▲3八飛△4五歩▲3三角成△同飛▲8八角△3五歩(第3図)
▲2四歩~▲3五歩が5手一組の仕掛け。加藤流なら▲9八香を入れなければならないが、その余裕がなかった。
本手順は以前大野八一雄七段から「十分成立する」とお墨付きをもらったので、自信満々で指した。
対して△1六歩は意外。確かに下手にとって嫌味ではあるのだが、△1七歩成以下は間に合わない、と経験上の結論を出していた。
▲3四歩△同銀に▲3八飛。上手の応手が注目されるが、中村女流三段はさして考えることなく△4五歩。さっきから上手は文字通りノータイム指し。上手は素人相手に考えるまでもないのだろうが、下手がこのペースに巻き込まれるとやられる。手拍子に指すのは厳に慎むことだ。
私は角を換えて▲8八角。△3五歩にはどう指すか。

第3図以下の指し手。▲2二歩△4三飛▲3五銀△同銀▲同飛△4六歩(第4図)
私は飛車を取りたいところを堪え、▲2二歩と打った。これなら次の▲2一歩成が飛車取りになる仕掛けだ。
△4三飛には▲2一歩成もあるが、▲3五銀と棒銀を捌く方を優先した。これなら負けても満足である。
△4六歩の取り込みに次の一手は。

(つづく)
と、川口駅でTod氏とTaga氏にバッタリ。彼らも4時からの指導対局に臨むのだが、いままで喫茶店で時間をつぶしていたという。とはいえ今から教室に向かっても、まだ時間があるのではないか?
私は彼らと別れ喫茶店に向かったが、人が多くて入れない。辺りでしばらく時間をつぶしてから入店した。
週末は職探しをしなくていいので、いくぶん気持ちがやわらぐ。これから女流棋士との将棋を控え、意外に至福の時間であった。
3時55分に教室に戻ると、中村真梨花女流三段と和田女流初段が客と談笑中だった。これが指導対局のもうひとつの楽しみである。私は口ベタなので、会話には加わらなかった。
そろそろ対局の準備に入る。私は中村女流三段とだ。中村女流三段は中堅の実力者で、もっとタイトル戦に登場してもいい。私たちの周りでも彼女の評価は高い。
本局も4面指しである。私の左はさっきの四枚落ちの男性、その左はHon氏で飛車落ちだ。私の手合いはどうしようか。
「先生、香を落としてもらいたい気もするんですけど、平手でよろしいでしょうか。先生も平手を指したいでしょ」
「ハハ、ありがとうございます」
というわけで、平手戦である。
右はTod氏で、飛車落ちを所望した。私が彼を見ると、
「いや、ヤバイかなァ。実は私、隣の大沢さんに二枚落ちで教わってるんです」
手合いの整合性がないが、指導対局は上手が緩めてくれるので、それでいいと思う。
初手からの指し手。▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△3二銀▲5六歩△4二飛▲6八玉△6二玉▲7八玉△7二銀▲5八金右△5二金左▲3六歩△3三角▲2五歩△7一玉▲6八銀△8二玉
▲9六歩△9四歩(第1図)
中村女流三段は涼やかな白のワンピースで、昭和のアイドルの香りがした。
私の居飛車明示に中村女流三段は角道を止める四間飛車。将棋も昭和の指し方で来てくれたので、私も力を発揮できそうな気がした。
14手目△7二銀で考えどころ。穴熊党なら▲5七銀か。でもまあ私は▲5八金右である。
次の△5二金左でも分岐点で、急戦か持久戦か舵取りをしなければならない。玉頭位取りや左美濃にも食指が動いたが、精神的にも体力的にも長期戦は無理なので、▲3六歩とした。

第1図以下の指し手。▲5七銀左△4三銀▲6八金直△1二香▲1六歩△1四歩▲3七銀△5四歩▲4六歩△6四歩▲2六銀△3二飛(第2図)
▲5七銀左で急戦確定。△4三銀にも居飛車は候補がいっぱいある。この取捨選択が居飛車の醍醐味である。20年前の私なら▲4六歩か。本局は様子見の意味で、▲6八金直とする。
△1四歩には、棒銀の▲3七銀とした。最近の棒銀局はことごとく失敗しているが、これは棒銀が悪いのではなく、私の指し方が悪いから。もう一度プロ相手に試してみようと思った。
第2図で攻撃態勢完了。後は仕掛けるのみである。

第2図以下の指し手。▲2四歩△同歩▲1五歩△同歩▲3五歩△1六歩▲3四歩△同銀▲3八飛△4五歩▲3三角成△同飛▲8八角△3五歩(第3図)
▲2四歩~▲3五歩が5手一組の仕掛け。加藤流なら▲9八香を入れなければならないが、その余裕がなかった。
本手順は以前大野八一雄七段から「十分成立する」とお墨付きをもらったので、自信満々で指した。
対して△1六歩は意外。確かに下手にとって嫌味ではあるのだが、△1七歩成以下は間に合わない、と経験上の結論を出していた。
▲3四歩△同銀に▲3八飛。上手の応手が注目されるが、中村女流三段はさして考えることなく△4五歩。さっきから上手は文字通りノータイム指し。上手は素人相手に考えるまでもないのだろうが、下手がこのペースに巻き込まれるとやられる。手拍子に指すのは厳に慎むことだ。
私は角を換えて▲8八角。△3五歩にはどう指すか。

第3図以下の指し手。▲2二歩△4三飛▲3五銀△同銀▲同飛△4六歩(第4図)
私は飛車を取りたいところを堪え、▲2二歩と打った。これなら次の▲2一歩成が飛車取りになる仕掛けだ。
△4三飛には▲2一歩成もあるが、▲3五銀と棒銀を捌く方を優先した。これなら負けても満足である。
△4六歩の取り込みに次の一手は。

(つづく)