拝啓 有権者の皆さんへ
読売新聞特別編集委員 橋本五郎
(読売新聞09年8月29日)
投票日を前に、民主党の300を越す圧勝が伝えられています。報道に携わる一人として矛盾することを言うようですが、あくまでも事前の予測です。
審判は30日の皆さんの投票によってなされるのです。
日本の政治は極めて特異です。自民党という一政党がわずか10か月を除き、50年以上も政権党であり続けた例は先進国ではありません。最高指導者が毎年交代するのも聞いたことがありません。
そのことをどう考え、どんな強固な政権をつくればいいのか。今回が「歴史的選挙」であることの真の意味がそこにあります。
問われる最大のことはいうまでもなく、政権をどの党に委ねるかという「政権選択」です。政策や政治の仕組みを継続するのか、それとも根本から変えようとするのかが一番の争点です。
各政党が何に力点を置いているかを示したのがマニフェスト(政権公約)です。その問題点については、これまで8回にわたって関係部長・編集委員が論じてきましたが、基本的に口当たりのいいことの羅列という側面があり、厳しい吟味が必要です。
中でも財源問題は重要ですが、「実現性」と「整合性」が重要なポイントです。公約実現への具体的な道筋が示されているか、相対立しがちな経済成長と環境のように、掲げられている政策相互の間に矛盾はないかということです。
とは言っても、あらゆる問題を比較検討することなど普通の人に出来るはずもありません。少子化問題はこの党がいいが、安全保障政策には不安があるという迷いもありえましょう。
ここはマスコミの解説や識者の意見も参考にしながら、総合的に判断するしかありません。「よりまし」「より悪くない」という相対的、現実的判断が必要です。
投票にあたっての判断基準として、政党、政策中心に論じられがちですが、人も大切です。「党・政策・人」は三位一体で考えるべきです。
政治を進めるうえで最も大切な「信頼」は政治に携わる人を通じて具現化するからです。麻生内閣がなぜこれほど低い支持率なのか。その根底に信頼感の欠如があったことは疑いないことです。
政治家に必要な資質としてよく挙げられるのが「情熱」「責任感」「判断力」です。無私の精神で国民に仕えようという情熱があるか。自らの言動にきちんと責任を持てるのか。大局的見地から冷静に判断できる能力があるかということです。
候補者についてすべてを知ることは難しいことですが、経歴や選挙活動などを通じて、委ねるに値するか見極めることが求められます。
4年前の郵政選挙では、小泉内閣を熱狂的に支持、自民党に300近い議席を与えました。そのことへの反省も、今回の民主党の圧倒的優勢の背景にあるとみられます。
国民の審判が右から左、左から右へと大きく揺れる現象を自動車のワイパーに因(ちな)んで「ワイパー選挙」と呼ぶ人もいます。そのことの是非も含め、私たち自身も試されているという「醒(さ)めた目」が求められているように思います。
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読売新聞特別編集委員 橋本五郎
(読売新聞09年8月29日)
投票日を前に、民主党の300を越す圧勝が伝えられています。報道に携わる一人として矛盾することを言うようですが、あくまでも事前の予測です。
審判は30日の皆さんの投票によってなされるのです。
日本の政治は極めて特異です。自民党という一政党がわずか10か月を除き、50年以上も政権党であり続けた例は先進国ではありません。最高指導者が毎年交代するのも聞いたことがありません。
そのことをどう考え、どんな強固な政権をつくればいいのか。今回が「歴史的選挙」であることの真の意味がそこにあります。
問われる最大のことはいうまでもなく、政権をどの党に委ねるかという「政権選択」です。政策や政治の仕組みを継続するのか、それとも根本から変えようとするのかが一番の争点です。
各政党が何に力点を置いているかを示したのがマニフェスト(政権公約)です。その問題点については、これまで8回にわたって関係部長・編集委員が論じてきましたが、基本的に口当たりのいいことの羅列という側面があり、厳しい吟味が必要です。
中でも財源問題は重要ですが、「実現性」と「整合性」が重要なポイントです。公約実現への具体的な道筋が示されているか、相対立しがちな経済成長と環境のように、掲げられている政策相互の間に矛盾はないかということです。
とは言っても、あらゆる問題を比較検討することなど普通の人に出来るはずもありません。少子化問題はこの党がいいが、安全保障政策には不安があるという迷いもありえましょう。
ここはマスコミの解説や識者の意見も参考にしながら、総合的に判断するしかありません。「よりまし」「より悪くない」という相対的、現実的判断が必要です。
投票にあたっての判断基準として、政党、政策中心に論じられがちですが、人も大切です。「党・政策・人」は三位一体で考えるべきです。
政治を進めるうえで最も大切な「信頼」は政治に携わる人を通じて具現化するからです。麻生内閣がなぜこれほど低い支持率なのか。その根底に信頼感の欠如があったことは疑いないことです。
政治家に必要な資質としてよく挙げられるのが「情熱」「責任感」「判断力」です。無私の精神で国民に仕えようという情熱があるか。自らの言動にきちんと責任を持てるのか。大局的見地から冷静に判断できる能力があるかということです。
候補者についてすべてを知ることは難しいことですが、経歴や選挙活動などを通じて、委ねるに値するか見極めることが求められます。
4年前の郵政選挙では、小泉内閣を熱狂的に支持、自民党に300近い議席を与えました。そのことへの反省も、今回の民主党の圧倒的優勢の背景にあるとみられます。
国民の審判が右から左、左から右へと大きく揺れる現象を自動車のワイパーに因(ちな)んで「ワイパー選挙」と呼ぶ人もいます。そのことの是非も含め、私たち自身も試されているという「醒(さ)めた目」が求められているように思います。
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