よく行く本屋の中に、松丸本舗がある。松岡正剛さんプロデュースの本屋だ。本屋内本屋というコンセプトだが、単なる本屋ではなく、濃いコンセプトの古本屋が集まったみたいな不思議な空間だ。
私の好きなのは、松本清張コーナーだが、松本清張の本だけではなく、松本清張が読んでいた本が並んでいる。この、高句麗の壁画古墳もそこで見つけた。1972年発行の本だが、少し黄ばんではいるものの、定価で販売されている。
東京駅を利用される機会があったら、一度、お立ち寄りになることをお勧めする。
この本自体は、かなりマニアック。特に、北朝鮮の学者が書いた本の翻訳本など、今は考えにくい。当時、すでに、北朝鮮との国境は断絶されていたものの、今ほど完全拒絶ではなかった。著者も、高松塚が発見された時、調査のため、来日したらしい(この本を著わした後)。今では考えられない。
序文からしてすごい。
『周知のとおり、日帝は朝鮮と中国東北地方を侵略しつつ、御用考古学者らを動員して朝鮮および中国東北地方の考古学的調査を実施し、これらの考古学者らは数多くの遺跡を破壊し、貴重な遺物を略奪して行った。破壊略奪行為は占領時代さらにひどくなった。朝鮮人民が子々孫々だじに保存してきたわが朝鮮民族の高貴な文化遺産は、侵略者らによって無残に破壊された。彼らは「科学」の仮面をかぶり、わが民族文化遺産に対する悪宣伝をし、これによって自らの侵略の本質を隠蔽しようとはかった。』
今だったら、このような序文を持つ本が翻訳されるだろうか。
ただ、その後の一層の関係悪化により、文化交流の発展が、全くなかったのは、日本でその後も数多くの新発見があったにもかかわらず、本質的な、議論が進まない大きな原因の一つになっている。もちろん、一番の原因は、宮内庁所管の古墳の発掘が、ほとんど認められないことによるのだが。
この本を読むと、朝鮮ですら、中国、朝鮮、日本の、古くからの関係を掘り起こすことのリスクを冒しながら、研究を進めたことがわかる。日本では、なおさらだろう。元々の日本人は、駆逐されており(アイヌ人?)、今の日本人は、ほとんど、大陸からの移民だったということになりかねない。
本書では、高句麗(北朝鮮と中国の北朝鮮に隣接する地域を想定)の古墳群の分析を、形状面と、壁画のデザイン面から行っている。
形状面からは、北のものの方が古いと分析している。
壁画のデザインについては、人物像中心のものから、四神像中心のものにシフトしていったと分析している。
そういった意味で、中国文明の影響を認めているのだが、そのまま模倣したものではないことも、強調している。
日本では、それらの古墳文化が、一挙に押し寄せた思われるのだが、やはり、中国、韓国、日本が、共同で同じ水準で、調査を行わないと、これ以上の進展は、ないのではないかとも感じる。
平山さんが、北朝鮮との関係が最悪の時期に、北朝鮮を訪問したのも、その思いが高じたものと思う。ずいぶん批判されたが。
中国の一部の遺産とともに、これらの古墳群は世界遺産に指定されているが、いまだ、資料は少なく、訪れることもできない。そういった意味でも、本書は、今では貴重な本になっているのではないか。