ガラクタ・モンスターのおいらは、どんなに泣いてももう涙の一滴も出ない。ただ大きな唸り声が出るだけだ。
夜の暗い森中に、おいらの不気味な「ウォーン、ウォーン」と言う声が鳴り響いたよ。
その後、急においらは疲れ果て、自分の木に寄りかかり西に傾く赤い月をぼんやり見ていた。
―ありがとう、お月様。願いは叶いました・・・・
おいらは呟いてみた。意味もなくブチ猫の言った言葉を繰り返してみただけだ。でも、ブチ猫の冷たくなっていく体を撫ぜていたら急にはっきり言いたくなった。
「ありがとう、お月様。願いは叶いました。」
それからおいらはブチ猫と、まるで猫達がそうするように、寄り添ってしばらくの間寝てしまった。
それはたぶんほんの少しの間・・・。
「だんな~、若くなってしまっただんな。」とカラスがおいらを呼んだ。
「言おうか言うまいかちょっと迷ったんですがね、あの、このままじゃまずいんじゃないですかい。」
―そうだ。おいらはそんなことまで気が付かなかったよ。流石にカラスは頭がいい。
「そうだな。お前は流石だな。よし、今から町のゴミ捨て場にダッシュだな。」
「えええっー。」
おいらはブチ猫をそっと木の根元に下ろして、町を目がけて駆け出した。
「ち、違いますぜー、若くなってしまっただんなー!!!
前の時みたいに、上手いこと戻ってこれる保証があるんですかい。ワタクシメが言いたいのはー・・・・」
カラスが何かを言っているけれど、おいらは忙しくて聞いちゃいられないよ。おいらはついでに森中の、出来る限りではあるけれど、ゴミを体に巻きつけながら走っていったんだ。
町のゴミ捨て場に着いたときは、まだ夜明け少し前。おいらは間に合った。ふう~、ヤレヤレだ。
だけどその時、おいらは近くに止まっている大きな車から、何か気配がするのを感じてしまった。そっとそっと、おいらは近づいて耳を澄ましてみた。小さく小さく猫の鳴き声が、ほんの微かに聞こえてきた。
―出して、ここから出して。
―開けて、開けて、ここを開けて。
おいらはドアを思わず力任せに開けようとした。だけど、ふとあることを思い出した。
カラスは言っていた。
赤い月は不思議を許すと言う許可書。
夜明け前と言ったって、月が西に沈んで朝が来るわけじゃない。西に傾いたからと言っても、天空高くから西の低きに落ちただけ。おいらは月を見て、このドアは必ず開くと信じて開けてみた。
ドアはカチリと開いた。
そっとドアを開けると、中にはもう一つ箱のような大きなケースが入っていた。その中には数匹の猫が入っていた。その箱の壁は厚く、中で猫が鳴いても声が外に漏れないようになっているみたいだった。猫達は覗いているおいらに気が付いて、怯えたように寄り添った。
このケースにも鍵はかかっていなかった。
その扉は重くてとても猫には開けられないし、たぶんこのケースの持ち主が楽に開け閉めできるように 、鍵はかけないでいたに違いない。
そっと、おいらは扉を開けて
「助けて欲しいのかい。」と小さな声で聞いた。
「助けて欲しいいわ。だってあの男は、あたしを捕まえて、いい皮が取れるって言うのよ。」と真っ白な猫がそういった。
「僕も助けて欲しい。」
「だって、あの男は僕を見るなり大喜びで、こいつは珍しい、高く売れるって言ってたけれど、僕はこれでも林の中で妻と生まれたばかりの子猫を守っているんだ。だから売られるわけには行かないんだ。」と三毛猫が言った。
「助けるといっても、ここから出してあげるだけだよ。」おいらがそう言うと、猫達は静かにうんうん頷きあった。
「こんな猫さらいの車じゃなければ、何処だってマシさ。」と一匹の猫が言った。
白い猫が車を降りる時、小さな声で言った。
「ありがとう、願いは叶いました。」
おいらはドキッとして、呼び止めた。白猫は言った。
「モンスターさん、あたしは耳を澄まして聞いていたの。車のドアを閉める音は聞こえていたけれど、次の鍵をかける音はしなかったの。この車には鍵はかかっていない、誰かそのドアを開けて助けてとずっと念じていたのです。」
猫達が闇に消えていくのを見送りながら、おいらはドアを力任せに壊さなくて良かったとしみじみ思ったね。ドアが壊れていたら、男はすぐに猫達がいなくなってしまった事に気が付いてしまっただろう。おいらは猫の変わりにその車に乗り込んだ。ケースは邪魔なのでおいらの重みで潰してやった。
―そのドアを開けてみろ。嫌と言うほど脅してやるぞ。