雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

とんでもない聖人 ・ 今昔物語 ( 28 - 24 )

2020-01-03 09:59:35 | 今昔物語拾い読み ・ その7

          とんでもない聖人 ・ 今昔物語 ( 28 - 24 )


今は昔、
文徳天皇の御代に、波太岐山(ハタキノヤマ・所在地など未詳)という所に一人の聖人がいた。
長年、穀物の食断ちをしていた。天皇はこの事をお聞きになって、召し出して神泉苑(シンセンエン・現存しているが、当時は現在の十数倍の広さであったらしい。)に住まわせ、帰依されること限りなかった。
この聖人は生涯穀物を断っているので、木の葉を常食としていた。

ところが、若くて元気のいい殿上人で、ふざけ好きの連中が大勢連れ立って、「さあ、出かけて行って、その穀断ちの聖人を見てみようではないか」と言って、その聖人の住いに出かけて行った。
聖人がいかにも貴げに座っているのを見て、殿上人たちは礼拝してから尋ねた。「聖人、穀物を断ってから何年になるのでしょうか。また、年は幾つになられたのでしょうか」と。
聖人は、「年はすでに七十になりましたが、若い時から穀物を断っていますので、五十余年になります」と。
これを聞くと、一人の殿上人が声をひそめて、「穀断ちをした人の糞は、どんなものだろうかな。普通の人とは違うはずだ。いざ、行って見てみよう」と言い合わせて、二、三人ばかりが厠に行って見てみると、米を多く含んだ糞があった(この辺り欠字あり分かりにくく、一部推定した)。

これを見て、「穀断ちしている人は、絶対にこんな糞をするはずがない」と怪しみ疑って、聖人の居る所に返って見ると、聖人がちょっと座を外していたので、その隙に、座っていた所の畳(敷物)をひっくり返してみると、板敷に穴があり、その下の土が少し掘られている。「怪しいぞ」と思って、よく見ると、布の袋に白米を包んで置いてある。
殿上人たちはそれを見て、「やっぱりな」と思って畳をもとのように敷いて、素知らぬ顔でいると、聖人が帰ってきた。すると殿上人たちは微笑んで、「米糞の聖(ヨネクソノヒジリ)、米糞の聖」と大声で罵って散々笑ったので、聖人は恥じて逃げ去った。そして、その後は行方知らずになってしまった。

なんと、この聖人は人をだまして貴ばれようと思って、密かに米を隠し持っていたのだが、誰も気がつかず、穀断ちしていると信じて、天皇も帰依なされ、人々も貴んでしまったのである、
となむ語り伝へたるとや。

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