枕草子 第百七十八段 位こそ、なほめでたきものはあれ
位こそ、なほめでたきものはあれ。
同じ人ながら、「大夫の君」「侍従の君」などきこゆるをりは、いと侮(アナ)づりやすきものを、中納言・大納言・大臣などになりたまひては、無下にせく方もなく、やむごとなうおぼえたまふことの、こよなさよ。
ほどほどにつけては、受領なども、みなさこそはあめれ。あまた国にいき、大弐や四位・三位などになりぬれば、上達部なども、やむごとながりたまふめり。
(以下割愛)
位こそ、何といっても大したものです。
同じ人なのに、「大夫の君」「侍従の君」などと申し上げている頃は、気楽につき合えるのですが、中納言・大納言・大臣などにおなりになってしまうと、万事が意のままで、ご立派にお見えになることは、格別ですわ。
私たちの階級相応にいえば、受領なども、みなそうしたものでしょう。数々の国を歴任して、大弐(大宰府の次官)や四位、三位などになってしまうと、上達部などでさえ、敬意を払われるようです。
女の場合は、やっぱり損なものです。
宮中なんかで、天皇の御乳母は、典侍(ナイシノスケ・従四位相当)や三位などになれば、重々しいけれど、そうとはいえ、歳を取り過ぎていて、大してうれしくもありますまい。また、誰だってなれるものでもありませんし。
受領の奥方になって、任国に下るのこそが、並の身分の女性の幸せの極限だと、ほめ羨むようです。しかしそれより、並の身分の女性が、上達部の奥方になり、御娘が皇后の位につかれるのは、それこそすばらしいことでしょう。
それに比べて、男はやはり、若くして出世昇進するのが、実にすばらしいのですよ。
法師などが、「何某」などと法名を名乗って世渡りするのは、よいことだとは見えません。お経をありがたく読み、容貌が良ければ良いで、女房たちに与しやすしと思われて、大騒ぎになるものらしい。
けれども、僧都・僧正になってしまうと、仏がこの世に現れたかのように、人々はむやみに恐れ入り、ありがたがる様子ときたら、何と言えばいいのでしょうね。
厳格な身分制、それも生まれた家柄で将来がほとんど決まってしまうという中で、少納言さまはどのような気持ちで生涯を送られたのでしょうか。
少納言さまは、いわゆる受領の家柄ですから、女房としては、上臈女房に上ることなどまず期待できなかったでしょうし、男に比べて女は損だという気持ちもあったのでしょうね。
ただ、少納言さまは自分の家柄を並の身分と考えられていたようですが、社会全体からすれば、立派な貴族階級だったのですが、一般庶民の社会は別世界だったのかもしれません。
位こそ、なほめでたきものはあれ。
同じ人ながら、「大夫の君」「侍従の君」などきこゆるをりは、いと侮(アナ)づりやすきものを、中納言・大納言・大臣などになりたまひては、無下にせく方もなく、やむごとなうおぼえたまふことの、こよなさよ。
ほどほどにつけては、受領なども、みなさこそはあめれ。あまた国にいき、大弐や四位・三位などになりぬれば、上達部なども、やむごとながりたまふめり。
(以下割愛)
位こそ、何といっても大したものです。
同じ人なのに、「大夫の君」「侍従の君」などと申し上げている頃は、気楽につき合えるのですが、中納言・大納言・大臣などにおなりになってしまうと、万事が意のままで、ご立派にお見えになることは、格別ですわ。
私たちの階級相応にいえば、受領なども、みなそうしたものでしょう。数々の国を歴任して、大弐(大宰府の次官)や四位、三位などになってしまうと、上達部などでさえ、敬意を払われるようです。
女の場合は、やっぱり損なものです。
宮中なんかで、天皇の御乳母は、典侍(ナイシノスケ・従四位相当)や三位などになれば、重々しいけれど、そうとはいえ、歳を取り過ぎていて、大してうれしくもありますまい。また、誰だってなれるものでもありませんし。
受領の奥方になって、任国に下るのこそが、並の身分の女性の幸せの極限だと、ほめ羨むようです。しかしそれより、並の身分の女性が、上達部の奥方になり、御娘が皇后の位につかれるのは、それこそすばらしいことでしょう。
それに比べて、男はやはり、若くして出世昇進するのが、実にすばらしいのですよ。
法師などが、「何某」などと法名を名乗って世渡りするのは、よいことだとは見えません。お経をありがたく読み、容貌が良ければ良いで、女房たちに与しやすしと思われて、大騒ぎになるものらしい。
けれども、僧都・僧正になってしまうと、仏がこの世に現れたかのように、人々はむやみに恐れ入り、ありがたがる様子ときたら、何と言えばいいのでしょうね。
厳格な身分制、それも生まれた家柄で将来がほとんど決まってしまうという中で、少納言さまはどのような気持ちで生涯を送られたのでしょうか。
少納言さまは、いわゆる受領の家柄ですから、女房としては、上臈女房に上ることなどまず期待できなかったでしょうし、男に比べて女は損だという気持ちもあったのでしょうね。
ただ、少納言さまは自分の家柄を並の身分と考えられていたようですが、社会全体からすれば、立派な貴族階級だったのですが、一般庶民の社会は別世界だったのかもしれません。
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