前のブログの事案を簡略化した教室事例です。
独占禁止法の適用について、考えてみます。
1、A連について
A連は、農業協同組合法に基づき設立された農業協同組合であり、22条に該当する一定の要件を備えた協同組合であり、かつ、会員に対する青果物用段ボール箱の供給その他の経済事業を行っている事業者である。
2、本件の一定の取引分野について
一定の取引分野とは、競争制限が行われる場であり、競争の実質的制限とは、特定の事業者・団体がその意思である程度自由に価格・品質・数量等の競争条件を左右することによって市場を支配できる状態をいう。
本件では、各県におけるJA出荷組合(以下「需要者」という。)への青果物用段ボール取引条件の価格等の競争条件が、下記で述べるように、A連によって支配される状態にあり、「各県の需要者の青果物用段ボール取引市場」が一定の取引分野である。
3、事実4において
(1)単独の取引拒絶(一般指定2項)について
単独の取引拒絶(一般指定2項)とは、不当に、ある事業者に対し取引を拒絶することをいう。事業者がどの事業者と取引するかは、基本的には事業者の取引事業者の取引先選択の自由に属するので、他の違反行為の実行確保手段として取引拒絶が行われる場合、もしくは、有力な事業者が競争者を市場から排除するための手段として行われる場合に限られる。
本件では、本件では、A連が、X県での指定メーカーであったB社が、Y県で系統外販売を行おうとしたのに対し、それを阻止するため、B社に低価格販売中止を申し入れ、B社をX県での指定メーカーから除外した。
A連によるB社から供給を受ける段ボールを拒絶しており、当該単独の取引拒絶は、低価格販売をする業者を排除するという違法行為の実行確保手段で取引拒絶が行われている。
A連の行為は、単独の取引拒絶に該当する。
(2)拘束条件付取引(一般指定12項)について
拘束条件付取引(一般指定12項)とは、有力な事業者が、地域外顧客への販売を制限し、当該商品の価格が維持され、よって、流通業者間の価格競争を減殺することをいう。
A連は、さらに低価格で販売を続けたときは、他の指定県についても除外する旨を伝えて、B社に他の指定県で取引を行っている。
指定メーカーB社とその取引の相手方である需用者との取引について、指定県以外の自己の顧客に直接販売しないという取引先についての拘束条件を付け当該指定メーカーと取引しているのであって、一般指定12項(拘束条件付取引)に該当する。
(3)小括
従って、A連のB社に対する行為は、一般指定2項及び一般指定12項に該当し、不公正な取引方法であり、かつ、22条但書前段の不公正な取引方法にも該当するため、除外事由とはならず、19条違反である。
4、事実5について
単独の間接取引拒絶(一般指定2項)とは、不当に、他の事業者に、ある事業者に対し取引を拒絶させることをいう。
事業者がどの事業者と取引するかは、基本的には事業者の取引事業者の取引先選択の自由に属するので、他の違反行為の実行確保手段として取引拒絶が行われる場合、もしくは、有力な事業者が競争者を市場から排除するための手段として行われる場合に限られる。
A連は、C社がZ県で工場建設し段ボール箱の製造を開始したため、Z県の指定メーカーD社が、C社にシートを供給することをやめさせた。
供給をやめさせたのは、その供給をうけてC社が青果物用段ボール箱を製造し、低価格でZ件に販売することを阻止する目的であって、有力な事業者が競争者を市場から排除するための手段として行われたものといえる。
従って、A連のD社に対する行為は、一般指定2項に該当し、不公正な取引方法であり、22条但書前段の不公正な取引方法にも該当するため、除外事由とはならず、19条違反である。
5、事実6について
2条9項5号ロの「優越的地位の濫用」とは、取引上の地位が相手方に優越している者が、正常な商慣習に照らして不当に、継続取引先に経済上の利益を提供させることをいう。このことを許すと、取引上の一方当事者である地位が優越した者が、他方当事者に対して、取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障となるため、優越した地位の者が他方に著しく不利益な要請などを行っても他方が受け容れざるを得ないで取引されることとなり、不公正な取引方法である。
本件では、段ボールメーカーは、1回あたりの取引量が多く、安定的需要が見込まれることから、A連との取引を強く望んでいる状況にあり、A連は、優越的地にあったといえる。
優越的地位のA連は、系統外ルートで低価格の売り込みがあったときは、系統ルートによる需用者向け価格と当該低価格との差額に一定の数量を乗じた金員の補填をすることを、指定メーカーに「市況対策費」と称して支払わせた。各県のJAが負担すべき価格差補填金を、当該売り込みの発生とは関係のない指定メーカーに負担させており、指定メーカーの自由かつ自主的な判断を侵害しており、公正競争阻害性を認定でき、2条9項5号ロに該当する。
従って、A連の当該指定メーカーへの行為は、2条9項5号ロに該当し、かつ、22条但書前段の不公正な取引方法にも該当するため、除外事由とはならず、19条違反である。
6、私的独占について
私的独占とは、事業者が他の事業者の事業活動を排除また支配し、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
A連は、単独にまたは、他の事業者である指定メーカーと通謀して、上述3ないし5の各不公正な取引方法を用いて、系統外ルートの排除を行っており、結果、青果物用段ボール取引条件の価格等の競争条件を支配しているといえ、一定の取引分野における競争を実質的に制限している。
なお、公益性はないし、22条但書後段にも該当するため、除外事由とはならない。
従って、私的独占(2条5項)に該当し、3条前段違反である。
以上
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1 A農業協同組合連合会(以下「A連」という)は、農業協同組合法に基づき設立された農業協同組合であり、会員に対する青果物用段ボール箱の供給その他の経済事業を行っている。
A連は、地域ごとに組織されている農業協同組合(以下「JA」という)が構成員となっておおむね都道府県ごとに設立されている都道府県経済農業協同組合連合会(以下「経済連」という)を会員としている。
2 わが国の青果物用段ボール箱の主要な流通経路は、段ボール箱メーカーからA連・経済連を経て、JA・出荷組合(以下「需要者」という)に供給されるルート(以下「系統ルート」という)と、段ボール箱メーカーから直接又は農業用資材販売業者を経て需要者に供給されるルート(以下「系統外ルート」という)とがあり、系統ルートが流通量の約5割を占めている。
段ボール箱メーカーは、1回当たりの取引量が大きく、安定的需要が見込めるA連との取引を強く望んでいる状況にある。
3 A連は、段ボールシート・段ボール箱のメーカーの主要な者との間に「売買基本契約」を締結し、これらの者(以下「指定メーカー」という)から青果物用段ボール箱を購入している。また、A連は、青果物用段ボール箱の購入に際し、原則として、その製造に要する段ボール原紙をそのメーカーから購入し指定メーカーに供給することとしている。
A連は、青果物用段ボール箱を系統ルートにより供給するに当たり、指定メーカー別にそれぞれが製造した青果物用段ボール箱を納入する地域を指定することとしており、この地域をおおむね経済連の事業区域ごとに定め、これを「指定県」と称している。
4 A連は、X県を指定県とするB社が、指定県ではないY県において青果物用段ボール箱を系統外ルートにより系統ルートより低価格でJAに販売していたところ、同社に対し、右低価格販売を中止するように申し入れるとともに、同社の指定県からX県を除外し、また、さらに低価格での販売を続けたときは他の指定県についても除外する旨を伝えた。このためB社はA連に対し、Y県の需要者に対し受注活動を行わない旨を約束・実行している。
5 A連は、C社がZ県において段ボール箱製造工場を建設し、青果物用段ボール箱の製造を開始したため、Z県を指定県とする指定メーカーに対し、C社に青果物用段ボール箱向けに段ボールシートを供給しないよう要請した。これを受けてZ県の指定メーカーであるD社はC社へのシートの供給を中止した。
6 A連は、需要者が系統外ルートにより青果物用段ボール箱を購入するのを防止するため、系統外ルートによる低価格での売り込みがあったときは、その売り込みを受けた地区のJAの申出に応じ、当該JAに対し、系統ルートによる需要者向け価格と当該低価格との差額に一定の数量を乗じた金員を補填することとし、これに要する費用を指定メーカーに「市況対策費」と称して支払わせている。支払を要請された指定メーカーは、A連との青果物用段ボール箱の取引の継続を必要とする立場上、「市況対策費」の負担を余儀なくされている。
設問 上記のA連の行為に独占禁止法上どのような問題があるかを論じなさい。