一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

「史上初」だらけ

2020-07-21 00:10:17 | 男性棋戦
19日は、永瀬拓矢叡王VS豊島将之竜王・名人の第5期叡王戦第3局が行われた。世間は藤井聡太フィーバー一色だが、こちらだって熱い戦いが続いているのだ。
さて本局はかなり異例で、持ち時間が1時間である。棋聖戦の一次予選は持ち時間1時間だが、タイトル戦では「史上初」となる。
叡王戦が第3期にタイトル戦に昇格した際、主催社は持ち時間の変動制を導入した、すなわち、1・2局、3・4局、5・6局をそれぞれセットにして、持ち時間5時間、3時間、1時間を対局者が選べるようにしたのだ(第7局は6時間で固定)。結果、第3期も第4期も、5時間→3時間→1時間という割り振りになったのだが、どちらの期も4局で終わってしまい、持ち時間1時間のタイトル戦は実現しなかった。今期はそれが3・4局に指定されたため、実現の運びになったのである。ただ、本戦トーナメントでさえ持ち時間3時間なのに、タイトル戦が1時間では違和感がぬぐえない。序列3位のタイトル戦なのだから、もっと持ち時間を多くして、対局者の読みの入った指し手を見たかったとは思う。
そしてもうひとつ、19日はダブルヘッダーが組まれていた。タイトル戦の1日2局設定は「史上初」(持ち時間25分時代の女流王将戦三番勝負を除く)。第3局は14時からで、こんな遅い開始時間も「史上初」。第4局の開始は19時からで、指し直しなしからの夜開始も「史上初」だった。
今回はニコ生とABEMAで中継があったが、私は午前のNHK杯鑑賞でもう十分で、午後は自宅でダラダラ過ごした。
夜、スマホを見ると、「点数勝負」の文字が躍っていた。まさかと思いmomonokiを見ると、何と持将棋になっていた。本局は第2局の持将棋指し直しだったから、シリーズで2度の持将棋が出現したことになり、これは「史上初」だ。当然、2局連続の持将棋も「史上初」となる。これは公式戦全体に間口を広げても、たぶん史上初ではあるまいか。
ちなみにここまで4局指して、決着がついたのが、第1局の千日手指し直し局のみ。シリーズが始まる前、実力伯仲・将棋大好きの2人の対決は、簡単に決着はつかないとフンでいたが、ここまで両者が譲らないとは思わなかった。
指し直しの指し直し局は30分の休みを新たに加え、19時30分開始。将棋は豊島竜王・名人の先手で、横歩取りになった。……ふう、これはさすがに早く終わるだろう、と思ったのが浅はかだった。
将棋は派手な戦いになった。豊島竜王・名人73手目▲8一飛に永瀬叡王△7一歩。101手目▲2一飛に△3一歩。ダブル飛車打ちにダブル金底の歩など見たことがなく、これも「史上初」の珍形ではあるまいか。
その後豊島竜王・名人が△7七の馬に▲7八金としかりつけ、なんと3つめの金底の歩ができてしまった(第1図)。

いやもう、私はこれでお腹いっぱいである。しかもそこからしばらく経った第2図は、敵陣に侵入している駒が消え去って、中盤戦に戻ってないか!? なんでこの局面で147手なの!?

終盤は私も、ABEMAをつけっぱなしにしていた。形勢は微妙に均衡を保ち、200手を越えても、AIの評価はほぼ互角。私はほとほと呆れ……いや、感心してしまった。
だが207手目、豊島竜王・名人の▲8六桂の王手が、明確な悪手だったようだ。これは相当罪が重かったようで、この手を境に、徐々に差が開いていった。
最後は永瀬叡王が△5七角と放ち、豊島竜王・名人が投了した。総手数は232手。横歩取り、入玉形でもないのにこの手数は理解不能である。第2局の持将棋は222手、第3局のそれは207手だったから、3局連続の200手越え。これも「史上初」であろう。
終了時刻は23時59分。あと1分延びれば、持ち時間1時間の将棋で日付またぎという、これも前代未聞の記録が生まれるところだった。

というわけで、第4局を終わって1勝1敗。タイトル戦の最長は「第8局」が3例ある。今シリーズ、すでに第7局までは確定しており、フルセットまでいけば、まさかの「第9局」が出現する。
また局数でいうと、1982年・第40期名人戦の「10局」(フルセット+千日手2・持将棋1)が最大である。この更新だって、もはやないとはいえない。なんだかもう、訳が分からなくなってきた。
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川上七段の順位戦復帰の目を考えるSeason2(2)

2020-07-20 00:06:48 | 目を考える
フリークラス脱出を目指す川上猛七段は、2019年度(令和元年度)途中から「18勝10敗」である。順位戦昇級規定のひとつに「30局以上でいい所取りの勝率.650以上」があり、川上七段は「あと2勝」で復帰となる。
17日(金)には第14回朝日杯の一次予選1回戦で、上野裕和六段との対戦があった。上野六段は私が応援する棋士のひとりだが、今回ばかりは川上七段に肩入れせざるを得ない。
本局はABEMAで中継があったが、動画視聴はデータを食うので、序中盤は見なかった。
しばらくして見ると終盤戦で、上野六段が△4八歩成としたところだった。川上七段は▲2二金と打ち込む。後手陣は金銀3枚で守られているが、川上七段の自信の手つきから見て、後手玉は詰んでいると思った。
双方秒読みだが上野六段が慎重に指すのに対し、川上七段は「もう詰んでます」とばかり文字通りノータイムで指す。しかしその手つきは親指と人差し指で駒を持ち、何か焦っている感もあった。
だが、川上七段は綺麗に上野玉を詰ました。これで19勝10敗?
ところがここで問題が生じる。川上七段は19日(日)放送の第70回NHK杯で増田康宏六段と対局する。当然収録済みで、6月下旬前後に対局があったと思われる。
もしここで勝っていれば「20勝10敗」となり順位戦復帰となるのだが、上野六段戦終了後にその雰囲気はなかったし、そもそも日本将棋連盟での携帯中継がなかった。
とすると、NHK杯は負けたんじゃないか?
もしそうなら、順位戦復帰の数字は「21勝11敗」に引き上げられる。すなわち、再びあと2勝が必要となるのだ。
18日(土)に連盟のサイトを見ると、川上七段は朝日杯の2回戦で長岡裕也五段に勝っていた。とりあえずこの勝利は大きい。
そして川上七段の順位戦復帰の報もなかった。これは19日のNHK杯で川上七段が負けたことを意味する。当日放送を見ると、果たして川上七段が負けた。まあそうであろう。
では改めて、20日現在の戦績を確認しておこう。

■2019年度
6月3日 第32期竜王戦ランキング戦5組昇級者決定戦2回戦 ○窪田義行七段
6月27日 第5期叡王戦七段戦予選1回戦 ○大石直嗣七段
6月27日 第5期叡王戦七段戦予選2回戦 ●有森浩三七段
7月1日 第32期竜王戦ランキング戦5組昇級者決定戦3回戦 ○竹内雄悟五段
7月か8月 第28期銀河戦予選 ○室岡克彦七段
7月か8月 第28期銀河戦予選 ●野月浩貴八段
8月8日 第32期竜王戦ランキング戦5組昇級者決定戦4回戦 ●田村康介七段
8月29日 第13回朝日杯将棋オープン戦一次予選1回戦 ○勝又清和六段
8月29日 第13回朝日杯将棋オープン戦一次予選2回戦 ○横山泰明七段
9月26日 第13回朝日杯将棋オープン戦一次予選3回戦 ○伊藤真吾五段
10月4日 第68期王座戦一次予選1回戦 ○室岡克彦七段
10月8日 第61期王位戦予選1回戦 ○山本博志四段
10月24日 第68期王座戦一次予選2回戦 ●遠山雄亮六段
10月28日 第61期王位戦予選2回戦 ○田村康介七段
10月31日 第13回朝日杯将棋オープン戦一次予選決勝 ●佐々木大地五段
11月25日 第61期王位戦予選3回戦 ○及川拓馬六段
12月25日 第61期王位戦予選4回戦 ●丸山忠久九段
1月7日 第33期竜王戦ランキング戦5組1回戦 ●金井恒太六段
1月17日 第46期棋王戦予選1回戦 ●室岡克彦七段
1月31日 第70期王将戦一次予選1回戦 ○及川拓馬六段
2月17日 第70回NHK杯トーナメント戦予選1回戦 ○中田宏樹八段
2月17日 第70回NHK杯トーナメント戦予選2回戦 ○井出隼平四段
2月17日 第70回NHK杯トーナメント戦予選決勝 ○杉本和陽四段
3月10日 第33期竜王戦ランキング戦5組昇級者決定戦1回戦 ○瀬川晶司六段
3月25日 第70期王将戦一次予選2回戦 ●中座真七段
3月30日 第33期竜王戦ランキング戦5組昇級者決定戦2回戦 ●窪田義行七段
■2020年度
6月1日 第92期棋聖戦一次予選1回戦 ○渡辺正和五段
6月1日 第92期棋聖戦一次予選2回戦 ○高橋道雄九段
6月or7月 第70回NHK杯トーナメント本戦1回戦 ●増田康宏六段
7月17日 第14回朝日杯将棋オープン戦一次予選1回戦 ○上野裕和六段
7月17日 第14回朝日杯将棋オープン戦一次予選2回戦 ○長岡裕也五段
(20勝11敗)

しかしなんてことだ。熊坂学五段や中尾敏之六段の時は、残り1年だったから、対局の順番はほとんど関係なかった。
だが今回は、NHK杯がもっと後に組まれていたら、川上七段の順位戦復帰が叶っていたのだ。
まあよい、次の対局で勝てばいいのだ。
現在確定の対局は、

第92期棋聖戦一次予選3回戦 北島忠雄七段
第14回朝日杯将棋オープン戦一次予選3回戦 中村太地七段or青嶋未来六段

である。順番だと次は北島七段戦が有力である。北島七段も私が応援している棋士だが、ここも川上七段を応援するしかない。
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藤井棋聖は、四千頭身の都築拓紀に似ている

2020-07-19 00:11:58 | 似ている
日付変わって今日7月19日は、藤井聡太棋聖の18歳の誕生日。おめでとうございます。
その藤井棋聖は、四千頭身の都築拓紀に似ていると思う。

都築拓紀は1997年3月20日、茨城県生まれの23歳。ワタナベコメディスクール22期生で、後藤拓実、石橋遼大と組み、2016年「四千頭身」を結成。日常の出来事を面白く展開するネタで、徐々に知名度を上げてきた。
現在いくつかのレギュラー番組を持ち、「お笑い第七世代」として今後のさらなる活躍が期待される。
藤井棋聖と都築拓紀は、顔の輪郭とトロンとした目、口元、声質が似ていると思う。

藤井棋聖は16日に棋聖位を獲得し、いまや時の人である。8月からは王位戦七番勝負の中盤戦に入り、王位のタイトルも十分射程圏内だ。
私たちは藤井伝説をリアルタイムで目撃している。
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藤井新棋聖誕生

2020-07-18 00:22:06 | 男性棋戦
16日は関西将棋会館で、第91期棋聖戦第4局が行われた。ここまで藤井聡太七段が2勝1敗。勝てば「17歳初タイトル」で日本中がフィーバーする。渡辺明棋聖が勝てば2勝2敗となり、最終局に向けて弾みがつく。いずれにしても、将棋ファンには目が離せない一戦だった。
渡辺棋聖の先手で始まり、▲7六歩△8四歩。藤井七段は2手目△8四歩を常用するので、ここで渡辺棋聖の作戦が問われる。回答は「▲6八銀」で、矢倉志向だった。
第1局、第2局は相矢倉で藤井七段の快勝だったが、第2局は渡辺棋聖に納得いかない部分があった。すなわち△5三歩型の金矢倉から奇手連発で敗れたからで、この形は先手が有利にできると思ったはずだ。そこで研究を重ね、再び先手矢倉をぶつけたわけだ。
もちろん藤井七段も追随し、第2局と同じ進行になった。シリーズで同じ形になることはよくあり、「中原・米長・加藤一二三」のタイトル戦では、毎回同じ形を指していたものだ。

第1図は40手目△2二角まで。多少の手順前後はあったが、図の局面は第2局より▲9六歩△1四歩の交換が入った形だ。先手は△8七歩▲同金△9五桂の筋が消えているので、条件はよりよい。よって渡辺棋聖は満足のいく進行だったと思われる。
そして第1図から▲3五歩が渡辺棋聖の改良手。第2局はここで▲2四飛△2三歩▲2九飛だったが、本局は先手らしくバリバリ攻めたわけだ。
以下△3五同歩▲2四飛△2三歩▲2九飛△3四金▲3三歩△同桂▲同桂成△同銀▲2六桂(第2図)。

この桂が渡辺棋聖期待の一着に思われたが、藤井七段は8筋から動き、渡辺棋聖は▲8五歩と、突き捨てられて上がった歩をさらに突きあげた。しかしこんな手は見たことがない。
藤井七段は△7三桂と力を溜めたが、渡辺棋聖はなおも▲9五歩!(第3図)

なんと、さらに藤井七段の攻めを催促したのだ。
以下△8六桂▲6八金左△4六歩▲同銀△2五金(第4図)と進んだ。

△8六桂は当然。▲6八金左に藤井七段の指し手が難しいが一転、△4六歩が玄妙な手だった。▲同銀と取らせたことにより、のちの△5四桂を見ているのだ。そして64手目、△2五金と逃げてしまった。
この手があるなら、渡辺棋聖は早く▲3四桂と金を取りたかった。思えば渡辺棋聖は第3局も中盤で、△3七歩成▲同金で金を取れる形にしながら、▲2六金と逃がしてしまった。本局はさらに条件が悪く、金取りのために桂を打っているのだ。取れないなら打つべきではなかった、ということにならないか?
本譜は第4図以下▲9七角△2六金となったが、先手は▲2六同飛と取り返せないのが痛い(△3四桂がある)。よって渡辺棋聖は▲8六角と桂を取ったが、△3六金と活用されては、私的にいえば「先手クサッタ」である。
それにしても藤井七段の金の動きは力強い。先の王位戦第2局でも金の出張があったが、ちょっとAIのニオイもして、このような金の使い方をする棋士は、米長邦雄永世棋聖くらいしか思いつかない。
以下も緊迫の攻防が続いたが、これは藤井七段が勝つ流れである。渡辺棋聖も相手玉に向かってはいるのだが、何となく攻めがダサい。

そして80手目、△3八銀(第5図)が好手だった。ここで飛車の取り合いはできないので渡辺棋聖は▲5九飛と逃げたが、そこで黙って△8六桂(第6図)が決め手級の好手だった。

戻って▲5九飛には△4二飛がアマ的考えだが、プロでもこう指す棋士は多いと思う。だが△8六桂の第6図はいきなり先手玉が狭くなっており、▲8二馬は△4七桂で後手必勝となる。
渡辺棋聖は▲4八歩と受けたが、そこでゆうゆう△4二飛がニクイ。先手玉は一歩も動けず、息苦しい。AIの形勢判断を見るまでもなく、これは藤井七段が勝ったと思った。
89手目▲5七金に、90手目△4五桂の跳躍も気持ちがいい。そもそもこの桂は74手目、△6一に耐え忍んで打ったものである。藤井七段には、こうした二段活用が実に多い。
渡辺棋聖はまだ投げてないものの、もう勝負の厳しさは残っておらず、視線をあらぬほうへ向け、(どこでおかしくしたんだ?)と、「ひとり感想戦」を始めている。
この光景、どこかで見たと思ったら、先の王位戦第2局の、木村一基王位のデジャヴだった。
最後、渡辺棋聖の竜の王手に、△4一桂(棋聖誕生図)で、渡辺棋聖投了! ここに「17歳棋聖」が誕生した。

以降は想像にたがわず、大変な騒ぎになった。「藤井新棋聖」はテレビにテロップが流れ、ネットではトップニュースになった。





私が現在プーなのが嘆かわしいが、おかげで歴史的瞬間を見られたと考えるべきか。

藤井新棋聖は局後のインタビューで、「タイトルを獲得できたのは非常にうれしい。まだ実感がないというのが、正直なところです」と述べた。また翌日の記者会見では、色紙に「探究」と揮毫した。いかにも藤井棋聖らしい言葉だと思う。
いっぽう渡辺前棋聖は深夜のブログで、「終盤は△8六桂が読めてないところで完全に競り負けました」と述懐した。
ヤケ酒でもかっくらいたいところでこの更新は頭が下がるが、ブログに発信することで悔しさを紛らわせた、と考えることもできる。ともあれ渡辺先生、お疲れ様でした。
日本将棋連盟では、佐藤康光会長、羽生善治九段、屋敷伸之九段(前・最年少タイトル保持者)、師匠の杉本昌隆八段がお祝いコメントを寄せた。もし大山康晴十五世名人、米長永世棋聖、河口俊彦八段が存命だったら、どんな言葉を寄せただろう。
さて今後の期待は、藤井棋聖が八冠を達成できるかどうかだろう。世の将棋ファンの多くがその可能性は大と見ているし、むろん私もそのひとりである。
ただ、それをやすやすと許すほど、将棋界は甘くない。今後の勝負が楽しみである。
最後になるが、藤井先生、初タイトル、おめでとうございます。
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第61期王位戦第2局

2020-07-17 00:33:26 | 男性棋戦
13日、14日は、北海道札幌市で第61期王位戦第2局が行われた。ここまで木村一基王位の1敗だがすでに追い込まれている感じで、本局は木村王位にとって背水の陣だった。
将棋は先番木村王位の注文で、相掛かりとなった。藤井聡太七段も居飛車の手将棋が得意なので、この戦法は歓迎だ。
1日目はまだ序盤といえるところで指し掛け。9日の棋聖戦と違い、ずいぶんスローペースだ。だが相掛かりは木村王位に一日の長があったようで、木村王位が指しやすくなっていた。
2日目、フジテレビ「バイキング」に鈴木環那女流二段が出演した。MCの坂上忍に形勢判断を聞かれ、鈴木女流二段は「藤井七段がやや不利ですが、藤井七段は終盤力がすごいので、藤井七段が勝つと思います」と明快に答えた。
解説者の中にははっきりと勝者を告げない人もいるが、鈴木女流二段は潔い。私はさらに鈴木女流二段のファンになってしまった。

将棋は第1図で、藤井七段が△9五飛をひとつ△9六飛と浮いたところ。これがなかなかに味わい深い手で、▲3六銀を釘付けにしている。
ここで木村王位は▲8六角! △9八飛成なら▲9九香△8九竜▲7九金の飛車殺し……と思いきや、それは△7六桂▲同歩△8八竜▲同金△同角成で一杯食わされるらしい。
藤井七段は△9八飛成。そこで木村王位の▲2九飛が用意の手だった。
▲2九飛は次こそ▲9九香があり(△8九竜とできない)、攻めては▲2八香を見ている。本局、私が最も感心した手である。
実戦も△9二竜に▲2八香と進み、これは木村王位が一本取ったと思った。
ところが……。

第2図以下の指し手。△3三銀▲2三香成△2四香▲2五歩△2三金▲2四歩△同金▲2五歩△2八歩▲同飛△2七歩▲同飛△1五金(第3図)

私はこのシリーズ、どちらが勝ってもいい。別に私におカネが入ってくるわけではないからだ。ただ47歳の木村王位は、このシリーズで負けると、もうタイトル戦に出られない可能性もある。となれば、オジサン棋士を応援したくなるところである。
第2図で、藤井七段が平然と△3三銀と上がったので驚いた。
当然の▲2三香成に△2四香が継続手で、以下▲2二成香△2九香成は先手が一手負け。よって▲2四同成香としたいが、それも△同銀▲同飛△2三香で先手不利となる。結局▲2五歩と打つしかなく、2筋突破はならなかった。将棋は簡単に決まらないのだ。
とはいえ第3図の△1五金もすごい形で、花村元司九段の指し手を思わせる。それか、原田泰夫九段がNHKのお好み駒落ち対局で、グイッと△1五金(△2五金?)と出た将棋を思わせる。
棋聖戦第2局の△5四金もそうだったが、藤井七段には思いもよらぬ手が出てきて、見ていて面白い。

局面は進んで第4図。いろいろあったが第3図は先手が有利で、そこから木村王位が優位を拡げ、優勢になった。

ここで私なら▲5三金△6一玉▲3二竜△同銀▲6三金のような手を考えるが、それはヘボの追い方だ。
本譜木村王位は▲1一竜とした。ただこれは竜が逃げるだけの手で、本筋でない気がした。といって、代わる手はもう浮かばないのだが。
そこで藤井七段は△5三香! 名香が出た。

このあたり、私は「momonoki」からABEMAのネット中継に代え、観戦していた。戻って第4図では、▲4二金が正着だったようだ。ただ以下の変化も多岐に渡り、簡単ではない。思ったほど形勢は開いていなかったのかもしれない。
第5図の△5三香がナルホドという手で、守っては▲5三Xを防ぎ、攻めては△5七香成の殺到を見ている。藤井七段の駒は、いつも目いっぱい働いている。
しばらくすると▲7九玉が指されており、私はイヤな予感がした。木村王位としては、この手を指さずして藤井玉に詰めろ詰めろで迫りたかったと思う。第1局で藤井七段が▲6八玉形のまま、木村玉を寄り倒したのと同じように。本局はこの2手で、流れが変わった。
藤井七段は△2六角。これも厳しそうな手で、アマ同士ならもう、100%後手が勝つ。
そこで木村王位は▲4二歩! 私は無言で絶叫してしまった。

ABEMAでは画面右下に推奨手が出るが、私はそこまで見ていなかった。音も出していないので、誰が解説かも分からなかった。
さて第6図の▲4二歩。一見銀取りで厳しそうだが、この瞬間後手玉は「Z」。いわゆる絶対詰まない形で、後手は自由に反撃ができる。しかもこの▲4二歩、次に▲4一歩成としても、後手玉が詰めろでない可能性が高い。とすると、「▲4二歩△○○○▲4一歩成」のときに、藤井七段が詰めろ詰めろで迫れば、藤井七段が勝つことになるのだ。
果たしてAIも▲4二歩を見て、藤井七段優勢と断じた。まさかの逆転である。

第6図以下の指し手。△4八角成▲4一歩成△5七銀不成▲9七銀△9八金▲5一と△6二玉▲5二と△7二玉▲6二と△8三玉▲6九香△5六桂(第7図)
以下、藤井七段の勝ち。

△4八角成▲4一歩成に△5七銀不成の詰めろで、速度が入れ替わった。木村王位は▲9七銀と逃げ道を開けるが、△9八金が非情の待ち駒である。これがあるなら▲9七銀では▲9九銀かと思うが、それでも先手が負けなのだろう。
木村王位は4一のと金で後手玉を追うが、藤井七段は逃げる、逃げる。こうなると、8五に桂が利いているのも大きい。勝ち将棋鬼のごとしで、93手目▲9三歩△同桂の交換が、ここでは後手に生きてきている。
ここで木村王位は▲6九香と受けに回ったが、△5六桂と数を足されて、もういけない。数手後に投了となった。
(なんでこの将棋を負けた?)とばかり、放心状態で虚空を見つめる木村王位。その模様が痛々しく、私は正視できなかった。

実際、この敗戦はこのうえなく痛かった。もし勝っていれば1勝1敗で仕切り直し。だが負けて2敗、は残り5局を4勝1敗で乗り切らねばならず、かなり苦しくなった。
いっぽう藤井七段は、ほっとしたことだろう。負ければ疲労が倍になるが、勝てば疲労は半分になる。後のハードスケジュールを考えても、この勝利は果てしなく大きかった。
そして藤井七段は休む間もなく16日、棋聖戦第4局に臨んだのである。
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