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医薬品ネット販売の権利確認等請求事件(最高裁H25.1.11)を考察する。

2014-10-12 23:00:00 | 行政法学

H25の最重要判例のひとつ、医薬品ネット販売の権利確認等請求事件(最高裁H25.1.11)を考察します。



【事案の概要】
平成18年法律第69号1条の規定による改正後の薬事法(以下「新薬事法」という。)の施行に伴って平成21年厚生労働省令第10号により改正された薬事法施行規則(以下「新施行規則」という。)において,店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売又は授与(以下「郵便等販売」という。)は一定の医薬品に限って行うことができる旨の規定及びそれ以外の医薬品の販売若しくは授与又は情報提供はいずれも店舗において薬剤師等の専門家との対面により行わなければならない旨の規定が設けられたことについて,インターネットを通じた郵便等販売を行う事業者である被上告人らが,新施行規則の上記各規定は郵便等販売を広範に禁止するものであり,新薬事法の委任の範囲外の規制を定める違法なものであって無効であるなどと主張して,上告人を相手に,新施行規則の規定にかかわらず郵便等販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認(行訴法4条後段実質的当事者訴訟)等を求める事案である。(最判 判決理由1)



【訴訟選択】
1,原告らは,医薬品の店舗販売業の許可を受けた者とみなされる既存一般販売業者として,平成21年厚生労働省令第10号による改正後の薬事法施行規則の規定にかかわらず,第一類医薬品及び第二類医薬品につき店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による販売をすることができる権利(地位)を有することを確認する。(行訴法4条後段実質的当事者訴訟)

2,厚生労働大臣が平成21年2月6日に公布した薬事法施行規則等の一部を改正する省令(平成21年厚生労働省令第10号)のうち,薬事法施行規則に15条の4第1項1号,159条の14,159条の15第1項1号,159条の16第1号並びに159条の17第1号及び第2号の各規定を加える改正規定が無効であることを確認する。(行訴法3条4項)

(予備的請求)
3, 前項の省令の改正規定を取り消す。(行訴法3条2項)


【争点】
1,本件無効確認の訴え及び本件取消しの訴えの適法性(本案前の争点)
2,本件地位確認の訴えの適法性(本案前の争点)
3,本件改正規定の適法性・憲法適合性(本案の争点)
   ア 委任命令としての適法性
   イ 本件規制の憲法適合性
   ウ 省令制定手続の適法性

【裁判所の判断】
1, 第1審(東京地判平成22・3・30)
○省令制定行為の処分性を否定→無効確認の訴え及び本件取消しの訴え却下

○地位確認の訴えの適法性→確認の利益あり

○委任の趣旨は、一般用医薬品の安全性確保のためリスクの程度に応じた販売などの適切な方法・態様を専門・技術的裁量判断に委ねるもので、その結果「一定の販売方法を採ることができなくなること」があっても、規制の必然的な随伴結果である委任の範囲内である。また、対面販売の義務づけと郵便など販売方法の禁止には必要性と合理性がある→請求棄却


2, 控訴審(東京高判平成24・4・26)
○ 訴訟要件→第1審と同様の判断

○ 郵便等販売規制は、憲法22条1項で保障される営業の自由を制限するから、「その委任規定については、明確性が求められると同時に、委任規定の立法過程において、その制限される権利について合憲性の推定が働くような資料に基づく議論」を要す。しかし、新薬事法36条の5等の規定は、明示的に対面販売を義務づけておらず、また、営業の自由に対する規制を省令に委任するに当たって、立法目的を達成するための手段の合理性を基礎づける検証・検討がない。そのため、郵便等販売を規制する新施行規則の各規定は、「新薬事法の委任の趣旨の範囲を逸脱した違法な規定であり、国家行政組織法12条3項に違反し、無効である」→原判決の一部を取消し、請求の一部を認容。国が上告。


3, 最高裁(第二小法廷平成25・1・11)
○ 上告棄却

○ 判旨 「」は判決文から原文抜粋
「薬事法が医薬品の製造,販売等について各種の規制を設けているのは,医薬品が国民の生命及び健康を保持する上での必需品であることから,医薬品の安全性を確保し,不良医薬品による国民の生命,健康に対する侵害を防止するためである(最高裁平成元年(オ)第1260号同7年6月23日第二小法廷判決・民集49巻6号1600頁参照、クロロキン薬害訴訟最高裁判決)。このような規制の具体化に当たっては,医薬品の安全性や有用性に関する厚生労働大臣の医学的ないし薬学的知見に相当程度依拠する必要があるところである。」

「旧薬事法の下では違法とされていなかった郵便等販売に対する新たな規制は,郵便等販売をその事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約するものであることが明らかである。これらの事情の下で,厚生労働大臣が制定した郵便等販売を規制する新施行規則の規定が,これを定める根拠となる新薬事法の趣旨に適合するもの(行政手続法38条1項)であり,その委任の範囲を逸脱したものではないというためには,立法過程における議論をもしんしゃくした上で,新薬事法36条の5及び36条の6を始めとする新薬事法中の諸規定を見て,そこから,郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が,上記規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れることを要するものというべきである。」

しかるところ,新施行規則による規制は,
①新薬事法36条の5及び36条の6は,いずれもその文理上義務付けていないことはもとより,その必要性等について明示的に触れているわけでもなく,

②医薬品に係る販売又は授与の方法等の制限について定める新薬事法37条1項も,郵便等販売が違法とされていなかったことの明らかな旧薬事法当時から実質的に改正されていない。

また,

③新薬事法の他の規定中にも,郵便等販売を規制すべきであるとの趣旨を明確に示すものは存在しない。

なお,④法案の国会審議等において,郵便等販売の安全性に懐疑的な意見が多く出されたが,それにもかかわらず郵便等販売に対する新薬事法の立場は不分明であり,その理由が立法過程での議論を含む事実関係等からも全くうかがわれないことからすれば,そもそも国会が新薬事法を可決するに際して第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を禁止すべきであるとの意思を有していたとはいい難い。

そうすると,新薬事法の授権の趣旨が,第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する旨の省令の制定までをも委任するものとして,上記規制の範囲や程度等に応じて明確であると解するのは困難であるというべきである。



【本判決の意義など】
1、 クロロキン薬害訴訟最高裁判決を引用しつつ、医薬品の製造・販売規制の趣旨を踏まえ、営業の自由に対する制限を新たに委任命令で課す場合に法律による明示の委任が必要となることを確認し、前期規定を違法無効として、原告らの第一類・第二類医薬品の郵便等販売できる権利(地位)を確認した判決。

2、 規範定立行為は、処分と実質的に同一視できる場合を除き、不特定多数者に対し一般的な法的効力を有するにとどまるため、処分性を否定する一方、新施行規則違反に対する制裁前に行政立法の違憲・違法を争う確認の訴え(実質的当事者訴訟)を認めた判決。
→予防的機能に着目すると、差止訴訟など抗告訴訟(無名抗告訴訟も含む)との連続性・相互関連が検討課題として残っている(平成24年重要判例解説 下山憲治 名古屋大学教授)


【関連法令】(注、争われた当時の法令です。)
〇薬事法(薬事法の一部を改正する法律 平成18年法律69号)
(一般用医薬品の販売に従事する者)
第三十六条の五  薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者は、厚生労働省令で定めるところにより、一般用医薬品につき、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める者に販売させ、又は授与させなければならない。
一  第一類医薬品 薬剤師
二  第二類医薬品及び第三類医薬品 薬剤師又は登録販売者
(情報提供等)
第三十六条の六  薬局開設者又は店舗販売業者は、その薬局又は店舗において第一類医薬品を販売し、又は授与する場合には、厚生労働省令で定めるところにより、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師をして、厚生労働省令で定める事項を記載した書面を用いて、その適正な使用のために必要な情報を提供させなければならない。
2  薬局開設者又は店舗販売業者は、その薬局又は店舗において第二類医薬品を販売し、又は授与する場合には、厚生労働省令で定めるところにより、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者をして、その適正な使用のために必要な情報を提供させるよう努めなければならない。
3  薬局開設者又は店舗販売業者は、その薬局若しくは店舗において一般用医薬品を購入し、若しくは譲り受けようとする者又はその薬局若しくは店舗において一般用医薬品を購入し、若しくは譲り受けた者若しくはこれらの者によつて購入され、若しくは譲り受けられた一般用医薬品を使用する者から相談があつた場合には、厚生労働省令で定めるところにより、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者をして、その適正な使用のために必要な情報を提供させなければならない。
4  第一項の規定は、医薬品を購入し、又は譲り受ける者から説明を要しない旨の意思の表明があつた場合には、適用しない。
5  配置販売業者については、前各項の規定を準用する。この場合において、第一項及び第二項中「薬局又は店舗」とあるのは「業務に係る都道府県の区域」と、「販売し、又は授与する場合」とあるのは「配置する場合」と、第一項から第三項までの規定中「医薬品の販売又は授与」とあるのは「医薬品の配置販売」と、同項中「その薬局若しくは店舗において一般用医薬品を購入し、若しくは譲り受けようとする者又はその薬局若しくは店舗において一般用医薬品を購入し、若しくは譲り受けた者若しくはこれらの者によつて購入され、若しくは譲り受けられた一般用医薬品を使用する者」とあるのは「配置販売によつて一般用医薬品を購入し、若しくは譲り受けようとする者又は配置した一般用医薬品を使用する者」と読み替えるものとする。


〇薬事法施行規則(平成21年厚生労働省令10号による改正後のもの。)
(薬剤師又は登録販売者による医薬品の販売等)
第百五十九条の十四  薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者は、法第三十六条の五 の規定により、第一類医薬品については、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に、自ら又はその管理及び指導の下で登録販売者若しくは一般従事者をして、当該薬局若しくは店舗又は当該区域における医薬品を配置する場所(医薬品を配置する居宅その他の場所をいう。以下この条及び第百五十九条の十八において準用する次条から第百五十九条の十七までにおいて同じ。)(以下「当該薬局等」という。)において、対面で販売させ、又は授与させなければならない。
2  薬局開設者、店舗販売業者又は配置販売業者は、法第三十六条の五 の規定により、第二類医薬品又は第三類医薬品については、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者に、自ら又はその管理及び指導の下で一般従事者をして、当該薬局等において、対面で販売させ、又は授与させなければならない。ただし、…

(一般用医薬品に係る情報提供の方法等)
第百五十九条の十五  薬局開設者又は店舗販売業者は、法第三十六条の六第一項 の規定による情報の提供を、次に掲げる方法により、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に行わせなければならない。
一  当該薬局又は店舗内の情報提供を行う場所(薬局等構造設備規則第一条第一項第十号 若しくは第二条第九号 に規定する情報を提供するための設備がある場所又は同令第一条第一項第四号 若しくは第二条第四号 に規定する医薬品を通常陳列し、若しくは交付する場所をいう。次条及び第百五十九条の十七において同じ。)において、対面で行わせること。

第百五十九条の十七  薬局開設者又は店舗販売業者は、法第三十六条の六第三項 の規定による情報の提供を、次に掲げる方法により、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者に行わせなければならない。
一  第一類医薬品の情報の提供については、当該薬局又は店舗内の情報提供を行う場所において、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に対面で行わせること。
二  第二類医薬品又は第三類医薬品の情報の提供については、当該薬局又は店舗内の情報提供を行う場所において、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師又は登録販売者に対面で行わせること。

(準用)
第百四十二条  店舗販売業者については、第二条から第七条まで(同条第六号及び第八号を除く。)、第十二条から第十五条の四まで、第十五条の十五、第十六条(第一項第七号を除く。)及び第十八条の規定を準用する。この場合において、第二条中「様式第二」とあるのは「様式第七十七」と、第六条、第十五条の四第二項及び第十六条第四項中「都道府県知事」とあるのは「都道府県知事(その店舗の所在地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合においては、市長又は区長)」と、第六条中「様式第五」とあるのは「様式第七十八」と、第十二条第一項中「別に厚生労働省令で定めるところにより厚生労働大臣の登録を受けた試験検査機関(以下「登録試験検査機関」という。)」とあるのは「当該店舗販売業者の他の試験検査設備又は登録試験検査機関」と、第十六条第三項中「されている都道府県知事」とあるのは「されている都道府県知事(その店舗の所在地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合においては、市長又は区長)」と読み替えるものとする。

(郵便等販売の方法等)
第十五条の四  薬局開設者は、郵便等販売を行う場合は、次に掲げるところにより行わなければならない。
一  第三類医薬品以外の医薬品を販売し、又は授与しないこと。



                                 以上
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