熱川からは15分、4駅先の河津へ。
さらに駅前から修善寺行きの東海バスに乗る。
車窓からは川沿いの桜並木が見えるが、河津桜はとっくに緑の葉桜になっている。
こちらも乗車15分、湯ケ野で下車。
バス停があるのは何の変哲もない国道沿いだが、ここから急な坂道を降りていくと狭い石畳の脇に営業しているのかどうかもさだかでない激渋の瀬戸物屋や旅館があって、いきなり昭和にタイムスリップしたような気分。
さらに行くと川に橋が架かっていて、渡った真正面にあるのが
本日の宿、福田家。明治12年創業という老舗、玄関先の提灯からもわかる通り、「日本秘湯を守る会」の会員宿である。
チェックインをしてすぐに案内されたのは橋の正面に見えていた建物の2階。
廊下の突き当りのドアを開けると、正面に↑この表示。
左手には洗面所とウォシュレットのトイレがあり、右手には廊下が伸びて
外を覗くと玄関前の伊豆の踊子が見える。
部屋は7畳と8畳の二間続きで、昔ながらの部屋ではあるがこたつの他にちゃんとエアコンも入っている。
床の間には踊り子の太鼓が置かれ、「伊豆の踊子」の文庫本も。
実はこの有名な小説、ここに泊まることになってようやく読んだのだが
この部屋の窓から見える簾のかかった建物が小説に登場する共同浴場。
ここから踊り子が素っ裸で飛び出してきて手を振った、と小説にあるのだが、なるほどここからちゃんと見える、とちょっと感動。
しかしそれ以上に感動したのが窓それ自体で
模様の入ったすりガラスや、ねじ式の鍵がレトロで素敵すぎる。
部屋全体、昭和生まれの友人と自分には田舎の親せきの家に戻ったようで子供の頃を思い出し、古いけれどなんとも居心地がいい。
宿の人が淹れてくれたお茶と温泉饅頭で一服したら階下へ。
帳場の横、我々の部屋の真下は文学資料室になっていて、川端康成の写真類はもちろん
映画の歴代踊り子たちの写真やら、様々な人の色紙類もいっぱい。
それというのもこの宿には川端の他にも作家の逗留が多かったらしく
我々の隣の部屋には太宰治が滞在したとか。
さて、帳場のすぐ前にはこれまたクラシックなガラス戸があって
入るとすぐにとても狭い更衣室。
すりガラスとは言え廊下に面しているので、神経質な女性はここで服を脱ぐのをためらうかもしれない。
しかし浴室に入ると階段を下りた先にタイルで囲まれた榧(かや)の木造りの浴槽があって
2人ならゆったり、3人ならいっぱいなほどの大きさだが、高い窓からの明かりがなんとも落ち着く。
カルシウム・ナトリウムー硫酸塩泉というお湯の温度は42℃ほどの適温、澄み切ってにおいもなく肌に優しくて、
脇の湯桝からコップで汲んで飲んでみるとほんの僅か塩気があるが飲みやすくておいしい。
浴室の造りと言い、お湯と言い、なんて品のいい温泉だろうか。
お湯を堪能したら18時から夕食。
新館の1階が個室の食事処になっていて
前菜やお造りにお鍋は牡丹鍋。特筆すべきはカリカリに揚げられたカサゴが頭からバリバリ食べられてものすごくおいしい。
さらに伊豆らしくこってりと煮つけられた大きな金目鯛が運ばれ、御飯はワサビ飯でおなかいっぱい。
どの料理も正統旅館料理でこの宿にぴったり。
寝る前のもう一湯は新館から一歩外に出た所にある露天風呂へ。
と言ってもこちらにもちゃんと内湯があり、山茶花が散る露天は風情があるがお湯はぬるめ。
やっぱりこの宿のお風呂は榧風呂、と翌朝も入らせていただいて
朝食もこれぞ日本旅館というオーソドックスなメニューをおいしくいただいた。
こちらの宿は建物も古いがサービスも昔ながら、それが心地よくて、特に優しい雰囲気の上品な女将さんがとても素敵。
奇をてらわないこういう The 日本の温泉旅館こそ大切に守らないといけないんじゃないだろうか。
癖の強い個性的な温泉も楽しいが、優しいお湯もまた気持ちいい。
ところで歴代アイドルスターが主演するのでてっきり純愛ものだと思い込んでいた「伊豆の踊子」、読んでみたら全く印象が違って驚いた。
これって上流エリート学生が最下級身分の旅芸人が珍しくて興味を抱き、ロリータの方は映画をおごってくれる金持ちになつく話。
川端康成ってエロい。
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