一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

ふたりのジョナ研

2011-11-20 01:08:19 | ジョナ研
11日(金)はジョナ研があった。4日(金)~6日(日)と信濃わらび山荘将棋合宿があったので、翌週の開催はつらいと見ていたのだが案の定で、当日の参加予定は3人。W氏、Kun氏、私だった。
しかもきょうは朝から雨。3人ではちょっと少ないし、中止も考えたのだが、11日の開催は私が言いだしっぺなので、私から中止を言うわけにはいかない。
とりあえず午後5時に家を出る。駒込とは反対方向の東京駅へ向かう。この駅地下でAyakoさんへのお土産を買うのだ。合宿ではうっかりしたが、お土産なんて何でも構わない。これはAyakoさんへのアプローチツールでしかないからだ。東京駅では、フルーツのロールケーキを買った。
6時15分ごろ、駒込ジョナサン入り。Ayakoさんがいたので、「長野県に合宿に行ってきたので」と言ってロールケーキを渡した。
席に案内され、スマホを見る。W氏からメールが入っており、何と、きょうは欠席とのことだった。あー、そうなんだ。これでKun氏と私とのツーショットが確定した。これはLPSA金曜サロンや芝浦サロンのアフターも含めて、初のケースである。
呼び出しボタンを押すと、Ayakoさんが来た。ちょっとドキドキする。特別メニューを頼むと、数分経って、Ayakoさんがその料理を運んできた。
「合宿に行ってきたんですか」
彼女は下がらないで、そのまま私に聞く。
「はい、4日の金曜日から6日の日曜日まで、長野県に行ってきました」
「はああ」
「ナカイヒロエっていう女流棋士がいるんですけど―」
「あっ、この前この席に座っていらした方?」
「そう、そうです。その先生が蕨市の教育委員をしていて、蕨市の施設を利用するっていう意味もあって、そこで将棋合宿をしたわけなんです」
「そうなんですか」
「そこで私たちが将棋三昧…」
「あっ、お客様がいらっしゃいました」
「えっ?」
そこへKun氏が来た。チッ、いいところだったのに…。きょうに限って、いつもより来るのが早いんじゃないか?
「お邪魔しちゃったかな」
「いえいえ、お待ちしてました」
うまくいけばAyakoさんを飲み会に誘えるかと思ったのだが、なかなかうまくいかないものだ。
4人掛けのテーブルだから、Kun氏は私のナナメ前に座った。これは正着。正面に座られると照れてしまう。お見合いの席ではないのだ。
とはいえ、ふたりだけはやはり緊張する。世間の人は誤解しているかもしれないが、私は口ベタで、無口なのだ。大勢の人がいて、自分が話さないで済むなら、それに越したことはない。
ただKun氏が私に輪を掛けて無口なので、私がしゃべらざるを得なかった。
…と言いたいところだが、「サシ」になると、ヒトはお互い自分をさらけだす。実際Kun氏も、いつもよりはるかに饒舌だった。
Kun氏は自分なりのスタンス、考え方にスジが通っており、話していて勉強になることが多い。
今回も、私がしゃべっているとき、話の流れで、自分の意見とは別のことを述べてしまうときがあった。そんなときもKun氏は無機質に相槌を打つのではなく、「それはどうかなあ…」と、ちゃんと疑問を呈してくれた。
とにかく話している最中、あっ、Kun氏はこんなことを考えてたんだ、ということがいくつも窺えて、とても興味深かった。
このふたりだと話の題材が決まっていて、その内容をここには書きにくい。ただそれだけに、いつものジョナ研より、濃密な時間を過ごすことができた。
散会は10時。ふたりだけで3時間半話したのだから、これは予想以上の長期戦だったというべきだろう。
帰り際Kun氏に
「大沢さんとふたりで話すことができて楽しかった」
と言われた。できればAyakoさんに言われたいが、まあそれは冗談だが、これは私にとって、最高のホメ言葉であった。こちらこそKun氏に、心から感謝したい。
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第3回 信濃わらび山荘将棋合宿(第10譜)・うっかり一公

2011-11-19 02:06:11 | 将棋イベント
「いやいや中井先生のことは好きですよ。だけど私が中井先生にどうこう言ってるのはシャレですからシャレ! LikeであってLoveじゃありません」
私は慌て気味に弁解する。だいたい、中井広恵女流六段の横に植山悦行七段が座っているのに、
「ふたりの間に障害はありますが、私は本気です」
などと言えるわけがない。それにしてもHi氏、ずいぶん思い切ったことを聞くものだ。さすがの私も、驚いた。
行きにも寄ったパーキングエリアで一休み。ここでふらふらしていたら、もう出発の時間になったらしく、中井女流六段から私のスマホに電話があったようだ。しかしスマホは旅行カバンの中に入っていたので、出られなかった。せっかくのマドンナからの電話だったのに、惜しいことをした。
もっとも行きのときも、大野八一雄七段から私のスマホに電話があったのだが、このときは電源さえ入れていなかった。これではスマホを持っている意味がない。
そもそも、私はなぜスマホを買わされたのか。それはAyakoさんとメアド交換をするためではなかったのか? それが、Ayakoさんとの飲み会が潰れ、スマホを持つ意味がなくなった。これはやっぱり、Ayakoさんとの飲み会の席を作らなきゃダメなのだろうか。
ああ、Ayakoさんに会いてぇなあ…。
3台は高速道路を快調に走る。17時をすぎた。晩秋の日暮れは早い。辺りはすでに真っ暗だ。行きにも寄った、高坂サービスエリアに入る。ここで最後の晩餐となる。
建物の端にあるレストランに、15人で入る。レジでメニューをオーダーして、指定されたテーブルの席に、順繰りに座る。私の右には中井女流六段がいた。しかし6人掛けの席に8人が座っており、少し窮屈だ。と、店員さんが新たな席を提供してくれた。それでKun氏と私は移動したのだが、そのとき中井女流六段が(行っちゃうの?)という顔をした気がした。
私が座ったテーブルはゆったりした4人席。右にKun氏、向かいにHon氏、その横にMi氏が座った。類は友を呼ぶ。将棋愛が強いメンバーの中で、私たち4人は、比較的正常な将棋愛の持ち主である。
しかしHon氏が心なしか寂しげだ。もう合宿も終わってしまう。事情は痛いほど分かるが、なんだかんだ言っても立派な家庭を持っているのだから、幸せなことには違いない。
そのHon氏、私よりあとに料理が運ばれてきたのに、私より先に料理を平らげてしまった。いつも思うのだがHon氏、何かに急き立てられるようにして、食事を摂る。もう少しゆっくり味わえないものかと思う。
腹もくちて、みんなは土産物コーナーを物色する。私はこれといって買うものはないが、自宅用にお菓子を買った。しかし買わずもがなだ。
ここからは東京(埼玉)までノンストップだ。中井女流六段らとはここでお別れとなる。楽しかったね、また合宿やろうね、と言葉を交わして、私はHonカーに乗車した。

しかし話はまだ終わらない。ここからHonカーは、蕨駅近くのサイゼリヤに滑り込んだ。1年前に入ったのと同じところだ。ここで時間の許す限り、将棋談議をしようというハラである。今回の席の配置は以下である。

  Kun Hon R

 Y 一公 Fuj Kaz

まず話題に上ったのが、里見香奈倉敷藤花に清水市代女流六段が挑戦した、倉敷藤花戦第1局だ。きょう6日、島根県で行われ、清水女流六段が勝ったのだ。
これ、挑戦者決定戦で室谷由紀女流初段が勝っていたら、私は合宿を蹴って、島根県まで乗りこんでいたかもしれない。「私が勝手に選ぶ女流棋士ファンランキング」では、2位の中井女流六段より、室谷女流初段のほうが上。ファンランキングの1位ということは私にとって、そのくらい重い(想い)ものなのだ。
この将棋、里見倉敷藤花の捌きに、清水女流六段の「忍の角」が出たらしい。いまは棋譜をケータイで調べられるが、Hon氏は布盤と駒を出し始める。みんなで鑑賞しようということだ。本当に私たちは、どこまでバカなのだろう。
ところが駒を並べて、▲7六歩△8四歩、とやったときに店員が現れ、
「ゲームはご遠慮ください」
と注意されてしまった。
ドッチラケる私たち。しかしこれが、ふつうの対応なのだ。ファミレスは食事をするところ。遊技場ではないのだ。
しかしそれだけに、駒込ジョナサンはありがたいファミレスだとあらためて痛感した。夜6時に入って将棋盤を取り出し、12時近くまで、食事だけで6時間も粘る。
これ、一見客だったら、とうに叩き出されているところだ。
それがそうならないのは、旧金サロ時代、毎週駒込ジョナサンに顔を出していた、という実績があるからだが、それにしたって私たちは、駒込ジョナサンの好意に甘えすぎだと思う。まあ、ジョナ研はいまや旧金サロメンバーの憩いの場なので、たまにお邪魔したときは、せいぜい料理をオーダーしようと思う。
この1週間前に行われた社団戦の話になる。我がLPSA星組は、準優勝で見事3部昇級を果たした。私はまったく戦力にならなかったが、我が将棋人生で、大いに誇れる快挙だった。
ところで今回、星組の監督を務めたY氏と久しぶりに話をしたのだが、私の勝負観とは微妙に違うことが判明した。すなわち――。
この最終日の2戦目が、優勝を争う首位攻防戦だった。つまり本リーグの大一番である。この対局、Y監督はSa氏をスターティングメンバーから外したとのこと。Sa氏は星組の若手エースであり、勝率もよい。その彼を、なぜ外したのか分からない。
私は当日バックレたので、それをY監督に質すと、Sa氏を休ませるのはローテーションだから、と言った。監督によれば、当日の参加選手は満遍なく使うことを旨としており、選手間に2局以上の対局数の差が出ないようにしているらしい。よって、彼にも1回休んでもらったのだという。
その考え方も一理あるが、「Y方程式」をすべて当てはめるのは無理があると思う。優勝を争う大一番の場合、原則は無視し、実力者を上から並べて、ベストメンバーで臨むのがスジではないだろうか。
こんなY監督の下では、来期LPSAのゼッケンを付けて戦いたくないな、と思った。
――というカタイ話もあったが、全体的には、将棋のバカ話に終始した。
最後はHon氏に蕨駅前まで送っていただき、ここで本当の解散となった。
横浜方面の京浜東北線に乗り、Fuj氏とも別れて、一息つく。
ふーっ。シートに座って目をつむると、あんなこと、こんなことが、走馬灯のようによみがえる。今回もいろいろあったけど、楽しい3日間だった。また合宿をしたいな。
…ン? あれっ? ああっ? うああ、しまったあああーーーーっっっ!!
A、Ayakoさんに、お、お土産を買うのを忘れたあああああーーーーっっっ!!
なんだこれ、なんだこれ、なんで忘れっちゃったんだ、うああああーーーーっ!!

今回の合宿で、一番のうっかり者は、私だった。
(完)
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第3回 信濃わらび山荘将棋合宿(第9譜)・対局終わる

2011-11-18 00:06:16 | 将棋イベント
時刻は11時すぎ。これも恒例の、集合写真撮影タイムとなった。都合よく雨も止んだ。みんなで庭に出て、コテージへ上がる階段の前で整列する。中井広恵女流六段、植山悦行七段、大野八一雄七段、W氏、Kun氏、R氏、Hi氏、Hon氏、Is氏、Y氏、Kub氏、Kaz氏、Fuj氏、Mi氏、私の15人だ。めいめいが手持ちのカメラで、写真を撮った。
今年の夏、沖縄・鳩間島に行ったとき、宿泊客の中にプロのカメラマンがおり、そのとき記念撮影の極意を学ばせていただいた。それは、みんなが整列したところを撮るのではなく、各自があっちこっちにパラパラッと位置したところを、おもむろに撮るというものだった。これは実際に撮ってみれば分かるが、けっこう味のある写真になる。ただ今回は、私がシャッターを押すチャンスがなく、ちょっと残念だった。
そう、かくいう私は、カメラ不携行。レースクイーンならいくらでも撮るが、将棋仲間を撮る気はしない。これは女流棋士とのツーショット写真も同様である。まあこの場合は畏れ多いからだが、例えば中倉宏美女流二段とはいくらでもそのチャンスがあったのに、いまだに撮ったことはない。うかつに撮って、あとでつらくなる場合もあるから、それでいいと思う。
もうチェックアウトしてもいいのだが、まだ食堂を借りられるので、私たちはそのまま将棋を指す。まあ、当然であろう。ただ、蕨市役所将棋部OB4氏はここでチェックアウトとなった。来年の再会を楽しみに待ちたい。
再び食堂に戻り、私はIs氏と再戦。私のひねり飛車。▲7八金・▲7九銀型から▲6五歩と仕掛けたのが、これはちょっと早かった。しかしその後、左銀を6五にぶつけることができて、好転を感じた。
以下もむずかしいところはあったが、何とか勝ち。Is氏は相掛かりの将棋を勉強したかったらしいが、それは私が不勉強だ。
続けてY氏と。Y氏とは平手の手合割なのだが、いつも私が香や角を引いたりしている。前夜は角を引いて負けたので、本局は香落ちである。
しかし本局も端から攻め込まれて苦戦に陥った。▲3二とに△1一飛と回る。▲1二歩に私は飛車を見捨てて中央で攻め合ったが、これは短兵急だった。たちまち攻めが切れ、無念の投了。社団戦の監督も務めるY氏、さすがにしっかりした将棋を指す。
続いてMi氏と初対局。私の三間飛車にMi氏は▲5七銀左から▲4五歩。小気味いい仕掛けだ。私の応接がマズかったのかMi氏の指し手がうまかったのか、恐らく両方だろうが、これも私が苦戦に陥った。
終盤、Mi氏が桂損覚悟で攻めてきたが、これが存外厳しかった。いよいよ受けがなくなった私は、王手ラッシュをかける。
△8四桂にMi氏は▲8七玉だが、これが敗着となった。私は5八の馬を△6九馬と入って、先手玉が詰んでしまった。▲8七玉では▲7七玉と真っ直ぐ引かれたら、詰まなかった。
とはいえ、内容的には完敗だった。▲5七銀左から▲4五歩の仕掛けはシンプルだが、優秀である。
時刻は13時近くになった。さすがに実戦は終了である。
ここから表彰式。前回はリーグ戦があり、その結果を見て「最多対局賞」「最多勝利賞」「殊勲賞」などを表彰したが、今回はそうしたものはなし。これは、と思う成績優秀者を周りが推し、Kaz氏、Fuj氏ら4人が表彰された。
参考までに私は31局指して、自由対局13勝5敗、指導対局0勝6敗、ペア将棋1勝3敗、10秒将棋3勝0敗、という成績だった。
行きと同じ3台のクルマに分乗して、「信濃わらび山荘」とはお別れ。また来年もここに来られればうれしい。そのとき私は、どんな心境にいるだろう。いまより幸せになっているだろうか。
帰りの立ち寄り先は決めていなかったが、中井女流六段は蕎麦を食べたかったらしい。JR最高地点・小海線野辺山駅近くにある蕎麦屋で、遅い昼食となった。
いらっしゃいませ、と言った女性店員さんが安食総子(ふさこ)女流初段の声にそっくり。顔立ちは、安食女流初段と中村桃子女流1級を足して2で割ったような感じだった。彼女のようなコが駒込ジョナサンにいればと思う。Ayakoさん、これは冗談である。
山荘の管理人さんオススメの店だったらしいが、さすがに、出された蕎麦は美味だった。値段のほうも、観光地にありがちな、味と値段が反比例していることもない、妥当なものだった。
なお、ダイエットだダイエットだと騒いでいながら、中井女流六段はデザートにケーキを食していたことを付記しておく。
ここからは、もう帰るのみである。しかしクルマの中の雑談もおもしろく、まだまだお楽しみはある。
中井カーに、中井女流六段、植山七段、大野七段、Hi氏、Kub氏、私と乗る。
中井女流六段の運転は確かである。それでいて快調に飛ばす。ちなみに私も仕事で運転はするが、プライベートで運転したことは一度もない。
「大沢さん」
ナナメ後ろに座っているHi氏が言う。「前から聞こうと思ってたんだけど、大沢さんは、中井先生のことをどう思ってんの? ほら現実問題として、中井先生は、もう結婚しているわけだよね。だから大沢さんが、これから中井先生をどうしたいのかと思って…」
Hi氏にマジメな顔で訊かれて、私は面喰らった。
(つづく)
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第3回 信濃わらび山荘将棋合宿(第8譜)・第2回信濃わらび杯最恐戦・植山悦行七段VS大野八一雄七段

2011-11-17 00:21:43 | 将棋イベント
平成23年11月6日
長野県南佐久郡川上村「信濃わらび山荘」
第2回最恐戦
先手:七段 植山悦行 
後手:七段 大野八一雄

▲7六歩△3四歩→△8四歩▲5六歩△8五歩▲7七角△5四歩▲2六歩△3四歩▲6八銀△4四歩▲2五歩△3三角▲4八銀△5二金右▲5七銀右△4三金▲4六銀△6二銀▲7八金△5三銀▲6九玉△3二金▲3六歩△4五歩

植山、▲7六歩。大野は△3四歩。大盤解説の中井広恵女流六段が
「ふたりの対局だから矢倉になるでしょう」
と言った。
それを聞いた大野が△3四歩を戻し、△8四歩と指し直した。これは大野、ずいぶん堂々と「待った」をしたものだ。大野、中井女流六段の予想にそって、矢倉志向にしたのだ。
しかし植山が▲5六歩と突いたので△8五歩▲7七角と進み、矢倉の可能性も少なくなった。中井解説は、今度は振り飛車をにおわす。
ところが植山は▲2六歩。
「聞いてること全部外すなよ」
と大野が笑って言う。
▲2五歩。お互い飛車先の歩を2つ伸ばし、古風な序盤戦になった。
なおも続く中井女流六段の「怪説」に、
「困っちゃうな」
と植山がボヤいて、▲5七銀右。
「これは雁木もありますね」
と中井女流六段。と、場内がドッと沸いた。「雁木」「穴熊」「棒銀」は、私の前では禁句となっている。どうもおもしろくない。
続いて中井女流六段が、植山とのペア将棋の裏ばなしをする。ふたりは棋風が違うので、ペアを組んだときは、いろいろと苦労があったようだ。
「本局のふたりは受け90%だから、どうなることか…」
と言った。
植山、▲4六銀と出て、攻めてるじゃん、と再びボヤく。しかし△6二銀に、最初の長考に入った。序盤の作戦の岐路らしい。植山、チャッ、と▲7八金と上がった。
さらに植山、▲3六歩。
「いまは攻めてるけど、やがて受けに回ると思います」
と中井女流六段。
対して大野、決断の△4五歩。24手目にして、初めて駒がぶつかった。

▲5七銀引△2二銀▲5八金△7七角成▲同銀△3三銀▲7九玉△4一玉▲6六歩△3一玉▲8八玉△7四歩▲9六歩△1四歩▲1六歩△9四歩▲6七金右△2二玉▲4八飛

観戦のみんなは、ジュースを飲み、お菓子の袋を拡げ、寛ぎながら聞いている。日曜の午前に、棋士のナマ対局を女流棋士のナマ解説付きで鑑賞する。将棋ファンには堪えられない時間であろう。
△4五歩に▲同銀は、△2二角から△3三桂がある。さすがに取り切れず、▲5七銀引。これでは丸々の2手損だが、手損がそのまま形勢を損ねることにならないのが、将棋のむずかしいところ。むしろ△4五歩が争点になる可能性もあり、その場合、後手がこの位を守れるかどうかがカギとなる。
植山、▲5八金。ここで大野が長考に沈んだ。口元にハンカチを当ててこんこんと考える。残り時間は、植山20分、大野は15分を切った。
両者とも盤上を凝視している。指導対局のときにはない、戦う男の表情だ。将棋を指しているときのプレーヤーは、男女問わず魅力度100%UPとなる。
中井女流六段が、大野陣は菊水矢倉にする手もあるという。ところで菊水矢倉の由来は何か? 一同が首を傾げていると、R氏がケータイで調べた。
Wikipediaによると「菊水矢倉」は、昭和20年代に高島一岐代九段が考案し、氏の出身地の河内八尾の偉人・楠木正成の家紋「菊水」にちなんで命名したものだという。
ケータイがあれば、なんでもタチドコロに調べがつく。いまさらながら、恐ろしい世の中になったものである。
大野、先ほどからお腹をさすっている。失礼、と断って、本局2回目のトイレに行った。ふだんから体を鍛え、屈強の肉体美を誇る大野ではあるが、トイレが近いのが、唯一の弱点だ。
トイレから戻り、大野、△7七角成と角を換えた。
植山、長考で▲8八玉と入る。消費時間は逆転し、いまは植山のほうが少なくなっている。
9六→1四→1六→9四と、虚々実々の端歩の突き合い。中井女流六段、
「動きのない将棋ですねー」
とボヤく。きょうはみんなボヤいてばかりだ。
大野も△2二玉と入城する。3手目からは予想もつかなかったが、気がつけば堂々の相矢倉である。
しかし、お互い手を出しにくい形になった。うかつに動けば角打ちのスキを作ってしまう。下手をすれば千日手の懸念もある。まさかとは思うが、まったくないとはいえない。
「これは、次の最恐戦は、組み合わせを代えないとダメですねー」
と中井女流六段が嘆く。女流将棋だったら、もうとっくにケンカ(開戦)が始まっているだろう。
植山、▲4八飛と回る。これには△2七角が目につく。歩得と馬が無条件で約束されるが、植山、大丈夫なのだろうか?

△4四銀右▲6五歩△2七角▲4一角△3六角成▲6三角成△2五馬▲6四馬△9二飛▲7四馬△3五歩▲6四歩△3六歩▲4六歩△2六馬▲4五歩△3五銀▲2八飛△5九馬▲6八銀右△4九馬▲6三歩成△3四金

大野、長考で△4四銀右▲6五歩の交換を入れ、△2七角。打てと言われて打てないようでは、男ではない、というところか。しかしここは△7三角だった、という大野の感想があった。以下▲1八飛に、△2四歩と逆襲する。これもあったかもしれない。
植山は▲4一角。これが△2七角に対する答えだった。もし△6二飛なら、▲3二角成△同玉に▲3七金がある。以下△5九角▲2七金△4八角成▲同銀は、大野の駒損がひどく指し切れない。
大野、長考に入る。ここで再び消費時間が逆転した。△6二飛は不利と見て、△3六角成。植山も▲6三角成とし、均衡を保つ。お互い金銀四枚に固め、馬を作る。個人的には「金銀四枚」とか「馬」という単語にもつらいイメージがあるのだが、それはともかく、いかにも両者らしい戦いとなった。
ここで大野の持ち時間が切れた。私がそれを告げると大野は、ハイハイ、と言った。△2五馬と歩を取って、ひとつ引く。ここからはしばらく、歩と馬しか動かない地味な展開となった。
55手目を考慮中、植山も持ち時間が切れた。
Hon氏が、
「外は晴れなのに、雨が降ってますね」
と言う。今回の合宿では植山、一公の雨男が参加したが、晴れ男も何名か参加したようだ。盤外でも、お互いの意地が激突していた。
63手目、▲6八銀右。四枚矢倉をさらに固めた。この矢倉に名前はないと思ったが、「市松矢倉」という命名はどうだろうか。
大野、△3四金。植山の金銀が四角く固まったのに対し、大野のそれは棒になった。しかし今度は持将棋の気配も漂ってきた。この将棋、決着がつくのだろうか。

▲5五歩△3九馬▲2七飛△4二飛▲5三と△4五飛▲2四歩△同歩▲4三歩△4一歩▲同馬△3八馬▲5七飛△2九馬▲4二歩成△同銀▲同と△同飛▲同馬△同金▲5四歩△5二歩▲5三歩成△同歩▲5四歩 まで、91手で植山七段の勝ち。

植山、味よく▲5五歩。これに相手はできないので、大野、△3九馬と寄る。大野は馬を働かさないことには、話にならない。しかし飛車馬交換もしたくないところで、このあたりは大野、もどかしい指し手だったと思われる。
植山、6三に作ったと金を5三に寄せる。俗に、「5三のと金に負けはなし」という。将棋の格言を全部覚えれば、それだけでアマ初段の棋力はあるという。
大野、予定どおり飛車を4五に出るが、苦しい形勢だ。
植山、▲4三歩。70手を過ぎて、ここまで両者の駒台には、角と歩しか載っていない。したがって地味な攻めにならざるを得ないが、元手がかかってないぶん、こうした攻めは受けが利かないのだ。
大野、秒読みに追われて△4一歩。本局で唯一、大野が慌てた瞬間だった。しかしこれは▲同馬でタダ。これで大勢決した。
4二の地点で駒を清算して、▲5四歩。ここ、▲4九飛の馬金両取りが目に付くが、それはウソ手ということだろう。本譜はあくまでも、歩による攻めを貫いた。
大野のやむない△5二歩に、▲5三歩成と捨て、再び▲5四歩。ここで大野が投了。対局のふたりに、惜しみない拍手が送られた。
引き続き、両者には大盤の前に出てきていただき、公開感想戦となった。
まず大野は、棋士人生で初めて「待った」をしたことを明かしてくれた。待ったをしてでも、中井女流六段の矢倉の予想に従いたかったという。その気持ちは痛いほど分かる。だって中井女流六段は…。
ここから本格的な感想戦に入る。一見なにげない手にも意味があり、ふたりの解説を拝聴していると、本当に勉強になる。
そしていちばんのポイントは、43手目の▲4八飛に、大野が△2七角を打つかどうかにあった。しかし前述のとおりこれは疑問、というか敗着に近い手で、角を打つなら△7三角。動かないなら、△4二金寄や△3一玉と引いて待つところだったという。しかしみんなの見ている前で、この手は指せなかった、と大野は言った。
また、このようなまったりした展開では、戦いが起こったときにはハッキリと優劣が決まる場合が多いのだという。それだけに、序中盤はもっと考えたかった、と植山は言った。これは、持ち時間を1時間に設定すべきだったかもしれない。次回の課題としたい。
感想戦も終わり、植山には賞金が手渡された。前回のそれはむきだしだったが、今回はのし袋に入れてあった。植山七段、おめでとうございます。
いまやこの最恐戦は、本合宿の目玉となっている。次回はどんなカードになるのだろう。いまから楽しみである。
最後に、今回も名局をつむいでくれた両対局者には、あらためて感謝を述べたい。また、硬軟織り交ぜて楽しい解説をしてくれた中井女流六段にも、同様に感謝の意を示して、結びとする。

(つづく)
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第3回 信濃わらび山荘将棋合宿(第7譜)・中井広恵女流六段との朝食

2011-11-16 00:12:09 | 将棋イベント
時刻は午前2時を過ぎた。続いてHi氏と対局。Hi氏もスタミナがある。さっきはR氏と10秒将棋を2局指し、引き続き3局目を指そうとしたところ、R氏に「もう勘弁してください」と逃げられた。R氏の将棋好きも相当だが、そのR氏にギブアップ宣言をさせたのだからすごい。
私の先手で▲7六歩△3二飛。Fuj氏はこの△3二飛戦法がイヤで、初手に▲7六歩と突けなくなったというが、本気で言っているのだろうか。こんなもん、ふつうに応対すれば何でもない。
とはいえ本局、私もアツくなって3筋から逆襲する。▲3五歩~▲3六金~▲4五歩~▲4六銀と位を張って十分と思いきや、Hi氏に△5二飛と転戦され、次△5五銀からの決戦が受からない。こうなると、▲3六金がソッポだ。なんてことだ…。クサッた私はここで投了した。
Hi氏は、それはないだろう、という顔で苦笑したが、「相手に気持ちのいい手は指させない」は、私のポリシーである。
まだ眠る気にはなれず、R氏と10秒将棋。これは私が幸いした。
続いてY氏とも10秒将棋。大苦戦になったが何とか相手玉に喰らいつき、最後は私の玉がギリギリ詰まず、私の勝ち。
まだまだ眠る気にはなれず、Y氏ともう一局。周りを見ると、Hi氏が就寝し、R氏とKaz氏を残すのみとなった。
Y氏の振り飛車にまたも大苦戦となったが、10秒将棋はこちらの土俵である。やっぱりじりじりと晩回し、▲4七角の王手竜取り。ここで形勢が逆転したようだ。以下数手進んで、▲6一竜▲8四飛 持駒:金、△6三銀△7二銀△7三桂△9一香△9二玉△9三銀△9四歩 の局面で、▲7二竜△同銀▲8一銀まで、私の勝ち。以下は△8一同銀▲8三金まで。
時刻は3時を過ぎた。朝食まで4時間あまりあるが、ここいらで寝るのがスジであろう。私たちは名残惜しく、各部屋に消えた。きょうは結局、18局指した。

明けて6日(日)朝。楽しかった合宿も、いよいよ最終日である。
きょうは前日より眠った気がした。明け方ウトウトしたが、夢の中で未明に指した将棋を考えていた。対Kaz戦の最終盤、Kaz氏の▲8八歩に私は△7八角と打ったが、ここは△6九角と打つべきだった。それなら同じ手順で進んだとき、最後の△6七角成に換えて、△7八金で先手玉を詰ますことができる。
問題は△6九角のとき、後手玉が飛、角、金で詰むかどうかだが、わずかに詰まないと思う。
では▲8八歩が疑問か。これに換えて▲7九金の受けはないか、と後日考えたが、これも同様に△6九角があり、以下▲6八飛△8八金▲同飛△同歩成▲同銀△8七歩で、やはり私の勝ちは動かないようである。しかし検討で勝っても意味がない。実戦で勝たなければダメである(注:▲8八歩に△6九角は、▲9六角の受けがあると、読者からご指摘をいただいた。調べてみるとそのとおりで、この順は後手難局、と訂正します)。
最終のY戦も、夢の中で考えた。最後、私は▲7二竜と銀を取って詰ましたが、こんなことをしなくても、たんに▲8一竜と捨てて、簡単な詰みだった。
早起きのHi氏に朝の挨拶。Hi氏は結局、私たちと同じスケジュールをこなした。恐るべき体力である。
7時すぎに食堂へ入る。きょうも泣き出しそうな空だ。私は例によって端のテーブルに座った。ここは3人席だ。ナナメ前にKub氏が座り、ご飯をよそいに行く。と、中井広恵女流六段もこちらへ来た。
最初はKub氏の席に座ったが、Kub氏が先着だったことに気づき、横にズレた。すなわち私の向かいだ。中井女流六段は、いいよね、という感じでそのまま座る。マジ!?
東京のファミレスや居酒屋では、中井女流六段が何度も私の向かいや横に来て慣れっこなのに、違う場であらたまった席になると、妙に緊張してしまう。だって、女流棋士ファンランキング2位の中井女流六段と、向かい合わせで朝食である。これで緊張するなと言うほうが無理だ。
私は視線を上げられず、うつむいたまま、黙々と食事を摂る。初日の夜に中井女流六段とツーショットの食事を遠慮して、絶好のチャンスを逃したと悔やんでいた。ところがその機会が再び、何の前触れもなく訪れたのだ。とにかく私は、緊張の極みだった。途中、何か中井女流六段に話しかけたが、内容は忘れてしまった。
夢のような食事が終わった。味が全然分からない、妙な朝食だった。しかし日本全国に、中井女流六段と向かい合わせで朝食を摂った将棋ファンがどれだけいるか。このとき私は確実に、幸せだった。
朝食のあとはコテージに戻り、布団を畳んで、将棋盤と駒を食堂に運ぶ。お世話になったコテージとは、来年までしばしのお別れだ。
9時からは本合宿のメインイベント「信濃わらび杯・最恐戦」である。プロ棋士の対局を、解説つきで鑑賞しようというものだ。前回は中井女流六段と植山悦行七段のカードが組まれ、中井女流六段が快勝した。今回は参加者投票の結果、植山七段-大野八一雄七段の一戦が採用された。些少ながら賞金もつく、真剣な対局である。
所定の席に植山七段、大野七段が座る。記録・棋譜読み上げは不肖ながら私が務める。大盤解説は中井女流六段。駒操作兼聞き手はY氏。
8時55分、粛々と駒が並べられる。振り駒は前回と同じく蕨市役所将棋部OB氏にお願いし、その結果、植山七段の先手と決まった。持ち時間はチェスクロック使用で各30分。それを使い切ると、1手60秒の秒読みである。
9時02分、即席報道陣のカメラのシャッターが切られる中、植山七段の▲7六歩で、第2回信濃わらび杯・最恐戦は始まった。
(つづく)
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