行き過ぎたいたずら ・ 今昔物語 ( 28 - 25 )
今は昔、
藤原範国(フジワラノノリクニ・正しくは「平」らしい。)という人がいた。
この人が五位の蔵人であった時、小野宮実資(オノノミヤノサネスケ・藤原氏)の右大臣と申される方が、陣(紫宸殿の左右両近衛に陣があったが、左近の陣らしい。)の御座に着いて、上卿(ショウケイ・議長役の公卿。)として政務を決裁されていたが、あの範国は五位の職事(シキジ・陣の座での決議事項を申し文にして、天皇の裁可を仰ぐ際の上奏役。)として、申文(モウシブミ・上奏文)を受け取るために、陣の御座に向かい、上卿の仰せを承っていた時、弾正弼(ダンジョウノヒツ・弾正台の次官。現在の検察庁にあたる。)源顕定という人は殿上人であったが、南殿(ナンデン・紫宸殿)の東の端に座って、男根を丸出しにしていた。
上卿は奥の方にいらっしゃるのでそれが見えないが、範国は陣の御座の南の端でこれを見て、可笑しくて堪えられずに吹き出してしまった。
上卿は範国が笑うのを見て、事情がお分かりにならないので、「どうしてお前は、朝廷の宣旨を下す時に、そのように笑うのだ」と厳しくとがめられ、すぐさまこの由を奏上なさったので、範国は窮地に陥って、大いに恐れ入った。
しかしながら範国は、「あのように顕定朝臣が男根を丸出しにしておりましたので」とは、とうとう言い出せないままに終わった。顕定朝臣は、「範国の困惑している様子が、さぞかし可笑しい」と思ったことであろう。
されば、人は時と場所をわきまえず、行き過ぎたいたずらはしてはならないことなのだ、
となむ語り伝へたるとや。
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