雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

晴れの場での失敗 ・ 今昔物語 ( 28 - 26 )

2020-01-03 09:58:19 | 今昔物語拾い読み ・ その7

          晴れの場での失敗 ・ 今昔物語 ( 28 - 26 )


今は昔、
安房守文屋清忠という者がいた。外記(ゲキ・太政官内の詔勅などの記録や儀式の執行などを担当する。大外記が正六位なので、従五位下に昇進して国守に栄転したもの。)としての功労により、安房守になったのである。
それが外記であった頃は、生意気そうで憎たらし気な顔つきをしていて、背が高く、そっくり返っていた。
また、出羽守大江時棟という者がいた。それも同じ時に外記であったが、腰が曲がっていて、間の抜けたような様子をしていた。

ところが、除目(ジモク・大臣以外の官職任命の行事。春、秋、臨時、がある。)の時に、陣の会議にあたって陣の御座に召され、清忠と時棟が並んで箱文(ハコフミ・硯箱の蓋に入れた天皇の申し文。)を頂く時、時棟が笏を持った手を回してさし出すと、清忠の冠にあたって打ち落としてしまった。上達部(カンダチメ・上級貴族)たちは、これを見て声をあげて笑った。(公式の場で冠を着けていないことは大変な恥辱とされたらしい。)
すると、清忠はあわてふためいて、地面に落ちた冠を拾って頭にさし入れて、箱文も頂かないまま逃げ去ってしまった。時棟はあっけにとられたような顔で立ち尽くしていた。

当時、この事が世間の笑いの種になった。思うに、まことにどれほど見苦しいことであったろう。
清忠も時棟もずいぶん年老いるまで生きていたので、このように
語り伝へたるとや。

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