雨、27度、88%、雷注意報
あの、足で踏めばポンと開くゴミ箱の話です。アメリカ映画で台所にある足ふみ式のゴミ箱に憧れた人は私だけではないと思います。そんな話、30年以上も前のことです。
初代の足ふみ式ゴミ箱を求めたのは、東京の二子玉川にあったソニープラザでした。まだ、ソニープラザが元気だった頃の話です。何に2回のバーゲンが始まった日に、小さな息子の手を引いて開店早々にゴミ箱を買いに行きました。高い棚の上にひとつしかなかったのです。台所で、濡れた手でも足で踏めば蓋が開きます。こんなに便利なものはありません。匂いがもれることもなく、大事大事に、海を超えてここ香港にまで連れてきました。15年、それ以上使ったと思います。中のゴミ箱がブリキで出来ていました。そのブリキに錆が付き、開閉のバネが壊れました。
そこで、香港で探し求めたのが、ブラバンシアのダストビンです。形も大きさも初代と変わりません。今考えたら、初代の足ふみ式のゴミ箱はどこのものだったのか覚えていません。このブラバンシアのゴミ箱は、5年間の保証がついています。ゴミ箱に保証です。そして、値段も随分高いので、買うか買わないか、随分迷いました。IKEAなどにも似たようなお安いものがあります。何度も踏み比べたり、実際に買うまで時間が随分かかりました。それから、14年が経ちます。
先月、孫のお宮参りに帰国しました。厚かましくも息子夫婦の家に泊めてもらいました。息子が仕事に出かけた後は、お嫁さんと孫と3人です。出産まで仕事をしていたお嫁さんとこうしてゆっくり二人で話をするのは、初めてです。娘がいませんから、なんだかワクワクしています。息子が出がけに、今日はゴミ箱が届くよ、と言い残して行きました。どうも紙おむつを捨てるためのゴミ箱を、ネットで探して買い求めた様子です。そのゴミ箱のことで、お嫁さんがポツポツ話します。息子がネットで買ったゴミ箱は、とても高いものだそうです。無印などの手頃なもので良かったのにといいます。確かに、小さな家計を預かる身に取っては、大きな出費は頭が痛いものです。私自身、小さな家計の中での遣り繰りを永いこと経験してきましたから、このお嫁さんの言葉に頷きます。息子が帰って来たら、そういう買い物は辞めるように話そうと思いました。
午後、ゴミ箱は配達されました。箱から出て来たゴミ箱を見た私は、言葉がありませんでした。はい、我が家の台所に14年も君臨するブラバンシアのゴミ箱と大きさも色も変わらぬ、全く同じものでした。ペダル部分の金属だけが違います。我が家のと同じよ、と言うと、お嫁さん、親子選ぶものが似てるのですね、と言います。
息子が香港の我が家にきたのは、この10数年で一度だけ、このペダル式のゴミ箱を覚えているはずもありません。確かに、私ですら考えたごみ箱にしては高い買い物です。お嫁さんが、頭を傾げるのは当然です。まだ、2ヶ月ぐらいの赤ちゃんの紙おむつでも蓋のないごみ箱に入れて置けば、甘酸っぱい匂いがしてきます。息子は息子なりに、口コミなどを読んで匂いの漏れないごみ箱を選んだようです。いいものを永く使った方がいいよ、と息子は言ったそうです。
息子に、何も言わないまま戻ってきました。彼なりに、お嫁さんを気遣っての買い物のようです。小さな、ごみ箱の話です。小さい物だけど、小さな家計を預かるものに取っては大きな出費です。
まだ、家庭をやって行くことが始まったばかりの二人です。二人で、きっと折れ合いが付くやり方を見つけてくれると思います。
ブラバンシアのペダル式ごみ箱、匂いも漏れません、14年経った今もペダルにゆるみが出ていません。もちろん、中のごみ箱はプラスチックで洗いがききます。お値段出した分はあると、今の私は思います。