公正取引委員会から勧告が出された例。
青果物用段ボール箱の供給に関連した事例です。
引用条文は、現在改正されています。
********公正取引委員会ホームページより*************************
http://snk.jftc.go.jp/JDSWeb/jds/dc005/DC005?selectedDocumentKey=H020220H02J02000001_
全国農業協同組合連合会に対する件
独禁法19条
一般指定2項(現行、法2条9項1号ロ)一般指定・13項(現行、同12項)・14項2号(現行、法2条9項5号ロ)
平成2年(勧)第1号
勧告審決
東京都千代田区大手町1丁目8番3号
全国農業協同組合連合会
右代表者 理事 鹿垣 籾義
公正取引委員会は、平成2年1月11日、右の者に対し、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第48条第1項の規定に基づき勧告を行ったところ、右の者がこれを応諾したので、同条第4項の規定に基づき、次のとおり当該勧告と同趣旨の審決をする。
主文
一 全国農業協同組合連合会は、
(一) 株式会社トーモクに対し昭和57年11月19日に、日本ハイパック株式会社に対し昭和60年4月上旬及び昭和61年2月中旬に、並びに鎌田段ボール工業株式会社に対し昭和60年3月中旬に行った青果物用段ボール箱を系統外ルートにより需要者に販売しないようにする旨の申入れ
(二) 昭和56年10月下旬、「関東5県対策」の実施に際し、レンゴー株式会社、本州ダンボール工業株式会社、福岡製紙株式会社、株式会社トーモク及び森紙業株式会社に対し、青果物用段ボール箱を系統外ルートにより需要者に販売しないようにするために確認させた事項をそれぞれ撤回し、これらと同様に東日本において取引先段ボール箱製造業者に対し行っている青果物用段ボール箱を系統外ルートにより需要者に販売しないようにさせる措置を取りやめるとともに、今後、これと同様の行為を行ってはならない。
二 同連合会は、
(一) セッツ株式会社に対し昭和60年7月中旬に行った青果物用段ボール箱の需要者に対する受注活動を取りやめるようにする旨の申入れ
(二) 東日本段ボール株式会社に対し昭和62年1月中旬及び日本マタイ株式会社に対し昭和62年3月ごろ行った株式会社トキワパッケージに青果物用段ボール箱向け段ボールシートの供給をしないようにする旨の要請
(三) レンゴー株式会社、本州製紙株式会社、株式会社トーモク及び森紙業株式会社に対し昭和62年夏から秋にかけて行った常盤産業株式会社から段ボール中芯原紙を購入しないようにする旨の要請
をそれぞれ撤回するともに、今後、取引先段ボール箱製造業者以外のものが青果物用段ボール箱の製造販売を開始することを妨げる行為を行ってはならない。
三 同連合会は、東日本において取引先段ボール箱製造業者に対し行っている「市況対策費」と称する金員の提供を要請する措置を取りやめるとともに、今後、これと同様の行為を行ってはならない。
四 同連合会は、前三項に基づいて採った措置を、東日本に所在する青果物用段ボール箱の製造業者、販売業者及び需要者に周知徹底させなければならない。この周知徹底の方法については、あらかじめ、当委員会の承認を受けなければならない。
五 同連合会は、前各項に基づいて採った措置を速やかに当委員会報告しなければならない。
事実
当委員会が認定した事実は、次のとおりである。
一(一) 全国農業協同組合連合会(以下「全農」という。)は、肩書地に主たる事務所を置き、昭和47年3月30日、農業協同組合法(昭和22年法律第132号)に基づき設立された農業協同組合連合会であり、会員に対する青果物用段ボール箱の供給その他の経済事業を行っている者である。
全農は、農業協同組合(以下「単協」という。)単協が構成員になっておおむね都道府県を地区として設立されている都道府県経済農業協同組合連合会(以下「経済連」という。)その他の農業団体を会員としており、会員の数は、平成元年6月末日現在、いわゆる総合農協のうちのほとんどすべての単協及びすべての経済連を含む3,654名である。
全農は、全国に東京支所等5支所を置いており、そのうち東京支所の事業区域は東北6県、関東1都6県、新潟県、山梨県及び長野県(以下「東日本」という。)である。
(二) 我が国における青果物用段ボール箱の主要な供給経路は、段ボール箱製造業者から全農及び経済連を経て単協、出荷組合等の需要者(以下「需要者」という。)に供給される経路(以下「系統ルート」という。)と段ボール箱製造業者から直接に又は農業用資材販売業者等を経て需要者に供給される経路(以下「系統外ルート」という。)である。
青果物用段ボール箱の供給数量全体に占める系統ルートによる供給数量の割合は、昭和62年7月から昭和63年6月までの1年間において、東日本で約6割、全国で約5割である。
青果物用段ボール箱の製造業者は、1回当たりの取引数量が大きく、かつ、安定的需要が見込めること、代金回収が確実であること等から、全農との取引を強く望んでいる状況にある。
(三) 全農は、段ボールシート及び段ボール箱を製造している者のうち主要なものとの間に「売買基本契約」を締結し、これらの者(以下「指定メーカー」という。)から青果物用段ボール箱を購入している。また、全農は、青果物用段ボール箱の購入に際し、原則として、その製造に要する段ボール原紙を段ボール原紙製造業者から購入して指定メーカーに供給することとしている。
全農は、青果物用段ボール箱を系統ルートにより供給するに当たり、指定メーカー別にそれぞれが製造した青果物用段ボール箱を納入する地域を指定することとしており、この地域をおおむね経済連の事業区域ごとに定め、これを「指定県」と称している。
指定メーカーのうち東日本にその指定県を有する者は、平成元年6月末日現在24社である。
二 全農は、かねてから、系統ルートによる青果物用段ボール箱の供給数量の維持拡大に努めているところ、その一層の推進を図るため、東日本において、指定メーカーが青果物用段ボール箱を系統外ルートにより販売しないようにさせる措置及び指定メーカー以外のものが青果物用段ボール箱の製造販売を開始ることを妨げる措置を講じ、また、需要者が青果物用段ボール箱の購入を系統ルートから系統外ルートに変更することを防止する対策を行うために要する金員を指定メーカーに提供させる措置を講じている。
これらに関する事例は、次のとおりである。
(一)イ 全農は、指定メーカーであって神奈川県等を指定県とする株式会社トーモク(以下「トーモク」という。)が、昭和57年ごろ、指定県でない長野県において青果物用段ボール箱を系統外ルートにより系統ルートによる需要者向け価格より低い価格(以下「低価格」という。)で約20の単協に販売していたところ、同年11月19日、同社に対し、右低価格販売を直ちに取りやめるよう申し入れるとともに、同社の指定県から神奈川県を即日除外し、また、更に右低価格販売を続行するときは、他の指定県についても順次これを除外し、最終的には取引を停止する旨を申し渡した。
このため、トーモクは、昭和57年11月下旬、全農に対し、長野県下における青果物用段ボール箱の販売先及び販売先別数量を報告するとともに、以後は、同県の需要者に対し受注活動を行わない旨及び需要者から引き合いがあった場合にはその数量、価格等を全農に連絡する旨を申し出た。
その後、トーモクは、前記単協向けの青果物用段ボール箱の販売を取りやめている。
ロ 全農は、指定メーカーである日本ハイパック株式会社(以下「日本ハイパック」という。)が、指定県でない山形県において出荷組合からの引き合いに応じ昭和60年産ブドウ用段ボール箱を系統外ルートにより低価格で販売することとしていたところ、昭和60年4月上旬、同社に対し、今後需要者に対し受注活動を行わないよう申し入れた。
次いで、全農は、右の出荷組合が昭和61年産ブドウ用段ボール箱についても日本ハイパックに発注しよとする動きを示したので、昭和61年2月中旬、同社に対し、需要者から引き合いがあっても系統外ルートにより販売しないようにする旨を確約するよう申し入れた。
これを受けて、日本ハイパックは、同月下旬、全農対し、以後は、全農の指示を遵守し、需要者に対し受注活動をしない旨を申し出た。
その後、日本ハイパックは、山形県において青果物用段ボール箱を需要者に販売していない。
ハ 全農は、指定メーカーでなかった鎌田段ボール工業株式会社以下「鎌田段ボール工業」という。)がかねてから岩手県等において青果物用段ボール箱を系統外ルートにより低価格で需要者に販売していたところ、昭和58年夏ごろ岩手県経済連とその対策について検討した結果、鎌田段ボール工業が低価格販売等を行わなければ指定メーカーとすることとし、同社にこの旨を伝えた。しかして、鎌田段ボール工業がこれを了承したので、全農は、昭和58年秋ごろから1年間同社の販売状況を監視した後、昭和60年3月中旬、同社に対し、
(イ) 岩手県内において、今後、需要者直接販売しないようにする旨
(ロ) 岩手県外において需要者に直接販売しているものについては、協議の上、今後、系統ルートによる供給に切り替える旨
を申し入れ、その遵守を確約させた上、同社を岩手県を指定県とする指定メーカーとし、取引を開始した。
その後、鎌田段ボール工業は、青果物用段ボール箱を供給するに際し、右確約事項を遵守している。
(二)イ 全農は、段ボール原紙の購入先であるセッツ株式会社が埼玉県熊谷市に段ボール箱製造工場を建設し、昭和60年6月ごろから青果物用段ボール箱の需要者に対して受注活動を行っていたところ、同社がこの分野に新たに参入すると系統外ルートによる低価格販売が拡大することが懸念されたため、同年7月中旬、同社に対し、右受注活動を取りやめるよう申し入れた。
これを受けて、セッツ株式会社は、全農との段ボール原紙の取引に悪影響が出ることを懸念して、右受注活動を取りやめた。
ロ 全農は、株式会社トキワパッケージ(以下「トキワパッケージ」という。)が埼玉県児玉町に段ボール箱製造工場を建設し、昭和61年9月ごろから青果物用段ボール箱の製造販売を開始したところ、これを取りやめさせるため、次の措置を講じた。
(イ) 全農は、昭和62年1月中旬、東日本段ボール株式会社埼玉県を指定県とする指定メーカーとの会合において、これら指定メーカーに対し、トキワパッケージに青果物用段ボール箱向け段ボールシート(以下「青果物用シート」という。)を供給しないよう要請した。
このため、これら指定メーカーのうちトキワパッケージに青果物用シートを供給していた東日本段ボール株式会社は、全農から青果物用段ボール箱の取引を停止されることを懸念し、昭和62年2月初旬、トキワパッケージに対する青果物用シートの供給を停止した。
(ロ) また、全農は、東日本段ボール株式会社が右(イ)の青果物用シートの供給を停止した後、指定メーカーである日本マタイ株式会社がトキワパッケージからの求めに応じ青果物用シートを供給しようとしていたところ、同社に対し、昭和62年3月ごろ、トキワパッケージに青果物用シートを供給しないよう要請した。
このため、日本マタイ株式会社は、全農との青果物用段ボール箱の取引に悪影響が出ることを懸念し、トキワパッケージに対し青果物用シートを供給しないこととした。
(ハ) トキワパッケージは、右(イ)及び(ロ)により青果物用シートの入手が困難となったため、昭和62年6月ごろ、段ボールシートの製造設備を導入して自社で青果物用シートを製造し、青果物用段ボール箱の製造販売を行うこととした。
そこで、全農は、トキワパッケージに青果物用段ボール箱の製造販売を取りやめさせるための方策して、同社の実質的な親会社である常盤産業株式会社(以下「常盤産業」という。)に対し経済上の不利益を与えることとし、昭和62年夏から秋にかけて、常盤産業から段ボール中芯原紙を購入しており、かつ、指定メーカーであるレンゴー株式会社(以下「レンゴー」という。)、本州製紙株式会社(以下「本州製紙」という。)、トーモク及び森紙業株式会社(以下「森紙業」という。)の4社に対し、これらとの会合等において、常盤産業から段ボール中芯原紙を購入しないよう繰り返し要請した。
これを受けて、右4社のうち森紙業を除く3社は、全農からの要請が再三であったことにかんがみ、全農との青果物用段ボール箱の取引に悪影響が出ることを懸念して、同年11月以降、順次、常盤産業からの段ボール中芯原紙の購入数量を削減していった。
(ニ) しかして、トキワパッケージは、昭和63年10月1日、段ボール箱の製造販売を中止するに至った。
(三) 全農は、かねてから、東日本において、需要者が青果物用段ボール箱の購入を系統ルートから系統外ルートに変更することを防止するため、同一の規格の青果物用段ボール箱について系統外ルートによる低価格での売り込みがあったときは、その売り込みを受けた地区の単協の申出に応じ、当該単協に対し、系統ルートによる需要者向け価格と当該低価格との差に同一の収穫期用として系統ルートにより購入した当該規格の青果物用段ボール箱の全数量を乗じて得た額の金員を補てんすることとしている。
全農は、右の補てんに要する費用について、必要に応じ、その全部又は一部を「市況対策費」と称して当該単協が系統ルートにより購入した青果物用段ボール箱を製造した指定メーカーに提供させることとし、当該指定メーカーにその提供を要請している。この要請は、他の段ボール箱製造業者等が行った売り込みに係るものについてまで行われている。
しかして、右要請を受けた指定メーカーは、全農との青果物用段ボール箱の取引の継続を必要とする立場上、「市況対策費」の負担を余儀なくされており、また、指定メーカーは、この負担を回避するため、自ら青果物用段ボール箱を系統外ルートで需要者に低価格で販売しないようにしているほか、他の段ボール箱製造業者に対しても同様の行為をしないよう要請している。
(四) 全農は、かねてから、段ボール箱製造業者等による青果物用段ボール箱の低価格での売り込みが頻繁に行われ、同段ボール箱の系統ルートによる供給割合が東日本の中で相対的に低かった茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県及び千葉県(以下これらを「関東5県」という。)において、この供給割合を引き上げるため、その方策について関東5県の各経済連と協議、検討してきた。
その結果、全農は、昭和56年9月ごろ、関東5県における有力な段ボール箱製造業者であり、これら5県のすべてを指定県としていたレンゴー並びに一部の県を指定県としていた本州ダンボール工業株式会社、福岡製紙株式会社、トーモク及び森紙業の5社(以下「5社」という。)が指定メーカーであるにもかかわらず青果物用段ボール箱を系統外ルートにより低価格で販売していたので、これらの系統外ルートによる販売を系統ルートによる供給に切り替えさせること、指定メーカー以外のものが行う系統外ルートによる低価格での販売を防止させること、本州ダンボール工業株式会社、トーモク及び森紙業の3社についてはレンゴーと同様に同地区のすべての県を順次指定県として追加していくこと等を内容とする「関東5県対策」と称する措置を講じることとした。次いで、全農は、昭和56年10月下旬、「関東5県対策」を実施するため、5社の青果物用段ボール箱の営業担当責任者を東京支所に招致し、5社に対し、
イ 直接需要者に又は農業用資材販売業者等に青果物用段ボール箱を販売しないようにする旨及び系統外ルートにより販売する他の段ボール箱製造業者に青果物用シートを販売しないようにする旨
ロ 系統外ルートにより販売しいる青果物段ボール箱については、全農及び関係経済連と協議の上、段階的に系統ルートによる供給に切り替える旨
ハ やむを得ず系統外ルートにより青果物用段ボール箱を販売せざるを得ない場合には、事前に全農及び関係経済連と協議する旨及び原則として系統ルートによる需要者向け価格以上の価格で販売するようにする旨
ニ 5社が右イ、ロ又はハに反した場合は、ペナルティとして、指定県の一部除外、取引の停止又は「市況対策費」等を負担させる措置を採る旨
を確認させた。
なお、5社のうち福岡製紙株式会社は昭和58年6月28日に、本州ダンボール工業株式会社は昭和61年6月30日に、それぞれ本州製紙に吸収合併された。
右確認に基づき、5社及び本州製紙は、多数の取引先に対し、青果物用段ボール箱又は青果物用シートの販売を中止し又はその販売数量を削減するとともに、青果物用段ボール箱を系統外ルートにより販売するときは全農と協議している。
法令の適用
右の事実に法令を適用した結果は、次のとおりである。
一 前記事実の一、二(一)及び(四)によれば、全農は、指定メーカーと青果物用段ボール箱を取引するに当たり、指定メーカーの事業活動を不当に拘束する条件をつけて当該指定メーカーと取引しているものであり、また、前記事実の一及び二(二)イによれば、全農は、段ボール原紙製造業者から段ボール原紙を購入するに当たり、段ボール原紙製造業者の事業製造業者の事業活動を不当に拘束する条件をつけて当該段ボール原紙製造業者と取引しているものであり、これらは、いずれも不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項(現行、一般指定12項)に該当し、
二 前記事実の一及び二(二)ロによれば、全農は、不当に、指定メーカーに、段ボール箱製造業者に対する青果物用シートの供給を拒絶させ、又は段ボール原紙製造業者からの段ボール中芯原紙の購入数量を制限させているものであり、これらは、前記不公正な取引方法の第2項(現行、法2条9項1号ロ)に該当し、
三 前記事実一及び二(三)によれば、全農は、自己の取引上の地位が優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、指定メーカーに対し、自己のために金銭を提供させているものであり、これは、前記不公正な取引方法の第14項第2号(現行、法2条9項5号ロ)に該当し、
それぞれ、独占禁止法第19条の規定に違反するものである。
よって、主文のとおり審決する。
平成02年02月20日
委員長 梅澤 節男
委員 宮代 力
委員 伊従 寛
委員 佐藤 徳太郎
委員 宇賀 道郎